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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010800039 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A23D
審判 全部無効 2項進歩性  A23D
管理番号 1238563
審判番号 無効2010-800031  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-02-24 
確定日 2011-05-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4290222号発明「容器入り油脂組成物」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4290222号の請求項1?9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
被請求人は,平成20年2月26日(日本国特許庁受理,優先権主張平成19年2月28日)を国際出願日とし,名称を「容器入り油脂組成物」とする特許出願をし,平成21年4月10日,特許庁から特許第4290222号として設定登録を受けた。
これに対して,請求人から平成22年2月22日付けで請求項1?11に係る発明についての特許に対して,無効審判の請求がなされたところ,その後の手続の経緯は,以下のとおりである。

答弁書: 平成22年 5月17日
訂正請求書: 平成22年 5月17日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成22年 8月26日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成22年 9月 9日
(平成22年9月2日差出)
口頭審理: 平成22年 9月 9日
なお,口頭審理において,被請求人が,ヨウ素価65のパームオレインを用いた場合と比較して,ヨウ素価67以上のものを用いた場合に,格別な効果が奏されるかどうかについての実験をする予定があれば,実験は,(1)相手方の技術者にサンプルの調製をはじめ全てを公開し,(2)実験で得られた結果や用いた油脂を相手方に提供するように,審判長から,被請求人に伝えられた(第1回口頭審理調書)。
上申書(請求人): 平成22年 9月24日
上申書(被請求人): 平成22年 9月24日
上申書(被請求人): 平成22年11月30日
上申書(請求人): 平成22年12月22日
上申書(被請求人): 平成23年 2月 7日
上申書(請求人): 平成23年 2月14日
上申書(被請求人): 平成23年 2月16日
上申書(被請求人): 平成23年 3月 4日
上申書(請求人): 平成23年 3月10日

第2 訂正請求の可否
1.訂正の内容
被請求人は,平成22年5月17日付け訂正請求書を提出して以下の訂正を求めている。

(1)訂正事項1
請求項1が,
「大豆油とパームオレインを含有する油脂組成物を容器に充填してなる容器入り油脂組成物であって,
大豆油100質量部に対してパームオレインの割合が33?100質量部であり,
パームオレインが,ヨウ素価65以上,曇点5℃以下であって,パームオレインの構成脂肪酸が,ミリスチン酸0?4質量%,パルミチン酸25?38質量%,ステアリン酸0.5?6質量%,オレイン酸40?60質量%,及びリノール酸8?18質量%を含み,
容器の少なくとも1部が光透過性材料で形成されている,
ことを特徴とする容器入り油脂組成物。」であったものを,
「大豆油とパームオレインを含有する油脂組成物を容器に充填してなる容器入り油脂組成物であって,
油脂組成物中,大豆油の含有量が50質量%以上であり, 大豆油100質量部に対してパームオレインの割合が33?100質量部であり,
パームオレインが,ヨウ素価67?80,曇点5℃以下であって,パームオレインの構成脂肪酸が,ミリスチン酸0?4質量%,パルミチン酸25?38質量%,ステアリン酸0.5?6質量%,オレイン酸40?60質量%,及びリノール酸8?18質量%を含み,
容器の少なくとも1部が光透過性材料で形成されている,
ことを特徴とする容器入り油脂組成物。」に訂正するとともに,請求項2及び5を削除し,請求項3,4,6?11を請求項2?9に変更する。
(2)訂正事項2
明細書の段落0008の,
「本発明者らは,鋭意研究を重ねた結果,大豆油に対して特定のパームオレインを特定の割合で添加した油脂組成物を光透過性容器に充填,収容したものが,大豆油と他の油脂との油脂組成物を光透過性容器に充填,収容したものに比べて,光の存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生が少ないことを見出した。本発明はこの知見に基づいて成されたものである。
すなわち,本発明は,大豆油とパームオレインを含有する油脂組成物を容器に充填してなる容器入り油脂組成物であって,
大豆油100質量部に対してパームオレインの割合が33?100質量部であり,
パームオレインが,ヨウ素価65以上,曇点5℃以下であって,パームオレインの構成脂肪酸が,ミリスチン酸0?4質量%,パルミチン酸25?38質量%,ステアリン酸0.5?6質量%,オレイン酸40?60質量%,及びリノール酸8?18質量%を含み,
容器の少なくとも1部が光透過性材料で形成されている,
ことを特徴とする容器入り油脂組成物を提供する。
本発明は,又,パームオレインからなることを特徴とする,大豆油に光が照射された時に発生する戻り臭の発生抑制剤を提供する。
本発明は,又,少なくとも1部が光透過性材料で形成されている容器入り大豆油中にパームオレインを存在させることを特徴とする,該容器に光が照射された時に大豆油から発生する戻り臭の発生を抑制する方法を提供する。」を,
「本発明者らは,鋭意研究を重ねた結果,大豆油に対して特定のパームオレインを特定の割合で添加した油脂組成物を光透過性容器に充填,収容したものが,大豆油と他の油脂との油脂組成物を光透過性容器に充填,収容したものに比べて,光の存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生が少ないことを見出した。本発明はこの知見に基づいて成されたものである。
すなわち,本発明は,大豆油とパームオレインを含有する油脂組成物を容器に充填してなる容器入り油脂組成物であって,
油脂組成物中,大豆油の含有量が50質量%以上であり, 大豆油100質量部に対してパームオレインの割合が33?100質量部であり,
パームオレインが,ヨウ素価67?80,曇点5℃以下であって,パームオレインの構成脂肪酸が,ミリスチン酸0?4質量%,パルミチン酸25?38質量%,ステアリン酸0.5?6質量%,オレイン酸40?60質量%,及びリノール酸8?18質量%を含み,
容器の少なくとも1部が光透過性材料で形成されている,
ことを特徴とする容器入り油脂組成物を提供する。
本発明は,又,パームオレインからなることを特徴とする,大豆油に光が照射された時に発生する戻り臭の発生抑制剤を提供する。
本発明は,又,少なくとも1部が光透過性材料で形成されている容器入り大豆油中にパームオレインを存在させることを特徴とする,該容器に光が照射された時に大豆油から発生する戻り臭の発生を抑制する方法を提供する。」に訂正する。

2.判断
訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
訂正事項2は,訂正事項1にあわせて明細書の記載を訂正するもので,明りょうでない記載の釈明を目的とし,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
したがって,平成22年5月17日付け訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き,及び,同条第5項において準用する同法第126条第3項,4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

第3 本件発明
本件特許第4290222号の請求項1?9に係る発明は,訂正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次のとおりのものと認める。(以下,「本件発明1」,「本件発明2」・・・という。)

「【請求項1】
大豆油とパームオレインを含有する油脂組成物を容器に充填してなる容器入り油脂組成物であって,
油脂組成物中,大豆油の含有量が50質量%以上であり,
大豆油100質量部に対してパームオレインの割合が33?100質量部であり,
パームオレインが,ヨウ素価67?80,曇点5℃以下であって,パームオレインの構成脂肪酸が,ミリスチン酸0?4質量%,パルミチン酸25?38質量%,ステアリン酸0.5?6質量%,オレイン酸40?60質量%,及びリノール酸8?18質量%を含み,
容器の少なくとも1部が光透過性材料で形成されている,
ことを特徴とする容器入り油脂組成物。
【請求項2】
大豆油100質量部に対してパームオレインの量が33?54質量部であり,かつ油脂組成物中大豆油の含有量が65質量%以上である請求項1記載の容器入り油脂組成物。
【請求項3】
油脂組成物が,大豆油とパームオレインの混合物からなる請求項1又は2記載の容器入り油脂組成物。
【請求項4】
パームオレインの構成脂肪酸のミリスチン酸含量がステアリン酸含量より少なく,かつパルミチン酸含量がオレイン酸含量よりも少ない請求項1?3のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
【請求項5】
パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドの量が35質量%以下であり,かつモノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドの量が50質量%以上である請求項1?4のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
【請求項6】
パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドであるP2O(脂肪酸としてパルミチン酸を2つ,オレイン酸を1つ有するトリアシルグリセロール)の量が20質量%以下である請求項1?5のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
【請求項7】
パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のモノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドであるPO2(脂肪酸としてパルミチン酸を1つ,オレイン酸を2つ有するトリアシルグリセロール)の量が30質量%以上である請求項1?6のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
【請求項8】
容器が,遮光処理を施していない透明容器または半透明容器である請求項1?7のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
【請求項9】
光存在下で陳列販売させる用途に用いられるものである請求項1?8のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。」

