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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H05K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05K
管理番号 1239552
審判番号 無効2008-800206  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-10-15 
確定日 2010-03-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3905527号発明「スナップ構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3905527号の請求項1,2に係る発明についての出願は、平成14年3月22日に出願した特願2002-80527号の一部を平成16年4月30日に新たな特許出願としたものであって、平成19年1月19日にそれらの発明について特許権の設定登録がされたものである。
そして、平成20年10月15日に本件の請求項1,2に係る発明についての特許無効の審判請求がなされ、これに対して、同年12月17日付けで被請求人から答弁書が提出された。
その後、平成21年3月3日付けで請求人から、同月10日付けで被請求人から、それぞれ口頭陳述要領書が提出され、同月17日に口頭審理が行われるとともに、同日付けで請求人から上申書、及び被請求人から口頭陳述要領書(2)がそれぞれ提出された。
そして、同月31日付けで請求人から、同年4月14日付けで被請求人から、それぞれ上申書が提出された。

第2 本件発明
本件特許の請求項1,2に係る発明は、本件特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
実装用部品を保持するための部品保持部の下部に設けられて当該部品保持部を基板に固定するためのスナップ部を備えており、
前記スナップ部は前記基板に設けられた透孔内に挿入されるポストと、
前記ポストの両側に沿って設けられ径方向に弾性変形可能で前記透孔に嵌合される矢尻型をした一対のスナップ片と、
前記部品保持部の前記両側位置において前記基板の表面に弾接して前記スナップ片とで当該基板を挟持する一対の脚片と、
前記スナップ片にそれぞれ下端部が連結され内側方向に手操作されたときに前記スナップ片を内側方向に変形して前記透孔との嵌合を解除する一対の解除片とを備えるスナップ構造であって、
前記解除片は前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状とされ、
当該上端部は前記部品保持部の前記両側の側面一部に連結されている
ことを特徴とするスナップ構造。
【請求項2】
実装用部品を保持するための部品保持部の下部に設けられて当該部品保持部を基板に固定するためのスナップ部を備えており、
前記スナップ部は前記基板に設けられた透孔内に挿入されるポストと、
前記ポストの両側に沿って設けられ径方向に弾性変形可能で前記透孔に嵌合される矢尻型をした一対のスナップ片と、
前記部品保持部の前記両側位置において前記基板の表面に弾接して前記スナップ片とで当該基板を挟持する一対の脚片と、
前記スナップ片にそれぞれ下端部が連結され内側方向に手操作されたときに前記スナップ片を内側方向に変形して前記透孔との嵌合を解除する一対の解除片とを備えるスナップ構造であって、
前記解除片は前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状とされ、
当該上端部は前記部品保持部の前記両側の側面一部に近接配置されるとともに、前記スナップ片が前記透孔に嵌合されたときに当該両側の側面一部に当接される構成である
ことを特徴とするスナップ構造。」
(以下、本件特許の請求項1,2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)

第3 請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明1,2についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、本件発明1,2に係る特許は、特許法第29条第2項違反の理由(無効理由1?4)により、また、本件発明2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号違反の理由(無効理由5)により無効とすべきものであると主張し、証拠方法として以下の甲1号証乃至甲7号証を提出した。
その後、平成21年3月3日付けの口頭審理陳述要領書に添付して、以下の甲8,9号証を提出し、同年3月17日付けの口頭審理において、無効理由1,2の主張を取り下げると陳述し、同年3月31日付けの上申書に添付して以下の甲10号証を提出した。
したがって、本件の審判請求に係る無効理由は、以下の無効理由3?5である。

[無効理由3]
本件発明1は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲2号証に記載された発明に甲1,5?7号証に記載の技術を組み合わせることにより当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[無効理由4]
本件発明2は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲2号証に記載された発明に甲1,3?5号証に記載の技術を組み合わせることにより当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[無効理由5]
本件発明2は、発明の詳細な説明に記載した発明でないから、本件発明2についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[証拠方法]
甲1号証:実願昭63-59316号(実開平1-163275号)のマイクロフィルム
甲2号証:特開2001-278329号公報
甲3号証:米国特許第4143577号明細書
甲4号証:意匠登録第1065824号公報
甲5号証:実願昭55-170637号(実開昭57-93604号)のマイクロフィルム
甲6号証:特開平9-280227号公報
甲7号証:実願昭57-76225号(実開昭58-178624号)のマイクロフィルム
甲8号証:実公昭53-10560号公報
甲9号証:実願昭60-72676号(実開昭61-189719号)のマイクロフィルム
甲10号証:竹内工業株式会社製品カタログ「RoHS指令対応 エレクトロニック ファスナープロダクツ」Contents、09頁 Vol.01(2008年1月)

