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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01M
管理番号 1237336
審判番号 不服2009-19498  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-13 
確定日 2011-05-17 
事件の表示 特願2003-571572「再循環潤滑油システムにおける潤滑油特性の修正」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月 4日国際公開、WO03/72911、平成17年 6月23日国内公表、特表2005-518494〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本件出願は、2003年2月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年2月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成16年8月19日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面(国内書面)並びに同法第184条の4第1項の規定による明細書、請求の範囲、図面(図面の中の説明)及び要約の日本語による翻訳文がそれぞれ提出され、平成20年11月18日付けの拒絶理由通知に対して平成21年3月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年5月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年10月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に同日付けで手続補正書が提出され、その後、平成22年2月2日付けで当審より書面による審尋がなされたものである。

[2]平成21年10月13日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成21年10月13日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.本件補正の内容

a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし16
「【請求項1】
システムの運転中に、油溜めから潤滑油を再循環するシステムにおける潤滑油特性を修正する方法であって、
(a)直接的または間接的に、一種以上のシステム条件パラメーターを油溜め以外のシステム内の関心ある位置で繰り返して測定する工程;
(b)前記システム条件パラメーターから、前記ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を計算する工程であって、前記第二の流体は、性能強化剤、基油、追加の処方潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上の流体である工程;
(c)前記ベース潤滑油を前記第二の流体と混合して、修正されたベース潤滑油を生成する工程;および
(d)前記修正されたベース潤滑油を、前記関心ある位置に適用する工程
を含むことを特徴とする潤滑油特性を修正する方法。
【請求項2】
前記システムは、エンジンであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項3】
前記システム条件パラメーターは、金属摩耗、システムの冷却、デポジット形成、腐食、ブローバイ、起泡、燃焼副生物の中和、金属の不動態化および潤滑油の油膜厚さからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項2に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項4】
前記エンジンは、内燃機関であることを特徴とする請求項3に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項5】
前記エンジンは、ガスタービンエンジンであることを特徴とする請求項3に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項6】
前記内燃機関は、4ストロークエンジンであることを特徴とする請求項4に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項7】
前記関心ある位置は、動弁系であることを特徴とする請求項6に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項8】
エンジンの使用中に、油溜めから潤滑油を再循環するエンジンにおいて使用中の潤滑油特性を修正する方法であって、
(a)直接的または間接的に、油溜め以外の関心ある位置で、金属摩耗、エンジンの冷却、デポジット形成、腐食、ブローバイ、起泡、燃焼副生物の中和、金属の不動態化および潤滑油の油膜厚さからなる群から選択される一種以上の関心あるエンジン条件パラメーターを繰り返して測定する工程;
