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審決分類 審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  A01K
管理番号 1237593
審判番号 無効2008-800237  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-11-07 
確定日 2011-05-31 
事件の表示 上記当事者間の特許第3924302号発明「貝係止具と、集合貝係止具と、連続貝係止具と、ロール状連続貝係止具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3924302号の請求項1ないし12に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成17年 4月 1日:出願
平成19年 3月 2日:特許権の設定登録
平成20年11月 7日:本件審判請求
平成21年 2月10日:答弁書提出
平成21年 4月 9日:弁駁書提出
平成21年 4月16日:請求人より手続補正書提出
平成21年 4月21日:請求人より上申書提出
平成21年 6月 2日:被請求人より証人尋問申請書、尋問事項書提出
平成21年 6月15日:請求人より証人尋問申請書、尋問事項書提出
平成21年 6月22日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成21年 6月24日:被請求人より口頭審理陳述要領書、
上申書及び答弁書(2)提出
平成21年 7月 6日:請求人より上申書提出
平成21年 7月 7日:被請求人より上申書(2)提出
平成21年 7月10日:口頭審理、証人尋問、当事者尋問
平成21年 7月17日:請求人より上申書(3)提出
平成21年 7月22日:請求人より上申書(4)提出
平成21年 7月30日:請求人提出の証拠の原本確認
平成21年 8月10日:被請求人より上申書(3)提出
平成21年 8月31日:請求人より上申書(5)提出
平成21年 9月16日:請求人より上申書提出

第2 本件特許の請求項に係る発明
本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、特許請求の範囲の1ないし12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 ロープと貝にあけた孔に差し込み可能な細長の基材(1)と、貝止め突起(2)と、第一ロープ止め突起(3)が樹脂で一体成型され、貝止め突起(2)は基材(1)の軸方向端部(4)側から第一ロープ止め突起(3)側に突設され、貝止め突起(2)はその幅方向に分離された二以上の分離片(5)を備えたことを特徴とする貝係止具。
【請求項2】 請求項1記載の貝係止具において、貝止め突起(2)の二以上の分離片(5)は、貝止め突起(2)の根元部分から、又はその長手方向途中から、又はその先端部寄りから二以上に分離されたことを特徴とする貝係止具。
【請求項3】 請求項1又は請求項2記載の貝係止具において、二以上の分離片(5)の全て又は一部がその根元部分から、又はその長手方向途中から、又はその先端部寄りから、基材(1)側に、又は基材(1)の反対側に、又は基材(1)側と基材(1)と反対側との双方に曲げられていることを特徴とする貝係止具。
【請求項4】 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の貝係止具において、二以上の分離片(5)の全て又は一部の分離片(5)の先端側に、先端部を基材(1)側又は基材(1)と反対側、又は基材(1)側と基材(1)と反対側との双方に曲げた第二抜け止め部(21)を備えたことを特徴とする貝係止具。
【請求項5】 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の貝係止具において、二以上の分離片(5)のうち、両外側の分離片(5)の先端部外側が、基材(1)の外周面(6)よりも外側に突出していることを特徴とする貝係止具。
【請求項6】 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の貝係止具において、基材(1)から第二ロープ止め突起(7)が突設され、第二ロープ止め突起(7)は第一ロープ止め突起(3)の根元位置又は根元よりも内側位置から第一ロープ止め突起(3)と反対方向に突設されたことを特徴とする貝係止具。
【請求項7】 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の貝係止具において、基材(1)の第一ロープ止め突起(3)の内側に第一ロープ止め突起(3)側に凹陥する凹陥部(8)が形成され、第二ロープ止め突起(7)が凹陥部(8)の内側から第一ロープ止め突起(3)と反対側に突設され、第二ロープ止め突起(7)は凹陥部(8)の内側であって第一ロープ止め突起(3)の先端とほぼ同じ位置又は根元よりも内側位置から突設され、第二ロープ止め突起(7)は第一ロープ止め突起(3)よりも短くして凹陥部(8)の外側に突出しないか、凹陥部(8)よりも僅かに外側まで突出する長さであることを特徴とする貝係止具。
【請求項8】 請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の貝係止具が多数本平行に間隔をあけて配置され、且つ多数本の貝係止具の軸方向両端部が剛性連結材(9)で連結されて成型されたことを特徴とする集合貝係止具。
【請求項9】 請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の貝係止具が多数本平行に間隔をあけて配置され、且つ多数本の貝係止具の基材(1)間がロール状に巻回可能な可撓性連結材(10)で連結されて成型されたことを特徴とする連続貝係止具。
【請求項10】 請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の貝係止具が多数本平行に間隔をあけて配置され、且つ隣接する貝係止具の第一ロープ止め突起(3)と第二ロープ止め突起(7)がロール状に巻回可能な可撓性連結材(10)で連結されて成型されたことを特徴とする連続貝係止具。
【請求項11】 請求項9又は請求項10記載の連続貝係止具がボビン(11)に、又はボビンを使用せずにロール状に巻かれたことを特徴とするロール状連続貝係止具。
【請求項12】 請求項11記載の連続貝係止具がシート(12)を宛がってロール状に巻いて、巻層間にシート(12)を介在させたことを特徴とするロール状連続貝係止具。」

