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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1234723
審判番号 不服2008-10171  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-23 
確定日 2011-03-31 
事件の表示 特願2003-509520「アニールウェーハの製造方法及びアニールウェーハ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月 9日国際公開、WO03/03441〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年6月25日(国内優先権主張:2002年6月28日)を国際出願日とする出願であって、平成20年3月17日付けで拒絶査定がされ、それに対して、同年4月23日に審判が請求されるとともに、同年5月23日に手続補正書が提出され、その後、平成22年6月10日付けで審尋がされ、同年7月16日に回答書が提出されたものである。


第2 平成20年5月23日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

【補正の却下の決定の結論】

本件補正を却下する。

【理由】
1 補正の内容
本件補正のうち、特許請求の範囲についてする補正は、次のとおりである。
請求項1について、同項中に、「チョクラルスキー(CZ)法により作製された直径200mm以上のシリコン単結晶ウェーハ」、「酸素析出物を成長させてスリップ転位の成長を抑制すること」とあるのを、それぞれ、「チョクラルスキー(CZ)法により作製された酸素を含有する直径200mm以上のシリコン単結晶ウェーハ」、「前記CZ法により含有された酸素の析出物を成長させてスリップ転位の成長を抑制すること」と限定すること。

2 補正の目的の適否
上記補正は、補正前の請求項に規定されている技術的事項をより限定するものであり、平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、同特許法第17条の2第4項柱書きに規定する目的要件を満たす。

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、独立特許要件を満たすものであるか否かについて、更に検討する。

3 独立特許要件(進歩性)についての検討
(1)本願補正発明
本件補正による補正後の請求項1?10に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】 チョクラルスキー(CZ)法により作製された酸素を含有する直径200mm以上のシリコン単結晶ウェーハに、アルゴンガス、水素ガス、またはこれらの混合ガス雰囲気下、1100?1350℃の温度で10?600分の高温熱処理を行なうアニールウェーハの製造方法において、前記高温熱処理を行う前に、前記高温熱処理温度未満の温度でプレアニールを行なうことにより、前記CZ法により含有された酸素の析出物を成長させてスリップ転位の成長を抑制することを特徴とするアニールウェーハの製造方法。」

(2)引用例の記載と引用発明
(2-1)引用例とその記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-190954号公報(以下「引用例」という。)には、「半導体基板及びその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は当審で付加。以下同じ。)。