(b)前記一種以上のエンジン条件パラメーターから、前記ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を計算する工程であって、
前記第二の流体は、性能強化剤、追加のベース潤滑油、別に処方された潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上の流体であり、
前記性能強化剤は、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、摩擦低減剤、粘度向上剤、増粘剤、極圧剤、金属不活性化剤、酸封鎖剤およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上である工程;
c)前記ベース潤滑油を前記計算量の前記第二の流体と混合して、修正されたベース潤滑油を生成する工程;および
(d)前記修正されたベース潤滑油を、前記関心ある位置に導入する工程
を含むことを特徴とする潤滑油特性を修正する方法。
【請求項9】
システムにおける潤滑油特性を修正する装置であって、
(a)油溜めに収容された一種以上のベース潤滑油を再循環するシステム;
(b)性能強化剤、追加のベース潤滑油、別に処方された潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一種の第二の流体;
(c)直接的または間接的に、少なくとも一種のシステム条件パラメーターの値を油溜め以外の関心ある位置で測定するための測定装置;
(d)前記少なくとも一種のシステム条件パラメーターに基づいて作動するアルゴリズムを用い、前記ベース潤滑油に加えるべき前記第二の流体の量を決定する計算装置;および(e)前記ベース潤滑油と前記第二の流体を混合し、その後混合物を、前記関心あるシステム部分またはシステム領域に再導入するための混合手段
を含むことを特徴とする潤滑油特性を修正する装置。
【請求項10】
前記システムは、エンジンであることを特徴とする請求項9に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項11】
前記エンジンは、内燃機関であることを特徴とする請求項10に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項12】
前記エンジンは、ガスタービンエンジンであることを特徴とする請求項10に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項13】
前記内燃機関は、4ストロークエンジンであることを特徴とする請求項11に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項14】
前記システム条件パラメーターは、金属摩耗、エンジンの冷却、デポジット形成、腐食、ブローバイ、起泡、燃焼副生物の中和、金属の不動態化および潤滑油の油膜厚さからなる群から選択される一種以上のパラメーターであることを特徴とする請求項13に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項15】
前記第二の流体は、性能強化剤、追加のベース潤滑油、別に処方された潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上の流体であり、
前記性能強化剤は、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、摩擦低減剤、粘度向上剤、増粘剤、極圧剤、金属不活性化剤、酸封鎖剤およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上である
ことを特徴とする請求項14に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項16】
運転中のエンジンにおける一種以上のベース潤滑油の潤滑油特性を修正する装置であって、
(a)油溜めに収容された前記ベース潤滑油を再循環する内燃機関;
(b)性能強化剤、基油および追加の処方潤滑油からなる群から選択され、前記性能強化剤は、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、摩擦低減剤、粘度向上剤、増粘剤、極圧剤、金属不活性化剤、酸封鎖剤およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上である少なくとも一種の第二の流体;
(c)金属摩耗、エンジンの冷却、デポジット形成、腐食、ブローバイ、起泡、燃焼副生物の中和、金属の不動態化および潤滑油の油膜厚さからなる群から選択される一種以上のエンジン条件パラメーターを、直接的または間接的に、油溜め以外の関心ある位置近くで測定するための測定装置;
(d)前記選択されたエンジン条件パラメーターおよび前記ベース潤滑油特性のうち一種以上に基づいて作動するアルゴリズムを用い、前記ベース潤滑油に加えるべき前記第二の流体の量を決定する計算装置;および
(e)前記ベース潤滑油を前記第二の流体と混合し、その後得られた混合物を前記関心ある位置に再導入するための混合手段
を含むことを特徴とする潤滑油特性を修正する装置。」

