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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1241186
審判番号 不服2009-22649  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-09-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-19 
確定日 2011-08-02 
事件の表示 特願2000-598095号「外部磁界により作動する尿道内人工泌尿器括約筋用バルブ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年8月17日国際公開、WO00/47141、平成14年10月29日国内公表、特表2002-536116号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I. 手続の経緯
本願は、平成12年2月11日を国際出願日とする出願(パリ条約による優先権主張 平成11年2月11日 スペイン)であって、平成20年6月11日付けで意見書及び手続補正書が提出され、更に平成20年6月13日付けで手続補正書が提出され、平成20年11月25日付けで拒絶理由が通知され、平成21年7月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年11月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


II. 本願発明
請求項1に係る発明は、平成20年6月13日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)

「外部磁界により作動する尿道内人工泌尿器括約筋用バルブであって、
生物学的適合性材料によって作られ且つオリフィスによってつながっている尿の入口と出口とを備えた中空円筒状本体と、
生体適合性材料によって被覆された軟質磁性材料によって作られ、前記円筒状本体の前記尿の入口内で軸線方向に移動して前記オリフィスを開閉するようになされたピストンと、
生体適合性材料によって被覆された硬質磁性材料からなり、前記ピストンに吸引力を付与して前記オリフィス閉じる、前記円筒状本体の前記尿の入口に配設されたドーナツ状の内部磁石と、
体外に配置される外部磁石であり、体外から前記ピストンに近づけて配置されると、前記ピストンに、前記内部磁石による吸引力よりも大きな反対方向の吸引力をかけて前記オリフィスを開き、一方、前記ピストンにかけられた当該外部磁石による吸引力を取り除くと、前記ピストンが前記オリフィスを自動的に閉じて排尿が阻止されるようになされた前記外部磁石と、からなり、
前記内部磁石による前記ピストンに対する吸引力は、当該内部磁石とピストンとを分離する距離に応じて弱くなり、一方、前記ピストンには膀胱内の尿からの圧力が常に加わっており、それによって、膀胱内の尿の圧力がある限度以上に達すると、前記外部磁石による反対方向の吸引力が無くても自動的に開くようになされたことを特徴とする、尿道内人工泌尿器括約筋用バルブ。」


III. 刊行物の記載事項

(1)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である「米国特許第5366506号明細書 」(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(なお、『』内に当審による仮訳を示す。)

(ア): 「An urethral magnet valve for insertion into the urethra of a person suffering from incontinence ・・・」(ABSTRACT)

『尿漏れに苦しむ人の尿道の中に挿入するための尿道用磁石バルブ・・・』

(イ): 「Referring to FIGS. 1 and 2 of the drawings, a valve assembly 10 can be seen comprising a cylindrical nonmagnetic housing 11 having a continuous side wall 12. A plurality of annularly spaced retaining flanges 13 extend inwardly from a perimeter edge 14 of said cylindrical housing 11 defining said sidewall 12. A recessed area 15 in said sidewall 12 extends inwardly from its free end defining a mounting surface for registration with a ferromagnetic valve seat 16. The valve seat 16 has a cylindrical aperture at 17 concentric within said cylindrical housing 11. A valve element 18 is comprised of a cylindrical magnet 19 encapsulated within a generally U-shaped nonmagnetic capsule 18A of biocompatible material having a thicker base portion 18B adjacent the valve seat 16 and an oppositely disposed closer 20 adhesively fixed to the magnet 19. 」(3欄11?26行)

『図面の図1および2を参照すると、バルブ構成体10は、連続した側壁12を有する非磁性の円筒状ハウジング11を含んでいる。円周状に間隔を有する複数の保持フランジ13が、前記側壁12を規定する前記円筒状ハウジング11の境界端14から内部に延びている。前記側壁12に形成された凹所15は、側壁の自由端より内側に延び、強磁性バルブシート16に合うように設置表面を規定している。バルブシート16は、前記円筒状ハウジングの中に、同心の円柱状の穴17を有している。バルブエレメント18は、U字形の生体親和性非磁性カプセル18Aに包まれた円筒状磁石19よりなり、そのカプセルは、磁石19に接着固定されるバルブシート16に隣接した厚い基部18Bと反対側に配置された閉止体20よりなる。』

