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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1240932
審判番号 不服2009-10092  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-05-20 
確定日 2011-07-26 
事件の表示 特願2000-507593号「ラインを固着する方法、ラインを患者に固着するための締結具及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年3月4日国際公開、WO99/10250、平成13年9月11日国内公表、特表2001-514030号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成10年8月20日(パリ条約による優先権主張 平成9年8月21日 (GB)グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国)を国際出願日とする出願であって、平成19年7月2日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成19年12月28日付けで意見書、手続補正書及び誤訳訂正書が提出され、平成20年6月24日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対し、平成20年12月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年2月12日付けの補正の却下の決定により、平成20年12月26日付けの手続補正書でなされた手続補正は却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされたところ、同査定を不服として平成21年5月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成21年6月19日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

II.平成21年6月19日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年6月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「【請求項1】 長くされたときラインを把持できる、可変長さの滅菌した筒状スリーブであって、長さが短くなったときラインに沿って摺動可能である滅菌した筒状スリーブを備える、ラインを患者に固着する締結具であって、
前記滅菌した筒状スリーブは、長くされたとき前記ラインに均一に分配された圧縮把持力を加えて前記ラインを把持でき、前記滅菌した筒状スリーブは前記ラインの動きに応答してさらに引伸ばされて前記圧縮把持力を増加し、
前記滅菌した筒状スリーブは、ら旋状に織り合わされた複数のフィラメントを含む、有孔部分叉は孔が形成された壁を有し、前記壁の複数の開口部を画定し、
前記滅菌した筒状スリーブは、前記締結具を患者に外部的に取り付ける取り付け手段を備える締結具。」(下線部は補正個所を示す。)

2.補正の目的、新規事項の追加の有無
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「スリーブ」に「滅菌した筒状」との限定を付加するとともに、「スリーブ」に「前記滅菌した筒状スリーブは、長くされたとき前記ラインに均一に分配された圧縮把持力を加えて前記ラインを把持でき、前記滅菌した筒状スリーブは前記ラインの動きに応答してさらに引伸ばされて前記圧縮把持力を増加し、」及び「前記滅菌した筒状スリーブは、ら旋状に織り合わされた複数のフィラメントを含む、有孔部分叉は孔が形成された壁を有し、前記壁の複数の開口部を画定し」との限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)、以下に検討する。

3-1.刊行物の記載事項
(1)本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である欧州特許出願公開第9893号明細書(以下、「刊行物1」という。『』内に当審による仮訳を示す。)には下記の事項が図面とともに記載されている。

ア:「This invention is concerned with surgical equipment and method, used in hospitals. More particularly the invention relates to a safety device for use with body tubes and to a method of securing a body tube using a safety device.」(1頁1?5行)
『本発明は、病院で用いられている外科用装置及び外科手技に関する。より詳細には、本発明はボディチューブを使う際の安全装置及び安全装置を用いてボディチューブを固定する際の方法に関する。』

イ:「It is normal practice for body tubes to be secured to the patients skin outside of the body in order to avoid any inadvertant displacement of the tube either into or out of the body. 」(1頁14?17行)
『ボディーチューブが患者の体の内外へ不注意により移動することを避けるために、患者の体の外皮にボディーチューブを固定することが通常の実務である。』

ウ:「These known methods have several disadvantages, but the main drawback is that adjustments of the surgical drains, for example by shortening the length of tube located within the body, are difficult and time consuming because of the manipulations required, and as a result can be painful to the patient.・・・
The present invention aims at providing a solution to the problems associated with securing body tubes and broadly resides in a tubular device, to be fixed externally to the body of a patient fitted with a body tube, the body tube passing through the device which is adjustable either to grip the tube securely or to release the tube to allow the tube to be pulled freely through the device.」(2頁4?21行)
『これらの知られた方法は幾つかの不利な点を有しているが、主な欠点は、例えば体内に位置するチューブの長さを短くするような、外科的排水装置の調節は、巧みな操作が必要とされるので、困難でかつ時間がかかり、その結果、患者に苦痛をもたらすこともある。・・・
本発明は、ボディチューブの固定に関する問題の解決方法を提供することを目的とし、また広くは管状の装置であって、ボディチューブが取り付けられた患者の身体に外部から固定され、ボディチューブをしっかりと把持するか又は引っ張ると該装置を貫いてボディチューブが自由に摺動できるようにボディチューブを解放するかを調節できるボディチューブが挿通する管状の装置に属する。』

エ:「The forward end of the device is the attached to the patients body by thread 15 passing through holes 14 and stitched to the skin.」(5頁3?5行)
『装置の前端部は穴14を挿通するとともに患者の皮膚に縫い付けられた糸15により患者の体に取り付けられる。』

オ:「Alternatively or additionally a groove could be provided around the periphery of the device for receiving a strap, such as a velcro strap, to be wrapped around a limb of the patient for attaching the device thereto.」(6頁14?17行)
『装置を患者の手足に取り付けるために患者の手足に巻き付けられる、例えばベルクロストラップのようなストラップを受け止めるために、代替的或いは追加的に、装置の外周面に溝を形成することができる。』

