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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B22D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B22D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D
管理番号 1239374
審判番号 不服2009-17963  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-24 
確定日 2011-06-29 
事件の表示 特願2000-580781「金属連続鋳造法及びそのために使用される連続鋳造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月18日国際公開、WO00/27565、平成14年 9月10日国内公表、特表2002-529248〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、1999年11月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年11月6日、オーストリア)を国際出願日とする出願であって、平成13年5月2日付けで特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出されるとともに同法第184条の4第1項に規定する明細書、及び要約の翻訳文が提出され、平成13年5月9日付けで手続補正書が提出され、平成20年11月25日付けで拒絶理由が通知され、平成21年3月2日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年4月15日付けで同年3月2日付け手続補正書を補正する手続補正書が提出されたが、同年5月14日付けで拒絶査定がなされ、同年9月24日付けで同拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同時に手続補正書が提出されて明細書の特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成22年9月29日付けで書面による審尋がなされ、それに対して平成23年1月5日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成21年9月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年9月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成22年9月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、(平成21年4月15日付け手続補正書により補正された)平成21年3月2日付け手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1ないし15を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1ないし4と補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし15
「【請求項1】 真っ直ぐな鉛直方向を向く型(9)に金属を鋳込み、続いて型(9)において成形された真っ直ぐな条体を引き抜くことにより、鋼の条体を連続的に鋳造するための方法であり、
型(9)から抜け出る真っ直ぐな条体が、型(9)と第1の曲げ領域(12)との間において鉛直なストレートガイド(11)に沿って案内され、
条体が、遷移湾曲部に沿う曲げ領域において先ず半径(Rend)を有する円弧形状に曲げられ、
上記半径(Rend)を有する条体ガイド(2)に沿って案内され、
次に遷移湾曲部に沿う最終の伸ばし領域(7)において真っ直ぐにされ、
その後ほぼ水平なストレートガイド(8)を経由して抜き出され、
条体が、遷移湾曲部に沿う少なくとも一つの曲げ領域(12)において第1の半径(Rmin)を有する円弧の形状に曲げられ、
遷移湾曲部に沿う少なくとも一つの連続して配置された伸ばし領域(14)において第1の曲げ領域の後における条体の半径(Rmin)より大きい半径(Rend)を有する円弧の形状に曲げられ、
大きい半径(Rend)は最終の伸ばし領域(7)の前の条体ガイド(2)の半径(Rend)に相当することを特徴とする連続鋳造法。
【請求項2】 第1の半径(Rmin)を有する条体が、第1の曲げ領域(12)と連続して配置された第1の伸ばし領域(14)との間において上記第1の半径(Rmin)を有する円弧ガイド(13)に沿って案内されていることを特徴とする請求項1に記載の鋳造法。
【請求項3】 条体が、曲げ領域(12)に続く第1の伸ばし領域(14)において曲げられた後には、少なくとも一つの別の連続して配置された伸ばし領域において、連続的に配置された伸ばし領域の前における条体の半径(Rmin)より大きい半径を有する円弧の形状に曲げられることを特徴とする請求項1又2に記載の鋳造法。
【請求項4】 条体の少なくとも一つの別の形状が、別の曲げ領域及び連続的に配置された伸ばし領域において発生し、その形状が第1の曲げ領域及び連続して配置された伸ばし領域(11,14)における形状に続くものであることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の鋳造法。
【請求項5】 ストレート型(9)と、条体の抜き出し方向において上記型に続き、かつ曲げ領域(12)を含む条体ガイドと、条体ガイド(2)と、連続して配置されたほぼ水平なストレートガイド(8)によって続かれる最終の伸ばし領域(7)とを備え、
鉛直なストレートガイド(11)が、条体のために型(9)と第1の曲げ領域(12)との間に設けられ、
連続して配置された条体ガイド(2)が続く少なくとも一つの伸ばし領域(14)が、少なくとも一つの曲げ領域(12)に続くように配置されていることを特徴する連続鋳造装置。
【請求項6】 円弧ガイド(13)が第1の曲げ領域(12)と第1の伸ばし領域(14)との間に設けられていることを特徴とする請求項5に記載の連続鋳造装置。
【請求項7】 伸ばし領域によって続かれる少なくとも一つの別の曲げ領域が、第1の曲げ領域及び連続して配置された伸ばし領域(12)に続くように配置されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の連続鋳造装置。
【請求項8】 曲げ領域(12)及び伸ばし領域(7,14)によって引き起こされる条体の伸び過程が、二つの遷移領域の少なくとも一つにおいて、湾曲接線を含む傾斜して曲げられた“S”の形状をほぼ有しており、原点が遷移湾曲部の始端に配置され、かつX軸が遷移湾曲部の接線を構成する平行座標システムのX軸を基礎とするならば、上記領域の上に記載された伸び湾曲部の始端及び終端における傾斜がゼロである請求項5又は6に記載の連続鋳造装置。
【請求項9】 湾曲した接線の傾きが、曲げ中においては0.0025%/mmの伸びの最大限に許容可能な変化に相当し、直線化中においては0.0030%/mmの伸びの最大限に許容可能な変化に相当することを特徴とする請求項7に記載の連続鋳造装置。
【請求項10】 遷移湾曲部が、曲率(y′′′)の変化の微分方程式に応じて変化し、 y′′′=φ(x_(j))/R_(E0)X_(E)∫φ(x_(j))dxであり、 φ(x_(j))が伸びの変化の関数であり、伸びは、曲げ及び伸ばし領域(12,14,7)において、最初にゼロから立ち上がり、その後伸びの変化の最大値に達し、それからゼロに戻り、R_(E)が曲げ領域の終端又は伸ばし領域の始端における円弧の半径であり、X_(E)が曲げ領域(12)の鉛直方向の突出量又は伸ばし領域(14,7)の水平方向の突出量であり、x_(j)が座標システム内の位置座標を表していることを特徴とする請求項7又は8に記載の連続鋳造装置。
