• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  F25B
審判 一部無効 発明同一  F25B
管理番号 1238547
審判番号 無効2010-800128  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-07-23 
確定日 2011-05-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4465128号発明「膨張弁および空気調和機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4465128号の請求項1、3、7、9ないし14に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4465128号の請求項4ないし6に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その12分の3を請求人の負担とし、12分の9を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4465128号の請求項1、3?7、9?14(2、8、15を除く)に係る発明(以下「本件特許発明1、3?7、9?14」という。)についての出願は、平成13年4月26日に特許出願され、平成22年2月26日にその発明についての特許権の設定登録がなされたものである。
以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
平成22年 7月23日 審判請求書
平成22年10月 8日 審判事件答弁書
平成22年10月 8日 訂正請求書
平成22年11月15日 審判事件弁駁書
平成23年 2月 4日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成23年 2月 7日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成23年 2月28日 口頭審理

第2 訂正請求について
1.訂正の内容
平成22年10月8日付け訂正請求書において、被請求人が求めた訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、要するに、下記(1)?(2)のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1の欄の下から1行目の「外嵌されて」と「いる」との間に、「おり、また、上記弁体冷媒通路(130)に設けられた円板形状の多孔体(63)は、上記弁体本体(61)の先端部にかしめで固定されて」を挿入する、すなわち、多孔体について、請求項1に「また、上記弁体冷媒通路(130)に設けられた円板形状の多孔体(63)は、上記弁体本体(61)の先端部にかしめで固定されている」なる発明特定事項を付加する。
(2)訂正事項2
請求項1の訂正に伴い、発明の詳細な説明の「課題を解決するための手段」の項の記載を請求項1の訂正に整合させる。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、弁体本体における多孔体の固定位置、及び、固定手段について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「弁体本体の先端」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の項には、参考例として、「上記弁体本体21には、下端が開口する有底の丸い大径の穴27と、この穴27に横方向から交わる小径の穴28とを形成して、この穴27、28によって弁体冷媒通路30を形成している。上記大径の穴27には、順に、上記円柱形状の多孔体22、絞り部25および円板形状の多孔体23を密に嵌合して挿入し、上記大径の穴27の壁部の先端を、かしめ加工で、内側にテーパー状に屈曲させて、この内側に屈曲したテーパー状の部分29で、上記多孔体22、23および絞り部25を穴27の底に向けて押し付けて固定している。」(段落【0048】。下線は当審にて付与。以下同様。)こと、「上記弁体本体111には、下端が開口する有底の段付きの丸い大径の穴121と、この穴121の上部に横方向から交わる小径の穴122とを形成して、この穴121,122によって弁体冷媒通路150を形成している。上記段付きの大径の穴27(「121」の誤記と認める。)には、順に、円柱形状の多孔体112、絞り部115と、その絞り部115に把持された円柱形状の多孔体113とを密に嵌合して挿入し、上記大径の穴121の壁部の先端を、かしめ加工で、内側にテーパー状に屈曲させて、この内側に屈曲したテーパー状の部分129で、上記多孔体112,113および絞り部115を穴121の底に向けて押し付けて固定している。」(段落【0089】)ことが記載されている。
これらの記載から、本件特許明細書には、弁体21、111の大径の穴27、121に多孔体23、113を挿入し、大径の穴27、121の壁部の先端により多孔体23、113を固定することが示されている。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の項には、第1の実施の形態として、「この多孔体63は、弁体本体61に当接部65のかしめで固定している。」(段落【0068】)ことが記載されている。
この記載から、本件特許明細書には、多孔体63の固定を、弁体本体61の壁部の当接部65をかしめることにより行うことが示されている。
このように、本件特許明細書には、参考例として、多孔体の固定位置が弁体本体の大径の穴の壁部の先端位置であることが示されており、これを、第1の実施の形態に照らせば、多孔体63がかしめ固定される弁体本体61の当接部65が、弁体本体61の壁部の先端、すなわち、弁体本体61の先端部に位置することは明らかである。
したがって、本件特許明細書には、多孔体が、弁体本体の先端部にかしめで固定されることが示されているから、訂正事項1は、特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術事項を導入するものではない。
また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
さらに、本件訂正により訂正された請求項1を引用する、請求項8及び請求項15については、請求人が提出する証拠により独立して特許を受けることができないものとすることはできず、かつ、他に、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由を発見しない。
なお、請求人は、本件訂正は新規事項の追加、及び、不明りょうな記載である旨主張している(審判事件弁駁書第4ページ第16行?第5ページ第17行を参照。)が、上記の通りであり、請求人の主張は採用できない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項1の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項において準用する特許法第126条第3項ないし第5項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件特許発明1、3?7、9?14は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、3?7、9?14に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】入口(12,84)と、出口(13,85)と、この入口(12,84)および出口(13,85)に連通する弁室(11,83)と、この弁室(11,83)に設けられた弁座(15,86)とを有するハウジング(10,50,80)と、このハウジング(10,50,80)の弁室(11,83)内に移動可能に設けられて、上記弁座(15,86)に接離する当接部(29,65,103)を有する弁体(20,60,90,110)と、上記弁体(20,60,90,110)を駆動する駆動部(40,70,160)とを備えた膨張弁において、上記弁体(20,60,90,110)は、内部に弁体冷媒通路(30,130,140,150)を有する弁体本体(21,61,91,111)と、この弁体冷媒通路(30,130,140,150)に設けられた絞り部(25,95,115)と、上記弁体冷媒通路(30,130,140,150)に設けられ、冷媒が通過可能な多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)とを含み、上記弁座(15,86)に上記当接部(29,65,103)が当接した絞り状態で、上記弁体冷媒通路(30,130,140,150)の入口(31,98,122,131)および出口(32,97,113,132)が上記ハウジング(10,50,80)の入口(12,84)および出口(13,85)に対向するか、あるいは、弁室(11,83)の壁面に空間を空けて対向し、上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の少なくとも1つは、略円筒状またはリング状であり、この略円筒状またはリング状の多孔体(62)が弁体本体(61)に外嵌されており、
また、上記弁体冷媒通路(130)に設けられた円板形状の多孔体(63)は、上記弁体本体(61)の先端部にかしめで固定されていることを特徴とする膨張弁。
【請求項3】 請求項1または2に記載の膨張弁において、上記絞り部(25,95,115)の両側に上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)が設けられていることを特徴とする膨張弁。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記当接部(29,65)が、弁体冷媒通路(30,130,150)の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分であることを特徴とする膨張弁。
【請求項5】 請求項4に記載の膨張弁において、テーパー状に屈曲した上記当接部(29,65)によって、上記絞り部(25,115)または上記多孔体(22,23,62,63,112,113)の少なくとも一方を固定していることを特徴とする膨張弁。
【請求項6】 請求項4または5に記載の膨張弁において、上記テーパー状に屈曲した当接部(29,65)は、かしめ加工によって形成されていることを特徴とする膨張弁。
【請求項7】 請求項1乃至6のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記絞り部は、上記弁体本体(61)と同じ材質で形成され、かつ、弁体本体(61)と一体に形成されていることを特徴とする膨張弁。
【請求項9】 請求項1乃至8のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の少なくとも1つは、略円板状または円柱状であることを特徴とする膨張弁。
【請求項10】 請求項1乃至9のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記絞り部(115)の絞り(68,116)と上記多孔体(63,112,113)との間に、上記絞り(68,116)の断面積よりも大きな断面積の空所(66,117,118)を有することを特徴とする膨張弁。
【請求項11】 請求項10に記載の膨張弁において、上記絞り部(115)は、上記絞り(68,116)の少なくとも下流側に上記空所(66,118)を有することを特徴とする膨張弁。
【請求項12】 請求項1乃至11のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の孔の径は、上記絞り部(25,95,115)の絞り(24,68,94,116)の径よりも小さいことを特徴とする膨張弁。
【請求項13】 請求項1乃至12のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の肉厚が、その多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の孔の径の2倍以上であることを特徴とする膨張弁。
【請求項14】 圧縮機(201)と、室外熱交換器(203)と、膨張機構(205)と、第1室内熱交換器(208)と、請求項1乃至13のいずれか1つに記載の膨張弁(100,200,300,400)と、第2室内熱交換器(209)とを順次接続した冷媒回路を有することを特徴とする空気調和機。」

第4 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、審判請求書において、「本件特許発明1、3?7、9?14についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、審判請求書、審判事件弁駁書、口頭審理陳述要領書(請求人)を提出した。そして、証拠方法として、甲第1?9号証を提出している。
請求人が主張する無効理由は、概略、次のとおりのものである。
(1)無効理由1
本件特許発明1、3?7、9?14は、甲第1号証の願書に最初に添付した明細書または図面に記載された発明と同一である。
したがって、本件特許発明1、3?7、9?14は、特許法第29条の2の規定に該当するので、本件特許は無効とされるべきものである。
(2)無効理由2
本件特許発明1、3?7、9?14は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2?9号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に該当するので、本件特許は無効とされるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証 特願2001-113963号(特開2002-310540号)の願書に最初に添付した明細書または図面
甲第2号証 実願昭63-48304号(実開平1-152176号)のマイクロフィルム
甲第3号証 実願平3-64306号(実開平5-8160号)のCD-ROM
甲第4号証 特開昭57-65557号公報
甲第5号証 特開平7-248162号公報
甲第6号証 特開2001-50616号公報
甲第7号証 実願昭62-61646号(実開昭63-168381号)のマイクロフィルム
甲第8号証 特開平7-167535号公報
甲第9号証 特開平2-159485号公報

2.被請求人主張の概要
これに対して、被請求人は、審判事件答弁書において「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書(被請求人)を提出した。
そして、口頭審理の結果も総合すると被請求人の主張は、概略、次のとおりのものである。
(1)無効理由1
ア.本件特許発明1、3?7、9?14は、甲第1号証の願書に最初に添付した明細書または図面に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定に該当するものではなく、本件特許は無効とされるべきものではない。
イ.請求人は、本件請求項6に関して、審判請求書において、「『甲第1号証の図2の記載からは、弁体17の先端外周面17Aがかしめ加工されていることが見てとれる。このことから、本件請求項6の発明特定事項は、甲第1号証の先願発明が備えている。』と主張している。
しかし、この主張は、かしめ加工と判断する何の証拠も示していなく、請求人の単なる願望に過ぎず、明白な誤りである。」(審判事件答弁書第15ページ下2行?第16ページ第8行)
「何故なら、甲第1号証の図2の弁体17の先端外周面17Aは、弁としての開閉機能を果たすために高い精度の真円度、同心度を必要とするものであるから、先端外周面17Aの内側へ傾斜しているように見える内側傾斜部分は、先端外周面17Aの真円度、同心度等の精度を悪くする虞のあるかしめ加工ではなくて、例えば、旋削等の機械加工されたものであると当業者は判断するからである。そして、図2の弁体17の先端外周面17Aの内側傾斜部分の内側への多孔質部材23の挿入は、その多孔質部材23の冷却による縮径を利用した冷やし嵌め、または、弁体17の加熱により拡径を利用した焼き嵌め等で挿入していると考えるからである。また、この他に、焼結金属からなる多孔質部材23を固定する内側傾斜部分は、溶接、ロウ付け、はんだ付け等であるとも考えられるのである。さらにまた、焼結金属からなる多孔質部材23は、弁体17の孔内に粉末金属材料を充填し、その後、粉末金属材料を焼結して、直接、多孔質部材23を形成しているとも考えられるのである。」(審判事件答弁書第16ページ第9?21行)
(2)無効理由2
ア.本件特許発明1、3?7、9?14は、甲第2?9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当するものではなく、本件特許は無効とされるべきものではない。
イ.甲第4号証の甲第2号証への適用について
「そもそも、弁というものは、弁座に対して弁体の当接部が接離して、開閉を行うものであって、弁体の当接部が弁座に密着しなければ、弁として機能しないから、弁体の当接部には、高い真円度と、弁座に対して高い同心度とが要求されているのである。本件出願以前には、もし、仮に、弁体の先端部に多孔体をかしめで固定すると、弁体の当接部の真円度、同心度の精度が悪くなってしまうから、弁体の当接部の精度に影響するに「かしめ加工」をすることができないと考えられていた。
さらに、弁体は、弁座に接離し、弁座に強く押し付けられても、耐久性を必要とするため、高い剛性の堅い材料で形成する必要があって、決して、銅の焼きなまし材等では、形成することができないものである。」(審判事件答弁書第19ページ第18行?第20ページ第2行)
「甲第4号証には、柔らかい銅パイプ7(焼きなまし材)をかしめて、堅くて割れ易い発泡金属6を固定することが記載されているが、決して、堅い弁体をかしめて、堅い多孔体を固定することは、記載も、示唆もされていない。」(審判事件答弁書第20ページ第14?16行)
「本件発明の出願前の従来の技術水準においては、甲第4号証の真円度や同心度の精度を必要としない柔らかい銅パイプ7(焼きなまし材)を、堅い発泡金属6を固定するために、かしめると言う技術を、仮に、甲第2号証に適用すると想定すると、かしめられた堅い弁体2に、堅くて割れやすい多孔体6bが押圧されて割れなどが生じ、さらに、弁体2の当接部の真円度や同心度などの精度が、かしめによって低下すると考えられていたのである。
したがって、甲第4号証のかしめの技術を、甲第2号証に適用するのには、仮に、両者の技術分野(パイプと弁)が異なることを無視したとしても、本件出願前の技術水準では、多孔体の割れ、弁体の当接部の精度の低下が生じるという問題が生じて、甲第2号証に甲第4号証を組み合わせるのには阻害事由があったのである。」(審判事件答弁書第21ページ第1?11行)
「甲第2号証の第2図の双方向型電磁弁では、弁体2の先端部に円板形状の多孔体6bを備えているが、弁体2の先端部の内周面はストレートの円筒形であって、弁体2の先端は内側に屈曲していない。したがって、甲第2号証の第2図では、多孔体6bは、弁体2の孔内に圧入または接着で固定されていると考えるのが自然である。
このように、甲第2号証の第2図では、弁体2の孔内に、円板形状の多孔体6bが圧入または接着で固定されているのに、さらに、甲第4号証の第2図等のかしめを適用する動機がない。」(審判事件答弁書第22ページ第8?15行)
ウ.甲第3号証の甲第2号証への適用について
「甲第2号証の双方向型電磁弁では、第1および2図に示されるように、有底の円筒状の多孔体6、6aを備えることによって、双方向型であっても、擦過音の発生を抑制することができるのであって、有底の円筒状の多孔体6、6aを必須の条件としているのである。例えば、第1および2図において、仮に、この有底の円筒状の多孔体6、6aに代えて、甲第3号証の図9および10に示される底無しの円筒状のフィルタ37を設けると、オリフィス7を出た噴流が弁体2に衝突して、擦過音の発生を抑制できなくなるのである。
このように、甲第2号証の有底円筒状の多孔体6、6aを、甲第3号証の図9、10のフィルタ37に置き換えることは、甲第2号証の趣旨、目的に反する変更であるから、甲第2号証と甲第3号証とを組み合わせることには、阻害事由がある。」(審判事件答弁書第24ページ第24行?第25ページ第9行)
「甲第3号証の【図9】の円筒状のフィルタ37がメインポペット27の内部の弁体冷媒通路に設けられているというためには、環状溝43内に設けられていなければなりません。しかし、円筒状のフィルタ37は、環状溝43内に設けられていなくて、メインポペット27の外側に設けられています。
したがって、甲第3号証には、本件訂正発明1の重要な構成要件S、つまり、『多孔体を弁体本体の内部の弁体冷媒通路に設けること。』は、全く記載されていません。
したがって、甲第3号証と、他の甲第2、4?9号証を、当業者が如何に組み合わせても、本件訂正発明1を容易に想到できる筈がありません。
本件訂正発明1の上述の『多孔体を弁体本体の内部の弁体冷媒通路に設ける』という構成要件Sによって、
(T)脆くて弱い多孔体を弁体本体で保護でき、
(U)多孔体の厚みを確保でき、
(V)多孔体を不安定では無く、確実に保持できる
という顕著を(当審注:「顕著な」の誤記と認める。)作用、効果を奏します。
このような作用、効果は、甲第3号証の【図9】には、全く有りません。
さらに、甲第3号証の切換弁は、油圧装置のための油を制御する切換弁であって、本件訂正発明1の空気調和機のための膨脹弁とは、技術分野が異なります。また、甲第3号証の単一の油を対象とする切換弁は、気液2相流を対象とする膨脹弁とは、多孔体の保持の強度、安定性に対する要求が弱いものです。そのため、甲第3号証では、図7、9、11に示されるように、円筒状のフィルタ37は、環状溝43内に設けられていなくて、メインポペット27の外側に設けられていて、円筒状のフィルタ37の保持の強度、安定性は、本件訂正発明1と比べて、弱いものです。」(口頭審理陳述要領書(被請求人)第7ページ第9行?第8ページ第7行)
エ.甲第5号証の甲第2号証への適用について
「仮に、甲第2号証に甲第5号証を適用して、甲第2号証のオリフィス(絞り部)7を弁体2と一体に形成したとすると、多孔体6、6aを凹孔2aに嵌め込むことができなくなる。
したがって、甲第2号証の発明に、甲第5号証の技術を採用することはできない。」(審判事件答弁書第26ページ第5?9行)