カ:上記イの「患者の体の外皮にボディーチューブを固定することが通常の実務である。」との記載、上記ウの「ボディチューブが取り付けられた患者の身体に外部から固定され、・・・ボディチューブが挿通する管状の装置」との記載、上記オの「装置を患者の手足に取り付ける」との記載、上記エの記載及び図1の図示内容からして、刊行物1に記載された「管状の装置」は、管状の装置を患者に外部的に取り付ける穴と糸を備えているといえる。

キ:上記カからして、「管状の装置」が患者に外部的に糸により取り付けられ、上記ウのように「該装置を貫いてボディチューブが自由に摺動できる」場合、「管状の装置」がボディチューブに沿って摺動可能となる場合を含むことは明らかである。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「管状の装置であって、ボディチューブが取り付けられた患者の身体に外部から固定され、ボディチューブをしっかりと把持するか又はボディチューブに沿って摺動可能となるようにボディチューブを解放するかを調節できるボディチューブが挿通する管状の装置において、
管状の装置を患者に外部的に取り付ける穴と糸を備えている
管状の装置。」

(2)本願の優先権主張日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平6-327776号公報(以下、「引用例2」という。)には下記の事項が図面とともに記載されている。

サ:「【請求項1】 近位端と遠位端との間を延びているリードボディと、リードボディの近位端に置かれている電気コネクタ要素と、リードボディの遠位端に置かれている電極組立体と、近位端と遠位端との間でリードボディの少なくとも一部の周りを運動可能な自動ロック式縫合スリーブとを含んでおり、自動ロック式縫合スリーブがリードボディの外径の周りに軸線方向に置かれているチューブ要素を含んでおり、チューブ要素がその端部で自動ロック式縫合スリーブの向かい合う端部に取付けられており、また自動ロック式縫合スリーブが、チューブ要素がリードボディを締付け可能につかむように、チューブ要素を伸長させるための手段とを含んでいることを特徴とする植え込み可能なリード。
【請求項2】 チューブ要素が生物適合性の材料の円筒状の編まれた網を含んでおり、この網が、延長された時にはより小さい内径を、また圧縮された時にはより大きい内径を有するように、編まれていることを特徴とする請求項1記載の植え込み可能なリード。」(【特許請求の範囲】)

シ:「【産業上の利用分野】本発明は、一般的に、心臓ペースメーカと共に使用するための植え込み可能な整調リードに関し、一層詳細には、静脈挿入点にリードを取付けるための自動ロック式縫合スリーブを有する整調リードに関する。」(【0001】)

ス:「【発明が解決しようとする課題】従って、リードボディの長さの一部分に沿って調節可能であり、しかも堅く結び過ぎた固定縫合に起因するリードの電気導体または絶縁体の損傷の危険を防止または最小化する縫合スリーブを有することが望ましい。縫合スリーブの調節可能な特徴は望ましいが、縫合スリーブは、いったん縫合スリーブの位置が固定されると、リードボディの軸線方向の位置を確実にするべく設計される必要がある。滑動可能に位置決め可能であり、しかも縫合糸による導体の損傷を防止するのに十分に構造的に剛固である従来の縫合スリーブはリードボディに容易に取付けることができない。
本発明の課題は、リードボディ上に確実に位置決めされ得る可動の自動ロック式縫合スリーブを有する整調リードを提供することにある。特に、いったん縫合スリーブが所定の位置に動かされると、自動ロックにより、縫合スリーブがリードボディにそれ自体で取付けられるようにする。加えて、いったん縫合スリーブの位置が決められると、主治医は、リードボディを通って延びている導体を殆ど損傷させることなく、周囲組織に縫合スリーブを縫合することができるようにする。」(【0006】?【0007】)

セ:「【課題を解決するための手段】自動ロック式縫合スリーブは縫合スリーブボディのいずれかの端部に取付けられる可撓性のチューブ要素を含んでいる。チューブ要素は、伸ばされた時に締付けられるように設計されている編まれた網から構成されている。弾性的要素またはばねがチューブ要素を偏倚させ、チューブ要素をその完全に伸ばされた位置に強制するのに資する。ばねおよびチューブ要素は、ばねが圧縮された時にチューブ要素が最大直径を有し、また縫合スリーブが自動ロック式縫合スリーブの中央を通って軸線方向に延びているリードボディに沿って滑動可能であるように共同作用する。ばねがその緩和された状態に伸ばされた時、チューブ要素は締付けられ、リードボディを確実につかむ。」(【0008】)

ソ:「代替的な実施態様では、弾性的要素またはばねはチューブ要素自体の中に形成され得る。」(【0010】)

タ:「第1の剛固な要素52および第2の剛固な要素54の下記の説明は、これらの要素を構成し得る特別な設計を示すことを意図している。しかし、明細書全体からみて第1の剛固な要素52および第2の剛固な要素54に対する多数の代替的な設計が当業者に明らかであることは理解されるべきである。たとえば、チューブ要素は網のなかに編まれた弾性的要素を有し得るし、および/または剛固な要素が省略され得るような形状とされ得る。従って以下の説明は本発明の好ましい実施例および最良のモードを例示することのみを意図している。」(【0015】)

