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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1236346
審判番号 不服2009-16558  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-08 
確定日 2011-05-23 
事件の表示 特願2003-3526「経管栄養剤」拒絶査定不服審判事件〔平成16年8月5日出願公開,特開2004-217531〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は,平成15年1月9日の出願であって,その請求項1?5に係る発明は,平成22年2月22日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであって,そのうち請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。
「【請求項1】胃瘻に配置された管状材を通して,数分間で200ml?400mlが加圧供給される栄養剤であって,
該栄養剤は,
その粘度が,1000ミリパスカル秒以上?60000ミリパスカル秒以下の粘体であって,
管状材を通過する前後において,粘体の状態が維持されるように調製されていることを特徴とする経管栄養剤。」(以下,「本願発明」という。)

2.引用刊行物及びその記載事項
これに対して,当審で通知した拒絶理由において引用した,本願出願日前に頒布された刊行物と認められるI及びIIの刊行物には,それぞれ以下のことが記載されている。

刊行物I:第12回青森静脈・経腸栄養研究会プログラム,2001年,
第17頁(当審で通知した拒絶理由に引用した刊行物C)
刊行物II:日本老年医学会雑誌,2002年,第39巻,第4号,第448
-451頁(当審で通知した拒絶理由に引用した刊行物A)

2-1.刊行物Iの記載事項
(I-1)[第5?7行]
「(症例)75才 男性
(既往歴)40才代に不整脈を指摘されていた。1995年食道癌にてA大学附属病院で食道亜全摘術(頚部食道胃吻合)を受けた。」
(I-2)[下から6行?末行]
「…2001年2月14日残胃にPEG施行。2月20日より胃ろうから液体の注腸栄養剤の注入を開始したが体動時や訓練時に嘔吐を繰り返した。3月5日より胃ろうから半固形状食品(R)テルミールソフトを注入したところ嘔吐はみられなくなり栄養は改善され体重は3ヶ月で7kg増加した。…。
(考察)胃食道逆流でトラブルの起こる胃ろう患者に半固形状食品の有効性が示唆された。」
(審決注:「(R)」は,登録商標を意味するRの文字を○で囲った記号を代用するものとして使用する。以下,同様に登録商標である旨を「(R)」の表記を以て代用する。)