第4 被請求人の主張
一方、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、平成21年4月14日付けの上申書に添付して、以下の乙1,2号証を提出している。

乙1号証:竹内工業株式会社製品カタログ「RoHS指令対応 エレクトロニック ファスナープロダクツ」Contents 及び08、09頁 Vol.02(2008年12月)
乙2号証:特開2007-113729号公報

第5 証拠の記載事項
1.甲1号証の記載事項
(1-ア)「(産業上の利用分野)
この考案は弾性変形が自在とされる合成樹脂製の保持具であって、より詳細には棒あるいはケーブルないしはパイプ等のクランプに用いられる筒状の保持部と、パネル等に挿入係止される係合脚部とを備えた保持具の提供に関する。」(明細書第1頁第18行?第2頁第4行)

(1-イ)「(課題を解決するための手段)
本考案に係る保持具は…筒状に湾曲され開環リング形状とされた保持部5と、この保持部5の夫々の開環端縁から略半径方向の外方に向けて相対向した状態で突設された脚片6、6と、この脚片6、6の自由端側から夫々の脚片6、6の外側方に所定の角度で折返し状に設けられた係合片7、7と、前記脚片6、6の基部端から該脚片6、6に略直交するように外方に向けて突設され、しかも前記係合片7と対をなして該係合片7との間で取付け板等を挟持する押え片8、8と、前記の保持部5の外周面に所定の間隔を置いて、該周面から外方に向けて突設され、且つ前記の保持部5の開環端縁間の開口部10を開き出す一対の摘片9、9とで構成されており、前記の押え片8と係合片7との間にパネル等を挟持するようにして用いる。」(明細書第5頁第5行?第6頁第4行)

(1-ウ)「(作用)
本考案に係る保持具は、叙上の構成から片手の指を用いて摘片9、9を両側から挟むように摘むことができ、この片手の指を用いた摘片9、9の挟みこみにより脚片6、6が夫々引き離し方向に開かれ、保持部5の夫々の開環端縁間の開口部10に大きな挿入空間が形成される。
そして、摘片9、9に対する指の押圧力を弱めることにより、保持部5の開環端縁間の開口部にある挿入空間が、保持部5の有する弾発力により閉じられる。
このようにケーブル等の挿入空間が閉じられ、脚片6、6が略平行とされた状態で、脚片6、6をパネル等の穴に挿入することにより係合片7は脚片6の側に撓みこまれる。そして、この係合片7の自由端側が該穴を抜けた時点で、この係合片7が再度外方に弾み出し、この係合片7の自由端部と、前記押え片8との間で前記穴の穴縁が挟持される。」(明細書第6頁第5行?第7頁第4行)

2.甲2号証の記載事項
(2-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両のボディーパネル等の取付パネル上に這わす電線やケーブル等を結束し保持するのに用いられる合成樹脂製結束具に関する。」

(2-イ)「【0008】結束時あるいは結束後に強引にバックル部が左右に揺さ振られるようなことがあっても、一対の可動係止片は双方共に支柱に対し拡縮変形自在に連接されているので、バックル部は支柱の可動係止片との連接部を支点にして左右に傾くだけで、両方の可動係止片を揺り動かすことは殆どない。したがって、両方の可動係止片は係合段部を取付孔のエッジ部に係合した状態をそのまま堅持し得るため、取付孔から抜け出ることはなく、係止脚部の安定した抜止めロック状態が得られ、また引抜き強度を向上することができる。」

(2-ウ)「【0010】本発明に係る合成樹脂製結束具は、図1に示すように、全体がナイロン等からなる合成樹脂成形品であり、バンド部1と、このバンド部1の基端に連設されたバックル部2と、このバックル部2のバンド部1とは反対側に一体に突設された矢形状の係止脚部3とを備えている。