第3 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人株式会社M.C.Iエンジニアリングは、本件特許の請求項1ないし12に係る特許を無効とし、審判費用を被請求人の負担とすることを求め
、以下の無効理由を主張し、証拠方法として後記の書証、検証物及び人証を提示した。
[無効理由]
本件特許の請求項1ないし12に係る発明の真の発明者は請求人株式会社M.C.Iエンジニアリングの代表者三浦勉であり、被請求人は特許を受ける権利を有していない、また、本件特許発明の真の発明者が坂井隆であるとしても、被請求人は特許を受ける権利を有していないから、本件特許は、発明者でない者であって、その発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものに該当し、特許法第123条第1項第6号の規定により無効とされるべきものである。

[証拠方法]
(書証)
・請求書添付
甲第1号証:特許第3924302号公報(本件特許公報)
甲第2号証:特開2006-280329号公報(請求人の出願)
甲第4号証:セイチョウ工業株式会社が平成17年1月20日に請求人に返信した図面のファクシミリ送信原稿
甲第5号証:セイチョウ工業株式会社が平成17年2月7日に請求人に送付した「工程指示書」
甲第6号証:2005年2月7日付けの、セイチョウ工業株式会社から請求人への「新規試作-可動側-固定側-形状彫り込み(形状作成含む)一式【ホタテピンW上げ形状】」の納品書
甲第8号証:被請求人他2名の名刺

・弁駁書添付
甲第3号証:請求人作成の「ホタテ用ピン(ダブルアゲ)の作成経緯」説明図
甲第3号証の1:平成16年12月16日頃の試作品の写真
甲第3号証の2:平成17年2月12日頃の修正品の写真
甲第3号証の3:平成17年12月20日頃の連続貝係止具の写真
甲第9号証:篠崎幸司の陳述書
甲第10号証:請求人の現金出納帳(平成16年5月分)
甲第11号証:2005年1月23日付けの、(株)むつ家電特機から請求人へのファクシミリ送信票
甲第12号証:2005年1月31日付けの、(株)むつ家電特機から請求人へのファクシミリ送信票
甲第13号証:平成20年2月9日の録音テープの内容の抜粋
甲第14号証:宅配便伝票の写し
甲第15号証:請求人から(株)むつ家電特機への打ち合わせ依頼書
甲第16号証:2008年2月4日付けの、(株)むつ家電特機から請求人へのファクシミリ送信票(甲第15号証の依頼書に対する返信)
甲第17号証:2005年11月30日付けのセイチョウ工業株式会社の請求書

・口頭審理陳述要領書添付
参考資料1の1、1の2:貝係止具用の金型の写真
参考資料2の1、2の2:貝係止具用の金型の写真
参考資料3:参考資料2の1、2の2の金型で製造した、連続貝係止具の写真
参考資料4の1、2:貝係止具用の金型の写真
参考資料5:参考資料4の金型で製造した、連続貝係止具の写真
参考資料6の1、6の2:貝係止具の設計図
参考資料7:貝係止具の設計図
参考資料8:貝係止具用の金型のコマの写真
参考資料9:貝係止具用の金型のベースの写真
参考資料10:貝係止具用の金型のベースに、コマを適用した金型全体の写真
参考資料11:貝係止具性能試験の模式図
参考資料12:名刺

