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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) B60C |
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管理番号 | 1241279 |
判定請求番号 | 判定2011-600005 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2011-02-28 |
確定日 | 2011-07-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3708868号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号図面で特定される「タイヤ」は、特許第3708868号発明の技術的範囲に属さない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件判定に係る出願は、平成13年12月14日に出願したもの(特願2001-382061号)であって、その特許権の設定登録は平成17年8月12日になされ、その後の平成23年2月28日に、請求人住友ゴム工業株式会社から本件判定が請求されたもので、被請求人株式会社ハンコックタイヤジャパンから同年4月22日付け答弁書が提出されている。 2.請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、イ号図面で特定される「タイヤ」(以下、「イ号タイヤ」という。)は、特許第3708868号に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものと認める。 そして、請求人は、イ号図面として、以下のものとされているイ号図面1?10の3を提出すると共に、同じく以下のものとされている以下の甲第1?9号証を提出している。 イ号図面1;イ号タイヤのサイドウォール部全域を撮影した写真 イ号図面2;その「HanKOOK」の標章部分の拡大写真 イ号図面3;その「HanKOOK」の標章部分の拡大写真 イ号図面4;「葉っぱ状模様」の標章部分の拡大写真 イ号図面5の1;「葉っぱ状模様」の標章部分の拡大写真 イ号図面5の2;「葉っぱ状模様」の標章部分の拡大写真 イ号図面6の1;イ号タイヤのサイドウォール部の領域I及びIIを特定する写真 イ号図面6の2;上記領域Iの断面A乃至Hを特定する写真 イ号図面6の3;上記領域Iを斜めから見た写真 イ号図面7の1;上記領域Iの文字「O」を三次元スキャンして得られた数値データに基づいてコンピュータで描画させた斜視図 イ号図面7の2;三次元スキャンして得られた数値データから断面A乃至Eの断面輪郭線を抽出した線図 イ号図面7の3;三次元スキャンして得られた数値データから断面F乃至Hの断面輪郭線を抽出した線図 イ号図面8の1;領域IIの標章の断面位置1乃至26を特定する写真 イ号図面8の2;三次元スキャンして得られた数値データから断面1乃至26の断面輪郭線を抽出した線図 イ号図面8の3;イ号図面8の2の表示溝部を連ねて着色を付した図 イ号図面9の1;上記断面1乃至10の断面輪郭線に線形番号及び溝番号を付した線図 イ号図面9の2;上記断面11乃至20の断面輪郭線に線形番号及び溝番号を付した線図 イ号図面9の3;上記断面21乃至26の断面輪郭線に線形番号及び溝番号を付した線図 イ号図面10の1;イ号図面9の1の各輪郭線に接線を引いた図 イ号図面10の2;イ号図面9の2の各輪郭線に接線を引いた図 イ号図面10の3;イ号図面9の3の各輪郭線に接線を引いた図 甲第1号証;本件特許公報 甲第2号証;被請求人会社のタイヤカタログ 甲第3号証;測定会社による三次元スキャナ測定作業に関する証明書 甲第4号証;各線形について、溝部及び表示溝部の別を示す一覧表 甲第5号証の1乃至242;各線形の溝部及び表示溝部の曲率を表す表及び溝拡大図である。 甲第6号証;溝部及び表示溝部の溝底部の特定を説明する溝断面輪郭線 甲第7号証の1;線形1の各区間の曲率の一覧表 甲第7号証の2;線形1の曲率のヒストグラム 甲第8号証;表示溝部の溝底部の平面の充足率一覧 甲第9号証;図1は葉っぱ状模様が見える視点、図2は見えない視点での写真 3.