【請求項11】 湾曲型(1)、これに続く条体ガイド(2)及び連続して配置されたほぼ水平なストレートガイドを有する最終の伸ばし領域(7)を含む連続鋳造装置を、ストレートな鉛直方向を向く型(9)を含む連続鋳造装置に変えるための方法であって、次の特徴を有している。
・型(9)が設けられたストレートガイド(11)が型(9)と曲げ領域(12)との間に設けられている。
・湾曲型(1)及びそれに続く条体ガイド(2)の部分(15)が除去される。・ストレート型(9)が、条体ガイド(2)の曲率中心(5)に対する距離が元々の条体ガイド(2)の半径(Rend)より小さい連続鋳造装置の位置に設けられている。
・遷移湾曲部を含む曲げ領域(12)が、ストレート型(9)と一直線に並べて設けられ、条体ガイド(2)の半径(Rend)より小さい第1の半径(Rmin)を有する条体が曲げ領域から抜け出る。
・少なくとも一つの伸ばし領域(14)が曲げ領域(12)に続いて設けられ、第1の半径(Rmin)より大きい第2の半径(Rend)を有する条体が伸ばし領域から抜け出、第2の半径(Rend)は、連続鋳造装置に残っている元々存在する条体ガイド(2)の部分の半径(Rend)に対応し、少なくとも一つの伸ばし領域は、この条体ガイド(2)と一直線に並べられて、すなわち接線と等しい方法でこの条体ガイドになる。
【請求項12】 円弧ガイド13が曲げ領域(12)と伸ばし領域(14)との間に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】 ストレート型(9)が、湾曲型(1)のレベル(3)から僅かに外れたレベルにおいて連続鋳造装置に設けられ、望ましくは上記レベル(3)の上方近傍に配置されていることを特徴とする請求項11又は12に記載された方法。
【請求項14】 連続した円弧ガイドを有する別の伸ばし領域が、第1の伸ばし領域(14)に続くように設けられていることを特徴とする請求項11?13のいずれか1項に記載された方法。
【請求項15】 連続した伸ばし領域を有する少なくとも一つの別の曲げ領域が第1の曲げ領域及び連続して配置された伸ばし領域(12,14)に続くように設けられていることを特徴とする請求項12?14のいずれか1項に記載の方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4
「【請求項1】 鋼の条体を連続的に鋳造するための方法であり、
鉛直方向を向くストレート型(9)に鋼を鋳込み、続いて型(9)において成形された真っ直ぐな条体を引き抜き、
前記ストレート型(9)から抜け出る真っ直ぐな条体を、前記ストレート型(9)と第1の曲げ領域(12)との間において鉛直なストレートガイド(11)に沿って案内し、
次いで、前記第1の曲げ領域(12)で第1半径(Rmin)を有する第1円弧形状に前記条体を曲げ、
次いで、連続して設けられた2以上の伸ばし領域(14)で、前記第1半径(Rmin)よりも大きな半径の第2半径を有する円弧形状に前記条体を伸ばし、
次いで、前記第2半径に相当する第3半径(Rend)を有する第2の曲げ領域で伸ばされた条体を案内し、
次いで、最終の伸ばし領域(7)で条体を伸ばし、
次いで、ほぼ水平なストレートガイド(8)を経由して伸ばされた前記条体を抜き出すことを特徴とする連続鋳造法。
【請求項2】 請求項1の方法を実施するための連続鋳造装置であって、
ストレート型(9)と、
条体の抜き出し方向において上記ストレート型に続くストレートガイド(11)と、 第1半径(Rmin)を有する円弧形状に前記条体を曲げる第1の曲げ領域(12)と、
前記第1の曲げ領域(12)の第1半径(Rmin)よりも大きな半径の第2半径を有する円弧形状に前記条体を伸ばす連続して配置された2以上の伸ばし領域(14)と、
その後に連続して配置されるとともに、第2半径に相当する第3半径(Rend)を有する第2の曲げ領域と、
その後に連続して条体を伸ばす最終の伸ばし領域(7)と、
その後に続くほぼ水平なストレートガイド(8)と
を有することを特徴する連続鋳造装置。
【請求項3】 湾曲した接線の傾きが、曲げ中においては0.0025%/mmの伸びの最大限に許容可能な変化に相当し、直線化中においては0.0030%/mmの伸びの最大限に許容可能な変化に相当することを特徴とする請求項2に記載の連続鋳造装置。
【請求項4】 湾曲型(1)と、これに続く円弧ガイド(2)と、連続して配置されたほぼ水平なストレートガイドを有する最終の伸ばし領域(7)とを含む連続鋳造装置を、鉛直方向を向くストレート型(9)を含む連続鋳造装置に変えるための方法であって、次の特徴を有している。
前記湾曲型(1)と円弧ガイド(2)の第1部(15)とを除去し、
除去された前記湾曲型(1)と円弧ガイド(2)の第1部(15)の代わりに、前記ストレート型(9)を、連続鋳造装置の設備の中に設置するとともに、ストレート型(9)の後にストレートガイド(11)と第1の曲げ領域とを連続して配置し、円弧ガイド(2)の曲率中心(5)に対する距離は、前記円弧ガイド(2)の第3半径(Rend)よりも小さくし、
前記第1の曲げ領域は、前記ストレートガイド(11)に1直線に並べて設けられ、前記円弧ガイド(2)の第3半径(Rend)よりも小さな第1半径(Rmin)を有する前記条体が、前記第1の曲げ領域(12)から抜け出、
連続して設けられた2以上の伸ばし領域(14)は、前記第1の曲げ領域(12)の後に設置され、前記条体は、前記第1半径(Rmin)よりも大きな半径を有する2以上の前記伸ばし領域から抜け出、第2半径は、連続鋳造装置に残っている元々存在する円弧ガイドの第2部の前記第3半径(Rend)に相当し、
接線方向に並べられて接線と等しい状態で残っている円弧ガイド(2)の第2部の後部には伸ばし領域(7)が設置されている。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を「次いで」等の記載を加えることによって明確にするとともに本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「金属」を「鋼」と、同じく「型(9)」を「ストレート型(9)」とさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号に規定される明りようでない記載の釈明及び同じく改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 本件補正の適否
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(1)引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開平7-223050号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(a)「【請求項1】 鋳型およびサポートロールを、湾曲型用と垂直型用に切り換え自在とし、ロールプロフィルを変更可能にしたことを特徴とする型式変更容易な連続鋳造機。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(b)「【0010】本発明は、ロールセグメントの殆どをそのままにして、湾曲型、垂直曲げ型の両型式間で型式の変更が容易であり、勿論、溶鋼鍋、タンディッシュ等の溶鋼に関連する設備も両型式で使用可能とするものであり、鋳造品種の鋳造品種の切り換えに応じて、従来の鋳片サイズの変更や設備損耗で頻度高く取換えていたモールドサポートロールの範囲かあるいは若干の取換え範囲増で、型式を簡易にかつ短時間で変更できる連続鋳造機を提供するものである。」(【0010】)

