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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1237512
審判番号 不服2009-17809  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-24 
確定日 2011-05-18 
事件の表示 平成10年特許願第542874号「燃料経済を最大限にする一方での、エンジンからのNOx排出の削減」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月15日国際公開、WO98/45581、平成14年 4月23日国内公表、特表2002-512666〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯・本願発明
本件出願は、1998年4月1日(パリ条約による優先権主張1997年4月4日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成11年10月1日付けの特許法第184条の5第1項の規定による書面とともに明細書、請求の範囲、図面及び要約の日本語による翻訳文が提出され、平成19年4月10日付けの拒絶理由の通知に対して、同年10月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成20年4月17日付けの拒絶理由の通知に対して、同年11月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年5月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであって、その請求項1及び2に係る発明は、平成20年11月7日付けの手続補正書並びに平成11年10月1日付けの特許法第184条の5第1項の規定による書面とともに提出された明細書及び図面の日本語による翻訳文の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「1.高い燃料経済性を伴って、NOx、微粒子、気体炭化水素、および一酸化炭素の発生を少なくしてリーンバーンエンジンを操作する方法であって、
NOx削減に効果がある触媒反応器に繋がっている排気通路を有する排気システムを用意すること;
前記排気通路から生じた排気ガスと流入空気とを混合し、結果として生じた混合物をエンジンに供給するためのEGRを用意すること;
エンジン負荷、NOx削減試薬の有効性および/または排気ガスの温度を含む少なくとも1つの操作パラメーターを感知すること、ここで該操作パラメーターは尿素水溶液を用いる選択的接触還元による接触NOx還元に効果のある条件を示す操作パラメーターを感知すること;
感知された操作パラメーターを表す1つ以上の操作信号を発生させること;
選択的接触還元による接触NOx還元が効果的に操作されうるかどうかを決定するために、対照値と1つ以上の操作信号とを比較すること;
比較の結果を表す1つ以上の制御信号を発生させること;および
該1つ以上の前記制御信号に応じて燃料経済を最小化し且つNOx削減を達成するように、該尿素水溶液の導入で選択的接触還元用該触媒反応器および/または該EGR装置を操作すること、
を特徴とするリーンバーンエンジンの操作方法。」
なお、上記請求項1中の「選択接触還元用該触媒反応器」は「選択的接触還元用該触媒反応器」の明らかな誤記と認め、上記のとおり「選択的接触還元用該触媒反応器」と認定した。


【2】引用文献記載の発明及び技術
1.引用文献1記載の発明
(1)原査定の拒絶理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である実願平1-8238号(実開平2-101010号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「エンジンの排気通路に第1の切換弁を設け、該切換弁下流の一方の通路に触媒コンバータを介装すると共に、該触媒コンバータの上流側にアンモニア供給手段を接続し、前記第1の切換弁下流の他方の通路に第2の切換弁を設け、該切換弁下流の一方をEGR通路を介してエンジンの吸気側に接続し、他方を大気に開放し、エンジンの回転数検出手段、負荷検出手段及び排気温度検出手段からの信号に基づき、エンジンの回転数及び負荷が黒煙リミットラインと排温リミットラインとの間の領域においては、第1の切換弁を触媒コンバータ側に切換えると共に、アンモニア供給装置を作動し、前記黒煙リミットラインの上方の範囲では、第1の切換弁を第2の切換弁側に切換え、第2の切換弁を大気開放側に切換えると共に、アンモニア供給装置を非作動とし、前記排温リミットラインの下方の領域では、第1の切換弁を第2の切換弁側に切換え、該第2の切換弁を一部はEGR通路側に、他部は大気開放側に切換えると共にアンモニア供給装置を非作動とするように制御する制御手段を設けたことを特徴とするディーゼルエンジンの窒素酸化物除去装置。」(実用新案登録請求の範囲)