チ:「チューブ要素56はシリコンチューブのような適切な生物適合性の弾性的なプラスチックまたはエラストマー材料から、または代替的に編まれた繊維または撚られた材料から形成されていてよい。しかし、チューブ要素56に対して使用される材料が生物適合性であり、また植え込まれている時間にわたり安定であることは重要である。こうして、高強度のポリマー繊維の編まれた網または金属撚り糸が望ましい。編まれた網に対する適当な材料はポリエステルおよびナイロンのようなポリマーもステンレス鋼、チタンおよび類似の金属材料のような非ポリマー材料も含んでいる。加えて、第1および第2の剛固な要素52および54はそれぞれ好ましくは剛固な生物適合性の材料から製造されている。適当な材料はステンレス鋼、チタン、ポリウレタンのようなプラスチックおよび剛固なシリコンを含んでいる。
図2中に示されているように、ばね58は緩和さた状態で示されており、またチューブ要素56の中央部分は伸ばされ、また締付けられており、従ってチューブ要素56の中心を通る軸線方向の通路の直径は減ぜられている。これに対し図3の断面図は、第1の剛固な要素52および第2の剛固な要素54の軸線方向の全長が最小であり、またチューブ要素56の直径が最大であるように圧縮された状態でのばね58を示す。このばねの圧縮された状態では、自動ロック式縫合スリーブ50はリード20のリードボディ22上を滑動可能である。リードボディ22上の自動ロック式縫合スリーブ50の適切な位置決めにより、ばね58はその緩和された状態に伸びることを許され、それによりチューブ要素56が締付けられるようにし、またリードボディ22の周りに自動ロック式縫合スリーブ50の位置をロックする。従って、チューブ要素56の締付けがリードボディ22の絶縁シースに確実な摩擦接合を生じさせ、また自動ロック式縫合スリーブ50の軸線方向の変位を防止できることは理解されよう。」(【0020】?【0021】)

ツ:「図4中に示されているように、リード20は自動ロック式縫合スリーブ50と共にチューブ要素56の中心を軸線方向に通過するリードボディ22の一部の周りに位置決めされている。自動ロック式縫合スリーブ50は、部分的に、第1の剛固な要素52のフランジ62と第2の剛固な要素54のフランジ72との間の間隙90の中に巻かれているものとして示されている縫合糸92により取付けられている。第1の剛固な要素52および第2の剛固な要素54の剛固な構造は自動ロック式縫合スリーブ50の周りに縫合糸を巻くことにより及ぼされる圧縮応力がリードボディ22を通って延びている導体(図示せず)に伝達されることを防止する。さらに、リードボディ22の外径と自動ロック式縫合スリーブ50との間の機械的接合がチューブ要素56の締付けによってのみ成就されることは理解されよう。円筒状のチューブ要素56の構成のために、この機械的な圧縮力はリードボディ22の外径にわたり均等に及ぼされ、また係合の全長にわたり分布され、それにより、リードボディ22が局部的に平らにされ、またそのなかのらせん状の導体または絶縁体を潰す原因となり得るであろう高度に局部化されたひずみを防止する。」(【0023】)

テ:上記ソの「代替的な実施態様では、弾性的要素またはばねはチューブ要素自体の中に形成され得る。」との記載及び上記タの「チューブ要素は網のなかに編まれた弾性的要素を有し得るし、および/または剛固な要素が省略され得るような形状とされ得る。」との記載からして、引用例2には、「自動ロック式縫合スリーブ」が、弾性的要素が編み込まれた網からなるチューブ要素を含む態様が記載されているといえる。

ト:上記サの「チューブ要素が・・・円筒状の編まれた網を含んでおり、この網が、延長された時にはより小さい内径を、また圧縮された時にはより大きい内径を有するように、編まれている」との記載及び上記セの「弾性的要素またはばねがチューブ要素を偏倚させ、・・・ばねおよびチューブ要素は、ばねが圧縮された時にチューブ要素が最大直径を有し、また縫合スリーブが・・・リードボディに沿って滑動可能であるように共同作用する。ばねがその緩和された状態に伸ばされた時、チューブ要素は締付けられ、リードボディを確実につかむ。」との記載からして、上記テの態様の「自動ロック式縫合スリーブ」のチューブ要素は、延長されたときリードボディを把持できる、可変長さのチューブ要素であって、圧縮されたときリードボディに沿って滑動可能であるといえる。

ナ:上記ツの「リードボディ22の外径と自動ロック式縫合スリーブ50との間の機械的接合がチューブ要素56の締付けによってのみ成就される・・・この機械的な圧縮力はリードボディ22の外径にわたり均等に及ぼされ、また係合の全長にわたり分布され」との記載における、「リードボディ22の外径にわたり均等に及ぼされ、また係合の全長にわたり分布され」る「圧縮力」は、リードボディに均一に分配されているといえる。

ニ:上記ト、上記ナ及び上記チの「チューブ要素56の締付けがリードボディ22の絶縁シースに確実な摩擦接合を生じさせ、また自動ロック式縫合スリーブ50の軸線方向の変位を防止できる」との記載からして、上記テの態様の「自動ロック式縫合スリーブ」のチューブ要素は、延長されたときリードボディに均一に分配された圧縮力による摩擦力を加えてリードボディを把持できるといえる。

