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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  C09K
審判 一部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 一部無効 2項進歩性  C09K
審判 一部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1241633
審判番号 無効2006-80157  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-25 
確定日 2011-07-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第1877437号「ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンの共沸混合物様組成物」の特許無効審判事件についてされた平成20年2月13日付けの審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10235号、平成22年1月14日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成 2年 8月 2日 出願(優先権主張1989年9月26日、
米国(US))
平成 6年10月 7日 特許権の設定登録
(特許第1877437号)
平成18年 8月25日 請求人 :特許無効審判請求書・甲第1?8号
証提出
平成18年 9月21日 請求人 :手続補正書・甲第3号証を甲第3号
証の1?10に枝番を付与する補正
を行ったもの及び甲第3号証の1?
3全訳提出
平成19年 1月26日 被請求人:答弁書・訂正請求書・乙第1?6号
証提出
平成19年 4月23日 請求人 :弁駁書・甲第3号証の5全訳及び甲
第9?17号証提出
平成19年 8月 3日 請求人 :口頭審理陳述要領書・甲第18?
20号証提出
被請求人:口頭審理陳述要領書・乙第7?24
号証提出
平成19年 8月 3日 口頭審理(特許庁審判廷)
平成19年 8月 8日 被請求人:手続補正書・乙第21号証に係る
「Chapter26」の全文(英文)
及び乙第22号証及び乙第23号証
の明瞭な写し提出
平成19年 8月31日 請求人 :上申書・甲第21?23号証及び参
考資料1?6提出
被請求人:上申書・乙第25?32号証提出
平成20年 2月13日 一次審決(この審決の最後に参考として添付)
平成22年 1月14日 知的財産高等裁判所において審決取消の判決
(平成20年(行ケ)第10235号)
平成22年10月 5日 最高裁判所において上告審として受理しない旨の 決定
(平成22年(行ヒ)第207号)

なお、平成19年1月26日の訂正請求による訂正のうち、登録時の請求項2、3の削除については、同請求項の削除を認めた一次審決の送達により形式的に確定した。

第2 平成19年1月26日の訂正請求の適否について
1.訂正請求の時期的要件についての検討
平成19年1月26日の訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、特許法第134条第1項の規定に基づいて指定期間内の平成19年1月26日に提出されたものであるから、同法第134条の2第1項本文に規定されている時期的要件を満たすものである。

2.訂正請求の内容
被請求人は、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。本件特許明細書の内容と本件公告公報の内容が同一であるので、記載箇所については、公告公報の記載箇所で示すことがある。)を訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「本件明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであり、実質的に次の内容の訂正を請求するものである。

(1)訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に
「約1.0?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約99.0?約50.0重量のジフルオロメタンとを含み,32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する共沸混合物様組成物。」とあるのを、
『約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物。』と訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項4に
「請求の範囲第1項に記載の組成物を凝縮させること,次いで前記組成物を冷却すべき物体の近くで蒸発させること,を含む冷却作用を生成させる方法。」とあるのを、
『請求項1に記載の組成物を凝縮させること,次いで前記組成物を冷却すべき物体の近くで蒸発させること,を含む,空調において冷却作用を生成させる方法。』と訂正し、請求項番号を請求項2に繰り上げる。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項5に
「請求の範囲第1項に記載の組成物を加熱すべき物体の近くで凝縮させること,次いで前記組成物蒸発させること,を含む加熱作用を生成させる方法。」とあるのを、
『請求項1に記載の組成物を加熱すべき物体の近くで凝縮させること,次いで前記組成物を蒸発させること,を含む加熱作用を生成させる方法。』と訂正し、請求項番号を請求項3に繰り上げる。

(6)訂正事項6
本件特許明細書の発明の詳細な説明の第3頁第26行?第4頁第1行(公告公報第4欄第50行?第5欄第5行)に
「本発明によれば,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンを含んだ新規な共沸混合物様組成物が提供される。本発明の共沸混合物様組成物は,約1?50重量%のペンタフルオロエタンと約50?99重量%のジフルオロメタンを含み,32°F(0℃)にて約 119psia(820kPa)の蒸気圧を有する。」とあるのを、
『本発明によれば,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての新規な共沸混合物様組成物は,約35.7?約50重量%のペンタフルオロエタンと約50?64.3重量%のジフルオロメタンとからなり,32°F(0℃)にて約119psia(820kPa)の蒸気圧を有する。』と訂正する。

(7)訂正事項7
本件特許明細書の発明の詳細な説明の第4頁第3?5行(公告公報第5欄第7?9行)に
「本発明の好ましい実施態様においては,このような共沸混合物様組成物は,約5?40重量%のペンタフルオロエタンと約95?60重量%のジフルオロメタンを含む。」とあるのを削除する。

3.訂正請求の適否についての検討
(1)訂正事項1
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1において、a)ペンタフルオロエタンの量的範囲の下限値について、約「1.0」重量%から約「35.7」重量%に、b)ジフルオロメタンの量的範囲の上限値について、約「99.0」重量%から約「64.3」重量%にそれぞれ訂正し、c)共沸混合物様組成物の用途を「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」に訂正し、さらに、d)ジフルオロメタンの含有量に関して、「重量のジフルオロメタン」を「重量%のジフルオロメタン」に訂正するものである。
訂正事項1の中で、上記a)?c)の各訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである。また、d)の訂正は、数値単位に「%」が脱落している誤記を訂正するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするものであり、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2の、特許請求の範囲の請求項2を削除することは、上記「第1 手続の経緯」で述べたとおり、登録時の請求項2を削除することを認めた一次審決の送達により、既に形式的に確定している。

(3)訂正事項3
訂正事項3の、特許請求の範囲の請求項3を削除することは、上記「第1 手続の経緯」で述べたとおり、登録時の請求項3を削除することを認めた一次審決の送達により、既に形式的に確定している。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項4における冷却作用を生成させる方法において、「空調において」とその用途を限定するものであって、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項4は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、請求項5において、「次いで前記組成物蒸発させること」を「次いで前記組成物を蒸発させること」に訂正するものであり、助詞「を」の脱落を補うものであるから、この訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項5は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

(6)訂正事項6
訂正事項6は、訂正事項1により、特許請求の範囲の請求項1において、ペンタフルオロエタンの量的範囲の下限値を約「1.0」重量%から約「35.7」重量%と、ジフルオロメタンの量的範囲の上限値を約「99.0」重量%から約「64.3」重量%とそれぞれ変更し、かつ、共沸混合物様組成物の用途を「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」に限定したことに伴い、対応する発明の詳細な説明の記載を整合させるものである。
したがって、訂正事項6は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項6は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

(7)訂正事項7
訂正事項7は、訂正事項2に係る特許請求の範囲の請求項2の削除に伴って、発明の詳細な説明における対応する記載を削除するものである。
上記(2)で述べたとおり、特許請求の範囲の請求項2を削除することは、登録時の請求項2を削除することを認めた一次審決の送達により、既に形式的に確定しているから、発明の詳細な説明における対応する記載を削除する訂正も既に形式的に確定している。

4.訂正請求に対する請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は、上記訂正事項1、4及び6について、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項に違反するとして、下記の主張(1)をしており、訂正事項1については、更に特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第4項に違反するとして、下記の主張(2)をしているので検討する。

(1-1)請求人の主張(1)
1.「訂正事項1、4、および6は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではない。・・・『空調』および『ヒートポンプ』という用語は特許明細書の『発明の背景』において“従来技術”として説明されているものにすぎず(本件特許明細書(当初明細書)第1頁8?9行および25?27行ならびに第3頁16行)、本件特許発明自体に関する記述ではない。本件特許発明自体に関する用途の記載はせいぜい当初明細書第1頁4?6行および第3頁19?23行に記載される『冷却用途及び加熱用途』にすぎず、本件特許発明の組成物が『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』としての用途を有する点についての具体的記載は全く無いのである。よって、請求項1に記載の共沸混合物様組成物の用途を『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』に限定する訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項に違反するものである。」(口頭審理陳述要領書第3頁第2?14行)

2.「『訂正の適否は、・・・当該明細書に記載されている内容から、全体として判断されるべきである』と請求人(審決注:『請求人』は、『被請求人』の誤記と認める。)が主張するのであれば、実施例の記載も同様に訂正の適否において考慮されて然るべきである。この点、実施例4においては、表IIIに示される通り、-23.3?-45.6℃のエバポレーター温度で、『低温冷却サイクル』のための媒体中で実施されており、約+5?+10℃のエバポレーター温度で典型的に操業される空調サイクルにおいては性能評価は何ら実施されていないことについては弁駁書で主張した通りである。つまり、『発明の背景』よりも更に本件特許発明との関連性が強いはずの『実施例』の記載を考慮すると、そこに記載される用途は業務用冷凍システムのような『低温冷却サイクル』に他ならず(本件特許公報10欄2?6行)、『ヒートポンプ』および『空調』といった用途は全く読み取ることができないのである。」(平成19年8月31日の上申書第9頁第23行?第10頁第5行)

(1-2) 請求人の主張(2)
「被請求人は請求項1に記載の共沸混合物様組成物の用途を『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』に限定したとするが、訂正後の記載は『空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物』であり、訂正前の『共沸混合物様組成物』が実質上『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』に変更されている。この変更は、審判便覧54-10『5.実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するもの(旧特§126 2(審決注:○中2))』の『(1)a.H7.6.30以前の出願に係る特許』の章に例示列挙されるもののうち、『7(審決注:○中7)請求項のカテゴリー変更。』または『8(審決注:○中8) 請求項のカテゴリーは変更しないが、発明の対象が変更される場合。』に該当することは明らかである。確かに、訂正後の請求項1の記載の末尾は『共沸混合物様組成物』のまま残されてはいるが、その直前に訂正で加えられた『空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての』なる記載が『共沸混合物様組成物』というカテゴリーないし発明の対象を『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』と実質上置き換えているのに他ならない。したがって、上記審判便覧の記載に明記される通り、請求項1の記載の共沸混合物様組成物の用途を『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』に限定する訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものに該当し、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第4項に違反する。」(弁駁書第4頁第1?16行)

(2)当審の判断
(2-1)請求人の主張(1)について
本件特許明細書には、「当業者は,冷却用途やヒートポンプ用途に対して使用されている従来の混合物に代わる,フルオロカーボンをベースとした新規な共沸混合物を要望している。現在,特に関心が払われているのは,完全ハロゲン化クロロフルオロカーボンの代替物として環境的に許容しうると考えられているフルオロカーボンベースの冷媒である。・・・数字的モデルによれば,部分ハロゲン化化学種〔例えば,ペンタフルオロエタン(HFC-125)やジフルオロメタン(HFC-32)〕は大気化学に対して悪影響を及ぼさないことが実証されている。・・・これらの代替物質はさらに,化学安定性,低毒性,難燃性,及び使用効率等も含めて,CFCに特異的な性質を有していけなければならない。使用効率という特徴は,冷媒の熱力学的性能の低下やエネルギー効率の低下が,電気エネルギーの需要増大に伴う化石燃料の使用量増大により環境免への二次的な影響を生み出す,例えば空調のような冷却用途において特に重要となる。さらに,理想的なCFC冷媒代替物は,現在,CFC冷媒を使用して行われている従来の蒸気圧縮技術に対して大きなエンジニアリング上の変化を必要としない。
従って本発明の目的ば,冷却用途及び加熱用途に対して有用な,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンをベースとした新規な共沸混合物様組成物を提供することにある。」(公告公報第4欄第17?44行)との記載がある。
上記記載によれば、冷却用途やヒートポンプ用途に対して使用されている従来の混合物に代わる,フルオロカーボンをベースとした新規な共沸混合物を要望されていて、その代替物として、環境的に許容しうると考えられているフルオロカーボンベースの冷媒があり、部分ハロゲン化化学種である,ペンタフルオロエタン(HFC-125)やジフルオロメタン(HFC-32)が代替物質として挙げられていることがわかる。そして、本件特許明細書に「本発明の目的ば,冷却用途及び加熱用途に対して有用な,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンをベースとした新規な共沸混合物様組成物を提供することにある。」とある。
したがって、本件特許明細書には、代替物質であるペンタフルオロエタンと同じく代替物質であるジフルオロメタンとからなる共沸混合物様組成物が、完全ハロゲン化クロロフルオロカーボンの代替物として、冷媒として冷却用途やヒートポンプ用途に対して使用できることが記載されているものと認められる。
また、本件特許明細書には、「代替物質はさらに,化学安定性・・・使用効率等も含めて,CFCに特異的な性質を有していけなければならない。使用効率という特徴は,・・・例えば空調のような冷却用途において特に重要となる。」と記載されている。したがって、上記代替物質、すなわち、例示されているペンタフルオロエタン及びジフルオロメタンは、空調用途に対して使用できることが記載されており、ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとからなる共沸混合物様組成物が冷媒として空調用途に対して使用できることが記載されているものと認められる。
してみれば、本件特許明細書には、ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとからなる共沸混合物様組成物がヒートポンプ用又は空調用の冷媒として使用されること、すなわち、「ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとからなる空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物」が記載されていると言うことができる。
また、請求人は、「発明の背景」よりも更に本件特許発明との関連性が強いはずの「実施例」からは、「ヒートポンプ」および「空調」といった用途は全く読み取ることができない旨主張しているが、上記の如く、本件特許明細書には、「発明の詳細な説明」の「発明の背景」の欄に「ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとからなる空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物」が記載されていると認められるから、実施例に具体的に記載はなくとも、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるといえる。
訂正事項4及び6についても同様である。

(2-2)請求人の主張(2)について
請求人の当該主張は、訂正前の「共沸混合物様組成物」が実質上「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」に変更されている。この変更は、「7(審決注:○中7) 請求項のカテゴリー変更。」または「8(審決注:○中8) 請求項のカテゴリーは変更しないが、発明の対象が変更される場合。」に該当するというものである。
発明のカテゴリーには、「物の発明」、「方法の発明」及び「物を生産する方法の発明」があるが、訂正前も訂正後も請求項1記載の発明は、「共沸混合物様組成物」、すなわち、両者とも「物の発明」であって、「物の発明」というカテゴリーに変更はないから、請求人の訂正事項1は、「7(審決注:○中7) 請求項のカテゴリー変更。」に該当するとの主張は採用できない。
また、訂正前の請求項1記載の発明は、「ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとを含む共沸混合物様組成物」の発明であり、フロン類の組成物に係る発明である。フロン類の組成物の用途は冷媒の他、界面活性剤、エアロゾル噴射剤、熱輸送媒体、気体誘電体および作動油等があるところ、訂正後の請求項1記載の発明は、その用途を本件特許明細書に記載された「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」に特定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、「8(審決注:○中8) 請求項のカテゴリーは変更しないが、発明の対象が変更される場合。」に該当し、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものであるとの請求人の主張は採用できない。

したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項に違反するものであるとの請求人の主張は採用できない。

5 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものであるから、本件訂正を認める。

第3 本件特許に係る発明
以上のとおり、本件訂正は認容されたから、本件特許に係る発明は、本件明細書の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである(以下、これらを、「本件発明1」?「本件発明3」という。)。

「1.約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物。
2.請求項1に記載の組成物を凝縮させること,次いで前記組成物を冷却すべき物体の近くで蒸発させること,を含む,空調において冷却作用を生成させる方法。
3.請求項1に記載の組成物を加熱すべき物体の近くで凝縮させること,次いで前記組成物を蒸発させること,を含む加熱作用を生成させる方法。」

第4 当事者の主張

第4-1 本件審判の請求の趣旨、請求人の主張する無効理由の概要及び証 拠方法

1.本件審判の請求の趣旨及び請求人の主張する無効理由の概要
本件審判の請求の趣旨は、平成18年8月25日の審判請求書によれば、「『特許第1877437号の請求項1、2、4、および5に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。』との審決を求める。」というものであって、その「理由の要約」は、「本件特許の請求項1、2、4、および5に係る発明は、甲第1号証、甲第3号証、および甲第6号証に記載された発明であるか、または甲第1号証、甲第3号証、および甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号および第2項の規定に基づいて特許を受けることができないものであって、その特許は特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とされるべきものである。」というものである。

そして、平成19年4月23日の弁駁書、平成19年8月3日の口頭審理陳述要領書及び平成19年8月31日の上申書には、本件審判の請求の趣旨について、口頭審理陳述要領書の「第4 結語」に、「『訂正の請求を認めない。特許第1877437号の請求項1、2、4、および5に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。』との審決、または『訂正の請求を認める。特許第1877437号の訂正後の請求項1、2、および3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。』との審決を求める。」と記載され、その理由について、「被請求人が行った訂正の請求は、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項および第4項の規定を満たさず、許されないものである。
また、仮に訂正の請求が許された場合であっても、訂正後の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たさず、また、明細書の記載は特許法第36条第3項の規定を満たさず、さらに、訂正後の請求項1?3に記載の発明は特許法第29条第1項第3号および第2項に該当することから、訂正後の本件特許は特許法第123条第2号および第4号により無効とされるべきものである。」と記載されている。

