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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04F
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E04F
管理番号 1233532
審判番号 無効2009-800191  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-09-03 
確定日 2011-01-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3834792号発明「着色漆喰組成物の着色安定化方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成14年 9月11日:出願(特願2002-266067号)
平成18年 8月 4日:特許権の設定登録
平成21年 9月 3日:本件審判請求
平成21年11月27日:被請求人より答弁書及び訂正請求書提出
平成21年12月29日:請求人より弁駁書提出
平成22年 3月23日:口頭審理、
請求人及び被請求人より口頭審理陳述要領書
提出

第2 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、特許第3834792号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、さらに参考資料1ないし3を提出した。

[無効事由]
(1)無効理由1
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
すなわち、甲第1号証には顔料として無機白色顔料、無機着色顔料が例示されており、段落【0024】には、顔料の割合については色彩に応じて配合するということが記載されているので、甲第1号証には白色顔料と着色顔料を両方含むものも把握できる。
(2)無効理由2
(2-1)本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、あるいは甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
すなわち、甲第1号証には白色顔料と着色顔料を両方組み合わせて使用することは、具体的には記載されていないが、この相違点については、甲第2号証に着色顔料を使うことが記載されており、白色顔料と着色顔料の両方組み合わせて使用することは、当業者が容易になしうることである。
(2-2)また、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
すなわち、甲第4号証、甲第5号証には系を安定化させるためのpHと等電点との関係について記載されており、甲第1号証には、白色顔料を入れると安定した系となることが記載されているから、ここに少量の着色顔料を入れても安定性が維持できることは容易に予測でき、白色顔料を含むベースに着色顔料を入れることは当業者が容易になしうることである。
(3)無効理由3
本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、あるいは甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

また、請求人は、訂正請求について、段落【0009】【0010】等の削除する訂正は、これにより、ノニオン系親水性高分子化合物と結合剤がそれぞれ独立に必須の構成要素であるという解釈、着色安定化と分散安定化の関係についての根拠が失われる可能性が高く、実質的に特許請求の範囲の拡大ないし変更に該当するので、訂正は認められない旨、主張し、さらに、訂正後の請求項1、2に係る発明は、無効理由1ないし3により特許を受けることができないものである旨、主張した。

[証拠方法]
(請求書とともに提出)
甲第1号証:特許第3094227号公報
甲第2号証:「左官技術」第1版第2刷 株式会社彰国社 昭和47年1月20日 発行 105頁?107頁
甲第3号証:特開2000-313840号公報
(弁駁書とともに提出)
甲第4号証:「顔料の事典」初版第1刷 株式会社朝倉書店 2000年9月25日発行 60頁?62頁、86頁、398頁?402頁
甲第5号証:特開2001-181016号公報
甲第6号証:「海水中における石灰質膜の電着機構」石川島播磨技報 Vol.43 No.1(2003-1)
(口頭審理陳述要領書とともに提出)
甲第7号証:請求人による試験報告書「漆喰組成物の色むらに関する試験」平成22年3月7日
甲第8号証:請求人による試験報告書「漆喰組成物の色むらに関する試験2」平成22年3月21日
甲第9号証:請求人による試験報告書「漆喰組成物の色むらに関する試験3」平成22年3月21日

[参考資料]
参考資料1:日本顔料技術協会編「顔料便覧」改訂新版、誠文堂新光社、1989年3月10日発行、目次頁、2?51頁、78?95頁
参考資料2:「建築材料の研究」増補初版、山海堂、1953年5月31日発行、248頁
参考資料3:「建築材料ハンドブック」初版、株式会社地人書館、1959年8月20日発行、352頁?355頁

2.被請求人の主張
被請求人は、答弁書とともに訂正請求書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

(1)訂正請求は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(2)本件特許の請求項1に係る発明は、(1)本来白色を呈している石灰にさらに無機の白色顔料を配合し、これを白色のベースとして無機着色顔料で着色することによって、漆喰組成物を均一に着色できること、(2)さらに水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を用いることによって、その効果をより高めることができることを見出し、完成したものである。
(3)無効理由1に対して
甲第1号証には、白色顔料と着色顔料を組み合わせて使用することは記載されていない。また、白色顔料と着色顔料を組み合わせ、さらにノニオン系親水性高分子化合物を用いることで、安定した着色漆喰組成物の着色が安定することも記載されていないから、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。
(4)無効理由2に対して
上記の相違点は、甲第2号証にも記載されておらず、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、複数の顔料が含まれている系においては、甲第4号証や甲第5号証のような安定化の理論だけでは、着色漆喰組成物の安定性は説明できず、本件特許の請求項1に係る発明の効果は予測できるものではなく、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものでもない。
(5)無効理由3に対して
甲第1号証と本件特許の請求項1に係る発明の相違点については、甲第3号証にも記載されておらず、訂正後の本件特許の請求項2に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、あるいは甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。

第3 訂正の適否
1.訂正の内容
本件無効審判の訂正請求は、本件特許の願書に添付した明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許第3834792号における特許請求の範囲の請求項2を、次のとおりに訂正する(下線部が訂正箇所である。以下も同様。)。
「石灰と無機の白色顔料との組み合わせが、白色顔料を石灰100重量部に対して0.1?50重量部の割合で組み合わせたものである、請求項1に記載の着色漆喰組成物の着色安定化方法。」

(2)訂正事項2
特許第3834792号における訂正前の明細書(以下、単に「訂正前明細書」という)の段落【0001】における
「本発明は漆喰の固形成分を水に安定な状態で分散させる方法に関する。言い換えれば、本発明は・・・(中略)・・・の不都合なく安定化させる方法に関する。」の記載を、
「本発明は、水含有着色漆喰組成物の着色安定化方法に関する。」に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前明細書の段落【0009】及び【0010】を削除する。これにより以下段落番号を2つ繰り上げる。

(4)訂正事項4
訂正前明細書の段落【0011】の
「(2)第2に本発明は・・・(中略)・・・漆喰組成物の着色安定化方法と言い換えることができる。」の記載を下記のように訂正する。
「本発明は下記(1)および(2)に掲げる着色漆喰組成物の着色安定化方法である。
(1)石灰を含有する白色成分、無機の着色顔料、結合剤及び水を含有する着色漆喰組成物の着色安定化方法であって、当該着色漆喰組成物が水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を含有し、上記白色成分として石灰と無機の白色顔料を組み合わせて用いることを特徴とする方法。(2)石灰と無機の白色顔料との組み合わせが、白色顔料を石灰100重量部に対して0.1?50重量部の割合で組み合わせたものである、(1)に記載の着色漆喰組成物の着色安定化方法。」(訂正明細書の段落【0009】参照)

(5)訂正事項5
訂正前明細書の段落【0047】3-4行目における
「任意成分を同様に配合することもできる((1-15)、(1-20)?(1-29))。」の記載を、
「任意成分を同様に配合することもできる((1-15)、(1-20)?(1-21)、(1-23)?(1-29))。」と訂正する(訂正明細書の段落【0045】参照)。

(6)訂正事項6
訂正前明細書の段落【0051】1-2行目における
「なお、本発明の着色漆喰組成物にはさらに水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を配合することもできる。」の記載を、
「また、本発明の着色漆喰組成物にはさらに水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を配合する必要がある。」と訂正する(訂正明細書の段落【0049】参照)。

(7)訂正事項7
訂正前明細書の段落【0052】3-4行目における
「任意成分を同様に配合することもできる((1-15)、(1-20)?(1-29))。」の記載を、
「任意成分を同様に配合することもできる((1-15)、(1-20)?(1-21)、(1-23)?(1-29))。」と訂正する(訂正明細書の段落【0050】参照)。

(8)訂正事項8
訂正前明細書の段落【0055】1行目における「実施例1」の記載を、「参考実施例1」と訂正する(訂正明細書の段落【0053】参照)。

(9)訂正事項9
訂正前明細書の段落【0056】1行目における「実施例2」の記載を、「参考実施例2」と訂正する(訂正明細書の段落【0054】参照)。

(10)訂正事項10
訂正前明細書の段落【0057】1行目における「比較例1」の記載を「参考比較例1」と、また2行目の「実施例1」の記載を「参考実施例1」と訂正する(訂正明細書の段落【0055】参照)。

(11)訂正事項11
訂正前明細書の段落【0058】1行目における「比較例2」の記載を「参考比較例2」と、また2行目「実施例1」の記載を「参考実施例1」と訂正する(訂正明細書の段落【0056】参照)。

(12)訂正事項12
訂正前明細書の段落【0059】1行目における「実施例1」の記載を「参考実施例1」に;「比較例1」の記載を「参考比較例1」に;「発明塗料1」を「参考塗料1」に;また「比較塗料1」を「参考比較塗料1」にそれぞれ訂正する(訂正明細書の段落【0057】参照)。

(13)訂正事項13
訂正前明細書の段落【0071】の【表1】中の「実施例1(発明塗料1)」の記載を「参考実施例1(参考塗料1)」に;「実施例2(発明塗料2)」の記載を「参考実施例2(参考塗料2)」に;「比較例1(比較塗料1)」の記載を「参考比較例1(参考比較塗料1)」;「比較例2(比較塗料2)」の記載を「参考比較例2(参考比較塗料2)」にそれぞれ訂正する(訂正明細書の段落【0069】の【表1】参照)。

(14)訂正事項14
訂正前明細書の段落【0072】1-2行目における「本発明の漆喰塗料1」の記載を「参考塗料1」に;4行目の「比較塗料1」の記載を「参考比較塗料1」にそれぞれ訂正する(訂正明細書の段落【0070】参照)。

(15)訂正事項15
訂正前明細書の段落【0073】における「比較例2」の記載を「参考比較例2」と訂正する(訂正明細書の段落【0071】参照)。

(16)訂正事項16
訂正前明細書の段落【0074】4-5行目における「実施例3?4、比較例3?5」の記載を「実施例1?2、比較例1?3」に訂正する(訂正明細書の段落【0072】参照)。

(17)訂正事項17
訂正前明細書の段落【0075】2行目における「実施例3?4」の記載を「実施例1?2」に;「発明塗材3?4」の記載を「発明塗材1?2」に;「比較例3?5」の記載を「比較例1?3」に;及び2-3行目の「比較塗材3?5」の記載を「比較塗材1?3」にそれぞれ訂正する(訂正明細書の段落【0073】参照)。

(18)訂正事項18
訂正前明細書の段落【0078】3行目における「発明塗材3?4、比較塗材3?5」の記載を「発明塗材1?2、比較塗材1?3」に訂正する(訂正明細書の段落【0076】参照)。

(19)訂正事項19
訂正前明細書の段落【0081】2行目における「発明塗材3?4、比較塗材3?5」の記載を「発明塗材1?2、比較塗材1?3」に;6行目の「比較塗材3?5」を「比較塗材1?3」にそれぞれ訂正する(訂正明細書の段落【0079】参照)。

(20)訂正事項20
訂正前明細書の段落【0084】における【表2】中の「実施例3」、「実施例4」、「比較例3」、「比較例4」及び「比較例5」をそれぞれ「実施例1」、「実施例2」、「比較例1」、「比較例2」及び「比較例3」に訂正する(訂正明細書の段落【0082】の【表2】参照)。

(21)訂正事項21
訂正前明細書の段落【0086】4行目における「実施例5?7」を「実施例3?5」に訂正する(訂正明細書の段落【0084】参照)。

(22)訂正事項22
訂正前明細書の段落【0087】における【表3】中の「実施例5」、「実施例6」及び「実施例7」をそれぞれ「実施例3」、「実施例4」及び「実施例5」に訂正する(訂正明細書の段落【0085】の【表3】参照)。

(23)訂正事項23
訂正前明細書の段落【0088】4-5行目及び7-8行目における「実施例8?9、比較例6」を「参考実施例3?4、参考比較例3」に;6行目及び8行目の「実施例10」を「参考実施例5」に訂正する(訂正明細書の段落【0086】参照)。

(24)訂正事項24
訂正前明細書の段落【0091】2行目における「実施例8?10、比較例6」の記載を「参考実施例3?5、参考比較例3」に訂正する(訂正明細書の段落【0089】参照)。