ヌ:スリーブがラインを把持している本願補正発明において「ライン25をスリーブ20に対して動かそうとする更なる試みは、増大した圧縮力及び摩擦力を受け、これらの力は、更なる滑りを許容せずに、その動きに強力に抵抗し勝ちとなる。」(本願明細書【0055】)のと同様に、上記テの態様の「自動ロック式縫合スリーブ」のチューブ要素は、圧縮力による摩擦力を加えてラインを把持している場合、リードボディの動きに応答してさらに引き延ばされて圧縮力による摩擦力を増加することは明らかである。

ネ:上記シの「本発明は、・・・静脈挿入点にリードを取付けるための自動ロック式縫合スリーブを有する整調リードに関する」との記載からして、上記テの態様の「自動ロック式縫合スリーブ」は、リードボディを患者に固着するものといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されている。
「延長されたときリードボディを把持できる、可変長さのチューブ要素であって、圧縮されたときリードボディに沿って滑動可能であるチューブ要素を備える、リードボディを患者に固着する自動ロック式縫合スリーブであって、
チューブ要素は、延長されたときリードボディに均一に分配された圧縮力による摩擦力を加えてリードボディを把持でき、チューブ要素はリードボディの動きに応答してさらに引き延ばされて圧縮力による摩擦力を増加し、
チューブ要素は、弾性的要素が編み込まれた網からなる
自動ロック式縫合スリーブ。」

3-2.対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「ボディチューブ」は、本願補正発明の「ライン」に相当する。

刊行物1発明の「管状の装置」は、「ボディチューブが取り付けられた患者の身体に外部から固定され、ボディチューブをしっかりと把持するか・・・を調節できる」ものであって、ボディチューブを「把持」し、かつ、患者の身体に外部から固定されるとともに、「管状の装置を患者に外部的に取り付ける穴と糸を備えている」から、ボディチューブ(ライン)を「患者に固着する締結具」といえる。

本願補正発明の「長くされたときラインを把持できる、可変長さの滅菌した筒状スリーブであって、長さが短くなったときラインに沿って摺動可能である滅菌した筒状スリーブを備える、ラインを患者に固着する締結具」と刊行物1発明の「管状の装置であって、ボディチューブが取り付けられた患者の身体に外部から固定され、ボディチューブをしっかりと把持するか又はボディチューブに沿って摺動可能となるようにボディチューブを解放するかを調節できるボディチューブが挿通する管状の装置」とは、「ラインを把持できる状態と、ラインに沿って摺動可能な状態に調節できる」点で一致する。

刊行物1発明の「管状の装置を患者に外部的に取り付ける穴と糸」は、本願補正発明の「締結具を患者に外部的に取り付ける取り付け手段」に相当する。

以上によれば、本願補正発明と刊行物1発明とは次の点で一致する。
(一致点)
「ラインを把持できる状態と、ラインに沿って摺動可能な状態に調節できる、ラインを患者に固着する締結具であって、
締結具は、前記締結具を患者に外部的に取り付ける取り付け手段を備える締結具。」

そして、両発明は次の点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明では、「ラインを患者に固着する締結具」が、
「長くされたときラインを把持できる、可変長さの滅菌した筒状スリーブであって、長さが短くなったときラインに沿って摺動可能である滅菌した筒状スリーブを備える、ラインを患者に固着する締結具であって、
前記滅菌した筒状スリーブは、長くされたとき前記ラインに均一に分配された圧縮把持力を加えて前記ラインを把持でき、前記滅菌した筒状スリーブは前記ラインの動きに応答してさらに引伸ばされて前記圧縮把持力を増加し、
前記滅菌した筒状スリーブは、ら旋状に織り合わされた複数のフィラメントを含む、有孔部分叉は孔が形成された壁を有し、前記壁の複数の開口部を画定し、
前記滅菌した筒状スリーブは、前記締結具を患者に外部的に取り付ける取り付け手段を備える」のに対して、
刊行物1発明では、「管状の装置」が、
「管状の装置であって、ボディチューブが取り付けられた患者の身体に外部から固定され、ボディチューブをしっかりと把持するか又はボディチューブに沿って摺動可能となるようにボディチューブを解放するかを調節できるボディチューブが挿通する管状の装置において、
管状の装置を患者に外部的に取り付ける穴と糸を備えている」点

