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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  D06F
管理番号 1233531
審判番号 無効2009-800233  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-11-11 
確定日 2011-02-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2778841号発明「洗濯機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2778841号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2778841号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)についての出願は、平成2年12月28日に特許出願され、平成10年5月8日にその発明についての特許権の設定登録がなされたものである。

以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
1.平成21年11月11日 審判請求書
2.平成22年 2月15日 審判事件答弁書
3.平成22年 2月15日 訂正請求書
4.平成22年 3月31日 無効審判弁駁書
5.平成22年 5月18日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
6.平成22年 5月19日 口頭審理陳述要領書(請求人)
7.平成22年 6月 2日 口頭審理

第2 訂正請求について
1.訂正の内容
被請求人が求めた訂正の内容は、下記(1)?(4)のとおり訂正することを求めるものである。
(1)訂正事項1
請求項1の「槽内に設けられた撹拌体を正逆回転させるための洗濯機モータと、洗濯物の量を検出する洗濯物量検出手段とを備え」を「槽内に設けられた撹拌体を正逆回転させるための洗濯機モータと、洗濯物の量を検出する洗濯物量検出手段と、運転時間を設定する運転時間設定スイッチと、水位を設定する水位設定スイッチとを備え」と訂正する。
(2)訂正事項2
請求項1の「運転コースとして自動運転コースの他にマニュアル運転コース」を「運転コースとして自動運転コースの他に、前記運転時間設定スイッチにより運転時間と前記水位設定スイッチにより水位とをそれぞれ設定できるマニュアル運転コース」と訂正する。
(3)訂正事項3
請求項1に「前記自動運転コースと前記マニュアル運転コースとを択一設定する運転コース選択スイッチを有し、」を追加する。
(4)訂正事項4
請求項1の「マニュアル運転コースが設定されたときには前記洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定するマニュアル運転制御手段」を「マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、前記水位設定スイッチによる水位の設定が無い場合には、前記洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定し、マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、前記水位設定スイッチによる水位の設定が有る場合には、この設定された水位とするマニュアル運転制御手段」と訂正する。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、洗濯機について、運転時間を設定する運転時間設定スイッチと水位を設定する水位設定スイッチを備えるものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件特許明細書の段落【0018】の「前記各種スイッチ13には、自動運転コースとマニュアル運転コースとを択一設定する運転コース選択スイッチ、マニュアル運転のための運転時間設定スイッチ、同水位設定スイッチ、同水流設定スイッチ、取消スイッチおよびスタートスイッチが含まれている。」との記載、及び同段落【0019】の「このマニュアル運転がスタートされる前には、必要に応じて、マニュアル運転のための各種スイッチ(運転時間設定スイッチ、同水位設定スイッチ、同水流設定スイッチ)が操作されて各種設定がなされる」との記載によれば、訂正事項1は、明細書又は図面に記載されている事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、マニュアル運転コースについて、運転時間設定スイッチにより運転時間と水位設定スイッチにより水位とをそれぞれ設定できるものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件特許明細書の段落【0007】の「マニュアル運転コースにおいて、運転時間および水位について使用者が設定した上で、運転を開始すると、」との記載、また上記した同段落【0018】及び【0019】の記載によれば、訂正事項2は、明細書又は図面に記載されている事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、洗濯機について、自動運転コースとマニュアル運転コースとを択一設定する運転コース選択スイッチを有するものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件特許明細書の段落【0018】の「前記各種スイッチ13には、自動運転コースとマニュアル運転コースとを択一設定する運転コース選択スイッチ、マニュアル運転のための運転時間設定スイッチ、同水位設定スイッチ、同水流設定スイッチ、取消スイッチおよびスタートスイッチが含まれている。」との記載によれば、訂正事項3は、明細書又は図面に記載されている事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、マニュアル運転制御手段について、マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、水位設定スイッチによる水位の設定が無い場合には、洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定し、マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、水位設定スイッチによる水位の設定が有る場合には、この設定された水位とするものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件特許明細書の段落【0020】の「マニュアル運転がスタートされると、図3に示すように、水位についてマニュアル設定がなされたか否かを判断し(ステップS1)、水位についてマニュアル設定が有る場合には、そのマニュアル設定水位と、これまでに設定された運転時間および水流により洗濯運転を実行する(ステップS2)。水位についてマニュアル設定が無い場合には、洗濯物量を検出する(ステップS3)。」、同段落【0022】の「この洗濯物量検出結果に応じて水位を決定する(ステップS4)。すなわち制御回路11は予め表1に示す水位決定データを記憶しており、この水位決定データにと洗濯物量とから水位を決定する。」、及び図3のフローチャートの記載によれば、訂正事項4は、明細書又は図面に記載されている事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

したがって、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に該当し、同条第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

第3 請求人主張の概要
請求人は、審判請求書において、「特許第2778841号(以下、本件特許と称す)の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、審判請求書、無効審判弁駁書、口頭審理陳述要領書を提出した。そして、口頭審理において、公然実施された発明に基づく無効理由を撤回したので、請求人が主張する無効理由は、概略、次のとおりのものである。
本件特許発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第7?11号証に記載された発明から容易に発明できたものである。
従って、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に該当し、本件特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。

そして、その理由について以下のように主張する。
本件特許発明と甲第7号証に記載の発明とを対比すると、甲第7号証に記載の発明は、全自動コースとお好みでのお洗濯との運転コースとを択一設定するための機能を、水位ボタン等の他の機能を有するボタンに割り当てているのに対して、本件特許発明においては、運転コースを択一設定するために水位設定スイッチ等のスイッチとは別に個別のスイッチを有している点で両者は相違する。
しかし、甲第10号証及び甲第11号証には、水位設定スイッチ等以外のスイッチによって、自動運転コースとマニュアル運転コースとを択一的に選択する洗濯機の発明が記載されており、これらの発明を甲第7号証に記載の発明に適用することにより、本件特許発明は容易に想到されるものである。