(イ)「[産業上の利用分野]
本考案は、ディーゼルエンジンの窒素酸化物除去装置に関する。
[従来の技術]
かかる装置においては、窒素酸化物(NOx)と同量(体積相当)のアンモニア(NH3)を供給し、窒素酸化物を還元したのち、触媒コンバータで除去するようにしている。そのため、実開昭63-38617号公報に示される技術においては、濃度センサにより窒素酸化物の濃度を検出し、その濃度に見合ったアンモニアを供給するようにしている。
[考案が解決しようとする課題]
しかし、かかる公知技術において、低負荷域では、排気温度が低く触媒コンバータの反応温度が確保できないので、アンモニアの供給を停止して窒素酸化物をそのまま排出している。
本考案は、低負荷域においても窒素酸化物を低減するディーゼルエンジンの窒素酸化物除去装置を提案することを目的としている。」(明細書第2ページ第8行ないし第3ページ第7行)

(ウ)「[作用]
上記のように構成されたディーゼルエンジンの窒素酸化物除去装置において、制御ユニットは、エンジンの回転数、負荷が黒煙リミットラインと排温リミットラインとの間の領域において、排気ガスにアンモニアを供給して窒素酸化物を還元し、触媒コンバータで除去する。
また、黒煙リミットラインの上方の領域では、排気ガスを大気に開放する。
また、排温リミットラインの下方の領域では、排気ガスの一部をEGR回路を介してエンジンの吸気側に還流し、窒素酸化物を低減する。」(明細書第4ページ第17行ないし第5ページ第8行)

(エ)「第1図において、ディーゼルエンジン1の排気通路2には、第1の切換弁3が介装されている。その切換弁3の下流側の一方のコンバータ通路4には、触媒コンバータ5が介装され、通路4のコンバータ5の上流側には、供給通路6を介してアンモニア供給装置7が接続されている。
他方、切換弁3の下流側の他方の通路8には、第2の切換弁9が設けられている。その切換弁9の下流側の一方はEGR通路10によりエンジン1の吸気側に接続され、他方は開放通路11を介して大気に開放されている。
前記第1及び第2の切換弁3、9とアンモニア供給装置7とは制御手段であるマイクロコンピュータで構成された制御ユニット12に接続されている。そして、その制御ユニット12には、エンジン回転数検出手段である回転センサ13、負荷検出手段である負荷センサ14及び排気温度検出手段である排気温度センサ15が接続されている。」(明細書第5ページ第11行ないし第6ページ第8行)

(オ)「制御に際し第2図に示すように、制御ユニット12は、回転センサ13、負荷センサ14からの信号に基づきエンジンの回転数N、負荷qを読み込み(ステップS1)、負荷q、回転数Nが第3図に示すように、規定される黒煙リミットラインS上の量qSNより大きいか否かを判定する(ステップS2)。YESだったら、制御信号を出力して第1の切換弁3をA側に切換えると共に、第2の切換弁9をC側に切換え(ステップS3)、・・・(中略)・・・
ステップS2がNOの場合は、負荷qが回転数Nで規定される排温リミットラインT(約200℃)上のqTNより大きいか否かを判定する(ステップS5)。YESだったら、第1の切換弁3をB側に切換え(ステップS6)、アンモニア供給装置7に作動信号を出力し、回転数N、負荷qで規定される第4図に示す等NOx線図の窒素酸化物の量に相当する量のアンモニアを供給し(ステップS7)、排気ガス中の窒素酸化物を還元し、触媒コンバータ5で除去してコンバータ通路4から排出してリターンする。
ステップS5がNOの場合は、第1の切換弁3をA側に切換え(ステップS8)、第2の切換弁8を切換え、排気ガスの一部をEGR通路10を介してエンジン1の吸気側に還流し、残部を開放通路11側へ流し(ステップS9)、アンモニア供給装置7を不作動にして(ステップS10)、大気に開放してリターンする。」(明細書第6ページ第9行ないし第7ページ第18行)

(カ)「そしてリミットラインS、Tで画成される領域D、すなわち黒煙量が多くなく、排気温度が反応温度より高い領域では、排気ガスにアンモニアを供給して触媒コンバータに流し、窒素酸化物を除去する(ステップS6、S7)。」(明細書第8ページ第8ないし12行)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(カ)並びに図面の記載からみて、次のことがわかる。

