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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200520859 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C11D
審判 全部無効 2項進歩性  C11D
管理番号 1235138
審判番号 無効2009-800152  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-07-13 
確定日 2011-03-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4114820号「洗浄剤組成物」の特許無効審判事件についてされた平成22年 3月 2日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10104号、平成22年11月10日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件は、平成8年7月24日に特許出願され、平成20年4月25日に特許第4114820号として特許権の設定登録がなされたものである。
(以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本件特許明細書」という。)

2 これに対して、請求人は、平成21年7月13日付けで本件特許無効審判を請求した。

3 被請求人は、同年10月5日付けで訂正請求書、答弁書を提出した。

4 平成22年1月19日に口頭審理が行われた。

5 同年3月2日付けで「訂正を認める。
特許第4114820号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」とする審決がされたところ、知的財産高等裁判所において、審決取消の判決(平成22年(行ケ)第10104号、平成22年11月10日判決言渡)がなされ、同判決は確定した。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成21年10月5日付けでなされた訂正請求は、その請求書に添付した特許請求の範囲及び明細書(以下、これらを併せて「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。

(1)訂正1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「水酸化ナトリウム、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムを含有することを特徴とする洗浄剤組成物。」を「水酸化ナトリウム、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムを含有し、水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1?40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物。」と訂正する。

(2)訂正2
本件特許明細書(口頭審理おいて、訂正請求書の第2ページ 6.請求の理由(3)2(注:原文では丸囲み数字の2)の「出願当初明細書」を、「願書に添付した明細書」、すなわち「本件特許明細書」と訂正。)の段落【0011】の第2行目に記載の「グルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩」を「アスパラギン酸二酢酸四ナトリウム塩」に訂正する。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正1について
訂正1は、水酸化ナトリウムの配合量を「組成物の0.1?40重量%」に減縮するものであるから、この訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、この訂正は、本件特許明細書の段落【0008】に「アルカリ金属水酸化物は洗浄剤組成物中0.1?40重量%・・・配合する。」と記載されており、段落【0006】に「本発明に用いられるアルカリ金属水酸化物としては水酸化ナトリウム・・・が使われる。」と記載されていることから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められ、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定を満たす。
さらに、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするもので、特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものではないことは明らかであるから、この訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定を満たす。
よって、訂正1は許容されるものである。

(2)訂正2について
訂正2は、本件特許明細書の段落【0011】において、生成物である「グルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩」を「アスパラギン酸二酢酸四ナトリウム塩」に訂正するものである。
段落【0011】の記載は、原料が「アスパラギン酸ソーダ」であるのに対し、生成物が「グルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩」と矛盾した記載となっているため、正しくは、原料である「アスパラギン酸ソーダ」が「グルタミン酸ソーダ」であるか、あるいは生成物である「グルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩」が「アスパラギン酸二酢酸四ナトリウム塩」であるかの、いずれかであると考えられる。しかしながら、原料である「アスパラギン酸ソーダ」が「グルタミン酸ソーダ」であるとした場合、実施例1についての段落【0011】は、実施例3についての段落【0013】と全く同一の記載となり、同一の実施例が二つ存在することになるが、全く同じ実施例を2つ挙げることは常識的に考えにくい。このため、生成物である「グルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩」が「アスパラギン酸二酢酸四ナトリウム塩」の誤記であるとするのが相当である。
よって、訂正2は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものである。
また、この訂正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められ、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定を満たす。
さらに、この訂正は誤記の訂正を目的とするもので、特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものではないことは明らかであるから、この訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定を満たす。
したがって、訂正2は許容されるものである。

3 訂正請求についてのまとめ
よって、平成21年10月5日付けの訂正請求を認める。

第3 本件発明
平成21年10月5日付けの訂正請求は適法なものであるから、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、本件訂正明細書(「本件訂正明細書」を、以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】水酸化ナトリウム、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムを含有し、水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1?40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物。
【請求項2】水酸化ナトリウムを5?30重量%、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類を1?20重量%、グリコール酸ナトリウムをアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対して0.1?0.3重量部含有する請求項1記載の洗浄剤組成物。」
(以下、訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明を、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、また、これらを併せて「本件発明」ということがある。)

第4 当事者の主張の概要及び当事者が提出した証拠方法
1 請求人の主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法
請求人は、請求の趣旨の欄を「特許第4114820号発明の請求項1?2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、大略以下の無効理由を主張している。(審判請求書2ないし12ページ「7.請求の理由」の欄)

(1)無効理由1
特許4114820号発明の請求項1及び請求項2に記載された発明についての特許(以下、「本件特許1」及び「本件特許2」という。)は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許1及び本件特許2は、同条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
そして、請求人が審判請求時に提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開昭50-3979号公報
甲第2号証:独国特許公開公報第4240695号
さらに、請求人は、口頭審理陳述要領書において、追加の証拠方法として甲第3号証ないし甲第6号証を提出している。
甲第3号証:特開平7-238299号公報
甲第4号証:特開昭59-133382号公報
甲第5号証:特開昭61-188500号公報
甲第6号証:特表平5-502683号公報

(2)無効理由2
特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること、という特許法第36条第6項第1号の規定に適合せず、この特許出願が同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないため、本件特許1は、同法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

2 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求め、請求人の主張する本件審判請求の無効理由のいずれにも理由がない旨の主張をしている。また、被請求人は証拠方法として、乙第1号証及び乙第2号証を提出している。
乙第1号証:「最新洗浄技術総覧」初版 最新洗浄技術総覧編集委員会 編 株式会社産業技術サービスセンター
(平成8年4月9日)
乙第2号証:[実験]0.1重量%及び40重量%水酸化ナトリウム水 溶液、及び飽和炭酸ナトリウム水溶液のpH測定
さらに、口頭審理陳述要領書において、追加の証拠方法として、乙第3号証を提出している。
乙第3号証:[実験]水酸化ナトリウム水溶液及び飽和炭酸ナトリウム 水溶液のpH測定

第5 当審の判断
当審は、上記無効理由1及び2によっては、本件特許1及び2を無効にすることはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 無効理由1について
(1)甲第1?6号証及び乙第1?3号証の記載
ア 甲第1号証
甲第1号証である特開昭50-3979号公報は、昭和50年1月16日に頒布されたものであって、本件特許の優先日(平成7年12月11日)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることは明らかである。
そして、甲第1号証には、以下の記載がある。

1A:「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメチル基を結合させて得られるL-またはDL-N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸誘導体を含有することを特徴とする無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物。」(特許請求の範囲)

1B:「本発明は無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物を提供するものであり、この組成物は高い効率を有しかつ85?90%まで生物学的に容易に分解し得る天然産物の誘導体を含有するという利点を有する。炭素、水素および窒素のみを含有しりんを含有していない本発明の金属イオン封鎖剤組成物はいかなる場合においても河川の生物に対し有害な影響をおよぼすことはない。更に天然産物を顔料とするため本発明の金属イオン封鎖剤は無毒性である。」(第2ページ左上欄第12行?右上欄第1行)

1C:「本発明によれば、N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸の誘導体を含有する生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物は、モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素原子にカルボキシメチル基を結合させることにより製造される。本発明を実施するにあたつてはアミノジカルボン酸としてグルタミン酸とアスパラギン酸を使用することが特に好ましい。」(第2ページ右上欄第6?15行)

