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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H01L
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  H01L
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1241622
審判番号 無効2010-800169  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-09-29 
確定日 2011-06-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3249407号発明「カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3249407号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3249407号の請求項1ないし2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の2を請求人の負担とし、3分の1を被請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第3249407号(以下「本件特許」という。登録時の請求項の数は4である。)の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。
なお、本件特許は、平成8年10月25日を出願日とする特許出願に係るものであって、平成13年11月9日に設定登録がなされたものである。


第2 手続の経緯
本件審判の手続の経緯は、次のとおりである。

平成22年 9月29日 本件特許無効審判請求
平成22年11月 1日 手続補正書(方式)提出
平成23年 1月 7日 訂正請求及び審判事件答弁書提出
平成23年 2月16日 審判事件弁駁書提出
平成23年 4月13日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成23年 4月13日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成23年 4月27日 第一回口頭審理


第3 訂正請求についての当審の判断
1 訂正請求の内容
被請求人が平成23年1月7日にした訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)について、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを請求するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を次のように訂正する。
「金属裏面電極層と、該金属裏面電極層上に設けられp形の導電形を有しかつ薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜と、前記薄膜光吸収層上に設けられp形と反対の導電形を有し窓層として供される禁制帯幅が広くかつ透明で導電性を有する第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜と、前記第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜と第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜の間の界面に成長した界面層(バッファー層)として供される透明で高抵抗を有する半導体薄膜とから構成される薄膜太陽電池において、前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、その表面に極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる表面層を有し、表面層から金属裏面電極層間における(Ga+In) に対するGaの相対濃度が表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配であることを特徴とするカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池。」

(2)訂正事項2
同請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
同請求項4を請求項3に繰り上げ、次のように訂正する。
「前記表面層が、その範囲が表面から1500Å以下で、且つそのイオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物であることを特徴とする請求項1又は2記載のカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池。」

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
本訂正事項は、訂正前の請求項3に記載されていた構成を請求項1に付加し、請求項1に係る発明を「その表面に極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる表面層を有し」たものに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
本訂正事項は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、登録時の請求項3を削除する訂正に伴って、登録時の「請求項4」を「請求項3」に訂正するとともに、引用する請求項を「請求項」3から「請求項1又は2」に訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、同訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

3 本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。


第4 本件発明
上記のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許第3249407号の請求項に係る発明は、次の請求項1ないし3に記載したとおりのものと認められる(以下、各請求項に係る発明を「本件訂正発明1」などといい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)。
なお、登録時の請求項のうち、請求項3は訂正により削除されており、本件訂正発明1、2及び3は、それぞれ、本件特許発明(登録時の各請求項に係る発明を指す。以下同じ。)3(請求項1を引用するもの)、2及び4に対応するものと認められる。

「【請求項1】 金属裏面電極層と、該金属裏面電極層上に設けられp形の導電形を有しかつ薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI2族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜と、前記薄膜光吸収層上に設けられp形と反対の導電形を有し窓層として供される禁制帯幅が広くかつ透明で導電性を有する第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜と、前記第1のCu-III-VI2族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜と第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜の間の界面に成長した界面層(バッファー層)として供される透明で高抵抗を有する半導体薄膜とから構成される薄膜太陽電池において、前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI2族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、その表面に極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる表面層を有し、表面層から金属裏面電極層間における(Ga+In) に対するGaの相対濃度が表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配であることを特徴とするカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池。
【請求項2】 前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI2族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、(Ga+In) に対するGaの相対濃度が、表面層から金属裏面電極層間では0.01?0.8で、且つ薄膜光吸収層表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配で、表面層側で0.01?0.7、金属裏面電極層側で0.2?0.8であることを特徴とする請求項1記載のカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池。
【請求項3】 前記表面層が、その範囲が表面から1500Å以下で、且つそのイオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物であることを特徴とする請求項1又は2記載のカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池。」


第5 請求人の主張の概要及び証拠方法
請求人が主張する無効理由は、以下のとおりである。
なお、口頭審理において、甲第3号証に基づく主張は取り下げられた。

1 無効理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明と同一であるから、前記各発明についての特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。

2 無効理由2(特許法第29条第2項)
(1)本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)本件訂正発明1ないし3は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)甲第2号証の頒布時期は、次のとおり本件出願前である。
ア 特許法第30条の条文から明らかなように、研究集会において文書をもって発表することによっても、発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、頒布された刊行物に記載された発明となる。
甲第2号証は、平成8年5月13乃至17日に開催された会議に関連する論文であり、当該会議において文書をもってなされた発表の原稿に相当するものであると推認される。
甲第6号証乃至甲第9号証は、25th IEEE Photovoltaic Specialists Conferenceのプログラムから抜粋したものである。同Conferenceは、甲第2号証を含む論文集が発行されたカンファレンスであり、甲第6号証の末尾の記載から明らかなように、本件出願日である平成8年10月25日より前の1996年5月13日から17日に開催されている。
甲第7号証及び甲第8号証の記載によれば、甲第2号証とタイトル及び発表者が同一のポスター発表及びそのPoster Reviewが、本件出願前に開催されたカンファレンスにおいて行われたことは明らかである。そして、タイトル及び発表者が同一である以上、ポスター発表及びそのPoster Reviewにおいては、同カンファレンスの論文集に収められた甲第2号証の内容が文書をもって発表されたと考えるのが合理的である。
したがって、甲第2号証に記載された発明は、平成8年5月13乃至17日に開催された会議において文書をもって発表がなされたことによって、特許法第29条第1項第3号に規定する「頒布された刊行物に記載された発明」に該当するものとなったと考える。
(審判事件弁駁書3頁?4頁、「(2)甲第2号証が頒布された刊行物となったときについて」、口頭審理陳述要領書1頁、「(1)文書をもって発表された時期について」。なお、「(1)」、「(2)」等の半角括弧付数字により、丸数字を代用する。以下同じ。)

イ 甲第10号証は、INTRODUCTION TO PROCEEDINGSの記載から明らかなとおり、本件出願前の1996年5月13日から17日に開催された25th IEEE Photovoltaic Specialists Conferenceの論文集の目次である。そして、その989頁に対応する記載から明らかなとおり、甲第2号証は、この論文集に収録されている。
この論文集の発行日に関してカンファレンスの主催者であるIEEE(institute of Electrical and Electronics Engineers)へ問い合わせたところ、甲第11号証のように、記録によれば、カンファレンスの初日である1996年5月13日頃に発行されたとの回答を得た。
(口頭審理陳述要領書2頁?3頁、「(2)論文集が発行された時期について」)

3 無効理由3(特許法第36条第4項)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が特許請求の範囲に記載した発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

4 無効理由4(特許法第36条第6項第2号)
本件特許は、特許請求の範囲に記載した発明が明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