本件に係る特許発明 1)特許第3708868号の請求項1?4に係る発明(以下、「本件特許発明1?4」という。)は、特許第3708868号の特許公報であることが明らかな甲第1号証によれば、本件特許発明に係る出願の願書に添付した明細書又は図面(以下「本件明細書等」という。)の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものであると認める。なお、本件特許発明については、その構成をAからIに分説して記載している。(以下、「構成要件A」などという。) 本件特許発明1; A タイヤのサイドウォール表面に、細溝を並設することにより該細溝間で立ち上がるリッジ状体から形成されるセレーションからなりかつ周方向にのびる装飾部を形成するとともに、 B 前記装飾部は、標章として、強い視認性が要求される第1の標章5Aと、この第1の標章5Aよりも弱い視認性が要求される第2の標章5Bとを含み、 C 前記第1の標章は、前記サイドウォール表面から突出するリブ要素を設けることにより、凸標章を表示する凸標章表示部を形成するとともに、 D 前記第2の標章は、前記細溝内に、この細溝の深さよりも浅い表示溝部を、前記サイドウォール表面に表示する標章又はその輪郭に沿って設けることにより、前記標章を表示する標章表示部を形成し、 この表示溝部は、該表示溝部の溝底部を平面で形成することにより浅くし、 E しかも各リッジ状体の頂部を連ねた仮想面は、前記サイドウォール表面と実質的に同一な面として構成された F ことを特徴とするタイヤ。 本件特許発明2; G 前記リッジ状体は、溝底部には平面からなる底面部を具えないことを特徴とする請求項1記載のタイヤ。 本件特許発明3; H 前記リッジ状体は、前記標章の輪郭に沿って形成されることにより該標章を強調する途切れ部を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤ。 本件特許発明4; I 前記凸標章部は、その表面を平滑面としたことを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤ。 2)ここで、本件特許発明の構成要素である「標章」について検討しておく。 2-1)本件明細書等には、甲第1号証によれば、以下の記載A?Cが認められる。 A;「【0002】 【従来の技術、及び発明が解決しようとする課題】 タイヤのサイドウォール表面には、図7(A)、(B)に例示するように、文字、数字、図形などからなる標章aの視認性を高めるために、一般に、細溝bを並設することにより該細溝b、b間で立ち上がるリッジ状体cから形成されるセレーションからなる帯状の装飾部eを、標章aの背景として形成するとともに、前記標章aを、リッジ状体cよりもタイヤ外方に突出する高いリブ要素a1で構成し、このリブ要素a1の表面を平滑面、或いは装飾部eとは異なるセレーション模様で形成するなどの工夫が施されている。 【0003】 ・・・。 【0004】 又タイヤには、表示させる標章aとして、商標やメーカ名に加え、規格に基づき義務づけられたものなど多くのものがある」 B;「【0010】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。図1は、本発明のタイヤのサイドウォールを示す側面図である。 図1において、タイヤ1は、そのサイドウォール表面2Sに、セレーション3からなる装飾部4と、この装飾部4を背景として形成される例えば文字、数字、図形などからなる標章5とを設けている。」及び図1 C;「【0016】 ここで、前記標章5として、図1の如く、強い視認性が要求される例えば「DPNLGR」、「UOASPC」などの文字列からなる第1の標章5Aと、この第1の標章5Aよりも弱い視認性が要求される例えば「STUDLESS」、「265/70R16」などの文字列からなる第2の標章5Bとを含む。そして、このうちの第2の標章5Bを、前記表示溝部9からなる標章表示部10によって表示している。」 記載A及びBによれば、本件明細書等における「標章」とは、商標やメーカ名、規格に基づき義務づけられたものなどで、例えば文字、数字、図形などからなるものと認められる。 