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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B09B
管理番号 1238053
審判番号 不服2007-25156  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-13 
確定日 2011-06-09 
事件の表示 特願2004-232517号「汚染土壌の浄化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年2月16日出願公開、特開2006-43659号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.経緯
本願は、平成16年8月9日の出願であって、平成19年8月8日付けで拒絶査定したことに対して、同年9月13日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成22年11月18日付けで当審における拒絶理由を通知し、これに対して、平成23年1月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

II.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年1月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
「半水石こうを重量比で60%以上含有し、pH値が6より大、11より小である中性系固化材と、粒径1μm以下の酸化鉄と、遅延剤と、水とを混合して注入材を作製する注入材作製工程と、
前記注入材作製工程において作製された注入材を撹拌軸の先端に撹拌翼を有した撹拌混合機により揮発性有機化合物を含有する地盤内に注入しつつ撹拌混合する撹拌混合工程と、を含む汚染土壌の浄化方法であって、
前記注入材の水固化材比が0.6?1.4であり、
当該注入材を土1m^(3)当り50L?200Lの範囲内で注入することにより、
硬化後の地盤の一軸圧縮強度が、深度の浅い液状化の危険性がある位置においては液状化抵抗ができる強度であって、かつ、深度の深い液状化の危険性がない位置においては土被り圧よりも小さい強度となるように改良することを特徴とする汚染土壌の浄化方法。」

III.当審における拒絶理由
当審における平成22年11月18日付けの拒絶理由で示した特許法第36条違反についての内容は以下のとおりである。
「3.特許法第36条(記載要件)違反について
本願明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載は、以下の点で不備があるために、特許法第36条第6項第2号、同条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1には、「注入材が、注入後の地盤の一軸圧縮度が深度20m以深において土被り圧よりも小さくなるように調整された水固化材比と注入量により注入され」という発明特定事項が記載されているが、次の理由により、この記載が明確でないため本願発明1は明確でなく、本願明細書の発明の詳細な説明中にこの発明特定事項について十分な記載がないため本願発明1は発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、また、発明の詳細な説明には当業者が実施できる程度に本願発明1が記載されていない。
(a)「注入後の地盤の一軸圧縮強度が深度20m以深において土被り圧よりも小さくなる」(特定事項a)について
本願明細書には次の記載がある。
ア 「中性系固化材により土壌に付与される強度は、硬化後の一軸圧縮強度quが100kN/m^(2)とし、浅層部における液状化を抑止する強度を有するものとする。」(段落【0026】)
イ 「石こう系固化材の水和反応により地盤に強度(粘着力C)が付与される。また、深層部においては、粘着力Cに加えて、土被り圧により土壌の間隙が圧縮されて、内部摩擦角φが復元し、地盤の強度(せん断抵抗τ)が復元される(式1参照)。」(段落【0032】)
ウ 「当該注入材により硬化処理がなされた土壌は、浅層部において一軸圧縮強度quが100kN/m^(2)程度有しているため、液状化に対して十分な強度を有している。また、土被り圧が100kN/m^(2)を超える深層部に関しては、土被り圧により圧縮されて、間隙比が小さくなることにより内部摩擦角が大きくなり、強度が回復される。」(段落【0038】)
エ 「前記実施の形態では、注入材により付与する浅層部の一軸圧縮強度を100kN/m^(2)に設定するものとしたが、これに限定されるものではなく、原地盤の状況に応じて、適宜設定すればよい。」(段落【0045】)
オ 「図8(b)に示すように、セメント改良土は、σC’/quが1を超えるまでは、τ/quに変化がなく、一軸圧縮強度(つまり粘着力C)により強度を維持している。」(段落【0057】)
これらの記載によれば、特定事項aの「注入後の地盤の一軸圧縮強度」は、固化材の硬化後の一軸圧縮強度であり、粘着力Cに相当するものであって、100kN/m^(2)に設定する例示があるものの原地盤の状況に応じて適宜設定されるものである、とみることができる。そうすると、「注入後」が必ずしも「硬化後」とはいえないとしても、一応上記のとおり解釈できる。
しかしながら、この「注入後の地盤の一軸圧縮強度」が上記したとおり任意の設定値であって、これに何ら特定がない以上、浅層部において液状化に対して十分な強度を有しているものか否か不明であり、例えば、深度10m深で一軸圧縮強度が土被り圧より低い場合でも「注入後の地盤の一軸圧縮強度が深度20m以深において土被り圧よりも小さくなる」との条件は満たされることを勘案すると、特定事項aの技術的意義が不明である。
そして、当該「注入後の地盤の一軸圧縮強度」が予め設定されるとするのであれば、これがどのように算定され設定されるのかも明らかであるとはいえない。
また、上記技術的意義に関連して、「深度20m以深」とあるが、これが深度が浅い位置と深い位置の境であるようにみれなくもないが、何故、その境が「20m」であるのか不明であり、上記一軸圧縮強度が水固化材比で異なる(【図7】(b)参照)にも拘わらず、深度20mを根拠にした理由も不明といわざるを得ない。
以上のことから、「注入後の地盤の一軸圧縮強度が深度20m以深において土被り圧よりも小さくなる」という特定事項aが明確であるとはいえない。