5 請求人の適格性について
本件無効審判請求人は、真に無効審判請求の意思を有しており、請求人の適格性については何ら問題はないと考える。
(審判事件弁駁書7頁、(5))

6 証拠方法
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。

甲第1号証:K. Kushiya et al., "Development of Cu(InGa)Se_(2) thin-film solar cells with Zn-compound buffer", 13th European Photovoltaic Solar Energy Conference Proceedings, 23-27 October 1995, pages 2016-2019
甲第2号証:K. Kushiya et al., "The role of Cu(InGa)(SeS)_(2) surface layer on a grade band-gap Cu(InGa)Se_(2) thin-film solar cell prepared by two-stage method", 25th IEEE Photovoltaic Specialists Conference Proceedings, 13-17 May 1996, pages 989-992
甲第3号証:竹下洋、外9名、「太陽光発電システム実用化技術開発 薄膜太陽電池製造技術の実用化研究」、昭和シェル石油株式会社、平成8年3月
甲第4号証:「平成16年度(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 受託研究(委託業務)成果報告書」、独立行政法人 産業技術総合研究所、鹿児島大学、青山学院大学、平成17年3月
甲第5号証:広辞苑第六版 1412頁、1769頁、713頁、1840頁(株式会社岩波書店、2009年1月20日 第六版総革装 第一刷発行)
(以上、審判請求書に添付して提出。)
甲第6号証:"25th IEEE Photovoltaic Specialists Conference - Preliminary Program", 1996, 表紙
甲第7号証:"25th IEEE Photovoltaic Specialists Conference - Preliminary Program", 1996, pages 18-19
甲第8号証:"25th IEEE Photovoltaic Specialists Conference - Preliminary Program", 1996, pages 32-33
甲第9号証:"25th IEEE Photovoltaic Specialists Conference - Preliminary Program", 1996, 部屋割図
甲第10号証:"25th IEEE Photovoltaic Specialists Conference Proceedings", Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc., 1996, 目次
甲第11号証:IEEEへの問合せ結果
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)


第6 被請求人の主張の概要及び証拠方法

被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として下記の乙第1号証ないし乙第4号証を提出し、請求人が主張する無効理由1ないし4は理由がない旨主張している。
特に、無効理由2に関して、甲第2号証の頒布時期について、下記1のとおり主張するとともに、請求人の適格性について、下記2のとおり主張している。

1 特許法第29条第2項違反(甲第2号証の頒布時期)について
請求人の甲第1号証及び甲第2号証に基づく進歩性欠如(無効理由2)の主張は、甲第2号証が本件出願前に頒布された刊行物であるとの前提に立つものであるが、以下のように、甲第2号証は、本件出願前に頒布された刊行物ではないものと推認されるから、本件訂正発明1ないし3についての甲第1号証及び甲第2号証に基づく進歩性欠如との無効理由は成立し得ない。
すなわち、請求人は、甲第2号証の「13-17 May 1996」(平成8年5月13-17日)が該刊行物の頒布日を意味すると主張しているものと理解されるが、請求人の主張は誤りである。
甲第2号証は、平成8年5月13-17日に開催された会議に関連する論文ではあるが、それらの論文が会議の開催日に頒布された事実はない。
学会論文は、学会で発表した発表者の論文のみが、査読者の査読を経て、掲載、発行されるものであるので、学会の期間中に発行されることはないものと考える。
被請求人が調査したところでは、甲第2号証はアメリカ議会図書館に1996年(平成8年)11月4日に受け入れられた(乙第1号証参照)が、これが最古の受入日と推認され(国立国会図書館の受入日は平成9年4月21日)、甲第2号証が本件の出願日である平成8年10月25日以前に頒布された刊行物であることはきわめて疑わしい。
(審判事件答弁書5頁?6頁、第3、「2.甲第2号証及び甲第3号証刊行物の公知性」、口頭審理陳述要領書5頁、4.(1)、口頭審理調書)

2 請求人の適格性についての主張
請求人の適格性について、乙第2号証に示される事案では、審判請求人に釈明を求めている。
本件においても、特許法第123条第2項の規定が氏名冒用行為を容認する趣旨でないことに鑑み、審判請求人に対し、口頭審理へ出頭し氏名冒用行為でない旨釈明することを求めるものである。
因みに、本件特許発明は、薄膜太陽電池に関するものであり、通常、一般普通人が特許の存否に直接関心を有する性質のものとは考えられないところ、本件無効審判請求は、個人名義で提起されている。しかも、審判請求人は弁理士である。このような状況であるため、被請求人は、本件無効審判請求人が、真に無効審判請求の意思を有するものであるかにつき、疑問があり、単に代理人としての意思で審判請求手続を行っている可能性が高いと考えるものである。審判請求人の審判請求の意思は代理人としての意思とは異なるものであり、本件審判請求人が実は代理人としての意思を持つに過ぎないものとすれば、本件審判請求人には審判請求人としての適格を欠くものと言わざるを得ない。本件審判請求人が真に本人としての審判請求の意思があることを確認することは、本件審判手続を進行する前提となるべきである。被請求人としては、審判請求人の意思を確認するため、口頭審理において審判請求人の当事者尋問(民事訴訟法207条、特許法151条)を行うことを求めるものである。
(審判事件答弁書3頁下から8行?4頁7行、口頭審理陳述要領書4頁?5頁、「3.請求人の適格性について」)

3 証拠方法
被請求人が提出した乙号証は、以下のとおりである。

乙第1号証:甲第2号証のアメリカ議会図書館への受入れ証明書
乙第2号証:無効2008-800226号審決公報
(以上、審判事件答弁書に添付して提出。)
乙第3号証:「スパッタ技術」S63-6-1,共立出版(株),93-108頁
乙第4号証:甲第3号証の外部公開時期を示すNEDO内部資料
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)


第7 請求人適格に関する主張についての当審の判断
特許法第123条第2項は、「特許無効審判は、何人も請求することができる。ただし、特許が前項第二号に該当すること(その特許が第三十8条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由とするものは、利害関係人に限り請求することができる。」と規定するものであるところ、本件審判請求における無効理由は、同項ただし書に該当するものではない。
そして、本件審判請求に当たっては、請求人が請求人代理人に、本件無効審判請求および取下げに関する一切の件を委任する委任状が提出されており、審判事件弁駁書においても、本件無効審判請求人は、真に無効審判請求の意思を有しており、請求人の適格性については何ら問題はないと主張される(上記第5、5参照。)ところ、請求人の適格性を問題とすべき具体的な根拠は全く見当たらない。
被請求人は、請求人の適格性に関して疑問があるとして、当事者尋問を行うことを主張するが、本件審判請求が違法であることを主張するものではないから、主張自体失当であるし、上記のとおり、請求人の適格性を問題とすべき具体的な根拠は全く見当たらないのであって、当事者尋問を行う必要があるものとは認められない。
よって、被請求人の主張は採用できない。