ア 発明の属する技術分野等
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は半導体基板およびその製造方法に関し、より詳細には外周部における酸素析出物の密度が制御された半導体基板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】LSI等の集積回路形成用基板として用いられる半導体基板の大部分はSi単結晶から製造されており、このSi単結晶は石英坩堝内に充填されたSi溶融液を回転させながら引き上げるチョクラルスキー法(CZ法)と呼ばれる引き上げ方法により形成されている。
【0003】Si単結晶をCZ法を用いて成長させると、石英坩堝自身がSi溶融液に溶解して酸素を溶出し、この酸素は固液界面からSi単結晶中に(5?20)×10^(17)個/cm^(3) 程度の濃度で取り込まれる。このうち、Si単結晶中の酸素濃度が約10×10^(17)個/cm^(3 )以上となっている場合には、LSI製造における熱処理時に酸素がSi半導体基板(以下、単に半導体基板と記す)内に析出し、SiO_(2 )構造に変化する。その結果、体積が膨張して前記酸素析出物の周囲に歪みが生じる場合があり、歪みがある臨界値を超えると転位が発生する。これらの酸素析出物及び転位が前記半導体基板の表面から数μmの範囲(LSI素子の活性領域)に存在する場合、酸化膜耐圧の低下やリーク電流の発生等が生じ、LSIにとって有害となる。
【0004】上記の理由により、近年、酸素濃度が(5?10)×10^(17)個/cm^(3 )の範囲にある半導体基板(いわゆる低酸素濃度半導体基板)がLSI等の集積回路形成用基板として用いられはじめている。この低酸素濃度半導体基板においては、LSI製造における熱処理時に酸素の析出がほとんどなく、このためLSIの製造歩留りが非常に高くなる。」
イ 発明が解決しようとする課題等
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、上記した低酸素濃度半導体基板においては、LSI製造における熱処理時(特に熱処理炉からの基板搬出中)に起きる局所的な熱応力により外周部からスリップ(転位がすべり運動してできるすべり帯)とよばれる欠陥が発生し易く、基板強度が低下し易いという課題があった。
【0006】本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、(5?10)×10^(17)個/cm^(3) の範囲の酸素を含有する半導体基板において、前記スリップが発生しにくく、基板強度が低下しにくい半導体基板及びその製造方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段及びその効果】一般にスリップの発生は下記に示すような機構によるものであると考えられている。
【0008】LSI製造における熱処理時においては、一般に半導体基板の外周部と中心部とで温度差が発生し、特に熱処理炉からの搬出時においては、半導体基板の外周部の温度が中心部の温度よりもかなり低くなる。このため、前記外周部の収縮率が前記中心部の収縮率よりも大きくなり、前記外周部には引っ張り応力が働くことになる。そこで、該引っ張り応力を緩和するために半導体基板の表面にはその表面に対して平行な60°転位の運動や螺旋転位の半導体基板内側への運動が発生する。
【0009】前記した外周部と中心部とでの温度差は特に半導体基板の直径が200mm以上である場合に顕著になり、前記転位の運動も大きな温度差に起因して発生し易くなる。
【0010】前記転位の運動の結果形成されたスリップの形状は図6に示すように一般的に線状をしている。ここで図6はスリップを説明するために示した半導体基板のX線トポグラフ像をスケッチした模式的平面図であり、半導体基板10の外周部には上記した線状のスリップ12が形成されている。スリップ12が形成されるにあたっての転位源としては、半導体基板10の外周における面取り部の加工歪み等が考えられている。
【0011】発生した転位がスリップ12となるまで運動するか否かは、半導体基板10内部の酸素濃度や酸素の析出状態に依存すると考えられている。」
「【0014】本発明者は上記した知見に基づき本発明を完成するに至った。すなわち上記目的を達成するために本発明に係る半導体基板は、(5?10)×10^(17)個/cm^(3 )の範囲の酸素を含有し、基板外周から10mm以下の範囲に多面体の酸素析出物を10^(8 )?10^(10)個/cm^(3 )の範囲の密度で含有していることを特徴としている。
【0015】上記半導体基板によれば、10^(8 )?10^(10)個/cm^(3 )の密度で含有されている前記多面体の酸素析出物がスリップとなる転位の運動を抑制するため、LSI製造における熱処理時における外周部からのスリップの発生を抑制することができる。 」
「【0018】また、本発明に係る半導体基板の製造方法は、(5?10)×10^(17)個/cm^(3 )の範囲の酸素を含有する半導体基板に、該半導体基板の外周から10mm以下の範囲に10^(18)?10^(20)個/cm^(3 )の範囲の酸素をイオン注入し、さらに窒素ガス雰囲気において750?850℃で8?16時間と、1050?1150℃で1?4時間の2段階の熱処理を施すことを特徴としている。
【0019】上記半導体基板の製造方法によれば、前記イオン注入により半導体基板の外周から10mm以下の範囲においてのみ酸素濃度を上昇させることができ、1段階目の熱処理により、前記半導体基板の表面から所定距離以上離れた領域に10^(8)?10^(10)/cm^(3) の密度を有するSiO_(2 )析出物(酸素析出物)の発生核を確実、かつ効率的に形成し得る。また、2段階目の熱処理により、前記発生核を基に前記所定密度を有する多面体のSiO_(2 )析出物を確実、かつ効率的に成長させ得る。よって半導体基板の外周から10mm以下の範囲において多面体のSiO_(2)析出物を10^(8 )?10^(10)/cm^(3 )の密度で含有させることができる。」
ウ 発明の実施の形態等
「【0030】
【実施例及び比較例】実施例では半導体基板10(Siウエハ10a)を以下に示す条件により製造した。
【0031】イオン注入源:酸素
イオン注入した酸素量:10×10^(17)個/cm^(3)加速器4における加速電圧:200keV
第一段階の熱処理温度:800℃
第一段階の熱処理時間:16時間
第二段階の熱処理温度:1100℃
第二段階の熱処理時間:1時間
また、比較例としては実施例と同様にCZ法により引き上げられたSiウエハによるものであって、上記したようなイオンの注入及び2段階の熱処理が施されていない半導体基板を製造した。」
「【0036】図4は実施例に係る半導体基板10についての上記X線トポグラフ像を示した写真である。図4から明らかなように、実施例に係る半導体基板10には前記転位がほとんど確認されず、スリップがほとんど発生していないことがわかる。
【0037】図5は比較例に係る半導体基板についてのX線トポグラフ像を示した写真である。図5から明らかなように、比較例に係る半導体基板にはその外周部から10mm以下の範囲において前記転位が高密度で確認され、スリップが発生していることがわかる。
【0038】上記したように、実施例に係る半導体基板10においては前記熱処理によってもスリップが発生することがなく、LSI製造における熱処理時においてもスリップが発生しないことが確認された。」