(キ)一般にディーゼルエンジンは、通常走行状態では空燃比が約25とリーンであり(例えば、特開昭61-197740号公報の特に、第2ページ右下欄第2ないし4行)、実施例のディーゼルエンジンはリーンバーンエンジンであることは明らかである。また、実施例は、第2図の制御フローチャート図に記載されているように、窒素酸化物(NOx)の発生を低減するようにディーゼルエンジンを操作している方法であることがわかる。

(ク)上記(1)の(ア)、(ウ)及び(エ)並びに第1図からみて、触媒コンバータ5は、NOxの低減に効果があり、排気通路2、コンバータ通路4及び他方の通路8からなる排気通路は、触媒コンバータ5に繋がっており、また、排気通路2、コンバータ通路4、他方の通路8、開放通路11等からなるものは、排気システムであることがわかる。
また、EGR通路10は、前記排気通路2及びコンバータ通路4からなる排気通路から生じた排気ガスと流入空気とを混合し、結果として生じた混合物をディーゼルエンジン1に供給するためのものであることがわかる。

(ケ)上記(1)の(ア)及び(ウ)ないし(オ)並びに第1ないし4図からみて、制御ユニット12には、負荷センサ14及び回転センサ13が接続されており、当該負荷センサ14及び回転センサ13は、それぞれ負荷q及び回転数Nを感知するものであり、当該負荷q及び回転数Nは、NOxの低減に効果のある条件を示す操作パラメーターであることがわかる。
また、NOxの低減のため、排気ガスに還元剤であるアンモニアを供給してNOxを還元し、触媒コンバータ5で除去しているので、このような行為は、選択的接触還元による接触NOx還元を行っているといえる。
以上のことから、操作パラメーターである負荷q及び回転数Nは、還元剤であるアンモニアを用いる選択的接触還元による接触NOx還元に効果のある条件を示す操作パラメーターであり、負荷センサ14及び回転センサ13により感知されることがわかる。

(コ)上記(1)の(ア)、(ウ)ないし(オ)及び上記(ケ)並びに第1ないし4図からみて、実施例については、回転センサ13及び負荷センサ14は、それぞれ感知された操作パラメーターである負荷q及び回転数Nを表す信号を発生させ、また、制御ユニット12は、選択的接触還元による接触NOx還元が効果的に操作されうるかどうかを決定するために、排温リミットラインT上のqTNと負荷センサ14からの信号による負荷qとを比較し、比較の結果、負荷qがqTNより大きいと判定すると、制御ユニット12は、第1の切換弁3をB側に切換える制御信号及びアンモニア供給装置7の作動信号を発生させる作動を行わせることがわかる。

(サ)上記(1)の(ア)、(ウ)ないし(カ)、上記(ケ)及び(コ)並びに第1ないし4図からみて、制御ユニット12は、第1の切換弁3をB側に切換える制御信号及びアンモニア供給装置7への作動信号を出力し、その結果、これらの信号に応じて、NOxの低減を達成するように、アンモニアの導入で選択的接触還元用となっている触媒コンバータ5が操作されることがわかる。

(3)上記(1)及び上記(2)並びに図面の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「NOxの発生を低減してディーゼルエンジン1を操作する方法であって、
NOx低減に効果がある触媒コンバータ5に繋がっている排気通路2、コンバータ通路4及び他方の通路8からなる排気通路を有する排気システムを用意すること、
前記排気通路から生じた排気ガスと流入空気とを混合し、結果として生じた混合物をディーゼルエンジン1に供給するためのEGR通路10を用意すること、
負荷q及び回転数Nの操作パラメーターを感知すること、ここで該操作パラメーターはアンモニアを用いる選択的接触還元による接触NOx還元に効果のある条件を示す操作パラメーターを感知すること、
感知された操作パラメーターを表す回転センサ13及び負荷センサ14からの信号を発生させること、
選択的接触還元による接触NOx還元が効果的に操作されうるかどうかを決定するために、排温リミットラインT上のqTNと負荷センサ14からの信号とを比較すること、
比較の結果を表す第1の切換弁3をB側に切換える制御信号及びアンモニア供給装置7への作動信号を発生させること、および
該第1の切換弁3をB側に切換える制御信号及びアンモニア供給装置7への作動信号に応じてNOx低減を達成するように、該アンモニアの導入で選択的接触還元用該触媒コンバータ5を操作すること、
を行なうディーゼルエンジン1の操作方法。」