・平成21年8月10日付け上申書(3)添付
参考資料13:請求人の現金出納帳(表紙及び平成17年3月分)
参考資料14:平成17年3月25日付けセイチョウ工業株式会社からの領収証(平成17年2月7日に請求人に納品された「ホタテダブルピン」金型の代金)
参考資料15:請求人の現金出納帳(表紙及び平成16年5月分)

・平成21年9月16日付け上申書添付
参考資料16:平成15年7月16日付けの篠崎幸司作成の書面
参考資料17:請求人が平成15年1月9日に成形した連続貝係止具の写真
参考資料18:請求人が平成16年12月28日に成形した連続貝係止具の写真
参考資料19:請求人が平成17年3月20日に成形した連続貝係止具の写真
参考資料20:請求人が被請求人へ送付した書面
参考資料19:請求人が被請求人へ送付した書面

(検証物)
・平成21年4月16日付け手続補正書添付
検甲第1号証:録音テープ

(人証)
氏名 小坂 守
住所 宮城県大崎市古川塚目境シナガタ57の1
氏名 三浦 勉
住所 岩手県奥州市前沢区生母字荒谷17-3
株式会社M.C.Iエンジニアリング内

2.被請求人の主張
被請求人は、審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、上記無効理由に対し概略以下のように主張し、証拠方法として後記の書証及び人証を提示した。
(1)本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、本件の願書に記載されていないが、被請求人が代表取締役を務める株式会社むつ家電特機(以下、「むつ家電」という。)の従業員である坂井隆が発明したものであって、被請求人は坂井隆より特許を受ける権利を譲渡されたものである。
(2)本件特許発明と、請求人の代表者である三浦勉が本件特許出願前に開発した発明とは別の発明である。

(書証)
・答弁書添付
乙第1号証:平成21年1月30日付け坂井隆の陳述書
乙第2号証:平成21年1月30日付け坂井隆の譲渡証書
乙第3号証の1:特願2004-377514の出願書類
乙第3号証の2:特願2005-026785の出願書類
乙第3号証の3:特許第3694522号公報
乙第4号証:実公昭58-30461号公報
乙第5号証の1?9:特許公報又は公開特許公報
乙第6号証の1、2:実用新案公報
乙第7号証の1?17:意匠公報
乙第8号証の1?5:商標公報又は公開商標公報
乙第9号証の1?3:公開商標公報
乙第10号証:仙台高裁の和解調書
乙第11号証の1:平成15年1月17日付けメモ「フープピンの現状と今後について」
乙第11号証の2:平成16年3月17日付けメモ
乙第12号証の1、2:平成16年5月12日付け及び平成16年5月13日付けの篠原幸司記入の車両管理表
乙第13号証の1、2:2005年3月22日小林特許事務所受付の本件特許出願用の資料
乙第14号証:ヤマト運輸株式会社の電子化処理された伝票
乙第15号証:平成19年1月17日付けの請求人からむつ家電への請求書

・答弁書(2)添付
乙第16号証:平成21年6月18日付け坂井隆の譲渡証書
乙第17号証:平成21年6月3日付け杉山暢の宣誓供述書
乙第18号証:平成21年5月30日付け確認書
乙第19号証の1?9:乙第18号証添付の写真に示される、平成21年5月30日に発見された赤い表紙のファイルに綴じられていた書類
乙第20号証:平成21年6月18日付け坂井隆の陳述書
乙第21号証:むつ家電の建物が平成14年11月30日に新築されたことが記載された登記簿謄本
乙第22号証:むつ家電従業員竹林作成の、2004年6月18日付け書面「今後のピンへの提案」
乙第23号証:むつ家電従業員篠崎幸司作成の平成15年10月10日付けメモ「ピンについてのまとめ」、平成11年1月5日付けメモ、及び2005年1月7付けメモ
乙第24号証:帆立貝孔あけ位置の写真
乙第25号証:田中孝俊の退職届
乙第26号証の1、2 若林一作成の平成19年3月2日付け及び、平成21年3月22日付けメモ
乙第27号証:検甲第1号証録音テープの内容の抜粋

