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審決分類 審判 全部無効 1項1号公知  A43B
審判 全部無効 2項進歩性  A43B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A43B
管理番号 1234268
審判番号 無効2010-800054  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-03-29 
確定日 2011-03-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第3027578号発明「履物底部とその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯
本件特許第3027578号(以下、「本件特許」という。)についての主な手続の経緯はつぎのとおりである。
平成11年 3月 9日 特許出願
平成12年 1月28日 設定登録(特許第3027578号、請求項の数10)
平成12年 6月26日 異議申立(請求項1,2,4?6,8及び10の特許に対し)
平成13年 3月27日 証拠調べ
平成13年 7月 3日付け取消理由通知
平成13年10月 9日付け異議決定(請求項1,2,4?6,8及び10の特許を取り消す。平成13年11月30日確定。)
平成22年 3月29日 本件無効審判請求(請求項3,7及び9の特許に対し)
平成22年 6月 7日 答弁書提出
平成22年 9月 2日 請求人より証人尋問申請書及び尋問事項書提出
平成22年 9月27日付け通知書(請求人及び被請求人に対し)
平成22年10月 8日付け請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成22年11月 8日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成22年11月25日 口頭審理及び証人尋問
平成22年12月14日 被請求人より上申書提出
平成22年12月15日 請求人より上申書提出

II 本件発明
本件特許の請求項3,7及び9に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3,7及び9に記載されたつぎのとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明3」、「本件特許発明7」、「本件特許発明9」という。また、これらをまとめて「本件特許発明」という。)。
「【請求項3】 底部本体1の周囲外面2に接着される装飾ベルト体Rが、略水平方向の突条4を有し、該突条4が、表皮3の裏面3aに配設された紐状体6にて該表皮3を横断面山型に弯曲させると共に、該横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して、該突条4の上下両脇に沿って上記表皮3と上記帯体8とを2条のミシン糸目5,5にて縫製して内部に紐状体6を閉じ込めて構成されていることを特徴とする履物底部。」、
「【請求項7】 表皮3の裏面3aに紐状体6を当接して該表皮3を該紐状体6に沿わせて横断面山型に弯曲し、上記横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して、突条4を形成し、該突条4の上下両脇に沿って上記表皮3と上記帯体8とを2条のミシン糸目5,5にて縫製して内部に紐状体6を閉じ込めて、装飾ベルト体Rを形成し、その後、該装飾ベルト体Rを底部本体1の周囲外面2に接着することを特徴とする履物底部の製造方法。」、
「【請求項9】 表皮3に所定幅Wをもって平行なミシン糸目5,5を形成し、上記表皮3の上記ミシン糸目5,5によって区画される内側範囲Sの裏面3aに紐状体6を接着して、上記表皮3を該紐状体6に沿わせて横断面山型に弯曲し、突条4を形成し、その後、上記突条4を有する装飾ベルト体Rを底部本体1の周囲外面2に接着することを特徴とする履物底部の製造方法。」

III 請求人及び被請求人の主張の概略
A 請求人の主張
請求人の主張は、つぎのとおりである。

1 本件特許発明7について
(1)甲第1号証(特許異議申立書(異議2000-72550))中の甲第5号証記載の番号5869で示された商品に係る発明は、本件特許に係る出願前に公然知られたものであって、本件特許発明7は当該発明と同一、または、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明7は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるべきものである(以下、「無効理由1-1」という。)。
(2)甲第7号証の写真で示された女性用ブーツに係る発明は、本件特許に係る出願前に公然知られたものであって、本件特許発明7は当該発明と同一であるから、本件特許発明7は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるべきものである(以下、「無効理由1-2」という。)。
(3)甲第9号証の1に示されたサンダルに係る発明は、本件特許に係る出願前に公然知られたものであって、本件特許発明7は、甲第1号証(特許異議申立書(異議2000-72550))中の甲第5号証記載の番号5869で示された商品に係る発明および甲第9号証の1に示されたサンダルに係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明7は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるべきものである(以下、「無効理由1-3」という。)。
(4)請求項7について、表皮3を横断面山型に湾曲させるための構成および「当接」についての記載が不明瞭であるから、特許を受けようとする発明が不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許発明7は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効にされるべきものである(以下、「無効理由1-4」という。)。

2 本件特許発明3について
(1)甲第7号証の写真で示された女性用ブーツに係る発明は、本件特許に係る出願前に公然知られたものであって、本件特許発明3は当該発明と同一であるから、本件特許発明3は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるべきものである(以下、「無効理由2-1」という。)。
(2)甲第9号証の1に示されたサンダルに係る発明は、本件特許に係る出願前に公然知られたものであって、本件特許発明3は、甲第1号証(特許異議申立書(異議2000-72550))中の甲第5号証記載の番号5869で示された商品に係る発明および甲第9号証の1に示されたサンダルに係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明3は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるべきものである(以下、「無効理由2-2」という。)。
(3)請求項3について、表皮3を横断面山型に湾曲させるための構成および「当接」についての記載が不明瞭であるから、特許を受けようとする発明が不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許発明3は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効にされるべきものである(以下、「無効理由2-3」という。)。

3 本件特許発明9について
甲第1号証(特許異議申立書(異議2000-72550))中の甲第5号証記載の番号5869で示された商品に係る発明は、本件特許に係る出願前に公然知られたものであって、本件特許発明9は当該発明と同一、または、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明9は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるべきものである(以下、「無効理由3」という。)。

(証拠方法)
[書証]
甲第1号証:特許第3027578号に係る平成12年6月26日付提出の特許異議申立事件(異議2000-72550)記録写し
甲第3号証の1?3:登記簿謄本、稟議書
甲第4号証:世界大百科事典29 1977年印刷 平凡社発行 第351頁から第352頁
甲第5号証の1:特許技術用語集第2版2000年8月28日 日刊工業新聞社発行 第136頁
甲第5号証の2:和英特許・技術用語辞典 2005年9月25日 株式会社工業調査会 第130頁及び「はじめに」の欄
甲第7号証:野村貿易(株)が所蔵する女性用ブーツ及び表皮の突条裏面に接着された紐状体を接着剤を塗布した帯体で被覆し、紐状体を挟んで上下両脇にミシン糸目が形成されている状態を示す写真
甲第8号証:雑誌フットウエア・プレス1996,7月 エフワークス(株)発行
甲第9号証の1:(株)富士所蔵の婦人サンダル写真
甲第9号証の3:1992年12月マルチュウ産業(株)発行の「1993年春夏マルチウ産業フットウエアコレクション」商品カタログ抜粋
甲第9号証の4:甲第9号証の3のカタログに掲載される前のサンダルの商品見本写真とその写真裏側に印字されている記号及び番号
甲第9号証の5:甲第9号証の1の写真の裏面

[人証]
証人1 野村宜秀
証人2 野村次郎
証人3 清水健二
証人4 水原庸介
証人5 村田勝明

B 被請求人の主張
これに対して、被請求人の主張は、つぎのとおりである。
本件特許発明は、進歩性を備えたものであり、また、本件特許発明は明確であるから、本件特許は無効となり得ず、維持されるべきものである。

