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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800006 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  H01L
管理番号 1238692
審判番号 無効2008-800005  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-01-15 
確定日 2011-06-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第3966884号「基板処理装置及び基板処理方法並びに基板の製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成20年10月14日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10428号平成21年 6月29日判決言渡)があったので、更に審理の上、次のとおり審決する。 
結論 特許第3966884号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許の設定登録までの手続の経緯
本件特許第3966884号は、平成13年4月27日に出願した特願2001-170284号(以下「原出願」という。)の一部を平成17年6月17日に新たな特許出願(特願2005-177100号)とし、平成19年6月8日にその請求項1ないし6に係る発明について特許権の設定登録がされたものである。

2 本件無効審判の手続の経緯
(1)請求人は、平成20年1月15日に本件請求項1ないし6に係る発明の特許(以下総称して「本件特許」という。)について無効審判を請求した。
(2)請求人は、平成20年2月1日付けで手続補正書、平成20年5月29日付けで第1回上申書、平成20年7月2日付けで第2回上申書、平成20年8月27日付けで審理の方式の申立書、平成20年8月29日付けで当事者尋問申出書及び尋問事項書、平成20年9月18日付けで審理再開申立書、平成20年9月24日付けで証人尋問申出書及び尋問事項書を提出し、一方、被請求人は、平成20年4月7日付けで答弁書、平成20年4月10日付けで上申書を提出した。
(3)平成20年10月14日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決がされたところ、知的財産高等裁判所において、審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10428号、平成21年6月29日判決言渡)がされ、同判決は確定した。
(4)請求人は、平成22年4月19日付けで証人尋問申出書及び尋問事項書、平成22年5月31日差出で上申書、平成22年9月9日差出で上申書、平成22年11月5日付けで上申書、証人尋問申出書及び尋問事項書、平成23年2月15日付けで上申書及び尋問事項書を提出し、被請求人は、平成22年7月6日付けで答弁書、平成22年9月7日付けで上申書、平成22年10月25日付けで証拠説明書、平成23年2月16日付けで口頭審理陳述要領書を提出した。
(5)平成23年3月2日に口頭審理及び証拠調べ(証人尋問)が行われた。
(6)請求人は平成23年3月4日付けで証拠申出書を提出した。

第2 本件発明
本件特許は、願書に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
被処理基板をローラにて搬送自在に構成されたローラ搬送機構を有するとともに被処理基板を搬入出する搬入出口を有するローラ搬送部、前記ローラ搬送部の上部に配置され被処理基板に対して温調処理する温調処理部、及び前記温調処理部の上部に配置され前記温調処理部より高い温度にて前記被処理基板に熱処理を施す熱処理部を具備した第一の被処理基板処理部と、被処理基板を搬送自在に構成された搬送機構を有するとともに被処理基板を搬入出する搬入出口を有する搬送部、前記搬送部の上部に配置され被処理基板に対して温調処理する温調処理部、及び前記温調処理部の上部に配置され前記温調処理部より高い温度にて前記被処理基板に熱処理を施す熱処理部を具備した第二の被処理基板処理部と、を具備し、前記第一の被処理基板処理部と前記第二の被処理基板処理部との間であって各被処理基板処理部外に配置され、前記第一の被処理基板処理部のローラ搬送部のローラ搬送機構または/及び前記第二の被処理基板処理部の搬送部の搬送機構に対して前記被処理基板を搬送自在に構成された自走不可である第一の搬送機構を具備したことを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
前記第一の搬送機構から被処理基板を受け渡し自在に構成され、前記被処理基板を自走して搬送する第二の搬送機構を具備したことを特徴とする請求項1記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記ローラ搬送部において、被処理基板に対して処理液を供給する処理液供給機構を具備したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記被処理基板に対して気体を供給する気体供給機構と、この気体供給機構からの気体を排気する排気機構と、を具備したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の基板処理装置を使用して、被処理基板を処理することを特徴とする基板処理方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の基板処理装置を使用して、被処理基板を製造することを特徴とする基板の製造方法。」

第3 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、「特許第3966884号の特許は、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願(冒認出願)に対してされたものであり、特許法第123条第1項第6号に規定される無効理由に該当する。」と主張し、証拠方法として以下の証拠を申し出ている。