b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし16
「【請求項1】
システムの運転中に、油溜めから潤滑油を再循環するシステムにおける潤滑油特性を修正する方法であって、
(a)直接的または間接的に、一種以上のシステム条件パラメーターを油溜め以外のシステム内の関心ある位置で繰り返して測定する工程;
(b)前記システム条件パラメーターから、関心ある位置での実際のシステム潤滑要求にだけ応答して、前記ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を計算する工程であって、前記第二の流体は、性能強化剤、基油、追加の処方潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上の流体である工程;
(c)関心ある位置に向かう前記ベース潤滑油を前記第二の流体と混合して、修正されたベース潤滑油を生成する工程;および
(d)前記修正されたベース潤滑油を、前記関心ある位置に適用する工程
を含むことを特徴とする潤滑油特性を修正する方法。
【請求項2】
前記システムは、エンジンであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項3】
前記システム条件パラメーターは、金属摩耗、システムの冷却、デポジット形成、腐食、ブローバイ、起泡、燃焼副生物の中和、金属の不動態化および潤滑油の油膜厚さからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項2に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項4】
前記エンジンは、内燃機関であることを特徴とする請求項3に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項5】
前記エンジンは、ガスタービンエンジンであることを特徴とする請求項3に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項6】
前記内燃機関は、4ストロークエンジンであることを特徴とする請求項4に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項7】
前記関心ある位置は、動弁系であることを特徴とする請求項6に記載の潤滑油特性を修正する方法。
【請求項8】
エンジンの使用中に、油溜めから潤滑油を再循環するエンジンにおいて使用中の潤滑油特性を修正する方法であって、
(a)直接的または間接的に、油溜め以外の関心ある位置で、金属摩耗、エンジンの冷却、デポジット形成、腐食、ブローバイ、起泡、燃焼副生物の中和、金属の不動態化および潤滑油の油膜厚さからなる群から選択される一種以上の関心あるエンジン条件パラメーターを繰り返して測定する工程;
(b)前記一種以上のエンジン条件パラメーターから、関心ある位置での実際のシステム潤滑要求にだけ応答して、前記ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を計算する工程であって、
前記第二の流体は、性能強化剤、追加のベース潤滑油、別に処方された潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上の流体であり、
前記性能強化剤は、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、摩擦低減剤、粘度向上剤、増粘剤、極圧剤、金属不活性化剤、酸封鎖剤およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上である工程;
(c)関心ある位置に向かう前記ベース潤滑油を前記計算量の前記第二の流体と混合して、修正されたベース潤滑油を生成する工程;および
(d)前記修正されたベース潤滑油を、前記関心ある位置に導入する工程
を含むことを特徴とする潤滑油特性を修正する方法。
【請求項9】
システムにおける潤滑油特性を修正する装置であって、
(a)油溜めに収容された一種以上のベース潤滑油を再循環するシステム;
(b)性能強化剤、追加のベース潤滑油、別に処方された潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一種の第二の流体;
(c)直接的または間接的に、少なくとも一種のシステム条件パラメーターの値を油溜め以外の関心ある位置で測定するための測定装置;
(d)前記少なくとも一種のシステム条件パラメーターに基づいて作動するアルゴリズムを用い、関心ある位置での実際のシステム潤滑要求にだけ応答して、前記ベース潤滑油に加えるべき前記第二の流体の量を決定する計算装置;および
(e)関心ある位置に向かう前記ベース潤滑油と前記第二の流体を混合し、その後混合物を、前記関心あるシステム部分またはシステム領域に再導入するための混合手段
を含むことを特徴とする潤滑油特性を修正する装置。
【請求項10】
前記システムは、エンジンであることを特徴とする請求項9に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項11】
前記エンジンは、内燃機関であることを特徴とする請求項10に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項12】
前記エンジンは、ガスタービンエンジンであることを特徴とする請求項10に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項13】
前記内燃機関は、4ストロークエンジンであることを特徴とする請求項11に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項14】
前記システム条件パラメーターは、金属摩耗、エンジンの冷却、デポジット形成、腐食、ブローバイ、起泡、燃焼副生物の中和、金属の不動態化および潤滑油の油膜厚さからなる群から選択される一種以上のパラメーターであることを特徴とする請求項13に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項15】
前記第二の流体は、性能強化剤、追加のベース潤滑油、別に処方された潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上の流体であり、
前記性能強化剤は、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、摩擦低減剤、粘度向上剤、増粘剤、極圧剤、金属不活性化剤、酸封鎖剤およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上である
ことを特徴とする請求項14に記載の潤滑油特性を修正する装置。
【請求項16】
運転中のエンジンにおける一種以上のベース潤滑油の潤滑油特性を修正する装置であって、
(a)油溜めに収容された前記ベース潤滑油を再循環する内燃機関;
(b)性能強化剤、基油および追加の処方潤滑油からなる群から選択され、前記性能強化剤は、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、摩擦低減剤、粘度向上剤、増粘剤、極圧剤、金属不活性化剤、酸封鎖剤およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上である少なくとも一種の第二の流体;
(c)金属摩耗、エンジンの冷却、デポジット形成、腐食、ブローバイ、起泡、燃焼副生物の中和、金属の不動態化および潤滑油の油膜厚さからなる群から選択される一種以上のエンジン条件パラメーターを、直接的または間接的に、油溜め以外の関心ある位置近くで測定するための測定装置;
(d)前記選択されたエンジン条件パラメーターおよび前記ベース潤滑油特性のうち一種以上に基づいて作動するアルゴリズムを用い、関心ある位置での実際のエンジン潤滑要求にだけ応答して、前記ベース潤滑油に加えるべき前記第二の流体の量を決定する計算装置;および
(e)関心ある位置に向かう前記ベース潤滑油を前記第二の流体と混合し、その後得られた混合物を前記関心ある位置に再導入するための混合手段
を含むことを特徴とする潤滑油特性を修正する装置。」(下線は、補正箇所を示すために審判請求人が付した。)