(証拠方法)
[書証]
乙第1号証:平成22年4月6日付け報告書

IV 各甲号証に記載されている事項
A 甲第1号証
A-1 甲第1号証中の甲第1号証(以下、「甲1-1」という。)
甲1-1は、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物であって、その「シューズ協力/PiPiNELA(スタディー)」と記載されたページには、履物を身につけた女性の写真が掲載されている。そして、その写真から、左右それぞれの履物底部側面に2本の破線が水平方向に設けられていることが窺える。

A-2 甲第1号証中の甲第2号証(以下、「甲1-2」という。)
1 甲1-2は、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物であって、その「女のコのカモフラージュ柄」と記載された欄には、履物を身につけた女性の写真が掲載されている。そして、その写真から、履物底部側面に線が水平方向に設けられていることが窺える。
2 「この秋欲しいアイテムは本格的なインディアンポシェット」と記載された欄には、履物を身につけた女性の写真が掲載されている。そして、その写真から、左右それぞれの履物底部側面に線が水平方向に設けられていることが窺える。

A-3 甲第1号証中の甲第4号証の1?2(以下、「甲1-4の1?2」といい、纏めたものを「甲1-4」という。)
甲1-4は、左上部分に「PiNELA 97’A/W」と記載された靴を側面からみたスケッチであり、当該靴の靴底側面に水平方向に破線及び突条の部分が設けられていることが窺える。

A-4 甲第1号証中の甲第5号証(以下、「甲1-5」という。)
1 甲1-5は、「商品リスト」をタイトルとするものであって、上段左側には、5867なる数字を書き込まれた、外観デザインが大略一致し色と素材が異なる左足のみの3つの靴の写真が、上段右側にブランド、品番、価格、単価、カラーを書き込む欄とS,M,L,LLと合計を書き込む表が記載されており、中段左側には、5868なる数字を書き込まれた、外観デザインが大略一致し色と素材が異なる左足のみの4つの靴の写真が、中段右側にブランド、品番、価格、単価、カラーを書き込む欄とS,M,L,LLと合計を書き込む表が記載されており、下段左側には、5869なる数字を書き込まれた、外観デザインが大略一致し色と素材が異なる左足のみの4つの靴の写真が、下段右側にブランド、品番、価格、単価、カラーを書き込む欄とS,M,L,LLと合計を書き込む表が記載されている。
2 5869なる数字を書き込まれた写真についてみると、一番右側の靴の底部には、間隔をおいて略平行な2本の破線が略水平方向に二組走っており、また写真における底部の前端及び後端の2本の破線の間が他の部分と比べて突状になっていることが窺える(以下、写真における、5867?5869なる数字を書き込まれた靴を、それぞれ「5867?5869の商品」という。)。

A-5 甲第1号証中の甲第6号証の1?20(以下、「甲1-6の1?20」といい、纏めたものを「甲1-6」という。)
1 甲1-6の1は「売掛台帳」なるタイトルの下、左上に「東邦レマック株式会社 東京北支店営業1課様」、右上に「株式会社ハスキー」、「御請求日98.9.21 締日17 お支払予定日98.10.10」「下記の通りご請求申し上げます。」として、「日付、伝票番号、取引区分、品番、色名、数量、単価、売上額、入金額」の欄を有する表が記載されており、その表の日付98.9.1の段に、伝票番号の欄に0000302685?0000302690の数字、品番の欄に05867と05869の数字、さらには色名、数量、単価、売上額が各々記載されている。
2 甲1-6の2?7はいずれも「納品書(控)」「1998年9月1日」として左上に「支店課名 東京北支店営業1課」、中上に「納品日 1998年9月1日」右上に「東邦レマック株式会社」の記載があり、またこれらの各々には、伝票番号No.として302685?302690の番号が記載され、品番として05867、05869の数字さらには色、数量単価、金額が記載されている。そして、甲1-6の2?7の記載内容は甲1-6の1の記載内容と整合している。
3 甲1-6の8は「売掛台帳」なるタイトルの下、左上に「銀座エスペランサ 第二商品部様」、右上に「株式会社ハスキー」、「御請求日98.9.22 締日20 お支払予定日98.10.20」「下記の通りご請求申し上げます。」として、「日付、伝票番号、取引区分、品番、色名、数量、単価、売上額、入金額」の欄を有する表が記載されており、その表の日付98.8.28の段に、伝票番号の欄に0001768574及び0001768587なる数字、品番の欄に05867、05868、05869なる数字、さらには色名、数量、単価、売上額が記載されている。
4 甲1-6の9は「売掛台帳」なるタイトルの下、左上に「(株)ミヤタ 第二事業部様」、右上に「株式会社ハスキー」、「御請求日98.9.17 締日14 お支払予定日98.10.10」「下記の通りご請求申し上げます。」として、「日付、伝票番号、取引区分、品番、色名、数量、単価、売上額、入金額」の欄を有する表が記載されており、その表の日付98.8.28の段に、伝票番号の欄に0000251685、品番の欄に05867と05869なる数字、さらには色名、数量、単価、売上額が記載されている。
5 甲1-6の10は「売掛台帳」なるタイトルの下、左上に「株式会社丸大本社 1課一般店様」、右上に「株式会社ハスキー」、「御請求日98.9.21 締日17 お支払予定日98.9.30」「下記の通りご請求申し上げます。」として、「日付、伝票番号、取引区分、品番、色名、数量、単価、売上額、入金額」の欄を有する表が記載されており、その表の日付98.8.28と98.9.12の段に、伝票番号の欄に0000004701?0000004703、0000101061なる数字、伝票番号に対応する品番の欄に05867、05868、05869なる数字、さらには色名、数量、単価、売上額が記載されている。
6 甲1-6の11?14はいずれも「売上伝票(1)」として左上に「得意先名 株式会社丸大本社 1課一般店様」、中上に「出荷日付」として「98年8月28日」又は「98年9月12日」、右上に「納入業者 株式会社ハスキー」の記載があり、またこれらの各々には、伝票番号として004701?004703、及び101061の番号が記載され、品番として005867、005868及び005869なる数字、さらには色、数量、単価、金額が記載されている。そして、甲1-6の11?14の記載内容は甲1-6の10の記載内容と整合している。
7 甲1-6の15は「売掛台帳」なるタイトルの下、左上に「株式会社一徳様」、右上に「株式会社ハスキー」、「御請求日98.9.22 締日20 お支払予定日98.10.15」「下記の通りご請求申し上げます。」として、「日付、伝票番号、取引区分、品番、色名、数量、単価、売上額、入金額」の欄を有する表が記載されており、その表の日付98.9.9と98.9.12の段に、伝票番号の欄に0010001263、0010001264、0011003708なる数字、品番の欄に05867、05869なる数字、さらには色名、数量、単価、売上額が記載されている。
さらに甲第6号証の16、17はいずれも「納品書(控)」として左上に「株式会社一徳様」、中上に「98年9月9日」又は「98年9月12日」、右上に「株式会社ハスキー」の記載があり、また右上にNo.0010001263又はNo.0011003708の番号が記載され、品番として05867、05869なる数字、さらには色、数量、単価、金額が記載されている。そして、甲1-6の16,17の記載内容は甲1-6の15の記載内容と整合している。
8 甲1-6の18は「売掛台帳」なるタイトルの下、左上に「株式会社イヨマック様」、右上に「株式会社ハスキー」、「御請求日98.10.2 締日31 お支払予定日98.10.15」「下記の通りご請求申し上げます。」として、「日付、伝票番号、取引区分、品番、色名、数量、単価、売上額、入金額」の欄を有する表が記載されており、その表の日付98.9.12と98.9.16の段に、伝票番号の欄に0011003706及び0010001323なる数字、品番の欄に05869なる数字、さらには色名、数量、単価、売上額が記載されている。
9 甲1-6の19、20はいずれも「納品書(控)」として左上に「株式会社イヨマック様」、中上に「98年9月12日」又は「98年9月16日」、右上に「株式会社ハスキー」の記載があり、また右上にNo.0011003706又はNo.0010001323の番号が記載され、品番の欄に05869なる数字さらには色、数量、単価、金額が記載されている。そして、甲1-6の19,20の記載内容は甲1-6の18の記載内容と整合している。