[証拠方法]
甲第1号証 「日立家電サービス技術認定店資料 サービスブック 日立全自動先濯機 KW-70R1」
甲第2号証 平成2年9月8日付 電波新聞第23面
甲第3号証 平成2年9月8日付 読売新聞第9面
甲第4号証 平成2年10月27日付 電波新聞第19面
甲第5号証 平成2年12月5日付 電波新聞第10,11面
甲第6号証 平成2年11月16日付 日本建鐵(株)杉野氏宛、KW-70R1(GR)納品書・保証書、(株)オノデン発行
甲第7号証 「取扱説明書 日立全自動洗濯機 KW-70R1形」
甲第8号証 特開昭63-92385号公報(公開日:昭和63年4月22日)
甲第9号証 特開昭59-91994号公報(公開日:昭和59年5月26日)
甲第10号証 「東芝全自動電気洗濯機取扱説明書 AW-SX960」
甲第11号証 「東芝全自動電気洗濯機取扱説明書 AW-50G1 AW-50E1」
甲第12号証 昭和63年8月31日付 電波新聞第23面
甲第13号証 平成元年9月27日付 電波新聞第23面

第4 被請求人主張の概要
被請求人は、審判事件答弁書において「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、答弁書、口頭審理陳述要領書を提出した。そして、口頭審理の結果を総合すると被請求人の主張は、概略、次のとおりのものである。
本件特許発明は、甲第7?11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当するものではなく、本件特許は無効となるべきものではない。

そして、その理由について以下のように主張する。
1.運転コース選択スイッチについて
甲第7号証に記載の発明は、本件特許発明の「マニュアル運転コース」に相当する「お好みでのお洗濯」は「洗い」、「すすぎ」、「脱水」ボタンを操作して各運転時間を設定し、これっきりボタンを押して運転を開始させるもので、そもそもマニュアル運転コースを選択するスイッチという技術思想は存在しない。これに対して、甲第10号証等には、確かに「メモリー(コース)」を選択するという操作が存在するが、甲第7号証に記載の発明は上記工程にて運転操作が完結しており、「メモリーコース」をあえて組み合わせるという動機づけは甲第7号証に記載の発明及び甲第10号証等のいずれにも示唆されていない。
甲第7号証に記載の発明のお好みでのお洗濯における水位ボタンは、本件特許発明の課題及び目的と関係しない水を足したいとき、極少水位を使うとき、すすぎのみを行うときのみに使用するボタンであり、本件特許発明の課題及び目的とする通常の洗濯物の洗濯において水位ボタンを押すと「布の量に関係ない水位で洗濯を行」なってしまうため、その水位ボタンの使用を禁止しているものである。すなわち、本件特許発明の目的及び課題と関連しない特殊な洗濯時に水位の設定を行うことがあったとしても、本件特許発明の目的及び課題としている通常の洗濯物の洗濯時において、水位の設定を禁止していることは、使用者の意思を尊重し自動水位よりも積極的に設定された水位を優先するという本件特許発明に対して、全く逆の技術思想である。
甲第10号証等に記載の洗濯機は、「マニュアル運転コース」に相当するメモリー(コース)を使用する場合には、時間、回数、水流、(工程)を設定可能であることは明記されているが、本件特許発明の構成要件である「水位」の設定が可能であるのか記載されていない。このため、使用者はメモリー(コース)を使用する場合には使用者の意思に基づいて「水位」を設定することはできない。したがって、甲第10号証等には、本件特許発明の課題である使用者の意思を尊重することができるという技術思想が欠落していると共に、少なくともメモリー(コース)には本件特許発明の他の構成要件が存在しない点で本件特許発明と相違し、さらに発明の特徴点に到達するための示唆等は存在しない。
よって、甲第7号証に記載の発明は本件特許発明の進歩性を否定する論理づけを構築する上で阻害要因があると共に、例え甲第7号証に記載の発明に、甲第10号証等を組み合わせても、これらには発明の特徴点に到達するためにしたはずである示唆等は開示されていないため、本件特許発明を容易に想到することは困難である。

2.マニュアル運転コースにおいて、水位の設定が無い場合の水位の設定について
本件特許発明は、マニュアル運転コースでの水位決定は洗濯物量検出手段による検出結果に基づくものであるのに対し、甲第7号証に記載の発明は、布量センサーと布質センサーの両センサーの検出結果によってどのように水位を決定するのか不明であり、実質的に布量センサーで水位を決定するといえるものとはいえない点で、本件特許発明と甲第7号証に記載の発明は相違する。
よって、本件特許発明は、甲第7号証に記載の発明には存在しない相違点を有し、この相違点は、甲第1?13号証のいずれにも開示されていない技術であり、周知技術でもないため、当業者が容易に発明できたものではない。

3.マニュアル運転コースにおいて、水位の設定が有る場合の水位の設定について
甲第7号証の記載によれば、「お好みでのお洗濯」において特殊な洗濯(極少水位を使うとき)を行うときは、水位を設定して洗濯を行うことができるものと認められるが、「お好みでのお洗濯」のときに水位ボタンを操作すると、本件特許発明の従来技術のように予め設定されている標準的な水位となるのか、どのような水位となるのか不明である。
また、上記特殊な洗濯(極少水位を使うとき)は、本件特許発明の課題及び目的と関係しない異質な洗濯方法であるため、本件特許発明の対比対象とならないものである。
このため甲第7号証に記載の発明は、「お好みでのお洗濯」において、水位の設定が有る場合にどのように水位が決められるのか不明であるため、本件特許発明の「マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、水位設定スイッチによる水位の設定が有る場合には、この設定された水位とするマニュアル運転制御手段」を備えていない点で、本件特許発明と相違する。
本件特許発明は、マニュアル運転コースにおいても自動で洗濯物量に合った適正水位が決定されることでスプラッシュおよび布傷みの発生をなくし得るとともに、水位について設定が有った場合には設定された水位が優先されるので、使用者の意思を尊重することができるという格別な効果を奏するものである。
これに対し、少なくとも甲第7号証に記載の発明は、上述したように特殊な洗濯時に水位の設定を行うことがあったとしても、通常の洗濯物の洗濯時においては水位の設定を禁止している。このことは、使用者の意思を尊重し自動水位よりも積極的に設定された水位を優先する本件特許発明に対して、全く逆の思想であり、本件特許発明の進歩性を否定する論理づけを構築する上で、阻害要因があると言わざるをえない。
また、この相違点は上記したように使用者の意思を優先することができるという格別な作用効果を奏するものである。
よって、甲第7号証に記載の発明は本件特許発明の進歩性を否定する論理づけを構築する上で、阻害要因を有するものであると共に、本件特許発明は、甲第7号証に記載の発明には存在しない相違点を有し、この相違点は、甲第1?13号証のいずれにも開示されていない技術であり、周知技術でもないため、当業者が容易に発明できたものではない。

第5 本件特許発明
訂正請求については、前記「第2」で述べたとおり認められるので、本件特許発明は訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)