1D:「本発明による反応はアルカリ性水性媒体中での置換反応であり、つぎの図式で表わされる。


グルタミン酸のα-アミノ基の2個の水素原子がモノクロル酢酸から生ずる2個のカルボキシメチル基により置換される。
アミノジカルボン酸のアミノ基を2個のカルボキシメチル基により置換した誘導体を高収率で得ることが困難である本質的原因の一つは、モノクロル酢酸が加水分解することである。すなわちこの二次的反応によりグリコール酸ナトリウムが生成する〔反応式(2)参照〕。従つてこの欠点を防止するためには(1)式の反応が行われ、(2)式の反応が起らないように、遊離のモノクロル酢酸の存在下で前記の置換反応を行いかつアルカリ性化合物のみを徐々に添加することが必要である。・・・(中略)・・・

前記置換反応を弱アルカリ性pH値で行うことにより、(2)式の加水分解反応を最少に減少させ得ることを認めた。」
(第2ページ左下欄第3行?右下欄第10行)

1E:「本発明の金属イオン封鎖剤組成物はアルカリ土金属イオンに対してばかりでなく重金属イオンに対しても顕著な封鎖性を示し、この封鎖性は従来得られた金属イオン封鎖性より良好であり、その結果つぎに示す分野において極めてすぐれた工業的利点が得られかつ広く利用し得る。
-イオン交換塔の金属の分離、
-金具の処理および金属表面の脱脂、
-放射性表面の浄化
-織物の処理
-洗浄剤、洗濯用水(lyes)および陶器の洗浄に使用する製品の調製 -香料および化粧品への利用
-牛乳製品製造工業への利用」(第3ページ左下欄第14行?右下欄第7行)

1F:「本発明の封鎖剤組成物は沈殿反応以外の反応においてカチオンの化学的活性を封鎖しあるいは変性するのにも使用し得る。特に硬水中のナトリウム石鹸溶液に添加された本発明の封鎖剤組成物は洗浄作用を低下させるカルシウムイオンと錯体を形成する。すなわち本発明の封鎖剤組成物はカチオンを不活性化する作用を行う他に、石鹸の洗浄作用を向上(potentialise)させる。・・・本発明の封鎖剤組成物は家庭用または工業用の洗浄剤混合物に有利に使用し得る。市販されている液体の形または粉末の形の洗浄剤の多くは、実際に金属イオン封鎖剤を含有しており、・・・(中略)・・・洗浄剤中に使用する“TPP”に代るものとして、他の有機化合物、特にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のナトリウム塩、・・・が提案されている。・・・(中略)・・・更に、この種の洗浄剤組成物は広いpH領域、特に中性またはアルカリ性媒体中でその全ての性質を保持すること、特にその金属イオン封鎖作用は通常の洗浄剤媒体のアルカリ度に相当するpH8?11において最大であることが確認されている。」(第3ページ右下欄第13行?第4ページ右上欄第19行)

1G:「全ての試験において、モノクロル酢酸とグルタミン酸のナトリウム塩とをアルカリ性媒体中でかつ前記したごとき条件下で反応させて得られた金属イオン封鎖剤組成物を使用した。
かく得られたOS_(1)と呼ばれる金属イオン封鎖剤組成物はつぎの成分からなる。
N,N-ビス-カルボキシメチルグルタメート、ナトリウム塩 60重量%
グリコール酸ナトリウム 12重量%塩 全体が100%となる量」
(第5ページ右上欄第8?18行)

1H:「実施例1
N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸の製造
1870g(10モル)のダルタミン酸モノナトリウム-水塩を2.5lの水と0.53lカセイソーダ溶液(10モル)とからなる水溶液中に溶解した。これを溶液Aとする。この溶液中に2.5lの水に溶解した2570g(27モル)のモノクロル酢酸の溶液と19Nカセイソーダ溶液(57モル)とを、反応媒体の温度を80?90℃に保持しながら、1 1/2時間で、そのpHが8?9に保持されるように同時に添加した。
・・・(中略)・・・
この溶液を微細化処理することにより、N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩(47%酸型)を60重量%含有し、G.SCHWARZENBACHおよびH.FLAXHKA〔Methuen and Co.Ltd 1969(GB)〕の報文記載の方法(第174頁、錯滴定法)で測定した金属イオン封鎖力が6.9%の白色粉末を得た。この組成物は14%の塩化ナトリウムと12%のグリコール酸ナトリウムとを含有していた。」(第5ページ右下欄第20行?第6ページ右上欄第7行)

1I:「実施例4・・・(中略)・・・
洗浄媒体としてはつぎの組成を有するものを使用した。
炭酸ナトリウム ・・・3g/l
石鹸片 ・・・0.25g/l、0.50g/l
ナトリウムトリポリホスフエート(TPP) ・・・0.3g/l
本発明の金属イオン封鎖剤組成物
(“OS_(1)”で表わされる) ・・・0、1、1.5、2g/l
硬度22°の水 ・・・全体が1lとなる量」(第7ページ右上欄第10行?左下欄第20行)

イ 甲第2号証
甲第2号証である独国特許公開公報第4240695号は、平成6年6月9日に頒布されたものであって、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることは明らかである。
そして、甲第2号証には、以下の記載がある。なお、記載は当審の仮訳である。

2A:「本発明は、飲料および食品工業のためのアルカリ性洗浄剤組成物における錯体形成剤またはビルダーとしてのイミド二酢酸誘導体の使用に関する。さらに本発明は、イミド二酢酸誘導体を含む飲料および食品工業のための水性アルカリ性洗浄剤組成物、並びに必須成分としてイミド二酢酸誘導体を含む、飲料および食品工業のための水性アルカリ性洗浄剤組成物に用いられる添加物に関する。」(第2ページ第3?8行)

2B:「したがって、一般式Iのイミドニ酢酸誘導体を、飲料および食品工業のためのアルカリ性洗浄剤組成物において錯体形成剤またはビルダーとして使用することが見いだされた。

ここで、Rは、水素、C_(1)?C_(4)-アルキル、または下記式の残基を示し


Xは、カルボキシル基(これはアルカリ金属-、アンモニウム-、または置換アンモニウム一塩の形であることが出来る)、またはカルボン酸アミド基(窒素原子において置換されていてもよい)を意味し、
Yは、カルボキシル基(これはアルカリ金属-、アンモニウム-、または置換アンモニウム一塩の形であることが出来る)を意味し、
Zは、水素またはヒドロキシルを意味し、nは1または2の数字を意味する。
・・・(中略)・・・
Rが式(d)の残基を意味するならば、アスパラギン酸-(n=1)またはグルタミン酸-N,N-二酢酸(n=2)が考えられる。」(第2ページ第26行?第3ページ第6行)

2C:「考えられているアルカリ性洗浄剤組成物は、pH8?14、好ましくは9?13、特に好ましくは10?12を示す。」(第3ページ第14?15行)

2D:「前記洗浄剤組成物のためのさらなる好ましい使用分野は、乳製品加工における装置洗浄である。バター製造からの洗浄(主に脂肪除去による)の際に、有益な効果を得ることが出来る。特に、ここで、リン酸カルシウム、一般に有機酸の他のカルシウム塩およびカゼインからなる残渣または被膜(“乳石”)が除去される。それ故、例えばミルクプレート加熱機、ミルク遠心分離機の円盤状部品またはミルク用の貯蔵および輸送タンクにおいて、錯体形成剤Iを含む洗浄剤が優れた様式で適している。」(第3ページ第20?26行)