(2-2)引用発明
上記ア、イ及びウによれば、引用例には、次の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。

「CZ法により形成されたSi単結晶からなり、酸素を含有する半導体基板に対し、800℃、1100℃の2段階の熱処理を施し、CZ法により取り込まれた酸素の半導体基板内の析出物であるSiO_(2 )析出物(酸素析出物)を成長させ、スリップの発生を抑制する半導体基板の製造方法。」

(3)対比
(3-1)本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア 引用発明の「半導体基板」は、引用例の段落【0009】の「半導体基板の直径が200mm以上である場合に顕著になり、前記転位の運動も大きな温度差に起因して発生し易くなる。」との記載、図6及び段落【0010】の「図6はスリップを説明するために示した半導体基板のX線トポグラフ像をスケッチした模式的平面図」との記載から、直径200mmのシリコンウェーハであることが明らかである。したがって、引用発明の「CZ法により形成されたSi単結晶からなり、酸素を含有する半導体基板」は、本願補正発明の「チョクラルスキー(CZ)法により作製された酸素を含有する直径200mm以上のシリコン単結晶ウェーハ」に相当する。
イ 引用発明の「半導体基板の製造方法」は、上記(2-2)より、熱処理を施していることから、アニールウェーハの製造方法ともいえる。
ウ 引用発明の「800℃、1100℃の2段階の熱処理を施し」と、本願補正発明の「プレアニールを行う」は、アニールを行う点で共通する。
エ 引用発明の「SiO_(2 )析出物(酸素析出物)」は、本願補正発明の「酸素の析出物」に相当する。
オ 引用発明の「スリップの発生を抑制する」ことは、スリップ転位の成長を抑制するともいえる。

(3-2)したがって、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりとなる。

〈一致点〉
「チョクラルスキー(CZ)法により作製された酸素を含有する直径200mm以上のシリコン単結晶ウェーハに、アニールを行なうことを含む、前記CZ法により含有された酸素の析出物を成長させてスリップ転位の成長を抑制するアニールウェーハの製造方法。」

〈相違点〉
本願補正発明では、「アルゴンガス、水素ガス、またはこれらの混合ガス雰囲気下、1100?1350℃の温度で10?600分の高温熱処理」を行い、「前記高温熱処理を行う前に、前記高温熱処理温度未満の温度でプレアニール」を行なうことにより、CZ法により含有された酸素の析出物を成長させてスリップ転位の成長を抑制するのに対し、引用発明では、CZ法により含有された酸素の析出物を成長させてスリップ転位の成長を抑制する「アニール」は行うものの、「アルゴンガス、水素ガス、またはこれらの混合ガス雰囲気下、1100?1350℃の温度で10?600分の高温熱処理」を行っていない点。