本件訂正は、上記のとおり認容されたから、その結果、本件審判の請求の趣旨は、「『特許第1877437号の訂正後の請求項1、2、および3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。』との審決を求める。」というものであると認められる。
そして、訂正後の各発明についての無効理由は、上記のとおり、概略「訂正後の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たさず、また、明細書の記載は特許法第36条第3項の規定を満たさず、さらに、訂正後の請求項1?3に記載の発明は特許法第29条第1項第3号および第2項に該当する」というものであるところ、これらの理由のうち、特許法第36条についての理由は、審判請求書に記載していなかった新たな無効理由であるから、この理由を追加する補正は審判請求書の要旨を変更するものである。
しかし、この補正は、本件訂正の請求により必要が生じた請求の理由の補正であって特許法第131条の2第2項第1号に該当するものであり、審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであるから、決定をもって当該補正を許可する。
したがって、「訂正後の請求項1、2、および3に係る発明」すなわち、本件発明1?3についての特許を無効とすべきとする理由は、以下の無効理由1?5であると認められる。

無効理由1:本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易にその実施ができる程度に、本件発明1?3の目的、構成及び効果を記載したものではないから、本件発明1?3についての特許は、平成2年法律第30号による改正前の特許法(以下、「旧特許法」という。)第36条第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

無効理由2:本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が、旧特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、本件発明1?3についての特許は、旧特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

無効理由3:本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、よって、本件発明1?3についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由4:本件発明1?3は、甲第3号証の3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、甲第3号証の3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、よって、本件発明1?3についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由5:本件発明1?3は、甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、よって、本件発明1?3についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2.証拠方法
請求人が、審判請求書に添付した甲第1?8号証(甲第3号証は、平成18年9月21日の手続補正により、「甲第3号証の1」?「甲第3号証の10」と枝番号を付与されている。)、弁駁書に添付した甲9?17号証、口頭審理陳述要領書に添付した甲第18?20号証及び平成19年8月31日の上申書に添付した甲第21?23号証、参考資料1?6は、以下のとおりである。

(審判請求書に添付)
甲第1号証:イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニ
ー、「14623 水素含有クロロフルオロカーボン類」、
リサーチディスクロージャー、146、インダストリアル・
オポチュニティーズ・リミテッド、1976年発行、13?
14頁の公証された複写物(E I du Pont de Nemours and
Co, inc.,“14623 Hydrogen-containing
chlorofluorocarbons”, RESERCH DISCLOSURE, 146,
Industrial Opportunities Ltd., 1976,p.13-14)、および
抄訳
甲第2号証:特表平6-503832号公報
甲第3号証の1:宣誓供述書
甲第3号証の2:ジェームス、E、ヒルからの1988年10月11日付け
カバーレター
甲第3号証の3:上記レターの同封物「NIST Workshop on Property Data
Needs for the Ozone Safe Refrigerants」
甲第3号証の4:上記レターの同封物「LIST OF ATTENDEES NBS
WORKSHOP ON PROPERTY DATA NEEDS FOR OZONE-SAFE
REFRIGERANTS」
甲第3号証の5:上記レターの同封物「TERMOPHYSICAL PROPERTY NEEDS
FOR THE ENVIRONMENTALLY-ACCEPTABLE HALOCARBON
REFRIGERANTS」
甲第3号証の6:上記レターの同封物「NIST WORKSHOP PROPERTY DATA
FOR OZONE-SAFE REFRIGERANTS」
甲第3号証の7:上記レターの同封物「DESIRABLE CHARACTERISTICS OF
REPLACEMENT REFRIGERANTS FOR REFRIGERATOR/
FREEZERS AND THE THERMODYNAMIC/THERMOPHYSICAL
PROPERTY DATA NEEDS FOR THE DESIGN OF
THE EQUIPMENT」
甲第3号証の8:上記レターの同封物「ALTERNATE REFRIGERANT
PROPERTY DATA NEEDS FOR AUTOMOBILE AIR
CONDITIONING」
甲第3号証の9:上記レターの同封物「REQUIRED PROPERTIES FOR FOAM
PRODUCTS」
甲第3号証の10:上記レターの同封物「PAFT PROGRAM FOR ALTERNATIVE
FLUOROCARBON TOXICITY TESTING」
甲第4号証:サーマル・テクノロジー・センターのW.ケイス、スネルソ
ンが、ICIケミカルズ・アンド・ポリマーズのJ.デイ
ビッド、モリソン博士宛てに送付した、1999年1月5日
付けファクシミリレターおよびその同封物、ならびに抄訳
甲第5号証:本件特許の当時の特許権者であったアライドーシグナル・イ
ンコーポレーテッドが本件特許の対応米国特許第4,978
,467号に関して米国特許商標庁に提出した情報開示申告
書(Information Disclosure Statement) およびその添付物、
ならびに抄訳
甲第6号証:E.A.ヴァインヤード、P.E.ほか、「住宅用ヒートポ
ンプにおける容量調節のための、オゾン層に安全な非共沸冷
媒混合物の選択」、ASHRAEトランザクションズ、95
巻、第1部、米国暖房冷凍空調学会、1989年発行、34
?46頁(E.A. Vineyard, P.E. et al., “Selection of
Ozone-Safe, Nonazeotropic Refrigerant Mixtures for
Capacity Modulation in Residential Heat Pumps”,
ASHRAE TRANSACTIONS, VOLUME 95, PART 1,
THE AMERICAN SOCIETY OF HEATING, REFRIGERATING AND
AIR-CONDITIONING ENGINEERS, INC. 1989, p.34-46)の公証
されたコピー、および抄訳
甲第7号証:米国科学技術情報サービス局(NTIS)によって編纂およ
び頒布されたDIALOG^((R))ファイル記録、および抄訳
甲第8号証:特表平6-503828号公報

(弁駁書に添付)
甲第9号証:「Modern REFRIGERATION and AIR CONDITIONING」, Andrew D,
Althouse et al., THE GOODHEART-WILLCOX COMPANY, INC,
1988, 第761-763頁、およびその抄訳
甲第10号証:「Determination of Refrigerant Lower Flammability
Limits in Compliance with Proposed Addendum p
to Standard 34」, ASHRAE Transactions, Vol. 108,
Part 2, 2002, 第739-756頁、およびその全訳
甲第11号証:米国特許第3,470,101号明細書、およびその抄訳
甲第12号証の1:R-32/R-115混合物の各種組成および各種圧
力における沸点を示すグラフおよびデータ表
甲第12号証の2:R-32/R-115混合物の各種組成および各種圧
力における温度勾配を示すグラフおよびデータ表
甲第12号証の3:R-32/R-115混合物の各種組成における沸騰
圧を示すグラフおよびデータ表
甲第13号証:「HEAT PUMP NEWSLETTER」, ISSUE 6, October 1995, 第3
頁およびその抄訳
甲第14号証の1:「Heat Pumps」, R.D. Heap, SPON London, 1979, 第88
-89頁およびその抄訳
甲第14号証の2:甲第14号証の1に関する書誌的事項が記載された、
スミソニアン/NASA ADS 物理要約学サービ
スのウェブサイトのコピー
(http://adsabs.harverd.edu/abs/1979nyhp.book.....H
より2007年4月21日に入手したもの)
甲第15号証:R-134a/R-227ea混合物の各種組成および各
種圧力における温度勾配を示すグラフおよびデータ表
甲第16号証の1:R-32/R-143a混合物の各種組成および各種
圧力における温度勾配を示すグラフおよびデータ表
甲第16号証の2:R-125/R-143a混合物の各種組成および各
種圧力における温度勾配を示すグラフおよびデータ表
甲第17号証:R-32/R-115混合物の各種組成および各種エバポ
レーター温度における、COP、能力等を示すデータ表

(口頭審理陳述要領書に添付)
甲第18号証:東京高裁平成9年7月8日・平成7年(行ケ)第27号判決
甲第19号証:日本ボイラー協会編、「ボイラー便覧」、丸善株式会社、
1973年12月25日発行、789?796頁
甲第20号証: Dr. Mark O. McLinden and Dr. David A. Didion著
"Quest for alternatives," ASHRAE JOURNAL
December 1987、32?42頁

(平成19年8月31日の上申書に添付)
甲21号証:平成4年3月26日付け特許法第184条の5第1項の規定
による書面およびその添付書類としての請求の範囲の翻訳文
(本件特許に係る出願当初明細書の特許請求の範囲)
甲第22号証:平成4年3月26日付け手続補正書(その後の手続補正で
特許請求の範囲が補正された手続補正書)
甲第23号証:甲第11号証の全訳
参考資料1:Robert C. Reid他、"The property of gases and liquids",
1987, 272頁(乙第12号証と同一文献の異なる頁)
参考資料2:P. F. Malbrunot 他, "Pressure-Volume-Temperature
Behavior of Difluoromethane", Journal of Chemical
and Engineering Data,
Vol. 13, No. 1, January 1968, 16-21頁
参考資料3:J. G. Aston他, "The Heat Capacities from 10.9°K., Heats
of Transition, Fusion and Vaporization, Vapor Pressures
and Entropy of Pentafluoroethane, the Barrier Hindering
Internal Rotation", Thermodynamic Properties of
Pentafluoroethane,
August 5, 1955, 3929-3941頁
参考資料4:Whitney H. Mears他, "Pressure-Volume-Temperature
Behavior of Pentafluoromonochloroethane", Journal of
Chemical and Engineering Data,Vol. 11, No. 3, July
1966, 338-343頁
参考資料5:1バール圧力における、REFPROPを用いて得た温度勾配デ
ータと、Wilson式を用いて得た温度勾配データとの両方を
比較して示す図
参考資料6:本件特許に係る国際公開第91/05027号パンフレット
、14頁

第4-2 被請求人の答弁の概要及び証拠方法

1.答弁の概要
被請求人の答弁の趣旨は、「本件審判は成り立たない、審判請求費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」というものであって、証拠方法として、乙第1?32号証を提出している。

2.証拠方法
被請求人が、答弁書に添付した乙第1?6号証、口頭審理陳述要領書に添付した乙第7?24号証及び平成19年8月31日の上申書に添付した乙第25?32号証は、以下のとおりである。

(答弁書に添付)
乙第1号証:「化学大辞典2」,共立出版株式会社,1963年,第693頁
及び第860頁
乙第2号証:Lee H. Horsley,「Azeotropic Data-III, ADVANCES IN
CHEMISTRY, SERIES 116」,AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,
1973,第87頁,第89頁,第92頁,第95頁及び第105頁
乙第3号証:甲第6号証の第34頁?第45頁の翻訳文
乙第4号証-A:本件特許の組成物(R-32/R-125)と、従来の共沸混合物
冷媒(R-500,R-501及びR-502)との、温度勾配を比較し
た図及び表(1 bar)
乙第4号証-B:本件特許の組成物(R-32/R-125)と、従来の共沸混合物
冷媒(R-500,R-501及びR-502)との、温度勾配を比較し
た図及び表(5 bar)
乙第4号証-C:本件特許の組成物(R-32/R-125)と、従来の共沸混合物
冷媒(R-500,R-501及びR-502)との、温度勾配を比較し
た図及び表(21 bar)
乙第4号証-D:本件特許の組成物(R-32/R-125)と、非共沸混合物
(R-22/R-142b及びR-32/R-124)との、温度勾配を比較した
図及び表(1 bar)
乙第5号証:特許明細書の表IIIの追加データ
乙第6号証:RALPH C. DOWNING,「FLUOROCARBON REFRIGERANTS
HANDBOOK」,Prentice-Hall, Inc.,1988,第206頁(抄訳付き)

(口頭審理陳述要領書に添付)
乙第7号証:「非水溶性モノアゾ染料の製法(乙)事件」東高判昭46.6.29
(無体集3・1・254、判タ266.194)の写し
乙第8号証:米国特許第3,444,085
乙第9号証:James J. Jetter 他,“EVALUATION OF ALTERNATIVES FOR
HFC-134A REFRIGIRANT IN MOTOR VEHICLE AIR
CONDITIONING”, October 21-23,1996, 845頁?854頁
乙第10号証:“FINDINGS OF THE CHLOROFLUOROCARBON CHEMICAL
SUBSTITUTES INTRNATIONAL COMMITTEE”, April 1988,
全136頁
乙第11号証:JS Rowlinson, “Liquids and Liquid Mixtures”, 1971,
104-125頁
乙第12号証:Robert C. Reid 他,“The Properties of Gases and
Liquids”,1987, 255頁?256頁及び260頁?262頁
乙第13号証:EDUARD HALA 他,“VAPOUR-LIQUID EQUILIBRIUM”,
1958,128頁?130頁
乙第14号証:Stanley M. Walas, “Phase Equilibria in Chemical
Engineering”, 1985, 180頁及び322頁
乙第15号証の1:119psi及び247psiにおける、R-32/
R-125組成物の算出された温度勾配
乙第15号証の2:甲第11号証のR-32/R-115混合物と、本件
特許発明のR-32/R-125組成物とについて、
1barでの温度勾配を比較した図及び表
乙第15号証の3:甲第11号証のR-32/R-115混合物と、本件
特許発明のR-32/R-125組成物とについて、
0℃での沸騰圧力を比較した図及び表
乙第16号証:米国特許第3,444,085
乙第17号証:R-22と比較したR-32及びR-32を含有する種々の混合冷媒
の能力を示す表
乙第18号証:EP-A-509673
乙第19号証:ICI社 D. Ferrari 他, “PERFORMANCE TESTING OF R-22 AND
R-502 ALTERNATIVES BASED ON R-32/R-125/R-134a”, 223?
229頁、 September 21-23, 1994
乙第20号証:“410A High Pressure Alternative to HCFC-22”、1995
乙第21号証:“Modern refrigeration and air conditioning”, THE
GOODHEART-WILLCOX CO. INC., 1968, Chapter 26
(HEAT PUMP SYSTEMS PRINCIPLES, APPLICATIONS),
999頁、1002頁及び1003頁
乙第22号証:“HEAT PUMPS Prospects in Heat Pump technology and
Marketing”April 28-30, 1987, Chapter 5, 59?71頁
乙第23号証:“AIR CONDITIONING REFRIGERATING DATA BOOK”, THE
AMERICAN SOCIETY OF REFRIGERATING ENGINEERS, 1955,
17. THE HEAT PUMP, 17-01頁?17-11頁
乙第24号証:“38 YXA 13 SEER Split-System Heat Pump with R-410A”,
1997, 1?7頁

(平成19年8月31日の上申書に添付)
乙第25号証:“Modern refrigeration and air conditioning”, THE
GOODHEART-WILLCOX CO. INC., 1968, Chapter 26
(HEAT PUMP SYSTEMS PRINCIPLES, APPLICATIONS),
999頁?1003頁(乙第21号証)の翻訳文
乙第26号証:“HEAT PUMPS Prospects in Heat Pump technology and
Marketing”, April 28-30, 1987, Chapter 5, 59?71頁
(乙第22号証)の翻訳文
乙第27号証:“AIR CONDITIONING REFRIGERATING DATA BOOK”, THE
AMERICAN SOCIETY OF REFRIGERATING ENGINEERS, 1955, 17.
THE HEAT PUMP, 17-01頁?17-11頁(乙第23号証)
の翻訳文
乙第28号証:“38 YXA 13 SEER Split-System Heat Pump with R-410A”,
1997, 1?7頁(乙第24号証)の翻訳文
乙第29号証の1:請求人が提出した陳述要領書第6頁図1に対する反論
乙第29号証の2:請求人が提出した陳述要領書第24頁図2に対する反
論(甲第12号証の1のデータを加えた図)
乙第30号証:ウィルソン式を用いたR-32/R-125組成物の温度勾配の算出
乙第12号証の1:Robert C. Reid 他,“The Properties of Gases and
Liquids”,1987, 14頁?15頁、67頁、250頁?
251頁、255頁?256頁及び260頁?262頁、
並びにその抄訳
乙第31号証:P.F. Malbrunot 他, “Pressure-Volume-Temperature
Behavior of Difluoromethane”, Journal of Chemical
and Engineering Data,
Vol.13, No. 1, 16頁?21頁, January 1968、及びその抄訳
乙第32号証:D.S. Young 他, “The Action of Elementary Fluorine
Upon Organic Compounds. VIII. The Influence of
Dilution on the Vapor Phase Fluorination of Ethane”,
J. Amer. Chem. Soc., Vol.62, 1171頁?1173頁,
May 1940、及びその抄訳