3-3.相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
引用例2発明の「自動ロック式縫合スリーブ」は「締結具」といえるとともに、「圧縮されたとき」は「長さが短くなったとき」と、「延長されたとき」は「長くされたとき」と、「リードボディ」は「ライン」と、「チューブ要素」は「筒状スリーブ」と、「滑動」は「摺動」といえる。
引用例2発明は、「リードボディに・・・圧縮力による摩擦力を加えてリードボディを把持」するものだから、引用例2発明の「圧縮力による摩擦力」は「圧縮把持力」といえる。
引用例2発明の「弾性的要素が編み込まれた網からなる」「チューブ要素」は、有孔部分叉は孔が形成された壁を有しているから、引用発明2の「チューブ要素」は、「有孔部分叉は孔が形成された壁を有し、前記複数の開口部を画定し」ているといえる。
してみると、引用例2発明は、
「長くされたときラインを把持できる、可変長さの筒状スリーブであって、長さが短くなったときラインに沿って摺動可能である筒状スリーブを備える、ラインを患者に固着する締結具であって、
前記筒状スリーブは、長くされたとき前記ラインに均一に分配された圧縮把持力を加えて前記ラインを把持でき、前記筒状スリーブは前記ラインの動きに応答してさらに引伸ばされて前記圧縮把持力を増加し、
前記筒状スリーブは、有孔部分叉は孔が形成された壁を有し、前記壁の複数の開口部を画定する
締結具。」
といえる。

また、刊行物1発明と引用例2発明とは、ライン(ボディチューブ、リードボディ)を患者に固着する締結具という同一の技術分野に属するといえる。
さらに、刊行物1の「これらの知られた方法は幾つかの不利な点を有しているが、主な欠点は、例えば体内に位置するチューブの長さを短くするような、外科的排水装置の調節は、巧みな操作が必要とされるので、困難でかつ時間がかかり、その結果、患者に苦痛をもたらすこともある。・・・本発明は、ボディチューブの固定に関する問題の解決方法を提供することを目的とし」(記載事項ウ)との記載及び引用例2の「リードボディの長さの一部分に沿って調節可能・・・縫合スリーブを有することが望ましい。縫合スリーブの調節可能な特徴は望ましい・・・従来の縫合スリーブはリードボディに容易に取付けることができない。本発明の課題は、リードボディ上に確実に位置決めされ得る可動の自動ロック式縫合スリーブを有する整調リードを提供することにある。」(記載事項ス)との記載からして、刊行物1発明と引用例2発明とは、ライン(ボディチューブ、リードボディ)を患者の体に固定する際にラインの位置調節を簡単に行えるようにするという共通の技術課題を有するといえる。
してみると、刊行物1発明の「締結具」の「ラインを把持できる状態と、ラインに沿って摺動可能な状態に調節できる」構成として、引用例2発明の筒状スリーブ(チューブ要素)からなる「締結具」に係る上記構成を適用することは、当業者が容易に成し得る程度の事項である。
そして、刊行物1発明の「締結具」に引用例2発明の筒状スリーブ(チューブ要素)からなる「締結具」に係る上記構成を適用するに当たり、「筒状スリーブは、前記締結具を患者に外部的に取り付ける取り付け手段を備える」ようにすることは、当業者であれば当然考慮する程度の事項である。

ところで、刊行物1発明は、「病院で用いられている外科用装置・・・に関する。より詳細には、本発明はボディチューブを使う際の安全装置・・・に関する。」(記載事項ア)ものであるとともに、引用例2発明も、「一般的に、心臓ペースメーカと共に使用するための植え込み可能な整調リードに関し、一層詳細には、静脈挿入点にリードを取付けるための自動ロック式縫合スリーブ・・・に関する。」(記載事項シ)ものであり、しかも後記する引用例1に記載される(記載事項ユ)ように、「ラインを患者に固着する締結具」を予め殺菌することは本件出願の優先権主張日前に周知であったといえるから、刊行物1発明に引用例2発明を適用するに当たり、筒状スリーブ(チューブ要素)を「滅菌」したものとすることは、当業者が必要に応じて適宜成し得る設計事項にすぎない。
加えて、引用例2発明の「弾性的要素が編み込まれた網からなる」「チューブ要素」は、「高強度のポリマー繊維の編まれた網または金属撚り糸が望ましい。」(記載事項チ)ことからすれば、刊行物1発明に引用例2発明を適用するに当たり、引用例2発明の「弾性的要素が編み込まれた網からなる」「チューブ要素」を、「ら旋状に織り合わされた複数のフィラメントを含む」ものとすることも、当業者が必要に応じて適宜成し得る設計事項にすぎない。

以上によれば、本願補正発明の相違点1に係る発明特定事項は、刊行物1発明及び引用例2発明に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願補正発明による効果は、刊行物1発明及び引用例2発明から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1発明及び引用例2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
本件補正は上記のとおり却下され、さらに平成20年12月26日付けの手続補正書でなされた手続補正も却下されているので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、平成19年12月28日付けの手続補正書及び誤訳訂正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 長くされたときラインを把持できる、可変長さのスリーブであって、長さが短くなったときラインに沿って摺動可能であるスリーブを備える、ラインを患者に固着する締結具であって、
前記スリーブは、前記締結具を患者に外部的に取り付ける取り付け手段を備える締結具。」

IV.刊行物の記載事項
1.刊行物1、原査定の拒絶の理由に引用された引用例2及び、その記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。

2.本願の優先権主張日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である国際公開第93/25264号(以下、「引用例1」という。『』内に当審による仮訳を示す。)には下記の事項が図面とともに記載されている。