第8 無効理由に関する当審の判断
1 特許法第29条第2項違反について
上記第4のとおり、本件訂正発明1は本件特許発明3に対応するものと認められるところ、本件特許発明3に対しては、甲第1号証及び甲第2号証に基づく特許法第29条第2項違反無効理由が主張されるので、以下同無効理由について検討する。

(1)甲第2号証の頒布時期について
はじめに、甲第2号証の頒布時期について検討する。
ア 甲第2号証、並びに甲第2号証の頒布日に関して提出された各証拠(甲第10号証、甲第11号証、乙第1号証)から、以下の事項が認められる。
(ア)甲第2号証の原本は、一冊に製本された論文集であって、同号証は、上記論文集の本文中の989頁?992頁であり、「THE ROLE OF Cu(InGa)(SeS)_(2) SURFACE LAYER ON A GRADED BAND-GAP Cu(InGa)Se_(2) THIN-FILM SOLAR CELL PREPARED BY TWO-STAGE METHOD」との表題の論文が掲載されている。そして、その1枚目の下部には、「(c) 1996 IEEE」、「25th PSVC; May 13-17, 1996; Washington, D.C.」との記載がある。
(イ)甲第10号証の原本は、甲第2号証の原本と同じ論文集であって、同号証の1枚目は「INTRODUCTION TO PROCEEDINGS」の記載のある見開き頁、2?4枚目は「TABLE OF CONTENTS」(目次)の一部である。
そして、その1枚目には、次の記載がある(括弧内に当審による訳文を付す。以下同じ。)。
「This volume contains the record of the 25^(th) Photovoltaic Specialists Conference, sponsored by the IEEE and the IEEE Electron Device Society and held in Washington, DC, on May 13-17, 1996. The format is slightly different than previous conference proceedngs.・・・」
(本書は、IEEE及びIEEE電子デバイス学会の後援を受け、ワシントンDCにおいて1996年5月13日ないし17日に開催された第25回太陽光発電専門家会議の記録を収録している。・・・)
(ウ)乙第1号証は、甲第2号証と同じ論文集であって、同号証の1枚目は表紙、2枚目は「Copyright and Reprint Permission」の記載のある頁、3枚目は「INTRODUCTION TO PROCEEDINGS」の記載のある頁である。そして、その1枚目には、「CONFERENCE RECORD OF THE TWENTY FIFTH IEEE PHOTOVOLTAIC SPECIALISTS CONFERENCE - 1996」(第25回IEEE太陽光発電専門家会議 1996年)、「HYATT REGENCY CRYSTAL CITY WASHINGTON, DC MAY 13-17, 1996」との記載があり、2枚目の上部には、「LIBRARY OF CONGRESS ・COPYRIGHT OFFICE・ NOV 04 1996」との押印がある。なお、乙第1号証の2枚目及び3枚目は、甲第10号証の1枚目(見開き頁)に一致する。
(エ)甲第11号証は、「送信者:P.Tuohy@ieee.org」、「宛先:tanaami@sakai-pat.com」、「送信日時:2011年3月1日 23:46」、「件名:Fw: Inquiry for a date」の表記のある電子メールの写しであって、請求人がIEEEへの問合せ結果とする箇所は、送信者:「Kathy Burke」、宛先:「Nancy Blair-DeLeon」、送信日時「02/10/2011」、件名:「Re:Fw: Inquiry for a date」との標記がある転送文であると認められ、その記載は、次のとおりである。
「According to our records the proceedings of the 1996 25th IEEE Photovoltaic Specialists Conference (PVSC), was published on or about May 13, 1996, (The first day of the conference).
As a matter of policy, the IEEE will attempt, to the extent reasonably possible, to respond to such requests based on its available record. However, the IEEE makes no representation that its records accurately reflect first publication date information for legal purposes, and it is the duty of the individuals requesting such information to independently verify such information. In this case, contacting conference directly would give the most accurate answer.・・・」
(我々の記録によると、当該論文集は、1996年5月13日(カンファレンスの初日)に、又はその頃に発行されました。
方針として、IEEEは、利用可能な記録に基づいて、合理的に可能な範囲内で、このような要請への回答を試みます。しかしながら、IEEEは、法的目的のために、その記録が最初の発行日の情報を正確に反映していることを、明言することはありません。そして、このような情報を独立に確認することは、このような情報を要請する個人の義務です。本件については、カンファレンスに直接コンタクトすることによって、最も正確な回答が得られるでしょう。・・・)

イ 上記アによれば、甲第2号証は、1996年5月13日ないし17日に開催された第25回太陽光発電専門家会議の記録を収録した論文集に掲載された論文であることが認められるところ、上記ア(イ)のとおり、当該論文集は、「開催された」会議の「記録」を収録したものであるから、会議の初日までに配布されべきる性質のものではなく、会議が開催された後に発行される性質のものであると推測される。
上記ア(エ)によると、IEEEの関係者が、当該論文集は1996年5月13日(カンファレンスの初日)に、又は、その頃に発行された記録があることを電子メールで回答したことが認められるが、その回答がどのような記録に基づいたものであるのか定かでなく、同回答内において、IEEEは、法的目的のために、その記録が最初の発行日の情報を正確に反映していることを、明言することはない旨言及されていることを考慮すると、上記回答をもって、甲第2号証が、本件特許の出願日である平成8年10月25日より前に頒布された刊行物であると認めるには至らない。
そして、本件各証拠を通じてみても、本件特許の出願前に、甲第2号証の刊行物が頒布されたことを認めるに足る根拠は見いだせない。
したがって、甲第2号証に基づく特許法第29条第2項違反の無効理由は、理由がないものである。

ウ 請求人は、甲第6号証ないし甲第9号証により、1996年5月13日から17日に開催された会議において、同会議の論文集に収められた甲第2号証の内容が文書をもって発表されたことを主張し、特許法第30条の条文から、研究集会において文書をもって発表することによっても、発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、頒布された刊行物に記載された発明となると主張する(上記第5、2(3)アを参照。)。
しかしながら、特許法第30条は、研究集会において文書をもって発表することが、特許法第29条第1項第3号の「頒布された刊行物」に該当することを規定するものではなく、上記主張は採用できないものである。

(2)小括
以上のとおりであって、甲第2号証は、本願の出願日である平成8年10月25日より前に頒布された刊行物であると認めることはできない。したがって、請求人の主張する特許法第29条第2項違反についての無効理由には、理由がない。