(25)訂正事項25
訂正前明細書の段落【0094】の【表4】中の「実施例8」、「実施例9」、「実施例10」及び「比較例6」をそれぞれ「参考実施例3」、「参考実施例4」、「参考実施例5」及び「参考比較例3」に訂正する(訂正明細書の段落【0092】の【表4】参照)。

(26)訂正事項26
訂正前明細書の段落【0095】1行目における「比較例6」を「参考比較例3」に;2行目の「本発明の塗材または塗料」を「参考実施例3?5の塗材または塗料」に訂正する(訂正明細書の段落【0093】参照)。

(27)訂正事項27
訂正前明細書の段落【0096】2行目における「実施例3?4」を「実施例1?2」に訂正する(訂正明細書の段落【0094】参照)。

(28)訂正事項28
訂正前明細書の段落【0097】2行目における「本発明は、従来現場で・・・(中略)・・・水への分散安定化方法を提供するものである。」の記載を、「本発明の着色化法によれば、石灰、結合剤、着色顔料及び水を含有する色漆喰組成物について、着色顔料の分離による色分かれ(色むら)を有意に防止することができ、均質に着色した着色漆喰塗材または着色漆喰塗料を得ることができる。」と訂正する(訂正明細書の段落【0095】参照)。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項2に記載の「石灰を含有する白色成分」が「石灰と無機の白色顔料を組み合わせて用い」るものであることを明確にしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項2は、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合していない訂正前明細書の段落【0001】の記載を、特許請求の範囲の記載に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
訂正事項3は、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合していない訂正前明細書の段落【0009】?【0010】の記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
訂正事項4は、訂正後の特許請求の範囲の記載と整合していない訂正前明細書の段落【0011】の記載を、特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
訂正事項5ないし28は、請求項1、2に係る発明の実施例に相当しないものを、削除または参考実施例に訂正し、これらの比較例を参考比較例に訂正し、特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、上記訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない。

なお、請求人は、訂正事項3、4により、ノニオン系親水性高分子化合物と結合剤がそれぞれ独立に必須の構成要素であるという解釈、着色安定化と分散安定化の関係についての根拠が失われる可能性が高いと主張するが、訂正後の段落【0011】には、
「1)漆喰組成物の水への分散安定化方法
本発明の漆喰組成物の水への分散安定化方法は、石灰及び結合剤を含有する漆喰組成物(固形分)を水に安定な状態で分散させる方法であり、当該方法は漆喰組成物の他の成分として水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を用いることによって達成することができる。」と記載され、段落【0020】、【0023】には、
「(1-9) かかる親水性高分子化合物を石灰及び結合剤とともに漆喰組成物の成分として用いることによって、漆喰組成物を水に分散させたときに固形分の凝集やそれによる沈殿や離水(固液分離)が有意に防止され、その結果、調製された漆喰塗材や漆喰塗料(水含有漆喰組成物)は、長期にわたって均質分散性、安定性を維持することができる。
(1-10) また白以外の色を有するいわゆる着色漆喰組成物は、石灰及び結合剤に加えて着色顔料を配合することによって調製できるが、この場合、着色顔料として無機顔料を用い、且つ着色する対象の白色ベースとして石灰に無機の白色顔料を組み合わせて使用することによって、石灰及び結合剤に対する着色顔料の混和性を高め、色飛びや色分かれのない着色漆喰塗材または着色漆喰塗料(水含有着色漆喰組成物)を調製することができる。」と記載され、実施例における着色漆喰組成物の性能評価においては、塗材の分散安定性を評価しており、ノニオン系親水性高分子化合物と結合剤がそれぞれ独立に必須の構成要素であること、着色安定化が分散安定化によるものであることが示されているから、訂正事項3、4により実質的に特許請求の範囲が拡大ないし変更されるとはいえない。

3.むすび
したがって、上記訂正事項1ないし28は、第134条の2第1項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項及び4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

第4 本件発明
上記第3に示したとおり、本件に係る訂正が認められるから、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、上記訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
石灰を含有する白色成分、無機の着色顔料、結合剤及び水を含有する着色漆喰組成物の着色安定化方法であって、当該着色漆喰組成物が水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を含有し、上記白色成分として石灰と無機の白色顔料を組み合わせて用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
石灰と無機の白色顔料との組み合わせが、白色顔料を石灰100重量部に対して0.1?50重量部の割合で組み合わせたものである、請求項1に記載の着色漆喰組成物の着色安定化方法。」
(以下、請求項1に係る発明を「本件特許発明1」、請求項2に係る発明を「本件特許発明2」という。)

第5 無効理由についての判断
1.証拠方法の記載内容
(1)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特許第3094227号公報には、次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】消石灰、アクリル樹脂、酸化チタン及び水を含有する塗料組成物であって、(a)消石灰の配合割合が30?80重量%(固形換算)、(b)アクリル樹脂が(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類及び(メタ)アクリロニトリルよりなる群から選択されるいずれか少なくとも1種をモノマー成分とするホモポリマーまたはコポリマーであって、該樹脂の消石灰100重量部に対する配合割合が10?70重量部(固形換算)、並びに(c)酸化チタンの消石灰100重量部に対する配合割合が2?30重量部(固形換算)である建築用塗料組成物。」
(1b)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、・・・漆喰の主成分である消石灰に特定のアクリル樹脂及び水を配合することにより、漆喰の質感や機能を損なうことなく貯蔵安定性及び塗装作業性に優れた水性塗料組成物が調製できることを見出した。・・・」
(1c)「【0015】また本発明で用いられるアクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリロニトリルよりなる群から選択されるいずれか少なくとも1種をモノマー成分として構成される重合体(ホモポリマーまたはコポリマー)を挙げることができる。・・・
【0016】好ましくは、
(i)アクリル酸、メタアクリル酸:
(ii)アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル:例えばアクリル酸メチル・・・
(iii)アクリルアミド類またはメタクリルアミド類:例えばアクリルアミド;・・・
(iv)アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の各種のアクリル系単量体を挙げることができる。
【0017】これらのアクリル系単量体は単独で、または二種以上を任意に混合して使用することができる。・・・好ましくは、(メタ)アクリル酸またはそれらのエステルをモノマー単位とする重合体(ホモポリマー、コポリマー)である。」
(1d)「【0021】本発明で用いるアクリル樹脂は塗料組成物中の消石灰同士の接着強度、消石灰と後述する添加剤との接着強度、並びに塗料組成物と被塗布物との付着強度を高め、その結果として、被塗布物表面に形成された塗膜層(被覆層)のひび割れを防止し、建材の靱性を向上させる働きを有している。」
(1e)「【0023】本発明においては、上記消石灰及びアクリル樹脂に加えて、更に顔料(白色顔料、有色顔料、体質顔料)並びに各種の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、例えば顔料分散剤・・・を挙げることができる。
【0024】顔料としては、水性塗料に用いられるものであれば特に制限されず、いずれの顔料をも採用することもできるが、好ましくは無機顔料である。かかる無機顔料としては、酸化チタン,亜鉛華,リトポン,硫化亜鉛,・・・等の白色顔料;カーボンブラックや酸化鉄等の黒色顔料:カドミウムレッド,べんがら(酸化鉄),・・・等の赤色顔料:黄鉛(クロムイエロー),・・・の黄色顔料:酸化クロム,・・・等の緑色顔料:群青,紺青,・・・などの青色顔料といった各種の有色顔料;タルク,カオリンクレー,水酸化アルミニウム,炭酸カルシウム・・・などの体質顔料を例示することができる。本発明の塗料組成物中に配合する顔料の割合は特に制限されず、所望の隠蔽力並びに色彩(明度、色度、彩度)に応じて適宜選択調整することができる。」
(1f)「【0025】顔料のうち好ましいものとして白色顔料、中でも酸化チタンを挙げることができる。・・・
【0026】隠蔽力の観点からは、ルチル形の酸化チタンを用いることが好ましく、また0.1?0.3μmの粒径を有する酸化チタンが好適に使用できる。また隠蔽力を向上させるためには、更に体質顔料を組み合わせて使用することができ、かかる体質顔料として炭酸カルシウムを好適に挙げることができる。
【0027】酸化チタンを配合する場合、その配合割合は、消石灰100重量部に対する割合として2?30重量部、好ましくは4?20重量部、より好ましくは8?15重量部、さらに好ましくは8?12重量部の範囲を挙げることができる。
【0028】消石灰を主成分とする塗料組成物に酸化チタンを上記割合で配合することにより調製される本発明の塗料組成物は、より少ない塗布量で被塗布面を隠蔽することができ、しかもかかる少量の塗料で形成された塗膜は、薄塗膜ながら所望の外観や物性を有しており、調湿性やそれに伴う結露防止性等の機能を発揮させることも可能である。」
(1g)「【0034】増粘剤としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系;サッカロース、グルコースなどの多糖類;アクリル系;その他、アルミニウムステアレート、ジンクステアレート、有機ベントナイト、シリカゲル、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダ、ケイ酸系、ベントナイト、カゼイン酸ソーダ等を例示することができる。」
(1h)「【0051】本発明の塗料組成物から形成される塗膜を有する塗装物は、調湿性(吸湿性及び放湿性)に優れ、高い結露防止効果を発揮するとともに、漆喰特有の質感(色、つや、きめ細かさ等の外観やテクスチャー)を呈する。またかくして製造される塗装物は、直射日光、斜光、照明、陰影等の建材が配置される場所の種々の光に対しても吹きむら、色むら及び艶むら等の不都合を生じず、常に一定の色、艶及びきめを有した外観を呈している。・・・」
(1i)「【0062】
【発明の効果】・・・また、特に酸化チタンを顔料として含む本発明の塗料組成物は、調湿性を損なうことなく、低塗布量で優れた隠蔽力を有し、しかも付着性及び成膜性(歩留まり、耐ひび割れ性、可撓性、外観性)に優れているため、低コストで調湿性等の有用な機能を有する薄塗膜を形成することができる。」
(1j)「【0065】
【実施例】・・・
実施例1
消石灰 44.0(100.00 %)
アクリル樹脂エマルジョン(旭化成) 30.0( 28.30 %)
酸化チタン(EP-498、大日精化) 4.5( 10.23 %)
増粘剤(SP-600、ダイセル化学) 0.03
消泡剤(KM-70、信越化学) 0.67
分散剤 0.9
水 残 部
全 量 100.0重量部
上記成分を塗料調合用ミキサーに入れて撹拌することにより固形分及び樹脂成分を水に安定に分散させて、本発明の一液型水性塗料組成物(粘度800cps(25℃)B型粘度計;固形分含有率約62%)を調製した。・・・」
(1k)実施例2ないし4には、消石灰、アクリル樹脂エマルジョン、酸化チタン、増粘剤(SP-600、ダイセル化学)を含む一液型水性塗料組成物を調製したことが記載されている(段落【0066】?【0068】)。
(1l)「【0069】実施例5
実施例1で調製した塗料組成物をエアレススプレーに入れて、石膏ボード・・・の一面に満遍なく吹き付け、通風乾燥によって塗膜・・・を形成した。石膏パネルは、直射日光、斜光、照明等の様々の光に対して、いずれも吹きムラ、色ムラ及び艶ムラが見られず、均一な外観を有していた。・・・」
(1m)実験例3では、実施例1、2で調整した塗料組成物について、低温安定性(JIS K5663-1995の5.5)、塗膜の外観(JIS K5663-1995の5.7)、促進耐候性(JIS K5663-1995の5.1)等を調べたところ、実施例1、2はいずれも低温安定性、塗膜の外観、促進耐候性が良好であったことが記載されている(段落【0079】?【0092】)。

上記実施例に記載の「SP-600」(ダイセル化学)はヒドロキシエチルセルロースであるから、これらの記載事項によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる
「消石灰、顔料及び水を含有する塗料組成物の貯蔵安定化及び塗装作業性を向上させる方法であって、アクリル樹脂を含み、添加剤としてヒドロキシエチルセルロース等の増粘剤を含有する建築用塗料組成物の貯蔵安定化及び塗装作業性を向上させる方法。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)