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項について上記下線部のような限定を付加するものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、単に「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.本件補正の適否についての判断

2-1.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平3-227398号公報(以下、単に「引用刊行物」という。)には、図面とともに、例えば、次のような事項が記載されている。

ア)「2.特許請求の範囲
(1)潤滑油の循環経路中に配置され、該潤滑油に電圧を印加して電流値により該潤滑油のTBN(全塩基価)値を検出する検出手段と、
前記潤滑油に添加剤を補給する補給手段と、
前記検出手段により検出された前記潤滑油のTBN値に応じて前記補給手段における添加剤の補給を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする潤滑油清浄装置。」(第1ページ左下欄第4行ないし第12行)

イ)「 〔発明が解決しようとする課題〕
ところが、例えば内燃機関の駆動条件等により潤滑油の劣化度合いが変わってしまい、劣化度合いに応じたメンテナンスが必要であるという課題を残していた。
この発明の目的は、より確実に潤滑油のメンテナンスフリー化を図ることができる潤滑油清浄装置を提供することにある。」(第2ページ左上欄第1行ないし第8行)

ウ)「 〔実施例〕
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。第1図は、本発明の第1実施例の全体構成を示す概略図であり、自動車の内燃機関に本発明を適用したものである。第1図において、オイルパン1内の潤滑油を必要部位に送るポンプ93、及び配管91,潤滑油内の不純物を除去する濾過フィルタ92が既に備えられている。また、本実施例では、潤滑油として米国石油協会(API)が制定したAPI分類におけるSG級エンジンオイルを使用した。自動車用内燃機関のオイルパン1には潤滑油が貯えられるとともに、オイルパン1に通じるヘッドカバー21には配管材11を介してポリプロピレン製の2l(審決注:「l」は筆記体の代わりに用いた。)の潤滑油タンク13が接続されている。この潤滑油タンク13内には添加剤を含んだ潤滑油が入っている。又、配管材11の途中には潤滑油補給ポンプ14が設けられ、このポンプ14の駆動により潤滑油タンク13内の添加剤を含んだ潤滑油をオイルパン1に供給できるようになっている。
又、オイルパン1に通じるヘッドカバー21には配管材15を介してポリプロピレン製の約500ccの添加剤タンク17が接続されている。この添加剤タンク17内には酸化防止剤や清浄分散剤等の添加剤が入っている。又、配管材15の途中には補給手段としての添加剤補給ポンプ18が設けられ、このポンプ18の駆動により添加剤タンク17内の添加剤をオイルパン1に供給できるようになっている。」(第2ページ左下欄第5行ないし右下欄第14行)

エ)「 又、オイルパン1には検出手段としてのTBN検出センサー29,不溶解分検出センサー27が備えられている。TBN検出センサー29の構成を第2図に示す。・・・(略)・・・。
ここで、TBNの検出は、高電圧を印加したとき予めTBNと電流値の関係が明確になっている条件における電流値でもって判断する。その関係を第3図に示す。この関係は5kVの電圧を印加したときのデータである。」(第3ページ右上欄第13行ないし左下欄第5行)