[証拠方法]
(1)書証
ア 請求書に添付したもの
甲第 1号証:特許第3966884号公報(本件特許公報)
甲第 2号証:特開2002-329661号公報(原出願の公開公報)
甲第 3号証:平成19年11月20日付け警告書
甲第 4号証:特開2002-151384号公報(請求人の出願の公開公報)
甲第 5号証:特開2002-334918号公報(請求人の出願の公開公報)
甲第 6号証:特開2002-289501号公報(請求人の出願の公開公報、平成20年2月1日付け手続補正により補正)
甲第 7号証:特開2002-313699号公報(請求人の出願の公開公報)
甲第 8号証:特開2002-324740号公報(請求人の出願の公開公報)
甲第 9号証:平成19年12月12日付け株式会社磯部調査事務所作成の調査報告書(伊藤美岳の身上調査)
甲第10号証:日昇電気株式会社の商業登記簿謄本
甲第11号証:伊藤美岳が所有していた土地の不動産登記簿謄本
甲第12号証:伊藤美岳の除住民票
甲第13号証:第一新田荘の写真4葉
甲第14号証:特開2004-72120号公報(伊藤美岳の他の出願の公開公報)

イ 平成20年5月29日付け第1回上申書に添付したもの
甲第15号証:平成20年2月25日付けの企業B知的財産部部長宛の人物A弁理士の書簡
甲第16号証:平成20年2月20日付け却下理由通知書
甲第17号証:平成20年4月4日付け手続却下の処分

ウ 平成20年7月2日付け第2回上申書に添付したもの
甲第18号証:平成16年10月15日付け包括委任状提出書
甲第19号証:平成16年10月20日付け包括委任状番号通知

エ 平成22年5月31日差出の上申書に添付したもの
甲第23号証:特願2001-170284号の出願書類(原出願の特許願、明細書、図面、要約書)
甲第24号証:特願2001-132191号の要約書
甲第25号証:特開2002-330296号公報(特願2001-132191号の公開公報)
甲第30号証:審決取消訴訟における平成21年1月19日付け証拠説明書
甲第43号証:審決取消訴訟における平成21年4月3日付け証拠説明書
甲第44号証:出口洋一の写真
甲第45号証:平成21年2月27日付け水野浩司の陳述書(平成23年3月4日付け証拠申出書により再提出)
甲第46号証:請求人社内の出口洋一の人事データを印刷したもの
甲第47号証:請求人従業員の時の出口洋一の名刺
甲第48号証:企業Aの出口洋一の名刺
甲第49号証:企業Aの商業登記簿謄本
甲第50号証:企業Aのホームページを印刷したもの
甲第51号証:2007年8月8日に送信された電子メールを印刷したもの
甲第52号証:2007年8月11日に送信された電子メールを印刷したもの
甲第53号証:2003年11月4日に事務所Aで受信されたFAX
甲第54号証:審決取消訴訟における平成21年3月2日付け訴訟委任状
甲第55号証:事務所Aの請求書に関するデータ及び請求書
甲第56号証:平成21年3月27日付け高山宏志の陳述書
甲第57号証:平成10年5月7日付けの請求人から鈴栄内外国特許事務所に宛てた年金管理依頼書等
甲第58号証:IPDLの公報テキスト検索における検索キーワード「現像の脱色処理」等での検索結果等を印刷したもの
甲第59号証:2000年8月28日受付の知的財産権報告書兼発明等譲渡証等
甲第60号証:2000年11月15日にKOBAYASHIから出口洋一等に送信された電子メールを印刷したもの等
甲第61号証:「技術的証人尋問に係る尋問事項」の表題のある文書
甲第62号証:「LCD製造装置関連の用語の意味」の表題のある手書き文書
甲第63号証:平成21年9月1日付けの警告状
甲第64号証:平成21年9月15日付けの「回答書」の表題のある文書
甲第65号証:事務所A麹町オフィスのホームページを印刷したもの
甲第66号証:原出願と請求人の特許出願の比較を説明する文書
甲第67号証:IPDLの公報テキスト検索における検索キーワード「特開平2-144333号公報」での検索結果を印刷したもの