2E:「本発明に従い使用されるイミドニ酢酸誘導体Iは、中でも前記の応用目的に好適である。何故なら、それらが、アルカリ土類金属イオン、特にカルシウムに対して非常に有効な錯体形成剤であるからである。それらのカルシウム結合力は極めて高い。
その他の利点は、特に飲料および食品工業において重要である、それらの良好な生物的分解性および非常に低い毒性である。」(第3ページ第55?59行)

2F:「本発明の対象はまた、下記を含む飲料および食品工業のための水性洗浄剤組成物である。
(i)少なくとも一のイミドニ酢酸誘導体Iの0.05?30重量%、好ましくは0.1?25重量%、特に0.5?15重量%、
(ii)アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、またはこれらの混合物の2?50重量%、好ましくは5?40重量%、特に8?25重量%、および
(iii)界面活性剤の1?30重量%、好ましくは2?25重量%、特に3?20重量%。
上記において、成分(ii)として、中でも水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム、さらに炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムが好ましく、前記アルカリの混合物も用いられうる。」(第3ページ第64行?第4ページ第6行)
2G:「実施例1 乳製品加工のための高アルカリ性洗浄剤組成物
下記からなる混合物が、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、たんぱく質および灰からなる堆積物の除去の際に使用された。堆積物は、問題なく除去することができた。
50重量%水酸化ナトリウム溶液を40重量部、β-アラニン-N、N-二酢酸三ナトリウム塩40重量%水溶液を15重量部、約4のエトキシ化度を有するC_(10)-オキソアルコールエトキシレートを4重量部、溶解促進剤として市販のアルキルカルボン酸混合物を4重量部、水の硬度を下げるためのグルコン酸ナトリウムを7重量部、および水を30重量部。」(第4ページ第28?41行)

ウ 甲第3号証
甲第3号証である特開平7-238299号公報は、平成7年9月12日に頒布されたものであって、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることは明らかである。
そして、甲第3号証には、以下の記載がある。

3A:「【請求項1】 アルカリ金属水酸化物、グルコン酸塩およびヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩を有効成分として含有することを特徴とする硬表面洗浄用組成物。
【請求項2】上記グルコン酸塩とヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩とが90:10?10:90の配合割合で含有されていることを特徴とする請求項1記載の硬表面洗浄用組成物。
【請求項3】上記グルコン酸塩およびヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩がアルカリ金属水酸化物100重量部に対して0.5?30重量部の配合割合で含有されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の硬表面洗浄用組成物。
【請求項4】上記グルコン酸塩およびヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩のいずれもがナトリウム塩である請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の硬表面洗浄用組成物。」(【特許請求の範囲】)

3B:「【技術分野】本発明は、洗浄力に優れ、かつ、微生物により分解され易い硬表面洗浄用組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、ガラス壜、食器等のガラス製品、什器あるいは各種工場のタンクや配管の洗浄、その他油類に汚染された金属製品やプラスチック製品等の洗浄に適し、かつ微生物により分解され易い強力な硬表面洗浄用組成物に関するものである。」(段落【0001】)

3C:「しかし、エチレンジアミンテトラ酢酸塩(以下、EDTAと略記する)が配合された洗浄剤は、EDTAの強力なキレート生成能により、極めて洗浄力の強い洗浄剤ではあるが、EDTAおよびその金属錯体化合物が微生物により分解され難いものであるために、最近、特に使用後の洗浄液をそのまま廃棄することは、環境保全の面から問題となってきている。グルコン酸ナトリウムが配合された洗浄剤は、グルコン酸ナトリウムが微生物により分解され易く、その廃棄について環境保全上の問題はないものの、洗浄力に劣り、汚れの激しい被洗浄物の洗浄には適さないという欠点がある」(段落【0003】)

3D:「また、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩と珪酸塩あるいはりん酸塩等の無機化合物などが配合されたアルカリ性洗浄剤が提供されている(特開昭51-56810号公報参照)。しかし、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩は、金属イオンとの錯体形成能が弱く、洗浄力が充分なものでないため、汚れの激しい被洗浄物に対しては、EDTAを含有する洗浄剤に比べて満足する洗浄効果が得られないという欠点がある。このような状況から、微生物により分解され易く、かつ、洗浄力の優れた洗浄剤の開発が強く求められている現状にある。」(段落【0004】)

3E:「アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウム等であり、通常水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。本発明の組成物におけるアルカリ金属水酸化物の水溶液の濃度は、被洗浄物の汚れの程度、あるいは強いアルカリ性を嫌う被洗浄物等の種類、洗浄目的あるいは被洗浄物の材質等を考慮して通常は、1?5%程度の濃度範囲から適宜選択される。」(段落【0008】)

3F:「【実施例】実施例1
本実施例は、珪藻土の10%水懸濁液をガラス板およびステンレス板に均一に塗布した後、105℃で8時間過熱乾燥して調製した人工汚垢板を用いて、本発明に係る各種割合の洗浄用組成物の洗浄性能を試験したものである。試験方法は、上記人工汚垢板を80℃に加温した各試料溶液中に10分間浸漬して洗浄した後、人工汚垢板を温水で濯ぎ、充分乾燥した人工汚垢板表面の汚れ残量を光沢度計を用いて測定した。この測定値と洗浄前の人工汚垢板の光沢度の測定値とから洗浄効率を算出した。その結果を表1および後掲図1に示す。なお、各試料は、炭酸カルシウム濃度として、60ppmおよび200ppmの2種類の硬度の水を使用して調製した。

」(段落【0012】【0013】)

3G:「実施例2
本実施例は、油類で汚染させた人工汚垢板を用いて洗浄性能試験を行ったものである。
人工汚垢板の調製
牛脂10g、大豆油10g、モノオレイン0.25g、オイルレッド0.1gをクロロホルム60mlに溶解し、この溶液にガラス板を浸漬してガラス板上に均一の厚さの被膜を形成せしめた後、ガラス板を取り出し通風乾燥によりクロロホルムを揮発せしめて人工汚垢板を調製した。
洗浄力評価方法
JIS規格K3370台所用合成洗剤の洗浄力評価法に記載のリーナッツ改良法による洗浄力試験装置を用いた撹拌法により行った。人工汚垢板を30℃の各試料溶液中で3分間撹拌洗浄した後、人工汚染垢板を取り出し水道水1分間撹拌洗浄して濯ぎ、通風乾燥して充分に水分を除去し、化学天秤で重量を測定した。この測定値と洗浄前の人工汚垢板の重量とから、洗浄効率を算出した。その結果を表2に示す。なお、各試料溶液は炭酸カルシウム濃度として、60ppmの硬度の水を使用して調製した。

」(段落【0015】【0016】)

エ 甲第4号証
甲第4号証である特開昭59-133382号公報は、昭和59年7月31日に頒布されたものであって、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることは明らかである。
そして、甲第4号証には、以下の記載がある。

4A:「1)アルミニウム容器の表面を洗浄及びエツチングする為の方法にして、約6?12g/lのアルカリ金属水酸化物と約3?6g/lのキレート剤から実質上成る希釈アルカリ性水溶液を約80?130゜Fの昇温下で前記表面にスプレイして清浄な光輝表面を形成することを特徴とするアルミニウム容器洗浄及びエツチング方法。」(特許請求の範囲)