第5 主な甲号証に記載された事項
次の各甲号証には、以下の事項が記載されている。

1.甲第1号証
(甲1-1)「蒸気圧縮系に有用な冷媒」(第14頁左欄第24行、抄訳第2頁第1行)

(甲1-2)「熱交換器に沿った大きな温度勾配は、一般的に言って、望ましくない。それらの成分の沸点差が増大すると、その勾配の大きさも増大し、ある特別な二成分系にあっては等モル混合物について最大となる。」(第14頁左欄第37?41行、抄訳第2頁第10?12行)

(甲1-3)「したがって、沸点が互いに適度に近い物質が二成分系冷媒の成分として好ましい。また、各成分が、相容れない相溶性要件に直面しないように化学的に同様であることも望まれる。冷却システムに見られる物質との相溶性に関して同様であり、適度に近い沸点を有するいくつかの物質が表Iに列挙される。」(第14頁左欄第42?48行、抄訳第2頁第13?16行)

(甲1-4)「

」(第14頁左欄)

2.甲第3号証の3
(甲3-1)「オゾン層に安全な冷媒のための特性データニーズについてのNIST(米国標準技術局)ワークショップ」(第1頁第1行、全訳第1頁第1?2行)

(甲3-2)「ディスカッションセッションの要約
幾つか準備されたプレゼンテーションの後、パネルは5つの具体的トピックスを扱う2つの討議グループに分けられた。以下は、問題の概要、討議および結論である。」(第1頁第10?13行、全訳第1頁第9?11行)

(甲3-3)「1.どのような冷媒が検討されるべきか?
(…中略…)
現在のところR502を使用している業務用冷凍システム(例えばスーパーマーケットなどに設置されているもの)には、優先的に採用すべきものとして特定された。R32およびR125(或いはこれらの混合物)が候補として挙げられた。」(第1頁第14?27行、全訳第1頁第12?25行)

(甲3-4)「2.混合物は計画されるべきか、もしそうならどれか?
共沸混合物は、疑いを持って見られる非共沸混合物と共に用いる多くの用途において許容されると思われてきた。共沸混合物に近いものは半ば受け入れられてきた。事細かな点では多くの不賛成もあったが、非共沸混合物を使用することを未決問題としながら、混合物が調査されるべきであるとの意見の一致があった。

混合物は、特にそれらが単一成分流体よりも高いCOPを得られるであろう場合、冷却装置に使用する冷媒として一つの良好な可能性と見なされた。一方のグループは、大規模な冷却装置を非共沸混合物の一つの可能ある用途として特定する一方、他方のグループは混合物が大型装置における問題を与えるであろうことを示した。非共沸混合物は、自動空調装置における使用に許諾できないものと見なされた。混合物の受け入れを拒むために提示された一つの説明は、単に、通常冷却装置を設計する機械技術者の側における熟知の欠如であった。

提案された具体的混合物は以下の通りであった:

共沸様混合物
R22/152a
R22/142b
R134a/152a
R32/124
R32/125

非共沸混合物
R23/152a
R32/124

上記に列挙したもののうち、冒頭から3つの混合物は冷却装置に使用するものとして提案された。」(第2頁第3?28行、全訳第2頁第7行?下から4行)

3.甲第6号証
(甲6-1)「住宅用ヒートポンプにおける容量調節のための、オゾン層に安全な非共沸冷媒混合物の選択」(第34頁第1?3行、訳は乙第3号証第1頁第3?4行)

(甲6-2)「要約
冷媒の多くの組合せが住宅用ヒートポンプの効率の改良を目指して試験されてきた。現時点までに、どの流体のペアがヒートポンプ性能を改良するために最も有望であるかを決定するための系統的なアプローチは存在していない。この研究の主要な目的は、組成の転換を通じて、複数のヒートポンプ系の容量を建築物の負荷に良好にしたがうように調節することにより、それらヒートポンプ系の性能を改良し得る冷媒のペアを包括的に選別することであった。
(…中略…)
数多くの純粋成分を、沸点、安定性、オゾン層破壊可能性及び毒性に基づいてペアにした。次に、温度勾配(temperature glide)(流体が熱交換器を通過するときにその流体が二相領域で受ける定圧温度変化)及び成績係数を用いて複数の純粋成分から複数のペアを組み合わせて、最も高い可能性を有するペアを決定した。結論として、R32/R124、R32/R142b、R143a/R124、R143a/R142b及びR143a/C318の混合物が本計画の目標を達成するための最良の候補であった。これらの混合物は、容量調節に重点をおいて住宅用ヒートポンプに向けたものだが、この選別方法は他の冷媒用途にも同様に使用できるであろう。」(第34頁左欄第1?29行、訳は乙第3号証第1頁第11?28行)

(甲6-3)「序論
ヒートポンプ系において、非共沸冷媒混合物(NARMs)は純粋冷媒に対していくつかの利点を有するとされている。これらの利点には、改良された成績係数(COP)、容量制御及び低い周囲温度にて改良された容量がある。これらの利点の各々は、これまでの研究努力で個々に証明されている。例えば、COP(成績係数)の改良は、両方の熱交換器において混合物の温度勾配を熱伝達流体の温度勾配と合致させることにより空調用途について達成されている(マルロイら、1988年)。」(第34頁左欄第30行?右欄第3行、訳は乙第3号証第1頁第30?37行)

(甲6-4)「方法論
NARM(非共沸冷媒混合物)の成分を構成する純粋化合物を選択する過程で数種の基準を考慮した。これらの基準は二つの群に分けることができる。すなわち、妥協することが出来ず、冷媒を考慮の対象から削除する“厳しい基準”と削除の基礎として用い得る項目であるが、関心のある容量または沸点について隔たりを埋めるために必要な冷媒に含めるのに備えて、変更し得るか或いは緩和し得る項目である“柔軟な基準”である。厳しい基準の例は、(1)毒性、(2)不安定性、及び(3)オゾン層破壊可能性である。柔軟な基準としては、(1)引火性、(2)沸点、及び(3)商業的入手可能性が挙げられる。最初の評価では、引火性は厳しい基準の範疇に含めていた。これは後になってより多くの冷媒の評価を可能とするために柔軟な基準に変更した。
ある化合物を厳しい基準及び柔軟な基準に基づき更なる分析に適していると決定したら、その性能をコンピューターモデルを用いて評価して、空気源ヒートポンプ用のエネルギー省の標準評価条件での容量及びCOP(成績係数)を決定した。次にこれらの性能の見積りを混合物の温度勾配の見積もりと共に用いて、どの冷媒のペアが本計画の目標を達成するために最大の可能性を示すかを決定した。」(第34頁右欄下から14行?第41頁左欄第12行、訳は乙第3号証第2頁第15?31行)

(甲6-5)「柔軟な基準
最初の評価過程が完了した後に7種の冷媒が残った。この残った冷媒は、R125、R22、R218、R134a、R124、R124a及びR318であった。この研究においてより多くの冷媒を含めることを考慮に入れて、冷媒を除外するための要件を再評価して、基準を緩めることができるか否かを判断した。引火性は二つの理由で厳しい基準から柔軟な基準へと変更することを決定した。」(第42頁左欄下から10?2行、訳は乙第3号証第4頁第10?15行)

(甲6-6)「温度勾配
純粋冷媒の理論的性能が分かると、どの混合物が凝縮器及び蒸発器の熱伝達流体中で生ずる温度勾配に最もよく合致するかを決定するためにそれら混合物の温度勾配を見積もることが必要となった。」(第43頁右欄下から13?8行、訳は乙第3号証第6頁第6?9行)

(甲6-7)「結果
図2のデータより、12種の好ましい冷媒の50/50重量%混合物について温度勾配を示すマトリックス(表3)を構築することができた。このマトリックスの斜線を施した部分は、複数の熱交換器における温度勾配に合致させるために最も可能性を有する混合物からなる。」(第44頁左欄第3?9号、訳は乙第3号証第6頁第16?20行)

(甲6-8)「結論及び推奨
以下の結論及び推奨は、本研究において規定された要件、すなわち、住宅用ヒートポンプ、容量制御、低い周囲温度での高い容量、及び複数の熱交換器における温度勾配の合致のみに適用される。
(…中略…)
・特定された混合物の成分の多くは、可能性のある純粋冷媒、すなわちオゾン層を破壊するCFC類に対する近共沸混合物(near-azeotrope)代替品(例えば、R502に代わるR32、R125及びR143aまたはR114に代わるR143)としても研究されるべきである。」(第45頁左欄第11行?右欄第9行、訳は乙第3号証第7頁第24行?第8頁第18行)

(甲6-9)「

」(第44頁右上欄、訳は乙第3号証第17頁下)

第6 当審の判断

第6-1 無効理由1についての判断
請求人は、以下の(1)、(2)の点を挙げて、本件特許は、旧特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないと主張している。

(1)「実施例4で評価されたブレンド物の組成(R-32/R-125=80/20)はもはや訂正後の請求項1に記載の組成範囲には包含されないどころか、そのような範囲から大きく外れているのである。」(口頭審理陳述要領書第5頁第15?18行)
(2)「訂正後の請求項1に記載される約35.7?約50.0重量%のR-125(ペンタフルオロエタン)と約64.3?約50.0重量のR-32(ジフルオロメタン)とからなる組成範囲の全域にわたって、請求項1に記載される『32゜Fにて約119.0psiaの蒸気圧』を実現できるとは発明の詳細な説明は全く記載されていない。すなわち、本件特許明細書の表IIにおいて、訂正後の請求項1におけるR-125含有量の下限値35.7重量%に最も近い約34.2重量%における蒸気圧は0℃で118.8psiaであり、その上限値50.0重量%に最も近い約51.6重量%における蒸気圧にあっては0℃で116.6psiaにまで低下するのである。このR-125の35.7重量%から50.0重量%にかけての0℃での蒸気圧変化が如何に急激なものであるのかは、表IIの蒸気圧-組成データをグラフ化した下記図1を見れば一目瞭然である。

図1 本件特許明細書の表IIに示される0℃での蒸気圧(psia)の組成による変化



このように、訂正後の請求項1に記載される『約35.7?約50.0重量%』のR-125(ペンタフルオロエタン)組成範囲における蒸気圧は、同じく訂正後の請求項1に記載される『32゜Fにて約119.0psiaの蒸気圧』と比べて格段に低いのである。この傾向は、図1から明らかなように、蒸気圧が急激に低下している50/50重量%付近のR-32/R-125において特に顕著であると言える。
加えて、小数点以下第一位までの数値までも規定するほどの厳密さで蒸気圧が請求項1に規定されているという特殊事情をも勘案すれば、当業者が訂正後の請求項1に係る発明、特にその小数点以下第一位まで厳密に規定された『32゜Fにて約119.0psiaの蒸気圧』、を容易に実施できないことは明らかである。」(口頭審理陳述要領書第5頁第19行?第6頁最下行)

しかしながら、以下に示すとおり、上記請求人の主張(1)、(2)は、いずれも理由がない。

(1)について
この審判事件に係る審決取消の判決(知財高裁平成20年(行ケ)第10235号、平成22年1月14日判決言渡、以下、「本件判決」という。)では、請求人の主張(1)について以下のとおり示されている。
「さらに,本件訂正明細書の実施例1,2の記載からすれば,本件発明における共沸混合物様組成物は,その全範囲(ペンタフルオロエタンが約35.7?約50.0重量%,ジフルオロメタンが約64.3?約50.0重量%の範囲)に渡って真の共沸混合物のように挙動する,すなわち単一の物質であるかのように挙動することが理解でき,本件発明の組成物につき,フルオロカーボンをベースとした流体の周知の用途である空調又はヒートポンプの冷媒に用いることができることも,当業者であれば理解可能である。
なお,実施例4として記載されていた具体例(ペンタフルオロエタンが20重量%,ジフルオロメタンが80重量%のもの)は,本件訂正によって,本件発明の範囲外とはなったが,本件訂正明細書には,組成範囲が限定された本件発明の組成物も,訂正前の組成物と同様に共沸混合物様であることが開示されているから,当業者であれば,共沸混合物様の組成物を用いる実施例4の記載をもって,本件発明と同様の効果を導き出すことが容易といえる。
また,本件発明が共沸混合物様であることを示す実施例1,2や,難燃性であることを示す実施例3の記載からしても,当業者が本件発明の効果を理解することは可能というべきである。
以上のとおり,当業者であれば,本件訂正明細書の記載から,本件発明に係る共沸混合物様組成物の全範囲が空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用できることが理解可能であって,実施例4として記載されていた具体例が本件訂正によって本件発明の対象外となってもなお,本件発明が実施可能要件に欠けることはないというべきである。」(第5 当裁判所の判断、1 取消事由1(「本件発明が本件訂正明細書における実施例によってカバーされていない」旨の認定の誤り)について(4)、下線は合議体による。)
したがって、請求人の主張(1)には、理由がない。

(2)について
本件判決では、本件発明1の特許請求の範囲には、「約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり」(以下、「前段」という。)との記載及び「32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」(以下「後段」という。)との記載が存在するとしたうえで(第5 当裁判所の判断、2 取消事由2(「訂正後の請求項1における組成範囲の記載では,『32°Fにおいて約119.0psiaの蒸気圧』を実施することはできない」旨の判断の誤り)について(1))、「後段における蒸気圧の記載は,「真の共沸混合物」が有する属性を記載したものにすぎないと解すべき」であって、当業者であれば、「本件発明が「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての組成物であって,約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,『32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する,共沸混合物』のように挙動する組成物」であるものと理解し,その旨実施することができるものと認められる。」(第5 当裁判所の判断、2 取消事由2(「訂正後の請求項1における組成範囲の記載では,『32°Fにおいて約119.0psiaの蒸気圧』を実施することはできない」旨の判断の誤り)について(2)イ)と示している。
したがって、請求人の主張(2)には、理由がない。

よって、本件特許は、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、旧特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとすることはできず、特許法第123条第1項第4号に該当しないから、無効とすべきものではない。
したがって、請求人の主張する無効理由1には、理由がない。

第6-2 無効理由2についての判断
請求人は、本件明細書には、本件発明1?3の組成物が「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」としての用途を有する点についての具体的記載がないことを挙げて、本件特許は、旧特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないと主張している(口頭審理陳述要領書第4頁第10?13行)。

しかしながら、本件判決で以下のとおり示されているように、本件明細書には、本件発明1?3の組成物が、空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用可能なことが記載されている。

「しかし,本件発明は,前記(1) ウ記載のとおり,その組成範囲が限定された組成物であって,本件訂正明細書において,同組成物が共沸混合物様に挙動し,かつ,同組成物が空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用可能であることが開示されている。」(第5 当裁判所の判断、1 取消事由1(「本件発明が本件訂正明細書における実施例によってカバーされていない」旨の認定の誤り)について(5)、下線は合議体による。)

よって、本件特許は、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、旧特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとすることはできず、特許法第123条第1項第4号に該当しないから、無効とすべきものではない。
したがって、請求人の主張する無効理由2には、理由がない。

第6-3 無効理由3についての判断
1.甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、「蒸気圧縮系に有用な冷媒」について記載されており(摘記(甲1-1))、「沸点が互いに適度に近い物質が二成分系冷媒の成分として好ましい」こと(摘記(甲1-3))、「適度に近い沸点を有するいくつかの物質」として、「R-125とR-32からなる二成分系冷媒」が記載されている(摘記(甲1-3)、(甲1-4)の表I中下から6段目)。
そうすると、甲第1号証には、
「R-125とR-32からなる蒸気圧縮系に有用な二成分系冷媒」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

2.本件発明1
本件発明1と甲1発明を対比する前提として、本件発明1の特許請求の範囲の記載を検討すると、上記第6-1の「(2)について」で述べたとおり、本件発明1は、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての組成物であって,約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,『32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する,共沸混合物』のように挙動する組成物」と理解すべきものである。
したがって、本件発明1の特許請求の範囲に記載された「32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」「共沸混合物様組成物」とは、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」である。

3.本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「R-125」、「R-32」、「二成分系冷媒」は、それぞれ、本件発明1の「ペンタフルオロエタン」、「ジフルオロメタン」、「冷媒としての…組成物」に相当するから、両発明は、
「ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとからなる、冷媒としての組成物」
の点で一致し、次の(1)?(3)の点で相違する(以下、「相違点1」?「相違点3」という。)。

(1)相違点1
本件発明1は、「32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」「共沸混合物様組成物」、すなわち、上記2.で述べたとおり、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるのに対して、甲1発明は、そのような組成物であるか不明な点

(2)相違点2
本件発明1は、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」であるのに対して、甲1発明は、「蒸気圧縮系に有用な冷媒」である点

(3)相違点3
ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンの配合量が、本件発明1は、「約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタン」であるのに対して、甲1発明の配合量は不明である点