A-6 甲第1号証中の甲第7号証の1及び2(以下、「甲1-7の1及び2」といい、纏めたものを「甲1-7」という。)
甲1-7は、靴を側部から撮影したものであって、靴底部分に糸で縢った布部材を有していることが窺える。

B 甲第3号証の3
甲第3号証の3は、左側側部分に「2010年2月18日18時08分 東邦レマック(株)海外部」と記載され、タイトルを「稟議書」とするものであって、当該稟議書の上方部分には、「件名 婦人靴メーカー新規口座開設の件」、「起案10年2月10日」と記載され、上方部分の枠内に相手先として「社名野村ケミカル株式会社 代表者野村次郎」と記載され、中央部分の枠内に、「(婦人サンダル製造)」及び「※取り扱いアイテム・・・婦人ケミカル」と記載されている。

C 甲第7号証
甲第7号証は女性用ブーツを撮影した写真であり、上段と中段にそれぞれ2枚、下段に1枚の合計5枚の写真が載せられている。そして、それぞれの写真から次の1?5の事項が窺える。
1 上段左側の写真
片足の紐靴を側面から撮影したものであり、靴底の側部は表面に水平方向に4本の白い線を有していること。
2 上段右側の写真
靴底側部の表面に、縫い目と縫い目との間が凸状となった2本1組の縫い目が2組設けられた白布部材が設けられていること、および、上記した一方の組の縫い目の糸が一部除かれるとともに前記白布部材はコ字状の切り込みが入れられて、当該白布部材がめくり上げられていること。
3 中段左側の写真
コ字状の切り込みが入れられてめくり上げた前記白布部材の下部の構造を撮影した写真であって、靴底側部の表面から内部に向かって順に、上記白布部材、棒状部材、青色布部材が配置されていること、白布部材の裏側面における棒状部材と当接する部分が横断面山型に弯曲していること、及び当該青色布部材には数個の白色の点があること。
4 中段右側の写真
コ字状の切り込みが入れられてめくり上げた前記白布部材の下部の構造を撮影した写真であって、上記白布部材に上記棒状部材が接した状態であること、及び当該青色布部材には数個の白色の点があること。
5 下段の写真
コ字状の切り込みが入れられてめくり上げた前記白布部材の下部の構造を撮影した写真であって、上記した白布部材、棒状部材及び青色布部材が積層され一体となっているとともに当該青色布部材の内側にはその表面に沿って2列の糸があること。

D 甲第8号証
甲第8号証は、本件特許に係る出願前に頒布された刊行物であって、クロスロード「あしながおじさん」の記載とともに片足の靴が載せられており、当該靴の靴底側面には水平方向の白い線が設けられていることが窺える。

E 甲第9号証
1 甲第9号証の1は、色違いの3足のサンダルのそれぞれの片足を並べて上面から撮影した写真であって、いずれのサンダルにも甲部材上側表面にU字状の2本の破線が施されていることが窺える。
当該写真の右下部分には、「’92 8 24」の文字が表示されていることが窺える。
2 甲第9号証の3の写真(2/3頁参照。)から、商品カタログの裏面右下部分に「PRINTED IN DEC.1992」と印刷されていることが窺える。
また、「No.1621」の欄(3/3頁参照。)の写真から、3足のサンダルのそれぞれの片足が窺える。
3 甲第9号証の4の上段左側の写真から、4足のサンダルのそれぞれの片足が窺える。
そして、当該写真の右下部分には、「’92 9 8」の文字が表示されていることが窺える。

V 当審の判断
A 請求人の提出した証拠について
1 甲1-5について
(1)公知性・公用性について
甲1-5は、甲第1号証に係る異議2000-72550号(以下、「異議事件」という。)の証人藤林勝の証言によれば、株式会社ハスキーの作成した商品リストであると認められる。
また、甲1-6には上記IVの「A-5」欄に記載したとおりの記載が認められる。
したがって、株式会社ハスキーが上記商品リストに係る品番を「05867」、「05868」及び「05869」とする商品を1998年8月28日から9月16日にかけて取引先に販売したことにより、当該商品は公然知られた状態になったと認められる。

(2)構造について
(a)「5869の商品」
甲1-5から、上記IVの「A-4」欄に記載したとおりの事項が窺える。
また、「5869の商品」は靴であるから、写真に撮されている波線は縫い目であると認められる。
しかしながら、甲1-5から「5869の商品」の靴の底部の内部構造は窺えないから、靴の底部の内部構造を特定することはできない。
甲1-1、甲1-2、甲1-4、甲7及び甲8には、「5869の商品」と類似する靴が認められるものの、その内部構造が窺えないから、これらの証拠に基づき「5869の商品」の靴の底部の内部構造を特定することもできない。

異議事件の証人三好寿弘の証言によれば、甲1-4のスケッチに基づき、靴底側面に水平方向にミシンによる縫い目と凸状の部分とを有する靴が製造されており、当該靴は「モカ縫い」と呼ばれる構造を有するものであるところ、そのモカ縫いは縫い目と凸状の部分とからなる構造であって、合成皮革と芯とを使用しアドラーミシンと呼ばれるミシン(以下、「アドラーミシン」という。)により製造される構造であると認められる。
しかしながら、証人三好寿弘の証言する上記靴が「5869の商品」であるかどうか不明であるから、その証言により「5869の商品」の靴の底部の内部構造を特定することはできない。
また、異議事件の証人藤林勝の証言によれば、甲1-7は、アドラーミシンを用いて製造された商品を壊して撮った写真であると認められる。
しかしながら、甲1-7の商品が「5869の商品」であるかどうか不明であるから、その証言により「5869の商品」の靴の底部の内部構造を特定することもできない。
したがって、これらの証人の証言に基づき、「5869の商品」の靴の底部についての内部構造を特定することもできない。

(b)「5867及び5868の商品」
上記(a)「5869の商品」と同様である。

(c)構造についてのまとめ
5867?5869の商品はいずれも靴であって、その底部の構造は、外観上、間隔をおいて略平行な2本の縫い目を略水平方向に2組設けるとともに、少なくとも当該底部の前端と後端に、それぞれの2本の縫い目の間に突条を設けたものであるが、その底部についての内部構造は特定できないものである。

(3)小括
以上を総合すると、甲1-5の5867?5869の商品は、本件特許に係る出願前に公然知られた状態になったものであるが、その底部についての内部構造は不明であって、外観上、間隔をおいて略平行な2本の縫い目を略水平方向に2組設けるとともに、少なくとも当該底部の前端と後端に、それぞれの2本の縫い目の間に突条を設けたものであることが認められるにすぎない。