(c)「【0016】例えば割れ感受性の高い品種は湾曲多点型の型式で鋳造し、表面割れ、表層直下割れのない鋳片を得ることができる。また、非金属介在物や気泡が有害になる品種の場合は、垂直多点曲げ型の型式で鋳造し、非金属介在物や気泡の発生のない鋳片を得ることができる。このように鋳造する品種に応じて、その品種の鋳造に適性の高い型式に簡易にかつ短時間に変更することができる。」(【0016】)

(d)「【0019】ここで用いた連続鋳造機は、鋳片支持構造において垂直部を有しない湾曲多点矯正型連続鋳造機であり、図1に示すように、溶鋼1をタンディッシュ2から浸漬ノズル3を介して、冷却構造4を有し振動装置5を付設した鋳型6に注入し、この鋳型で冷却して凝固させ得られた鋳片7を、鋳型の下部に配置した複数のサポートロール8と、この下方に接続された、複数のガイドロール9らなる複数のロールセグメント10で構成された鋳片支持構造を介して湾曲支持しながら搬出する構造を有している。
【0020】図1の連続鋳造機の説明では、従来の連続鋳造機(図5)との差が明確でないので、本発明の連続鋳造機の要部となるロール配列を詳細に説明した図2(a),図2(b)により、本発明の実施例を説明する。
【0021】この実施例では、鋼用の湾曲多点矯正型連続鋳造機、垂直多点曲げ多点矯正型連続鋳造機の二つの型式を切り換え(変更)できるようにしており、図2(a)の湾曲多点矯正型連続鋳造機の基本部分をそのまま使用し、鋳型、サポートロールとこれに続く上部ロールセグメントの一部を交換することにより、図2(b)の垂直多点曲げ型の連続鋳造機の二つの型式間で切り換え(変更)できるようにしている。
【0022】図2(a)の湾曲多点矯正型連続鋳造機では、複数のサポートロール8、複数のロールセグメント10により形成する湾曲部鋳片支持構造の鋳片支持の鋳造半径は、12530mmを基本鋳造半径R_(1) としている。湾曲部終端のロールセグメントでは、漸次鋳造半径(R_(2) ?R_(5) )を大きくし、水平部につなげている。
【0023】図2(b)の垂直多点曲げ多点矯正型連続鋳造機では、鋳型6、サポートロール8上部域では垂直部を形成し、それに続くサポートロール域内で7500mmまで鋳造半径(R_(2) ?R_(6) )が漸次小さくなるように設計し、7500mmで適当区間保持した後、サポートロールに続く、上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18の範囲内で漸次鋳造半径(R_(7) ?R_(9) )を大きくして基本鋳造半径R_(10)の12530mmにつなげている。
【0024】即ち、この例では、鋳型6から最上部のロールセグメント18(鋳型6から19番目のガイドロール15まで)を取り替えることにより、両型式間の型式変更ができる。ここで鋳造半径を漸次変更するのは、鋳片の変形(曲げ、曲げ戻し)を鋳片割れ発生許容値以下に抑えるためである。なお、鋳造品種により、割れ発生許容値が異なるため、漸次変更する鋳造半径の値の取り方は鋳造対象品種を限定する場合に異なった値を取ることがある。
【0025】このようなロール配列を設定することにより、この例では、20番目のガイドロール14以降のロールおよびロール配列は、図2(a)の湾曲多点矯正型連続鋳造機と、図2(b)の垂直多点曲げ型連続鋳造機の二つの型式とも全く同一であり、取替えの必要はない。」(【0019】ないし【0025】)