「槽内に設けられた撹拌体を正逆回転させるための洗濯機モータと、洗濯物の量を検出する洗濯物量検出手段と、運転時間を設定する運転時間設定スイッチと、水位を設定する水位設定スイッチとを備え、運転コースとして自動運転コースの他に、前記運転時間設定スイッチにより運転時間と前記水位設定スイッチにより水位とをそれぞれ設定できるマニュアル運転コースを備えたものにおいて、
前記自動運転コースと前記マニュアル運転コースとを択一設定する運転コース選択スイッチを有し、マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、前記水位設定スイッチによる水位の設定が無い場合には、前記洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定し、マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、前記水位設定スイッチによる水位の設定が有る場合には、この設定された水位とするマニュアル運転制御手段を設けたことを特徴とする洗濯機。」

第6 当審の判断
1.甲各号証について
(1)甲第7号証(「取扱説明書 日立全自動洗濯機 KW-70R1形」)
ア.甲第2?5号証の新聞記事を総合すると、日立が「静御前これっきりボタン『KW-70R1』」を本件発明の特許出願日前である平成2年11月1日から発売したことが窺われ、甲第6号証によれば、実際に、本件発明の特許出願日前に型式が「KW-70R1」の洗濯機が販売されたものと認められる。また、甲第7号証には、その表紙に「取扱説明書 日立全自動洗濯機 KW-70R1形」及び「静御前これっきりボタン」の記載があることから、甲第7号証は日立が販売した洗濯機「静御前これっきりボタン『KW-70R1』」の取扱説明書と認められる。そして、取扱説明書はその対象となる製品に付属して購入者に提供されるものであるから、日立が「静御前これっきりボタン『KW-70R1』」を発売したことで、甲第7号証は頒布されたということができる。
したがって、甲第7号証を本件発明の特許出願日前に頒布された刊行物と認める。
なお、被請求人も甲第7号証を本件発明の特許出願日前に頒布された刊行物と認めている。(口頭審理調書)

イ.記載事項及び引用発明
ア)第5ページには、「各部のなまえ」として、洗濯機の斜視図が記載され、洗濯槽の内部にからまん棒(かくはん翼)が設けられていること、及び洗濯機の上面に操作部と電源スイッチを備えていることが図示されている。(下線は当審で付与。以下同様。)
イ)第6?7ページには、「簡単な使いかた(おすすめ標準コースでのお洗濯)」として、操作手順が操作部の説明とともに記載され、「2 スタートボタンを押す」の下には「・センサーが洗濯物の量と質を感知して水位、水流、洗い、すすぎ、脱水時間などを自動的に決めて洗濯します。」と記載され、また、「お好みボタン」の欄には「お好みで洗濯するときに使います。」と記載されるとともに、操作部の「水位」、「洗い」、「すすぎ」、「脱水」の各ボタンが「お好みボタン」であることが図示されている。さらに、「パネル表示部」の欄には「センサーモニターの点滅で、センサー感知状態をお知らせします。」と記載されるとともに、パネル表示部の「センサーモニター」の欄に「布量>水位>布質>水流・時間>自動運転中」と図示されている。
ウ)第8?9ページには、「全自動コースでのお洗濯」として、「コースセレクト」ボタンを指して「1 全自動コースを選ぶ」と記載され、「スタート/一時停止」ボタンを指して「2 押す」と記載されている。また、「センサーの働き」の「衣類の量→水位<自動設定>」の欄に「・洗濯物の量により、「水位」をセンサーが自動的に決めます。水位ボタンを押す必要はありません。」と記載され、「センサーの働き」の「衣類の質→水流<自動設定>」の欄には衣類の質と水流の関係が説明されている。
エ)第10?11ページには、「お好みでのお洗濯」として、「水位」、「洗い」、「すすぎ」、「脱水」ボタンを指して「1 選ぶ」と記載され、「スタート/一時停止」ボタンを指して「2 押す」と記載されている。また、「水位ボタンを使うとき」の欄には「水を足したいとき 洗いやすすぎ中に水を足したいときは、このボタンを押します。押している間、給水します。 ご注意 『洗い』の前に水位ボタンを押さないで下さい。布の量に関係ない水位で洗濯を行い、布を傷めるおそれがあります。 極少水位を使うとき 水位を『少』にセットし、さらに1回押すと表示の線が『三(二本の線の下に太い線が記載されている)』から『一(下方に太い線が一本記載されている)』に変わり極少水位にセットされます。」さらに、「お好みボタンの使いかた ボタンを押すごとに表示が切り換わります。」の欄には「洗い」ボタンは「20分」、「16分」、「12分」、「7分」、「 」順に表示が切り換わり、「20分」に戻ることが、「すすぎ」ボタンは「注水2回」、「2回」、「注水2回」、「1回」、「注水1回」、「 」の順に表示が切り換わり、「2回」に戻ることが、「脱水」ボタンは「7分」、「5分」、「2分」、「 」の順に表示が切り換わり、「7分」に戻ることが、それぞれ示されている。そして、「コース」が「洗い→すすぎ→脱水」、「洗いのみ」、「洗い→すすぎ」、「洗い→脱水」の欄の「ボタン操作(電源スイッチを『入』にしてから)」の項目には「洗濯物の量と質により、『水位』、『水流』をセンサーが自動的に決めます。水位ボタンを押す必要はありません。(極少水位に設定したいときには、予め水位ボタンを押してください)」と記載され、ボタンを押す手順が示されている。
オ)第28ページには、仕様として、「洗濯方式」が「自動反転かくはん式」と記載されている。
カ)上記ア)及びオ)によれば、洗濯機の洗濯槽の内部のからまん棒(かくはん翼)は正逆回転するものと認められる。
キ)上記イ)によれば、洗濯機は洗濯物の量と質を感知するセンサーを有していることが認められる。また、上記ウ)の「センサーの働き」及び上記エ)の「布の量に関係ない水位」との記載によれば、洗濯機は洗濯物の量により水位を設定するものと認められる。
ク)上記エ)によれば、「洗い」、「すすぎ」、「脱水」の各ボタンは運転時間を設定するものであり、「水位」ボタンは水位を設定するものと認められる。
ケ)上記エ)によれば、お好みでのお洗濯において、水位ボタンを押さないと洗濯物の量と質により、水位と水流がセンサーにより設定されるものであるが、全自動コースでのお洗濯でのセンサーによる制御とお好みでのお洗濯でのセンサーによる制御が異なるものとは認められないから、上記キ)のとおり洗濯物の量により水位がセンサーにより設定されるものであり、また、お好みでのお洗濯において、水位ボタンを極少水位に設定すると水位は極少水位に設定されるものと認められる。そして、洗濯機がこれらのお好みでのお洗濯の制御を行う制御手段を有していることは明らかである。
コ)上記イ)、ウ)及びエ)によれば、全自動コースでお洗濯及びお好みでのお洗濯において、「スタート/一時停止」ボタンにより運転がスタートされると認められる。