(2)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(2a)「しっくい塗材の標準調合比
(1) しっくい用材料
(1)(原文は丸数字、以下も同様。)左官用石灰(消石灰、貝灰)
(2)つのまたのり、粉末のり、化学のり
(3)すさ、苧ずさ
(4)砂
(5)顔料、色土など
以上を、水でこねて生成する。
現場の状況、工期の短縮化、施工の簡易化で、現場でつのまたのりを煮沸するというようなものは敬遠されて、現在では、施主の特別の希望でもない限り使用されなくなり、それに粉末のりが使用されたが、それにさえ、最近は化学のりを混用している現状である。
現在使用されている化学のりにも種々の製品が市販され、使用されている。多く用いられているものは「メチルセルローズ」系で、白色の微粉末であり、石灰と混合して分散しやすく、調合を一定量行えば、濃度はいつも均等に得られる。こて伸びがよく、接着性があって硬化が早いので、しっくいののり材としては好適である。」(105頁1行?106頁1行)、
(2a)表2-19の「(c)化学のりしっくい標準調合表の一例」には、化学のりとして「ポバール」を用いたしっくいの調合例が記載されている。

(3)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。
(3a)「【請求項1】消石灰、アクリル系樹脂、無機顔料及び水を含有する塗料組成物であって、(a)消石灰の配合割合が30?58重量%(固形換算)、(b)アクリル系樹脂が(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類及び(メタ)アクリロニトリルよりなる群から選択されるいずれか少なくとも1種をモノマー成分として含有するホモポリマーまたはコポリマーであって、該樹脂の消石灰100重量部に対する配合割合が70重量部より多く(固形換算)、(c)無機顔料の消石灰100重量部に対する配合割合が1?150重量部(固形換算)である建築用塗料組成物。
【請求項2】アクリル系樹脂が、(メタ)アクリル酸若しくはそのエステルから形成されるホモポリマーまたはコポリマーである請求項1記載の建築用塗料組成物。
【請求項3】無機顔料が酸化チタン,亜鉛華,リトポン,硫化亜鉛及びアンチモン白よりなる群から選択される少なくとも1種の白色顔料、好ましくは酸化チタンである請求項1または2に記載の建築用塗料組成物。」
(3b)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、漆喰の優れた美粧性及び機能に着目し、漆喰特有の質感(外観)や機能を備えながらも慣用のエマルションペイントと同様の品質及び使用感を有する水性塗料を開発することを目的として、鋭意検討を重ねたところ、漆喰の主成分である消石灰に特定のアクリル系樹脂及び水を配合することにより、漆喰の質感や機能を備えた状態で貯蔵安定性及び塗装作業性に優れた水性塗料組成物が調製できることを見出した。」
(3c)「【0014】塗料組成物中の消石灰の配合割合は、本発明の塗料組成物が貯蔵安定性や塗装作業性並びに成膜性等において所望の性能を充足するような範囲であれば特に制限されない。・・・」
(3d)「【0025】顔料としては、水性塗料に用いられるものであれば特に制限されず、いずれの顔料をも採用することもできるが、好ましくは無機顔料である。かかる無機顔料としては、酸化チタン,亜鉛華,リトポン,硫化亜鉛,・・・等の白色顔料;カーボンブラックや酸化鉄等の黒色顔料:カドミウムレッド,べんがら(酸化鉄)・・・等の赤色顔料:・・・いった各種の有色顔料を例示することができる。本発明の塗料組成物中に配合する顔料の割合は特に制限されず、所望の隠蔽力並びに色彩(明度、色度、彩度)に応じて適宜選択調整することができる。
【0026】無機顔料のうち好ましいものとして酸化チタン,亜鉛華,リトポン,硫化亜鉛またはアンチモン白等の白色顔料を挙げることができる。隠蔽力や着色力の観点から好ましくは酸化チタンである。但し、特にこれに拘泥されることなく、酸化チタンと同等もしくは類似の隠蔽力または着色力を有する白色顔料が、酸化チタンに代えて若しくは酸化チタンと組み合わせて、任意に使用できることは当業者であれば容易に想到できることである。かかる白色顔料として、制限されないがリトポン,硫化亜鉛,亜鉛華が例示できる。」
(3e)「【0028】酸化チタン等の無機顔料の配合割合は、消石灰100重量部に対する割合として1?150重量部、好ましくは1?100重量部、より好ましくは2?50重量部、さらに好ましくは2?30重量部の範囲を挙げることができる。」
(3f)「【0036】増粘剤としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系;サッカロース、グルコースなどの多糖類;アクリル系;その他、アルミニウムステアレート、ジンクステアレート、有機ベントナイト、シリカゲル、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダ、ケイ酸系、ベントナイト、カゼイン酸ソーダ等を例示することができる。」
(3g)「【0055】本発明の塗料組成物から形成される塗膜を有する塗装物は、調湿性(吸湿性及び放湿性)及び結露防止効果を発揮するとともに、漆喰特有の質感(色、つや、きめ細かさ等の外観やテクスチャー)を呈することができる。またかくして製造される塗装物は、直射日光、斜光、照明、陰影等の建材が配置される場所の種々の光に対しても吹きむら、色むら及び艶むら等の不都合を生じず、常に一定の色、艶及びきめを有した外観を呈することができる。・・・」

(4)本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。
(4a)「微粒子間に働く相互作用は,(1)(原文は丸数字、以下も同様。)媒体中で微粒子表面に吸着することにより形成された吸着層のイオン的反発力,(2)微粒子が接近することにより吸着層の重なり合いが生じてこの部分のエントロピーが減少することによる反発力,(3)吸着層を形成する吸着分子の立体障害に基づく反発力,(4)微粒子表面と分散媒との親和性の増加,などがある.
(1)吸着イオンの反発力は媒体の誘電率とも関係し,水系あるいは高誘電率の有機媒体では非常に効果的である.一般的には,分散媒中に電解質を添加し,微粒子表面にできるだけ多く吸着させればよい.しかしながら,この種の方法は分散媒が誘電率の小さい有機媒体では電解質の解離が困難になり,水系の分散に比較してあまり効果的ではない.それゆえ,非水系の分散では期待できず,以下の(2),(3)の方法を利用しなければならない.
(2)吸着層同士間のエントロピー的反発力,立体障害的反発力の利用には微粒子表面に高分子,界面活性剤を吸着させることが有効である.さらに,(4)の微粒子と分散媒との親和性を向上させるためには,分散媒中に微粒子表面と媒体との両者に強い親和性を有する物質,いわゆる界面活性剤あるいは高分子を微粒子表面に吸着させる方法などがある.」
(4b)「図1.3.47に二つの微粒子間に働くポテンシャルを示す.全ポテンシャルエネルギーは図に示すようにV_(max)をもつ^(2)).微粒子が接近して接触するためにはこのポテンシャルエネルギー障壁を越えなければならない.すなわち,この山の高さは微粒子が凝集するために必要な活性化エネルギーに相当する.この障壁の山の高さが高いほど微粒子は凝集し難く,分散安定性は良好であると判断することができる.」
(4c)図I.3.47には、上記の(2)の力が「反力」として、(3)の力が「引力」として描かれており、それらのポテンシャルを合わせて「全ポテンシャルエネルギー」としたグラフが記載され、(2)及び(3)の力のいずれも粒子間距離が短くなると増大することが記載されている。
(4d)「I.3.47に示したポテンシャルエネルギー曲線か断すると,分散安定性にはエネルギー障壁を高て粒子同士の接触を防ぐ方法と,もう一方は粒士がvan der Waals引力が,働く距離に近づけなうに,微粒子表面に吸着した高分子の立体障害果を利用することである.」(61頁左欄下から15行目)
(4e)図I.3.48には、吸着層の重なり合いによるポテンシャルエネルギーの変化が示され、ポリビニルピロリドンを吸着させた酸化チタン微粒子の粒子間距離とテンシャルエネルギーの変化の関係が示されている。
(4f)「溶液中における微粒子表面の帯電特性は,顔料の分散性との関連でまた重要である.水系サスペンション中において,酸化物微粒子表面は正または負に帯電しており,その表面電荷の符号および密度はpHに依存する.・・・表面電荷はpHの減少に伴って負から正の方向にシフトする.この場合に,表面電荷の符号が逆転するpH値を等電点(pzc)という.pzcの値は試料の熱履歴や微量不純物に敏感なために,金属酸化物の調製方法によっても多少影響されるが,金属酸化物の種類によって特定の範囲の値をとることが知られている.」(86頁右欄11?22行)
(4g)

(4h)「分散剤は顔料粒子と親和性の高い化学構造をもっており,顔料表面に吸着する作用を有している.これによって顔料微粒子表面は分散剤の吸着層によって覆われる.この場合,顔料粒子相互には次の三つの力が作用しあうといわれている.
(1) 吸着層の重なりにより上昇する浸透圧を下げようとして作用する分散力(保護コロイド層による一次粒子間の凝集防止).
(2) 顔料粒子表面の荷電が相互に反発することにより生じる分散力.
(3) 凝集力(van der Waals力).
電荷による安定化については,DLVO理論が有名である.これは,コロイド粒子間には粒子が接近したときに電荷による反発とvan der Waals力が同時に働き,その大きさにより分散安定性が決まるという考え方である.」(398頁右欄17行?399頁左欄3行)
(4i)「・・・高分子分散剤は,保護コロイド層に基づく分散効果が優れ,特に顔料濃度が高い場合において・・・優れた分散効果を発揮する.」(399頁右欄9?12行)

(5)同じく、甲第5号証には、次の事項が記載されている。
(5a)「【請求項1】 二酸化チタンと、石膏と、水と、石膏に対し30重量%以下のセメントとを混合させてpH8以上のスラリーとした塗材を壁面に塗布することを特徴とする二酸化チタンの固定方法。」
(5b)「【0005】・・・石膏をバインダーとして二酸化チタンを分散・固定させようとすると、二酸化チタンを混入した際に二酸化チタンの凝集が起こり易く、バインダー中に均一に分散させることができない場合があるという問題がある。」
(5c)「【0007】
【課題を解決するための手段・作用および効果】本発明は、二酸化チタンの等電点に着目することによって解決された。すなわち請求項1の発明は、二酸化チタンの固定方法であって、二酸化チタンと、石膏と、水と、石膏に対し30重量%以下のセメントとを混合させてpH8以上のスラリーとした塗材を壁面に塗布するところに特徴を有する。
【0008】セメントの主成分であるエーライト(3CaO・SiO_(2))、およびビーライト(2CaO・SiO_(2))は、水と接触すると水和反応を起こし、ケイ酸カルシウム水和物(3CaO・2SiO_(2)・3H_(2)O)と水酸化カルシウム(Ca(OH)_(2))を生成する。この水酸化カルシウムは、水中でカルシウムイオンと水酸基に電離するため、セメントは水と混合すると強アルカリ性を呈する。
【0009】一方、二酸化チタンの等電点はpH6であるが、二酸化チタンと石膏と水のみを混合させたスラリーは中性となり、pH値が二酸化チタンの等電点に近似している。このため、二酸化チタンの凝集が起こり易く、分散性が良好でない。
【0010】そこで請求項1の発明は、上記問題に鑑み、二酸化チタン、石膏、水の混合物に、水との接触により強アルカリ性を呈するセメントを配合することにより、pHが8以上のスラリーを得る構成とした。スラリーのpHが8以上であれば、二酸化チタンの等電点(pH6)から離れるため、スラリー中の二酸化チタンは凝集することなく、良好な分散性を示すようになる。よって、各成分の分散状態が均一な塗材を得ることができるという優れた効果を奏する。」
(5d)「【0023】
【実施例】以下、本発明を具体化した実施例について説明する。
<実施例1>各物質を次の割合で混合させたスラリー状の塗材を作製した。
アナターゼ型二酸化チタン 2重量部(平均粒径6nm)
石膏 40重量部
白色ポルトランドセメント 5?10重量部
炭酸カルシウム 50重量部以内
石膏用硬化遅延剤 0.2重量部
消泡剤 0.7重量部
顔料 1重量部
クラック防止剤 5重量部
水 104?109重量部
【0024】・・・
【0025】上記割合で混練したスラリー状の塗材のpHを測定したところ、pH8以上であった。また、塗材を観察したところ、スラリー中の各成分の分散性は良好であり、凝集は観察されなかった。」