2-2.刊行物IIの記載事項
(II-1)[第448頁第5?10行]
「<要約>症例は85歳女性,介護老人保健施設にて胃瘻による経管栄養管理を受けていた。来所時は状態が安定していたが,その後,経腸栄養剤の流涎,胃瘻挿入部からの経腸栄養剤リーク,嘔吐,発熱,…などの症状を反復して認めた。そのため,各症状の緩和のために,粉末寒天により固形化した経腸栄養剤投与を開始したところ,投与直後より発熱以外の症状が消失し,…,良好な経過が得られた。…」
(II-2)[第449頁左欄第5行?23行]
「方法
今回使用した固形化経腸栄養剤は,市販の経腸栄養剤に粉末寒天を混入して調理を行った。…投与にあたっては,症例に必要とされる量を数分程度かけ一括で注入するといった方法をとった…。…経腸栄養剤の投与量は固形化の前後で変化はなく,1回量500mlを1日3回で投与を行った。」
(II-3)[第449頁左欄第24行?31行]
「考察
PEGは…,長期の経腸栄養を必要とする患者の管理を一変する方法として高い評価を受けている。しかし胃瘻には長期管理を行う上で,経鼻胃管にない特有の合併症を有する。…慢性期合併症において筆者らの経験では嘔吐回数の増加は高頻度であり,本症例もその合併症を有していた。」
(II-4)[第449頁左欄下から4行?同頁右欄下から5行]
「…胃排出能に関わる胃蠕動運動を増減する因子には,神経性因子と各種消化管ホルモンに依存する液性調節がある。各消化管ホルモンの中でも胃蠕動を最も強く亢進するとされているものとしてガストリンがあり,この消化管ホルモンは胃壁の伸展により分泌が刺激される。しかし従来から行われている液体を使用した経管栄養投与法においては,嘔吐を予防する意味で時間あたり150?200mlの速度で滴下することが推奨されてきた。しかしこの滴下速度では胃の充満は困難であり,胃の不充分な充満からガストリンの分泌も悪く,胃の蠕動が低下して胃排泄能が低下し,結果的に胃食道逆流を助長する可能性が考えられる。またこの投与速度での滴下を行った場合,必要な水分量やカロリーを摂取するためには,長時間の座位保持が必要になる。長時間の座位保持は,PEG症例でしばしばみられる褥瘡の管理の上でも不利な処置であるとともに,介護者にとっても見守りの必要性があり一定の労働力が必要となる事になる。」
(II-5)[第449頁右欄下から4行?末行]
「今回我々が行った固形化経腸栄養剤の経管投与では,従来の液体による投与法と異なり,注射器を使用しての注入を行い,1回の投与量を一括で注入したため,注入時間は数分程度であった。…」
(II-6)[第450頁左欄第8?17行]
「…我々の方法においては予め固形化した栄養剤を直接注入することから,従来の報告より安全性が高いものと考える。また一般的な経腸栄養投与法である液状経腸栄養剤の緩徐な速度での注入法に比して,短時間での注入が行い得ることから充分な胃の伸展が得られ生理的な胃蠕動が期待できる。このことは嘔吐や嚥下性呼吸器感染症の発生予防に効果があると考えられ,現に本例においても経腸栄養の固形化が開始された後に嘔吐や嚥下性呼吸器感染症が無くなり,連日みられた経腸栄養剤の流涎も停止している。」
(II-7)[第450頁右欄第2?18行]
「今回の症例においては固形化経腸栄養剤を注射器に入れ,数分程度で注入している。これは固形化した経腸栄養剤が胃食道逆流を惹起しにくい形態のためである。短時間で注入し得るということは,注入中座位の姿勢を長時間保ち体交ができない従来の経腸栄養投与法に比して,褥瘡の予防管理の点から有利な要素と考えられる。また不穏状態のある症例などは,経腸栄養投与中にチューブに触れることにより,チューブが外れるなどのトラブルを起こすことがあるが,本法のごとく短時間での注入が可能なら,そのような問題点を予防することができる。また液状経腸栄養剤で行う注入中の監視の必要もなくなり,介護者の負担が軽減するといった結果を得られる事になる。
結論として従来液体を使用していた経腸栄養剤を固形化することにより,慢性期の合併症である胃食道逆流と栄養剤リークの軽減が可能である。また管理面においても短時間の注入が行えることから,褥瘡の予防や介護負担の軽減が期待できるものと考える。」

3.対比
上記刊行物Aの(I-2)の記載から,上記刊行物Aには,以下の発明が記載されているものと解される。
「胃ろうから注入した半固形状食品(R)テルミールソフト。」(以下,「引用発明」という。)

ここで,本願発明と引用発明とを比較する。
本願発明における「栄養剤」とは,それ自体定義が明確な用語であるとされるものではなく,また本願明細書の記載を参酌しても,具体的にどのようなものを意味するものとして用いられているのか,必ずしも明らかではないが,通常使用される意味から解釈するならば,炭水化物,タンパク質及び脂肪等の栄養素を含む食品や医薬品などを指し示す語であると解される。(なお,現在の本願明細書では削除されているが,本願当初明細書には「なお,本発明において,栄養剤とは,医薬品として認可された経腸栄養剤と,医薬品としての認可を得ず食品扱いとして市販される流動食の両方を含む概念である。」との記載がなされている。)
このような解釈を前提とすれば,引用発明における「(R)テルミールソフト」は本願発明の栄養剤に相当するものであり,また,「胃ろう」とは,通常,「胃に穴をあけて,その穴にチューブを取り付け,そこから水分や栄養補給すること」であって,刊行物Iには,このような胃ろうから(R)テルミールソフトを注入した旨記載されているので,引用発明に係る(R)テルミールソフトは,「経管」の栄養剤であるということができる。
したがって,本願発明と引用発明とは,
「胃瘻に配置された管状材を通して,供給される経管栄養剤」である点で一致し,以下の点で一応相違するものである。

