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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) D04H
管理番号 1239763
判定請求番号 判定2010-600045  
総通号数 140 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2011-08-26 
種別 判定 
判定請求日 2010-08-04 
確定日 2011-07-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3711409号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 ただし、本件特許に対しては別途無効審判が請求されている。このため、本件特許は無効とされる可能性を排除することができないが、本件判定は、本件特許が有効であることを前提として判断する。 また、本件特許に対しては、その無効審判の手続の中で訂正請求がされている。このため、本件特許は特許請求の範囲が訂正される可能性を排除することができないが、本件判定は、本件特許の現請求項(設定登録時の請求項)の記載に基づいて判断する。 
結論 イ号物件である「テラマック ユニチカポリ乳酸不織布」は、特許第3711409号発明の技術的範囲に属する。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、甲第3号証(以下、「甲3」という。他の甲号証及び乙号証についても同様。甲3は、パンフレットである。)に示す物件「テラマック ユニチカポリ乳酸不織布」(以下、「イ号物件」という。)は、特許第3711409号発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

第2 本件特許発明
本件特許発明は、願書に添付された明細書(甲1。以下、「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。その構成要件を分説すると、次のとおりである。
「A 一般式-O-CHR-CO-(但し、RはHまたは炭素数1?3のアルキル基を示す)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルを主成分とする
B 下記a群の用途の中のいずれかである
C 生分解性
D 農業用
E モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント繊維集合体。
F a群 防虫用シート、遮光用シート、防霜シート、防風シート、農作物保管用シート、保温用不織布、防草用不織布、農業用ネット、農業用ロープ」

第3 イ号物件及びイ1号物件?イ3号物件

1 請求人の主張
請求人は、イ号物件は以下のとおりと主張している。
「(i)一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする
(ii)下記a群の用途の中のいずれかである
(iii)生分解性スパンボンド不織布
A群(本件特許でa群として特定された用途と対応することが明白と思われる用途のみを摘記した。)
防草用シート、べた掛け、養生シート」(判定請求書、4?5頁)

2 イ号物件
請求人が提出した甲3は、「テラマック ユニチカポリ乳酸不織布」のパンフレットであり、後記<イ号物件の説明>において摘示したとおりの、以下の記載がある。
「ユニチカでは・・・生分解性不織布の研究を続け、ポリ乳酸不織布「テラマック」(TERRAMAC)を開発しました。」(摘示イ)、
「「テラマック」不織布の特長・・・完全生分解性の合成繊維から成ります。・・・自然環境下で使用する農業・園芸・土木・建築用資材として最適です。」(摘示ウ)、
「製品および銘柄・・・スパンボンドのような長繊維不織布からスパンレースのような短繊維不織布まで、広範な製品群の提供を可能にしました。・・・長繊維不織布 スパンボンド(レギュラータイプ、芯鞘複合タイプ、成形タイプ)・・・短繊維不織布 スパンレース・ニードルパンチ・サーマルボンド」(摘示エ)、
「用途・・・コンポスト化可能材料<使用後、コンポスト中での再資源化を目的とした用途>使い捨ておむつ、ナプキン、パッド、ワイパー、おしぼり、生ごみ袋、汚泥フィルター、べた掛け等・・・環境調和型材料<自然環境下で使用され、その使用後または使用過程で分解・消滅が求められる用途>植生シート、防草シート、べた掛け、根巻きシート、植生ポット、排水シート、養生シート等」(摘示オ)、
「ポリ乳酸・・・は・・・乳酸HO-CH(CH_(3))-COOHの重合体-[O-C(CH_(3))-CO]_(n)-から成る脂肪族ポリエステルです。」(摘示カ)、
「ポリ乳酸不織布はコンポスト化することにより、0.5?2カ月で堆肥となります。また、通常の土壌中や水中のような自然環境下では、比較的緩やかに分解が進行し、1?3年で分解されます。」(摘示キ)
また、請求人が提出した甲4は、「バイオマス素材」、「TERRAMAC」、「テラマック」、「UNITIKA」と表示されたウェブページの「製品紹介」の項の印刷物<URL:http://www.unitika.co.jp/terramac/products/spunbond/index.html>であり、以下の記載がある。
「NON-WOVEN
不織布 詳細はスパンボンド事業本部サイト
優れた均一性、柔軟性、高強度、寸法安定性を備えた長繊維不織布。自然環境下での使用や土中への埋設、コンポスト化といった使用法に応え、農園芸資材、土木資材関連を中心に展開しています。」
また、甲4には、それぞれ「植木ポッド」、「べたがけ」、「防草シート」、「手さげ袋」、「ヘッドレストカバー」、「軟弱地盤安定剤」と題する6個の写真が掲載されている。
これらの記載事項からみて、イ号物件は、ポリ乳酸を主成分とする生分解性の不織布であって、その形態が長繊維不織布か短繊維不織布のいずれかである各種の用途の上記不織布の集合であり、その個々の不織布は、次のa?c、e、fに分説したとおりの構成を備えたものであるとするのが相当である。
「a 一般式-[O-C(CH_(3))-CO]_(n)-を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸を主成分とする
b 下記の用途の中のいずれかである
c 生分解性
e スパンボンド不織布である長繊維不織布、又はスパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、サーマルボンド不織布のいずれかである短繊維不織布。
f 用途 コンポスト化可能材料としての使い捨ておむつ、ナプキン、パッド、ワイパー、おしぼり、生ごみ袋、汚泥フィルター、べた掛け等、又は環境調和型材料としての植生シート、防草シート、べた掛け、根巻きシート、植生ポット、排水シート、養生シート等」