4.相違点1について
請求人は、相違点1について、以下のとおり主張している。
「甲第1号証14頁左欄37?48行には、「熱交換器に沿った大きな温度勾配は・・・望ましくない。・・・したがって、沸点が互いに適度に近い物質が好ましい・・・適度に近い沸点を有する幾つかの物質が表Iに列挙される」と記載されており、要するに、表Iに記載されるR-32およびR-125の混合物が二成分間の沸点の差が小さいが故に熱交換器に沿って小さい温度勾配を生じること、すなわち実質的に定沸ないし「共沸混合物様」となることが記載されている。
(…中略…)
2つの成分の沸点が近似していることで「共沸混合物“様”組成物」が形成することが十分に期待されるのであることは公知事項または出願当時の技術常識であり、甲第6号証34頁右欄の16?18行(乙第3号証2頁8行目)に「混合物の温度勾配は沸点差が増加するにつれて増加する。」と説明されており、また、第6号証43頁右欄下から3行?44頁左欄2行(乙第3号証6頁12?14行目)に「これらの化合物の沸点差がわかると、データが入手できないために・・・において実行できなかった化合物の温度勾配を見積もるための図(図2)を構築することが可能であった」と説明されていることから明らかである^(6)。共沸混合物を形成しなくても低い温度勾配を有することで組成範囲全域にわたって共沸混合物様挙動を示すこともまた事実であり、このことは甲第15号証においてR-134a/R-227ea混合物の組成範囲全域における温度勾配のグラフおよびそのデータ表から明らかである。」(口頭審理陳述要領書第16頁第12行?第17頁第11行)

上記によれば、請求人は、2つの成分の沸点が近似していることで、温度勾配が小さくなり、「共沸混合物“様”組成物」を形成することが十分に期待されると主張しているものと認められるが、本件発明1における「共沸混合物様組成物」とは、上記2.で述べたとおり、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるところ、2つの成分の沸点が近似しているからといって、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」を形成するかどうかは明らかでない。
そして、甲第1号証には、ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンの沸点差が6°Fであることは記載されているが(摘記(甲1-4))、沸点差が6°Fであれば、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるということはできないし、それが当業者に容易なものでもない。
したがって、甲1発明は、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるとはいえず、また、そのような組成物とすることが当業者に容易であるともいえない。

5.効果について
本件明細書には、本件発明1の効果について、以下のとおり記載されている。

(1)「約35?50重量%のHFC-125と約65?50重量%のHFC-32を含んだ組成物は,共沸混合物様であって且つ難燃性である。」(第4頁第4?5行)
(2)「表IIに記載のデータを内挿することにより,約1?50重量%のペンタフルオロエタン及び約99?50重量%のジフルオロメタンを含んだ組成において,蒸気圧は5psia(34kPa)の範囲内で実質的に一定であることがわかる(すなわち,この組成範囲においては,組成物は実質的に一定の沸点で沸騰するか,あるいは共沸混合物様である)。」(第9頁表IIの下から2行?6行)
(3)「言い換えると,35.7重量%以上のHFC-125を含有したHFC-125/HFC-32ブレンド物は,そのあらゆる割合において,周囲条件にて空気中で難燃性である。」(第10頁第6?8行)
(4)「HFC-125とHFC-32とを含んだ共沸混合物様ブレンド物はHFC-32単独より燃焼性が低く,また共沸混合物様の挙動を示すので凝離を起こすことがない。」(第10頁第10?12行)
(5)「さらに、本実施例にて使用されている20重量%より多いHFC-125を含んだ共沸混合物様のHFC-32/HFC-125混合物は、HFC-32単独の場合と等しい性能,及びより一層低い圧縮機排出温度を与える。」(第11頁最下行?第12頁第2行)

一方、請求人は、本件発明1の効果について、「一定の沸点を有するかあるいは実質的に一定の沸点を有する」ことは、「共沸混合物様組成物」の定義そのものであるから、甲第1号証に記載されているに等しい効果であり、「難燃性」であることは、当業者の技術常識から予測可能な効果であり、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒として有用」であることは、実施例4が本件発明1とは配合量が異なる組成物を使用し、低温冷却サイクルのための評価を行った例であるから、実施例4は、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒として有用」なことを示すものではなく、よって、本件発明1が、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒として有用」であるとの効果は、本件明細書に記載されていないことを挙げて、本件発明1の効果は、甲第1号証の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものであると主張していると認められる(口頭審理陳述要領書第21頁第1行?第22頁第21行)。

そこで、上記主張について検討すると、甲第1号証に、本件発明1における「共沸混合物様組成物」、すなわち、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」が記載されているということはできないし、それが当業者に容易なものともいえないことは、上記4.で述べたとおりである。
したがって、本件発明1の組成物が、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるという効果は、甲第1号証の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものではない。
また、本件明細書には、本件発明1の組成物が、空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用可能なことが記載されていることは、上記第6-2で述べたとおりである。
さらに、上記(5)によれば、実施例4で使用された配合量のみならず、HFC-125が20重量%よりも多い、本件発明1の配合量であっても、HFC-32単独の場合と等しい性能、及びより一層低い圧縮機排出温度を与えるものであるところ、このような効果は、甲第1号証の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものではない。

以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できず、本件発明1は、上記(1)?(5)に示したとおりの効果を奏するものであり、これらの効果は、甲第1号証の記載及び当業者の技術常識から予測し得るものではない。

6.本件発明1についてのまとめ
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものでも、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

7.本件発明2、3
本件発明2、3は、本件発明1の組成物を用いた「冷却作用を生成させる方法」、「加熱作用を生成させる方法」の発明であるから、本件発明1の組成物が、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2、3も、同様に、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件発明2、3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

8.まとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当しないから、無効理由3には、理由がない。

第6-4 無効理由4についての判断
1.甲第3号証の3に記載された発明
甲第3号証の3には、「オゾン層に安全な冷媒のための特性データニーズについてのNIST(米国標準技術局)ワークショップ」(摘記(甲3-1))において、「5つの具体的トピックス」を扱う討議グループがあったこと(摘記(甲3-2))、1つめのトピックスは、「1.どのような冷媒が検討されるべきか?」であり、「現在のところR502を使用している業務用冷凍システム(例えばスーパーマーケットなどに設置されているもの)には、優先的に採用すべきものとして特定された。R32およびR125(或いはこれらの混合物)が候補として挙げられた。」(摘記(甲3-3))と記載されている。
さらに、2つめのトピックスは、「2.混合物は計画されるべきか、もしそうならどれか?」であり、「提案された具体的混合物」として、「共沸様混合物」である「R32/125」が挙げられている(摘記(甲3-4))。
そうすると、甲第3号証の3には、
「R32とR125からなる共沸様混合物」
の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

2.本件発明1と甲3発明の対比
本件発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明の「R32」、「R125」、「混合物」は、それぞれ、本件発明1の「ジフルオロメタン」、「ペンタフルオロエタン」、「組成物」に相当するから、両発明は、
「ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとからなる組成物」
の点で一致し、以下の(1)?(3)の点で相違する(以下、「相違点1’」?「相違点3’」という。)。

(1)相違点1’
本件発明1は、「32°F にて約119.0psiaの蒸気圧を有する」「共沸混合物様組成物」、すなわち、上記第6-3の2.で述べたとおり、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるのに対して、甲3発明の「共沸様混合物」は、そのようなものであるか不明な点

(2)相違点2’
本件発明1は、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」であるのに対して、甲3発明は、そのようなものであるか不明な点

(3)相違点3’
ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンの配合量が、本件発明1は、「約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタン」であるのに対して、甲3発明の配合量は不明である点

3.相違点1’について
請求人は、相違点1’について、「32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」ことは、甲第3号証の3に開示される「R125/R32混合物が内在する固有の性質にすぎない」から、甲第3号証の3に記載されているに等しく、実質的な相違点とは認められないと主張している(口頭審理陳述要領書第14頁第20?23行)。
しかしながら、本件発明1の特許請求の範囲に記載された「32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」「共沸混合物様組成物」とは、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であることは、上記第6-3の2.で述べたとおりである。
そして、甲第3号証の3に「R32とR125からなる共沸様混合物」が記載されていても、この共沸様混合物が、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であることは記載されていないし、それが当業者に容易なものともいえない。
したがって、甲3発明は、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるということはできず、また、それが当業者に容易なものともいえない。

4.相違点2’について
請求人は、相違点2’について、以下の点を挙げて、甲3発明が、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」であることは、甲第3号証の3に記載されているに等しいと主張している。

「甲第3号証の3の1頁目14?26行には「業務用冷凍システム・・・には・・・R32およびR125(或いはこれらの混合物)が候補として挙げられた」との記載が、また同2頁目13?14行には「自動空調装置における使用」との記載も存在する。そして、冷媒を凝縮及び蒸発させて冷却及び加熱を行うことがヒートポンプを用いた空調の原理そのものであることは優先日当時の技術常識である。」(口頭審理陳述要領書第15頁第18?23行)

しかしながら、請求人主張の「自動空調装置における使用」との記載は、「非共沸混合物は、自動空調装置における使用に許諾できないものと見なされた。」との記載の一部であるから(摘記(甲3-4))、甲3発明の組成物が、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」であることについて記載したものではない。
さらに、請求人主張の「業務用冷凍システム・・・には・・・R32およびR125(或いはこれらの混合物)が候補として挙げられた」との記載について検討しても、上記1.で述べたように、「1.どのような冷媒が検討されるべきか?」との1つめのトピックスにおいて、今後検討されるべき冷媒の候補の一つとして挙げられたにすぎないものであって、甲3発明の組成物が、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」であることについてまでは記載されているとはいえない。
また、摘記(甲3-4)の記載について検討しても、上記1.で述べたように、共沸様混合物であるR32/125は、「2.混合物は計画されるべきか、もしそうならどれか?」という2つめのトピックスで提案された、仮に混合物を計画するとしたら、という前提のもとで挙げられた混合物の一つにすぎないものであって、しかも、提案された共沸様混合物のうち、「冒頭から3つの混合物は冷却装置に使用するものとして提案」されているのに対し(摘記(甲3-4))、「R32/125」については何に使用するものであるのか不明である。
そうすると、甲第3号証の3には、甲3発明が、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」であることが記載されているということはできず、また、それが当業者に容易であるともいえない。

5.効果について
本件明細書には、上記第6-3の5.で述べた(1)?(5)の効果について記載されているのに対して、請求人は、「一定の沸点を有するかあるいは実質的に一定の沸点を有する」ことは、「共沸混合物様組成物」の定義そのものであるから、甲第3号証の3に記載されているに等しい効果であり、「難燃性」であることは、当業者の技術常識から予測可能な効果であり、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒として有用」であることは、実施例4が本件発明1とは配合量が異なる組成物を使用し、低温冷却サイクルのための評価を行った例であるから、実施例4は、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒として有用」なことを示すものではなく、よって、本件発明1が、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒として有用」であるとの効果は、本件明細書に記載されていないことを挙げて、本件発明1の効果は、甲第3号証の3の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものであると主張している(口頭審理陳述要領書第21頁第1行?第22頁第21行)。

そこで、上記主張について検討すると、甲第3号証の3に、本件発明1における「共沸混合物様組成物」、すなわち、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」が記載されているということはできないし、それが当業者に容易なものともいえないことは、上記3.で述べたとおりである。
したがって、本件発明1の組成物が、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるという効果は、甲第3号証の3の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものではない。
また、本件明細書には、本件発明1の組成物が、空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用可能なことが記載されていることは、上記第6-2で述べたとおりである。
さらに、上記第6-3の5.(5)によれば、実施例4で使用された配合比のみならず、HFC-125が20重量%よりも多い、本件発明1の配合比であっても、HFC-32単独の場合と等しい性能、及びより一層低い圧縮機排出温度を与えるものであるところ、このような効果は、甲第3号証の3の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものではない。

以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できず、本件発明1は、上記第6-3の5.(1)?(5)に示したとおりの効果を奏するものであり、これらの効果は、甲第3号証の3の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものではない。

6.本件発明1についてのまとめ
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証の3に記載された発明ではなく、また、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものでも、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

7.本件発明2、3
本件発明2、3は、本件発明1の組成物を用いた「冷却作用を生成させる方法」、「加熱作用を生成させる方法」の発明であるから、本件発明1の組成物が、甲第3号証の3に記載された発明ではなく、また、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2、3も、同様に、甲第3号証の3に記載された発明ではなく、また、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件発明2、3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

8.まとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当しないから、無効理由4には、理由がない。

第6-5 無効理由5についての判断
1.甲第6号証に記載された発明
甲第6号証には、表3として、「50/50重量%組成物についての混合物成分および関連温度勾配」が記載され、「R32とR125の50/50重量%組成物」の温度勾配が3°であることが記載されている(摘記(甲6-9))。
また、上記50/50重量%組成物は、「冷媒の50/50重量%混合物」であると記載されているから(摘記(甲6-7))、上記50/50重量%組成物は「冷媒組成物」である。
そうすると、甲第6号証には、
「温度勾配が3°であるR32とR125の50/50重量%の冷媒組成物」
の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。

2.本件発明1と甲6発明の対比
本件発明1と甲6発明を対比すると、甲6発明の「R32」、「R125」、「冷媒組成物」は、それぞれ、本件発明1の「ジフルオロメタン」、「ペンタフルオロエタン」、「冷媒としての…組成物」に相当する。
そして、甲6発明は、R32とR125の配合量が50/50重量%であるから、本件発明1の「約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタン」とは、配合量が重複している。
そうすると、本件発明1と甲6発明は、
「約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタンとからなる冷媒としての組成物」
の点で一致し、以下の(1)、(2)の点で相違する(以下、「相違点1”」、「相違点2”」という。)。

(1)相違点1”
本件発明1は、「32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」「共沸混合物様組成物」、すなわち、上記第6-3の2.で述べたとおり、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるのに対して、甲6発明は、「温度勾配が3°である」組成物である点

(2)相違点2”
本件発明1は、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」であるのに対して、甲6発明は、そのような冷媒であるか不明な点

3.相違点1”について
請求人は、相違点1”について、「32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」ことは、甲第6号証に開示される「R125/R32混合物が内在する固有の性質にすぎない」から、甲第6号証に記載されているに等しく、実質的な相違点とは認められないと主張している(口頭審理陳述要領書第14頁第20?23行)。
しかしながら、本件発明1の特許請求の範囲に記載された「32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する」「共沸混合物様組成物」とは、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であることは、上記第6-3の2.で述べたとおりである。
そして、甲第6号証に「温度勾配が3°であるR32とR125の50/50重量%の冷媒組成物」が記載されていても、この組成物が、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であることは記載されていないし、それが当業者に容易なものともいえない。
したがって、甲6発明は、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるということはできず、また、そのような組成物とすることが当業者に容易なものともいえない。

4.相違点2”について
請求人は、相違点2”について、以下のとおり主張している。

「甲第6号証には、34頁左欄下から2?1行に「COP(成績係数)の改良は・・・空調用途について達成」と、タイトルを始めとする記載全般にわたって「住宅用ヒートポンプ」との用途が、44頁左欄4?6行には「12種の好ましい冷媒の50/50重量%について・・・(表3)を構築」と記載されており、冷媒を「住宅用ヒートポンプ」ないし「空調」に用いることが明確に記載されている。特に、甲第6号証の全体が「住宅用ヒートポンプ」に関する記述であり、この「住宅用ヒートポンプ」が「空調」を必然的に教示することは甲第13号証および甲第14号証の1ならびに甲第19号証に記載される通りである。
このように、空調用又はヒートポンプ用の冷媒という用途は甲第1、3および6号証に記載されているに等しいのである。」(口頭審理陳述要領書第15頁最下行?第16頁第9行)

すなわち、甲第6号証がその全体にわたって「住宅用ヒートポンプ」について記載されたものであることを挙げて、甲第6号証には、甲6発明が「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」であることが記載されているに等しいと主張しているものと認められるところ、それに対する被請求人の主張に対し、請求人は、以下のとおり反論している。