[相違点1]
本願発明では,「粘度が,1000ミリパスカル秒以上?60000ミリパスカル秒以下の粘体であって」と特定されているのに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない点。
[相違点2]
本願発明では,「管状材を通過する前後において,粘体の状態が維持されるように調製されている経管栄養剤」と特定されているのに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない経管栄養剤である点。
[相違点3]
本願発明では,「数分間で200ml?400mlが加圧供給される」と特定されているのに対して,引用発明では,そのような特定がなされていない点。

4.当審の判断
上記相違点について以下順次検討する。
(4-1)[相違点1]について
引用発明に係る「(R)テルミールソフト」は,その性状(半固形状)から本願発明にいう「粘体」に相当することは明らかであるが,その粘度については,刊行物Iには明記されていない。
しかしながら,当該商品の性状を記載したパンフレット(「テルモの栄養補助食品Line-Up」,テルモ株式会社,2004年8月発行;当審で通知した拒絶理由に引用した刊行物D)によれば,上記「(R)テルミールソフト」の粘度は20℃で20000mPa・s(ミリパスカル秒)であることが記載されており,該パンフレットは刊行物Iに記載の試験が行われた時点よりも,さらに本願出願日よりも後の発行日が記載されたものであるが,同一の商品名で市販されていたものであって,通常そのような場合には商品の性状を大きく変えることは,購買者である消費者等に無用な混乱・混同を生じさせかねないとする配慮がなされるものと認められるものであり,他にこれを覆す何らかの事情があるとすることもできないので,該パンフレットに記載の粘度は刊行物Iに記載の試験が行われた時点においても,(仮に多少の相違があったとしても)そう大きくは異ならないものであると認められるので,少なくとも1000?60000といった20000を含む前後に広く特定されている本願発明に係る粘度範囲に含まれるものであったと合理的に解釈されるものである。
したがって,本願発明において「粘度が,1000ミリパスカル秒以上? 60000ミリパスカル秒以下の粘体であって」と特定されていることによって,引用発明と本願発明とが実質的に相違するものとすることができない。

(4-2)[相違点2]について
本願発明においては,「管状材を通過する前後において,粘体の状態が維持されるように調製されている」と特定されているものであるが,このような機能・特性等による特定を含む記載によって具体的にどのような技術事項を特定しようとしているのかについては,特許請求の範囲の記載からでは必ずしも明らかではない。
そこで,発明の詳細な説明の記載を参酌すると,例えば,
「本実施形態の経管栄養剤は,人体の外部,つまり人の消化管内に投与する前に,粘体状であって所望の粘度に調製されていることが特徴であり,…」(【0012】)
との記載があることから,
(1)「人の消化管内に投与する前に,栄養剤が粘体状であること」と
(2)「人の消化管内に投与する前に,所望の粘度に調製されていること」
が,上記した機能・特性等を含む記載によって特定しようとする具体的技術事項である解され,発明の詳細な説明の他の記載をみても,上記(1)及び(2)以外に特段の技術事項が必要とされる旨の記載はなされていないから,上記2点が,「管状材を通過する前後において,粘体の状態が維持されるように調製されている」という機能・特性を含む記載によって特定される技術事項であると解される。
そうすると,上記「(4-1)[相違点1]について」で検討したように,引用発明に係る「(R)テルミールソフト」は,胃への投与前の状態で,粘体に相当するものであって,かつ,「1000ミリパスカル秒以上?60000ミリパスカル秒以下」という本願発明における所望の粘度を有するものであるから,このような引用発明に係る「(R)テルミールソフト」も,「管状材を通過する前後において,粘体の状態が維持されるように調製されている」栄養剤といえるものである。
したがって,本願発明において「管状材を通過する前後において,粘体の状態が維持されるように調製されている」と特定されていることによっても,引用発明と本願発明とが実質的に相違するものとすることができない。