(ウ): 「This valve "open" position occurs upon activation of the valve element 18 by a switching magnet 21, seen in FIG. 8 of the drawings. The switching magnet 21 is of a generally bar configuration in this example having been magnetized along its longitudinal center line axis A. When the switching magnet 21 is brought into close proximity to the valve element 18 as indicated with their respective magnetic center lines in a non-axial alignment, magnetic torque is induced on the valve element 18. The misalignment of the respective magnetic fields of the switching magnet 21 and the magnet 19 within the valve element 18 induces the valve element 18's rotation and repositioning within the housing 11 shown in broken lines in FIG. 1 of the drawings, thus opening the valve assembly 10 for passage of fluid.」(3欄45?59行)

『図8の図面に示すように、このバルブの開放は、スイッチング磁石21によるバルブエレメント18の作動によって起きる。スイッチング磁石21は通常棒状に形成され、この例では縦のセンターラインである軸Aに沿って磁化されている。スイッチング磁石21をバルブエレメント18に近接させ、それぞれの磁気のセンターラインが同じ軸にない時、磁気トルクがバルブエレメント18に対して発生する。スイッチング磁石21とバルブエレメント18の磁石19の磁界が整列していないため、図1の図面の破線に示すように、ハウジング11内においてバルブエレメント18の回転や位置の移動が引き起こされる。それにより、バルブ構成体10が開き、流体が流れる。』

(エ): 「The retaining flanges 13 limit the valve element 18 relative movement within the housing so that the required range of magnetic attraction between the valve element 18 and said valve seat 16 is sufficient to return the valve element 18 to the aperture occluding position upon deactivation i.e. removal of the switching magnet 21 (as shown in solid lines in FIG. 1 of the drawings).
When the switching magnet is not present, as indicated, the hereinbefore valve element 18 is attracted to ferromagnetic valve seat 16 occluding the cylindrical aperture 17 therein.」(3欄66行?4欄9行)

『スイッチング磁石21の効力を無くす、すなわちスイッチング磁石21を取り除いた際に、バルブエレメント18と前記バルブシート16との磁気吸引力が、バルブエレメント18が穴を閉塞する位置に戻るのに足りるように、保持フランジ13は、ハウジング内にバルブエレメント18の動きを制限する。(図1の図面の実線に示されている。)
スイッチング磁石21が存在しないとき、バルブエレメント18は円柱状の穴17を閉塞するように強磁性バルブシート16に引きつけられる。』

(オ): 「The valve element 18 also acts as a high pressure relief element, with relief pressure determined by the magnitude of the attraction forces between the valve element 18 and valve seat 16 at the relative separation distance imposed by the nonferromagnetic base portion 18B of the capsule 18A.」(4欄10?15行)

『バルブエレメント18は、高圧力の除去を行うものでもある。除去圧力は、カプセル18Aの非磁性の基部18Bに影響されるバルブエレメント18とバルブシート16との相対的な分離距離によって決まる。』

(カ): 「・・・the respective valve seats 16 and 27 illustrated are adjacent the upstream flow・・・」(5欄47?48行)

『・・・描かれたそれぞれのバルブシート16,27は上流に位置している・・・』

FIG.8の記載から、スイッチング磁石21を体外においてバルブ構造体10に近づけている様子及びバルブ構造体10が尿道の中に挿入されている様子が窺える。そして、記載事項(ア)における「尿漏れに苦しむ人の尿道の中に挿入するための尿道用磁石バルブ」との記載、FIG.8に示された上記の態様からして、バルブ構造体10である尿道用磁石バルブは、体外のスイッチング磁石21の磁界により作動するものといえる。

記載事項(イ)における「バルブ構成体10は、連続した側壁12を有する非磁性の円筒状ハウジング11を含んでいる。・・・バルブシート16は、前記円筒状ハウジングの中に、同心の円柱状の穴17を有している。」との記載及びFIG.1に示されたバルブシート16の円柱状の穴17が流路を絞る態様からして、尿道内磁石バルブが、流路を絞るバルブシート16の円柱状の穴17を介してつながっている入口と出口を備えた円筒状ハウジング11を有するといえる。

記載事項(ウ)における「このバルブの開放は、スイッチング磁石21によるバルブエレメント18の作動によって起きる。」との記載、記載事項(エ)における「スイッチング磁石21が存在しないとき、バルブエレメント18は円柱状の穴17を閉塞するように強磁性バルブシート16に引きつけられる。」との記載及びFIG.1に示されたバルブエレメント18が尿の入口内である円筒状ハウジング11内で移動する態様からして、バルブエレメント18が円筒状ハウジング11内で移動して、円柱状の穴17を開閉するといえる。