(4)相違点についての検討
引用発明は、チョクラルスキー(CZ)法により作製された酸素を含有する直径200mm以上のシリコン単結晶ウェーハを用いたアニールウェーハの製造方法である。また、一方で、直径8インチ、すなわち、200mm以上のチョクラルスキー(CZ)法により作製された酸素を含有するシリコン単結晶ウェーハにおいては、結晶欠陥の消滅を課題とし、その課題解決のために、水素ガス雰囲気下、1200℃の温度で、60分の高温熱処理を行うことは、以下の周知例1、2にそれぞれ記載されているように、本願の優先権主張の日前の周知技術である。
ここで、引用例の段落【0003】の「これらの酸素析出物及び転位が前記半導体基板の表面から数μmの範囲(LSI素子の活性領域)に存在する場合、酸化膜耐圧の低下やリーク電流の発生等が生じ、LSIにとって有害となる。」との記載から、引用発明は、LSI素子、すなわち、デバイスに用いるための、「チョクラルスキー(CZ)法により作製された酸素を含有する直径200mm以上のシリコン単結晶ウェーハを用いたアニールウェーハ」の製造方法に関する技術であることが分かる。
そうすると、引用発明も上記周知技術と同じウェーハの品質改善のための技術に属するものであり、また、引用発明においても、ウェーハの結晶欠陥を消滅させることは一般に求められる課題であることが明らかであるから、引用発明に「水素ガス雰囲気下、1200℃の温度で、60分の高温熱処理を行う」という上記周知技術を適用することは、当業者が容易に想到し得たものといえる。そして、その適用に際し、上記周知技術の高温熱処理は「1200℃」であることから、引用発明の「800℃、1100℃の2段階の熱処理」は「高温熱処理未満の温度」のアニールであり、さらに、引用例の段落【0005】?【0006】の記載から、LSI製造における熱処理時に起きるスリップ発生の課題を解決することが引用発明の目的であることを鑑みると、スリップを発生し得る他の高温熱処理より前に、スリップ発生防止のためのアニールを行うよう処理順序を選択することは、当業者が自然に考えつくことである。
以上のとおりであるから、引用発明に周知技術を適用するに際し、高温熱処理を行う前にアニールを行うよう、「高温熱処理」と「アニール」の両者の処理順序を選択することは、当業者に普通に期待できるものであり、本願補正発明の効果も、引用発明の効果と周知技術の効果を合わせたもの以上のものではない。