【0012】矢形状の係止脚部3は、バックル部2から垂設された支柱7と、この支柱7の先端からバックル部2に向けて折り返し状に形成された一対の拡縮変形自在な可動係止片8,8とから構成され、各可動係止片8の中途部には係合段部9を設けている。また各可動係止片8の自由端側には押圧操作片10と弾性変形自在な安定脚片11を形成するが、押圧操作片10は各可動係止片8の自由端側からバックル部2の側方へ向けて延出するように、安定脚片11は各可動係止片8の自由端側から可動係止片8の側方へ向けて延出するように互いに反対向きに延出形成される。」

(2-エ)「【0013】次に、図2を参照して上記構成の合成樹脂製結束具を車両のボディーパネル等の鋼製取付パネル12上に這わす電線等の被結束物13を結束し保持する場合の使用要領について説明する。先ず、合成樹脂製結束具は、係止脚部3を取付パネル12の表面側(一側面)から取付孔14に挿入して裏面側(他側面)に突出させることにより両方の可動係止片8,8が取付孔14によって互いに近接するよう縮小変形され、安定脚片8,8が取付パネル12の表面上に弾性接当したところで両方の可動係止片8,8が弾性復元力で互いに離間するよう拡開変形し、両方の可動係止片8,8の係合段部9,9が取付孔14のエッジ部14a,14aに係合することで抜止め状に安定よく確実にロックされる。
【0014】次いで、被結束物13にバンド部1を巻き付け、このバンド部1の先端部をバックル部2の正面側からバンド挿通孔5に挿通して背面側へ突出させる。すると、バンド部1の係合歯4がバンド挿通孔5内の係合爪6に係合することによりバンド部1の抜け止め状態が得られ、これにより被結束物13が結束状態に保持される。」(なお、「安定脚片8,8」は「安定脚片11,11」の誤記と認める。)

(2-オ)「【0015】このように被結束物13を保持する合成樹脂製結束具は、強引にバックル部2が左右方向aに揺さ振られた場合、バックル部2は支柱7の可動係止片8,8との連接部を支点にして左右に傾くが、両方の可動係止片8,8を揺り動かすことは殆どない。したがって、両方の可動係止片8,8は係合段部9,9を取付パネル12の取付孔14のエッジ部14aに係合したままの状態を堅持するため、取付孔14から抜け出ることはなく、係止脚部3の安定した抜止めロック状態が確実に保持され、また引抜き強度を向上する。」

(2-カ)「【0016】この取付け状態から合成樹脂製結束具を取り外すときは、図3に仮想線で示すごとく押圧操作片10,10をバックル部2に近付けるよう矢印b方向に押圧移動操作すると可動係止片8,8の双方が互いに近接するよう縮小変形することにより取付孔14から容易に抜き出すことができる。」

3.甲3号証の記載事項
(3-ア)「図1には、一端側にアンカーベース24を、他端側に印刷回路カードコネクタ26を有する柱状体22を含むプラスチック製の立設コネクタ20が示されている。該柱状体22は、…裾広がりの下部部分30を有している。」(第2欄第25?29行)

(3-イ)「この発明のアンカーベース24の詳細は、図2に示されている。裾広がりのベース部分30からは、下方に傾斜し、先端が切り取られた逆三角形状の一対のカム表面46,48が形成されている。」(第2欄第50?54行)

(3-ウ)「それぞれの側面支持腕(lateral support arms)60,62が傾斜座面68,70を有し、立設コネクタ20下部の裾広がり部分30のカム面46,48により形成された座面を持ち上げるように配設されている。」(第3欄第5?8行)

(3-エ)「このアンカーベースを取り外すことが必要、または望ましいときには、腕52,54をA,B方向に一緒に押せばよい。肩部74,76は取付孔から外れ、アンカーベース24は簡単に取付孔から引き抜くことができる。」(第3欄第58?62行)

(3-オ)Fig.3には、腕52,54を押すA、B方向が図示されている。

4.甲4号証の記載事項
【使用状態を示す参考図】において、電線保持部分と、基板の透孔に挿入されるカヌー形の係合部分と、前記係合部分の上端側から前記基板の上表面に当接するように斜め下に広がる一対の脚部とを有する電線保持具であって、前記電線保持部分の下方中央部にその先端が前記係合部分の内側上部に当接するX字状の部材を有するものが記載されている。