記載事項(イ)における「バルブシート16は、前記円筒状ハウジングの中に、同心の円柱状の穴17を有している。」との記載、記載事項(エ)における「バルブエレメント18と前記バルブシート16との磁気吸引力が、バルブエレメント18が穴を閉塞する位置に戻る」との記載、記載事項(イ)における「前記側壁12に形成された凹所15は、側壁の自由端より内側に延び、強磁性バルブシート16に合うように設置表面を規定している。」との記載、記載事項(オ)における「バルブシート16,27は上流に位置している」との記載及び尿道内磁石バルブが尿道内に使用されることから、その上流側は尿の入口の側であるといえることからして、バルブシート16は、バルブエレメント18に吸引力を付与して円柱状の穴17を閉塞する円筒状ハウジング11の尿の入口に配設されたドーナツ状のものといえる。

記載事項(カ)における「体外のスイッチング磁石21の磁界により作動する尿道内磁石バルブ」との記載、記載事項(ウ)における「スイッチング磁石21をバルブエレメント18に近接させ、それぞれの磁気のセンターラインが同じ軸にない時、磁気トルクがバルブエレメント18に対して発生する。スイッチング磁石21とバルブエレメント18の磁石19の磁界が整列していないため、図1の図面の破線に示すように、ハウジング11内においてバルブエレメント18の回転や位置の移動が引き起こされる。それにより、バルブ構成体10が開き、流体が流れる。」との記載、記載事項(エ)における「スイッチング磁石21が存在しないとき、バルブエレメント18は円柱状の穴17を閉塞するように強磁性バルブシート16に引きつけられる。」との記載及びスイッチング磁石21による磁界が磁石19による吸引力とは別の吸引力をかけるといえることからして、体外に配置されるスイッチング磁石21がバルブエレメント18に近接すると、バルブエレメント18に、磁石19による吸引力とは別な吸引力をかけて、円柱状の穴17を開くことで、尿道内磁石バルブが開き、一方、バルブエレメント18にかけられたスイッチング磁石21が存在しないとき、バルブエレメント18が円柱状の穴17を自動的に閉塞して排尿が阻止され、尿道内磁石バルブが閉塞するといえる。

記載事項(オ)における「除去圧力は、カプセル18Aの非磁性の基部18Bに影響されるバルブエレメント18とバルブシート16との相対的な分離距離によって決まる。」との記載及び磁石と強磁性体の吸引力が距離に応じて弱くなるという技術常識からして、磁石19によるバルブシート16に対する吸引力は、磁石19とバルブシート16との分離する距離によって決まり、距離に応じて弱くなるといえる。

記載事項(オ)における「バルブエレメント18は、高圧力の除去を行うものでもある。」との記載及び尿の入口の側に膀胱があることから、尿の入口の側より膀胱内の尿からの圧力が常に加わっているという技術常識からして、バルブエレメント18には、膀胱内の尿からの圧力が常に加わっており、除去圧力に達すると、スイッチング磁石21が存在しなくても自動的に開くといえる。

以上から、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「体外のスイッチング磁石21の磁界により作動する尿道内磁石バルブであって、
円柱状の穴17によってつながっている尿の入口と出口とを備えた円筒状ハウジング11と、
生体親和性材料によって包まれた磁石19によって作られ、前記尿の入口内で移動して前記円柱状の穴17を開閉するようになされたバルブエレメント18と、
バルブエレメント18に吸引力を付与して前記円柱状の穴17を閉塞する、前記円筒状ハウジング11の前記尿の入口に配設されたドーナツ状のバルブシート16と、
体外に配置されるスイッチング磁石21であり、体外から前記バルブエレメント18に近接すると、前記バルブエレメント18に、前記磁石19による吸引力とは別の吸引力をかけて前記円柱状の穴17を開き、一方、前記バルブエレメント18にかけられた当該スイッチング磁石21が存在しないとき、前記バルブエレメント18が前記円柱状の穴17を自動的に閉塞して排尿が阻止されるようになされた前記スイッチング磁石21と、からなり、
前記磁石19による前記バルブシートに対する吸引力は、当該磁石19とバルブシート16とを分離する距離に応じて弱くなり、一方、前記バルブエレメント18には膀胱内の尿からの圧力が常に加わっており、それによって、膀胱内の尿の圧力が除去圧力に達すると、前記スイッチング磁石21が存在しなくても自動的に開くようになされたことを特徴とする、尿道内磁石バルブ。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である「米国特許第3731670号明細書 」(以下「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(なお、『』内に当審による仮訳を示す。)