(e)「【0027】この両型式の連続鋳造機の高さは、実用上全く問題のない3mmの差にしている。これは、若干の修正を加えれば全く同一にすることが可能である。鋳型と最終矯正点の水平距離の両型式間の差は、約370mmあり設備建設時にタンディッシュ設備の移動が可能なように配慮しておけばタンディッシュの共用が可能である。」(【0027】)

(f)「【符号の説明】
1 溶鋼
2 タンディッシュ
3 浸漬ノズル
4 冷却構造
5 振動装置
6 鋳型
7 鋳片
8 サポートロール
9 ガイドロール
10 ロールセグメント
11 切断機
12 溶鋼鍋
13 鋳型下サポートロール
14 20番目のガイドロール
15 19番目のガイドロール
16 一括交換フレーム
17 ロール抜き出しクレーン
18 最上部ロールセグメント
19 一括交換フレーム設置基準面
20 ロールセグメント設置基準面
21 ロールセグメント設置用ベースフレーム(湾曲部)
22 ロールセグメント設置用ベースフレーム(水平部)」(【図面の簡単な説明】の【符号の説明】)

また、以下の事項を認定することができる。

(g)上記(d)の「【0023】図2(b)の垂直多点曲げ多点矯正型連続鋳造機では、鋳型6、サポートロール8上部域では垂直部を形成し、それに続くサポートロール域内で7500mmまで鋳造半径(R_(2) ?R_(6) )が漸次小さくなるように設計し、7500mmで適当区間保持した後、サポートロールに続く、上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18の範囲内で漸次鋳造半径(R_(7 )?R_(9) )を大きくして基本鋳造半径R_(10)の12530mmにつなげている。」という記載及び図2(b)から、
引用文献記載の連続鋳造機における鋳型6、サポートロール8上部域に続くサポートロール8域内で鋳造半径を7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分は、それに続く適当区間、鋳造半径が7500mmで保持されることから、半径7500mmの円弧形状に鋳片7を曲げる部分であることを認定することができる。

上記(a)ないし(f)の記載事項、(g)の認定事項、及び図面の記載からみて、引用文献には次の発明(以下、「引用文献記載の発明1」という。)が記載されていると認める。

「鋼の鋳片7を連続的に鋳造するための方法であり、
鋳型6に鋼を鋳込み、続いて鋳型6において成形された真っ直ぐな鋳片7を搬出し、
前記鋳型6から抜け出る真っ直ぐな鋳片7を、前記鋳型6と鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分との間においてサポートロール8上部域に沿って案内し、
次いで、前記鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内の部分で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分で半径7500mmの円弧形状に前記鋳片7を曲げ、
次いで、連続して設けられた上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18で、前記7500mmよりも大きな半径の基本鋳造半径の12530mmを有する円弧形状に前記鋳片7を伸ばし、
次いで、前記基本鋳造半径の12530mmを有する上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18に続く上部ガイドレールのロールセグメント18から漸次鋳造半径を大きくし水平部につなげるロールセグメント10に至る部分で伸ばされた鋳片7を案内し、
次いで、漸次鋳造半径を大きくし水平部につなげるロールセグメント10で鋳片7を伸ばし、
次いで、水平部に設置されたロールセグメント10を経由して伸ばされた前記鋳片7を搬出する連続鋳造法。」

(2)対比
本件補正発明と引用文献記載の発明1を対比する。

引用文献記載の発明1における「鋳片7」は、その機能、構成、又は技術的意義からみて、本件補正発明における「条体」に相当する。以下、同様に、
「鋳型6」は「鉛直方向を向くストレート型(9)」及び「型(9)」に、「搬出し」は「引き抜き」に、
「鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分」は「第1の曲げ領域(12)」に、
「サポートロール8上部域の垂直部」は「鉛直なストレートガイド(11)」に、
「半径7500mm」は「第1半径(Rmin)」に、
「半径7500mmの円弧形状」は「第1円弧形状」に、
「基本鋳造半径の12530mm」は「第2半径」及び「第2半径に相当する第3半径(Rend)」に、
「上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18に続く上部ガイドレールのロールセグメント18から漸次鋳造半径を大きくし水平部につなげるロールセグメント10に至る部分」は「第2の曲げ領域」に、
「漸次鋳造半径を大きくし水平部につなげるロールセグメント10」は「最終の伸ばし領域(7)」に、
「水平部に設置されたロールセグメント10」は「ほぼ水平なストレートガイド(8)」に、
「搬出する」は「抜き出す」に、
それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明1における「上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18」は、鋳片の曲率半径を7500mmから12530mmとするものであるから、本件補正発明における「2以上の伸ばし領域」と「小さい曲率半径を大きい曲率半径へ伸ばす領域」である限りで一致する。