4B:「本発明方法において有用な水性洗浄及びエツチング溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を約6?12g/水1lの濃度で含む。・・・(中略)・・・溶液は約13のpHを有する。」(第2ページ左下欄第12行?右下欄第4行)

4C:「適当なキレート剤としては、ソルビトール、グルコン酸、グルコヘプチル酸(グルコエナント酸)、マンニツト、アスコルビン酸、ソルボーズ、タンニン酸、エチレンジアミン四酢酸、グルコン酸クロムナトリウム、ジグリコール酸、ピコリン酸、アスパラギン酸、ジチオオキサミド、d-グルコノラクトン、及び1-ラムノースが挙げられる。」(第2ページ右下欄第6?13行)

4D:「例1 D&Iアルミニウム缶体を冷水中で予備洗浄しそして後パイロツトライン缶洗浄作業において本発明方法に従いスプレイ洗浄した。・・・(中略)・・・洗浄溶液は、68.0重量%の50重量%苛性ソーダ(NaOH)及び32.0重量%の50重量%キレート剤、グルコン酸を含む水性濃縮物から1.65容積%水溶液に希釈することにより調製した。この洗浄溶液は約7.2g/lのNaOHと4.2g/lのグルコン酸ナトリウムを含有した。優れた洗浄効果が得られ、缶から微粒物が完全に除去された。」(第3ページ左下欄第14行?右下欄第7行)

オ 甲第5号証
甲第5号証である特開昭61-188500号公報は、昭和61年8月22日に頒布されたものであって、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることは明らかである。
そして、甲第5号証には、以下の記載がある。

5A:「2.(a)下記の一般式( I )、(II)または(III)で表される化合物の1種または2種以上からなるジカルボン酸系界面活性剤、
・・・
(b)キレート剤および
(c)アルカリ剤
を含有することを特徴とするアルカリ洗浄剤」(特許請求の範囲)

5B:「本発明は、アルカリ洗浄剤に関し、特に、自動食器洗浄機用の洗浄剤などの硬表面洗浄剤として好適な低泡性のアルカリ洗浄剤に関する。」
(第1頁右下欄第5?7行)

5C:「(b)成分のキレート剤としては、特に限定されず従来と同様のものが用いられ、たとえば、・・・エチレンジアミンテトラ酢酸塩、グルコン酸塩、ニトリロトリ酢酸塩などが例示される。」(第2頁左下欄第17行?右下欄第1行)

5D:「(c)成分のアルカリ剤としては、従来と同様のものが使用でき、たとえば、水酸化ナトリウム・・・などが例示される。」(第3頁右上欄第9行?13行)

カ 甲第6号証
甲第6号証である特表平5-502683号公報は、平成5年5月13日に頒布されたものであって、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることは明らかである。
そして、甲第6号証には、以下の記載がある。

6A:「1.概略
0.1?5.0重量部の水溶性カチオン系界面活性剤、0.1?5、0重量部の少なくとも1種のノニオン系界面活性剤、0.5?15重量部の少なくとも1種のキレート化剤、10?1000重量部の水、及び洗浄溶液を7.5以上のpHに維持するのに有効な量の少なくとも1種のアルカリ性ナトリウム化合物、のアルカリ性溶液からなる硬質表面用水性洗浄組成物。
2.カチオン系界面活性が約1.0?2.0重量部の量で存在し、ノニオン系界面活性剤が約0.5?2.0重量部の量で存在し、キレート化剤が約0.5?15重量部の量で存在し、そして水が約50?500重量部の量で存在する請求の範囲1の組成物。
3.ナトリウム化合物が水酸化ナトリウムからなる請求の範囲1の組成物。
4.カチオン系界面活性剤が四級アンモニウムハライドである請求の範囲2の組成物。
5.ノニオン系界面活性剤がエチレンオキシドとアルキルフェノールの縮合生成物である請求の範囲4の組成物。
6.縮合生成物がノニルフェノールエトキシレートである請求の範囲5の組成物。
7.キレート化剤の少なくとも1つがニトリロ三酢酸でおる請求の範囲6の組成物。
8.キレート化剤がニトリロ三酢酸とエチレンジアミン四酢酸との混合物である請求の範囲7の組成物。
9.カチオン系界面活性剤が四級アンモニウムハライドであり、そしてノニオン系界面活性剤がエチレンオキシドとアルキルフェノールとの縮合生成物である請求の範囲8の組成物。
10.アルカリ性ナトリウム化合物が水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの組合せであり、そして溶液のpHが9.0以上に維持される請求の範囲9の組成物。」(特許請求の範囲)

6B:「従って、本発明の一目的は、種々の硬質基質、例えば金属表面を洗浄するのに有用なアルカリ性水性洗浄剤組成物を提供することである。」(第2ページ左上欄第11?12行)

6C:「洗浄組成物のpHまたはアルカリ度は要件であるので、外的因子によって引き起されるpHの変動は、アルカリ度の調節を必要とさせる。pHは、溶液に添加されるカリウムまたはナトリウム化合物、例えば水酸化カリウム及び/または水酸化ナトリウムの量を、少なくとも7.5の高さのpH、好ましくは9.0以上、あるいは、さらに高い約11.0?12.5の範囲のpHを与えるように変動することにより調節される。」(第3ページ右上欄第9?14行)

6D:「実施例1
成分 重量部
水 10?100
二トリロ三酢酸(ナトリウム塩) 0.5?15
ソーダ灰(炭酸ナトリウム) pH9
苛性ソーダ(水酸化ナトリウム) pH9
ノニルフェノールエトキシレート 0.1?5.0
四級アンモニウムハライド(Ethoquad C,’25) 0.1?5.0」
(第3ページ左下欄第17?24行)

キ 乙第1号証
乙第1号証である「最新洗浄技術総覧」初版 最新洗浄技術総覧編集委員会編 株式会社産業技術サービスセンターは、平成8年4月9日に頒布されたものであって、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることは明らかである。

7A:「2.2 アルカリビルダー
洗濯溶液をアルカリ性に維持するという点でアルカリビルダーは洗剤に必須な成分である。アルカリ分の重要性についてはいくつか考えられるがそのひとつに油性汚れの乳化作用がある。汚れの中には油性物質が多量に存在しており、特に遊離脂肪酸が30%以上含まれている。これらがアルカリの存在下でケン化され、界面活性剤の作用で洗浄される。」 (第268頁右欄下から5行?第269頁左欄第4行)

ク 乙第2号証
乙第2号証は、被請求人が0.1重量%及び40重量%水酸化ナトリウム水溶液、及び飽和炭酸ナトリウム水溶液のpHを測定した実験結果である。
8A:


ケ 乙第3号証
乙第3号証は、被請求人が水酸化ナトリウム水溶液及び飽和炭酸ナトリウム水溶液のpHを測定した実験結果である。
9A:


(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメチル基を結合させて得られるL-またはDL-N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸誘導体を含有することを特徴とする無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物。」(摘示事項1A)と記載されているところ、その実施例として、「実施例1 N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸の製造
1870g(10モル)のダルタミン酸モノナトリウム-水塩を2.5lの水と0.53lのカセイソーダ溶液(10モル)とからなる水溶液中に溶解した。これを溶液Aとする。この溶液中に2.5lの水に溶解した2570g(27モル)のモノクロル酢酸の溶液と19Nカセイソーダ溶液(57モル)とを、反応媒体の温度を80?90℃に保持しながら、1 1/2時間で、そのpHが8?9に保持されるように同時に添加した。
・・・(中略)・・・
この溶液を微細化処理することにより、N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩(47%酸型)を60重量%含有し、G.SCHWARZENBACHおよびH.FLAXHKA〔Methuen and Co.Ltd 1969(GB)〕の報文記載の方法(第174頁、錯滴定法)で測定した金属イオン封鎖力が6.9%の白色粉末を得た。この組成物は14%の塩化ナトリウムと12%のグリコール酸ナトリウムとを含有していた。」(摘示事項1H)と記載されており、さらに「全ての試験において、モノクロル酢酸とグルタミン酸のナトリウム塩とをアルカリ性媒体中でかつ前記したごとき条件下で反応させて得られた金属イオン封鎖剤組成物を使用した。
かく得られたOS_(1)と呼ばれる金属イオン封鎖剤組成物はつぎの成分からなる。
N,N-ビス-カルボキシメチルグルタメート、ナトリウム塩 60重量%
グリコール酸ナトリウム 12重量%
塩 全体が100%となる量」(摘示事項1G)と記載されていることから、この実施例1の金属イオン封鎖剤組成物は12%のグリコール酸ナトリウムを含有することが示されている。
そうすると、甲第1号証には、
「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸であるグルタミン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメチル基を結合させて得られるN,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩60重量%と、二次的反応により生成するグリコール酸ナトリウムを12重量%含有する無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)
が記載されている。

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸であるグルタミン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素にカルボキシメチル基を結合させて得られるN,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩」は、本件発明1の「グルタミン酸二酢酸塩類」に相当する。
そうすると、両者は、「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムを含有する組成物」である点で一致するのに対し、以下の点で相違する。
i)本件発明1が「洗浄剤組成物」であるのに対し、引用発明1は「金属イオン封鎖剤組成物」である点(以下、「相違点i)」という。)
ii)本件発明1が、水酸化ナトリウムを含有し、「水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1?40重量%」と規定されているのに対し、引用発明1は、水酸化ナトリウムを含有することについて規定されていない点(以下、「相違点ii)」という。)

(イ)相違点についての検討
a 相違点i)について
本件発明1の「洗浄剤」につき、その意味するところを確認すると、本件明細書には、「【発明の属する技術分野】本発明は、洗浄剤に関し、特に食品工業をはじめとする各種工業プロセスの硬表面の洗浄に用いられる洗浄剤に関する。」(段落【0001】)との記載があり、特に食品工業をはじめとする各種工業プロセスの硬表面の洗浄に用いられる洗浄剤であるものと解される。
これに対し、引用発明1が記載されている甲第1号証には、「本発明の金属イオン封鎖剤組成物はアルカリ土金属イオンに対してばかりでなく重金属イオンに対しても顕著な封鎖性を示し、この封鎖性は従来得られた金属イオン封鎖性より良好であり、その結果つぎに示す分野において極めてすぐれた工業的利点が得られかつ広く利用し得る。
-イオン交換塔の金属の分離、
-金具の処理および金属表面の脱脂、
-放射性表面の浄化
-織物の処理
-洗浄剤、洗濯用水(lyes)および陶器の洗浄に使用する製品の調製 -香料および化粧品への利用
-牛乳製品製造工業への利用」(摘示事項1E)と記載されているところ、「牛乳製品製造工業」は、まさに本件発明1が想定している「食品工業」のことである。そして、例えば甲第3号証に「エチレンジアミンテトラ酢酸塩(以下、EDTAと略記する)が配合された洗浄剤は、EDTAの強力なキレート生成能により、極めて洗浄力の強い洗浄剤ではある・・・」(摘示事項3C)と記載されているように、EDTA等のキレート剤、すなわち金属イオン封鎖剤は、キレート生成能により洗浄力を奏するものである。
そうすると、引用発明1である「金属イオン封鎖剤組成物」を牛乳製品製造工業等の用途に利用するために、「洗浄剤組成物」とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

b 相違点ii)について
(a)引用発明の「N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩」と「グリコール酸ナトリウム」との関係について
甲第1号証には次の記載がある。
1)「本発明は無毒性、非汚染性かつ生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物を提供するものであり」(摘示事項1B)、2)「本発明によれば、N,N-ジカルボキシメチルアミノ酸の誘導体を含有する生物学的易分解性の金属イオン封鎖剤組成物は、モノクロル酢酸とアミノジカルボン酸のジナトリウム塩とをアルカリ性水性媒体中で反応させることによりアミノジカルボン酸のアミノ基の窒素原子にカルボキシメチル基を結合させることにより製造される。本発明を実施するにあたつてはアミノジカルボン酸としてグルタミン酸とアスパラギン酸を使用することが特に好ましい。」(摘示事項1C)、3)「本発明による反応はアルカリ性水性媒体中での置換反応であり、つぎの図式で表わされる。

グルタミン酸のα-アミノ基の2個の水素原子がモノクロル酢酸から生ずる2個のカルボキシメチル基により置換される。
アミノジカルボン酸のアミノ基を2個のカルボキシメチル基により置換した誘導体を高収率で得ることが困難である本質的原因の一つは、モノクロル酢酸が加水分解することである。すなわちこの二次的反応によりグリコール酸ナトリウムが生成する〔反応式(2)参照〕。従つてこの欠点を防止するためには(1)式の反応が行われ、(2)式の反応が起らないように、遊離のモノクロル酢酸の存在下で前記の置換反応を行いかつアルカリ性化合物のみを徐々に添加することが必要である。」(摘示事項1D)

上記甲第1号証の記載によると、引用発明1に係る金属イオン封鎖剤組成物は、反応式(1)で生成される「N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩」と、反応式(2)で生成される「グリコール酸ナトリウム」とを組成物とするが、反応式(1)によってアミノジカルボン酸のアミノ基を2個のカルボキシメチル基により置換した誘導体であるN,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩を高収率で得ることが困難である原因の1つとして反応式(2)に係る「二次的反応」によりグリコール酸ナトリウムが生成されてしまうことが掲げられ、そのために、(1)の反応は行われるが、(2)の反応は起こらないようにする必要があるというのであるから、引用発明1に係る金属イオン封鎖剤組成物にあっては、その組成物である「N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩」が必須の成分であって、その組成物である「グルタミン酸ナトリウム」は、当該金属イオン封鎖剤の効果を発生させるにおいて必要のないものであるばかりか、かえって、必須の成分である「N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩」を高収率で生成し得ない原因の1つであるというのであるから、引用発明1は、専ら「N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩」による金属イオン封鎖作用を発揮させるような金属イオン封鎖剤組成物の発明ということができる。

(b)甲第2号証に記載された発明
一方、甲第2号証には、「一般式Iのイミドニ酢酸誘導体を、飲料および食品工業のためのアルカリ性洗浄剤組成物において錯体形成剤またはビルダーとして使用することが見いだされた。