第4 当事者の主張の要点
1.請求人の主張
(1)本件発明1?9は,甲第3号証に記載された発明であり,特許法第29条第1項第3号の規定に該当し,特許を受けることができないものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定により本件特許は無効とすべきである。

(2)本件発明1?9は,甲第1?6号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定により本件特許は無効とすべきである。

(3)本件発明において,ヨウ素価65に比べてヨウ素価67やヨウ素価70のパームオレインを混合したほうが格別な効果があることについて,本件明細書には何ら開示されていない。

(4)ヨウ素価65のパームオレインと,ヨウ素価67以上のパームオレインは,酸化安定性やリノール酸・リノレン酸含量はほぼ同程度であり,ヨウ素価67以上のパームオレインを適用することに,何ら阻害要因はない。

(5)平成23年2月18?19日に行われた被請求人による追加実験における官能評価方法は,客観性が担保されておらず,妥当ではなかった。
本実験の官能評価手法は,実質的には「2点識別試験法」(請求人参考資料15,第24?25頁参照)に相当するもので,危険率5%の有意水準で有意差があるというためには5名全員が判別する必要があるから,パームオレインA,Bの各調合油の間に大豆油の戻り臭抑制効果の有意差はなかったと結論付けられる。

<証拠方法>
甲第1号証:Lipid technology, (March 1995) p.34-38
甲第2号証:Eur. J. Lipid Sci. Technol., 109 (2007) p.359-372
甲第3号証:Palm Oil Developments, 15 (Sep. 1991) p.2-8
甲第4号証:JAOCS, 69(12) (December 1992) p.1206-1209
甲第5号証:特開2001-218558号公報
甲第6号証:JAOCS, 66(4) (April 1989) p.558-564
甲第7号証:太田静行著「食用油脂(第1版第4刷)」学建書院(昭和52年7月10日)p.27-33
甲第8号証:阿部芳郎監修「油脂・油糧ハンドブック」幸書房(昭和63年5月25日)p.189
甲第9号証:不二製油株式会社製品パンフレット「COOKPAL/PALM BLEND/クックパルシリーズ」(2006年)
甲第10号証:藤田哲著「食用油脂-その利用と油脂食品-」幸書房(2000年4月5日)p.32-49
甲第11号証:藤田哲著「食用油脂-その利用と油脂食品-」幸書房(2000年4月5日)p.140-143
甲第12号証:加藤秋男編著「パーム油・パーム核油の利用」幸書房(1990年7月31日)p.104-109
甲第13号証:「油脂」2005年8月増刊 油脂産業年鑑(平成17年8月20日)p.105-109
甲第14号証:「油脂」2006年8月増刊 油脂産業年鑑(平成18年8月20日)p.102-106
参考資料1:不二製油株式会社製品パンフレット「クックパル/バッグインボックス」
参考資料2:特開2009-19196号公報
参考資料3:日清オイリオ株式会社ウェブサイト写し,「日清キャノーラ油ヘルシーライト」商品情報
参考資料4:健康・栄養情報協会編「第六次改訂 日本人の栄養所要量 食事摂取基準」第一出版(1999)p.53-57
参考資料5:「油脂」,59 (2006.11月) p.64
参考資料6:「油脂」,60 (2007.1月) p.36-37
参考資料7:特許第4501035号公報
参考資料8:特開2009-100735号公報
参考資料9:特開2009-100736号公報
参考資料10:特開2010-202774号公報
参考資料11:米国特許出願第12/528831号審査経過書類(2010年9月2日付)
参考資料12:米国特許出願第12/528831号審査経過書類(2010年9月21日付)
参考資料13:特開2010-65079号公報
参考資料14:国際公開第2010/110008号
参考資料15:日本フードスペシャリスト協会編「新版 食品の官能評価・鑑別演習 第三版」建帛社(2008)p.15-33

2.被請求人の主張
(1)本件特許の優先日当時,大豆油特有の不快臭である青豆臭の原因は特定されておらず,解決は困難であった。甲第3号証には,大豆油特有の不快臭である青豆臭については一切記載されていない。
したがって,大豆油特有の不快臭である青豆臭の原因としてリノレン酸説等があり,リノレン酸やリノール酸を多く含むトップオレインを,大豆油とブレンドして,少なくとも1部が光透過性材料で形成されている容器入り油脂組成物とはしないものである。
また,大豆油特有の不快臭である青豆臭は,部分水素添加を行っても改善されないものであるから,不飽和油にパームオレインをブレンドする方法が部分水素添加の代替手段として有効であっても,大豆油にパームオレインをブレンドして高品位の油脂組成物を得ることは容易に類推できるとは結論づけられないものである。
さらに,甲第3号証が公開された1991年から,本件特許の優先日まで16年間,本件特許発明に関する商品は上市されていない。

(2)本件発明1?9の予期せぬ優れた効果は,甲第3,5及び6号証に示されたものとは異なり,本件明細書の表5及び乙第5号証に示されている。

(3)甲第3号証の表5に,ヨウ素価60よりもヨウ素価65のパームオレインを用いると,大豆油とのブレンドの低温安定性が向上するのは,パームオレイン/大豆油の比率が70:30の場合においてのみであり,当業者は,大豆油の量が50%以上であるパームオレインと大豆油のブレンド品の低温安定性の向上が期待できない,より高価なヨウ素価67?80のものを用いようとはしないものである。

(4)当業者であれば,ヨウ素価71のトップオレインは低温安定性に優れるので,単独で使用するか,甲第3号証において低温安定性が改良されていないブレンドに適用して,低温安定性を図ろうとするはずで,大豆油の含有量が50%以上のブレンド物については、ヨウ素価60や65のパームオレインで低温安定性が既に改良されているので、これらよりも高価でさらなる低温安定性の改良効果が期待できないヨウ素価71のトップオレインを用いようとはしないものである。

(5)ヨウ素価の高いパームオレインを用いると,ブレンド油中に多くの不飽和基を導入することになり,甲第3号証における部分水素添加の代替手段として採用する趣旨に反する。さらに,香り及び酸化安定性も重要な特性であり,ヨウ素価の高いパームオレインを用いると,ブレンド物の香り及び酸化安定性が低下することは当業者にとって明らかなことで,当業者はヨウ素価が67?80のものを用いようとはしないものである。

(6)甲第3号証に記載されるヒトの栄養についての指針を考慮すると,ヨウ素価65のものに替えてヨウ素価が67?80のものを用いることは当業者が容易に想到できるものではない。

(7)平成23年2月18日及び19日に行われた実験の結果(被請求人参考資料9)は,パームオレインのヨウ素価が65.5の場合より67.3の場合の方が大豆油の戻り臭抑制に格別な効果が奏されたことを示している。

<証拠方法>
乙第1号証:阿部芳郎監修「油脂・油糧ハンドブック」幸書房(昭和63年5月25日)p.187-188
乙第2号証:油脂, 50(4) (1997) p.44-52
乙第3号証:日本油化学会誌, 48(10) (1999) p.1109-1121
乙第4号証:藤田哲著「食用油脂-その利用と油脂食品-」幸書房(2000年4月5日)p.56-57
乙第5号証:平成22年5月7日付け実験成績証明書
参考資料1:「油化学便覧-脂質・界面活性剤- 第4版」丸善(平成13年11月20日) p.604
参考資料2:「大豆のすべて」サイエンスフォーラム(2010年2月18日) p.496-498
参考資料3:油脂, 62(2) (2009) p.127
参考資料4:油脂, 50(5) (1997) p.54
参考資料4-1:日清サラダ油ライトの写真
参考資料5:中国で販売されている大豆油のパンフレット
参考資料6:2000年7月付けピュアオイル「味の素KK健康サララ」のニュースリリース
参考資料7:2008年1月8日付け「AJINOMOTOサラダ油」TUP1350gのニュースリリース
参考資料8:特開2010-81886号公報
参考資料9:実験結果
参考資料10:実験に使用したパームオレイン・大豆油の分析値

