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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1236862
審判番号 不服2008-26350  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-14 
確定日 2011-05-09 
事件の表示 特願2002-501342号「骨接合用プラスチック製インプラント」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月13日国際公開、WO01/93768、平成15年11月25日国内公表、特表2003-534868号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I. 手続の経緯
本願は、平成12年6月9日を国際出願日とする出願であって、平成20年2月5日付けで拒絶理由が通知され、平成20年7月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年10月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年11月12日付けで特許法第17条の2第1項第4号に該当する特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。


II. 平成20年11月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年11月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成20年11月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。

「骨外科用固定装置であって、
A)針金、釘、ピンまたはねじの形態にて骨内で固定される縦長固定要素(10)を受容するのに役立つプラスチック製の板状または髄内釘状インプラント(1)を備え、固定要素(10)を受容するように指定された開口部はインプラント(1)を完全には貫通しておらず、インプラント(1)表面のくぼみ(2)へと盲にされており、該くぼみはインプラント(1)に挿通される前記固定要素(10)用の位置決め・案内補助部として役立つものであり、
B)骨の表面または内部でインプラント(1)を固着するための少なくとも1つの固定要素(10)を備えた固定装置において、
C)前記固定要素(10)がドリルビット(11)を有し、
D)ドリルビット(11)の長さが板状インプラント(1)の厚さもしくは髄内釘状インプラント(1)の直径に少なくとも一致し、
E)前記インプラント(1)は凸状上面(3)と、骨に接触するように指定された凹状下面(4)とを有し、これにより複数の固定要素(10)を分散角度で受容することを可能とすることを特徴とする固定装置。」(下線を施した部分は、補正された箇所を示す。)


(2)補正の目的の適否および新規事項の追加の有無
本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「インプラント」を「凸状上面と、骨に接触するように指定された凹状下面とを有し、これにより複数の固定要素(10)を分散角度で受容することを可能とする」と限定するものであり、かつ、補正前の発明と補正後の発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。


(3)独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


(4)刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である「独国実用新案第29913390号明細書(DE 29913390 U1) 」(以下「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(括弧内は当審による仮訳である。)

ア: 「Die Erfindung betrifft eine Knochenplatte aus Kunststoff, einen Satz von derartigen Knochenplatten und ein Bohrwerkzeug zum Vorbereiten derartiger Knochenplatten.

Knochenplatten werden verwendet, um Knochenfragmente miteinander zu verbinden. Dabei werden durch Offnungen in der Knochenplatte Knochenschrauben oder andere stiftformige Fixierungselemente hindurchgesteckt und in die Knochenfragmente eingebracht, so dass eine feste Verbindung zwischen Knochenplatte und den Knochenfragmenten entsteht.

Insbesondere in der Gesichtschirurgie sind Knochenplatten mit relativ kleinen Abmessungen zum Einsatz gekommen, es handelt sich dabei in der Regel um Knochenplatten aus einem korpervertraglichen Metall, beispielsweise aus Titan oder einer Titanlegierung.
(本発明は、プラスチック製の骨プレート、この種の骨プレートのセット、この種の骨プレートの準備のための穴あけ工具に関する。

骨プレートは、骨片を互いに接続するために使用される。その際、骨プレートの開口部を通じて、骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントが骨片まで通されることにより、骨プレートと骨片の接続が行われる。

特に顔の外科手術においては、比較的小さな骨プレートが使用されるが、これは一般に身体適合性のある金属製、たとえばチタンまたはチタン合金の骨プレートである。)」(1頁2?15行)

イ: 「Es ist Aufgabe der Erfindung, gattungsgemasse Knochenplatten aus Kunststoff so auszubilden, dass auch bei kleinen Abmessungen eine hohe Festigkeit dieser Knochenplatten erreichbar ist.