・平成21年7月7日付け上申書(2)添付
乙第28号証の1:株式会社東北総合研究社からのファクシミリ
(なお、乙第28号証と表示されているが、乙第28号証が2件提出されているため乙第28号証の1とする。)

・平成21年8月10日付け上申書(3)添付
乙第28号証の2:特許を受ける権利の譲渡についての見解書(なお、乙第28号証と表示されているが、乙第28号証の2とする。)
乙第29号証:民法II 第2版 債権各論 内田貴著 東京大学出版社2008年6月27日発行
乙第30号証:林良平著「注解 判例民法 債権法I」青林書院 昭和62年11月30日発行
乙第31号証:平成21年8月7日付け杉山弘昭の陳述書
乙第32号証:平成21年8月7日付け若林一の陳述書
乙第33号証:平成21年8月7日付け杉山秀史の陳述書
乙第34号証:商標登録第2379575号公報

(人証)
氏名 坂井 隆
住所 青森県むつ市川内町田野沢72-2
氏名 杉山 弘昭
住所 青森県むつ市新町22-7

第4 当審の判断
1.事実関係
(1-1)当事者間に争いのない事実
以下の事実については、当事者間に争いはない。
(1)本件特許出願は、平成17年4月1日になされた。
(2)本件特許出願において、発明者は杉山弘昭、杉山暢及び杉山秀史、出願人は杉山弘昭であるとされている。
(3)本件特許の請求項1ないし12に係る発明についての特許権は、平成19年3月2日に設定された。
(4)杉山弘昭は、本件特許発明の真の発明者ではない。

(1-2)事実と認定した事項
上記の争いのない事実及び真正と認められる証拠並びに当事者の全主張によれば、次の事項は、事実と認定することができる。

[本件特許出願に至る経緯について]
(5)請求人と被請求人が代表を務めるむつ家電とは平成14年頃から本件特許の出願後まで、貝係止具の製造に関して業務関係があった(三浦勉の証言、甲第11号証、甲第12号証、乙第11号証の1、2、乙第12号証の1、2、乙第15号証)。
(6)請求人代表者である三浦勉は、平成16年12月頃から、貝止め突起が幅方向に二又に分離したホタテ用貝係止具の開発を行い、突起の曲げ角度等を検討し、セイチョウ工業株式会社に、貝止め突起が幅方向に二又に分離した構造の貝係止具を成型するために、成型機に載置される金型(コマ)の製作を依頼した。
(7)セイチョウ工業株式会社は、CADにより次の図面を作成し(甲第4号証)、前記金型を製作し(小坂守の証言)、請求人に平成17年2月7日に納品し(甲第6号証)、請求人は平成17年3月25日にセイチョウ工業株式会社に代金を支払った(参考資料13、14)。
そして、甲第4号証には次の図面が記載されている。

(8)平成17年3月19日に、被請求人杉山弘昭はむつ家電の従業員と共に、請求人の会社を訪問し請求人代表者の三浦勉と合い、話し合った(杉山弘昭の証言)。この話し合いには、坂井隆は参加していなかった。
当該話し合いにおいて、三浦勉より、貝止め突起が幅方向に二又に分離したホタテ用貝係止具が提案され、合わせて、この発明について三浦勉の息子と被請求人の息子の共同出願とすることが提案された(杉山弘昭の証言)。
また、当該話し合いの際、被請求人は、貝止め突起が幅方向に二又に分離したホタテ用貝係止具の発明者がだれであるか知らなかった(杉山弘昭の証言)。
なお、平成17年3月19日に杉山弘昭に同行した従業員について、杉山弘昭の証言及び乙第31号証ないし乙第33号証では、杉山秀史と若林一の2名とされているが、請求人は、平成21年8月31日付け上申書(5)13頁において、杉山秀史は同行していない旨主張しており(平成21年8月31日付け上申書(5)13頁(2-3))当事者間に争いがあるが、坂井隆が同行していないことについては当事者間に争いはない。
(9)前記話し合いの場には、貝止め突起が幅方向に二又に分離した貝係止具の見本又は図面は提示されなかったため(杉山弘昭の証言、乙第31号証ないし乙第33号証)、被請求人は、後日、従来の貝係止具の貝止め突起を精密ニッパーでカットして見本を作成し、平成17年3月22日に前記見本を小林特許事務所に持参し特許出願を依頼した(杉山弘昭の証言、乙第13号証の1及び2)。
(10)その後、出願書類に三浦勉の息子の名前と住所を記載する必要があるため、被請求人が三浦勉に電話したところ、三浦勉が「出した」旨、話したことから、被請求人は、請求人がすでに単独で特許出願したと思い、発明者を杉山弘昭、杉山暢及び杉山秀史とし、被請求人を出願人として、平成17年4月1日に本件特許出願をした(杉山弘昭の証言、検甲第1号証、甲第13号証、乙第27号証)。
その際、出願済みの技術を含めた発明として出願した(平成21年6月24日付け上申書14頁)。
(11)請求人が実際に出願したのは、被請求人の出願後の平成17年4月4日であった。そして、請求人の出願(甲第2号証)の【図1】には次の図面が記載されている。