第5 当審の判断
1.新規性について
(1)刊行物(甲第3号証)
請求人が甲第3号証として提出した,本件特許の優先日前に頒布された刊行物,Palm Oil Developments, 15 (Sep. 1991) p.2-8には,
「パーム油の分別で得られる液体画分であるパームオレインは熱帯地方で広く調理用油脂に用いられている。パームオレインは優れた風味と酸化安定性を有するが,寒冷地域の国々では曇りが生じたり,部分的に結晶の析出が発生する傾向にある。このような現象は品質には問題ないが,外観上好ましくないものである。パームオレインと他の高度不飽和植物油のブレンド油は耐寒性に優れ,高範囲の国々での利用に好適である。このようなブレンド油は高度不飽和植物油単体よりも安価である。」(第2頁左欄15?26行)と記載され,
「2回分別パームオレイン(IV60,曇点5.6℃及びIV65,曇点5.0℃)を用いて調製したブレンド油は,1回分別パームオレインよりも良好な耐寒性を示した。」(第3頁右欄の下から2?5行)と記載され,
「パームオレインと2回分別パームオレインをキャノーラ油(表3,4)や大豆油(表5,6)とブレンドした場合に得られる結果は上記の結果と概して類似する。精製,漂白及び脱臭したパームオレインは風味があっさりして薄い色であるため,いくつかの国では国内で入手できる他の油とブレンドするために輸入して使用可能である。大豆油は多くの国で普通に入手可能であるので,表5,6に載せたパームオレインとのブレンド油についての耐寒性のデータはブレンドの指針として有用である。」(第4頁左欄4?15行)と記載され,
1回分別パームオレイン(IV60及びIV65)と,大豆油とのブレンドの耐寒性が表5に,2回分別パームオレイン(IV60及びIV65)と,大豆油とのブレンドの耐寒性が表6に,以下のように記載され,透明容器に入れられた15℃1ヶ月保存,15℃2ヶ月保存及び10℃3ヶ月保存パームオレイン-大豆油ブレンドの写真が第7,8頁に示されている。



(2)判断
本件発明1?9は,用いるパームオレインのヨウ素価が67?80であることを,発明を特定する事項とするように,訂正がなされたものである。そして,摘記したように,甲第3号証には,ヨウ素価が65までのパームオレインを用いることが記載されるだけであり,用いるパームオレインのヨウ素価の点で,本件発明1?9と相違するものである。
したがって,本件発明1?9は,甲第3号証に記載された発明ではないから,特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

2.進歩性について
(1)本件発明1について
i)刊行物
ア)甲第1号証
請求人が甲第1号証として提出した,本件特許の優先日前に頒布された刊行物,Lipid technology, (March 1995) p.34-38には,
「1回分別のみによるパームオレインは1990年以来,マレーシアでは安価な普及品となり(膜濾過装置を備えた)分別設備の能力も過剰となり,利益も低くなってきた。そのためできるだけ最高のヨウ素価を有するパームオレインやカカオバター等価物(CBE)にそのまま適するパーム中画分(PMF)のような高付加価値製品の製造のため,複数回分別が注目されてきた。」(第35頁左欄1?17行)と記載され,
「ヨーロッパ,アメリカ及び日本の食品産業は温帯気候に対抗するため,より特別なパームオレインを要求するので,IVが少なくとも70で,AOCS曇点が-2℃のトップオレインが難なく製造されている。」(第35頁左欄41行?中欄2行)と記載され,
「パームオレインと大豆油のブレンド油の場合,0℃の耐寒性テスト(cold test)に合格するには,ヨウ素価65のスーパーオレインの配合可能量は30%である。しかし,ヨウ素価71のトップオレインはそのまま100%でも0℃,24時間以上の耐寒性テストを合格する。従い,トップオレインは温帯地域及び寒冷地域向けのサラダ油への応用に利用でき,また冷蔵温度で透明な状態を保つ必要があるサラダドレッシングとしての利用が可能である。」(第35頁中欄9行?第36頁右欄3行)と記載され,
表2には,トップオレインのヨウ素価と曇点が,表3には,トップオレインの脂肪酸組成が,以下のように記載されている。



イ)甲第3号証
請求人が甲第3号証として提出した,本件特許の優先日前に頒布された刊行物,Palm Oil Developments, 15 (Sep. 1991) p.2-8は,1.(1)で摘記したとおりのものである。

ii)対比
甲第3号証の表6において,POo及びSBOが,それぞれパームオレイン及び大豆油の略であり,IVがヨウ素価を示すものであることは明らかで,そこには,ヨウ素価65のパームオレインと大豆油の比が30:70のブレンドが記載されたものといえる。そして,第7,8頁の写真から,それが透明容器に入れられ,保存されたものであることは明らかである。
そこで,本件発明1と甲第3号証に記載されたヨウ素価65のパームオレインと大豆油のみからなり,その比が30:70のブレンド(大豆油100部に対してパームオレインの割合が約43部となる。)の発明を比較すると,「大豆油とパームオレインを含有する油脂組成物を容器に充填してなる容器入り油脂組成物であって,油脂組成物中,大豆油の含有量が50質量%以上であり,大豆油100質量部に対してパームオレインの割合が33?100質量部であり,容器の少なくとも1部が光透過性材料で形成されている,容器入り油脂組成物。」である点で一致しているが,
本件発明1におけるパームオレインが,ヨウ素価67?80,曇点5℃以下であって,パームオレインの構成脂肪酸が,ミリスチン酸0?4質量%,パルミチン酸25?38質量%,ステアリン酸0.5?6質量%,オレイン酸40?60質量%,及びリノール酸8?18質量%を含むものであるのに対し,甲第3号証のパームオレインは,ヨウ素価65であって,曇点及び構成脂肪酸が明らかでない点で相違している。
iii)判断
ア)甲第1号証には,パーム油から複数回の分別により得られたヨウ素価70?72のトップオレインが記載され,表2及び表3の記載からみて,本件発明1で用いているパームオレインと同様に,ヨウ素価67?80,曇点5℃以下であって,パームオレインの構成脂肪酸が,ミリスチン酸0?4質量%,パルミチン酸25?38質量%,ステアリン酸0.5?6質量%,オレイン酸40?60質量%,及びリノール酸8?18質量%を含むパームオレインに相当するものであることは明らかである。
そこで,大豆油とブレンドするものとして甲第3号証に記載されている,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,甲第1号証に記載されるトップオレイン(以下,単に「トップオレイン」という。)を用いることを,当業者が容易になすことができたかどうか検討する。

イ)そもそも,大豆油もトップオレインも,食用油脂として知られているもので,何の工夫もせずに,任意の量比でブレンドして食用油脂組成物にすることができるのであるから,特段の事情がない限り,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,トップオレインを用いることに,何の困難もないというべきものであるし,味や香りを好みに合わせるために,食用油脂を適宜ブレンドすることも,ごく普通に行われていることでもある。しかも,甲第1号証に,トップオレインは,1回分別のみによるパームオレインに代わる高付加価値製品として注目され,ヨーロッパ,アメリカ及び日本の食品産業向けに,AOCS曇点が-2℃のものが製造されていることが記載されているのであるから,ヨーロッパ,アメリカ及び日本の食品産業においては,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,トップオレインが用いられていることが明示的に示されていることになる。さらに,甲第1号証には,パームオレインと大豆油のブレンド油を例に挙げたうえで,トップオレインは温帯地域及び寒冷地域向けのサラダ油への応用に利用でき,また冷蔵温度で透明な状態を保つ必要があるサラダドレッシングとしての利用が可能であることが記載されているのであるから,甲第3号証に記載されている,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,トップオレインを用いることを,なおさらのこと当業者は容易になすことができるものである。

ウ)そこで,甲第3号証に記載されている,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,トップオレインを用いることを困難ならしめる特段の事情があるか検討する。

エ)被請求人は,大豆油特有の不快臭である青豆臭の原因としてリノレン酸説等があり,リノレン酸やリノール酸を多く含むトップオレインを,大豆油とブレンドして,少なくとも1部が光透過性材料で形成されている容器入り油脂組成物とはしないことを主張している。
ところが,大豆油は,乙第2号証の表-12に示されるように,スーパーオレインやトップオレインよりも圧倒的に多く,リノール酸もリノレン酸も含んでいるものである。そして,被請求人参考資料4?6にも示されるように,本件特許の優先日前には,大豆油だけを光透過性容器に入れた製品が上市されていたのであり,これより大豆油の含有割合が減少することにより,大豆油特有の不快臭である青豆臭も減少することが期待される,トップオレインと大豆油のブレンドを,少なくとも1部が光透過性材料で形成されている容器入り油脂組成物とはしないという程のものではないことは明らかであり,被請求人が主張する点は,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,トップオレインを用いることを困難ならしめる程の事情とはいえない。