したがって、本件補正発明と引用文献記載の発明1は、以下の点で一致する。

「鋼の条体を連続的に鋳造するための方法であり、
鉛直方向を向くストレート型に鋼を鋳込み、続いて型において成形された真っ直ぐな条体を引き抜き、
前記ストレート型から抜け出る真っ直ぐな条体を、前記ストレート型と第1の曲げ領域との間において鉛直なストレートガイドに沿って案内し、
次いで、前記第1の曲げ領域で第1半径(Rmin)を有する第1円弧形状に前記条体を曲げ、
次いで、連続して設けられた小さい曲率半径を大きい曲率半径へ伸ばす領域で、前記第1半径(Rmin)よりも大きな半径の第2半径を有する円弧形状に前記鋳片を伸ばし、
次いで、前記第2半径に相当する第3半径(Rend)を有する第2の曲げ領域で伸ばされた条体を案内し、
次いで、最終の伸ばし領域で条体を伸ばし、
次いで、ほぼ水平なストレートガイドを経由して伸ばされた前記鋳片7を抜き出す連続鋳造法。」

そして、以下の点で相違する。

「小さい曲率半径を大きい曲率半径へ伸ばす領域」が、本件補正発明では「2以上」の伸ばし領域であるのに対し、引用文献記載の発明1では「上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18」であって、「2以上」の領域であるか不明な点(以下、「相違点1」という。)。

(3)判断
そこで、上記相違点1について、以下に検討する。

上記「(1)(d)」の「【0023】図2(b)の垂直多点曲げ多点矯正型連続鋳造機では、鋳型6、サポートロール8上部域では垂直部を形成し、それに続くサポートロール域内で7500mmまで鋳造半径(R_(2) ?R_(6) )が漸次小さくなるように設計し、7500mmで適当区間保持した後、サポートロールに続く、上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18の範囲内で漸次鋳造半径(R_(7) ?R_(9) )を大きくして基本鋳造半径R_(10)の12530mmにつなげている。」という記載及び図2(b)によれば、引用文献記載の発明1における「上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18」はR_(7)からR_(8)に、R_(8)からR_(9)に、R_(9)からR_(10)へと半径を段階的に大きくするものである。

各段階を1つの領域で行うか、各段階毎に領域を分けるかは、当業者が適宜決めるべき設計的事項にすぎないことから、引用文献記載の発明1における「上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18」を複数の領域とすることは、当業者であれば容易に想到したことである。

そして、本件補正発明を全体としてみても、本件補正発明のようにしたことにより奏するとされる効果は、引用文献記載の発明1からみて、格別のものともいえない。

したがって、本件補正発明は、引用文献記載の発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明1について
1 本願発明1
以上のとおり、平成21年9月24日付けの手続補正は却下されたため、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし15に係る発明は、(平成21年4月15日付け手続補正書により補正された)平成21年3月2日付け手続補正書により補正された明細書及び国際出願日における図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項11に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、上記「第2[理由]1(1)」の【請求項11】のとおりである。

2 引用文献
引用文献には、上記「第2[理由]3(1)(a)ないし(f)」のとおりの事項が記載されている。

また、引用文献において、上記「第2[理由]3(1)(g)」のとおりの認定事項に加え、以下の事項を認定することができる。

(h)図2(a)記載の鋳型6よりも図2(b)記載の鋳型6の方が、サポートロール8の曲率中心に近づいていることが、図2及び図2中に記載された寸法から看取することができることから、引用文献記載の連続鋳造機において、図2(b)記載の鋳型6はサポートロール8の曲率中心に対する距離がサポートロール8の基本鋳造半径の12530mmより小さい連続鋳造機の位置に設けられていることを認定することができる。

上記記載事項(a)ないし(f)、認定事項(g)及び(h)、並びに図面の記載からみて、引用文献には次の発明(以下、「引用文献記載の発明2」という。)が記載されていると認める。
なお、本願発明1との対比の都合上、引用文献の図2(a)の連続鋳造機における「鋳型6」、「サポートロール8」、及び「セグメントロール10」を、それぞれ「鋳型6a」、「サポートロール8a」、及び「セグメントロール10a」と表記し、また、「セグメントロール10」のうち、図2(a)においてR_(1)ないしR_(5)の引き出し線が記入された「セグメントロール10」を「セグメントロール10a1」と表記し、R_(1)ないしR_(5)の引き出し線が記入された「セグメントロール10」の右隣の「セグメントロール10」を「セグメントロール10a2」と表記し、さらに、図2(a)の「サポートロール8」から「R_(1)ないしR_(5)の引き出し線が記入された「セグメントロール10」の左隣のロールまでを「鋳片ガイド」と表記する。