(キ): 「The valve comprises a cylindrical housing 4 having integral, circumferential sealing rings 5, a spherical closure member 6, and valve seats 8 and 10, mounted in the respective ends of housing 4.」(2欄52?56行)

『バルブは、円周全体にシールリングを備えるハウジング4、球状の閉鎖体6とハウジング4の両端に設置されるバルブシート8,10からなる。』

(ク): 「A conical recess 16 is provided at one end of seat 8; a central bore or through hole 18 in seat 8 communicates with recess 16.」(3欄14?16行)

『円錐状凹部16は、シート8の一端に形成され、シート8の中心の穴若しくは貫通した穴18は円錐状凹部18につながっている。』

(ケ): 「Closure member 6 is constructed of magnetically sensitive material which is attracted to the magnetic portion of the seat 8.」(3欄22?24行)

『閉鎖体6はシート8の磁石よりなる部位に吸引される磁気的に影響を受けやすい材料で形成される。』

(コ): 「Closure member 6 may be of soft iron, seat 10 and magnetic portion of seat 8 of alnico V or a ceramic magnet material, ・・・」(4欄20?22行)

『閉鎖体6は、軟鉄より形成し、シート10及びシート8の磁石によりなる部位は、alnico V若しくはセラミック磁石材料より形成してもよい。・・・』

(サ): 「Valve 2 may be opened by moving closure member 6 from seat 8 to seat 10. This is accomplished by bringing the actuating magnet 34 into proximity with seat 8 in the position indicated such that the magnetic field from magnet 34 can embrace closure member 6, and then moving magnet 34, adjacent the valve, to a position in proximity with seat 10.」(4欄41?47行)

『バルブ2は、閉鎖体6がシート8から10に移動することによって開かれる。この作動は、作動磁石34示された位置であるシート8に近接させ、磁石34の磁界が閉鎖体6を取り囲み、そして磁石34をバルブに隣接しつつ、シート10に近接した位置に移動させることにより起こる。』

(シ): 「The valve may also be advantageously used to provide control of urine flow in cases of urinary incontinence.」(6欄18?20行)

『このバルブはまた、尿漏れにおいて、尿の流れを制御するにも好都合であるかもしれない。』

記載事項(ケ)における「閉鎖体6はシート8の磁石よりなる部位に吸引される磁気的に影響を受けやすい材料で形成される。」との記載、記載事項(サ)における「バルブ2は、閉鎖体6がシート8から10に移動することによって開かれる。この作動は、作動磁石34示された位置であるシート8に近接させ、磁石34の磁界が閉鎖体6を取り囲み、そして磁石34をバルブに隣接しつつ、シート10に近接した位置に移動させることにより起こる。」との記載、記載事項(シ)における「このバルブはまた、尿漏れにおいて、尿の流れを制御するにも好都合である」との記載及び技術常識からして、尿道内磁石バルブ2は、作動磁石34が閉鎖体6に近接されると、シート8の磁石による吸引力よりも大きな反対方向の吸引力をかけて尿道内磁石バルブ2を開くといえる。

記載事項(ク)における「円錐状凹部16は、シート8の一端に形成され、シート8の中心の穴若しくは貫通した穴18は円錐状凹部18につながっている。」との記載、記載事項(サ)における「バルブ2は、閉鎖体6がシート8から10に移動することによって開かれる。」との記載、及FIG.1に示されたハウジング4がシート8の貫通した穴18を介してつながっている入口と出口を備えた中空円筒状であり、閉鎖体6が入口内で軸線方向に移動する態様及び技術常識からして、尿道内磁石バルブ2は、ハウジング4の入口内で軸線方向に移動して貫通した穴18を開閉する閉鎖体6を備えているといえる。

記載事項(コ)における「閉鎖体6は、軟鉄より形成し、シート10及びシート8の磁石によりなる部位は、alnico V若しくはセラミック磁石材料より形成してもよい。」との記載、及FIG.1に示されたハウジング4の一端に磁石による部位を備えるシート8を備える態様及び技術常識からして、軟質磁性材料によって形成された閉鎖体6と、ハウジング4の一端に配設された硬質磁性材料よる部位を備えるシート8とが引用例2に記載されているといえる。