オ)「 内燃機関用潤滑油、特に自動車用潤滑油の劣化の進行はブローバイガス劣化と熱劣化の2種類の劣化メカニズムが考えられ、ブローバイガス劣化はNO_(x),未燃ガソリン分といったブローバイガス成分混入によるものであり、熱劣化は潤滑油自身が劣化するものである。この劣化の指標としてTBN,TAN,不溶解分等があるが、TBN,TAN,不溶解分といった順に規格はずれを起こす。ここで、TBNはTotal Basic Number(全塩基価)の略でJISK2501に示すように試料1g中に含まれる全塩基性分を中和するのに要する塩酸又は過塩素酸と当量のKOHのmg数、TANはTotal Acid Numberの略で試料1g中の全酸性分を中和するのに要するKOHのmg数、不溶解分はJPI-5S-18に示すペンタン不溶解分なる成分の重量(%)をいう。
TBNは清浄分散剤の能力を示す指標で、わずかでもあればこの能力があるものと考えて良い。TANは主として潤滑油の熱劣化度を示し、ブローバイガス劣化ではほとんど増加しない。不溶解分は熱劣化とブローバイガス劣化の両メカニズムによって発生し、潤滑油劣化の代表指標と考えられる。」(第3ページ左下欄第17行ないし右下欄第19行)

カ)「 次に、このように構成した内燃機関の潤滑油清浄装置の作用を第4図及び第5図に基づいて説明する。
コントローラ19はステップ100でキースイッチ(イグニッションスイッチ)の操作信号を入力して、エンジンが作動中でないと、ステップ101で内蔵した間欠タイマT1をオフ状態にするとともに潤滑油補給ポンプ14をオフ状態にする。コントローラ19はエンジンが作動中ならばステップ102で間欠タイマT1をオン(駆動)させるとともに潤滑油補給ポンプ14の駆動を開始させる。」(第3ページ右下欄第20行ないし第4ページ左上欄第11行)

キ)「 そしてコントローラ19は、ステップ110でTBNセンサー29によるTBN値が2以下であるか判断し、2以上であればポンプ18の作動をしない。2より小さい場合は、ステップ111でTBN値が0.5以下であるか判断し、0.5より大きければステップ113で第5図に示す様、添加剤補給ポンプ18のオン時間t_(ON)=d1,添加剤補給ポンプ18のオフ時間t_(OFF)=e1を設定する。TBN値が0.5以下であるならステップ112でTBN値が0であるか判断し、0より大きければステップ114で第5図に示す様、添加剤補給ポンプ18のオン時間t_(ON)=d2,添加剤補給ポンプ18のオフ時間t_(OFF)=e2を設定する。TBNが0であると判断されたなら、ステップ115で第5図に示す様添加剤補給ポンプ18のオン時間t_(ON)=d3,添加剤補給ポンプ18のオフ時間t_(OFF)=e3を設定する。
ここで、添加剤補給ポンプのON,OFFタイマーはd1/e1<d2/e2<d3/e3となる様設定する。」(第4ページ右上欄第11行ないし左下欄第10行)

ク)「 尚、本実施例において、潤滑油中のTBN値が0より大きくなるように制御する理由は、潤滑油の劣化の進行具合を示す第6図及び第7図から分るように、TBNが0となった時点からTAN及び不溶解分が急激に増加するからである。これは、TBNが0となると添加剤中の酸中和能力や微粒子分散能力が衰えるからである。また、潤滑油中のTBN値が2より小さくなるように制御する理由は、内燃機関の摩耗量とTBNの関係を示す第8図から分かるように、TBNが2を超えると摩耗量が増加するからである。第6図及び第7図では、エンジンオイルの温度が140℃の場合のデータが示してある。また、第8図のデータは、5000km以上実車走行した劣化オイルにカルシウムフォスフェートを主成分とした添加剤を添加した後、四球摩耗試験で試験片摩耗による重量変化量から求めたものである。」(第5ページ左上欄第1行ないし第17行)