Diese Aufgabe wird bei einer Knochenplatte aus Kunststoff erfindungsgemass dadurch gelost, dass sie im Abstand zueinander mindestens zwei die Knochenplatte nicht vollstandig durchsetzende Zentriervertiefungen fur ein Bohrwerkzeug aufweist.
(この課題は、プラスチック製の骨プレートが、互いに間隔をおいた少なくとも2つの、穴あけ工具用の骨プレートを貫通しないガイドコラムをもつことで解決される。

この新型の骨プレートはしたがって、骨ネジまたは他の固定ピンが通り抜ける領域において、従来の骨プレートとは異なる閉じた態様をもち、この領域に、ドリルを入れるポイント穴あけを可能にするガイドコラムのみがあり、この中に骨ネジまたは固定ピンを通すことが可能になる。)」(2頁9?17行)

ウ: 「Langs des Steges 2 und der Schenkel 4, 5 sind langs deren Mittellinien eine Anzahl von kreisformigen Anlagevertiefungen 7 eingearbeitet, die einen ebenen, zentralen Boden 8 und einen von diesem zur Aussenseite der Knochenplatte 1 schrag ansteigenden Randstreifen 9 aufweisen (Fig. 3). Die Tiefe dieser Anlagevertiefung 7 betragt etwa 25% der Dicke der Knochenplatte. Am Mittelpunkt des Bodens 8 der Anlagevertiefung 7 ist eine Zentriervertiefung 10 angeordnet, deren Durchmesser deutlich kleiner ist als der Durchmesser des Bodens 8 und dessen Tiefe ebenfalls etwa 25% der Dicke der Knochenplatte 1 ausmacht, so dass die Zentriervertiefung 10 nur etwa bis zur Halfte der Dicke der Knochenplatte 1 reicht.
(中央くびき2と脚4、5に沿って、その中央線沿いに一定数の円形の設置穴7が加工され、それは平らで中央に位置する底8とそこから骨プレート1の外サイドに向かって斜めに上昇する肩9を有する(図3)。この設置穴7の深さは骨プレート厚の約25%である。設置穴7の底8の中心点にガイドコラム10が配置され、ガイドコラムの直径は底8の直径より小さく、その深さは同様に骨プレート厚の約25%であり、こうしてガイドコラム10は骨プレート1の厚さの約半分にしか達しない。)」(12頁17行?13頁2行)

エ: 「Zum Einsatz dieser Knochenplatte ist es notwendig, dass der Operateur an den Stellen, an denen er eine Knochenschraube oder einen anderen Fixierstift durch die Knochenplatte 1 hindurchstecken will, eine Bohrung einbringt. Dies erfolgt mittels eines geeigneten Bohrwerkzeuges, das an der gewunschten Stelle in eine dort vorhandene Zentriervertiefung 10 eingesetzt wird und das im Bereich des Hodens 8 der Anlagevertiefung 7 eine Bohrung durch die Knochenplatte 1 hindurchfuhrt. Diese Bohrung reicht vorzugsweise etwa bis an den Innenrand des Randstreifens 9, so dass in der Knochenplatte 1 eine Durchsteckbohrung fur eine Knochenschraube ausgebildet wird, die seitlich von dem schrag ansteigenden Randstreifen 9 umgeben wird. Der Aussendurchmesser der Bohrung kann auch grosser sein als der Innendurchmesser der Anlagevertiefung 7, so dass dann durch die Bohrung der gesamte Boden 8 entfernt wird.
(このような骨プレートの使用は、オペレーターが、骨ネジまたは他の固定ピンを骨プレート1に通したい場所に穴を開ける際に必要である。これは、適宜な穴あけ工具によって行われ、これは希望の場所においてそこに位置するガイドコラム10にセットされ、設置穴7の底8の領域に穴が骨プレート1に開けられる。この穴は肩9の内端まで達するのが好ましく、こうして、骨プレート1に骨ネジ用の差込穴が形成され、その側方は斜めに上昇する肩9に包囲される。穴の外径は設置穴7の内径より大きくてもよく、こうして、穴開けにより、底8全体が除去される。)」(13頁3?19行)

オ: 「Das Einfuhren der Bohrung kann mittels eines einfachen Spiralbohrers erfolgen, es ist jedoch gunstig, wenn dabei spezielle Bohrwerkzeuge verwendet werden, wie sie beispielsweise in den Fig. 20 bis 22 dargestellt sind.

Das Bohrwerkzeug 11 der Fig. 20 tragt einen Spiralbohrer 12 mit einem ersten Abschnitt 13 mit geringem Aussendurchmesser und einem daran anschliessenden zweiten Abschnitt 14 mit grosserem Aussendurchmesser, wobei der erste Abschnitt 13 unter Ausbildung einer geraden oder schragen Schneidkante 15 in den zweiten Abschnitt 14 ubergeht.