(4-3)[相違点3]について
本願発明は,末尾の記載を「経管栄養剤」とする「物」に関する発明であり,本願発明における「数分間で200ml?400mlが加圧供給される」なる特定によって,本願発明に係る「経管栄養剤」という「物」に対して,構成上何らかの差異を生ずるものであるか否かについては,その記載のみからでは必ずしも明らかではない。そこで,明細書の記載を参酌してこれを検討する。
明細書における関連する記載としては,以下のような記載がある。
「…例えば,従来から使用されている200ml ? 400mlの栄養剤と同等の栄養分を含むものであれば,約数分で投与することできる。したがって,経管投与されている患者が,栄養剤の投与に拘束される時間が短くなり,健常者の食事時間と同等かそれ以下とすることができるから,日常生活動作やリハビリ訓練を無理なく行うことができ,患者のQOLを向上させることができる。…」(【0020】)
このような記載を参酌すると,本願発明に係る栄養剤を用いれば,「数分間で200ml?400mlを投与することが可能となる」ということになると解せられるから,本願発明における「数分間で200ml?400mlが加圧供給される」なる記載によっては,「経管栄養剤」という「物」に対して何らかの構成上の差異を生ずるものであるとすることができないし,また明細書の他の記載をみてもこれに反する記載は見あたらない。
してみると,このような認定に加えて,上記「(4-1)[相違点1]について」及び「(4-2)[相違点2]について」で検討したように,他の点では本願発明と引用発明とは実質的に「物」として何らかの差異があるとされるものではないから,[相違点3]についての検討においては,結局,引用発明に係る栄養剤である「(R)テルミールソフト」を,「数分間で200ml?400mlが加圧供給される」という投与形態で用いることが,当業者にとって容易になし得ることである否かを検討すべきということになる。
そこで,以下このような観点から検討する。
まず,本願発明における「数分間で200ml?400mlが加圧供給される」なる投与形態が,刊行物IIに記載の投与形態とどのような関係にあるかについて検討する。
刊行物IIに記載の投与形態は,
「症例に必要とされる量を数分程度かけ一括で注入するといった方法をとった…。…経腸栄養剤の投与量は固形化の前後で変化はなく,1回量500mlを1日3回で投与を行った。」(II-2)及び
「今回我々が行った固形化経腸栄養剤の経管投与では,従来の液体による投与法と異なり,注射器を使用しての注入を行い,1回の投与量を一括で注入したため,注入時間は数分程度であった。」(II-5)
なる記載からみて,「注射器を使用しての加圧供給であって,数分程度で500mlの栄養剤を投与した」ものであると理解することができる。そして,ここで500mlという量については「経腸栄養剤の投与量は固形化の前後で変化はなく,1回量500ml…」(II-2)と記載されていることから,従来液体で投与していた栄養剤と同じ量を意味するものであると解される。
これに対して,本願発明では,「数分間で200ml?400mlが加圧供給される」として一応投与量が限定されているものであるが,この「200ml?400ml」という記載の意味を明細書の記載を参酌して解釈すると,上記したように,明細書には,「例えば,従来から使用されている200ml ? 400mlの栄養剤と同等の栄養分を含むものであれば,約数分で投与することできる。」(【0020】)と説明されていて,他に「200ml?400ml」に関する説明は見あたらないことから,本願発明における「200ml?400ml」なる記載の意味は,従来液体で投与されていた栄養剤の1回量に相当する量を意味するものであって,この量範囲において技術的な臨界的意味があるものとすることができないものである。そうすると,本願発明における「数分間で200ml?400ml」なる記載は,単に,加圧供給する際の速度として,「従来液状で投与していた栄養剤の1回量を数分間で供給する」といったことを表現したにすぎないものと解せられる。
これに対して,刊行物IIにおいては上記したように「数分程度で500ml」とするものであるが,ここにおける「500ml」は従来の液体栄養剤の量を意味するものであると解釈されることは,上記したとおりである。
してみると,本願発明における「200ml?400ml」も,刊行物IIにおける「500ml」も,ともに従来の液体栄養剤の量に相当する量を意味するものとして使用されているものということになる。
さらに時間については,両者ともに「数分」という表現を用いており,本願明細書にも,また,刊行物IIにも,より具体的に何分程度であるのかを伺わせる記載は見あたらないものである。そうすると,常識的な解釈の下理解するよりなく,一般に「数分」といえば2?3分程度から7?8分程度といった幅のある時間範囲を意味する用語であるといえるから,結局,本願発明における「数分間で200ml?400ml」との表現によって示される投与速度も,刊行物IIにおける「数分程度で500ml」との表現によって示される投与速度も,実態的には概ね同様の投与速度を意味するものであると解されるであって,少なくとも両者の間には相互に重複する範囲が存在するものといえるものである。
すなわち,本願発明における「数分間で200ml?400mlが加圧供給される」という投与形態は,刊行物IIにおける「数分程度で500mlを加圧注入する」という投与形態と実質的に差異があるものとすることができないものである。
一方,本願発明においては,投与対象の患者について何らの特定もされていないことから,例えば,刊行物IIに記載の患者を対象として栄養剤を投与する態様も含まれていると解される。
してみると,上記したように刊行物IIにおける投与形態は本願発明に係る投与形態と差異がないものである上,刊行物IIにおける投与対象となっている患者に対する投与も本願発明の一態様に含まれるものとされるのであるから,仮に,引用発明に係る栄養剤である「(R)テルミールソフト」を,刊行物II記載の患者に対して,刊行物IIに記載の投与形態によって投与することが,当業者にとって容易であったとされるならば,本願発明は当業者にとって容易になし得たものであるということになる。そこで,以下この点について検討する。