上記記載事項、上記認定事項及び図示内容を総合し、本件発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第7号証には、以下の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されている。

「洗濯槽の内部に設けられた正逆回転するからまん棒と、洗濯物の量と質を感知するセンサーと、運転時間を設定する『洗い』、『すすぎ』、『脱水』の各ボタンと、水位を設定する『水位』ボタンとを備え、運転コースとして全自動コースの他に、前記『洗い』、『すすぎ』、『脱水』の各ボタンにより運転時間と前記『水位』ボタンにより水位とをそれぞれ設定できるお好みでのお洗濯を備えたものにおいて、
前記全自動コースを選ぶ『コースセレクト』ボタンと前記お好みでのお洗濯を選ぶ『水位』、『洗い』、『すすぎ』、『脱水』の各ボタンを有し、お好みでのお洗濯が設定されて運転がスタートされると、前記『水位』ボタンを押さない場合には、前記センサーが洗濯物の量により水位を設定し、お好みでのお洗濯が設定されて運転がスタートされると、前記『水位』ボタンを極少水位に設定した場合には、水位を極少水位に設定するお好みでのお洗濯の制御を行う制御手段を有する洗濯機。」

(2)甲第8号証(特開昭63-92385号公報)
ア.記載事項
ア)「まず、全体的構成を示す第2図において、1は外箱、2は外箱1内に図示しない吊り棒を介して弾性的に吊持された水受槽である。水受槽2の内部には洗濯槽3が回転可能に配設され、その内部に容器状攪拌体4がやはり回転可能に配設されている。一方、水受槽2の外底部にはモータ5及びこれとベルト伝動機構6を介して連結した駆動機構7が固定され、洗剤洗い及びすすぎ洗いの各行程時にはモータ5の駆動力を容器状攪拌体4に伝達してこれを所定周期で正逆回転させ、脱水行程時には洗濯槽3を一方向に高速回転させるようになっている。
さて、電気的構成を表わす第1図に示すように、モータ5は正逆回転可能な単相誘導モータであって、正転及び逆転の各端子はトライアック8,9を介して電源10に接続されている。」(第2ページ右上欄第3?18行)
イ)第2図には、洗濯槽3内に容器状攪拌体4が設けられ、水受槽2の外底部にモータ5、ベルト伝動機構6及び駆動機構7が設けられた洗濯機が記載されている。

(3)甲第9号証(特開昭59-91994号公報)
ア.記載事項
ア)「まず第1図において、1は外箱であり、内部には弾性吊持機構2を介して水受槽3が弾性吊持されており、この水受槽3の外底部にはモータ4、機構部5及びベルト伝達機構6等が配設されている。又、水受槽3の内部には洗濯槽兼脱水槽たる回転槽7が配設されており、この回転槽7の底部には攪拌体8が配設されている。上記回転槽7は機構部5の回転軸9に連結され、又攪拌体8は、回転槽7内底部に配設した減速機構10を介して機構部5における図示しない攪拌軸に連結されている。而して、上記機構部5はクラッチ機構11を有しており、このクラッチ機構11によりモータ4の回転動力を上記攪拌軸及び回転軸9に切換え伝達し、以て洗い時には攪拌体8を回転させ、脱水時には回転槽7及び攪拌体8とを一体回転させる様になっている。又、上記攪拌体8は正回転及び逆回転を繰返す様になっていて、例えば正方向に3回転された後反転されて逆方向に又3回転されることを繰返す様に設定されている。」(第1ページ右下欄第20行?第2ページ左上欄第19行)
イ)第1図には、回転槽7内に攪拌体8が設けられ、水受槽3の外底部にモータ4、機構部5及びベルト伝達機構6が設けられた洗濯機が記載されている。

(4)甲第10号証(「東芝全自動電気洗濯機取扱説明書 AW-SX960」)
ア.甲第12号証の新聞記事によれば、東芝が「全自動洗濯機『AW-SX960』」を本件発明の特許出願日前である昭和63年9月16日から発売したことが窺われ、また、甲第10号証には、その表紙に「東芝全自動電気洗濯機 取扱説明書 AW-SX960」の記載があることから、甲第10号証は東芝が販売した洗濯機「AW-SX960」の取扱説明書と認められる。そして、取扱説明書はその対象となる製品に付属して購入者に提供されるものであるから、東芝が洗濯機「AW-SX960」を発売したことで、甲第10号証は頒布されたということができる。
したがって、甲第10号証を本件発明の特許出願日前に頒布された刊行物と認める。

イ.記載事項
ア)第2ページには、「各部のなまえ」として、洗濯機の斜視図が記載され、洗濯機の上面に「前面パネル部」を備えていることが図示されている。
イ)第3?4ページには、「パネル部のなまえとはたらき」として、「コース切換」ボタンを指して「コース切換ボタン」の欄に「洗濯物に適したコースが選べます。・・・略・・・オートコースの場合、容量センサーが洗濯物の量をチェックし、水位と洗濯行程を自動設定します。」と記載され、「メモリーコース」の欄には「記憶した内容で洗濯するとき」と記載されている。
ウ)第13ページには、「メモリーの使いかた」として、「メモリー(記憶)するとき、およびメモリーを変えたいとき 1.電源スイッチを「入」にします。 2.「コース切換」を押して「メモリー」を選びます。 3.運転する工程・時間・回数及び水流を選びます。」、「メモリー(記憶)したプログラムでお使いになるとき 1.『コース切換』を押して『メモリー』を選びます。・メモリー内容を点灯表示します。 2.『スタート/一時停止』ボタンを押します。・メモリーされた行程で運転をはじめます。 ご注意 ・最初は、標準的なコースがメモリーされています。・電源スイッチを『切』にしてもメモリーは消えません。」と記載されている。