Der zweite Abschnitt 14 wird abgeschlossen durch einen plattenformigen Tiefenanschlag 16, der eine senkrecht auf der Drehachse des Spiralbohrers 12 stehende Stirnflache 17 aufweist und so gross gewahlt ist, dass diese Stirnflache 17 die Anlagevertiefung 7 vollstandig uberdeckt, die Stirnflache 17 legt sich also beim Einbringen der Bohrung an die Aussenflache der Knochenplatte 1 an und beschrankt somit die Eindringtiefe des Bohrwerkzeuges 11.

Da die Lange des Abschnittes 14 mit grosserem Aussendurchmesser etwa der Dicke der Knochenplatte 1 entspricht, wird dadurch mittels des Abschnittes 13 mit geringerem Aussendurchmesser eine Bohrung in ein Knochenfragment eingebracht, an welches die Knochenplatte 1 angelegt wird, wahrend gleichzeitig in die Knochenplatte 1 an der gewunschten Stelle eine Bohrung eingebracht wird, die fur das Durchstecken einer Knochenschraube ausreicht.
(穴あけは単純なスパイラルドリルで行うことが可能であるが、図20から図22に示される特殊な穴あけ工具の使用が推奨される。

図20の穴あけ工具11は、外径の小さな第1区間13とそれに接続する大きな外径の第2区間14を備えたスパイラルドリル12を有し、第1区間13では真直ぐまたは斜めの切断辺15が形成され、第2区間14に移行している。

第2区間14はプレート状のストッパー16によって閉じられ、このストッパーはスパイラルドリル12の回転軸に垂直な端面17をもち、この端面17については設置穴7を完全に覆う大きさが選択されるため、端面17は穴あけの際に骨プレート1の外面に位置し、こうして穴あけ工具11の侵入深を制限する。

大きな外径の区間14の長さが骨プレート1の厚さにおよそ相当するため、これによって、小さな外径の区間13により穴が骨片に施され、ここに骨プレート1が設置される一方で、同時に骨プレート1の希望の場所に穴が施され、その穴は骨ネジを通すのに足りる。)」(13頁24行?14頁25行)

カ: 記載事項(ア)における「その際、骨プレートの開口部を通じて、骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントが骨片まで通されることにより、骨プレートと骨片の接続が行われる。」との記載、記載事項(ア)における「特に顔の外科手術においては、比較的小さな骨プレートが使用される」との記載及び技術常識からして、骨プレート及び骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントは、骨の外科手術に使用されるものであるといえ、また、骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントは、骨の表面で骨プレートを接続するものといえる。

キ: 記載事項(イ)における「この新型の骨プレートはしたがって、骨ネジまたは他の固定ピンが通り抜ける領域において、従来の骨プレートとは異なる閉じた態様をもち、この領域に、ドリルを入れるポイント穴あけを可能にするガイドコラムのみがあり、この中に骨ネジまたは固定ピンを通すことが可能になる。」との記載、記載事項(エ)における「このような骨プレートの使用は、オペレーターが、骨ネジまたは他の固定ピンを骨プレート1に通したい場所に穴を開ける際に必要である。」との記載及び技術常識からして、骨プレートは、骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントを通すことが可能な、オペレーターが希望する通したい骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントが通り抜ける領域を有しているといえ、また骨プレートは、骨ネジまたはその他のピン状の骨内で固定される固定エレメントを通すことを可能にするといえる。

ク: 記載事項(ウ)における「この設置穴7の深さは骨プレート厚の約25%である。設置穴7の底8の中心点にガイドコラム10が配置され、ガイドコラムの直径は底8の直径より小さく、その深さは同様に骨プレート厚の約25%であり、こうしてガイドコラム10は骨プレート1の厚さの約半分にしか達しない。」との記載及びFIG.1?3に示された骨プレート表面にガイドコラムが設けられている態様からして、骨プレートは、骨プレート表面のガイドコラムにおいて、貫通していないといえる。

