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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G01F
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01F
管理番号 1232591
審判番号 無効2010-800117  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-07-09 
確定日 2011-02-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第4284468号発明「磁石内装フロート式液面計」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4284468号についての出願は、平成17年3月11日の出願であって、平成21年4月3日にその特許権の設定登録がされたものであり、これに対して、平成22年7月9日に文化貿易工業株式会社(以下「請求人」という。)から特許無効審判の請求がされ、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成22年 9月29日 審判事件答弁書(日本クリンゲージ株式会社、以
下「被請求人」という。)
平成22年11月 9日 審理事項通知書(当審、発送日:平成22年11
月11日)
平成22年11月30日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成22年11月30日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成22年12月14日 口頭審理
平成22年12月14日 審理終結通知

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、その順に従って、「本件発明1」ないし「本件発明12」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、それぞれ単に「特許請求の範囲」、「明細書」及び「図面」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを短寸小質量で上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面の一か所に小型小質量の内装磁石片を磁極外向きに定着する一方、縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極をフロートと共に前記着磁ロータ側に磁気誘導する外部磁性体を前記非磁性ケースの下部に配設した磁石内装フロート式液面計。
【請求項2】
液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを短寸小質量で上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面の対向二か所に小型小質量の内装磁石片をそれぞれ磁極外向きに定着する一方、縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極をフロートと共に前記着磁ロータ側に磁気誘導する外部磁性体を前記非磁性ケースの下部に配設してなる磁石内装フロート式液面計。
【請求項3】
前記非磁性ケースの下部に配設した外部磁性体として、永久磁石を用いてなる請求項1または請求項2に記載の磁石内装フロート式液面計。
【請求項4】
液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを短寸小質量で上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游吃水位置内面の一か所に小型小質量の内装磁石片を磁極外向きに定着する一方、縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極をフロートと共に磁気反撥して前記着磁ロータに対向接近させる外部磁石を前記縦管の下部に配設してなる磁石内装フロート式液面計。
【請求項5】
液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを短寸小質量で上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面の対向二か所に小型小質量の内装磁石片をそれぞれ磁極外向きに定着する一方、縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記各磁極の一つを磁気反撥して前記着磁ロータに接近させる外部磁石を前記縦管の下部に配設してなる磁石内装フロート式液面計。
【請求項6】
前記非磁性ケースの下部に配設した外部磁性体を複数個用いてなる請求項1または請求項2に記載の磁石内装フロート式液面計。
【請求項7】
前記縦管の下部に配設した外部磁石を複数個用いてなる請求項4および請求項5に記載の磁石内装フロート式液面計。
【請求項8】
前記フロート内装磁石片をフロート内面に固定部材により定着してなる請求項1から請求項7までのいずれか一つの請求項に記載の磁石内装フロート式液面計。
【請求項9】
前記フロート内装磁石片をフロート内面に磁性突っ張り部材により圧接定着してなる請求項1から請求項7までのいずれか一つの請求項に記載の磁石内装フロート式液面計。
【請求項10】
液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設し、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを短寸小質量で上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面に磁極を向けた一個または対向離隔した二個の小型小質量磁石片をフロート内部に枢支部材で水平回転可能に枢支横設する一方、縦管内に入る液体にフロートが浮び始めた後、前記磁極を前記着磁ロータ側に磁気誘導回転させる外部磁石または外部磁性体を前記非磁性ケースの下部に配設した磁石内装フロート式液面計。
【請求項11】
液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設し、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを短寸小質量で上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面に磁極を向けた一個または対向離隔した二個の小型小質量磁石片をフロート内部に枢支部材で水平回転可能に枢支横設する一方、縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極を前記着磁ロータ側に磁気反発して回転させる外部磁石を前記縦管の下部に配設した磁石内装フロート式液面計。
【請求項12】
前記フロート内装磁石片をフロート内面に磁性支持部材により水平回転可能に枢支横設してなる請求項10または請求項11に記載の磁石内装フロート式液面計。」

第3 請求人の主張の概要と証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第4284468号発明の特許請求の範囲の請求項1から12に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として、証拠方法として甲第1号証?甲第3号証を提出し、概略以下の無効理由を主張する。

1-1 無効理由1
本件発明1ないし12は、下記のとおり、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(1)本件発明1
本件発明1は、多数の着磁ロータが配置される非磁性ケースの下部に外部磁性体を配設し、浮游するフロートに内装される磁石を磁気誘導してフロート内装磁石の磁極を外部磁性体に対向接近させ、確実に着磁ロータを作動させるのに対し、甲第1号証記載の発明では、フロート内周面に接するヨークリングからの磁力によって(フロートの向きに関係なく)常に液面指示体に磁力を作用させる点で相違するが、磁石を内装するフロートを所定位置で磁気誘導する点は、同じ液面計の技術である甲第2号証に記載されており、フロート内の磁石からの磁力を確実に液面指示体(着磁ロータ)に作用させる手段として甲第2号証記載のものを適用して本件発明1とすることは当業者が容易に推考し得るものである。
(2)本件発明2
磁石を一か所から二か所に変更することは当業者であれば容易にできる設計変更に過ぎないから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2は当業者が容易に推考し得るものである。
(3)本件発明3
甲第1号証には、磁石を用いることが記載されており、磁石として永久磁石を用いるかどうかは、設計変更あるいは最適材料の選択に過ぎず、本件発明3は当業者が容易に推考し得るものである。
(4)本件発明4
甲第2号証には、フロートを回転させるための外部のフロート回転用磁石とフロート内の磁石の同じ磁極同士の反発力が働くことで、フロートが回転することが記載されており、本件発明4は当業者が容易に推考し得るものである。
(5)本件発明5
本件発明2,4と同様の理由により、本件発明5は当業者が容易に推考し得るものである。
(6)本件発明6
甲第1号証には、縦管の下方に配置される磁石を、2組あるいは3組配置することが記載されており、本件発明6は当業者が容易に推考し得るものである。
(7)本件発明7
本件発明6と同様の理由により、本件発明7は当業者が容易に推考し得るものである。
(8)本件発明8
甲第1号証には、溶着リングなどの固定部材を用いて磁石をフロートに溶着固定することが記載されており、本件発明8は当業者が容易に推考し得るものである。
(9)本件発明9
固定部材を、磁性を有する突っ張り部材とすることにより予測できる効果以上のものはなく、固定部材として磁性突っ張り部材とすることは設計変更に過ぎないから、本件発明9は当業者が容易に推考し得るものである。
(10)本件発明10
甲第3号証には、磁石を支持する部材を回転可能に枢支平設することが開示されている。甲第3号証のフロートは磁石をフロートの上部に配置するものであり、フロートの内部に配置するものではないが、当業者であれば、甲第3号証の磁石を回転可能に支持する機構を、フロート内に磁石を支持する機構として用いることは容易であり、本件発明10は当業者が容易に推考し得るものである。
(11)本件発明11
本件発明4,10と同様の理由により、本件発明11は当業者が容易に推考し得るものである。
(12)本件発明12
枢支横設部材を磁性部材とすることにより予測できる効果以上のものはなく、磁性支持部材とすることは設計変更に過ぎないから、本件発明12は当業者が容易に推考し得るものである。

1-2 無効理由2
特許請求の範囲の請求項1ないし12の記載は、下記のとおり不明確であり、本件発明1ないし12は明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、本件特許は同法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(1)特許請求の範囲の請求項1,2,4,5,10及び11における「短寸小質量」との記載は、「短寸」とはどの程度の長さを指すのか不明確であり、また、「小質量」とはどの程度の質量を指すのか不明確である。したがって、本件発明1ないし12は明確ではない。
(2)特許請求の範囲の請求項1,2,4,5,10及び11における「小型小質量」との記載は、「小型」とはどの程度の大きさを指すのか不明確であり、また、「小質量」とはどの程度の質量を指すのか不明確である。したがって、本件発明1ないし12は明確ではない。
(3)特許請求の範囲の請求項1,2,4,5,10及び11における「フロート内装磁石」との記載及び「内装磁石片」との記載は、これらが同じものを指すのか、異なるものを指すのかが不明確である。したがって、本件発明1ないし12は明確ではない。

2 証拠方法
甲第1号証 :特開平9-138155号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証 :特開平2-32219号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証 :特開平9-113336号公報(以下「甲3」という。)

第4 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを答弁の趣旨として、本件発明1ないし12は、特許法第29条第2項の規定に該当せず、また、同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているので、本件特許は同法第123条第1項第2号又は第4号のいずれにも該当しない旨を主張する。

第5 当審の判断
以下、事案に鑑み、無効理由2,1の順に検討する。

1 無効理由2について
1-1 判断手法について
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである(知的財産高等裁判所平成22年8月31日判決言渡、平成21年(行ケ)第10434号)。
この判示に従い、特許請求の範囲に記載された用語の技術上の意義を、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として解釈し、この結果、特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定されている要件を満たすか否かを判断する。

1-2「短寸小質量」及び「小型小質量」について
(1)請求人の主張
請求人は、本件発明が明確でない理由として、特許請求の範囲において「短寸小質量」及び「小型小質量」との記載が不明確であることについて、次のように主張する。
明細書には、フロート外径に対し上下長さが約3倍未満との記載があるものの、フロートの長さがフロートの外径の比によって短寸であるか否かが決定されることの明確な記載がないことから、明細書の記載及び図面を考慮しても、単に「短寸小質量」との記載だけからは、その技術的意義を明確に理解することができない。
また、内装磁石片について、特定の寸法と形状が分かればその内装磁石片が小型小質量であるとの定義がないので、明細書の記載を参酌しても、特許請求の範囲において、内装磁石片に特定の数値及び形状についての記載がなければ、小型小質量の技術的意義を明確に理解することはできない。(口頭審理陳述要領書5頁14行?6頁2行)

(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲に記載の、フロートを限定する「短寸小質量」との用語、及び内装磁石片を限定する「小型小質量」との用語は、その意義について、特許請求の範囲中には格別の記載がなく、どの程度の「短寸小質量」、「小型小質量」であるのか、明らかとはいえない。
そこで、上記1-1の判断手法に従い、特許請求の範囲の記載における「短寸小質量」及び「小型小質量」の技術上の意義を、明細書の記載及び図面を考慮して解釈する。

