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審決分類 審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H01L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01L
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1241636
審判番号 無効2009-800005  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-01-08 
確定日 2011-07-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4073968号「太陽電池及びその製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成22年 1月28日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの決定(平成22年(行ケ)第10175号、平成22年 9月 9日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4073968号(以下「本件特許」という。登録時の請求項の数は21である。)の請求項1ないし21に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
1 出願の経緯
本件特許の出願の経緯は、以下のとおりである。

1998年(平成10年)5月29日 国際特許出願
(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年5月30日、欧州特許庁)
平成11年11月29日 特許法第184条の5第1項の規定による書面提出
平成11年11月29日 補正書の翻訳文提出(特許法第184条の8第1項)
平成18年12月20日(起案日) 拒絶理由通知
平成19年 7月10日 手続補正書及び意見書提出
平成19年12月25日(起案日) 特許査定
平成20年 2月 1日 特許権の設定の登録

2 本件審判の経緯
本件審判の経緯は、以下のとおりである。

平成21年 1月 8日 審判請求
平成21年 4月27日 上申書提出(被請求人)
平成21年 5月 7日 訂正請求
平成21年 5月 7日 答弁書提出(被請求人)
平成21年 6月15日 弁駁書提出(請求人)
平成21年10月 1日 口頭審理陳述要領書提出(請求人及び被請求人)
平成21年10月15日 口頭審理
平成21年12月15日 上申書提出(被請求人)
平成22年 1月28日 審決
上記審決は、請求項5、13、18及び21を削除する訂正を認め、請求項1ないし4、6ないし12、14ないし17、19及び20に係る発明についての特許を無効とするものであり、請求人は、同審決の取消を求めて知的財産高等裁判所に出訴し、同出訴は、平成22年(行ケ)第10175号事件として審理された結果、平成22年9月9日に「特許庁が無効2009-800005号事件について平成22年1月28日にした審決を取り消す。」との決定がなされた。
なお、上記審決において認められた、請求項5、13、18及び21を削除する訂正は、同審決の送達時に確定した(同審決は、後述の(参考)を参照。)。
以後の経緯は、次のとおりである。
平成22年11月19日 訂正請求
平成22年12月28日 弁駁書提出(請求人)

第3 訂正請求についての当審の判断
1 訂正請求の内容
被請求人が平成22年11月19日にした訂正請求(以下、同訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」といい、以下においては、便宜上、特許掲載公報である特許第4073968号公報を参照して引用することとする。なお、請求項5、13、18及び21を削除する訂正が確定したことは、上記第2、2のとおりである。)について、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを請求するものであって、以下の事項をその訂正内容とするものである(訂正による変更部分に下線を付した。)。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1を下記のとおり訂正する。
「1.半導体基板内に設けられた太陽電池であって、前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記基板の周辺より内側に存在し、前記前面から前記背面まで延在している複数のバイアを有し、前記複数のバイアは、所定の方向に延在する複数本のバイア列に配列され、
前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、
前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、
前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、
前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており、
前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続しており、
前記前面の前記第1導電性接点は、前記所定の方向と交差して延在し、前記前面において前記バイア列を横切るように前記バイア上を通過する複数の線状の狭い金属フィンガーからなり、
前記背面の前記第3導電性接点は、前記所定の方向に延在し、前記背面において、前記バイア列に沿って前記バイア上を通過する複数の延在する部分と、前記複数の延在する部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、
前記背面の前記第2導電性接点は、前記所定の方向に延在する複数の部分と、前記延在する複数の部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、
前記背面において、前記第3導電性接点と、前記第2導電性接点とが櫛形交差構造を形成する、太陽電池。」

(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項6を下記のとおり訂正する。
「5.前記前面上の前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い、請求項1に記載の太陽電池。」

(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項7を下記のとおり訂正する。
「6.前記前面上の前記第1導電性接点が多数の並列に配置された金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内の
バイア数とちょうど一致する請求項1に記載の太陽電池。」

(4)訂正事項d
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(5)訂正事項e
特許請求の範囲の請求項9を下記のとおり訂正する。
「7.前記前面上に反射防止被覆層が積層されている請求項1から6のいずれか一項に記載の太陽電池。」

(6)訂正事項f
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(7)訂正事項g
特許請求の範囲の請求項11を削除する。

(8)訂正事項h
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

(9)訂正事項i
特許請求の範囲の請求項14を削除する。

(10)訂正事項j
特許請求の範囲の請求項15を削除する。

(11)訂正事項k
特許請求の範囲の請求項16を削除する。

(12)訂正事項l
特許請求の範囲の請求項17を削除する。

(13)訂正事項m
特許請求の範囲の請求項19を削除する。

(14)訂正事項n
特許請求の範囲の請求項20を削除する。

(15)訂正事項o
発明の名称を「太陽電池」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項d、fないしnについて
訂正事項d、fないしnは、訂正前の請求項8、10ないし12、14ないし17、19及び20を削除するものであって、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、上記各訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項aについて
ア 「前記基板の周辺より内側に存在し」について
本訂正事項は、請求項1に係る発明における「複数のバイア」について、「前記基板の周辺より内側に存在し」との特定事項を付加するものである。
しかるところ、本件特許明細書の「図1bにおいて、多数のバイア4が基板を貫いて機械で作製される。適当な方法を用いることによって、バイアの開き角αを変えることができる。α>0°の孔を機械によって作製する方法には、機械的ドリルによる方法や火花放電腐食による方法も含まれる。また、これらの方法は円柱状の孔(α=0°)を作製するのにも適している。加えて、レーザードリル、ウオータージェットドリル、電子ビームドリル及び超音波ドリルによっても円柱状の孔を作製することができる。」(6頁45行?50行)の記載に見られるように、「バイア」は、基板を貫いて形成される穴状の部分であって、基板の周辺より内側に形成されるものであることは、当業者にとって明らかである。
してみれば、本訂正事項は、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

イ 「前記複数のバイアは、所定の方向に延在する複数本のバイア列に配列され」及び「前記前面の前記第1導電性接点は、前記所定の方向と交差して延在し、前記前面において前記バイア列を横切るように前記バイア上を通過する複数の線状の狭い金属フィンガーからなり」について
本訂正事項は、請求項1に係る発明における「複数のバイア」を「所定の方向に延在する複数本のバイア列に配列され」るものに限定するとともに、「第1導電性接点」を「前記所定の方向と交差して延在し、前記前面において前記バイア列を横切るように前記バイア上を通過する複数の線状の狭い金属フィンガーからな」るものに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い」(請求項6)、「前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する」(請求項7)、「前面上の導電性接点は多数の狭い金属線から形成されており、導電性経路の各部分は前面の開口部を経由して前記部分の少なくとも一つに向っている。」(5頁49行?50行)、「n型接点が電池の前面2上に形成され、図1fに示したように、すでに金属化されたバイアとの接点が形成される。前面上のこのn型接点は、狭い金属フィンガーからなり、すなわち導電性経路の各部分は、図2及び図3に示したように前面の開口部を経由して少なくとも前記部分の一つへと向っているものである。」(7頁37行?40行)及び「バイアは2つの線に沿って配置される必要はない。」(8頁13行)との記載があり、これら記載と図2及び図3を併せみると、バイアが二つの線に沿う列に配置されるとともに、狭い金属線から形成される複数の導電性接点、すなわち、線状の狭い金属フィンガーからなる複数の導電性接点が、バイアが配置される列と交差する方向に延在しバイア列を横切るようにバイアの上を通過すること、バイアが配置される列は二つの線に限られない複数の列であってよいことが理解できる。ここで、バイアが配置される列やバイアが配置される列が延在する方向ないし金属フィンガーが延在する方向をどのように表現するかは表現上の問題であって、バイアが配置される列をバイア列と表現すること、あるいはその列が延在する方向を所定の方向と表現することにより新たな技術上の意義が導入されるものではない。
したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

ウ 「前記背面の前記第3導電性接点は、前記所定の方向に延在し、前記背面において、前記バイア列に沿って前記バイア上を通過する複数の延在する部分と、前記複数の延在する部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、前記背面の前記第2導電性接点は、前記所定の方向に延在する複数の部分と、前記延在する複数の部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、前記背面において、前記第3導電性接点と、前記第2導電性接点とが櫛形交差構造を形成する」について
本訂正事項は、請求項1に係る発明における「第2導電性接点」及び「第3導電性接点」について、「第2導電性接点」が「前記所定の方向に延在する複数の部分と、前記延在する複数の部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有」し、「第3導電性接点」が「前記所定の方向に延在し、前記背面において、前記バイア列に沿って前記バイア上を通過する複数の延在する部分と、前記複数の延在する部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有」し、「前記背面において、前記第3導電性接点と、前記第2導電性接点とが櫛形交差構造を形成する」ものに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「電池のp型接点は背面に形成され、それによって上述した背面上のn型接点から分離された背面上に金属線の第2グリッドを形成する。金属接点の使用によって適切な実現が可能となる。」(7頁第41行?43行)及び「図4は、背面の金属化構成の例を示している。電池及び基板本体の背面上のエミッタは互いに接触しており、接合点は、前面上の第1キャリア収集接合点に加えて第2キャリア収集接合点として用いられる。この構成では、バルク15との接点フィンガー及び背面エミッタ16との接点フィンガーとからなる櫛形交差構造(interdigitated structure)を結果として生じさせる。ここに記述された背面金属化構造は、単一の太陽電池内での電気的な内部接続を容易なものにしてくれる。その例としては、図5に二つの電池の直列接続を示しており、これは、第1電池の端のn型接続器と隣接する第2電池の端のp型接続器について、互いに並べて配置することによって実現できる。電気的接続は、両方の接続器にまたがる広い伝導性リード17を適用することによって容易に確立される。」(8頁21行?30行)との記載があり、これら記載と図2ないし図5とを併せみると、基板の背面において、第2導電性接点であるp型接点が、バイア列の方向に沿って延在する複数の部分と、これら部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、第3導電性接点であるn型接点が、バイア列の方向に沿って延在しバイアの上を通過する複数の部分と、これら部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、第2導電性部分と第3導電性部分とが櫛形交差構造を形成することが理解できる。
したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項aについてのまとめ
以上の検討によれば、訂正事項aは、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮ないし同第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項bについて
本訂正事項は、登録時の請求項5を削除する訂正(なお、該訂正が確定したことは、前記第2、2のとおりである。)に伴って、訂正前の「請求項6」を「請求項5」に訂正するとともに、引用する請求項を「請求項5」から「請求項1」に訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
ここで、訂正前の請求項6において引用される請求項5の登録時の記載は、「前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向っている請求項1から4のいずれか一項に記載の太陽電池。」というものである。
しかるところ、上記記載中の「前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなる」との事項は、本件訂正後の請求項5(登録時の請求項6)においても記載されている。
また、請求項1に係る訂正事項aにおける上記(2)イの「金属フィンガー」が「前記前面において前記バイア列を横切るように前記バイア上を通過する」との訂正事項は、上記記載中の「前記金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向っている」との記載の意味内容を明りょうにするものと解されるところ、同訂正事項が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは、上記(2)イで検討したとおりである。
してみれば、本訂正事項が、引用する請求項を「請求項5」から「請求項1」に訂正するものであっても、これにより、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであはない。
以上の検討によれば、訂正事項bは、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項cについて
本訂正事項は、登録時の請求項5を削除する訂正に伴って、訂正前の「請求項7」を「請求項6」に訂正するとともに、引用する請求項を「請求項6」から「請求項1」に訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮ないし同第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
ここで、訂正前の請求項7の記載は、「前記前面上の前記第1導電性接点が多数の並列に配置された金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する請求項6に記載の太陽電池。」というものであるが、同請求項において引用される請求項6の記載は、「前記前面上の前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い、請求項5に記載の太陽電池。」というものであって、請求項7では「前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する」とされているのに、請求項6では「前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い」とされており、両者は矛盾するものであるから、請求項7において引用される「請求項6」は「請求項5」の誤記と解される。
しかるところ、請求項5を引用する訂正前の請求項6に係る訂正事項bについての上記(3)の検討に照らせば、同様の理由により、訂正事項cは、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項eについて
本訂正事項は、登録時の請求項5を削除する訂正及び訂正前の請求項8を削除する訂正に伴って、訂正前の「請求項9」を「請求項7」に訂正するとともに、引用する請求項を「請求項1から8のいずれか一項」から「請求項1から6のいずれか一項」に訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、訂正事項eは、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項oについて
本訂正事項は、太陽電池の製造方法に係る訂正前の請求項を削除する訂正(訂正事項fないしn)に伴って、発明の名称を「太陽電池及びその製造方法」から「太陽電池」に訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、訂正事項eは、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

3 本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。

4 請求人の主張について
以下に検討して付言するとおり、平成22年12月28日提出の弁駁書において請求人が本件訂正に対してする主張は、いずれも採用できない。

(1)請求人は、本件特許明細書からは、バイア列という概念そのものが読み取れないから、バイア列という新たな概念を導入して定義した「複数本のバイアは所定の方向に延在する複数本のバイア列に配列されている」ことは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でした訂正とはいえない旨主張する(弁駁書4頁、7.1.1)が、上記2(2)イでの検討に照らして、採用できない。

(2)請求人は、例えば、所定の方向とは図2、3の縦方向であると解釈すれば、縦方向に延在する金属フィンガー10は所定の方向と一致して並んでいることになり、図2は所定の方向と交差する方向に延在する第2、3導電性接点を示すことになり、訂正された請求項1は明細書又は図面に開示されていないものまで含むので、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でした訂正とはいえない旨主張する(弁駁書4頁?5頁、7.1.2及び7.1.3)。
しかし、訂正後の請求項1の記載によれば、「所定の方向」は、金属フィンガーが延在する方向と交差し、また、第2及び第3導電性接点の複数の部分が延在する方向であるから、請求人が主張するように、図2等が、所定の方向と一致して並んでいる金属フィンガー10や、所定の方向と交差する方向に延在する第2、3導電性接点を示すものと解せるものではない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

(3)請求人は、第1導電性接点がバイア列を横切ると定義した請求項1は新規事項を含む旨主張する(弁駁書5頁?6頁、7.1.4)が、上記2(2)イでの検討に照らして、採用できない。

(4)請求人は、櫛形交差構造の前提となる第2導電性接点の延在する部分、第3導電性接点がバイア列に沿ってバイア上を通過する複数の延在する部分、及び終端を連結する部分を有するという構造は新規事項の追加に該当する旨主張する(弁駁書6頁?7頁、7.1.5)が、上記2(2)ウでの検討に照らして、採用できない。

(5)請求人は、請求項1を引用する請求項2から請求項7に係る訂正も、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に違反する旨主張する(弁駁書7頁、7.1.5末尾)が、請求項1に係る訂正に対する上記主張が採用できないから、前提を欠き、採用できない。

(6)請求人は、請求項1から請求項7に係る発明は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定される独立特許要件を欠く旨主張する(弁駁書7頁?16頁、7.2及び7.3)が、特許法第134条の2第5項に、『第126条第3項から第6項まで、第127条第128条第131条第1項及び第3項、第131条の2第1項並びに第132条第3項及び第4項の規定は、第1項の場合に準用する。この場合において、第126条第5項中「第1項ただし書第1号又は第2号」とあるのは、「特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第1項ただし書第1号又は第2号」と読み替えるものとする。』とされるとおり、特許法第126条第5項に規定されるいわゆる独立特許要件は、無効審判の請求がされていない請求項についてのものであるから、本件訂正後の請求項1から請求項7に係る発明が独立特許要件を欠くことをもって、本件訂正が認められないことを主張すること自体失当である。
なお、上記主張の内容の当否についても、後記第7、3で検討する。

第4 本件発明
上記のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許第3674234号の請求項1ないし7に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件訂正発明1」などといい、これらを総称して「本件訂正発明」ということがある。)は、次の各請求項に記載したとおりのものと認められる。

「1.半導体基板内に設けられた太陽電池であって、前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記基板の周辺より内側に存在し、前記前面から前記背面まで延在している複数のバイアを有し、前記複数のバイアは、所定の方向に延在する複数本のバイア列に配列され、
前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、
前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、
前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、
前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており、
前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続しており、
前記前面の前記第1導電性接点は、前記所定の方向と交差して延在し、前記前面において前記バイア列を横切るように前記バイア上を通過する複数の線状の狭い金属フィンガーからなり、
前記背面の前記第3導電性接点は、前記所定の方向に延在し、前記背面において、前記バイア列に沿って前記バイア上を通過する複数の延在する部分と、前記複数の延在する部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、
前記背面の前記第2導電性接点は、前記所定の方向に延在する複数の部分と、前記延在する複数の部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、
前記背面において、前記第3導電性接点と、前記第2導電性接点とが櫛形交差構造を形成する、太陽電池。
2.前記基板の前記第1領域がp型導電性であるのに対して前記第2領域がn型導電性である請求項1に記載の太陽電池。
3.前記基板の前記第1領域がn型導電性であるのに対して前記第2領域がp型導電性である請求項1に記載の太陽電池。
4.前記バイアが円錐形状又は円柱形状のいずれかである請求項1から3のいずれか一項に記載の太陽電池。
5.前記前面上の前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い、請求項1に記載の太陽電池。
6.前記前面上の前記第1導電性接点が多数の並列に配置された金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する請求項1に記載の太陽電池。
7.前記前面上に反射防止被覆層が積層されている請求項1から6のいずれか一項に記載の太陽電池。」

第5 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由1(特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1、2、4、10ないし13及び15に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、本件特許の請求項1ないし21に係る発明は、甲第1、2及び4号証(周知例を示す文献として甲第5ないし7号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(なお、口頭審理において、請求人は、甲第3号証に基づく主張はしない旨陳述した。)

2 無効理由2(特許法第36条第6項)
本件特許の請求項1ないし請求項21の記載は、特許法第36条第6項の要件を満たしていないものであるから、前記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(なお、口頭審理において、請求人は、特許法第36条第4項違反について主張する審判請求書「8-2-2」は、本件特許の無効を主張する理由としない旨陳述した。)

3 甲号証
請求人が平成21年1月8日にした審判請求に際して提出した甲号証は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開昭58-39071号公報
甲第2号証:特開昭63-211773号公報
甲第4号証:特開昭59-150482号公報
甲第5号証:特開平8-335711号公報
甲第6号証:特公平6-82853号公報
甲第7号証:特開平9-148600号公報

なお、請求人は、平成22年12月28日提出の弁駁書に添付して、以下の甲号証を提出した。

甲第8号証:特開平7-226528号公報
甲第9号証:米国特許第4838952号明細書
甲第10号証:特開平8-148709号公報

第6 被請求人の主張の概要
請求人が主張する上記第3の無効理由に対して、被請求人は、乙第1号証(特許第3999820号公報)を提出するとともに、本件訂正発明は明確であり、また、甲第1、2号証に対して進歩性を有する旨主張している(平成22年11月19日提出の訂正請求書8頁?12頁、(4-2)A、B)。

第7 無効理由についての当審の判断
1 無効理由2(特許法第36条第6項)について
事案にかんがみ、無効理由2(審判請求書、8-2-1)についてまず検討する。
なお、請求人は、以下の(1)ないし(4)のほか、登録時の請求項5、8、10、12、13、18、19、20、21についても特許法第36条第6項違反を主張するが、該当請求項は、訂正により削除された。