第5 甲各号証に記載された発明
1.本願の出願の日前の他の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲第1号証である特願2001-113963号(特開2002-310540号公報参照。以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書」という。)には、「絞り装置および空気調和機」に関して図面と共に次の事項が記載されている。
a)「【発明の属する技術分野】
この発明は、絞り装置および空気調和機に関し、特に、除湿モードを有する空気調和機で除湿用絞り弁として使用される絞り装置および空気調和機に関するものである。」(段落【0001】)
b)「【発明が解決しようとする課題】
多孔質部材が設けられることにより、冷媒擦過音は低減するが、しかし、充分な冷媒擦過音低減効果を得るためには、孔寸が小さく空間率が比較的小さい多孔質部材を使用しなくてはならない。
しかし、冷媒流中にはコンタミネーションと云われる固形の混入物が存在するから、孔寸が小さく、空間率が小さい多孔質部材が使用されると、長期間の使用において、多孔質部材に混入物が詰まり、多孔質部材における冷媒流量が変化すると云う不具合が生じる。このため、長期間の使用において、安定した除湿運転性能を得ることが難しい。
このような、混入物詰まりによる冷媒流量の変動は、絞り通路が、多孔質部材により構成されているもの以外に、絞り通路を螺旋状するなどして、絞り通路長を長くすることによって整流作用を得て、冷媒擦過音を低減するようなものでも起き、やはり、長期間の使用において、安定した除湿運転性能を得ることが難しい。
この発明は、上述の如き問題点を解消するためになされたもので、絞り通路における混入物詰まりによる冷媒流量の変動を来すことなく冷媒擦過音を低減でき、長期間の使用においても、安定した除湿運転性能を得ることができる絞り装置および空気調和機を提供することを目的としている。」(段落【0006】?【0009】)
c)「【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照してこの発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1、図2はこの発明による絞り装置10の実施の形態1を示している。
絞り装置10は金属製の弁ハウジング11を有している。弁ハウジング11は、第1の入出口ポート12と、第2の入出口ポート13と、第1の入出口ポート12と常時直接連通している弁室14と、弁室14と第2の入出口ポート13との間に設けられた弁ポート15とを画定している。弁ポート15の弁室14の側の開口端周りには弁座部16が画定されている。
弁室14には弁体17が図にて上下方向(弁リフト方向)に移動可能に設けられている。弁体17は、先端外周面17Aにて弁ポート15の周りに画定されている弁座部16に着座して弁ポート15を閉じる弁閉位置と、弁座部16より離れて弁ポート15の連通を確立する弁開位置との間に移動可能になっている。
弁体17は、弁ポート15の真上位置にあり、弁ポート15に向かい合う先端面に開口した中空開口部18を有している。中空開口部18には、混入物捕捉用のフィルタ要素としての多孔質部材19と、流体流動音低減用の多孔質部材20と、オリフィス孔21を有するオリフィス部材22と、流体流動音低減用の多孔質部材23とが順に挿入固定されている。中空開口部18は中空開口部18の奥部に位置する多孔質部材19の側に内部空間部18Aを有し、内部空間部18Aは弁体17の側部に開口した連通孔24によって弁室14と連通している。
上述の中空開口部18、内部空間部18A、連通孔24により、一方において弁室14に向けて開口し、他方において弁ポート15に向けて開口し、弁閉状態にて弁室14と第2の入出口ポート13とを連通する内部通路が構成される。
多孔質部材19、20、23は、各々焼結成形による多孔質金属等により構成され、流体流動音低減用の多孔質部材20、23は、多孔質部材20、23の通路断面積の方がオリフィス部材22に設けたオリフィス孔21の通路断面積より大きくなるような空間率になっており、混入物捕捉用の多孔質部材19は、多孔質部材19の通路断面積の方が流体流動音低減用の多孔質部材20、23の通路断面積より大きくなるような空間率になっている。これは、混入物捕捉用の多孔質部材19の通路断面積が流体流動音低減用の多孔質部材20、23の通路断面積より大きいことを意味する。
弁ハウジング11には電磁ソレノイド装置30が取り付けられている。電磁ソレノイド装置30は、弁ハウジング11に一体形成されたプランジャチューブ部31と、プランジャチューブ部31内に移動可能に設けられたプランジャ32と、プランジャチューブ部31の先端部に固定されたプラグ状のコイルガイド部材33と、プランジャチューブ部31の外側にボルト34によってコイルガイド部材33に取り付けられたコの字形の外凾35と、プランジャチューブ部31の外周囲に固定された電磁コイル部36と、プランジャ32をコイルガイド部材33側に付勢する圧縮コイルばね(弁開ばね)37とにより構成されている。
弁体17は、ステム部17Bによってプランジャ32とかしめ結合されている。これにより、電磁ソレノイド装置30は、電磁コイル部36に通電が行われていない非通電時には圧縮コイルばね37のばね力によってプランジャ32と共に弁体17を上方(弁開方向)へ駆動し、これに対し、電磁コイル部36に通電が行われている通電時には、プランジャ32が圧縮コイルばね37のばね力に抗して外凾35の下側片部35A側に磁気的に吸引されることにより、弁体17を下方(弁閉方向)へ駆動する。
すなわち、電磁ソレノイド装置30は、非通電時には圧縮コイルばね37のばね力により弁体17を弁座部16より引き離した弁開位置へ駆動し、通電時には圧縮コイルばね37のばね力に抗して弁体17を弁座部16に着座させる弁閉位置へ駆動する常開型になっている。」(段落【0024】?【0032】)
d)「図3、図4はこの発明による絞り装置10の実施の形態2を示している。なお、図3、図4において、図1、図2に対応する部分は、図1、図2に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
この実施の形態では、弁体17にオリフィス通路25が直接形成されている。オリフィス通路25は、一方において弁体17の側部に開口した連通孔24によって弁室14と連通し、他方において弁ポート15に向かい合う弁体先端面に開口した中空開口部18に連通している。
上述の中空開口部18、オリフィス通路25、連通孔24により、一方において弁室14に向けて開口し、他方において弁ポート15に向けて開口し、弁閉状態にて弁室14と第2の入出口ポート13とを連通する内部通路が構成される。
連通孔24の弁体側部に対する開口部には混入物捕捉用のフィルタ要素としての円環状の多孔質部材19が装着され、中空開口部18には流体流動音低減用の2個の多孔質部材23A、23Bが挿入固定されている。
多孔質部材19、23A、23Bは、各々焼結成形による多孔質金属等により構成され、流体流動音低減用の多孔質部材23A、23Bは、多孔質部材23A、23Bの通路断面積の方がオリフィス通路25の通路断面積より大きくなるような空間率になっており、混入物捕捉用の多孔質部材19は、多孔質部材19の通路断面積の方が流体流動音低減用の多孔質部材23A、23Bの通路断面積より大きくなるような空間率になっている。
この実施の形態では、弁閉状態時には、図4に示されているように、弁体17に形成されている中空開口部18、オリフィス通路25、連通孔24による内部通路によって、弁室14と第2の入出口ポート13とが連通し、第1の入出口ポート12が高圧側で、第2の入出口ポート13が低圧側である場合には、空間率大の多孔質部材19→オリフィス通路25→空間率小の多孔質部材23A、23Bの順に冷媒等の流体が流れる。
これにより、空間率大の多孔質部材19によって流体流中のコンタミネーションの捕捉が行われると共に液流中の気泡の細分化が行われ、そしてオリフィス通路25によって所要の絞り効果が得られ、空間率小の多孔質部材23A、23Bにより整流化作用が得られる。これらの作用により、長期間の使用においても、多孔質部材23A、23Bや絞り通路25にコンタミネーションが詰まることがなく、安定した絞り効果が得られると共に、流体流動音が低減し、静音性が向上する。
なお、必要に応じて多孔質部材23Aの空間率を多孔質部材23Bの空間率より大きくし、段階的に整流化作用が得られるようにすることもできる。」(段落【0037】?【0044】)
e)「図9は上述した実施の形態1?4の何れかによる絞り装置10をサイクルドライ弁として組み込まれた空気調和機を示している。
この空気調和機は、圧縮機50と、室外熱交換器51と、第1の室内熱交換器52と、第2の室内熱交換器53と、これらをループ接続する冷媒通路55、56、57、58A、58B、59、60A、60B、61と、室外熱交換器51と第1の室内熱交換器52との間の冷媒通路(57-58A、58B)に設けられた膨張弁54と、冷房モードと暖房モードとの切換のためにループ接続された冷媒通路55?61における冷媒の流れ方向を反転する四方弁62とを有している。
第1の室内熱交換器52と第2の室内熱交換器53との間の冷媒通路59には絞り装置(サイクルドライ弁)10が接続されている。
冷房モードでは、図9にて実線の矢印で示されている方向に冷媒が循環し、絞り装置10が弁開している状態で、冷房モードが得られ、絞り装置10が弁閉している状態では、当該絞り装置10が絞り弁として作用し、冷房サイクルドライモード(冷房時除湿)が得られる。
冷房サイクルドライモードにおいては、絞り装置10の絞り部(オリフィス孔21、オリフィス通路25、絞り通路28等)より冷媒流で見て上流側にフィルタ手段としての空間率大の多孔質部材19が存在することになる。これにより、絞り部より上流側で冷媒流中のコンタミネーションの捕捉が行われ、絞り部がコンタミネーションによって汚染されることがなく、長期間の使用においても、絞り効果が変動することがなく、冷房サイクルドライモードの性能が低下することがない。
また、絞り装置10は空気調和機の室内機に設けられるが、絞り装置10には、流体流動音低減用の多孔質部材22、23等が設けられていたり、絞り通路28自体が整流化作用を奏するように構成されているから、耳障りな冷媒擦過音が生じることもない。
なお、暖房モードでは、図9の矢印で示されている方向とは逆方向に冷媒が循環し、通常、絞り装置10は弁開状態を維持する。
また、本実施の形態では、弁体17の開閉駆動源が電磁ソレノイド装置30である場合について説明したが、例えば弁リフト方向に延在する中心軸の周りに弁体17を回転させることで弁体の開閉駆動を行うステップモータのように、弁体17の開閉駆動源は電磁ソレノイド装置30に限らず任意であることは、言うまでもない。」(段落【0054】?【0061】)
f)上記d)の記載事項及び【図4】の図示内容から、多孔質部材19は、無底の円環状であること、多孔質部材23A、23Bは、円板状であること、弁体17が弁閉位置、弁開位置のいずれの状態においても、連通孔24が弁室14に向けて開口し、中空開口部18が弁ポート15に向けて開口することが示されている。
g)上記d)の記載事項及び【図3】、【図4】の図示内容から、中空開口部18と連通孔24との間にオリフィス通路25が直接形成されること、オリフィス通路25と円板状の多孔質部材23Aとの間にオリフィス通路25の断面積よりも大きな断面積を有する中空部が形成されることが示されている。
h)上記e)の記載事項及び【図9】の図示内容から、冷媒通路が、圧縮機50と、室外熱交換器51と、膨張弁54と、第1の室内熱交換器52と、絞り装置10と、第2の室内熱交換器53とを順次ループ接続することにより構成されることが示されている。
上記a)?d)の記載事項、上記f)、g)の認定事項及び図面の図示内容を総合し、本件特許発明の記載ぶりに則って整理すると、先願明細書には、次の発明(以下「先願発明1」という。)が記載されている。
「第1の入出口ポート12と、第2の入出口ポート13と、第1の入出口ポート12と常時直接連通している弁室14と、弁室14と第2の入出口ポート13との間に設けられた弁ポート15の弁室14側の開口端周りの弁座部16と、を画定している弁ハウジング11と、
弁室14に移動可能に設けられ、先端外周面17Aにて弁座部16に着座する弁閉位置に移動可能な弁体17と、
弁体17を駆動する電磁ソレノイド装置30と、
を有する絞り装置10であって、
弁体17には、中空開口部18、オリフィス通路25、連通孔24により構成される内部通路が設けられ、中空開口部18と連通孔24との間にオリフィス通路25が直接形成され、
連通孔24の弁体側部に対する開口部には、混入物捕捉用の円環状の多孔質部材19が装着され、中空開口部18には、流体流動音低減用で整流化作用が得られる2個の円板状の多孔質部材23A、23Bが挿入固定され、
オリフィス通路25と円板状の多孔質部材23Aとの間にオリフィス通路25の断面積よりも大きな断面積を有する中空部が形成され、
弁体17は、弁閉位置、弁開位置のいずれの状態においても、連通孔24が弁室14に向けて開口し、中空開口部18が弁ポート15に向けて開口し、
多孔質部材19は、無底の円環状であり、
多孔質部材19、23A、23Bは、各々焼結成形による多孔質金属により構成された絞り装置10。」
また、上記a)?e)の記載事項、上記f)?h)の認定事項及び【図9】の図示内容を総合し、本件特許発明の記載ぶりに則って整理すると、先願明細書には、次の発明(以下「先願発明2」という。)が記載されている。
「圧縮機50と、室外熱交換器51と、膨張弁54と、第1の室内熱交換器52と、先願発明1に記載の絞り装置10と、第2の室内熱交換器53と、これらを順次ループ接続する冷媒通路とを有する空気調和機。」

