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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) F16L
管理番号 1238186
判定請求番号 判定2010-600072  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2011-07-29 
種別 判定 
判定請求日 2010-12-28 
確定日 2011-06-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3768329号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びイ号写真並びにその説明書に示す「サドル付分水栓 BNS-D(50)」は、特許第3768329号発明の技術的範囲に属する。 
理由 I.請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号図面及びイ号写真(甲第8号証?甲第14号証)並びにその説明書で示すイ号物件(「サドル付分水栓 BNS-D(50)」)は、特許第3768329号発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

II.本件特許発明
本件特許発明は、特許第3768329号の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって、その請求項1に記載された発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】サドルとバンドから成るサドル本体を水道本管に固定し、前記サドルの上部端面に支受面を形成し、一方、分水栓本体の内部に三方口を有するボールをステムを介して回動自在に設け、前記分水栓本体に環状保持体を螺着し、この環状保持体と分水栓本体の内部に一対のボールシートを介在させて止水機構を構成し、前記環状保持体の下面と前記水道本管との間にガスケットを装着すると共に、前記分水栓本体の下部にフランジ部を形成し、前記支受面上に塗膜又は樹脂を介して前記フランジ部を重ねて支受面とフランジ部とを同一間隔に配置した4個のボルトで固定して、電気的腐食を防止すると共に、分水栓本体と支受面との結合方向を選択できるようにしたことを特徴とするサドル付分水栓。」

本件特許発明について各構成要件ごとに分説すると次のとおりである。(以下「構成要件(A)」などという。)

本件特許発明
(A)サドルとバンドから成るサドル本体を水道本管に固定し、前記サドルの上部端面に支受面を形成し、
(B)一方、分水栓本体の内部に三方口を有するボールをステムを介して回動自在に設け、
(C)前記分水栓本体に環状保持体を螺着し、
(D)この環状保持体と分水栓本体の内部に一対のボールシートを介在させて止水機構を構成し、
(E)前記環状保持体の下面と前記水道本管との間にガスケットを装着すると共に、
(F)前記分水栓本体の下部にフランジ部を形成し、前記支受面上に塗膜又は樹脂を介して前記フランジ部を重ねて
(G)支受面とフランジ部とを同一間隔に配置した4個のボルトで固定して、
(H)電気的腐食を防止すると共に、分水栓本体と支受面との結合方向を選択できるようにしたことを特徴とする
(I)サドル付分水栓。

III.イ号物件
1.イ号図面及びイ号物件の説明書
判定請求人は、ステンレス製品シリーズのサドル付分水栓のカタログ(甲第1号証)中の「ステンレス製サドル付分水栓 BNS-D(50):鋳鉄管用」に示されている図面を用いて、イ号図面第1図、第2図を作成するとともに、イ号物件の説明書を作成し、これらを判定請求書に添付している。

2.イ号写真について
判定請求弁駁書には、イ号写真が添付されており、甲第8号証は、イ号物件の実物本体を斜めから写した全体概要の写真を示し、甲第9号証は、イ号物件の分水栓本体を分離した写真とイ号物件の支受面から樹脂板を外して示した写真、甲第10号証は、イ号物件の樹脂板を示した写真、甲第11号証は、ボールシートとOリングを装着した螺着部位を有するイ号物件の環状保持体を各方向から見た写真、甲第12号証は、イ号物件の上面写真と、イ号物件の分水栓本体を90°振りした固定前とボルトで固定した後の上面写真をそれぞれ示し、甲第13号証は、イ号物件のガスケットを外した写真とガスケットを装着した写真をそれぞれ示し、甲第14号証は、分水栓本体の雌ねじ部位である螺着部分と環状保持体の雄ねじ部位である螺着部分を示した写真である。

3.イ号図面、イ号写真から特定されるイ号物件
イ号図面、イ号写真により示されるイ号物件は、各構成ごとに符号を付し分説して記載すると次のとおりである。(以下、「構成(a)」などという。)

本件特許発明の構成要件に照らして認定できるイ号物件
(a)サドル12aとバンド12bから成るサドル本体12を水道本管11に固定し、前記サドル12aの上部端面に支受面12dを形成し、
(b)分水栓本体13の内部に三方口20aを有するボール20をステム21を介して回動自在に設け、
(c)前記分水栓本体13に環状保持体25を螺着し、
(d)この環状保持体25と分水栓本体13の内部に一対のボールシート22a,22bを介在させて止水機構19を構成し、
(e)前記環状保持体25の下面と前記水道本管11との間にガスケット30を装着すると共に、
(f)前記分水栓本体13の下部にフランジ部14を形成し、前記支受面12d上に樹脂板40を介して前記フランジ部14を重ねて
(g)支受面12dとフランジ部14とを同一間隔に配置した4個のボルト15で固定して、
(h)電気的腐食を防止すると共に、分水栓本体13と支受面12dとの結合方向を選択できるようにしたことを特徴とする
(i)サドル付分水栓。