オ)被請求人は,大豆油特有の不快臭である青豆臭は,部分水素添加を行っても改善されないものであるから,不飽和油にパームオレインをブレンドする方法が部分水素添加の代替手段として有効であっても,大豆油にパームオレインをブレンドして高品位の油脂組成物を得ることは容易に類推できるとは結論づけられないもので,ヨウ素価の高いパームオレインを用いると,ブレンド油中に多くの不飽和基を導入することになり,甲第3号証における部分水素添加の代替手段として採用する趣旨に反することを主張している。
ところが,大豆油は,そもそも不飽和基を多く有し,ヨウ素価も130ほどのものであるから,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,ヨウ素価70?72のトップオレインを用いても,不飽和基を減少させるという観点からは,部分水素添加の代替手段となることは明らかであり,被請求人が主張する点は,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,トップオレインを用いることを困難ならしめる程の事情とはいえない。

カ)被請求人は,甲第3号証の表5に,ヨウ素価60よりもヨウ素価65のパームオレインを用いると,大豆油とのブレンドの低温安定性が向上するのは,パームオレイン:大豆油の比率が70:30の場合においてのみであり,当業者は,大豆油の量が50%以上であるパームオレインと大豆油のブレンド品の低温安定性の向上が期待できない,より高価なヨウ素価67?80のものを用いようとはしないものであることを主張している。
ところが,甲第3号証には,2回分別パームオレインのヨウ素価60のものの曇点が5.6℃であり,ヨウ素価65のものの曇点が5.0℃であることが記載され,低温安定性にさほどの違いがないものであるが,甲第1号証には,トップオレインの,AOCS曇点が-2℃(Mettler曇点が-4.5℃)であることが記載されているから,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,トップオレインを用いることにより,低温安定性の向上が期待できることは明らかであり,被請求人が主張する点は,トップオレインを用いることを困難ならしめるような事情ではない。

キ)被請求人は,当業者であれば,ヨウ素価71のトップオレインは低温安定性に優れるので,単独で使用するか,甲第3号証において低温安定性が改良されていないブレンドに適用して,低温安定性を図ろうとするはずで,大豆油の含有量が50%以上のブレンド物については、ヨウ素価60や65のパームオレインで低温安定性が既に改良されているので、これらよりも高価でさらなる低温安定性の改良効果が期待できないヨウ素価71のトップオレインを用いようとはしないものであることを主張している。
ところが,例えば北海道の冬期に使用するなど,求める低温安定性も様々であり,ヨウ素価60や65のパームオレインで低温安定性が既に改良されているといえるようなものではないし,カ)で検討したように,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,ヨウ素価トップオレインを用いることにより,低温安定性の向上が期待できることは明らかであり,被請求人が主張する点は,トップオレインを用いることを困難ならしめるような事情ではない。

ク)被請求人は,香り及び酸化安定性も重要な特性であり,ヨウ素価の高いパームオレインを用いると,ブレンド物の香り及び酸化安定性が低下することは当業者にとって明らかなことで,当業者はヨウ素価が67?80のものを用いようとはしないものであることを主張している。
ところが,ヨウ素価が65とトップオレインの香りの違いも明らかでないばかりか,香りの嗜好も様々であることから,香りの点で,当業者は、ヨウ素価が65よりも高いパームオレインを用いないというほどのものではなく,また,大豆油は,そもそも不飽和基を多く有し,ヨウ素価も130ほどのものであるから,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,トップオレインを用いても,安定性がさほど低下するものではなく,被請求人が主張する点は,トップオレインを用いることを困難ならしめるような事情ではない。

ケ)被請求人は,甲第3号証に記載されるヒトの栄養についての指針を考慮すると,ヨウ素価65のものに替えてヨウ素価が67?80のものを用いることは当業者が容易に想到できるものではないことを主張している。
ところが,食用油脂を開発するに当たっては,様々な観点からその改良が試みられるものであって,甲第3号証に記載されるヒトの栄養についての指針に沿った食用油脂しか開発しないといったものではないし,指針に沿わない食用油脂も多種多様なものが上市されているのであるから,被請求人が主張する点は,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,トップオレインを用いることを困難ならしめる程の事情とはいえない。

コ)また,甲第3号証に記載されている,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,トップオレインを用いることを困難ならしめる,その他の特段の事情も見出せない。

以上検討したところによれば,本件発明1に進歩性があるとすれば,同じ食用油脂である大豆油とトップオレインを特定の割合で混合するという技術思想の創作の困難性ではなくて,顕著な作用効果を奏する2種の食用油脂をその混合割合とともに選び出すことの困難性にあると認めるのが相当である。したがって,本件発明1の場合,顕著な作用効果があることが進歩性があることの前提をなし,顕著な効果がなければ進歩性もないといわねばならない。
以下,本件発明1の奏する効果について検討する。

サ)本件特許明細書には,
「本発明の課題は,上記問題点に鑑みて,通常の陳列販売で照射される等の光存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生がより少ない,大豆油を高い割合で含む油脂を光透過性容器に充填した容器入り油脂組成物を提供することである。
本発明者らは,鋭意研究を重ねた結果,大豆油に対して特定のパームオレインを特定の割合で添加した油脂組成物を光透過性容器に充填,収容したものが,大豆油と他の油脂との油脂組成物を光透過性容器に充填,収容したものに比べて,光の存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生が少ないことを見出した。本発明はこの知見に基づいて成されたものである。」(段落0007,0008)と記載され,
実施例として,
「・・・使用したパームオレインA及びBは,下記の特性を有するものである。

・・・・・・
(実験方法)
表1に示した割合で,大豆油と菜種油との混合油脂を作り,以下の方法で,光存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生を評価した。結果を表1に示す。
(大豆油由来の戻り臭の評価方法)
混合油脂が入った遮光処理を施していない容器を,照度7000Luxで24時間光に曝した。その混合油脂を100mLビーカーに50gはかりとり,ブロックヒーターで油温が180℃になるまで加熱した。臭気が十分に発生した後,鼻を近づけて評価した。
(評価方法)
パネラー20名を用いて,大豆油100%(試験例7)の臭気に対する度合いについて,以下の評価基準により,1?5点のいずれかで判断した。20人の点数の平均点より,4.5以上をA,4以上をB,3以上をC,2以上をD,1以上をEとした。
この評価でB評価以上の場合,大豆油由来の戻り臭が改善されたと評価する。
[評価基準]
5点:大豆油由来の戻り臭をほとんど感じない。
4点:大豆油由来の戻り臭をやや感じるが,不快でない。
3点:大豆油由来の戻り臭を感じるが,不快でない。
2点:大豆油由来の戻り臭をはっきり感じ,許容し難い。
1点:大豆油由来の戻り臭が強く許容できない。
・・・・・・
[実験例3](大豆油とパームオレインとの混合油脂の検討)
(実験方法)
表3に示した油の種類及び割合で混合油脂を作り,光存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭を評価した。
評価1は,上記「実験例1の評価方法」と同様の方法で行った。
評価2は,光存在下に保持する条件として,「照度7000Luxで24時間」の代わりに,「照度3000Luxで24時間」で行った以外は,上記「実験例1の評価方法」と同様の方法で行った。
評価3は,光存在下に保持する条件として,「照度7000Luxで24時間」の代わりに,「照度1000Luxで1週間」で行った以外は,上記「実験例1の評価方法」と同様の方法で行った。
結果を表3に示す。
表3

表3に示すとおり,パームオレインAを30%以上添加したとき,大豆油由来の戻り臭が大きく改善した。
・・・・・・
[実験例5](パームオレインB,Cを用いた検討)
(実験方法)
表5に示した油の種類及び割合で混合油脂を作り,上記「実験例1の評価方法」と同様の方法により,評価する。結果を表5に示す。