2.本願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(実願昭63-48304号(実開平1-152176号)のマイクロフィルム)には、「双方向型電磁弁」に関して図面と共に次の事項が記載されている。
a)「2.実用新案登録請求の範囲
第1流体口と第2流体口との間に設けた弁座を弁室側に設けた弁体によって開閉する電磁弁において、該弁体内を貫通して該第1流体口に続く弁本体内部流路と該第2流体口に続く弁本体内部流路とを連通する漏洩流路を設けると共に該漏洩流路内に通気性多孔体を嵌着してなる双方向型電磁弁。」(第1ページ第4?11行)
b)「かかるエアコンシステムにおいては除湿運転を行なうために室内熱交換器を冷却用と再加熱用との2個に分割し、その間に膨張器を設けるなどの構成をとる必要があり、かかるエアコンシステムの回路例が、たとえば特開昭58-106369号に開示されている(第4図)。この回路においては、室外熱交換器cと室内熱交換器bとの間に可逆流通性を有する膨張弁fを設け、室内熱交換器a、b間にキャピラリーチューブhと二方電磁弁gとを並列として設けてある。そして、通常の冷房または暖房時には電磁弁gを開いて室内熱交換器a、bを共に冷却または加熱用として用い、除湿時には膨張弁fを開くと共に電磁弁gを閉じて室内熱交換器bを加熱用にまた室内熱交換器aを冷却用に用いるものである。dは圧縮機、eは四方弁、Fはファンである。」(第2ページ第1?16行)
c)「〔解決しようとする課題〕
上述のような事情のもとで、本考案は冷暖房および除湿ができるエアコンシステムにおける膨張器兼用の電磁弁を改良して、コンパクトに組み込むことができかつ騒音レベルを低下させると共に高信頼性をそなえた双方向型電磁弁を得ることを目的とした。」(第3ページ第13?19行)
d)「〔課題を解決するための手段〕
前記の目的を達成するために、本考案の双方向型電磁弁は、第1流体口と第2流体口との間に設けた弁座を弁室側に設けた弁体によって開閉する電磁弁において、該弁体内を貫通して該第1流体口に続く弁本体内部流路と該第2流体口に続く弁本体内部流路とを連通する漏洩流路を設けると共に該漏洩流路内に通気性多孔体を嵌着して構成される。
〔作用〕
このような構成を有する本考案の電磁弁は、電磁コイルによって開閉作動する弁体を貫通して設けた漏洩通路を少量の流体が通過できるので、弁閉時には膨張器として作用するが、弁開時には流体が漏洩通路とは無関係に自由に流通できるものである。」(第4ページ第1?16行)
e)「〔実施例〕
本考案の電磁弁の例を第1図に示す。図において、1は弁本体であり、1aは第1流体口、1bは第2流体口である。第1流体口1aに通ずる弁室1cの底部には第2流体口1bに通ずる弁座1dが形成されている。2は弁体であり、弁ばね3によって弁座1dに向けて付勢されている。4は吸引子、5は電磁コイルである。
弁体2には弁座1dから第2流体口1bへ通ずる流路に面する弁体2の先端部に凹孔2aが設けてあり、この中にステンレス鋼粉末を円筒状に焼結して得た通気性の多孔体6と、ステンレス鋼の円板状オリフィス7とが嵌着されている。そして弁体2の側壁には、凹孔2aと弁室1cとを連絡する複数の通孔2bが設けられている。従って、弁の開閉に拘わらず第1流第口(「第1流体口」の誤記と認める。)1aと第2流体口1bとは多孔体6とオリフィス7とを介して連絡されており、流体は順逆いづれの方向にも緩やかに流れることができ、流体の流出時の擦過音発生が抑制される。」(第4ページ第17行?第5ページ第16行)
f)「第2図は、本考案の電磁弁の他の例を示すものであるが、弁体2の凹孔2aにはオリフィス7を挟んで円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとが嵌着されており、前例の電磁弁よりも消音効果が大きい。さらに弁体2の後端部には、硬質弾性の合成樹脂で形成された緩衝棒8が嵌着されていて、弁体2が吸引子4に吸着されたときの衝撃音の発生を緩和するようになっている。」(第5ページ第17行?第6ページ第4行)
g)「第3図は、このような本考案の双方向型電磁弁を用いたヒートポンプ式エアコンシステムの回路例である。図においてVは本考案の双方向型電磁弁であり、第4図における電磁弁gとキャピラリーチューブhとに置きかえて設けられているほかは従来と全く同様に回路を構成することができる。」(第6ページ第5?10行)
h)「〔考案の効果〕
本考案の双方向型電磁弁は、前述のように構成されているので、従来のヒートポンプ式エアコンにおける室内熱交換器を2個に分割してその中間に設けることにより必要に応じて低騒音の膨張器として機能させることができ、従来の電磁弁とキャピラリーとの組合せを用いる必要がない。そしてまた、配管内などの紛れ込んだゴミ等により詰るなどの故障が生ずることもなく高信頼性であるほか、取付方向も自由であり、組立工数が低減するばかりでなく占有面積も少なくなり、経済的であって設備の構成の自由度が増すなどの特長がある。」(第6ページ第11行?第7ページ第3行)
i)上記d)、e)の記載事項及び第1図の図示内容によると、弁体2が、弁室1c内で弁座1dに向けて付勢され、かつ、弁閉時に、弁体2は、複数の通孔2bが第1流体口1aに対向し、凹孔2aの開口面が第2流体口1bに対向していること、が示されている。
j)上記e)、f)の記載事項及び第2図の図示内容によると、多孔体が、有底円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとからなること、弁体2の凹孔2aにはオリフィス7を挟んで空所を形成するように、円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとが嵌着されていること、円板状の多孔体6bが凹孔2aの開口側に嵌着されていることが示されている。
k)上記b)、g)の記載事項及び第3図の図示内容によると、ヒートポンプ式エアコンシステムが、圧縮機dと、室外熱交換器cと、膨張弁fと、室内熱交換器bと、双方向型電磁弁Vと、室内熱交換器aとを順次接続する回路を有することが示されている。

上記a)、c)?f)、h)の記載事項、上記i)、j)の認定事項及び図面の図示内容を総合し、本件特許発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明1」という。)が記載されていると認められる。
「第1流体口1aと、第2流体口1bと、第1流体口1aと第2流体口1bとに通ずる弁室1cと、弁室1cの底部に形成されている弁座1dとを有している弁本体1と、
弁室1c内で弁座1dに向けて付勢されている弁体2と、
弁座1dを開閉する弁体2が吸着される吸引子4と、電磁コイル5と、
を備えた膨張器兼用の双方向型電磁弁において、
弁体2には、弁体2内を貫通する漏洩流路を設け、弁体2の先端部に設けた凹孔2aには、オリフィス7を挟んで、ステンレス鋼粉末を焼結して得た、有底円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとが嵌着され、
オリフィス7と円板状の多孔体6bとの間に空所を形成し、
弁閉時に、弁体2は、複数の通孔2bが第1流体口1aに対向し、凹孔2aの開口面が第2流体口1bに対向しており、
多孔体が、消音効果を大きくする、有底円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとからなり、
円板状の多孔体6bが凹孔2aの開口側に嵌着されている、
膨張器兼用の双方向型電磁弁。」

また、上記a)?h)の記載事項、上記i)?k)の認定事項及び第3図、第4図の図示内容を総合し、本件特許発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されていると認められる。
「圧縮機dと、室外熱交換器cと、膨張弁fと、室内熱交換器bと、甲2発明1に記載の双方向型電磁弁Vと、室内熱交換器aと、これらを順次接続する回路を有するヒートポンプ式エアコンシステム。」

3.本願の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(実願平3-64306号(実開平5-8160号)のCD-ROM)には、「切換弁」に関して図面と共に次の事項が記載されている。
a)「【産業上の利用分野】
本考案は、切換弁に係り、特に、制御オリフィスの一次側に設置されているフィルタの取付構造を改良したものに関する。」(段落【0001】)
b)「【考案が解決しようとする課題】
上記従来の構成によると次のような問題があった。すなわち、フィルタ137が、流入路103の全域にわたって設置されているので、その分、流路抵抗が大きくなるとともに、広い設置スペースが必要となるという問題があった。
本考案の目的は、フィルタの取付構造を改良することにより、損失を低減させるとともに、設置スペースを縮小させることができる切換弁を提供することにある。」(段落【0008】、【0009】)
c)「【実施例】
以下、図1ないし図6を参照して本考案の第1実施例を説明する。
まず、ボディ1があり、このボディ1には、流入路3と流出路5とが形成されている。上記ボディ1には、切換弁7が組み込まれている。上記切換弁7は、次のような構成になっている。まず、ハウジング9があり、このハウジング9内には、コイル11が収容配置されている。コイル11は、ケーブル13を介して選択的に励磁されるようになっている。
上記コイル11の内側には、鉄心15が図中上下方向に移動可能に収容されている。又、上記ハウジング9の図中上端及び下端には、端部材17、19がそれぞれ取付けられている。上記端部材17は、ナット21によって固定されている。上記鉄心15の下方には、パイロットポペット23が配置されていて、鉄心15及びパイロットポペット23は、コイルスプリング25によって図中上方に付勢されている。
上記端部材19の下端には、メインポペット27が図中上下方向に移動可能に配置されている。又、上記メインポペット27には、流入オリフィス31が形成されているとともに、流出オリフィス33が形成されている。ボディ1の流入路3側であって、上記流入オリフィス31の外側には、フィルタ37が設置されている。このフィルタ37によって流入オリフィス31を介して流入する流体を濾過するものである。
上記フィルタ37の取付部の構成を図2に拡大して示す。フィルタ37の下端には、Oリング(又は、止め輪)39が配置されていて、メインポペット27の環状凹部38内に装着されている。これによってフィルタ37の脱落を防止している。又、フィルタ37は、図3に示すように、円錐台状をなしていて、所定の大きさのメッシュ構造になっている。材質は金網であるが、場合によっては、焼結品を使用してもよい。」(段落【0012】?【0015】)
d)「次に、図9及び図10を参照して第3実施例を説明する。この場合には、フィルタ37として、円筒状のものを使用し、Oリング39にストッパ機能を発揮させるものである。又、流入オリフィス31側には、環状溝43が形成されている。」(段落【0021】)
e)「【考案の効果】
以上詳述したように本考案による切換弁によると、フィルタを流入オリフィスを覆う程度の大きさとして、流入オリフィスを覆うように取付けたので、損失が大幅に低減されるとともに、フィルタ自体が小型化されて、設置スペースの縮小化を図ることができる。」(段落【0025】)
f)上記c)、d)の摘記事項及び【図9】の図示内容によると、円筒状フィルタ37をメインポペット27先端部の外周に設けた片溝に嵌合していることが示されている。

上記a)?e)の記載事項、上記f)の認定事項及び図面の図示内容を総合し、本件特許発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「端部材19の下端に上下方向に移動可能に配置されているメインポペット27の先端部の外周に設けた片溝に、円筒状フィルタ37を嵌合し、Oリング39にストッパ機能を発揮させる切換弁。」

4.本願の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開昭57-65557号公報)には、「空調装置用冷媒減圧器」に関して記載されている。

5.本願の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開平7-248162号公報)には、「絞り部内蔵型電磁弁」に関して図面と共に次の事項が記載されている。
a)「【産業上の利用分野】本発明は、エアコンに用いられ、キャピラリチューブと二方向電磁弁との二つの機能を兼ね備えた絞り部内蔵型電磁弁に関する。」(段落【0001】)
b)「すなわち、閉止された電磁弁の第1流体口1aに供給された流体は、まず、絞り部Aで多少減圧される。ここでは通過面積が大きく、減圧はわずかであるから冷媒通過音は発生しない。ここを通過し、磁性プランジャ13とプランジャチューブ2との間の隙間を通り、絞り部Bに達して第2の減圧をされる。この絞り部は長いので、減圧を十分にできるが、冷媒通過音は小さい。そして、弁体14の中央に開けられた流通孔14aで最後の減圧を受け、第2流体口1bから外部に排出される。流通孔14aの細くて長い流通路で減圧が行われるが、前の2段階でかなり減圧がされており、さらに、流通孔14aの出口が先端部14b内の拡大空間に開いているので、マフラー効果も発揮されて冷媒通過音は小さい。」(段落【0021】)

上記a)、b)の記載事項及び図面の図示内容を総合し、甲第5号証には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「中央に流通孔14aが開けられた弁体14を有し、キャピラリチューブと二方向電磁弁との二つの機能を兼ね備え、エアコンに用いられる絞り部内蔵型電磁弁。」

6.本願の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開2001-50616号公報)には、「冷凍サイクル装置および空気調和装置」に関して記載されている。

7.本願の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証(実願昭62-61646号(実開昭63-168381号)のマイクロフィルム)には、「圧力制御弁」に関して記載されている。

8.本願の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証(特開平7-167535号公報)には、「冷凍装置」に関して記載されている。

9.本願の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証(特開平2-159485号公報)には、「電磁弁」に関して図面と共に次の事項が記載されている。
a)「本発明は、例えばエアコン等に搭載される電磁弁に係り、弁体がもつオリフィスのつまりを無くする構造に関する。」(第1ページ右下欄第1?3行)
b)「さらに、本発明は、オリフィスの入口、出口両側にフィルタを設けたものである。
さらに、本発明では、弁体内にカシメ等の適宜手段によりフィルタとオリフィスを収納し、弁体とフィルタ、オリフィスを一体化したものである。」(第2ページ右上欄第6?10行)