2 甲第7号証に係る女性用ブーツについて
(1)口頭審理陳述要領書(6頁)によれば、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」は、野村ケミカル(株)の倉庫に片方だけ保存されていたものである。

(2)本件事件の証人野村宜秀、野村次郎及び清水健二の証言によれば、つぎの事項が認められる。

(証人野村宜秀の証言より)
(i)平成9年5月ごろから、野村宜秀の企画した靴は200点あるいは300点あり、そのうちの約3分の1は中国で生産され、その年の冬に市場に出回ったこと。ただし、中国に製造を依頼するに当たって当時の製造依頼書、指示書等の書類は現在残っていないこと。
(ii)「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」と同様の外観の女性用ブーツを中国の工場で商品として製造し東邦レマック(株)に販売したが当時の納品書、仕様書等の書類は現在残っていないこと。
(iii) 「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」は、野村宜秀の企画した靴であるが、現在一足の片側のみしか存在しないこと。
(iv)野村宜秀が企画した「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」の靴底部分は、野村宜秀が表生地の裏側にのりづけし、紐を接着し、片面にのりがついた裏側のテープをつけ、表から形を整え、その上からミシンを走らせて製造したものであること。

(証人野村次郎の証言より)
(v)平成10年頃、野村ケミカル(株)は、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」と外観同形状のブーツを中国の工場で商品として製造し東邦レマック(株)に納めたが当時の伝票等の書類は現在残っていないこと。

(証人清水健二の証言より)
(vi)平成10年頃、東邦レマック(株)は、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」と外観同形状のブーツを野村ケミカル(株)から購入したが当時の発注書類、納品書類等の書類は現在残っていないこと。

(3)甲第7号証の写真に写された女性用ブーツについて
(a)公知性・公用性について
(ア)甲第7号証の写真についてみると、当該写真が本件特許に係る出願前に撮影されたものであることを窺わせるものは見あたらない。
また、写真に写された「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」についてみると、上記IVのC欄の1?5の記載したとおりの事項が窺えるにすぎず、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」が本件特許に係る出願前のものであることを窺わせるものも見あたらない。
したがって、写真から「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」が本件特許に係る出願前のものであるとすることはできない。

(イ)証人野村宜秀の証言から、平成9年5月から平成10年にかけて女性用ブーツの企画をしたことが認められる。
しかしながら、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」は本件特許に係る出願前である、平成9年5月から平成10年にかけて企画した女性用ブーツのひとつであるとする証拠はない。
また、仮に、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」は証人野村宜秀が平成9年5月から平成10年にかけて企画した時の女性用ブーツであるとしても、本件特許に係る出願前に製造されたものかどうか不明であり、さらに倉庫に保存されていたのであるから、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」は本件特許に係る出願前に公然知られたものであるとも公然実施されたものであるともすることはできない。

また、証人野村宜秀、野村次郎及び清水健二の証言から、平成10年に「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」と外観同形状のブーツを、野村ケミカル(株)は中国の工場で商品として製造し東邦レマック(株)に販売したことが認められる。
しかしながら、上記の中国の工場で商品として製造されたものが「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」と同一構造をもつものであるかどうかは不明である。
したがって、平成10年に野村ケミカル(株)が東邦レマック(株)に女性用ブーツを販売したことに基づき、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」と同一構造のブーツは本件特許に係る出願前に公然知られたものであるとも公然実施されたものであるともすることはできない。

(ウ)請求人は、「野村宜秀(ヨシヒデ)氏は、1997年(平成9年)5月に神戸国際展示場で出展した異議甲5の女性用ブーツ(履物)(・・・)を同展示会場でみて、同様の女性用ブーツ(甲第7号証)を提供することを考えた。その作り方は甲第7号証に示す履物の製造方法である。甲第7号証は表皮の裏面の所定箇所に紐状体を糊付けし、その紐状体の背後から片面を糊付けした帯体で被覆するようにして表皮の裏面に紐状体を糊付け固定した後、表皮の表側から紐状体に沿って断面山型形状に糊付け固定して突条を形成し、最後にミシンで表皮の表側に形成された突条の上下両脇に沿って片側ずつ表皮と帯体とを縫製する2条のミシン糸目を形成したものである。」(請求書15頁)と主張している。
しかしながら、仮に、請求人の主張するとおり、女性用ブーツの企画をしたとしても、そのことから直ちに、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」が本件特許に係る出願前に公然知られたものであるとも公然実施されたものであるともすることはできないことは上記(イ)に記載したとおりである。
したがって、請求人の当該主張は理由がない。

また、請求人は、「東邦レマック株式会社は、野村ケミカル株式会社が製造した前記女性用ブーツである底部側面に突条を有しその突条の上下両脇に沿って2条のシン糸目(審決注:ミシン目の誤記と認める。)を形成したデザインを含む婦人靴等に関して商取引をするために稟議書(甲第3号証の3)を平成10年2月10日に起案し直ちに商取引を開始した。」(請求書15頁)と主張している。
しかしながら、上記稟議書には「女性用ブーツである底部側面に突条を有しその突条の上下両脇に沿って2条のミシン糸目を形成したデザインを含む婦人靴等」についての記載が見あたらないから、上記主張は何ら裏付けされたものでない。
また、仮に外観同形状のブーツが販売されたとしても、そのブーツが「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」と同一構造のブーツである証拠はない。
したがって、請求人の当該主張は理由がない。

また、請求人は、参考資料2及び3を挙げて「甲第7号証の左上の写真の右側上部にタグが付いているのがわかる。・・・このタグを見ると、品番 No9010、価格 ¥7,900,N’sMODE事業部と記載されている(・・・)。これらの記載から、本件特許出願前に、野村ケミカル社で製造販売した第7号証に示す女性用厚底ブーツはタグを付けて品番 No9010、価格 ¥7,900で、商品名 N’sMODEとして販売していたことが判る。」と主張し、また、参考として参考資料4を挙げている。
しかしながら、甲第7号証の左上の写真の右側上部に写されたものがタグであるかどうか不明であるから、請求人の、甲第7号証の左上の写真の右側上部付いているものがタグであることを前提とする主張は、その前提において理由がない。
仮に、請求人の主張するとおり、甲第7号証の左上の写真の右側上部に写されたものが商品としてのタグであって、当該タグには品番 No9010、価格 ¥7,900,N’sMODE事業部の記載があるとしても、当該記載自体は、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」が本件特許に係る出願前のものであることを示すものではなく、また、参考資料4は、女性用ブーツについてのものではないから、当該資料は上記判断を左右するものではない。
したがって、請求人の当該主張は理由がない。

また、請求人は、「甲第7号証に示す女性用厚底靴を証人野村宜秀氏が自ら平成9年に200足製造したことを証言している。」(上申書3頁)と主張している。
しかしながら、仮に、請求人の主張するとおり、証人野村宜秀が「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」と同一構造のブーツを平成9年に200足製造したとしても、そのことが、甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体が上記製造された200足のうちのひとつであるといえないのみならず、200足製造したからといって公然と製造されたともいえない。
したがって、請求人の当該主張は理由がない。