「ところで、被請求人は、「甲第6号証は、R-125とR-32からなる50/50重量%混合物を、ヒートポンプ用の混合冷媒としての適切な組み合わせから明らかに除外している。」と主張するが(答弁書27頁下から4行?最終行)、これは全くの誤りである。すなわち、甲第6号証44頁の左欄4?6行(乙第3号証17?18行)には「12種の好ましい冷媒の50/50重量%混合物について温度勾配を示すマトリックス(表3)を構築することができた」したとの記載があり、表3に記載される冷媒は、50/50重量%のR-32/R-125組成物を含めて、いずれも住宅用ヒートポンプに「好ましい冷媒」として開示されているのである。つまり、甲第6号証は、50/50重量%のR-32/R-125組成物を適切な組み合わせから除外しているのではなく、温度勾配のある冷媒を用いて効率の改善を実現しようとする場合にはR-32/R-125組成物が好ましいとは言えないことを教示しているにすぎないのであり、住宅用ヒートポンプ一般にはむしろ好ましいものとして教示しているのである。事実、甲第6号証45頁右欄箇条書き3番目(乙第3号証8頁15?18行)には、「特定された混合物成分の多くも・・・オゾンを減少させるCFC類の『共沸混合物様』代替品として研究されるべきである(例えば、R-502にはR-32、R-125」と記載されており、R-32/R-125混合物の共沸混合物様組成物としての使用が提案されているのである。よって、被請求人の上記主張には理由がない。」(口頭審理陳述要領書第14頁第1?19行)

そこで、甲第6号証の記載について検討する。
甲第6号証には、住宅用ヒートポンプにおける非共沸冷媒混合物の選択について記載されており(摘記(甲6-1))、研究の主要な目的は、ヒートポンプ系の性能を改良し得る冷媒のペアを選別することであること(摘記(甲6-2))、冷媒のペアを選別するにあたり、最初の段階として、沸点等に基づいて好ましい純粋成分を選択し、第2段階として、選択された純粋成分をペアにした中から、温度勾配等に基づき最も好ましいペアを決定するという2段階の過程を経たことが記載されている(摘記(甲6-2))。
そして、最初の段階として、好ましい純粋成分を選択するに際し、妥協することができない“厳しい基準”と緩和し得る“柔軟な基準”が存在すること(摘記(甲6-4))、“厳しい基準”を満たす純粋成分として7種の冷媒が残ったこと、その後、引火性を厳しい基準から柔軟な基準へと変更し(摘記(甲6-5))、最終的には先の7種の冷媒にいくつかの冷媒を加えた12種の好ましい冷媒が純粋成分として選択されたことが記載されている(摘記(甲6-7))。
また、純粋成分の冷媒を選択した後、第2段階として、どの混合物が好ましい温度勾配を示すか決定するために、その温度勾配を見積もり(摘記(甲6-6))、表3のマトリックスを構築したと記載されている(摘記(甲6-7))。
表3のマトリックスでは、温度勾配が10?29°のペアについて斜線が施され(摘記(甲6-9))、この斜線を施した部分が、複数の熱交換器における温度勾配に合致させるために最も可能性を有する混合物であると記載されている(摘記(甲6-7))。

以上によれば、甲第6号証においては、最初の段階として、沸点等に基づいて好ましい純粋成分である12種類の冷媒を選択した後、第2段階として、その12種類の冷媒を組み合わせたペアの中からさらに、好ましい温度勾配を示すペアを住宅用ヒートポンプにおける冷媒混合物として選択しているものといえる。
そうすると、住宅用ヒートポンプ用の冷媒混合物として有用であると記載されているのは、12種類の冷媒そのもの、あるいは、12種類の冷媒から得られる全てのペアではなく、マトリックスに掲載されたペアのうち、温度勾配が好ましい範囲として選択された、斜線を施した部分である。
したがって、請求人主張の「12種の好ましい冷媒の50/50重量%混合物について温度勾配を示すマトリックス(表3)を構築することができた」との記載における「好ましい」とは、12種の冷媒について、最初の段階の純粋成分として好ましいと記載していると理解すべきであって、マトリックスに掲載された全てのペアが住宅用ヒートポンプに好ましいと記載されていると理解すべきものではない。
そして、甲第6号証には、住宅用ヒートポンプの冷媒混合物として、斜線の施された温度勾配が10?29°の混合物が好ましいと記載されているのだから、温度勾配が3°である甲6発明の組成物は、住宅用ヒートポンプの冷媒として好ましいと記載されているということはできない。
また、温度勾配が10?29°の混合物が好ましいと記載されている以上、温度勾配が3°である甲6発明の組成物を「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」として使用することは、当業者の容易に行うことではない。

なお、請求人は、甲第6号証には、「特定された混合物成分の多くも・・・オゾンを減少させるCFC類の『共沸混合物様』代替品として研究されるべきである(例えば、R-502にはR-32、R-125」と記載されているから、R-32/R-125混合物の共沸混合物様組成物としての使用が提案されていると主張しているが、甲第6号証には、R502の代替物として、R32とR125のみならずR143aも提案されているから(摘記(甲6-8))、R32とR125の混合物について記載されているとまではいうことができない。
しかも、これらは純粋成分の冷媒または近共沸混合物として可能性があると示唆されているにすぎないから(甲第6号証第45頁右欄第三段落には、「pure refrigerant or "near-azeotrope"」と記載されている。)、R32とR125の混合物が近共沸混合物であることまでは記載されているといえないし、まして、それが「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」として有用であることが、当業者に容易であるともいえない。

5.効果について
本件明細書には、上記第6-3の5.で述べた(1)?(5)の効果について記載されているのに対して、請求人は、「一定の沸点を有するかあるいは実質的に一定の沸点を有する」ことは、「共沸混合物様組成物」の定義そのものであるから、甲第6号証に記載されているに等しい効果であり、「難燃性」であることは、当業者の技術常識から予測可能な効果であり、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒として有用」であることは、実施例4が本件発明1とは配合量が異なる組成物を使用し、低温冷却サイクルのための評価を行った例であるから、実施例4は、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒として有用」なことを示すものではなく、よって、本件発明1が、「空調用又はヒートポンプ用の冷媒として有用」であるとの効果は、本件明細書に記載されていないことを挙げて、本件発明1の効果は、甲第6号証の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものであると主張している(口頭審理陳述要領書第21頁第1行?第22頁第21行)。

そこで、上記主張について検討すると、甲第6号証に、本件発明1における「共沸混合物様組成物」、すなわち、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」が記載されているということはできないし、それが当業者に容易なものともいえないことは、上記3.で述べたとおりである。
したがって、本件発明1の組成物が、「32°Fにて約119.0psiaという真の共沸混合物の蒸気圧を有する、共沸混合物のように挙動する組成物」であるという効果は、甲第6号証の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものではない。
また、本件明細書には、本件発明1の組成物が、空調用又はヒートポンプ用の冷媒として使用可能なことが記載されていることは、上記第6-2で述べたとおりである。
さらに、上記第6-3の5.(5)によれば、実施例4で使用された配合比のみならず、HFC-125が20重量%よりも多い、本件発明1の配合比であっても、HFC-32単独の場合と等しい性能、及びより一層低い圧縮機排出温度を与えるものであるところ、このような効果は、甲第6号証の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものではない。

以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できず、本件発明1は、上記第6-3の5.(1)?(5)に示したとおりの効果を奏するものであり、これらの効果は、甲第6号証の記載及び当業者の技術常識から、予測し得るものではない。

6.本件発明1についてのまとめ
したがって、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明ではなく、また、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものでも、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

7.本件発明2、3
本件発明2、3は、本件発明1の組成物を用いた「冷却作用を生成させる方法」、「加熱作用を生成させる方法」の発明であるから、本件発明1の組成物が、甲第6号証に記載された発明ではなく、また、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2、3も、同様に、甲第6号証に記載された発明ではなく、また、それに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件発明2、3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

8.まとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当しないから、無効理由5には、理由がない。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由1?5は、いずれも理由がないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
(参考:平成20年2月13日付けの一次審決)

無効2006- 80157

イギリス国 ハンプシヤー エスオー14 3ビーピー,サウスハンプトン,クイーンズ テラス 15-17,クイーンズ ゲート,フアースト フロアーオフィス
請求人 イネオス フラウアー ホールデイングス リミ
テッド

東京都千代田区丸の内3-2-3 協和特許法律事務所
代理人弁理士 吉武 賢次

東京都千代田区丸の内3-2-3 富士ビル3階 協和特許法律事務所
代理人弁理士 宮嶋 学

東京都千代田区丸の内3丁目2番3号 協和特許法律事務所
代理人弁理士 中村 行孝

東京都千代田区丸の内3-2-3 富士ビル 協和特許法律事務所
代理人弁理士 紺野 昭男

東京都千代田区丸の内3-2-3 富士ビル 協和特許法律事務所
代理人弁理士 横田 修孝

東京都千代田区丸の内3-2-3 富士ビル 協和特許法律事務所
代理人弁理士 高村 雅晴

アメリカ合衆国ニュージャージー州07962-2245,モーリスタウン,コロンビア・ロード 101,ピー・オー・ボックス 2245
被請求人 ハネウェル・インターナショナル・インコーポ
レーテッド

東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル206区 ユアサハラ法律特許事務所
代理人弁理士 小野 新次郎

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 ユアサハラ法律特許事務所
代理人弁護士 牧野 利秋

東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区 ユアサハラ法律特許事務所
代理人弁理士 野矢 宏彰

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 ユアサハラ法律特許事務所
代理人弁理士 沖本 一暁

東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル206区 ユアサハラ法律特許事務所
代理人弁理士 平山 晃二

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 ユアサハラ法律特許事務所
代理人弁理士 礒山 朝美




上記当事者間の特許第1877437号発明「ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンの共沸混合物様組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結 論
訂正を認める。
特許第1877437号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。

理 由
第1 手続の経緯
平成 2年 8月 2日 出願(優先権主張 1989年9月26日
米国(US))
平成 6年10月 7日 特許権の設定登録
(特許第1877437号)
平成18年 8月25日 請求人 :特許無効審判請求書・甲第1?
8号証提出
平成18年 9月21日 請求人 :手続補正書・甲第3号証を甲第 3号証の1?10に枝番を付与する補正を 行ったもの及び甲第3号証の1?3全訳提 出
平成19年 1月26日 被請求人:答弁書・訂正請求書・乙第1? 6号証提出
平成19年 4月23日 請求人 :弁駁書・甲第3号証の5全訳及 び甲第9?17号証証提出
平成19年 8月 3日 請求人 :口頭審理陳述要領書・甲第18 ?20号証提出
被請求人:口頭審理陳述要領書・乙第7? 24号証提出
平成19年 8月 3日 口頭審理(特許庁審判廷)
平成18年 8月 8日 被請求人:手続補正書・乙第21号証に係 る「Chapter26」の全文(英文) 及び乙第22号証及び乙第23号証の明瞭 な写し提出
平成19年 8月31日 請求人 :上申書・甲第21?23号証及 び参考資料1?6提出
被請求人:上申書・乙第25?32号証提 出

第2 平成19年1月26日付けの訂正請求の適否について
被請求人は、平成19年1月26日付けの訂正請求書を提出しているので、同訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の適否について検討する。

1 訂正請求の時期的要件についての検討
本件訂正請求は、特許法第134条第1項の規定に基づいて指定期間内の平成19年1月26日に提出されたものであるから、本件訂正請求は、同法第134条の2第1項本文に規定されている時期的要件を満たすものである。

2 訂正請求の内容
被請求人は、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。本件審判請求時の明細書の内容と本件公告公報の内容が同一であるので、記載箇所については、公告公報の記載箇所で示すことがある。)を前記訂正請求書に添付した訂正明細書に記載したとおりに訂正することを求めるものであり、実質的に次の内容の訂正を請求するものである。

(1)訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に
「約 1.0?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約99.0?約50.0重量のジフルオロメタンとを含み,32°F にて約119.0psia の蒸気圧を有する共沸混合物様組成物。」とあるのを、
『約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,32°F にて約119.0psia の蒸気圧を有する,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物。』と訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項4に
「請求の範囲第1項に記載の組成物を凝縮させること,次いで前記組成物を冷却すべき物体の近くで蒸発させること,を含む冷却作用を生成させる方法。」とあるのを、
『請求項1に記載の組成物を凝縮させること,次いで前記組成物を冷却すべき物体の近くで蒸発させること,を含む,空調において冷却作用を生成させる方法。』と訂正し、請求項番号を請求項2に繰り上げる。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項5に
「請求の範囲第1項に記載の組成物を加熱すべき物体の近くで凝縮させること,次いで前記組成物蒸発させること,を含む加熱作用を生成させる方法。」とあるのを、
『請求項1に記載の組成物を加熱すべき物体の近くで凝縮させること,次いで前記組成物を蒸発させること,を含む加熱作用を生成させる方法。』と訂正し、請求項番号を請求項3に繰り上げる。

(6)訂正事項6
本件特許明細書の発明の詳細な説明の3頁26行?4頁1行(公告公報4欄50行?5欄5行)に
「本発明によれば,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンを含んだ新規な共沸混合物様組成物が提供される。本発明の共沸混合物様組成物は,約1?50重量%のペンタフルオロエタンと約50?99重量%のジフルオロメタンを含み,32°F(0℃)にて約 119psia(820kPa)の蒸気圧を有する。」とあるのを、
『本発明によれば,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての新規な共沸混合物様組成物は,約35.7?約50重量%のペンタフルオロエタンと約50?64.3重量%のジフルオロメタンとからなり,32°F(0℃)にて約 119psia(820kPa)の蒸気圧を有する。』と訂正する。

(7)訂正事項7
本件特許明細書の発明の詳細な説明の4頁3?5行(公告公報5欄7行?9行)に
「本発明の好ましい実施態様においては,このような共沸混合物様組成物は,約5?40重量%のペンタフルオロエタンと約95?60重量%のジフルオロメタンを含む。」とあるのを削除する。

3 訂正請求の適否についての検討
(1)訂正事項1
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1において、a)ペンタフルオロエタンの量的範囲の下限値について、約「1.0」重量%から約「35.7」重量%に、b)ジフルオロメタン量的範囲の上限値について、約「99.0」重量%から約「64.3」重量%にそれぞれ訂正し、c)共沸混合物様組成物の用途を「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」に訂正し、さらに、d)ジフルオロメタンの含有量に関して、「重量のジフルオロメタン」を「重量%のジフルオロメタン」に訂正するものである。
訂正事項1の中で、上記a)?c)の各訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである。また、d)の訂正は、数値単位に「%」が脱落している誤記を訂正するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするものであり、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、よって、訂正事項2は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。よって、訂正事項2は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。よって、訂正事項3は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項4における冷却作用を生成させる方法において、「空調において」とその用途を限定するものであって、この訂正は特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。よって、訂正事項4は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、請求項5において、「次いで前記組成物蒸発させること」を「次いで前記組成物を蒸発させること」に訂正するものであり、助詞「を」の脱落を補うものであるから、この訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当する。そして、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。よって、訂正事項5は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

(6)訂正事項6
訂正事項6は、訂正事項1により、特許請求の範囲の請求項1において、ペンタフルオロエタンの量的範囲の下限値を約「1.0」重量%から約「35.7」重量%と、ジフルオロメタン量的範囲の上限値を約「99.0」重量%から約「64.3」重量%とそれぞれ変更し、かつ、共沸混合物様組成物の用途を「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」に限定したことに伴い、対応する発明の詳細な説明の記載を整合させるものである。
したがって、訂正事項6は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項6は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

(7)訂正事項7
訂正事項7は、訂正事項2に係る特許請求の範囲の請求項2の削除に伴って、発明の詳細な説明における対応する記載を削除するものである。
したがって、訂正事項7は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項7は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものである。

4 訂正請求に対する請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は、上記訂正事項1、4及び6について、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項に違反するとして、下記の主張(1)をしており、訂正事項1については、更に特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第4項に違反するとして、下記の主張(2)をしているので検討する。

(1-1)請求人の主張(1)
1.「訂正事項1、4、および6は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではない。・・・『空調』および『ヒートポンプ』という用語は特許明細書の『発明の背景』において“従来技術”として説明されているものにすぎず(本件特許明細書(当初明細書)第1頁8?9行および25?27行ならびに第3頁16行)、本件特許発明自体に関する記述ではない。本件特許発明自体に関する用途の記載はせいぜい当初明細書第1頁4?6行および第3頁19?23行に記載される『冷却用途及び加熱用途』にすぎず、本件特許発明の組成物が『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』としての用途を有する点についての具体的記載は全く無いのである。よって、請求項1に記載の共沸混合物様組成物の用途を『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』に限定する訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項に違反するものである。」(平成19年7月26日付け口頭審理陳述要領書、3頁2行?14行)
2.「『訂正の適否は、・・・当該明細書に記載されている内容から、全体として判断されるべきである』と請求人(審決注:『請求人』は、『被請求人』の誤記と認める。)が主張するのであれば、実施例の記載も同様に訂正の適否において考慮されて然るべきである。この点、実施例4においては、表IIIに示される通り、-23.3?-45.6℃のエバポレーター温度で、『低温冷却サイクル』のための媒体中で実施されており、約+5?+10℃のエバポレーター温度で典型的に操業される空調サイクルにおいては性能評価は何ら実施されていないことについては弁駁書で主張した通りである。つまり、『発明の背景』よりも更に本件特許発明との関連性が強いはずの『実施例』の記載を考慮すると、そこに記載される用途は業務用冷凍システムのような『低温冷却サイクル』に他ならず(本件特許公報10欄2?6行)、『ヒートポンプ』および『空調』といった用途は全く読み取ることができないのである。」(平成19年8月31日付け上申書、9頁23行?10頁5行)