ケ: 記載事項(イ)における「ドリルを入れるポイント穴あけを可能にするガイドコラムのみがあり、この中に骨ネジまたは固定ピンを通すことが可能になる。」との記載からして、ガイドコラムは、穴あけを行う装置であるドリルを入れるポイント穴あけを可能にするといえる。

これらの記載事項(ア)?(ケ)を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「骨の外科手術に使用される骨プレート及び骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントであって、
A)骨ネジまたはその他のピン状の骨内で固定される固定エレメントを通すことを可能にするプラスチック製の骨プレートを備え、骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントを通すことが可能な、オペレーターが希望する通したい骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントが通り抜ける領域は閉じた態様をもち、骨プレート表面のガイドコラムにおいて、貫通しておらず、該ガイドコラムは、骨プレートに挿通される穴あけを行う装置であるドリルを入れるポイント穴あけを可能するものであり、
B)骨の表面で骨プレートを接続するための骨ネジまたはその他のピン状の骨内で固定される固定エレメントを備えた骨プレート及び骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメント。」


(5)対比・判断
本願補正発明と引用発明を対比すると、その構造または機能からみて、引用発明の「骨の外科手術に使用される」、「骨プレート及び骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメント」、「骨プレート」、「閉じた態様をもち」、「ガイドコラム」は、本願補正発明の「骨外科用」、「固定装置」、「板状または髄内釘状インプラント(1)」及び「インプラント(1)」、「完全には貫通しておらず」、「くぼみ(2)」に、それぞれ相当する。

ネジやピンであることに加え、技術常識を鑑みれば、「骨ネジまたはその他のピン状の骨内で固定される固定エレメント」は、「縦長固定要素(10)」及び「固定要素(10)」に相当する。

本願補正発明と引用発明を対比すると、その構造または機能からみて、「骨ネジまたはその他のピン状の骨内で固定される固定エレメントを通すことを可能にする」、「骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントが通すことが可能な、オペレーターが希望する通したい骨ネジまたはその他のピン状の固定エレメントが通り抜ける領域」、「骨の表面で骨プレートを接続するため」は、「針金、釘、ピンまたはねじの形態にて骨内で固定される縦長固定要素(10)を受容するのに役立つ」、「固定要素(10)を受容するように指定された開口部」、「骨の表面でインプラント(1)を固着するため」に相当する。
さらに、本願補正発明の図面に図示された「くぼみ(2)」の態様を鑑みれば、引用発明の「骨プレート表面のガイドコラムにおいて、貫通しておらず」は、「インプラント(1)表面のくぼみ(2)へと盲にされており」といえることは明らかである。

本願補正発明の固定要素(10)はドリルビット(11)を有していることから、固定要素(10)は、骨プレートに挿通される穴あけを行う装置といえることは明らかである。加えて、記載事項(ケ)における「ガイドコラムは、穴あけを行う装置であるドリルを入れる」との記載及び技術常識からして、ガイドコラムは、穴あけを行う装置の位置決め、案内補助を行うものといえる。そのため、引用発明と本願補正発明は、「くぼみ(2)は、インプラント(1)に挿通される穴あけを行う装置用の位置決め・案内補助部として役立つもの」である点で一致する。

そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、本願補正発明と引用発明とは次の点で一致する。
(一致点)
「骨外科用固定装置であって、
A)針金、釘、ピンまたはねじの形態にて骨内で固定される縦長固定要素を受容するのに役立つプラスチック製の板状または髄内釘状インプラントを備え、固定要素を受容するように指定された開口部はインプラントを完全には貫通しておらず、インプラント表面のくぼみへと盲にされており、該くぼみはインプラントに挿通される穴あけを行う装置用の位置決め・案内補助部として役立つものであり、
B)骨の表面または内部でインプラントを固着するための少なくとも1つの固定要素を備えた固定装置。」

そして、両者は次の相違点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明では、「固定要素がドリルビットを有し、ドリルビットの長さが板状インプラントの厚さもしくは髄内釘状インプラントの直径に少なくとも一致し」、「くぼみは、インプラントに挿通される」穴あけを行う装置でもある「固定要素用の位置決め・案内補助部として役立」っているのに対して、引用発明では、固定要素でない穴あけを行う装置であるドリルを有し、くぼみが、該ドリルの位置決め・案内補助部として役立っている点。