また、その例としては、記載Cによれば、「DPNLGR」や「UOASPC」、「STUDLESS」、「265/70R16」が挙げられ、これら例示のうち、前2者は、何を示すかは不明であるものの、後2者は、タイヤの種類や、タイヤの寸法構造特性に係る呼称表示を示すものと認められる。なお、前2者について、請求人は、タイヤメーカーの社名又はタイヤの商品名と考えられる旨、述べている(判定請求書8頁1?3行)。 以上の検討を踏まえると、「標章」とは、本件明細書等においては、文字、数字、図形などからなるものであって、商標、メーカ名、規格に基づき義務づけられたもの、タイヤの種類、及び、タイヤの寸法構造特性に係る呼称表示などを意味するものと認められる。 2-2)次に、本件特許発明がタイヤに係るものであって、その構成要素である「標章」は、タイヤに付されるものであることは明らかであるから、このことを前提に、「標章」の一般的意味について、検討する。 広辞苑第五版(1998年11月11日、株式会社岩波書店発行)には、以下の記載a?dが認められる。 a;「しるしとする徽章または記号。」(ひょう‐しょうヘウシヤウ【標章】の項、2277頁) b;「(「徽」はしるし、「章」は模様の意)職務・身分または名誉を表すために、衣服・帽子・提灯ちょうちんなどにつけるしるし。「制帽の?」→記章」(き‐しょう‥シヤウ【徽章・記章】の項、644頁) c;「#(審決注;「#」は、丸で囲まれた数字やカタカナを意味する。以下、同様。)(sign; symbol)一定の事柄を指し示すために用いる知覚の対象物。言語・文字などがその代表的なもので、交通信号のようなものから高度の象徴まで含まれる。また、文字に対して特に符号類をいう。 #〔言〕(signe フランス)ソシュールによれば、能記または記号表現(シニフィアン)と所記または記号内容(シニフィエ)の両面を具えた言語単位。例えば日本語では、音形「ウマ」の聴覚心像と「馬」の概念とが表裏一体となって馬を表す記号が成り立っている。ソシュールはこの記号の両面を記号表意作用(signification)からとらえなおして、前者を能記、後者を所記と呼んだ。両面それぞれの切り取り方と結合方式は社会制度的に規定されている。これを記号の恣意性(arbitraire)と呼ぶ。シーニュ。→ランガージュ。」(き‐ごう‥ガウ【記号】の項、637頁) d;「(動詞シルスの連用形から) #他と紛れないように見分けるための心覚えとするもの。 #目じるし。記号。徒然草「人くふ馬をば耳を切りてその?とす」。「?をつける」 #紋所・記章の類。「松平家の?」 #合図。新勅撰雑「淡路島?の煙見せわびて霞をいとふ春の舟人」 #あることを証明すること。また、そのもの。 #証拠。あかし。源桐壺「なき人のすみかたづね出でたりけむ?のかむざしならましかば」。「感謝の?として」「お?の品」 #割符わりふ。契けい。 #(「首」「首級」と書く)討ちとった首。首級しゅきゅう。「お?頂戴」 #(「璽」と書く) #印綬。おしで。崇神紀「印綬しるしを授たまひて将軍とす」 #神璽。三種の神器の一。平家11「内侍所?の御箱」 #(「徴」「験」と書く)あることが原因となって現れた結果。 #きざし。前兆。記中「かかる夢は是れ何の?にか有らむ」 #けはい。様子。 #霊験。ごりやく。大鏡序「ほとけの御?なめり」 #ききめ。効能。万6「生ける?あり」 #むくい。果報。今昔10「隠れたる徳有れば顕れたる?有りて」(しるし【印・標・徴】の項、1361頁) 「徽章」とは、記載bによれば、「職務・身分または名誉を表すために、衣服・帽子・提灯ちょうちんなどにつけるしるし」であることを踏まえれば、タイヤに付される「標章」とは、記載aによれば、タイヤに付される「しるしとする記号」であると認められる。 また、タイヤに関する「しるし」とは、記載dによれば、あるタイヤを、他のタイヤと区別するためのもので、また、タイヤに付される「記号」とは、記載cによれば、タイヤについての一定の事柄を指し示すために用いるもので、言語・文字などと認められる。 以上の検討を踏まえると、タイヤに付される「標章」の一般的意味とは、言語・文字などからなるものであって、あるタイヤを他のタイヤと区別するためのもので、あるタイヤについての一定の事柄を指し示すためのものと認められる。 