[むつ家電における貝係止具の開発について]
(12)むつ家電において、従業員は従来から貝係止具(ピン)の改良提案を行っており、従業員坂井隆は「グリーン、ばら色ピンに関して 貝が回転して落下する現象の対策として、現在の形状でアゲ部分(当審注:貝止め突起)を二つに割って突起のアールと長さを二種類にすれば解決できると思う。」との提案をし(乙第19号証の8)、次の図面(乙第19号証の9)を記載した書面を作成した。

また、従業員の提案を整理した「新しいピンの提案」と題する書面が作成され(乙第19号証の3)、これには次の図面が記載されている。


前記提案を記載した乙第19号証の8及び9、並びに乙第19号証の3は、赤い表紙のファイル(乙第18号証添付の写真)に綴られ、むつ家電の旧社屋の書類を保管した、工場2階に保管されていたものであり、平成21年5月30日に発見された(乙第17号証、乙第18号証)。
前記提案の正確な時期は不明であるが、乙第21号証によれば、むつ家電の新社屋が新築されたのは平成14年11月30日であること、また、同ファイルには、「H.12.4」の記載とともに「ただ今年度からグレーピンがばら色に変わる予定です。」の記載のある書面が綴られていることから(乙第19号証の6)、前記提案の時期は、平成12年4月以降、平成14年11月30日以前であると認められる。
(13)平成16年頃、むつ家電における、貝係止具から貝が脱落する不具合対策会議において、坂井隆は、貝係止具の貝止め突起(アゲ)を二又にすることを提案した(乙第1号証)。
前記提案の正確な時期は不明であるが、2004年6月18日付けの「今後のピンへの提案」(乙第22号証)に「(図2)アゲ先端を二股にし寝床部分を削る。」と記載されていることからみて、前記提案の時期は、乙第22号証が記載された平成16年6月18日以前であると認められる。
(14)むつ家電においては、前記坂井隆の提案した、貝止め突起部分を二つに割った製品は製造されなかった(坂井隆の証言)。
(15)前記事実(8)の請求人会社における話し合いの際に、被請求人は、前記事実(12)の赤いファイルに綴られた資料、及び事実(13)で坂井隆が提案した、貝係止具の貝止め突起を二叉にする技術については、全く念頭になく(杉山弘昭の証言)、本件無効審判が請求されるまで、本件特許の発明者を確認しなかった(平成21年6月24日付け上申書10頁下から3行?11頁1行)。

2.被請求人が特許を受ける権利を有しているか否かについての判断
[本件の請求項1に係る特許について]
(1)請求人代表者三浦勉の発明
請求人代表者三浦勉が、セイチョウ工業株式会社に発注し、平成17年2月7日に納品された金型を使用して製作される貝係止具は、甲第4号証に示される設計図面、参考資料8に示される金型(当審において現物を確認)からみて、次の構成を有するものと認められる。
「A ロープと貝にあけた孔に差し込み可能な細長の基材と、貝止め突起と、ロープ止め突起が樹脂で一体成型され、貝止め突起は基材の軸方向端部側からロープ止め突起側に突設され、
B 貝止め突起は、幅方向に分離された二つの分離片を備えた、
C 貝係止具。」(以下、「先行発明」という。)