「鋳型6a、これに続く鋳片ガイド及び連続して配置されたほぼ水平なロールセグメント10a2を有するロールセグメント10aを含む連続鋳造機を、鋳型6を含む連続鋳造機に変えるための方法であって、次の特徴を有している。
・鋳型6が設けられたサポートロール8上部域の垂直部が鋳型6と鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分との間に設けられている。
・鋳型6a及びそれに続くサポートロール8aから上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18までが除去される。
・鋳型6が、鋳片ガイドの曲率中心に対する距離が鋳片ガイドの基本鋳造半径の12530mmより小さい連続鋳造装機の位置に設けられている。
・鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分が、鋳型6と一直線に並べて設けられ、基本鋳造半径の12530mmより小さい半径7500mmを有する鋳片7が鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分から抜け出る。
・上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18が鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分に続いて設けられ、半径7500mmより大きい基本鋳造半径の12530mmを有する鋳片7が上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18から抜け出、基本鋳造半径の12530mmは、連続鋳造機に残っている元々存在する鋳片ガイドの部分の半径12530mmに対応する。」

3 対比
本願発明1と引用文献記載の発明2を対比する。

引用文献記載の発明2における「鋳型6a」は、その機能、構成、又は技術的意義からみて、本願発明1における「湾曲型(1)」に相当する。以下、同様に、
「鋳片ガイド」は「条体ガイド(2)」及び「元々の条体ガイド(2)」に、
「ロールセグメント10a2」は「ストレートガイド」に、
「ロールセグメント10a1」は「最終の伸ばし領域(7)」に、
「連続鋳造機」は「連続鋳造装置」に、
「鋳型6」は「ストレートな鉛直方向を向く型(9)」、「型(9)」、及び「ストレート型(9)」に、
「サポートロール8上部域の垂直部」は「ストレートガイド(11)」に、
「鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分」は「曲げ領域(12)」、「遷移湾曲部を含む曲げ領域(12)」、及び「曲げ領域」に、
「サポートロール8aから上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18まで」は「条体ガイド(2)の部分(15)」に、
「基本鋳造半径の12530mm」は「条体ガイド(2)の半径(Rend))」及び「第2の半径(Rend)」に、
「半径7500mm」は「第1の半径(Rmin)」に、
「鋳片7」は「条体」に、
「上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18」は「少なくとも一つの伸ばし領域(14)」及び「伸ばし領域」に、
それぞれ相当する。

したがって、本願発明1と引用文献記載の発明2は、以下の点で一致する。

「湾曲型、これに続く条体ガイド及び連続して配置されたほぼ水平なストレートガイドを有する最終の伸ばし領域を含む連続鋳造装置を、ストレートな鉛直方向を向く型を含む連続鋳造装置に変えるための方法であって、次の特徴を有している。
・型が設けられたストレートガイドが型と曲げ領域との間に設けられている。
・湾曲型及びそれに続く条体ガイドの部分が除去される。
・ストレート型が、条体ガイドの曲率中心に対する距離が元々の条体ガイドの半径(Rend)より小さい連続鋳造装置の位置に設けられている。
・遷移湾曲部を含む曲げ領域が、ストレート型と一直線に並べて設けられ、条体ガイドの半径(Rend)より小さい第1の半径(Rmin)を有する条体が曲げ領域から抜け出る。
・少なくとも一つの伸ばし領域が曲げ領域に続いて設けられ、第1の半径(Rmin)より大きい第2の半径(Rend)を有する条体が伸ばし領域から抜け出、第2の半径(Rend)は、連続鋳造装置に残っている元々存在する条体ガイドの部分の半径(Rend)に対応する。」

そして、以下の点で相違する。

本願発明1では、「少なくとも一つの伸ばし領域」は、この「条体ガイド」と「一直線に並べられて、すなわち接線と等しい方法で」この「条体ガイド」になるのに対し、引用文献記載の発明2では、本願発明1における「少なくとも一つの伸ばし領域」に相当する「上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18」は、本願発明1におけるこの「条体ガイド」に相当する「鋳片ガイド」と滑らかに接続されて「鋳片ガイド」となっているものの、「一直線に並べられて、すなわち接線と等しい方法で」そのようになっているのか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

4 判断
そこで、上記相違点2について、以下に検討する。

曲率を有する2つの部材同士を接続する場合に、個々の部材の接続部を一直線上に並べ、接続部位の曲率が等しく、即ち接線が等しくなるように接続すれば、曲率を有する2つの部材同士を滑らかに接続することができることは、技術常識であることから、引用文献記載の発明2において、「上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18」と「鋳片ガイド」を「一直線に並べられて、すなわち接線と等しい方法で」接続するようにして、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到したことである。

そして、本願発明1を全体としてみても、本願発明1のようにしたことにより奏するとされる効果は、引用文献記載の発明2からみて、格別のものともいえない。

5 むすび
したがって、本願発明1は、引用文献記載の発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 本願発明2について
1 本願発明2
本件出願の特許請求の範囲の請求項5に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、上記「第2[理由]1(1)」の【請求項5】のとおりである。

2 引用文献
引用文献には、上記「第2[理由]3(1)(a)ないし(f)」のとおりの事項が記載されており、また、上記「第2[理由]3(1)(g)」のとおりの事項を認定することができる。

上記記載事項(a)ないし(f)、認定事項(g)、及び図面の記載からみて、引用文献には次の発明(以下、「引用文献記載の発明3」という。)が記載されていると認める。
なお、本願発明2との対比の都合上、引用文献の図2(b)の「R_(1)ないしR_(6)」の引き出し線が記入された「サポートロール8」から「R_(10)ないしR_(14)」の引き出し線が記入された「セグメントロール10」の左隣のロールまでを「鋳片ガイド」と表記する。