(1)請求人は、本件特許の請求項1に記載の発明特定事項のうち「第1導電性接点」、「第2導電性接点」及び「第3導電性接点」は、明細書の発明の詳細な説明の項には何ら記載されていない(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるという要件を満たしていない)旨主張する。
しかるに、本件特許の願書に添付した明細書(本件訂正後のもの。以下「本件訂正明細書」という。なお、登録時以降、発明の詳細な説明は訂正されていないので、以下において同明細書の発明の詳細な説明を引用するときは、便宜上、特許掲載公報である特許第4073968号公報を参照して引用することとする。)の発明の詳細な説明には、
「太陽電池には最終的に金属接点が使用される。その実現にはスクリーン印刷のようによく知られた金属化手法を用いることができる。スクリーン印刷によって、背面にn型接点を形成し、バイア4の金属化を行なうという組み合わせができる。バイアはある程度金属化されるべきであり、それによって金属は少なくとも前面と背面のn型接点間の導電路を形成する。採りうるものとしては、図1eに表現されたように、バイアはバイア内を完全に満たして前面に達するまで延ばして金属化される。
n型接点が電池の前面2上に形成され、図1fに示したように、すでに金属化されたバイアとの接点が形成される。前面上のこのn型接点は、狭い金属フィンガーからなり、すなわち導電性経路の各部分は、図2及び図3に示したように前面の開口部を経由して少なくとも前記部分の一つへと向っているものである。
電池のp型接点は背面に形成され、それによって上述した背面上のn型接点から分離された背面上に金属線の第2グリッドを形成する。金属接点の使用によって適切な実現が可能となる。」(7頁31行?43行)
との記載がある。
そして、本件訂正発明1における「第1導電性接点」は基板の前面が有し、「第2導電性接点」及び「第3導電性接点」は基板の背面が有するものであるから、これら導電性接点は、それぞれ、上記記載における、前面に形成されるn型接点、背面に形成されるp型接点、及び、背面に形成されるn型接点に対応することは明らかであるから、本件訂正明細書の発明の詳細な説明において、「第1導電性接点」、「第2導電性接点」及び「第3導電性接点」が記載されていないとすることはできない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

(2)請求人は、本件特許の請求項1では、「少数キャリアの拡散距離と基板の寸法との関係」に関わる限定が平成19年7月10日付け手続補正で削除されているが、本件特許発明(請求項1)は、本件特許の背景技術の課題を考慮すると、小数キャリアの拡散距離が基板の寸法(厚み等)より小さい場合に成立するものと思料されるものであり、本来であれば、当該限定をより明確にする補正をするのが拒絶理由を解消する対応であるにもかかわらず、当該限定そのものを削除するような補正がなされた本件特許発明(請求項1)は、発明自体を不明確にしている(発明を変更している)旨主張する。
しかし、本件訂正発明1において、「少数キャリアの拡散距離と基板の寸法との関係」についての事項が特定されないとしても、そのことによって、本件訂正発明1が明確でなくなる理由は見当たらない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

(3)請求人は、本件特許の請求項6(登録時のもの。)に記載の発明特定事項のうち「前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い」という記載が「バイアの一つの列内のバイア数」が明細書中で、明確に定義されていないため、請求項6の構成が不明であり(特許を受けようとする発明が明確である要件を満たしていない。)、請求項7も同様である旨主張するが、請求項5及び請求項6(本件訂正後)において引用される請求項1を見ると、請求項5及び請求項6でいう「バイアの一つの列」とは、請求項1に記載された「所定の方向に延在する複数本のバイア列」の一つをいうものと理解できるから、「バイアの一つの列内のバイア数」とは、その列内のバイアの数であることが理解できる。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

(4)請求人は、請求項7は請求項6(いずれも登録時のもの。)を引用しているが、請求項6の「前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い」という限定に対して、請求項7の「前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する」という限定は矛盾していると主張するが、請求項6(本件訂正後)において引用されるのは請求項1であり、請求人主張に係る矛盾は解消されている。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

2 無効理由1(特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項)について

(1)甲号証の記載
ア 本願の優先日前に頒布された刊行物と認められる甲第1号証(特開昭58-39071号公報)には、以下の記載がある。

(ア)「本発明は、受光側表面と裏面とにそれぞれ電極を有する太陽電池素子に関する。
従来、太陽電池素子(以下、単に素子という。)にあっては、太陽エネルギーによる電気出力を取り出すための電極が、受光側の表面と裏面にそれぞれ形成されているので、このような素子を多数個直列に接続するためには、例えば、ひとつの素子の表面側電極に取付けたリード線を,直列接続すべきもうひとつの素子の裏面側電極に接続する必要がある。
ところが、このような結線を行なうには、ひとつの素子の表面を上にした状態で表面電極にリード線の一端を接続し、次に裏面を上にした状態で、もうひとつの素子の裏面電極にそのリード線の他端を接続する作業を行なわなければならず、したがって、多数個の素子を直列に接続する場合にはさらに煩雑となる。
本発明の目的は、短時間にしかも簡単に素子間の結線作業を行なうことのできる素子を提供することである。
第1図は本発明の一実施例の斜視図であり、第2図はその側面断面図である。素子1は、平担な表面2と裏面3とを有しており、P型基板5の表面全面から一側面を通り裏面の一部にかけて表層にn型層4が設けられてPn接合部を形成している。素子の表面2のn層の上には、櫛形電極7が形成され、また、その裏面3には長方形状の裏面電極9がP型基板に直接形成されている。
素子1の櫛形状表面電極7が集まる一辺の側面には、素子の厚み方向に、複数個(本件実施例では3個)の溝10が形成されている。素子1の表面における溝10の周辺と、素子の裏面における溝10の周辺には、それぞれ、表面電極7と、表面電極リード付部8がn層4を被覆して設けられており、この表面電極7と表面電極リード付部8は、溝10の内部に充填された導電性を有する側面導通部11により接続されている。」(1頁左下欄12行?2頁左上欄8行)

(イ)「このような構造を有する素子の製造方法を、第3図ないし第9図を参照しながら説明する。
第3図で示す断面形状のP型シリコン基板5の所定個所に、例えば、YAGレーザのパルス状ビームを照射して、第4図に示すように内径200μ?300μの貫通孔12が形成されたP型シリコン基板のウェハーを、必要な場合にはエッチング液により例えば表面層10μ?20μ程度をエッチングして取り除き、通常の拡散方法、例えば気相拡散法などでn型の不純物リン等を拡散して、第5図に示すように、n層4を形成する。その後、そのウエハーの表面全面と裏面の孔12周辺を含む一部に、第6図に示すように、耐酸性のエッチングレジスト13を塗布する。
次に、このウエハーをエッチング液で必要時間処理した後、エッチングレジスト13をレジスト用の溶剤を用いて取り除くと、第7図に示すように、エッチングレジスト13が塗布されたn層4のみを残し、残余のn層4はすべて除去された構造のものが得られる。この結果、ウエハー上のn層4は、ウエハーの表面全体、貫通孔12の内周壁、及びウエハーの裏面における貫通孔12の周辺のみとなる。このようなウエハーの表面および裏面のP型およびn型のシリコンに対してオーミックな電極を形成するため、第8図に示すように、電極用ペースト7,8および9を印刷し焼成する。
このように、表面側の電極用ペースト7と裏面側の表面電極リード付け用ペースト8とを印刷する場合、貫通孔12の内部にもその印刷ペーストが容易に入り込んでくるので、両電極用ペースト7および8の電気的接続を行うことができる。
・・・次に、第9図に示すように、貫通孔12を含む部分からこのウエハーをレーザスクライバまたはダイヤモンドスクライバにより2個に切断分離すると、上述した素子が得られる。」(2頁左上欄9行?左下欄5行)

イ 同じく甲第2号証(特開昭63-211773号公報)には、以下の記載がある。

(ア)「(1) 第1導電形の結晶基板表面上に順次エピタキシャル成長した第1導電形の化合物半導体層,第2導電形の第1の化合物半導体層,および第2導電形の第2の化合物半導体層と、前記第2導電形の第1の化合物半導体層あるいは前記第2導電形の第2の化合物半導体層上に形成されたグリッド電極を備え、前記第1導電形の結晶基板裏面の区画化された一部に一方の電極を設け、前記第1導電形の結晶基板裏面の他の部分に他方の電極を備え、前記他方の電極と表面の前記グリッド電極とを前記第1導電形の結晶基板に形成したスルーホールを通してそれぞれ電気的に接続したことを特徴とする化合物半導体太陽電池。
(2) スルーホールを介してグリッド電極と接続される電極は、ドーパントを選択拡散して形成した拡散層に接触するように形成したことを特徴とする特許請求の範囲第 (1)項記載の化合物半導体太陽電池。」(1頁左下欄4行?右下欄2行)

(イ)「この発明の一実施例を第1図について説明する。
第1図において、1?6は第2図と同じものであり、16は前記n形GaAs結晶基板1の裏面の一部分に区画化されて形成されたn電極、17は前記n形GaAs結晶基板1の裏面の他の部分に配置されたp電極、18は前記n形GaAs結晶基板1に、インタコネクタのために開けられたスルーホールで、所要数が形成される。19は前記各スルーホール18からp形ドーパントを拡散してn形結晶をp反転させた拡散層であり、p電極17はこの拡散層19に接触してグリッド電極6と接続される。
この発明のGaAs太陽電池の動作は、従来例と同様に、表面より入射した太陽光によって、p形GaAs層3,n形GaAs層2,およびn形GaAs結晶基板1の各半導体層中に電子と正孔が発生し、電子はn形GaAs層2の方へ、正孔はp形GaAs層3の方へ、それぞれ逆方向に拡散し、正負両電荷が分離されて光起電力を発生する。ここで、p形AlGaAs層4および反射防止膜5の役割は従来例と同じである。
電流の取り出しは、発生した電荷をグリッド電極6およびn電極16で捕集するが、グリッド電極6はn形GaAs結晶基板1に形成された複数のスルーホール18を通してp電極17と電気的に接続されているため、裏面より取り出すことができる。拡散層19はp電極16(審決注、「p電極17」の誤記と認められる。)がn形半導体結晶に接触して、電流リークの原因となるのを防ぐ目的で設けたものである。
このように構成することにより、従来のGaAs太陽電池で給電点の役割を果していたバス電極11は不要となる。また、グリッド電極6の極めて近くに複数の給電点を設けているので、グリッド電極6の一本一本を細かくしても抵抗増加の心配はなくなり、グリッド電極6全体の面積を著しく減らすことができ、極めて変換効率の高い高性能なGaAs太陽電池が同時に得られる。」(2頁右下欄4行?3頁右上欄1行)

(ウ)第1図から、反射防止膜5が太陽電池の表面に設けられること、及び、複数のグリッド電極6の各々が、複数のスルーホール18に接続していることが理解できる。

(2)引用発明
ア(ア)前記(1)ア(ア)のとおり、甲第1号証には、「素子1は、平担な表面2と裏面3とを有しており、P型基板5の表面全面から一側面を通り裏面の一部にかけて表層にn型層4が設けられてPn接合部を形成している。・・・素子1の櫛形状表面電極7が集まる一辺の側面には、素子の厚み方向に、複数個の(本件実施例では3個)の溝10が形成されている。素子1の表面における溝10の周辺と、素子の裏面における溝10の周辺には、それぞれ、表面電極7と、表面電極リード付部8がn層4を被覆して設けられており、この表面電極7と表面電極リード付部8は、溝10の内部に充填された導電性を有する側面導通部11により接続されている。」と記載されるところ、前記(1)ア(イ)の甲第1号証の記載に照らすと、素子1は、P型シリコン基板に形成された複数個の貫通孔12を含む部分からウェハーを2個に切断分離することにより形成され、素子1に設けられた溝10は、貫通孔12が切断分離されて形成されるものと認められ、また、前記ウェハー上のn型層4は、ウェハーの表面全体、貫通孔12の内周壁、及びウェハーの裏面における貫通孔12の周辺のみとなるものであるから、素子1に設けられるn型層4は、P型基板の表面全面から、素子1の櫛形状表面電極7が集まる一辺の側面に形成された複数個の溝10の内周壁を通り、裏面における溝10の周辺にかけて形成されるものと認められる。

(イ)前記(1)ア及び上記(ア)によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「平たんな表面と裏面とを有し、P型基板の表面全面から一側面を通り裏面の一部にかけて表層にn型層が設けられてPn接合部を形成する太陽電池素子であって、素子の表面のn型層の上には櫛形状表面電極が形成され、素子の裏面には長方形状の裏面電極が前記P型基板に直接形成され、前記櫛形状表面電極が集まる素子の一辺の側面には、素子の厚み方向に複数個の溝が形成され、前記n型層は、P型基板の表面全面から前記溝の内周壁を通り裏面における溝の周辺にかけて形成され、素子の表面における前記溝の周辺と、素子の裏面における前記溝の周辺には、それぞれ、前記櫛形状表面電極と、前記表面電極リード付部がn型層を被覆して設けられており、前記櫛形状表面電極と前記表面電極リード付部は、溝の内部に充填された導電性を有する側面導通部により接続されている太陽電池素子。」(以下「引用発明1」という。)

イ(ア)前記(1)イ(イ)の「16は前記n形GaAs結晶基板1の裏面の一部分に区画化されて形成されたn電極、17は前記n形GaAs結晶基板1の裏面の他の部分に配置されたp電極、18は前記n形GaAs結晶基板1に、インタコネクタのために開けられたスルーホールで、所要数が形成される。19は前記各スルーホール18からp形ドーパントを拡散してn形結晶をp反転させた拡散層であり、p電極17はこの拡散層19に接触してグリッド電極6と接続される。」との記載に照らして、前記(1)イ(ア)における「ドーパントを選択拡散して形成した拡散層」は、スルーホールの内壁に形成された第2導電形の拡散層であることが認められる。

(イ)前記(1)イ及び上記(ア)によれば、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「第1導電形の結晶基板表面上に順次エピタキシャル成長した第1導電形の化合物半導体層、第2導電形の第1の化合物半導体層、および第2導電形の第2の化合物半導体層と、前記第2導電形の第1の化合物半導体層あるいは前記第2導電形の第2の化合物半導体層上に形成された複数のグリッド電極を備え、前記第1導電形の結晶基板裏面の区画化された一部に一方の電極を設け、前記第1導電形の結晶基板裏面の他の部分に他方の電極を備え、前記他方の電極と表面の前記複数のグリッド電極の各々とを前記第1導電形の結晶基板に形成した複数のスルーホールを通してそれぞれ電気的に接続し、前記スルーホールを通して前記グリッド電極と接続される前記他方の電極は、ドーパントを選択拡散して前記スルーホールの内壁に形成した第2導電形の拡散層に接触するように形成した化合物半導体太陽電池。」(以下「引用発明2」という。)

(3)本件訂正発明との対比・判断
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。

a 引用発明1における「P型基板の表面全面から一側面を通り裏面の一部にかけて表層にn型層が設けられてPn接合部を形成」したものは、本件訂正発明1の「半導体基板」に相当し、引用発明1の「太陽電池素子」は、本件訂正発明1の「半導体基板内に設けられた太陽電池」に相当する。

b 引用発明1の「平たんな表面と裏面」は、本件訂正発明1の「放射線を受取る前面と背面」に相当する。
また、引用発明1の『「櫛形状表面電極が集まる素子の一辺の側面」に「素子の厚み方向」に「形成され」た「溝」』は、「基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位」である点で、本件訂正発明1の「バイア」と一致する。
よって、引用発明1は、「前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する複数の部位」を有する点において、本件訂正発明1の「『前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、・・・前記前面から前記背面まで延在している複数のバイアを有し」との構成と一致する。

c 引用発明1は、「P型基板の表面全面から一側面を通り裏面の一部にかけて表層にn型層が設けられてPn接合部を形成」するものであるから、引用発明1の「基板」は、「P型」の領域と「n型」の領域を有することが明らかである。
そして、引用発明1の「P型」の領域及び「n型」の領域は、それぞれ、本件発明1の「第1型導電性の第1領域」及び「前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域」に相当し、引用発明1は、本件訂正発明1の「前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり」との構成を備える。

d 上記b及びcに照らすと、引用発明1の「前記n型層は、P型基板の表面全面から前記溝の内周壁を通り裏面における溝の周辺にかけて形成され」との構成は、「前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する前記部位の内壁とにわたって連続するエミッタ領域」である点において、本件訂正発明1の「前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり」との構成と一致する。

e 引用発明1の「櫛形状表面電極」、「裏面電極」及び「表面電極リード付部」は、それぞれ、本件訂正発明1の「第2領域との第1導電性接点」、「第1領域との第2導電性接点」及び「第2領域との第3導電性接点」に相当し、引用発明1は、本件訂正発明1の「前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており」との構成を備える。

f 上記bに照らして、引用発明1の「前記櫛形状表面電極と前記表面電極リード付部は、溝の内部に充填された導電性を有する側面導通部により接続されている」との構成は、「前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する前記部位を介して接続している」点において、本件訂正発明1の「前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続している」との構成と一致する。

g 以上によれば、本件訂正発明1と引用発明1とは、
「半導体基板内に設けられた太陽電池であって、
前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する複数の部位を有し、
前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、
前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する前記部位とにわたって連続するエミッタ領域であり、
前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、
前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており、
前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する前記部位を介して接続している太陽電池。」
である点で一致し、以下の(a)及び(b)の点で相違するものと認められる。

(a)本件訂正発明1では、基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、前記基板の周辺より内側に存在するバイアであり、第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続し、また、前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続しているのに対して、引用発明1では、基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアではなく、櫛形状表面電極が集まる素子の一辺の側面に素子の厚み方向に形成された溝である点(以下「相違点1」という。)。

(b)本件訂正発明1では、複数のバイアは、所定の方向に延在する複数本のバイア列に配列され、前記前面の前記第1導電性接点は、前記所定の方向と交差して延在し、前記前面において前記バイア列を横切るように前記バイア上を通過する複数の線状の狭い金属フィンガーからなり、前記背面の前記第3導電性接点は、前記所定の方向に延在し、前記背面において、前記バイア列に沿って前記バイア上を通過する複数の延在する部分と、前記複数の延在する部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、前記背面の前記第2導電性接点は、前記所定の方向に延在する複数の部分と、前記延在する複数の部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、前記背面において、前記第3導電性接点と、前記第2導電性接点とが櫛形交差構造を形成するのに対して、引用発明1では、前記前面の前記第1導電性接点は櫛形状表面電極であり、前記櫛形状表面電極が集まる素子の一辺の側面に素子の厚み方向に複数個の溝が形成され、前記背面の前記第3導電性接点は、素子の裏面における前記溝の周辺に、n型層を被覆して設けられた表面電極リード付部であり、前記背面の前記第2導電性接点は、P型基板に直接形成された長方形状の裏面電極である点(以下「相違点2」という。)。

(イ)判断
a 相違点1について
(a)甲第2号証には、前記(2)イ(イ)のとおりの引用発明2が記載されるところ、同発明は、太陽電池において、基板表面に形成された電極と裏面に形成された電極とをスルーホール、すなわちバイアを介して接続する技術を開示するものといえる。しかも、引用発明2においては、第1導電形の基板に対してバイアの内壁に第2導電形の拡散層が形成されるものである。

(b)そして、前記(3)ア(ア)b、d及びfに照らして、引用発明1とは引用発明2と、基板表面に形成された電極と裏面に形成された電極とを、基板の表面から裏面にかけて延在している内壁を有する部位を介して接続するものである点において共通するものということができ、両者は、該内壁に、第1導電形の基板に対して第2導電形の層が形成される点においても共通するものといえる。

(c)してみると、引用発明1において、上記(a)の、基板表面に形成された電極と裏面に形成された電極とをバイアを介して接続する技術を適用し、背面上の第3導電性接点前面上の第1導電性接点とが接続する際に介在する、基板の表面から裏面にかけて延在している内壁を有する部位をバイアとすることは、当業者が容易になし得る程度のことというべきであり、また、これにより、第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するものとすることができるから、引用発明1において、相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

b 相違点2について
甲第2号証及び甲第4号証を通じてみても、引用発明1において、「複数のバイアは、所定の方向に延在する複数本のバイア列に配列され、前記前面の前記第1導電性接点は、前記所定の方向と交差して延在し、前記前面において前記バイア列を横切るように前記バイア上を通過する複数の線状の狭い金属フィンガーからなり、前記背面の前記第3導電性接点は、前記所定の方向に延在し、前記背面において、前記バイア列に沿って前記バイア上を通過する複数の延在する部分と、前記複数の延在する部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、前記背面の前記第2導電性接点は、前記所定の方向に延在する複数の部分と、前記延在する複数の部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、前記背面において、前記第3導電性接点と、前記第2導電性接点とが櫛形交差構造を形成する」とする、相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることについて、当業者が容易に想到し得ることを示す記載ないし示唆を見いだすことはできないから、引用発明1において、相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることが、当業者にとって容易になし得るものということはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1、2及び4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件訂正発明2ないし7について
前記第6のとおり、本件訂正発明2ないし7は、本件訂正発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件訂正発明1が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1、2及び4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件訂正発明2ないし7が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1、2及び4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである。