ハ:「The present invention generally relates to the technique of applying and fixating a drainage tube relative to a skin surface part of a patient or person, and more precisely a device for fixating a drainage tube relative to a skin surface part of a patient or person.」(1頁4?7行)
『本願発明は、概ね、患者或いは人の皮膚表面部分にドレインチューブを適用し固定する技術に関するものであり、さらに詳細には、患者或いは人の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置に関するものである。』

ヒ:「The technique of applying and fixating a drainage tube, in particular a venting drainage tube, such as a pleural drainage tube, is a complex and time-consuming operation which requires skill and which further often turns out to be inadequate and inappropriate as the sealing of the entrance of the pleural drainage tube through the skin of the patient in question leaks, causing great harm to the patient.」(1頁35行?2頁2行)
『ドレインチューブ、特に、例えば肋膜ドレインチューブのようなドレインチューブを適用し固定するのは、困難で時間がかかる作業であり、この作業は熟練を必要とするとともに、問題の患者の皮膚を貫通する肋膜ドレインチューブの入り口の密封がしばしば不十分で不適当となり漏れが生じる結果、患者に大きな損傷を生じさせることになる。』

フ:「A particular advantage of the device according to the present invention lies in that a single unitary structure is provided which renders it possible, in a single and easily performable operation, to create a fixation of the drainage tube and also create a sealing of the entrance of the drainage tube through the skin of the patient.」(2頁8?12行)
『本願発明の装置による特に有利な点は、単一の簡単に行える操作で、ドレインチューブを固定できるとともに、患者の皮膚を貫通するドレインチューブの入り口を密封できる、単一のユニット構成を提供することにある。』

ヘ:「A particular feature of the device according to the present invention lies in that the device according to the present invention constitutes a disposable unitary strucure which has been presterilized and simply is applied as a plaster structure to the skin of the patient after the device has, so to speak, been threaded on the drainage tube and is shifted along the drainage tube as a single unitary structure.」(2頁13?18行)
『本願発明の装置による特徴点は、本願発明の装置が予め殺菌された使い捨てのユニット構造を構成することにあるとともに、該装置を、いわば、ドレインチューブに通し単一のユニット構造としてドレインチューブに沿ってずらした後、簡単に患者の皮膚に貼り付けることのできるプラスター構造を採用したことにある。』

ホ:「The first embodiment of the drainage tube assembly according to the present invention further serves the overall purpose of providing a drainage tube assembly and a device which render it extremely simple and far less complicated than hitherto to fixate and seal a pleural drainage tube to the thorax of a patient, ・・・.」(7頁38行?8頁5行)
『本願発明のドレインチューブアセンブリの最初の実施例は、今までに比べて極めて簡単でずっと手間を掛けずに、患者の胸部へ肋膜ドレインチューブを固定、密封できるドレインチューブアセンブリ及び装置を提供する・・・という全般的目的を、さらに達成するものである。』

マ:「The tubular part 17 is at its outer circumferential surface provided with a glue layer 18 serving the purpose of fixating and sealing a hose component 20 relative to the tubular part 17 of the flange component 12.」(8頁13?16行)
『管状部分17は、その外周表面に、ホース要素20をフランジ要素12の管状部分17に固定するとともに密封する役割を果たす接着剤層18を備えている。』

ミ:「The outer end of the pleural drainage tube 8 is introduced through the trough-going holes of the foam plugs 30 and 32 and further through the through-going hole of the tubular part 17 of the flange component 12, as is illustrated in Fig. 2, which through-going holes are in registration.」(10頁27?31行)
『肋膜ドレインチューブ8の外端部は、貫通自在の穴が記載されている図2に示されているように、発泡樹脂プラグ30及び32の貫通自在の穴に通され、さらにフランジ要素12の管状部分17の貫通自在の穴に通される。』

ム:「After the facial contact and adhesion between the plaster component 26 and further the annular hydro-colloid component 24 and the skin surface of the patient has been established, the hose 20 is shifted from its position shown in Figs. 2 and 5 in which the hose is turned inside down to its position shown in Fig. 1 in which the hose is pulled out and encircles a segment of the pleural drainage tube for hermetically sealing the interspace between the tubular part 17 of the flange component 12 and the pleural drainage tube 8 as one of the gripping tags 21 of the hose is gripped by a person, e.g. a medical doctor or nurse who applies the device 10 and who grips the gripping tag 21 by means of the thumb and the forefinger of his or her hand 3.」(11頁14?24行)
『プラスター要素26、環状の水-コロイド要素24、患者の皮膚表面が面で接触及び接着された後、ホース20は、図2及び図5(「図3」の誤記と解される:当審注)に示される、ホースの内側を下向きに折り返された位置から、装置10を用い、親指と人差し指で把持タグ21を把持する、例えば医師又は看護士のような人に、ホースの把持タグ21の内の一つが把持されることにより、フランジ要素12の管状部分17と肋膜ドレインチューブ8との間の隙間を気密的に密封するための、ホースが引き出されて肋膜ドレインチューブの一部を取り囲む図1に示される位置にずらされる。』

メ:「Fig. 4 as the hose 20 is pulled out around the pleural drainage tube 8, providing a tight fit round the pleural drainage tube 8.」(11頁38行?12頁1行)
『図4のように、ホース20が肋膜ドレインチューブ8の回りに引き出されて、肋膜チューブ8の回りにぴったり取り付けられる。』

