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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) C08J
管理番号 1241280
判定請求番号 判定2011-600014  
総通号数 141 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2011-09-30 
種別 判定 
判定請求日 2011-04-18 
確定日 2011-08-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3557194号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「表面処理装置 T-LOCプロセス」は、特許第3557194号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1.請求の趣旨及び経緯
本件判定の請求は、平成23年4月18日になされ、その請求の趣旨は、被請求人が、「T-LOCプロセス」として製造販売する表面改質装置(以下、「イ号物件」という。)は、特許第3557194号の請求項18に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。
これに対し、平成23年5月9日付けで被請求人に請求書副本を送達するとともに、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたところ、被請求人から平成23年6月10日付けで判定請求答弁書が提出された。


第2.本件特許発明
本件特許第3557194号は、平成16年5月21日に設定登録されたものであって、本件特許発明は、訂正審判2011-390039号において、平成23年4月11日付けで提出した訂正請求書に添付し、訂正の認められた訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項18に記載された事項により特定されるとおりのものであって、判定請求書における分説に準じて構成要件毎にA?Dの符号を付して示せば、次のとおりである。
「A:ケイ素原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物であって、それぞれ沸点が10?100℃である改質剤化合物を含む燃料ガスを貯蔵するための貯蔵部と、
B:当該燃料ガスを噴射部に移送するための移送部と、
C:燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射部と、
D:を含むことを特徴とする固体物質の表面改質装置。」
(以下、上記構成要件A?Dを、「本件構成要件A」?「本件構成要件D」という。)


第3.イ号物件について
3-1.請求人の主張
請求人は、イ号物件を特定するために、甲第5号証等を提出し、イ号物件は、「a:ケイ素原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物であって、沸点が27℃であるテトラメチルシランを含む燃料ガスを混合・封入したボンベと、
b:燃料ガスを噴射部に移送するための移送管と、
c:燃料ガスの火炎を吹き付けるためのバーナーと、
d:を含むことを特徴とする固体物質の表面改質装置。」であると主張している。

証拠方法
甲第1号証:請求人の履歴事項全部証明書
甲第2号証:被請求人の履歴事項全部証明書
甲第3号証:本件特許の原簿登録情報
甲第4号証:特許第3557194号公報
甲第5号証:被請求人のホームページからの抜粋事項
甲第6号証:被請求人発行の見積書
甲第7号証:特開2010-275601号公報
甲第8号証:商標公開2009-55090号公報
甲第9号証:開発委託契約書
甲第10号証:神奈川県産業技術センター発行の分析・試験等成績書1
甲第11号証:神奈川県産業技術センター発行の分析・試験等成績書2
甲第12号証:特許第3557194号公報の訂正明細書
甲第13号証:ボンベ写真

上記判定請求書における「(4)イ号の説明」には、次のとおり記載されている。
「そして、イ号が、所定沸点を有するテトラメチルシランを所定量含む改質剤化合物を用いていることは、甲第10号証および甲第11号証に示すように、専門機関たる神奈川県産業技術センター発行の分析・試験等成績書によって証明されている。
すなわち、甲第13号証に示すように、被請求人が販売している改質剤化合物のボンベ(カートリッジガス、T-LOC40)を入手し、ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)を実施して、複数の検索ライブラリーと照合した結果、所定ケイ素化合物(拡大図AおよびBに示すピーク○1(審決注:丸数字を表記できないため○1と表記した。以下同様。))として、テトラメチルシラン(分子量88、分子式C4H12Si)を含むことが、高い一致率で確認されたものである。
より具体的には、甲第10号証における[検索ライブラリー WILEY138 リスト]において、以下の記載がなされているが、この確認結果を示すものである。
名前 分子量 分子式 一致率
1.Tetramethyl-Silane 88 C4H12Si 64
2.Tetramethyl-Silane 88 C4H12Si 43
また、甲第11号証において、テトラメチルシラン430ppm、ヘキサメチルジシロキサン30ppm(単位:体積ppm)と記載がなされているが、テトラメチルシランを所定量含む改質剤化合物を用いていることを示している。
なお、イ号が、所定改質剤化合物に由来した燃料ガスの火炎を吹付け処理する表面改質装置であることは、甲第5号証に示すように、被請求人のホームページに掲載した『T-LOCプロセス』の説明内容から明白である。
すなわち、イ号に関する甲第5号証には、『T-LOCプロセス処理は特殊改質剤(Si、Tiなどの有機金属化合物)を混合した燃焼炎を基材に吹き付け、表面に親水性(濡れ性)の高い官能基をナノレベルで生成する画期的な表面改質処理システムです。』と記載されている。」