3 イ1号物件?イ3号物件
請求人は、「スパンボンド不織布」であって「防草シート、べた掛け、養生シート」の用途であるものが、本件特許発明の技術的範囲に属すると主張している。
そして、甲4には、「べたがけ」、「防草シート」と題する写真が掲載されており、また、「優れた均一性、柔軟性、高強度、寸法安定性を備えた長繊維不織布。」と記載されているから、甲4は、イ号物件のうちで、構成eのうちの「スパンボンド不織布である長繊維不織布」の構成を有する不織布について、「べたがけ」、「防草シート」等の使用例を記載したものである。
そうすると、イ号物件には、次にそれぞれ分説して示す、イ1号物件?イ3号物件が含まれているといえる。
(イ1号物件)
「a' 一般式-[O-C(CH_(3))-CO]_(n)-を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸を主成分とする
b' 下記の用途の
c' 生分解性
e' スパンボンド不織布である長繊維不織布。
f' 用途 防草シート」
(イ2号物件)
「a'' 一般式-[O-C(CH_(3))-CO]_(n)-を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸を主成分とする
b'' 下記の用途の
c'' 生分解性
e'' スパンボンド不織布である長繊維不織布。
f'' 用途 べた掛け」
(イ3号物件)
「a''' 一般式-[O-C(CH_(3))-CO]_(n)-を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸を主成分とする
b''' 下記の用途の
c''' 生分解性
e''' スパンボンド不織布である長繊維不織布、又はスパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、サーマルボンド不織布のいずれかである短繊維不織布。
f''' 用途 養生シート」

第4 当事者の主張

1 請求人
請求人は、甲3の「テラマック」の原料のポリ乳酸は、本件特許発明の一般式のRがメチル基に限定されて下位概念化されたものであり、甲3の用途の「防草シート」、「べた掛け」及び「養生シート」は、それぞれ本件特許発明の用途「防草用不織布」、「防虫シート、遮光用シート、防霜シート、防風シート、保温用不織布」及び「保温用不織布」と対応し用途が一致し、「生分解性スパンボンド不織布」は、本件特許発明の生分解性繊維集合体の下位概念であり、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属すると主張している。