「鋳型6と、鋳片7の搬出方向において上記鋳型6に続き、かつ鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分を含む鋳片ガイドと、鋳片ガイドと、連続して配置された水平部に設置されたロールセグメント10によって続かれる漸次鋳造半径を大きくし水平部につなげるロールセグメント10とを備え、
サポートロール8上部域の垂直部が、鋳片のために鋳型6と鋳型6、サポートロール8上部域に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分との間に設けられ、
連続して配置された鋳片ガイドが続く上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18が、鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分に続くように配置されている連続鋳造機。」

3 対比
本願発明2と引用文献記載の発明3を対比する。

引用文献記載の発明3における「鋳型6」は、その機能、構成、又は技術的意義からみて、本願発明2における「ストレート型(9)」、「型」、及び「型(9)」に相当する。以下、同様に、
「鋳片7」は「条体」に、
「搬出」は「抜き出し」に、
「鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分」は「曲げ領域(12)」及び「第1の曲げ領域」に、
「鋳片ガイド」は「条体ガイド」及び「条体ガイド(2)」に、
「水平部に設置されたロールセグメント10」は「ほぼ水平なストレートガイド(8)」に、
「漸次鋳造半径を大きくし水平部につなげるロールセグメント10」は「最終の伸ばし領域(7)」に、
「サポートロール8上部域の垂直部」は「鉛直なストレートガイド(11)」に、
「上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18」は「少なくとも一つの伸ばし領域(14)」に、
「連続鋳造機」は「連続鋳造装置」に、
それぞれ相当する。

したがって、本願発明2と引用文献記載の発明3は、以下の点で一致する。

「ストレート型と、条体の抜き出し方向において上記型に続き、かつ曲げ領域を含む条体ガイドと、条体ガイドと、連続して配置されたほぼ水平なストレートガイドによって続かれる最終の伸ばし領域とを備え、
鉛直なストレートガイドが、条体のために型と第1の曲げ領域との間に設けられ、
連続して配置された条体ガイドが続く少なくとも一つの伸ばし領域が、曲げ領域に続くように配置されている連続鋳造装置。」

そして、以下の点で相違する。

本願発明2では、「曲げ領域」は「少なくとも一つ」であるのに対し、引用文献記載の発明3では、本願発明2における「曲げ領域」に相当する「鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分」は「少なくとも一つ」であるのか明確でない点(以下、「相違点3」という。)。

4 判断
そこで、上記相違点3について、以下に検討する。

上記「第2[理由]3(1)(d)」の「【0023】図2(b)の垂直多点曲げ多点矯正型連続鋳造機では、鋳型6、サポートロール8上部域では垂直部を形成し、それに続くサポートロール域内で7500mmまで鋳造半径(R_(2) ?R_(6) )が漸次小さくなるように設計し、7500mmで適当区間保持した後、サポートロールに続く、上部ガイドロールの第一番目のロールセグメント18の範囲内で漸次鋳造半径(R_(7) ?R_(9) )を大きくして基本鋳造半径R_(10)の12530mmにつなげている。」という記載及び図2(b)によれば、引用文献記載の発明3における「鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分」は、R_(1)からR_(2)に、R_(2)からR_(3)に、R_(3)からR_(4)に、R_(5)からR_(6)に、R_(6)からR_(7)へと半径を段階的に小さくするものである。

各段階を1つの領域で行うか、各段階毎に領域を分けるかは、当業者が適宜決めるべき設計的事項にすぎないことから、引用文献記載の発明3における「鋳型6、サポートロール8上部域の垂直部に続くサポートロール8域内で鋳造半径を半径7500mmまで漸次小さくなるように設計された部分」を「少なくとも一つ」とすることは、当業者であれば容易に想到したことである。

そして、本願発明2を全体としてみても、本願発明2のようにしたことにより奏するとされる効果は、引用文献記載の発明3からみて、格別のものともいえない。

5 むすび
したがって、本願発明2は、引用文献記載の発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 本件出願の明細書について
1 平成20年11月25日付け拒絶理由の抜粋
「この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(a)請求項には、図面に記載された鋳型9からストレートガイド8に至るまでの一連の工程及び装置構成が正確に表現されていない。各請求項に係る発明が、上述の図面記載の形態を適切に表現していることを、各発明特定事項(遷移湾曲部をはじめとする各部分や領域)と図面とを対応させながら十分に釈明されたい(引用請求項についても何をさらに限定しようとするのかが把握できるように説明されたい)。
・・・(後略)・・・」

2 平成21年5月14日付け拒絶査定の抜粋
「理由(2)について
イ.出願人は意見書において、『請求項1には請求項3の「型(9)から抜け出る真っ直ぐな条体が、型(9)と第1の曲げ領域(12)との間において鉛直なストレートガイド(11)に沿って案内され」を加えました。これにより、一連の工程は明確になりました。』と主張するが、図面を参照しながら、請求項1に記載された各工程を確認すれば理解できるとおり、一連の工程が明確でなく(特に、「・・(8)を経由して抜き出され」までの工程とそれ以降の工程の関係など)、遷移湾曲部の内容が定かでないこともあいまって、依然として請求項の記載が明確でない。(上記拒絶理由通知書における指摘事項(a)参照)
・・・(後略)・・・」