(5)甲第11号証(「東芝全自動電気洗濯機取扱説明書 AW-50G1、AW-50E1」)
ア.甲第13号証の新聞記事によれば、東芝が「全自動洗濯機『AW-50G1』及び『AW-50E1』」を本件発明の特許出願日前である平成元年11月1日から発売したことが窺われ、また、甲第11号証には、その表紙に「東芝全自動電気洗濯機 取扱説明書 AW-50G1 AW-50E1」の記載があることから、甲第11号証は東芝が販売した洗濯機「AW-50G1」又は「AW-50E1」の取扱説明書と認められる。そして、取扱説明書はその対象となる製品に付属して購入者に提供されるものであるから、東芝が洗濯機「AW-50G1」又は「AW-50E1」を発売したことで、甲第11号証は頒布されたということができる。
したがって、甲第11号証を本件発明の特許出願日前に頒布された刊行物と認める。

イ.記載事項
ア)第2ページには、「各部のなまえ」として、洗濯機の斜視図が記載され、洗濯機の上面に「操作パネル部」を備えていることが図示されている。
イ)第3?4ページには、「操作パネル部のなまえとはたらき」として、「コース切換ボタン」の欄に「洗濯物に合った7つのコースが選べます。」と記載されるとともに、操作パネル部の「予洗い」、「スピード」、「標準(オート)」、「手洗い」、「つけ置き(バイオ)」、「大物洗い」、「メモリー」のボタンが「コース切換ボタン」であることが図示されている。
ウ)第5?6ページには、「お洗濯の手順」として、「標準(オート)コースで運転するとき」の「電源を入れる」の欄に「標準(オート)コースに自動的にセットされます。」、「洗濯を始める」の欄に「スタート/一時停止」ボタンを押してスタートします。・洗濯物の量を容量センサーが検知して水位・水流・行程を自動設定します。」と記載されている。
エ)第13ページには、「いろいろなお洗濯(2)」として、「メモリーコースを使うとき」の欄に「メモリー(記憶)するとき 1 電源スイッチを『入』にします。 2 運転する行程の時間及び回数と水流を選びます。・・・略・・・3 コース切換ボタン『メモリー』を押すと『ピーッ』と音がしてメモリー完了です。メモリー(記憶)した行程を使うとき 1 電源スイッチを『入』にします。 2 コース切換ボタン『メモリー』を押します。(この時メモリー内容が表示されます。) 3 『スタート/一時停止』ボタンを押してスタートします。」と記載されている。

2.対比
まず、甲第7号証に記載された洗濯機は正逆回転するからまん棒を有するものであるが、このからまん棒を駆動する部材について、甲第7号証には記載されていない。しかしながら、洗濯機において、攪拌体を正逆回転させるために、駆動用のモータを有していることは甲第8号証又は甲第9号証を示すまでもなく明らかであり、実質的に甲7発明の洗濯機は洗濯機モータを有しているものである。
そして、本件発明と甲7発明を対比すると、その機能又は構成からみて、後者の「洗濯槽の内部に設けられた」「からまん棒」は、前者の「槽内に設けられた撹拌体」に、「洗濯物の量と質を感知するセンサー」及び「センサー」は、前者の「洗濯物の量を検出する洗濯物量検出手段」に、後者の「『洗い』、『すすぎ』、『脱水』の各ボタン」及び「『水位』ボタン」は、それぞれ前者の「運転時間設定スイッチ」及び「水位設定スイッチ」に、後者の「全自動コース」及び「お好みでのお洗濯」は、それぞれ前者の「自動運転コース」及び「マニュアル運転コース」に、相当する。また、後者の「水位ボタンを押さない場合」は、前者の「水位の設定が無い場合」に相当し、後者の「前記センサーが洗濯物の量により水位を設定」することは、前者の「洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定」することに相当する。さらに、後者の「前記水位ボタンを極少水位に設定した場合」は、極少水位も水位ボタンによる設定水位の一態様であるから、前者の「前記水位設定スイッチによる水位の設定が有る場合」に含まれるものであり、後者の「極少水位に設定した場合には、水位を極少水位に設定する」ことは、前者の「水位の設定が有る場合には、この設定された水位とする」ことに相当する。そして、後者の「お好みでのお洗濯の制御を行う制御手段を有する」ことは前者の「マニュアル運転制御手段を設けたこと」に相当する。

なお、被請求人は、甲第7号証に記載の発明は布量センサーと布質センサーの両センサーの検出結果によってどのように水位を決定するのか不明であり、実質的に布量センサーで水位を決定するといえない旨主張しているが、上記「1.(1)イ.」の「キ)」及び「ケ)」で述べたように、甲第7号証の記載を総合すると、甲第7号証に記載された洗濯機はお好みでのお洗濯においても洗濯物の量により水位が設定されるものであり、被請求人の主張は失当である。
また、被請求人は、お好みでのお洗濯において、極少水位を使うときは、本件発明の課題及び目的と関係しない異質な洗濯方法であるため、本件発明の対比対象とならないものである旨主張しているが、極少水位の設定は被請求人が本件発明の課題である「水位について設定が有った場合には設定された水位が優先されるので、使用者の意思を尊重することができる」に対応するものであり、被請求人の主張は理由がない。なお、被請求人が主張する「マニュアル運転コースにおいても自動で洗濯物量に合った適正水位が決定されることでスプラッシュおよび布傷みの発生をなくし得る」という効果は、本件発明の「水位設定スイッチによる水位の設定が無い場合には、前記洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定」することに対応するものであり、甲7発明が有していることでもある。

以上のことから、本件発明と甲7発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「槽内に設けられた撹拌体を正逆回転させるための洗濯機モータと、洗濯物の量を検出する洗濯物量検出手段と、運転時間を設定する運転時間設定スイッチと、水位を設定する水位設定スイッチとを備え、運転コースとして自動運転コースの他に、前記運転時間設定スイッチにより運転時間と前記水位設定スイッチにより水位とをそれぞれ設定できるマニュアル運転コースを備えたものにおいて、
マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、前記水位設定スイッチによる水位の設定が無い場合には、前記洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定し、マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、前記水位設定スイッチによる水位の設定が有る場合には、この設定された水位とするマニュアル運転制御手段を設けた洗濯機。」

<相違点>
本件発明では「自動運転コースとマニュアル運転コースとを択一設定する運転コース選択スイッチを有」するものであるのに対して、甲7発明では「前記全自動運転コースを選ぶ『コースセレクト』ボタンと前記お好みでのお洗濯を選ぶ『水位』、『洗い』、『すすぎ』、『脱水』の各ボタンを有」するものである点。