第6 当審の判断
1.無効理由1(特許法第29条の2)
(1)本件特許発明1
ア.対比
本件特許発明1と先願発明1とを対比する。
先願発明1の「第1の入出口ポート12」は、その構成及び機能からみて、本件特許発明1の「入口」に相当し、以下同様に、
「第2の入出口ポート13」は「出口」に、
「第1の入出口ポート12と常時直接連通している弁室14」は、第2の入出口ポート13にも連通していることは明らかであるから、「入口および出口に連通する弁室」に、
「弁室14と第2の入出口ポート13との間に設けられた弁ポート15の弁室14側の開口端周りの弁座部16」は「弁室に設けられた弁座」に、
「弁ハウジング11」は「ハウジング」に、
「弁室14に移動可能に設けられ、先端外周面17Aにて弁座部16に着座する弁閉位置に移動可能な弁体17」は「ハウジングの弁室内に移動可能に設けられて、弁座に接離する当接部を有する弁体」に、
「弁体17を駆動する電磁ソレノイド装置30」は「弁体を駆動する駆動部」に、
「絞り装置10」は「膨張弁」に、
「弁体17には、中空開口部18、オリフィス通路25、連通孔24により構成される内部通路が設けられ」ることは「弁体は、内部に弁体冷媒通路を有する弁体本体」を含むことに、
「中空開口部18と連通孔24との間にオリフィス通路25が直接形成され」ることは「弁体冷媒通路に設けられた絞り部」を含むことに、
「連通孔24の弁体側部に対する開口部には、混入物捕捉用の円環状の多孔質部材19が装着され、中空開口部18には、流体流動音低減用で整流化作用が得られる2個の円板状の多孔質部材23A、23Bが挿入固定され」ることは「弁体冷媒通路に設けられ、冷媒が通過可能な多孔体」を含むことに、
「多孔質部材19は、無底の円環状」であることは「多孔体の少なくとも1つは、略円筒状」であることに、
「連通孔24の弁体側部に対する開口部に装着され」ることは「略円筒状」「の多孔体が弁体本体に外嵌されて」いることに、
それぞれ相当する。
そして、先願発明1の「弁体17は、弁閉位置、弁開位置のいずれの状態においても、連通孔24が弁室14に向けて開口し、中空開口部18が弁ポート15に向けて開口」することは、本件特許発明1の「弁座に当接部が当接した絞り状態で、弁体冷媒通路の入口および出口がハウジングの入口および出口に対向するか、あるいは、弁室の壁面に空間を空けて対向」することのうち、「弁座に当接部が当接した絞り状態で、弁体冷媒通路の入口が弁室の壁面に空間を空けて対向し、弁体冷媒通路の出口がハウジングの出口に対向する」ことに相当する。
また、先願発明1の「流体流動音低減用の2個の多孔質部材23A、23Bは、中空開口部18に挿入固定され」ることと、本件特許発明1の「弁体冷媒通路に設けられた円板形状の多孔体は、弁体本体の先端部にかしめで固定されていること」とは、前者において、中空開口部18での流体流動音低減用の2個の多孔質部材23A、23Bの固定が、中空開口部18の先端部においてなされることは明らかであるから、両者は、「弁体冷媒通路に設けられた円板形状の多孔体は、弁体本体の先端部に固定されていること」で共通する。
以上のことから、本件特許発明1と先願発明1の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「入口と、出口と、この入口および出口に連通する弁室と、この弁室に設けられた弁座とを有するハウジングと、このハウジングの弁室内に移動可能に設けられて、上記弁座に接離する当接部を有する弁体と、上記弁体を駆動する駆動部とを備えた膨張弁において、上記弁体は、内部に弁体冷媒通路を有する弁体本体と、この弁体冷媒通路に設けられた絞り部と、上記弁体冷媒通路に設けられ、冷媒が通過可能な多孔体とを含み、上記弁座に上記当接部が当接した絞り状態で、上記弁体冷媒通路の入口が弁室の壁面に空間を空けて対向し、上記弁体冷媒通路の出口が上記ハウジングの出口に対向し、上記多孔体の少なくとも1つは、略円筒状であり、この略円筒状の多孔体が弁体本体に外嵌されており、
また、上記弁体冷媒通路に設けられた円板形状の多孔体は、上記弁体本体の先端部に固定されている膨張弁。」
<相違点>
円板形状の多孔体の弁体本体の先端部への固定が、本件特許発明1では、かしめ固定であるのに対して、先願発明1では、どのような手段による固定であるのか不明である点。
イ.相違点の判断
膨張弁の技術分野において、弁室に移動可能に設けた弁体内への多孔体の固定を、弁体本体の先端部をかしめることにより行うことは本願出願前に周知慣用の技術事項である(例えば、甲第9号証「第5 9.a)、b)」を参照。)。
そして、本件特許発明1における「弁体冷媒通路に設けられた円板形状の多孔体は、弁体本体の先端部にかしめで固定されている」ことの効果について、「弁体のテーパー状に屈曲した当接部は、かしめ加工によって形成されているから、当接部が簡単安価に製造できる。」(段落【0110】)と記載され、また、被請求人は、審判事件答弁書において、「限られた狭い弁体冷媒通路において、円板形状の多孔体63を確実、簡単、安価に固定できる」(審判事件答弁書第15ページ第13行?14行)と主張している。
しかし、かしめは、部材を簡単、安価に固定するために普通に行われていることであるから、かしめを採用することにより、部材を簡単、安価に固定できるとの効果は当業者に自明な効果に過ぎない。
また、本件訂正明細書(例えば、段落【0068】を参照。)では、限られた狭い弁体冷媒通路に、円板形状の多孔体63を確実に固定するための手段としては、かしめ以外にも、圧入によるもの、接着によるもの等、種々の手段が挙げられているから、円板形状の多孔体63を確実に固定するという効果が、「かしめ」により奏される特有の効果ということはできない。
さらに、先願発明1における円板形状の多孔体の弁体本体の先端部への固定として、上記周知慣用の技術事項を用いることで新たな効果を奏するものとはいえない。
してみると、上記相違点に係る事項は、先願発明1における「絞り通路における混入物詰まりによる冷媒流量の変動を来すことなく冷媒擦過音を低減でき、長期間の使用においても、安定した除湿運転性能を得ることができる絞り装置を提供する」(前記第5 1.b)を参照。)なる課題、あるいは、本件特許発明1の「圧損が小さくて、かつ、騒音の発生を防止できる膨脹弁を提供する」(本件訂正明細書段落【0006】を参照。)なる課題を解決するための具体化手段における微差であって、上記相違点は、実質的な相違点ではない。
ゆえに、本件特許発明1と先願発明1とは、実質的に同一であり、しかも、本件特許発明1の発明者が先願発明1の発明者と同一の者であるとも、また、本願の出願の時にその出願人が上記先願の出願人と同一の者であるとも認められないので、本件特許発明1は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(2)本件特許発明3
本件特許発明3は、本件特許発明1に更に「絞り部の両側に多孔体が設けられている」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明3と先願発明1とを対比する。
先願発明1では、「弁体17には、中空開口部18、オリフィス通路25、連通孔24により構成される内部通路が設けられ、中空開口部18とオリフィス通路25との間にオリフィス通路25が直接形成され、連通孔24の弁体側部に対する開口部には、混入物捕捉用の円環状の多孔質部材19が装着され、中空開口部18には、流体流動音低減用で整流化作用が得られる2個の円板状の多孔質部材23A、23Bが挿入固定され」ていることから、オリフィス通路25の両側に、混入物捕捉用の円環状の多孔質部材19と流体流動音低減用で整流化作用が得られる2個の多孔質部材23A、23Bが設けられているといえる。
したがって、先願発明1は、本件特許発明3の「絞り部の両側に多孔体が設けられている」なる発明特定事項を具備している。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明3は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(3)本件特許発明4
本件特許発明4は、本件特許発明1、3に更に「当接部が、弁体冷媒通路の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分である」なる発明特定事項を付加するものである。
そこで、本件特許発明4と先願発明1とを対比すると、本件特許発明4では、当接部が、弁体冷媒通路の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分であるのに対して、先願発明1では、当該発明特定事項を具備しない点で相違する。
すなわち、先願発明1は、「当接部が、弁体冷媒通路の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分である」との事項を具備しておらず、また、かかる事項は、先願明細書の記載からみて自明なことともいえない。
そして、本件特許発明4は、かかる事項を具備することにより、本件特許明細書に記載の「弁体のテーパー状に屈曲した当接部は、かしめ加工によって形成されているから、当接部が簡単安価に製造できる。」(段落【0110】)なる効果を奏するものである。
請求人は、審判請求書(第25ページ第1行?4行)において、甲第1号証の「弁室14には弁体17が図にて上下方向(弁リフト方向)に移動可能に設けられている。弁体17は、先端外周面17Aにて弁ポート15の周りに画定されている弁座部16に着座して弁ポート15を閉じる弁閉位置と、弁座部16より離れて弁ポート15の連通を確立する弁開位置との間に移動可能になっている。」(前記第6 1.c))なる記載と【図1】?【図4】の図示内容から、甲第1号証の弁座部16に着座して閉弁する弁体17の先端外周面17Aがテーパー状に形成されている旨主張する。
しかしながら、甲第1号証の「先端外周面17A」は、弁体17の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分とはいえないので、請求人の上記主張は採用することができない。
ゆえに、本件特許発明4は、先願発明1と同一ではないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないということはできない。(4)本件特許発明5及び6
本件特許発明5は、本件特許発明4に更に発明特定事項を付加するものであり、本件特許発明6は、本件特許発明4または5に更に発明特定事項を付加するものである。
したがって、本件特許発明4について検討したと同様に、本件特許発明5及び6は、先願発明1と同一ではないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(5)本件特許発明7
本件特許発明7は、本件特許発明1に更に「絞り部は、弁体本体と同じ材質で形成され、かつ、弁体本体と一体に形成されている」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明7と先願発明1とを対比する。
先願発明1において、「弁体17」には、「中空開口部18と連通孔24との間にオリフィス通路25が直接形成され」ていることから、オリフィス通路25は、弁体17に一体に同じ材質で形成されていることは明らかである。
したがって、先願発明1は、本件特許発明7の「絞り部は、弁体本体と同じ材質で形成され、かつ、弁体本体と一体に形成されている」なる発明特定事項を具備している。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明7は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(6)本件特許発明9
本件特許発明9は、本件特許発明1に更に「多孔体の少なくとも1つは、略円板状または円柱状である」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明9と先願発明1とを対比する。
先願発明1において、多孔質部材19は、無底の円環状であり、多孔質部材23A、23Bは、円板状である。
したがって、先願発明1は、本件特許発明9の「多孔体の少なくとも1つは、略円板状または円柱状である」なる発明特定事項を具備している。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明9は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(7)本件特許発明10及び11
本件特許発明10は、本件特許発明1に更に「絞り部の絞りと多孔体との間に、絞りの断面積よりも大きな断面積の空所を有する」なる発明特定事項を付加するものであり、本件特許発明11は、本件特許発明10に更に「絞り部は、絞りの少なくとも下流側に空所を有する」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明10及び11と先願発明1とを対比する。
先願発明1では、「オリフィス通路25と円板状の多孔質部材23Aとの間にオリフィス通路25の断面積よりも大きな断面積を有する中空部が形成され」るなる発明特定事項を具備するものである。
したがって、先願発明1は、本件特許発明10の「絞り部の絞りと多孔体との間に、絞りの断面積よりも大きな断面積の空所を有する」なる発明特定事項及び本件訂正発明11の「絞り部は、絞りの少なくとも下流側に空所を有する」なる発明特定事項を具備している。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明10及び11は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(8)本件特許発明12
本件特許発明12は、本件特許発明1に更に「多孔体の孔の径は、絞り部の絞りの径よりも小さい」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明12と先願発明1とを対比する。
先願発明1において、円環状の多孔質部材19は、混入物捕捉用であり、円板状の多孔質部材23A、23Bは流体流動音低減用で整流化作用が得られるものである。これに対して、オリフィス通路25の孔は、絞り機能を有するが、混入物捕捉、流体流動音低減、整流化の機能を有さないことが、その機能面からみて明らかである。そうすると、これら多孔質部材19、23A、23Bの孔の径が、オリフィス通路25の孔の径に比して小さいものであることは明らかである。
したがって、先願発明1は、本件特許発明12の「多孔体の孔の径は、絞り部の絞りの径よりも小さい」なる発明特定事項を具備している。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明12は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(9)本件特許発明13
本件特許発明13は、本件特許発明1に更に「多孔体の肉厚が、その多孔体の孔の径の2倍以上である」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明13と先願発明1とを対比する。
先願発明1において、多孔質部材19、23A、23Bは、焼結成形による多孔質金属により構成され、多孔質金属が厚み方向に複数の孔を有するものであることから、これら多孔質部材の肉厚が、その多孔質部材の孔の径の2倍以上であることは明らかである。
したがって、先願発明1は、本件特許発明13の「多孔体の肉厚が、その多孔体の孔の径の2倍以上である」なる発明特定事項を具備している。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明13は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(10)本件特許発明14
ア.対比
本件特許発明14と先願発明2とを対比する。
本件特許発明14が引用する本件特許発明1と、先願発明2が引用する先願発明1との対比については、上記(1)を参照のこと。
そこで、本件特許発明14により付加される発明特定事項と先願発明2により付加される発明特定事項とを対比する。
先願発明2の「圧縮機50」は、その構成及び機能からみて、本件訂正発明14の「圧縮機」に相当し、以下同様に、
「室外熱交換器51」は「室外熱交換器」に、
「膨張弁54」は「膨張機構」に、
「第1の室内熱交換器52」は「第1室内熱交換器」に、
「絞り装置10」は「膨張弁」に、
「第2の室内熱交換器53」は「第2室内熱交換器」に、
「順次ループ接続する冷媒通路」は「順次接続した冷媒回路」に、
「空気調和機」は「空気調和機」に、
それぞれ相当する。
したがって、両者は、
「圧縮機と、室外熱交換器と、膨張機構と、第1室内熱交換器と、膨張弁と、第2室内熱交換器とを順次接続した冷媒回路を有する空気調和機。」
である点で一致する。
したがって、両者は、上記(1)において検討した相違点を有する。
イ.相違点の判断
上記(1)において検討したことと同様に、上記相違点は、実質的な相違点ではないから、本件特許発明14は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
(11)まとめ
本件特許発明1、3、7、9?14は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないので、その特許は、無効とされるべきものである。また、本件特許発明4?6は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないということはできない。

2.無効理由2(特許法第29条第2項)
ア.対比
本件特許発明1と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1に記載された「第1流体口1a」は、その構成及び機能からみて、本件特許発明1の「入口」に相当し、以下同様に、
「第2流体口1b」は「出口」に、
「第1流体口1aと第2流体口1bとに通ずる弁室1c」は「入口および出口に連通する弁室」に、
「弁室1cの底部に形成されている弁座1d」は「弁室に設けられた弁座」に、
「弁本体1」は「ハウジング」に、
「弁室1c内で弁座1dに向けて付勢されている弁体2」は、弁体2が弁座1dに当接する部分を有していることは明らかであるから、「ハウジングの弁室内に移動可能に設けられて、弁座に接離する当接部を有する弁体」に、
「弁座1dを開閉する弁体2が吸着される吸引子4と、電磁コイル5」は、弁体2が電磁コイル5の作用により吸引子4に吸引され、開閉駆動を行うものであることから、「弁体を駆動する駆動部」に、
「膨張器兼用の双方向型電磁弁」は「膨張弁」に、
「弁体2には、弁体2内を貫通する漏洩流路を設け、弁体2の先端部に設けた凹孔2aには、オリフィス7を挟んで、ステンレス鋼粉末を焼結して得た、有底円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとが嵌着され」ることは、オリフィス7と多孔体6a、6bとが弁体2の本体を構成する漏洩通路に設けられているといえることから、「弁体は、内部に弁体冷媒通路を有する弁体本体と、この弁体冷媒通路に設けられた絞り部と、弁体冷媒通路に設けられ、冷媒が通過可能な多孔体とを含」むことに、
「弁閉時に、弁体2は、複数の通孔2bが第1流体口1aに対向し、凹孔2aの開口面が第2流体口1bに対向」することは「弁座に当接部が当接した絞り状態で、弁体冷媒通路の入口および出口がハウジングの入口および出口に対向する」ことに、
「多孔体が、消音効果を大きくする、有底円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとからな」ることは「多孔体の少なくとも1つは、略円筒状」であることに、
それぞれ相当する。
そして、甲2発明1の「弁体2の先端部に設けた凹孔2aには、オリフィス7を挟んで、ステンレス鋼粉末を焼結して得た、有底円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとが嵌着され」ることと本件特許発明1の「略円筒状またはリング状の多孔体が弁体本体に外嵌されて」いることとは、「略円筒状の多孔体が弁体本体に嵌められ」ている点で共通し、同様に、
「円板状の多孔体6bが凹孔2aの開口側に嵌着されている」ことと「弁体冷媒通路に設けられた円板形状の多孔体は、弁体本体の先端部にかしめで固定されていること」とは、前者において、凹孔2aの開口側は、凹孔2aの先端部側でもあること、及び、嵌着されることは、嵌ることによりくっつき固定されることであるから、両者は、「弁体冷媒通路に設けられた円板形状の多孔体は、弁体本体の先端部に固定されていること」で共通する。
したがって、上記両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「入口と、出口と、この入口および出口に連通する弁室と、この弁室に設けられた弁座とを有するハウジングと、このハウジングの弁室内に移動可能に設けられて、上記弁座に接離する当接部を有する弁体と、上記弁体を駆動する駆動部とを備えた膨張弁において、上記弁体は、内部に弁体冷媒通路を有する弁体本体と、この弁体冷媒通路に設けられた絞り部と、上記弁体冷媒通路に設けられ、冷媒が通過可能な多孔体とを含み、上記弁座に上記当接部が当接した絞り状態で、上記弁体冷媒通路の入口および出口が上記ハウジングの入口および出口に対向し、上記多孔体の少なくとも1つは、略円筒状であり、この略円筒状の多孔体が弁体本体に嵌められており、
また、上記弁体冷媒通路に設けられた円板形状の多孔体は、上記弁体本体の先端部に固定されていることを特徴とする膨張弁。」