(周知例1:特開2000-211995号公報)
上記周知例1には、次の記載がある(段落【0001】、【0010】?【0012】、【0048】?【0051】)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)によってシリコン単結晶を引上げる際に、窒素をドープし、かつ窒素濃度、酸素濃度、及び冷却速度を制御して結晶成長を行うことにより、所望の品質を有するシリコン単結晶ウエーハを製造する技術に関する。」
「【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明の請求項1に記載した発明は、チョクラルスキー法により窒素をドープして育成されたシリコン単結晶棒をスライスして得たシリコン単結晶ウエーハであって、該シリコン単結晶ウエーハのゲッタリング熱処理後またはデバイス製造熱処理後の無欠陥層深さが2?12μmであり、かつゲッタリング熱処理後またはデバイス製造熱処理後の内部微小欠陥密度が 1×10^(8)?2×10^(10)ケ/cm^(3)であることを特徴とするシリコン単結晶ウエーハである。
【0011】このようにチョクラルスキー法により窒素をドープして育成されたシリコン単結晶棒から成るシリコン単結晶ウエーハは、ゲッタリング熱処理後またはデバイス製造熱処理後の無欠陥層深さが2?12μmで、かつゲッタリング熱処理後またはデバイス製造熱処理後の内部微小欠陥密度が 1×10^(8)?2×10^(10)ケ/cm^(3)と、従来のシリコン単結晶ウエーハに比べて大幅に広い範囲で制御可能となるため、デバイス形成可能な領域が広く、高いゲッタリング能力を有するシリコン単結晶ウエーハとなる。
【0012】なお、ここでゲッタリング熱処理とは、育成されたシリコン単結晶棒をウエーハに加工した後からデバイス工程に入る前までに施される熱処理を総称し、主に不純物酸素の外方拡散による表面近傍の結晶欠陥の消滅を目的とする。デバイス熱処理とは、ゲッタリング熱処理その他の処理をウエーハに施した後に、デバイス製造工程で施される熱処理を総称するものである。」
「【0048】
【実施例】以下、本発明の実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例、比較例)CZ法により、直径18インチの石英ルツボに、原料多結晶シリコンをチャージし、直径8インチ、P型、方位<100>、抵抗率10Ω・cmの結晶棒を、窒素ドープ量、酸素濃度、冷却速度の条件を変えて12本引上げた。
【0049】窒素ドープ量の制御は、原料中にあらかじめ所定量の窒化珪素膜を有するシリコンウエーハを投入しておくことにより行なった。酸素濃度の制御は、引き上げ中ルツボ回転を制御することにより行った。冷却速度の制御は、単結晶棒の引上げ速度を変化させ、結晶の成長速度を変化させることにより行った。
【0050】ここで得られた単結晶棒から、ワイヤソーを用いてウエーハを切り出し、面取り、ラッピング、エッチング、鏡面研磨加工を施して、窒素のドープ量、酸素濃度及び冷却速度以外の条件はほぼ同一とした12種類の直径8インチのシリコン単結晶鏡面ウエーハを各々複数枚作製した。
【0051】こうして得られたシリコン単結晶ウエーハにゲッタリング熱処理を施した。この場合のゲッタリング熱処理は、シリコン単結晶ウエーハを水素50%とアルゴン50%から成る雰囲気下で、6℃/minの昇温率で1200℃まで昇温し、1200℃で60分維持した後、3℃/minの降温率で冷却することにより行った。」