ケ)「 又、補給する添加剤成分は、潤滑油内に入っている成分、例えば粘度指数向上剤,清浄分散剤,油性向上剤,酸化防止剤,消泡材から成る組合せであるが劣化によって失われ易い成分、例えば清浄分散剤,油性向上剤,酸化防止剤の組合せでもよい。
さらに、上記実施例におてい(審決注:「おいて」の誤記と認める。)添加剤成分は油劣化防止に役立つ添加剤を用いているが、摩擦低下に効く添加剤、例えばMoDTP(モリブデンジチオフォスフェート),MoDTC(モリブデンジチオカーバメイト)といったものを潤滑油や添加剤成分に入れて継続添加してもよい。」(第6ページ右上欄第9行ないし第20行)

コ)「 〔発明の効果〕
以上説明したように本発明によれば、より確実に潤滑油のメンテナンスフリー化を図ることができるという優れた効果を奏する。」(第9ページ右上欄第11行ないし第14行)

サ)「4.図面の簡単な説明
第1図は本発明の第1実施例の全体構成を示す概略図、第2図は上記第1実施例の検出手段を示す平面図、第3図は潤滑油のTBN値と電流値との関係を示すグラフ、第4図は上記第1実施例の作動を示すフローチャート、第5図は上記第1実施例の作動を示すタイミングチャート、第6図は潤滑油の劣化に伴うTAN値と不溶解分の変化を示すグラフ、第7図は潤滑油の劣化に伴うTBN値の変化を示すグラフ、第8図は潤滑油のTBN値と内燃機関の摩耗量との関係を示すグラフ・・・(略)・・・
7…分離剤添加手段,9…濾過手段,10…吸着手段,18…補給手段,19…制御手段,29…検出手段。」(第9ページ右上欄第15行ないし左下欄第19行)

シ)上記カ)、キ)、第4図及び第5図の記載からみて、自動車の内燃機関の作動中に、オイルパン1から潤滑油を再循環する自動車の内燃機関における潤滑油に添加剤を混合して該潤滑油特性を修正する方法であるといえる。

ス)上記エ)、オ)、ク)及び各図面の記載からみて、直接的または間接的に、TBN(全塩基価)値及び摩耗量を自動車の内燃機関内のオイルパン1で繰り返して検出する工程を含んでいるといえる。

セ)上記イ)、ウ)、オ)、キ)、ク)、コ)、第4図及び第5図の記載からみて、TBN(全塩基価)値及び摩耗量から、オイルパン1から潤滑油が送られる各部位全体の実際のシステム潤滑要求に応答して、実際のシステム潤滑要求に応答して、潤滑油に加えるべき添加剤の量を設定する工程を含んでいるといえる。

上記ア)ないしセ)及び図面の記載を総合すると、引用刊行物には、次の発明(以下、単に「引用刊行物記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「自動車の内燃機関の作動中に、オイルパン1から潤滑油を再循環する自動車の内燃機関における潤滑油特性を修正する方法であって、
直接的または間接的に、TBN(全塩基価)値及び摩耗量を自動車の内燃機関内のオイルパン1で繰り返して検出する工程;
前記TBN(全塩基価)値及び摩耗量から、オイルパン1から潤滑油が送られる各部位全体の実際のシステム潤滑要求に応答して、潤滑油に加えるべき添加剤の量を設定する工程であって、前記添加剤は、酸化防止剤や清浄分散剤等である工程;
オイルパン1に向かう前記潤滑油を前記添加剤と混合して、修正された潤滑油を生成する工程;および
前記修正された潤滑油を、前記オイルパン1に適用する工程
を含む潤滑油特性を修正する方法。」

2-2.本願補正発明と引用刊行物記載の発明との対比
本願補正発明と引用刊行物記載の発明とを対比するに、引用刊行物記載の発明における「自動車の内燃機関」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「システム」に相当し、以下同様に、「作動中」は「運転中」に、「オイルパン1」は「油溜め」に、「TBN(全塩基価)値及び摩耗量」は「一種以上のシステム条件パラメーター」及び「システム条件パラメーター」に、「検出」は「測定」に、「潤滑油」は「ベース潤滑油」に、「添加剤」は「第二の流体」に、それぞれ相当する。