ここで、Rは、水素、C_(1)-C_(4)-アルキル、または下記式の残基を示し

Xは、カルボキシル基(これはアルカリ金属-、アンモニウム-、または置換アンモニウム一塩の形であることが出来る)、またはカルボン酸アミド基(窒素原子において置換されていてもよい)を意味し、
Yは、カルボキシル基(これはアルカリ金属-、アンモニウム-、または置換アンモニウム-塩の形であることが出来る)を意味し、
Zは、水素またはヒドロキシルを意味し、nは1または2の数字を意味する。
・・・(中略)・・・
Rが式(d)の残基を意味するならば、アスパラギン酸-(n=1)またはグルタミン酸-N,N-二酢酸(n=2)が考えられる。」(摘示事項2B)と記載され、さらに「本発明の対象はまた、下記を含む飲料および食品工業のための水性洗浄剤組成物である。
(i)少なくとも一のイミドニ酢酸誘導体Iの0.05?30重量%、好ましくは0.1?25重量%、特に0.5?15重量%、
(ii)アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、またはこれらの混合物の2?50重量%、好ましくは5?40重量%、特に8?25重量%、および
(iii)界面活性剤の1?30重量%、好ましくは2?25重量%、特に3?20重量%。
上記において、成分(ii)として、中でも水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム、さらに炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムが好ましく、前記アルカリの混合物も用いられうる。」(摘示事項2F)と記載されていることから、甲第2号証には、アスパラギン酸-またはグルタミン酸-N,N-二酢酸を含有する水性アルカリ性洗浄剤組成物において、成分として水酸化ナトリウムを含有する技術について記載されている。
そして、甲第2号証に記載の技術の用途について、「前記洗浄剤組成物のためのさらなる好ましい使用分野は、乳製品加工における装置洗浄である。バター製造からの洗浄(主に脂肪除去による)の際に、有益な効果を得ることが出来る。特に、ここで、リン酸カルシウム、一般に有機酸の他のカルシウム塩およびカゼインからなる残渣または被膜(“乳石”)が除去される。それ故、例えばミルクプレート加熱機、ミルク遠心分離機の円盤状部品またはミルク用の貯蔵および輸送タンクにおいて、錯体形成剤Iを含む洗浄剤が優れた様式で適している。」(摘示事項2D)と、引用発明と同じく牛乳製品製造工業への利用について言及されている。
よって、甲第2号証には、「アスパラギン酸-またはグルタミン酸-N,N-二酢酸を含有する水性アルカリ性洗浄剤組成物において、成分として水酸化ナトリウムを含有させ、それを牛乳製品製造工業に利用すること」(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

(c)周知技術について
各種工業プロセスの硬表面の洗浄に用いられる、エチレンジアミンテトラ酢酸塩、ニトリロ三酢酸塩、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩、グルコン酸塩等の金属イオン封鎖剤を含む洗浄剤組成物において、水酸化ナトリウムをその成分とすることは、例えば甲第2号証(摘示事項2F、2G)、甲第3号証(摘示事項3A、3B、3E、3F)、甲第4号証(摘示事項4A?4D)、甲第5号証(摘示事項5A?5D)、甲第6号証(摘示事項6A?6D)に示されるように周知の技術であり、それらが食品工業プロセスの硬表面の洗浄に適用できることも、甲第2?4、6号証に示されるように周知の事項である。

(d)引用発明2及び周知技術の引用発明1への適用について
上記(a)のとおり、引用発明は、N,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩を組成物とする金属イオン封鎖剤組成物であるところ、このN,N-ビス(カルボキシメチル)グルタミン酸のナトリウム塩は、引用発明2におけるアスパラギン酸-またはグルタミン酸-N,N-二酢酸と成分において共通するものである。
そして、引用発明1と引用発明2とその技術分野をみてみると、甲第1号証には、金属イオン封鎖剤組成物をその金属イオン封鎖組成物が硬表面に付着した汚れ自体に作用して洗浄する旨の記載はないのに対し、引用発明2は、アルカリと錯体形成剤とを硬表面の洗浄のための有効成分として用いるものであるとの違いがあるが、上記(c)のとおり、金属イオン封鎖剤を含む洗浄剤組成物を硬表面の洗浄のための有効成分として用いることは周知技術であるということができるものであるから、引用発明1も、洗浄作用という技術分野に係る発明であって、引用発明2と技術分野を同じくするものということができる。
しかしながら、引用発明2は、グリコール酸ナトリウムを組成物とする金属イオン封鎖剤組成物の発明ではなく、また、引用発明1も、その発明に係る金属イオン封鎖剤組成物には、グリコール酸ナトリウムが含まれているとはいえ、前記(a)のとおり、当該金属イオン封鎖剤組成物にとって、グリコール酸ナトリウムは必須の組成物ではなく、かえって、その必要がない組成物にすぎないのである。
そうすると、判示されるとおり、「一般的に、金属イオン封鎖剤を含む洗浄剤組成物を硬表面の洗浄のための有効成分として用いることとし、その際に引用発明1に引用発明2を組み合わせて引用発明1の金属イオン封鎖剤に水酸化ナトリウムを加えることまでは当業者にとって容易に想到し得るとしても、引用発明1の金属イオン封鎖剤組成物にとって必須の組成物でないとされるグリコール酸ナトリウムを含んだまま、これに水酸化ナトリウムを加えるのは、甲第1号証にグリコール酸ナトリウムを生成する反応式(2)の反応が起こらないようにする必要があると記載されているのであるから、阻害要因があるといわざるを得ず、その阻害要因が解消されない限り、そもそも引用発明1に引用発明2を組み合わせる動機付けもないというべきであって、その組合せが当業者にとって容易想到であったということはできない。」のである。

(ウ)本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1、2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、組成物の構成成分である水酸化ナトリウム、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、グリコール酸ナトリウムの含有量を特定したものであるから、上記(1)と同様の理由により、甲第1、2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1によっては、本件特許1及び2を無効にすることはできない。

2 無効理由2について
請求人は、審判請求書の11頁(4-2)において、無効理由2として、

ア)「本件の請求項1においては、水酸化ナトリウムの濃度を規定していないので、洗浄剤組成物のpHが8である場合をも包含している。発明の詳細な説明において、pHが8でも所期の発明の効果が奏せられるとは説明あるいは裏付けされていない。」こと
及び
イ)「アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムについても、これらが所定の効果を奏するためにはしかるべき濃度で存在することが必要であることは当然である(・・・中略・・・)。にもかかわらず、斯かる限定を欠く請求項1は発明の効果を奏しない範囲を包含している。」こと

を指摘し、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張する。

そこで、まずア)について検討するに、訂正後の本件発明1では、水酸化ナトリウムの濃度が組成物の0.1?40重量%に限定されている。そして、乙第2号証の記載によれば、0.1重量%の水酸化ナトリウム水溶液ですら、そのpHは25℃で12.2であり、本件発明1は洗浄剤組成物のpHが8である場合を包含していない。
よって、本件発明1が発明の効果を奏しない範囲を包含している、とはいえない。

次にイ)について検討するに、本件発明1は「洗浄剤組成物」の発明であるから、構成成分の含有量が微量で組成物が洗浄作用を有さないものが含まれないことは明らかである。
請求人は、口頭審理陳述要領書において、「洗浄剤としての効果を奏しないかどうかの判断基準が本件明細書に示されていないから、当業者は客観的に判断をすることができない。」(8頁(5))と主張する。
しかし、本件発明1は単なる組成物ではなく、「洗浄剤組成物」という用途限定組成物の発明であり、組成物が洗浄剤として使われることが必須の要件である。そして、洗浄剤として使われていればその効果を有することは明らかであるから、アスパラギン酸二酢酸塩、グルタミン酸二酢酸塩、およびグリコール酸ナトリウムの濃度が特定されていなくても、当然その効果を奏する程度の濃度で存在するのである。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
よって、本件発明1が発明の効果を奏しない範囲を包含している、とはいえない。