(2)本件の請求項1に係る発明と先行発明に関係について
前記事実(7)ないし(10)によれば、先行発明は、平成17年3月19日に、請求人会社内において、三浦勉から提案されたものと認められる。
なお、被請求人は、乙第31号証ないし乙第33号証の陳述書を提出し、前記の話し合いの場には、貝止め突起が幅方向に二又に分離した貝係止具の見本、スケッチ又は図面は提示されなかった旨主張しているが、被請求人が、前記話し合いの直後に先行発明の構成を備えた見本を作成し、平成17年3月22日に、小林特許事務所に、本件特許発明についての出願を依頼していることからみて(事実(9))、前記の話し合いの場で、前記先行発明について、三浦勉から提案があったと認められる。
そして、本件の請求項1に係る発明と前記先行発明を対比すると、両者は構成に差異がない。
したがって、被請求人は、先行発明に基いて本件請求項1に係る発明を出願したものと認められる。

(3)本件請求項1に係る発明と、むつ家電の従業員坂井隆の発明との関係について
事実(12)によれば、坂井隆は、平成12年4月以降、平成14年11月30日以前の時期に、「現状の形状」、すなわち、乙第19号証の3に示されるような「ロープと貝にあけた孔に差し込み可能な細長の基材と、貝止め突起と、ロープ止め突起が樹脂で一体成型され、貝止め突起は基材の軸方向端部側からロープ止め突起側に突設された形状」の貝係止具を改良した、次の発明を提案したものと認められる。
「ロープと貝にあけた孔に差し込み可能な細長の基材と、貝止め突起と、ロープ止め突起が樹脂で一体成型され、貝止め突起は基材の軸方向端部側からロープ止め突起側に突設された貝係止具において、
貝止め突起は、二つに分離され、二つの分離片は、長さと曲げの程度(R)が異なっている貝係止具。」(以下、「乙19の9発明」という。)

また、事実(13)によれば、坂井隆は、平成16年6月18日以前の時期に、次の発明を提案したものと認められる。
「ロープと貝にあけた孔に差し込み可能な細長の基材と、貝止め突起と、ロープ止め突起が樹脂で一体成型され、貝止め突起は基材の軸方向端部側からロープ止め突起側に突設された貝係止具において、
貝止め突起が、二つに分離されている貝係止具。」(以下、「乙1発明」という。)

被請求人は、本件の請求項1に係る発明は、坂井隆の乙19の9発明又は乙1発明であると主張するとともに、本件における特許を受ける権利の譲渡は、むつ家電における慣行に基いて、坂井隆と被請求人個人との間において、黙示的に、特許を受ける権利の譲渡の申し込みとその承諾がなされており、意思実現による黙示的譲渡契約が適法に成立している旨、主張する(答弁書(3)3頁18行?22行)。
しかしながら、被請求人は、平成17年3月19日の話し合いの際、発明者について「社内で誰かが言っただろうという感覚しか持っていなかった」、「共同で出す(出願する)というのは、M.C.Iから提案された」、貝止め突起を二又に分離することは、「M.C.Iから話が出たような気がする」、乙第19号証の赤ファイルの資料については「そのときには頭になかった。」旨証言しており(杉山弘昭の証言、事実(8)(15)参照)、被請求人は、平成17年3月19日の話し合いの際、発明者が坂井隆であると認識していなかったことは明らかであり、また、前記話し合いの場に、坂井隆は出席しておらず、本件の請求項1に係る発明の特許出願は、坂井隆の乙19の9発明又は乙1発明を出願したものであるとすることはできない。
すなわち、事実(12)及び(13)に示す坂井隆の乙19の9発明又は乙1発明は、本件の請求項1に係る発明とは別の発明であるといわざるをえない。