3.相違点の判断
甲第10号証には、「コース切換ボタン」により、複数の運転コースから「オートコース」や「メモリーコース」を択一設定する洗濯機が記載されている。ここで、「オートコース」は本件発明における自動運転コースに相当し、「メモリーコース」は、使用者が運転する工程・時間・回数及び水流を選んで設定するものであるから、本件発明におけるマニュアル運転コースに相当するものである。そうすると、「コース切換ボタン」は「オートコース」や「メモリーコース」を択一設定するものであるから、本件発明における運転コース選択スイッチに相当する。
また、甲第11号証には、標準(オート)コースで洗濯をする場合には、コース切換ボタンのうち「標準(オート)」ボタンを押すことにより標準(オート)コースに設定し、メモリーコースで洗濯をする場合には、コース切換ボタンのうち「メモリー」ボタンを押すことによりメモリーコースに設定する洗濯機が記載されている。ここで、「標準(オート)コース」は本件発明における自動運転コースに相当し、「メモリーコース」は、使用者が運転する行程の時間及び回数と水流を選んで設定するものであるから、本件発明におけるマニュアル運転コースに相当するものである。そうすると、コース切換ボタンはそれぞれコースを択一設定するものであるから、本件発明における運転コース選択スイッチに相当する。
したがって、洗濯機において、本件発明におけるマニュアル運転コースに相当するメモリーコースを設けて、自動運転コースとマニュアル運転コースとを択一設定するスイッチを設けることが、甲第10号証又は甲第11号証に記載されているといえる。
ところで、甲7発明においては、全自動運転コースとお好みでのお洗濯の選択は、「コースセレクト」ボタン又は「水位」、「洗い」、「すすぎ」、「脱水」の各ボタンを押すことで行うものであって、お好みでのお洗濯の選択は「水位」、「洗い」、「すすぎ」、「脱水」のうちどれか一つのボタンを押すことでできるものであるが、お好みでのお洗濯の内容の設定は各ボタンをその都度設定しなければならないものであるから、使用者にとって不便な点がないわけではない。そうすると、甲7発明に予めコースの内容が記憶してあるメモリーコースを設けることは、使用者の利便性の観点から考慮されることであり、甲7発明にメモリーコースを設けることには、十分動機付けがあるものである。そして、甲7発明に、甲第10号証又は甲第11号証に記載のようなメモリーコースを設けたものは、自動運転コースとマニュアル運転コースとを択一設定するスイッチを設けたものとなることは明らかである。
したがって、自動運転コースとマニュアル運転コースとを択一設定する運転コース選択スイッチを設けて相違点に係る本件発明の構成とすることは、甲7発明に甲第10号証又は甲第11号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易になし得たことである。

そして、本件発明が奏する作用効果についてみても、甲7発明及び甲第10号証又は甲第11号証に記載された事項から、当業者が予測しうる程度のものである。

以上のとおり、本件発明は、甲7発明及び甲第10号証又は甲第11号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、被請求人は、甲第7号証に記載の発明は運転操作が完結しており、「メモリーコース」をあえて組み合わせるという動機づけは甲第7号証に記載の発明及び甲第10号証又は甲第11号証のいずれにも示唆されていない旨主張しているが、上記のとおりであり被請求人の主張は失当である。また、被請求人は、甲第10号証及び甲第11号証に記載されたメモリーコースには水位の設定がない旨主張しているが、上記のとおり甲第10号証及び甲第11号証の記載から認定した事項は、メモリーコースを設けて、自動運転コースとマニュアル運転コースとを択一設定するスイッチを設けることであり、メモリーコースの内容を含めて認定したものではない。
また、被請求人は、甲第7号証に記載の発明には、本件発明の特徴点に到達するための示唆等は存在せず、むしろ、本件発明の進歩性を否定する論理づけを構築する上で、阻害要因がある旨主張しているが、被請求人がいう本件発明の特徴点は、上記「2.対比」の項で述べたとおり甲7発明が有していることであり、被請求人の主張は失当である。