以上のとおりであるから、本件発明1は、発明の効果を奏しない範囲を包含しているとはいえず、発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、請求人の主張する無効理由2によっては、本件特許1を無効にすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由とその証拠方法によっては、本件特許1及び2を無効にすることはできない。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
洗浄剤組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】水酸化ナトリウム、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類、及びグリコール酸ナトリウムを含有し、水酸化ナトリウムの配合量が組成物の0.1?40重量%であることを特徴とする洗浄剤組成物。
【請求項2】水酸化ナトリウムを5?30重量%、アスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類を1?20重量%、グリコール酸ナトリウムをアスパラギン酸二酢酸塩類及び/またはグルタミン酸二酢酸塩類1重量部に対して0.1?0.3重量部含有する請求項1記載の洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、洗浄剤に関し、特に食品工業をはじめとする各種工業プロセスの硬表面の洗浄に用いられる洗浄剤に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
食品工業及び水を使用する各種工業においては流体中に含有するカルシウムイオン、マグネシウムイオンをはじめとするアルカリ土類金属塩及び有機質分のプロセスへの堆積及びスケール成長による汚れが発生し、運転上及び工程品質上の大きな問題となっている。
【0003】
従来はこれらの硬表面の汚れ除去のためキレート剤であるEDTA塩類を主成分とする洗浄剤が広く用いられている。しかし、EDTA塩類は非常に高いキレート能を有し洗浄剤としてはすぐれているが処理排水中に含まれるEDTA塩類及びそのキレート錯体化合物が微生物により分解され難いものであるため処理水をそのまま河川及び海に廃棄することは環境保全の面から重大な問題となってきている。このため、上記目的で使用するEDTAの代替キレート剤が各種検討されている。例えば特開平7-238299号公報ではヒドロキシエチルイミノジ酢酸塩、グルコン酸塩及びアルカリ金属水酸化物を含有する洗浄組成物が開示されている。これは洗浄性に優れ、かつ微生物分解性に優れていると記載されている。また、EP(欧州特許)0608642A2号公報及びDE(ドイツ特許)4240695号公報ではグルタミン酸二酢酸塩類と各種成分の混合物の洗浄性と生分解性が記載されている。また、特開平6-59422号公報においてもグルタミン酸二酢酸塩類のキレート性能について記載されている。
【0004】
このようにグルタミン酸二酢酸塩類はキレート能に優れかつ生分解性良好な物質であることが記載されている。しかし、洗浄剤として使用する場合はEDTA塩類含有洗浄剤並の洗浄能力を確保するため各種の様々な成分を混合配合した組成物として使用されることが一般的である。
各種廃水や硬表面の洗浄性能に優れ、総合的に生分解性を有し、工業的に使用できる配合処方のグルタミン二酢酸塩類を含有する洗浄剤の開発が課題である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究した結果、主成分にアルカリ金属水酸化物とアミノジカルボン酸二酢酸塩類及びグリコール酸塩類を混合した洗浄剤が課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
この三成分を主成分とする洗浄剤の洗浄性能はそれぞれの相乗効果によりその単独でのものより優れた効果を現し、その効果は従来より広く使用されているEDTA塩類を主成分とする洗浄剤と同等の洗浄性を示すことを見出した。また、その洗浄剤組成物は生分解性に優れ、微生物で容易に分解でき環境の保全に有効である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるアルカリ金属水酸化物としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化リチウムであり通常、水酸化ナトリウムが使われる。アミノジカルボン酸二酢酸塩類はアミノ基含有ジカルボン酸のN,N-二酢酸の塩類であり、好ましくは下記に示す(1)の構造を有する化合物である。塩としてはアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩である。通常はナトリウム塩が好ましい。
【0007】
【化1】