2.引用文献2記載の技術
(1)原査定の拒絶理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-215544号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 窒素酸化物を含有するディーゼルエンジンの排ガスを触媒を充填した反応器に導いて、アンモニア又は尿素を還元剤として接触的に除去する方法において、ガス流れ上流側に脱硝触媒層を設置し、その後流にアンモニアを窒素及び窒素酸化物に酸化分解する機能を有する脱水された状態で(1±0.6)R_(2)O・〔aM_(2)O_(3)・bAl_(2)O_(3)〕・cMeO・ySiO_(2)(式中、Rはアルカリ金属イオン及び/又は水素イオン、MはVIII族元素、希土類元素、チタン、バナジウム、クロム、ニオブ、アンチモン、ガリウムからなる群から選ばれた1種以上の元素、Meはアルカリ土類元素、a≧0、b≧0、c≧0、a+b=1、y/c>12、y>12)の化学組成を有し、かつ本文で詳記するX線回折パターンを有する結晶性シリケートを担体として、活性金属として白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウムのうち少なくとも1種類を含有するアンモニア分解触媒層を設置してリークアンモニアを分解除去することを特徴とするディーゼルエンジンの窒素酸化物除去方法。
【請求項2】 請求項1において、排ガス中にアンモニア又は尿素を添加する温度が200℃以上であることを特徴とするディーゼルエンジンの窒素酸化物除去方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物の除去方法に関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0006】上記問題を有するため、現状ではアンモニアを還元剤とした選択的接触還元法が最も効率的な脱硝方法であり還元剤の消費割合の点でも優れている。例えば、炭化水素を還元剤とした場合、通常のディーゼルエンジンの排ガス組成ではNO:1モル除去するため炭化水素(以下、CHと略記する)を5?15モル必要とするのに対して、アンモニアを還元剤とした場合NOと等モルのアンモニアの消費で済む。
【0007】しかし、トラックやバス等の移動式ディーゼルエンジンは負荷変化が顕著であり、アンモニアを還元剤として用いた場合、リークするアンモニアがそのまま大気に放出される問題点が生じている。
【0008】本発明は上記技術水準に鑑み、従来法におけるような不具合のないディーゼルエンジン排ガスの浄化方法を提供しようとするものである。」(段落【0006】ないし【0008】)

(エ)「【0012】通常、トラック等のディーゼルエンジンの運転モードは負荷条件により後記表3に示す1?13モードの運転パターンがある。これらのモード間の排ガス条件は幅広く、排ガス温度:70?540℃、NOx濃度:200?810ppm、O_(2)濃度:5?19%、CO濃度:100?300ppm、HC濃度:100?300ppmの範囲にある。還元剤としてはアンモニアが好ましいが有毒であるため、窒素化合物(例えば尿素水)を用いてもよい。アンモニア又は尿素水が窒素酸化物の還元剤として作用する温度は約200℃以上であるため排ガス温度が約200℃以上の場合のみ還元剤を供給する。さらに、負荷変化時等において、前段の脱硝触媒からアンモニアがリークする場合、アンモニア分解触媒により、アンモニア濃度0.1ppm以下に抑えることが可能であり、大気に有害なアンモニアを極力低濃度で放出することができる。
【0013】脱硝触媒及びアンモニア分解触媒とも400セル/inch^(2)のコージェライト基材にコートタイプで担持させることができ、触媒層の容量が排気量5000ccのトラックで10リットル以下に抑えることが可能である。
【0014】また、添加する還元剤としては尿素の方がハンドリング、危険性の点で好ましく、水溶液を排ガス中に噴霧することにより、(CO)_(2)NH+2H_(2)O→NH_(3)+2CO_(2)の反応によりアンモニアが生成し、通常の選択的接触還元法と同様に脱硝を行うことができる。」(段落【0012】ないし【0014】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(エ)の記載からみて、次のことがわかる。
(オ)上記(1)の(ア)及び(エ)からみて、ディーゼルエンジンは、排ガス中に還元剤を添加し、還元剤を導入する触媒を充填した反応器を備えており、還元剤としてアンモニア又は尿素水を用いることがわかる。