2-3)そして、本件明細書等における「標章」が、先に「2-1)」で述べたように、商標、メーカ名、規格に基づき義務づけられたもの、タイヤの種類、及び、タイヤの寸法構造特性に係る呼称表示を意味しているもので、これら商標等は、あるタイヤを他のタイヤと区別するためのものや、あるタイヤについての一定の事柄を指し示すためのものということができ、上記「標章」は、先に「2-2)」で述べたタイヤに付される「標章」の一般的意味で使用されているものと同じであると認められる。 また、本件特許発明の構成要素である「細溝を並設することにより該細溝間で立ち上がるリッジ状体から形成されるセレーションからなりかつ周方向にのびる装飾部」が本件明細書等における「標章」に含まれないことは、明らかである。 そして、以上の検討から、本件特許発明の構成要素である「標章」は、あるタイヤを他のタイヤと区別するためのものや、あるタイヤについての一定の事柄を指し示すためのもので、少なくとも、単なる、装飾模様を意味していないものと認められる。 4.イ号タイヤ イ号タイヤについて、判定請求書には、これに添付されたイ号図面の他、「第4 イ号タイヤの説明」(4頁6行?6頁13行)の記載が認められ、ここでは、イ号タイヤについて補足的に説明しているものと認められる。 その一方で、被請求人は、答弁書を提出し、ここでは、請求人の主張に対する反論の中で、実質的に、イ号タイヤが如何なる構成要素を有するものであるかを説明しているものの、反論に拘わらない構成要素についての具体的な説明は、実質的に、なされていない。 そこで、ここでは、イ号タイヤの認定を、被請求人の反論内容を考慮しつつ、上記「第4 イ号タイヤの説明」(以下、「イ号説明」という。)の記載を参照して、行うこととする。 1)イ号説明には、以下の記載a?eが認められる。 a;「イ号タイヤは、イ号図面1乃至10に示されるものであり、その詳細は次の通りである。 タイヤの種類:空気入りタイヤ 商品名:HanKOOK enfren」(4頁8?10行) b;「イ号タイヤは、タイヤの両側の側壁をなすサイドウォール部を有する。該サイドウォール部の表面には、イ号図面1乃至4によく表されているように、タイヤの放射方向にのびる複数本の細溝を並設することにより、該細溝間で立ち上がるリッジ状体から形成されるセレーションが設けられている。このセレーションは、タイヤの周方向に360度連続してのびることにより、サイドウォール部を装飾している。」(4頁下から15行?下から11行) c;「(i)サイドウォール部の三次元形状の取得位置は、イ号図面6の1乃至3に示されるように、朱色のペイントが付された側のサイドウォール部の「HanKOOK」の文字からなる標章を含む扇状の領域I、及び前記朱色のペイントの近くに形成された最も小さい葉っぱ状模様を囲む矩形の領域IIとした。」(5頁5?8行) d;「(ii)イ号タイヤのサイドウォール部の前記装飾部(4)には、「HanKOOK」の文字からなる標章(A)と、この標章(A)から円周方向に約90度移動した朱色のペイント部の半径方向外側の蝶模様の右側に位置する領域IIの小さい葉っぱ状模様の標章(B)とが設けられている。」(5頁下から6行?下から3行) e;「(iii)イ号図面7の2乃至3のC、D、E、F及びG断面に示されるように、イ号タイヤの前記標章(A)は、リッジ状体(7)の頂点を連ねた仮想面であるサイドウォール部(2S)の表面(S)から突出している。」(5頁下から2行?6頁1行) 以下の検討で使用する「上下左右」は、イ号図面1における紙面上の「上下左右」を意味する。 そして、イ号タイヤは、記載bを参照しつつ、イ号図面1?4、6の1?6の3によれば、そのサイドウォール表面に、細溝を並設することにより該細溝間で立ち上がるリッジ状体から形成されるセレーションからなりかつ周方向に360度連続してのびる円環状の帯状装飾部を形成しているものと認められる。 また、上記帯状装飾部には、イ号図面1?4によれば、左方の帯状装飾部部分であって、その領域内に、HanKOOKの文字列が、また、同様右方に、enfrenの文字列が見て取れ、更に、同様上方に、「周方向にほぼ連続して配された葉形を模した大小9つ程度の数の図形」(以下、「葉形図形」という。)