(3)明細書の記載
明細書には、フロートを限定する「短寸小質量」及び内装磁石片を限定する「小型小質量」に関連して、次の記載がある。なお、下線は当審で付した。

ア「【背景技術】
【0002】
従来の磁石内装フロート式液面計には、本出願人等が先に提案した下記の特許文献1に記載のように、液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性の縦管(スタンドコラム)内の液体に磁石内装のステンレス鋼製フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した透視窓板付きの非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転作動する多数の色分け着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設する一方、上下の連結管のうち、下の連結管の開口部に対向した縦管の下部に磁粉溜を構成する横向き筒体を開口突設すると共に、この筒体内に磁粉吸引磁石を着脱可能に配置した磁石内装フロート式液面計が周知である。
【0003】
また、下記の特許文献2に記載のように、液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装のステンレス鋼製フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した透視窓板付きの非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転作動する多数の色分け着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設する一方、フロート内にマグネットを実装する手段として、丸棒状の大質量ダイポール磁石を水平回転可能にフロート内に枢支横設した磁石内装フロート式液面計も周知である。
【特許文献1】特許第2818753号公報
【特許文献2】特開昭58-68621号公報」
イ「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1の従来例におけるフロート内装磁石は、この特許文献1に記載の唯一の実施形態として、二個の分厚いリング状磁石の間に円板ヨークを挟んで同極同士を対向させたサンドイッチ構造の大型かつ大質量磁石構成体を上下の取り付け座でフロート内の上部に内装したものだから、取り付け座を含めてフロート全体として大質量となり、その液体浮游安定性の観点から、上記特許文献1の図示例のように、フロート外径に対してフロート長さが4倍程度の縦長大質量フロートにする必要が有り、縦管内液体の温度変化などによる液体比重の変化に対するフロート吃水レベルの変動がフロート長に比例して増大するので、液面指示誤差が大きくなってしまうという本質的かつ、大きな問題点が有る。
【0005】
また前記特許文献1のフロートは、前記のようにフロート外径に対してフロート長さが4倍程度の縦長大質量フロートにする必要が有るので、その部品管理・組立製造・梱包保管・運搬流通・開梱使用・保守点検などのすべての面で扱い辛く不便で面倒であるし、フロート材料であるステンレス鋼などの高価な資源を多く必要とし、価格の面でも不利であったという本質的かつ、大きな問題点も有る。
(中略)
【0008】
また、前記特許文献2の従来例は、フロート内に丸棒状で大質量の慣性が大きいダイポール磁石の中心部を支持部材により水平回転可能に枢支横設し磁石内装フロートを用い、縦管下部には上記磁石の磁極を磁気誘導するための外部磁石や外部磁性体が全く無いから、縦管内液体にフロートが浮游し始めた後、フロート内の大質量で慣性が大きいダイポール磁石の所望磁極を縦管外周面から離れた着磁ロータにその磁力だけで、果して対向接近させ得るかどうか極めて怪しく、後から手持ちマグネットで、上記フロート内ダイポール磁石の向きを修正する必要も有るという本質的かつ、大きな問題点が有る。
【0009】
さらに上記特許文献2におけるダイポール磁石は、丸棒状で大質量の慣性が大きい磁石だから、その枢支構造が複雑高価となると共に、その支持部材を含めてフロート全体として前記特許文献1と同様に大型かつ大質量となり、その縦管内浮游安定性の観点から、上記特許文献2のフロートも、この文献2の図示例のように、フロート外径に対して長さが8倍程度の縦長大質量フロートにする必要が有るから、縦管内液体の温度変化などによる液体比重の変化に対するフロート吃水レベルの変動による液面指示誤差が前記特許文献1以上に大きくなってしまうという本質的問題点が有るし、特許文献2における縦長大質量フロートは、その部品管理・組立製造・梱包保管・運搬流通・開梱使用・保守点検などのすべての面で扱い辛く不便で面倒であるし、フロート材料であるステンレス鋼などの高価な資源を多く必要とし、価格の面でも不利であるという前記特許文献1の従来例以上の本質的かつ、大きな問題点が有る。
【0010】
本発明は、液面を検知すべき容器内液体の面を短寸小質量の磁石内装フロートで常時確実に検知可能にすることを目的とする。」
ウ「【発明の効果】
(中略)
【0015】
また前記各本発明によれば、フロート内装磁石片を小型小質量とすることで、フロート全体を短寸小質量にできたので、縦管内のボイラ缶水など液体の温度変化による液体比重の変化に対するフロート吃水レベルの変動を小さくでき、液面指示誤差を極小にできると共に、フロートの慣性を小さくでき、縦管内に入る液体にフロートを素早く浮游させ得るし、フロート内装磁石片の磁極を着磁ロータ側すなわち、前記外部磁性体側に接近変移させる際のフロートの所定角度回転とか、着磁ロータ側への接近変移を素早く実現できるから、上記磁極を着磁ロータに素早く確実に対向接近させ得るという優れた効果も有る。」
(中略)
【0017】
さらに前記各発明によれば、フロートを短寸小質量化できた分だけ、その部品管理・組立製造・梱包保管・運搬流通・販売購入・開梱使用・保守点検などを含め、すべての面で前記各従来例よりも著しく扱い易くなったし、フロートの小型小質量短寸化に伴い、フロート材料であるステンレス鋼などの高価な資源の使用量を少なくできたので、省資源化を促進できると共に、価格的にも著しく有利になったという優れた効果も有る。」
エ「【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態例としては、先ず図1、図2に示すように、液面aを検知すべき例えば不透明な液体容器1の外周面に上下の連結管2を経て肉厚2mm程度のステンレス鋼管など非磁性材料で作った縦管(スタンドコラム)3を連通立設すると共に、この縦管3内の水や油など液体Wに、外径に対し上下長さが約3倍未満で肉厚1mm程度・重量が100g程度で中空内容量が120ミリリットル程度の短寸小質量で上下を閉じた中空体で構成した非磁性フロートFを図1の実線Aのように浮游配設する。
【0024】
なお、上記フロートF内には予め、その液体浮游時における吃水位置内面の一か所に図3のような希土類マグネットやアルニコ磁石などの高磁力磁石で作った一辺が5mm程度のキューブ状または偏平で5g程度の小型小質量磁石片Mをその磁極mが外向きになるように接着などで定着することで、短寸小質量の磁石内装フロートFを構成しておく。」
オ「【実施例】
【0033】
前記フロート内装磁石片Mの数と、その配設手段とは前記実施形態に限らず、例えばフロート吃水位置内面の一か所に溶着した図5のような小型小質量の対向L型固定部材7の間に一個の磁石片Mを入れた後、固定部材7の突出端7Aを内向きに曲げることで、一個の磁石片Mをフロート吃水位置内面の一か所に強固に定着配設できる。
【0034】
また、磁石片Mをフロート吃水位置内面の対向二か所に一個ずつ配設するには、図6のように小型小質量の固定部材7で二個の磁石片MをフロートFの対向内面に突っ張り圧着したり、その他適宜の配設手段で磁石片Mをフロート吃水位置内面の対向二か所にバランス良く配設でき、フロートFの液体浮游時における傾きを皆無にできたし、前記固定部材7を磁性突っ張り部材とすることで、上記二つの磁石片の外向き磁極の各磁力がより一層遠くまで届き易くなるので、この磁極を一層力強く着磁ロータ側に接近させ得る。
【0035】
なお、本発明はフロートFが前記のように浮かび始めた後、フロート内に対向内装した各磁石片Mの磁極mのうちの一つをフロートFと共に磁気反撥する一つの外部磁石4を図7の実線個所のうちの一個所に配設したり、または、二つの外部磁石4を同図7の実線同士または鎖線同士のように前記縦管3の下部外周面に配設することで、前記磁極mのうちの一つをフロートFと共に磁気反撥して前記着磁ロータ6に対向接近させ得る一方、フロートFの液体浮游時における吃水位置内面に図8のように磁極mを向けた一個の磁石片M、または図9のように対向離隔した二個の小型小質量磁石片Mをそれぞれフロート内部に定着した固定片8Aの中央枢支ピン8Bと支持部材8Cとからなる枢支部材8で水平回転可能に懸垂枢支横設すれば、フロートFを回転させずに、上記磁極mを着磁ロータ6側に一層素早く向け得ると共に、縦管3内に生じた液体渦流などにより、フロートFが回転しても、上記磁極mの向きを着磁ロータ側に定位できた。」

(4)「小型小質量」及び「短寸小質量」の技術上の意義
以下、上記明細書の記載及び図面から「小型小質量」及び「短寸小質量」の技術上の意義を解釈した上で、本件発明の特許請求の範囲の記載が明確か否かを検討する。

上記明細書の記載及び図面から、以下の事項が読み取れる。
ア 特許文献1(なお、当該特許文献1は、甲1に係る特許出願の特許公報である。)に開示されているとする従来例におけるフロート内装磁石は、二個の分厚いリング状磁石の間に円板ヨークを挟んで同極同士を対向させたサンドイッチ構造の大型かつ大質量磁石構成体であるため、フロート全体として大質量となり、液体浮游安定性の観点から、フロート外径に対してフロート長さが4倍程度の縦長大質量フロートにする必要が有り、このため液面指示誤差が大きくなってしまうとともに、扱い辛く、価格の面でも不利であった。(段落【0004】?【0005】)

イ 特許文献2に開示されているとする従来例におけるダイポール磁石は、丸棒状で大質量の慣性が大きい磁石であるため、フロート全体として前記特許文献1と同様に大型かつ大質量となり、その縦管内浮游安定性の観点から、フロート外径に対して長さが8倍程度の縦長大質量フロートにする必要が有り、このため液面指示誤差が大きくなってしまうとともに、扱い辛く、価格の面でも不利であった。(段落【0003】、【0008】?【0009】)

ウ これらの従来例に比べて、本件発明は、フロート内装磁石片を小型小質量の磁石片とすることで、フロート全体を短寸小質量にできたものである。(段落【0015】)

エ そして、本件発明は、フロート全体を短寸小質量にできたので、液面指示誤差を極小にでき、磁極を着磁ロータに素早く確実に対向接近させ得、また、扱い易く、省資源化により価格的にも有利になったものである。(段落【0015】、【0017】)

明細書に記載された以上の事項から、まず、本件発明において「小型」の内装磁石片とは、特許文献1,2に開示されているとする従来例のリング状磁石や丸棒状の磁石に比べて「小型」の内装磁石片であるといえる。