(3)上記(1)及び上記(2)の記載を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているものと認められる。

「窒素酸化物を除去するように、還元剤を導入した触媒を充填した反応器を備えたディーゼルエンジンにおいて、還元剤として尿素水を用いる技術。」


【3】対比
本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「低減して」は、その機能及び形状や構造からみて、本願発明における「少なくして」に相当し、以下同様に、「ディーゼルエンジン1」は「リーンバーンエンジン」に、「低減」は「削減」に、「触媒コンバータ5」は「触媒反応器」に、「排気通路2、コンバータ通路4及び他方の通路8からなる排気通路」は「排気通路」に、「EGR通路10」は「EGR」及び「EGR装置」に、「排温リミットラインT上のqTN」は「対照値」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1記載の発明における「負荷q及び回転数Nの操作パラメーター」は、その機能及び形状や構造からみて、本願発明における「エンジン負荷、NOx削減試薬の有効性および/または排気ガスの温度を含む少なくとも1つの操作パラメーター」に包含され、以下同様に、「回転センサ13及び負荷センサ14からの信号」及び「負荷センサ14からの信号」は「1つ以上の操作信号」に、「第1の切換弁3をB側に切換える制御信号及びアンモニア供給装置7への作動信号」は「1つ以上の制御信号」に、「選択的接触還元用該触媒コンバータ5を操作する」は「選択的接触還元用該触媒反応器および/またはEGR装置を操作する」に、それぞれ包含される。
さらに、引用文献1記載の発明における「アンモニア」は、「還元剤」の限りにおいて、本願発明における「尿素水溶液」に相当する。

したがって、本願発明と引用文献1記載の発明は、次の一致点及び相違点を有するものである。

<一致点>
「NOxの発生を少なくしてリーンバーンエンジンを操作する方法であって、
NOx削減に効果がある触媒反応器に繋がっている排気通路を有する排気システムを用意すること;
前記排気通路から生じた排気ガスと流入空気とを混合し、結果として生じた混合物をエンジンに供給するためのEGRを用意すること;
エンジン負荷、NOx削減試薬の有効性および/または排気ガスの温度を含む少なくとも1つの操作パラメーターを感知すること、ここで該操作パラメーターは還元剤を用いる選択的接触還元による接触NOx還元に効果のある条件を示す操作パラメーターを感知すること;
感知された操作パラメーターを表す1つ以上の操作信号を発生させること;
選択的接触還元による接触NOx還元が効果的に操作されうるかどうかを決定するために、対照値と1つ以上の操作信号とを比較すること;
比較の結果を表す1つ以上の制御信号を発生させること;および
該1つ以上の前記制御信号に応じてNOx削減を達成するように、該還元剤の導入で選択的接触還元用該触媒反応器を操作すること、
を行なうリーンバーンエンジンの操作方法。」

<相違点>
(1)相違点1
燃料経済性とNOx等の削減に関し、
本願発明では、「高い燃料経済性」と「NOx等の削減」の両方を達成するようにしており、リーンバーンエンジンを操作するのに、「高い燃料経済性を伴って、NOx、微粒子、気体炭化水素、および一酸化炭素の発生を少なくして」いて、また、触媒反応器および/またはEGR装置を操作するのに、「燃料経済を最小化し且つNOx削減を達成するように」しているのに対し、引用文献1記載の発明では、「NOxの削減」を達成するようにしているが、「高い燃料経済性」を達成するようにしているかは不明であり、リーンバーンエンジンを操作するのに、「NOxの発生を少なくして」いて、また、触媒反応器を操作するのに、「NOx削減を達成するように」している点(以下、「相違点1」という。)。