表5

表5に示すとおり,パームオレインBまたはCを30%添加したとき,大豆油由来の戻り臭が大きく改善する。」と記載されている。
これらの本件特許明細書の記載は,本件発明1のように,大豆油に対して特定のパームオレインを特定の割合で添加した油脂組成物を光透過性容器に充填,収容したものが,大豆油と他の油脂との油脂組成物を光透過性容器に充填,収容したものに比べて,光の存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生が少ない点に,格別の効果があるとするものであるが,ヨウ素価が65,67及び70のパームオレインを用いた,試験例10,14及び15の判定がいずれもA評価となっており,ヨウ素価が65のパームオレインを用いた場合と比較して,ヨウ素価が67?80のパームオレインを用いても,その効果は同等のものであり,格別な効果が奏されていないことになる。

シ)被請求人は,平成23年2月18日及び19日に請求人側の技術者の立ち会いのもと,大豆油とヨウ素価が65.5のパームオレインAを含有する油脂組成物と,大豆油とヨウ素価が67.3のパームオレインBを含有する油脂組成物について,5名のパネラーにより大豆油の戻り臭に関する実験を行った。
その結果,パームオレインのヨウ素価が65.5の場合より67.3の場合の方が大豆油の戻り臭抑制に格別な効果が奏されたと判断したパネラーは,5名中3名,65.5の場合の方が戻り臭抑制に格別な効果が奏されたと判断したパネラーは5名中2名であり,パームオレインAの場合の評点の平均値は2.6で,パームオレインBの場合の評点の平均値は3.4だったことが示されている(被請求人参考資料9)。
この官能評価手法は,大豆油の戻り臭抑制に格別な効果が奏されるものを5点,低いものを1点とするものであり,2点識別試験法といえ,危険率5%の有意水準で有意差があるというためには5名全員が判別する必要があるから,パームオレインA,Bの各調合油の間に大豆油の戻り臭抑制効果の有意差はなかったと結論付けられる。
また,この平均値の差は0.8であるが,標準偏差は,いずれも2.2ほどであるから,この差は誤差の範囲に含まれるものであり,パームオレインA,Bの各調合油の間に大豆油の戻り臭抑制効果の有意差はなかったと結論付けられる。
したがって,実験結果をみても,ヨウ素価が65のパームオレインを用いた場合と比較して,ヨウ素価が67?80のパームオレインを用いても,格別な効果が奏されていないことになる。
また,統計的な確かさを全く考慮せずに,平均値のみで効果が奏されたことを示しているとの被請求人の主張は,乙第5号証に示される実験結果や,本件特許明細書に示される判定結果も,同様に信頼性が低いものであるという疑義を生じさせしめるものである。

ス)以上検討したところによれば,甲第3号証にも記載されるヨウ素価が65のパームオレインを用いた場合と比較して,ヨウ素価が67?80のパームオレインを用いても,格別な効果が奏されていないので,本件発明1は,甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものと認められる。

セ)なお,被請求人が主張するように,甲第3号証は,不飽和油をパームオレインとブレンドすることによって,良好な風味及び酸化安定性を有すると共に良好な低温安定性を有する油脂ブレンドを提供しようとするものであるが,本件特許発明の対象である大豆油を,なたね油などの他の不飽和油と同等に扱っており,大豆油特有の不快臭である青豆臭(「においの戻り」や「大豆油由来の戻り臭」)については一切記載されていないものである。
ところが,甲第3号証にも記載されるヨウ素価が65のパームオレインを用いた場合と比較して,ヨウ素価が67?80のパームオレインを用いても,格別な効果が奏されていないのであるから,大豆油特有の不快臭である青豆臭の問題は,甲第3号証において,既に解決されていたものであるというべきであって,被請求人の主張する効果は,甲第3号証に青豆臭について一切記載されていないとしても,甲第3号証において奏されている効果を,単に発見したにすぎないものである。
また,青豆臭は,人の五感で容易に知ることができるものであって,青豆臭が抑制されるという効果を発見することも困難ではない。

iv)小活
以上検討したように,本件発明1は,甲第1及び3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2?9について
本件発明2?9は,本件発明1を引用し,さらに限定を加えているものである。
本件発明1における発明特定事項については,(1)で判断したとおり,甲第1及び3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
以下,本件発明2?9においてさらに加えられた限定について検討する。

i)本件発明2
本件発明2は,本件発明1における発明特定事項に加え,大豆油100質量部に対してパームオレインの量が33?54質量部であり,かつ油脂組成物中大豆油の含有量が65質量%以上であることを発明特定事項とするものである。
甲第3号証の表6に記載される,ヨウ素価65のパームオレインと大豆油の比が30:70のブレンドは,大豆油100部に対してパームオレインの割合が約43部であり,油脂組成物中大豆油の含有量が70%となり,この点で発明が相違することにならない。

ii)本件発明3
本件発明3は,本件発明1における発明特定事項に加え,油脂組成物が,大豆油とパームオレインの混合物からなることを発明特定事項とするものである。
甲第3号証の表6に記載される,ヨウ素価65のパームオレインと大豆油の比が30:70のブレンドも,大豆油とパームオレインの混合物からなるものであり,この点で発明が相違することにならない。

iii)本件発明4
本件発明4は,本件発明1における発明特定事項に加え,パームオレインの構成脂肪酸のミリスチン酸含量がステアリン酸含量より少なく,かつパルミチン酸含量がオレイン酸含量よりも少ないことを発明特定事項とするものである。
甲第1号証に記載されるヨウ素価70?72のトップオレインも,その表3の記載から,ミリスチン酸含量がステアリン酸含量より少なく,かつパルミチン酸含量がオレイン酸含量よりも少ないものであることは明らかであり,甲第3号証に記載されている,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,甲第1号証に記載されるヨウ素価70?72のトップオレインを用いれば,このようになるものであり,この点で発明が相違することにならない。

iv)本件発明5
本件発明5は,本件発明1における発明特定事項に加え,パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドの量が35質量%以下であり,かつモノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドの量が50質量%以上であることを発明特定事項とするものである。
甲第2号証の表1に記載されるヨウ素価が66以上,64.6及び57.8のパームオレインのジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドの量が,それぞれ26.57,35.38及び48.38であり,モノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドの量が,それぞれ62.89,55.35及び44.44であること,及び,パームオレインのヨウ素価が高くなる程,ジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドの量が減少し,モノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドの量が増加する傾向にあることからみて,甲第1号証に記載されるヨウ素価70?72のトップオレインも,パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドの量が35質量%以下であり,かつモノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドの量が50質量%以上であると推認されるところ,甲第3号証に記載されている,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,甲第1号証に記載されるヨウ素価70?72のトップオレインを用いれば,このようになるものであり,この点で発明が相違することにならない。

v)本件発明6
本件発明6は,本件発明1における発明特定事項に加え,パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドであるP2O(脂肪酸としてパルミチン酸を2つ,オレイン酸を1つ有するトリアシルグリセロール)の量が20質量%以下であることを発明特定事項とするものである。
甲第2号証の表1に記載されるヨウ素価が66以上,64.6及び57.8のパームオレインのPOPの量が,それぞれ15.24,19.23及び30.89であること,及び,パームオレインのヨウ素価が高くなる程,POPの量が減少する傾向にあることからみて,甲第1号証に記載されるヨウ素価70?72のトップオレインも,パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドであるP2Oの量が20質量%以下であると推認されるところ,甲第3号証に記載されている,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,甲第1号証に記載されるヨウ素価70?72のトップオレインを用いれば,このようになるものであり,この点で発明が相違することにならない。

vi)本件発明7
本件発明7は,本件発明1における発明特定事項に加え,パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のモノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドであるPO2(脂肪酸としてパルミチン酸を1つ,オレイン酸を2つ有するトリアシルグリセロール)の量が30質量%以上であることを発明特定事項とするものである。
甲第2号証の表1に記載されるヨウ素価が66以上,64.6及び57.8のパームオレインのPOOの量が,それぞれ43.03,32.16及び27.48であること,及び,パームオレインのヨウ素価が高くなる程,POOの量が増加する傾向にあることからみて,甲第1号証に記載されるヨウ素価70?72のトップオレインも,パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のモノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドであるPO2の量が30質量%以上であると推認されるところ,甲第3号証に記載されている,ヨウ素価65のパームオレインに代えて,甲第1号証に記載されるヨウ素価70?72のトップオレインを用いれば,このようになるものであり,この点で発明が相違することにならない。