モ:「The hose 20 was made from latex rubber of a thickness of 1.1 mm. 」(15頁25?26行)
『ホース20は厚さ1.1mmのラテックスゴムで形成されている。』

ヤ:上記ハの「本願発明は、・・・患者或いは人の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置に関するものである。」との記載、上記ムの「プラスター要素26、環状の水-コロイド要素24、患者の皮膚表面が面で接触及び接着され」との記載及び図1?5の図示内容からして、引用例1に記載された「患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置」は、プラスター要素、環状の水-コロイド要素等の接着手段により、患者に外部的に取り付けられているといえる。

ユ:上記ヘの「本願発明の装置による特徴点は、本願発明の装置が予め殺菌された使い捨てのユニット構造を構成することにある」との記載からして、「患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置」は、予め殺菌されているといえる。

ヨ:上記マの「ホース要素20をフランジ要素12の管状部分17に固定する」との記載、上記ムの「ホース20は、図2及び・・・図3・・・に示される、ホースの内側を下向きに折り返された位置から、・・・人に、ホースの把持タグ21の内の一つが把持されることにより、フランジ要素12の管状部分17と肋膜ドレインチューブ8との間の隙間を気密的に密封するための、ホースが引き出されて肋膜ドレインチューブの一部を取り囲む図1に示される位置にずらされる。」との記載、上記メの「図4のように、ホース20が肋膜ドレインチューブ8の回りに引き出されて、肋膜チューブ8の回りにぴったり取り付けられる。」との記載、上記モの「ホース20は厚さ1.1mmのラテックスゴムで形成されている。」との記載及び図1?5の図示内容からして、引用例1には、「患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置」のホースがゴムで形成された態様が記載されているとともに、この態様において、フランジ要素の管状部分に固定されたゴム製ホースは、引き出されてドレインチューブにぴったりと取り付けられるときに、ゴムの弾性によりドレインチューブを把持できるといえる。

ラ:上記ヘの「本願発明の装置・・・は、・・・ドレインチューブに通し単一のユニット構造としてドレインチューブに沿ってずらし」との記載、上記ミの「肋膜ドレインチューブ8の外端部は、貫通自在の穴が記載されている図2に示されているように、発泡樹脂プラグ30及び32の貫通自在の穴に通され、さらには、フランジ要素12の管状部分17の貫通自在の穴に通される。」との記載及び図2,3に、ホースの内側を下向きに折り返した位置でホースはフランジ要素の管状部分の外周面に張り付いて管状部材に接触していない態様が図示されていることからして、上記ヨの態様の「患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置」は、ゴム製ホースの内側を下向きに折り返してフランジ要素の管状部分に張り付けたとき、ドレインチューブに沿って摺動可能であるといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。
「フランジ要素と該フランジ要素の管状部分に固定されたゴム製ホースとを備え、
ゴム製ホースが引き出されてドレインチューブにぴったりと取り付けられるときドレインチューブを把持でき、ゴム製ホースの内側を下向きに折り返してフランジ要素の管状部分に張り付けたとき、ドレインチューブに沿って摺動可能である、患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置であって、
患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置を、患者に外部的に取り付けるプラスター要素、環状の水-コロイド要素等の接着手段を備える
患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置。」

V.対比・判断
(1)本願発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「ドレインチューブ」、「固定」、「患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置」は、本願発明の「ライン」、「固着」、「ラインを患者に固着する締結具」にそれぞれ相当する。

本願発明の「長くされたときラインを把持できる、可変長さのスリーブであって、長さが短くなったときラインに沿って摺動可能であるスリーブを備える、ラインを患者に固着する締結具」と引用例1発明の「フランジ要素と該フランジ要素の管状部分に固定されたゴム製ホースとを備え、ゴム製ホースが引き出されてドレインチューブにぴったりと取り付けられるときドレインチューブを把持でき、ゴム製ホースの内側を下向きに折り返してフランジ要素の管状部分に張り付けたとき、ドレインチューブに沿って摺動可能である、患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置」とは、「ラインを把持できる状態と、ラインに沿って摺動可能な状態に調節できる」点で一致する。

引用例1発明の「患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置を、患者に外部的に取り付けるプラスター要素、環状の水-コロイド要素等の接着手段」は、本願発明の「締結具を患者に外部的に取り付ける取り付け手段」に相当する。

してみると、本願発明と引用例1発明とは次の点で一致する。
(一致点)
「ラインを把持できる状態と、ラインに沿って摺動可能な状態に調節できる、ラインを患者に固着する締結具であって、
締結具は、前記締結具を患者に外部的に取り付ける取り付け手段を備える締結具。」