(式中、Mはアルカリ金属原子、アンモニウムイオン、または置換アンモニウムイオンを示し、nは1?5の整数を示す。)
特に好ましくは、アスパラギン酸二酢酸塩類、グルタミン酸二酢酸塩類が挙げられる。また、2種以上のアミノジカルボン酸二酢酸塩類を併用することもできる。また、グリコール酸塩類は下記に示す(2)の構造を有する化合物でグルタミン酸塩類と同様にアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩である。通常はナトリウム塩が好ましい。
HOCH_(2)COOM^(1) (2)
(式中、M^(1)はアルカリ金属原子、アンモニウムイオン、または置換アンモニウムイオンを示す。)
【0008】
これらの化合物の洗浄剤組成物としての配合量はアミノジカルボン酸二酢酸塩類は0.01?30重量%であり好ましくは1?20重量%である。このアミノジカルボン酸二酢酸塩類は各種工業のプロセスの硬表面に付着したアルカリ土類金属塩(例えば炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム)を主成分とする汚れ中のアルカリ土類金属を溶解しキレート錯体となり洗浄液中に安定的に溶解せしめることによる洗浄効果を発揮する成分として有用である。グリコール酸塩類はアミノジカルボン酸二酢酸塩類1重量部に対し0.025?0.6重量部で配合し、好ましくは0.1?0.3重量部である。これによってアミノジカルボン酸二酢酸塩類が汚れ中のアルカリ土類金属とキレート錯体を形成したときにその洗浄液中で安定的に存在出来るような補助的な効果を発揮すると考えられる。また、汚れ中のアルカリ土類金属を洗浄液中に溶解しやすくするような触媒的効果も有すると考えられる。また、アルカリ金属水酸化物は洗浄剤組成物中0.1?40重量%好ましくは5?30重量%配合する。これによってアミノジカルボン酸二酢酸塩類のキレート効果を十分発揮する高アルカリpHにするためと汚れ中の有機質を分解させ、アルカリ土類金属塩類の洗浄効果を上げることができる。ただし、被洗浄材料や硬表面の材質によってはこのアルカリ金属水酸化物濃度を増減する必要がある。例えばガラスの場合は高濃度で長時間使用するとアルカリにより腐食を起こす可能性がある。この場合は十分濃度を下げて行う必要がある。
ここでグリコール酸塩類の配合はアミノジカルボン酸二酢酸合成時に副生するグリコール酸塩の生成量制御によりその反応液中のアミノジカルボン酸二酢酸塩に対するグリコール酸塩量を調整しその反応液を直接洗浄剤に配合することで容易に可能である。このため、本発明の組成物はアミノジカルボン酸二酢酸塩の固形を取り出すことなく使用でき工業上、極めて有利である。また、必要ならば別途用意したグリコール酸あるいはその塩を添加配合しても良い。この反応液中には副生するアミノジカルボン酸モノ酢酸塩類あるいはニトリロトリ酢酸塩類が含有する可能性があるがこれは洗浄性及び生分解性に特に問題を与えるものではない。また、洗浄の用途、汚れ具合等に応じてこの洗浄剤組成物を水等の溶媒で任意に希釈して使用してもよい。また、EDTA塩類を併用することもできる。
【0009】
このように上記の三成分を主成分として特定の配合量で混合した洗浄剤組成物は食品工業をはじめ各種工業プロセスの硬表面洗浄に有効である。また、この洗浄剤に第四の成分を配合することで更に洗浄性を増すことが可能であろう。
この洗浄剤組成物の生分解性は常法の生分解試験法で良分解性を示した。また工業排水処理の曝気型活性汚泥によっても良分解性を示し、その洗浄後排水の処理容易の有効さを確認できた。
【0010】
【実施例】
以下に本発明の実施例を説明する。本発明は、これらの実施例により限定されるものでない。
試験法1
以下の実施例1?7及び比較例1?4は以下示す試験により評価した。
本試験は石灰岩の粉末3%と珪藻土粉末7%を水に撹拌懸濁させ50℃に保った。これに3cm×5cm×厚さ1mmのガラス板と同サイズのSUS304製板を糸で吊せるように3mmの穴を端に開けたものを準備した。次にこの板2種を懸濁液中に10分間浸け置いた。10分後、静かに引き上げ、110℃のオーブンで3時間乾燥した。これを本試験に用いる人工汚垢板とし本発明の実施例での各種洗浄剤の評価に使用した。評価方法は各調整した洗浄剤組成物を60℃に保ち若干の流動が起こるように撹拌し、これにガラスとSUS304製の二種の人工汚垢板を10分間浸け置いた。30分後、静かに引き上げ、3個のビーカーにそれぞれ脱イオン水を入れそれぞれの人工汚垢板を順番に浸けては引き上げを各ビーカー一回ずつ行う。これを110℃のオーブンで3時間乾燥させて洗浄前の人工汚垢板と洗浄後の人工汚垢板との比較により洗浄性を評価した。評価は光沢度計を用いて光沢度と目視による表面の洗浄状況を5段階評価した2通りで行った。
この試験は各洗浄剤について3回ずつ行いその平均値を評価値とした。
【0011】
実施例1
予めアスパラギン酸ソーダと青化ソーダ、ホルマリン及び水酸化ナトリウムを原料にして得られたアスパラギン酸二酢酸四ナトリウム塩50重量%、グリコール酸ナトリウム5重量%を含有した反応液を得、この反応液100g、48%水酸化ナトリウム52g、水848gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
尚、反応液中のアスパラギン酸二酢酸四ナトリウム塩及びグリコール酸ナトリウムの濃度は液体クロマトグラフィーで定量した。
【0012】
実施例2
予めアスパラギン酸ソーダとモノクロロ酢酸ソーダ及び水酸化ナトリウムを原料にして得られたアスパラギン酸二酢酸四ナトリウム塩50重量%、グリコール酸ナトリウム3重量%を含有した反応液を得、この反応液100g、48%水酸化ナトリウム52g、水848gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
【0013】
実施例3
予めグルタミン酸ソーダと青化ソーダ、ホルマリン及び水酸化ナトリウムを原料にして得られたグルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩50重量%、グリコール酸ナトリウム5重量%を含有した反応液を得、この反応液100g、48%水酸化ナトリウム52g、水848gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
尚、反応液中のグルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩及びグリコール酸ナトリウムの濃度は液体クロマトグラフィーで定量した。
【0014】
実施例4
予めグルタミン酸ソーダとモノクロロ酢酸ソーダ及び水酸化ナトリウムを原料にして得られたグルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩50重量%、グリコール酸ナトリウム3重量%を含有した反応液を得、この反応液100g、48%水酸化ナトリウム52g、水848gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
【0015】
実施例5
実施例1で得られたグルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩反応液に試薬のグリコール酸ナトリウムと水を新たに添加しグルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩40重量%、グリコール酸ナトリウム10重量%になるようにした。この調整した反応液100g、48%水酸化ナトリウム52g、水848gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
【0016】
実施例6
予めグルタミン酸ソーダと青化ソーダ、ホルマリン及び水酸化ナトリウムを原料にして得られたグルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩50重量%、グリコール酸ナトリウム15重量%を含有した反応液を得、この反応液50g、48%水酸化ナトリウム52g、水898gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
【0017】
実施例7
実施例1で得られたグルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩反応液を100g、48%水酸化ナトリウム52g、試薬のグルコン酸ナトリウム5g、水843gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
【0018】
比較例1
試薬のEDTA四ナトリウム塩を50g、48%水酸化ナトリウム52g、水898gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
【0019】
比較例2
実施例1の反応液を塩酸でpH2としメタノールを滴下してグルタミン酸二酢酸の固形を析出させる。この固形をろ過し再度水に溶解させる。これにまたメタノールを滴下し固形を析出させる。これを真空乾燥器、60度、5時間乾燥させる。この乾燥固形品を若干の水に溶解させ48%水酸化ナトリウムでpH13とし更に水を加えてアスパラギン酸二酢酸四ナトリウム塩50重量%水溶液を得る。この液中にはグリコール酸ナトリウムは0.1重量%以下で液体クロマトグラフィー分析上は検出されない含量である。この液100gと48%水酸化ナトリウム52gと水898gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
【0020】
比較例3
実施例3の反応液を塩酸でpH2としメタノールを滴下してグルタミン酸二酢酸の固形を析出させる。この固形をろ過し再度水に溶解させる。これにまたメタノールを滴下し固形を析出させる。これを真空乾燥器、60度、5時間乾燥させる。この乾燥固形品を若干の水に溶解させ48%水酸化ナトリウムでpH13とし更に水を加えてグルタミン酸二酢酸四ナトリウム塩50重量%水溶液を得る。この液中にはグリコール酸ナトリウムは0.1重量%以下で液体クロマトグラフィー分析上は検出されない含量である。この液100gと48%水酸化ナトリウム52gと水898gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
【0021】
比較例4
48%水酸化ナトリウム52gと水948gを混合し洗浄剤とした。結果は表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例8
実施例1で調整した洗浄剤をCODで0.05%になるように水で希釈し、化学工業排水を処理している活性汚泥処理設備から汚泥を採取し調整した小型の二槽直列の曝気槽型活性汚泥設備にその液を供給して生物分解テストを行った。処理排水中CODは0.015?0.01%程度に低減され、分解率70?80%を得た。
【0024】
実施例9
実施例3で調整した洗浄剤をCODで0.05%になるように水で希釈し、化学工業排水を処理している活性汚泥処理設備から汚泥を採取し調整した小型の二槽直列の曝気槽型活性汚泥設備にその液を供給して生物分解テストを行った。処理排水中CODは0.015?0.01%程度に低減され、分解率70?80%を得た。
【0025】
【発明の効果】
本発明の洗浄組成物は、エチレンジアミン四酢酸含有洗浄剤と同等の洗浄効果を示し、かつその処理排水は微生物で容易に生分解処理できる。また、反応条件を選ぶことによって、アミノジカルボン酸塩のカルボキシメチル化反応の生成物をそのまま、または簡単な精製処理で使用できる有利さがある。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-02-17 
結審通知日 2010-02-19 
審決日 2010-03-02 
出願番号 特願平8-194727
審決分類 P 1 113・ 121- YA (C11D)
P 1 113・ 537- YA (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 穴吹 智子井上 典之  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齊藤 真由美
小出 直也
登録日 2008-04-25 
登録番号 特許第4114820号(P4114820)
発明の名称 洗浄剤組成物  
代理人 加藤 由加里  
代理人 大家 邦久  
代理人 松井 光夫  
代理人 大家 邦久  
代理人 林 篤史  
代理人 林 篤史  
代理人 村上 博司  

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