[相違点1]
本件特許発明1では、略円筒状の多孔体が弁体本体に外嵌されているのに対して、甲2発明1では、弁体2の先端部に設けた凹孔2aには、オリフィス7を挟んで、ステンレス鋼粉末を焼結して得た、有底円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとが嵌着されている点。
[相違点2]
円板形状の多孔体の弁体本体の先端部への固定が、本件特許発明1では、かしめ固定であるのに対して、甲2発明1では、どのような手段により行われるのか不明である点。
イ.相違点の判断
(ア)相違点1について
a.本件特許発明1について
本件特許発明1の「この略円筒状またはリング状の多孔体が弁体本体に外嵌されている」なる発明特定事項における「外嵌」について、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の項には、「上記弁体本体61の外周に設けた片溝に、上記円筒形状の多孔体62を嵌合し、この多孔体62を弁体本体61に例えばスナップリング等の止め輪64で固定している。」(段落【0068】)ことが記載されている。
また、本件特許発明1によれば、「多孔体」は、「弁体冷媒通路」に設けられるものであり、「弁体」は、「内部に弁体冷媒通路を有する弁体本体」を含むものであるといえる。そうすると、本件特許発明1において、「多孔体」は「弁体本体」内部に設けられていることになる。
したがって、「多孔体が弁体本体に外嵌されている」ことは、多孔体が「外嵌」により、弁体本体内部に設けられていることと解される。
b.甲3発明について
ここで、本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明に記載された「メインポペット27」は、その構成及び機能からみて、本件特許発明1の「弁体本体」に相当する。
そして、甲3発明に記載された「メインポペット27の先端部の外周に設けた片溝に、円筒状フィルタ37を嵌合し、Oリング39にストッパ機能を発揮させ」ることと、本件特許発明1の「略円筒状」「の多孔体が弁体本体に外嵌されて」いることとを対比する。
上記aで検討したように、後者において、多孔体が「外嵌」により弁体本体内部に設けられるものであり、前者においても、弁体本体であるメインポペット27は、その外周に設けた片溝に嵌合される限りにおいて、本件特許発明1と同一の発明特定事項を具備することから、メインポペット27は、「外嵌」により弁体本体内部に設けられているものといえる。
したがって、前者の円筒状フィルタ37と後者の略円筒状の多孔体とは、共に、弁体本体の外周に設けた片溝に止め輪で固定される点において一致する。
また、甲3発明に記載された「切換弁」と本件特許発明1の「膨張弁」とは、弁に流れる流体を制御するものである点で共通するから、両者は「流量制御弁」である点で共通する。
したがって、甲3発明は、「略円筒状多孔体が弁体本体に外嵌されている流量制御弁。」と言い換えることができる。
c.甲2発明1の甲3発明への適用について
甲2発明1と甲3発明とは、流量制御弁という共通の技術分野に属する発明であり、しかも、弁本体に装着される騒音防止のためのフィルタという点で同一の機能を奏するものである。
ところで、被請求人は、審判事件答弁書において、甲2発明1に甲3発明を適用することに阻害事由、すなわち、仮に、甲2発明1の有底の円筒状の多孔体6aに代えて、甲第3号証の図9および10に示される底無しの円筒状のフィルタ37を設けると、オリフィス7を出た噴流が弁体2に衝突して擦過音の発生を抑制できなくなる旨主張している(前記第4 2.(2)ウを参照)。
しかしながら、甲2発明1の他の例(図2を参照。)のものは、有底円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとからなる多孔体のうち、円板状の多孔体6bによっても消音効果を奏するものである(前記第5 2.f)を参照。)。このことから、甲2発明1において、有底円筒状の多孔体6aによる第2流体口から流入する冷媒の消音効果を犠牲にしても、円板状の多孔体6bによる消音効果を奏するものである。したがって、甲2発明1の有底の円筒状の多孔体6aに、甲3発明を適用するに際し、被請求人の阻害事由が存在する旨の主張は採用できない。
そうすると、甲2発明1に甲3発明を適用して、弁体2の凹孔2aに嵌着されている円筒状の多孔体6aを弁体2に外嵌させることは、当業者が容易になし得たものである。
(イ)相違点2について
膨張弁の技術分野において、弁室に移動可能に設けた弁体内への多孔体の固定を、弁体本体の先端部をかしめることにより行うことは本願出願前に周知慣用の技術事項である(例えば、甲第9号証「前記第5 9.a)、b)」を参照。)。
したがって、甲第2発明1の円板状の多孔体6bの固定手段として上記周知慣用の技術事項を採用することは、当業者が容易になし得たものである。
(ウ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1の奏する効果についてみても、甲2発明1、甲3発明及び周知慣用の技術事項から当業者が予測できる効果の範囲内のものである。
ウ.小括
ゆえに、本件特許発明1は、甲2発明1、甲3発明及び周知慣用の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本件特許発明3
本件特許発明3は、本件特許発明1に更に「絞り部の両側に多孔体が設けられている」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明3と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1では、「オリフィス7を挟んで円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとが嵌着され」ていることから、オリフィス7の両側に、円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bが設けられているといえる。
したがって、甲2発明1は、本件特許発明3の「絞り部の両側に多孔体が設けられている」なる発明特定事項を具備している。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明3は、甲2発明1、甲3発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)本件特許発明4
本件特許発明4は、本件特許発明1、3に更に「当接部が、弁体冷媒通路の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分である」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明4は、当該発明特定事項を具備することにより、本件特許明細書に記載の「弁体のテーパー状に屈曲した当接部は、かしめ加工によって形成されているから、当接部が簡単安価に製造できる。」(段落【0110】)なる効果を奏するものである。
そこで、本件特許発明4と甲2発明1とを対比する。
両者は、当接部が、本件特許発明4では、弁体冷媒通路の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分であるのに対して、甲2発明1では、当該発明特定事項を具備しない点で相違する。
そして、当接部が、弁体冷媒通路の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分であることは、甲第3?9号証のいずれにも記載されておらず、また、当接部を相違点のようにすることが容易ともいえない。
ゆえに、本件特許発明4は、請求人の主張及び証拠方法によっては、特許法第29条第2項の規定に該当するものとすることはできない。
(4)本件特許発明5及び6
本件特許発明5は、本件特許発明4に更に発明特定事項を付加するものであり、同様に、本件特許発明6は、本件特許発明4または5に更に発明特定事項を付加するものである。
したがって、本件特許発明4について検討したと同様に、本件特許発明5及び6は、請求人の主張及び証拠方法によっては、特許法第29条第2項の規定に該当するものとすることはできない。
(5)本件特許発明7
本件特許発明7は、本件特許発明1に更に「絞り部は、弁体本体と同じ材質で形成され、かつ、弁体本体と一体に形成されている」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明7と甲2発明1とを対比する。
本件特許発明7の「絞り部は、弁体本体と同じ材質で形成され、かつ、弁体本体と一体に形成されている」のに対し、甲2発明1はそのようになっていない。
ところで、甲第5号証には、絞り機能を有する流通孔14aが弁体14と一体に形成されている膨張弁についての技術事項が記載されている。
したがって、甲第5号証に記載された技術事項は、本件特許発明7により付加される発明特定事項と同一のものである。
そして、甲2発明1と甲第5号証に記載された技術事項とは、膨張弁という同一の技術分野に属するものである。
したがって、本件特許発明7は、上記(1)で検討した、甲2発明1に甲3発明及び周知慣用の技術事項を適用して、有底円筒状の多孔体6aを弁体2に外嵌するに際して、甲2発明1に同一の技術分野に属する甲第5号証に記載された技術事項に基づいて、オリフィス7を弁体2と一体に形成することは、当業者が容易になし得たものである。
ゆえに、本件特許発明7は、甲2発明1、甲3発明、周知慣用の技術事項、甲第5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(6)本件特許発明9
本件特許発明9は、本件特許発明1に更に「多孔体の少なくとも1つは、略円板状または円柱状である」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明9と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1において、多孔体は、有底円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとからなる。
したがって、甲2発明1は、本件特許発明9の「多孔体の少なくとも1つは、略円板状または円柱状である」なる発明特定事項を具備している。
したがって、本件特許発明9は、上記(1)で検討したと同様に、甲2発明1、甲3発明及び周知慣用の技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものである。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(7)本件特許発明10及び11
本件特許発明10は、本件特許発明1に更に「絞り部の絞りと多孔体との間に、絞りの断面積よりも大きな断面積の空所を有する」なる発明特定事項を付加するものであり、本件特許発明11は、本件特許発明10に更に「絞り部は、絞りの少なくとも下流側に空所を有する」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明10及び11と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1では、オリフィス7と円板状の多孔体6bとの間に空所を形成するものである。そして、甲2発明1は、双方向型であり、円板状の多孔体6bは、取付方向に応じて、オリフィス7の下流側となるものである。
したがって、甲2発明1は、本件特許発明10の「絞り部の絞りと多孔体との間に、絞りの断面積よりも大きな断面積の空所を有する」なる発明特定事項及び本件訂正発明11の「絞り部は、絞りの少なくとも下流側に空所を有する」なる発明特定事項を具備している。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明10及び11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(8)本件特許発明12
本件特許発明12は、本件特許発明1に更に「多孔体の孔の径は、絞り部の絞りの径よりも小さい」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明12と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1において、円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとは、消音効果を大きくする機能を有するものである。これに対して、オリフィス7の孔は、絞り機能を有するが、消音効果を有さないことは、その機能面からみて明らかである。そうすると、甲2発明1において、これら多孔体の孔の径が、オリフィス7の孔の径に比して小さいものであることは明らかである。
したがって、甲2発明1は、本件特許発明12の「多孔体の孔の径は、絞り部の絞りの径よりも小さい」なる発明特定事項を具備している。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明12は、特許法第29条第2項の規定により 特許を受けることができない。
(9)本件特許発明13
本件特許発明13は、本件特許発明1に更に「多孔体の肉厚が、その多孔体の孔の径の2倍以上である」なる発明特定事項を付加するものである。
本件特許発明13と先願発明とを対比する。
甲2発明1において、有底円筒状の多孔体6aと円板状の多孔体6bとからなる多孔体は、ステンレス鋼粉末を焼結して得らえ、多孔体6a、6bが厚み方向に複数の孔を有するものであることから、これら多孔体6の肉厚が、その多孔体6の孔の径の2倍以上であることは明らかである。
したがって、甲2発明1は、本件特許発明13の「多孔体の肉厚が、その多孔体の孔の径の2倍以上である」なる発明特定事項を具備している。
ゆえに、上記(1)で検討したことと同様に、本件特許発明13は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(10)本件特許発明14
ア.対比
本件特許発明14と甲2発明2とを対比する。
本件特許発明14が引用する本件特許発明1と、甲2発明2が引用する甲2発明1との対比については、上記(1)を参照のこと。
そこで、本件特許発明14により付加される発明特定事項と先願発明2により付加される発明特定事項とを対比する。
甲2発明2の「圧縮機d」は、その構成及び機能からみて、本件特許発明14の「圧縮機」に相当し、以下同様に、
「室外熱交換器c」は「室外熱交換器」に、
「膨張弁f」は「膨張機構」に、
「室内熱交換器b」は「第1室内熱交換器」に、
「双方向型電磁弁V」は「膨張弁」に、
「室内熱交換器a」は「第2室内熱交換器」に、
「順次接続する回路」は「順次接続した冷媒回路」に、
「ヒートポンプ式エアコンシステム」は「空気調和機」に、
それぞれ相当する。
したがって、両者は、
「圧縮機と、室外熱交換器と、膨張機構と、第1室内熱交換器と、膨張弁と、第2室内熱交換器とを順次接続した冷媒回路を有する空気調和機。」
である点で一致する。
したがって、両者は、上記(1)において検討した相違点1及び2を有する。
イ.相違点の判断
上記(1)で検討したことと同様に、上記相違点1及び2は、甲2発明1、甲3発明及び周知慣用の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許発明14は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(11)まとめ
本件特許発明1、3、7、9?14は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、その特許は、無効とされるべきものである。
また、本件特許発明4?6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないということはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1、3、7、9?14は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、その特許は無効とされるべきものである。
そして、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明4?6の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、請求人が12分の3、被請求人が12分の9を負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
膨張弁および空気調和機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】入口(12,84)と、出口(13,85)と、この入口(12,84)および出口(13,85)に連通する弁室(11,83)と、この弁室(11,83)に設けられた弁座(15,86)とを有するハウジング(10,50,80)と、
このハウジング(10,50,80)の弁室(11,83)内に移動可能に設けられて、上記弁座(15,86)に接離する当接部(29,65,103)を有する弁体(20,60,90,110)と、
上記弁体(20,60,90,110)を駆動する駆動部(40,70,160)とを備えた膨張弁において、
上記弁体(20,60,90,110)は、内部に弁体冷媒通路(30,130,140,150)を有する弁体本体(21,61,91,111)と、この弁体冷媒通路(30,130,140,150)に設けられた絞り部(25,95,115)と、上記弁体冷媒通路(30,130,140,150)に設けられ、冷媒が通過可能な多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)とを含み、
