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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) F04B
管理番号 1236420
判定請求番号 判定2010-600054  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2011-06-24 
種別 判定 
判定請求日 2010-09-06 
確定日 2011-05-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第2786214号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件説明書に示される「スクリュー圧縮機」は、特許第2786214号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号物件説明書に示されるスクリュー圧縮機(以下、「イ号物件」という)が、特許第2786214号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。


2.本件特許発明
本件特許発明は、無効2009-800173号事件において、平成22年4月1日付上申書に添付された全文訂正明細書(以下「全文訂正明細書」という。)の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その構成要件を分説すると以下のとおりである。

A.圧縮室内に収納されたスクリューをモータで回転駆動して圧縮空気を発生するスクリュー圧縮機において、
B1.エアフィルタの目詰まりを検出するエアフィルタ検出手段と、
B2.吐出空気温度を検出する吐出温度検出手段と、
B3.吐出空気圧力を検出する吐出圧力検出手段と、
B4.オイルフィルタの目詰まりを検出するオイルフィルタ検出手段と、
B5.モータ電流を検出する電流検出手段と、
C.このスクリュー圧縮機に故障が発生したときに前記各検出手段が検出したデータと故障原因とを記憶する記憶装置と、
D.圧縮機の運転を制御する制御装置と、
E.この制御装置に操作信号を入力する入力手段と、
F.この制御装置の出力を表示する表示手段とを備え、
G.前記記憶装置は圧縮機の操作手順フローを記憶しており、
H.前記制御装置は、トラブルシューティング時には前記記憶装置(注:記憶手段は誤記)に記憶した故障データと操作手順のフローとが表示された表示手段の出力に基づいて前記入力手段から対話形式で入力された操作信号により制御を進めること
I.を特徴とするスクリュー圧縮機。


3.イ号物件
イ号物件説明書に記載された製品名の内、EMERAUDE-FEについては、取扱説明書が提出されておらず、他にEMERAUDE-FEがイ号物件に該当するとの証拠が何等提出されていないので、EMERAUDE-FEをイ号物件とは認めることはできず、EMERAUDE-ALEのみを対象とする。
また、EMERAUDE-ALE取扱説明書を、以下「A説明書」と、ITCSコントローラ取扱説明書を、以下「I説明書」という。

3-1.各説明書の記載
(1)スクリュコンプレッサの全体構成
A説明書2-1頁に、「ALEシリーズ空気圧縮機は、2段型スクリュコンプレッサ」、「1、2段圧縮機本体内部には圧縮用ロータが組み込まれており」、「1段圧縮機(低圧圧縮部)と2段圧縮機(高圧圧縮部)ロータは、メインモータにより駆動され」と記載されている。

(2)吸込フィルタF-1
A説明書2-3?2-4頁「2空気の流れ」において、吸込フィルタF-1の下流には1段吸込圧力センサPT1が設けられ、更にその下流には1段圧縮機C-1が設けられている。

A説明書6-8頁「メンテナンス」において、項目として「吸込フィルタ清掃」、検出として「圧力センサ」、異常情報画面として「D-02」と記載されている。

I説明書8頁「5.画面展開」において、メンテナンス/警報/異常情報のうちのメンテナンスの一対象として「吸込フィルタ交換」があり、その下位の階層として「対策表示画面D-2」が表示される。

A説明書6-5頁「D-02」において、要因として「吸込フィルタの清掃」との記載、対処方法として「吸込フィルタが目詰まりしています。吸込フィルタをはずして内側からエアブローし、清掃してください。汚れがひどいときは交換してください。」との記載がある。

I説明書8頁「5.画面展開」において、「ダストフィルタ清掃」との記載があり、又、「吸込フィルタ交換」との記載があり、A説明書6-5頁「D-01」において、「ダストフィルタの清掃・油面確認」との記載があり、「D-02」において、「吸込フィルタの清掃」との記載があるから、ダストフィルタと吸込フィルタは別体であると認められる。

本件特許発明のエアフィルタに関し、全文訂正明細書〔実施例〕には、「圧縮室1には、エアフィルタ4でフィルタリングされた空気・・・が供給される。」とあり、圧縮室に供給する空気をフィルタリングするのがエアフィルタであると認められる。