2 特許法第36条第6項第2号違反について
(1)請求人の本無効理由についての主張は、以下のとおりである。
ア 本件特許発明1及び2(本件訂正発明1及び2)について
本件特許の特許請求の範囲における請求項1には、
「表面層から金属裏面電極層間における(Ga+In) に対するGaの相対濃度が表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配である」との記載がある。
また、本件特許の特許請求の範囲における請求項2には、
「(Ga+In) に対するGaの相対濃度が、表面層から金属裏面電極層間では0.01?0.8で、且つ薄膜光吸収層表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する」との記載がある。
請求人は、上記記載について、下記の理由により、本件特許は特許請求の範囲に記載した発明が明確ではないから、特許法36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨主張する。(平成22年11月1日付けの手続補正書で補正された審判請求書(以下、「補正請求書」という。)13頁?14頁、(5)(a)、審判事件弁駁書6頁?7頁、(4)(1)前段)
(ア)上記記載において、「徐々(段階的)」は、「徐々」なる表現と「段階的」なる表現との関係が明確でなく、また、「徐々」や「段階的」は、比較の基準又は程度が不明確な表現であり、出願時の技術常識を考慮しても、これらの表現によって表される発明の範囲が明確でない旨主張している。また、被請求人の主張するとおりに、後者が前者の例示であるとすれば、特許請求の範囲に「例えば」、「等」の記載をしていることと同じであり、まさに不明瞭な記載であるといえる。
(イ)上記記載中の「表面から内部に向かって・・・増加する」は、金属裏面電極層側と第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜側の両面から内部に向かって増加することを意味するのか、金属裏面電極層側と第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜側のいずれか一方の面から内部に向かって増加することを意味するのか明確でない。
(ウ)上記記載において、「表面層」は、どの位置に形成されるどのような層であるのかが明確でない。

イ 本件特許発明4(本件訂正発明3)について
本件の特許請求の範囲における請求項4(訂正後の請求項3)には
「イオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する」との記載がある。
ここで、「急激に」なる表現と「直線的に」なる表現との関係が明確でなく、また、「急激に」や「直線的に」は、比較の基準又は程度が不明確な表現であり、出願時の技術常識を考慮しても、これらの表現によって表される発明の範囲が明確でない主張している。また、被請求人の主張するとおりに、後者が前者の例示であるとすれば、特許請求の範囲に「例えば」、「等」の記載をしていることと同じであり、まさに不明瞭な記載である。
(補正請求書14頁、(c)、審判事件弁駁書6頁?7頁、(4)(1)前段)

ウ 「表面層」の技術的意味について
本件の特許請求の範囲における請求項4に係る発明の特徴は、「前記表面層が、その範囲が表面から1500Å以下で、且つそのイオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物である」点にある。
しかしながら、本件の発明の詳細な説明には、表面層の有無によって効果の差が生じることに関する記載はあるものの、表面層のイオウ濃度が上記のような濃度勾配を有する場合とそうでない場合との比較に関する記載がない。このため、表面層のイオウ濃度が上記のような濃度勾配を有することの技術的意味を理解することができない。
なお、「急激」等の当業者にとっても範囲が自明でない不明確な特徴を含む発明は、発明自体が不確定なのであるから、必ずしも被請求人が主張するような別格の作用効果を奏するものとはならないことは明らかである。
また、仮に、「その範囲が表面から1500Å以下で、且つそのイオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物である」表面層が別格の作用効果を奏するものであったとしても、そのような特徴を有する表面層は、本件訂正発明3においてのみ現れる。
したがって、そのような特徴を有する表面層を含まない本件訂正発明1及び2については、依然として、技術的意義を明確に理解することができない。
(補正請求書14頁?15頁、(d)、審判事件弁駁書7頁、(4)(1)後段)

(2)上記(1)の請求人の主張について、以下順次検討する。
ア 本件訂正発明1及び2について
(ア)本件訂正後の本件特許明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1及び2の「表面層から金属裏面電極層間における(Ga+In) に対するGaの相対濃度が表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配である」との構成に関して、
「・・・前記薄膜光吸収層4は、III 族元素(GaやIn)の相対濃度が、表面層から金属裏面電極層(Mo) 間における(Ga+In) に対するGaの割合が0.01?0.8で、前記相対濃度が、薄膜光吸収層表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配であり、表面層側で0.01?0.7、金属裏面電極層(Mo) 側で0.2?0.8であるような濃度の制御がされたものであり、図2に示すようなGaの濃度勾配を示す。」(【0012】)、
「図2は、後述の製造方法により得られたCIGS薄膜光吸収層のGaの(Ga+In) に対する相対濃度分布をオージェ電子分光法(AES) により分析した分析結果を示したものである。」(【0015】)との記載があり(なお、下線は審決で付した。以下同じ。)、当該構成について、それ以上に説明する記載は認められない。
なお、図2は、次のとおりである。

以上によると、上記「徐々(段階的)に増加する」との構成は、実施例に当たる製造方法により得られたCIGS薄膜光吸収層のGaの(Ga+InN)に対する相対濃度分布の分析結果である図2に示されるようなGaの濃度勾配を表現するにとどまるものと認められ、それ以上に格別の技術的意義をもつものではないと認められる。
してみれば、本件訂正発明1ないし2において、Gaの相対濃度の増加の定量的な程度が格別の技術的意義を有するものとは認められず、これが特定されなければ本件訂正発明1ないし2が明確でないといわなければならないものとは認められないから、上記(1)ア(ア)の請求人の主張によっては、特許請求の範囲に記載した発明が明確ではないといえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
(イ)上記第4のとおり、本件訂正発明1は、
「(前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、)その表面に極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる表面層を有し」との構成を含み、
本件訂正発明2は、
「表面層側で0.01?0.7、金属裏面電極層側で0.2?0.8である」との構成を含む。
そして、本件訂正発明1及び2の上記の構成に関して、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「前記薄膜光吸収層4は、III 族元素(GaやIn)の相対濃度が、表面層から金属裏面電極層(Mo) 間における(Ga+In) に対するGaの割合が0.01?0.8で、前記相対濃度が、薄膜光吸収層表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配であり、表面層側で0.01?0.7、金属裏面電極層(Mo) 側で0.2?0.8であるような濃度の制御がされたものであり、図2に示すようなGaの濃度勾配を示す。」(【0012】)、
「そして、前記光吸収層4の表面には極薄膜の表面層41が設けられており、・・・」(【0013】)
上記によれば、Ga の濃度勾配は、表面層側と金属裏面電極層側との間での相対濃度の変化を問題とするものであり、表面層側で小さな値、金属裏面電極層側で大きな値を持つものであることが理解できる。
また、「薄膜光吸収層4のGaの濃度勾配が、・・・表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配を有する組成とすることにより、禁制帯幅を広くすることが可能となり」(【0021】)等の記載から、Gaの相対濃度の増加に伴って禁制帯幅が広くなることが明らかであるところ、本発明の薄膜太陽電池の薄膜光吸収層の禁制帯幅の構造の模式図を示す図3から、禁制帯幅が、表面層側で最小であり、裏面電極側に向かって内部に行くにつれ大きくなることが見て取れるため、光吸収層のGa の相対濃度が、表面層側で最小であり、裏面電極側に向かって内部に行くにつれ大きくなるような濃度勾配をもつものであることが理解できる。
以上によれば、薄膜光吸収層の「表面」とは、表面層が設けられた側の面を指すものであり、同じく「内部」は金属裏面電極層側を指すものであり、相対濃度が増加する方向は、薄膜光吸収層の表面層の側から金属裏面電極層側に向けた方向であると理解できる。
したがって、上記(1)ア(イ)の請求人の主張をもって、本件訂正発明1が明確でないとはいえない。
(ウ) 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1には、
「前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、その表面に極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる表面層を有し」
と記載されている。
上記記載によれば、「表面層」が、「前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜」の「表面」にあること、及び「極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる」ものであることは明らかであって、本件訂正発明1において、「表面層」の形成される位置及びその構成が明確でないとはいえない。
したがって、上記(1)ア(ウ)の請求人の主張をもって、本件訂正発明1及び2が明確でないとはいえない。