(b)「・・・ように調整された水固化材比と注入量により注入」(特定事項b)について
特定事項bにおいて、「・・・のように調整され」る対象が「水固化材比」であるのか、「水固化材比」と「注入量」の双方であるのか判然としない。
仮に、この調整対象が「水固化材比」であるとすれば、「注入量」はどのように決められるのか不明である。この「注入量」については、本願明細書の段落【0051】に「一方、石こう系固化材による注入材は、図7(b)に示すように、注入量を増加させても、一軸圧縮強度quの増加は小さく、むしろ水固化材比W/Pの影響が大きい結果となった。つまり、セメント系固化材に比べて石こう系固化材は、注入量依存性が小さい結果が得られた。」、段落【0053】に表1に示すように、石こう系固化材は、注入量を多くすると、地盤の湿潤密度が小さくなる。セメント改良土において、ダイレーションが期待できる湿潤密度は1.6以上であるため、これを採用すると、注入量が1m^(3)当り300Lを超えるとダイレーションが期待できない。つまり、注入材の注入量を増やすと、土壌の間隙が大きくなるため、内部摩擦角による抵抗力が弱まるためダイレーションが期待できない。この結果、注入材の注入量は、土1m^(3)に対して200L以下が好ましい。」と記載されている。これらの記載から、注入量を増加しても、一軸圧縮強度quの増加は小さいが、ダイレーションが期待できる湿潤密度から200L以下が好ましいものといえるが、【表1】をみてもダイレーションが期待できる湿潤密度は1.6以上は注入前の湿潤密度によって変動するものであるから、どのように注入量を設定するのか不明といわざるを得ない。
また、調整対象となる「水固化材比」については、注入後の地盤の一軸圧縮強度が深度20m以深において土被り圧よりも小さくなるように調整されるものであるが、これが如何にして調整されるのか、上記(a)で述べたとおり、「注入後の地盤の一軸圧縮強度」が任意のもので、どのように設定されるのか明らかでないことから、この調整も不明である。
そして、水固化材比は、地中の水分によっても変動することを勘案すると、これがどのように調整されるのか、その調整手段も不明である。
さらに、この「水固化材比」は後段で「水固化材比が、0.6?1.4である」ことが特定されているが、この調整される「水固化材比」と上記特定される「水固化材比」は後者が、段落【0033】の「本実施の形態に係る汚染土壌の浄化方法は、注入材の水固化材比W/Pを、0.6?1.4、好ましくは0.6?1.0とすることで、注入材の材料分離を抑制して、汚染土壌に均等に酸化鉄が分散される事を可能としている。」ことを技術的意義に基づいて決められているものであるから、明らかに双方の技術的意義は異なるものである。そうすると、これらの相互の関連が不明である。
以上のことから、「注入材が、注入後の地盤の一軸圧縮強度が深度20m以深において土被り圧よりも小さくなるように調整された水固化材比と注入量」も明確性の欠けるものである。

(2)上記(1)で述べたとおり、請求項1には、「注入材が、注入後の地盤の一軸圧縮強度が深度20m以深において土被り圧よりも小さくなるように調整された水固化材比と注入量により注入され」という発明特定事項について、「注入後の地盤の一軸圧縮強度」がどのように設定されるのか不明であり、「水固化材比」もどのように調整されるのか、不明であることから、如何なる「注入後の地盤の一軸圧縮強度」、あるいは「土壌の状況」であっても、注入後の地盤の一軸圧縮強度が深度20m以深において土被り圧よりも小さくなるように調整された水固化材比と注入量が決定できること、また、そのように水固化比と注入量を決定することにより、少ない注入材の添加により、土壌が含有する汚染物質の浄化と浄化に伴う地盤の強度回復とを同時に行うという本願発明の課題を解決できると当業者が認識できる程度に発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
また、酸化鉄の粒径も段落【0015】をみれば、粒径の大きさが圧縮性に影響を与えると推測されるところ、配合量にもよると考えられるが、どのような粒径の酸化鉄でもダイレーションが確保できるかも判然としない。
そして、発明の詳細な説明をみても、汚染土壌の浄化方法の実証実験がどのような条件で行われたのか明らかでなく、水固化材、注入量など単独での実験結果が記載されているが、具体的に、地盤の一軸圧縮強度が深度20m以深において土被り圧よりも小さくなるように、注入材が水固化材比と注入量とによってどのように調整されているのか、当業者が実施できる程度に記載されているといえない。」