3-2.被請求人の主張
被請求人は、平成23年6月10日付け判定請求答弁書において、甲第10号証および甲第11号証の「分析、試験等成績書」に示されている分析結果は、被請求人が製造販売する表面改質装置「T-LOCプロセス」用のボンベに含まれていた内容物のものであることを立証するものではないと主張し、また、乙第1号証(被請求人のウエブページの抜粋)及び乙第2号証(「T-LOCプロセス」のボンベの写真)を提出し、次のとおり主張している。
「被請求人が製造販売する表面改質装置『T-LOCプロセス』は、請求人の特許の技術的範囲に属さないものとなるように、被請求人が独自に開発した改質剤化合物を使用している。その具体的成分内容は営業秘密であって開示することができないが、少なくとも請求人が提出した甲第10号証および甲第11号証に示される成分とは異なる。」
「第1に、各『成績書』には、『依頼書記載の品名』の欄に、それぞれ『競合品微量ガス検査』および『競合品ガス』とあるだけで、『T-LOCプロセス』用のボンベから取り出されたガスであることはもちろん、『T-LOCプロセス』との関係すら記載されていない。これでは、各『成績書』の分析品が、『T-LOCプロセス』用ボンベから取り出されたガスであるか否かは、全く不明である。
第2に、請求人は、『甲第13号証に示すように、被請求人が販売している改質剤化合物のボンベ(カートリッジガス、T-LOC40)を入手し、ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)を実施して』(判定請求書第3頁第18行?第20行)と記載して、甲第10号証および甲第11号証の『成績書』に記載の分析結果が、『T-LOCプロセス』に使用されているボンベに含まれていた内容物のものであるかのように主張しているが、そのボンベは被請求人が製造している『T-LOCプロセス』のものではない。
なるほど、甲第13号証の写真には、ボンベに貼り付けられた紙製ラベルの上にプリンターで印刷したような『カートリッジガス T-LOC40』等の文字を読み取ることができるが、このボンベは被請求人が製造する『T-LOCプロセス』のボンベとは異なる。
インターネット上の開設している被請求人のウエブサイトで『T-LOCプロセス』に使用しているボンベを確認することができる。請求人が提出した甲第5号証にもその写真を見ることができるが(乙第1号証(a)参照)、なぜかモノクロ印刷によって不鮮明にされているので、同写真を拡大して明瞭に示すと乙第1号証(b)の通りである。同写真の左上部に示されているように、甲第5号証に示されたボンベの正面には、ホログラム風の鮮やかな地に『T-LOC』と読み取れる横長のラベルが貼り付けてある(ボンベは上下逆にセットされている)。そして、被請求人が実際に製造したボンベは、乙第2号証に示す三方向からの写真(a)(b)(c)を順に見れば明らかな通り、裏側には半周を僅かに超える程度の横幅の長方形をなす樹脂フィルム製ラベルが貼り付けてあるのであり、請求人が『T-LOCプロセス』のボンベであると示した甲第13号証のボンベのラベルとは全く異なることが明らかである。
よって、仮に甲第10号証および甲第11号証の『分析、試験等成績書』に示されている事項が『微量ガスサンプルを分析した結果、その中にテトラメチルシランが含まれること』であるとしても、そのことが被請求人の製造する表面改質装置『T-LOCプロセス』用のボンベの内容物にテトラメチルシランが含まれていることを証拠づけるものではない。」