(エ)以上のとおりであるから、請求人の提出した証拠及び証人の証言によって、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」又はそれと同一構造のブーツが本件特許に係る出願前に公然知られたものであるとも公然実施されたものであるともすることはできない。

(b)構造及び製造方法について
上記IVのC欄の1及び5の記載から、白布部材、棒状部材及び青色布部材とからなるもの(以下、「被覆部材」という。)は、女性用ブーツそれ自体の靴底の側部に設けられているものである。
同欄の1の記載から、被覆部材は略水平方向の凸状を有しているものである。
同欄の2及び5の記載を併せてみて、靴底側部の表面において縫い目を構成する糸は、白布部材と青色布部材とを縫製しているものである。そして、白布部材、棒状部材及び青色布部材が積層されるものであるところ、白布部材の凸状部分は、棒状部材の両側に沿ってその白布部材と青色布部材とがミシンにより縫製されることによりなされているものである。さらに、青色布部材は、横断面山型に弯曲した白布部材の弯曲部に対応する裏面に当接しているものである。
したがって、上記した凸状部分は、白布部材の裏面に配設された棒状部材にて該白布部材を横断面山型に弯曲させると共に、該横断面山型に弯曲した白布部材の弯曲部に対応する裏面に青色布部材を当接して、当該凸状の上下両脇に沿って上記白布部材と上記青色布部材とをミシンにより2条の縫い目にて縫製して内部に棒状部材を閉じ込めることによりなされているものである。

以上から、証人野村宜秀の証言から得られた事項を併せてみて、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」の構造及び製造方法は次のとおりのものと認められる。

(構造について)
「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」の靴底は、当該靴底の側部に設けられる被覆部材が、略水平方向の凸状部分を有し、該凸状部分が、白布部材の裏面に配設された棒状部材にて該白布部材を横断面山型に弯曲させると共に、該横断面山型に弯曲した白布部材の弯曲部に対応する裏面に青色布部材を当接して、当該凸状部分の上下両脇に沿って上記白布部材と上記青色布部材とを2条のミシン糸目にて縫製して内部に棒状部材を閉じ込めることによりなされている構造のものである。
(製造方法について)
「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」の靴底は、白布部材の裏面に棒状部材を当接して該白布部材を該棒状部材に沿わせて横断面山型に弯曲し、上記横断面山型に弯曲した白布部材の弯曲部に対応する裏面に青色布部材を当接して、凸状部分を形成し、該凸状部分の上下両脇に沿って上記白布部材と上記青色布部材とを2条のミシン糸目にて縫製して内部に棒状部材を閉じ込めて、被覆部材を形成することにより製造されたものである。

(c)小括
以上を総合すると、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」は、その靴底は上記(b)に記載した構造を有するものであること、及び、製造方法によるものであるが、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」又はそれと同一構造のブーツは、本件特許に係る出願前に公然知られたものであるとも公然実施されたものであるともすることはできない。

3 甲第9号証の1に係るサンダルについて
(1)本件事件の証人水原庸介及び村田勝明の証言によれば、つぎの事項が認められる。

(証人水原庸介の証言より)
(i)甲第9号証の1の写真は、証人水原庸介が村田商店から購入した甲皮部分を用いて完成させたサンダルを撮影したものであること。
(ii)証人水原庸介は、1992年度に、村田商店から甲皮部分を購入して完成させたサンダルは約800足あり、それらを水星産業に納品したこと。ただし、水星産業に納品したことについての書類は現在残っていないこと。

(証人村田勝明の証言より)
(iii) 甲第9号証の1に係るサンダルの甲皮部分は証人村田勝明が作成したこと。
(iv)証人村田勝明は800足分の甲皮部分を作成し、水原商店に納品したこと。
(v)上記した甲皮部分にはモカ縫いと呼ばれる加工が施されており、その加工は甲皮の表生地に裏から線を書き、のりを付けた紐をその線の上に貼り、更に布を貼り、裏地を貼り、ミシンにより縫製をすることによるものであること。また、上記した紐の上に貼る布は表生地の裏側全面に貼られたものであること。上記した加工は少なくとも30年前から行われていたものであること。

(2)公知性・公用性について
証人水原庸介及び村田勝明の証言から、甲第9号証の1に写されたサンダルそれ自体は、証人村田勝明が甲皮部分を作成し、証人水原庸介が当該甲被部分を用いて完成させたものであると認められる。
また、証人水原庸介が、1992年度に証人村田勝明から甲皮部分を購入して800足のサンダルを完成し、水星産業に納品したと認められる。
一方、上記IVのE欄の1に記載したとおり、甲第9号証の1の写真には「’92 8 24」の文字が表示されている。
ところで、被請求人は、甲第9号証の1の写真に表示された「’92 8 24」について、「甲9-1が本件特許出願前に販売されていた客観的な証拠はない。写真右下の「’92 8 24」の表示が、カメラの設定により自由に変更可能であることは言うまでもない。」(答弁書10頁、陳述要領書8頁、上申書5?6頁)と主張している。
しかしながら、証人水原庸介の証言と証人村田勝明の証言とからみて甲第9号証の1に係るサンダルが、1992年に製造されたと認められるところ、甲第9号証の1の写真右下に「’92 8 24」の表示がされているのであるから、当該写真はその表示のとおり1992年8月24日に撮影されたものであるとするのが自然である。
したがって、被請求人の当該主張は理由がない。

以上から、甲第9号証の1に係るサンダルは、証人水原庸介が1992年当時に製造し販売したことにより、公然知られた状態になったものと認められる。

(3)構造及び製造方法について
甲第9号証の1の写真から、上記IVのE欄の1に記載したとおりの構造が窺える。
そして、証人村田勝明の証言から、甲第9号証の1に係るサンダルの甲部分は、モカ縫いと呼ばれる加工が施されており、その加工方法は甲皮の表生地に裏から線を書き、のりを付けた紐をその線の上に貼り、更に布を貼り、裏地を貼り、ミシンにより縫製をするものであること、また上記した紐の上に貼る布は表生地の裏側全面に貼られたものであることが認められる。
したがって、甲第9号証の1に係るサンダルの構造及び製造方法は次の通りのものと認められる。

(構造について)
甲部分にモカ縫いと呼ばれる加工が施されたサンダルであること。
(製造方法について)
甲部分のモカ縫いは、甲皮の表生地に裏から線を書き、のりを付けた紐をその線の上に貼り、更に表生地の裏側全体に布を貼り、裏地を貼り、ミシンにより縫製をするものであること。

(4)小括
以上から、甲第9号証の1に係るサンダルは、本件特許に係る出願前に公然知られた状態になったものであって、その構造及び製造方法は上記(3)に記載したとおりのものである。

B 本件特許発明の新規性進歩性について
1 本件特許発明7について
(1)甲1-5の「5867?5869の商品」との関係について
(1-1)上記A1(3)に記載したとおり、甲1-5の5867?5869の商品は、株式会社ハスキーが1998年8月28日から9月16日にかけて販売した靴であるから本件特許に係る出願前に公然知られた状態になったものであるが、その底部についての内部構造は不明であって、外観上、間隔をおいて略平行な2本の縫い目を略水平方向に2組設けるとともに、少なくとも当該底部の前端と後端に、それぞれの2本の縫い目の間に突条を設けたものであることが認められるにすぎない。
すなわち、甲1-5には、「5867?5869の商品」の製造方法について記載されているとは認められない。