(6)同じく、甲第6号証には、CaCO_(3)粒子の等電点(IEP)は、pH=8.74であることが記載されている(30頁右欄3?4行)。

(7)甲第7号証は、請求人が平成22年3月21日に作成した試験報告書であって,試験結果写真(資料2)とともに次のことが記載されている。
(7a)「3 試料の作製
3.1 漆喰組成物試料の配合内容は添付資料1,3に示す通り。・・・
4 試験の方法
4.1 作成した漆喰組成物試料の経時変化を表面及び側面から観察する。
4.2 観察項目は、固液分離、色分かれ、色むらとする。
4.3 観察の評価
○ 固液分離、色分かれ、色むらが認められない。
× 固液分離、色分かれ、色むらが認められる。
5 試験の結果
5.1 無機白色顔料として二酸化チタンを配合した場合(資料1,2参照)
無機白色顔料として二酸化チタンを配合した場合には、作製当日(写真(a))及び作製1日後(写真(b))においても固液分離、色わかれ、色むらはいずれも認められなかった。
5.2 無機顔料として酸化亜鉛を配合した場合(資料1,2参照)
無機白色顔料として酸化亜鉛を配合した場合には、作製当日(写真(c))及び作製1日後(写真(d))において、固液分離は認められなかったものの色わかれ及び色むらを生じていることが確認された。」
(7b)添付資料1には、写真記号(a)(b)は、消石灰、二酸化チタン(ルチル)、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリルエマルジョン、水及び赤色酸化鉄(弁柄朱)を含む漆喰組成物であること、写真記号(c)(d)は、消石灰、酸化亜鉛、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリルエマルジョン、水及び赤色酸化鉄(弁柄朱)を含む漆喰組成物であることが記載されている。

(8)甲第8号証は、請求人が平成22年3月21日に作成した試験報告書であって、試験結果写真(資料2)とともに次のことが記載されている。
(8a)「3 試料の作製
3.1漆喰組成物試料の配合内容は添付資料1,3に示す通り。・・・
4 試験の方法
4.1作成した漆喰組成物試料の経時変化を表面及び側面から観察する。
4.2観察項目は、固液分離、色分かれ、色むらとする。
4.3観察の評価
○ 固液分離、色分かれ、色むらが認められない。
× 固液分離、色分かれ、色むらが認められる。
5 試験の結果
5.1無機白色顔料として二酸化チタンを配合した場合(資料1,2参照)
無機白色顔料として二酸化チタンを配合した場合には、作製3日後(写真(e))及び作製7日後(写真(f))においても固液分離、色わかれ、色むらはいずれも認められなかった。
5.2無機顔料として酸化亜鉛を配合した場合(資料1,2参照)
無機白色顔料として酸化亜鉛を配合した場合には、作製3日後(写真(g))及び作製7日後(写真(h))において、固液分離は認められなかったものの色わかれ及び色むらを生じていることが確認された。」
(8b)添付資料1には、写真記号(e)(f)は、消石灰、二酸化チタン(ルチル)、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリルエマルジョン、水及び赤色酸化鉄(弁柄朱)を含む漆喰組成物であること、写真記号(g)(h)は、消石灰、酸化亜鉛、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリルエマルジョン、水及び赤色酸化鉄(弁柄朱)を含む漆喰組成物であることが記載されている。

(9)甲第9号証は、請求人が平成22年3月21日に作成した試験報告書であって,試験結果写真(資料2)とともに次のことが記載されている。
(9a)「3 試料の作製
3.1 漆喰組成物試料の配合内容は添付資料1,3に示す通り。・・・
4 試験の方法
4.1 作成した漆喰組成物試料の経時変化を表面及び側面から観察する。
4.2 観察項目は、固液分離、色分かれ、色むらとする。
4.3 観察の評価
○ 固液分離、色分かれ、色むらが認められない。
× 固液分離、色分かれ、色むらが認められる。
5 試験の結果
5.1 無機白色顔料として二酸化チタンを配合した場合(資料1,2参照)
無機白色顔料として二酸化チタンを配合した場合には、作製当日(写真(a))、作製1日後(写真(b))及び作製3日後(写真(c))において、固液分離、色わかれ、色むらはいずれも認められなかった。
5.2 無機顔料として酸化亜鉛を配合した場合(資料1,2参照)
無機白色顔料として酸化亜鉛を配合した場合には、作製当日(写真(d))、作製1日後(写真(e))及び作製3日後(写真(f))において、固液分離は認められなかったものの、いずれも色わかれ及び色むらを生じていることが確認された。」
(9b)添付資料1には、写真記号(a)(b)(c)は、消石灰、二酸化チタン(ルチル)、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリルエマルジョン、水及び黒色酸化鉄を含む漆喰組成物であること、写真記号(d)(e)(f)は、消石灰、酸化亜鉛、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリルエマルジョン、水及び黒色酸化鉄を含む漆喰組成物であることが記載されている。

2.無効理由1についての判断
本件特許発明1と甲第1号証記載の発明を対比する。
甲第1号証記載の発明の「アクリル樹脂」は、消石灰と添加剤との接着強度、並びに塗料組成物と被塗布物との付着強度を高めるものであるから、「結合材」に相当し、甲第1号証記載の発明の「建築用塗料組成物」は、本件特許発明1の「漆喰組成物」に相当する。
また、甲第1号証記載の発明の増粘剤として具体的に実施例が示されているダイセル化学の「SP-600」(ヒドロキシエチルセルロース)は、本件特許発明1の「水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物」に相当する。
さらに、甲第1号証記載の発明の「貯蔵安定化」とは、吹きむら、色むら及び艶むら等の不都合を生じず、常に一定の色、艶及びきめを有した外観を呈する安定した塗料組成物とすることであるから、本件特許発明1の「着色安定化」とは、「安定化」で共通する。
したがって、両者は、
「石灰を含有する白色成分、無機の顔料、結合剤及び水を含有する漆喰組成物の安定化方法であって、当該漆喰組成物がノニオン系の親水性高分子化合物を含有する方法」で一致し、次の点で相違する。
相違点:本件特許発明1では、顔料が「着色顔料」であり、石灰を含有する白色成分が、「石灰と無機の白色顔料を組み合わせ」たものであり、「安定化」が「着色安定化」であるのに対し、甲第1号証記載の発明は、顔料が限定されておらず、石灰と無機の白色顔料を組み合わせた白色成分と着色顔料とを組み合わせるものではなく、特に「着色安定化」を意図するものではない点。
すなわち、甲第1号証には、甲第1号証記載の発明の顔料として、無機白色顔料及び無機着色顔料が例示されているが(記載事項(1e)参照)、無機白色顔料と無機着色顔料を組み合わせて用いることは記載されていない。
もっとも、甲第1号証には、顔料の割合は、所望の隠蔽力並びに色彩(明度、色度、彩度)に応じて適宜選択調整することができることが記載されており(記載事項(1e)参照)、顔料を組合わせることにより、所望の色が得られることは明らかであるが、石灰を含有する白色成分は、それ自体「白色」を呈しており、甲第1号証に、無機着色顔料に白色を混ぜ合わせる際に、石灰にさらに白色顔料を加えることが示されているとすることはできない。
なお、甲第1号証の特許請求の範囲には、「消石灰、アクリル樹脂、酸化チタン及び水を含有する塗料組成物」が記載されているが(記載事項(1a))、発明の詳細な説明には、消石灰に酸化チタンを配合すると、より少ない塗布量で被塗布面を隠蔽することができ、調湿性や結露防止性等の機能を発揮させることができ、顔料として酸化チタンが好ましいことが記載され(記載事項(1f)(1h)(1i))、実施例には、顔料として酸化チタンを含有させた白色塗料組成物が記載されている(記載事項(1j)?(1m))ことからみて、特許請求の範囲には、特に隠蔽力の優れた好ましい顔料とされる「酸化チタン」を含有する白色の塗料組成物が記載されているものと認められ、甲第1号証に、消石灰、アクリル樹脂、酸化チタン及びノニオン系の親水性高分子化合物を含有する漆喰組成物においてさらに「無機着色顔料」を含有させることが示唆されているとすることはできない。
したがって、本件特許発明1は甲第1号証記載の発明ではないから、無効理由1は理由がない。

3.無効理由2についての判断
上記「2.無効理由1についての判断」に示した、本件特許発明1と甲第1号証記載の発明との相違点について検討する。

(1)上記「2.無効理由1についての判断」で検討したとおり、甲第1号証には、消石灰、アクリル樹脂、無機着色顔料及びノニオン系の親水性高分子化合物を含有する塗料組成物においてさらに「酸化チタン」等の白色顔料を含有させることは示唆されていない。
そして、甲第1号証記載の発明は、結合剤として、特にアクリル樹脂を用いることにより、漆喰組成物を安定化させようとするものであり、顔料として、無機白色顔料、無機着色顔料のいずれを採用しても安定性が得られるとするものであって、特に無機白色顔料と無機着色顔料を組み合わせる動機付けはない。

また、甲第2号証には、石灰、メチルセルロース系又はポバール等の化学のり、顔料又は色土、砂及びすさ等と水を混ぜたしっくい塗料(本件特許発明1の漆喰組成物に相当する。)の発明が記載されていると認められる。
そして、従来漆喰組成物に用いる顔料として、無機白色顔料及び無機着色顔料の何れも用いられていることは周知であるから(例えば、請求人の提出した参考資料1ないし3参照)、甲第2号証記載の発明の「顔料」には、無機白色顔料又は無機着色顔料が含まれることは明らかである。
しかしながら、甲第2号証には、無機白色顔料及び無機着色顔料を組み合わせて用いることは記載されていないし、示唆もない。
さらに、甲第2号証記載の発明は、メチルセルロース系又はポバール等の化学のりを用いており、これらは、本件特許発明1の水酸基を有するノニオン系親水性高分子化合物に相当するが、甲第2号証記載の発明は、これらの化学のりを結合剤として用いるものであって、結合剤の他に、水酸基を有するノニオン系高分子化合物を用いることは記載されていないし、示唆もない。
したがって、着色漆喰組成物として石灰と無機の白色顔料を組み合わせた白色成分と着色顔料とを組み合わせることが、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基いて当業者が容易になしうるとすることはできない。

(2)甲第4号証には、液体中での微粒子の分散について記載され、高分子化合物は、微粒子の表面に吸着されて立体障害となり、微粒子間の距離を大きくし分散安定性に寄与すること(記載事項(4a)(4h))、水系サスペンション中において,酸化物微粒子表面は正または負に帯電しており,その表面電荷の符号および密度はpHに依存すること、顔料粒子表面の荷電が相互に反発することが分散安定性に寄与することが記載されている(記載事項(4f)(4h))。
また、甲第5号証には、スラリーのpHが8以上のアルカリ側では、等電点(pH6)の二酸化チタンは、スラリー中で凝集することなく、良好な分散性を示すことが記載されている。
しかし、甲第4号証、甲第5号証は、液体中に異なる顔料、例えば等電点の異なる複数の顔料が含まれる場合の分散安定性について示唆するものではなく、石灰と無機の白色顔料を組み合わせた白色成分と着色顔料とを組み合わせることが、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易になしうるとすることはできない。

なお、請求人は、無機白色顔料を含む安定した漆喰組成物中に、少量の無機着色顔料を加えても、安定性が維持されることは予測できる旨、主張するが、上記のとおり甲第4号証、甲第5号証は、液体中に複数の顔料が含まれる場合の分散安定性について示唆するものではなく、一つの顔料の分散安定性が優れているとしても、その液体にさらに別の顔料を分散させたときにも安定性が維持できることは予測できない。
また、甲第4号証、甲第5号証の理論によれば、石灰によりpHがのアルカリ性を呈している組成物中では、等電点が低い無機着色顔料は良好な分散性を示すと予測され、無機着色顔料を含有する漆喰組成物にさらに無機白色顔料を組合わせる動機付けはない。