本件発明の内装磁石片が、特許文献1,2に開示されているとする従来例のリング状磁石や丸棒状の磁石に比べて「小型」であることについてさらに検討する。
本件発明1,2,4,5,10及び11の内装磁石片の配置について、特許請求の範囲の記載を確認すると、本件発明1,4は「吃水位置内面の一か所に小型小質量の内装磁石片を磁極外向きに定着する」ものであり、本件発明2,5は「吃水位置内面の対向二か所に小型小質量の内装磁石片をそれぞれ磁極外向きに定着する」ものであり、本件発明10,11は「一個または対向離隔した二個の小型小質量磁石片をフロート内部に枢支部材で水平回転可能に枢支横設する」ものである。
一方、本件発明を実施するための形態例が図示された図1,3?9から、本件発明1,2,4,5,10及び11に対応するいずれの形態についても、特許文献1,2に開示されているとする従来例のリング状磁石や丸棒状の磁石に比べて小型の内装磁石片が、フロート内の一端近傍のみ(図1,3?5,8)、又は一端近傍及び他端近傍のみ(図6,7,9)に配置されることが読み取れる。
また、フロート、内装磁石片の大きさ及び重量の具体例として、外径に対し上下長さが約3倍未満で肉厚1mm程度で中空内容量が120ミリリットル程度の非磁性フロートFの吃水位置内面の一か所に、一辺が5mm程度のキューブ状の小型小質量磁石片Mを定着することが記載されている。(段等【0023】?【0024】)
この具体例においては、フロートの外径に対し上下長さが3倍のときにフロートの外径は最小となるが、この最小値をL(cm)とし、フロートを円柱形とすると、次のようになる。
π×((L-0.2)/2)^(2)×3L=120
Lを計算すると約3.8cmとなり、このとき、肉厚1mm程度であるから、内径は約3.6cmである。
よって、上記の具体例においても、内径が少なくとも3.6cmのフロートに一辺が5mm程度の磁石片を内面の一か所に定着したものであるから、上記で図1,3?5,8から読み取れるとしたとおりに、磁石片がフロート内の一端近傍のみに配置されている。

そうすると、本件発明の内装磁石片の上記の配置と共に、明細書の記載及び図面を考慮すれば、「小型」の内装磁石片とは、特許文献1,2に記載されているとする従来例のリング状磁石や丸棒状の磁石に比べて「小型」の内装磁石片であって、しかも、内面の一か所に定着したり(本件発明1,4)、内面の対向二か所に定着したり(本件発明2,5)、一個または対向離隔した二個を水平回転可能に枢支横設したり(本件発明10,11)することにより、フロート内の一端近傍のみ、又は一端近傍及び他端近傍のみに配置されるような「小型」の内装磁石片であるといえる(なお、本件発明10,11で磁石が一個の場合は、「小型」の内装磁石片は上記のようにフロート内の一端近傍のみに配置されるものと解すべきであるから、本件発明10,11の一個の小型小質量磁石片は、特許文献2に記載されているとする従来例の丸棒状の磁石の中心部を支持部材により枢支横設したものとは異なるものである。)。

そして、内装磁石片が「小質量」であるとは、明細書において磁石片の密度について言及がない以上、磁石の密度を小さくすることにより小質量とするものではなく、内装磁石片が小型であることにより小質量となったものと解することができる。さらに、フロートが「短寸小質量」であるとは、内装磁石片を小型小質量とすることでフロートに求められる浮力が小さくなり、上記ウのとおり、フロートが短寸小質量となったものと解することができる。そして、内装磁石片を小型小質量としてフロートを短寸小質量とすることにより、上記エのとおり、液面指示誤差を極小にでき、磁極を着磁ロータに素早く確実に対向接近させ得、また、扱い易く、省資源化により価格的にも有利にすることができる。
してみると、本件発明における「小型小質量」及び「短寸小質量」の技術上の意義は、内装磁石片を上記のように小型小質量とし、これによりフロートを短寸小質量とすることによって、従来よりも液面指示誤差を極小にでき、磁極を着磁ロータに素早く確実に対向接近させ得、また、扱い易く、省資源化により価格的にも有利とすることにある。
したがって、本件発明の「小型小質量」の内装磁石片を有する「短寸小質量」のフロートとは、特許文献1,2に開示されているとする従来例のリング状磁石や丸棒状の磁石に対して、本件発明で特定されるような配置によりフロート内の一端近傍のみ、又は一端近傍及び他端近傍のみに配置されるような「小型」の磁石片を用いることにより、「小型小質量」の内装磁石片として、これによりフロートが「短寸小質量」となったものと理解することがことできる。

(5)小括
以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1,2,4,5,10及び11における「小型小質量」及び「短寸小質量」の技術上の意義を明細書の記載及び図面から解釈することにより、本件発明の「小型小質量」の内装磁石片を有する「短寸小質量」のフロートを理解することができるから、特許請求の範囲の請求項1ないし12の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、本件発明1ないし12が明確でないとはいえない。

1-3 「フロート内装磁石」及び「内装磁石片」について
(1)請求人の主張
請求人は、特許請求の範囲の請求項1,2,4,5,10及び11における「フロート内装磁石」との記載及び「内装磁石片」との記載が、これらが同じものを指すのか、異なるものを指すのかが不明確であることについて、次のように主張する。
特許請求の範囲において、「フロート内装磁石」は着磁ロータを回転させ、一方「内装磁石片」はフロートと共に外部磁性体によって磁気誘導されるという、異なる機能を有するものであり、また、「内装磁石片」と「フロート内装磁石」とは用語が異なり、しかも「フロート内装磁石」が「内装磁石片」の総称であるとする明確な記載もないから、特許請求の範囲の記載からは、「フロート内装磁石」と「内装磁石片」とは別々のものと理解され得る。
しかし、明細書及び図面中には、フロート内装磁石片Mが上述の両機能を有することのみが開示されている。(口頭審理陳述要領書1頁29行?2頁5行)

そこで以下、特許請求の範囲に記載された「フロート内装磁石」と「内装磁石片」とが、同じものを指すのか、異なるものを指すのか不明確であるか否かについて検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の請求項1の記載について検討する。
特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを短寸小質量で上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面の一か所に小型小質量の内装磁石片を磁極外向きに定着する一方、縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極をフロートと共に前記着磁ロータ側に磁気誘導する外部磁性体を前記非磁性ケースの下部に配設した磁石内装フロート式液面計。」
まず、「フロート内装磁石」についてみると、「フロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータ」という記載からみて、「フロート内装磁石」は、フロートに内装される磁石であって、着磁ロータをその磁力により回転させる磁石である。
次に、「内装磁石片」についてみると、「前記フロートを短寸小質量で上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面の一か所に小型小質量の内装磁石片を磁極外向きに定着する一方、縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極をフロートと共に前記着磁ロータ側に磁気誘導する外部磁性体」という記載からみて、「内装磁石片」は、フロートに内装され、外部磁性体により着磁ロータ側に磁気誘導される磁石である。
上記のとおり、「フロート内装磁石」と「内装磁石片」とは、いずれもフロートに内装される磁石であることは共通しているものの、両者に対して異なる用語が用いられており、また、両磁石の機能としても異なる機能が記載されていることから、両磁石は異なるものと解する余地はある。
一方で、「フロート内装磁石」は、「磁石内装フロート式液面計において」という記載よりも先に記載された、本件発明1が前提とする磁石内装フロート式液面計についての記載中に用いられており、「内装磁石片」は、「磁石内装フロート式液面計において」という記載の以降の、本件発明1の特徴部分の記載中に用いられていることから、本件発明1が前提とする一般的な磁石内装フロート式液面計が備える「フロート内装磁石」として、本件発明1は「(小型小質量の)内装磁石片」を用いたと解する余地もある。
また、上記では特許請求の範囲の請求項1の記載について検討したが、請求項2,4,5,10及び11の記載についても同様のことがいえる。
そこで、上記1-1の判断手法に従い、特許請求の範囲における「フロート内装磁石」及び「内装磁石片」の技術上の意義を、明細書の記載及び図面を考慮して解釈する。

(3)明細書の記載
明細書には、「フロート内装磁石」及び「内装磁石片」に関連して、次の記載がある。下線は、当審で付した。
「 【0007】
すなわち、この特許文献1は、本件発明のように、フロート内装磁石を小型小質量の磁石片にすることで、磁石内装フロートを軽量かつ短寸化するという本件発明の着眼意図と、縦管内液体にフロートが浮游し始めた後、フロート内装磁石片の磁極を外部磁力で着磁ロータ側に接近させるという、本件発明の目的・手段・作用・効果を期待する本発明の肝心な着眼意図が、上記特許文献1には最初から全く無かったので、特許文献1における前記磁粉吸引磁石は、縦管の下部に開口突設した横管内の磁粉溜を隔てた奥まった遠い場所に着脱可能に配置して有り、これでは、本件発明のように縦管内液体にフロートが浮游し始めた後、フロート内装磁石片の磁極を着磁ロータ側に対向接近させ得ないという本質的かつ、大きな問題点も有る。」
「 【0013】
本発明は、以上のような手段を採用したので、以下に記載の効果を奏する。
本発明における請求項1および請求項2の各発明によれば、フロート使用開始時に、その内装磁石片の磁極を着磁ロータの反対側に向けて空の縦管内の下部に収容したとしても、縦管内に入れ始めた液体にフロートが浮かび始めた後は、縦管下部における着磁ロータ側に配設した外部磁性体がフロート内装磁石片の磁極を吸引するため、短寸小質量のフロートは、その縦軸中心に素早く所定角度回転しつつ、その内装磁石片の磁極をフロートと共に上記外部磁性体に確実に対向接近させ得る効果が有る。
【0014】
したがって、その後における縦管内液面の上昇によるフロート内装磁石片の上昇磁力で、前記多数の着磁ロータのうちの最下部の着磁ロータを半回転させつつ、このロータに上記磁石片の磁極を確実に対向接近させ得る結果、この接近した磁極を今度は、上記所定角度回転済の着磁ロータの磁力で引き続き確実に磁気吸引できるので、上記フロート内装磁石片の磁極が外部磁性体から上向き離隔しても、前記フロートは妄りに傾いたり不要回転せず、また着磁ロータから離隔変移することが無く、常に安定な液面浮游状態を確保できるという優れた効果も有る。
【0015】
また前記各本発明によれば、フロート内装磁石片を小型小質量とすることで、フロート全体を短寸小質量にできたので、縦管内のボイラ缶水など液体の温度変化による液体比重の変化に対するフロート吃水レベルの変動を小さくでき、液面指示誤差を極小にできると共に、フロートの慣性を小さくでき、縦管内に入る液体にフロートを素早く浮游させ得るし、フロート内装磁石片の磁極を着磁ロータ側すなわち、前記外部磁性体側に接近変移させる際のフロートの所定角度回転とか、着磁ロータ側への接近変移を素早く実現できるから、上記磁極を着磁ロータに素早く確実に対向接近させ得るという優れた効果も有る。
【0016】
その後、フロートの上昇と共に前記多数の着磁ロータをフロート内装磁石片の磁力で順次に半回転させつつ、その磁気吸引力でフロートの着磁ロータに対する前記対向接近状態を引き続き確保できるから、液面の変化に対応して微小または大きく昇降するフロートまたは静止フロートは、妄りに傾いたり不要回転せず、また着磁ロータから離隔変移することなく、縦管内液体の面に追従して安定確実に昇降すると共に、このフロートの昇降に追従して各着磁ロータは、自らも常時確実に所定角度回転作動し、液面検知が常に精確に実行可能になったという優れた効果も有る。」