イ 本件訂正発明3について
本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明3の「前記表面層が、その範囲が表面から1500Å以下で、且つそのイオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物である」との構成に関して、
「図3に本発明の薄膜太陽電池の薄膜光吸収層の禁制帯幅の構造の模式図を示す。本発明の薄膜太陽電池は、前記模式図に示されたような構造のCIGS薄膜光吸収層であり、このCIGS薄膜光吸収層4の表面に極薄膜のCIGSS 薄膜表面層41が形成されており、この極薄膜の表面層41は、イオウが前記薄膜表面層(CIGSS) の表面(界面層(バッファー層)側)から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物である。」(【0019】)との記載があり、当該構成について、それ以上に説明する記載は認められない。
なお、図3は、次のとおりである。

以上によると、上記「急激に(直線的に)減少する」との構成は、図3の薄膜光吸収層の禁制帯幅の構造の模式図に示されるようなイオウの濃度勾配を表現するにとどまるものと認められ、それ以上に格別の技術的意義をもつものではないと認められる。
してみれば、本件訂正発明3において、イオウの濃度勾配の減少の定量的な程度が格別の技術的意義を有するものとは認められず、これが特定されなければ本件訂正発明3が明確でないといわなければならないものとは認められないから、上記(1)イの請求人の主張によっては、特許請求の範囲に記載した発明が明確ではないといえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

ウ 「表面層」の技術的意義について
本件訂正発明の一部の構成に係る技術的意義が明確でないことをもって、特許法第36条第6項第2号違反とする主張の当否はひとまずおいて、請求人の主張内容について検討する。
本件訂正発明の「表面層」について、本件訂正明細書には、以下の記載がある。
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来の多元化合物半導体薄膜を光吸収層として使用したヘテロ接合薄膜太陽電池においては、より一層の発電効率の向上及び界面接合特性の向上が望まれていた。本発明は、前記のような問題点を解消するためになされたもので、本発明の目的は、高い変換効率の達成と実用化という観点から重要な開放電圧の増大及び界面接合特性を向上することにある。」、
「【0024】曲線因子〔FF〕は太陽電池における界面接合特性の良否を判断する尺度であるので、本発明の光吸収層4の極薄膜の表面層41により、界面層(又はバッファー層)5と薄膜光吸収層4との界面接合特性を大幅に改善することができる。」
以上によると、「表面層」は、界面層と薄膜光吸収層との界面接合特性を向上することを目的として、上記ア(ウ)のとおり、薄膜光吸収層の表面に形成された極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる層であることが理解できるから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものということができ、本件訂正発明の技術的意義が不明であるとはいえないから、上記(1)ウの請求人の主張によっては、特許請求の範囲に記載した発明が明確ではないといえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(3)小括
以上によれば、本件訂正発明1ないし3は不明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するとの無効理由には、理由がない。

3 特許法第36条第4項違反について
(1)請求人の主張
請求人は、特許法第36条第4項違反についての無効理由(上記第5、3)について、次のとおり主張している(補正請求書12頁?13頁、(4))。
本件訂正発明の「表面層」に関する記載について、CIGSからなる薄膜光吸収層の表面にCIGSSからなる表面層を如何に形成するのか、又は、表面層を、如何にしてその範囲が表面から1500Å以下で、且つそのイオウ濃度が上記のとおりの濃度勾配を有するものとするかのかについて、本件の明細書及び図面には記載がなく、出願時の技術常識を考慮しても、如何にすれば本件特許発明に係る薄膜太陽電池を生産することができるかが明らかでないため、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が特許請求の範囲に記載した発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
さらに、答弁書における被請求人の主張に対して、仮に当業者であれば何らかの厚さやイオウ濃度の濃度勾配を有する表面層を形成することができるとしても、例えば、本件訂正発明3の「イオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する」表面層のように、「急激」等の範囲が明確でない特徴を有する層を形成することは、当業者といえども容易になし得ない主張する(審判事件弁駁書6頁、(3))。

(2)被請求人の主張
これに対して、被請求人は、以下のとおり主張する(審判事件答弁書7頁?8頁、第4の1、口頭審理陳述要領書3頁?4頁、2)。
CIGS系太陽電池の半導体層の形成方法として、ターゲット材を用いたスパッタリングにより既存の半導体層上に新たな半導体層を積層する手法や、既存の半導体層を特定ガスの雰囲気中で熱処理し、特定ガスの成分を既存の半導体層中に拡散させて既存の半導体層中に新たな半導体層を形成する手法等が一般に用いられており、これらの手法をCIGSS層の形成に適用することにより、当業者であれば、表面層の形成を実施し得るものである。
即ち、表面層としてCIGSS層を形成するに当たり、当業者であれば、Cu, In, Ga, S, Seから構成されるCIGSS合金ターゲット材を用いて、スパッタリング法により製膜する手法や、硫化水素雰囲気中において、CIGS光吸収層を熱処理することにより、CIGS光吸収層に、CIGSS層を形成する等の手法を採用し得るものであり、本件明細書の詳細な説明に記載するまでもない明らかな事項といえるものである。
また、表面層の厚さやイオウ濃度の濃度勾配の設定に関しても、当業者であれば、ある程度の試行錯誤をすれば容易になし得ることであって、本件明細書の詳細な説明に記載するまでもない明らかな事項といえるものである。
因みに、化合物薄膜の形成に当たって、薄膜の特性を制御するための手法として、薄膜の形成後にアニーリング等を実施する後処理法と、薄膜の形成中に形成条件によって 直接薄膜特性を制御する方法(例えばスパッタリング法)とが存在することは、乙第3号証に示されている。
乙第3号証には、94頁以降の「B.化合物薄膜の形成法」の項目の記載によれば、化合物薄膜の形成法として、薄膜の形成後に形成された薄膜を熱処理する後処理法や、スパッタリングにより既存の半導体層上に新たな半導体層を積層する手法等が一般に用いられていることが示されており、本件出願当時、乙第3号証に示されるような事項は当業者に周知であったものと理解される。
したがって、このような周知の事項を知悉する当業者が、本件特許明細書の記載に接した場合に、明細書の記載に基づき表面層の形成を実施し得ることは明らかである。