オ 平成22年9月9日差出の上申書に添付したもの
甲第21号証:2007年12月3日付け企業B知的財産部部長宛の書簡
甲第22号証:平成21年1月9日付け企業B知的財産部部長の宣誓供述書
甲第26号証:平成20年6月11日付け株式会社磯部調査事務所作成の調査報告書(人物Aの特殊調査)
甲第27号証:IPDLの公報テキスト検索における検索キーワード「被処理基板 いわゆるフォトリソグラフィー技術により回路パターンを形成する」等での検索結果を印刷したもの
甲第28号証:2001年3月1日受付の知的財産権報告書兼発明等譲渡証等
甲第29号証:2009年1月9日付け元田公男の宣誓供述書
甲第31号証:審決取消訴訟における平成21年1月19日付け原告準備書面(第1回)
甲第32号証:審決取消訴訟における平成21年1月29日付け原告準備書面(第2回)
甲第33号証:審決取消訴訟における平成21年4月3日付け原告準備書面(第3回)
甲第36号証:審決取消訴訟における平成21年1月29日付け証拠説明書

カ 平成22年11月5日付け上申書に添付したもの
甲第68号証:審決取消訴訟における平成21年3月3日付け被告第1準備書面

キ 平成23年3月4日付け証拠申出書に添付したもの
甲第71号証:「尋問事項についての考察ver1.0」の表題のある文書
甲第76号証:2003年10月10日に送信された電子メール

ク 欠番
甲第20号証、甲第34、35号証、甲第37?42号証、甲第69?70号証及び甲第72?75号証は欠番となっている。

(2)人証
ア 証人氏名 水野浩司
住所 住所A
職業 事務所A

イ 証人氏名 人物A
住所 住所B
職業 事務所B

ウ 証人氏名 出口洋一
住所 住所C
職業 企業A

2 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、証拠方法として以下の証拠を申し出ている。

[証拠方法]
(書証)
・平成22年10月25日付け証拠説明書に添付したもの
乙第1号証:伊藤美岳の運転免許証

第4 当審の判断
1 事実関係
1-1 証人の証言内容
(1)水野浩司の証言内容
(ア)事務所Aは2003年1月に開設した。
(イ)伊藤美岳の出願の代理を受任したのは、2001年に当時弁理士でなかった人物Aから、伊藤美岳が既に特許庁に対して特許出願をしていて、伊藤美岳が願書表示上の住所には不在になるというケースが非常に多く、特許庁とのやりとりが始まると書類を紛失してしまう可能性があるので代理人を引き受けてほしいという依頼があった。私の記憶では2001年に中途受任したものと思っていたが、実際に特許庁に代理人受任届が出されたのは2003年だったようだ。人物Aが事務所Aに入所してからは担当は人物Aに代わった。
(ウ)2000年に高田馬場で事務所を開業しており、開業した翌年に、伊藤美岳を名乗る人物が高田馬場の浜谷第7ビルの事務所に来ており、いきなり拒絶理由通知書を手渡されて、事務所の中のホワイトボードにいろいろ殴り書きをして、この審査官の判断はおかしいということを盛んに言っていた。その後カラーコピーを私に手渡し、この装置はこの特許を侵害している、技術的範囲に属するという説明を口頭で受けたので、特許に関してはかなり詳しい人物であると私は記憶している。伊藤美岳を名乗る人と面会した以外は伊藤美岳とは電話や書面のやりとりをした記憶はない。
(エ)高田馬場の事務所で会った人物は、私と同年代かちょっと上ぐらいというふうに認識しており、甲第45号証の別紙3の写真の人物や乙第1号証の写真の人物は年齢が明らかに違うから会った人物ではない。高田馬場の事務所で会った人物は、甲第44号証の人物か断定はできないがこの人物であったろうなという印象である。(再尋問では)多分出口洋一に間違いない。大分確信は強くなった。
(オ)本件の審決取消訴訟の第1回準備書面を見たところ、人物Aが冒認をしているかのような書き方をされていたので、事務所に残っている伊藤美岳関連の資料を探して、伊藤美岳とはどういう人物かとか、そういう資料が残っていないか探した。伊藤美岳関連のファイル等、事件ファイルはすべて麹町の方に既に移管されて何もなかったが、会計資料だけ残っており、伊藤美岳の案件を私の方から人物Aに譲った後の全ての会計、請求書の送り先が伊藤美岳ではなくてパテントビジネスサービスという会社に書類と請求書が送られているということを発見した。
(カ)平成21年2月20日に人物Aと企業Bとの面会が行われた際に、人物Aは、出口洋一から明細書を渡されて、図面が手書きだったので、その図面に関しては図面屋さんに出して、上がってきたものを書類を整えて私が提出した、と答えていた。
(キ)包括委任状をもらう際に伊藤美岳に直接会ったことはなかった。
(ク)伊藤美岳を名乗る人物に対して伊藤美岳であることの確認はしなかった。
(ケ)人物Aは伊藤美岳の出願が冒認であるというようなことは言っていない。