(4)「フロート内装磁石」及び「内装磁石片」の技術上の意義
上記の記載のとおり、明細書には、フロート内装磁石を小型小質量の磁石片にすることが明記されている(段落【0007】)。
そして、明細書では、フロート内装磁石としてのフロート内装磁石片(記載箇所により、内装磁石片、磁石片とも表記されている。)が、フロートに内装される唯一の磁石として一貫して記載されており、このフロート内装磁石片が、外部磁性体によりその磁極を吸引されるとともに、着磁ロータをその磁力により回転させること、すなわち、本件発明1の「フロート内装磁石」に関連付けられた機能及び「内装磁石片」に関連付けられた機能の双方の機能を有することも記載されている(段落【0013】?【0016】)。
さらに、明細書の他の記載及び図面には、「フロート内装磁石」と「内装磁石片」とが異なるものであることは記載も示唆もされていない。

そうすると、特許請求の範囲の記載における「フロート内装磁石」及び「内装磁石片」の技術上の意義を、明細書及び図面を考慮して解釈すれば、両者の関係は、「フロート内装磁石」として「内装磁石片」が用いられる関係にあると解釈すべきことは明らかである。すなわち、「フロート内装磁石」と「内装磁石片」とは、「フロート内装磁石」としての「内装磁石片」という同じ発明特定事項を意味するものである。

(5)小括
以上のとおり、特許請求の範囲の請求項1,2,4,5,10及び11における「フロート内装磁石」との記載及び「内装磁石片」との記載は、これらが同じものを指すのか、異なるものを指すのかが第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、本件発明1ないし12が明確ではないとはいえない。

1-4 無効理由2についてのまとめ
以上、上記1-2及び1-3のとおり、特許請求の範囲の請求項1ないし12の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえないから、本件特許は同法123条第1項第4号に該当しない。

2 無効理由1について
2-1 甲各号証の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。
<記載事項1>
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、マグネットフロート式液面計の改良に係り、特に、フロート表面に液中の磁性微粉が吸着しないようにした液面計に関する。」
<記載事項2>
「【0010】
【発明の実施の形態】先ず、この発明の基本形態は、図1、図2に示すように、液面を検知すべき液体容器1に沿い上下の連結管2,2を介し非磁性のスタンドコラム3を連通立設して、このコラム3内に入った液体に図3のようにマグネットMを内装した非磁性中空体のフロートFを図1のように浮遊配設する。
【0011】また、前記マグネットMからの水平磁界を受けて図1のように回転作動する磁性ロータなどによる周知の液面指示体4の多数を前記スタンドコラム3に沿わせて枢支配設し、液面表示を行なう周知のマグネットフロート式液面計を構成する。そして、特にこの発明では、前記上下の連結管2,2のうち下の連結管2の開口部に対向したスタンドコラム3の内面を図1、図2のように凹ませて磁粉溜5を構成する筒体6をスタンドコラム3の側孔3aの外側に液密突設するとともに、この筒体6内に液体中の磁粉を吸着する磁石7を例えばテーパねじ8で図2のように着脱可能に配置してこの発明によるマグネットフロート式液面計を構成する。
【0012】なお、図中符号nで示すものは、すべて止めねじ、pはパッキング、yは溶着部であり、また、スタンドコラム3内に液体がないときには、フロートFは図1の鎖線で示すように、コラム下部フランジ9に螺着した密閉座9a上かその上のスタンドS上に在る。また、スタンドコラム3やフロートFはステンレス鋼などの非磁性材で作る。」
<記載事項3>
「【0013】本発明は、その使用に当り、図1におけるスタンドコラム3内に入った液体にフロートFを浮かべると、フロートFは、その吃水線Lが液体容器1内の液面a、すなわちスタンドコラム3内の液面aに合致した位置で液体に浮かぶ。そして、液面aの変化に追従してフロートFは昇降するから、フロート吃水線Lに合致させたフロート内マグネットMから水平方向に延在する磁力線により、前記スタンドコラム3の外面に図1、図4のように並設した周知の液面表示器4A内の磁性片ロータ羽根などによる前記液面指示体4を上記各図のように回動変位させることで、液面位を指示体4のスケール目盛などで検知することができる。」
<記載事項4>
「【0014】そして、本発明では、特に、前記上下の連結管2,2のうち下の連結管2の開口部に対向したスタンドコラム3の内面に磁粉溜5を構成する筒体6を突設するとともに、この筒体6内に磁石7をねじ8で着脱可能に配置したので、コラム3内に出入する液体中の磁性粉は、磁粉溜5内の磁石7に吸着し、磁粉溜5内で図1の鎖線で示すように成長する。
【0015】したがって、連結管2を初めとしてコラム3内を出入する液流を妨げないで、フロートFの外面に付着成長しようとする磁性粉を磁粉溜5内に吸着できた。そして、成長した磁性粉は、ねじ8を外すことで清掃できる。」
<記載事項5>
「【0016】
【実施例】フロート主体1は、図3のように非磁性の上下の椀状体同士を中央の筒体1aを挟んで互いに溶着密閉して中空体として作るのであるが、この筒体1aの上部内には、予じめヨークリングmを挟んだ上下のマグネットMをねじnにより固定して溶着リングを介し溶着部yで溶着固定しておく。また、テーパねじ8は、その先端に図2のように着磁した磁石7を当てがいつつ、ステンレス鋼などの非磁性のキャップ8aをテーパねじ8に被着して作ってあり、筒体6のテーパ雌ねじ孔6aにねじ8を液密的に螺着してある。」
<記載事項6>
図1は次のとおりである。




<記載事項7>
図3は次のとおりである。





ア 記載事項1、記載事項2から、液面を検知すべき液体容器1に上下の連結管2,2を介し連通立設した非磁性のスタンドコラム3内に入った液体にマグネットMを内装した非磁性中空体のフロートFを浮游配設すると共に、マグネットMからの水平磁界を受けて回転作動する磁性ロータなどによる液面指示体4の多数を枢支配設したマグネットフロート式液面計が読み取れる。
イ 記載事項6に示す図1から、磁性ロータなどによる液面指示体4の多数を、スタンドコラム3に沿わせたケース内に上下所定間隔毎に配設したことが読み取れる。また、液面指示体4である磁性ロータがフロートFに内装されたマグネットMからの水平磁界を受けて回転作動するものであることを考慮すれば、当該ケースが非磁性ケースであることは、本件特許の出願時の技術常識からみて甲1に記載されているに等しい事項である。
ウ 記載事項3から、マグネットMは、フロートFの浮游時のフロート吃水線Lに合致させたものであることが読み取れる。
エ 記載事項5から、フロートFは上下を密閉した中空体であることが読み取れる。
オ 記載事項5及び記載事項7に示す図3から、フロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを磁極外向きに溶着リングを介し溶着固定することが読み取れる。
カ 記載事項4及び記載事項6に示す図1並びに上記イの内容から、スタンドコラム3の下部で非磁性ケースの下方における筒体6内に液体中の磁粉を吸着する磁石7を配置したことが読み取れる。

よって、記載事項1?記載事項7に基づけば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「 液面を検知すべき液体容器1に上下の連結管2,2を介し連通立設した非磁性のスタンドコラム3内に入った液体にマグネットMを内装した非磁性中空体のフロートFを浮游配設すると共に、前記スタンドコラム3に沿わせた非磁性ケース内にマグネットMからの水平磁界を受けて回転作動する磁性ロータなどによる液面指示体4の多数を上下所定間隔毎に枢支配設したマグネットフロート式液面計において、前記フロートFは上下を密閉した非磁性中空体であり、その浮游時のフロート吃水線Lに合致させてフロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを磁極外向きに溶着リングを介し溶着固定し、前記スタンドコラム3の下部で前記非磁性ケースの下方における筒体6内に液体中の磁粉を吸着する磁石7を配置したマグネットフロート式液面計。」

(2)甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
<記載事項8>
「(産業上の利用分野)
本発明は、液体貯槽内の液体の液位を検出して信号を出力する液位計に関するもので、特に、腐食性の強い液体の液位検出に適した液位計に関するものである。」(1頁右下欄2?6行)
<記載事項9>
「(実施例)
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
図中、第1,2図は本発明による液位計の一実施例を示すもので、第1図はその側面図であり、第2図はその平面図である。
これらの図から明らかなように、腐食性の強いオゾン水などの液体を収容する液体貯槽1内には、その一側の側壁1aに沿って、上下方向に延びるコの字形断面のガイド2が設けられている。そのガイド2の下端部には開口3が設けられ、ガイド2と貯槽1の側壁1aとによって囲まれる領域4がその開口3を通して貯槽1の内部と連通するようにされている。また、その領域4の上端は貯槽1内の上部空間に開放されている。こうして、ガイド2の内外における液面レベルLが同一に保たれるようになっている。
貯槽1及びガイド2は、耐腐食性が高く非磁性の材料、例えばガラスあるいは樹脂によって形成されている。
ガイド2の内側領域4には、液面に浮かぶフロート5が設けられている。このフロート5は、耐腐食性の高い非磁性材料である樹脂等からなる中空円筒状のもので、その内部の一端には検出用磁石6が固着されている。こうして、フロート5は、その磁石6の重力によって、磁石6が取り付けられている側が常に下側となるようにして、直立状態で保持されるようになっている。その磁石6のN極とS極とは、フロート5の反対側面に対面するように配置されている。
一方、ガイド2に対向する貯槽1の側壁1aの外面には、所定の高さ位置に磁気検出器7が取り付けられている。その磁気検出器7は、磁石のS極側の磁束を検出面7aに受けたとき信号を出力するもので、その検出面7aが貯槽1の側壁1a外面に密着するようにされている。また、その磁気検出器7の背面7bには、板状のフロート回転用磁石8が取り付けられている。その磁石8は、N極が貯槽1の側壁1aに対面するようにされている。」(3頁左上欄9行?同左下欄10行)
<記載事項10>
「 第3図は、磁気検出器7の構成を示す回路図である。
この図から明らかなように、この磁気検出器7は、電圧調整器9、ホール素子10、増幅器11、トリガ回路12、及び出力トランジスタ13からなり、ホール素子10がS極側の磁気を感知したとき発生するホール電圧によってトリガ回路12をトリガし、出力トランジスタ13を導通させるものとされている。これらの回路素子は1枚のICチップとして組み込まれている。このような磁気検出器7は、ホール効果ICスイッチとして市販されているものである。このスイッチには、電源端子14に電源が接続され、出力トランジスタ13の両端の端子15,16に出力信号を取り出すリード線17(第1図)が接続されるようになっている。」(3頁左下欄11行?同右下欄6行)
<記載事項11>
「 次に、このように構成された液位計の作用について説明する。
いま、貯槽1内の液面レベルLが低下し、液体が補給されている状態にあるとする。この状態では、フロート5は貯槽1内の下方にあり、磁気検出器7の検出面7aには磁気が作用しないので、磁気検出器7の出力トランジスタ13は遮断されている。フロート回転用磁石8は磁気検出器7の背面7bに取り付けられ、しかもそのN極が磁気検出器7に対面するようにされているので、その磁石8によって磁気検出器7に影響が及ぼされることはない。
この状態から貯槽1内の液位が上昇すると、それに伴ってフロート5も上昇する。このとき、フロート5はガイド2によって案内されるので、磁気検出器7が取り付けられている貯槽1の側壁1a近傍からフロート5が離れることは防止される。しかしながら、フロート5は、その軸線のまわりには自由に回転する。
このようにしてフロート5が貯槽1の側壁1aに沿って上昇し、第1図に示されているように磁気検出器7の取り付け位置に近づくと、フロート5に固着されている磁石6と貯槽1側に取り付けられている磁石8との間にN極どうしの反発力とN、S極間の吸引力とが働く。したがって、フロート5がその軸線のまわりに回転する。そして、検出用磁石6のS極が磁気検出器7側に対面する状態で保持される。
この状態で、更に液位が上昇して所定のレベルに達すると、フロート5内の磁石6が磁気検出器7に対向する高さ位置となる。そして、その磁石6のS極が磁気検出器7の検出面7aに対面するので、そのS極の磁束がホール素子10に作用し、出力トランジスタ13が導通する。こうして、磁気検出器7から信号が出力され、液位が所定のレベルにあることが検出される。
このように、この液位計によれば、フロート5が自由に回転するようにされていても、磁気検出器7に対向する位置に達すると、必ずそのフロート5が所定の方向に向けられる。したがって、ホール素子10からなる磁気検出器7によって、フロート5の高さ位置、すなわち液面レベルLを検出することができる。しかも、その検出は貯槽1の外部において行われるので、リード線17等を貯槽1内に配設する必要がなくなり、腐食性の強い液体の液位をも検出することが可能となる。」(3頁右下欄7行?4頁右上欄14行)
<記載事項12>
第1図は次のとおりである。