と、葉形図形と重なりあう態様で配された、「周方向に互いに離間して配された蝶の形を模した3つの図形」(以下、「蝶形図形」という。)とからなる一連の図形を見て取ることができる。 そして、上記HanKOOKとenfrenとの文字列は、記載a、c及びdによれば、商品名を示す標章であることが分かり、また、葉形図形は、イ号図面1によれば、蝶形図形のうちの左右中央にある図形(以下、「本件蝶形」という。)の右隣にある葉形を模した図形(以下、「本件葉形」という。)を有していることも見て取れる。なお、蝶形図形は、上述したように、葉形図形と重なりあう態様で配されたものであるが、その重なりあう態様のため、葉形図形のうちの、幾つかの、葉形を模した図形は、蝶の形を模した図形によって、平面視して切り欠かれた図形となっている。 更に、記載d及びeを参照しつつ、イ号図面3、7の1によれば、上記リッジ状体の頂部は、これを連ねた仮想面を構成し、HanKOOKの文字列からなる上記標章は、該仮想面から突出した文字列から構成されていることが見て取れる。 加えて、本件葉形は、イ号図面8の1及び2によれば、上記セレーションを形成する細溝の深さよりも浅い溝とすることにより、形成されていることが見て取れ、また、本件葉形以外の葉形図形を構成する葉形を模した図形は、イ号図面1や4を見ると、本件葉形と同じように、上述のとおりに形成されていることが見て取れる。 更に、本件蝶形は、イ号図面8の1及び9の3によれば、上記仮想面から突出した部位とすることにより形成されていることが見て取れ、また、本件蝶形以外の蝶形図形を構成する蝶の形を模した図形は、同じ蝶の形を模したものであることから、本件蝶形と同じように形成されていると推認できる。 2)そして、以上の検討を踏まえると、イ号タイヤは、次のとおりのものと認められる。 なお、イ号タイヤについては、その構成をaからfに分説して記載している。(以下、「構成a」などという。) a タイヤのサイドウォール表面に、細溝を並設することにより該細溝間で立ち上がるリッジ状体から形成されるセレーションからなりかつ周方向に360度連続してのびる円環状の帯状装飾部を形成するとともに、 b 前記帯状装飾部は、HanKOOKとenfrenとの文字列からなる商品名を示す標章と、葉形図形と、これと重なりあう態様で配された蝶形図形とからなる一連の図形を含み、 c HanKOOKの文字列からなる前記標章は、上記リッジ状体の頂部を連ねた仮想面から突出した文字列から構成され、 d 前記一連の図形のうち、葉形図形は、セレーションを形成する前記細溝の深さよりも浅い溝とすることにより形成し、また、蝶形図形は、上記仮想面から突出した部位とすることにより形成し、 e 構成cにあるように、各リッジ状体の頂部を連ねた仮想面が構成された f タイヤ。 5.イ号タイヤの構成と本件特許発明の構成要件の対比・判断 イ号タイヤは、本件特許発明の「第2の標章」を有しておらず、イ号タイヤの構成は、少なくとも、本件特許発明の構成要件B、Dを充足しているとはいえない。 これに対し、請求人は、本件葉形の構成は、上記「第2の標章」の構成要件を充足していると主張するが、以下に述べることから、該主張に理由はない。 1)まずは、イ号タイヤの構成bにおける「葉形図形と、これと重なりあう態様で配された蝶形図形とからなる一連の図形」について検討する。 葉形図形、すなわち、「周方向にほぼ連続して配された葉形を模した大小9つ程度の数の図形」と、これと重なりあう態様で配された蝶形図形、すなわち、「周方向に互いに離間して配された蝶の形を模した3つの図形」とからなる「一連の図形」は、植生の中を蝶が舞うとの、葉形図形と蝶形図形とが一体不可分とされた、絵画様の模様ということができ、それ全体が、一つの装飾模様ということができる。 また、この「一連の図形」が、少なくとも、商品名を示す標章でないことは、イ号タイヤが、その構成bにあるように、HanKOOKとenfrenとの文字列からなる標章によって商品名を示していることから明らかである。また、甲第1?9号証を詳細に検討しても、この「一連の図形」が、イ号タイヤを他のタイヤと区別するためのものであるとも、イ号タイヤについての一定の事柄を指し示すためのものとも認められず、標章であるとする理由は見当たらない。 