5.甲5号証の記載事項
(5-ア)「嵌合板の一方はほゞU字状の脚体で構成され、他方はストツパーを備えた平行状の合柱体と、合柱体の端末から延出した保持環体によつて連結され傾斜面を備えた頭部とにより構成され、傾斜面とストツパーとが合体することによつて板孔に固着係止できるようにした物体連結具。」(実用新案登録請求の範囲)

(5-イ)「本物体連結具(10)は、ほゞ中央部分に互に相対しいずれも傾斜して並んでいる嵌合板(11)(11)を有し、嵌合板(11)(11)の上面に直立し、先端部に切欠き状のストツパー(13)(13)を形成した合柱体(12)(12)を備えている。

一方、前記嵌合板(11)(11)の下面からはU字状に曲折し、中央外面には段で構成され、係止部(18)(18)を備えた脚体(17)が延出している。」(明細書第2頁第13行?第3頁第7行)

(5-ウ)「但して、この物体連結具(10)を解除する場合には、ドライバーあるいはその他の治具等によつて、空間(A)の個所より外方に強く押圧すれば頭部(15)が、ストツパー(13)の傾斜面に逆らつて解放される。

次いで、嵌合板(11)(11)を指で挟持することによつて、孔(21)から自由に取出すことが出来る。」(明細書第6頁第14行?第7頁第2行)

6.甲6号証の記載事項
(6-ア)「【0017】
【実施の形態】図面は本発明をコードを結束しパネルに止め付けるコードの止め具(コードクランプ)について実施した一例を示したもので、図1は正面図、図2は右側面図、図3は底面図、図4は中央縦断背面図である。図面の符号、1はコードaをクランプする止め具主体、2はこの主体の下面から垂設する係止脚、3はこの係止脚2を中間に置いて主体1の下面から垂設した係合解除腕である。」

(6-イ)「【0025】係合解除腕3,3は上記係止脚2をパネルの係止孔bに係止したのち、この係止状態を解除するための解除手段となるもので、ここでは主体の板状部分1aの両端下面から左右対称をなすように延設してある。
【0026】各係合解除腕3,3はここでは略L字形に屈曲する腰折り状に形成してあり、主体の部分1aに接続する基端側の区域を肉薄に形成してバネ部分3aとし、自由端側の区域を肉厚にして剛直部分3bとし、更にこの両部分の接続点たる屈曲部を部分1aの外に突き出させて押圧操作部17とする一方、剛直部分3bの先端、つまり自由端を作用部18として前記係止脚2の外周面に設けられる凹部14に臨むようにしてある。
【0027】この係合解除腕3,3は図面に示すように、作用部18を係止脚2の凹部14に臨ませてあるが、常態にあるときこの凹部14の位置より下方に臨んでもよく、実際には係止脚2が係止孔bに係入されたときこの凹部14に臨めばよい。また、図面では作用部18が係止脚2から離れて設けられているが、肉薄片等を介して両者を接続させてもよい。」

(6-ウ)「【0030】この係止脚2の押し込みに際し、左右に垂下する両係合解除腕3,3は係止脚が係止孔に侵入するのに伴って剛直部分3b,3bをパネルの面に当接させることになり、その係止部15が係止孔bの縁に係合した時点ではバネ部分3a,3aを屈曲変形させ、このバネ部分を中心にして屈曲する操作部17、剛直部分3b,3bの各部に反発力を貯えることになる。
【0031】従って、係止脚2の係止部15は脚自身の復元力で係止孔bに掛け止められると同時に、上記係合解除腕3,3の反発力で強く掛け止められることになる。その一方、左右対称にある係合解除腕は部分1aの両端を押し上げ、係止脚2の係合と共同してパネルに対して安定的に支持することになり、更には弾性によってパネルBの板厚を吸収し、ガタ付くことなく止着することになる(図6を参照)。」

