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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1234218
審判番号 不服2009-18540  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-01 
確定日 2011-03-22 
事件の表示 特願2004-531413「バックフィルムモールディングされた球面シェル」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月11日国際公開、WO2004/020848、平成17年12月 2日国内公表、特表2005-536699〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成15年7月17日(パリ条約による優先権主張2002年8月26日、(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成17年2月25日付けで特許法第184条の5第1項に基づく国内書面、並びに、特許法第184条の4第1項に基づく明細書、請求の範囲、図面及び要約の日本語による翻訳文がそれぞれ提出され、平成20年8月4日(起案日)付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成20年11月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年5月27日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年10月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成20年11月4日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認めるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ボールジョイント用の軸受シェルであって、軸受シェルがプラスチック製のコア(4)を有していて、該コア(4)がフィルム(3)によって少なくとも部分的に取り囲まれていることを特徴とする、ボールジョイント用の軸受シェル。」

3.引用刊行物とその記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物は次のとおりである。
刊行物1 特開平3-9113号公報

刊行物1(特開平3-9113号公報)には、「ボールジョイント及びその製造方法」に関して、図面とともに次の記載がある。

(ア)「本発明は、ハウジングを合成樹脂により一体的に製造したボールジョイント及びその製造方法に関する。」(第1ページ右下欄第6?8行)

(イ)「上記目的を達成するための第1の発明は、一端に球頭部を有するボールスタッドと、前記球頭部の外周を包含して当該球頭部と摺動する合成樹脂からなるボールシートと、当該ボールシートの外周面に対応した形状の内室を有し前記ボールシートを固定する合成樹脂からなるハウジングとを備えたボールジョイントである。」(第2ページ左下欄第15行?同右下欄第1行)

(ウ)「このように構成した本発明にあっては、予めボールシートの厚みを選定し、合成樹脂材料から成形したボールシートをボールスタッドの球頭部に遊嵌し、次いでこのボールシートを取り付けたボールスタッドを金型にセットしてインサート成形によりハウジングを一体成形するため・・・」(第2ページ右下欄第15?20行)

(エ)「しかも、インサート成形後においては、ボールシートに形成した係止部がハウジングを構成する合成樹脂と係合することとなり、これによってボールシートはハウジングにさらに強固に固定される。」(第3ページ左上欄第17行?同右上欄第1行)

(オ)「第1の発明の実施例に係るボールジョイントは、ボールスタッド2と、当該ボールスタッド2を収容するハウジング1と、これらボールスタッド2とハウジング1との間に介装されるボールシート4から構成されており、さらにボールスタッド2とハウジングlとの間にはダストカバー9が取り付けられている。」(第3ページ右上欄第13?19行)

(カ)「前記ボールシート4は、ポリアセタール樹脂からなり、射出成形によって成形される。」(第3ページ左下欄第11?12行)

(キ)「ハウジング1を構成する樹脂としては、ポリプロピレンに無機フィラー、例えばガラス繊維などを混入した複合材料が適している。」(第4ページ左上欄第7?10行)

(ク)上記記載事項及び第3図の記載から見て、ボールスタッド2の球頭部と摺動する合成樹脂からなるボールシート4と、当該ボールシート4の外周面に対応した形状の内室を有し前記ボールシート4を固定する合成樹脂からなるハウジング1とは、「ボールジョイント用の摺動部」として捉えることができる。

そうすると、上記記載事項(ア)?(ク)及び図面(特に、第3図)の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ボールジョイント用の摺動部であって、該摺動部が合成樹脂からなるハウジング1を備え、ボールスタッド2とハウジング1との間にボールスタッド2の球頭部と摺動する合成樹脂からなるボールシート4が介装されている、ボールジョイント用の摺動部。」

4.発明の対比

(1)一致点
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明における「ボールジョイント用の摺動部」は、その機能からみて、本願発明の「ボールジョイント用の軸受シェル」に相当し、以下同様に、「合成樹脂からなるハウジング1」は「プラスチック製のコア(4)」に相当する。
また、刊行物1発明の「ボールシート4」は、本願発明の「フィルム(3)」に相当するものであるか否かを相違点において検討することとして、両者をひとまず「シート」として捉えると、刊行物1発明の「ボールスタッド2とハウジング1との間にボールスタッド2の球頭部と摺動する合成樹脂からなるボールシート4が介装されている」ことと、本願発明の「該コア(4)がフィルム(3)によって少なくとも部分的に取り囲まれている」ことは、「該コア(4)がシートによって少なくとも部分的に取り囲まれている」限りにおいて共通している。

したがって、両者は、本願発明の表記にならえば、
「ボールジョイント用の軸受シェルであって、軸受シェルがプラスチック製のコア(4)を有していて、該コア(4)がシートによって少なくとも部分的に取り囲まれている、ボールジョイント用の軸受シェル。」である点において一致している。