上記弁座(15,86)に上記当接部(29,65,103)が当接した絞り状態で、上記弁体冷媒通路(30,130,140,150)の入口(31,98,122,131)および出口(32,97,113,132)が上記ハウジング(10,50,80)の入口(12,84)および出口(13,85)に対向するか、あるいは、弁室(11,83)の壁面に空間を空けて対向し、
上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の少なくとも1つは、略円筒状またはリング状であり、この略円筒状またはリング状の多孔体(62)が弁体本体(61)に外嵌されており、
また、上記弁体冷媒通路(130)に設けられた円板形状の多孔体(63)は、上記弁体本体(61)の先端部にかしめで固定されていることを特徴とする膨張弁。
【請求項2】入口(12,84)と、出口(13,85)と、この入口(12,84)および出口(13,85)に連通する弁室(11,83)と、この弁室(11,83)に設けられた弁座(15,86)とを有するハウジング(10,50,80)と、
このハウジング(10,50,80)の弁室(11,83)内に移動可能に設けられて、上記弁座(15,86)に接離する当接部(29,65,103)を有する弁体(20,60,90,110)と、
上記弁体(20,60,90,110)を駆動する駆動部(40,70,160)とを備えた膨張弁において、
上記弁体(20,60,90,110)は、内部に弁体冷媒通路(30,130,140,150)を有する弁体本体(21,61,91,111)と、この弁体冷媒通路(30,130,140,150)に設けられた絞り部(25,95,115)と、上記弁体冷媒通路(30,130,140,150)に設けられ、冷媒が通過可能な多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)とを含み、
上記弁座(15,86)に上記当接部(29,65,103)が当接した絞り状態で、上記弁体冷媒通路(30,130,140,150)の入口(31,98,122,131)および出口(32,97,113,132)が上記ハウジング(10,50,80)の入口(12,84)および出口(13,85)に対向するか、あるいは、弁室(11,83)の壁面に空間を空けて対向し、
上記弁体(90)を弁座(86)に向けて付勢するスプリング(105)と、上記駆動部(160)とは、上記弁体(90)の両側に配置され、かつ、
上記駆動部(160)は、上記弁体(90)を押圧して、弁体(90)を弁座(86)から離間させ、
上記スプリング(105)は、上記弁体本体(91)に、上記多孔体(92,93)または絞り部(95)の少なくとも1つを直接的または間接的に押し付けて、上記多孔体(92,93)または絞り部(95)の少なくとも1つを弁体本体(91)に取り付けていることを特徴とする膨張弁。
【請求項3】請求項1または2に記載の膨張弁において、上記絞り部(25,95,115)の両側に上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)が設けられていることを特徴とする膨張弁。
【請求項4】請求項1乃至3のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記当接部(29,65)が、弁体冷媒通路(30,130,150)の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分であることを特徴とする膨張弁。
【請求項5】請求項4に記載の膨張弁において、テーパー状に屈曲した上記当接部(29,65)によって、上記絞り部(25,115)または上記多孔体(22,23,62,63,112,113)の少なくとも一方を固定していることを特徴とする膨張弁。
【請求項6】請求項4または5に記載の膨張弁において、上記テーパー状に屈曲した当接部(29,65)は、かしめ加工によって形成されていることを特徴とする膨張弁。
【請求項7】請求項1乃至6のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記絞り部は、上記弁体本体(61)と同じ材質で形成され、かつ、弁体本体(61)と一体に形成されていることを特徴とする膨張弁。
【請求項8】請求項1乃至6のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記絞り部(25,95,115)は弾性体で形成されていることを特徴とする膨張弁。
【請求項9】請求項1乃至8のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の少なくとも1つは、略円板状または円柱状であることを特徴とする膨張弁。
【請求項10】請求項1乃至9のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記絞り部(115)の絞り(68,116)と上記多孔体(63,112,113)との間に、上記絞り(68,116)の断面積よりも大きな断面積の空所(66,117,118)を有することを特徴とする膨張弁。
【請求項11】請求項10に記載の膨張弁において、上記絞り部(115)は、上記絞り(68,116)の少なくとも下流側に上記空所(66,118)を有することを特徴とする膨張弁。
【請求項12】請求項1乃至11のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の孔の径は、上記絞り部(25,95,115)の絞り(24,68,94,116)の径よりも小さいことを特徴とする膨張弁。
【請求項13】請求項1乃至12のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の肉厚が、その多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の孔の径の2倍以上であることを特徴とする膨張弁。
【請求項14】圧縮機(201)と、室外熱交換器(203)と、膨張機構(205)と、第1室内熱交換器(208)と、請求項1乃至13のいずれか1つに記載の膨張弁(100,200,300,400)と、第2室内熱交換器(209)とを順次接続した冷媒回路を有することを特徴とする空気調和機。
【請求項15】請求項14に記載の空気調和機において、上記冷媒回路にはフィルタ(204,206,211)が設けられ、このフィルタ(204,206,211)の孔の径は上記多孔体(22,23,62,63,92,93,112,113)の孔の径よりも小さいことを特徴とする空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、膨張弁およびその膨張弁を用いた空気調和機に関する。
【0002】
【従来の技術】
空気調和機には、全開状態と絞り状態をとりうる膨張弁を2つの室内熱交換器の間に設けて、この膨張弁を絞り状態にして、冷媒流の上流側の室内熱交換器を凝縮器として機能させ、冷媒流の下流側の室内熱交換器を蒸発器として機能させて、上記蒸発器を通る空気を冷却除湿し、その空気をさらに上記凝縮器に通して暖める、いわゆる再熱ドライ運転をする一方、上記膨張弁を全開状態にして、冷房または暖房運転をするようにしたものがある。
【0003】
このような膨張弁においては、絞り状態において、連続的または不連続的な騒音がでることが良く知られている。
【0004】
そこで、従来、膨張弁としては、ハウジング内に、上下に貫通する貫通穴を有する筒状の弁体本体を弁座に接離可能に設け、この弁体本体が弁座に接触している絞り状態で、入口からの冷媒が、弁体本体の外周面とハウジングの内周面との間の第1漏洩通路、上記貫通穴の上端に緩衝棒を挿入して形成された第2漏洩通路、貫通穴内の多孔体、貫通穴に挿入された螺旋溝部材によって形成された螺旋流路、および、貫通穴内の多孔体を通って、出口から出て行くようにして、騒音を低減するようにしたものがある(実開平4-113864号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の膨張弁では、ハウジングの入口からの冷媒が直接に弁体本体内の貫通穴に入ることなく、狭い第1漏洩通路、第2漏洩通路を通って貫通穴の中に入り、多孔体に至るため、狭い第1漏洩通路と第2漏洩通路が絞りとなり、上記した気液2相の冷媒が流入する場合、この漏洩通路上で不連続音が発生するといった問題があった。
【0006】
そこで、この発明の課題は、圧損が小さくて、かつ、騒音の発生を防止できる膨張弁および空気調和機を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1の発明の膨張弁は、
入口と、出口と、この入口および出口に連通する弁室と、この弁室に設けられた弁座とを有するハウジングと、
このハウジングの弁室内に移動可能に設けられて、上記弁座に接離する当接部を有する弁体と、
上記弁体を駆動する駆動部とを備えた膨張弁において、
上記弁体は、内部に弁体冷媒通路を有する弁体本体と、この弁体冷媒通路に設けられた絞り部と、上記弁体冷媒通路に設けられ、冷媒が通過可能な多孔体とを含み、
上記弁座に上記当接部が当接した絞り状態で、上記弁体冷媒通路の入口および出口が上記ハウジングの入口および出口に対向するか、あるいは、弁室の壁面に空間を空けて対向し、
上記多孔体の少なくとも1つは、略円筒状またはリング状であり、この略円筒状またはリング状の多孔体が弁体本体に外嵌されており、
また、上記弁体冷媒通路に設けられた円板形状の多孔体は、上記弁体本体の先端部にかしめで固定されていることを特徴としている。
【0008】
上記構成によれば、上記弁体冷媒通路に設けられた多孔体によって気液2相の冷媒が均質流にされるから、連続的あるいは不連続的な騒音が低減される。
【0009】
さらに、上記ハウジングの弁座に弁体の当接部が当接した絞り状態で、上記弁体冷媒通路の入口および出口がハウジングの入口および出口に対向するか、あるいは、弁室の壁面に空間を空けて対向しているから、上記ハウジングの入口および出口と、弁体冷媒通路の入口および出口との間で圧損が殆どなくなって、冷媒流動音等の騒音が低減される。
【0010】
したがって、請求項1の発明によれば、極めて騒音の少ない膨張弁が提供される。
また、請求項1の発明によれば、略円筒状またはリング状の多孔体が弁体本体に外嵌しているから、この多孔体によって、大きな通路面積を有する入口または出口を形成することができる。
また、請求項2の発明の膨張弁は、
入口と、出口と、この入口および出口に連通する弁室と、この弁室に設けられた弁座とを有するハウジングと、
このハウジングの弁室内に移動可能に設けられて、上記弁座に接離する当接部を有する弁体と、
上記弁体を駆動する駆動部とを備えた膨張弁において、
上記弁体は、内部に弁体冷媒通路を有する弁体本体と、この弁体冷媒通路に設けられた絞り部と、上記弁体冷媒通路に設けられ、冷媒が通過可能な多孔体とを含み、
上記弁座に上記当接部が当接した絞り状態で、上記弁体冷媒通路の入口および出口が上記ハウジングの入口および出口に対向するか、あるいは、弁室の壁面に空間を空けて対向し、
上記弁体を弁座に向けて付勢するスプリングと、上記駆動部とは、上記弁体の両側に配置され、かつ、
上記駆動部は、上記弁体を押圧して、弁体を弁座から離間させ、
上記スプリングは、上記弁体本体に、上記多孔体または絞り部の少なくとも1つを直接的または間接的に押し付けて、上記多孔体または絞り部の少なくとも1つを弁体本体に取り付けていることを特徴としている。
上記構成によれば、上記弁体を弁座に向けて付勢するスプリングと、上記駆動部とは、上記弁体の両側に別々に配置されていて、上記駆動部は弁体を押圧のみする。したがって、一般に電気系である駆動部と、機械系である弁体とを分離できて、製造組み立てが容易で、メンテナンスが容易になる。
また、上記構成によれば、上記弁体の当接部を弁座に押し付けるスプリングのばね力によって、上記多孔体または絞り部の少なくとも1つを弁体本体に取り付けている。したがって、上記多孔体または絞り部の少なくとも1つを弁体本体に簡単に取り付けることができる。
【0011】
請求項3の発明の膨張弁は、請求項1または2に記載の膨張弁において、上記絞り部の両側に上記多孔体が設けられていることを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、気液2相流状態で、砲弾型気泡と液とが交互に現れるスラグ流やプラグ流が絞り部に流入する場合においても、絞り部の上流側に設けた多孔体により気液2相の冷媒は均質流化されるため、不連続音の発生が抑えられる。この場合、多孔体の細孔径が小さいほど、ガス冷媒と液冷媒との均質化が促進され、不連続音は小さくなる。また、絞り部より噴出される高速の気液2相の噴流は、絞り部の下流に設けた多孔体により速やかに拡散され減速されるため、連続音が低減される。
【0013】
請求項4の発明の膨張弁は、請求項1乃至3のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記当接部が、弁体冷媒通路の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分であることを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、上記当接部が、弁体冷媒通路の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分であるから、当接部を簡単安価に製造できる。
【0015】
請求項5の発明の膨張弁は、請求項4に記載の膨張弁において、テーパー状に屈曲した上記当接部によって、上記絞り部または上記多孔体の少なくとも一方を固定していることを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、上記当接部は、弁座に接離して開閉する本来の機能の他に、上記絞り部または上記多孔体の少なくとも一方を固定する機能を有する。したがって、上記絞り部や上記多孔体を簡単安価に固定することができる。
【0017】
請求項6の発明の膨張弁は、請求項4または5に記載の膨張弁において、上記テーパー状に屈曲した当接部は、かしめ加工によって形成されていることを特徴としている。
【0018】
上記構成によれば、上記テーパー状に屈曲した当接部は、かしめ加工によって形成されているから、当接部が簡単安価に製造できる。
【0019】
請求項7の発明の膨張弁は、請求項1乃至6のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記絞り部は、上記弁体本体と同じ材質で形成され、かつ、弁体本体と一体に形成されていることを特徴としている。
【0020】
上記構成によれば、上記絞り部は、上記弁体本体と同じ材質で形成され、かつ、弁体本体と一体に形成されているから、つまり、絞りが弁体本体に形成されているから、絞り部としての別部材が不必要になって、絞りが簡単安価に製造できる。
【0021】
請求項8の発明に膨張弁は、請求項1乃至6のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記絞り部は弾性体で形成されていることを特徴としている。
【0022】
上記構成によれば、上記絞り部は弾性体で形成されているから、この絞り部を弁体冷媒通路の内壁面等に密着させて、無用の隙間をなくすることができ、したがって、安定した絞り量を得ることができる。
【0023】
請求項9の発明の膨張弁は、請求項1乃至8のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記多孔体の少なくとも1つは、略円板状または円柱状であることを特徴としている。
【0024】
上記構成によれば、上記多孔体の少なくとも1つは、略円板状または円柱状であるから、この多孔体を簡単安価に製造でき、弁体冷媒通路内に簡単に密に装着することができる。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
請求項10の発明の膨張弁は、請求項1乃至9のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記絞り部の絞りと上記多孔体との間に、上記絞りの断面積よりも大きな断面積の空所を有することを特徴としている。
【0032】
絞り部の絞りの前後に空所を設けず、多孔体を絞り部の絞りに直接接触させて設けた場合、この接触部分で、絞り部の絞りと多孔体の孔との重なり具合によっては、絞り部の絞りや多孔体の孔よりも、冷媒の通過断面積が狭くなるところができることがあり、ここでスラッジ等が詰り易くなる。この構成によれば、上記絞り部の絞りと上記多孔体との間に、上記絞り部の絞りの断面積よりも大きな断面積の空所を有するから、絞り部の絞りと多孔体の孔とが直接接触することなく、この部分でのスラッジの詰まりを防止できる。さらに、上記構成によれば、上記絞り部の絞りと上記多孔体との間に、上記絞りの断面積よりも大きな断面積の空所を有するから、この空所にスラッジ等が溜まる。したがって、多孔体の目詰まりを防止できる。
【0033】
請求項11の発明の膨張弁は、請求項10に記載の膨張弁において、上記絞り部は、上記絞りの少なくとも下流側に上記空所を有することを特徴としている。
【0034】
上記構成によれば、上記絞りの減圧過程によって、温度および圧力が低下した冷媒および冷凍機油からスラッジが析出しても、このスラッジは、絞りの下流側の上記空所に溜められる。したがって、絞りの下流側の多孔体の目詰まりを防止できる。
【0035】
請求項12の発明の膨張弁は、請求項1乃至11のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記多孔体の孔の径は、上記絞り部の絞りの径よりも小さいことを特徴としている。
【0036】