ア 記載事項8、記載事項9及び記載事項12で示す第1図から、液体貯槽1内に設けられたガイド2の内側領域4の液面に浮かび、非磁性材料からなる中空円筒状のフロート5と、フロート5の内部の底部の一端に固着され、N極とS極がフロートの反対側面に対面するように配置された検出用磁石6と、ガイド2に対向する貯槽1の側壁1aの外面に取り付けられた磁気検出器7と、磁気検出器7の背面7bに取り付けられたフロート回転用磁石8とを備えた液位計が読み取れる。

イ 記載事項10、記載事項11から、磁気検出器7はホール素子10を用いたものであることが読み取れる。

ウ 記載事項11から、フロート回転用磁石8は、フロート5が貯槽1の側壁1aに沿って上昇し、磁気検出器7の取り付け位置に近づくと、フロート5に固着されている検出用磁石6との間に働く磁力による反発力と吸引力により、フロート5の検出用磁石6が磁気検出器7側に対面するようにフロートをその軸線の周りに回転させることが読み取れる。

よって、記載事項8?記載事項12に基づけば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「 液体貯槽1内に設けられたガイド2の内側領域4の液面に浮かび、非磁性材料からなる中空円筒状のフロート5と、フロート5の内部の底部の一端に固着され、N極とS極がフロートの反対側面に対面するように配置された検出用磁石6と、ガイド2に対向する貯槽1の側壁1aの外面に取り付けられたホール素子10を用いた磁気検出器7と、磁気検出器7の背面7bに取り付けられ、フロート5が貯槽1の側壁1aに沿って上昇し、磁気検出器7の取り付け位置に近づくと、フロート5に固着されている検出用磁石6との間に働く磁力による反発力と吸引力により、フロート5の検出用磁石6が磁気検出器7側に対面するようにフロートをその軸線の周りに回転させるフロート回転用磁石8とを備えた液位計。」

(3)甲3の記載事項
甲3には次の記載がある。
<記載事項13>
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、マグネット式液面計におけるフロートの改良に係り、特に、フロート表面に液中の磁性微粉が吸着しないようにしたフロートに関する。」
<記載事項14>
「【0007】
【発明の実施の形態】先ず、この発明の基本形態は、図1に示すように、液体タンクTやボイラーにステム管Sで連通した周知のスタンドコラムCに出入りする液体の液面aに追従して昇降するマグネットフロート式の液面計用フロートFを構成するに当り、図2、図3のように、チタンやステンレス鋼等の非磁性材で中空に作った液体に浮上するフロート主体1の吃水線Lよりも高所のフロート1の上面に非磁性の雄ねじ2を突設してこの雄ねじ2に同じく非磁性の取付座3のねじ孔を螺入しその上部を止めねじnなどで固着する。
【0008】そして、この取付座3の周面に放射状に形成した例えば15個の取付孔4,4の雌ねじにそれぞれ先端にマグネットMを備えた中空軽量の支持体5をその雄ねじ部5aを螺入配設してこの発明による液面計用フロートを構成する。なお、フロートFの周面と各磁石Mの外面とは、ほぼ一致させて作り、また、各図中符号nで示すものは、すべて止めねじ、Pはパッキング、yは溶着部、Bはバラストである。」
<記載事項15>
「【0011】
【実施例】フロート主体1は、図2のように磁性材または非磁性の上下の椀状体同士を中央の座環1aを挟んで互いに溶着密閉して中空体として作り、また、先端にマグネットMを有する支持体5は、図4のように雄ねじ5aを有する支持体5を中空として軽量化すると共に、その先端に図4のように着磁したマグネットMを当てがいつつチタン合金のような非磁性のキャップ5Aを支持体5に被着して作ってある。
【0012】さらに、フロートFの上面に対して支持体5の取付座3の取付手段は、図2のようにねじ止め固着する前例以外に、図6のように取付座3の中心孔3aをフロート上面に突設した三段雄ねじ2aの中間直径部に回転可能に遊挿し、その上部を抜け止めねじnで抜け止めガードすることで、フロート上面に対し取付座3や支持体5を回転可能に枢支平設してもよい。」

記載事項13?記載事項15に基づけば、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「 フロートFの上面に対して先端にマグネットMを有する支持体5を取付座3により取付け、フロート上面に対し取付座3や支持体5を回転可能に枢支平設したマグネットフロート式の液面計用フロートF。」

2-2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを比較する。

ア 甲1発明の「液体容器1」は、本件発明1の「液体容器」に相当し、以下同様に、「上下の連結管2,2」は「上下の連結管」に、「非磁性のスタンドコラム3」は「非磁性縦管」に、「マグネットMを内装した非磁性中空体のフロートF」は「磁石内装非磁性フロート」に、「スタンドコラム3に沿わせた非磁性ケース」は「縦管に平行立設した非磁性ケース」に、「マグネットM」は「フロート内装磁石」に、「磁性ロータなどによる液面指示体4」は「着磁ロータ」に、「マグネットフロート式液面計」は、「磁石内装フロート式液面計」に、それぞれ相当する。
よって、甲1発明の「液面を検知すべき液体容器1に上下の連結管2,2を介し連通立設した非磁性のスタンドコラム3内に入った液体にマグネットMを内装した非磁性中空体のフロートFを浮游配設すると共に、前記スタンドコラム3に沿わせた非磁性ケース内にマグネットMからの水平磁界を受けて回転作動する磁性ロータなどによる液面指示体4の多数を上下所定間隔毎に枢支配設したマグネットフロート式液面計」は、本件発明1の「液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計」に相当する。

イ 甲1発明の「前記フロートFは上下を密閉した非磁性中空体であり」と、本件発明1の「前記フロートを短寸小質量で上下を閉じた非磁性中空体で構成し」とは、「前記フロートを上下を閉じた非磁性中空体で構成し」の点で共通する。

ウ 上記1-3で検討したとおり、本件発明1の「フロート内装磁石」と「内装磁石片」とは同じ発明特定事項を意味するから、甲1発明の「マグネットM」は、上記アのとおり本件発明1の「フロート内装磁石」に相当するとともに、「内装磁石片」にも相当する。
また、甲1発明の「その浮游時のフロート吃水線Lに合致させてフロートF内面の溶着部yで」「溶着固定し」と、本件発明1の「その液体浮游時における吃水位置内面の一か所に」「定着する一方」とは、「その液体浮游時における吃水位置内面に」「定着する一方」の点で共通する。
よって、甲1発明の「その浮游時のフロート吃水線Lに合致させてフロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを磁極外向きに溶着リングを介し溶着固定し」と、本件発明1の「その液体浮游時における吃水位置内面の一か所に小型小質量の内装磁石片を磁極外向きに定着する一方」とは、「その液体浮游時における吃水位置内面に内装磁石片を磁極外向きに定着する一方」の点で共通する。

エ 甲1発明の「液体中の磁粉を吸着する磁石7」と、本件発明1の「縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極をフロートと共に前記着磁ロータ側に磁気誘導する外部磁性体」とは、「外部磁性体」の点で共通する。
また、甲1発明の「前記スタンドコラム3の下部で前記非磁性ケースの下方における筒体6内」は、本件発明1の「前記非磁性ケースの下部」に相当する。
よって、甲1発明の「前記スタンドコラム3の下部で前記非磁性ケースの下方における筒体6内に液体中の磁粉を吸着する磁石7を配置した」と、本件発明1の「縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極をフロートと共に前記着磁ロータ側に磁気誘導する外部磁性体を前記非磁性ケースの下部に配設した」とは、「外部磁性体を前記非磁性ケースの下部に配設した」点で共通する。

したがって、上記ア?エより、本件発明1と甲1発明の両者は、
「 液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面に内装磁石片を磁極外向きに定着する一方、外部磁性体を前記非磁性ケースの下部に配設した磁石内装フロート式液面計。」
の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
フロート及び内装磁石片について、本件発明1はフロートを短寸小質量で構成し、フロート内面の一か所に小型小質量の内装磁石片を定着するのに対して、甲1発明はフロートが短寸小質量であるかどうか明らかではなく、フロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを溶着リングを介し溶着固定する点。

[相違点2]
外部磁性体について、本件発明1は縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、内装磁石片の磁極をフロートと共に着磁ロータ側に磁気誘導するものであるのに対して、甲1発明は液体中の磁粉を吸着するものである点。