4.まとめ
したがって、本件発明は、甲7発明及び甲第10号証又は甲第11号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
洗濯機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】槽内に設けられた撹拌体を正逆回転させるための洗濯機モータと、
洗濯物の量を検出する洗濯物量検出手段と、運転時間を設定する運転時間設定スイッチと、水位を設定する水位設定スイッチとを備え、運転コースとして自動運転コースの他に、前記運転時間設定スイッチにより運転時間と前記水位設定スイッチにより水位とをそれぞれ設定できるマニュアル運転コースを備えたものにおいて、前記自動運転コースと前記マニュアル運転コースとを択一設定する運転コース選択スイッチを有し、マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、前記水位設定スイッチによる水位の設定が無い場合には、前記洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定し、マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされると、前記水位設定スイッチによる水位の設定が有る場合には、この設定された水位とするマニュアル運転制御手段を設けたことを特徴とする洗濯機。
【請求項2】槽内に設けられた撹拌体を正逆回転させるための洗濯機モータと、洗濯物の量を検出する洗濯物量検出手段とを備え、運転コースとして自動運転コースの他にマニュアル運転コースを備えたものにおいて、マニュアル運転コースが設定されたときには設定水位と前記洗濯物量検出手段による検出結果に応じて撹拌体の正逆回転の時限を自動決定するマニュアル運転制御手段を設けたことを特徴とする洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の目的]
【0002】
【産業上の利用分野】
本発明は、運転コースとして自動運転コースの他にマニュアル運転コースを備えた洗濯機に関する。
【0003】
【従来の技術】
従来より、洗濯機においては洗い運転を自動運転コースで実行し得るようにすると共に、マニュアル運転コースでも実行し得るようにしたものが供されている。すなわち、この種洗濯機では、洗濯物量検出手段および水位センサを備えており、自動運転コースが選択設定されると、洗濯物の量を検出して、水位を自動的に設定すると共に、運転時間も自動設定する。そして各設定内容に沿って運転を実行する。
【0004】
一方、マニュアル運転コースは、水位、運転時間、水流の強弱(撹拌体の正逆回転の時限)等各設定項目について、使用者が所望値を設定し、そして各設定内容に沿って運転を実行する。なお、各設定項目のうち使用者によって設定されなかった項目については、自動運転コースにて用いられる標準的な値が一律に自動設定される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、洗濯機においては、いかなるタイプの洗濯機においても、スプラッシュおよび布傷みを常に防止することを目標として製作されているが、しかしながら、上述のものにおいては、マニュアル運転コースにて運転を実行する場合、上記スプラッシュおよび布傷みが発生するおそれがある。
【0006】
例えば、運転時間および水流の強弱について使用者が設定した上で、運転を開始すると、水位は上記標準的な値が一律に自動設定されることから、洗濯物の量によってはその洗濯物量の適正水位に対して水位が高すぎたり、低すぎたりすることがある。すなわち、洗濯物の量が少ないような場合では、適正水位としては低いものであっても、実際にはこれより高い上記標準的な水位が設定されるから、結果的に多量の水に少ない洗濯物が浮く状態になり、撹拌体の正逆回転によって水跳ね(スプラッシュ)が生じて槽外に水が飛び出るおそれがある。逆に洗濯物が多い場合には、この量に対する適正水位に対して上記標準的な水位が低く、この場合には布傷みが発生する。
【0007】
また、マニュアル運転コースにおいて、運転時間および水位について使用者が設定した上で、運転を開始すると、水流の強弱については上記標準的な値が一律に自動設定されることから、その標準的な水流では、洗濯物量が少なくて水位が高いような場合にスプラッシュが発生したり布傷みが発生したりする。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、マニュアル運転コースを実行する場合に、スプラッシュが発生したり布傷みが発生したりすることのない洗濯機を提供するにある。
【0009】
[発明の構成]
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の洗濯機は、槽内に設けられた撹拌体を正逆回転させるための洗濯機モータと、洗濯物の量を検出する洗濯物量検出手段とを備え、運転コースとして自動運転コースの他にマニュアル運転コースを備えたものにおいて、マニュアル運転コースが設定されたときには前記洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定するマニュアル運転制御手段を設けたところに特徴を有する(請求項1の発明)。
【0011】
本発明の洗濯機は、槽内に設けられた撹拌体を正逆回転させるための洗濯機モータと、洗濯物の量を検出する洗濯物量検出手段とを備え、運転コースとして自動運転コースの他にマニュアル運転コースを備えたものにおいて、マニュアル運転コースが設定されたときには設定水位と前記洗濯物量検出手段による検出結果に応じて撹拌体の正逆回転の時限を自動決定するマニュアル運転制御手段を設けたところに特徴を有する(請求項2の発明)。
【0012】
【作用】
請求項1の洗濯機においては、マニュアル運転コースが設定されたときには前記洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定するから、マニュアル運転コースであっても洗濯物量に合った適正水位が決定され、もってスプラッシュおよび布傷みの発生をなくし得る。
【0013】
請求項2の洗濯機においては、マニュアル運転コースが設定されたときには設定水位と洗濯物量検出手段による検出結果に応じて撹拌体の正逆回転の時限を決定するから、水位と洗濯物量とに合った適正な撹拌体正逆回転時限が決定され、もってマニュアル運転コースであっても適正な渦水流が得られ、この結果、スプラッシュおよび布傷みの発生をなくし得る。
【0014】
【実施例】
以下、本発明の第1の実施例につき図1ないし図3を参照しながら説明する。図2においては脱水兼用洗濯機を示している。外箱1の内部には、水受槽2が設けられ、この水受槽2の内部には、回転槽3が配設されている。回転槽3の内底部には撹拌体4が設けられている。上記水受槽2の外底部には、例えば3相の直流ブラシレスモータから成る脱水モータを兼用する洗濯機モータ5が配設されていると共に、減速機構等を備えた機構部6が配設されている。洗濯機モータ5の回転は洗い運転時にこの減速機構6によって減速されて前記撹拌体4に伝達される。この洗い運転時には洗濯機モータ5は間欠的に正逆回転される。
【0015】
また、水受槽2からの排水路には、排水弁7が設けられている。水受槽2の底部には、エアトラップ8が形成されており、このエアトラップ8にはエアチューブ9を介して水位センサ10(図1参照)が接続されている。
【0016】
図1は電気的構成を示している。制御回路11はマイクロコンピュータを含んで構成されており、この制御回路11は、内部プログラムによるソフトウエア構成により自動運転コースおよびマニュアル運転コースを制御するものでマニュアル運転制御手段および洗濯物量検出手段として機能する。また、洗濯物量検出手段としての機能も備えている。前記洗濯機モータ5には、図1に示すように例えばホール素子から成る位置検出素子5aを備えており、この位置検出素子5aからの位置検出信号は洗濯機モータ5の各相電機子コイルへの通電タイミング調整のためにモータ駆動制御装置15に与えられると共に、洗濯機モータ5の回転速度検出信号として制御回路11に与えられる。
【0017】
また、この制御回路11には、各種スイッチ13からのスイッチ信号が与えられるようになっていると共に、水位センサ10からの検出信号が与えられるようになっており、制御回路11は、上述した各種入力に基づいて、前記洗濯機モータ5、前記排水弁7および給水弁14を、それぞれモータ駆動制御装置15、駆動回路16および駆動回路17を介して駆動制御すると共に、表示器18を駆動制御する。上記モータ駆動制御装置15はインバータ回路を有して構成されており、制御回路11からの制御信号により洗濯機モータ5を通断電制御すると共に、この洗濯機モータ5の回転速度を変更するようになっている。
【0018】
前記各種スイッチ13には、自動運転コースとマニュアル運転コースとを択一設定する運転コース選択スイッチ、マニュアル運転のための運転時間設定スイッチ、同水位設定スイッチ、同水流設定スイッチ、取消スイッチおよびスタートスイッチが含まれている。
【0019】
さて、上記構成の作用を制御回路11の制御内容と共に説明する。いま、マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされた場合について述べる。このマニュアル運転がスタートされる前には、必要に応じて、マニュアル運転のための各種スイッチ(運転時間設定スイッチ、同水位設定スイッチ、同水流設定スイッチ)が操作されて各種設定がなされる。
【0020】
マニュアル運転がスタートされると、図3に示すように、水位についてマニュアル設定がなされたか否かを判断し(ステップS1)、水位についてマニュアル設定が有る場合には、そのマニュアル設定水位と、これまでに設定された運転時間および水流により洗濯運転を実行する(ステップS2)。水位についてマニュアル設定が無い場合には、洗濯物量を検出する(ステップS3)。この洗濯物検出方式は、本出願人が出願した特願平2-85733号に示されている。すなわち、これについて概説する。上記検出用水位まで給水した上で、予め設定された電圧を洗濯機モータ5に印加する。そして洗濯機モータ5の回転速度を検出する。この回転速度が低ければ洗濯物量が多く高ければ洗濯物量が少ない。
【0021】
【表1】