(2)人物Aの証言内容
(コ)伊藤美岳は出口洋一に紹介された。伊藤美岳と最初に会ったのは五、六年前で、場所は町田で会った。顔合わせのために会ったが、余り話さない方なので技術的な話はなかったと思う。伊藤美岳とは3回ぐらい会った。
(サ)伊藤美岳名義の特許出願の事務所Aの事務所費用は、出口洋一からパテントビジネスサービスで払うので請求してくれと言われたので、パテントビジネスサービスに請求した。パテントビジネスサービスから金額は期限どおりに支払われていたと思う。
(シ)伊藤美岳名義の出願についての指示は出口洋一から来た。伊藤美岳から直接指示が来たことはない。
(ス)伊藤美岳の出願の代理は出口洋一を介して依頼された。この時伊藤美岳には会っていない。
(セ)伊藤美岳の原出願の明細書は、出口洋一から直接手渡された。原出願の明細書を作成したのは誰かわからない。願書、明細書はタイプされたものを渡された。願書には平成13年4月27日の日付もタイプされていた。図面はフリーハンドだったのでトレーサーに依頼して清書した。手書きの図面は誰が書いたか知らない。図面の清書が出来上がった段階で清書図面の確認を出口洋一、伊藤美岳にはとっていない。要約書は後で私の方で取り違えてしまうが、そこについていたかどうかもよく覚えていない。書類を受けて、形式のチェックをして郵送で出願した。
(ソ)出願書類を整えて提出する時に特許印紙は恐らく私が勤務していた事務所の近くの郵便局で自分で買いに行ったと思う。特許印紙を買う費用は、図面の実費プラス必要な費用を出口洋一からいただいたので、その中から払った。
(タ)原出願の代理人に関して、出口洋一から誰か弁理士を紹介してほしいという話があり、多分審査請求した後に出口洋一に、水野浩司を紹介した。水野浩司に伊藤美岳名義の出願の代理のことを話した時には伊藤美岳にまだ会っていなかったと思う。そのころ伊藤美岳と電話で話したこともない。
(チ)原出願とその分割出願の代理人になって、これらの出願について、伊藤美岳と打合せはしていない。拒絶理由等中間処理の打合せは出口洋一とした。伊藤美岳に確認はとって下さいということは言っているが、伊藤美岳と直接は打合せはしていない。
(ツ)本件分割出願3件のうちの1つについて、2004年1月26日に発せられた拒絶理由通知への対応は、意見書は私が作成し補正案は出口洋一からいただいた。伊藤美岳とは中間処理について直接話はしていない。
(テ)甲第3号証の警告書を送ることを発案したのは誰だかはわからないが、出口洋一からの指示で警告書を送った。伊藤美岳が関与していないかどうかはわからない。警告書の送付先を決めたのは出口洋一である。警告書の文面は、私が素案を書いて、出口洋一に直してもらった。
(ト)本件無効審判及び本件審決取消訴訟において、伊藤美岳と協議していない。
(ナ)伊藤美岳が本当に発明者であるかどうかの確認はできなかった。
(ニ)出口洋一が伊藤美岳の原出願の明細書を書いたという話は聞いていない。出口洋一は原出願は伊藤美岳が発明したものだという言い方はしていない。
(ヌ)伊藤美岳が発明者であることの確認をするため、出口洋一を介して及び伊藤美岳へ直接電話することを試みたが、いなかったりつかまらなかったりとかで確認できなかった。
(ネ)甲第53号証のFAX、甲第51、52号証の電子メールのプリントアウトしたものは、伊東国際特許事務所における会合に西山弁理士に促されて持参したものである。