(2)相違点についての検討
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
上記相違点1中、本件発明1がフロート内面の一か所に内装磁石片を定着する点について検討する。
(ア)フロート内面の一か所に内装磁石片を定着することの技術上の意義
フロート内面の一か所に内装磁石片を定着することに関連して、明細書には次の記載がある。下線は当審で付した。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1の従来例におけるフロート内装磁石は、この特許文献1に記載の唯一の実施形態として、二個の分厚いリング状磁石の間に円板ヨークを挟んで同極同士を対向させたサンドイッチ構造の大型かつ大質量磁石構成体を上下の取り付け座でフロート内の上部に内装したものだから、取り付け座を含めてフロート全体として大質量となり、その液体浮游安定性の観点から、上記特許文献1の図示例のように、フロート外径に対してフロート長さが4倍程度の縦長大質量フロートにする必要が有り、縦管内液体の温度変化などによる液体比重の変化に対するフロート吃水レベルの変動がフロート長に比例して増大するので、液面指示誤差が大きくなってしまうという本質的かつ、大きな問題点が有る。
(中略)
【0008】
また、前記特許文献2の従来例は、フロート内に丸棒状で大質量の慣性が大きいダイポール磁石の中心部を支持部材により水平回転可能に枢支横設し磁石内装フロートを用い、縦管下部には上記磁石の磁極を磁気誘導するための外部磁石や外部磁性体が全く無いから、縦管内液体にフロートが浮游し始めた後、フロート内の大質量で慣性が大きいダイポール磁石の所望磁極を縦管外周面から離れた着磁ロータにその磁力だけで、果して対向接近させ得るかどうか極めて怪しく、後から手持ちマグネットで、上記フロート内ダイポール磁石の向きを修正する必要も有るという本質的かつ、大きな問題点が有る。
【0009】
さらに上記特許文献2におけるダイポール磁石は、丸棒状で大質量の慣性が大きい磁石だから、その枢支構造が複雑高価となると共に、その支持部材を含めてフロート全体として前記特許文献1と同様に大型かつ大質量となり、その縦管内浮游安定性の観点から、上記特許文献2のフロートも、この文献2の図示例のように、フロート外径に対して長さが8倍程度の縦長大質量フロートにする必要が有るから、縦管内液体の温度変化などによる液体比重の変化に対するフロート吃水レベルの変動による液面指示誤差が前記特許文献1以上に大きくなってしまうという本質的問題点が有るし、特許文献2における縦長大質量フロートは、その部品管理・組立製造・梱包保管・運搬流通・開梱使用・保守点検などのすべての面で扱い辛く不便で面倒であるし、フロート材料であるステンレス鋼などの高価な資源を多く必要とし、価格の面でも不利であるという前記特許文献1の従来例以上の本質的かつ、大きな問題点が有る。」

「【発明を実施するための最良の形態】
(中略)
【0024】
なお、上記フロートF内には予め、その液体浮游時における吃水位置内面の一か所に図3のような希土類マグネットやアルニコ磁石などの高磁力磁石で作った一辺が5mm程度のキューブ状または偏平で5g程度の小型小質量磁石片Mをその磁極mが外向きになるように接着などで定着することで、短寸小質量の磁石内装フロートFを構成しておく。」

上記のとおり、明細書では、従来例として二個の分厚いリング状磁石の間に円板ヨークを挟んで同極同士を対向させたサンドイッチ構造の大型かつ大質量磁石構成体を上下の取り付け座でフロート内の上部に内装した特許文献1や、フロート内に丸棒状で大質量の慣性が大きいダイポール磁石の中心部を支持部材により水平回転可能に枢支横設した特許文献2が挙げられ、これら従来例の磁石及びその支持部材が大質量であることの問題点が指摘されている(段落【0004】、【0008】、【0009】)。
さらに、本件発明1の実施の形態として、小型小質量磁石片をフロートの吃水位置内面の一か所に定着することが記載されている(段等【0024】)。
これらの記載からみて、本件発明1がフロートの「内面の一か所に小型小質量の内装磁石片」を「定着する」ことの技術上の意義は、従来例のようにリング状磁石を用いたり、丸棒状のダイポール磁石の中心部を枢支横設するのではなく、フロート内面の一か所に定着できるような、従来例よりも小型小質量の磁石片を用い、これをフロート内面の一か所に定着することにより、従来例の磁石及びその支持部材が大質量であることによる問題点を解決することにあるといえる。

(イ)甲1発明のマグネットMの形状について
甲1発明は、マグネットMをフロートF内面に定着する点では本件発明1と共通しているが、そのマグネットMはリング状であって、フロートF内面の一か所に定着することは、支持の安定性からみて通常は考えられない。そうすると、甲1発明のマグネットMをフロートF内面の一か所に定着するためには、まずマグネットMをフロートF内面の一か所に定着するのに適した形状に変更する必要がある。そして、マグネットMをフロートF内面の一か所に定着するのに適した形状とするためには、マグネットMを少なくとも非リング状とする必要がある。
そこで、甲1発明のマグネットMを、フロートF内面の一か所に定着するのに適した非リング状に変更する動機づけの有無を検討する。

まず、甲1発明がマグネットMをリング状としているのは、請求人が主張するように、フロートの周方向回転に関係なく、吃水線位置においてフロートの周囲全方向に磁力を発して磁性ロータを確実に作動させるためであると考えられる(審判請求書14頁15?33行)。そして、甲1にはマグネットMの形状をリング状以外の形状とすることは記載も示唆もされていない。
そこで、甲1発明において、甲2発明の検出用磁石の形状を採用して非リング状の磁石とする動機づけの有無について検討する。

甲2発明を再掲する。
「 液体貯槽1内に設けられたガイド2の内側領域4の液面に浮かび、非磁性材料からなる中空円筒状のフロート5と、フロート5の内部の底部の一端に固着され、N極とS極がフロートの反対側面に対面するように配置された検出用磁石6と、ガイド2に対向する貯槽1の側壁1aの外面に取り付けられたホール素子10を用いた磁気検出器7と、磁気検出器7の背面7bに取り付けられ、フロート5が貯槽1の側壁1aに沿って上昇し、磁気検出器7の取り付け位置に近づくと、フロート5に固着されている検出用磁石6との間に働く磁力による反発力と吸引力により、フロート5の検出用磁石6が磁気検出器7側に対面するようにフロートをその軸線の周りに回転させるフロート回転用磁石8とを備えた液位計。」

甲2発明のフロート回転用磁石8は、フロート内の非リング状の検出用磁石6が磁気検出器7側に対面するようにフロート5をその軸線の周りに回転させるためのものである。
そうすると、甲1発明は、フロートFの周囲全方向に磁力を発するようあえてマグネットMをリング状としているのであるから、甲2発明のフロート回転用磁石8を新たに追加してまでマグネットMの形状を非リング状にするためには、磁性ロータを有しない点で甲1発明とは異なる形式の液位計である甲2発明において非リング状のマグネットを用いているという理由だけではなく、なんらかの動機付けがなければ当業者が採用するとは思われない設計変更である。
しかしながら、甲2には、甲1発明のリング状のマグネットMの形状を、フロートの周囲全方向に磁力を発して磁性ロータを確実に作動させるという作用を放棄してまで、非リング状に変更する動機づけが記載ないし示唆されているとはいえない。

これに対し請求人は、甲1発明のリング状の磁石を非リング状に変更することについて、フロート軽量化のためにはリング状磁石は不利であり、非リング状磁石が有利であることは論ずるまでもないことであるから、甲2発明のフロート回転用磁石を用いれば、必然的にフロート内装磁石として非リング状の磁石の使用が選択される旨主張している(口頭審理陳述要領書3頁32行?4頁15行)。
しかしながら、請求人が主張の前提とする、フロート軽量化のために内装磁石片を非リング状磁石とすることについては甲1、甲2のいずれにも記載されておらず、また、フロート軽量化のために非リング状磁石とすることが周知・慣用技術ないし技術常識であることを示す証拠方法も何ら提示されていない。
よって、請求人の主張は採用できない。

したがって、甲1発明のマグネットMを、フロートF内面の一か所に定着するのに適した非リング状の磁石に変更する動機づけはないといわざるを得ない。

(ウ)甲1発明において磁石をフロートF内面の一か所に定着することについて
次に、仮に、甲1発明において甲2発明の検出用磁石の形状を採用して非リング状の磁石とすることが容易であるとして、磁石をフロートF内面の一か所に定着することを当業者が容易になし得たことかどうかについてさらに検討する。

まず、甲2発明は、検出用磁石6をフロート5の内部の底部に固着するものであって、フロート5の吃水位置内面、すなわちフロート5の側面に固着するものではない。また、本件発明1は内装磁石片をフロートの吃水位置内面の一か所に定着する結果、内装磁石片はフロートの径方向に片寄った位置に定着されることになるのに対して、甲2発明は、上記記載事項12で示した第1図からも読み取れるように、検出用磁石6はフロート5の径方向断面において径方向の中心付近に固着されており、フロート5の径方向に片寄った位置に固着することは何ら示唆されていない。
そうすると、仮に甲1発明において甲2発明の検出用磁石6の形状を採用して非リング状の磁石として、その固着位置については甲1発明のフロート吃水線Lに合致させて側面に固着する構成を維持するとしても、その固着はフロートの径方向に片寄ることなく固着するのが自然な発想であり、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項のように、吃水位置内面の一か所といったフロートの径方向に片寄った位置に固着することまでも、当業者が容易に想到し得るとすることはできない。

一方、請求人は、フロートの吃水位置内面の一か所に定着することは設計変更であると主張し、その理由について、着磁ロータを回転させるフロート内装磁石は、磁石と着磁ロータとの距離が短ければ磁力が弱くても着磁ロータを回転させることができ、磁力が弱くても良いということは、その分磁石の小型化と小質量化をもたらすから、フロート内装磁石の小型小質量化のためには、フロートの内面に定着させることが最も有利といえることは当然のことであると主張する(口頭審理陳述要領書2頁19?23行)。
しかしながら、フロート内装磁石を着磁ロータとの距離が短くなるように配置することは、ただちにフロート内装磁石をフロート内面の一か所に固着することを意味しない。すなわち、フロート内装磁石と着磁ロータとの距離を短くすることを考慮したとしても、フロート内装磁石をフロートの径方向に片寄ることなく固着し、フロート内装磁石を着磁ロータとの距離が短くなるような大きさ、すなわちフロート内装磁石が一端近傍から他端近傍にわたって延在する構成を当業者が容易になし得たものといえるにとどまる。
要するに、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項のように、内装磁石片をフロートの吃水位置内面の一か所のようにフロートの径方向に片寄った位置に固着することが甲1,甲2のいずれにも記載も示唆もされていない以上、甲1発明において相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を当業者が容易に想到し得るものとすることはできない。

(エ)相違点1についてのまとめ
したがって、甲1発明において上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易になし得たこととすることはできない。