3 平成22年12月28日提出の弁駁書における請求人の主張について
平成22年12月28日提出の弁駁書において請求人が本件訂正発明に対してする主張について、以下に検討して付言する。

(1)特許法第36条6項第2号(弁駁書7頁?8頁、7.2)について
ア 請求人は、「所定の方向」について、様々な方向が想定できるので、請求項1は明確でないと主張するが、前記第3、4(2)のとおり、請求項1の記載によれば、「所定の方向」は、金属フィンガーが延在する方向と交差し、また、第2及び第3導電性接点の複数の部分が延在する方向であるから、「所定の方向」が明確でないとはいえない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

イ 請求人は、第1導電性接点が「線状の狭い金属フィンガー」であることについて、線状のものが更に狭いという概念が不明であり、また、何に比べて狭いのかが判然としないから、請求項1は明確でないと主張するが、請求項1の「線状の狭い金属フィンガー」との記載は、「線状の狭い」ものである「金属フィンガー」をいうものと理解できる。当該記載が、線状のものが更に狭いという概念を示すものと解すべき理由はないし、何と比べて狭いのかが特定されなければ理解できない理由もない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

ウ 請求人は、請求項5、6についても、「所定の方向のバイア列」が不明確なので「一つの列内のバイア数」が定義できず不明りょうであると主張するが、前記1(3)のとおり、請求項5及び請求項6でいう「バイアの一つの列」とは、請求項1に記載された「所定の方向に延在する複数本のバイア列」の一つをいうものと理解できるから、「バイアの一つの列内のバイア数」とは、その列内のバイアの数であることが理解できる。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

エ 請求人は、請求項1中の「櫛形交差構造」の「交差」とは、「たがいちがいに組み合わせること。」、「線状のものが十字に交わること。」と、二つの意味があるところ、図4及び本件明細書では交差を「たがいちがいに組み合わせること」を意味するものとして用いており、請求項1中の「前記第1導電性接点は、前記所定の方向と交差して延在」することは「第1導電性接点が所定の方向(バイア列)と互い違いに組み合わさるように延在」していることと解釈するのが当然であるが、このような態様は、図2、3には示されておらず、仮に、前記第1導電性接点が前記所定の方向と交差して延在することの交差を、線状のものが十字に交わるもの、又は両方を含むものと解釈すると、そのような態様は本件特許明細書等には記載されておらず、該訂正は特許明細書等に記載した事項の範囲内でした訂正ではなく、また、請求項の中で同一の用語を異なる意味で用いているので、請求項1全体が不明確であると主張する。
しかし、請求項1中の「前記第1導電性接点は、前記所定の方向と交差して延在」との記載について、「第1導電性接点」と「所定の方向」とが「たがいちがいに組み合わさるように延在する」こと自体、意味のある内容として理解することが困難であるし、本件特許の図2ないし図3に照らして、上記記載中の「交差」の意味内容が「線状のものが十字に交わること。」に当たることは明らかであるから、請求人の上記主張をもって、請求項1全体、あるいは請求項1を引用する請求項2?請求項7に係る発明が不明確であるとすることはできない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

(2)特許法第29条第2項(弁駁書8頁?16頁、7.3)について
請求人は、甲第2号証に記載された発明と本件訂正発明1とを対比し、本件訂正発明1は甲第1号証と甲第2号証とを組み合わせるに際して周知事項を付加したものであるので、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するので、以下に検討する。

ア 甲第2号証の記載及び甲第2号証に記載された発明
前記第7、2(1)イ及び同(2)イのとおりであり、甲第2号証に記載された発明(引用発明2)は、次に再掲するとおりである。

「第1導電形の結晶基板表面上に順次エピタキシャル成長した第1導電形の化合物半導体層、第2導電形の第1の化合物半導体層、および第2導電形の第2の化合物半導体層と、前記第2導電形の第1の化合物半導体層あるいは前記第2導電形の第2の化合物半導体層上に形成された複数のグリッド電極を備え、前記第1導電形の結晶基板裏面の区画化された一部に一方の電極を設け、前記第1導電形の結晶基板裏面の他の部分に他方の電極を備え、前記他方の電極と表面の前記複数のグリッド電極の各々とを前記第1導電形の結晶基板に形成した複数のスルーホールを通してそれぞれ電気的に接続し、前記スルーホールを通して前記グリッド電極と接続される前記他方の電極は、ドーパントを選択拡散して前記スルーホールの内壁に形成した第2導電形の拡散層に接触するように形成した化合物半導体太陽電池。」

イ 本件訂正発明との対比・判断
(ア)本件訂正発明1について
a 対比
本件訂正発明1と引用発明2とを対比する。

(a)引用発明2の「第1導電形の結晶基板表面」及び「第1導電形の化合物半導体層」が形成する領域は、本件訂正発明1の「第1型導電性の第1領域」に相当する
また、「第2導電形の第1の化合物半導体層」、「第2導電形の第2の化合物半導体層」及び「スルーホールの内壁に形成した第2導電形の拡散層」が形成する領域は、本件訂正発明1の「前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域」である「第2型導電性の第2領域」に相当する。
そして、本件訂正発明1の「半導体基板」は「第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域から」なるものであるから、引用発明2の「第1導電形の結晶基板表面上」に「第1導電形の化合物半導体層、第2導電形の第1の化合物半導体層、および第2導電形の第2の化合物半導体層と、前記第2導電形の第1の化合物半導体層あるいは前記第2導電形の第2の化合物半導体層」を順次エピタキシャル成長したものは、本件訂正発明1の「半導体基板」に相当し、引用発明2の「化合物半導体太陽電池」は、本件訂正発明1の「半導体基板内に設けられた太陽電池」に相当する。

(b)引用発明2の「グリッド電極」が形成された「表面」及び「第1導電形の結晶基板裏面」は、それぞれ、本件訂正発明1の「放射線を受取る前面」及び「背面」に相当する。
そして、引用発明2の「複数のスルーホール」は、本件訂正発明1の「前記基板の周辺より内側に存在し、前記前面から前記背面まで延在している複数のバイア」に相当する。

(c)引用発明2の「複数のグリッド電極」、「一方の電極」及び「他方の電極」は、それぞれ、本件訂正発明1の「前記第2領域との第1導電性接点」、「前記第1領域との第2導電性接点」及び「前記第2領域との第3導電性接点」に相当する。
そして、引用発明2は、「前記他方の電極と表面の前記複数のグリッド電極の各々」とを「複数のスルーホールを通してそれぞれ電気的に接続」するものであるから、本件訂正発明1の「前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続しており」との構成を備えるとともに、引用発明2の「複数のグリッド電極」は、「前記バイア上を通過する複数の線状の狭い金属フィンガー」からなるものである点で、本件訂正発明1の「前記第2領域との第1導電性接点」と一致する。

(d)以上によれば、両者は、
「半導体基板内に設けられた太陽電池であって、前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記基板の周辺より内側に存在し、前記前面から前記背面まで延在している複数のバイアを有し、
前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、
前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、
前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、
前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており、
前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続しており、
前記前面の前記第1導電性接点は、前記前面において前記バイア列を横切るように前記バイア上を通過する複数の線状の狭い金属フィンガーからなる、太陽電池。」
である点で一致し、
「本件訂正発明1では、前記複数のバイアは、所定の方向に延在する複数本のバイア列に配列され、前記前面の前記第1導電性接点は、前記所定の方向と交差して延在し、前記背面の前記第3導電性接点は、前記所定の方向に延在し、前記背面において、前記バイア列に沿って前記バイア上を通過する複数の延在する部分と、前記複数の延在する部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、前記背面の前記第2導電性接点は、前記所定の方向に延在する複数の部分と、前記延在する複数の部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、前記背面において、前記第3導電性接点と、前記第2導電性接点とが櫛形交差構造を形成するのに対して、引用発明2では、バイア、第1導電性接点、第2導電性接点及び第3導電性接点が、そのようなものでない点。」(以下「相違点3」という。)
で相違するものと認められる。

b 判断
(a)相違点3に係る本件訂正発明1の構成は、要すれば、第2導電性接点及び第3導電性接点がバイア列の延在する方向、すなわち、所定の方向に延在する部分を有して櫛形交差構造を形成し、第1導電性接点が前記所定の方向、すなわち、第2導電性接点及び第3導電性接点が延在する方向と交差して延在することを示すものといえる。

(b)甲第8号証の図9及び図10、甲第9号証の第1図、甲第10号証の図17を、これらの図に関連する記載を踏まえて見ると、太陽電池の裏面において、二つの電極を櫛形交差構造を形成するように配置した状態が示されていることが理解できる。
そして、甲第8号証の図10においては、第1の電極27は複数の貫通孔8の上を通過するものとして記載されていることが理解でき、甲第9号証及び甲第10号証においても同様のものが記載されていることが理解できる。
すなわち、二つの電極のうち、一方の電極は複数の貫通孔の上を通過するものである。
しかるところ、上記各号証には、上記のように二つの電極が櫛形交差構造を形成する太陽電池において、その前面に第1導電性接点を形成することは記載されておらず、太陽電池の前面に形成される第1導電性接点と、背面に形成される第2導電性接点及び第3導電性接点とが形成される際の配置位置関係について示唆する記載は認められない。

(c)引用発明2は、「前記他方の電極と表面の前記複数のグリッド電極の各々」とを「複数のスルーホールを通してそれぞれ電気的に接続」するものであるから、グリッド電極は、スルーホールの列が延在する方向に延在するものといえ、グリッド電極を、スルーホールの列が延在する方向と交差する方向に延在させるものではない。すなわち、引用発明2は、第1の導電性接点がバイア列の延在する方向に延在するものである。

(d)進んで、甲第8号証ないし甲第10号証に記載された、上記(b)の櫛形交差構造を引用発明2に適用することについて検討すると、同構造は、二つの電極のうち、一方の電極は複数の貫通孔の上を通過するものであることを考慮すると、引用発明2において、背面に櫛形交差構造を形成するなら、第2導電性接点及び第3導電性接点がバイア列の延在する方向に延在する部分を有するようにすることが想定される。
しかるに、上記(c)のとおり、引用発明2は、第1の導電性接点がバイア列の延在する方向に延在するものであるから、上記のように櫛形交差構造を形成しても、第1の導電性接点がバイア列の延在する方向に延在するとともに、第2導電性接点及び第3導電性接点もバイア列の延在する方向に延在する部分を有するものが想到し得るにとどまり、上記(a)のように、第1導電性接点が、第2導電性接点及び第3導電性接点が延在する方向と交差して延在する、相違点3に係る本件訂正発明1の構成について、当業者が容易に想到し得るということはできない。

(e)請求人は、第1ないし第3導電性接点をどのように構成するかは単なる設計事項であることをいうが、一般論としてそのようにいい得るとしても、上記(c)のように、第1の導電性接点がバイア列の延在する方向に延在するものである引用発明2において、第1導電性接点が、第2導電性接点及び第3導電性接点が延在する方向と交差して延在する、相違点3に係る本件訂正発明1の構成とすることについて設計事項というべき根拠を見いだすことができない。

c 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1が、甲第1、2号証に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件訂正発明2ないし7について
前記第6のとおり、本件訂正発明2ないし7は、本件訂正発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件訂正発明1が、甲第1、2号証に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件訂正発明2ないし7が、甲第1、2号証に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである。

第8 むすび
以上のとおりであって、請求人の主張をもって、特許請求の範囲に記載した発明が発明の詳細な説明に記載されていない、あるいは明確でないとすることはできないから、本件訂正発明1ないし7についての特許は、特許法(平成14年法律第24号による改正前のもの。)第36条第6項第1号ないし第2号の規定に違反してなされたものとはいえず、特許法第123条第1項第4号に該当しない。
また、本件訂正発明1ないし7についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当しない。
したがって、請求人が主張する無効理由によっては、本件訂正発明1ないし7についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲

(参考)
審決

無効2009-800005

東京都板橋区高島平2?27?1?909
請求人 松浦 美保子

東京都港区西新橋1丁目7番13号 信栄特許事務所
代理人弁理士 内藤 照雄

ベルギー、ベー-3001ルーヴァン、カペルドリーフ75番
被請求人 アンテルユニヴェルシテール・ミクロ-エレクトロニカ・サントリュム・ヴェー・ゼッド・ドゥブルヴェ

大阪府大阪市中央区城見1丁目3番7号 IMPビル 青山特許事務所
復代理人弁理士 山田 卓二

東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビル3118号 青山特許事務所東京事務所
復代理人弁理士 瀧 廣往

大阪府大阪市中央区城見1丁目3番7号 IMPビル 青山特許事務所
代理人弁理士 田中 光雄

大阪府大阪市中央区城見1丁目3番7号 IMPビル 青山特許事務所
代理人弁理士 和田 充夫

大阪府大阪市中央区城見1丁目3番7号 IMPビル 青山特許事務所
代理人弁理士 稲葉 和久

大阪府大阪市中央区城見1-3-7 IMPビル 青山特許事務所
代理人弁理士 中野 晴夫


上記当事者間の特許第4073968号発明「太陽電池及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結 論
請求項5についての訂正を認める。
請求項13についての訂正を認める。
請求項18についての訂正を認める。
請求項21についての訂正を認める。
特許第4073968号の請求項1ないし4、6ないし12、14ないし17、19及び20に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。

理 由
第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4073968号(以下「本件特許」という。請求項の数は21である。)の請求項1ないし21に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
1 出願の経緯
本件特許の出願の経緯は、次のとおりである。

1998年(平成10年)5月29日 国際特許出願
(以下「本願」という。パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年5月30日、欧州特許庁)
平成11年11月29日 特許法第184条の5第1項の規定による書面提出
平成11年11月29日 補正書の翻訳文提出(特許法第184条の8第1項)
平成18年12月20日(起案日) 拒絶理由通知
平成19年 7月10日 手続補正
平成19年 7月10日 意見書提出
平成19年12月25日(起案日) 特許査定
平成20年 2月 1日 特許権の設定の登録

2 本件審判の経緯
本件審判の経緯は、次のとおりである。

平成21年 1月 8日 審判請求
平成21年 4月27日 上申書提出(被請求人)
平成21年 5月 7日 訂正請求
平成21年 5月 7日 答弁書提出(被請求人)
平成21年 6月15日 弁駁書提出(請求人)
平成21年10月 1日 口頭審理陳述要領書提出(請求人及び被請求人)
平成21年10月15日 口頭審理
平成21年12月15日 上申書提出(被請求人)

第3 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由1(特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1、2、4、10ないし13及び15に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、本件特許の請求項1ないし21に係る発明は、甲第1、2及び4号証(周知例を示す文献として甲第5ないし7号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(なお、口頭審理において、請求人は、甲第3号証に基づく主張はしない旨陳述した。)

2 無効理由2(特許法第36条第6項)
本件特許の請求項1ないし請求項21の記載は、特許法第36条第6項の要件を満たしていないものであるから、前記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(なお、口頭審理において、請求人は、特許法第36条第4項違反について主張する審判請求書「8-2-2」は、本件特許の無効を主張する理由としない旨陳述した。)

3 甲号証
請求人が平成21年1月8日にした審判請求に際して提出した甲号証は、以下のとおりである。

(1)甲第1号証:特開昭58-39071号公報
(2)甲第2号証:特開昭63-211773号公報
(3)甲第3号証:米国特許第4610077号明細書
(4)甲第4号証:特開昭59-150482号公報
(5)甲第5号証:特開平8-335711号公報
(6)甲第6号証:特公平6-82853号公報
(7)甲第7号証:特開平9-148600号公報

第4 被請求人の主張の概要
請求人が主張する上記第3の無効理由に対して、被請求人は、乙第1号証(特許第3999820号公報)を提出するとともに、請求人が主張する無効の理由はいずれも失当であるか、訂正請求による請求項の減縮及び発明の詳細な説明の訂正により、本件特許発明にはもはや当てはまらないものである旨主張している。

第5 訂正請求についての当審の判断
1 訂正請求の内容
被請求人が平成21年5月7日にした訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書について、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを請求するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1を下記のとおり訂正する。
「1.半導体基板内に設けられた太陽電池であって、
前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記前面から前記背面まで延在している複数のバイアを有し、
前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、
前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、
前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、
前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており、
前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と複数の前記バイアを介して接続しており、 前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各端部が前記前面上の開口部であるバイアの少なくとも一つと接続している、太陽電池。」

(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項6(新請求項5に対応)を下記のとおり訂正する。
「5.前記バイアが列に沿って配置されていると共に前記列内のバイアと接続している前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い、請求項1に記載の太陽電池。」

(4)訂正事項d
特許請求の範囲の請求項7(新請求項6に対応)を下記のとおり訂正する。
「6.前記バイアが列に沿って配置されていると共に前記列内のバイアと接続している前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する請求項1に記載の太陽電池。」

(5)訂正事項e
特許請求の範囲の請求項8(新請求項7に対応)を下記のとおり訂正する。
「7.前記バイアの数が電池の面積10cm×10cm当り100以下である請求項1から6のいずれか一項に記載の太陽電池。」

(6)訂正事項f
特許請求の範囲の請求項10(新請求項9に対応)を下記のとおり訂正する。
「9.第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域とを有する半導体基板内に設けられた太陽電池であって、前記基板が放射線を受取る前面及び前記第1領域と前記第2領域との各導電性接点を設ける背面とによって形成される、太陽電池の製造方法であって、
前記基板を貫いて多数のバイアを機械的に作成するステップと、
前記バイアを化学的にエッチング処理するステップと、
前記バイアの壁を含めた前記基板内にリン又はその他のドーパンドを導入して、さらに前記前面及び前記背面の少なくとも部分を覆うように延在させて、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、キャリアを収集する接合点として機能する、前記第2領域を作製するステップと、
前記太陽電池の前記第1領域及び前記第2領域のそれぞれに導電性接点を設けるステップであって、前記前面上の前記第2領域との接点として多数の狭い金属フィンガーからなる前記金属フィンガーである導電性経路の各端部が前記前面上の開口部であるバイアの少なくとも一つと接続している第1導電性接点を設け、前記背面の第1領域との第2導電性接点を設けると共に、前記背面の第2領域との第3導電性接点を設ける、複数の導電性接点を設けるステップと、
前記バイアの内部に金属を導入して前記バイア内部を金属化して、前記金属化によって前記前面上の前記第2領域との複数の前記第1導電性接点と、前記背面上の前記第3導電性接点の少なくとも一つとの間に導電性の経路を形成するステップと、
を含む、太陽電池の製造方法。」

(7)訂正事項g
特許請求の範囲の請求項11(新請求項10に対応)を下記のとおり訂正する。
「10.前記接点を形成するステップと、前記バイアの内部に金属を導入して前記バイア内部を金属化するステップと、を実質的に同時に行なう請求項9に記載の太陽電池の製造方法。」

(8)訂正事項h
特許請求の範囲の請求項12(新請求項11に対応する。)を下記のとおり訂正する。
「11.接点を形成しようとする前記背面上の箇所にマスク層を積層するステップと、
前記バイアの壁を含めた前記基板の前記マスク層によって被覆されていない面内にドーパンドを拡散させて、前記第2領域を作製するステップと、
前記基板内への前記ドーパンドの導入ステップ後に前記電池の面上にある被覆マスク層を除去するステップと、
をさらに含む請求項9又は10の太陽電池の製造方法。」

(9)訂正事項i
特許請求の範囲の請求項13を削除する。

(10)訂正事項j
特許請求の範囲の請求項18を削除する。

(11)訂正事項k
特許請求の範囲の請求項19(新請求項16に対応する。)を下記のとおり訂正する。
「16.前記接点を設けるステップをスクリーン印刷法により行なうことよりなる請求項9から15のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。」

(12)訂正事項l
特許請求の範囲の請求項20(新請求項17に対応する。)を下記のとおり訂正する。
「17.前記スクリーン印刷後、焼成して金属接点を形成するステップをさらに含む、請求項16に記載の太陽電池の製造方法。」