(3-1)1段吐出温度用熱電対TE2
A説明書2-3?2-4頁「2空気の流れ」において、1段圧縮機C-1の下流側に1段吐出温度用熱電対TE2が設けられている。

I説明書8頁「5.画面展開」において、メンテナンス/警報/異常情報のうちの警報の一対象として「1段吐出温度上昇」があり、その下位の階層として「対策表示画面E-3」が表示され、そのうち要因1?2に対し「対策1?2表示画面」が表示される。

A説明書6-3頁「E-03」において、要因として「1段吐出温度上昇」との記載、考えられる原因として、「ダストフィルタの目詰まり」、「周囲温度が高すぎる」、「インタークーラの目詰まりを確認してください」との記載、対処方法として「ダストフィルタの目詰まり」に対して「K-01」との記載、「周囲温度が高すぎる」に対して「K-03」との記載がある。

A説明書6-6頁「K-01」において、考えられる要因として「ダストフィルタの目詰まり」との記載、対処方法として「ダストフィルタの清掃が必要です。ダストフィルタをはずしてエアブローし、清掃してください。」との記載がある。

A説明書6-6頁「K-03」において、考えられる要因として「周囲温度が高い」との記載、対処方法として「周囲温度を45℃以下にしてください。換気などにより、周囲温度を改善してください。」との記載がある。

A説明書6-8頁「警報」において、項目として「1段吐出温度上昇」、検出として「熱電対」、異常情報画面として「E-03」と記載されている。

I説明書8頁「5.画面展開」において、メンテナンス/警報/異常情報のうちの異常停止の一対象として「1段吐出温度上昇」があり、その下位の階層として「対策表示画面F-7」が表示され、そのうち要因1?2に対し「対策1?2表示画面」が表示される。

A説明書6-2頁「F-07」において、要因として「1段吐出温度上昇」との記載、考えられる原因として、「ダストフィルタの目詰まり」、「周囲温度が高すぎる」、「インタークーラの目詰まりを確認してください」との記載、対処方法として「ダストフィルタの目詰まり」に対して「K-01」との記載、「周囲温度が高すぎる」に対して「K-03」との記載がある。

A説明書6-7頁「異常停止」において、項目として「1段吐出温度上昇」、検出として「熱電対」、異常情報画面として「F-07」と記載されている。

(3-2)2段吐出温度用熱電対TE4
A説明書2-3?2-4頁「2空気の流れ」において、2段圧縮機C-2の下流側に2段吐出温度用熱電対TE4が設けられている。

I説明書8頁「5.画面展開」において、メンテナンス/警報/異常情報のうちの警報の一対象として「2段吐出温度上昇」があり、その下位の階層として「対策表示画面E-5」が表示され、そのうち要因1?2に対し「対策1?2表示画面」が表示される。

A説明書6-3頁「E-05」において、要因として「2段吐出温度上昇」との記載、考えられる原因として、「ダストフィルタの目詰まり」、「周囲温度が高すぎる」、「冷却水を確認してください」、「インタークーラの目詰まりを確認してください」との記載、対処方法として「ダストフィルタの目詰まり」に対して「K-01」との記載、「周囲温度が高すぎる」に対して「K-03」との記載がある。

A説明書6-8頁「警報」において、項目として「2段吐出温度上昇」、検出として「熱電対」、異常情報画面として「E-05」と記載されている。

I説明書8頁「5.画面展開」において、メンテナンス/警報/異常情報のうちの異常停止の一対象として「2段吐出温度上昇」があり、その下位の階層として「対策表示画面F-9」が表示され、そのうち要因1?2に対し「対策1?2表示画面」が表示される。

A説明書6-2頁「F-09」において、要因として「2段吐出温度上昇」との記載、考えられる原因として、「ダストフィルタの目詰まり」、「周囲温度が高すぎる」、「冷却水を確認してください」、「インタークーラの目詰まりを確認してください」との記載、対処方法として「ダストフィルタの目詰まり」に対して「K-01」との記載、「周囲温度が高すぎる」に対して「K-03」との記載がある。