(3)本件訂正明細書の記載事項
ア 上記第6、2(1)によれば、本件訂正明細書には、CIGS系の薄膜太陽電池についての従来技術として、「Gaを含んだCu-Ga 及びIn積層プリカーサー膜をセレン雰囲気中で熱処理することで光吸収層を作製した時に、Gaがモリブデン(Mo)金属裏面電極層側に偏析し、CIS 光吸収層と金属裏面電極層間の密着性を向上させるとともに、オージェ電子分光法(AES) の結果より、作製した光吸収層が、Gaが濃度勾配を有するCu(InGa)Se_(2) 層とCIS 層の2層から成る内部構造を有する可能性が示唆されている」(【0004】)との知見が示されている。
また、発明の実施の形態として、「CIGS薄膜光吸収層」は、「Cu-Ga 合金のターゲット及びInのターゲットを用いてスパッタリングして作製した、金属裏面電極層3からの順序がCu-Ga 合金層→純In層である積層プリカーサー膜を用いてセレン雰囲気中で熱処理して作製した」ものであることが記載されている(【0015】?【0018】、【0020】参照。)。そして、図2に、上記の製造方法により得られたCIGS薄膜光吸収層のGaの(Ga+In) に対する相対濃度分布をオージェ電子分光法(AES) により分析した分析結果が示されている。なお、その他に、「薄膜光吸収層」の製造方法に関する記載はない。
そして、本件訂正発明の「表面層」については、発明の実施の形態欄に、「前記光吸収層4の表面には極薄膜の表面層41が設けられており、該表面層41は二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなり、該極薄膜の表面層41の範囲は表面から1500Å以下で、該表面層41のイオウ濃度が、前記薄膜表面層(CIGSS) の表面(界面層(バッファー層)側)から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物である」(【0013】)ことが記載され、図3に本発明の薄膜太陽電池の薄膜光吸収層の禁制帯幅の構造の模式図が示され、「CIGS薄膜光吸収層4の表面に極薄膜のCIGSS 薄膜表面層41が形成されており、この極薄膜の表面層41は、イオウが前記薄膜表面層(CIGSS) の表面(界面層(バッファー層)側)から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物である」(【0019】)との記載が認められる。

イ 以上によると、本件訂正明細書には、本件訂正発明の「薄膜光吸収層(第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜)」の製造方法として、Cu-Ga 合金のターゲット及びInのターゲットを用いてスパッタリングしてCu-Ga 合金層→純In層である積層プリカーサー膜を作製し、次いで、前記積層プリカーサー膜をセレン雰囲気中で熱処理して作製する、という、2段階の工程を備えた方法が記載されていることが認められる。
しかしながら、本件訂正明細書には、本件訂正発明の「表面層」の製造方法や表面層を製造した実施例に関する記載は認められない。

(4)乙第3号証の記載事項
乙第3号証の94頁?108頁、「B.化合物薄膜の形成法」には、「化合物薄膜は、・・・形成法により著しく特性が変化する」ため、「薄膜の(1)化学組成、(2)結晶性、(3)結晶型」、「(4)電気的特性、(5)光学的特性、(6)機械的特性、(7)化学的特性などの諸特性の制御法を考慮」して「化合物薄膜の形成方法を決める必要がある」こと、「薄膜の特性を制御するには、形成された薄膜を例えばアニーリングにより結晶化させるような後処理法と、薄膜の成長中に形成条件により直接薄膜特性を制御する方法とに大別される」こと、「たとえばスパッタプロセスでは、ターゲットの化学組成から薄膜の化学組成を制御することができる」こと等について記載があり、98頁?106頁の「表4.2 化合物薄膜の種類と形成法」に、種々の化合物薄膜とその形成方法が列挙されている。なお、該「表4.2」に、CIGS系の化合物薄膜は挙げられていない。

(5)検討
ア 本件訂正発明1及び2について
本件訂正発明1は、「前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、その表面に極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる表面層を有し」との特定事項を備え、薄膜光吸収層の表面に有する「表面層」として、「極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる」ことが特定されたものである。
また、本件訂正発明2は、本件訂正発明1における「第1のCu-III-VI2族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜」を更に限定するものであって、「表面層」については更なる特定事項を有しないものである。

前記「表面層」の製造に関して、上記(3)イのとおり、本件訂正明細書には、その製造方法を示す記載はないが、本件訂正発明1の、その表面に「表面層」を有する「薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜(Cu(InGa)Se_(2) 層)」については、上記(3)アのとおり、従来技術と同様の製造方法が本件訂正明細書に示されているところであり、VI_(2)族元素としてさらにイオウ(S)を含む同系のカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜である「二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる表面層」についても、当業者であれば、同様に製造が可能であると認めるのが相当であり、請求人の上記主張をもって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1及び2に関し、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとすることはできない。

イ 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は2における「二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる表面層」について、更に、「前記表面層が、その範囲が表面から1500Å以下で、且つそのイオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物である」との特定がなされたものである。
前記「表面層」の製造に関して、本件明細書に、その製造方法を示す記載がないことは、上記(3)のとおりである。
なお、被請求人は、上記(2)のとおり、乙第3号証には、化合物薄膜の形成法として、薄膜の形成後に形成された薄膜を熱処理する後処理法や、スパッタリングにより既存の半導体層上に新たな半導体層を積層する手法等が一般に用いられていることが示されており、本件出願当時、乙第3号証に示されるような事項は当業者に周知であったものと理解される、このような周知の事項を知悉する当業者が、本件特許明細書の記載に接した場合に、明細書の記載に基づき表面層の形成を実施し得ることは明らかであると主張する。
そこで、上記(4)に示した乙第3号証の記載事項について検討するに、化合物薄膜の形成法に関して、化合物薄膜は、形成法により著しく特性が変化するため、薄膜の「諸特性」の制御法を考慮して形成方法を決める必要があること、薄膜の特性を制御するには、形成された薄膜を例えばアニーリングにより結晶化させるような後処理法と、薄膜の成長中に形成条件により直接薄膜特性を制御する方法とに大別されること、スパッタプロセスでは、ターゲットの化学組成から薄膜の化学組成を制御することができること等は記載されている。しかしながら、上記「諸特性」に、上記「表面層」の特定事項のような組成の濃度勾配が含まれるものではなく、前記「アニーリングにより結晶化させるような後処理法」ないし「薄膜の成長中に形成条件により直接薄膜特性を制御する方法」によって、多元系の化合物薄膜において特定元素の濃度勾配を形成できることが示されているわけでもない。また、上記(4)のとおり、「表4.2 化合物薄膜の種類と形成法」に列挙される化合物薄膜として、CIGS系の化合物薄膜は挙げられていない。
してみると、本件訂正発明3の「二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS) からなる表面層」として、「イオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物である」ものが製造できることを、乙第3号証が示すものとは認められない。
以上によると、乙第3号証の記載事項を参酌しても、本件訂正明細書及び図面の記載に基づいて、当業者が、本件訂正発明3を製造することができたものと認めるには至らず、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(6)小括
上記(5)アのとおり、請求人の上記主張をもって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1及び2について、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとすることはできないから、上記各発明についての特許は、特許法第36条第4項の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効とすることはできない。
上記(5)イのとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明3について、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないから、上記発明についての特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。