(1-2) 請求人の主張(2)
「被請求人は請求項1に記載の共沸混合物様組成物の用途を『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』に限定したとするが、訂正後の記載は『空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物』であり、訂正前の『共沸混合物様組成物』が実質上『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』に変更されている。この変更は、審判便覧54-10『5.実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するもの(旧特§126 2(注:○中2))』の『(1)a.H7.6.30以前の出願に係る特許』の章に例示列挙されるもののうち、『7(注:○中7)請求項のカテゴリー変更。』または『8(注:○中8) 請求項のカテゴリーは変更しないが、発明の対象が変更される場合。』に該当することは明らかである。確かに、訂正後の請求項1の記載の末尾は『共沸混合物様組成物』のまま残されてはいるが、その直前に訂正で加えられた『空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての』なる記載が『共沸混合物様組成物』というカテゴリーないし発明の対象を『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』と実質上置き換えているのに他ならない。したがって、上記審判便覧の記載に明記される通り、請求項1の記載の共沸混合物様組成物の用途を『空調用又はヒートポンプ用の冷媒』に限定する訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものに該当し、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第4項に違反する。」(平成19年4月23日付け弁駁書、4頁1行?16行)

(2)当審の判断
(2-1)請求人の主張(1)について
本件特許明細書には、「当業者は,冷却用途やヒートポンプ用途に対して使用されている従来の混合物に代わる,フルオロカーボンをベースとした新規な共沸混合物を要望している。現在,特に関心が払われているのは,完全ハロゲン化クロロフルオロカーボンの代替物として環境的に許容しうると考えられているフルオロカーボンベースの冷媒である。・・・数字的モデルによれば,部分ハロゲン化化学種〔例えば,ペンタフルオロエタン(HFC-125)やジフルオロメタン(HFC-32)〕は大気化学に対して悪影響を及ぼさないことが実証されている。・・・これらの代替物質はさらに,化学安定性,低毒性,難燃性,及び使用効率等も含めて,CFCに特異的な性質を有していけなければならない。使用効率という特徴は,冷媒の熱力学的性能の低下やエネルギー効率の低下が,電気エネルギーの需要増大に伴う化石燃料の使用量増大により環境免への二次的な影響を生み出す,例えば空調のような冷却用途において特に重要となる。さらに,理想的なCFC冷媒代替物は,現在,CFC冷媒を使用して行われている従来の蒸気圧縮技術に対して大きなエンジニアリング上の変化を必要としない。
従って本発明の目的ば,冷却用途及び加熱用途に対して有用な,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンをベースとした新規な共沸混合物様組成物を提供することにある。」(公告公報4欄17行?44行)との記載がある。
上記記載によれば、冷却用途やヒートポンプ用途に対して使用されている従来の混合物に代わる,フルオロカーボンをベースとした新規な共沸混合物を要望されていて、その代替物として、環境的に許容しうると考えられているフルオロカーボンベースの冷媒があり、部分ハロゲン化化学種である,ペンタフルオロエタン(HFC-125)やジフルオロメタン(HFC-32)が代替物質として挙げられていることがわかる。そして、本件特許明細書に「本発明の目的ば,冷却用途及び加熱用途に対して有用な,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンをベースとした新規な共沸混合物様組成物を提供することにある。」とある。
したがって、本件特許明細書には、代替物質であるペンタフルオロエタンと同じく代替物質であるジフルオロメタンとからなる共沸混合物様組成物が、完全ハロゲン化クロロフルオロカーボンの代替物として、冷媒として冷却用途やヒートポンプ用途に対して使用できることが記載されているものと認められる。
また、本件特許明細書には、「代替物質はさらに,化学安定性・・・使用効率等も含めて,CFCに特異的な性質を有していけなければならない。使用効率という特徴は,・・・例えば空調のような冷却用途において特に重要となる。」と記載されている。したがって、上記代替物質、すなわち、例示されているペンタフルオロエタン及びジフルオロメタンは、空調用途に対して使用できることが記載されており、ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとからなる共沸混合物様組成物が冷媒として空調用途に対してが使用できることが記載されているものと認められる。
してみれば、本件特許明細書には、ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとからなる共沸混合物様組成物がヒートポンプ用又は空調用の冷媒として使用されること、すなわち、「ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとからなる空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物」が記載されていると言うことができる。
また、請求人は、「発明の背景」よりも更に本件特許発明との関連性が強いはずの「実施例」からは、「ヒートポンプ」および「空調」といった用途は全く読み取ることができない旨主張しているが、上記の如く、本件特許明細書には、「発明の詳細な説明」の「発明の背景」の欄に「ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとからなる空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物」が記載されていると認められるから、実施例に具体的に記載はなくとも、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
訂正事項4及び6についても同様である。

(2-2)請求人の主張(2)について
請求人の当該主張は、訂正前の「共沸混合物様組成物」が実質上「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」に変更されている。この変更は、「7(注:○中7) 請求項のカテゴリー変更。」または「8(注:○中8) 請求項のカテゴリーは変更しないが、発明の対象が変更される場合。」に該当するというものである。
発明のカテゴリーには、「物の発明」、「方法の発明」及び「物を生産する方法の発明」があるが、訂正前も訂正後も請求項1記載の発明は、「共沸混合物様組成物」、すなわち、両者とも「物の発明」であって、「物の発明」というカテゴリーに変更はないから、請求人の訂正事項1は、「7(注:○中7) 請求項のカテゴリー変更。」に該当するとの主張は採用できない。
また、訂正前の請求項1記載の発明は、「ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとを含む共沸混合物様組成物」の発明であり、フロン類の組成物に係る発明である。フロン類の組成物の用途は冷媒の他、界面活性剤、エアロゾル噴射剤、熱輸送媒体、気体誘電体および作動油等があるところ、訂正後の請求項1記載の発明は、その用途を本件特許明細書に記載された「空調用又はヒートポンプ用の冷媒」に特定したものであるから、特許請求の範囲を減縮に該当するものであり、「8(注:○中8) 請求項のカテゴリーは変更しないが、発明の対象が変更される場合。」に該当し、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更したものであるとの請求人の主張は採用できない。

したがって、訂正請求書に記載の訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項に違反するものであるとの請求人の主張は採用できない。

5 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2に規定する要件を満たすものであるから、本件訂正を認める。

第3 本件特許の請求項1?3に係る発明
以上のとおり、本件訂正は容認されたから、本件特許に係る発明は、平成19年1月26日付け訂正請求書に添付した明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の請求項1?請求項3に記載される次のとおりのものと認める(以下、これらを、「本件請求項1に係る発明」?「本件請求項3に係る発明」という。)。
「1.約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,32°F にて約119.0psia の蒸気圧を有する,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物。
2.請求項1に記載の組成物を凝縮させること,次いで前記組成物を冷却すべき物体の近くで蒸発させること,を含む,空調において冷却作用を生成させる方法。
3.請求項1に記載の組成物を加熱すべき物体の近くで凝縮させること,次いで前記組成物を蒸発させること,を含む加熱作用を生成させる方法。」

第4 当事者の主張
1 審判請求人の主張する特許を無効とすべき理由の要点
審判請求人が提出した審判請求書、口頭審理陳述要領書、上申書及び甲第1?23号証、その他によれば、審判請求人は、次に示すところの主張をするものと認められる。
訂正後の特許請求の範囲の記載は、平成2年法律第30号による改正前の特許法(以下、「旧特許法」という。)第36条第4項第1号の規定を満たさず、また、明細書の記載は同特許法第36条第3項の規定を満たさず、さらに、訂正後の請求項1?3に記載の発明は特許法第29条第1項第3号及び第2項に該当するから、訂正後の本件特許は同法第123条第2号および第4号により無効とされるべきものである。

そして、請求人は、旧特許法第36条第3項違反について、次の主張をしている。
(1-1)主張(1)「実施例4で評価されたブレンド物の組成(R-32/R-125=80/20)はもはや訂正後の請求項1に記載の組成範囲には包含されないどころか、そのような範囲から大きく外れているのである。」(口頭審理陳述要領書5頁15行?18行)
(1-2)主張(2)「訂正後の請求項1に記載される約35.7?約50.0重量%のR-125(ペンタフルオロエタン)と約64.3?約50.0重量のR-32(ジフルオロメタン)とからなる組成範囲の全域にわたって、請求項1に記載される『32゜Fにて約119.0psiaの蒸気圧』を実現できるとは発明の詳細な説明は全く記載されていない。すなわち、本件特許明細書の表IIにおいて、訂正後の請求項1におけるR-125含有量の下限値35.7重量%に最も近い約34.2重量%における蒸気圧は0℃で118.8psiaであり、その上限値50.0重量%に最も近い約51.6重量%における蒸気圧にあっては0℃で116.6psiaにまで低下するのである。このR-125の35.7重量%から50.0重量%にかけての0℃での蒸気圧変化が如何に急激なものであるのかは、表IIの蒸気圧-組成データをグラフ化した下記図1を見れば一目瞭然である。
図1 本件特許明細書の表IIに示される0℃での蒸気圧(psia)の組成による変化




このように、訂正後の請求項1に記載される『約35.7?約50.0重量%』のR-125(ペンタフルオロエタン)組成範囲における蒸気圧は、同じく訂正後の請求項1に記載される『32゜Fにて約119.0psiaの蒸気圧』と比べて格段に低いのである。この傾向は、図1から明らかなように、蒸気圧が急激に低下している50/50重量%付近のR-32/R-125において特に顕著であると言える。
加えて、小数点以下第一位までの数値までも規定するほどの厳密さで蒸気圧が請求項1に規定されているという特殊事情をも勘案すれば、当業者が訂正後の請求項1に係る発明、特にその小数点以下第一位まで厳密に規定された『32゜Fにて約119.0psiaの蒸気圧』、を容易に実施できないことは明らかである。」(口頭審理陳述要領書5頁19行?6頁末行)

2 被請求人の主張
被請求人が提出した答弁書、口頭審理陳述要領書、上申書、乙第1号証?乙第32号証、その他によれば、被請求人は、審判請求人の上記無効理由は、理由がなく、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の記載は、旧特許法第36条第4項第1号及び同条第3項に規定する要件を満たしているものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものではなく、本件請求項1?3に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定又第2項に違反して特許されたものではないから、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきものではない、と主張すると認められる。

そして、被請求人は、請求人の旧特許法第36条第3項違反についての主張に対して次の反論をしている。

(2-1)請求人の主張(1)について
「本件特許明細書には、実施例4で試験された組成以外の組成でも、訂正後の請求項に記載された用途に有用であることが記載されている。すなわち、本件特許明細書には、『さらに、本実施例にて使用されている20重量%より多いHFC-125を含んだ共沸混合物様のHFC-32/HFC-125混合物は、HFC-32単独の場合と等しい性能、及びより一層低い圧縮機排出温度を与える。』(特許公報第10欄第41行?第44行)ということが記載されている。」(口頭審理陳述要領書9頁20行?25行)

(2-2)請求人の主張(2)について
「請求人は、実施例2(表II)に示される蒸気圧のうち訂正後の請求項1に記載される組成範囲に近い組成の蒸気圧(32°Fにて116.6?118.8 psia)は、訂正後の請求項1に記載される蒸気圧(32°Fにて約119.0psia)よりも低いことを指摘し、訂正後の請求項1?3に係る発明が、当業者が容易に実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されていない、と主張する。
しかしながら、特許された特許請求の範囲における蒸気圧の限定は訂正後も同一である。更に、特許された組成範囲は訂正後の特許請求の範囲よりも広範である。そして、特許された特許請求の範囲及び訂正後の特許請求の範囲における共沸混合物様組成物の組成範囲は、その上限及び下限の数値範囲で明確に特定されている。特許された特許請求の範囲に記載されていた蒸気圧の範囲は組成範囲をできる限り含むよう充分広く解釈されてきている。
つまり、特許された特許請求の範囲及び訂正後の特許請求の範囲に記載された組成範囲に基づいて、当業者は本件特許発明の共沸混合物様組成物の蒸気圧を、組成範囲に一致する範囲で変化するように当然理解するものである。
特許された特許請求の範囲及び訂正後の特許請求の範囲の記載から明らかな通り、本件特許発明において共沸混合物様組成物が構成要件となっている。当業者はこの共沸混合物様組成物の意味がどのようなものであるかを明細書の記載から理解しようとする。本件特許明細書に定義されるように、本件特許発明の共沸混合物様組成物とは、沸騰特性が一定であるという点、あるいは沸騰もしくは蒸発させても分別を起こしにくいという点に関して、真の共沸混合物のように挙動する組成物を意味する(特許公報第5欄第43行?第49行)。当業者は本件特許明細書の開示から、本件特許発明の共沸混合物様組成物は、最も好ましい蒸気圧である32°F(0°C)で約119psiaの約±5psiaの範囲内の蒸気圧を示す組成物であることを理解する(特許公報第6欄第48行?第7欄第3行)。また、好ましい組成物は、32°Fで約±2psiaの範囲の蒸気圧を示す(特許公報第7欄第3行?第4行)。当業者は、本件特許明細書の表IIのデータから、本件特許発明の共沸混合物様組成物の蒸気圧は、特許された特許請求の範囲及び訂正後の特許請求の範囲に記載された組成範囲において、実質的に±5psiaの範囲内で一定であることを理解できる(特許公報第8欄第29行?第45行)。特に、当業者は、118.8から116.6psiaという蒸気圧は、119psiaの±5psiaの範囲内であって(実際、この蒸気圧は、好ましい組成物の蒸気圧である、119psiaの±2psiaの範囲内である)、それぞれ34.2から51.6重量%のR-125を含有する本件特許発明の共沸混合物様組成物に相当する(この組成範囲は、ほぼ訂正後の組成範囲の上限及び下限である)蒸気圧であり、このような蒸気圧が特許された特許請求の範囲及び訂正後の特許請求の範囲に記載された「約119.0psia」という蒸気圧に含有されることを理解するはずである。
すなわち、当業者であれば、表IIに記載された118.8から116.6psiaという蒸気圧は、特許された特許請求の範囲及び訂正後の特許請求の範囲に記載された蒸気圧である『約119.0psia』に含まれることを明確に理解できるのである。この点に関して、被請求人は、審判請求書における請求人も同様の意見を有していたことを指摘する。請求人は『32°Fで約119.0psiaの蒸気圧』という限定は、請求項1に記載された共沸混合物様組成物が本来有する固有の性質であって、先行技術に鑑み新規性及び進歩性を肯定するための相違点とはなりえないと主張するための根拠として、このことは、本件特許明細書の表IIにおいて、R-32/R-125混合物が広い組成範囲にわたって32°Fで約119psiaの蒸気圧を示すという事実から明らかである、と主張しているからである(審判請求書第15頁第3行?第12行)。
そして、特許された特許請求の範囲及び訂正後の特許請求の範囲における共沸混合物様組成物の組成範囲は、その上限及び下限の数値範囲で明確に規定されているので、訂正後の請求項1?3に係る発明が、当業者が容易に実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されていない、と主張する請求人の主張は失当である。
従って、訂正後の請求項1?3に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が容易にその実施することができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていることは明らかである。
よって、訂正後の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たすものであり、また、本件特許明細書の記載は特許法第36条第3項の規定を満たすものであることは明らかである。」(口頭審理陳述要領書10頁7行?12頁15行)

第5 当審の判断
旧特許法第36条第3項には、「前項第三号の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」と規定されている。
無効審判請求人は、本件訂正により新たに生じた無効理由として「(2)特許法第36条第3項違反について」を挙げて、本件訂正明細書には、訂正後の請求項1?3に係る発明が、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明中に記載されているとは言えない旨主張しているので、まず、請求人が主張する当該無効理由について検討する。