2 被請求人
被請求人は、概ね、以下のように主張している。
(i)イ号物件の「スパンボンド法によって得られた生分解性長繊維よりなる不織布」は、乙4の辞典に記載されるように長繊維はモノフィラメントでもマルチフィラメントでもないから、イ号物件の長繊維はモノフィラメントの範疇にもマルチフィラメントの範疇にも属するものでなく、本件特許発明の構成要件Eの「モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント繊維集合体」を充足しない。なお、モノフィラメントからなる不織布やマルチフィラメントからなる不織布は、乙5に記載されるようなものである。(判定事件答弁書、6頁第4の3)
(ii)イ号物件の「防草シート」は、甲4の防草シートの写真を参照すると法面に防草シートが適用され、土木用であり農業用でなく、本件特許発明の構成要件Dの「農業用」を充足しない。また、イ号物件の「養生シート」は、建築又は土木用であり農業用でなく、乙2の請求人所有の特許の明細書でも養生シートは土木用とされるから、本件特許発明の構成要件Dの「農業用」を充足しない。また、イ号物件の「べた掛け」は、農業用であるが、乙3の本件出願の公開公報によると出願当初は農業用用途がa群に限定されていなかったのが、a群に限定されて特許付与された経緯からすれば、a群に明記されていない「べた掛け」は、本件特許発明の技術的範囲から除外されたものであるから、本件特許発明の構成要件Fの「a群」を充足しない。(判定事件答弁書、4?6頁第4の2)
(iii)本件特許については、無効審判(無効2010-800127)が係属中であり、近い将来無効とされて「非特許発明」となることが明らかなものであり、判定を求めることはできないから、本件判定請求は却下されるべきものである。また、特許請求の範囲を訂正する訂正請求がされた場合、特許発明の技術的範囲は未確定の状態になり、判定を行うことはできないから、本件判定請求は却下されるべきものである。また、権利行使後に本件特許の無効が確定すれば、その権利行使は不正競争行為に該当するおそれがあるから、本件判定は事実上中止するべきである。(判定事件答弁書、7?8頁第5)
(iv)判定請求の趣旨によれば、全てのタイプの不織布がいかなる用途に用いられた場合でも、本件特許発明の技術的範囲に属するということになるが、使い捨ておむつ、ナプキン又はパッドに用いた場合に本件特許発明の技術的範囲に属しないことは明らかであるから、本件判定請求の趣旨は、対象物件が不明確であり、不適法なものである。(上申書、2?3頁7(2))

第5 対比・判断

1 イ1号物件について

(1)争いのない点について
イ1号物品が本件特許発明1に係る前記分説した各構成要件A?Fを充足するか否かについて両者を対比すると、表現上の差異はあるものの、構成a'の「一般式-[O-C(CH_(3))-CO]_(n)-を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸を主成分とする」は、構成要件Aの「一般式-O-CHR-CO-(但し、RはHまたは炭素数1?3のアルキル基を示す)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルを主成分とする」に相当し、イ1号物件は、その構成a'において本件特許発明の構成要件Aを充足するものと認められる。
イ1号物件の構成a'が本件特許発明の構成要件Aを充足している点について、当事者間に争いはない。

(2)争点(構成要件B?Fの充足性)について

ア しかしながら、イ1号物件が本件特許発明1の構成要件B?Fを充足しているか否かについては、当事者間で争いがある。
請求人は、イ1号物件の「生分解性スパンボンド不織布」は、本件特許発明の「生分解性繊維集合体」の下位概念であり、イ1号物件の「防草シート」は、本件特許発明のa群の用途である「防草用不織布」と一致すると主張している。

イ 以下、検討する。
甲4の「防草シート」と題する写真を参照すると、これは法面に適用されているから、イ1号物件の構成f'の「防草シート」は、甲3の摘示ウの「自然環境下で使用する農業・園芸・土木・建築用資材として最適です。」における「土木用」であって、「農業用」ではない。
したがって、イ1号物件は、本件特許発明の構成要件D「農業用」を充足していない。

(3)まとめ
以上のとおり、イ1号物件は、少なくとも本件特許発明の前記分説した構成要件Dを充足するものではないから、他の構成要件について検討するまでもなく、本件特許発明の技術的範囲に属しないものである。

2 イ2号物件について

(1)争いのない点について
上記1(1)と同様に対比すると、イ2号物件の構成a''の「一般式-[O-C(CH_(3))-CO]_(n)-を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸を主成分とする」が本件特許発明の構成要件Aの「一般式-O-CHR-CO-(但し、RはHまたは炭素数1?3のアルキル基を示す)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルを主成分とする」を充足するものと認められ、この点について、当事者間に争いはない。

(2)争点(構成要件B?Fの充足性)について

ア しかしながら、イ2号物件が本件特許発明1の構成要件B?Fを充足しているか否かについては、当事者間で争いがある。
請求人は、イ2号物件の「生分解性スパンボンド不織布」は、本件特許発明の「生分解性繊維集合体」の下位概念であり、イ1号物件の「べた掛け」は、本件特許発明のa群の用途である「防虫用シート、遮光用シート、防霜シート、防風シート、保温用不織布」と一致すると主張している。
これに対し、被請求人は、概略以下の主張をしている。
(i)イ号物件の「べた掛け」は、農業用であるが、乙3の本件出願の公開公報によると出願当初は農業用用途がa群に限定されていなかったのが、a群に限定されて特許付与された経緯からすれば、a群に明記されていない「べた掛け」は、本件特許発明の技術的範囲から除外されたものであるから、本件特許発明の構成要件Fの「a群」を充足しない。
(ii)イ号物件の「スパンボンド法によって得られた生分解性長繊維よりなる不織布」は、乙4の辞典に記載されるように長繊維はモノフィラメントでもマルチフィラメントでもないから、イ号物品の長繊維はモノフィラメントの範疇にもマルチフィラメントの範疇にも属するものでなく、本件特許発明の構成要件Eの「モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント繊維集合体」を充足しない。なお、モノフィラメントからなる不織布やマルチフィラメントからなる不織布は、乙5に記載されるようなものである。