上記構成によれば、絞り部の上流側に設けた多孔体の孔の径を絞り部の絞りの径よりも小さくすることにより、絞り部で気泡が分裂することが少なくなり、不連続音はさらに低減される。また、さらに、上記多孔体の孔の径は、上記絞り部の絞りの径よりも小さいから、上記多孔体はフィルタとしての機能を有し、絞りの目詰まりを防止できる。
【0037】
【0038】
【0039】
請求項13の発明の膨張弁は、請求項1乃至12のいずれか1つに記載の膨張弁において、上記多孔体の肉厚が、その多孔体の孔の径の2倍以上であることを特徴としている。
【0040】
上記構成によれば、上記多孔体の肉厚が、その多孔体の孔の径の2倍以上であるから、その多孔体において冷媒は少なくとも2つの孔を通過する。したがって、この多孔体は、冷媒を充分に拡散でき、減速でき、気液2相の冷媒を確実に均質流にすることができる。
【0041】
請求項14の発明の空気調和機は、圧縮機と、室外熱交換器と、膨張機構と、第1室内熱交換器と、請求項1乃至13のいずれか1つに記載の膨張弁と、第2室内熱交換器とを順次接続した冷媒回路を有することを特徴としている。
【0042】
上記構成によれば、上記膨張弁を絞り状態にして、再熱ドライ運転を行うことができる。さらに、上記膨張弁は、絞り状態で、流動音等の騒音の発生を抑制できるから、この空気調和機は騒音の発生が少ない。
【0043】
請求項15の発明の空気調和機は、請求項14に記載の空気調和機において、上記冷媒回路にはフィルタが設けられ、このフィルタの孔の径は上記多孔体の孔の径よりも小さいことを特徴としている。
【0044】
上記構成によれば、絞り部の上流側に設けた多孔体の孔の径を絞り部の絞りの径よりも小さくすることにより、絞り部で気泡が分裂することが少なくなり、不連続音はさらに低減される。また、さらに、上記フィルタの孔の径が多孔体の孔の径よりも小さいから、多孔体の目詰まりが防止される。
【0045】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0046】
(参考例)
まず、参考例について説明する。図1に示すように、この膨張弁100は、ハウジング10と、このハウジング10内に昇降可能に設けた弁体20と、この弁体20を駆動する駆動部40とからなる。
【0047】
上記ハウジング10は、弁室11と、この弁室10に横方向から連通する入口12と、弁室11に下方から連通する出口13と、弁室11の下面に設けられた弁座15とを備える。
【0048】
一方、上記弁体20は、剛体である弁体本体21と、円柱形状の多孔体22と、円板形状の多孔体23と、中央に絞り(絞り穴)24を有する円板状の絞り部25とからなる。上記弁体本体21には、下端が開口する有底の丸い大径の穴27と、この穴27に横方向から交わる小径の穴28とを形成して、この穴27、28によって弁体冷媒通路30を形成している。上記大径の穴27には、順に、上記円柱形状の多孔体22、絞り部25および円板形状の多孔体23を密に嵌合して挿入し、上記大径の穴27の壁部の先端を、かしめ加工で、内側にテーパー状に屈曲させて、この内側に屈曲したテーパー状の部分29で、上記多孔体22、23および絞り部25を穴27の底に向けて押し付けて固定している。上記テーパー状の部分29は、かしめ加工で形成されるので、簡単、安価に作ることができる。このテーパ状の部分29は、弁座15に密接することが可能な当接部29を構成している。つまり、この当接部29は、弁座15に接離して開閉を行う機能の他に、多孔体22,23および絞り部25を固定する機能を有している。
【0049】
上記弁体20の当接部29が弁座15に密着している絞り状態で、上記穴27,28からなる弁体冷媒通路30の入口31,31が弁室11の壁面に空間を空けて対向し、かつ、弁体冷媒通路30の出口32がハウジング11の出口13に対向している。これにより、上記絞り状態で、冷媒は、圧損(抵抗)を殆ど受けることなく、ハウジング10の入口12から弁体2の弁体冷媒通路30の入口31,31に流入でき、かつ、弁体20の弁体冷媒通路30の出口32からハウジング10の出口13に流出できて、冷媒の流動音等の騒音の発生が防止される。
【0050】
上記絞り部25は、例えば、ゴムや弾性樹脂等の弾性体からなっていて、上記当接部29によって多孔体23等が押圧された際に、絞り部25が弾性変形して多孔体22,23の端面および弁体本体21の穴27の内面に密着する。このため、上記多孔体22,23の端面および弁体本体21の穴27の内面と絞り部25との間に隙間が生じなくて、安定した絞り量が得られる。上記絞り部25の絞り24の径(直径)は、例えば、0.5?2mmである。
【0051】
一方、上記多孔体22,23は、例えば、発泡金属、発泡樹脂、燒結金属、セラミックス等の材料からなり、多数の孔を有して、冷媒を通過させることができる。上記多孔体22、23の孔の径は、例えば、0.2?2mmであって、かつ、上記絞り部25の絞り24の径よりも小さくしている。こうすることによって、上記多孔体22、23は、フィルタとして機能して絞り24の詰まりを防止し、気泡を予め微細化して絞り24での気泡の分裂を防止し、かつ、気液2相の冷媒を均質流にすることができる。上記多孔体22,23の肉厚(冷媒が通過する方向の厚さ)は、上記孔の径の2倍以上になっていて、各多孔体22,23において冷媒が少なくとも2つの孔を通過するようにして、絞り24から噴出する冷媒を拡散し、減速すると共に、気液2相の冷媒を均質流化している。
【0052】
なお、上記多孔体22,23は、比較的機械的強度が弱いが、弁体本体21に嵌合して保護しているので、損傷するおそれがない。
【0053】
一方、上記駆動部40は、プランジャー41と、吸引子42と、図示しないソレノイドと、スプリング43とからなる。上記プランジャー41、吸引子42およびソレノイドは、磁気回路を構成している。上記ソレノイドが励磁されると、図1に示すように、スプリング43のばね力に抗して、プランジャー41が吸引子42に吸引されて下降する一方、上記ソレノイドが消磁されると、図示しないが、スプリング43のばね力によって、プランジャー41が吸引子42から離間させられて、上昇させられる。なお、45はガイドである。
【0054】
上記プランジャー41は弁体2の弁体本体21の上端に連結していて、上記プランジャー41の下降によって、弁体20の当接部29が弁座15に密着して絞り状態になる一方、上記プランジャー41の上昇によって、弁体20の当接部29が弁座15から離間して全開状態になる。
【0055】
上記構成において、今、駆動部40の図示しないソレノイドの励磁により、図1に示すように、弁体20の当接部29がハウジング10の弁座15に密着している絞り状態にあって、気液2相の冷媒が矢印Xに示すように流れているとする。
【0056】
このとき、冷媒は、まず、ハウジング10の入口12から弁体20の弁体冷媒通路30の入口31,31に流れるが、弁体冷媒通路30の入口31,31がハウジング10の弁室11の壁面に空間を空けて対向しているから、ハウジング10の入口12から弁体冷媒通路30の入口31,31に至る間の通路面積が大きくて、殆ど圧損を受けることがなくて、冷媒流動音等の騒音の発生が防止される。
【0057】
上記弁体冷媒通路30の入口31,31に流入した気液2相の冷媒は、円柱形状の多孔体22を通過する間に、気体冷媒と液冷媒が混じり合って均質流化され、かつ、気泡が微細化されて絞り24の径よりも小さくなって、絞り部25の絞り24に流入する。このように、気体冷媒と液冷媒が均質に混じり合った均質流が絞り24を通って、気泡と液冷媒が交互に絞り24を通ることがないので、不連続的な騒音の発生が防止される。さらに、上記多孔体22の孔の径が絞り24の径よりも小さいから、多孔体22から出て絞り24に流入する気泡の径が、絞り24の径よりも小さくて、絞り24で気泡が分裂することがなく、不連続的な騒音の発生が防止される。さらにまた、上記多孔体22の孔の径が絞り24の径よりも小さいから、多孔体22がフィルタの役目をして、絞り24が異物で詰まるのを防止できる。
【0058】
気液2相の冷媒の場合も液冷媒だけの場合も、いずれであっても、絞り24で減圧されて、高速の気液2相の噴流となるが、直ちに、下流側の円板形状の多孔体23に流入する。この気液2相の冷媒は、多孔体23の内部を通過する間に、徐々に拡散されながら、細分化され、減速されるから、連続的な騒音の発生が防止される。さらに、この多孔体23を気液2相の冷媒が通るから、冷媒の圧力の脈動が抑制されて、不連続的な騒音の発生が防止される。
【0059】
上記多孔体22,23の肉厚は、その内部の孔の径の2倍以上あるから、冷媒が多孔体22,23の各々を通過する間に、少なくとも2個の孔を通過する。したがって、上流側の多孔体22で、気液2相の冷媒を確実に均質流にして絞り24に流入させることができ、また、下流側の多孔体23で、絞り24から噴出する冷媒流を確実に拡散させて、減速することができる。
【0060】
上記多孔体23から流出した冷媒は、弁体冷媒通路30の出口32を通って、ハウジング10の出口13に至る。このとき、上記弁体冷媒通路30の出口32がハウジング10の出口13に対向しているから、弁体冷媒通路30の出口32からハウジング10の出口13に至る間に抵抗がなくて、圧損を受けることなくて、冷媒流動音等の騒音の発生が防止される。
【0061】
一方、この膨張弁100を全開状態にするには、上記駆動部40の図示しないソレノイドを消磁して、スプリング43のばね力によって、プランジャ-41を吸引子42から離間させて上昇させて、弁体20を上昇させて、弁座15と当接部29との間を開放する。
【0062】
このとき、図示しないが、弁体20が上昇しているから、弁体20はハウジング10の入口12と出口13との間の冷媒の流れに対して殆ど抵抗となることはない。
【0063】
この参考例の形態の膨張弁100は、絞り状態において、弁体20の弁体冷媒通路30における絞り24の上流側の多孔体22と下流側の多孔体23の機能によって騒音を低減できることに加えて、弁体冷媒通路30の入口31,31がハウジング10の弁室11の壁面に空間を空けて対向し、かつ、弁体冷媒通路30の出口32がハウジング10の出口13に対向しているため、ハウジング10の入口12、出口13と、弁体20の弁体冷媒通路30の入口31,31、出口32との間の圧損が殆どなくて、冷媒流動音(冷媒通過音)等の騒音の発生を防止でき、したがって、極めて騒音の発生を少なくできる。
【0064】
(第1の実施の形態)
図2に示すように、この第1の実施の形態の膨張弁200は、ハウジング50と弁体60と駆動部70とからなる。
【0065】
上記ハウジング50は、駆動部70に連なる部分のみが参考例のハウジング10と異なり、弁室11、入口12、出口13および弁座15は、参考例の各部分と同じである。
【0066】
上記駆動部70は、プランジャ-71、吸引子72、スプリング73、ガイド75および図示しないソレノイドからなり、機能的には、参考例の駆動部40と略同じである。但し、この第1の実施の形態では、プランジャ-71の下面は円錐面になっており、吸引子73の上面はプランジャ-71の円錐面に嵌合する円錐面なっている。
【0067】
上記弁体60は、弁体本体61と、円筒形状の多孔体62と、円板形状の多孔体63とを備える。上記弁体本体61には、下端に開口する丸い大径の穴66と、その穴66に連通する空所の一例としての円錐状の穴67と、その円錐状の穴67の小径側と連通する絞り68となる小径の穴68と、その穴68に連通する横方向の貫通穴69とからなる弁体冷媒通路130を形成している。
【0068】
上記弁体本体61の外周に設けた片溝に、上記円筒形状の多孔体62を嵌合し、この多孔体62を弁体本体61に例えばスナップリング等の止め輪64で固定している。また、上記弁体本体61の丸い大径の穴66には、上記円板形状の多孔体63を密に嵌め込んでいる。この多孔体63は、弁体本体61に当接部65のかしめで固定している。もっとも、上記多孔体62,63は、圧入、接着等で弁体本体61に固定してもよい。
【0069】
一方、上記弁体60の弁体本体61の当接部65が弁座15に密着している絞り状態で、上記穴66,67,68,69からなる弁体冷媒通路130の入口131となる円筒形状の多孔体62がハウジング50の弁室11の壁面および入口12に空間を空けて対向し、かつ、弁体冷媒通路130の出口132がハウジング50の出口13に対向している。これにより、上記絞り状態で、冷媒は、圧損を殆ど受けることなく、ハウジング50の入口12から弁体60の弁体冷媒通路130の入口131に流入でき、かつ、弁体冷媒通路130の出口132からハウジング50の出口13に流出できて、冷媒流動音等の騒音の発生が防止される。
【0070】
一方、上記弁体冷媒通路130における絞り68の径は、例えば、0.5?2mmである。上記絞り68は、弁体本体61に直接形成しているから、簡単安価に形成することができる。なお、見方を変えると、上記弁体本体61の一部が、絞り68を有する絞り部である。
【0071】
一方、上記多孔体62,63は、例えば、発泡金属、発泡樹脂、燒結金属、セラミックス等の材料からなり、多数の孔を有して、冷媒を通過させることができる。上記多孔体62、63の孔の径は、例えば、0.2?2mmであって、上記絞り68の径よりも小さくしている。こうすることによって、上記多孔体62は、フィルタとして機能して絞り68の詰まりを防止し、気泡を予め微細化して絞り68での気泡の分裂を防止し、かつ、気液2相の冷媒を均質流にすることができる。上記多孔体62,63の肉厚(冷媒が通過する方向の厚さ)は、上記孔の径の2倍以上になっていて、各多孔体62,63において冷媒が少なくとも2つの孔を通過するようにして、冷媒を拡散し、減速すると共に、気液2相の冷媒を均質流化している。特に、上記多孔体63は、絞り68から噴出する冷媒を拡散し、減速して、脈動を抑制して、騒音を低減している。
【0072】
この第1の実施の形態の膨張弁200は、参考例と同様に、絞り状態において、弁体60の弁体冷媒通路130における絞り68の上流側の多孔体62と下流側の多孔体63の機能によって騒音を低減できることに加えて、弁体冷媒通路130の入口131,131がハウジング50の弁室11の壁面に空間を空けて対向し、かつ、弁体冷媒通路130の出口132がハウジング50の出口13に対向しているため、ハウジング50の入口12、出口13と、弁体60の弁体冷媒通路130の入口131,131、出口132との間の圧損が殆どなくて、冷媒通過音等の騒音の発生を防止でき、したがって、極めて騒音の発生を少なくできる。
【0073】
さらに、この第1の実施の形態では、円筒形状の多孔体62を用いているので、冷媒が通過する多孔体62の面積を増大することができる。例えば、図示しないが、穴69を互いに交差する複数本にして、弁体冷媒通路130の入口131を4個以上にして、1つの円筒形状の多孔体62で4個以上の入口131を塞いで、騒音を低減するようにしてもよい。
【0074】
また、この第1の実施の形態では、絞り68の下流側に徐々に拡大する円錐形状の穴67を設けたから、冷媒が絞り68を通過することにより温度、圧力の低下する減圧過程によって、冷媒、冷凍機油から析出するスラッジをこの円錐状の穴67に貯めて、多孔体63にスラッジが目詰まりするのを防止することができる。
【0075】
(第2の実施の形態)
図3に示すように、この膨張弁300は、ハウジング80と、このハウジング80内に昇降可能に設けた弁体90と、この弁体90を駆動する駆動部160とからなる。
【0076】
上記ハウジング80は、ハウジング本体81と、このハウジング本体81にシール部材87を介して固定したカバー82とからなる。上記ハウジング80には、弁室83と、この弁室83に下部の横方向から連通する入口84と、弁室83に上部の横方向から連通する出口85と、弁室83の高さ方向の中央部に設けられた弁座86とを備える。
【0077】
一方、上記弁体90は、略カップ状の弁体本体91と、異なる径の円板形状の多孔体92,93と、中央に絞り94を有する円板状の絞り部95と、押えリング99とからなる。上記弁体本体91の下部を、カバー82の内周面に摺動自在に嵌合して、上記弁体本体91を軸方向に移動可能に案内している。上記弁体本体91には、下端が開口する有底の4段の段付の丸い大径の穴96と、この大径の穴96に上方向から交わる小径の穴97,97と、上記大径の穴96の下部に横方向から交わる穴98を形成して、この穴96,97,97,98によって弁体冷媒通路140を形成している。上記穴98が弁体冷媒通路140の入口98である、穴97,97が弁体冷媒通路140の出口97,97である。上記4段の大径の穴96には、順に、小径の多孔体92、中径の絞り部95、大径の多孔体93および最大径の押えリング99を密に嵌合している。この押えリング99とカバー82との間にコイルスプリング105を縮装して、上記弁体90の弁体本体91の上端周縁の当接部103を弁座86に押し付けると共に、上記弁体本体91に、多孔体92,93、絞り部95および押えリング99を押し付けて固定している。このように、上記弁体90を弁座86に付勢するコイルスプリング105のばね力を利用して、多孔体92,93および絞り部95を弁体本体91に固定しているので、かしめ等が不要で、多孔体92,93等を弁体本体91に簡単に固定することができる。
【0078】
上記弁体90の当接部103が弁座86に密着している絞り状態で、上記弁体冷媒通路140の入口98が弁室83の壁面およびハウジング80の入口84に空間を空けて対向し、かつ、上記弁体冷媒通路140の出口97,97がハウジング80の弁室83の壁面に空間を空けて対向している。これにより、上記絞り状態で、冷媒は、圧損を殆ど受けることなく、ハウジング80の入口84から弁体90の弁体冷媒通路140の入口98に流入でき、かつ、弁体90の弁体冷媒通路140の出口97,97から弁室83を介してハウジング80の出口85に流出できて、冷媒流動音等の騒音の発生が防止される。
【0079】