(13)訂正事項m
特許請求の範囲の請求項21を削除する。

(14)訂正事項n
特許掲載公報の5頁49行?50行の「前面上の導電性接点は多数の狭い金属線から形成されており、導電性経路の各部分は前面の開口部を経由して前記部分の少なくともーつに向っている。」を「前面上の導電性接点は多数の狭い金属線から形成されており、前記金属線の各端部は前面の開口部であるバイアの少なくともーつに向っている。」に、7頁38行?40行の「すなわち導電性経路の各部分は、図2及び図3に示したように前面開口部を経由して少なくとも前記部分の一つへと向っているものである。」との記載を「すなわち金属フィンガーからなる導電性経路の各端部は、図2及び図3に示したように前面の開口部であるバイアの一つへと向っているものである。」に、それぞれ訂正する。

(15)訂正事項o
特許掲載公報の6頁34行及び41行の「背面接続型二重結合太陽電池」を「背面接続型のダブルジャンクション型太陽電池」に訂正する(なお、訂正請求書の6頁18行?20行には、『特許掲載公報の第6頁第34行及び第42行に記載の、発明の詳細な説明における「背面接続型二重結合太陽電池」との記載を「背面接続型のダブルジャンクション型太陽電池」と訂正した。』と記載されているが、同記載中の「第42行」は、特許掲載公報及び訂正請求書に添付した訂正明細書の記載からみて、「第41行」の誤記と認める。)。

(16)訂正事項p
特許掲載公報の7頁14行、26行、32行及び34行の「n型接点」を「n型領域との接点」に、同頁41行の「p型接点」を「p型領域との接点」に、同頁37行及び38行の「n型接点」を「n型領域との接点10」に、8頁28行の「n型接続器」を「n型領域との接続器」に、同「p型接続器」を「p型領域との接続器」に、それぞれ訂正する(なお、訂正請求書の5頁下から5行?同3行には、『特許掲載公報の第7頁第14行に記載の「n型接続器」及び「p型接続器」との記載を、それぞれ「n型領域との接続器」及び「p型領域との接続器」に訂正した。』と記載されているが、同記載中の「第7頁第14行」は、特許掲載公報及び訂正請求書に添付した訂正明細書の記載からみて、「第8頁第28行」の誤記と認める。)。

(17)訂正事項q
特許掲載公報の7頁35行?36行の「バイアはバイア内を完全に満たして前面に達するまで延ばして金属化される。」を「バイアはバイア内を金属で完全に満たして前面に達するまで延ばしてバイア内が金属化される。」に訂正する。

(18)訂正事項r
特許掲載公報の7頁42行の「第2グリッド」を「第2グリッド6」に訂正する。

(19)訂正事項s
特許掲載公報の8頁13行?14行の「バイアの代替の配置として前面を金属化することを選択することができる。」を「なお、前面の金属化に対応するバイアの代替の配置は選択事項である。」に訂正する。

(20)訂正事項t
特許掲載公報の8頁23行?24行の「バルク15との接点フィンガー及び背面エミッタ16との接点フィンガー」を「バルクとの接点フィンガー15及び背面エミッタとの接点フィンガ-16」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載
本件特許の願書に添付した明細書(以下、同明細書及び本件特許の願書に添付した図面をあわせて、単に「本件特許明細書」といい、以下においては、便宜上、特許掲載公報である特許第4073968号公報〔以下「本件特許公報」という。〕を参照して引用することとする。)の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
半導体基板内に設けられた太陽電池であって、
前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記前面から前記背面まで延在している複数のバイアを有し、
前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、
前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、
前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、
前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており、
前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続している太陽電池。
【請求項2】
前記基板の前記第1領域がp型導電性であるのに対して前記第2領域がn型導電性である請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記基板の前記第1領域がn型導電性であるのに対して前記第2領域がp型導電性である請求項1に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記バイアが円錐形状又は円柱形状のいずれかである請求項1から3のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向っている請求項1から4のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項6】
前記前面上の前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い、請求項5に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記前面上の前記第1導電性接点が多数の並列に配置された金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する請求項6に記載の太陽電池。
【請求項8】
前記電池が約10cm×10cmよりも小さい面積を有するものであって、前記バイアの数が電池当り100以下である請求項1から7のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項9】
前記前面上に反射防止被覆層が積層されている請求項1から8のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項10】
第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域とを有する半導体基板内に設けられた太陽電池であって、前記基板が放射線を受取る前面及び前記第1領域と前記第2領域との各導電性接点を設ける背面とによって形成される、太陽電池の製造方法であって、
前記基板を貫いて多数のバイアを機械的に作成するステップと、
前記バイアを化学的にエッチング処理するステップと、
前記バイアの壁を含めた前記基板内にリン又はその他のドーパンドを導入して、さらに前記前面及び前記背面の少なくとも部分を覆うように延在させて、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、キャリアを収集する接合点として機能する、前記第2領域を作製するステップと、
前記太陽電池の前記第1領域及び前記第2領域のそれぞれに導電性接点を設けるステップであって、前記前面上の前記第2領域との第1導電性接点を設け、前記背面の第1領域との第2導電性接点を設けると共に、前記背面の第2領域との第3導電性接点を設ける、複数の導電性接点を設けるステップと、
前記バイアを金属化して、前記金属化によって前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と、前記背面上の前記第3導電性接点の少なくとも一つとの間に導電性の経路を形成するステップと、
を含む、太陽電池の製造方法。
【請求項11】
前記接点を形成するステップと、前記バイアを金属化するステップと、を実質的に同時に行なう請求項10に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項12】
前記金属接点を焼成するステップと、
ベース接点を形成しようとする前記背面上の箇所にマスク層を積層するステップと、
前記バイアの壁を含めた前記基板の前記マスク層によって被覆されていない面内にドーパンドを拡散させて、前記第2領域を作製するステップと、
前記基板内への前記ドーパンドの導入ステップ後に前記電池の面上にある被覆マスク層を除去するステップと、
をさらに含む請求項10又は11の太陽電池の製造方法。
【請求項13】
前記バイアが、前記背面から前記前面まで達していない場合であって、前記前面から十分な量の物質をエッチングして、前記前面に前記バイアの開口部を作製する請求項10から12のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項14】
前記リン拡散が、リン含有ペーストをスクリーン印刷して前記エミッタを作製すると共に、前記ペーストを乾燥させ、次いで高温炉を使用して形成されたリンケイ酸ガラスを前記基板の表面領域内に拡散させる請求項10から13のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項15】
前記リン拡散が、出発物資としてガス状物質を用いて行なわれ、前記基板の表面上にリンケイ酸ガラスを作製して表面領域内に拡散させる請求項10から14のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項16】
前記リン拡散が、スピン-オン又はスプレー-オンデポジション法により行なわれる請求項10から15のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項17】
前記リン拡散が、イオン注入法により行なわれる、請求項10から16のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項18】
前記保護マスク層の除去が、前記基板を希薄フッ化水素HF中に浸し、その後、酸化剤により酸化させた前記マスク層を希釈させたフッ化水素中で除去する二段階洗浄の組み合わせにより行なう請求項10から17のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項19】
前記金属接点の積層をスクリーン印刷法により行なうことよりなる請求項10から18のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項20】
金属接点を焼成するステップをさらに含む、請求項19に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項21】
前記基板として、その厚さが少数キャリアの拡散距離より大きい基板を用いる、請求項10に記載の太陽電池の製造方法。」

(2)本件訂正請求に対する請求人の主張の概要
ア 訂正事項aについて
訂正事項aにおける、訂正前の請求項1に係る発明について、「前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各端部が前記前面上の開口部であるバイアの少なくとも一つと接続している」との要件を付加する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面において記載した範囲内でなされたものではない(弁駁書4頁末行?5頁1行)。
被請求人は、この訂正の根拠として、本願の国際出願時の「each part of a conductive path towards at least one via (4) opening on the front surface (2)」の原文を挙げるが、原文では「導電性経路の各端部が前記全面上の開口部であるバイアの少なくとも一つと接続している」旨の根拠になるものとはいえない(弁駁書3頁下から7行?4頁2行)。

イ 訂正事項dについて
訂正事項dでは、訂正前の請求項7では構成要件とされていた「多数の並列に配置された金属フィンガー」の「並列に配置された」という記載を削除しており、この訂正は減縮には相当しない(弁駁書7頁21行?23行)。

ウ 訂正事項eについて
訂正前の請求項8の構成要件であった、「前記電池が約10cm×10cmよりも小さい面積を有するものであって、」という要件を削除することによって、訂正後の請求項7における電池の面積が10cm×10cmよりも大きいものをも包含する訂正であって、減縮には相当しない(弁駁書7頁28行?31行)。

エ 訂正事項fについて
訂正事項aと同様の理由により、訂正する根拠がない(弁駁書8頁5行?6行)。

オ 訂正事項gについて
本件特許明細書中には、「バイアはバイア内を完全に満たして前面に達するまで延ばして金属化される。」という記載がなされているだけで、バイアの内部に金属を導入する点も記載されておらず、加えて、金属を導入する処理と金属化する処理が同じなのか別の処理なのかが不明であり、該訂正の技術的意義が明確でない。
したがって、この訂正は訂正の根拠がなく、また、訂正された請求項10が減縮になっているとは認められない(弁駁書11頁17行?21行)。

カ 訂正事項hについて
この訂正は、訂正前の請求項12の構成要件である、「前記金属接点を焼成するステップと、ベース接点を形成しようとする前記背面上の箇所にマスク層を積層するステップと、」を「接点を形成しようとする前記背面上の箇所にマスク層を積層するステップと、」と訂正するもので、訂正前の「前記金属接点を焼成するステップと、」を被請求人は誤って含まれていた誤記と主張するが、この訂正は請求項の直列的に限定された構成を削除するものであって、減縮とは認められない(弁駁書11頁下から3行?12頁6行)。

(3)本件訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無についての検討
ア 訂正事項aについて
(ア)訂正の目的
訂正事項aは、訂正前の請求項1に係る発明について、「前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点」と接続する際に介する「バイア」が複数であることを限定するとともに、「前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各端部が前記前面上の開口部であるバイアの少なくとも一つと接続している」との要件を付加するものであるから、訂正前の請求項1並びにこれを引用する請求項2ないし4及び請求項6ないし8について(なお、訂正前の請求項5を削除するとする訂正事項bに係る訂正を認めることは、後記イのとおりである。)、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

(イ)新規事項の有無
a 本件特許明細書には、以下の記載がある。

(a)「【請求項5】
前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向っている請求項1から4のいずれか一項に記載の太陽電池。」

(b)「本発明の第1の目的は、半導体基板内に照射受光前面と第2面とを少なくとも有する太陽電池であって、前記基板が第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、前記第2領域が前記前面に隣接して配置されている第1部分と前記第2面と隣接して配置されている第2部分とを少なくとも有し、前記前面が前記第2領域との導電性接点を有しており、前記第2面が前記第1領域と前記第2領域の第2部分とに分れた導電性接点を有しており、前記第2面上の前記第2領域との前記接点が前記前面上の前記接点と有限数のバイアを通して接続していることよりなる太陽電池を提供することにある。
有限数のバイアとは、多数のバイアが工業的に実現できる(十分短い)時間枠で作製できる数のバイアを意味する。そこで、バイアの数としては10cm×10cmの太陽電池について、およそ100又はそれ以下、例えば10?20の範囲である。」(本件特許公報5頁32行?42行)

(c)「前面上の導電性接点は多数の狭い金属線から形成されており、導電性経路の各部分は前面の開口部を経由して前記部分の少なくとも一つに向っている。」(本件特許公報5頁49行?50行)

(d)「太陽電池には最終的に金属接点が使用される。その実現にはスクリーン印刷のようによく知られた金属化手法を用いることができる。スクリーン印刷によって、背面にn型接点を形成し、バイア4の金属化を行なうという組み合わせができる。バイアはある程度金属化されるべきであり、それによって金属は少なくとも前面と背面のn型接点間の導電路を形成する。採りうるものとしては、図1eに表現されたように、バイアはバイア内を完全に満たして前面に達するまで延ばして金属化される。
n型接点が電池の前面2上に形成され、図1fに示したように、すでに金属化されたバイアとの接点が形成される。前面上のこのn型接点は、狭い金属フィンガーからなり、すなわち導電性経路の各部分は、図2及び図3に示したように前面の開口部を経由して少なくとも前記部分の一つへと向っているものである。」(本件特許公報7頁37行?40行)

(e)「以下に、上述の前面金属グリッドの考えられる形成方法を述べる。
(1°)バイアの数はフィンガーの数と一致する必要はない。一つ又は複数のフィンガーが前記フィンガーの一つと接続する構成は、図3に示されているようにして実現できる。このレイアウトの利点は、バイアの総数をさらに減少させることができることであり、これによって孔の製造プロセスのスピードアップを可能にする。
(2°)並列のフィンガーとは別の異なる前面接点グリッドもまた、バイアと結合でき、背面に収集された電流を導くことができる。
(3°)バイアは2つの線に沿って配置される必要はない。バイアの代替の配置として前面を金属化することを選択することができる。」(本件特許公報8頁6行?14行)

(f)上記(d)及び(e)の記載を踏まえて図2及び図3をみると、各図において、複数のバイアが二つの線に沿って配置されるとともに、太陽電池の前面上に形成される狭い金属フィンガーからなるn型接点が各々三つの部分から構成されており、両端の二つの部分の、金属フィンガーの端部に位置する一端側はバイアと接続されておらず、他端は、それぞれ、二つの線に沿って配置されたバイアのうちの一方又は他方の線に沿って配置された一つのバイアと接続され、中間の一つの部分は、前記バイアの開口部を経由して前記両端の二つの部分に向かっており、中間の一つの部分の両端は、それぞれ、一つのバイアと接続されている様子が示されていることが認められる。
そして、図2においては、一つのバイアに一つの狭い金属フィンガーからなるn型接点が接続されている様子が示されており、図3においては、一つのバイアに二つの狭い金属フィンガーからなるn型接点が接続されている様子が示されていることが認められる。

b 上記aによれば、本件特許明細書には、太陽電池の第2面上の第2領域との接点が前面上の接点と、工業的に実現できる(十分短い)時間枠で作製できる多数のバイアを通して接続していること、太陽電池の前面上にある第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向っていること、具体的には、太陽電池の前面上に形成される狭い金属フィンガーからなる導電性接点の導電性経路が各々三つの部分から構成されており、両端の二つの部分の、金属フィンガーの端部に位置する一端はバイアと接続されておらず、他端は、それぞれ、二つの線に沿って配置されたバイアのうちの一方又は他方の線に沿って配置された一つのバイアと接続され、中間の一つの部分は、前記バイアの開口部を経由して両端の二つの部分に向かっており、中間の一つの部分の両端は、それぞれ、二つの線に沿って配置されたバイアのうちの一方又は他方の線に沿って配置された一つのバイアと接続されていることが記載されていることが認められる。
すなわち、本件特許明細書には、太陽電池の背面上の第2領域との第3導電性接点が、前面上の第2領域との第1導電性接点と接続する際に介するバイアが複数であること、狭い金属フィンガーからなる導電性接点の導電性経路を構成する三つの部分のうち、中間の一つの部分の両端は、それぞれ、一つのバイアと接続されていること、両端の二つの部分の一端が一つのバイアと接続されることが記載されていることが認められる。

c ここで、訂正事項aにおける「前記金属フィンガーである導電性経路の各端部」とは、金属フィンガーの各端部を意味するものと解されるところ、上記bのとおり、本件特許明細書には、金属フィンガーの端部である、金属フィンガーからなる導電性接点の導電性経路を構成する三つの部分のうちの、両端の二つの部分の、金属フィンガーの端部に位置する一端はバイアに接続されていないものとして記載されており、金属フィンガーである導電性経路の各端部がバイアと接続していることは記載されていない。
かりに、訂正事項aにおける「前記金属フィンガーである導電性経路」が金属フィンガーからなる導電性接点の導電性経路を構成する三つの部分の各々を意味するものと解しても、上記のとおり、本件特許明細書には、両端の二つの部分の、金属フィンガーの端部に位置する一端はバイアの開口部に接続されていないものとして記載されているのであって、金属フィンガーからなる導電性接点の導電性経路を構成する三つの部分の「各端部」がバイアと接続していることは記載されていない。
すなわち、本件特許明細書には、金属フィンガーである導電性経路の「各端部」が前面状の開口部であるバイアの少なくとも一つと接続していることは記載されていない。また、このことが、本件特許明細書に記載した事項から当業者が自明に理解できることとも認められない。

d したがって、「前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各端部が前記前面上の開口部であるバイアの少なくとも一つと接続している」との要件を付加するものである、訂正事項aに係る訂正は、本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものということはできず、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということはできない。
よって、訂正前の請求項1並びにこれを引用する請求項2ないし4及び請求項6ないし8についてする訂正事項aに係る訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであるから、認められない。

e なお、被請求人は、訂正請求書において、訂正事項aは、「国際出願時の明細書の第16頁のクレーム7の第4行-第5行の″each part of a conductive path towards at least one via (4) opening on the front surface (2)″の原文に基づいて訂正したものである」と主張する(訂正請求書7頁下から7行?同4行)ので、念のため、当該主張について検討する。

(a)本件特許の国際出願日における国際出願の明細書及び請求の範囲(以下、これらを総称して「本件国際出願明細書」という。国際公開第98/54763号を参照。)には、以下の記載がある。

「The conductive contacts on the front surface are formed by a number of narrow metal lines, each part of a conductive path towards at least one via opening on the front surface.」(7頁17行?20行)、
「This n-type conductive contact on the front surface consists of narrow metal fingers, each part of a conductive path towards at least one via opening on the front surface as represented on figure 2 and 3.」(12頁12行?15行)、
「7. A solar cell according to any one of the preceding claims, wherein the conductive contacts (10) on the front surface (2) consists in a number of narrow metal fingers, each part of a conductive path towards at least one via (4) opening on the front surface (2).」(12頁2行?6行)

(b)上記(a)によれば、本件国際出願明細書には、太陽電池の前面上にある第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーから形成され、導電性経路の各部分は、少なくとも一つの前面上の開口部に向っていることが記載されているものと認められる。
なお、上記認定は、前記a(f)で認定した図2及び図3の記載事項とも整合するものである。

(c)しかし、本件国際出願明細書には、金属フィンガーである導電性経路の「各端部」が前面上の開口部であるバイアの「少なくとも一つ」と接続していることは記載されていない。また、このことが、本件国際出願明細書に記載した事項から当業者が自明に理解できることとも認められない。

(d)したがって、訂正事項aに係る訂正は、本件国際出願明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものということはできず、本件国際出願明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということはできない。
よって、仮に、訂正事項aにおける、「前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に,前記金属フィンガーである導電性経路の各端部が前記前面上の開口部であるバイアの少なくとも一つと接続している」との要件を付加する訂正を、特許法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第134条の2第1項第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものに解したとしても、訂正事項aに係る訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであるから、認める余地がない。

イ 訂正事項bについて
訂正事項bに係る訂正は、訂正前の請求項5を削除するものであって、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、訂正事項bに係る訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
よって、訂正前の請求項5についてする訂正事項bに係る訂正を認める。

ウ 訂正事項cないしeについて
前記ア(イ)cのとおり、訂正前の請求項1を引用する請求項6ないし8についてする訂正事項aに係る訂正は認められないから、訂正前の請求項6ないし8についてする訂正事項cないしeに係る訂正は、認められない。
なお、事案にかんがみ、訂正事項cないしeについて、以下検討して付言する。

(a)訂正事項cについて
訂正前の請求項6には、「前記バイアの一つの列内のバイア数」と記載されるところ、ここでいう「一つの列」の意味内容が、訂正前の請求項6及び7の記載自体からは明りょうでない。
しかるところ、訂正事項cのうち、訂正前の請求項6に「前記バイアが列に沿って配置されている」との事項を付加する訂正は、訂正前にいう「列」とは、それに沿ってバイアが配置される列であることを明りょうにするものであって、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書の「バイアは2つの線に沿って配置される必要はない。」との記載(前記ア(イ)a(e)を参照。)及び図2及び図3において、複数のバイアが二つの線に沿って配置される様子が示されていることが認められる(前記ア(イ)a(f)を参照。)ことに照らすと、訂正前にいう「列」とは、同記載でいう「線」に相当するものと理解でき、「前記バイアが列に沿って配置されている」との事項を付加する訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものといえる。