イ まず、イ2号物件の構成e''の「スパンボンド不織布である長繊維不織布」が、本件特許発明の構成要件E「モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント繊維集合体」を充足するか否かについて検討する。

(ア)「スパンボンド不織布」についての周知技術を示す文献の記載
特開平4-57953号公報(発明の名称「微生物分解性不織布」)には、以下の記載がある。
「実施例1?4、比較例1?2
平均分子量が約4万のポリカプロラクトンと・・・融点が125℃の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)とを二軸の混練用エクストルーダーを用いて、種々の割合に混合してマスターチップを作成した。・・・得られたマスターチップを用い、孔径0.35mm、孔数64ホールのノズルを複数個使用し、1.2g/分/ホールの吐出量で、230?250℃の紡糸温度範囲にて溶融押し出しし、ノズル下120cmの位置に設けたエアーサッカーを使用して連続マルチフィラメントを3500m/分の速度で引き取り、移動するエンドレスの金網上にフィラメントを捕集してウェッブとした後、金属エンボスロールと金属フラットロールを用いて、線圧30kg/cm、圧接面積率20%、熱処理温度105℃にて加熱処理して単糸繊度3dのフィラメントで構成される目付20g/m^(2) のスパンボンド不織布を得た。・・・」(3頁右上欄18行?右下欄1行)
特開平2-139468(発明の名称「農業用不織シート」)には、以下の記載がある。
「紡糸したフィラメントを不織シートにする方法については,いわゆるスパンボンド法と総称されている方法が利用できる。たとえば,空気圧を利用してフィラメント束を引き取りながら延伸し,コロナ放電等の方法で静電気的に開繊し,移動する多孔質帯状体の上に堆積することでウエブ化したのち部分的に熱圧接することで固定するというような方法が一般的である。」(3頁右上欄7?15行)

(イ)上記(ア)によれば、スパンボンド不織布は、一般的には、長繊維を用いた不織布であって、紡糸しながら布がつくられるものである。その製造法は、多数の孔を有するノズルから原料のポリマを溶融押出して多数のフィラメントとし、この多数のフィラメントを分離し、堆積させてウェブとし、接着させてシートとすることからなる。そして、スパンボンド不織布を構成する繊維が、長繊維であってフィラメントといえるものであることも、当業者には明らかである。このような、スパンボンド不織布は、モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント繊維集合体ということができる。
そうすると、イ2号物件の構成e''の「スパンボンド不織布である長繊維不織布」は、本件特許発明の構成要件E「モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント繊維集合体」を充足している。

(ウ)なお、被請求人は、イ号物品の長繊維はモノフィラメントでもマルチフィラメントでもないとして、乙4及び乙5を提示する。
しかし、乙4(「JIS用語辞典 繊維編」,1988年12月9日,p.46)には、用語「フィラメント」、「モノフィラメント」及び「マルチフィラメント」の意味が、それぞれ「連続した極めて長い繊維」、「単独に使用できる1本のフィラメント」、「2本以上からなるフィラメント」であることが記載されているとしても、乙4のヘッダに「繊維用語(原料部門)」とあるように、これらの記載は、繊維工業における原料の術語について示しているに過ぎないものである。上記のような原料として用いる繊維を「モノフィラメント」や「マルチフィラメント」と呼ぶことがあるとしても、「溶融紡糸によるスパンボンド不織布」にはそれを構成する繊維が「モノフィラメント」でも「マルチフィラメント」でもない「長繊維」であるものがあること、長繊維よりなる「溶融紡糸によるスパンボンド不織布」には「モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント繊維集合体」とはいえないものがあることを、何ら根拠付けるものではない。
また、乙5(特公平5-8300号公報、発明の名称「法面保護工法」)には、特許請求の範囲に「繊度が100?5000デニールの有機モノフイラメント又は集束したマルチフイラメントからなる嵩密度0.005?0.1g/m^(3) の不織布を法面に被覆固定し・・・」との記載があるが、発明の詳細な説明には「本発明で用いられる不織布は、適度な太さの連続繊維よりなる不織布であることが必要であつて・・・」(2頁4欄25?27行)、「かゝる適度な太さのフイラメント又はマルチフイラメントよりなる低密度の不織布を構成する繊維は有機繊維で・・・」(3頁5欄2?4行)との記載がある。これらの記載を総合すると、乙5において「繊度が100?5000デニールの・・・モノフイラメント又は集束したマルチフイラメントからなる・・・不織布」は、「適度な太さの連続繊維よりなる不織布」と言い換えられるもので、結局、「モノフイラメント又はマルチフイラメントからなる不織布」は「連続繊維よりなる不織布」すなわち「長繊維よりなる不織布」と同義ということになる。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