また、引用刊行物記載の発明における「直接的または間接的に、TBN(全塩基価)値及び摩耗量を自動車の内燃機関内のオイルパン1で繰り返して検出する工程」は、「直接的または間接的に、一種以上のシステム条件パラメーターをシステム内のある位置で繰り返して測定する工程」という限りにおいて、本願補正発明における「直接的または間接的に、一種以上のシステム条件パラメーターを油溜め以外のシステム内の関心ある位置で繰り返して測定する工程」に相当する。

さらに、引用刊行物記載の発明における「TBN(全塩基価)値及び摩耗量から、オイルパン1から潤滑油が送られる各部位全体の実際のシステム潤滑要求に応答して、潤滑油に加えるべき添加剤の量を設定する工程」は、各部位全体に送られる潤滑油が入っているオイルパン1における実際のシステム潤滑要求に応答するものでもあるから、「システム条件パラメーターから、ある位置の実際のシステム潤滑要求に応答して、ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を求める工程」という限りにおいて、本願補正発明における「システム条件パラメーターから、関心ある位置での実際のシステム潤滑要求にだけ応答して、ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を計算する工程」に相当する。

さらにまた、引用刊行物記載の発明における「酸化防止剤や清浄分散剤等」は、本願補正発明における「性能強化剤」に相当し、引用刊行物記載の発明における「添加剤は、酸化防止剤や清浄分散剤等である」は、「第二の流体は、性能強化剤からなる一種以上の流体である」という限りにおいて、本願補正発明における「第二の流体は、性能強化剤、基油、追加の処方潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上の流体である」に相当する。

さらにまた、引用刊行物記載の発明における「オイルパン1に向かう潤滑油を添加剤と混合して、修正された潤滑油を生成する工程」は、「ある位置に向かうベース潤滑油を第二の流体と混合して、修正されたベース潤滑油を生成する工程」という限りにおいて、本願補正発明における「関心ある位置に向かうベース潤滑油を第二の流体と混合して、修正されたベース潤滑油を生成する工程」に相当する。

さらにまた、引用刊行物記載の発明における「修正された潤滑油を、オイルパン1に適用する工程」は、「修正されたベース潤滑油を、ある位置に適用する工程」という限りにおいて、本願補正発明における「修正されたベース潤滑油を、関心ある位置に適用する工程」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用刊行物記載の発明とは、
「システムの運転中に、油溜めから潤滑油を再循環するシステムにおける潤滑油特性を修正する方法であって、
直接的または間接的に、一種以上のシステム条件パラメーターをシステム内のある位置で繰り返して測定する工程;
システム条件パラメーターから、ある位置の実際のシステム潤滑要求に応答して、ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を求める工程であって、第二の流体は、性能強化剤からなる一種以上の流体である工程;
ある位置に向かうベース潤滑油を第二の流体と混合して、修正されたベース潤滑油を生成する工程;および
修正されたベース潤滑油を、ある位置に適用する工程
を含む潤滑油特性を修正する方法。」である点で一致し、次の点で相違している。

<相違点1>
「一種以上のシステム条件パラメーターをシステム内のある位置で繰り返して測定する工程」、「システム条件パラメーターから、ある位置の実際のシステム潤滑要求に応答して、ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を求める工程」、「ある位置に向かうベース潤滑油を第二の流体と混合して、修正されたベース潤滑油を生成する工程」及び「修正されたベース潤滑油を、ある位置に適用する工程」が、本願補正発明においては、「『油溜め以外の』システム内の『関心ある位置』で繰り返して測定する工程」、「『関心ある位置での』実際のシステム潤滑要求に『だけ』応答して、ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を『計算する』工程」、「『関心ある位置』に向かうベース潤滑油を第二の流体と混合」する工程及び「『関心ある位置』に適用する工程」であるのに対して、引用刊行物記載の発明においては、「ある位置」は「オイルパン1」であって本願補正発明のように「『油溜め以外の』システム内の『関心ある位置』」ではなく、また、本願補正発明のように「『関心ある位置での』実際のシステム潤滑要求に『だけ』応答して、ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を『計算する』」ものではない点(以下、単に「相違点1」という。)。