(b)訂正事項dについて
訂正前の請求項7には、「前記バイアの一つの列内のバイア数」と記載されるところ、ここでいう「一つの列」の意味内容が、訂正前の請求項7及び同請求項に引用される請求項6の記載自体からは明りょうでない。
しかるところ、訂正事項dのうち、訂正前の請求項7に「前記バイアが列に沿って配置されている」との事項を付加する訂正は、訂正前にいう「列」とは、それに沿ってバイアが配置される列であることを明りょうにするものであって、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書の「バイアは2つの線に沿って配置される必要はない。」との記載(前記ア(イ)a(e)を参照。)及び図2及び図3において、複数のバイアが二つの線に沿って配置される様子が示されていることが認められる(前記ア(イ)a(f)を参照。)ことに照らすと、訂正前にいう「列」とは、同記載でいう「線」に相当するものと理解でき、「前記バイアが列に沿って配置されている」との事項を付加する訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものといえる。
しかし、訂正事項dに係る訂正により、訂正前の請求項7における「金属フィンガー」についての「多数の並列に配置された」との要件が削除されており、この点において、訂正事項dに係る訂正は、特許請求の範囲を実質的に拡張するものであって、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものである。

(c)訂正事項eについて
訂正前の請求項8における「前記電池が約10cm×10cmよりも小さい面積を有するものであって、前記バイアの数が電池当り100以下である請求項1から7のいずれか一項に記載の太陽電池」との記載によれば、同請求項に係る発明は、約10cm×10cmよりも小さい面積を有するものに特定される太陽電池について、バイアの数が電池当り100以下であることを更に特定するものと認められる。
しかるに、訂正事項eは、訂正前の請求項8を「前記バイアの数が電池の面積10cm×10cm当り100以下である請求項1から6のいずれか一項に記載の太陽電池。」に訂正するものであって、これによれば、訂正後の同請求項に係る発明は、約10cm×10cmよりも小さい面積を有するものに特定されないものとなるから、この点において、実質上特許請求の範囲を拡張するものであり、また、約10cm×10cmよりも小さい面積を有するものに特定されないものについて、バイアの数が電池の面積10cm×10cm当り100以下であることを特定するものとなるから、この点において、実質上特許請求の範囲を変更するものである。
したがって、訂正事項eに係る訂正は、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められず、また、同法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものである。
更に、本件特許明細書には、「バイアの数としては10cm×10cmの太陽電池について、およそ100又はそれ以下、例えば10?20の範囲である。」(前記ア(イ)a(b)を参照。)との記載があるにとどまり、バイアの数が電池の面積10cm×10cm当り100以下であることは記載されておらず、訂正事項eに係る訂正が、本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものということはできないから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということはできない。
よって、訂正事項eに係る訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に違反するものである。

エ 訂正事項fについて
(ア)訂正の目的
訂正事項fは、訂正前の請求項10に係る発明における「第1導電性接点」について、「多数の狭い金属フィンガーからなる前記金属フィンガーである導電性経路の各端部が前記前面上の開口部であるバイアの少なくとも一つと接続している」との要件を付加し、同じく「バイアを金属化」することについて、「バイアの内部に金属を導入して前記バイア内部を金属化」するとの要件を付加し、また、同じく「前記金属化によって前記前面上の前記第2領域との第1導電性接点と、前記背面上の前記第3導電性接点の少なくとも一つとの間に導電性の経路を形成する」ことについて、「前記金属化」による「導電性の経路」を、「複数の」第1導電性接点と第3導電性接点の少なくとも一つとの間に形成するものに特定するものであるから、訂正前の請求項10並びにこれを引用する請求項11ないし12、請求項14ないし17及び請求項19ないし20について(なお、訂正前の請求項13、18及び21を削除するとする訂正事項i、j及びmに係る訂正を認めることは、後記カ、キ及びケのとおりである。)、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

(イ)新規事項の有無
a 本件特許明細書には、前記ア(イ)aの記載がある。

b 上記aによれば、本件特許明細書には、「バイアはバイア内を完全に満たして前面に達するまで延ばして金属化される。」との記載があるから、訂正事項fのうち、「バイアの内部に金属を導入して前記バイア内部を金属化」するとの要件を付加する訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

c また、上記aによれば、本件特許明細書には、「前面上の導電性接点は多数の狭い金属線から形成されており」(前記ア(イ)a(c)を参照。)、「n型接点が電池の前面2上に形成され、図1fに示したように、すでに金属化されたバイアとの接点が形成される。」(前記ア(イ)a(d)を参照。)との各記載があり、これら記載及び訂正前の請求項10の記載によれば、金属化により形成される導電性の経路は、複数の第1導電性接点と第3導電性接点の少なくとも一つとの間に形成するものであることが理解できるから、訂正事項fのうち、「前記金属化」による「導電性の経路」を、「複数の」第1導電性接点と第3導電性接点の少なくとも一つとの間に形成するものに特定する訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

d しかし、訂正事項fのうち、訂正前の請求項10に係る発明における「第1導電性接点」について、「多数の狭い金属フィンガーからなる前記金属フィンガーである導電性経路の各端部が前記前面上の開口部であるバイアの少なくとも一つと接続している」との要件を付加する訂正は、前記ア(イ)での検討と同様の理由により、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということはできない。
よって、訂正前の請求項10並びにこれを引用する請求項11ないし12、請求項14ないし17及び請求項19ないし20についてする訂正事項fに係る訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであるから、認められない。

オ 訂正事項g及びhについて
前記エ(イ)dのとおり、訂正前の請求項10を引用する請求項11ないし12についてする訂正事項fに係る訂正は認められないから、訂正前の請求項11ないし12についてする訂正事項g及びhに係る訂正は、認められない。
なお、事案にかんがみ、訂正事項g及びhについて、以下検討して付言する。

(a)訂正事項gについて
訂正事項gに係る訂正は、訂正前の請求項11に係る発明における「バイアを金属化」することについて、「バイアの内部に金属を導入して前記バイア内部を金属化」するとの要件を付加するものである。
そして、かかる訂正が、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであることは、前記エ(イ)bのとおりである。

(b)訂正事項hについて
訂正事項hに係る訂正は、訂正前の請求項12に記載された「前記金属接点を焼成するステップ」を削除するとともに、同じく「ベース接点」を「接点」に訂正するものである。
これら訂正事項のうち、「ベース接点」を「接点」に訂正することについては、本件訂正明細書には「ベース接点」に関する記載が存在せず、訂正前の「ベース」の意味内容が明りょうでないことから、当該訂正は、特許法第134条の2第1項第2号に掲げる誤記の訂正ないし同第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当すると解することができる。
そして、訂正前の「ベース接点」を「接点」に訂正しても、訂正前の「前記背面上の箇所にマスク層を積層するステップ」が「接点を形成しようとする前記背面上の箇所にマスク層を積層するステップ」であることに変わりはなく、当該訂正が、本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
しかし、「前記金属接点を焼成するステップ」を削除する訂正は、特許請求の範囲を実質的に拡張するものであって、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものである。

カ 訂正事項iについて
訂正事項iに係る訂正は、訂正前の請求項13を削除するものであって、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、訂正事項iに係る訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
よって、訂正前の請求項13についてする訂正事項iに係る訂正を認める。

キ 訂正事項jについて
訂正事項jに係る訂正は、訂正前の請求項18を削除するものであって、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、訂正事項jに係る訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
よって、訂正前の請求項18についてする訂正事項jに係る訂正を認める。

ク 訂正事項k及びlについて
前記エ(イ)dのとおり、訂正前の請求項10を引用する請求項19ないし20についてする訂正事項fに係る訂正は認められないから、訂正前の請求項19ないし20についてする訂正事項k及びlに係る訂正は、認められない。

ケ 訂正事項mについて
訂正事項mに係る訂正は、訂正前の請求項21を削除するものであって、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、訂正事項mに係る訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
よって、訂正前の請求項21についてする訂正事項mに係る訂正を認める。

コ 訂正事項nないしtについて
訂正事項nないしtに係る訂正は、本件特許明細書の発明の詳細な説明についてするものであるところ、上記のとおり、訂正前の請求項1ないし4、6ないし12、14ないし17及び19ないし20についてする訂正は認められないから、訂正事項nないしtに係る訂正は、認められない。

3 小括
以上のとおり、請求項5、13、18及び21についての訂正を認める。
その余の訂正を認めない。

4 平成21年12月15日提出の上申書における主張について
被請求人は、平成21年12月15日提出の上申書において、請求人による弁駁書及び口頭審理陳述要領書において主張された請求の理由では、甲第4号証についての新たな証拠箇所を挙げており、当初の請求の理由から要旨変更がなされたものであるから、特許法第134条第2項及び第134条の2第1項の規定に基づいて再度の訂正の機会を求める旨主張する。
しかし、後記第6、第7のとおり、甲第4号証を引用するまでもなく、本件特許の各請求項に係る発明は無効とされるべきものと判断されるから、再度の訂正の機会は設けないこととする。

第6 無効理由についての当審の判断
1 本件発明
上記のとおり、請求項5、13、18及び21についての訂正が認められたので、本件特許第4073968号の各請求項に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、次の各請求項(ただし、請求項5、13、18及び21を除く。)に記載したとおりのものと認められる。

「【請求項1】
半導体基板内に設けられた太陽電池であって、
前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記前面から前記背面まで延在している複数のバイアを有し、
前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、
前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、
前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、
前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており、
前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続している太陽電池。
【請求項2】
前記基板の前記第1領域がp型導電性であるのに対して前記第2領域がn型導電性である請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記基板の前記第1領域がn型導電性であるのに対して前記第2領域がp型導電性である請求項1に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記バイアが円錐形状又は円柱形状のいずれかである請求項1から3のいずれか一項に記載の太陽電池。
(【請求項5】削除)
【請求項6】
前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向っており、前記前面上の前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い、請求項1から4のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向っており、前記前面上の前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなるとともに、前記前面上の前記第1導電性接点が多数の並列に配置された金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する請求項1から4のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項8】
前記電池が約10cm×10cmよりも小さい面積を有するものであって、前記バイアの数が電池当り100以下である請求項1から7(ただし、5を除く。)のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項9】
前記前面上に反射防止被覆層が積層されている請求項1から8(ただし、5を除く。)のいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項10】
第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域とを有する半導体基板内に設けられた太陽電池であって、前記基板が放射線を受取る前面及び前記第1領域と前記第2領域との各導電性接点を設ける背面とによって形成される、太陽電池の製造方法であって、
前記基板を貫いて多数のバイアを機械的に作成するステップと、
前記バイアを化学的にエッチング処理するステップと、
前記バイアの壁を含めた前記基板内にリン又はその他のドーパンドを導入して、さらに前記前面及び前記背面の少なくとも部分を覆うように延在させて、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、キャリアを収集する接合点として機能する、前記第2領域を作製するステップと、
前記太陽電池の前記第1領域及び前記第2領域のそれぞれに導電性接点を設けるステップであって、前記前面上の前記第2領域との第1導電性接点を設け、前記背面の第1領域との第2導電性接点を設けると共に、前記背面の第2領域との第3導電性接点を設ける、複数の導電性接点を設けるステップと、
前記バイアを金属化して、前記金属化によって前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と、前記背面上の前記第3導電性接点の少なくとも一つとの間に導電性の経路を形成するステップと、
を含む、太陽電池の製造方法。
【請求項11】
前記接点を形成するステップと、前記バイアを金属化するステップと、を実質的に同時に行なう請求項10に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項12】
前記金属接点を焼成するステップと、
ベース接点を形成しようとする前記背面上の箇所にマスク層を積層するステップと、
前記バイアの壁を含めた前記基板の前記マスク層によって被覆されていない面内にドーパンドを拡散させて、前記第2領域を作製するステップと、
前記基板内への前記ドーパンドの導入ステップ後に前記電池の面上にある被覆マスク層を除去するステップと、
をさらに含む請求項10又は11の太陽電池の製造方法。
(【請求項13】削除)
【請求項14】
前記リン拡散が、リン含有ペーストをスクリーン印刷して前記エミッタを作製すると共に、前記ペーストを乾燥させ、次いで高温炉を使用して形成されたリンケイ酸ガラスを前記基板の表面領域内に拡散させる請求項10から12のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項15】
前記リン拡散が、出発物資としてガス状物質を用いて行なわれ、前記基板の表面上にリンケイ酸ガラスを作製して表面領域内に拡散させる請求項10から14(ただし、13を除く。)のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項16】
前記リン拡散が、スピン-オン又はスプレー-オンデポジション法により行なわれる請求項10から15(ただし、13を除く。)のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項17】
前記リン拡散が、イオン注入法により行なわれる、請求項10から16(ただし、13を除く。)のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
(【請求項18】削除)
前記保護マスク層の除去が、前記基板を希薄フッ化水素HF中に浸し、その後、酸化剤により酸化させた前記マスク層を希釈させたフッ化水素中で除去する二段階洗浄の組み合わせにより行なう請求項10から17のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項19】
前記金属接点の積層をスクリーン印刷法により行なうことよりなる請求項10から17(ただし、13を除く。)のいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項20】
金属接点を焼成するステップをさらに含む、請求項19に記載の太陽電池の製造方法。
(【請求項21】削除)」(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)。

なお、請求項6については、削除前の請求項5の記載を踏まえて、上記のとおり認定した。
また、請求項7については、請求項6が引用されるところ、請求項6においては「前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い」とされるのに対して、請求項7においては、「前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する」とされており、請求項6の記載事項とは矛盾が生じるので、本件特許明細書の特許請求の範囲(前記第5、2(1)を参照。)の請求項7における「請求項6」は「請求項5」の誤記と解して、上記のとおり認定した。

2 無効理由1(特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項)について
事案にかんがみ、無効理由1について検討する。

(1)甲号証の記載
ア 本願の優先日前に頒布された刊行物と認められる甲第1号証(特開昭58-39071号公報)には、以下の記載がある。

(ア)「本発明は、受光側表面と裏面とにそれぞれ電極を有する太陽電池素子に関する。
従来、太陽電池素子(以下、単に素子という。)にあっては、太陽エネルギーによる電気出力を取り出すための電極が、受光側の表面と裏面にそれぞれ形成されているので、このような素子を多数個直列に接続するためには、例えば、ひとつの素子の表面側電極に取付けたリード線を,直列接続すべきもうひとつの素子の裏面側電極に接続する必要がある。
ところが、このような結線を行なうには、ひとつの素子の表面を上にした状態で表面電極にリード線の一端を接続し、次に裏面を上にした状態で、もうひとつの素子の裏面電極にそのリード線の他端を接続する作業を行なわなければならず、したがって、多数個の素子を直列に接続する場合にはさらに煩雑となる。
本発明の目的は、短時間にしかも簡単に素子間の結線作業を行なうことのできる素子を提供することである。
第1図は本発明の一実施例の斜視図であり、第2図はその側面断面図である。素子1は、平担な表面2と裏面3とを有しており、P型基板5の表面全面から一側面を通り裏面の一部にかけて表層にn型層4が設けられてPn接合部を形成している。素子の表面2のn層の上には、櫛形電極7が形成され、また、その裏面3には長方形状の裏面電極9がP型基板に直接形成されている。
素子1の櫛形状表面電極7が集まる一辺の側面には、素子の厚み方向に、複数個(本件実施例では3個)の溝10が形成されている。素子1の表面における溝10の周辺と、素子の裏面における溝10の周辺には、それぞれ、表面電極7と、表面電極リード付部8がn層4を被覆して設けられており、この表面電極7と表面電極リード付部8は、溝10の内部に充填された導電性を有する側面導通部11により接続されている。」(1頁左下欄12行?2頁左上欄8行)

(イ)「このような構造を有する素子の製造方法を、第3図ないし第9図を参照しながら説明する。
第3図で示す断面形状のP型シリコン基板5の所定個所に、例えば、YAGレーザのパルス状ビームを照射して、第4図に示すように内径200μ?300μの貫通孔12が形成されたP型シリコン基板のウェハーを、必要な場合にはエッチング液により例えば表面層10μ?20μ程度をエッチングして取り除き、通常の拡散方法、例えば気相拡散法などでn型の不純物リン等を拡散して、第5図に示すように、n層4を形成する。その後、そのウエハーの表面全面と裏面の孔12周辺を含む一部に、第6図に示すように、耐酸性のエッチングレジスト13を塗布する。
次に、このウエハーをエッチング液で必要時間処理した後、エッチングレジスト13をレジスト用の溶剤を用いて取り除くと、第7図に示すように、エッチングレジスト13が塗布されたn層4のみを残し、残余のn層4はすべて除去された構造のものが得られる。この結果、ウエハー上のn層4は、ウエハーの表面全体、貫通孔12の内周壁、及びウエハーの裏面における貫通孔12の周辺のみとなる。このようなウエハーの表面および裏面のP型およびn型のシリコンに対してオーミックな電極を形成するため、第8図に示すように、電極用ペースト7,8および9を印刷し焼成する。
このように、表面側の電極用ペースト7と裏面側の表面電極リード付け用ペースト8とを印刷する場合、貫通孔12の内部にもその印刷ペーストが容易に入り込んでくるので、両電極用ペースト7および8の電気的接続を行うことができる。
・・・次に、第9図に示すように、貫通孔12を含む部分からこのウエハーをレーザスクライバまたはダイヤモンドスクライバにより2個に切断分離すると、上述した素子が得られる。」(2頁左上欄9行?左下欄5行)

イ 同じく甲第2号証(特開昭63-211773号公報)には、以下の記載がある。

(ア)「(1) 第1導電形の結晶基板表面上に順次エピタキシャル成長した第1導電形の化合物半導体層,第2導電形の第1の化合物半導体層,および第2導電形の第2の化合物半導体層と、前記第2導電形の第1の化合物半導体層あるいは前記第2導電形の第2の化合物半導体層上に形成されたグリッド電極を備え、前記第1導電形の結晶基板裏面の区画化された一部に一方の電極を設け、前記第1導電形の結晶基板裏面の他の部分に他方の電極を備え、前記他方の電極と表面の前記グリッド電極とを前記第1導電形の結晶基板に形成したスルーホールを通してそれぞれ電気的に接続したことを特徴とする化合物半導体太陽電池。
(2) スルーホールを介してグリッド電極と接続される電極は、ドーパントを選択拡散して形成した拡散層に接触するように形成したことを特徴とする特許請求の範囲第 (1)項記載の化合物半導体太陽電池。」(1頁左下欄4行?右下欄2行)

(イ)「この発明の一実施例を第1図について説明する。
第1図において、1?6は第2図と同じものであり、16は前記n形GaAs結晶基板1の裏面の一部分に区画化されて形成されたn電極、17は前記n形GaAs結晶基板1の裏面の他の部分に配置されたp電極、18は前記n形GaAs結晶基板1に、インタコネクタのために開けられたスルーホールで、所要数が形成される。19は前記各スルーホール18からp形ドーパントを拡散してn形結晶をp反転させた拡散層であり、p電極17はこの拡散層19に接触してグリッド電極6と接続される。
この発明のGaAs太陽電池の動作は、従来例と同様に、表面より入射した太陽光によって、p形GaAs層3,n形GaAs層2,およびn形GaAs結晶基板1の各半導体層中に電子と正孔が発生し、電子はn形GaAs層2の方へ、正孔はp形GaAs層3の方へ、それぞれ逆方向に拡散し、正負両電荷が分離されて光起電力を発生する。ここで、p形AlGaAs層4および反射防止膜5の役割は従来例と同じである。
電流の取り出しは、発生した電荷をグリッド電極6およびn電極16で捕集するが、グリッド電極6はn形GaAs結晶基板1に形成された複数のスルーホール18を通してp電極17と電気的に接続されているため、裏面より取り出すことができる。拡散層19はp電極16(審決注、「p電極17」の誤記と認められる。)がn形半導体結晶に接触して、電流リークの原因となるのを防ぐ目的で設けたものである。
このように構成することにより、従来のGaAs太陽電池で給電点の役割を果していたバス電極11は不要となる。また、グリッド電極6の極めて近くに複数の給電点を設けているので、グリッド電極6の一本一本を細かくしても抵抗増加の心配はなくなり、グリッド電極6全体の面積を著しく減らすことができ、極めて変換効率の高い高性能なGaAs太陽電池が同時に得られる。」(2頁右下欄4行?3頁右上欄1行)