(1-2)請求人は、「異議甲5、商品リスト58679(審決注:5867の誤りと認める。)?5869の商品は、・・・表皮3の裏面3aの所定箇所に紐状体6を糊付けして位置ずれしないように仮止めする工程と、・・・表皮の表側からアドラーミシンで突条4の上下両脇に沿って2条のミシン糸目5、5にて縫製すると同時に表皮の裏側で紐状体6をミシン糸でジグザグ状にかがりながら固定する工程からなる。」と主張している(請求書14頁、陳述要領書4?5頁)。

そこで、事案に鑑み、「5867?5869の商品」が、請求人の上記主張のとおり、靴底側面の凸部について、「表皮の裏面の所定箇所に紐状体を糊付けして位置ずれしないように仮止めする工程と、表皮の表側からアドラーミシンで上記突条の上下両脇に沿って2条のミシン糸目にて縫製すると同時に上記表皮の裏側で上記紐状体をミシン糸でジグザグ状にかがりながら固定する工程と」を有するものであるとして、さらに検討する。

(a)本件特許発明7は、表皮3の内側に紐状体6を閉じ込めるために、「上記横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して、突条4を形成し、該突条4の上下両脇に沿って上記表皮3と上記帯体8とを2条のミシン糸目5,5にて縫製して内部に紐状体6を閉じ込めて、」を発明を特定するための事項として有するものである。
一方、「5867?5869の商品」は、表皮の内側に紐状体を閉じ込めるために、表皮を2条のミシン糸目にて縫製すると同時に当該表皮の裏側で上記紐状体をミシン糸でジグザグ状にかがっているものである。
そうすると、「5867?5869の商品」は、本件特許発明7の、表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに当接する帯体8を有しているとはいえない。
したがって、本件特許発明7は、「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとすることはできない。

また、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証の1?2、甲8号証及び甲第9号証の1には、本件特許発明7の、表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに当接する帯体8についての記載も示唆も見あたらない。
さらに、甲第7号証に係る発明は、上記A2(3)(a)に記載したとおり、本件特許に係る出願前に公然知られた発明であるとも公然実施された発明であるともすることはできない。
したがって、本件特許発明7は、「5867?5869の商品」に係る発明及びこれらの証拠に係る発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

(b)請求人は、「ハスキー社の上記商品の突条4の形成は請求項7に記載された履物底部の製造方法よりも突条4の形成及びミシン糸目の形成が容易である。
請求項7では、紐状体6を、糊付けした帯体8で表皮3の裏面3aに固定する工程が1つ増えることとなりアドラーミシンによる工程よりも余分な工程が増えることとなり、かつミシン掛けも突条4を挟んだ上下両脇において片側ずつミシン糸目5、5を形成する工程となり、よりー層手間のかかる作業となるのに対してハスキー社が採用したアドラーミシンの場合は、紐状体6の固定と上下のミシン糸目5、5の形成が同時にでき、製造工程の一層の短縮ができ、製造が容易である。」(請求書14頁)と主張している。
しかしながら、製造が容易であるかどうかということと、容易に発明をすることができるかどうかとは関係しない事項であるから、請求人の当該主張は理由がない。

また、請求人は、甲第9号証の1を挙げて、「請求項7の発明は本出願前に公知である婦人サンダルの甲の部部(審決注:部分の誤りと認める。)に形成した突条及びその両脇に形成するミシン糸目の形成方法を同じ女性用ブーツの底部に転用したに過ぎないものであり、その転用による発明の効果に何ら特有の効果を有しない。」(請求書16頁)と主張している。
しかしながら、甲第9号証の1に係るサンダルは、上記A3(3)に記載したとおり、紐の上に貼る布は表生地の裏側全面に貼られるものであるから、甲第9号証の1に係る発明の紐の上に貼る布が本件特許発明の帯体8に対応するものであるとしても、本件特許発明7のように、表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに当接することについての記載も示唆もあるとすることはできない。
よって、請求人の当該主張は理由がない。

以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がない。

(c)以上のとおりであるから、「5867?5869の商品」の商品が、靴底側面の凸部について、「表皮の裏面の所定箇所に紐状体を糊付けして位置ずれしないように仮止めする工程と、表皮の表側からアドラーミシンで上記突条の上下両脇に沿って2条のミシン糸目にて縫製すると同時に上記表皮の裏側で上記紐状体をミシン糸でジグザグ状にかがりながら固定する工程と」を有するものであるとしても、本件特許発明7は「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとも当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(1-3)以上のとおりであるから、本件特許発明7は、「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとも当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。
また、本件特許発明7は、「5867?5869の商品」に係る発明と甲9号証の1に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることもできない。

(2)甲第7号証との関係について
上記A2(3)(c)に記載したとおり、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」又はそれと同一構造のブーツは、本件特許に係る出願前に公然知られたものとも公然実施されたものともすることはできないから、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」又はそれと同一構造のブーツに係る発明に基づいて本件特許発明7は本件特許に係る出願前に公然知られた発明であるとすることはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明7は「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとも当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできず、また、本件特許発明7は「5867?5869の商品」に係る発明と甲9号証の1に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることもできず、また、甲第7号証の写真で示された女性用ブーツに係る発明に基づいて本件特許発明7は本件特許に係る出願前に公然知られた発明であるとすることもできない。

2 本件特許発明3について
(1)甲1-5の「5867?5869の商品」との関係について
(1-1)上記A1(3)に記載したとおり、甲1-5の5867?5869の商品は、株式会社ハスキーが1998年8月28日から9月16日にかけて販売した靴であるから本件特許に係る出願前に公然知られた状態になったものであるが、その底部についての内部構造は不明であって、外観上、間隔をおいて略平行な2本の縫い目を略水平方向に2組設けるとともに、少なくとも当該底部の前端と後端に、それぞれの2本の縫い目の間に突条を設けたものであることが認められるにすぎない。
すなわち、甲1-5には、「5867?5869の商品」の底部の内部構造について記載されているとは認められない。

(1-2)事案に鑑み、甲1-4のスケッチに基づき製造された、靴底側面に水平方向にミシンによる縫い目と凸状の部分とを有する靴が「5867?5869の商品」であり(異議事件の証人三好寿弘の証言を参照。)、また、甲1-7は「5867?5869の商品」である(異議事件の証人藤林勝の証言を参照。)として、すなわち、「5867?5869の商品」が、靴底側面の凸部について、「表皮の裏面の所定箇所に紐状体を糊付けして位置ずれしないように仮止めする工程と、表皮の表側からアドラーミシンで上記突条の上下両脇に沿って2条のミシン糸目にて縫製すると同時に上記表皮の裏側で上記紐状体をミシン糸でジグザグ状にかがりながら固定する工程と」を有するものであるとして、さらに検討する(請求書14頁、18?19頁及び陳述要領書4?5頁の記載も参照。)。

(a)本件特許発明3は、表皮3の内部に紐状体6を閉じ込めるために、「該横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して、該突条4の上下両脇に沿って上記表皮3と上記帯体8とを2条のミシン糸目5,5にて縫製して内部に紐状体6を閉じ込めて」を発明を特定するための事項として有するものである。
一方、「5867?5869の商品」は、表皮の内側に紐状体を閉じ込めるために、表皮を2条のミシン糸目にて縫製すると同時に当該表皮の裏側で上記紐状体をミシン糸でジグザグ状にかがっているものである。
そうすると、「5867?5869の商品」は、本件特許発明3の、表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに当接する帯体8を有しているとはいえない。
したがって、本件特許発明3は、「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとすることはできない。