(2)相違点2
還元剤に関し、
本願発明では、「尿素水溶液」であるのに対し、引用文献1記載の発明では、「アンモニア」である点(以下、「相違点2」という。)。


【4】判断
上記各相違点について以下に検討する。
(1)相違点1について
エンジンの排気浄化方法において、低い燃費(高い燃料経済性)とNOxの削減の両方を達成しようとすることは、技術常識(必要があれば、例えば、原査定において例示した特開平4-365920号公報の特に、段落【0002】、特開昭61-197740号公報の特に、第2ページ左下欄第17行ないし同ページ右下欄第7行、第3ページ右下欄第15ないし19行及び第4ページ右上欄第18行ないし同ページ左下欄第4行参照。)である。
また、ディーゼルエンジンの排気浄化方法において、NOxの他にも、微粒子、気体炭化水素、一酸化炭素のような排気ガスに含まれる成分の発生を少なくすることは、周知慣用の技術(以下、「周知慣用技術」という。必要があれば、例えば、原査定において例示した特開平4-365920号公報の特に、段落【0001】ないし【0003】、平成19年4月10日付けの拒絶理由通知において引用した特開平9-38467号公報(平成9年2月10日公開)の特に、段落【0030】参照。)である。
そうすると、引用文献1記載の発明において、上記技術常識を勘案して低い燃費(高い燃料経済性)とNOxの削減の両方の達成を図り、その際、上記周知慣用技術を採用してリ-ンバーンエンジンを操作するのに「高い燃料経済性を伴って、NOx、微粒子、気体炭化水素、および一酸化炭素の発生を少なく」し、また、触媒反応器を操作するのに「燃料経済を最小化し且つNOx削減を達成するように」して、当該相違点1に係る本願発明のようにすることは当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
本願発明と引用文献2記載の技術とを対比すると、引用文献2記載の技術における「窒素酸化物を除去する」は、その機能及び形状や構造からみて、本願発明における「NOx削減を達成する」に相当し、以下同様に、「触媒を充填した反応器」は「触媒反応器」に、「ディーゼルエンジン」は「リーンバーンエンジン」に、「尿素水」は「尿素水溶液」に、それぞれ相当する。
したがって、引用文献2記載の技術を本願発明における用語を用いて記載すると、
「NOx削減を達成するように、還元剤を導入した触媒反応器を備えたリーンバーンエンジンにおいて、還元剤として尿素水溶液を用いる技術。」
となる。
また、引用文献1記載の発明も引用文献2記載の技術も「NOx削減を達成するように、還元剤を導入した触媒反応器を備えたリーンバーンエンジン」の技術分野に属することで共通している。
さらに、引用文献1記載の発明における還元剤は「アンモニア」であり、引用文献2記載の技術における還元剤は「尿素水溶液」であるが、引用文献2には、還元剤として「アンモニア又は尿素水(尿素水溶液)」を用いる旨の記載がある(上記【2】の2.の(1)の(エ)参照。)。
そうすると、引用文献1記載の発明において、上記引用文献2記載の技術を適用して、還元剤を「アンモニア」に代えて「尿素水溶液」とし、当該相違点2に係る本願発明のようにすることは当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明を全体として検討しても、本願発明の奏する効果は引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び周知慣用技術から当業者が予測し得る程度のものである。

なお、審判請求人は、平成21年12月3日付けの手続補正書(方式)により補正された平成21年9月24日付けの審判請求書において、特に、「尿素水溶液とEGRとを本願発明の目的を達成するようにSCR技術と組合せる」点を主張している。
しかしながら、ディーゼルエンジンの排気浄化方法において、NOx削減を達成するために、SCR技術とEGRとを同時に組合せることは、従来周知の技術(以下、「周知技術」という。必要があれば、例えば、特開平6-50134号公報特に、段落【0011】及び図1、特開昭61-197740号公報の特に、第2ページ左上欄第14行ないし同ページ右上欄第6行、第2ページ右下欄第12行ないし第3ページ右上欄第4行、第3ページ右下欄第1ないし19行及び第1図参照。)であり、上記の点に困難性は認められない。


【5】むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術、及び周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2010-12-07 
結審通知日 2010-12-14 
審決日 2011-01-04 
出願番号 特願平10-542874
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前崎 渉  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 西山 真二
柳田 利夫
発明の名称 燃料経済を最大限にする一方での、エンジンからのNOx排出の削減  
代理人 畑 泰之  
代理人 斉藤 武彦  

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