第9 むすび
以上のとおり、本件訂正発明3は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が特許請求の範囲に記載した発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
また、請求人が主張する理由によっては、本件訂正発明1及び2についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、これを3分し、その2を請求人が、その1を被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】金属裏面電極層と、該金属裏面電極層上に設けられp形の導電形を有しかつ薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜と、前記薄膜光吸収層上に設けられp形と反対の導電形を有し窓層として供される禁制帯幅が広くかつ透明で導電性を有する第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜と、前記第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜と第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜の間の界面に成長した界面層(バッファー層)として供される透明で高抵抗を有する半導体薄膜とから構成される薄膜太陽電池において、前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、その表面に極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS)からなる表面層を有し、表面層から金属裏面電極層間における(Ga+In)に対するGaの相対濃度が表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配であることを特徴とするカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池。
【請求項2】前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、(Ga+In)に対するGaの相対濃度が、表面層から金属裏面電極層間では0.01?0.8で、且つ薄膜光吸収層表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配で、表面層側で0.01?0.7、金属裏面電極層側で0.2?0.8であることを特徴とする請求項1記載のカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池。
【請求項3】前記表面層が、その範囲が表面から1500Å以下で、且つそのイオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物であることを特徴とする請求項1又は2記載のカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、多元化合物半導体薄膜を光吸収層として使用したヘテロ接合薄膜太陽電池、特に薄膜光吸収層としてCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体、例えば、二セレン化銅インジウム・ガリウム(CIGS)のようなp形半導体の薄膜光吸収層とpnヘテロ接合を有する薄膜太陽電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
前記タイプの薄膜太陽電池は広範囲に実用化の可能性があり、その実用化の可能性について、米国特許第4,335,226号明細書(Michelsen et.al.による、1982年6月15日発行)に記載されている。
【0003】
このような高い変換効率の薄膜太陽電池については、米国特許第4,798,660号明細書(J.H.Ermer et.al.による)、米国特許第4,915,745号明細書(G.A.Pollock et.al.による)、C.L.Jensen et.al.によるProceedings 23rd Photovoltaic Specialists Conference(1993)P.577及び特開平4-326526号明細書(光根他による)等に開示されている。
【0004】
C.L.Jeasen et.al.による文献には、Gaを含んだCu-Ga及びIn積層プリカーサー膜をセレン雰囲気中で熱処理することで光吸収層を作製した時に、Gaがモリブデン(Mo)金属裏面電極層側に偏析し、CIS光吸収層と金属裏面電極層間の密着性を向上させると共に、オージェ電子分光法(AES)の結果より、作製した光吸収層が、Gaが濃度勾配を有するCu(InGa)Se2層とCIS層の2層から成る内部構造を有する可能性が示唆されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の多元化合物半導体薄膜を光吸収層として使用したヘテロ接合薄膜太陽電池においては、より一層の発電効率の向上及び界面接合特性の向上が望まれていた。本発明は、前記のような問題点を解消するためになされたもので、本発明の目的は、高い変換効率の達成と実用化という観点から重要な開放電圧の増大及び界面接合特性を向上することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、金属裏面電極層と、該金属裏面電極層上に設けられp形の導電形を有しかつ薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜と、前記薄膜光吸収層上に設けられp形と反対の導電形を有し窓層として供される禁制帯幅が広くかつ透明で導電性を有する第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜と、前記第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜と第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜の間の界面に成長した界面層(バッファー層)として供される透明で高抵抗を有する半導体薄膜とから構成される薄膜太陽電池において、前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、表面層から金属裏面電極層間における(Ga+In)に対するGaの相対濃度が表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配であるカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池である。
【0007】
本発明は、前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、(Ga+In)に対するGaの相対濃度が、表面層から金属裏面電極層間では0.01?0.8で、且つ薄膜光吸収層表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配で、表面層側で0.01?0.7、金属裏面電極層側で0.2?0.8であるカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池である。
【0008】
本発明は、前記薄膜光吸収層として供される第1のCu-III-VI_(2)族カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜が、その表面に極薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS)からなる表面層を有するカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池である。
【0009】
本発明は、前記表面層が、その範囲が表面から1500Å以下で、且つそのイオウ濃度が、該表面層の界面層側の表面から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物であるカルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の薄膜太陽電池の概略構成を示す図である。薄膜太陽電池1は金属裏面電極層3、表面層41を有する光吸収層(p形半導体)4、界面層(バッファー層)5、窓層(n形半導体)及び上部電極(又はスクライブライン)7から構成されている。
【0011】
薄膜太陽電池1は1?3mm厚の青板ガラス等からなるガラス基板2上に設けられている。該ガラス基板2上に金属裏面電極層3が設けられ、該金属裏面電極層3は1?2ミクロン厚のモリブデン又はチタン等の高耐蝕性で高融点の金属である。