(b)甲第9号証の1に係る発明の紐の上に貼る布が本件特許発明7の帯体8に対応するものであるとしても、甲第9号証の1に係る発明の紐の上に貼る布は表生地の裏側全面に貼られるものであるから、本件特許発明3のように、表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに当接するものとはいえない。
また、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証の1?2、甲8号証には、本件特許発明3の、表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに当接する帯体8についての記載も示唆も見あたらない。
さらに、甲第7号証に係る発明は、上記A2(3)(a)に記載したとおり、本件特許に係る出願前に公然知られた発明であるとも公然実施された発明であるともすることはできない。
したがって、本件特許発明3は、「5867?5869の商品」に係る発明及びこれらの証拠に係る発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

(c)以上のとおりであるから、「5867?5869の商品」が、靴底側面の凸部について、「表皮の裏面の所定箇所に紐状体を糊付けして位置ずれしないように仮止めする工程と、表皮の表側からアドラーミシンで上記突条の上下両脇に沿って2条のミシン糸目にて縫製すると同時に上記表皮の裏側で上記紐状体をミシン糸でジグザグ状にかがりながら固定する工程と」を有するものであるとしても、本件特許発明3は「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとも当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(1-3)以上のとおりであるから、本件特許発明3は、「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとすることも当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
また、本件特許発明3は、「5867?5869の商品」に係る発明と甲9号証の1に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

(2)甲第7号証との関係について
上記A2(3)(c)に記載したとおり、「甲第7号証の写真に写された女性用ブーツそれ自体」又はそれと同一構造のブーツは、本件特許に係る出願前に公然知られたものとも公然実施されたものともすることはできない。

請求人は、「請求項3の構成中、「横断面山型に湾曲した表皮3の湾曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して、該突条4の上下両脇に沿って上記表皮3と上記帯体8とを2条のミシン糸目5、5にて縫製して内部に紐状体6を閉じ込めて構成されている」構成は、先に本件請求項7で記載したように本件出願前に野村ケミカル株式会社が本件請求項7に係る発明と実質同一の靴を製造し、この製造した商品を東邦レマック株式会社に卸し、東邦レマック株式会社が各小売店に販売した事実から、本出願前に公知、公用の技術である。」と主張している(請求書19頁、陳述要領書13?15頁)。
しかしながら、上記A2(3)(a)に記載したとおりであるから、当該主張は理由がない。

したがって、「甲第7号証の写真で示された女性用ブーツそれ自体」又はそれと同一構造のブーツに係る発明は、本件特許に係る出願前に公然知られた発明であるとも公然実施された発明であるともすることはできないから、その発明に基づいて本件特許発明3は本件特許に係る出願前に公然知られた発明であるとも公然実施された発明であるともすることはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明3は「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとすることも当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできず、また、本件特許発明3は「5867?5869の商品」に係る発明と甲9号証の1に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできず、また、甲第7号証の写真で示された女性用ブーツに係る発明は本件特許に係る出願前に公然知られたものでないから、その発明に基づいて本件特許発明3は公然知られた発明であるとすることもできない。

3 本件特許発明9について
(1)甲1-5の「5867?5869の商品」との関係について
上記A1(3)に記載したとおり、甲1-5の5867?5869の商品は、株式会社ハスキーが1998年8月28日から9月16日にかけて販売した靴であるから本件特許に係る出願前に公然知られた状態になったものであるが、その底部についての内部構造は不明であって、外観上、間隔をおいて略平行な2本の縫い目を略水平方向に2組設けるとともに、少なくとも当該底部の前端と後端に、それぞれの2本の縫い目の間に突条を設けたものであることが認められるにすぎないものである。
すなわち、甲1-5には、「5867?5869の商品」の製造方法について記載されているとは認められない。

(2)事案に鑑み、甲1-4のスケッチに基づき製造された、靴底側面に水平方向にミシンによる縫い目と凸状の部分とを有する靴が「5867?5869の商品」であり(異議事件の証人三好寿弘の証言を参照。)、また、甲1-7は「5867?5869の商品」である(異議事件の証人藤林勝の証言を参照。)として、すなわち、「5867?5869の商品」の製造方法が、靴底側面の凸部について、「表皮の裏面の所定箇所に紐状体を糊付けして位置ずれしないように仮止めする工程と、表皮の表側からアドラーミシンで上記突条の上下両脇に沿って2条のミシン糸目にて縫製すると同時に上記表皮の裏側で上記紐状体をミシン糸でジグザグ状にかがりながら固定する工程と」を有するとして、さらに検討する(請求書14頁、20?21頁及び陳述要領書4?5頁の記載も参照。)。

(a)本件特許発明9は、ミシン糸目5,5と紐状体6について、「表皮3に所定幅Wをもって平行なミシン糸目5,5を形成し、上記表皮3の上記ミシン糸目5,5によって区画される内側範囲Sの裏面3aに紐状体6を接着して、」を発明を特定するための事項として有するものである。
すなわち、本件特許発明9は、「表皮3に所定幅Wをもって平行なミシン糸目5,5を形成し、」の工程があり、その後に「上記表皮3の上記ミシン糸目5,5によって区画される内側範囲Sの裏面3aに紐状体6を接着して、」の工程がある製造方法である。
これに対し、「5867?5869の商品」は、ミシン糸目と紐状体について、表皮を2条のミシン糸目にて縫製すると同時に当該表皮の裏側で上記紐状体をミシン糸でジグザグ状にかがっているものである。
そうすると、「5867?5869の商品」は、「表皮に所定幅をもって平行なミシン糸目を形成し、」の工程と、「上記表皮の上記ミシン糸目によって区画される内側範囲の裏面に紐状体を接着して、」の工程とを有する製造方法によるものといえないことは明らかである。
したがって、本件特許発明9は、「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとすることはできない。

また、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証の1?2及び甲8号証にも、本件特許発明9の、「表皮に所定幅をもって平行なミシン糸目を形成し、」の工程と、「上記表皮の上記ミシン糸目によって区画される内側範囲の裏面に紐状体を接着して、」の工程とを別々に有する製造方法についての記載も示唆も見あたらない。
また、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証の1?2、甲8号証及び甲第9号証の1には、本件特許発明9の、表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに当接する帯体8についての記載も示唆も見あたらない。
さらに、甲第7号証に係る発明は、上記A2(3)(a)に記載したとおり、本件特許に係る出願前に公然知られた発明であるとも公然実施された発明であるともすることはできない。
したがって、本件特許発明9は、「5867?5869の商品」に係る発明及びこれらの証拠に係る発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