(6-エ)「【0034】この様にしてパネルBにコードaを止着した止め具は上述したようにコードaの結束を解除できる一方、係合解除腕3,3を操作することによってパネルの係止孔bに係入した係止脚2を抜き取り外すことができる。
【0035】図7はこの解除操作を示したものである。主体の部分1aの外に突き出る操作部17を内方に向けて押し込むと、剛直部分3bをパネルBの面に臨ませ、凹部14に突き入れて係止脚を縮径させることができ、これによって係止部15を係止孔bの縁から外し、係入脚を抜き取ることがきる。」

7.甲7号証の記載事項
(7-ア)「また、連結具30は第4図に示すような全体形状をしている。すなわち、本体31の一端部31aには側方から見て上下に略矢印状に開く傾斜翼33,34が本体中央方向に向かつて連続して設けられており、この傾斜翼33,34の本体31の中央部付近の外面には、前記インナパネル20の係止孔22に係合する係合凹部35が設けられている。そして、この傾斜翼33,34の端部33a、33b内面には、本体31に向かう補強板36が肉薄に一体的に形成されている。さらに、…傾斜翼33,34のある端部31aの反対側の本体端部31bには前記保持部10に係合する係合舌片32が設けられている。」(明細書第4頁第20行?第5頁第15行)

(7-イ)「次に、連結具30が取付けられたメータケーシング1を第5図の矢印Cのようにインナパネル20の挿通孔21に挿入してくと、連結具30も矢印Dで示すように係止孔22に挿入されていく。やがて傾斜翼33,34間の幅が係止孔22の高さより大きくなると、傾斜翼33,34は係止孔22の周縁部23により両側から本体31側に押し縮められながら挿入されるようになる。そして、ついに連結具30の係合凹部35が係止孔22の周縁部23に合致すると、それまで周縁部23に押し縮められていた両傾斜翼33,34が弾発力により、そして補強板36の戻り力とも相まつて外方に拡がり、係合凹部35が周縁部23に嵌合する。」(明細書第7頁第12行?第8頁第5行)

(7-ウ)「メータケーシング1をインナパネル20から取外す方法には2通りあり、裏側から作業しやすい場合には、第1図に示すようにインナパネル20の裏側で連結具30の両傾斜翼33,34に矢印Eで示す力を加えて傾斜翼33,34を押し縮め、係合凹部35と係止孔22との嵌合を解けば良く、また、表側から作業しやすい場合には、連結具30の係合舌片32を矢印Fで示すように上方に持ち上げてU字溝の側壁16から離脱させれば良い。」(明細書第8頁第17行?第9頁第6行)

第6 当審の判断
1.無効理由3について
1-1.甲2発明の認定
ア 甲2号証には、(2-ア)に記載の「ケーブル等を結束し保持するのに用いられる合成樹脂製結束具」について、(2-ウ)には、「バンド部1と、このバンド部1の基端に連設されたバックル部2と、このバックル部2のバンド部1とは反対側に一体に突設された矢形状の係止脚部3とを備えている」、「矢形状の係止脚部3は、バックル部2から垂設された支柱7と、この支柱7の先端からバックル部2に向けて折り返し状に形成された一対の拡縮変形自在な可動係止片8,8とから構成され、…各可動係止片8の自由端側には押圧操作片10と弾性変形自在な安定脚片11を形成するが、押圧操作片10は各可動係止片8の自由端側からバックル部2の側方へ向けて延出するように、安定脚片11は各可動係止片8の自由端側から可動係止片8の側方へ向けて延出するように互いに反対向きに延出形成される。」と記載されている。

イ また、この「安定脚片11」は、(2-エ)の記載によると、「係止脚部3を取付パネル12の表面側(一側面)から取付孔14に挿入して裏面側(他側面)に突出させることにより…安定脚片8,8(「11,11」の誤記)が取付パネル12の表面上に弾性接当したところで両方の可動係止片8,8が弾性復元力で互いに離間するよう拡開変形し、両方の可動係止片8,8の係合段部9,9が取付孔14のエッジ部14a,14aに係合することで抜止め状に安定よく確実にロックされる」ものであるから、「取付パネル12の表面に弾接して一対の可動係止片8,8とで当該パネルを挟持する一対の安定脚片11,11」であるといえ、この「押圧操作片10」は、図3の記載によると、一対の可動係止片8,8にそれぞれ下端部が連結されている一対のものと認められ、(2-カ)の記載によると、バックル部2に近付けるよう矢印b方向(内側方向)に手操作されたときに一対の可動係止片8,8を双方が互いに近接する方向(内側方向)に縮小変形して前記取付孔14との係合を解除する機能を有するとともに、口頭審理において両当事者が認めたとおり、「下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状とされ」たものと認められる(口頭審理調書の確認事項1)。