<相違点2>
「性能強化剤からなる一種以上の流体である」「第二の流体」が、本願補正発明においては、「性能強化剤『、基油、追加の処方潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される』一種以上の流体」であるのに対して、引用刊行物記載の発明においては、「性能強化剤」ではあるものの、本願補正発明のように「性能強化剤」以外の流体も含めた群から選択されるとはしていない点(以下、単に「相違点2」という。)。

2-3.上記相違点についての判断
上記各相違点について検討する。

<相違点1>について
潤滑油の状態を検知するものであって、システム条件パラメーターを「油溜め以外のシステム内の所定の位置で測定すること。」は周知の技術(必要であれば、特開昭61-96292号公報、特開平10-184334号公報等参照。以下、「周知技術1」という。)である。
また、「システム内の所定の位置に向かうベース潤滑油を第二の流体と混合し、所定の位置に適用すること。」は周知の技術(必要であれば、特開平3-194109号公報、特開2001-3815号公報等参照。以下、「周知技術2」という。)である。
さらに、「ベース潤滑油に加えるべき第二の流体の量を計算すること。」は周知の技術(以下、「周知技術3」という。)である。
そうすると、引用刊行物記載の発明において、周知技術1ないし周知技術3を適用して、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項に想到することは当業者が容易になし得たものである。

<相違点2>について
ベース潤滑油に加える第二の流体を「性能強化剤、基油、追加の処方潤滑油、希釈材およびこれらの混合物からなる群から選択される一種以上の流体」とすることは周知の技術(以下、「周知技術4」という。)である。
そうすると、引用刊行物記載の発明において、周知技術4を適用して、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項に想到することは当業者が容易になし得たものである。

そして、本願補正発明を全体として検討しても、引用刊行物記載の発明及び周知技術1ないし4から予測される以上の格別の効果を奏するとも認められない。

2-4.まとめ
以上のように、本願補正発明は、引用刊行物記載の発明及び周知技術1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.むすび
よって、結論のとおり決定する。

[3]本願発明について
1.本願発明
平成21年10月13日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし16に係る発明は、平成21年3月10日付けの手続補正書により補正された特許法第184条の6第2項の規定により同法第36条第2項の規定により願書に添付して提出した明細書及び特許請求の範囲とみなされる同法第184条の4第1項の規定による明細書及び請求の範囲の翻訳文並びに同法第184条の6第2項の規定により同法第36条第2項の規定により願書に添付して提出した図面とみなされる同法第184条の6第1項の規定により同法第36条第1項の規定により提出した本件出願の願書とみなされる国際特許出願に係る国際出願日における願書に最初に添付した図面(図面の中の説明を除く。)及び同法第184条の4第1項の規定による図面の中の説明の翻訳文の記載からみて、平成21年3月10日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、前記[2]の〔理由〕1.(1)のa)に記載したとおりのものである。

2.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平3-227398号公報の記載事項及び引用刊行物記載の発明は、前記[2]の〔理由〕2.2-1.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願補正発明は、前記[2]の〔理由〕1.に記載したように、本願発明における発明特定事項を減縮したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記[2]の〔理由〕2.2-3.で検討したように、引用刊行物記載の発明及び周知技術1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物記載の発明及び周知技術1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物記載の発明及び周知技術1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-29 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-20 
出願番号 特願2003-571572(P2003-571572)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 しのぶ  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 金澤 俊郎
河端 賢
発明の名称 再循環潤滑油システムにおける潤滑油特性の修正  
代理人 河備 健二  

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