(3)出口洋一の証言内容
(ノ)伊藤美岳とは30年ほど前に日本電気株式会社で知り合った。
(ハ)原出願の特許出願の手続作業を人物Aに依頼していない。
(ヒ)中央区京橋の事務所Aで、伊藤美岳の件でと言って水野浩司と会い、伊藤美岳の出願の拒絶理由通知の対応について説明した。
(フ)甲第53号証のFAXは私が書いた。人物Aから電話を受けてこのように書けと言われた。私の名前を書こうとしたら、そこは伊藤美岳の名前にしてくれと言うから伊藤美岳の名前に変えて字を間違えた。
(ヘ)クレームの補正案を作る時、伊藤美岳とうちの会社で会って、クレームの補正案は私が作った。
(ホ)審決取消訴訟の代理人の中村弁護士はうちの税理士を通じて知った。そういういきさつから中村弁護士が審決取消訴訟の代理人に選任されたと記憶している。
(マ)台湾のLCDメーカーから弊社が修理依頼を受けて、伊藤美岳を送った。LCDの製造装置等について修理する能力が伊藤美岳にはあった。日本電気時代に伊藤美岳も私も入社一、二年くらいは明細書を書かなくてはいけなかった。
(ミ)伊藤美岳の出願のシグマ特許事務所の費用を企業Aで立て替えた。立て替えた費用はまだ伊藤美岳には請求していない。
(ム)原出願の発明者が伊藤美岳であるかどうかは知らない。

1-2.書証の記載事項
(メ)甲第2号証
a.「このような、処理を施す例として、被処理基板、例えば半導体ウエハにおけるSOD膜、例えばLow-K膜(低誘電率膜)等の加熱処理について図26を参照して具体的に述べる。この図26は、加熱処理前雰囲気設定工程或いは加熱処理後雰囲気設定工程における工程が基板の処理に対する影響を指し示すための表である。Low-K膜の加熱処理においては、基板と基板に形成されたLow-K膜とが同温だと仮定すると、基板の温度が所定の温度、例えば約200℃の温度或いはそれ以上の温度において、基板の周囲の雰囲気の酸素濃度が所定の濃度以上、例えば約30?100ppm、好ましくは30ppm以上だとLow-K膜が酸化等の不具合を起こしてしまうということを本発明者は発見するに至った。」(段落【0136】)

(モ)甲第11号証
a.「【権利部(甲区)】(所有権に関する事項) …(略)…
【原因】 【権利者その他の事項】
平成5年6月25日売買 所有者 住所D
伊 藤 美 岳
順位2番の登記を移記
平成12年5月29日住所移転 住所 住所E」(第1ページ)

(ヤ)甲第23号証
a.「【書類名】 特許願
…(略)…
【提出日】 平成13年4月27日
…(略)…
【発明者】
【住所又は居所】 住所F
【氏名】 伊藤美岳
【特許出願人】
【住所又は居所】 住所F
【氏名】 伊藤美岳 」(第1ページ)

(ユ)甲第53号証
a.「特願2001-170284号の代理をお願いいたします。青木弁理士からも話がいっていると思いますが。」
b.「この親願は、また審査請求せずに分割してその分割を早期審査請求して下さい。尚分割出願用Claimは、FAXにて3枚に案を記載いたしております。」

(ヨ)甲第55号証
a.「請求日 …(略)… 請求先 合計請求額
2003/7/30 …(略)… 伊藤美岳 …(略)…
2003/7/30 …(略)… 伊藤美岳 …(略)…
2003/9/29 …(略)… 伊藤美岳 …(略)…
2003/10/6 …(略)… 伊藤美岳 …(略)…
2003/12/1 …(略)… 伊藤美岳 …(略)…
2003/12/9 …(略)… 伊藤美岳 …(略)…
2004/1/27 …(略)… 伊藤美岳 …(略)…
2004/3/23 …(略)… 伊藤美岳 …(略)…
2004/6/23 …(略)… 伊藤美岳 …(略)…
2004/8/27 …(略)… 伊藤美岳 …(略)…
2004/10/26 …(略)… PBS …(略)…
2004/10/26 …(略)… PBS …(略)…
2005/2/1 …(略)… PBS …(略)…」(第1ページ)