以上から、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「軟質磁性材料によって作られ、中空円筒状のハウジング4の入口内で軸線方向に移動して貫通した穴18を開閉するようになされた閉鎖体6と、
閉鎖体6に吸引力を付与して前記貫通した穴18を閉じる、前記中空円筒状のハウジング4の入口に配設されたドーナツ状の硬質磁性材料による部位を備えるシート8と、
作動磁石34であり、前記閉鎖体6に近接すると、前記閉鎖体6に、前記シート8による吸引力よりも大きな反対方向の吸引力をかけて貫通した穴18を開く前記作動磁石34と、からなる尿道内磁石バルブ2。」

そして、引用発明2の「中空円筒状のハウジング4」、「貫通した穴18」、「閉鎖体6」、「硬質磁性材料よる部位を備えるシート8」、「近接すると」、「作動磁石34」及び「尿道内磁石バルブ2」、は、それぞれ「中空円筒状本体」、「オリフィス」、「ピストン」、「内部磁石」、「近づけて配置されると」、「外部磁石」及び「尿道内人工泌尿器括約筋用バルブ」といえるから、引用発明2は、
「軟質磁性材料によって作られ、前記中空円筒状本体の入口内で軸線方向に移動してオリフィスを開閉するようになされたピストンと、
ピストンに吸引力を付与して前記オリフィスを閉じる、前記円筒状本体の入口に配設されたドーナツ状の内部磁石と、
外部磁石であり、前記ピストンに近づけて配置されると、前記ピストンに、前記内部磁石による吸引力よりも大きな吸引力をかけてオリフィスを開く前記外部磁石と、からなる尿道内人工泌尿器括約筋用バルブ。」といえる。


IV. 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、その構造または機能からみて、引用発明1の「体外のスイッチング磁石21の磁界」、「尿道内磁石バルブ」、「円筒状ハウジング11」、「生体親和性材料」、「スイッチング磁石21」、「近接する」、「スイッチング磁石21が存在しないとき」、「閉塞して」、「膀胱内の尿の圧力が除去圧力に達すると」及び「スイッチング磁石21が存在しなくても」は、本願発明の「外部磁界」、「尿道内人工泌尿器括約筋用バルブ」、「中空円筒状本体」、「生体適合性材料」、「外部磁石」、「近づけて配置される」、「ピストンにかけられた当該外部磁石による吸引力を取り除くと」、「閉じて」、「膀胱内の尿の圧力がある限度以上に達すると」及び「外部磁石による反対方向の吸引力が無くても」に相当する。
さらに、本願明細書のFIG.1に図示された入口オリフィス2の態様や、技術常識を鑑みれば、引用発明1の「円柱状の穴17」は、「オリフィス」といえることは明らかである。

本願発明における「ピストン」及び「内部磁石」と、引用発明1における「バルブエレメント18」及び「バルブシート16」は、「バルブ内に存在する部材」及び「バルブ内に存在する部材と吸引する部材」という概念で一致し、また本願発明における「内部磁石による吸引力よりも大きな反対方向の吸引力をかけてオリフィスを開き」及び「内部磁石による前記ピストンに対する吸引力は、当該内部磁石とピストンとを分離する距離に応じて弱くなり」と、引用発明1における「磁石19による吸引力とは別の吸引力をかけて前記円柱状の穴17を開き」及び「磁石19による前記バルブシートに対する吸引力は、当該磁石19とバルブシート16とを分離する距離に応じて弱くなり」は、それぞれ「バルブ内に存在する部材と吸引する部材による吸引力とは別の吸引力をかけてオリフィスを開き」及び「バルブ内に存在する部材と吸引する部材による当該バルブ内に存在する部材に対する吸引力は、当該バルブ内に存在する部材と吸引する部材とバルブ内に存在する部材とを分離する距離に応じて弱くなり」という概念で一致する。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、本願発明と引用発明1とは次の点で一致する。
(一致点)
「外部磁界により作動する尿道内人工泌尿器括約筋用バルブであって、
オリフィスによってつながっている尿の入口と出口とを備えた中空円筒状本体と、
生体適合性材料によって被覆され、前記円筒状本体の前記尿の入口内で移動して前記オリフィスを開閉するようになされたバルブ内に存在する部材と、
前記バルブ内に存在する部材に吸引力を付与して前記オリフィス閉じる、前記円筒状本体の前記尿の入口に配設されたドーナツ状のバルブ内に存在する部材と吸引する部材と、
体外に配置される外部磁石であり、体外から前記バルブ内に存在する部材に近づけて配置されると、前記バルブ内に存在する部材に、バルブ内に存在する部材と吸引する部材による吸引力と別な吸引力をかけて前記オリフィスを開き、一方、前記バルブ内に存在する部材にかけられた当該外部磁石による吸引力を取り除くと、前記バルブ内に存在する部材が前記オリフィスを自動的に閉じて排尿が阻止されるようになされた前記外部磁石と、からなり、
前記バルブ内に存在する部材と吸引する部材による当該バルブ内に存在する部材に対する吸引力は、当該バルブ内に存在する部材と吸引する部材とバルブ内に存在する部材とを分離する距離に応じて弱くなり、一方、前記バルブ内に存在する部材には膀胱内の尿からの圧力が常に加わっており、それによって、膀胱内の尿の圧力がある限度以上に達すると、前記外部磁石による反対方向の吸引力が無くても自動的に開くようになされたことを特徴とする、尿道内人工泌尿器括約筋用バルブ。」

