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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C30B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C30B
管理番号 1239300
審判番号 不服2008-14137  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-06 
確定日 2011-06-30 
事件の表示 特願2003-289713「ダイヤモンド膜及びその表面処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月10日出願公開、特開2005- 60135〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成15年8月8日の出願であって、平成19年11月21日付けで拒絶理由通知が通知され、平成20年1月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年2月5日付けで拒絶査定されたため、同年6月6日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年7月4日付けで手続補正書により明細書が補正された。
なお、平成22年11月11日に特許法第164条3項に基づく報告書を引用した審尋がなされたが、回答書は提出されなかった。

第2 平成20年7月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正前及び補正後の本願発明
本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするものであって、特許請求の範囲の請求項1?10に関する補正は、請求項1?4に関しては「ダイヤモンド又はダイヤモンド膜」であったものを「ダイヤモンド膜」とし、請求項5?10に関しては「ダイヤモンド又はダイヤモンド膜の表面処理法」とあったものを「ダイヤモンド膜の表面処理法」とするものである。
いずれも、ダイヤモンドに関する発明を削除してダイヤモンド膜に関する技術に限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かを、請求項5に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について検討する。
本願補正発明は、次のとおりのものである。
「ダイヤモンド膜と下記一般式(1)で表されるペルフルオロアゾアルカンを、溶液中に存在させて、紫外光を照射することによりダイヤモンド膜の表面に、前記ペルフルオロアルキル基を結合させることを特徴とするダイヤモンド膜の表面処理方法。
RFN=NRF (1)
(式中、RFはペルフルオロアルキル基を示す。)」

2.刊行物に記載された発明及び周知技術
(1)引用例1について
(i)記載事項
これに対し、本願出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された「中村挙子他4名、ペルフルオロアゾ化合物の光分解反応を用いたダイヤモンド粉末表面の化学修飾、平成14年第16回ダイヤモンドシンポジウム講演要旨集、平成14年11月25日、第116-117頁」(以下「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。
(ア)「ペルフルオロアゾオクタン(4mg)をペルフルオロヘキサン(4ml)に溶解させ、酸化表面ダイヤモンド粉末(粒径500nm、10mg)を入れて懸濁液を調製した後、アルゴン雰囲気下で撹拌しつつ室温下で低圧水銀灯を8時間照射した。」(第116頁19?21行)
(イ)「ペルフルオロアゾ化合物の光分解反応を用いて、ダイヤモンド粉末表面の化学修飾を検討したところ、・・・ペルフルオロアルキル基の導入が確認された。」(第117頁18?20行)
(ii)記載された発明
摘記事項(イ)より、引用例1には、ダイヤモンド粉末表面にペルフルオロアルキル基を導入することが記載されており、これは、同(ア)によれば、ペルフルオロアゾオクタンの溶液中に酸化表面ダイヤモンド粉末を入れて懸濁液とし、これに低圧水銀灯を8時間照射することにより行われた。
したがって、引用例1には次の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されているとすることができる。
「ペルフルオロアゾオクタン溶液中にダイヤモンド粉末を存在させ、これに低圧水銀灯を照射することにより、ペルフルオロアルキル基を導入することからなる、ダイヤモンド粉末の表面処理方法」

(2)引用例2について
(i)記載事項
同じく、特開昭63-201094号公報(以下「引用例2」という)には、次の事項が記載されている。
(カ)「フッ素および炭素を含有する表面層とダイヤモンドとからなることを特徴とするダイヤモンド状物質。」(特許請求の範囲の請求項1)
(キ)「本発明におけるダイヤモンド状物質とは、フッ素および炭素を含有する層とダイヤモンドとからなる。ここでいうダイヤモンドとは、ダイヤモンドを50重量%以上含有する組成物であり、・・・、かならずしも結晶性である必要はない。・・・
本発明においてはCVDおよびスパッタ等のPVDの方法で合成されるダイヤモンド薄膜、天然ダイヤモンド、高圧法合成ダイヤモンド等が用いられる。」(第1頁右下欄17行?第2頁左上欄9行)
(ii)記載された発明
引用例2には、摘記事項(カ)より、フッ素および炭素を含有する表面層とダイヤモンドからなるものが記載されており、当該ダイヤモンドは、摘記事項(キ)よりダイヤモンド薄膜である。
したがって、引用例2には、「フッ素及び炭素からなる表面層を有するダイヤモンド薄膜」が記載されている。