【0012】
金属裏面電極層3上に光吸収層4が設けられ、該光吸収層4として供される第1の半導体薄膜は、p形の導電性を有するCu-III-VI_(2)族カルコパイライト構造の二セレン化銅インジウム・ガリウム(CIGS)の厚さ1?3ミクロンの薄膜であり、前記薄膜光吸収層4は、III族元素(GaやIn)の相対濃度が、表面層から金属裏面電極層(Mo)間における(Ga+In)に対するGaの割合が0.01?0.8で、前記相対濃度が、薄膜光吸収層表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配であり、表面層側で0.01?0.7、金属裏面電極層(Mo)側で0.2?0.8であるような濃度の制御がされたものであり、図2に示すようなGaの濃度勾配を示す。
【0013】
そして、前記光吸収層4の表面には極薄膜の表面層41が設けられており、該表面層41は二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム(CIGSS)からなり、該極薄膜の表面層41の範囲は表面から1500Å以下で、該表面層41のイオウ濃度が、前記薄膜表面層(CIGSS)の表面(界面層(バッファー層)側)から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物である。
【0014】
更に、前記光吸収層4の上にバッファー層(界面層)5として供される透明で且つ高抵抗で、水酸化物を含んでも良いII-VI族化合物半導体薄膜(例えば、ZnO、S)が形成され、その上に、窓層6として供されるn形の導電形を有する禁制帯幅が広く且つ透明で導電性を有する厚さ0.5?3ミクロンのB又はAlを含んだZnOから成る第2の金属酸化物半導体透明導電膜薄膜が形成され、前記n形の導電形を有するZnOからなる窓層6の露出表面に上部電極又はスクライブライン7が必要に応じて形成された構造である。
【0015】
図2は、後述の製造方法により得られたCIGS薄膜光吸収層のGaの(Ga+In)に対する相対濃度分布をオージェ電子分光法(AES)により分析した分析結果を示したものである。
【0016】
●は10重量%GaのCu-Ga合金のターゲット及びInのターゲットを用いてスパッタリングして作製した、金属裏面電極層3からの順序がCu-Ga合金層→純In層である積層プリカーサー膜を用いてセレン雰囲気中で熱処理して作製したCIGS薄膜光吸収層4である。
【0017】
△は20重量%GaのCu-Ga合金のターゲット及びInのターゲットを用いてスパッタリングして作製した、金属裏面電極層3からの順序が、Cu-Ga合金層→純In層である積層プリカーサー膜を用いてセレン雰囲気中で熱処理して作製したCIGS薄膜光吸収層4である。
【0018】
○は30重量%GaのCu-Ga合金のターゲット及びInのターゲットを用いてスパッタリングして作製した、金属裏面電極層3からの順序が、Cu-Ga合金層→純In層である積層プリカーサー膜を用いてセレン雰囲気中で熱処理して作製したCIGS薄膜光吸収層4である。
【0019】
図3に本発明の薄膜太陽電池の薄膜光吸収層の禁制帯幅の構造の模式図を示す。本発明の薄膜太陽電池は、前記模式図に示されたような構造のCIGS薄膜光吸収層であり、このCIGS薄膜光吸収層4の表面に極薄膜のCIGSS薄膜表面層41が形成されており、この極薄膜の表面層41は、イオウが前記薄膜表面層(CIGSS)の表面(界面層(バッファー層)側)から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物である。
【0020】
図4に、前記図2の●印で示す、10重量%GaのCu-Ga合金のターゲット及びInのターゲットを用いてスパッタリング法で作製した、金属裏面電極層3からの順序がCu-Ga合金層→純In層である積層プリカーサー膜を用いてセレン雰囲気中で熱処理して作製したCIGS薄膜光吸収層4からなる薄膜太陽電池1のCu-Ga合金ターゲットのGa含有量〔重量%〕に対する開放電圧V_(OC)[mV]特性を示す。受光面積50cm^(2)の薄膜太陽電池モジュールの、AM.1、5,100mW/cm^(2)のソーラーシュミレーター下で得られたものであり、500mVを越える高い開放電圧V_(OC)を得ることが可能となり、多結晶シリコン太陽電池と遜色ない結果が得られる。
【0021】
その結果、薄膜光吸収層4のGaの濃度勾配が、図2の●印で示すような特性、即ち、表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する濃度勾配を有する組成とすることにより、禁制帯幅を広くすることが可能となり、開放電圧V_(OC)を大きくすることができる。
【0022】
図5に、前記図2の△印で示す、20重量%GaのCu-Ga合金のターゲット及びInのターゲットを用いてスパッタリングして作製した、金属裏面電極層3からの順序が、Cu-Ga合金層→純In層である積層プリカーサー膜を用いてセレン雰囲気中で熱処理して作製したCIGS薄膜光吸収層4を有する薄膜太陽電池1において、前記CIGSS表面層41がない薄膜太陽電池Iと前記CIGSS表面層41がある薄膜太陽電池IIの曲線因子〔FF〕の測定結果を示す。
【0023】
前記測定結果のように、前記CIGSS表面層41がある薄膜太陽電池IIは前記CIGSS表面層41がない薄膜太陽電池Iよりも曲線因子〔FF〕が大きくなることがわかった。
【0024】
曲線因子〔FF〕は太陽電池における界面接合特性の良否を判断する尺度であるので、本発明の光吸収層4の極薄膜の表面層41により、界面層(又はバッファー層)5と薄膜光吸収層4との界面接合特性を大幅に改善することができる。
【0025】
【発明の効果】
(A)薄膜光吸収層4のGaの濃度勾配を、図2に示すように表面から内部に向かって徐々(段階的)に増加する内部構造とすることにより、禁制帯幅に勾配付けることが可能となり、開放電圧V_(OC)を大きくすることができる。
(B)前記光吸収層4の極薄膜の表面層41は表面から1500Å以下の範囲で、且つイオウ濃度が前記薄膜表面層(CIGSS)の表面(界面層(バッファー層)側)から内部に向かって急激に(直線的に)減少する濃度勾配を有する組成物であることにより、界面層(又はバッファー層)5と薄膜光吸収層4との界面接合性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の薄膜太陽電池の断面図である。
【図2】
本発明の薄膜太陽電池のCIGS薄膜光吸収層のGaの(Ga+In)に対する相対濃度分布をオージェ電子分光法(AES)により分析した結果を示す図である。
【図3】
本発明の薄膜太陽電池の薄膜光吸収層の禁制帯幅の構造を示した模式図である。
【図4】
本発明のCIGS薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池のCu-Ga合金ターゲットのGa含有量〔重量%〕に対する開放電圧V_(OC)[mV]特性を示す図である。
【図5】
本発明のCIGSS表面層がある薄膜太陽電池IIとCIGSS表面層がない薄膜太陽電池Iとの曲線因子〔FF〕の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
1 薄膜太陽電池
2 ガラス基板
3 金属裏面電極
4 薄膜光吸収層(p形半導体)
41 薄膜表面層(CIGSS)
5 界面層(又はバッファー層)
6 窓層(n形半導体)
7 上部電極又はスクライブライン
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2011-05-20 
出願番号 特願平8-299791
審決分類 P 1 123・ 121- ZD (H01L)
P 1 123・ 537- ZD (H01L)
P 1 123・ 113- ZD (H01L)
P 1 123・ 536- ZD (H01L)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 小原 博生  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 杉山 輝和
江成 克己
登録日 2001-11-09 
登録番号 特許第3249407号(P3249407)
発明の名称 カルコパイライト系多元化合物半導体薄膜光吸収層からなる薄膜太陽電池  
代理人 小林 泰  
復代理人 早川 大輔  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 上田 忠  
復代理人 高村 順  
代理人 酒井 宏明  
代理人 上田 忠  
復代理人 田名網 忠雄  
代理人 上田 忠  
代理人 小野 新次郎  
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