そして、両者は次の相違点で相違する。
(相違点1)
外部磁界により作動する尿道内人工泌尿器括約筋用バルブにおける、バルブ内に存在する部材が、本願発明ではピストンであり、「軟質磁性材料より作られ」、円筒状本体の前記の尿の入口内で「軸線方向に」移動して前記オリフィスを開閉するようになされており、
バルブ内に存在する部材と吸引する部材が内部磁石であり、「硬質磁性材料からなり」、
バルブ内に存在する部材と吸引する部材による吸引力「よりも大きな反対方向の吸引力をかけて」オリフィスを開くと特定されているのに対して、
引用発明1では、バルブ内に存在する部材がバルブエレメント18であり、硬質磁性材料である磁石19により作られ、円筒状ハウジング11の前記の尿の入口内で回転若しくは移動して前記オリフィスを開閉し、
バルブ内に存在する部材と吸引する部材がバルブシート16であり、高磁性体である軟質磁性材料からなり、
バルブ内に存在する部材と吸引する部材による吸引力とは別の吸引力をかけてオリフィスを開く点。

(相違点2)
本願発明では、中空円筒状本体が、「生物学的適合性材料によって作られ」、バルブ内に存在する部材と吸引する部材(内部磁石)が、「生体適合性材料によって被覆された」と限定されているのに対して、引用発明1の中空円筒状本体(円筒状ハウジング11)が生物学的適合性材料によって作られ、バルブ内に存在する部材と吸引する部材(バルブシート16)が、生体適合性材料によって被覆されているか不明である点。


V.相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
引用発明1と引用発明2の発明は、外部磁界により作動する尿道内人工泌尿器括約筋用バルブという同じ技術分野に属しており、バルブ内で二つの部材をそれぞれ軟質磁性材料と硬質磁性材料により形成することで、その二つの部材の磁気吸引力を利用することで、バルブの開閉を行うものである。そして、バルブエレメント18、閉鎖体6(ピストン)とバルブシート16、シート8(内部磁石)のどの片方を軟質磁性材料とし、他方を硬質磁性材料とするかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る程度の事項である。してみれば、引用発明2に係る上記構成を引用発明1において採用し、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることに格別の困難性は見出せない。

(相違点2について)
引用例1の「バルブエレメント18は、U字形の生体親和性非磁性カプセル18Aに包まれた円筒状磁石19よりなり、そのカプセルは、磁石19に接着固定されるバルブシート16に隣接した厚い基部18Bと反対側に配置された閉止体20よりなる。」(記載事項(イ))との記載からして、引用発明1には生体親和性を付与するという技術的課題を有するものであることは明らかである。してみれば、生体親和性を付与するために、引用発明1の中空円筒状本体(円筒状ハウジング11)と内部磁石(バルブシート16)を生体適合性材料で形成若しくは被覆することは、当業者が必要に応じて成し得る設計変更の範囲内にとどまる。

以上によれば、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に想到し得る程度のものである。

そして、本願発明による効果も、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


VI. むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-09 
結審通知日 2011-03-10 
審決日 2011-03-23 
出願番号 特願2000-598095(P2000-598095)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 深美子  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 内山 隆史
増沢 誠一
発明の名称 外部磁界により作動する尿道内人工泌尿器括約筋用バルブ  
代理人 増井 忠弐  
代理人 社本 一夫  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  

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