A説明書6-7頁「異常停止」において、項目として「2段吐出温度上昇」、検出として「熱電対」、異常情報画面として「F-09」と記載されている。

(4-1)1段吐出圧力センサPT2
A説明書2-3?2-4頁「2空気の流れ」において、1段圧縮機C-1の下流側に1段吐出圧力センサPT2が設けられている。

A説明書2-3頁「2空気の流れ」に、「圧縮空気の使用量を吐出圧力センサにより圧力変化として検知し」と記載されている。

(4-2)2段吐出圧力センサPT3
A説明書2-3?2-4頁「2空気の流れ」において、2段圧縮機C-2の下流側に2段吐出圧力センサPT3が設けられている。

I説明書26頁「11-1.運転データ(5秒毎)の表示」において、2段吐出圧力が表示される。

(5)オイルフィルタF-2
A説明書2-4頁「4潤滑油の流れ」に、「コロガリ軸受、および増速歯車には潤滑油が必要であり、この潤滑油はオイルタンクからオイルポンプでくみ上げられ、オイルクーラとオイルフィルタを通って必要部に供給されています。」と記載されている。

A説明書6-8頁「メンテナンス」において、項目として「オイルフィルタ交換」、内容として「8000時間経過」、検出として「タイマ」、異常情報画面として「D-03」と記載されている。

A説明書6-5頁「D-03」において、要因として「オイルフィルタの交換」との記載、対処方法として「オイルフィルタの交換が必要です。コンプレッサを停止させて、オイルフィルタを交換してください。」との記載がある。

(6)モータ電流
I説明書28頁「11-5.異常・警報データの表示 Aアナログ入出力表示」に、「アナログ入出力の状況を表示します。」と記載されており、表示項目として、「0?5A(CT)」が示されている。
CTは、通常カレントトランスの意味である。

I説明書8頁「5.画面展開」において、メンテナンス/警報/異常情報のうちの異常停止の一対象として「メインモータ過電流」があり、その下位の階層として「対策表示画面F-1」が表示され、そのうち要因1?5に対し「対策1?5表示画面」が表示される。

A説明書6-1頁「F-01」において、要因として「メインモータ過電流」との記載、考えられる原因として、「圧力設定の不良」、「起動発停の頻度大」、「電源供給不良」、「モータ異常」との記載、対処方法として「圧力設定の不良」に対してK-13との記載、「起動発停の頻度大」に対してK-11との記載、「電源供給不良」に対して「K-06」との記載、「モータ異常」に対して「K-09」との記載がある。

A説明書6-6頁「K-13」において、考えられる要因として「圧力設定の不良」との記載、対処方法として「起動から20分以上の運転時間を確保してください。」との記載がある。

A説明書6-6頁「K-11」において、考えられる要因として「起動発停の頻度大」との記載、対処方法として「急激な圧力変動が続いていないか確認してください。起動から20分以上の運転時間を確保してください。」との記載がある。

A説明書6-6頁「K-06」において、考えられる要因として「電源供給不良」との記載、対処方法として「コンプレッサを停止させてください。電圧降下、電圧バランス、単相運転、逆相運転を点検し、改善してください。」との記載がある。

A説明書6-6頁「K-09」において、考えられる要因として「モータ異常」との記載、対処方法として「コンプレッサを停止させてください。コイルの抵抗を測定してください。10ΩM以下の場合は連絡してください。」との記載がある。

A説明書6-7頁「異常停止」において、項目として「メインモータ過電流」、検出として「サーマルリレー」、異常情報画面として「F-01」と記載されている。

上記記載に基づけば、カレントトランスはメインモータの電流を検出しているが、メインモータ過電流を検出するのはサーマルリレーである。

(7)記憶手段
I説明書28頁「11-5.異常・警報データの表示」に、「異常停止した時に、その直前の2分間5秒ごとの詳細データを過去4回分保存しています」と記載されている。

I説明書28頁「11-5.異常・警報データの表示 Aアナログ入出力表示」に、「アナログ入出力の状況を表示します。」と記載されており、表示項目として、「1段吸込圧力(P1)」、「1段吐出温度(T2)」、「2段吐出温度(T4)」、「1段吐出圧力(P2)」、「2段吐出圧力(P3)」、「0?5A(CT)」が示されている。

A説明書6-1?6-2頁「異常停止が発生した場合」において、要因として「1段吐出温度上昇」、「2段吐出温度上昇」、「メインモータ過電流」がメッセージモニタ表示される。