ウ 次に、イ2号物件の構成b''の「下記の用途の」及び構成f''の「用途 べた掛け」が本件特許発明の構成要件B、D及びFを充足するか否かについて検討する。

(ア)甲4には「べたがけ」と題する写真があり、「べた掛け」と「べたがけ」は同じ意味と解されるところ、甲4の「べたがけ」と題する写真を参照すると、シートが農地を覆うように使用されているから、これは、甲3の摘示ウの「自然環境下で使用する農業・園芸・土木・建築用資材として最適です。」における「農業用」であり、本件特許発明における構成要件D「農業用」を充足する。

(イ)「べた掛け」又は「べたがけ」についての周知技術を示す文献の記載
特開平5-153874号公報(発明の名称「べたがけ栽培用不織布シート」)には、以下の記載がある。
「【0001】・・・本発明は、農業資材としてのべたがけ栽培用の不織布シートに関する。
【0002】・・・べたがけ栽培用シートとしては・・・乾式不織布のシート・・・が用いられている。
【0003】従来のべたがけ用シートには、保温性、防霜性、透光性等に関する問題はないものの・・・」
特開平8-172940号公報(発明の名称「農業用べたがけシート」)には、以下の記載がある。
「【0001】・・・本発明は、農地の上を直接覆うことにより、農作物の生育を促進する農業用べたがけシートに関するものである。
【0002】・・・従来から・・・べたがけ栽培が行われている。
【0003】べたがけシートとして・・・特に不織布は、通気性・通水性があり、透光性・保温性に優れるといった点から多く用いられている。」
特開2000-224927号公報(発明の名称「防虫シート」)には、以下の記載がある。
「【0008】不織布は、べたがけ用資材やハウスなどの内張資材として用いられているが、近年、べたがけ用資材としての需要が急増している。べたがけ用資材は・・・露地栽培、トンネル栽培およびハウス栽培などにおいて、主に直接作物に被覆して使われる資材で、保温(防寒、凍霜害防止)、防風、防虫などを目的として用いられる。」
特開2010-166900号公報(発明の名称「生分解性農業用被覆資材」)には、以下の記載がある。
「【0002】従来から、防草シート、ハウス内の内張りカーテン、水稲育苗要シート等の農業用資材として、各種の不織布が多用されている。そのひとつの用途として、べた掛けシートがある。べた賭けシートは、不織布が有する通気性、透水性、軽量性を活かしたものであり、シートを直接作物に被覆することで、保温、保水、防霜、防虫、防鳥、防風等の種々の効果を奏させて作物の成育促進、品質向上、収穫増大等を図ることができる。」

(ウ)上記(イ)によれば、「べた掛け」又は「べたがけ」は、農業用の資材であって、一般的には保温を目的の一つとしているものであるといえる。
そうすると、イ2号物件の構成b''「下記の用途の」及び構成f''の「用途 べた掛け」は、本件特許発明の構成要件B「下記a群の用途の中のいずれかである」、構成要件D「農業用」及び構成要件Fのうちの「a群 保温用不織布」を充足している。

(エ)なお、被請求人は、a群に明記されていない「べた掛け」は、本件特許発明の技術的範囲から除外されたものであるから、本件特許発明の構成要件Fの「a群」を充足しない旨主張しているが、本件特許の公開公報(乙3)をみても、「べた掛け」という表現はなく、出願当初に「べた掛け」として記載されていたものが削除された事実はないから、被請求人の主張は採用できない。