イ 相違点2について
(ア)甲1発明のマグネットMの形状について
甲1発明のマグネットMはリング状であるが、リング状のマグネットに対して甲2発明のフロート回転用磁石8を設けてもフロートを回転させることはできないし、そもそもフロートを回転させる必要もないから、甲1発明のマグネットMの形状がリング状である限り、甲2発明のフロート回転用磁石8を設ける動機づけが存在しないことは明らかである。
そうすると、甲1発明において甲2発明のフロート回転用磁石8を設けるためには、まずマグネットMの形状を、フロート回転用磁石8により回転させることができ、またフロート回転用磁石8により回転させる必要があるような、少なくとも非リング状に変更する必要がある。なお、本件発明1は内装磁石片が非リング状であることを明示の発明特定事項とするものではないが、内装磁石片が非リング状であることは、内装磁石片がフロートの吃水位置内面の一か所に固着されるという本件発明1の発明特定事項に示唆されているといえる。
しかしながら、上記ア(イ)で検討したとおり、甲1発明のマグネットMを、非リング状の磁石に変更する動機づけはないといわざるを得ない。

(イ)甲1発明に甲2発明のフロート回転用磁石8を設ける技術課題について
仮に、甲1のマグネットMの形状を非リング状とする動機づけが存在したとして、甲1発明に甲2発明のフロート回転用磁石8を設ける技術課題の有無について検討する。
甲2発明のフロート回転用磁石8は、フロート5の非リング状の検出用磁石6が、磁気検出器7側に対面するようにフロート5をその軸線の周りに回転させるためのものである。そして、甲2発明は、磁気検出器7としてホール素子を利用しており、甲1発明の磁性ロータのようにフロート内の磁石を吸引する手段が他に存在しないために、非リング状磁石を用いる際にはフロート回転用磁石が必要なのである。
一方、甲1発明においてマグネットMの形状を非リング状としたとしても、非リング状のマグネットの磁極が磁性ロータに対面するための手段としては、既に磁性ロータが存在するため、磁気検出器7としてホール素子を用いた甲2発明と同様にフロート回転用磁石が必要、というわけではない。このことは、本件明細書で特許文献2に開示されているとする従来例では、非リング状である丸棒状の磁石を用いているが、当該磁石の磁極を磁気誘導するための外部磁石や外部磁性体が全く無い(上記1-2(3)イの段落【0008】)ことからも裏付けられる。
したがって、甲1発明においてマグネットMの形状を非リング状としたとしても、磁性ロータとは別途にフロート回転用磁石を設けるべき技術課題が、本件特許の出願時に当業者に知られていたとはいえない。

(ウ)甲1発明に甲2発明のフロート回転用磁石8適用する阻害要因について
仮に、甲1発明のマグネットMの形状を非リング状とする動機づけが存在して、また、甲1発明に甲2発明のフロート回転用磁石8を設ける技術課題が存在したとしても、以下に示すとおり、甲1発明に甲2発明のフロート回転用磁石8を適用しようとしても、この適用を阻害する要因がある。
甲2発明は、下記で甲1発明についてする指摘との対比からも明らかになるように、磁気検出器7としてホール素子10を利用するものであるからこそ、磁気検出器7の背面にフロート回転用磁石8を設けることができるのである(上記記載事項10、記載事項11)。
一方、甲1発明において、フロート回転用磁石8を磁気検出器7の背面7bに取り付ける甲2発明に倣って、磁気検出器7としての機能を有する磁性ロータなどによる液面指示体4の背面にフロート回転用磁石を設けると、磁性ロータをフロートFに内装されたマグネットMからの水平磁界により回転作動させることが困難になることが予想される。
したがって、甲2発明のフロート回転用磁石8は、磁気検出器7としてホール素子を利用したものに特有の構成であるといえ、磁性ロータを利用した甲1発明に甲2発明のフロート回転用磁石8を適用しようとしても、この適用を阻害する要因があるといえる。

(エ)甲1発明に甲2発明のフロート回転用磁石8を配設する位置について
さらに、仮に、甲1発明に甲2発明のフロート回転用磁石8を設けることが容易であるとして、甲1発明においてフロート回転用磁石を配設する位置を、非磁性ケースの下部とすることが当業者が容易になし得たことかどうかについて検討する。
甲2発明は、フロート回転用磁石8を磁気検出器7の背面7bに取り付けるものであるから、甲1発明に甲2発明を単に適用すれば、磁性ロータなどによる液面指示体4の背面にフロート回転用磁石を設けることとなることは上記のとおりであり、その内に液面指示体4の多数を枢支配設する非磁性ケースの下部に設けることにはならない。

この点について請求人は、甲1発明に甲2発明を適用した際にフロート回転用磁石を非磁性ケースの下部に配置する動機として、甲1発明で磁粉を吸着する磁石7が液面指示体(着磁ロータ)の下方に配置されており、磁石を設けるスペースが示されていることを挙げている(審判請求書15頁14?18行、口頭審理調書)。
しかしながら、甲1発明の磁粉を吸着する磁石7と、甲2発明のフロート回転用磁石8の両者は、全く機能の異なる磁石であるから、甲1発明で磁性ケースの下方に液体中の磁粉を吸着する磁石7が配置されており、磁石を設けるスペースが示されているとしても、このことはフロート回転用磁石の配置を示唆することにはならない。
よって、甲1発明で磁粉を吸着する磁石7が液面指示体(着磁ロータ)の下方に配置されているとしても、フロート回転用磁石を非磁性ケースの下部に配置する動機は何ら示されていないといわざるを得ない。

請求人はさらに、「甲1発明はすでに磁石7が設けられているのであるから、その位置にはフロート回転用磁石を設けることはできないのではないか」という当審からの指摘に対して(審理事項通知書3頁32行?4頁4行)、本件発明1で外部磁性体が配設されるのは非磁性ケースの「下部」、すなわち非磁性ケースに配設されるのであり、甲1発明のように非磁性ケースの「下方」ではないから、審判請求書ではこれらの語句の相違からフロート回転用磁石の配設位置について容易性を説明したものであると主張する(口頭審理陳述要領書4頁22行?5頁5行)。
しかしながら、フロート回転用磁石を設ける位置を、請求人のいう非磁性ケースの「下部」又は「下方」とするいずれの場合についても、請求人の主張する動機は、甲1発明で磁粉を吸着する磁石7が液面指示体(着磁ロータ)の下方に配置されており、磁石を設けるスペースが示されていることに尽きる。してみると、先に述べたとおり、甲1発明で磁粉を吸着する磁石7が液面指示体(着磁ロータ)の下方に配置されていることが、フロート回転用磁石の配置を示唆することにはならない以上、甲1発明に甲2発明のフロート回転用磁石8を適用する際に、フロート回転用磁石を設ける位置が、請求人のいう非磁性ケースの「下部」又は「下方」のいずれであっても、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、甲1発明においてフロート回転用磁石を配設する位置を、非磁性ケースの下部とすることは、甲1発明及び甲2発明に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

(オ)相違点2についてのまとめ
したがって、甲1発明において上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易になし得たとすることはできない。

ウ 相違点1と相違点2との関連について
上記ア及びイのとおり、相違点1と相違点2とは個別にみてもこれらの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは容易であるとはいえないが、相違点1と相違点2とは以下に示すように互いに関連しており、これらの相違点に係る本件発明1の発明特定事項を併せて採用することはさらに困難性があるといえる。
つまり、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項である内装磁石片の磁極をフロートと共に着磁ロータ側に磁気誘導する外部磁性体を配設することは、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項の一部である、内装磁石片が吃水位置内面の一か所に固着されることにより示唆される内装磁石片が非リング状であることを前提としたものであることは上記のとおりである。
すなわち、相違点1及び相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は互いに関連しているのであって、甲1発明に対して甲2発明のフロート回転用磁石8を設けるために、甲1発明のリング状のマグネットMの形状を非リング状に変更し、これを吃水位置内面の一か所に固定することは、当業者が容易に想到し得たこととすることは到底できない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-3 本件発明2について
(1)対比
本件発明2と甲1発明とを比較すると、上記2-2(1)と同様の理由により、両者は、
「 液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面に内装磁石片を磁極外向きに定着する一方、外部磁性体を前記非磁性ケースの下部に配設してなる磁石内装フロート式液面計。」
の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
フロート及び内装磁石片について、本件発明2はフロートを短寸小質量で構成し、フロート内面の対向二か所に小型小質量の内装磁石片をそれぞれ定着するのに対して、甲1発明はフロートが短寸小質量であるかどうか明らかではなく、フロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを溶着リングを介し溶着固定する点。

[相違点2]
外部磁性体について、本件発明2は縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、内装磁石片の磁極をフロートと共に着磁ロータ側に磁気誘導するものであるのに対して、甲1発明は液体中の磁粉を吸着するものである点。

(2)相違点についての検討
ア 相違点1について
本件発明2は、上記相違点1に係る本件発明2の発明特定事項に関して、内装磁石片をフロート内面の対向二か所にそれぞれ定着する点で本件発明1と異なる。
そして、上記2-2(2)アで検討したのと同様の理由に加えて、内装磁石片をフロート内面の対向二か所にそれぞれ定着することも甲1、甲2には記載も示唆もされていないから、甲1発明において上記相違点1に係る本件発明2の発明特定事項を採用することは、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易になし得たこととすることはできない。

イ 相違点2について
上記2-2(2)イで検討したとおり、甲1発明において上記相違点2に係る本件発明2の発明特定事項を採用することは、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易になし得たこととすることはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明2は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

2-4 本件発明3,6について
(1)検討
本件発明3,6はいずれも、本件発明1又は2を引用する発明であって、本件発明1又は2に発明特定事項を付加する発明である。そして、上記2-2及び2-3で示したとおり、本件発明1及び2がいずれも、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない以上、本件発明3,6もまた、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明3,6は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-5 本件発明4について
(1)対比
本件発明4と甲1発明とを比較する。

甲1発明の「液体中の磁粉を吸着する磁石7」と、本件発明4の「縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極をフロートと共に磁気反撥して前記着磁ロータに対向接近させる外部磁石」とは、「外部磁石」の点で共通する。
また、甲1発明の「前記スタンドコラム3の下部で前記非磁性ケースの下方における筒体6内」は、本件発明4の「前記縦管の下部」に相当する。
よって、甲1発明の「スタンドコラム3の下部で非磁性ケースの下方における筒体6内に液体中の磁粉を吸着する磁石7を配置した」と、本件発明4の「縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極をフロートと共に磁気反撥して前記着磁ロータに対向接近させる外部磁石を前記縦管の下部に配設してなる」とは、「外部磁石を前記縦管の下部に配設してなる」の点で共通する。