A説明書6-3頁「警報が発生した場合」において、要因として「1段吐出温度上昇」、「2段吐出温度上昇」がメッセージモニタ表示される。

上記記載に基づけば、データ及び要因が表示されることは、データ及び要因が記憶手段に記憶されていることとなる。

本件特許発明の記憶装置に関し、全文訂正明細書〔実施例〕には、「制御装置11は各センサ10a?10eからのデータにより故障が発生したと判断した場合には、モートル始動盤16に対し停止信号を送出してモートル3を緊急停止させると共に、操作者に対し故障発生を知らせるべく図示しない警報装置を作動させ、更に、故障発生時の各種データと停止させた理由及び圧縮機の操作手順フローチャートを記憶装置12から読み出してCRT19に表示する。操作者は、選択及び承認キースイッチ21,22の操作によりトラブルシューティングの手順に入り、制御装置11との間で前述したと同様に対話形式で故障の最終的原因を追求し、対策を講じる。」とあり、各検出手段が検出したデータは故障の直接的原因を示すものであると認められ、これら直接的原因を引き起こした最終的原因とは区別されている。

A説明書6-1?6-3頁「異常停止が発生した場合」、「警報が発生した場合」の要因として、「吸込フィルタの目詰まり」、「1段及び2段吐出圧力の上昇・低下」、「オイルフィルタの目詰まり」はメッセージモニタ表示されない。
なお、A説明書6-5頁「メンテナンスが表示された場合」において、要因として「吸込フィルタの清掃」、「オイルフィルタの交換」がメッセージモニタ表示されるが、通常メンテナンス必要時を故障とは言わないので、吸込フィルタの清掃、オイルフィルタの交換は故障原因とは認められない。

(8)ITCSコントローラ
I説明書11頁に、「8.コンプレッサの設定 8-1.コンプレッサの設定1 8-1-1.運転モードの設定」と記載されている。

(9)オペレーションスイッチ
I説明書1頁に、「1.操作パネルの説明 オペレーションスイッチ」と記載されている。

(10)メッセージモニタ
I説明書1頁に、「1.操作パネルの説明 メッセージモニタ LCD画面(液晶画面) ・運転状態、条件設定、装置の異常などを表示します。」と記載されている。

(11)操作手順
I説明書8頁「5.画面展開」において、運転状況、メンテナンス/警報/異常情報、コンプレッサの設定等が階層化されており、「矢印キーと「Enter」キーを用いて画面を移動していきます。」と記載されている。

上記画面展開が順に表示されることは、画面展開が記憶手段に記憶されていることとなる。

(12)トラブルシューティング
A説明書6-1頁「1トラブルシューティング」に、「異常停止および警報が発生した場合には、対処方法(P6-6参照)に従って異常要因を取り除いてから再運転してください。」と記載されている。

上記のように、故障データと操作手順は、記憶手段に記憶されていると共に、メッセージモニタに表示される。

I説明書38頁「13-3.異常情報の表示」に、「・本画面は、異常停止の種類を一覧にしたメニュー画面です。本画面でさらに「↑」または「↓」キーを用いて項目を選び、「Enter」キーを押すと、具体的な異常停止情報の画面が表示されます。」、「・上の異常停止一覧の画面で、項目【メインモータ過電流】にカーソルがある状態で「Enter」キーを押すと、左のような異常停止の要因が表示されます。要因が複数あってそれぞれ対策が異なる場合はここからさらに対策表示画面にジャンプすることができます。」と記載されている。
さらに、異常停止の要因が表示された画面に対して、「注)実際に異常停止が発生すると、この画面に自動的に切り替わります。この画面が自動的に表示された場合は、画面に表示された要因を吟味し、適切な対策を行ってください。」と記載されている。