エ イ2号物件の構成c''の「生分解性」が本件特許発明の構成要件C「生分解性」を充足することは明らかである。

オ 上記イ?エで示したとおり、イ2号物件は、本件特許発明の構成要件B?Fを充足している。

(3)まとめ
以上のとおり、イ2号物件は、本件特許発明の構成要件A?Fのすべてを充足しているから、本件特許発明の技術的範囲に属するものである。

3 イ3号物件について

(1)争いのない点について
上記1(1)と同様に対比すると、イ3号物件の構成a'''の「一般式-[O-C(CH_(3))-CO]_(n)-を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸を主成分とする」が本件特許発明の構成要件Aの「一般式-O-CHR-CO-(但し、RはHまたは炭素数1?3のアルキル基を示す)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルを主成分とする」を充足するものと認められ、この点について、当事者間に争いはない。

(2)争点(構成要件B?Fの充足性)について

ア しかしながら、イ3号物件が本件特許発明1の構成要件B?Fを充足しているか否かについては、当事者間で争いがある。
請求人は、イ3号物件の「生分解性スパンボンド不織布」は、本件特許発明の「生分解性繊維集合体」の下位概念であり、イ1号物件の「養生シート」は、本件特許発明のa群の用途である「保温用不織布」と一致すると主張している。

イ 以下、検討する。

(ア)「養生」についての周知技術を示す文献の記載
化学大辞典編集委員会編「化学大辞典9」,縮刷版第32刷,共立出版,1989年8月15日,p.442には、以下の記載がある。
「ようじょう 養生 キュアリング[^(英)curing・・・] セメントの硬化を維持あるいは促進するために,セメント成形体に加える各種の環境的処理のこと.セメントの物理試験においての小規模の場合と,実際のセメント工事の場合との双方にて実施される.・・・・・2)実際のセメント工事での養生モルタル,コンクリートを打込んでから硬化するまでの間に寒冷化,乾燥脱水,荷重,衝撃などの作用が加わると,十分な強度発生が妨げられる.それらの悪影響を防ぎ,あるいは積極的に硬化を促すために養生を行なう.これには下記の数種のやり方がある.a)加熱:・・・・・b)冷却:・・・・・c)調湿用の被覆:ムシロ,布,紙,湿った砂,アスファルトなどでおおう.水分発散を抑制.d)力学的の被覆:・・・・・e)蒸気養生:・・・・・」(442頁右欄6?42行)
日本規格協会編「JIS工業用語大辞典【第4版】」,第4版第4刷,日本規格協会,1998年7月15日,p.1946には、以下の記載がある。
「養生 *ようじょう curing コンクリートに所望の性能を発揮させるため,打込み直後の一定期間,適当な温度と湿度に保つと同時に,有害な作用から保護すること.」(1946頁右欄32?35行)
国際科学振興財団編「科学大辞典 第2版」,丸善,平成17年2月28日,p.1528には、以下の記載がある。
「ようじょう 養生 [curing] コンクリートを種々の環境条件から保護し,所定の強度発現を期待するために行うもので,特に初期材齢において,セメントの水和に適した温度に保ちながら,水和反応に必要な水分が不足しないよう,また日照,風雨,振動などに対しても配慮する.」(1528頁左欄28?32行)
被請求人が提出した乙2(特許第3156812号公報、発明の名称「生分解性土木用繊維集合体」)には、以下の記載がある。
「【0002】・・・従来、仮設ネット、養生シート、遮水シート等の土木用繊維集合体は・・・」
「【0011】本発明の繊維集合体は,土木用に使用されるものを言い、その具体例としては、例えば、法面保護用シート、養生シート、遮水シート、野積シート、境界分離用シート、各種フィルター用シート等の土木用シート類・・・として用いることができる・・・」

(イ)上記(ア)によれば、「養生」は、一般的にはコンクリートの養生をいうものであり、土木や建築の技術分野で用いられる用語である。農業分野で「養生」ないし「養生シート」ということは、例がないとはいえないが、一般的とはいえない。よって、イ3号物件の構成f'''の「養生シート」は、甲3の摘示ウの「自然環境下で使用する農業・園芸・土木・建築用資材として最適です。」における「土木用」ないし「建築用」であって、「農業用」ではない。
したがって、イ3号物件は、本件特許発明の構成要件D「農業用」を充足していない。

(3)まとめ
以上のとおり、イ3号物件は、少なくとも本件特許発明の前記分説した構成要件Dを充足するものではないから、他の構成要件について検討するまでもなく、本件特許発明の技術的範囲に属しないものである。

4 イ号物件について
上記1?3で検討したとおり、イ号物件に包含されるイ1号物件?イ3号物件のうち、イ2号物件は、本件特許発明の構成要件A?Fのすべてを充足しているから、イ号物件は、イ2号物件を包含するものである点において、本件特許発明の技術的範囲に属するものである。