(4)先行発明の発明者について
被請求人は、事実(13)に示す、坂井隆が貝止め突起を二又にする発明を提案した会議に、請求人代表者の三浦勉が同席しており、先行発明は、坂井隆の発明に基づくものである可能性がある旨、主張する。
事実(13)に示す会議に、請求人代表者の三浦勉が同席していたか否かについては、会議の日時が特定できず、また、当事者間に争いがあり、明らかではないが、請求人とむつ家電は、本件出願前から、貝係止具の製造・販売等の業務において密接な関係があり(事実(5))、三浦勉がむつ家電を訪問した等の事実もあり(三浦勉の証言)、三浦勉が坂井隆の提案について全く知らなかったと断定することもできない。
しかしながら、事実(13)に示す、平成16年6月18日前の会議おける坂井隆の乙1発明の提案は口頭で行われたものであって、貝係止具の貝止め突起を、具体的にどのように二又にするかについて説明したことを示す証拠は提示されておらず、二又の分離部が幅方向であるか厚み方向であるか不明であり、また、坂井隆の提案に基づくサンプルが製作された事実もなく、さらには、被請求人またはむつ家電の従業員が、請求人に対し、乙1発明に基づく貝係止具の製作を依頼した証拠も見いだせない。
一方、三浦勉は、平成16年12月頃から貝止め突起を幅方向に二又にした貝係止具の開発を行い、突起の曲げ角度等を検討し、そのような製品を製作する金型を発注し、実際に使用可能なものとして先行発明を完成させたものであり、三浦勉は、先行発明の発明者であるといえる。
そして、被請求人が、三浦勉から特許を受ける権利を承継していないことは明らかである。

また、先行発明の完成に坂井隆が関与していたとしても、被請求人は、出願の際、発明者が誰であるか認識していなかったのであるから、坂井隆から特許を受ける権利を承継していないことは明らかである。

この点に関し、被請求人は、むつ家電においては、従業員の発明について、被請求人個人との間において、黙示的譲渡契約が成されていたと主張し、その根拠として提示された、平成13年(ワ)第17772号の中間判決(平成14年6月27日)には、次のように判示されている。
「職務発明の権利承継等に関して明示の契約,勤務規則等が存在しない場合であっても,一定の期間継続して,職務発明について,特許を受ける権利が使用者等に帰属するものとして,使用者等を出願人として特許出願をする取扱いが繰り返され,従業者等においても,異を唱えることなくこのような取扱いを前提とした行動をしているような場合には,同条にいう「契約」に該当するものとして,従業者等との間での黙示の合意の成立を認め得るものと解される。この場合,前記のとおり特許法35条3項,4項の規定を強行規定と解する以上,黙示の合意の成立は,使用者等において前記のような取扱いが継続された期間,その間の出願件数,当該取扱いに対する従業者等の対応等の事情を総合して認定すれば足りるものである」。
そして、乙第28号証の2に添付された文献2ないし10には、出願人としてむつ家電代表者杉山弘昭の名が、発明者として坂井隆の名が記載されており、また、乙第3号証の2、乙第3号証の3にも出願人として杉山弘昭の名が、発明者として坂井隆の名が記載されており、坂井隆は、杉山弘昭が個人名で出願することに異を唱えたことはなく(坂井隆の証言)、前記判示に従えば、前記の発明者として坂井隆の名が記載された出願においては、むつ家電代表者杉山弘昭とむつ家電の従業員坂井隆との間で、特許を受ける権利がむつ家電代表者杉山弘昭に帰属するとの黙示の合意の成立していたと、推認することができる。