その他の点については、上記2-2(1)と同様の理由により、両者は、
「 液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游吃水位置内面に内装磁石片を磁極外向きに定着する一方、外部磁石を前記縦管の下部に配設してなる磁石内装フロート式液面計。」
の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
フロート及び内装磁石片について、本件発明4はフロートを短寸小質量で構成し、フロート内面の一か所に小型小質量の内装磁石片を定着するのに対して、甲1発明はフロートが短寸小質量であるかどうか明らかではなく、フロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを溶着リングを介し溶着固定する点。

[相違点2]
外部磁石について、本件発明4は縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、内装磁石片の磁極をフロートと共に磁気反撥して着磁ロータに対向接近させるものであるのに対して、甲1発明は液体中の磁粉を吸着するものである点。

(2)相違点についての検討
ア 相違点1について
上記2-2(2)アで検討したとおり、甲1発明において上記相違点1に係る本件発明4の発明特定事項を採用することは、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易になし得たこととすることはできない。

イ 相違点2について
本件発明4は、上記相違点2に係る本件発明4の発明特定事項に関して、外部磁石が内装磁石片の磁極をフロートと共に磁気反撥して着磁ロータに対向接近させるものである点で本件発明1と異なる。
そして、上記2-2(2)イで検討したのと同様の理由により、甲1発明において縦管の下部に甲2発明のフロート回転用磁石8を設けることが容易になし得たこととすることはできないから、甲1発明において上記相違点2に係る本件発明4の発明特定事項を採用することは、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易になし得たこととすることはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明4は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

2-6 本件発明5について
(1)対比
本件発明5と甲1発明とを比較すると、上記2-5(1)と同様の理由により、両者は、
「 液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設すると共に、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面に内装磁石片を磁極外向きに定着する一方、外部磁石を前記縦管の下部に配設してなる磁石内装フロート式液面計。」
の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
フロート及び内装磁石片について、本件発明5はフロートを短寸小質量で構成し、フロート内面の対向二か所に小型小質量の内装磁石片をそれぞれ定着するのに対して、甲1発明はフロートが短寸小質量であるかどうか明らかではなく、フロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを溶着リングを介し溶着固定する点。

[相違点2]
外部磁石について、本件発明5は縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、内装磁石片の各磁極の一つを磁気反撥して着磁ロータに接近させるものであるのに対して、甲1発明は液体中の磁粉を吸着するものである点。

(2)相違点についての検討
相違点1,2について併せて検討する。
本件発明5は、上記相違点1,2に係る本件発明5の発明特定事項に関して、実質的に内装磁石片を吃水位置内面の対向二か所にそれぞれ定着する点で本件発明4と異なる。
そして、上記2-5(2)で検討したのと同様の理由に加えて、内装磁石片をフロート内面の対向二か所にそれぞれ定着することも甲1、甲2には記載も示唆もされていないから、甲1発明において上記相違点1,2に係る本件発明5の発明特定事項を採用することは、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易になし得たこととすることはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明5は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-7 本件発明7について
(1)検討
本件発明7は、本件発明4又は5を引用する発明であって、本件発明4又は5に発明特定事項を付加する発明である。そして、上記2-5及び2-6で示したとおり、本件発明4及び5がいずれも、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない以上、本件発明7もまた、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明7は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-8 本件発明8,9について
(1)検討
本件発明8,9は、本件発明1ないし7を引用する発明であって、本件発明1ないし7に発明特定事項を付加する発明である。そして、上記2-2ないし2-7で示したとおり、本件発明1ないし7がいずれも、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない以上、本件発明8,9もまた、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明8,9は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-9 本件発明10について
(1)対比
本件発明10と甲1発明とを比較する。

ア 甲1発明の「マグネットM」と、本件発明10の「一個または対向離隔した二個の小型小質量磁石片」とは、「一個の磁石片」の点で共通する。
また、甲1発明の「磁極外向きに」は、マグネットMがフロートの浮游時のフロート吃水線Lに合致させて固定されるものであることを考慮すると、本件発明10の「その液体浮游時における吃水位置内面に磁極を向けた」に相当するといえる。
また、甲1発明の「フロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを磁極外向きに溶着リングを介し溶着固定し」と、本件発明10の「小型小質量磁石片をフロート内部に枢支部材で水平回転可能に枢支横設する一方」とは、「磁石片をフロート内部に配設する一方」の点で共通する。
よって、甲1発明の「その浮游時のフロート吃水線Lに合致させてフロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを磁極外向きに溶着リングを介し溶着固定し」と、本件発明10の「その液体浮游時における吃水位置内面に磁極を向けた一個または対向離隔した二個の小型小質量磁石片をフロート内部に枢支部材で水平回転可能に枢支横設する一方」とは、「その液体浮游時における吃水位置内面に磁極を向けた一個の磁石片をフロート内部に配設する一方」の点で共通する。

イ 甲1発明の「液体中の磁粉を吸着する磁石7」と、本件発明10の「縦管内に入る液体にフロートが浮び始めた後、前記磁極を前記着磁ロータ側に磁気誘導回転させる外部磁石または外部磁性体」とは、「外部磁石」の点で共通する。
また、甲1発明の「前記スタンドコラム3の下部で前記非磁性ケースの下方における筒体6内」は、本件発明10の「前記非磁性ケースの下部」に相当する。
よって、甲1発明の「スタンドコラム3の下部で非磁性ケースの下方における筒体6内に液体中の磁粉を吸着する磁石7を配置した」と、本件発明10の「縦管内に入る液体にフロートが浮び始めた後、前記磁極を前記着磁ロータ側に磁気誘導回転させる外部磁石または外部磁性体を前記非磁性ケースの下部に配設した」とは、「外部磁石を前記非磁性ケースの下部に配設した」の点で共通する。

その他の点については、上記2-2(1)と同様の理由により、両者は、
「 液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設し、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面に磁極を向けた一個の磁石片をフロート内部に配設する一方、外部磁石を前記非磁性ケースの下部に配設した磁石内装フロート式液面計。」
の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
フロート及び内装磁石片について、本件発明10はフロートを短寸小質量で構成し、小型小質量磁石片をフロート内部に枢支部材で水平回転可能に枢支横設するのに対して、甲1発明はフロートが短寸小質量であるかどうか明らかではなく、フロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを溶着リングを介し溶着固定する点。

[相違点2]
外部磁石について、本件発明10は縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、磁石片の磁極を着磁ロータ側に磁気誘導回転させるものであるのに対して、甲1発明は液体中の磁粉を吸着するものである点。

(2)相違点についての検討
事案に鑑み、相違点2についてまず検討する。
本件発明10は、上記相違点2に係る本件発明10の発明特定事項に関して、外部磁石が磁石片の磁極を着磁ロータ側に磁気誘導回転させるものである点で本件発明1と異なる。
そして、上記2-2(2)イで検討したとおり、甲1発明において非磁性ケースの下部に甲2発明のフロート回転用磁石8を設けることが容易になし得たこととすることはできない以上、甲1発明において上記相違点2に係る本件発明10の発明特定事項を採用することは、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易になし得たこととすることはできない。

よって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件発明10は、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易になし得たものとすることはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明10は、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-10 本件発明11について
(1)対比
本件発明11と甲1発明とを比較する。

甲1発明の「液体中の磁粉を吸着する磁石7」と、本件発明11の「縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極を前記着磁ロータ側に磁気反発して回転させる外部磁石」とは、「外部磁石」の点で共通する。
また、甲1発明の「前記スタンドコラム3の下部で前記非磁性ケースの下方における筒体6内」は、本件発明11の「前記縦管の下部」に相当する。
よって、甲1発明の「スタンドコラム3の下部で非磁性ケースの下方における筒体6内に液体中の磁粉を吸着する磁石7を配置した」と、本件発明11の「縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、前記磁極を前記着磁ロータ側に磁気反発して回転させる外部磁石を前記縦管の下部に配設した」とは、「外部磁石を前記縦管の下部に配設した」の点で共通する。

その他の点については、上記2-9(1)と同様の理由により、両者は、
「 液面を検知すべき液体容器に上下の連結管で連通立設した非磁性縦管内の液体に磁石内装非磁性フロートを浮游配設し、前記縦管に平行立設した非磁性ケース内にフロート内装磁石からの磁力を受けて回転する多数の着磁ロータを上下所定間隔毎に枢支横設した磁石内装フロート式液面計において、前記フロートを上下を閉じた非磁性中空体で構成し、その液体浮游時における吃水位置内面に磁極を向けた一個の磁石片をフロート内部に配設する一方、外部磁石を前記縦管の下部に配設した磁石内装フロート式液面計。」
の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
フロート及び内装磁石片について、本件発明11はフロートを短寸小質量で構成し、小型小質量磁石片をフロート内部に枢支部材で水平回転可能に枢支横設するのに対して、甲1発明はフロートが短寸小質量であるかどうか明らかではなく、フロートF内面の溶着部yでヨークリングmを挟んだ上下のリング状のマグネットMを溶着リングを介し溶着固定する点。

[相違点2]
外部磁石について、本件発明11は縦管内に入る液体にフロートが浮かび始めた後、磁石片の磁極を着磁ロータ側に磁気反発して回転させるものであるのに対して、甲1発明は液体中の磁粉を吸着するものである点。

(2)相違点についての検討
事案に鑑み、相違点2についてまず検討する。
本件発明11は、上記相違点2に係る本件発明11の発明特定事項に関して、外部磁石が磁石片の磁極を着磁ロータ側に磁気反発して回転させるものである点で本件発明1と異なる。
そして、上記2-2(2)イで検討したのと同様の理由により、甲1発明において縦管の下部に甲2発明のフロート回転用磁石8を設けることが容易になし得たこととすることはできない以上、甲1発明において上記相違点2に係る本件発明11の発明特定事項を採用することは、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易になし得たこととすることはできない。

よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明11は、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易になし得たものとすることはできない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明11は、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-11 本件発明12について
(1)検討
本件発明12は、本件発明10又は11を引用する発明であって、本件発明10又は11に発明特定事項を付加する発明である。そして、上記2-9及び2-10で示したとおり、本件発明10及び11がいずれも、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない以上、本件発明12もまた、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)小括
以上のとおり、本件発明12は、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2-12 無効理由1についてのまとめ
以上、上記2-2ないし2-11のとおり、本件発明1ないし12は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたとすることはできず、同法第123条第1項第2号に該当しない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし12についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-01-11 
出願番号 特願2005-69209(P2005-69209)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (G01F)
P 1 113・ 121- Y (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴野 幹夫  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 江塚 政弘
波多江 進
登録日 2009-04-03 
登録番号 特許第4284468号(P4284468)
発明の名称 磁石内装フロート式液面計  
代理人 旦 武尚  
代理人 須澤 洋  
代理人 岸田 正行  
代理人 高野 弘晋  
代理人 水野 勝文  

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