3.対比と判断
(1)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較する。
引用例1発明におけるペルフルオロアゾオクタンは、本願発明における一般式(RFN=NRF)で表されるペルフルオロアゾアルカンに包含されるものである。
また、本願補正発明における紫外線照射は、その一態様として低圧水銀灯を光源とする照射を含む。さらに、引用例1発明においても、ダイヤモンド粉末表面には、ペルフルオロアルキル基を導入している。
したがって、両者の一致点と相違点は次のとおりとなる。
(i)一致点
「ダイヤモンドと下記一般式(1)で表されるペルフルオロアゾアルカンを、溶液中に存在させて、紫外光を照射することによりダイヤモンドの表面に、前記ペルフルオロアルキル基を結合させることを特徴とするダイヤモンドの表面処理方法。
RFN=NRF (1)
(式中、RFはペルフルオロアルキル基を示す。)」
(ii)相違点
表面処理の対象が、本願補正発明ではダイヤモンド膜であるのに対し、引用例1発明ではダイヤモンド粉末である点。

(2)判断
(i)容易想到性
引用例1に記載されたダイヤモンド粉末の表面処理技術をダイヤモンド膜の表面処理に適用することは、次の理由から当業者が容易になしうるものである。
すなわち、引用例2に記載されているように、ダイヤモンド薄膜にフッ素及び炭素からなる表面層を形成することは、本願出願前に公知の技術である。そして、ペルフルオロアルキル基からなる膜はフッ素と炭素からなる膜であるので、ダイヤモンド粉末の表面処理を行う技術に接した当業者であれば、これをダイヤモンド膜の表面処理に適用してみようとすることは、引用例2の記載に基づいて容易に想到するところである。また、ダイヤモンド粉末の表面技術をダイヤモンド膜の表面処理に適用することについて、格別の課題解決が必要であったという事情がない以上、その効果も、格別のものとすることはできない。
(ii)請求人の主張
請求人は、ダイヤモンド膜とダイヤモンド粉末の表面状態の相違を理由に、引用例1発明からの容易想到性が否定されるべきである旨を主張する。しかし、非処理物の表面状態の相違に起因して、ダイヤモンド粉末の表面処理を膜に転用することが技術的に困難であったとは認められないので、本願補正発明は、単にダイヤモンド粉末の処理技術をダイヤモンド膜に転用したものにすぎす、技術的に格別のものとすることはできない。

4.本件補正についての結び
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年7月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、同年1月9日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「ダイヤモンド膜と下記一般式(1)で表されるペルフルオロアゾアルカンを、溶液中に存在させて、紫外光を照射することによりダイヤモンド又はダイヤモンド膜の表面に、前記ペルフルオロアルキル基を結合させることを特徴とするダイヤモンド又はダイヤモンド膜の表面処理方法。
RFN=NRF (1)
(式中、RFはペルフルオロアルキル基を示す。)」

2.進歩性欠如の判断
本願発明は、上記第2[理由]で検討した本願補正発明の処理対象物として「ダイヤモンド膜」に加えて「ダイヤモンド又はダイヤモンド膜」としたものである。
そうすると、ダイヤモンド膜の表面処理については本願発明の特定事項を全て含む本願補正発明が、前記「第2の[理由]3(2)」に記載したとおり、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、ダイヤモンド膜の他にダイヤモンドという処理対象物を択一的に含む本願発明も、同様の理由により、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-04-13 
結審通知日 2011-04-19 
審決日 2011-05-18 
出願番号 特願2003-289713(P2003-289713)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C30B)
P 1 8・ 575- WZ (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鮎沢 輝万  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 吉川 潤

小川 慶子
発明の名称 ダイヤモンド膜及びその表面処理方法  

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