してみると、この「一連の図形」は、あるタイヤを他のタイヤと区別するためのものでもなく、また、あるタイヤについての一定の事柄を指し示すためのものでもない、単なる、装飾模様と認められる。 2)次に、本件葉形について検討する。 本件葉形、すなわち、葉形図形において、蝶の形を模した3つ図形のうちの左右中央にある図形の右隣にある葉形を模した図形は、「葉形図形と、これと重なりあう態様で配された蝶形図形とからなる一連の図形」を構成するものの一要素、すなわち、一模様要素であって、「1)」で述べたように、この「一連の図形」全体が、一つの装飾模様であるから、本件葉形だけを取り出して、ましてや、これがイ号タイヤを他のタイヤと区別するためのものであるとか、イ号タイヤについての一定の事柄を指し示すためのものであるとかを論ずる余地はないものである。 なお、これまで述べてきたように、本件葉形は、単なる一模様要素であると判断するものであるが、この点については、請求人の「「葉っぱ状模様」・・・は、・・・、単にサイドウォ-ルの美観を向上させるデザイン上の模様と言える。」(請求書8頁15?18行)との主張と符合しているものでもある。 3)なお、念のために、「葉形図形と、これと重なりあう態様で配された蝶形図形とからなる一連の図形」が、イ号タイヤを他のタイヤと区別するためのものであるか、或いは、イ号タイヤについての一定の事柄を指し示すためのものである、すなわち、標章であると仮定して、以下に、検討する。 イ号タイヤの「一連の図形」は、本件特許発明の「第2の標章」と対応関係にあるということができる。 そして、本件特許発明は、構成要件D、すなわち、「前記第2の標章は、前記細溝内に、この細溝の深さよりも浅い表示溝部を、前記サイドウォール表面に表示する標章又はその輪郭に沿って設けることにより、前記標章を表示する標章表示部を形成し、」を有するもので、イ号タイヤは、構成d、すなわち、「前記一連の図形のうち、葉形図形は、セレーションを形成する前記細溝の深さよりも浅い溝とすることにより形成し、また、蝶形図形は、上記仮想面から突出した部位とすることにより形成し、」を有するものである。 そこで、この構成要件Dと構成dを対比すると、構成要件Dにおける「第2の標章」は、細溝内に、この細溝の深さよりも浅い表示溝部を、サイドウォール表面に表示する標章又はその輪郭に沿って設けることにより、標章表示部を形成しているのに対し、構成dにおける「一連の図形」は、これを構成する一要素である「蝶形図形」が、リッジ状体の頂部を連ねた仮想面から突出した部位とすることにより形成されているもので、「細溝内に、この細溝の深さよりも浅い表示溝部を、前記サイドウォール表面に表示する標章又はその輪郭に沿って設けることにより、標章表示部を形成し」ているものでははい。 なお、「一連の図形」が標章であると仮定しているが、そうだとしても、「一連の図形」から「蝶形図形」を除外したもの、すなわち、「葉形図形」が、それだけで標章としての機能を果たし得ないのは、「一連の図形」、それ全体が、一つのまとまりのある図柄を構成していることから明らかである。 してみると、「一連の図形」が標章であると仮定しても、イ号タイヤの構成は、本件特許発明の構成要件Dを充足しているとはいえない。 6.むすび イ号タイヤの構成が、本件特許発明の構成要件B、Dを充足しているとはいえない以上、イ号タイヤは、本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2011-07-13 |
出願番号 | 特願2001-382061(P2001-382061) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZB
(B60C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上坊寺 宏枝 |
特許庁審判長 |
鈴木 由紀夫 |
特許庁審判官 |
一ノ瀬 薫 紀本 孝 |
登録日 | 2005-08-12 |
登録番号 | 特許第3708868号(P3708868) |
発明の名称 | タイヤ |
代理人 | 篠田 拓也 |
代理人 | 瀧村 美和子 |
代理人 | 萩尾 保繁 |
代理人 | 住友 慎太郎 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 青木 篤 |