3-3.当審の判断
イ号物件について、請求人は判定請求書の「5.請求の趣旨」において「被請求人が、『T-LOCプロセス』として製造販売する表面改質装置(イ号)」と記載しているように、被請求人が製造販売する表面改質装置をイ号物件であるとしているが、「6.請求の理由」の「(4)イ号の説明」においては、「イ号は、甲第5号証等に示されているが、・・・」と記載している。
しかしながら、上記「甲第5号証等に示されている」なる曖昧な規定では甲第1号証?甲第13号証のうちいずれのものを指しているかも不明であるし、甲第5号証の記載された事項のうちどの部分をイ号物件としているのかも不明である。
したがって、判定請求書においてはイ号物件が明確に特定されているとは認められない。

そこで、当審において上記「甲第5号証等に示されている」とされるイ号物件について、イ号物件を特定するための図面及び説明書(以下、それぞれ「イ号図面」及び「イ号説明書」という。)について検討する。
まず、甲第1号証?甲第13号証のうち、履歴事項証明書に係る甲第1?2号証、本件特許の原簿登録情報に係る甲第3号証、特許又は商標の公報に係る甲第4,7及び8号証、開発委託契約書に係る甲第9号証、本件特許の訂正明細書に係る甲第12号証については、これらがイ号物件の特定に関係する証拠でないことは明らかである。
次に、甲第6号証については、判定請求書において「甲第6号証に示すように、被請求人が、第三者に対して、『T-LOCプロセス』における表面処理装置(TM-202)およびT-LOCバーナー用ガスボンベ(T-LOC40)の見積書を提出しており、所定価格の表面処理装置および改質剤化合物を製造、販売していることを、確認した。」と記載されており、第三者への見積書に過ぎない点からみて、これもイ号物件の特定に関係する証拠ではないといえる。
以上の点からみて、請求人が判定請求書において「甲第5号証等」と記載している証拠は、甲第5号証、甲第10号証、甲第11号証及び甲第13号証を指すものであると認められ、請求人はこれらの証拠に基づきイ号物件を特定することを意図していると認められる。
そして、上記甲第5号証、甲第10号証、甲第11号証及び甲第13号証のうち、「被請求人が、『T-LOCプロセス』として製造販売する表面改質装置」に関する証拠であるとただちに認めうるのは、「表面処理装置 T-LOCプロセスのご紹介」と題された被請求人のホームページからの抜粋事項に関する甲第5号証のみであるが、この甲第5号証においては複数の製品に関する写真及び説明文が記載されており、これらのうちいずれがイ号図面又はイ号説明書であるのか判然としない。
そこで、当審においては写真からその構成を把握することが比較的容易な「バーナータイプ TM-202」の写真をイ号図面と認定し、「T-LOCプロセス処理とは」及び「バーナータイプ TM-202」の項目における説明文をイ号説明書と認定する。
甲第5号証においては「T-LOCプロセス処理は特殊改質剤(Si,Ti,などの有機金属化合物)を混合した燃焼炎を基材に吹き付け、表面に親水性(濡れ性)の高い官能基をナノレベルで形成する画期的な表面処理システムです」なる記載がなされており、さらに「バーナータイプ TM-202」について「液体有機金属と燃料ガスを混合・封入したボンベを用いて燃焼させるタイプの装置」なる記載がなされている。そして、「バーナータイプ TM-202」の写真には左上部に上下逆にボンベが配置されており、右側にバーナーが配置されており、ボンベ及びバーナーにそれぞれ移送管が連結されており、これら移送管が燃料ガスをバーナーまで移送するものであることは明らかであるから、イ号物件の構成を次のとおりのものであると認める。
「a:Si,Ti,などの液体有機金属化合物を含む燃料ガスを混合・封入したボンベと、
b:燃料ガスを噴射部に移送するための移送管と、
c:燃料ガスの火炎を吹き付けるためのバーナーと、
d:を含むことを特徴とする固体物質の表面改質装置。」