IV.本件特許発明及びイ号物件についての当事者の主張
本件特許発明が特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであって、その構成が、上記II.のとおりであることについて、請求人及び被請求人の間に争いはない。
また、イ号物件が被請求人である株式会社タブチが実施している「サドル付分水栓」であって、その構成は甲第1号証のカタログ「ステンレス製品シリーズ」の「ステンレス製サドル付分水栓 BNS-D(50):鋳鉄管用」で示されるものであって、それを補足的に示すのがイ号図面第1図、第2図及びイ号写真(甲第8号証?甲第14号証)であることについて、被請求人は、判定の対象とする物件が何であるかについてはまだ特定されていないと主張してはいるものの、判定の対象が上記「BNS-D(50)」に係るものであることを前提として、判定請求答弁書(2)にて反論しているので、判定の対象とする物件を「サドル付分水栓 BNS-D(50)」と認定する。
そして、イ号物件が本件特許発明の構成要件E及び構成要件Fを除くほかすべての構成を充足していることについて、請求人及び被請求人の間に争いはない。
本件特許発明の構成要件E及び構成要件Fと、イ号物件の構成についての、請求人及び被請求人の主張は、以下のとおりである。

1.請求人の主張
(1)構成要件Eについて
本件特許発明の構成要件Eにおける「ガスケットを装着」の意義とは、ガスケット本来の機能である封止を実現する状態で、環状保持体の下面と水道本管との間に配置されていることをいい、本件特許発明における「ガスケットを装着」とは、それで十分であって、当該封止が厳密に環状保持体の下面と水道本管との間のみで実現することまで本件特許発明は要求していない。
したがって、イ号物件は、甲第13号証に示すように、少なくとも、ガスケット本来の機能である封止を実現する状態で、環状保持体の下面と水道本管との間に配置されていることが認められるから、イ号物件は、構成要件Eにいう「ガスケットを装着」に該当するので、イ号物件は本件特許発明の構成要件Eを充足していることは明らかである。
被請求人が、「イ号物件の実施品は甲6特許発明の技術的思想を忠実に反映させた構成である。」と主張しているように、甲第6号証の特許請求の範囲中には、「(環状締付部材の)鍔部10a及び開口6aの下端縁が上記収容孔1cのサドルパッキン2に当接するようにした」と記載されており、しかも、甲第6号証の図1にも、環状締付部材の下面にガスケットが装着されている状態が開示されていることを考慮しても、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Eを充足することは明らかである。(判定請求弁駁書第3頁下から3行?第4頁第14行参照。)

(2)構成要件Fについて
本件特許発明における構成要件Fの「樹脂」とは、支受面とフランジ部との間に介在させ、支受面とフランジ部との間を絶縁するためのものをいい、ここにいう「樹脂」とは、絶縁性の膜、絶縁性の層、絶縁性のシート、絶縁性の薄い板を包含する上位概念を意味するものと解釈すべきである(甲第2号証の明細書の段落番号0017,0019参照)。
一方、イ号物件は、甲第9号証と甲第10号証に示すように、樹脂板を支受面とフランジ部との間に介在させることにより、支受面とフランジ部との間を絶縁していることは明らかである(甲第1号証2頁の特長の欄参照)。また、甲第9号証と甲第10号証で示したイ号物件における樹脂板の厚みは、約1.5mm程度のシート状或は薄い板状を呈しており、この樹脂板を支受面とフランジ部との間に介在させて支受面とフランジ部との間を絶縁する機能を発揮させているものと認められる。
したがって、本件特許発明における「樹脂」は、イ号物件における「樹脂板」を包含するものであるから、イ号物件は、本件特許発明における構成要件Fを充足することは明らかである。(判定請求弁駁書第3頁第8行?第22行参照。)

2.被請求人の主張
(1)構成要件Eについて
請求人は、「本件特許発明における『ガスケットを装着』とは、それで十分であって、当該封止が厳密に環状保持体の下面と水道本管との間のみで実現することまで本件特許発明は要求していない。」と主張する(弁駁書3頁最下行?4頁2行)。
しかしながら、それでは本件特許発明ではどの構成によって水道水が漏れないようにシールしているのか。「当該封止が厳密に環状保持体の下面と水道本管との間のみで実現する」ものではないのであれば、本件特許発明に係るサドル分水栓は漏水を前提とした技術ということになる。仮にシールを実現するためにその他の構成が必要であるならば、本件特許発明の「サドル分水栓」はシール性を発揮し得ない未完成発明に該当するのではないか。という種々の疑問が生じることになる。請求人は「厳密に」という主張をしているが、本来、この種のバルブにおけるシールは厳密であるはずである。
このように、請求人の主張は本件特許発明の技術的範囲を不必要に拡張するためのものであって、不合理であることは明らかである。サドル分水栓で必要不可欠な要件である「シール」は、本件特許発明では環状保体の下面と水道本管との間をガスケットでシールすることによって実現することは明らかであり、これを否定する合理的根拠は存在しない。
一方、被請求人が答弁書にて主張したように、イ号物件ではガスケットに相当するサドルパッキンは、分水栓本体の最下部円周端と水道本管の間で挟むことによってシール機能を発揮するものであり、先に主張したように、イ号物件は構成要件Eを備えていない。
なお、請求人が提出した甲11の「環状保持体の写真」でさらに明らかにされているが、イ号物件の環状締付部材の下面には締付用のジグを嵌入するための4つの円弧状の溝が設けられている。当業者であれば、この面をシール面として利用することができないことは容易に理解できるはずである。(判定請求答弁書(2)第2頁最下行?第3頁第26行参照。)