刊行物Iにおいては,食道亜全摘術(頚部食道胃吻合)を受けた患者に対して,従来の液体栄養剤に代えて,半固形状の食品である「(R)テルミールソフト」を胃瘻から投与することにより,嘔吐が解消したとするものである。((I-1)及び(I-2))
これに対して,刊行物IIにおいては,胃瘻による経管栄養管理を受けていた患者に対して,液体栄養剤に代えて,寒天で固形化した経腸栄養剤を胃瘻から注射器で注入したところ,固形化栄養剤投与前に反復していた,嘔吐を含む諸症状が消失したというものである。((II-1),(II-3)及び(II-6))
ところで,刊行物IIにおいては,固形化栄養剤の投与による症状改善の要因に関して,以下のようにも記載されている。
「…胃排出能に関わる胃蠕動運動を増減する因子には,神経性因子と各種消化管ホルモンに依存する液性調節がある。各消化管ホルモンの中でも胃蠕動を最も強く亢進するとされているものとしてガストリンがあり,この消化管ホルモンは胃壁の伸展により分泌が刺激される。しかし従来から行われている液体を使用した経管栄養投与法においては,嘔吐を予防する意味で時間あたり150?200mlの速度で滴下することが推奨されてきた。しかしこの滴下速度では胃の充満は困難であり,胃の不充分な充満からガストリンの分泌も悪く,胃の蠕動が低下して胃排泄能が低下し,結果的に胃食道逆流を助長する可能性が考えられる。」(II-4)
「また一般的な経腸栄養投与法である液状経腸栄養剤の緩徐な速度での注入法に比して,短時間での注入が行い得ることから充分な胃の伸展が得られ生理的な胃蠕動が期待できる。このことは嘔吐や嚥下性呼吸器感染症の発生予防に効果があると考えられ,現に本例においても経腸栄養の固形化が開始された後に嘔吐や嚥下性呼吸器感染症が無くなり,連日みられた経腸栄養剤の流涎も停止している。」(II-6)
このような刊行物IIの記載について,たとえ症例の異なる患者に対する成功例であったとしても,刊行物Iにおける半固体状食品の胃瘻から投与による実例を踏まえた当業者であるならば,刊行物IIの上記記載をみて,刊行物IIに記載の利点・効果の要因は,
(1)胃内において充満しうる性状を備えていること,及び,
(2)短時間での投与が可能であること,
の2点に基づくものと考え,この2つの性質を有することにおいては刊行物II記載の固形化栄養剤と共通する,引用発明に係る「(R)テルミールソフト」を,刊行物IIに示された多くの利点・効果((II-6)及び(II-7))を期待して,その対象の拡大が可能であるとして,刊行物IIにおける患者に対しても,刊行物IIに記載の投与形態により投与してみようとすることは格別の創意を要することなく容易に想到し得るものである。
すなわち,刊行物Iにおいて示された,半固形状食品である「(R)テルミールソフト」についての,胃瘻から投与する際の従来の液体栄養剤と比較した有効性を知る当業者ならば,同様に胃瘻から投与する従来の液体栄養剤の問題点を解決した成功例が示された刊行物IIの記載に触れたならば,そこに記載された利点・効果を奏する要因に関して共通性を有すると考えられる引用発明に係る「(R)テルミールソフト」について,刊行物IIに記載の固形化栄養剤と同様に投与してみようと考えるものである。
そうしてみると,引用発明に係る「(R)テルミールソフト」を,「数分間で200ml?400mlが加圧供給される」といった投与態様によって,(刊行物IIに記載の患者に対して)投与することは,当業者が容易に想到し得たものといえるものである。