ウ そして、図1?3の記載によると、上記の「支柱7」は「取付基板に設けられた取付孔に挿入される」部材であり、「支柱7」、「一対の可動係止片8,8」、「一対の安定脚片11,11」、及び「一対の押圧操作片10,10」は、いずれも「バンド部1とバックル部2」の下部に設けられ、併せて当該バンド部及びバックル部を取付パネルに固定するための係止部ないしは係止構造を構成するといえる。

エ 以上によると、甲2号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「ケーブル等を結束して保持するためのバンド部及びバックル部の下部に設けられて当該バンド部及びバックル部を取付パネルに固定するための係止部を備えており、
前記係止部は、前記取付パネルに設けられた取付孔内に挿入される支柱と、
前記支柱の両側に折り返し状に設けられ、弾性変形可能で前記取付孔に嵌合される矢形状の一対の可動係止片と、
前記バックル部の両側位置において前記取付パネルの表面に弾設して前記一対の可動係止片とで当該取付パネルを挟持する一対の安定脚片と、
前記一対の可動係止片にそれぞれ下端部が連結され内側に手操作されたときに前記一対の可動係止片を内側方向に変形して前記取付孔との嵌合を解除する一対の押圧操作片とを備える係止構造であって、
前記一対の押圧操作片は、下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状とされている
係止構造」

1-2.対比
ア 本件発明1(前者)と、甲2発明(後者)とを対比すると、後者の「ケーブル等を結束して保持するためのバンド部及びバックル部」は、前者の「実装部品を保持するための部品保持部」に相当し、後者の「支柱」、「一対の可動係止片」、「一対の安定脚片」、「一対の押圧操作片」は、前者の「ポスト」、「一対のスナップ片」、「一対の脚片」、「一対の解除片」に相当し、後者の「係止部」ないし「係止構造」は、前者の「スナップ部」ないし「スナップ構造」に相当すると認められる。

イ 以上によると、両者は以下の点で一致し、また、以下の点で相違すると認められる。

一致点:「実装用部品を保持するための部品保持部の下部に設けられて当該部品保持部を基板に固定するためのスナップ部を備えており、
前記スナップ部は前記基板に設けられた透孔内に挿入されるポストと、
前記ポストの両側に沿って設けられ弾性変形可能で前記透孔に嵌合される矢尻型をした一対のスナップ片と、
前記部品保持部の前記両側位置において前記基板の表面に弾接して前記スナップ片とで当該基板を挟持する一対の脚片と、
前記スナップ片にそれぞれ下端部が連結され内側方向に手操作されたときに前記スナップ片を内側方向に変形して前記透孔との嵌合を解除する一対の解除片とを備えるスナップ構造であって、
前記解除片は前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状とされている
スナップ構造」
相違点A:前者は、解除片が、「上端部は前記部品保持部の前記両側の側面一部に連結されている」のに対して、後者は、解除片の上端部が部品保持部の両側の側面一部に連結されていない点

1-3.判断
ア 甲2号証の(2-イ)、(2-オ)及び図2の記載によると、甲2発明は、被結束物13を保持するバンド部1を抜け止めするバックル部2が一対の可動係止片8,8の形成される面内で左右方向aに揺さ振られた場合、バックル部は支柱7の可動係止片8,8との連接部を支点にして左右に傾く、すなわち支柱7の上端部はバックル部2とともに左右に傾くが、一対の可動係止片8,8は支柱7に対し拡縮変形自在に連接されているから、殆ど揺れ動くことがなく、係止脚部3(支柱7及び一対の可動係止片8,8)の安定した抜け止めロック状態が確実に保持されるという作用効果を奏すると認められる。