(ラ)甲第68号証
a.「被告は,その後,時間があったこと,特許に関心があったことから,装置の制御関係が関連しそうな内容の特許,モーターでもシリンダーでもロボット技術でも,機構と制御,コントロールすることに関連しそうな特許等を読みこむ生活を送った。また,FPDインターナショナル …(略)…といった展示会にも足を運んだ。そのような最中,大日本スクリーンの特許 …(略)…が目に留まり,同特許の記載を出発点として他の特許等も参照するなどしながら被告により発明されたのが本件原出願発明である。」(第11ページ第4?12行)

2 本件特許が、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたものであるか否かについての検討・判断
(1)伊藤美岳が発明者であることについて疑念を抱かせる事情
(a)前記書証の記載事項(ヤ)で摘記したように、甲第23号証である原出願の出願書類の願書には、発明者であり特許出願人でもある伊藤美岳の住所は「住所F」と記載されている。一方、前記書証の記載事項(モ)で摘記したように、甲第11号証の伊藤美岳が所有していた土地の不動産登記簿謄本には、伊藤美岳は、原出願の出願日よりも10月以上前である平成12年5月29日に東京都大田区に住所移転したことが記載されており、原出願を出願した時に、伊藤美岳は原出願の願書表示の前記住所には居住していなかった事実が認められる。当該事実及び原出願は代理人が選任されていないことも併せ考えれば、特許庁との手続に必要となる願書の住所を実際の住所ではなく移転前の住所とした事情、また、早期に住所表示の手続補正を行わなかった事情について、特許権の取得を望む発明者の行為として疑念が生ずる。
(b)前記証言内容(ト)によれば、人物Aは、本件無効審判及び本件無効審判の第1次審決に対する審決取消訴訟において、代理人を辞任するまでに代理人として伊藤美岳と協議していないことが事実と認められる。また、前記証言内容(ヌ)によれば、人物Aは、出口洋一を介して及び伊藤美岳へ直接電話することを試みて、伊藤美岳が発明者であることの確認をしようとしたが、伊藤美岳に確認することができなかったことが事実と認められる。これらの事実に照らすと、冒認出願を理由とする無効審判及び無効審判に係る審決取消訴訟ということの重大性に鑑みれば、伊藤美岳が代理人である人物Aに直接連絡することに積極的にならなかった行為は、発明者の行為として疑念が生ずる。
(c)前記証言内容(ミ)によれば、伊藤美岳の出願の費用は、出口洋一が代表を務める企業Aで立て替え払いされ、立て替えた費用を伊藤美岳に請求していないことが事実と認められ、企業Aが立て替えた伊藤美岳の出願の費用はかなり高額(甲第55号証参照)である。これらの事実を社会通念に照らすと、伊藤美岳が真の発明者であって特許を受ける権利を有していたとすることに疑念が生ずる。
(d)前記証言内容(キ)、(ス)によれば、伊藤美岳の出願の代理人となった水野浩司と人物Aは、代理を引き受ける際に伊藤美岳に会っていないことが事実と認められる。当該事実は伊藤美岳が真の発明者であり出願人であるということについて疑念が生ずる。
(e)前記書証の記載事項(ラ)で摘記したように、甲第68号証である審決取消訴訟の準備書面には、伊藤美岳は展示会に足を運び大日本スクリーン株式会社の特許を出発点として他の特許等も参照しながら発明した旨の記載がされているが、前記書証の記載事項(メ)で摘記したように、甲第2号証である原出願の公開公報には、基板の周囲の雰囲気の酸素濃度が所定の濃度以上だとLow-K膜が酸化等の不具合を起こすことを発見した旨の記載がされており、このようなLow-K膜の酸化等の不具合は、特許等の参照のみで発見することはできない。そうすると、伊藤美岳が真の発明者であることには疑念が生ずる。
(f)前記証言内容(フ)によれば、甲第53号証である2003年11月4日に事務所Aで受信されたFAXは出口洋一が書いたことが事実と認められるが、甲第53号証のFAXには、伊藤美岳の名前を使って(当審注:伊藤美兵と表記を間違えている)原出願の審査請求をしないことや、分割してその分割を早期審査請求すること等の特許権利化のための重要な指示内容が記載されている(記載事項(ユ)参照)。前記出口洋一が伊藤美岳の名前を使って原出願についての指示をFAXで行った行為は、伊藤美岳が真の発明者であることに疑念を抱かせる。