一方、上記絞り部95は、ゴム等の弾性体あるいは金属、硬質樹脂等の剛体からなり、絞り94の径は、例えば、0.5?2mmである。
【0080】
一方、上記多孔体92,93は、例えば、発泡金属、発泡樹脂、燒結金属、セラミックス等の材料からなり、多数の孔を有して、冷媒を通過させることができる。上記多孔体62、63の孔の径は、例えば、0.2?2mmであって、上記絞り94の径よりも小さくしている。上記多孔体92,93の肉厚は、上記孔の径の2倍以上になっていて、各多孔体92,93において冷媒が少なくとも2つの孔を通過するようにしている。したがって、上記多孔体92,93は、参考例の多孔体22,23と全く同じ騒音を低減する機能と、絞り94の目詰まりを防止するフィルタ機能とを有する。
【0081】
一方、上記駆動部160は、先端にプッシュピン165を有するプランジャー161と、吸引子162と、上記プランジャー161と吸引子162との間に縮装したコイルスプリング164と、上記プランジャー161の回りに配置された図示しないソレノイドとからなる。上記コイルスプリング164のばね力は、弁体90を弁座86に付勢するコイルスプリング105のばね力よりも強く設定している。
【0082】
上記ソレノイドを励磁すると、図3に示すように、プランジャー161がコイルスプリング164のばね力に抗して吸引子162に密着させられて、プッシュピン165が弁体90から離間し、弁体90は、駆動部160と反対側にあるコイルスプリング105のばね力によって、当接部103が弁座86に密着させられて、この膨張弁300は絞り状態になる。
【0083】
一方、上記ソレノイドが消磁すると、プランジャー161がコイルスプリング164のばね力によって吸引子162から離間させられて、プッシュピン165が弁体本体91をコイルスプリング105のばね力に打ち勝って下方に押し下げて、弁体90の当接部103が弁座86から離間して、この膨張弁300は全開状態になる。
【0084】
この第2の実施の形態の膨張弁300は、参考例と同様に、絞り状態において、弁体90の弁体冷媒通路140における絞り94の上流側の多孔体93と下流側の多孔体92の機能によって騒音を低減できることに加えて、弁体冷媒通路140の入口98がハウジング80の弁室83の壁面およびハウジング80の入口84に空間を空けて対向し、かつ、弁体冷媒通路140の出口97,97がハウジング80の弁室83の壁面に空間を空けて対向しているため、ハウジング80の入口84、出口85と、弁体90の弁体冷媒通路140の入口98、出口97,97との間の圧損が殆どなくて、冷媒通過音等の騒音の発生を防止でき、したがって、極めて騒音の発生を少なくできる。
【0085】
さらに、この第2の実施の形態では、弁体90の両側に、弁体90を弁座86に付勢するコイルスプリング105と、駆動部160とを設けて、電気系である駆動部160と、機械系である弁体90とを分離しているので、この膨張弁300は製造が容易で、また、メンテナンスも容易である。
【0086】
(参考例)
図4に示すように、この膨張弁400は、ハウジング10と、このハウジング10内に昇降可能に設けた弁体110と、この弁体110を駆動する駆動部40とからなる。
【0087】
上記ハウジング10と駆動部40は、最初の参考例のハウジング10と駆動部40と全く同じ構成をしており、したがって、最初の参考例の各部分と同じ構成の部分は同じ参照番号を付して説明を省略する。
【0088】
上記弁体110は、剛体である弁体本体111と、略円柱形状の多孔体112,113と、絞り116と空所117,118を有する弾性体または剛体製の絞り部115とからなる。
【0089】
上記弁体本体111には、下端が開口する有底の段付きの丸い大径の穴121と、この穴121の上部に横方向から交わる小径の穴122とを形成して、この穴121,122によって弁体冷媒通路150を形成している。上記段付きの大径の穴27には、順に、円柱形状の多孔体112、絞り部115と、その絞り部115に把持された円柱形状の多孔体113とを密に嵌合して挿入し、上記大径の穴121の壁部の先端を、かしめ加工で、内側にテーパー状に屈曲させて、この内側に屈曲したテーパー状の部分129で、上記多孔体112,113および絞り部115を穴121の底に向けて押し付けて固定している。上記テーパー状の部分129は、かしめ加工で形成されるので、簡単、安価に作ることができる。このテーパ状の部分129は、弁座15に密接することが可能な当接部129を構成している。つまり、この当接部129は、弁座15に接離して開閉を行う機能の他に、多孔体112,113および絞り部115を固定する機能を有している。
【0090】
上記弁体110の当接部129が弁座15に密着している絞り状態で、上記穴121,122からなる弁体冷媒通路150の入口122,122が弁室11の壁面に空間を空けて対向し、かつ、弁体冷媒通路150の多孔体113からなる出口113がハウジング10の出口13に対向している。これにより、上記絞り状態で、冷媒は、圧損(抵抗)を殆ど受けることなく、ハウジング10の入口12から弁体110の弁体冷媒通路150の入口122に流入でき、かつ、弁体110の弁体冷媒通路150の出口113からハウジング10の出口13に流出できて、冷媒の流動音等の騒音の発生が防止される。
【0091】
上記絞り部115の絞り116の径は、例えば、0.5?2mmである。この絞り116の上流側の空所117は、絞り116の断面積および容積よりも大きな断面積および容積を有する。また、この絞り116の下流側の空所118は、上流側の空所117の断面積および容積よりも大きな断面積および容積を有する。
【0092】
一方、上記多孔体112は、上端のコーナが湾曲しており、多孔体113も、下端のコーナが湾曲している。上記多孔体112,113は、例えば、発泡金属、発泡樹脂、燒結金属、セラミックス等の材料からなり、多数の孔を有して、冷媒を通過させることができる。上記多孔体112,113の孔の径は、例えば、0.2?2mmであって、かつ、上記絞り部115の絞り116の径よりも小さくしている。
【0093】
この参考例の膨張弁400は、最初の参考例と同様に、絞り状態において、弁体110の弁体冷媒通路150における絞り116の上流側の多孔体112と下流側の多孔体113の機能によって騒音を低減できることに加えて、弁体冷媒通路150の入口122がハウジング10の弁室11の壁面に空間を空けて対向し、かつ、弁体冷媒通路150の出口113がハウジング10の出口13に対向しているため、ハウジング10の入口12、出口13と、弁体110の弁体冷媒通路150の入口122、出口113との間の圧損が殆どなくて、冷媒通過音等の騒音の発生を防止でき、したがって、極めて騒音の発生を少なくできる。
【0094】
絞り部の絞りの前後に空所を設けず、多孔体を絞り部の絞りに直接接触させて設けた場合、この接触部分で、絞り部の絞りと多孔体の孔との重なり具合によっては、絞り部の絞りや多孔体の孔よりも、冷媒の通過断面積が狭くなるところができることがあり、ここでスラッジ等が詰り易くなる。この構成によれば、上記絞り部115の絞り116と上記多孔体112,113との間に、上記絞り部115の絞り116の断面積よりも大きな断面積の空所117,118を有するから、絞り部115の絞り116と多孔体112,113の孔とが直接接触することなく、この部分でのスラッジの詰まりを防止できる。さらに、この参考例の膨張弁400では、絞り部115の絞り116の両側に空所117,118を設けているので、冷媒、冷凍機油から析出したスラッジが空所117,118に溜まって、多孔体112,113に目詰まりするのが防止される。特に、絞り116の下流側では、減圧過程で冷媒の圧力、温度が低下するため、冷媒および冷凍機油からスラッジが析出し易いが、絞り116の下流側の空所118は、絞り116の上流側の空所117よりも断面積および容積が大きいため、析出したスラッジを充分に溜めることができる。したがって、下流側の多孔体113の目詰まりを防止できる。
【0095】
上記参考例では、絞り116の上流側と下流側とに空所117,118を設けたが、下流側のみに空所を設けてもよい。
【0096】
上記参考例および第1,第2の実施の形態では、駆動部40,70,160は、ソレノイドを用いているが、ソレノイドに代えて、ステッピングモータ等のモータを用いて、弁体を駆動するようにしてもよい。
【0097】
また、上記参考例および第1,第2の実施の形態の膨張弁において、冷媒を前述と逆方向に流して、ハウジング10,50,80および弁体冷媒通路30,130,140,150の入口を出口とし、出口を入口としてもよい。
【0098】
(参考例および第3の実施の形態)
図5は参考例の空気調和機の冷媒回路の回路図である。
【0099】
この冷媒回路は、圧縮機201と、四路切換弁202と、室外熱交換器203と、フィルタ204と、膨張機構の一例としての膨張弁205と、フィルタ206と、液閉鎖弁207と、第1室内熱交換器208と、いわゆるドライ弁として機能する参考例の膨張弁100と、第2室内熱交換209と、ガス閉鎖弁210と、上記四路切換弁202と、フィルタ211と、上記圧縮機201とを順次接続した閉回路である。上記膨張弁100は、図1に示す入口12を第1室内熱交換器208に接続し、出口13を第2室内熱交換器209に接続している。
【0100】
上記フィルタ204,206,211のメッシュの孔の径は、上記膨張弁100の多孔体22,23の孔の径よりも小さくして、このフィルタ204,206,211で異物を除去して、多孔体22,23に目詰まりがしないようにしている。
【0101】
上記構成の空気調和機は、膨張弁100を全開状態にして、四路切換弁202を図示の状態にすると、冷房運転を行い、四路切換弁202を図示の状態から切り替えると、暖房運転を行う。
【0102】
一方、上記四路切換弁202を図5に示す冷房運転状態にして、膨張弁206を全開にし、膨張弁100を、図1に示す絞り状態にすると、第1室内熱交換器208は凝縮器として動作し、第2室内熱交換器209は蒸発器として動作して、再熱ドライ運転を行うことができる。
【0103】
このとき、上記参考例の膨張弁100を用いているから、冷媒流動音等の騒音の発生を防止することができる。
【0104】
上記参考例の膨張弁100に代えて、第3の実施形態として、第1および第2の実施の形態の膨張弁200,300を用いても、同様の作用効果が得られる。
【0105】
この空気調和機においては、冷媒としてはHCFC系冷媒に限らず、HFC系冷媒等種々の冷媒が使用でき、また、冷凍機油として、鉱油の他に、エーテル系、エステル系等の油を使用できる。
【0106】
【発明の効果】
以上より明らかなように、請求項1の発明によれば、ハウジングの弁座に弁体の当接部が当接した絞り状態で、弁体冷媒通路に設けた多孔体によって気液2相の冷媒が均質流にされるから、連続的あるいは不連続的な騒音を低減でき、さらに、上記弁体冷媒通路の入口および出口がハウジングの入口および出口に対向するか、あるいは、弁室の壁面に空間を空けて対向しているから、上記ハウジングの入口および出口と、弁体冷媒通路の入口および出口との間で圧損が殆どなくなって、冷媒流動音等の騒音を低減できて、極めて騒音の少ない膨張弁が提供される。
請求項1の発明によれば、略円筒状またはリング状の多孔体を弁体本体に外嵌しているから、この多孔体によって、大きな通路面積を有する入口または出口を形成することができる。
請求項2の発明によれば、弁体を弁座に向けて付勢するスプリングと、駆動部とは、上記弁体の両側に別々に配置されていて、上記駆動部は弁体を押圧のみするので、一般に電気系である駆動部と、機械系である弁体とを分離できて、製造組み立ておよびメンテナンスを容易にすることができる。
請求項2の発明によれば、弁体の当接部を弁座に押し付けるスプリングのばね力によって、多孔体または絞り部の少なくとも1つを弁体本体に取り付けているので、上記多孔体または絞り部の少なくとも1つを弁体本体に簡単に取り付けることができる。
【0107】
請求項3の発明によれば、絞り部の両側に多孔体を設けているので、絞りの上流側と下流側とで騒音低減作用を行うことができ、極めて騒音を低減することができる。
【0108】
請求項4の発明によれば、弁体の当接部が、弁体冷媒通路の壁部から内側に屈曲したテーパ状の部分であるから、当接部を簡単安価に製造できる。
【0109】
請求項5の発明によれば、テーパー状に屈曲した当接部によって、絞り部または多孔体の少なくとも一方を固定しているので、上記当接部は、弁座に接離して開閉する本来の機能の他に、上記絞り部または上記多孔体の少なくとも一方を固定する機能を有する。したがって、上記絞り部や多孔体を簡単安価に固定することができる。
【0110】
請求項6の発明によれば、弁体のテーパー状に屈曲した当接部は、かしめ加工によって形成されているから、当接部が簡単安価に製造できる。
【0111】
請求項7の発明によれば、絞り部は、弁体本体と同じ材質で形成され、かつ、弁体本体と一体に形成されているから、絞り部としての別部材が不必要になって、絞りが簡単安価に製造できる。
【0112】
請求項8の発明によれば、絞り部は弾性体で形成されているから、この絞り部を弁体冷媒通路の内壁面等に密着させて、無用の隙間をなくすることができ、したがって、安定した絞り量を得ることができる。
【0113】
請求項9の発明によれば、多孔体の少なくとも1つは、略円板状または円柱状であるから、この多孔体を簡単安価に製造でき、弁体冷媒通路内に簡単に装着することができる。
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
請求項10の発明によれば、絞り部の絞りと上記多孔体との間に、上記絞り部の絞りの断面積よりも大きな断面積の空所を有するから、絞り部の絞りと多孔体の孔とが直接接触しないため、絞り部の絞りや多孔体の孔よりも、冷媒の通過断面積が狭くなる部分がなく、スラッジの詰まりを防止できる。さらに、絞り部の絞りと多孔体との間に、上記絞りの断面積よりも大きな断面積の空所を有するから、この空所にスラッジ等を溜めて、多孔体の目詰まりを防止できる。
【0118】
請求項11の発明によれば、絞りの下流側に空所を設けているから、絞りの減圧過程によって、温度および圧力が低下した冷媒および冷凍機油からスラッジが析出しても、このスラッジは、上記空所に溜められる。したがって、絞りの下流側の多孔体の目詰まりを防止できる。
【0119】
請求項12の発明によれば、絞り部の上流側に設けた多孔体の孔の径を絞り部の絞りの径よりも小さくすることにより、絞り部で気泡が分裂することが少なくなり、不連続音はさらに低減される。また、さらに、多孔体の孔の径は、絞り部の絞りの径よりも小さいから、上記多孔体はフィルタとしての機能を有し、絞りの目詰まりを防止できる。
【0120】
請求項13の発明によれば、多孔体の肉厚が、その多孔体の孔の径の2倍以上で、その多孔体において冷媒は少なくとも2つの孔を通過するので、冷媒を充分に拡散でき、減速でき、気液2相の冷媒を確実に均質流にすることができる。
【0121】
請求項14の発明の空気調和機は、圧縮機と、室外熱交換器と、膨張機構と、第1室内熱交換器と、請求項1乃至13のいずれか1つに記載の膨張弁と、第2室内熱交換器とを順次接続した冷媒回路を有するので、上記膨張弁を絞り状態にして、再熱ドライ運転を行うことができる。さらに、上記膨張弁は、絞り状態で、流動音等の騒音の発生を抑制できるから、この空気調和機は騒音の発生が少ないという利点を有する。
【0122】
請求項15の発明によれば、絞り部の上流側に設けた多孔体の孔の径を、絞り部の絞りの径よりも小さくすることにより、絞り部で気泡が分裂することが少なくなり、不連続音はさらに低減される。また、さらに、フィルタの孔の径が多孔体の孔の径よりも小さいので、多孔体の目詰まりが防止される。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例の膨張弁の断面図である。
【図2】この発明の第1の実施の形態の膨張弁の断面図である。
【図3】この発明の第2の実施の形態の膨張弁の断面図である。
【図4】この発明の参考例の膨張弁の断面図である。
【図5】この発明の参考例の空気調和機の冷媒回路の回路図である。
【符号の説明】
10,50,80 ハウジング
12,84,31,98,122,131 入口
13,85,32,97,113,132 出口
15,86 弁座
20,60,90,110 弁体
21,61,91,111 弁体本体
22,23,62,63,92,93,112,113 多孔体
24,68,94,116 絞り
25,95,115 絞り部
29,65,103 当接部
30,130,140,150 弁体冷媒通路
40,70,160 駆動部
66,117,118 空所
100,200,300,400 膨張弁
201 圧縮機
203 室外熱交換器
204,206,211 フィルタ
205 膨張機構
208 第1室内熱交換器
209 第2室内熱交換器
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2011-03-29 
出願番号 特願2001-129447(P2001-129447)
審決分類 P 1 123・ 121- ZD (F25B)
P 1 123・ 161- ZD (F25B)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 藤原 直欣  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 長崎 洋一
鈴木 敏史
登録日 2010-02-26 
登録番号 特許第4465128号(P4465128)
発明の名称 膨張弁および空気調和機  
代理人 小池 寛治  
代理人 仲倉 幸典  
代理人 仲倉 幸典  
代理人 山崎 宏  
代理人 山崎 宏  
代理人 山崎 宏  
代理人 仲倉 幸典  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