3 判断
上記「1」において、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないとして指摘した(a)(以下、「指摘事項(a)」という。)について、以下に検討する。

(平成21年4月15日付け手続補正書により補正された)平成21年3月2日付け手続補正書による補正により、特許請求の範囲の請求項1は以下のとおり補正された。

「【請求項1】 真っ直ぐな鉛直方向を向く型(9)に金属を鋳込み、続いて型(9)において成形された真っ直ぐな条体を引き抜くことにより、鋼の条体を連続的に鋳造するための方法であり、
型(9)から抜け出る真っ直ぐな条体が、型(9)と第1の曲げ領域(12)との間において鉛直なストレートガイド(11)に沿って案内され、
条体が、遷移湾曲部に沿う曲げ領域において先ず半径(Rend)を有する円弧形状に曲げられ、
上記半径(Rend)を有する条体ガイド(2)に沿って案内され、
次に遷移湾曲部に沿う最終の伸ばし領域(7)において真っ直ぐにされ、
その後ほぼ水平なストレートガイド(8)を経由して抜き出され、
条体が、遷移湾曲部に沿う少なくとも一つの曲げ領域(12)において第1の半径(Rmin)を有する円弧の形状に曲げられ、
遷移湾曲部に沿う少なくとも一つの連続して配置された伸ばし領域(14)において第1の曲げ領域の後における条体の半径(Rmin)より大きい半径(Rend)を有する円弧の形状に曲げられ、
大きい半径(Rend)は最終の伸ばし領域(7)の前の条体ガイド(2)の半径(Rend)に相当することを特徴とする連続鋳造法。」

上記記載によれば、「型(9)から抜け出る真っ直ぐな条体が、型(9)と第1の曲げ領域(12)との間において鉛直なストレートガイド(11)に沿って案内され、条体が、遷移湾曲部に沿う曲げ領域において先ず半径(Rend)を有する円弧形状に曲げられ」た後に、「上記半径(Rend)を有する条体ガイド(2)に沿って案内され、次に遷移湾曲部に沿う最終の伸ばし領域(7)において真っ直ぐにされ、その後ほぼ水平なストレートガイド(8)を経由して抜き出され」、さらにその後に、「条体が、遷移湾曲部に沿う少なくとも一つの曲げ領域(12)において第1の半径(Rmin)を有する円弧の形状に曲げられ、遷移湾曲部に沿う少なくとも一つの連続して配置された伸ばし領域(14)において第1の曲げ領域の後における条体の半径(Rmin)より大きい半径(Rend)を有する円弧の形状に曲げられ」ることになるが、「条体」が「ほぼ水平なストレートガイド(8)を経由して抜き出され」た後に、「条体が、遷移湾曲部に沿う少なくとも一つの曲げ領域(12)において第1の半径(Rmin)を有する円弧の形状に曲げられ、遷移湾曲部に沿う少なくとも一つの連続して配置された伸ばし領域(14)において第1の曲げ領域の後における条体の半径(Rmin)より大きい半径(Rend)を有する円弧の形状に曲げられ」ることの技術的意味が明確でない。
また、「型(9)から抜け出る真っ直ぐな条体が、型(9)と第1の曲げ領域(12)との間において鉛直なストレートガイド(11)に沿って案内され、
条体が、遷移湾曲部に沿う曲げ領域において先ず半径(Rend)を有する円弧形状に曲げられ、
上記半径(Rend)を有する条体ガイド(2)に沿って案内され、
次に遷移湾曲部に沿う最終の伸ばし領域(7)において真っ直ぐにされ、 その後ほぼ水平なストレートガイド(8)を経由して抜き出され」という記載と「条体が、遷移湾曲部に沿う少なくとも一つの曲げ領域(12)において第1の半径(Rmin)を有する円弧の形状に曲げられ、
遷移湾曲部に沿う少なくとも一つの連続して配置された伸ばし領域(14)において第1の曲げ領域の後における条体の半径(Rmin)より大きい半径(Rend)を有する円弧の形状に曲げられ、
大きい半径(Rend)は最終の伸ばし領域(7)の前の条体ガイド(2)の半径(Rend)に相当する」という記載のつながりも明確でない。

したがって、本件出願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、指摘事項(a)の「請求項には、図面に記載された鋳型9からストレートガイド8に至るまでの一連の工程及び装置構成が正確に表現されていない。」という点に関して、平成21年5月14日付け拒絶査定(上記「2」を参照。)でも指摘しているように、依然として不備があり、本件出願の特許請求の範囲の記載では、特許請求の範囲の請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし4に係る発明が明確であるとはいえない。

4 むすび
よって、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献記載の発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願発明2は、引用文献記載の発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、このような特許を受けることができない発明を包含する本件出願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。さらに、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本件出願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-26 
結審通知日 2011-02-01 
審決日 2011-02-15 
出願番号 特願2000-580781(P2000-580781)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B22D)
P 1 8・ 537- Z (B22D)
P 1 8・ 121- Z (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 日比野 隆治  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 田中 永一
加藤 友也
発明の名称 金属連続鋳造法及びそのために使用される連続鋳造装置  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 村山 靖彦  

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