(2)被請求人の伊藤美岳が発明者であることについての立証
当審は、被請求人に対して、伊藤美岳が本件特許の特許出願に係る発明を実際に行ったことを裏付ける具体的な証拠方法として、出願に関する書類、発明に関するアイデアを記載したノート等のメモ、本人が研究活動のため集めた基板処理に関する資料、基板処理に関する研究会・学会・展示会の資料等、本件特許出願や基板処理の研究に関するパソコンのデータ等の物証、又は伊藤美岳が発明者であることを証言できる証人等を例示し、証拠の提出又は証人尋問の申し出を促してきた(平成22年8月9日付けの応対記録参照)。しかしながら、伊藤美岳が本件特許の特許出願に係る発明を実際に行ったことを裏付ける証拠の提出はなく、また、伊藤美岳が亡くなっているという事情もあり、伊藤美岳が本件特許の特許出願に係る発明を実際に行ったことを裏付ける資料については、現在も見つけることはできていない。(第1回口頭審理及び証拠調べ調書参照)。

(3)当審の判断
前記(a)ないし(f)の伊藤美岳が発明者であることについて疑念を抱かせる事情や、水野浩司、人物A及び出口洋一の証言内容を全体として見れば、伊藤美岳が原出願に係る発明及び原出願の分割出願である本件特許の特許出願に係る発明の真の発明者であると考えるには不自然な点が多いといわざるを得ない。また、前記書証の記載事項(ヨ)によれば、伊藤美岳の出願に関する費用は2004年8月27日以前は伊藤美岳に請求されているし、出口洋一の証言内容(マ)によれば、伊藤美岳はLCD装置について修理することができる程度の知識があり、特許明細書も書いた経験があることが事実と認められるから、伊藤美岳が真の発明者である可能性も否定できないし、伊藤美岳が発明者であることについて疑念を抱かせる個々の事情についても伊藤美岳が真の発明者であることと全く両立しないわけではない。したがって、伊藤美岳が本件特許の特許出願に係る発明の真の発明者であるか否かについては、真偽不明である。
ところで、本件無効審判の第1次審決に対する審決取消請求事件(平成20年(行ケ)第10428号)の判決において、「冒認出願(123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,『特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと』についての主張立証責任は,特許権者が負担すると解すべきである。」と判示されていることから、本件特許の特許出願が伊藤美岳によりされたことの主張立証責任は特許権者である被請求人が負担すべきである。しかし、前記「(2)被請求人の伊藤美岳が発明者であることについての立証」に記載したように、当審は、被請求人に対して、伊藤美岳が真の発明者であることを裏付ける証拠方法を具体的に例示し、証拠の提出又は証人尋問の申し出を促してきたが、伊藤美岳が本件特許の特許出願に係る発明を実際に行ったことを裏付ける証拠の提出はなく、また、伊藤美岳が亡くなっているという事情もあり、伊藤美岳が本件特許の特許出願に係る発明を実際に行ったことを裏付ける資料については、現在も見つけることはできていない状況であるから、本件特許の特許出願が伊藤美岳によりされたことの主張立証責任が被請求人によって果たされているとはいえない。
したがって、伊藤美岳が本件特許の特許出願に係る発明の真の発明者であるか否かについては、真偽不明であり、且つ本件特許の特許出願が伊藤美岳によりされたことの主張立証責任が被請求人によって果たされているとはいえない以上、本件無効審判の第1次審決に対する審決取消請求事件(平成20年(行ケ)第10428号)の判決で判示された主張立証責任の原則に従って判断すると、本件特許は特許法第123条第1項第6号の「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき」に該当すると結論するよりほかない。

第5 むすび
以上のとおりであるから本件の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第123条第1項第6号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-04 
結審通知日 2011-04-12 
審決日 2011-04-26 
出願番号 特願2005-177100(P2005-177100)
審決分類 P 1 113・ 152- Z (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 新井 重雄  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 村田 尚英
岡田 吉美
森林 克郎
小松 徹三
登録日 2007-06-08 
登録番号 特許第3966884号(P3966884)
発明の名称 基板処理装置及び基板処理方法並びに基板の製造方法  
代理人 大貫 進介  
代理人 木田 博  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 舟橋 定之  

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