しかしながら、過去に、杉山弘昭とむつ家電の従業員坂井隆との間で、特許を受ける権利が杉山弘昭に帰属するとの黙示の合意の成立していたとしても、そのことは、坂井隆の発明すべてについて、杉山弘昭が、自動的に特許を受ける権利を有していることを示すものではない。
すなわち、被請求人が乙第28号の2に添付して提示した「増補 民事訴訟における要件事実 第一巻」の39頁には、「黙示の意思表示の成立、・・・を事実によって主張しようとすれば、・・・黙示の意思表示に該当する具体的事実を主張し、あわせて、その事実によって法的にどのような内容の合意が成立したかを述べるのが通例であり・・・」と記載され、乙第28号証の2の「見解書」にも「黙示の意思表示が主張される場合には、表示行為と主張される行為について、効果意思の表白と認め得るかについて、当事者の於かれていた状況を考慮しつつ、ある身体的動作が意思表示として持つ意味を探ること(解釈すること)により、判断する必要がある。」とされている(乙第28号証の2、4頁7行?11行)。
また、被請求人が提出した乙第30号証の386頁の「I契約成立要件一般」に「(1)意思表示の合致 契約が成立するためには、相対立する数個(ふつう申込と承諾という2個)の意思表示が合致することが必要である。」と記載されているように、特許を受ける権利についての譲渡契約が成立するためには権利譲渡の申し込みと承諾があることが必要である。
そして、本件特許に係る具体的な事実によれば、本件特許出願の際、発明者として「坂井隆」の名は記載されておらず、被請求人は、本件の出願時に、本件特許に係る発明の発明者が坂井隆であると認識していなかったと認められる(事実(2)(8))。
この点に関し、被請求人は答弁書において、被請求人が特許事務所に本件特許の発明者名を間違えて連絡したため、本件特許出願の発明者から坂井隆の記載が脱落した旨、主張しているが(答弁書6頁【二】)、被請求人は、無効審判が請求されるまで、発明者が誰であるか確認しておらず(事実(15))、被請求人は、発明者が坂井隆であると認識していながら出願の際間違えたのではなく、坂井隆が発明者であることを認識していなかったことは明らかである。
そうすると、本件特許の出願の際、被請求人(出願人)杉山弘昭が、発明者として認識していなかった坂井隆に対し、黙示的であれ、明示的であれ、譲渡の申込みをすることは不可能であり、特許を受ける権利の譲渡に関して黙示的な合意が成立していたと解する余地はないから、仮に坂井隆が発明者の一人であるとしても、杉山弘昭が、坂井隆から特許を受ける権利を承継していたとすることはできない。

(5)特許を受ける権利について
特許法第29条柱書きには「産業上利用することができる発明をした者は、・・・その発明について特許を受けることができる。」とされ、産業上利用することができる発明の発明の発明者は、特許を受けることができることが規定されている。
また、同法第33条第1項には、「特許を受ける権利は、移転することができる。」とされ、発明者から特許を受ける権利を承継したものは、特許を受けることができることが規定されている。

本件特許の請求項1に係る発明について検討すると、被請求人が、当該発明の発明者でないことは当事者間に争いがない(事実(4))。
そして、被請求人は、本件特許の請求項1に係る発明の発明者が誰であるか知らずに本件特許を出願したもの、すなわち、発明者が、被請求人代表を務めるむつ家電の従業員であるか、請求人の代表者又は従業員であるかを確認することなく本件特許出願をしたものであり、さらに、無効審判が請求されるまで、発明者が誰であるか確認しなかったことは明らかであり(事実(15))、その事実からみても、真の発明者が誰であるかに拘わらず、被請求人が、真の発明者から特許を受ける権利を承継することなく、出願したことは明らかである。

(6)まとめ
したがって、被請求人は、本件特許の請求項1に係る発明の発明者ではなく、特許を受ける権利を承継したものでもないから、本件の請求項1に係る特許は、発明者でないものであって、発明者から特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものである。

[請求項2ないし12に係る特許について]
請求項2ないし12に係る発明は、いずれも請求項1に係る発明を引用し、さらに限定を付加した発明であり、請求項1に係る特許が、発明者でないものであって、発明者から特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものである以上、請求項2ないし12に係る特許も、発明者でないものであって、発明者から特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし12に係る特許は、特許法第123条第1項第6号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、いずれも、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-17 
結審通知日 2009-10-01 
審決日 2009-10-16 
出願番号 特願2005-106938(P2005-106938)
審決分類 P 1 113・ 152- Z (A01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大塚 裕一  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 関根 裕
神 悦彦
登録日 2007-03-02 
登録番号 特許第3924302号(P3924302)
発明の名称 貝係止具と、集合貝係止具と、連続貝係止具と、ロール状連続貝係止具  
代理人 小林 正英  
代理人 小林 正治  
代理人 甲斐 哲平  
代理人 柿澤 紀世雄  
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