IV.当審の判断
本願発明において、「半水石こうを重量比で60%以上含有し、pH値が6より大、11より小である中性系固化材と、粒径1μm以下の酸化鉄と、遅延剤と、水とを混合して注入材を作製する」と共に「注入材の水固化材比が0.6?1.4であり、当該注入材を土1m^(3)当り50L?200Lの範囲内で注入する」ことは、「硬化後の地盤の一軸圧縮強度が、深度の浅い液状化の危険性がある位置においては液状化抵抗ができる強度であって、かつ、深度の深い液状化の危険性がない位置においては土被り圧よりも小さい強度となるように改良する」ために行われるものであるということができる。
ここで、「硬化後の地盤の一軸圧縮強度が、深度の浅い液状化の危険性がある位置においては液状化抵抗ができる強度であって、かつ、深度の深い液状化の危険性がない位置においては土被り圧よりも小さい強度となるように改良する」ために、特に、半水石こうを重量比で60%以上含有する注入材の注入量を「土1m^(3)当り50L?200L」とし、水固化材比W/Pを「0.6?1.4」とすることの技術的根拠が発明の詳細な説明および図面に記載もしくは示唆されているかについて、以下検討する。

まず、半水石こうを重量比で60%以上含有する注入材の「水固化材比W/P」と「注入量」と「硬化後の地盤の一軸圧縮強度」の関係について検討する。
発明の詳細な説明および図面には、
「【0051】
一方、石こう系固化材による注入材は、図7(b)に示すように、注入量を増加させても、一軸圧縮強度quの増加は小さく、むしろ水固化材比W/Pの影響が大きい結果となった。つまり、セメント系固化材に比べて石こう系固化材は、注入量依存性が小さい結果が得られた。
【0052】
したがって、本発明の注入材の注入量は、施工が可能な最小限の注入量でよく、強度の調節は、水固化材比W/Pで行うものとすればよい。・・・」との記載および【図7】があり、
これらからして、一軸圧縮強さに関して、石こう系固化材の注入量依存性は、セメント系固化材に比べて小さく、一軸圧縮強さの調節は、水固化材比W/Pで行うものとすればよいことが示されている。
しかしながら、【図7】の図示内容を勘案すると、一軸圧縮強さに関して、石こう系固化材の注入量依存性がセメント系固化材に比べて小さいとしても、石こう系固化材の水固化材比W/Pが0.8、1.0、1.2のいずれも、大略、注入量が大きくなると一軸圧縮強さも大きくなっており、また、注入量が同じでも石こう系固化材の水固化材比W/Pが0.8、1.0、1.2と大きくなると一軸圧縮強さが小さくなっていることから、石こう系固化材を注入したときの「硬化後の地盤の一軸圧縮強さ」は、「注入量」と「水固化材比W/P」の両方に依存しているということができる。