1 本件請求項1に係る発明について
(1)請求人の主張(1)について

本件訂正明細書には、実施例4にHFC-125/HFC-32ブレンド物の特定の性能上の利点について、次の記載がある。
「実施例4
本実施例では,共沸混合物用のHFC-125/HFC-32ブレンド物が,HFC-32単独の場合に比べてある特定の性能上の利点を有していることを示す。
特定の操作条件における冷媒の理論的性能は,標準的な冷却サイクル解析法,(例えば,R.C.ダウニング(Downing),“フルオロカーボン冷媒ハンドンブック”,第3章,(Prentice-Hall,1988)を参照)を使用して,冷媒の熱力学的性質から推測することができる。成績係数(COP)は広く受け入れられている尺度であり,冷媒の蒸発又は凝縮を含んだ特定の加熱・冷却サイクルにおける冷媒の相対的な熱力学効率を表わすのに特に有用である。冷却工学においては,この用語は,蒸気を圧縮する場合の有効な冷却と圧縮機により加えられるエネルギーとの比を表わす。冷媒の能力(capacity)は該冷媒の容量効率で示される。圧縮機技術者にとっては,この値は,ある与えられた容量流量の冷媒に対する熱量をポンプ送りする圧縮機の能力(capability)を表わす。言い換えると,ある特定の圧縮機が与えられた場合,より高い能力もった冷媒は,より多くの冷却もしくは加熱 エネルギーを移送する。
発明者らは,凝縮器の温度が通常37.8℃(100゜F)であって,エバポレーターの温度が通常-45.6℃(-50゜F)?23.3℃(-10゜F)であるような定温冷却サイクルに対する冷媒に関して,このタイプの算出を行った。発明者らはさらに,圧縮が等エントロピー圧縮であり,そして圧縮機入口温度が18.3℃(65゜F)であると仮定した。HFC-32とHFC-125の80/20重量比のブレンド物,及びHFC-32単独物に対して,このような算出を行った。表IIIは、エバポレーター温度のある範囲にわたって,HFC-32とHFC-125の80/20ブレンド物のCOPを,HFC-32のCOPと比較して示している。表IIIにおいては,★の記号は,COPと能力(capacity)がHFC-32との比較にて与えられていることを示している。




上表に記載のデータは,HFC-32/HFC-125の80/20のブレンド物が,HFC-32単独の場合に比べてある程度のCOPの向上を果たすこと,実質的に同じ冷却能力を有すること,そしてさらに,圧縮機からのより低い排出温度を与えること(このことは圧縮機の信頼性に寄与する-すなわち,当業界では,圧縮機排出温度が低いほど,より信頼性の高い圧縮機作動が得られることが知られている)を示している。
さらに、本実施例にて使用されている20重量%より多いHFC-125を含んだ共沸混合物様のHFC-32/HFC-125混合物は、HFC-32単独の場合と等しい性能,及びより一層低い圧縮機排出温度を与える。」(本件訂正明細書10頁13行?12頁2行)
上記実施例によれば、HFC-32/HFC-125の80/20のブレンド物が、HFC-32単独の場合に比べてCOPの向上を果たし、実質的に同じ冷却能力を有し、さらに、圧縮機からのより低い排出温度を与えることがわかる。
しかしながら、同実施例に記載されたHFC-32/HFC-125のブレンド物は、訂正前の請求項1に記載された「約 1.0?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約99.0?約50.0重量のジフルオロメタン」には該当するものの訂正後の請求項1に記載された「約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタン」には、該当しないものであって、さらに、真の共沸混合物である約25重量%のペンタフルオロエタンと約75重量%のジフルオロメタンを含んだ組成物よりもペンタフルオロエタンの含有量が少なく、ジフルオロメタンの含有量が多いものである。
上記実施例において、HFC-32/HFC-125の80/20のブレンド物がHFC-32単独の場合に比べてCOP等の性能において、優れていることが示されているとしても、それと別異の訂正後の請求項1に記載された「約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタン」からなる共沸混合物様組成物の性能を示すものではない。
同実施例には、「本実施例にて使用されている20重量%より多いHFC-125を含んだ共沸混合物様のHFC-32/HFC-125混合物は、HFC-32単独の場合と等しい性能,及びより一層低い圧縮機排出温度を与える。」との記載はあるが、具体的にCOP等の性能や排出温度についての記載はない。すると、この記載のみをもって、訂正後の請求項1に記載された共沸混合物様組成物について、すべての範囲に渡ってCOP等の性能が同等若しくは優れているということはできない。
また、本件訂正明細書には、上記実施例以外の発明の詳細な説明の欄にも、「約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタン」からなる共沸混合物様組成物について、具体的な性能評価は記載されていない。
してみれば、本件訂正明細書には、本件請求項1に係る発明、すなわち、「約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタン」からなる共沸混合物様組成物の発明について、発明の効果が記載若しくは示唆されているとはいえず、本件訂正明細書に記載された、ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとの混合物が、「加熱・冷却用の冷媒として有用である。」(本件訂正明細書1頁5行?6行)との発明の目的を達成するとも認められない。
したがって、本件訂正明細書には、本件請求項1に係る発明について、当業者が実施することができる程度に発明の目的、構成及び効果が発明の詳細な説明中に記載されているとすることはできない。

(2)請求人の主張(2)について
本件訂正明細書には、発明の詳細な説明に共沸混合物様組成物の蒸気圧について次の記載がある。

「本発明によれば,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての新規な共沸混合物様組成物は,約35.7?約50重量%のペンタフルオロエタンと約50?64.3重量%のジフルオロメタンとからなり,32°F(0℃)にて約 119psia(820kPa)の蒸気圧を有する。」(本件訂正明細書3頁24行?27行)
「真の共沸組成物として発明者らが最良であると考えているのは,約25重量%のペンタフルオロエタンと約75重量%のジフルオロメタンを含んだ組成物であり,本組成物は32゜F(0℃)にて約119psia(820kPa)の蒸気圧を有する。
本発明の最も好ましい共沸混合物様組成物は,32゜F(0℃)にて約119psia(820kPa)の蒸気圧を有する。」(本件訂正明細書4頁6行?10行)
「従って,本発明の意味する範囲内で共沸混合物様であることを明確に示すもう一つの方法は,該混合物が32゜F(0℃)にて,本明細書に開示の最も好ましい組成物の蒸気圧〔32゜F(0℃)にて約119psia(810kPa)〕(審決注:810kPaは、820kPaの誤記と認める。)の約±5psia(25kPa)の範囲内の蒸気圧を有することを明示することである。好ましい組成物は,32゜F(0℃)にて約±2psia(14kPa)の範囲の蒸気圧を示す。」(本件訂正明細書6頁5行?9行)
上記記載からみて、最も好ましい共沸混合物様組成物は32゜F(0℃)にて約119psia(820kPa)の蒸気圧を有するものと認められる。
本件請求項1には、「32°F にて約119.0psia の蒸気圧を有する」と記載されているところ、「119.0psia」とは、有効数字が4桁であり、少数点以下1桁まで規定しているから、誤差範囲は小数点以下2桁目の変動、すなわち、±0.05psiaであると解される。次に「約」についてみると、蒸気圧の値として、「psia」の値に続けて、括弧内に「kPa」の値が記載されており、「kPa」の値には、「約」とは記載されていない。してみれば、特定の「psia」の値を「kPa」に換算した値について、「約」が付されたものであって、「約」が付された「psia」の値は特定の値であると解される。また、「最も好ましい組成物の蒸気圧〔32゜F(0℃)にて約119psia(820kPa)〕の約±5psia(25kPa)の範囲内の蒸気圧を有する」との記載からみても蒸気圧の範囲が「約±5psia」であって、「約119psia」は特定の圧力の値であると解するのが相当である。
したがって、「約119.0psia」は、その誤差範囲も含めた範囲で示せば、「119.0±0.05psia」であると認められる。
一方、本件訂正明細書には、表II(9頁1行?9行)にペンタフルオロエタンとジフルオロメタンを含んだ特定の組成物についての32°Fにおける蒸気圧が記載されており、ペンタフルオロエタンの重量%が15.5、34.2及び51.6の時に蒸気圧(psia)がそれぞれ119.2、118.8及び116.6であることが記載されている。
してみれば、ペンタフルオロエタンが34.2重量%の場合であってもその蒸気圧(psia)は、118.8であって、さらにその割合が増加すれば蒸気圧は低下するのであるから、本件請求項1に係る発明の約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタンとからなる共沸混合物様組成物は32°F においては、約119.0psia の蒸気圧の下限である118.95psia よりも低い蒸気圧を有するものであって、上記組成の共沸混合物様組成物を、「32°F にて約119.0psia の蒸気圧」とすることはできないものと認められる。
被請求人は、平成19年8月31日付け上申書において、「請求項1に記載された『32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧』の意味を、『32°Fにて約119psiaの約±5psiaの蒸気圧』と解釈すべきであるとは主張していない。ここで被請求人が主張していることは、・・・当業者であれば、本件特許明細書の表IIに記載された32°F(0℃)で118.8から116.6psiaという蒸気圧は、特許された特許請求の範囲及び訂正後の特許請求の範囲に記載された蒸気圧である『32°Fにて約119.0psia』に含まれることを明確に理解できる、ということである。・・・この蒸気圧の限定は、本件特許の請求項1に記載された共沸混合物様組成物が本来有する固有の性質である。
そして、本件特許の訂正後の請求項1に記載された共沸混合物様組成物は、その組成範囲の上限及び下限(約35.7?約50.0重量%のR-125(ペンタフルオロエタン)と約64.3?約50.0重量%のR-32(ジフルオロメタン))により明確に規定されている。また、この約35.7?約50.0重量%のR-125を含む組成範囲は、表IIおよび乙第29号証の1から明らかなように、約119psia±2psiaの範囲に該当する。」との主張をしている。
しかしながら、本件訂正明細書には、「本発明の最も好ましい共沸混合物様組成物は,32゜F・・・にて約119psia・・・の蒸気圧を有する。」(本件訂正明細書4頁9行?10行)及び「本発明の意味する範囲内で共沸混合物様であることを明確に示すもう一つの方法は,該混合物が32゜F・・・にて,本明細書に開示の最も好ましい組成物の蒸気圧〔32゜F・・・にて約119psia・・・〕の約±5psia・・・の範囲内の蒸気圧を有することを明示することである。好ましい組成物は,32゜F・・・にて約±2psia・・・の範囲の蒸気圧を示す。」(本件訂正明細書6頁5行?9行)と記載されており、「最も好ましい組成物の蒸気圧が32゜Fにて約119psia」であるとされているだけであって、32゜Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する組成物が「32゜Fにて約119psiaの約±5psiaの範囲内の蒸気圧を有する」又は「32゜Fにて約119psiaの約±2psiaの範囲内の蒸気圧を有する」と解することはできない。
これに対し、訂正前の請求項1に係る発明は、「約 1.0?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約99.0?約50.0重量のジフルオロメタンとを含み,32°F にて約119.0psia の蒸気圧を有する共沸混合物様組成物。」であって、ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとのみからなる共沸混合物様組成物であっても明らかに特定範囲の組成の共沸混合物様組成物は、32°F にて約119.0psia の蒸気圧を有するものであり、また、「約 1.0?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約99.0?約50.0重量のジフルオロメタンとを含み」との記載からみて他の成分を含み得るものであるから、他の成分を含有させることによって、共沸混合物様組成物の蒸気圧も調整し得るものであったものであり、この点において、「訂正前の請求項1に係る発明」については、特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が発明を容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成、効果が記載されていたものと認められるものであるが、訂正後の請求項1に係る発明については、上記のとおり、旧特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないものである。

してみれば、被請求人の上記主張を採用することはできない。
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件請求項1に係る発明を容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成、効果が記載されているものとはいえない。

(2) 本件請求項2及び3に係る発明について
本件請求項2に係る発明は、「請求項1に記載の組成物を凝縮させること,次いで前記組成物を冷却すべき物体の近くで蒸発させること,を含む,空調において冷却作用を生成させる方法。」であり、本件請求項3に係る発明は、「請求項1に記載の組成物を加熱すべき物体の近くで凝縮させること,次いで前記組成物を蒸発させること,を含む加熱作用を生成させる方法。」であるところ、いずれも本件請求項1に係る発明を引用するものであるから、同様の理由で、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件請求項2及び3に係る発明を容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成、効果が記載されているものとはいえない。

2 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件請求項1?3に係る発明を容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成、効果が記載されているとすることはできないから、旧特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1?3に係る特許は、旧特許法第36条第3項の規定を満たしていない出願に対してなされたものであるから、他の無効理由を検討するまでもなく、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