そして,本願発明による効果も,上記刊行物I及びIIの記載から当業者が予期し得るものであって,格別特異なものであるとすることができない。

なお,請求人らは,平成22年2月22日付け意見書において,以下のように主張している。
(ア)「当業者であれば,「固形化した栄養剤」は,「粘体状の栄養剤(半固形化した栄養剤)」とは,全く異なるものであると当然のごとく理解する。そして,「両者では患者に与える影響が異なる」ということも容易に理解するから,刊行物IIを見ても,「粘体状の栄養剤(半固形化した栄養剤)」を使用することを想起もしない。」
(イ)「食道がんの除去手術により,頸部食道胃吻合されている患者に対して,栄養剤を大量に短時間で投与することが,刊行物Cの発行時において禁忌である」ことを根拠として,「「経腸栄養剤を大量に短時間で投与する」という技術を採用することができない刊行物Iの症例に,「経腸栄養剤を大量に短時間で投与」した刊行物IIの技術を適用することはあり得ない」
しかしながら,刊行物Iの現実の成功例を踏まえて,刊行物IIの記載に触れた当業者であれば,刊行物II記載の固形化栄養剤と共通する性状を有する,刊行物I記載の半固形状食品である「(R)テルミールソフト」について,その対象拡大が可能であると考え,刊行物IIに記載の患者への投与を想起するものであるといえることは,上記したとおりであるから,請求人らの(ア),(イ)何れの主張によっても本願発明の進歩性を肯定することはできない。

5.むすび
以上のとおり,本願請求項1に係る発明は,上記刊行物I及びIIに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,結論のとおり審決する。

以上
 
審理終結日 2010-03-16 
結審通知日 2010-03-23 
審決日 2010-03-31 
出願番号 特願2003-3526(P2003-3526)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
P 1 8・ 113- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 広介  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 弘實 謙二
川上 美秀
発明の名称 経管栄養剤  
代理人 山内 康伸  
代理人 山内 康伸  

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