2段吐出温度上昇による異常停止が発生したとき、上記したように、「異常停止」、「2段吐出温度上昇」と画面に示されると共に、考えられる原因として、「ダストフィルタの目詰まり」、「周囲温度が高すぎる」、「冷却水を確認してください」、「インタークーラの目詰まりを確認してください」の4つが画面に示され、対処方法として、「ダストフィルタの目詰まり」に対して対策1(K-01)、「周囲温度が高すぎる」に対して対策2(K-03)と示される。
そこで、対策1(K-01)を選択すると、考えられる要因として、「ダストフィルタの目詰まり」と画面に示され、対処方法として、「ダストフィルタの清掃が必要です。ダストフィルタをはずしてエアブローし、清掃してください。」と画面に示される。
また、対策2(K-03)を選択すると、考えられる要因として、「周囲温度が高い」と画面に示され、対処方法として、「周囲温度を45℃以下にしてください。換気などにより、周囲温度を改善してください。」と画面に示される。
上記した、「冷却水を確認してください」のメッセージ、「インタークーラの目詰まりを確認してください」のメッセージ、及び、「ダストフィルタの清掃が必要です。ダストフィルタをはずしてエアブローし、清掃してください。とのメッセージ、「周囲温度を45℃以下にしてください。換気などにより、周囲温度を改善してください。」とのメッセージに対して対処するのは、何れもITCSコントローラが発する信号ではなく、当該メッセージを見た使用者である。
したがって、異常停止が発生したとき、ITCSコントローラのオペレーションスイッチから故障解決のための対話形式による信号が出力されておらず、ITCSコントローラ自体が制御を進めていない。


以上を総合すると、イ号物件は次のとおりのものである。
a.1、2段圧縮機本体内部に組み込まれた圧縮用ロータをメインモータで駆動して圧縮空気を発生するスクリュコンプレッサにおいて、
b1.吸込フィルタの目詰まりを検出する1段吸込圧力センサと、
b2.1、2段吐出空気温度を検出する1、2段吐出温度用熱電対と、
b3.1、2段吐出空気圧力を検出する1、2段吐出圧力センサと、
b4.8000時間経過の検出をもってオイルフィルタの目詰まりとするタイマと、
b5.メインモータ電流を常時検出するカレントトランスとメインモータ過電流を検出するサーマルリレーと、
c.このスクリュコンプレッサに異常停止・警報が発生したときに、前記1段吸込圧力センサ、1、2段吐出温度用熱電対、1、2段吐出圧力センサ、カレントトランスが検出したデータと、1、2段吐出温度上昇、メインモータ過電流との要因を記憶する記憶手段と、
d.スクリュコンプレッサの運転を制御するITCSコントローラと、
e.このITCSコントローラに操作信号を入力するオペレーションスイッチと、
f.このITCSコントローラの出力を表示するメッセージモニタとを備え、
g.前記記憶手段はスクリュコンプレッサの操作手順を記憶しており、
h.前記ITCSコントローラは、トラブルシューティング時には前記記憶手段に記憶した故障データと操作手順とが表示されたメッセージモニタの出力に基づいて使用者が対処する
i.スクリュコンプレッサ。


4.対比・判断
4-1 充足関係
そこで、イ号物件の各構成a?iがそれぞれ本件特許発明の各構成要件A?Iを充足するものであるか否かについて検討する。

構成要件A
イ号物件の構成aと本件特許発明の構成要件Aとを比較すると、aの「1、2段圧縮機本体内部」、「圧縮用ロータ」、「メインモータ」、「スクリュコンプレッサ」が、それぞれAの「圧縮室内」、「スクリュー」、「モータ」、「スクリュー圧縮機」に相当する。
したがって、イ号物件の構成aは、本件特許発明の構成要件Aを充足している。

構成要件B1
イ号物件の構成b1と本件特許発明の構成要件B1とを比較すると、b1の「吸込フィルタ」、「1段吸込圧力センサ」が、それぞれB1の「エアフィルタ」、「エアフィルタ検出手段」に相当する。
したがって、イ号物件の構成b1は、本件特許発明の構成要件B1を充足している。

構成要件B2
イ号物件の構成b2と本件特許発明の構成要件B2とを比較すると、b2の「1、2段吐出空気温度」、「1、2段吐出温度用熱電対」は、それぞれB2の「吐出空気温度」、「吐出温度検出手段」に相当する。
したがって、イ号物件の構成b2は、本件特許発明の構成要件B2を充足している。

構成要件B3
イ号物件の構成b3と本件特許発明の構成要件B3とを比較すると、b3の「1、2段吐出空気圧力」、「1、2段吐出圧力センサ」は、それぞれB3の「吐出空気圧力」、「吐出圧力検出手段」に相当する。
したがって、イ号物件の構成b3は、本件特許発明の構成要件B3を充足している。