第6 被請求人の主張について
上記第4の2に(i)?(iv)として示した被請求人の主張のうち、(i)と(ii)については、既に判断を示した。(iii)については、この判定の冒頭に示したとおりである。ここでは、(iv)について示す。
被請求人は、判定請求の趣旨によれば、全てのタイプの不織布がいかなる用途に用いられた場合でも、本件特許発明の技術的範囲に属するということになるが、使い捨ておむつ、ナプキン又はパッドに用いた場合に本件特許発明の技術的範囲に属しないことは明らかであるから、本件判定請求の趣旨は、対象物件が不明確であり、不適法なものであると主張する。
しかし、本件判定請求は、「防草シート」、「べた掛け」及び「養生シート」の用途を挙げて、イ号物件である「テラマック ユニチカポリ乳酸不織布」が本件特許発明の技術的範囲に属するとの判定を求めたものである。使い捨ておむつ、ナプキン又はパッドに用いた場合について本件特許発明の技術的範囲に属するとの判定を求めたものではなく、対象物件が不明確であるとはいえないから、被請求人の主張は、前提が誤っている。
被請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲 <イ号物件の説明>
添付の1葉目?4葉目は、甲3の、「テラマック ユニチカポリ乳酸不織布」のパンフレットである。2つ折りで、表紙、内側の見開き、背表紙からなる。
添付の5葉目は、甲4の、「バイオマス素材」、「TERRAMAC」、「テラマック」、「UNITIKA」と表示されたウェブページの「製品紹介」の項の印刷物<URL:http://www.unitika.co.jp/terramac/products/spunbond/index.html>である。