(2)構成要件Fについて
請求人は、イ号物件は「樹脂板」を包含するものであるから、イ号物件は、本件特許発明における構成要件Fを充足するとしている。
しかしながら、請求人の主張は、「ここにいう『樹脂』とは、絶縁性の膜、絶縁性の層、絶縁性のシート、絶縁性の薄い板を包含する上位概念を意味するものと解釈すべきである。」である(弁駁書3頁9?11行)。そうすると、構成要件Fでは、「塗膜又は樹脂を介して」と記載されているのであるから、「塗膜」と「樹脂」が選択的な関係であることと請求人の主張とは矛盾している。即ち、「樹脂」に「絶縁性の膜」を含むのであれば、「塗膜」と重複することになり、請求範囲の記載事項として矛盾が生じている。
何れにしても、構成要件Fでは「塗膜又は樹脂を介して」と記載されており、「塗膜」と「樹脂」は択一関係にある。
一方、イ号物件ではサドルのフランジには周知技術であるエポキシ樹脂粉体塗装が施されて絶縁を保持し、さらに絶縁性を高めるために樹脂製の樹脂板をフランジ面に配置しているので、「塗膜及び樹脂を介して」という構成である。
この意味において、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Fとは異なる構成である。(判定請求答弁書(2)第2頁第8行?第25行参照。)

V.対比・判断
1.争いのない点について
本件特許発明とイ号物件を対比すると、イ号物件の構成bは構成aに対しては「一方」といえるので、イ号物件の構成bは本件特許発明の構成要件Bを充足し、イ号物件の各構成a、構成c、構成d、及び構成gないし構成iは、本件特許発明の各構成要件A、構成要件C、構成要件D、及び構成要件Gないし構成要件Iと文言上差異はなく明らかに各構成要件を充足している。

2.争点1(構成要件Eの充足性)について
イ号物件は、甲第13号証及びイ号図面第1図に示すように、少なくとも、ガスケット本来の機能である封止を実現する状態で、環状保持体の下面と水道本管との間にガスケットが配置されていることが認められるから、イ号物件は、「環状保持体の下面と水道本管との間にガスケットを装着する」ものに該当する。
したがって、イ号物件の構成eは、本件特許発明の構成要件Eを充足している。

3.争点2(構成要件Fの充足性)について
本件特許発明の構成要件Fとイ号物件の構成fとを対比すると、少なくとも文言上違いがあるのは、支受面とフランジ部の間に介在するものが、構成要件Fでは「塗膜又は樹脂」であるのに対して、構成fでは「樹脂板」である点である。
そして、本件特許発明における「樹脂」は、イ号物件における「樹脂板」を包含するものであるから、イ号物件の構成fは、本件特許発明における構成要件Fを充足している。
また、被請求人が主張するようにイ号物件が「塗膜及び樹脂」を介してという構成であるとしても、本件特許発明の構成要件Fの「塗膜又は樹脂」を介してという構成を充足していることに変わりはない。

したがって、イ号物件の構成aないし構成iは、本件特許発明の構成要件Aないし構成要件Iのすべてを充足している。

VI.むすび
以上のとおりであるから、判定請求人が請求するイ号物件(「サドル付分水栓 BNS-D(50)」)は、本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。

付言
なお、被請求人は、判定請求答弁書、判定請求答弁書(2)において、本件特許発明に対して公知技術から容易である旨の主張をしているが、本件特許発明の有効・無効を判断することになるので採用しない。当該容易性の主張については、別途無効審判を請求し、その中で主張すべきものである。
 
別掲 イ号図面及びイ号写真等

 
判定日 2011-05-30 
出願番号 特願平9-131694
審決分類 P 1 2・ 1- YA (F16L)
最終処分 成立  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 藤井 昇
倉橋 紀夫
登録日 2006-02-10 
登録番号 特許第3768329号(P3768329)
発明の名称 サドル付き分水栓  
代理人 小林 哲男  
代理人 濱田 俊明  

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