(ウ)「なお、上記実施例では、n形GaAs結晶基板1上にn形GaAs層,p形GaAs層およびp形AlGaAs層を順次成長した結晶上に太陽電池を形成したものについて示したが、p形GaAs結晶基板上に太陽電池を形成してもよく、この場合には、上記実施例においてn形とp形を入れ替えた構造となり、上記実施例と同様の効果を奏する。」(3頁右上欄2行?9行)

(エ)第1図から、反射防止膜5が太陽電池の表面に設けられること、及び、複数のグリッド電極6の各々が、複数のスルーホール18に接続していることが理解できる。

ウ 同じく甲第5号証(特開平8-335711号公報)には、太陽電池の製法に関し、以下の記載がある。

「【0063】4.リン拡散(図3b)
リン拡散は、マイクロエレクトロニクスにおける公知の手段:ガス供給源、スピノン(spin-on)溶液の利用またはリンペーストのスクリーンプリントによって行うことができる。このステップに関する詳細な情報は、EP-B-0108065に記述されている。
【0064】この実施態様では、n+ 層(2)を形成するため、基板前面(1)にリンペーストをスクリーンプリントすることによって拡散を行う。拡散は、最高温度910℃のコンベアベルト炉内で実施した。ウェーハを10?25%フッ化水素酸中に約30秒間浸漬することによって、拡散ガラス(diffusion glass)を除去する。拡散層の面積抵抗は、45?50ohm/sq.である。」

エ 同じく甲第6号証(特公平6-82853号公報)には、太陽電池の製造方法に関し、以下の記載がある。

「拡散源(P_(2)O_(5)等)及び反射防止膜形成材料を含むドーパント液をスピンコータで基板の表面に塗布する。」(1頁第2欄9行?10行)

オ 同じく甲第7号証(特開平9-148600号公報)には、太陽電池の製造方法に関し、以下の記載がある。

「【0039】また、半導体層4のn層3については、例えばP(リン)又はSiPアロイをターゲットとするイオン注入により、p+ ドープ部11に対応する各所に、10^(21)atoms/cc以上の高濃度に不純物P- をドープし、局部的に高濃度のn+ ドープ部12を形成する。」

(2)引用発明
ア(ア)前記(1)ア(ア)のとおり、甲第1号証には、「素子1は、平担な表面2と裏面3とを有しており、P型基板5の表面全面から一側面を通り裏面の一部にかけて表層にn型層4が設けられてPn接合部を形成している。・・・素子1の櫛形状表面電極7が集まる一辺の側面には、素子の厚み方向に、複数個の(本件実施例では3個)の溝10が形成されている。素子1の表面における溝10の周辺と、素子の裏面における溝10の周辺には、それぞれ、表面電極7と、表面電極リード付部8がn層4を被覆して設けられており、この表面電極7と表面電極リード付部8は、溝10の内部に充填された導電性を有する側面導通部11により接続されている。」と記載されるところ、前記(1)ア(イ)の甲第1号証の記載に照らすと、素子1は、P型シリコン基板に形成された複数個の貫通孔12を含む部分からウェハーを2個に切断分離することにより形成され、素子1に設けられた溝10は、貫通孔12が切断分離されて形成されるものと認められ、また、前記ウェハー上のn型層4は、ウェハーの表面全体、貫通孔12の内周壁、及びウェハーの裏面における貫通孔12の周辺のみとなるものであるから、素子1に設けられるn型層4は、P型基板の表面全面から、素子1の櫛形状表面電極7が集まる一辺の側面に形成された複数個の溝10の内周壁を通り、裏面における溝10の周辺にかけて形成されるものと認められる。

(イ)前記(1)ア及び上記(ア)によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「平たんな表面と裏面とを有し、P型基板の表面全面から一側面を通り裏面の一部にかけて表層にn型層が設けられてPn接合部を形成する太陽電池素子であって、素子の表面のn型層の上には櫛形状表面電極が形成され、素子の裏面には長方形状の裏面電極が前記P型基板に直接形成され、前記櫛形状表面電極が集まる素子の一辺の側面には、素子の厚み方向に複数個の溝が形成され、前記n型層は、P型基板の表面全面から前記溝の内周壁を通り裏面における溝の周辺にかけて形成され、素子の表面における前記溝の周辺と、素子の裏面における前記溝の周辺には、それぞれ、前記櫛形状表面電極と、前記表面電極リード付部がn型層を被覆して設けられており、前記櫛形状表面電極と前記表面電極リード付部は、溝の内部に充填された導電性を有する側面導通部により接続されている太陽電池素子。」(以下「引用発明1」という。)

(ウ)また、前記(1)ア及び上記(ア)によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「P型シリコン基板の所定個所に、例えば、YAGレーザのパルス状ビームを照射して内径200μ?300μの複数個の貫通孔が形成されたP型シリコン基板のウェハーを、必要な場合にはエッチング液により例えば表面層10μ?20μ程度をエッチングして取り除き、通常の拡散方法、例えば気相拡散法などでn型の不純物リン等を拡散して、n型層を形成し、その後、そのウェハーの表面全面と裏面の孔周辺を含む一部に、耐酸性のエッチングレジストを塗布し、このウェハーをエッチング液で必要時間処理した後、エッチングレジストをレジスト用の溶剤を用いて取り除き、エッチングレジストが塗布されたn型層のみを残し、残余のn型層をすべて除去して、ウェハー上のn型層は、ウェハーの表面全体、貫通孔の内周壁、及びウエハーの裏面における貫通孔の周辺のみとなるようにした後、ウェハーの表面および裏面のn型およびP型のシリコンに対してオーミックな電極を形成するために、櫛形状表面電極用ペースト、表面電極リード付部用ペーストを貫通孔の内部にも入り込むように印刷するとともに、裏面電極用ペーストを印刷し、印刷された各ペーストを焼成して、櫛形状表面電極と表面電極リード付部の電気的接続を行うことができるようにし、次に、貫通孔を含む部分からこのウェハーをレーザスクライバまたはダイヤモンドスクライバにより2個に切断分離する、太陽電池素子の製造方法。」(以下「引用発明2」という。)

イ(ア)前記(1)イ(イ)の「16は前記n形GaAs結晶基板1の裏面の一部分に区画化されて形成されたn電極、17は前記n形GaAs結晶基板1の裏面の他の部分に配置されたp電極、18は前記n形GaAs結晶基板1に、インタコネクタのために開けられたスルーホールで、所要数が形成される。19は前記各スルーホール18からp形ドーパントを拡散してn形結晶をp反転させた拡散層であり、p電極17はこの拡散層19に接触してグリッド電極6と接続される。」との記載に照らして、前記(1)イ(ア)における「ドーパントを選択拡散して形成した拡散層」は、スルーホールの内壁に形成された第2導電形の拡散層であることが認められる。

(イ)前記(1)イ(ア)及び(イ)並びに上記(ア)によれば、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「第1導電形の結晶基板表面上に順次エピタキシャル成長した第1導電形の化合物半導体層、第2導電形の第1の化合物半導体層、および第2導電形の第2の化合物半導体層と、前記第2導電形の第1の化合物半導体層あるいは前記第2導電形の第2の化合物半導体層上に形成された複数のグリッド電極を備え、前記第1導電形の結晶基板裏面の区画化された一部に一方の電極を設け、前記第1導電形の結晶基板裏面の他の部分に他方の電極を備え、前記他方の電極と表面の前記複数のグリッド電極の各々とを前記第1導電形の結晶基板に形成した複数のスルーホールを通してそれぞれ電気的に接続し、前記スルーホールを通して前記グリッド電極と接続される前記他方の電極は、ドーパントを選択拡散して前記スルーホールの内壁に形成した第2導電形の拡散層に接触するように形成した化合物半導体太陽電池。」(以下「引用発明3」という。)

(3)本件発明との対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。

a 引用発明1における「P型基板の表面全面から一側面を通り裏面の一部にかけて表層にn型層が設けられてPn接合部を形成」したものは、本件発明1の「半導体基板」に相当し、引用発明1の「太陽電池素子」は、本件発明1の「半導体基板内に設けられた太陽電池」に相当する。

b 引用発明1の「平たんな表面と裏面」は、本件発明1の「放射線を受取る前面と背面」に相当する。
また、引用発明1の『「櫛形状表面電極が集まる素子の一辺の側面」に「素子の厚み方向」に「形成され」た「溝」』は、「基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位」である点で、本件発明1の「バイア」と一致する。
よって、引用発明1は、「前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する複数の部位」を有する点において、本件発明1の「前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記前面から前記背面まで延在している複数のバイアを有し」との構成と一致する。

c 引用発明1は、「P型基板の表面全面から一側面を通り裏面の一部にかけて表層にn型層が設けられてPn接合部を形成」するものであるから、引用発明1の「基板」は、「P型」の領域と「n型」の領域を有することが明らかである。
そして、引用発明1の「P型」の領域及び「n型」の領域は、それぞれ、本件発明1の「第1型導電性の第1領域」及び「前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域」に相当し、引用発明1は、本件発明1の「前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり」との構成を備える。

d 上記b及びcに照らすと、引用発明1の「前記n型層は、P型基板の表面全面から前記溝の内周壁を通り裏面における溝の周辺にかけて形成され」との構成は、「前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する前記部位の内壁とにわたって連続するエミッタ領域」である点において、本件発明1の「前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり」との構成と一致する。

e 引用発明1の「櫛形状表面電極」、「裏面電極」及び「表面電極リード付部」は、それぞれ、本件発明1の「第2領域との第1導電性接点」、「第1領域との第2導電性接点」及び「第2領域との第3導電性接点」に相当し、引用発明1は、本件発明1の「前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており」との構成を備える。

f 上記bに照らして、引用発明1の「前記櫛形状表面電極と前記表面電極リード付部は、溝の内部に充填された導電性を有する側面導通部により接続されている」との構成は、「前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する前記部位を介して接続している」点において、本件発明1の「前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続している」との構成と一致する。

g 以上によれば、本件発明1と引用発明1とは、
「半導体基板内に設けられた太陽電池であって、
前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する複数の部位を有し、
前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、
前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する前記部位とにわたって連続するエミッタ領域であり、
前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、
前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており、
前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と、前記前面から前記背面まで延在している内壁を有する前記部位を介して接続している太陽電池。」
である点で一致し、
「本件発明1では、基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアであり、第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続し、また、前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続しているのに対して、引用発明1では、基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアではなく、櫛形状表面電極が集まる素子の一辺の側面に素子の厚み方向に形成された溝である点。」(以下「相違点1」という。)
で相違するものと認められる。

(イ)判断
a 甲第2号証には、前記(2)イ(イ)のとおりの引用発明3が記載されるところ、同発明は、太陽電池において、基板表面に形成された電極と裏面に形成された電極とをスルーホール、すなわちバイアを介して接続する技術を開示するものといえる。しかも、引用発明2においては、第1導電形の基板に対してバイアの内壁に第2導電形の拡散層が形成されるものである。

b そして、前記(3)ア(ア)b、d及びfに照らして、引用発明1とは引用発明3と、基板表面に形成された電極と裏面に形成された電極とを、基板の表面から裏面にかけて延在している内壁を有する部位を介して接続するものである点において共通するものということができ、両者は、該内壁に、第1導電形の基板に対して第2導電形の層が形成される点においても共通するものといえる。

c してみると、引用発明1において、上記aの、基板表面に形成された電極と裏面に形成された電極とをバイアを介して接続する技術を適用し、背面上の第3導電性接点前面上の第1導電性接点とが接続する際に介在する、基板の表面から裏面にかけて延在している内壁を有する部位をバイアとすることは、当業者が容易になし得る程度のことというべきであり、また、これにより、第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するものとすることができるから、引用発明1において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2について
(ア)対比
a 前記ア(ア)cのとおり、引用発明1の「P型」の領域及び「n型」の領域は、それぞれ、本件発明1の「第1型導電性の第1領域」及び「前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域」に相当するから、引用発明1は、本件発明2の「前記基板の前記第1領域がp型導電性であるのに対して前記第2領域がn型導電性である」との構成を備える。

b そうすると、前記ア(ア)で検討したところに照らして、本件発明2と引用発明1とは、前記ア(ア)gの相違点1(なお、相違点1の「本件発明1」は、「本件発明2」に読み替えるものとする。)において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
前記ア(イ)での検討と同様の理由により、引用発明1において、相違点1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件発明3について
(ア)対比
a 前記ア(ア)cのとおり、引用発明1の「P型」の領域及び「n型」の領域は、それぞれ、本件発明1の「第1型導電性の第1領域」及び「前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域」に相当するところである。

b そうすると、前記ア(ア)で検討したところに照らして、本件発明3と引用発明1とは、前記ア(ア)gの相違点1(なお、相違点1の「本件発明1」は、「本件発明3」に読み替えるものとする。)に加えて、
「本件発明3では、第1型導電性の第1領域がn型導電性であり、前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域がp型導電性であるのに対して、引用発明1では、第1領域がp型導電性であり、第2領域がn型導電性である点。」(以下「相違点2」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
a 相違点1について
前記ア(イ)での検討と同様の理由により、引用発明1において、相違点1に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

b 相違点2について
前記(1)イ(ウ)によれば、甲第2号証には、太陽電池において、n型基板上に太陽電池を形成するものに限らず、n型とp型を入れ替えてp型基板上に太陽電池を形成してもよい旨の技術事項が記載されているものと認められる。
してみると、引用発明1において、n型とp型を入れ替えて「P型基板」を「n型基板」とすることは、当業者が容易になし得る程度のことであり、これにより、「第1型導電性の第1領域がn型導電性であり、前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域がp型導電性である」ものとすることができるから、引用発明1において、相違点2に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明3は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明並びに甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 本件発明4について
(ア)対比
前記ア(ア)で検討したところに照らして、本件発明3と引用発明1とは、前記ア(ア)gの相違点1(なお、相違点1の「本件発明1」は、「本件発明4」に読み替えるものとする。)に加えて、
「本件発明4では、バイアが円錐形状又は円柱形状のいずれかであるのに対して、引用発明1は、バイアを有するものではない点。」(以下「相違点3」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
a 相違点1について
前記ア(イ)での検討と同様の理由により、引用発明1において、相違点1に係る本件発明4の構成、すなわち、「基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアであり、第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続し、また、前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続している」構成とすることは、引用発明3に基づいて当業者が容易になし得たものである。

b 相違点3について
上記aのとおり、引用発明1において、「基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアであ」る構成とすることは、当業者が容易になし得たものであるところ、バイアの形状をどのようなものとするかは、当業者が設計的に適宜定めることのできる事項というべきであって、「バイアが円錐形状又は円柱形状のいずれかである」とすることに格別の困難はないものと認められる。そして、本件特許明細書の記載をみても、「バイアが円錐形状又は円柱形状のいずれかである」とすることに、設計的事項の域を超える格別の技術的意義があるものとは認められない。
したがって、引用発明1において、相違点3に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が適宜設計的になし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明4は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ 本件発明6について
(ア)対比
前記ア(ア)で検討したところに照らして、本件発明6と引用発明1とは、前記ア(ア)gの相違点1(なお、相違点1の「本件発明1」は、「本件発明6」に読み替えるものとする。)に加えて、
「本件発明6では、前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向っており、前記前面上の前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多いのに対して、引用発明1は、バイアを有するものではなく、また、第1導電性接点が櫛形状表面電極である点。」(以下「相違点4」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
a 相違点1について
前記ア(イ)での検討と同様の理由により、引用発明1において、相違点1に係る本件発明4の構成、すなわち、「基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアであり、第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続し、また、前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続している」構成とすることは、引用発明3に基づいて当業者が容易になし得たものである。

b 相違点4について
上記aのとおり、引用発明1において、「基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアであり、第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続し、また、前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続している」構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。
そしてその際に、第1導電性接点の形状をどのようなものとするか、また、バイアをどのように配置するかは、当業者が設計的に適宜定めることのできる事項というべきところ、引用発明3は「他方の電極と表面の前記複数のグリッド電極の各々とを前記第1導電形の結晶基板に形成した複数のスルーホールを通してそれぞれ電気的に接続」するものであること、甲第2号証に「グリッド電極6の極めて近くに複数の給電点を設けているので、グリッド電極6の一本一本を細かくしても抵抗増加の心配はなくなり、グリッド電極6全体の面積を著しく減らすことができ」と記載されていることに照らせば、「第1導電性接点」を「多数の狭い金属フィンガーからなる」ものとして「金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向って」いる構成とすることは、当業者が設計上当然考慮する程度のことであり、また、バイアを列状に配置し、「金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い」構成とすることに格別の困難はないものと認められる。
また、本件特許明細書の記載をみても、「金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い」構成とすることに、設計的事項の域を超える格別の技術的意義があるものとは認められない。
したがって、引用発明1において、相違点4に係る本件発明6の構成とすることは、当業者が適宜設計的になし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明6は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明並びに甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

カ 本件発明7について
(ア)対比
前記ア(ア)で検討したところに照らして、本件発明7と引用発明1とは、前記ア(ア)gの相違点1(なお、相違点1の「本件発明1」は、「本件発明7」に読み替えるものとする。)に加えて、
「本件発明7では、前記前面上にある前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなると共に、前記金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向っており、前記前面上の前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなるとともに、前記前面上の前記第1導電性接点が多数の並列に配置された金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致するのに対して、引用発明1は、バイアを有するものではなく、また、第1導電性接点が櫛形状表面電極である点。」(以下「相違点5」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
a 相違点1について
前記ア(イ)での検討と同様の理由により、引用発明1において、相違点1に係る本件発明4の構成、すなわち、「基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアであり、第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続し、また、前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続している」構成とすることは、引用発明3に基づいて当業者が容易になし得たものである。

b 相違点5について
上記aのとおり、引用発明1において、「基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアであり、第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続し、また、前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続している」構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。
そしてその際に、第1導電性接点の形状をどのようなものとするか、また、バイアをどのように配置するかは、当業者が設計的に適宜定めることのできる事項というべきところ、引用発明3は「他方の電極と表面の前記複数のグリッド電極の各々とを前記第1導電形の結晶基板に形成した複数のスルーホールを通してそれぞれ電気的に接続」するものであること、甲第2号証に「グリッド電極6の極めて近くに複数の給電点を設けているので、グリッド電極6の一本一本を細かくしても抵抗増加の心配はなくなり、グリッド電極6全体の面積を著しく減らすことができ」と記載されていることに照らせば、「第1導電性接点」を「多数の狭い金属フィンガーからなる」ものとして「金属フィンガーである導電性経路の各部分が前記前面上の開口部を経由して前記導電性経路の部分の少なくとも一つに向って」いる構成とすることは、当業者が設計上当然考慮する程度のことであり、また、バイアを列状に配置し、「金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する」構成とすることに格別の困難はないものと認められる。
また、本件特許明細書の記載をみても、「金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する」構成とすることに、設計的事項の域を超える格別の技術的意義があるものとは認められない。
したがって、引用発明1において、相違点5に係る本件発明7の構成とすることは、当業者が適宜設計的になし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明7は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明並びに甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