(3)本件特許発明1の作用効果について検討すると、本件明細書の実施例、比較例には、結合剤として、甲第1号証において、分散安定性を向上させるとされているアクリル樹脂エマルジョンを使用し、さらに水酸基を有するノニオン系高分子化合物を用いたものにおいて、無機着色顔料のみ含有させたものでは安定性が劣るが、無機白色顔料を組合わせて用いたものでは、塗材の分散安定性、塗膜性能が優れたものとなることが示されており、同様の効果は、請求人の提出した甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証にも示されている。
このような、本件特許発明1の作用効果は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証又は甲第5号証記載の発明から予測することができるものではない。

(4)したがって、本件特許発明1は甲第1号証記載の発明に基いて、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基いて、あるいは甲第1号証、甲第4号証及び甲第5号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、無効理由2は理由がない。

4.無効理由3について
上記「2.無効理由1についての判断」に示した、本件特許発明1と甲第1号証記載の発明との相違点については、甲第3号証にも記載されていない。
すなわち、甲第3号証には、消石灰、アクリル系樹脂、無機顔料、ヒドロキシエチルセルロース等の増粘剤及び水を含有する建築用塗料組成物(本件特許発明2の「漆喰組成物」に相当する。)が記載され、無機顔料として、無機白色顔料及び無機着色顔料が例示されているが(記載事項(3d)参照)、無機白色顔料と無機着色顔料を組み合わせて用いることは記載されていない。
また、甲第1号証に、顔料として酸化チタンを配合する場合に、その配合割合を、消石灰100重量部に対する割合として2?30重量部とすることが、甲第3号証に、顔料として酸化チタンを配合する場合に、その配合割合を、消石灰100重量部に対する割合として1?150重量部とすることが記載されているとしても、無機白色顔料と無機着色顔料を組み合わせて用いることが示されていない以上、無機着色顔料を含有する着色漆喰組成物に含まれる白色成分として、「白色顔料を石灰100重量部に対して0.1?50重量部の割合で組み合わせる」ことが、当業者が容易に想到しうるとすることはできない。
したがって、本件特許発明1を引用する本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、あるいは甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとすることはできないから、無効理由3は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明1、2に係る特許は、無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
着色漆喰組成物の着色安定化方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】石灰を含有する白色成分、無機の着色顔料、結合剤及び水を含有する着色漆喰組成物の着色安定化方法であって、当該着色漆喰組成物が水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を含有し、上記白色成分として石灰と無機の白色顔料を組み合わせて用いることを特徴とする方法。
【請求項2】石灰と無機の白色顔料との組み合わせが、白色顔料を石灰100重量部に対して0.1?50重量部の割合で組み合わせたものである、請求項1に記載の着色漆喰組成物の着色安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水含有着色漆喰組成物の着色安定化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
漆喰は、落ち着きのある重厚な仕上がり感に加えて、調湿性(吸湿性及び放湿性)、防カビ性及び防火性といった機能に優れているため、日本建築の屋内外の塗り壁材として古くから使用されている建築材料である。
【0003】
従来漆喰の施工は、まず現場で原料である石灰と結合剤を水で混練りして材料を調製するのが一般的である。このため、材料調製時に、石灰粉末が周囲に飛散したり、水を配合した時にままこが発生したりするという問題がある。さらに、漆喰材料の調合に使用する石灰、結合剤及び水の配合割合が、個々の左官業者の経験及び技量に応じて異なるため、施工者間の格差が出易く一定した品質のものが得られないという問題もある。
【0004】
さらに、漆喰は主原料である石灰の色に基づいて本来白色を有しているが(白漆喰)、近年の需要者のニーズの多様化に従って多彩な色に着色した着色漆喰が求められるようになっている。しかしながら、一般に着色剤は石灰中に均一に分散しにくく、また混合しても色分かれが生じやすく、それが着色漆喰塗膜の色むらの原因となることが指摘されている(特開平7-196355号公報、特開平9-156968号公報など)。さらに石灰はアルカリ性の高い物質であるため、その存在下では着色剤の安定性が悪く容易に色褪せや色飛びしてしまうこと、その結果、塗膜の色むらが助長されることも知られている。
【0005】
なお、漆喰に関する従来技術を記載する文献として、特開昭55-80474号、特開昭59-142257号、特開昭62-265364号、特開平8-72195号、特開平9-85879号、特開平9-235852号、特開平10-363号、特開平10-316902号、特開2000-313843号、特開2000-313844号、特開2001-187861号、特開2001-49147号、特開2000-289400号、特許第3083519号、特許第3094227号、実開平2-13645号、特開平7-61840号、実開昭56-65935号、実開昭56-7732号公報を挙げることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来の漆喰の現場調合(用時調合)の問題、または漆喰の着色の問題を解決することを目的とする。具体的には、本発明は、現場で調合もしくは調色することなく直ちに使用できるように、予め水や着色剤を配合して調製した漆喰塗材または漆喰塗料を安定して供給するための方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
漆喰を必要時に直ちに使用できるように予め水や着色剤を配合して調製した漆喰塗材または漆喰塗料を商品として市場に供給するには、その固形分を水に均質に分散させた状態で安定的に維持させる必要がある。本発明者はこの解決方法について日夜検討していたところ、漆喰塗材または漆喰塗料の成分の一つとして、石灰と結合剤に加えて水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を用いることによって、水への固形分の分散性が向上し沈殿や離水が有意に防止でき、経時的安定化を図ることができることを見い出した。
【0008】
さらに、本発明者は、石灰に対する着色剤の分散性の悪さを改善し色むらのない色漆喰塗材または色漆喰塗料を開発すべく日夜研究を進めていたところ、石灰に無機白色顔料を配合し、これを白色ベースとして無機着色顔料で着色することによって漆喰組成物を均一に着色することができ、しかも不均一な色飛びを抑制して色むらを生じない着色塗膜が形成できることを見いだし、さらに水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を用いることによってその効果をより高めることができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて開発されたものである。
【0009】
本発明は下記(1)および(2)に掲げる着色漆喰組成物の着色安定化方法である。
(1)石灰を含有する白色成分、無機の着色顔料、結合剤及び水を含有する着色漆喰組成物の着色安定化方法であって、当該着色漆喰組成物が水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を含有し、上記白色成分として石灰と無機の白色顔料を組み合わせて用いることを特徴とする方法。
(2)石灰と無機の白色顔料との組み合わせが、白色顔料を石灰100重量部に対して0.1?50重量部の割合で組み合わせたものである、(1)に記載の着色漆喰組成物の着色安定化方法。
【0010】
なお、本発明は、石灰、結合剤及び着色顔料を含む着色漆喰組成物について、着色顔料の混和性、水中における着色顔料の分離(色分かれ)を防止して、経時的な着色安定性に優れた水含有着色漆喰組成物の調製方法として位置づけることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
(1)漆喰組成物の水への分散安定化方法
本発明の漆喰組成物の水への分散安定化方法は、石灰及び結合剤を含有する漆喰組成物(固形分)を水に安定な状態で分散させる方法であり、当該方法は漆喰組成物の他の成分として水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を用いることによって達成することができる。
【0012】
(1-1)ここで石灰とは、通常漆喰材料として使用される石灰であればよく特に制限されるものではない。具体的には酸化カルシウムを主成分とする生石灰,及び水酸化カルシウムを主成分とする消石灰を挙げることができる。なお、これらの石灰としては、建築・土木部材などの廃材から再生された石灰を使用することもできる。これらの石灰は1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。好ましくは消石灰である。なお、ここで生石灰及び消石灰とはそれぞれ酸化カルシウム及び水酸化カルシウムを主成分として含有する石灰を意味し、他成分として炭酸カルシウム(カルサイト,アラゴナイト,バテライト,塩基性炭酸カルシウム及び非晶質炭酸カルシウムなどの沈降炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)及びドロマイト(CaMg(CO_(3))_(2))などを含有していてもよい。また、消石灰は他成分として生石灰(酸化カルシウム)を、生石灰は他成分として消石灰(水酸化カルシウム)を含んでいても良い。一般には工業用消石灰を広く使用することができる。
【0013】
(1-2)本発明の漆喰組成物に配合する上記石灰の割合は、特に制限されないが、例えば、漆喰組成物(固形分)100重量%あたりの石灰の配合割合として通常15?75重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは30?70重量%、より好ましくは40?70重量%、さらに好ましくは45?65重量%である。
【0014】
(1-3)また結合剤としては、石灰同士の初期接着を高めたり、また漆喰塗材や漆喰塗料の施工面に対する付着力を高める性質を有するものであればよく、天然糊料(フノリ、海藻糊、銀杏糊など)や合成樹脂をそれぞれ任意に使用することができる。なお、合成樹脂としては水溶性又は水分散性樹脂が好ましく、具体的にはスチレン-アクリルエステル,スチレン-アクリロニトリル及びスチレン-アクリルアミド-アクリル酸エチルなどのスチレン/アクリル共重合体;酢酸ビニル-アクリル酸エステルや酢酸ビニル-メタクリル酸エステル等の酢酸ビニル/アクリル共重合体;ブタジエン-アクリロニトリル等のブタジエン/アクリル共重合体;塩化ビニル/アクリル共重合体、塩化ビニリデン/アクリル共重合体、ベオバ/アクリル共重合体、アクリル共重合体、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル/ベオバ共重合体、酢酸ビニル/エチレン共重合体、酢酸ビニル/ベオバ共重合体、酢酸ビニル/フマール酸エステル(例えば酢酸ビニル/フマール酸ジブチル等)、酢酸ビニル/マレイン酸エステル(例えば酢酸ビニル/マレイン酸ジブチル等);ベオバ/エチレン、アクリル変性・アルキド樹脂、アクリル変性・酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、シリコン変性アクリル樹脂等のビニル系合成樹脂を例示することができる。耐候性の観点から、好ましくはアクリル系の樹脂である。耐候性の観点から、好ましくはアクリル系の樹脂であり、かかるものとしては特許第3094227号公報に記載される(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、または(メタ)アクリロニトリルの少なくとも1つをモノマー成分として構成される重合体(ホモポリマー、コポリマー)を例示することができる(特許第3094227号公報、【0015】?【0017】参照))。
【0015】
(1-4)本発明の漆喰組成物に配合される上記結合剤の割合は、特に制限されないが、例えば、漆喰組成物(固形分)100重量%あたりの結合剤の配合割合としては固形換算で通常2?50重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは、5?30重量%、さらに好ましくは5?20重量%である。
【0016】
(1-5)本発明で用いられる親水性高分子化合物は、水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物である。当該親水性高分子化合物としては水との相溶性がよく水溶性または水分散性を有し、さらに漆喰組成物の主成分である石灰と相溶性のあるものが好適に使用される。制限はされないが、具体的には、ポリビニルアルコール、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のホルマリン縮合物、ポリエチレンポリアミンプロピレンオキサイド・エチレンオキサイド付加物、アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、ポリアルキレングリコール共重合物、ポリグリコールエステル、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合物;グアガム、ローカストビーンガム、トラガカントガム、カラヤガム、クリスタルガム、プルラン、キサンタンガム等のガム剤;メチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体などが例示される。好ましくは、メチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体である。
【0017】
(1-6)なお、制限はされないが、セルロース誘導体が、メトキシル基またはエトキシル基を有するものである場合、その置換度(セルロースのグルコース環単位あたり、メトキシル基またはエトキシル基で置換された水酸基の平均個数)としては1?2.5、好ましくは1.3?2を好適に例示することができる。また、ヒドロキシプロポキシル基またはヒドロキシエトキシル基を有するものである場合、その置換モル数(セルロースのグルコース環単位あたりに付加したヒドロキシプロポキシル基またはヒドロキシエトキシル基の平均モル数)としては0.1?0.8、好ましくは0.1?0.5、より好ましくは0.15?0.3を挙げることができる。
【0018】
(1-7)また本発明で用いられる親水性高分子化合物は、分子量を特に制限するものではないが、好ましくは2%水溶液(20℃)の粘度に換算して、約3,000?20,000mPa・s、好ましくは約4,000?15,000mPa・sを有するものである。かかるものとして、分子量が1000?100万の範囲にある親水性高分子化合物を適宜選択して使用することができる。好ましくは5000?100万、より好ましくは1万?100万、さらに好ましくは10万?50万の分子量を有するものを使用することができる。
【0019】
(1-8)本発明の漆喰組成物に配合する上記親水性高分子化合物の割合は、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制限されず、使用する親水性高分子化合物の種類、漆喰組成物の成分及び漆喰組成物の水に対する配合割合などに応じて、適宜設定調整することができる。具体的には漆喰組成物(固形分)100重量%あたりの配合割合として固形換算で通常0.01?3重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.03?2重量%、より好ましくは0.05?2重量%、さらに好ましくは0.1?1重量%である。
【0020】
(1-9)かかる親水性高分子化合物を石灰及び結合剤とともに漆喰組成物の成分として用いることによって、漆喰組成物を水に分散させたときに固形分の凝集やそれによる沈殿や離水(固液分離)が有意に防止され、その結果、調製された漆喰塗材や漆喰塗料(水含有漆喰組成物)は、長期にわたって均質分散性、安定性を維持することができる。
【0021】
(1-10)また白以外の色を有するいわゆる着色漆喰組成物は、石灰及び結合剤に加えて着色顔料を配合することによって調製できるが、この場合、着色顔料として無機顔料を用い、且つ着色する対象の白色ベースとして石灰に無機の白色顔料を組み合わせて使用することによって、石灰及び結合剤に対する着色顔料の混和性を高め、色飛びや色分かれのない着色漆喰塗材または着色漆喰塗料(水含有着色漆喰組成物)を調製することができる。
【0022】
(1-11)ここで石灰と併用して用いられる白色顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、リトポン、鉛白、アンチモン白及びジルコニアといった無機の白色顔料を挙げることができる。好ましくは酸化チタンである。酸化チタンは、白色顔料としての使用であれば、ルチル形、アナタース形及びブルッカイト形のいずれも使用することができるが、好ましくは隠蔽力や耐久性などの観点からルチル形である。なお、アナタース形の場合は、その酸化力(光触媒活性)を抑制・軽減する目的で被覆等の加工処理がなされていることが好ましい。なお、酸化チタンは分散性や耐久性などの性能の向上を目的としてAl_(2)O_(3)・nH_(2)OやSiO_(2)・nH_(2)O等の含水金属酸化物などで表面処理されていてもよい。白色顔料の粒子径は、特に制限されないが、通常0.01?0.5μm、好ましくは0.1?0.5μmを例示することができる(電顕法による一次粒子経)。