イ ところが、甲2発明において、一対の押圧操作片10,10の上端部がバックル部2の両側の側面の一部に連結されるとすると、バックル部2が左右に揺さ振られた場合、バックル部2とともに押圧操作片10,10も左右に揺さ振られてしまい、その下端部が連接される一対の可動係止片8,8も左右に揺れ動いてしまうから、安定した抜け止めロック状態が確実に保持できなくなると認められる。
そうすると、甲2発明において、一対の押圧操作片10,10(解除片)について、「上端部は前記部品保持部の前記両側の側面一部に連結されている」構成とすると、当該発明について記載された作用効果に反することになるから、そのような構成を当業者が敢えて採用する動機付けは存在しないというべきである。

ウ 甲6号証には、(6-ア)に「コードを結束しパネルに止め付けるコードの止め具」であって、図1?図4を参照して「1はコードaをクランプする止め具主体、2はこの主体の下面から垂設する係止脚、3はこの係止脚2を中間に置いて主体1の下面から垂設した係合解除腕である」止め具が記載されており、(6-イ)の記載によると、この係合解除腕3は、「略L字形に屈曲する腰折り状」であって、「主体の部分1aに接続する…バネ部分3a」と、「剛直部分3b」とよりなり、両部分の接続点が「押圧操作部17」、剛直部分3bの先端の「作用部18」をなし、(6-エ)の記載によると、前記押圧操作部17を内方に向けて押し込むと、係止脚2を縮径させてパネルから抜き取ることができる部材であると認められる。
したがって、この係合解除腕3は、「上端部が部品保持部である止め具主体の両側の側面一部に連結されている」ところの「解除片」に相当するものといえる。

エ しかしながら、甲6号証の(6-ウ)の記載によると、この係合解除腕3は、剛直部分3bがパネルの面に当接し、係止脚2と共同して基板を挟持し、止め具をパネルに対して安定的に支持するものと認められるから、「解除片」であると同時に、「スナップ片とで基板を挟持する」ところの「脚片」(甲2発明の「安定脚片11,11」)の機能を兼ね備えるものといえる。

オ そうすると、甲2発明における解除片である「押圧操作片」を甲6号証に記載の「係合解除腕」に置き換えると、「安定脚片」は不要となるから、「安定脚片」を有しない、すなわち、本件発明1における「脚片」を有しない発明が導出されることとなる。
したがって、甲2発明に甲6号証の記載事項を組み合わせても、本件発明1に到達することはできないというべきである。

カ 甲1号証には、(1-ア)に記載の「弾性変形が自在とされる合成樹脂製の保持具であって、…棒あるいはケーブルないしはパイプ等のクランプに用いられる筒状の保持部と、パネル等に挿入係止される係合脚部とを備えた保持具」について、(1-イ),(1-ウ)及び第5,6図には、保持部5を側方から内側方向に押し込む手操作を行うと、係合脚部を構成する一対の脚片6、6及び係合片7、7は内側方向に変形して縮径することが記載されていると認められるから、前記手操作により係合脚部と前記穴との嵌合を解除できる場合を想定すると、甲1号証は保持部5に兼用される解除部について示唆するものといえる。
しかしながら、保持部5と別体で、「前記保持部5の両側の側面に連結されている」解除片については、甲1号証は何ら示唆するところがない。

キ 甲5号証には、(5-ア)に記載の「物体連結具」において、(5-イ)の記載によると、この連結具の解除は、「ドライバーあるいはその他の治具等」によって行われるから、少なくとも、「内側に手操作されたときに前記一対の可動係止片を内側方向に変形して前記取付孔との嵌合を解除する」解除片について、記載も示唆もない。

ク 甲7号証には、(7-ア)、(7-イ)の記載によると、メータケーシング1をインナパネル20に取り付ける連結具30であって、インナパネル20の挿通孔22に傾斜翼33,34が本体31の先端部31a側から係合凹部35まで挿入される連結具が記載されているといえるが、(7-ウ)の記載によると、この連結具をインナパネルから取り外すのは、傾斜翼33,34を押し縮めるか、本体31の他の先端部31bに設けた係合舌片32を上方に持ち上げるかによるのであるから、甲7号証には、傾斜翼(甲2発明の「可動係止片」に相当)である解除手段か、本体(甲2発明の「支柱」に相当)に延出する係合舌片を上方に持ち上げる解除手段しか記載されておらず、少なくとも「上端部は前記部品保持部の前記両側の側面一部に連結されている」解除片は記載も示唆もされていない。