キ 本件発明8について
(ア)対比
前記ア(ア)で検討したところに照らして、本件発明8と引用発明1とは、前記ア(ア)gの相違点1(なお、相違点1の「本件発明1」は、「本件発明8」に読み替えるものとする。)に加えて、
「本件発明8は、電池が約10cm×10cmよりも小さい面積を有するものであって、バイアの数が電池当り100以下であるのに対して、引用発明1は、バイアを有するものではない点。」(以下「相違点6」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
a 相違点1について
前記ア(イ)での検討と同様の理由により、引用発明1において、相違点1に係る本件発明4の構成、すなわち、「基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアであり、第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続し、また、前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続している」構成とすることは、引用発明3に基づいて当業者が容易になし得たものである。

b 相違点3について
上記aのとおり、引用発明1において、「基板の前面から背面まで延在している内壁を有する部位が、バイアであ」る構成とすることは、当業者が容易になし得たものであるところ、太陽電池の大きさ、バイアの数をどの程度のものとするかは、当業者が設計的に適宜定めることのできる事項というべきであって、「電池が約10cm×10cmよりも小さい面積を有するものであって、バイアの数が電池当り100以下である」とすることに格別の困難はないものと認められる。そして、本件特許明細書の記載をみても、「電池が約10cm×10cmよりも小さい面積を有するものであって、バイアの数が電池当り100以下である」とすることに、設計的事項の域を超える格別の技術的意義があるものとは認められない。
したがって、引用発明1において、相違点6に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が適宜設計的になし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明8は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ク 本件発明9について
(ア)対比
前記ア(ア)で検討したところに照らして、本件発明9と引用発明1とは、前記ア(ア)gの相違点1(なお、相違点1の「本件発明1」は、「本件発明9」に読み替えるものとする。)に加えて、
「本件発明9では、前面上に反射防止被覆層が積層されているのに対して、引用発明1では、前面上に反射防止被覆層が積層されていない点。」(以下「相違点7」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
a 相違点1について
前記ア(イ)での検討と同様の理由により、引用発明1において、相違点1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

b 相違点7について
前記(1)イ(イ)及び(エ)によれば、甲第2号証には、反射防止膜5を太陽電池の表面に設けるとの技術事項が記載されているものと認められる。
そうすると、引用発明1において、基板の前面上に反射防止膜を設け、相違点7に係る本件発明9の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明9は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明並びに甲第2号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ケ 本件発明10について
(ア)対比
本件発明10と引用発明2とを対比する。

a 引用発明2は、「P型シリコン基板のウェハー」に「n型層を形成」する「太陽電池素子の製造方法」であって、「ウェハーの表面および裏面のn型およびP型のシリコンに対してオーミックな電極を形成する」ものであるから、本件発明10の「第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域とを有する半導体基板内に設けられた太陽電池であって、前記基板が放射線を受取る前面及び前記第1領域と前記第2領域との各導電性接点を設ける背面とによって形成される、太陽電池の製造方法であって」との構成を備える。

b 引用発明2の「P型シリコン基板」は、「例えば、YAGレーザのパルス状ビームを照射して内径200μ?300μの複数個の貫通孔が形成された」ものであるから、引用発明2は、本件発明10の「前記基板を貫いて多数のバイアを機械的に作成するステップ」を含むものである。

c 引用発明2は、「例えば、YAGレーザのパルス状ビームを照射して内径200μ?300μの複数個の貫通孔が形成されたP型シリコン基板のウェハーを、必要な場合にはエッチング液により例えば表面層10μ?20μ程度をエッチングして取り除」くものであるから、本件発明10の「前記バイアを化学的にエッチング処理するステップ」を含むものである。

d 引用発明2は、「複数個の貫通孔が形成されたP型シリコン基板のウェハー」に、「通常の拡散方法、例えば気相拡散法などでn型の不純物リン等を拡散」するものであるから、引用発明2の「通常の拡散方法、例えば気相拡散法などでn型の不純物リン等を拡散して」との構成は、本件発明10の「前記バイアの壁を含めた前記基板内にリン又はその他のドーパンドを導入して」との構成に相当する。
また、引用発明2の「ウェハー上のn型層」は、「ウェハーの表面全体、貫通孔の内周壁、及びウエハーの裏面における貫通孔の周辺のみとなるように」するものであるから、本件発明10の「前記前面及び前記背面の少なくとも部分を覆うように延在させて、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、キャリアを収集する接合点として機能する、前記第2領域」との構成に相当する。
よって、引用発明2は、本件発明10の「前記バイアの壁を含めた前記基板内にリン又はその他のドーパンドを導入して、さらに前記前面及び前記背面の少なくとも部分を覆うように延在させて、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、キャリアを収集する接合点として機能する、前記第2領域を作製するステップ」を含むものである。

e 引用発明2の「櫛形状表面電極」、「表面電極リード付部」及び「裏面電極」は、それぞれ、本件発明10の「第1導電性接点」、「第2導電性接点」及び「第3導電性接点」に相当する。
そして、引用発明2の「ウェハーの表面および裏面のn型およびP型のシリコンに対してオーミックな電極を形成するために、櫛形状表面電極用ペースト、表面電極リード付部用ペーストを貫通孔の内部にも入り込むように印刷するとともに、裏面電極用ペーストを印刷し、印刷された各ペーストを焼成して、櫛形状表面電極と表面電極リード付部の電気的接続を行うことができるように」するとの構成は、本件発明10の「前記太陽電池の前記第1領域及び前記第2領域のそれぞれに導電性接点を設けるステップであって、前記前面上の前記第2領域との第1導電性接点を設け、前記背面の第1領域との第2導電性接点を設けると共に、前記背面の第2領域との第3導電性接点を設ける、複数の導電性接点を設けるステップ」及び「前記バイアを金属化して、前記金属化によって前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と、前記背面上の前記第3導電性接点の少なくとも一つとの間に導電性の経路を形成するステップ」に相当するから、引用発明2は、本件発明10の上記各ステップを含むものである。

g 以上によれば、引用発明2は、本件発明10の構成をすべて備えるものであり、両者に相違するところはないものと認められる。

(イ)小括
以上のとおり、引用発明2は、本件発明10の構成をすべて備えるものであり、両者に相違するところはないものと認められるから、本件発明10は、甲第1号証に記載された発明である。

コ 本件発明11について
(ア)対比
本件発明11と引用発明2とを対比する。

a 引用発明2の「ウェハーの表面および裏面のn型およびP型のシリコンに対してオーミックな電極を形成するために、櫛形状表面電極用ペースト、表面電極リード付部用ペーストを貫通孔の内部にも入り込むように印刷するとともに、裏面電極用ペーストを印刷し、印刷された各ペーストを焼成して、櫛形状表面電極と表面電極リード付部の電気的接続を行うことができるように」するものであって、「櫛形状表面電極用ペースト」、「表面電極リード付部用ペースト」及び「裏面電極用ペースト」の印刷、焼成と、「貫通孔の内部にも入り込むように印刷」された電極用ペーストの印刷、焼成とは同時に行われるものと解されるから、引用発明2は、本件発明11の「前記接点を形成するステップと、前記バイアを金属化するステップと、を実質的に同時に行なう」との構成を備える。

b してみると、前記ケ(ア)で検討したところに照らして、引用発明2は、本件発明11の構成をすべて備えるものであり、両者に相違するところはないものと認められる。

(イ)小括
以上のとおり、引用発明2は、本件発明11の構成をすべて備えるものであり、両者に相違するところはないものと認められるから、本件発明11は、甲第1号証に記載された発明である。

サ 本件発明12について
(ア)対比
本件発明12と引用発明2とを対比する。

a 引用発明2の「ウェハーの表面および裏面のn型およびP型のシリコンに対してオーミックな電極を形成するために、櫛形状表面電極用ペースト、表面電極リード付部用ペーストを貫通孔の内部にも入り込むように印刷するとともに、裏面電極用ペーストを印刷、焼成して、櫛形状表面電極と表面電極リード付部の電気的接続を行うことができるように」するとの構成は、本件発明12の「前記金属接点を焼成するステップ」との構成に相当するから、引用発明2は、本件発明12の上記ステップを含むものである。

b してみると、前記ケ(ア)で検討したところに照らして、本件発明12と引用発明2とは、
「本件発明12は、ベース接点を形成しようとする前記背面上の箇所にマスク層を積層するステップと、前記バイアの壁を含めた前記基板の前記マスク層によって被覆されていない面内にドーパンドを拡散させて、前記第2領域を作製するステップと、前記基板内への前記ドーパンドの導入ステップ後に前記電池の面上にある被覆マスク層を除去するステップと、を含むのに対して、引用発明2は、複数個の貫通孔が形成されたP型シリコン基板のウェハーにn型の不純物リン等を拡散してn型層を形成し、その後、そのウェハーの表面全面と裏面の孔周辺を含む一部に、耐酸性のエッチングレジストを塗布し、このウェハーをエッチング液で必要時間処理した後、エッチングレジストをレジスト用の溶剤を用いて取り除き、エッチングレジストが塗布されたn型層のみを残し、残余のn型層をすべて除去して、ウェハー上のn型層は、ウェハーの表面全体、貫通孔の内周壁、及びウエハーの裏面における貫通孔の周辺のみとなるようにした後、ウェハーの表面および裏面のn型およびP型のシリコンに対してオーミックな電極を形成するものである点。」(以下「相違点8」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
a 本件発明12において、相違点8の構成としたことの技術的意義について検討するに、ベース接点とは、背面上の箇所に形成しようとするものであることに照らして、請求項10における「第2導電性接点」に対応するものと解されるところ、当該接点は、背面の第1領域との接点であることから、当該接点が形成されるべき箇所には第2領域が形成されないように当該箇所にマスク層を積層し、マスク層によって被覆されていない面内にドーパントを拡散させて第2領域を作成することに、相違点8の構成としたことの技術的意義があるものと解される。
そして、「基板内への前記ドーパンドの導入ステップ後に前記電池の面上にある被覆マスク層を除去する」ことは、ドーパントの導入後に不要となる被覆マスク層を除去するという、当業者が当然考慮する事項を明確にしたにすぎないものというべきである。

b 他方、引用発明2は、「複数個の貫通孔が形成されたP型シリコン基板のウェハーを、必要な場合にはエッチング液により例えば表面層10μ?20μ程度をエッチングして取り除き、通常の拡散方法、例えば気相拡散法などでn型の不純物リン等を拡散して、n型層を形成し、その後、そのウェハーの表面全面と裏面の孔周辺を含む一部に、耐酸性のエッチングレジストを塗布し、このウェハーをエッチング液で必要時間処理した後、エッチングレジストをレジスト用の溶剤を用いて取り除き、エッチングレジストが塗布されたn型層のみを残し、残余のn型層をすべて除去して、ウェハー上のn型層は、ウェハーの表面全体、貫通孔の内周壁、及びウエハーの裏面における貫通孔の周辺のみとなるようにした後、ウェハーの表面および裏面のn型およびP型のシリコンに対してオーミックな電極を形成する」ものであるから、基板にドーパントを拡散させて第2領域を形成するものといえ、裏面の「P型のシリコンに対してオーミックな電極」が形成される箇所においては、n型層は除去されていることが明らかである。
そして、引用発明2においても、エッチングレジスト(本件発明12の「被覆マスク層」に相当する。)は溶剤を用いて取り除かれているから、ドーパントの導入後に不要となる被覆マスク層を除去する点において、本件発明12と異なるところはない。

c してみると、基板にドーパントを拡散させて第2領域を形成する際に、背面の第1領域との接点が形成されるべき箇所には第2領域が形成されないようにする点において、引用発明2は本件発明12と共通するものといえ、結局のところ、相違点8は、所定の箇所に第2領域が形成されないようにする手法が、マスク層に被覆された面にはドーパントを拡散しないようにする(本件発明12)か、エッチングレジストが塗布されたn型層のみを残し、残余のn型層を除去する(引用発明2)かの相違であるということができる。

d しかるところ、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなる半導体基板内に設けられた太陽電池を製造する方法において、基板にドーパントを拡散させて第2領域を形成する際、所定の箇所には第2領域が形成されないようにするために当該箇所にマスク層を積層し、マスク層によって被覆されていない面内にドーパントを拡散させて第2領域を作成し、その後被覆マスク層を除去することは、本願優先日当時において周知の技術である(例えば、特開平7-135333号公報の【0017】及び【0019】、特開平7-326786号公報の【0012】【0013】を参照。)から、引用発明2において、基板にドーパントを拡散させて第2領域を形成する際に、背面の第1領域との接点が形成されるべき箇所には第2領域が形成されないようにするために、かかる周知技術を採用して、当該箇所にマスク層を積層し、マスク層によって被覆されていない面内にドーパントを拡散させて第2領域を作成し、その後被覆マスク層を除去するものとし、これにより相違点8に係る本件発明12の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明12は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

シ 本件発明14について
(ア)対比
本件発明14と引用発明2とを対比するに、前記ケ(ア)で検討したところに照らして、本件発明14と引用発明2とは、
「本件発明14は、リン拡散が、リン含有ペーストをスクリーン印刷して前記エミッタを作製すると共に、前記ペーストを乾燥させ、次いで高温炉を使用して形成されたリンケイ酸ガラスを前記基板の表面領域内に拡散させるのに対して、引用発明2は、通常の拡散方法、例えば気相拡散法などでn型の不純物リン等を拡散させるものであるが、それ以上の具体的な拡散方法が不明である点。」(以下「相違点9」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
太陽電池を製造する方法において、基板にドーパントであるリンを拡散させる際、基板にリン含有ペーストをスクリーン印刷した後、前記ペーストを乾燥させ、次いで高温炉を使用して形成されたリンケイ酸ガラスを前記基板の表面領域内に拡散させることは、本願優先日当時において周知の技術である(例えば、前記(1)ウの甲第5号証の記載のほか、特表昭58-502078号公報の5頁右下欄11行?下から2行及び6頁左下欄下から2行?右下欄4行を参照。なお、これら記載においては、リンケイ酸ガラスを基板の表面領域内に拡散させる点は明示されていないが、基板がシリコン基板であり、高温炉を使用してリンペーストをシリコン基板に拡散させる際にリンペーストはリンケイ酸ガラスに変わって基板表面領域内に拡散するものと認められる。)から、引用発明2において、リンを拡散させる方法としてかかる周知技術を採用し、これにより相違点9に係る本件発明14の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明14は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ス 本件発明15について
(ア)対比
本件発明15と引用発明2とを対比する。

a 引用発明2は、「通常の拡散方法、例えば気相拡散法などでn型の不純物リン等を拡散」するものであるから、本件発明2の「リン拡散が、出発物資としてガス状物質を用いて行なわれ」との構成を備える。
そして、基板にドーパントであるリンを気相拡散法などで拡散させる際、高温炉を使用することは、拡散方法として通常のものである(例えば、前記(1)ウの甲第5号証の記載を参照。)ところ、引用発明2の基板はシリコン基板であり、高温炉を使用してリンペーストをシリコン基板に拡散させる際にリンペーストはリンケイ酸ガラスに変わって基板表面領域内に拡散するものと認められるから、引用発明2も、「基板の表面上にリンケイ酸ガラスを作製して表面領域内に拡散させる」ものと解される。
よって、引用発明2は、本件発明15の「前記リン拡散が、出発物資としてガス状物質を用いて行なわれ、前記基板の表面上にリンケイ酸ガラスを作製して表面領域内に拡散させる」との構成を備えるものといえる。

b してみると、前記ケ(ア)で検討したところに照らして、引用発明2は、本件発明11の構成をすべて備えるものであり、両者に相違するところはないものと認められる。

(イ)小括
以上のとおり、引用発明2は、本件発明15の構成をすべて備えるものであり、両者に相違するところはないものと認められるから、本件発明15は、甲第1号証に記載された発明である。

セ 本件発明16について
(ア)対比
本件発明16と引用発明2とを対比するに、前記ケ(ア)で検討したところに照らして、本件発明16と引用発明2とは、
「本件発明16は、リン拡散が、スピン-オン又はスプレー-オンデポジション法により行なわれるのに対して、引用発明2は、通常の拡散方法、例えば気相拡散法などでn型の不純物リン等を拡散させるものであるが、それ以上の具体的な拡散方法が不明である点。」(以下「相違点10」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
太陽電池を製造する方法において、基板にドーパントであるリンを拡散させる際、スピン-オン又はスプレー-オンデポジション法を用いることは、本願優先日当時において周知の技術である(例えば、前記(1)ウの甲第5号証の記載、同エの甲第6号証の記載を参照。)から、引用発明2において、リンを拡散させる際にかかる周知技術を採用し、これにより相違点10に係る本件発明16の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明16は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ソ 本件発明17について
(ア)対比
本件発明17と引用発明2とを対比するに、前記ケ(ア)で検討したところに照らして、本件発明17と引用発明2とは、
「本件発明17は、リン拡散が、イオン注入法により行なわれるのに対して、引用発明2は、通常の拡散方法、例えば気相拡散法などでn型の不純物リン等を拡散させるものであるが、それ以上の具体的な拡散方法が不明である点。」(以下「相違点11」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
太陽電池を製造する方法において、基板にドーパントであるリンを拡散させて第2領域を形成する際、イオン注入法を用いることは、本願優先日当時において周知の技術である(例えば、前記(1)オの甲第7号証の記載のほか、特開平7-135329号公報の【0018】を参照。)から、引用発明2において、リンを拡散させる際にかかる周知技術を採用し、これにより相違点11に係る本件発明17の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明17は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

タ 本件発明19について
(ア)対比
本件発明19と引用発明2とを対比するに、前記ケ(ア)で検討したところに照らして、本件発明19と引用発明2とは、
「本件発明19は、金属接点の積層をスクリーン印刷法により行なうのに対して、引用発明2は、ウェハーの表面および裏面のn型およびP型のシリコンに対してオーミックな電極を形成するために、櫛形状表面電極用ペースト、表面電極リード付部用ペーストを貫通孔の内部にも入り込むように印刷するとともに、裏面電極用ペーストを印刷するものであるが、スクリーン印刷法によるものかどうか不明である点。」(以下「相違点12」という。)
において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
印刷方法としてスクリーン印刷法はきわめてありふれたものであるから、引用発明2において、ペーストを印刷する方法としてスクリーン印刷法を採用し、これにより相違点12に係る本件発明19の構成とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明19は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

チ 本件発明20について
(ア)対比
本件発明20と引用発明2とを対比する。

a 引用発明2は、「ウェハーの表面および裏面のn型およびP型のシリコンに対してオーミックな電極を形成するために、櫛形状表面電極用ペースト、表面電極リード付部用ペーストを貫通孔の内部にも入り込むように印刷するとともに、裏面電極用ペーストを印刷し、印刷された各ペーストを焼成」するものであるから、本件発明20の「金属接点を焼成するステップ」を含むものである。

b してみると、前記ケ(ア)及び前記タ(ア)で検討したところに照らして、本件発明20と引用発明2とは、前記タ(ア)の相違点12(なお、相違点12の「本件発明19」は、「本件発明20」に読み替えるものとする。)において相違し、その余の点において一致するものと認められる。

(イ)判断
前記タ(イ)での検討と同様の理由により、引用発明2において、相違点12に係る本件発明20の構成とすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明20は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1、本件発明2、本件発明4及び本件発明8は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明に基づいて、本件発明3、本件発明6、本件発明7及び本件発明9は、甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載された発明並びに甲第2号証に記載された技術事項に基づいて、本件発明12、本件発明14、本件発明16及び本件発明17は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件発明19及び本件発明20は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明10、本件発明11及び本件発明15は、甲第1号証に記載された発明であるから、上記各発明についての特許は、特許法第29条第2項又は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効理由2について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