(周知例2:特開平11-186277号公報)
上記周知例2には、次の記載がある(段落【0001】、【0010】、【0038】?【0042】)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はチョクラルスキー法(以下、CZ法と略記することがある)により成長させたシリコン単結晶棒をスライスして得たシリコン単結晶ウエーハの熱処理方法とこの方法により結晶欠陥密度を著しく低減させたシリコン単結晶ウエーハに関する。」
「【0010】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明はこのような問題点に鑑みなされたもので、本発明の目的とする所は、COP等のウエーハ表面、表層部に存在する結晶欠陥を最小限に抑えたシリコン単結晶ウエーハを作製し、酸化膜耐圧のみならず、信頼性試験その他の電気特性に優れたデバイス用シリコン単結晶ウエーハを提供しようとするものである。 そして、適切なシリコン単結晶引上げ条件と水素アニール処理条件とを組合せることによって、実際に無欠陥シリコン単結晶ウエーハの生産を可能とすると共にその生産性の向上、水素ガスの少量化、コストダウン等をも達成しようとするものである。」
「【0038】以上のような、急速加熱・急速冷却の可能な熱処理装置を用い、水素100%雰囲気中で、シリコン単結晶ウエーハを枚葉式で熱処理を行った。使用したシリコン単結晶ウエーハは、上記チョクラルスキー法(CZ法)により、0.8mm/min?1.2mm/minの引上げ速度で製造された、含有酸素濃度が16ppma以下で、かつ1個のサイズが60?130nmで空洞からなるCOPが高密度に存在するシリコン単結晶棒を、スライスして鏡面加工された、直径が8インチで、結晶方位が<100>のウエーハである。
【0039】熱処理の還元性雰囲気は、水素ガス100%とすることができるが、水素の還元力を調整する、あるいはスリップ転位の発生を抑制する、その他安全上等の理由からアルゴンとの混合気としてもよい。熱処理の温度条件は1200℃以上とし、処理時間は1秒間以上とした。1200℃未満ではCOPをほぼ完全に消滅させることが難しいし、1秒未満の短時間では熱処理効果が得られない。
【0040】このように、本発明のサイズの小さいCOPを有するウエーハにRTA装置を用いて水素アニールして得られたウエーハは、特に表面のCOPが殆ど消滅しており、無欠陥シリコン単結晶ウエーハを製造することができる。従って、この水素アニール処理したウエーハを使用すれば、半導体デバイスとしても、酸化膜耐圧、経時絶縁破壊特性等の電気特性に優れたデバイスを作製することができる。RTA装置の場合は、昇温レートが極めて速く、COPが消滅する温度になるのに要する時間が極めて短いため、多数のシングル型COPが存在しても容易に高温になり、COPが消滅するものと考えられる。
【0041】別の水素アニールとしてバッチ式熱処理炉を使用することもできる。ここで、バッチ式熱処理炉とは、通常、縦型または横型の熱処理炉に複数のウエーハを載置し、水素ガスを導入して比較的緩やかに昇温した後、所定温度で所定時間熱処理を施し、比較的ゆっくりと降温する、いわゆるバッチ式の熱処理炉であり、一度に大量の熱処理は可能であるが、ウエーハの搬入、搬出時間を加えると1サイクルに長時間を要し、前記RTA装置と比較すると生産性は必ずしも良くないが、温度の制御性に優れており、安定した操業が可能である。
【0042】バッチ式熱処理炉による水素アニールの熱処理条件は、基本的には上記RTA装置の場合と変わらず、水素ガス100%雰囲気下、あるいはアルゴンとの混合雰囲気下1200℃以上で処理するが、熱処理時間は30分間以上が望ましい。30分未満では熱処理効果が十分挙がらず、COPはあまり消滅しない。」

(5)小括
以上検討したとおり、本願補正発明と引用発明との相違点は、周知技術を勘案することにより、当業者が容易に想到し得たものであるから、本願補正発明は、引用発明に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(6)独立特許要件についてのまとめと補正却下の結び
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明

1 以上のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載の次のとおりのものである。

「【請求項1】 チョクラルスキー(CZ)法により作製された直径200mm以上のシリコン単結晶ウェーハに、アルゴンガス、水素ガス、またはこれらの混合ガス雰囲気下、1100?1350℃の温度で10?600分の高温熱処理を行なうアニールウェーハの製造方法において、前記高温熱処理を行う前に、前記高温熱処理温度未満の温度でプレアニールを行なうことにより、酸素析出物を成長させてスリップ転位の成長を抑制することを特徴とするアニールウェーハの製造方法。」

2 引用例の記載と引用発明
引用例の記載と引用発明については、前記第2の3(2)で認定したとおりである。

3 対比・判断
前記第2の1及び2で検討したように、本願補正発明は、補正前の請求項1の規定をより技術的に限定するものである。したがって、逆に言えば、本願発明(補正前の請求項1に係る発明)は、本願補正発明から、このような限定をなくしたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これより限定したものである本願補正発明が、前記第2の3で検討したとおり、引用発明に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明することができたということができる。

第4 結言

以上のとおり、本願発明は、引用発明に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-31 
結審通知日 2011-02-01 
審決日 2011-02-17 
出願番号 特願2003-509520(P2003-509520)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩原 周治  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官
近藤 幸浩
松田 成正
発明の名称 アニールウェーハの製造方法及びアニールウェーハ  
代理人 好宮 幹夫  

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