次に、石こう系固化材を注入したときの「硬化後の地盤の一軸圧縮強さ」が「注入量」と「水固化材比W/P」の両方に依存することを前提にして、「硬化後の地盤の一軸圧縮強度が、深度の浅い液状化の危険性がある位置においては液状化抵抗ができる強度であって、かつ、深度の深い液状化の危険性がない位置においては土被り圧よりも小さい強度となるように改良する」ために、注入量を「土1m^(3)当り50L?200L」とし、水固化材比W/Pを「0.6?1.4」とすることについて検討する。
発明の詳細な説明および図面には、
「【0016】
ここで、圧縮性とは、土被り圧により土壌が圧縮される性質をいう。本発明では、深層部に関しては、固化材により付与されるセメンテーションを土被り圧以下として、土被り圧による圧縮を許容することで、セメント系固化材のように、粘着力Cのみで強度を付与するのではなく、圧縮して間隙比を小さくすることで、下式(式1)のように、粘着力Cと内部摩擦角により地盤の強度(せん断抵抗τ)の回復を図るものである。
τ=C+σC’tanφ・・・(式1)
また、土被り圧σC’は、上載される土の重量による圧力であって、土の単位重量γtに深度hを乗じたものである(式2参照)。
σC’=γt×h・・・(式2)
・・省略・・
【0047】
(1)水固化材比W/Pと材料分離
セメント系固化材を使用する場合、水セメント比W/C=1で施工を行えば、材料分離がないとされている。図5(a)に示すように、水セメント比W/C=1の場合、Pロート値が8.7(sec)となる。このPロート値を石こう系固化材に採用すると、図5(b)に示すように、水固化材比W/P=1.4となる。このため、水固化材比W/Pを1.4以下とすれば、材料分離の防止が可能であることがいえる。
【0048】
また、参考として、当該注入材を静置状態で硬化させた後、その酸化鉄の密度差を比較した結果を図6に示す。ここで、図6中のaは、供試体の上部における湿潤密度の傾向を示しており、bは、供試体の下部における湿潤密度の傾向を示している。この結果から、機械により撹拌された注入材を硬化する前に地盤に添加して混合撹拌する実際の施工と条件が多少異なるが、水固化材比W/P=1.0を超えると、酸化鉄の沈下量が多くなる結果が得られた。したがって、水固化材比W/Pは、0.6?1.4の範囲内とし、好ましくは、0.6?1.0とする。なお、最小の水固化材比W/Pは、施工機械で注入可能な粘性であればよく、ここでは、通常のセメントを用いた場合に施工が可能な水セメント比W/Cである0.6を適用している。
【0049】
(2)固化強度の注入量依存
次に、注入材の注入量による地盤強度の増加(注入量依存性)の有無について実験を行った結果を示す。ここで、図7(a)は従来のセメント系固化材を用いた場合の注入量依存性を示す参考図であり、図7(b)は本発明の石こう系固化材を用いた場合の注入量依存性を示す実証実験結果である。なお、本実証実験では、注入材として、石こう系固化材と水と遅延剤の混合体を使用するものとし、水固化材比W/P=1.2,1.0,0.8について行った。
【0050】
セメント系固化材を用いて、粘着力Cを増加させる固化処理の場合、固化強度は注入量依存性を利用して、所定の強度を確保する方法を採用する。すなわち、図7(a)の参考図に示すように、注入量を増加することにより、粘着力Cが増加されて、一軸圧縮強度quが増加するため、注入量を調節することで、改良土に所定の強度を付与することが可能となる。
【0051】
一方、石こう系固化材による注入材は、図7(b)に示すように、注入量を増加させても、一軸圧縮強度quの増加は小さく、むしろ水固化材比W/Pの影響が大きい結果となった。つまり、セメント系固化材に比べて石こう系固化材は、注入量依存性が小さい結果が得られた。
【0052】
したがって、本発明の注入材の注入量は、施工が可能な最小限の注入量でよく、強度の調節は、水固化材比W/Pで行うものとすればよい。ここで、注入材により付与される強度は、砂地盤にせん断時の正のダイレタンシーを阻害しない程度のセメンテーションを付与するものとし、液状化を防止する程度の強度、すなわち一軸圧縮強度quが概ね100kN/m^(2)とすればよい。
【0053】
(3)注入量増加の不具合(せん断挙動)について 表1は、注入材の注入による地盤の湿潤密度について実験を行った結果である。
表1に示すように、石こう系固化材は、注入量を多くすると、地盤の湿潤密度が小さくなる。セメント改良土において、ダイレーションが期待できる湿潤密度は1.6以上であるため、これを採用すると、注入量が1m^(3)当り300Lを超えるとダイレーションが期待できない。つまり、注入材の注入量を増やすと、土壌の間隙が大きくなるため、内部摩擦角による抵抗力が弱まるためダイレーションが期待できない。この結果、注入材の注入量は、土1m^(3)に対して200L以下が好ましい。
・・省略・・
【0055】
(4)注入材による強度回復について