そして、両発明は次の点で相違する。
(相違点2)
本願発明では、「ラインを患者に固着する締結具」が、
「長くされたときラインを把持できる、可変長さのスリーブであって、長さが短くなったときラインに沿って摺動可能であるスリーブを備える、ラインを患者に固着する締結具であって、
前記スリーブは、前記締結具を患者に外部的に取り付ける取り付け手段を備える」のに対して、
引用例1発明は、「患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置」が、
「フランジ要素と該フランジ要素の管状部分に固定されたゴム製ホースとを備え、
ゴム製ホースが引き出されてドレインチューブにぴったりと取り付けられるときドレインチューブを把持でき、ゴム製ホースの内側を下向きに折り返してフランジ要素の管状部分に張り付けたとき、ドレインチューブに沿って摺動可能である、患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置であって、
患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置を、患者に外部的に取り付けるプラスター要素、環状の水-コロイド要素等の接着手段を備える」点。

(2)上記相違点について検討する。
まず、引用例2発明が、「長くされたときラインを把持できる、可変長さの(筒状)スリーブであって、長さが短くなったときラインに沿って摺動可能である(筒状)スリーブを備える、ラインを患者に固着する締結具」といえることは、前記II.3-3の相違点1の検討において説示したとおりである。

また、引用例1発明と引用例2発明とは、ライン(ドレインチューブ、リードボディ)を患者に固着する締結具という同一の技術分野に属するといえる。
さらに、引用例1の「ドレインチューブを適用し固定するのは、困難で時間がかかる作業であり」(記載事項ヒ)との記載、「本願発明の装置による特に有利な点は、単一の簡単に行える操作でドレインチューブを固定できる」(記載事項フ)との記載、「本願発明の装置による特徴点は、・・・ドレインチューブに通し単一のユニット構造としてドレインチューブに沿ってずらし」(記載事項へ)との記載及び「本願発明のドレインチューブアセンブリの最初の実施例は、今までに比べて極めて簡単でずっと手間を掛けずに、患者の胸部へ肋膜ドレインチューブを固定、密封できる」(記載事項ホ)との記載並びに引用例2の「リードボディの長さの一部分に沿って調節可能・・・縫合スリーブを有することが望ましい。縫合スリーブの調節可能な特徴は望ましい・・・従来の縫合スリーブはリードボディに容易に取付けることができない。本発明の課題は、リードボディ上に確実に位置決めされ得る可動の自動ロック式縫合スリーブを有する整調リードを提供することにある。」(記載事項ス)との記載からして、引用例1発明と引用例2発明とは、ライン(ドレインチューブ、リードボディ)を患者の体に固定する際にラインの位置調節を簡単に行えるようにするという共通の技術課題を有するといえる。
してみると、引用例1発明の「締結具」の「ラインを把持できる状態と、ラインに沿って摺動可能な状態に調節できる」構成として、引用例2発明のスリーブ(チューブ要素)からなる「締結具」に係る上記構成を適用することは、当業者が容易に成し得る程度の事項である。
そして、引用例1発明の「締結具」に引用例2発明のスリーブ(チューブ要素)からなる「締結具」に係る上記構成を適用するに当たり、「スリーブは、前記締結具を患者に外部的に取り付ける取り付け手段を備える」ようにすることは、当業者であれば当然考慮する程度の事項である。

以上によれば、本願発明の相違点2に係る発明特定事項は、引用例1発明及び引用例2発明に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明による効果は、引用例1発明及び引用例2発明から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用例1発明及び引用例2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)請求人は、「引用例1のホースは、ドレナージチューブ8をチューブ部分17にしっかりとシールされる必要があります・・・。そして、ドレナージチューブ8は患者に対してしっかりと保持されると共に一つだけの位置にシールされるために、ひとたびドレナージチューブ8が位置づけられるとその位置を調整することができません。」(平成21年6月19日付けの手続補正書(方式)2頁34?36行)と主張する。

上記ヨ、上記ラ及び「ホース20が肋膜ドレインチューブ8の回りに引き出されて、肋膜チューブ8の回りにぴったり取り付けられる」(記載事項メ)図1,4にホースの保持タグが外方に延出している態様が図示されていることからすれば、上記ヨの態様の「患者の皮膚表面部分にドレインチューブを固定する装置」は、ドレインチューブの回りにぴったり取り付けられているホースの保持タグを把持し外方に引っ張るとともにゴム製ホースの内側を下向きに折り返してフランジ要素の管状部分に張り付けることにより、ドレインチューブの位置を再度調整できることは明らかであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。
しかも、引用例2発明が「長くされたときラインを把持できる、可変長さのスリーブであって、長さが短くなったときラインに沿って摺動可能であるスリーブを備える」ものであることは、前記II.3-3の相違点1の検討において説示したとおりであって、長さが短くなったときラインの位置を再度調整できることも明らかであるから、引用例1発明が「ひとたびドレナージチューブ8が位置づけられるとその位置を調整することができ」るか否かは、引用例1発明及び引用例2発明に基く本願発明の進歩性についての上記判断を左右するものとはいえない。

したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

VI.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1発明及び引用例2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-02 
結審通知日 2011-03-03 
審決日 2011-03-16 
出願番号 特願2000-507593(P2000-507593)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 成彦永冨 宏之一ノ瀬 薫高田 元樹  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 内山 隆史
関谷 一夫
発明の名称 ラインを固着する方法、ラインを患者に固着するための締結具及びその使用方法  
代理人 社本 一夫  
代理人 千葉 昭男  
代理人 宮前 徹  
代理人 富田 博行  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  

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