甲3には、表紙を1頁、内側の見開きを2頁及び3頁、背表紙を4頁とすると、以下の記載がある。
ア「自然から生まれ、
自然に還る不織布の誕生。
新しい可能性を秘めた
『テラマック』不織布。」(2頁上欄)
イ「これまでの合成繊維は、ほとんどが石油などの限りある化石資源を原料としてきました。
これらは生分解性でないために、自然環境下での廃棄処理が問題となっています。
ユニチカでは21世紀の“資源循環型社会”の構築に向け、再生可能資源からなる生分解性不織布の研究を続け、
ポリ乳酸不織布「テラマック」(TERRAMAC)を開発しました。ポリ乳酸は、トウモロコシなどの
再生可能な植物資源からとれるデンプンを原料に、乳酸発酵を経て化学合成法によってつくられるポリマーです。
自然界では最終的には炭酸ガスと水に分解される特長があり、
地球環境に負荷をかけないエコロジーマテリアルと言えます。
今までにない、まったく新しい自然循環型の合成繊維不織布が登場しました。」(2頁中欄)
ウ「■「テラマック」不織布の特長
●完全生分解性の合成繊維から成ります。
ポリ乳酸繊維は、従来の合成繊維とほぼ同等の初期機械的性質を有する完全生分解性の繊維素材です。耐薬品性に関しては、耐油性には優れますが、アルカリ性または酸性条件下(60℃以上)では加水分解を受けます。したがって長期にわたって耐久性が要求される用途より、むしろ2?3年の短期使用で廃棄され再資源化される用途に適しています。
●きわめて安全性の高いポリマーを使用しています。
ポリ乳酸は生体内埋植材料として用いられていることからも明らかなように、きわめて安全性の高いポリマーです。ポリ乳酸の最終分解産物である乳酸は、私達の身体の中にも広く存在しています。
●ヒートシール性に優れています。
レギュラータイプの融点は170℃ですが、融点が130?140℃の易ヒートシールタイプもあります。
●抗菌・防カビ性に優れています。
●耐候性に優れています。
図1の促進耐候試験が示すように、ポリエチレンテレフタレート不織布に比し耐候性に優れています。実際の屋外曝露試験でも確認されており、自然環境下で使用する農業・園芸・土木・建築用資材として最適です。
●染色性に優れています。
通常の分散染料を用い、100℃での常圧染色が可能です。ポリエチレンテレフタレート繊維と同等の染色性が得られます。
●有毒ガスの発生がありません。
ポリ乳酸は焼却しても燃焼カロリーはポリエチレンなどの約半分であり、ダイオキシンはもとより、塩化水素やNO_(x)、SO_(x) などの有毒ガスは発生しません。」(2頁下欄)
エ「■製品および銘柄
ユニチカが長年培ってきた高度な不織布製造技術により、スパンボンドのような長繊維不織布からスパンレースのような短繊維不織布まで、広範な製品群の提供を可能にしました。
●長繊維不織布
スパンボンド(レギュラータイプ、芯鞘複合タイプ、成形タイプ)
●短繊維不織布
スパンレース・ニードルパンチ・サーマルボンド」(3頁下欄)
オ「■用途
●コンポスト化可能材料
<使用後、コンポスト中での再資源化を目的とした用途>
使い捨ておむつ、ナプキン、パッド、ワイパー、おしぼり、生ごみ袋、汚泥フィルター、べた掛け等
●環境調和型材料
<自然環境下で使用され、その使用後または使用過程で分解・消滅が求められる用途>
植生シート、防草シート、べた掛け、根巻きシート、植生ポット、排水シート、養生シート等」(3頁下欄)
カ「■ポリ乳酸&ポリ乳酸繊維とは?
●ポリ乳酸(PLA:polylactic acid)は、α-オキシ酸の一種である乳酸HO-CH(CH_(3))-COOHの重合体-[O-C(CH_(3))-CO]_(n)-から成る脂肪族ポリエステルです。高結晶性の熱可塑性プラスチックで、融点は約170℃、ガラス転移点は約57℃です。
●ポリ乳酸繊維の糸質特性や物理化学的性質は、表1に示すように疎水性の芳香族ポリエステル(PET:polyethylene terephthalate)繊維に比較的似ています。
表1 PLA繊維とPET繊維の基本的性質
素材 融点 ガラス転移点 比重 引張強度 ヤング率
PLA 170℃ 57℃ 1.27 3?5cN/dtex 40? 60cN/dtex
PET 256℃ 69℃ 1.38 3?8cN/dtex 90?100cN/dtex 」(4頁上欄)
キ「生分解性と生分解メカニズム
●ポリ乳酸不織布はコンポスト化することにより、0.5?2カ月で堆肥となります。また、通常の土壌中や水中のような自然環境下では、比較的緩やかに分解が進行し、1?3年で分解されます。
●ポリ乳酸の基本的な生分解機構は非酵素的な加水分解反応ですが、ある程度分解が進行すると微生物や酵素により分解が加速され、最終的には炭酸ガスと水に分解されます。なお、ポリ乳酸不織布の加水分解反応は、ガラス転移点近傍の50?60℃以上(特にアルカリ条件下)になると急激に進行しますが、常温では比較的安定です。」(4頁中上欄)
ク「土壌中での生分解挙動
●一般的に土壌のような自然環境下では、温度、水分、pH、微生物の種類や数などが場所により異なるため、分解挙動は一様ではありません。図2に示す標準的な土壌中では、土壌埋設1年前後から引張強度および破断伸度の低下が始まりますが、形態的な変化や質量減少はほとんど認められません。1年を経過すると引張強度はさらに低下し、2年前後から形態的な崩壊が始まり、次第に細片化し最終的には消滅します。」(4頁中下欄)
ケ「促進耐候性試験」と題する図1には、横軸を「曝露時間」(0?300hrs)、縦軸を「引張強力保持率」(0?100%)として、「『テラマック』スパンボンド50g/m^(2)」と「PETスパンボンド60g/m^(2)」につきグラフが示されている。(2頁)
コ「土壌埋設試験」と題する図2には、横軸を「年数」(0?2年)、縦軸を「引張強度保持率」(0?100%)及び「相対粘度」(1.0?2.0)として、「『テラマック』マルチフィラメント50d/24f」につきグラフが示されている。(4頁)

甲4には、以下の記載がある。
サ「NON-WOVEN
不織布 詳細はスパンボンド事業本部サイト
優れた均一性、柔軟性、高強度、寸法安定性を備えた長繊維不織布。自然環境下での使用や土中への埋設、コンポスト化といった使用法に応え、農園芸資材、土木資材関連を中心に展開しています。」(中欄)
シ 以下の6個の写真が掲載されている:「植木ポッド」、「べたがけ」、「防草シート」、「手さげ袋」、「ヘッドレストカバー」、「軟弱地盤安定剤」。「べたかけ」の写真は、手前の地面をシートが覆い、後方に温室のようなものが写っている。
 
判定日 2011-06-29 
出願番号 特願平5-50881
審決分類 P 1 2・ 1- YA (D04H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 小出 直也
新居田 知生
登録日 2005-08-26 
登録番号 特許第3711409号(P3711409)
発明の名称 生分解性農業用繊維集合体  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 植木 久一  
代理人 柴田 有佳理  
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