平成22年 1月28日
審判長 特許庁審判官 服部 秀男
特許庁審判官 稲積 義登
特許庁審判官 吉野 公夫
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
太陽電池
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、太陽電池に関するものである。
また、本発明は、コスト効果のある太陽電池の実現方法に関するものである。
背景技術
従来技術に記載されているほとんどの太陽電池は、その一般的構造からいくつかのカテゴリーに細分化されている。
前記カテゴリーの一つは、いわゆる背面接続型太陽電池のグループの一つであり、これは太陽電池の相対するドープされた領域についてのオーム接点が、太陽電池の背面、即ち、照射を受けない面に配置されていることを意味している。この構想は、一般的な太陽電池の前面における金属接点グリッドがもたらす影による損失を避けるためである。
背面接続型太陽電池を作製する最も簡単な方法は、電池の背面に近いドープされた相対する半導体領域の間にキャリア収集接合を設けることである(「背面接合型」電池)。「27.5%ケイ素濃度の太陽電池」という文献(R.A.Sinton,Y.Kwark,J.Y.Gan,R.M.Swanson,IEEE Electron Device Letters,Vol.ED-7.No.10,October 1986)にはそのようなデバイスについて記載がある。
大多数の光子は通常、電池表面の近くで吸収されるため、これらの領域内で発生したキャリアは電池の全ベース領域を貫いて、背面に近いキャリア収集接合部へと拡散しなければならない。この構想のためには、少数キャリア(minority carrier)の拡散距離が電池厚さよりも長い高品質物質が必要とされているが、これは一般的に短い拡散距離を有するほとんどの太陽電池用物質を用いたものには適さないものである。加えて、背面の近くにキャリア収集接合部を有する電池では、前面を完全に不動態化することが必要である。
最も大きなグループにおける太陽電池では、前面の近くにキャリアが集まる接合部を有している。これらの太陽電池からの電流は、前面上のドープされた領域との金属接点と背面上の相対するドープされた領域との第2接点とによって集められる。しかし、この前面グリッド構造は高収集効率を得るために最適化するのは相対的容易ではあるが、抵抗損失と影による損失との兼ね合いによって、全面積の10?15%にあたる前面を覆うことが必要となる。
その他の太陽電池のグループでは、これらの二つの方法を組み合わせている。それらの太陽電池では、背面上の相対するドープされた領域との外部接点及び前面に近いキャリア収集の接合部とをいずれも有している。前面から集められたキャリアは、ウエハー全体を貫いて背面に達している開口部を通って導かれる。この構造を用いることによって、通常は前面の金属化グリッドの影による損失の発生を大きく減らすことができる。
いくつかの特許がこの方法を利用している。
米国特許第4,227,942号及び米国特許第4,427,839号は、相対するドープされた両方の領域がデバイスの背面に配置された構成の太陽電池の構造を開示している。前面のキャリアが集まる接合点との接続は、化学的にエッチングされたバイア(vias)のアレーによって実現されている。金属グリッド及び化学エッチングマスクはフォトリソグラフィーによって画定される。しかし、フォトリソグラフィーは、不経済なプロセスステップであり、また太陽電池の産業上の製造への適用には困難なものである。
米国特許第4,838,952号にも同様な構造が開示されており、ここでは孔(holes)のアレーが化学エッチングを用いてリソグラフィー的に画定された領域によって作製される。この場合には、孔はデバイスの頂部面から背面まで達してはいない。これらはただ背面から接合領域まで達しているだけである。通常接点が配置されている面に比べて接合領域でのドープ濃度が低いことから、スクリーン印刷のような工業的金属化技術が用いると、このデバイスでは接触抵抗がより高くなるものと思われる。前述したフォトリソグラフィーの問題点がこの方法にもあてはまる。
米国特許第3,903,427号においてもまた、孔のアレーを持つ太陽電池が開示されており、太陽電池の前面から集められた電流を背面に導くために、孔のアレーを機械的、或いは、電子ビーム又はレーザードリルを利用して作製している。この場合には、相対する極性の領域との金属接点は、誘電体層によって分離されている側ではなく背面に配置される。このデバイスにおいては孔の壁に沿って絶縁的な誘電体層を有している必要がある。この層は、金属ペーストのスクリーン印刷や金属ペーストの焼成などの工業的金属化技術が誘電体層を溶かしてしまうことから、これらと組み合わせることは困難である。
米国特許第4,626,613号には、背面上の接点と前面及び背面と接続している孔のアレーの両方を持つ電池が開示されている。孔は、前面から適当な極性を持つ背面上の金属グリッドへの電流を伝導するために用いられる。孔はレーザードリルやスクライブ(scribing)によって機械的に作製され、前面及び背面上に間隔を空けた並列のみぞをなしている。両面上の二組のみぞは互いに垂直に向けられており、それによって適切なエッチングの後、孔は交差点により形成される。
同様な構造は米国特許第5,468,652号にも示されており、ここでは電池構造体はレーザードリルによって作製された孔を用いており、これによって前面上に集められた電流を相対するドープされた領域との金属接点が配置されている背面へ伝導させている。しかし、この後者の場合はまた、上記で示されたものと比べて電池の製造方法でいくらか簡易化しているが、電池の二つの面の電気的な接続のために多数の孔を利用する電池構造体としては、なおいくつかの共通する短所がある。
電池の孔周辺の多量のドープがされた表面層内での電流のクラウディング効果(crowding effects)によって引き起こされる抵抗損失を避けるためには、2方向のいずれについても孔が1?1.5mmの間隔で配置される必要がある。太陽電池(10×10cm^(2))の大きな面積上では総数10000以上の孔が必要となる。そのため金属化の観点からはもう一つの困難性が上がってくる。孔を互いに密に接して配置するには、背面における二つの金属グリッドに対するアラインメント許容度を非常に狭くする必要がある。米国特許中で開示されている電池構造体で考えられている非常に多数の孔は、これらの電池構造体を高価なものとし、大量生産には適さない。
米国特許第3,903,428号には、中央に位置する孔と電池の前面上の金属グリッドと組み合わせたものを用いており、これによって集められた電流を前面から背面へ導いている。開示された構造は、中央に位置する孔の周囲の電流が込み合うことによって抵抗損失が増加することから、小さい面積の輪形のデバイスとしては最適なものである。幾つかの前記構造では考えられる、電池の背面上にキャリア収集のための第2の接合点を設けることが、この米国特許第3,903,428号では許されない。
日本国特許公開公報昭63-211773号には、前面から外部接点を除いた電池構造体が開示されており、これによって活性領域を増加させ、背面から近づきやすい両方の極性の接点を持つことができる。入射光は構造体のバルク内で電子とホールの対を生成させる。過剰の少数キャリアは前面にエピタキシャル成長によって形成された収集接合点に向って拡散する。いったんこれらが接合点で交差したならば、これらは多数キャリア(majority carrier)として、電池の背面の外部接点に向う導電路の一部をなす金属接点に向って拡散する。前面と背面との間の導電路は、有限数の孔を通ると考えられている。少数キャリアが全ウエハを介して拡散することから、この方法において低品質の物質を用いるのを困難にしている。少数キャリアが再結合の前にバルク領域を通って拡散する距離は、物質の品質によって制限される。高品質物質の場合には、少数キャリアは再結合するまでにベース幅の数倍を移動することができる。しかし、低級な物質の拡散距離は電池構造体よりも小さくなってしまう。この場合には、構造体の深いところで発生したキャリアが、収集することができる前面まで達する機会はほとんどない。
本発明の目的
本発明は、産業上の利用性を維持するとともに、上述の従来構造体の制約を克服した、太陽電池用物質に適する太陽電池構造体を実現することを提供することを目的としている。
本発明は、コスト効果のある太陽電池の実現方法を提案することを目的とする。
本発明の主たる特徴
本発明の第1の目的は、半導体基板内に照射受光前面と第2面とを少なくとも有する太陽電池であって、前記基板が第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、前記第2領域が前記前面に隣接して配置されている第1部分と前記第2面と隣接して配置されている第2部分とを少なくとも有し、前記前面が前記第2領域との導電性接点を有しており、前記第2面が前記第1領域と前記第2領域の第2部分とに分れた導電性接点を有しており、前記第2面上の前記第2領域との前記接点が前記前面上の前記接点と有限数のバイアを通して接続していることよりなる太陽電池を提供することにある。
有限数のバイアとは、多数のバイアが工業的に実現できる(十分短い)時間枠で作製できる数のバイアを意味する。そこで、バイアの数としては10cm×10cmの太陽電池について、およそ100又はそれ以下、例えば10?20の範囲である。
もし、前記第2面が基板の背面であれば、前記第1領域と前記第2領域とに分離された接点は背面に作製する。
第2領域は基板のドープされた領域により形成され、第1領域がp型導電性又はn型導電性をとるならば第2領域はn型導電性又はp型導電性のいずれかをとることとなる。
好ましくは、バイアは基板の前面から背面まで延在しており、円錐形状又は円柱形状を呈するのが望ましい。
前面上の導電性接点は多数の狭い金属線から形成されており、導電性経路の各部分は前面の開口部を経由して前記部分の少なくとも一つに向っている。
背面の両方の接点はデバイスにおいて外部接点として利用することができる。背面の第2領域への接点は、領域間についての前面の接合点において収集されたキャリアを拾い集めて移送するのに役立ち、それはバイアを介して前面の接点へと接続することによって行なわれ、加えて背面に近い接合点において収集されたキャリアを拾い集めて移送するのに役立つ。
本発明の第2の目的は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域とを有する半導体基板内に本質的に設けられた太陽電池であって、前記基板が照射受光前面及び前記第1領域と前記第2領域との接点を設けることとなっている第2面とによって形成されるものである太陽電池の少なくとも以下のステップからなる実現方法であって、
前記基板を貫いて多数のバイアを機械的に形成するステップと、
前記バイアを化学的にエッチング処理するステップと、
前記バイアの壁を含めた前記基板内にリン又はその他のドーパンド(dopand)を導入して前記第2領域を作製するステップと、
前記太陽電池の前記第1領域及び前記第2領域のそれぞれに接点を設けるステップであって、前記接点を少なくとも前記前面上の前記第2領域と経絡させると共に、外部接点を前記第2面上に設けるステップと、
前記バイアをある程度金属化して、前記金属化によって前記前面上の前記第2領域との前記接点と前記第2面上の前記外部接点の少なくとも一つとの間に導電性の経路を形成するステップとからなる太陽電池の実現方法を提供することである。
接点の形成ステップ及びバイアの金属化ステップは実質的に同時に行なうのが好ましい。
基板へのドーパンドの導入は、例えば基板へのドーパンドの拡散、イオン注入によって行なうことができる。
金属接点の形成は、例えば、スクリーン印刷、焼成、蒸着及び金属積層方法のその他の技術を用いることができる。
図面の簡単な説明
図1は、実際のプロセスでの種々のプロセス段階における電池の等角断面図。
図2及び図3とは、前面を金属化した金属グリッド概念の可能性を示している。
図4は、本発明の好ましい態様による太陽電池の背面での考えられる金属的接続方法を示している。
図5は、本発明の好ましい態様による太陽電池の背面での2つの太陽電池の直列接続を示している。
発明の好ましい実施の形態の詳細な説明
本太陽電池は、2つのダイオードを並列接続した、背面接続型二重結合太陽電池(back contacted double junction solar cell)を構成しているものと説明できる。電池の前面から金属フィンガーで集めた電流は、有限数のバイアを介して背面より外部接点へと導かれる。背面にある接合点は、発生させたキャリアの収集量を増し、デバイスの出力電流を増加させる。
以下の記載において、図1を参照しながら同種のエミッタを持つ太陽電池の製造方法を説明する。
背面接続型二重結合太陽電池の製造過程は、以下の好ましい実施の態様によれば、下記の通りである。
出発材料はp型導電性基板1であり、図1aに示されたようにその前面2及び背面3を有している。
図1bにおいて、多数のバイア4が基板を貫いて機械で作製される。適当な方法を用いることによって、バイアの開き角αを変えることができる。α>0°の孔を機械によって作製する方法には、機械的ドリルによる方法や火花放電腐食による方法も含まれる。また、これらの方法は円柱状の孔(α=0°)を作製するのにも適している。加えて、レーザードリル、ウオータージェットドリル、電子ビームドリル及び超音波ドリルによっても円柱状の孔を作製することができる。また、化学エッチングも利用できるが、この場合には、通常、開口部をはっきりさせるマスクが必要とされるため、工業的な応用としては適当な方法ではない。
円錐状バイア(開き角α>0°)を作ることによって、以下に記載するように、金属を焼き付けたスクリーンのように商業的生産技術の応用を容易にすることができる。バイアは、基板1を完全に貫いて背面3から前面2まで延在してもよく、また基板1の前面2から短い深さ(25μm以下)だけ延在するようにしてもよい。次に、ウエハを切断し、或いは研削加工で孔を作製した結果として損傷を受けた表面層を化学エッチングステップによって除去する。もし、バイア4が前面2まで達していない場合には、前面2に開口部11を作製するように、開口部11を通って十分な量の物質をエッチングするべきである。
上記ステップの後、n型エミッタ領域8が、図1dに示されるようにバイアの壁7を含む電池の両面上に形成される。電池の主たる基板部分はバルクのp型シリコンのままである。光によって発生したキャリアは、n型エミッタ領域とp型バルクの間に形成された接合点に向って拡散していく。さらに、孔の壁にあるn型エミッタはまた、基板のp型バルクと孔を通っているn型接点の間の電気的絶縁を確実なものとしている。
n型エミッタを形成することができる方法には以下のものが含まれる。
(1°)エミッタを作製しようとする電池の地域にリン含有のペーストをスクリーン印刷し、ペーストを乾燥させ、高温炉を用いて形成されたリンケイ酸ガラス(phosphorsilicate glass(PSG))を基板表面から内部へ拡散させるステップを行なう。
(2°)三塩化ホスホリル(POCl_(3))のようなガス状出発物質を用いて基板表面上にPSGを形成し、表面領域への拡散を行なわせる。
(3°)スピン-オンおよびスプレー-オンデポジション法。
(4°)イオン注入のようなその他の方法もまた可能であるが、未だ工業的レベルにないものである。
背面においてのp型バルク領域との接続は予定されたものである。一つについては記載されているように太陽電池の製造プロセスにおいて上げられる重要な問題として、短絡コンダクタンスを避けるためのp型及びn型接点との間の絶縁にある。それゆえ、背面の部分にはn型エミッタを設けないか又はn型エミッタ領域のみを分離して形成されるべきである。利用可能な方法としては、図1cに記載されているように適当なマスク層を用いることによって背面の部分を拡散から締め出す方法から、p型バルク接点への予定された地域への拡散の後にn型エミッタ領域を除去する方法まである。
太陽電池には最終的に金属接点が使用される。その実現にはスクリーン印刷のようによく知られた金属化手法を用いることができる。スクリーン印刷によって、背面にn型接点を形成し、バイア4の金属化を行なうという組み合わせができる。バイアはある程度金属化されるべきであり、それによって金属は少なくとも前面と背面のn型接点間の導電路を形成する。採りうるものとしては、図1eに表現されたように、バイアはバイア内を完全に満たして前面に達するまで延ばして金属化される。
n型接点が電池の前面2上に形成され、図1fに示したように、すでに金属化されたバイアとの接点が形成される。前面上のこのn型接点は、狭い金属フィンガーからなり、すなわち導電性経路の各部分は、図2及び図3に示したように前面の開口部を経由して少なくとも前記部分の一つへと向っているものである。
電池のp型接点は背面に形成され、それによって上述した背面上のn型接点から分離された背面上に金属線の第2グリッドを形成する。金属接点の使用によって適切な実現が可能となる。
上述したような最も本質的なプロセスステップを基礎として、電池の性能を改良するために、当業者に知られたさらなるプロセスのステップを付加することができる。
(1°)バイア形成後のエッチングステップの後に、表面構造化ステップを用いてもよい。表面構造化の目的は、電池の前面からの反射を減らすことであり、電池内に入れるためにより軽くすることができ、そうして電池のより高い出力電流を導くことができる。表面構造化の種々の技術は当業者に知られたものである。
(2°)電池の表面を不動態化するために、エミッタ拡散ステップの後、酸化を行なってもよい。その結果としてできるSiO2層は、シリコンへの金属接点を作製するにあたっていかなる障壁ともならない。金属グリッドの酸化物を通ってシリコンと接続するための技術は十分に確立されている。
(3°)太陽電池の前面は、反射損失をさらに減らすために反射防止被覆(ARC)層で被覆してもよい。
以下に、上述の前面金属グリッドの考えられる形成方法を述べる。
(1°)バイアの数はフィンガーの数と一致する必要はない。一つ又は複数のフィンガーが前記フィンガーの一つと接続する構成は、図3に示されているようにして実現できる。このレイアウトの利点は、バイアの総数をさらに減少させることができることであり、これによって孔の製造プロセスのスピードアップを可能にする。
(2°)並列のフィンガーとは別の異なる前面接点グリッドもまた、バイアと結合でき、背面に収集された電流を導くことができる。
(3°)バイアは2つの線に沿って配置される必要はない。バイアの代替の配置として前面を金属化することを選択することができる。
本発明により開示された太陽電池構造体はまた、選択的エミッタを持つ電池にも用いることができる。選択的エミッタを持つ電池においては、金属接点に隣接するドーパンド濃度は、入射光を受光する電池の開放地域よりも高い。
出発物質としてp型基板を用いる代わりに、上述されたn型基板のプロセスステップを適用することも可能であり、これは上述の記載について一定の導電性電池における各領域の逆転したものに一致するからである。
図4は、背面の金属化構成の例を示している。電池及び基板本体の背面上のエミッタは互いに接触しており、接合点は、前面上の第1キャリア収集接合点に加えて第2キャリア収集接合点として用いられる。この構成では、バルク15との接点フィンガー及び背面エミッタ16との接点フィンガーとからなる櫛形交差構造(interdigitated structure)を結果として生じさせる。
ここに記述された背面金属化構造は、単一の太陽電池内での電気的な内部接続を容易なものにしてくれる。その例としては、図5に二つの電池の直列接続を示しており、これは、第1電池の端のn型接続器と隣接する第2電池の端のp型接続器について、互いに並べて配置することによって実現できる。電気的接続は、両方の接続器にまたがる広い伝導性リード17を適用することによって容易に確立される。このような電池の内部接続の方法によって、モジュール内の電池が密集した充填を得ることができ、また、従来の電池の接続では一つの電池の前面から次の電池の背面へ接続ワイヤーを延ばす必要があったが、本発明により従来の電池の接続よりも簡素化できる。
(57)【特許請求の範囲】
1.半導体基板内に設けられた太陽電池であって、
前記基板は、放射線を受取る前面と背面とを少なくとも有すると共に、前記基板の周辺より内側に存在し、前記前面から前記背面まで延在している複数のバイアを有し、前記複数のバイアは、所定の方向に延在する複数本のバイア列に配列され、
前記基板は、第1型導電性の第1領域と前記第1型とは反対型の第2型導電性の第2領域からなり、
前記第2領域は、前記前面の表面と、前記背面の表面と、前記バイアの内壁とにわたって連続するエミッタ領域であり、
前記前面が、前記第2領域との第1導電性接点を有しており、
前記背面が、前記第1領域との第2導電性接点と、前記第2領域との第3導電性接点とを有しており、
前記背面上の前記第2領域との前記第3導電性接点が、前記前面上の前記第2領域との前記第1導電性接点と前記バイアを介して接続しており、
前記前面の前記第1導電性接点は、前記所定の方向と交差して延在し、前記前面において前記バイア列を横切るように前記バイア上を通過する複数の線状の狭い金属フィンガーからなり、
前記背面の前記第3導電性接点は、前記所定の方向に延在し、前記背面において、前記バイア列に沿って前記バイア上を通過する複数の延在する部分と、前記複数の延在する部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、
前記背面の前記第2導電性接点は、前記所定の方向に延在する複数の部分と、前記延在する複数の部分の一方の終端を互いに連結する部分とを有し、
前記背面において、前記第3導電性接点と、前記第2導電性接点とが櫛形交差構造を形成する、太陽電池。
2.前記基板の前記第1領域がp型導電性であるのに対して前記第2領域がn型導電性である請求項1に記載の太陽電池。
3.前記基板の前記第1領域がn型導電性であるのに対して前記第2領域がp型導電性である請求項1に記載の太陽電池。
4.前記バイアが円錐形状又は円柱形状のいずれかである請求項1から3のいずれか一項に記載の太陽電池。
5.前記前面上の前記第1導電性接点が多数の狭い金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数よりも多い、請求項1に記載の太陽電池。
6.前記前面上の前記第1導電性接点が多数の並列に配置された金属フィンガーからなるとともに、前記金属フィンガーの総数が前記バイアの一つの列内のバイア数とちょうど一致する請求項1に記載の太陽電池。
7.前記前面上に反射防止被覆層が積層されている請求項1から6のいずれか一項に記載の太陽電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-01-13 
結審通知日 2010-01-15 
審決日 2010-01-28 
出願番号 特願平11-500027
審決分類 P 1 113・ 851- YA (H01L)
P 1 113・ 853- YA (H01L)
P 1 113・ 537- YA (H01L)
P 1 113・ 841- YA (H01L)
P 1 113・ 121- YA (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右田 昌士  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 吉野 公夫
稲積 義登
登録日 2008-02-01 
登録番号 特許第4073968号(P4073968)
発明の名称 太陽電池及びその製造方法  
代理人 中野 晴夫  
代理人 牧野 純  
代理人 伊藤 晃  
代理人 和田 充夫  
代理人 田中 光雄  
代理人 稲葉 和久  
代理人 田中 光雄  
代理人 山田 卓二  
復代理人 山田 卓二  
代理人 伊藤 晃  
代理人 内藤 照雄  
代理人 稲葉 和久  
代理人 和田 充夫  
代理人 中野 晴夫  

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