【0023】
(1-12)白色顔料の配合割合としては、特に制限されないが、漆喰組成物に含まれる石灰100重量部に対して0.1?50重量部、好ましくは0.5?40重量部、より好ましくは1?30重量部、さらに好ましくは5?25重量部、よりさらに好ましくは8?20重量部の範囲を例示することができる。なお制限はされないが、漆喰組成物(固形分)100重量%あたり固形換算で0.05?40重量%、好ましくは0.25?30重量%、より好ましくは0.5?25重量%、さらに好ましくは2.5?20重量%、よりさらに好ましくは4?15重量%となるように調整することができる。
【0024】
(1-13)上記石灰と無機白色顔料を含有する白色成分を着色するのに用いられる着色顔料としては、無機成分からなる白以外の有色顔料であれば特に制限されないが、具体的にはカーボンブラックや黒色酸化鉄(鉄黒)等の黒色顔料:カドミウムレッド,べんがら(赤色酸化鉄),モリブデンレッド、鉛丹等の赤色顔料:黄鉛(クロムイエロー),チタンイエロー,カドミウムイエロー,黄色酸化鉄(黄鉄),タン,アンチモンイエロー,バナジウムスズイエロー,バナジウムジルコニウムイエローの黄色顔料:酸化クロム,ビリジアン,チタンコバルトグリーン,コバルトグリーン,コバルトクロムグリーン,ビクトリアグリーン等の緑色顔料:群青,紺青,コバルトブルー,セルリアンブルー,コバルトシリカブルー,コバルト亜鉛シリカブルー等の青色顔料などを例示することができる。好ましくは、黒色酸化鉄(鉄黒)、べんがら(赤色酸化鉄)、黄色酸化鉄(黄鉄)などの酸化鉄や群青等の酸化金属からなる着色顔料である。
【0025】
(1-14)また、着色顔料の配合割合は、希望する調色や使用する着色顔料の種類や色等によって種々異なって規定することはできないが、一般的には、漆喰組成物に配合する白色成分100重量部に対して、通常0.005重量部以上、例えば0.01重量部以上、0.05重量部以上、0.1重量部以上、0.2重量部以上、または0.5重量部以上の割合で配合することができる。上限は特に制限されず本発明の効果を損なわないことを限度として調色する色の程度に応じて適宜調整選択することができる。通常上記白色成分100重量部に対して100重量部以下、例えば80重量部以下、50重量部以下、40重量部以下、30重量部以下、10重量部以下を例示することができる。
【0026】
(1-15)なお、漆喰組成物には上記白色顔料及び着色顔料とは別個に、体質顔料としてタルク,カオリンクレー,水酸化アルミニウム,炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、軽質(沈降性)炭酸カルシウム),ベントナイト,硫酸バリウム(沈降性硫酸バリウム、バライト粉)、ホワイトカーボン、シリカなどを配合することもできる。
【0027】
(1-16)本発明の分散安定化方法は、基本的には、上記の漆喰組成物の各成分を水に配合して塗材または塗料の常套方法、例えば調合用機器(ミキサー、シェーカー、ミル、ニーダーなど)等を用いて混合し、所望の粘度を有するように調製することによって実施することができる。
【0028】
(1-17)ここで漆喰組成物(固形分)と水との配合割合は特に制限されないが、例えば、最終的に調製される水含有漆喰組成物(漆喰塗材または漆喰塗料)100重量%あたりの固形分が30?80重量%となるような範囲で水の配合量を適宜選択することができる。より具体的には、本発明の分散安定化方法は、水100重量部に対して漆喰組成物(固形分)を40?400重量部、好ましくは80?400重量部、より好ましくは120?400重量部の割合で配合することによって好適に実施することができる。なお、この際、水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物の濃度が0.003?2.5重量%、好ましくは0.009?1.5重量%、より好ましくは0.015?1.5重量%、さらに好ましくは0.03?0.8重量%の割合となるように調整することが望ましい。
【0029】
(1-18)水中で漆喰組成物が均一に分散した状態で安定性を維持するためには、上記のようにして調製された水含有漆喰組成物(漆喰塗材または漆喰塗料)が25℃で少なくとも300cpsの粘度を有していることが好ましい。粘度の上限は特に制限されず、施工(塗装・塗工)方法に応じて適宜選択することができる。例えば、水含有漆喰組成物が漆喰塗料である場合は300?10000cpsの粘度を有するように調整することが好ましく、かかる範囲でさらに塗装方法(ローラー塗り、刷毛塗り、スプレーなど)等に応じて、例えば700?10000cps程度(ローラー塗り、刷毛塗り)、または例えば300?5000cps程度(スプレー)の粘度となるように適宜選択できる。また水含有漆喰組成物が漆喰塗材である場合は2000?50000cps程度、好ましくは5000?30000cpsの粘度を有するように調整することが好ましく、塗工方法(こて塗りやローラー塗り)に応じて適宜選択調整できる(BH型回転粘度計、25℃、7号ローター、10rpm)。
【0030】
(1-19)漆喰組成物の粘度調整は、漆喰組成物(固形分)と水との配合割合を調節したり、結合剤の種類やその配合割合、また上記親水性高分子化合物の種類やその配合量を調節することによって行うことができるが、必要に応じてさらに増粘剤を配合して調節してもよい。
【0031】
(1-20)かかる増粘剤としては石灰及び水との相溶性がよく、本発明の効果を妨げないものを任意に使用することができる。具体的にはセメントやコンクリートの分野で使用される増粘剤の中から適宜選択して使用することができる。当該分野の増粘剤としては、例えばポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸/アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸ナトリウム/アクリルアミド共重合体、アクリルアミド/2-アクリロイルアミノ-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム共重合体、デンプン/アクリル酸/アクリル酸ナトリウムなどのアクリル系増粘剤;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロースエーテル系の増粘剤;カルボキシメチルセルロースまたはそのナトリウム塩;酢酸ビニル/マレイン酸ソーダ共重合体;ポリエチレンオキサイドなどの有機系増粘剤、アルミニウムステアレート、ジンクステアレート、ベントナイト、シリカゲル、ケイ酸系増粘剤などの無機系増粘剤、並びに上記有機系増粘剤とベントナイトなどの無機系増粘剤との併用系を挙げることができる。好ましくは電解性のない非イオン性増粘剤である。
【0032】
(1-21)さらに本発明で用いる漆喰組成物には、上記以外の任意成分として、本発明の効果を妨げない範囲で、顔料、体質顔料、油、スサなどの繊維、光触媒、顔料分散剤、湿潤剤、消泡剤、凍結融解安定剤、皮膜形成助剤、レオロジー調整剤、無機充填剤、pH調整剤、イオン交換樹脂、界面活性剤、可塑剤、減水剤、防腐剤、抗菌剤、流動化剤、防水剤、凝結剤又は凝結促進剤等を配合することもできる。
【0033】
(1-22)例えば、白色の漆喰塗材または漆喰塗料(水含有白色漆喰組成物)を調製する場合、漆喰組成物の成分として無機の白色顔料を用いることもできる。ここで無機白色顔料の種類及びその配合割合としては、先の(1-11)?(1-12)に記載するものを挙げることができる。また、これに併用して体質顔料を用いることもできる。なお、かかる体質顔料も前述(1-15)のものを同様にして使用することができる。
【0034】
(1-23)油としては、従来漆喰材料に使用されている油を広く使用することができ、例えば菜種油、亜麻仁油、サフラワー油、ヒマワリ油、アボガド油、月見草油、大豆油、トウモロコシ油、落花生油、綿実油、胡麻油、コメ油、ナタネ油、オリーブ油、ヒマシ油、エマ油、キリ油、ニガー種子油、カポック油、紅花油、むらさき種子油、サクラソウ種子油、ツバキ油等の各種の植物油を挙げることができる。
【0035】
(1-24)光触媒としては、例えば光触媒活性を有する無機酸化物を挙げることができる。かかる光触媒活性を有する無機酸化物としては、酸化チタン(アナターゼ形)、酸化ルビジウム、酸化コバルト、酸化セシウム、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化レニウム、酸化第二鉄、三酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ビスマス、酸化ルテニウム、チタン酸ストロンチウム、酸化モリブデン、酸化ゲルマニウム、酸化鉛、酸化カドミウム、酸化銅、酸化ニオブ及び酸化タンタルなどが例示できる。
【0036】
(1-25)顔料分散剤及び湿潤剤としては、いずれも通常塗料や塗材に配合して用いられるものの中から適宜選択することができ、例えばアルキルナフタレンスルホン酸ソーダのホルマリン縮合物、低分子ポリアクリル酸アンモン、低分子量スチレン-マレイン酸アンモン共重合体、ポリオキシエチレンの脂肪酸エステルやアルキルフェノールエーテル、スルホコハク酸誘導体、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドとのブロックポリマーなどを例示することができる。
【0037】
(1-26)消泡剤としても、通常塗料、塗材や建築用吹き付け材に配合して用いられるものの中から適宜選択することができる。例えば、オクチルアルコール、グリコール誘導体、シクロヘキサン、シリコン、プルロニック系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の各種の抑泡剤及び破泡剤を挙げることができる。
【0038】
(1-27)無機充填剤としては、例えば珪砂、寒水砂、パーライト,バーミキュライト,シラス球及び汚泥焼成骨材などの再生骨材等の無機質骨材(細骨材)の他、カオリン、ハロイサイト、モンモリロナイト、ベントナイト、ギブサイト、マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、酸性白土、陶石、ロウ石、長石、石灰石、石膏、ドロマイト、マグネサイト、滑石、トルマリンなどの天然無機質材料;水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、天然カルシウム等の水不溶性金属水酸化物;トベルモナイトやゾノトライト等のケイ酸カルシウム系水和物;カルシウムアルミネート水和物、カルシウムスルホアルミネート水和物等の各種酸化物の水和物;アルミナ、シリカ、含水ケイ酸、マグネシア、酸化亜鉛、スピネル、合成炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウムなどの合成無機質などの粉末状、繊維状もしくは粒状の無機材料を挙げることができる。
【0039】
(1-28)防水剤としては、特に制限されないが、シリコーンオイル、シリコーン樹脂、オルガノアルコキシシラン等を例示することができる。
【0040】
(1-29)凝結剤又は凝結促進剤としても特に制限されない。例えば硫酸カルシウムを含む場合は、該硫酸カルシウムの水和硬化性発現を補助もしくは増強する作用を有するものを使用することが好ましい。かかる作用を有するものとして、具体的には硫酸カリウム、ミョウバン、二水セッコウの微粉末、シュウ酸などの有機酸などが例示できる。
【0041】
(1-30)本発明の方法によれば、上記成分を含有する漆喰組成物(固形分)と水との分離(沈殿、離水)や色分かれ(色むら)を防止することができ、これによって漆喰組成物(固形分)に予め水を配合した塗料または塗材を固液分離や色分かれ等のない安定した均一状態で市場に供給することができる。
【0042】
(2)着色漆喰組成物の水への分散化方法
本発明の着色漆喰組成物の水への分散化方法は、石灰、結合剤及び着色顔料を含有する着色漆喰組成物(固形分)を着色顔料が色分かれすることなく水に分散させる方法である。当該方法は着色顔料として無機顔料を用い、かつ該着色顔料で着色する対象の白色成分として石灰と無機の白色顔料と組み合わせて用いることによって達成することができる。
【0043】
ここで使用される石灰とそれに組み合わせて用いられる無機白色顔料、及び結合剤の種類並びにその配合割合、また着色顔料の種類やその配合割合などは、前述(1)に記載のものを同様にして利用することができる((1-1)?(1-4)、(1-10)?(1-14))。
【0044】
なお、本発明の着色漆喰組成物にはさらに水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を配合することもできる。これによって着色漆喰組成物の固形分の水への分散安定性が高まり、その結果、当該着色漆喰組成物を水に混合した場合に固液分離や色分かれ等の不都合なく分散安定した着色漆喰塗材または着色漆喰塗料(水含有着色漆喰組成物)を調製することができる。ここで、用いられる水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物の種類やその割合についても前述(1)に記載のものを同様にして利用することができる((1-5)?(1-9))。
【0045】
なお、本発明が対象とする着色漆喰組成物には、本発明の効果を損なわないことを条件として、他の成分として前述の(1)に記載する体質顔料、増粘剤、油、光触媒、顔料分散剤、湿潤剤、消泡剤、無機充填剤、防水剤、凝結剤、凝結促進剤などの任意成分を同様に配合することもできる((1-15)、(1-20)?(1-21)、(1-23)?(1-29))。斯くして調製される着色漆喰組成物は、前述の(1)に記載されるような割合で水と混合され、適宜目的に応じて所望の粘度となるように調製される((1-16)?(1-19))。
【0046】
本発明の方法によれば、石灰、結合剤及び着色顔料を含有する着色漆喰組成物(固形分)に水を配合した場合に、着色顔料の分離による色分かれ(色むら)を有意に防止することができ、均質に着色した着色漆喰塗材または着色漆喰塗料を得ることができる。また、さらに水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を配合することにより、長期保存によって生じ得る固液分離(沈殿、離水)を有意に抑制することができ、着色漆喰組成物(固形分)に予め水を配合した着色塗料または着色塗材(水含有着色漆喰組成物)を固液分離や色分かれ等のない安定した均一状態で市場に供給することができる。そして本発明の方法によって着色安定化が施された上記着色塗料または着色塗材は、色むらのない着色漆喰塗膜の形成に有効に使用することができる。
【0047】
(3)水含有着色漆喰組成物の着色安定化方法
本発明はまた、石灰、結合剤、着色顔料及び水を含有する着色漆喰組成物について、着色顔料が色分かれすることなく、着色を均一化する方法である。
【0048】
当該方法は着色顔料として無機顔料を用い、かつ該着色顔料で着色する対象の白色成分として石灰に無機の白色顔料と組み合わせて用いることによって達成することができる。ここで使用される石灰、それと併用する白色顔料及び結合剤の種類並びにその配合割合、着色顔料の種類やその配合割合、また水の割合などは、前述(1)に記載のものを同様にして利用することができる((1-1)?(1-4)、(1-10)?(1-14)、(1-17))。
【0049】
また、本発明の着色漆喰組成物にはさらに水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を配合する必要がある。これによって着色漆喰組成物の固形分の水への分散安定性が高まり、その結果、当該着色漆喰組成物を水に混合した場合に固液分離や色分かれ等の不都合なく分散安定した着色漆喰塗材または着色漆喰塗料(水含有着色漆喰組成物)を調製することができる。ここで、用いられる水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物の種類やその割合についても前述(1)に記載のものを同様にして利用することができる((1-5)?(1-9))。
【0050】
なお、本発明が対象とする水含有着色漆喰組成物には、本発明の効果を損なわないことを条件として、他の成分として前述の(1)に記載する体質顔料、増粘剤、油、光触媒、顔料分散剤、湿潤剤、消泡剤、無機充填剤、防水剤、凝結剤、凝結促進剤などの任意成分を同様に配合することもできる((1-15)、(1-20)?(1-21)、(1-23)?(1-29))。斯くして調製される色漆喰組成物は、前述の(1)に記載されるように、適宜目的に応じて所望の粘度となるように調製される((1-16)、(1-18)?(1-19))。
【0051】
本発明の着色化法によれば、石灰、結合剤、着色顔料及び水を含有する色漆喰組成物について、着色顔料の分離による色分かれ(色むら)を有意に防止することができ、均質に着色した着色漆喰塗材または着色漆喰塗料を得ることができる。また、さらに水酸基を有するノニオン系の親水性高分子化合物を配合することにより、長期保存によって生じ得る固液分離(沈殿、離水)を有意に抑制することができ、色漆喰組成物(固形分)に予め水を配合した着色塗料または着色塗材を固液分離や色分かれ等のない安定した均一状態で市場に供給することができる。
【0052】
【実施例】
以下、本発明の内容を下記の実施例及び実験例を用いて具体的に説明する。ただし、これらの実施例及び実験例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0053】
参考実施例1