vii)本件発明8
本件発明8は,本件発明1における発明特定事項に加え,容器が,遮光処理を施していない透明容器または半透明容器であることを発明特定事項とするものである。
甲第3号証の第7,8頁の写真には,透明容器に入れられた15℃1ヶ月保存,15℃2ヶ月保存及び10℃3ヶ月保存パームオレイン-大豆油ブレンドが記載され,容器に特段の着色がないことから,遮光処理を施していない透明容器であることは明らかであり,この点は甲第3号証に記載された発明との相違点とはいえない。

viii)本件発明9
本件発明9は,本件発明1における発明特定事項に加え,光存在下で陳列販売させる用途に用いられるものであることを発明特定事項とするものである。
被請求人参考資料4?6にも示されるように,本件特許の優先日前には,大豆油だけを光透過性容器に入れた製品が上市され,光存在下で陳列販売されていたのであり,甲第3号証の表6に記載されるヨウ素価65のパームオレインと大豆油の比が30:70のブレンドや,そのヨウ素価65のパームオレインに代えてトップオレインを用いたものを,光透過性容器に入れ,光存在下で陳列販売することに何の困難もないというべきものである。

ix)小活
以上検討したように,本件発明2?9は,甲第1?3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり,請求項1?9に係る発明についての本件特許は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人の負担とすべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
容器入り油脂組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂を光透過性容器に充填してなる容器入り油脂組成物に関する。より詳細には、市場で流通する容器、特に個人消費者の購買に供される、蛍光灯等の光を容易に透過する容器に、食用油脂を収容してなる容器入り食用油脂に関する。
【0002】
(発明の背景)
2003年度の日本の食用油脂需要は、菜種油84万トン、大豆油72万トンであり、それに次いでパーム油が35万トンとなっている。大豆油は、世界で最も多く生産される油脂であり、3250万トン(2005年)が生産されている。
菜種油は、家庭用サラダ油として多く用いられており、一般的に大豆との調合油として多く用いられている。しかし、近年、菜種油の淡白な風味特性と安定性の良さを活かし、「キャノーラ」の名称で単独商品が流通し、消費者に受容され、需要が伸びている。
【0003】
一方、大豆油は、「においの戻り」である青豆臭(以下、「大豆油由来の戻り臭」という場合がある。)が不快であるといわれている。この戻り臭は光により発生するともいわれ、リノレン酸説、フラン酸説など原因物質が推定されているが、未だ特定されていない。よって、この課題の解決は困難であるため、容器が透明で光を透過する場合は、大豆油を高い割合で含む食用油脂は、賞味に耐えうる品質を保証することができないとの問題がある。これが原因の一つとなり、大豆油は、世界的に生産量が多いにも係わらず国内需要は伸びていない。
【0004】
上記臭気発生の問題を避けるため、通常、大豆油や大豆油を多く含む油脂組成物は、金属性の遮光容器(例えば、斗缶や丸缶)に入れて、流通している。しかし、遮光容器は、金属製のものであれば非常に重く作業性が悪いとの問題がある。また、中身が見えないことから残量がわからない等の便宜を欠いたものであったり、中身が見えないことから安心感の欠如した形態であるとの問題もある。特に、一般家庭用に用いる400?1500mL容器として、金属製のものについては使いづらさが指摘されている。
【0005】
通常、大豆油は、サラダ油の名称で、大豆油と菜種油との混合油脂として流通することが一般的である。しかし、上記混合油脂中の大豆油の割合が増加すると、上記光による臭気発生の問題が生じてくる。この点については、既に、一般家庭用の食用油脂の包装体(例えば、PET容器)で流通・販売した場合、光による「においの戻り」が生じることで、サラダ油の配合量が調整されることが記載されている(非特許文献1)。
また、酸素バリア性の高い容器に入れた食用油脂に関する技術も提案されている(特許文献1,2)が、この技術では光により大豆油特有の不快な戻り臭が発生する問題点は全く改善されない。
【0006】
【特許文献1】特開2004-292052号公報
【特許文献2】特開2005-027505号公報
【非特許文献1】油脂、1997年、第50巻、第5号、P41?50
【発明の開示】
【0007】
本発明の課題は、上記問題点に鑑みて、通常の陳列販売で照射される等の光存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生がより少ない、大豆油を高い割合で含む油脂を光透過性容器に充填した容器入り油脂組成物を提供することである。
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、大豆油に対して特定のパームオレインを特定の割合で添加した油脂組成物を光透過性容器に充填、収容したものが、大豆油と他の油脂との油脂組成物を光透過性容器に充填、収容したものに比べて、光の存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生が少ないことを見出した。本発明はこの知見に基づいて成されたものである。
すなわち、本発明は、大豆油とパームオレインを含有する油脂組成物を容器に充填してなる容器入り油脂組成物であって、
油脂組成物中、大豆油の含有量が50質量%以上であり、
大豆油100質量部に対してパームオレインの割合が33?100質量部であり、
パームオレインが、ヨウ素価67?80、曇点5℃以下であって、パームオレインの構成脂肪酸が、ミリスチン酸0?4質量%、パルミチン酸25?38質量%、ステアリン酸0.5?6質量%、オレイン酸40?60質量%、及びリノール酸8?18質量%を含み、
容器の少なくとも1部が光透過性材料で形成されている、
ことを特徴とする容器入り油脂組成物を提供する。
本発明は、又、パームオレインからなることを特徴とする、大豆油に光が照射された時に発生する戻り臭の発生抑制剤を提供する。
本発明は、又、少なくとも1部が光透過性材料で形成されている容器入り大豆油中にパームオレインを存在させることを特徴とする、該容器に光が照射された時に大豆油から発生する戻り臭の発生を抑制する方法を提供する。
【0009】
本発明の容器入り油脂組成物は、(a)大豆油単体(100%)を光透過性容器に収容したものや(b)大豆油と菜種油を重量比40?90:60?10で含有する油脂組成物を光透過性容器に収容したものと比較して、光存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生が少ない。つまり、通常の陳列販売で照射される等の光存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生がより少ないので、光透過性容器に収容して多量の大豆油を消費者に販売することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、大豆油100質量部に対してパームオレイン33?100質量部併用する。
(大豆油)
本発明で用いる「大豆油」は、特に限定がなく、通常の方法で製造されたものを用いることができる。大豆油は、通常、大豆に溶剤抽出を施した後、脱ガム、脱酸、脱色、脱ロウ(必要に応じて)、脱臭の精製工程を経て製造される。精製方法として、化学的精製や物理的精製等があるが、いずれも用いることができる。
大豆油中の脂肪酸組成は、特に限定がなく、例えば、交配でリノレン酸含量を低下させた大豆から得た大豆油(低リノレン酸含有大豆油)を用いることができる。
大豆油中のトランス脂肪酸の有無は、特に限定されるものではない。
原料である大豆の原産地は、特に限定がなく、アメリカ産、南米産等を用いることができる。
【0011】
(パームオレイン)
本発明で用いる「パームオレイン」は、ヨウ素価65以上、曇点5℃以下であって、パームオレインの構成脂肪酸が、ミリスチン酸0?4質量%、パルミチン酸25?38質量%、ステアリン酸0.5?6質量%、オレイン酸40?60質量%、及びリノール酸8?18質量%を含むものである。
このうち、ヨウ素価が67以上のものが好ましく、より好ましくは70以上である。一方、80以下であるのが好ましい。又、曇点は5℃?-2℃程度のものが好ましい。パームオレインの構成脂肪酸は、ミリスチン酸0?3質量%、パルミチン酸26?35質量%、ステアリン酸1.5?4質量%、オレイン酸46?56質量%、及びリノール酸12?16質量%であるのが好ましく、パームオレインの構成脂肪酸のミリスチン酸含量がステアリン酸含量より少なく、かつパルミチン酸含量がオレイン酸含量よりも少ないのが好ましい。特に、ミリスチン酸0.1?2質量%、パルミチン酸26?32質量%、ステアリン酸1.5?3.4質量%、オレイン酸48?56質量%、及びリノール酸12?16質量%であるのが好ましい。又、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びリノール酸の合計が90質量%以上であるのが好ましく、特に95質量%以上、95?99重量%であるのが好ましい。
ヨウ素価は、例えば、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.3.4.1-1996」などの方法により容易に測定することができる。又、曇点は、例えば、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.2.7-1996」などの方法により容易に測定することができる。又、脂肪酸組成は、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.4.2.2-1996」などの方法により容易に測定することができる。
【0012】
さらに、本発明で用いるパームオレインとしては、パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドの量が35質量%以下(より好ましくは、32?15質量%、32?20質量%)であり、かつモノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドの量が50質量%以上(より好ましくは、55?75質量%、55?70質量%)であるのが好ましい。また、さらに、トリ不飽和脂肪酸グリセリドの量は5質量%以上(より好ましくは、5?15%)であることが好ましい。
このうち、パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドであるP2O(脂肪酸としてパルミチン酸を2つ、オレイン酸を1つ有するトリアシルグリセロール)の量が20質量%以下(より好ましくは、15?5質量%)であるのが好ましい。又、パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のモノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドであるPO2(脂肪酸としてパルミチン酸を1つ、オレイン酸を2つ有するトリアシルグリセロール)の量が30質量%以上(より好ましくは、35?50質量%)であるのが好ましい。
パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のP2Oの量、PO2の量、ジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドの量、モノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリド及び、トリ不飽和脂肪酸グリセリドの量は、例えば、ガスクロマトグラフ測定方法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)に準ずる)などの方法により容易に測定することができる。
【0013】
このようなパームオレインは、パーム油から分別して得ることができる。具体的には、アブラヤシの果房を蒸気で処理した後、圧搾法により採油する。採油された油は、遠心分離を行い繊維や夾雑物を取り除き、乾燥する。その後、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭の精製を経る。精製方法として、化学的精製や物理的精製等があるが、いずれも用いることができる。
パーム油は、常温で半固状、半液状であるので、用途に応じ分別処理を行い、得られた分別油として使用されることが多い。
パームオレインを得るためのパーム油の分別方法は、特に限定がなく、通常は冷却による自然分別法を用いるが、界面活性剤や溶剤により分別する方法を用いることが可能である。パームオレインは、パーム油を分別して得られる、中融点部分もしくは低融点部分である(高融点部分は、一般にパームステアリンと呼ばれる)。この分別は2回分別、3回分別でもよく、複数回分別処理して得られる低融点部分でよい。
【0014】
(大豆油とパームオレインの質量部)
大豆油100質量部に対してパームオレイン33?100質量部であり、33?82質量部が好ましく、33?67質量部がより好ましい。さらに、33?54質量部が好ましく、特に33?43質量部が好ましい。又、大豆油100質量部に対してパームオレイン40?100質量部であるのも好ましい。
本発明では、油脂組成物中、大豆油の含有量が50質量%以上であるのが好ましく、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。又、65質量%以上が好ましく、70質量%以上が特に好ましい。大豆油100質量部に対してパームオレインの量が33?54質量部であり、かつ油脂組成物中大豆油の含有量が65質量%以上であるのが特に好ましい。又、油脂組成物中の大豆油含量とパームオレイン含量の和を100質量%とするとき、そのうち大豆油の含量は65?75質量%または70?75質量%であるのが好ましい。
本発明の油脂組成物が、大豆油とパームオレインの混合物からなるのが好ましい。
【0015】
比で表したとき、例えば、概ね、大豆油100質量部に対してパームオレイン33質量部とは、大豆油:パームオレイン=75:25(質量比、以下同じ)であり、大豆油100質量部に対してパームオレイン43質量部とは大豆油:パームオレイン=70:30であり、大豆油100質量部に対してパームオレイン54質量部とは大豆油:パームオレイン=65:35である。又、大豆油100質量部に対してパームオレイン100質量部とは大豆油:パームオレイン=50:50を意味する。
【0016】
(混合)
大豆油とパームオレインとの油脂組成物を作る方法は、特に限定はなく、通常、両者を混合し、均一になるまで攪拌すれば良い。
大量生産する場合、より混合しやすくする目的で、パームオレインや添加剤(乳化剤)を加熱(例えば、40℃)してから、大豆油に加えて混合攪拌しても良い。
【0017】
(光透過性容器)
本発明で用いるに容器は、その少なくとも1部が光透過性材料で形成されているものであれがよい。このような容器としては、遮光処理を施していない透明容器または半透明容器、つまり、光透過性容器があげられる。このうち、透明容器としては、例えば、市販されている日清キャノーラ油 ヘルシーライト(日清オイリオグループ株式会社製)の容器が挙げられる。又、半透明容器としては、例えば、市販されている日清サラダ油(日清オイリオグループ株式会社製)の容器が挙げられる。
容器としては、店頭で陳列販売される一般家庭用の食用油脂用の容器、例えば、一般に、内容量が200?2000gのプラスチック製容器が好ましく、特に600?1650gのものが好ましい。
【0018】
(その他の成分)
容器入り油脂組成物の油脂組成物中には、大豆油及びパームオレインの他に、本発明の効果を損ねない程度に、その他の成分を入れることができる。これらの成分とは、例えば、一般的な食用油脂に用いられる成分(食品添加物など)である。
これらの成分としては、例えば、酸化防止剤、結晶調整剤、食感改良剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類等が挙げられる。結晶調整剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、縮合リシノレイン脂肪酸エステル、グリセリドエステル等が挙げられる。
また、香辛料や着色成分等も添加することができる。
香辛料としては、例えば、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アスタキサンチン等が挙げられる。
【0019】
本発明の容器入り油脂組成物は、長期間の流通、陳列販売等を供することができる。特に、照度1000Lux以上(照明の角度によっては400Lux以上)の光存在下で陳列販売することができる。
本発明の容器入り油脂組成物は、広範な用途で使用される。例えば、炒め物(焼きそば、野菜炒め等)、揚げ物(天ぷら、コロッケ、トンカツ等)、スプレー用途(油を食材にスプレーしてオーブンや電子レンジで加熱する)、離型油、マヨネーズ、ドレッシング等に用いることができる。
【実施例】
【0020】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
実施例において、「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。また、特別な記載がない場合、大豆油は日清オイリオグループ(株)製の商品名「日清大豆サラダ油」、菜種油は日清オイリオグループ(株)製の商品名「日清菜種サラダ油」、コーン油は日清オイリオグループ(株)製の商品名「日清コーン油」を用いた。
又、使用したパームオレインA及びBは、下記の特性を有するものである。