構成要件B4
イ号物件の構成b4と本件特許発明の構成要件B4とを比較すると、b4の「タイマ」は計時装置であり、8000時間経過後にオイルフィルタの目詰まりとしてはいるが、この時必ずしもオイルフィルタの目詰まりが発生しているわけではなく、EMERAUDE-ALEにおいて、過去の経験から8000時間でオイルフィルタの目詰まりが発生しているであろうとの推測の基に、8000時間を計時してはいるが、オイルフィルタの目詰まりを検出してはいない。
したがって、イ号物件の構成b4は本件特許発明の構成要件B4を充足しない。

構成要件B5
イ号物件の構成b5と本件特許発明の構成要件B5とを比較すると、b5の「メインモータ電流」及び「メインモータ過電流」はB5の「モータ電流」に、b5の「カレントトランス」及び「サーマルリレー」はB5の「電流検出手段」に相当する。
したがって、イ号物件の構成b5は、本件特許発明の構成要件B5を充足している。

構成要件C
イ号物件の構成cと本件特許発明の構成要件Cとを比較すると、cの「スクリューコンプレッサ」、「異常停止・警報」は、それぞれCの「スクリュー圧縮機」、「故障」に相当する。
構成要件Cには、「各検出手段が検出したデータと故障原因」とあり、各検出手段とはB1?B5に示される検出手段であり、また、データと故障原因が無関係に記憶されれば故障を回復することができないから、故障原因はB1?B5に示される検出手段が検出したデータに対応した故障原因でなければならない。
そうすると、イ号物件の「1段吸込圧力センサ、1、2段吐出温度用熱電対、1、2段吐出圧力センサ、カレントトランスが検出したデータ」は、構成b4の「タイマ」が検出したデータを有しておらず、また、イ号物件の「1、2段吐出温度上昇、メインモータ過電流」は、構成b1、b3、b4に対応する故障原因を有していない。
したがって、イ号物件の構成cは、本件特許発明の構成要件Cを充足しない。

構成要件D
イ号物件の構成dと本件特許発明の構成要件Dとを比較すると、dの「スクリュコンプレッサ」、「ITCSコントローラ」は、それぞれDの「圧縮機」、「制御装置」に相当する。
したがって、イ号物件の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足している。

構成要件E
イ号物件の構成eと本件特許発明の構成要件Eとを比較すると、eの「ITCSコントローラ」、「オペレーションスイッチ」は、それぞれEの「制御装置」、「入力手段」に相当する。
したがって、イ号物件の構成eは、本件特許発明の構成要件Eを充足している。

構成要件F
イ号物件の構成fと本件特許発明の構成要件Fとを比較すると、fの「ITCSコントローラ」、「メッセージモニタ」は、それぞれFの「制御装置」、「表示手段」に相当する。
したがって、イ号物件の構成fは、本件特許発明の構成要件Fを充足している。

構成要件G
イ号物件の構成gと本件特許発明の構成要件Gとを比較すると、gの「記憶手段」、「スクリュコンプレッサ」、「操作手順」は、それぞれGの「記憶装置」、「圧縮機」、「操作手順フロー」に相当する。
したがって、イ号物件の構成gは、本件特許発明の構成要件Gを充足している。