上記成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより漆喰組成物の固形分を水に安定に分散させて、漆喰塗料(粘度1200cps(25℃)B型粘度計;固形分含有率約67%)を調製した。なお、親水性高分子化合物としてはヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトキシル基置換度;1.4、ヒドロキシプロポキシル基置換モル数;0.2、2%水溶液における粘度;3500?5600mPa・s)を使用した。
【0054】
参考実施例2

上記成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより固形分を水に安定に分散させて、漆喰塗料(粘度800cps(25℃)B型粘度計;固形分含有率約60%)を調製した。なお、親水性高分子化合物としてはヒドロキシエチルメチルセルロース(メトキシル基置換度;1.5、ヒドロキシエトキシル基置換モル数;0.2、2%水溶液における粘度;3500?5600mPa・s)を使用した。
【0055】
参考比較例1
上記参考実施例1において、ノニオン系親水性高分子化合物に代えて土木用増粘剤として公知のカルボキシメチルセルロース(2%水溶液における粘度;3500?5600mPa・s)を用いて同様にして漆喰塗料(粘度1200cps(25℃)B型粘度計;固形分含有率約67%)を調製した。
【0056】
参考比較例2
上記参考実施例1において、ノニオン系親水性高分子化合物を配合しない以外は同様にして漆喰塗料(粘度500cps(25℃)B型粘度計;固形分含有率約67%)を調製した。
【0057】
実験例1
参考実施例1及び2並びに参考比較例1及び2で調製した漆喰塗料(参考塗料1及び2、参考比較塗料1及び2)について、日本工業規格JIS K 5400に規定されている方法に基づいて、(1)容器の中での状態(JIS K 5400の4.1(2))、(2)塗装作業性(JIS K 5400の6.1)、(3)低温安定性(JIS K 5400の5.1)について調べ、さらに形成された被膜について、(4)乾燥時間(JIS K 5400の6.5)、(5)塗膜の外観(JIS K 5400の7.1)、(6)隠蔽率(JIS K 5400の7.2)、(7)耐アルカリ性(JIS K 5400の8.21)、(8)耐洗浄性(JIS K 5400の8.11)、(9)耐水性(JIS K 5400の8.19)及び(10)促進耐候性(JIS K 5400の9.8.1)の各項目について調べた。なお各項目の試験方法並びに評価は、全てJIS K5663-1995に規定されている方法に準拠した。
【0058】
(1)容器の中での状態(JIS K5663-1995の5.3)
塗料を透明容器(ガラス製)に充填し、室温で24時間以上静置した後、容器の蓋を開け棒で中身をかき混ぜて塗料の状態を調べた。かき混ぜたときに、堅い塊がなくてスムーズに撹拌できる場合を「良好」、塊はないが一様になりにくい場合を「普通」、塊または沈殿物を認める場合を「不良」とした。
【0059】
(2)塗装作業性(JIS K5663-1995の5.4)
試験板(フレキシブル板、500×200×3mm)の平滑な面に塗料をそれぞれ刷毛で一様に塗り(1回目、塗布量:10?13mml/1枚)、6時間おいてから2回目の刷毛塗り(塗布量:9?11mml/1枚)を行い、2回目を塗る際の刷毛運びの困難性の有無から塗装作業性を評価した。2回目を塗る際の刷毛運びが困難でない場合を「2回塗りで塗装作業に支障がない」として評価を「良好」とし、刷毛運びの困難性に応じて順次「普通」、「不良」とした。
【0060】
(3)低温安定性(JIS K5663-1995の5.5に準拠)
(3-1)塗料を透明容器(ガラス製)にほぼ一杯に満たして密閉し、温度-5±2℃の低温恒温器中に18時間収納した後、取り出して室温下に6時間放置する操作を3回繰り返した。次いで、6時間放置後の塗料について、沈殿並びに凝集の有無から分散安定化状況を調べた。目視により固形分の凝集及び沈殿が認められず、固形分が水に安定して分散している場合を「良好」、固形分の凝集がやや認められるか又は上層にやや水浮きが認められるが、固形分の沈殿には至っていない場合を「普通」、固形分が凝集して明らかな沈殿が生じている場合を「不良」として評価した。
(3-2)また上記(2)の方法に準拠して塗装作業性を調べた。具体的には、低温恒温器にいれる前の塗料で1回塗り、低温安定性を調べた処理塗料を用いて2回塗りを行い、2回目の刷毛運びの困難性を評価した。さらに上記塗装作業性試験の終わった試験板を24時間乾燥して、形成された塗膜の外観を評価した。低温処理前後で塗膜作業性と塗膜の外観に異常がない場合を「良好」、順次不良の程度に応じて「普通」、「不良」とした。
【0061】
(4)乾燥時間(JIS K5663-1995の5.6)
塗料をガラス板(200×100×2mm)の片面に隙間100μmのB形フィルムアプリケータを用いて塗布し、これを20±1℃、湿度65±5%の恒温恒湿室に入れて、塗膜が半硬化状態(塗面の中央を指先で静かに軽くこすって塗面に擦り傷がつかない状態)まで乾燥する時間を測定した。
【0062】
(5)塗膜の外観(JIS K5663-1995の5.7)
上記(2)塗装作業性の試験で塗料を塗布した試験板を24時間乾燥させて、拡散昼光の下で塗面を肉眼でみて、刷毛目の程度の大きさ、穴や弛みの有無、塗膜表面の一様性(むらなし)を評価した。刷毛目の程度が大きくなく、穴や弛みがなく、塗膜表面が一様(むらなし)であるとき、「塗膜の外観が正常である」として評価を「良好」とし、順次不良の程度に応じて「普通」及び「不良」とした。
【0063】
(6)隠蔽率(JIS K5663-1995の5.8)
隠蔽率試験紙をガラス板の上に固定し、その上に塗料を隙間150μmのB形フィルムアプリケーターを用いて塗り、24時間放置して乾燥させた。試験紙の白地と黒地の上に形成された塗膜の視感反射率を反射率測定装置を用いて、試験片の3カ所について測定した。得られた視感反射率から下記の式から隠蔽率を求めた。
【0064】
【数1】