表中、ジ飽和モノ不飽和は、ジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドを、モノ飽和ジ不飽和は、モノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドを、トリ不飽和は、トリ不飽和脂肪酸グリセリドを示す。又、P2Oは脂肪酸としてパルミチン酸を2つ、オレイン酸を1つ有するトリアシルグリセロール、PO2は脂肪酸としてパルミチン酸を1つ、オレイン酸を2つ有するトリアシルグリセロールを示す。
表中の特性値は、以下の方法によって測定した。
【0021】
ヨウ素価
「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.3.4.1-1996」の方法に準拠じて行った。
曇点
「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.2.7-1996」の方法に準じて行った。
パームオレインの構成脂肪酸
「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.4.2.2-1996」の方法に準じて行った。
ジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドなど
ガスクロマトグラフ測定方法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993))に準じて行った。
ガスクロマトグラフィ-は、HP6890(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。カラムは007-65HT(15m×0.25mmI.D.×0.1μm)(Quadrex社製)を用い、温度条件は350℃(1℃/min)?360℃で行った。分析条件、ピークの帰属は、JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)のFIG.2を参照した。組成比は、クロマト上の総面積を100とし、面積%で表記した。
上記方法により、P2OやPO2の量などの脂肪酸トリグリ組成を測定してから、それぞれに該当する成分の量の和を求めることにより、ジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリド、モノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリド及びトリ不飽和脂肪酸グリセリドの量を算出した。
【0022】
(混合油脂の製造方法)
大豆油を一定量はかりとり、菜種油、コーン油、パームオレインのいずれか1種を一定量をはかりとり、両者を攪拌機にいれ、十分混合攪拌した。
この混合油脂には、添加剤等のその他の成分を入れていないことから、「油脂組成物中の、大豆油とパームオレインとの和の割合(大豆油とパームオレインとの和の質量/油脂組成物の質量)」は、100%である。
【0023】
(混合油脂の充填方法)
混合油脂を、1000g用の遮光処理を施していない透明容器に、1000gになるよう充填した。この遮光処理を施していない透明容器は、市販されている日清キャノーラ油 ヘルシーライト(日清オイリオグループ株式会社製)と同じものである。
【0024】
[実験例1](大豆油と菜種油との混合油脂の検討)
(実験方法)
表1に示した割合で、大豆油と菜種油との混合油脂を作り、以下の方法で、光存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭の発生を評価した。結果を表1に示す。
(大豆油由来の戻り臭の評価方法)
混合油脂が入った遮光処理を施していない容器を、照度7000Luxで24時間光に曝した。その混合油脂を100mLビーカーに50gはかりとり、ブロックヒーターで油温が180℃になるまで加熱した。臭気が十分に発生した後、鼻を近づけて評価した。
【0025】
(評価方法)
パネラー20名を用いて、大豆油100%(試験例7)の臭気に対する度合いについて、以下の評価基準により、1?5点のいずれかで判断した。20人の点数の平均点より、4.5以上をA、4以上をB、3以上をC、2以上をD、1以上をEとした。
この評価でB評価以上の場合、大豆油由来の戻り臭が改善されたと評価する。
[評価基準]
5点:大豆油由来の戻り臭をほとんど感じない。
4点:大豆油由来の戻り臭をやや感じるが、不快でない。
3点:大豆油由来の戻り臭を感じるが、不快でない。
2点:大豆油由来の戻り臭をはっきり感じ、許容し難い。
1点:大豆油由来の戻り臭が強く許容できない。
【0026】
菜種油の脂肪酸組成、トリアシルグリセロール組成の一般的な値を、以下に示す。菜種油やコーン油等の通常の液状油の曇り点は、-13?-5℃である。