なお、請求人は判定請求書において「そして、イ号が、所定沸点を有するテトラメチルシランを所定量含む改質剤化合物を用いていることは、甲第10号証および甲第11号証に示すように、専門機関たる神奈川県産業技術センター発行の分析・試験等成績書によって証明されている。」、「すなわち、甲第13号証に示すように、被請求人が販売している改質剤化合物のボンベ(カートリッジガス、T-LOC40)を入手し、ガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)を実施して、……テトラメチルシラン(分子量88、分子式C4H12Si)を含むことが、高い一致率で確認されたものである。」と主張しているが、甲第13号証として示されたボンベをどのように入手し、誰がどのようにして分析機関である神奈川県産業技術センターへ持ち込んだのか一切説明しておらず、また、該分析機関へ持ち込まれたボンベと甲第5号証に示される表面処理装置との関係も全く不明なものとなっている。 このような状況では、甲第10号証及び甲第11号証に係る神奈川県産業技術センターに持ち込まれ、分析に供された「競合品微量ガス」、「競合品ガス」と、甲第5号証に示される表面処理装置における燃料ガスとの同一性はなんら担保されていない。
そうすると、「被請求人が販売している改質剤化合物のボンベ(カートリッジガス、T-LOC40)」を分析したとして請求人が提出した神奈川県産業技術センターの分析結果(甲第10号証及び甲第11号証)は甲第5号証に示される表面処理装置に使用されている燃料ガスを正しく分析したものということができないので、その分析結果にかかわらず、イ号物件が「a:ケイ素原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物であって、沸点が27℃であるテトラメチルシランを含む燃料ガスを混合・封入したボンベ」を備えるものであると認めることはできない。
以上のとおり、甲第5号証に示されるイ号物件と、甲第13号証に示されるボンベとの関係が不明であり、また甲第5号証に示されるイ号物件及び甲第13号証に示されるボンベと甲第10号証及び甲第11号証において試験に供された「競合品微量ガス」、「競合品ガス」との関係も不明であるから、甲第5号証に記載されたイ号物件が「a:ケイ素原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物であって、沸点が27℃であるテトラメチルシランを含む燃料ガスを混合・封入したボンベ」を備えるものであるとする請求人の主張は採用することができない。



第4.対比・判断
イ号物件の構成が、本件特許発明の構成要件を充足するか否かについて検討する。
まず、イ号物件の「a:Si,Ti,などの液体有機金属化合物を含む燃料ガスを混合・封入したボンベ」が上記本件構成要件Aの「A:ケイ素原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物であって、それぞれ沸点が10?100℃である改質剤化合物を含む燃料ガスを貯蔵するための貯蔵部」を充足するか否かについて検討する。
上記第3.3-3.において述べたとおり、イ号物件と甲第13号証に示されるボンベ並びに甲第10号証及び甲第11号証において試験に供された「競合品微量ガス」、「競合品ガス」との関係が不明であることから、イ号物件における液体有機金属化合物の沸点が「10?100℃」であるとすることはできない。
そうすると、イ号物件の「a:Si,Ti,などの液体有機金属化合物を含む燃料ガスを混合・封入したボンベ」なる構成から、「A:ケイ素原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物であって、それぞれ沸点が10?100℃である改質剤化合物を含む燃料ガスを貯蔵するための貯蔵部」なる構成要件を導出できず、イ号物件は本件構成要件Aを充足していないといえる。
よって、イ号物件は、本件構成要件Aを充足しないから、他の構成要件である本件構成要件B、C及びDを検討するまでもなく、イ号物件は本件特許発明の構成要件をすべて充足しているとはいえない。


第5.むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2011-07-22 
出願番号 特願2002-35921(P2002-35921)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (C08J)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 田口 昌浩
藤本 保
登録日 2004-05-21 
登録番号 特許第3557194号(P3557194)
発明の名称 固体物質の表面改質方法、表面改質された固体物質および固体物質の表面改質装置  
代理人 特許業務法人暁合同特許事務所  
代理人 江森 健二  

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