(相違点2)
本願補正発明では、「インプラントは凸状上面と、骨に接触するように指定された凹状下面とを有し、これにより複数の固定要素を分散角度で受容することを可能とする」のに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

以下、相違点について検討する。

(相違点1について)
骨の固定のために骨に穿孔を行うという技術的課題のために、骨の固定要素にドリルビットを設けることは、本願出願日前に周知の事項であると認められる(必要あれば、特開昭62-243551号公報(2頁左下欄10?14行、2頁右下欄20行?3頁左上欄4行、FIG.4)、特開平5-269144号公報(【0002】、【0018】、【0025】、【図6】?【図9】、【図12】)、参照)上、穿孔と固定を同時に行うことで、作業の効率向上に寄与していることは明らかである。
引用発明においても、「小さな外径の区間13により穴が骨片に施され、ここに骨プレート1が設置される一方で、同時に骨プレート1の希望の場所に穴が施され、その穴は骨ネジを通すのに足りる。」(記載事項(オ))の記載からして、骨及びインプラントの固定のための穿孔を行うという技術的課題を有しているといえる上、作業の効率向上は一般的な技術的課題である。
してみると、引用発明と上記周知の事項は、同じ技術的課題を有するものであることから、引用発明の「固定要素」に、上記周知の事項を適用することに格別の困難性は見出せない上、作業効率を考慮して、固定要素にドリルビットを設けるとともに、固定要素により骨を穿孔する際に、同時に骨プレートにも穴を開け、くぼみが、インプラントに挿通される固定要素用の位置決め・案内補助部として役立つようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、引用発明に上記周知の事項を適用した場合、ドリルビットがインプラントを穿孔することになることから、「ドリルビットの長さが板状インプラントの厚さに少なくとも一致」するようにすることは、当業者が必要に応じて成し得る設計変更の範囲内にとどまる。

(相違点2について)
複数の固定要素を分散角度で受容することを可能とする、凸状上面と、骨に接触するように指定された凹状下面とを有するインプラントは、本願出願日前に周知の事項であると認められる(必要あれば、特開昭64-34361号公報(23頁右下欄16行?24頁左下欄9行、FIG.29?31)、国際公開第97/47215号(9頁17?24行、FIG.8)、参照)から、引用発明におけるインプラントを、複数の固定要素を分散角度で受容することを可能とする、凸状上面と、骨に接触するように指定された凹状下面とを有するように形成することは、本願出願日前に周知の事項に基いて当業者が容易に想到し得ることである。

以上によれば、本願補正発明は、引用発明及び本願出願日前に周知の事項に基いて、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

そして、本願補正発明による効果も、引用発明及び前記周知の事項から、当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び前記周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである



III.本願発明について
平成20年11月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年5月8日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「骨外科用固定装置であって、
A)針金、釘、ピンまたはねじの形態にて骨内で固定される縦長固定要素(10)を受容するのに役立つプラスチック製の板状または髄内釘状インプラント(1)を備え、固定要素(10)を受容するように指定された開口部はインプラント(1)を完全には貫通しておらず、インプラント(1)表面のくぼみ(2)へと盲にされており、該くぼみはインプラント(1)に挿通される前記固定要素(10)用の位置決め・案内補助部として役立つものであり、
B)骨の表面または内部でインプラント(1)を固着するための少なくとも1つの固定要素(10)を備えた固定装置において、
C)前記固定要素(10)がドリルビット(11)を有し、
D)ドリルビット(11)の長さが板状インプラント(1)の厚さもしくは髄内釘状インプラント(1)の直径に少なくとも一致することを特徴とする固定装置。」


(1)刊行物に記載された発明
上記II.(4)に示したとおり。


(2)対比・判断
本願発明は、前記II.で検討した本願補正発明の特定事項「インプラント」は、「凸状上面(3)と、骨に接触するように指定された凹状下面(4)とを有し、これにより複数の固定要素(10)を分散角度で受容することを可能とする」事項を、本願補正発明から省いたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.(5)に記載したとおり、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-08 
結審通知日 2010-12-10 
審決日 2010-12-21 
出願番号 特願2002-501342(P2002-501342)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺澤 忠司  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 内山 隆史
関谷 一夫
発明の名称 骨接合用プラスチック製インプラント  
代理人 浜田 治雄  

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