表中、ジ飽和モノ不飽和は、ジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドを、モノ飽和ジ不飽和は、モノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドを示す。又、又、P2Oは脂肪酸としてパルミチン酸を2つ、オレイン酸を1つ有するトリアシルグリセロール、PO2は脂肪酸としてパルミチン酸を1つ、オレイン酸を2つ有するトリアシルグリセロールを示す。
【0027】

【0028】
表1に示すとおり、菜種油を60%以上配合したとき、大豆油由来の戻り臭が改善した。一方、大豆油を50%以上配合したとき、大豆油由来の戻り臭が改善しなかった。
これにより、大豆油50%以上含むものは、遮光処理を施していない容器に充填した形態で、光存在下で陳列販売する等の用途に使用することは難しいことがわかった。
【0029】
[実験例2](大豆油とコーン油との混合油脂の検討)
(実験方法)
表2に示した油の種類及び割合で混合油脂を作り、上記「実験例1の評価方法」と同様の方法により、評価した。結果を表2に示す。
【0030】
コーン油の脂肪酸組成、トリアシルグリセロール組成の一般的な値を、以下に示す。菜種油やコーン油等の通常の液状油の曇り点は、-13?-5℃である。

表中、ジ飽和モノ不飽和は、ジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドを、モノ飽和ジ不飽和は、モノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドを示す。又、P2Oは脂肪酸としてパルミチン酸を2つ、オレイン酸を1つ有するトリアシルグリセロール、PO2は脂肪酸としてパルミチン酸を1つ、オレイン酸を2つ有するトリアシルグリセロールを示す。
【0031】

【0032】
表2に示すとおり、コーン油を50%以上配合させても、改善しなかった。
[実験例3](大豆油とパームオレインとの混合油脂の検討)
(実験方法)
表3に示した油の種類及び割合で混合油脂を作り、光存在下で保持したときに生じる大豆油由来の戻り臭を評価した。
評価1は、上記「実験例1の評価方法」と同様の方法で行った。
評価2は、光存在下に保持する条件として、「照度7000Luxで24時間」の代わりに、「照度3000Luxで24時間」で行った以外は、上記「実験例1の評価方法」と同様の方法で行った。
評価3は、光存在下に保持する条件として、「照度7000Luxで24時間」の代わりに、「照度1000Luxで1週間」で行った以外は、上記「実験例1の評価方法」と同様の方法で行った。
結果を表3に示す。
【0033】


【0034】
表3に示すとおり、パームオレインAを30%以上添加したとき、大豆油由来の戻り臭が大きく改善した。
[実験例4](大豆油75%とパームオレインA25%との混合油脂の検討)
実験例3の結果を鑑み、大豆油75%、パームオレインA25%の混合油脂を作り、実験例3と同様の試験、評価1、評価2を行った。結果を表4に示す。
【0035】

【0036】
表4に示すとおり、パームオレインAを25%以上添加したとき、大豆油由来の戻り臭を改善した。
これにより、パームオレインAを25%以上(好ましくは30%以上)含むものは、遮光処理を施していない容器に充填した形態で、光存在下で陳列販売する等の用途に使用することが可能であることがわかった。
【0037】
実施例2
[実験例5](パームオレインB、Cを用いた検討)
(実験方法)
表5に示した油の種類及び割合で混合油脂を作り、上記「実験例1の評価方法」と同様の方法により、評価する。結果を表5に示す。
【0038】


【0039】
表5に示すとおり、パームオレインBまたはCを30%添加したとき、大豆油由来の戻り臭が大きく改善する。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆油とパームオレインを含有する油脂組成物を容器に充填してなる容器入り油脂組成物であって、
油脂組成物中、大豆油の含有量が50質量%以上であり、
大豆油100質量部に対してパームオレインの割合が33?100質量部であり、
パームオレインが、ヨウ素価67?80、曇点5℃以下であって、パームオレインの構成脂肪酸が、ミリスチン酸0?4質量%、パルミチン酸25?38質量%、ステアリン酸0.5?6質量%、オレイン酸40?60質量%、及びリノール酸8?18質量%を含み、
容器の少なくとも1部が光透過性材料で形成されている、
ことを特徴とする容器入り油脂組成物。
【請求項2】
大豆油100質量部に対してパームオレインの量が33?54質量部であり、かつ油脂組成物中大豆油の含有量が65質量%以上である請求項1記載の容器入り油脂組成物。
【請求項3】
油脂組成物が、大豆油とパームオレインの混合物からなる請求項1又は2記載の容器入り油脂組成物。
【請求項4】
パームオレインの構成脂肪酸のミリスチン酸含量がステアリン酸含量より少なく、かつパルミチン酸含量がオレイン酸含量よりも少ない請求項1?3のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
【請求項5】
パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドの量が35質量%以下であり、かつモノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドの量が50質量%以上である請求項1?4のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
【請求項6】
パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のジ飽和モノ不飽和脂肪酸グリセリドであるP2O(脂肪酸としてパルミチン酸を2つ、オレイン酸を1つ有するトリアシルグリセロール)の量が20質量%以下である請求項1?5のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
【請求項7】
パームオレインを構成するトリアシルグリセロール中のモノ飽和ジ不飽和脂肪酸グリセリドであるPO2(脂肪酸としてパルミチン酸を1つ、オレイン酸を2つ有するトリアシルグリセロール)の量が30質量%以上である請求項1?6のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
【請求項8】
容器が、遮光処理を施していない透明容器または半透明容器である請求項1?7のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
【請求項9】
光存在下で陳列販売させる用途に用いられるものである請求項1?8のいずれか1項記載の容器入り油脂組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-03-17 
結審通知日 2011-03-22 
審決日 2011-04-11 
出願番号 特願2009-501241(P2009-501241)
審決分類 P 1 113・ 113- ZA (A23D)
P 1 113・ 121- ZA (A23D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 深草 亜子
鵜飼 健
登録日 2009-04-10 
登録番号 特許第4290222号(P4290222)
発明の名称 容器入り油脂組成物  
代理人 小川 信夫  
復代理人 平山 孝二  
代理人 辻居 幸一  
代理人 浅井 賢治  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 箱田 篤  
代理人 大和 信也  
代理人 箱田 篤  
代理人 山崎 一夫  
代理人 浅井 賢治  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 辻居 幸一  
代理人 山崎 一夫  
代理人 小川 信夫  
復代理人 平山 孝二  

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