構成要件H
イ号物件の構成hと本件特許発明の構成要件Hとを比較すると、hの「ITCSコントローラ」、「記憶手段」、「操作手順」、「メッセージモニタ」は、それぞれHの「制御装置」、「記憶装置」、「操作手順のフロー」、「表示手段」に相当する。
構成要件Hには、「前記記憶装置に記憶した故障データと操作手順のフロー」とあり、これに対応する全文訂正明細書〔実施例〕には、「更に、故障発生時の各種データと停止させた理由及び圧縮機の操作手順フローチャートを記憶装置12から読み出してCRT19に表示する。」とあるから、故障データとは構成要件Cにおいて記憶装置が記憶したデータと故障原因であるが、上記したように、イ号物件のデータと故障原因は本件特許発明の構成要件Cを充足しないから、イ号物件の「故障データ」は、本件特許発明の「故障データ」を有していない。
また、構成要件Hには、「前記制御装置は・・・前記入力手段から対話形式で入力された操作信号により制御を進める」とあり、これに対応する全文訂正明細書〔実施例〕には、「操作者は、選択及び承認キースイッチ21,22の操作によりトラブルシューティングの手順に入り、制御装置11との間で前述したと同様に対話形式で故障の最終的原因を追求し、対策を講じる。」とあり、
このうち「前述したと同様に対話形式」に対応する全文訂正明細書〔実施例〕には、「操作者は、このメニュー画面を見て、次に何をするかを、選択キースイッチ21を操作しカーソルを動かして選択し、承認キースイッチ22を押下して表示画面と制御とを次の段階に進める。
ここでは、試運転を例に説明する。試運転を選択した場合、制御装置11は、CRT19に「運転前に何をすべきか」、「いままで何を実施したか」のデータを操作手順を進めるのに従いその都度表示する。この表示の都度、操作者は承認キースイッチ22を押下し、対話形式で制御を進める。」とあり、これらの点は請求人提出の上申書(乙第3号証)(4-3)にも記載されているから、トラブルシューティング時の制御は制御装置が進めるが、イ号物件は「前記ITCSコントローラは・・・使用者が対処する」とあり、対処は人間が行っており、したがってイ号物件はトラブルシューティング時の対話形式で入力された操作信号を有していない。
さらに、この点に関し、請求人提出の意見書(乙第5号証)第3頁(3)に「この引用文献1及び2は何れも機器の故障に関するものであるが、本願発明とは異なり圧縮機の実際の運転において、トラブルが発生したときにどのように圧縮機を再運転(注:「際運転」は誤記)するかという点については何等考慮されていない。つまり、これら引用文献では、圧縮機運転に不慣れな現場作業者が工場空気源等として運転されている圧縮機に不具合が生じたときに、専門のメンテナンス員を呼ばずに、現場でそのまま対処できるようにすることについては記載が無い。」とあるが、イ号物件は、圧縮機に不具合が生じたときに、専門のメンテナンス員を呼ばずに、現場でそのまま対処できるようにするための構成を有していない。
したがって、イ号物件の構成hは、本件特許発明の構成要件Hを充足しない。

構成要件I
イ号物件の構成iと本件特許発明の構成要件Iとを比較すると、iの「スクリュコンプレッサ」は、Iの「スクリュー圧縮機」に相当する。
したがって、イ号物件の構成iは、本件特許発明の構成要件Iを充足している。

以上によれば、イ号物件の構成は、本件特許発明の構成要件B4、C、Hを充足しない。
よって、イ号物件の構成は、少なくとも文言上、本件特許発明の構成要件を充足しない。


4-2 均等の判断
次に、イ号物件の構成が充足しない本件特許発明の構成要件B4、C、Hが本質的部分であるか否かについて検討する。

本件特許発明の目的は、全文訂正明細書〔発明が解決しようとする課題〕に、「本発明の目的は、圧縮機の非熟練者・一般作業者でも圧縮機の操作や故障対策を行うことができるスクリュー圧縮機を提供することにある。」とあり、圧縮機の構成を熟知しない者でも圧縮機の操作や故障対策を行うことができるようにすることである。
構成要件Hには、「前記制御装置は・・・前記入力手段から対話形式で入力された操作信号により制御を進める」とあり、トラブルシューティング時の制御は制御装置が進めるので不慣れな作業者でも故障に対応ができるところ、イ号物件は当該操作を人手で行うこととなっており、不慣れな作業者・圧縮機の構成を熟知しない者では、故障に対処することができない。
そうすると、少なくとも本件特許発明の構成要件Hは、本件特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の作用効果を生じるための部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体としての当該発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分である、本件特許発明の本質的部分に関するものといえる。
したがって、本件特許発明とイ号物件とは発明の本質的な部分において相違する。

以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明と発明の本質的な部分において構成が異なるものであり、均等を判断するための他の要件を判断するまでもなく、イ号物件の構成が、本件特許発明の構成要件と均等なものであるということはできない。


5.むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2011-04-27 
出願番号 特願昭63-312028
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩崎 晋  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 仁木 浩
大河原 裕
登録日 1998-05-29 
登録番号 特許第2786214号(P2786214)
発明の名称 スクリュー圧縮機  
代理人 速見 禎祥  
代理人 岩坪 哲  
代理人 村松 敏郎  
代理人 小谷 悦司  
代理人 特許業務法人第一国際特許事務所  
代理人 古城 春実  

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