(b)請求人は、「請求項9に係る発明の履物低部の製造方法において、表皮3に略水平方向の突条4を形成する場合にどの位置に突条4を形成するかの位置決めは当業者が当然に配慮することであり、突条4の上下両脇に沿ってミシン糸目5、5を先に形成するか後で形成するかはどのような作業工程を採用するかにより決まるものである。
請求項9に係る発明は、極めて単純に紐状体6をミシン糸目5、5で区画される内側範囲Sの裏面3a側に接着剤で固定するだけの作業であるからミシン糸目5、5の形成を先にしたに過ぎない。」(請求書21頁)と主張している。
しかしながら、上記したとおり、いずれの証拠にも、本件特許発明9に係る、「表皮3に所定幅Wをもって平行なミシン糸目5,5を形成し、」の工程があり、その後に「上記表皮3の上記ミシン糸目5,5によって区画される内側範囲Sの裏面3aに紐状体6を接着して、」の工程がある製造方法についての記載も示唆もないのであるから、請求人の当該主張は理由がない。

(c)よって、「5867?5869の商品」の商品の製造方法が、靴底側面の凸部について、「表皮の裏面の所定箇所に紐状体を糊付けして位置ずれしないように仮止めする工程と、表皮の表側からアドラーミシンで上記突条の上下両脇に沿って2条のミシン糸目にて縫製すると同時に上記表皮の裏側で上記紐状体をミシン糸でジグザグ状にかがりながら固定する工程と」を有する製造方法であるとしても、本件特許発明9は、「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとも、また、当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(3)以上のとおりであるから、本件特許発明9は「5867?5869の商品」に係る発明と同一であるとも当該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、請求人のいずれの主張も理由がなく、「無効理由1-1」?「無効理由1-3」、「無効理由2-1」?「無効理由2-2」及び「無効理由3」により、本件特許発明7、3及び9についての特許を無効とすることはできない。

C 特許請求の範囲の記載について
1 本件特許発明7について
(1)請求人は、「(k)また、請求項7に係る発明は、表皮3の裏面3aに紐状体6を当接して該表皮3を該紐状体6に沿わせて横断面山型に湾曲し、と記載している・・・。しかし、紐状体6のみでは表皮3を横断面山型の湾曲形状に維持することはできない。表皮3の裏面3aに紐状体6を当接しただけでは両者は直ぐに離反した状態となる・・・。
(l)・・・合成皮革の厚さ1mmのシート・・・で実験しても紐状体に沿わせて横断面山型に湾曲させた状態を維持することはできなかった。
「当接」とは・・・固定する、接着するという概念は無い。・・・
(n)請求項7に係る発明は、表皮3を横断面山型に湾曲させるための構成が明確でない。」(請求書17頁)と主張している。
そこで、請求項7の記載をみると、「当接」について「表皮3の裏面3aに紐状体6を当接して該表皮3を該紐状体6に沿わせて横断面山型に弯曲し、」と記載されている。
そして、当該記載が、表皮3を横断面山型に弯曲するに際して「表皮3の裏面3aに紐状体6を当接して該表皮3を該紐状体6に沿わせ」るという技術事項を記載したにすぎず、当接のみで直ちに表皮が弯曲することまでをも意味しないことは明らかである。
また、本件特許発明7において、当該技術事項における「当接」を実現するために、接着剤で仮止めするなどの手段を講じることを排除するものでもない。
よって、請求人の「紐状体6のみでは表皮3を横断面山型の湾曲形状に維持することはできない。表皮3の裏面3aに紐状体6を当接しただけでは両者は直ぐに離反した状態となる」との主張は理由がない。

(2)請求人は、「(m)請求項7に係る発明において、上記横断面山型に湾曲した表皮3の湾曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して、と記載しているが、帯体8を単に表皮3の湾曲部7に対応する裏面3aに当接させただけでは、帯体8は表皮3の裏面3aから容易に離反してしまうことになり、その後のミシン糸目5、5による縫製作業ができない。
(n)・・・帯体8で紐状体6を表皮3の湾曲部7に対応する裏面3aに当接するだけでは作業上、帯体8が表皮3の湾曲部7に対応する裏面3aから直ぐに離反してしまい、次の作業工程に移れない。」(請求書17頁)と主張している。
しかしながら、請求項7において「上記横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して、」との記載が、「帯体8」を、「上記横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに」
当接するという技術事項を記載しているにすぎず、当接のみで帯体が表皮の裏面から離反しないことまでも意味しないことは明らかである。
また、本件特許発明7において、当該技術事項における「当接」を維持するために、接着剤で仮止めするなどの手段を講じることを排除するものでもない。
よって、請求人の当該主張は理由がない。

(3)以上のとおり、請求人の上記主張はいずれも理由がなく、無効理由1-4により、本件特許発明7についての特許を無効とすることはできない。

2 本件特許発明3について
(1)請求人は、「(f)請求項3に係る発明は、突条4が、表皮3の裏面3aに配設された紐状体6にて該表皮3を横断面出型に湾曲させると記載されているが、・・・紐状体6のみでは表皮3を横断面出型の湾曲形状に形成することはできない・・・。
(g)請求項3に係る発明は、表皮3を横断面山型に湾曲させるための構成が明確ではない。特に表皮3が本件明細書に記載されている天然皮革、合成皮革の場合、紐状体6のみでは横断面山型に湾曲させることはできない。その理由は、表皮3を紐状体6の外周面に沿って湾曲させたとしても素材の性質上、表皮3は湾曲面形状から元の平面形状に復元しようとする力が働くためである。」(請求書20頁)と主張している。
しかしながら、請求項3の「該突条4が、表皮3の裏面3aに配設された紐状体6にて該表皮3を横断面山型に弯曲させる」との記載は、表皮の裏面に配設された紐状体のみで、突状が該表皮を横断面山型に弯曲させることまでも意味するものでないことは明らかである。
また、「突条4が、表皮3の裏面3aに配設された紐状体6にて該表皮3を横断面山型に弯曲させる」ために接着剤で仮止めするなどの手段を講じることを排除するものでもない。
したがって、請求人の上記主張は理由がない。

(2)請求人は、「(h)また、請求項3に係る発明は、横断面山型に湾曲した表皮3の湾曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して、と記載しているが、「当接」とは・・・固定する、接着するという概念は無い。単に当接という記載では発明の構成が不明確である。」(請求書20頁)と主張している。
しかしながら、請求項3において「該横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して、」との記載が、「帯体8」を、「該横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに」当接するという技術事項を記載しているにすぎず、当接することが接着することによるかどうかまでも意味しないことは明らかである。
また、本件特許発明3において、当該技術事項における「当接」を維持するために、接着剤で仮止めするなどの手段を講じることを排除するものでもない。
よって、請求人の当該主張は理由がない。

(3)以上のとおり、請求人の上記主張はいずれも理由がなく、無効理由2-3により、本件特許発明3についての特許を無効とすることはできない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、請求人のいずれの主張も理由がなく、「無効理由1-4」及び「無効理由2-3」により、本件特許発明7及び3についての特許を無効とすることはできない。

VI むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許発明3、7及び9についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-11 
結審通知日 2011-01-17 
審決日 2011-02-08 
出願番号 特願平11-62219
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A43B)
P 1 113・ 111- Y (A43B)
P 1 113・ 537- Y (A43B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 敏長  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
黒石 孝志
登録日 2000-01-28 
登録番号 特許第3027578号(P3027578)
発明の名称 履物底部とその製造方法  
代理人 鴇田 將  
代理人 鴇田 將  
代理人 村林 隆一  
代理人 佐藤 潤  
代理人 鴇田 將  
代理人 鴇田 將  
代理人 井上 裕史  
代理人 鴇田 將  

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