【0065】
(7)耐アルカリ性(JIS K5663-1995の5.10)
[1]試験片:予め周辺及び裏面を同種の塗料で2?3回塗り包んでおいたフレキシブル板(150×70×3mm)の表面に塗料を刷毛で1±0.1ml/100cm^(2)の割合で一様に塗り、6時間後、同様に更に1回塗って5日間乾燥し、次いで試験板の周辺及び裏面をパラフィンで被覆して、試験片とした(3枚準備、うち1枚は原状試験片)。
[2]上記試験片を水酸化カルシウム飽和溶液(20±1℃)中に18?48時間浸漬し、2枚の試験片について溶液から取り出した直後と2時間後の観察で、塗膜の状態を原状試験片との比較で評価した(膨れ、割れ、剥がれ、穴、軟化、色、艶)。
[3]評価:48時間または18時間の浸漬処理で、試験片2枚の塗膜に膨れ、割れ、剥がれ、穴、軟化を認めず、更に浸漬溶液の着色や濁りがなく、原状試験片と比べて艶の変化や変色の程度が大きくない時を、それぞれ「48時間浸したとき異常がない」として評価を「良好」、または「18時間浸したとき異常がない」として評価を「良」とした。
【0066】
(8)耐洗浄性(JIS K5663-1995の5.11)
[1]試験片:フレキシブル板(430×170×5mm)の中央部の長辺の長さ約400mmに隙間150μmのB形フィルムアプリケーターで塗料を塗り、塗面を上向きにして7日間乾燥したものを試験片とした(2枚準備)。
[2]ウォッシャビリティーマシンを用いて、0.5%の石鹸水で濡らした試験片(2枚)の塗膜面をブラシで往復(100回?500回)して擦り、その後試験片を試験機から外して水で洗い、ブラシで擦った跡の中央にあたる長さ100mmの部分の塗膜を拡散昼光の下で、塗膜の破れや摩滅の有無を目視で調べた。
[3]評価:500回以上のブラシ往復で、試験片2枚とも中央部分の塗膜が破れまたは摩滅によって試験片の素地の露出が認められない場合を「500回の洗浄に耐える」として評価を「良好」とし、また100回以上の往復で試験片の素地の露出が認められない場合を「100回の洗浄に耐える」として評価を「良」とした。
【0067】
(9)耐水性(JIS K5663-1995の5.9)
上記(7)耐アルカリ性試験で使用した試験片と同じものを使用して(2枚)、これを脱イオン水(20±1℃)に96時間浸漬して、試験片2枚について溶液から取り出した直後と2時間後の観察で、塗面の状態を評価した(シワ、膨れ、割れ、剥がれ、色、艶)。
【0068】
(10)促進耐候性(JIS K5663-1995の5.12)(サンシャインカーボンアーク灯式:JIS K5400 9.8.1)
[1]試験片:予めJPIA-23の合成樹脂エマルジョンシーラーで処理したフレキシブル板(150×70×3mm)に塗料を2回一様に刷毛塗りし(一回につき塗布量:1.0±0.1ml/cm^(2))、5日間乾燥して試験片とした(2枚、うち1枚原状試験片)。尚、1回塗りと2回塗りとの間が6時間とした。
[2]サンシャインカーボンアーク灯式耐光性試験器(ブラックパネル温度:63℃、降雨サイクル:120分間隔で18分間)を用いて200時間照射して、原状試験片と耐候試験片の塗膜を肉眼観察して、色むらと色つやの変化の程度、白亜化・膨れ・剥がれ・割れの有無を調べた。
[3]白亜化度が8点以上で、膨れ、はがれ、割れがなく、色の変化の程度が原状試験片に比べて大きくないときは、評価を「良好」とし、順次不良の程度に応じて「普通」及び「不良」とした。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
これらの結果から、ノニオン系の水酸基を有する親水性高分子化合物を配合した参考塗料1及び2は分散安定性に優れており、合成樹脂エマルジョンペイントの少なくとも2種の規格(JIS K5663-1995)を満たす一液塗料として調製できることが確認された。それに対してノニオン系の水酸基を有する親水性高分子を配合しない参考比較塗料1及び2は分散安定性に著しく劣っていた。
【0071】
また、漆喰材料は一般に速乾性であるため、塗布した場合に刷毛むらなどの塗工むらが出やすいという問題がある(参考比較例2)。これに対してノニオン系の水酸基を有する親水性高分子化合物を配合することにより、塗膜の乾燥を有意に遅延させることができ、刷毛むら等の塗装むらの問題を有意に解消することできた。
【0072】
実験例2
表2に記載の成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより漆喰組成物の固形分を水に分散させて、着色漆喰塗材(粘度約20,000?60,000mP・s(25℃)に調整(BH型回転粘度計、7号ローター、10rpm、60秒);固形分含有率約66?67%)(実施例1?2、比較例1?3)を調製し、下記に示す性能評価試験を行った。
【0073】
<塗材の分散安定性>
実施例1?2の着色漆喰塗材(発明塗材1?2)及び比較例1?3の着色漆喰塗材(比較塗材1?3)をそれぞれ1kgずつ耐水性のフィルムバック(サラン-UB#158:旭化成(株):厚み15μm(ASTM D-3985)、酸素透過度10ml/(m2.day.MPa)(20℃、75%RH)(ASTM D-3985)、透湿度1g/(m^(2).day)(38℃、90%RH)(ASTM F-372))に充填して開口部を気密状態に脱気しながらヒートシールした。これを常温下で保存して、1ヶ月間後、バック中の色漆喰塗材について離水の有無及び着色顔料の色分かれや色むらの有無を観察し、下記の基準に従って評価した。
【0074】

【0075】

【0076】
<塗膜性能>
常温で1ヶ月間保存した上記の各着色漆喰塗材充填フィルムバックを開封して、中の色漆喰塗材(発明塗材1?2、比較塗材1?3)をこて板に取り出した。これを鏝で数回かき混ぜた後、試験板(フレキシブル板、500×200×3mm)の平滑な面にそれぞれ鏝で一様に塗り、8時間おいてから当該塗工面の半分の面に2回目の鏝塗りを行った。塗膜が乾燥した後、一回塗り面を目視で観察して色むらの有無を観察し、また一回塗り面と二回塗り面との境目の色差(ΔE(*ab))を測定し、下記の基準に従って評価した。
【0077】

【0078】

【0079】
<乾燥着色塗膜の色むら発生の有無>
上記で塗工した試験板(発明塗材1?2、比較塗材1?3でそれぞれ塗工)を、着色塗膜面が日中に太陽光に当たるように配置して、1週間放置して、1週間後に着色塗膜面の色むら発生の有無を目視により評価した。なお、色むら発生の有無の評価は、下記の基準に従って、塗工乾燥時(指触乾燥時)の塗膜面と1週間後の塗膜面とを比較対比することによって行った。比較塗材1?3で塗工した試験板については、塗工乾燥時(指触乾燥時)に色むらが生じていない塗膜面を対象として評価を行った。
【0080】

【0081】
結果を合わせて表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
これらの結果から、着色顔料を含有する着色漆喰組成物は、無機白色顔料とノニオン系の水酸基を有する親水性高分子化合物を併用することによって、水と混合して保存した場合でも離水や色分かれ等の不都合が生じることなく安定に分散状態が維持されることがわかった。また当該着色漆喰組成物は、水を配合した状態で保存した場合でも塗工により形成した塗膜に色むらが生じず、このことから均一に安定した状態で着色されていることが確認された。これらのことから、本発明の方法で着色化した着色漆喰組成物はタッチアップ性があり、色むらを生じることなく重ね塗りをすることができることがわかった。さらに、上記本発明の着色漆喰組成物を用いて形成された着色漆喰塗膜は、塗工時に色むらが生じないだけでなく、経時的にも色むらの発生が有意に抑制できることが確認された。
【0084】
実験例3
表3に記載の成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより漆喰組成物の固形分を水に分散させて、着色漆喰塗材(粘度約30,000?60,000mP・s(25℃)に調整(BH型回転粘度計、7号ローター、10rpm、60秒);固形分含有率約63?70%)(実施例3?5)を調製し、実験例2と同様にして性能評価試験(塗材の分散安定性、塗膜性能)を行った。結果を表3に合わせて示す。
【0085】
【表3】

【0086】
実験例4
表4に記載の成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより漆喰組成物の固形分を水に分散させて、着色漆喰塗材(粘度約20,000?60,000mP・s(25℃)に調整(BH型回転粘度計、7号ローター、10rpm、60秒);固形分含有率約65?70%)(参考実施例3?4、参考比較例3)、及び着色漆喰塗料(粘度約1,000?5,000cps(25℃)に調整(BH型回転粘度計、7号ローター、10rpm、60秒);固形分含有率約52%)(参考実施例5)を調製した。これを試験板(フレキシブル板、500×200×3mm)の平滑な面にそれぞれ鏝(参考実施例3?4、参考比較例3)または刷毛(参考実施例5)で一様に塗り、8時間おいてから当該塗工面の半分の面に2回目の鏝塗りまたは刷毛塗りを行った。塗膜が乾燥した後、一回塗り面を目視で観察して色むらの有無を観察し、また一回塗り面と二回塗り面との境目の色差(ΔE(*ab))を測定し、下記の基準に従って評価した。
【0087】

【0088】

【0089】
<乾燥着色塗膜の色むら発生の有無>
上記で塗工した試験板(参考実施例3?5、参考比較例3でそれぞれ塗工)を、実験例2と同様にして、着色塗膜面が日中に太陽光に当たるように配置して、1週間放置して、1週間後に着色塗膜面の色むら発生の有無を目視により評価した。なお、色むら発生の有無の評価は、下記の基準に従って、塗工乾燥時(指触乾燥時)の塗膜面と1週間後の塗膜面とを比較対比することによって行った。
【0090】

【0091】
結果を合わせて表4に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
表4の結果に示すように、顔料として着色顔料だけを石灰に混ぜた参考比較例3の塗材と比較して、着色顔料と白色顔料を組み合わせて含む参考実施例3?5の塗材または塗料は塗膜に色むらが生じないことから、水含有漆喰組成物中に着色顔料が均一に分散され混合されていることが確認された。また、着色顔料と白色顔料を組み合わせて配合することによって色差の発生が抑制でき(タッチアップ効果)、重ね塗りができることがわかった。さらに、石灰と白色顔料を組み合わせて含む本発明の塗材または塗料を用いて形成された着色漆喰塗膜は、塗工時に色むらが生じないだけでなく、経時的にも色むらの発生が有意に抑制できることが確認された。
【0094】
実験例5
実験例2に記載する方法で調製した包装体形態の着色漆喰塗材(実施例1?2)を開封して、その中身を100ml容量の透明のメスシリンダー(高さ15cm)に)に入れ密封した。この状態で、1サイクル0℃6時間及び50℃6時間(12時間)の温冷サイクル試験を24サイクル(12日間)繰り返した。その結果、いずれの着色漆喰塗材も、試験前と試験後で色分かれを含め外観に全く変化は認められなかった。さらに、その後1ヶ月間室温で放置しても変化は認められず、安定な状態で維持されていた。
【0095】
【発明の効果】
本発明の着色化法によれば、石灰、結合剤、着色顔料及び水を含有する色漆喰組成物について、着色顔料の分離による色分かれ(色むら)を有意に防止することができ、均質に着色した着色漆喰塗材または着色漆喰塗料を得ることができる。
【0096】
本発明の方法によれば、石灰を主成分として含む漆喰組成物、及びさらに着色顔料を含む色漆喰組成物を水に経時的に安定して分散させることができるため、既調合/調色済みの塗材として、また塗料(一液型塗料)として提供することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2010-04-21 
出願番号 特願2002-266067(P2002-266067)
審決分類 P 1 113・ 113- YA (E04F)
P 1 113・ 121- YA (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 住田 秀弘  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 神 悦彦
宮崎 恭
登録日 2006-08-04 
登録番号 特許第3834792号(P3834792)
発明の名称 着色漆喰組成物の着色安定化方法  
代理人 平野 和宏  
代理人 井上 浩  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 平野 和宏  

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