(2)相違点
一方、両者の相違点は、以下のとおりである。
[相違点1]
上記シートは、本願発明が「フィルム(3)」であるのに対し、刊行物1発明が「ボールシート4」である点。

5.当審の判断

(1)相違点1について
本願発明の「フィルム(3)」について、本願の明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【0007】
単数もしくは複数部分から構成することができる本発明による軸受シェルは、補強されたプラスチックを有していて、このプラスチックはジョイントボール接触面の領域において、フィルムもしくはシートによって取り囲まれ・・・
【0008】
・・・
【0009】
フィルムとコアとは有利には同じベース材料が製造されることができ、これによって材料コストを低下させることができる。・・・
・・・(中略)・・・
【0014】
図1には、成形型1内における複数の軸受シェルの軸受シェル下側部分が、横断面図で示されている。軸受シェル下側部分2は、良好な減摩特性をもつシートもしくはフィルム(Folie)3を有しており、このフィルム3には、補強のために役立つコア4がバックモールディングつまり後ろから射出(hinterspritzen)されている。軸受シェル下側部分2を製造するためには、まず初めにフィルム3が成形型1内に挿入される。この際フィルム3は、先行する作業ステップにおいて前成形されているか、又は形状付与はフィルム3の挿入時に初めて、成形型1の加熱された上側部分によって行われる。フィルム3が成形型1内に挿入された後で、成形型1は閉鎖され、フィルム3は、補強のために働くプラスチック4によって後ろから射出される。そのために相応なプラスチックがスプル5を介して閉鎖された成形型内に導入される。加工されるプラスチックの形式に応じて、種々様々な方法が使用される。熱可塑性樹脂の加工時には、フィルムの後ろへの射出つまりバックフィルムモールディングは主に汎用の射出成形法によって実現され、熱硬化性樹脂の後ろへの射出は、主に低圧法によって行われる。使用されるプラスチックの良好な固着特性に基づいて、後ろに射出されるプラスチックとのフィルムの付加的な接着は不要である。」
これらの記載から、「軸受シェル下側部分2は、良好な減摩特性をもつシートもしくはフィルム(Folie)3を有して」いるものであり、上記フィルムは、「コアとは有利には同じベース材料」であることは示唆されているとしても、その厚さは明らかでなく、材料についても熱可塑性樹脂というだけで具体的な材料は明らかでない。
他方、刊行物1発明の「ボールシート4」は、「前記球頭部の外周を包含して当該球頭部と摺動する合成樹脂からなる」(上記記載事項(イ))ものであり、「予めボールシートの厚みを選定」(上記記載事項(ウ))されたものである。
そうすると、本願発明の「フィルム(3)」と刊行物1発明の「ボールシート4」は、ボールジョイントの摺動部分を支持する材料である点で共通するものである一方、その厚さや材料などいずれの観点からみても区別ができないものであるから、上記相違点1は実質的な相違ではないことに帰着する。したがって、本願発明は、刊行物1発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、仮に、本願発明の「フィルム(3)」が本願の明細書の上記段落【0014】に記載された製造方法に裏付けられていることに起因して、刊行物1発明の「ボールシート4」と何らかの差異があるとしても、本願発明は物の発明であって、上記のとおり、「フィルム(3)」について厚さや材料などの特定がないものである以上、その差異は当業者がボールジョイント用の軸受シェルを設計する上で考慮すべき設計事項の範囲に止まるものというべきである。そうすると、刊行物1発明を適宜設計変更して上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。したがって、本願発明は、刊行物1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(2)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成21年10月1日付け審判請求書において、「引用発明1におけるボールシート4は、本願発明による軸受シェルそのもの、もしくは軸受シェルのコア4に相当するものであり、引用発明1には、本願発明におけるように、軸受シェルのプラスチック製のコア4を少なくとも部分的に取り囲むフィルム3は存在しません。」(審判請求書の3.(3)の項参照)と主張するなど、本願は特許されるべき旨主張している。
しかしながら、本願発明のフィルム(3)は、上記のとおり、請求項1にその厚さや材料について特定されていないばかりか、明細書の記載を参酌しても刊行物1発明の「ボールシート4」との差異が明確ではないものであるから、審判請求人の「引用発明1におけるボールシート4は、本願発明による軸受シェルそのもの、もしくは軸受シェルのコア4に相当する」との主張は根拠がない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

(3)まとめ
本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

6.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願の請求項2?15に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2010-10-22 
結審通知日 2010-10-29 
審決日 2010-11-09 
出願番号 特願2004-531413(P2004-531413)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 113- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上谷 公治  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 大山 健
山岸 利治
発明の名称 バックフィルムモールディングされた球面シェル  
代理人 山崎 利臣  
代理人 矢野 敏雄  

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