平成20年 2月13日

審判長 特許庁審判官 原 健司
特許庁審判官 井上 彌一
特許庁審判官 岩瀬 眞紀子
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンの共沸混合物様組成物
【発明の詳細な説明】
発明の分野
本発明は,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンを含んだ共沸混合物様組成物(azeotrope-like compositions)に関する。これらの混合物は,加熱・冷却用の冷媒として有用である。
発明の背景
フルオロカーボンをベースとした流体は,冷却,空調,及びヒートポンプ用として工業的に広く使用されている。
蒸気圧縮は冷却の1つの形態である。その最も単純な形態においては,蒸気圧縮は,低圧での熱吸収を介して冷媒を液相から蒸気相に変え,次いで高圧での熱除去を介して冷媒を蒸気相から液相に変えることを含む。先ず,冷却すべき物体と接触しているエバポレーター中で冷媒が蒸発される。エバポレーター中の圧力は,冷媒の沸点が,冷却すべき物体の温度より低くなるような圧力である。従って,熱が物体から冷媒に流れ,このため冷媒が蒸発する。次いで,エバポレーター中の低圧を保持するために,形成された蒸気を圧縮機によって除去する。次に,圧縮機によって機械的エネルギーを加えることにより,蒸気の温度と圧力を上昇させる。次いで高圧の蒸気が凝縮器に進み,ここにおいてより低温の媒体との熱交換,顕熱,及び潜熱が,引き続き起こされる凝縮と共に除去される。次いで,高温の液状冷媒が膨張弁に進み,いつでも再循環できる状態となる。
冷却の主要な目的は,低温にてエネルギーを取り除くことであるが,ヒートポンプの主要な目的は,より高温にてエネルギーを加えることである。ヒートポンプは逆サイクルシステムであると考えられる。なぜなら,加熱に際して,凝縮器の作動と冷却用エバポレーターの作動とが入れ替わっているからである。
ある特定のクロロフルオロカーボンは,ユニークな化学的性質と物理的性質を併せ持っているため,空調用やヒートポンプ用も含めて,冷却用途に広く使用されている。蒸気圧縮システムにおいて使用される冷媒の多くは,単一成分からなる流体であるか,又は共沸混合物である。単一成分流体と共沸混合物は,一定の沸点を有していることを特徴とする。なぜなら,これらは等温・等圧の蒸発及び凝縮を示すからである。共沸混合物を冷媒として使用することは,当業界ではよく知られている。例えば,R.C.ダウニング(Downing)による「“フルオロカーボン冷媒ハンドブック”,pp.139-158,Prentice-Hall,1988」,並びに米国特許第2,191,993号及び第2,641,579号各明細書を参照。
共沸混合物組成物又は共沸混合物様組成物が要望されている。なぜなら,沸騰や蒸発を起こしても組成が変わらないからである。こうした挙動は望ましいことである。なぜなら,これらの冷媒が使用される前述の蒸気圧縮装置においては,凝縮した物質が生成され,これが冷却用又は加熱用に利用されるようになっているからであり,また冷媒組成物が一定の沸点を有していなければ,すなわち共沸混合物様組成物でなければ,蒸発や凝縮を起こした際に分別や凝離が生じ,この結果冷媒の望ましくない配分が生じて冷却や加熱が正常に行われなくなるからである。
冷媒としての非共沸混合物が開示されているが(例えば,米国特許第4,303,536号明細書を参照),非共沸冷媒ブレンド物が改良された熱力学的性能を示す能力が文献中にしばしば説明されているにもかかわらず,工業的にはあまり広く使用されていない。例えば,T.アトウッド(Atwood)による「^NARBS-その将来性と問題点”,アメリカン・ソサエティー・オブ・メカニカル・エンジニアーズ,ウインター・アニュアル・ミーティング,ペーパー 86-WA/HT-61,1986」,及びM.O.マクリンデン(McLinden)らによる「“蒸気圧縮サイクルにおける単独冷媒及び混合冷媒の性能を比較する方法”,Int.J.Refrig.10,318(1987)」を参照のこと。非共沸混合物は,冷却サイクル時に分別を起こすので,特定のハードウェアを変えることを必要とする。さらに,冷却装置中に仕込んだり冷却装置を運転する上でのやりにくさも問題となり,こうしたことが非共沸混合物の使用が敬遠されている大きな理由となっている。非共沸混合物の使用時又は装置の運転時において,システム中に不注意による漏れが生じた場合は,状況はさらに複雑となる。非共沸混合物の組成が変化し,システムの圧力やシステムの性能に対して悪影響を及ぼす。従って,非共沸混合物の1つの成分が易燃性である場合,分別が起こると,組成物は易燃性領域へとシフトして危険性が増す恐れがある。
当業界は,冷却用途やヒートポンプ用途に対して使用されている従来の混合物に代わる,フルオロカーボンをベースとした新規な共沸混合物を要望している。現在,特に関心が払われているのは,完全ハロゲン化クロロフルオロカーボンの代替物として環境的に許容しうると考えられているフルオロカーボンベースの冷媒である。完全ハロゲン化クロロフルオロカーボンは,地球保護オゾン層の減少に関連した環境問題を引き起こすとされている。数学的モデルによれば,部分ハロゲン化化学種〔例えば,ペンタフルオロエタン(HFC-125)やジフルオロメタン(HFC-32)〕は大気化学に対して悪影響を及ぼさないことが実証されている。完全ハロゲン化化学種に比較すると,成層圏のオゾン減少や地球温暖化に対する影響は無視しうる程度である。
これらの代替物質はさらに,化学安定性,低毒性,難燃性,及び使用効率等も含めて,CFCに特異的な性質を有していなければならない。使用効率という特徴は,冷媒の熱力学的性能の低下やエネルギー効率の低下が,電気エネルギーの需要増大に伴う化石燃料の使用量増大により環境面への二次的な影響を生み出す,例えば空調のような冷却用途において特に重要となる。さらに,理想的なCFC冷媒代替物は,現在CFC冷媒を使用して行われている従来の蒸気圧縮技術に対して大きなエンジニアリング上の変化を必要としない。
従って本発明の目的は,冷却用途及び加熱用途に対して有用な,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンをベースとした新規な共沸混合物様組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は,前記用途に使用するための,環境面から許容しうる新規な冷媒を提供することにある。
本発明の他の目的や利点は,以下の詳細な説明から明らかとなろう。
発明の説明
本発明によれば,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての新規な共沸混合物様組成物は,約35.7?50重量%のペンタフルオロエタンと約50?64.3重量%のジフルオロメタンとからなり,32°F(0℃)にて約119psia(820kPa)の蒸気圧を有する。これらの組成物が共沸混合物様であるのは,蒸気圧-組成曲線において極大を示すからである。
約35.7重量%のペンタフルオロエタンを含有した蒸気相組成物は,周囲条件での空気中において難燃性であることが判明している〔「アメリカン・ソサエティー・オブ・ヒーティング・レフリジェレーティング・アンド・エア-コンディショニング・エンジニアーズ(ASHRAE),スタンダード34」に規定のASTM E-681法を使用して測定〕。約35?50重量%のHFC-125と約65?50重量%のHFC-32を含んだ組成物は,共沸混合物様であって且つ難燃性である。
真の共沸組成物として発明者らが最良であると考えているのは,約25重量%のペンタフルオロエタンと約75重量%のジフルオロメタンを含んだ組成物であり,本組成物は32°F(0℃)にて約119psia(820kPa)の蒸気圧を有する。
本発明の最も好ましい共沸混合物様組成物は,32°F(0℃)にて約119psia(820kPa)の蒸気圧を有する。
本明細書では本発明の混合物に対して“共沸混合物様の(azeotrope-like)”という用語を使用しているが,これはペンタフルオロエタンとジフルオロメタンを含んだ組成物が,一定の沸点を有するかあるいは実質的に一定の沸点を有するからである。
各構成成分を前記した範囲内にて含んだ組成物,並びに各構成成分を前記した範囲外にて含んだある特定の組成物は共沸混合物様であり,これらについては以下に詳細に説明する。
基本原理から,流体の熱力学的状態は,4つの変数,すなわち圧力,温度,液体組成,及び蒸気組成(それぞれP-T-X-Y)によって規定することができる。共沸混合物は,2種以上の成分を含んだユニークを特徴をもつ系であり,ある定められたPとTにおいてXとYが等しい。実際上,このことは,相変化時において成分が分離せず,従って上記したような冷却・加熱用途に対して有用である,ということを意味している。
説明をわかりやすくするために,共沸混合物様組成物とは,沸騰特性が一定であるという点,あるいは沸騰もしくは蒸発させても分別を起こしにくいという点に関して,真の共沸混合物のように挙動する組成物を意味するものとする。従って,こうした系においては,蒸発時に形成される蒸気の組成は,最初の液体組成と同一もしくは実質的に同一である。このように,沸騰又は蒸発時において,液体組成は,たとえ変化するとしてもごくわずかしか変化しない。このことは非共沸混合物様組成物とは対照的であり,非共沸混合物様組成物においては,蒸発や凝縮の際に液体組成と蒸気組成が実質的に変化する。蒸気相と液相が同一の組成を有している場合,沸点-組成曲線が,この同一組成にて絶対最大値(absolute maximum)又は絶対最小値を通過するということを,厳密な熱力学に基づいて示すことができる。2つの条件(同一の液体組成と蒸気組成,又は最低もしくは最高沸点)のうちの一方が存在することが示されれば,系は共沸混合物であり,他方の条件も満足しているはずである。
ある混合物が本発明の意味する範囲内にて共沸混合物様であるか否かを決定する1つの方法は,該混合物がその別個の成分に分離されると思われる条件下(すなわち,分離度-プレートの数)にてそのサンプルを蒸留する,という方法である。該混合物が非共沸混合物であるか又は非共沸混合物様の混合物である場合,該混合物は分別を起こし(すなわち,その種々の成分に分離し),先ず最初に最も沸点の低い成分が留出し,そして沸点の低い方から順次留出が進む。該混合物が共沸混合物様である場合,混合物構成成分の全てを含み,一定の沸点にて沸騰し,そして単一物質があるかの如く挙動する,ある限定量の最初の留分が得られる。該混合物が共沸混合物様でない場合,すなわち共沸混合物系の一部でない場合は,こうした現象は起こりえない。
ある混合物が共沸混合物様であるか否かを決定するための同等の方法は,沸点-組成曲線が最大値又は最小値を通過するかどうかを調べる,という方法である。最低沸点を有する共沸混合物はさらに,同じ組成にて蒸気圧曲線において最高沸点を有する。これらのブレンド物は,ラウールの法則からのポジティブなずれを示し,ポジティブ・アゼオトロープ(positive azeotropes)と呼ばれる。同様に,最高沸点を示す共沸混合物は,蒸気圧曲線において最低沸点を示し,ラウールの法則からのネガティブなずれのためにネガティブ・アゼオトロープ(negative azeotropes)と呼ばれる。
上記の説明からわかるように,共沸混合物様組成物のもう一つの特徴は,同じ成分を種々の割合で含有した,共沸混合物様のある範囲の組成物があるということである。こうした組成物は全て,本明細書にて使用している共沸混合物様という用語にて含まれるものとする。例えば,圧力が異なると,ある与えられた共沸混合物の組成は,その沸点が変わるにつれて少なくともいくらかは変化する。従って,AとBの共沸混合物はユニークなタイプの関係を示すが,その組成は温度及び/又は圧力によって決まる。当技術者には容易にわかることであるが,共沸混合物の沸点は圧力と共に変わる。
従って,本発明の意味する範囲内で共沸混合物様であることを明確に示すもう一つの方法は,該混合物が32°F(0℃)にて,本明細書に開示の最も好ましい組成物の蒸気圧〔32°F(0℃)にて約119psia(810kPa)〕の約±5psia(25kPa)の範囲内の蒸気圧を有することを明示することである。好ましい組成物は,32°F(0℃)にて約±2psia(14kPa)の範囲の蒸気圧を示す。
本発明の1つのプロセス実施態様においては,本発明の共沸混合物様組成物は,共沸混合物様組成物を含んだ冷媒を凝縮させること,次いで冷却すべき物体の付近にて前記冷媒を蒸発させること,を含む冷却方法において使用することができる。
本発明の他のプロセス実施態様においては,本発明の共沸混合物様組成物は,加熱すべき物体の付近にて冷媒を凝縮させること,次いで前記冷媒を蒸発させること,を利用した加熱方法において使用することができる。本発明の新規な共沸混合物様組成物中のペンタフルオロエタン成分とジフルオロメタン成分は,よく知られている物質である。これらの物質は,一定の沸点にて沸騰するという系の特性に悪影響を与えないよう,充分に高い純度で使用するのが好ましい。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが,本発明がこれによって限定されることはない。
実施例1
本実施例では,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンからなる系に対する沸点-組成曲線において最小値が生じることを示しており,これにより共沸混合物の存在が確認されている。
沸騰液体混合物の温度は,W.Swietoslawskiによる「“沸点上昇法による測定(Ebulliometric Measurement)”,P.4,レインホールド・パブリッシング・コーポレーション(Reinhold Publishing Corp.)(1945)」に記載の方法と類似の沸点上昇法を使用して測定した。
先ず沸点測定装置に計量した量のジフルオロメタンを入れた。沸点測定装置の下部を穏やかに加温することによって,この系を還流状態にした。二酸化炭素アイス/メタノール混合物を使用して,凝縮器を冷却した。沸騰液体の温度は,正確な25オーム白金抵抗温度計を使用して測定した。本温度計は,±0.01℃の精度で沸点測定値を記録した。定常状態に達した後,沸騰温度と大気圧を記録した。次いで,計量したアリコートのペンタフルオロエタンを沸点測定装置中に導入し,定常状態に達した後に再び温度と圧力を記録した。追加アリコートのペンタフルオロエタンを使用して,このプロセスを繰り返した。
下記の表1には,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンを種々の割合で含んだ混合物に対する,745.2mmHgにおける沸点測定値が記載してある。

表Iにまとめられたデータは,沸点-組成曲線において最小値が存在すること,すなわちペンタフルオロエタンとジフルオロメタンとの混合物がポジティブ・アゼオトロープを形成することを示している。
実施例2
本実施例では,ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンを含んだある特定の組成物が実質的に一定の蒸気圧を有することを示す。一定蒸気圧-組成の領域を使用して,一定の沸点で沸騰する組成物の範囲,すなわち共沸混合物様組成物の範囲が定められる。
約150cm^(3)容量の容器中にてHFC-125とHFC-32との混合物を調製することによって,蒸気圧の測定を行った。磁気駆動撹拌機と0?300psia(2068kPa)の圧力変換器(精度±0.2%)を装備した容器を,±0.05°F(0.03℃)に制御した定温浴中に浸した。熱平衡に達したときに,蒸気圧の測定値を記録した。HFC-125とHFC-32の種々の組成にて,この手順を繰り返した。

表IIは,これらの実験結果を示している。
表IIに記載のデータを内挿することにより,約1?50重量%のペンタフルオロエタン及び約99?50重量%のジフルオロメタンを含んだ組成において,蒸気圧は5psia(34kPa)の範囲内で実質的に一定であることがわかる(すなわち,この組成範囲においては,組成物は実質的に一定の沸点で沸騰するか,あるいは共沸混合物様である)。
実施例3
本実施例では,HFC-125/HFC-32のある特定のブレンド物が難燃性であることを示す。燃焼性の測定は,ASHRAEスタンダード34に従って修正したASTM E-681法を使用して行った。簡単に説明すると,本方法は,5リットル容量の球状ガラス容器中でフルオロカーボン/空気のガス状混合物を1気圧の全圧となるよう調製すること;均一な組成物が確実に得られるよう,磁気駆動撹拌機により前記混合物を撹拌すること;そして電気点火式の台所用マッチヘッド(electrically activated kitchen match head)を使用して前記混合物を点火させようと試みること;を含む。分圧法によりHFC-125,HFC-32,及び空気の混合物を調製し,次いでASTM E-681に規定されているように炎が広がるかどうかを調べることによって,三元燃焼性ダイヤグラムを作成した。臨界燃焼性組成物(critical flammability composition),すなわちHFC-125とHFC-32とのブレンドからなる組成物であって,易燃性のHFC-32を最も多い割合で含むが,空気中でフレーム・リミット(flame limit)を示さない組成物を,ハエンニ(Haenni)らによる「インダストリアル・アンド・エンジニアリング・ケミストリー,Vol.51,pp.685-688(1959)」に記載の方法と類似のグラフ法にて測定した。臨界燃焼性組成物は,64.3重量%のHFC-32と約35.7重量%のHFC-125を含んだ組成物であることが見出されている。言い換えると,35.7重量%以上のHFC-125を含有したHFC-125/HFC-32ブレンド物は,そのあらゆる割合において,周囲条件にて空気中で難燃性である。
同じ装置を使用して,高純度のHFC-32が空気中で12.6?33.4容量%のフレーム・リミットを示すことが見出された。HFC-125とHFC-32とを含んだ共沸混合物様ブレンド物はHFC-32単独より燃焼性が低く,また共沸混合物様の挙動を示すので凝離を起こすことがない。
実施例4
本実施例では,共沸混合物様のHFC-125/HFC-32ブレンド物が,HFC-32単独の場合に比べてある特定の性能上の利点を有していることを示す。
特定の操作条件における冷媒の理論的性能は,標準的な冷却サイクル解析法,(例えば,R.C.ダウニング(Downing),“フルオロカーボン冷媒ハンドブック”,第3章,Prentice-Hall(1988)を参照)を使用して,冷媒の熱力学的性質から推測することができる。成績係数(COP)は広く受け入れられている尺度であり,冷媒の蒸発又は凝縮を含んだ特定の加熱・冷却サイクルにおける冷媒の相対的な熱力学効率を表わすのに特に有用である。冷却工学においては,この用語は,蒸気を圧縮する場合の有効なその冷却と圧縮機により加えられるエネルギーとの比を表わす。冷媒の能力(capacity)は該冷媒の容量効率で示される。圧縮機技術者にとっては,この値は,ある与えられた容量流量の冷媒に対する熱量をポンプ送りする圧縮機の能力(capability)を表わす。言い換えると,ある特定の圧縮機が与えられた場合,より高い能力もった冷媒は,より多くの冷却もしくは加熱 エネルギーを移送する。
発明者らは,凝縮器の温度が通常37.8℃(100°F)であって,エバポレーターの温度が通常-45.6℃(-50°F)?-23.3℃(-10°F)であるような定温冷却サイクルに対する冷媒に関して,このタイプの算出を行った。発明者らはさらに,圧縮が等エントロピー圧縮であり,そして圧縮機入口温度が18.3℃(65°F)であると仮定した。HFC-32とHFC-125の80/20重量比のブレンド物,及びHFC-32単独物に対して,このような算出を行った。表IIIは,エバポレーター温度のある範囲にわたって,HFC-32とHFC-125の80/20ブレンド物のCOPを,HFC-32のCOPと比較して示している。表IIIにおいては,★の記号は,COPと能力(capacity)がHFC-32との比較にて与えられていることを示している。

上表に記載のデータは,HFC-32/HFC-125の80/20ブレンド物が,HFC-32単独の場合に比べてある程度のCOPの向上を果たすこと,実質的に同じ冷却能力を有すること,そしてさらに,圧縮機からのより低い排出温度を与えること(このことは圧縮機の信頼性に寄与する-すなわち,当業界では,圧縮機排出温度が低いほど,より信頼性の高い圧縮機作動が得られることが知られている)を示している。
さらに,本実施例にて使用されている20重量%より多いHFC-125を含んだ共沸混合物様のHFC-32/HFC-125混合物は,HFC-32単独の場合と等しい性能,及びより一層低い圧縮機排出温度を与える。
好ましい実施態様を挙げて本発明を詳細に説明してきたが,特許請求の範囲において規定されている本発明の範囲を逸脱することなく,種々の変形や改良形が可能であることは言うまでもない。
(57)【特許請求の範囲】
1.約35.7?約50.0重量%のペンタフルオロエタンと約64.3?約50.0重量%のジフルオロメタンとからなり,32°Fにて約119.0psiaの蒸気圧を有する,空調用又はヒートポンプ用の冷媒としての共沸混合物様組成物。
2.請求項1に記載の組成物を凝縮させること,次いで前記組成物を冷却すべき物体の近くで蒸発させること,を含む,空調において冷却作用を生成させる方法。
3.請求項1に記載の組成物を加熱すべき物体の近くで凝縮させること,次いで前記組成物を蒸発させること,を含む加熱作用を生成させる方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-01-25 
結審通知日 2011-02-24 
審決日 2008-02-13 
出願番号 特願平2-511339
審決分類 P 1 123・ 121- YA (C09K)
P 1 123・ 531- YA (C09K)
P 1 123・ 534- YA (C09K)
P 1 123・ 113- YA (C09K)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 井上 千弥子
木村 敏康
登録日 1994-10-07 
登録番号 特許第1877437号(P1877437)
発明の名称 ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンの共沸混合物様組成物  
代理人 牧野 利秋  
代理人 礒山 朝美  
代理人 沖本 一暁  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小野 新次郎  
代理人 沖本 一暁  
代理人 吉武 賢次  
代理人 宮嶋 学  
代理人 高村 雅晴  
代理人 平山 晃二  
代理人 礒山 朝美  
代理人 中村 行孝  
代理人 野矢 宏彰  
代理人 紺野 昭男  
代理人 横田 修孝  
代理人 野矢 宏彰  
代理人 牧野 利秋  
代理人 平山 晃二  
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