【0022】
この洗濯物量検出結果に応じて水位を決定する(ステップS4)。すなわち制御回路11は予め表1に示す水位決定データを記憶しており、この水位決定データにと洗濯物量とから水位を決定する。一例を述べると、洗濯物量が「7.0?5.5kg」の場合には水位は「高水位」(図2に示す基準からの高さ320mm)に決定する。この後、自動決定した上記水位と、これまでに設定された運転時間および水流により洗濯運転を実行する(ステップS5)。
【0023】
この結果、本実施例によれば、マニュアル運転コースが設定された場合、洗濯物量を検出し、この検出結果に応じて水位を自動決定するから、その洗濯物量に対して水位が相対的に適正に決定される。従って、従来とは違って、洗濯物量が少ない場合でもスプラッシュが発生することはなく、また、洗濯物が多い場合でも布傷みが発生することはない。
【0024】
なお、水位についてマニュアル設定が有る場合に限りマニュアル設定水位を優先するようにした理由は、使用者の意思をなるべく尊重しようとするところにある。
【0025】
図4には本発明の第2の実施例を示しており、この実施例では制御回路11におけるマニュアル運転制御手段が異なる。すなわち、いま、マニュアル運転コースが設定されて運転がスタートされた場合について述べる。このマニュアル運転がスタートされる前には、必要に応じて、マニュアル運転のための各種スイッチ(運転時間設定スイッチ、同水位設定スイッチ、同水流設定スイッチ)が操作されて各種設定がなされる。
【0026】
マニュアル運転がスタートされると、同図に示すように、水流(すなわち撹拌体4の正逆回転の時限)についてマニュアル設定がなされたか否かを判断し(ステップP1)、水流についてマニュアル設定が有る場合には、そのマニュアル設定水流と、これまでに設定された運転時間および水位により洗濯運転を実行する(ステップP2)。水流についてマニュアル設定が無い場合には、洗濯物量を検出する(ステップP3)。この洗濯物検出方式は、前述の場合と同様である。なお、制御回路11には予め表2に示すように撹拌体4の正逆回転の時限を決定するための時限決定データを記憶しており、この水流決定データと洗濯物量および設定水位とから水流すなわち撹拌体4の正逆回転の時限(正逆回転のオン時間-オフ時間)を決定する。
【0027】
【表2】

【0028】
この後、洗濯物量検出結果に対する設定水位の適否を判断する。すなわち、洗濯物量が「7.0?5.5kg」で且つ設定水位が「高」であるか(ステップP4)、洗濯物量が「5.5?4.0kg」で且つ水位が「中」以上であるか(ステップP5)、洗濯物量が「4.0?2.5kg」で且つ水位が「低」以上であるか(ステップP6)、洗濯物量が「2.5kg未満」で且つ水位が「低」以上であるか(ステップP7)を判断する。これらの条件が満たされる場合(表2の「A」欄に対応する洗濯物量および水位がこれに該当)、これら洗濯物量結果および設定水位に応じて上記時限を表2中のA欄から自動決定する(ステップP8)。一例を述べると、洗濯物量が「7.0?5.5kg」の場合で且つ設定水位が「高水位」である場合には、撹拌体4の正転および反転のオン時間を1.7秒でオフ時間を0.8秒に決定する。
【0029】
なお、上記条件が満足されない場合には(表2の「B」欄に対応する洗濯物量および水位がこれに該当)、洗濯物量に対して相対的に設定水位が低いと判断される。この場合には、図示しない水位ランプを点滅する(ステップP9)。この趣旨は洗濯物量に対する設定水位が相対的に低いことから使用者に水位の適正な設定変更を促すところにある。
【0030】
この後、設定変更をする場合には使用者は取消スイッチを操作する(ステップP9にて判断)ことになり、この場合には最初からやり直しとなる。また、上記水位ランプの点滅による設定変更報知にかかわらず、そのままの設定水位をキープする場合には水位設定スイッチを再操作する(ステップP11にて判断)。すると、上記条件が満足されずともステップP12に示すように設定水位と前記洗濯物量により撹拌体4の正転および反転の通電時間を、表2のB欄中から自動決定する。この趣旨は、使用者の意思を尊重するところにある。この後、自動決定した上記水流と、これまでに設定された運転時間および水位により洗濯運転を実行する(ステップP13)。
【0031】
この結果、この第2の実施例によれば、マニュアル運転コースが設定された場合、洗濯物量を検出し、この検出結果と設定水位に応じて水流を自動決定するから、その洗濯物量および水位に対して水流が相対的に適正に決定される。従って、従来とは違って、洗濯物量が少なくて水位が高いような場合でもスプラッシュが発生したり布傷みが発生したりすることはない。
【0032】
【発明の効果】
請求項1の洗濯機によれば、マニュアル運転コースが設定されたときには洗濯物量検出手段による検出結果に応じて水位を自動決定するから、水位が不適正となることをなくし得て、スプラッシュが発生したり布傷みが発生したりすることをなくし得るという効果を奏する。
【0033】
請求項2の洗濯機によれば、マニュアル運転コースが設定されたときには設定水位と洗濯物量検出手段による検出結果に応じて撹拌体の正逆回転の時限を自動決定するから、水流が不適正となることをなくし得て、スプラッシュが発生したり布傷みが発生したりすることをなくし得るという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例を示す電気的構成のブロック図
【図2】洗濯機の縦断側面図
【図3】制御内容を示すフローチャート
【図4】本発明の第2の実施例を示す図3相当図
【符号の説明】
3は回転槽、4は撹拌体、5は洗いモータ、5aは位置検出素子、11は制御回路(洗濯物量検出手段、マニュアル運転制御手段)、15はモータ駆動制御装置を示す。
【図面】




 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2010-06-14 
出願番号 特願平2-417371
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (D06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 莊司 英史  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 佐野 遵
長崎 洋一
登録日 1998-05-08 
登録番号 特許第2778841号(P2778841)
発明の名称 洗濯機  
代理人 湯山 崇之  
代理人 堀口 浩  
代理人 高橋 省吾  
代理人 稲葉 忠彦  
代理人 小川 泰典  
代理人 堀口 浩  
代理人 小川 泰典  
代理人 井上 みさと  
代理人 小川 泰典  
代理人 小川 泰典  
代理人 堀口 浩  
代理人 堀口 浩  
代理人 萩原 亨  

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