図8(a)では、横軸に土被り圧と改良土の一軸圧縮強度の比σC’/qu、縦軸に体積ひずみ△V/V0として、セメント系固化材及び石こう系固化材による改良土の圧縮性を示している。また、図8(b)は、横軸に土被り圧と改良土の一軸圧縮強度の比σC’/qu、縦軸にせん断抵抗と一軸圧縮強度の比τ/quとして、その関係を示している。図8(a)及び(b)において、実線はセメント系固化材により改良された改良土(以下「セメント改良土」という場合がある)、点線は石こう系固化材により改良された改良土(以下「石こう改良土」という場合がある)の傾向を示している。
【0056】
図8(a)に示すように、セメント改良土、石こう改良土ともにσC’/quが1を超えた付近で圧縮性が発現する。つまり、土被り圧σC’が、改良土の一軸圧縮強度quを超えると、改良土が圧縮性を有することが示されている。
【0057】
また、図8(b)に示すように、セメント改良土は、σC’/quが1を超えるまでは、τ/quに変化がなく、一軸圧縮強度(つまり粘着力C)により強度を維持している。そして、σC’/quが1を超えると、改良土が圧縮されて、内部摩擦角φによりせん断抵抗が大きくなる。つまり、土被り圧σC’が一軸圧縮強度quを超えると、粘着力Cにより固化されていたC材が破壊されて、φ材に移行する傾向を示している。
一方、石こう改良土は、土被り圧がσC’付与された初期の段階から、改良土が圧縮してせん断抵抗τが大きくなる傾向を示している。これは、石こう改良土は、付与する粘着力Cがセメント改良土に比べて小さい反面、土粒子の間隙の圧縮を許容しているため、初期の段階から内部摩擦角φを回復させて、粘着力Cと内部摩擦角φにより強度(せん断抵抗τ)を回復させる傾向を示している。
【0058】
また、表2に、石こう改良土による三軸圧縮試験結果の一例を示す。
本実証実験では、注入材の注入直後に湿潤密度γtが1.8Mg/m^(3)であった供試体に対して、5%圧縮して湿潤密度γtを1.89Mg/m^(3)とした場合の、内部摩擦角φを算出した。その結果、表2に示すように、圧縮前の内部摩擦角φが36°であったのに対し、圧縮後は42°まで増加した。つまり、注入材が注入された土壌に土被り圧が付与されることにより、土壌の間隙が圧縮されて、その内部摩擦角φが復元されることが示されている。これにより、tanφが大きくなるため、強度(せん断抵抗τ)が回復されて、周辺地盤と同等な強度を有する地盤が形成されることが実証された。」等の記載および【図1】?【図8】があり、
これらからして、発明の詳細な説明および図面には、注入量を「土1m^(3)当り50L?200L」とし、水固化材比W/Pを「0.6?1.4」とすることの技術的根拠が注入量と水固化材比W/Pのそれぞれで示されている。
しかしながら、発明の詳細な説明および図面には、例えば、注入量を「50L」「200L」としたときに水固化材比W/Pがどれくらいになるか、また、水固化材比W/Pを「0.6」「1.4」としたときに注入量がどれくらいになるか、つまり、注入量と水固化材比W/Pの両方の観点から上限・下限の値を具体的に特定する事例が示されておらず、
さらに、どのような地盤状況であっても、注入量を「土1m^(3)当り50L?200L」とし、水固化材比W/Pを「0.6?1.4」とすることにより、「硬化後の地盤の一軸圧縮強度が、深度の浅い液状化の危険性がある位置においては液状化抵抗ができる強度であって、かつ、深度の深い液状化の危険性がない位置においては土被り圧よりも小さい強度となるように改良する」ことが達成されることを立証する事例(例えば、いくつかの異なる地盤状況を設定し、各地盤状況における注入量と水固化材比W/Pがどれくらいの値になるかを明らかにする等)が示されていない。
したがって、「硬化後の地盤の一軸圧縮強度が、深度の浅い液状化の危険性がある位置においては液状化抵抗ができる強度であって、かつ、深度の深い液状化の危険性がない位置においては土被り圧よりも小さい強度となるように改良する」ために、つまり、本願発明の解決すべき課題を解決するために、石こう系固化材を注入したときの「硬化後の地盤の一軸圧縮強さ」が「注入量」と「水固化材比W/P」の両方に依存することを前提にして、注入量を「土1m^(3)当り50L?200L」とし、水固化材比W/Pを「0.6?1.4」とすることの技術的根拠が、当業者が認識できる程度に発明の詳細な説明および図面に記載もしくは示唆されているとは認められない。

よって、本願発明は、発明の詳細な説明および図面に記載されたものであるとはいえない。

V.結論
以上のとおり、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないので、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、同法第49条第4号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-24 
結審通知日 2011-03-29 
審決日 2011-04-21 
出願番号 特願2004-232517(P2004-232517)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小川 慶子
豊永 茂弘
発明の名称 汚染土壌の浄化方法  
代理人 磯野 道造  
代理人 磯野 道造  

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