ケ したがって、本件発明1は、甲2号証に記載された発明に、甲1,5?7号証に記載の技術を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.無効理由4について
2-1.対比
本件発明2(前者)と、甲2発明(後者)とを対比すると、両者は「1-2.イ」に示す点で一致するが、以下の点で相違すると認められる。

相違点B:前者は、解除片が、「当該上端部は前記部品保持部の前記両側の側面一部に近接配置されるとともに、前記スナップ片が前記透孔に嵌合されたときに当該両側の側面一部に当接される構成である」のに対して、後者は、解除片の上端部が部品保持部の両側の側面一部に近接配置されておらず、スナップ片が透孔に嵌合されたときに当該両側の側面一部に当接されない点

2-2.判断
ア 甲1号証には、部品保持部と独立した「解除片」を有する構造は記載も示唆もない。

イ 甲3?5号証には、係合脚部がパネル等の基板の透孔に嵌合されたときに、部品保持部近傍に当接する部材を有する構造が記載されているが、甲3号証に記載の当該部材は、「解除片」ではなく、甲4号証に記載の当該部材は、「解除片」であるか不明な部材であり、甲5号証に記載の当該部材は、少なくとも手操作される「解除片」ではない。

ウ したがって、甲2発明に甲1,3?5号証の記載事項を組み合わせても、相違点Bにおける本件発明2の特定事項は導出されないから、本件発明2は、甲2号証に記載された発明、及び甲1,3?5号証に記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.無効理由5について
ア 無効理由5は、具体的には、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図13の記載によると、解除部35,35の上端部351,351が当接するロック部20の側面の上部に「庇部211,211」を有しない本件発明2は、解除片と平行方向にロック部を傾ける図8(a)に示される力が加わったときに、ロック部20の傾斜を抑制する「つっかい棒」としての効果を奏さないから、本件発明2は発明の詳細な説明に記載された課題を解決することができる発明ではない、というものである。

イ しかしながら、図13に記載の本件発明2の実施例のスナップ構造を基板に取り付けた状態でロック部20に左側から力を加えると、ロック部20には、図8(a)に示されるように、ほぼポスト31と基板との交点を支点とする回転力、すなわち右側斜め下方に向かって傾く力が作用し、ロック部20の側面に当接する解除片35,35の上端部351,351からは、その作用力に抗して左側上方に向かう反作用力が働き、この反作用力は、庇部211を押し上げる上向きの成分と、ロック部側壁を左側に押し返す成分を有すると認められる。
そして、その左側に押し返す力の成分によって、解除片35,35の上端部351,351はロック部20の傾斜を抑制する「つっかい棒」としての機能を奏すると認められるから、庇部が存在しない本件発明2が、発明の詳細な説明に記載された課題を解決し得ないものであるとはいえない。

ウ したがって、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載した発明でないとはいえない。

4.補足 - 無効理由1,2についての判断
無効理由1,2は、いずれも、甲1号証に記載された発明を主引用例とする進歩性違反の理由であるが、甲1号証には、「第6 1.1-3.カ」で既に述べたように、保持部と別体の解除片について記載も示唆もされていないから、甲1号証に記載された発明は、本件発明1の特定事項である「上端部は前記部品保持部の前記両側の側面一部に連結されている」解除片、又は本件発明2の特定事項である「上端部は前記部品保持部の前記両側の側面一部に近接配置される」解除片に相当する構成を有しない。
したがって、甲2?7号証に、保持部と別体である解除片についての様々な構成が記載されているとしても、甲1号証に記載された発明に甲2?7号証の記載事項を組み合わせて本件発明1,2の上記特定事項を導くことはできないというべきである。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1及び2についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-12 
結審通知日 2009-05-18 
審決日 2009-05-29 
出願番号 特願2004-135318(P2004-135318)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H05K)
P 1 113・ 537- Y (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 博之藤井 昇  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山田 靖
大橋 賢一
登録日 2007-01-19 
登録番号 特許第3905527号(P3905527)
発明の名称 スナップ構造  
代理人 鈴木 章夫  
代理人 名古屋国際特許業務法人  

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