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審決分類 審判 全部無効 産業上利用性  G06T
審判 全部無効 2項進歩性  G06T
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G06T
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G06T
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G06T
審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  G06T
管理番号 1241637
審判番号 無効2006-80175  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-09-06 
確定日 2010-10-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2770097号「地図データ作成方法及びその装置」の特許無効審判事件についてされた平成19年 4月17日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10185号平成20年 3月25日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2770097号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、参加補助について生じた費用は参加補助人の負担とし、その余の費用は被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯

1.本件特許第2770097号に係る設定登録の経緯は、概略、以下のとおりである。
出願日 平成 4年 3月 5日
(優先権主張、平成3年6月24日)
拒絶査定 平成 7年 8月15日
審判請求 同 年 9月21日(拒絶査定不服審判)
補正書 平成10年 1月29日
審決 同 年 2月23日(請求成立)
設定登録 同 年 4月17日

2.これに対して、特許異議が申し立てられ、かつ、無効審判が請求され、その経緯は、概略、以下のとおりである。
(1)異議申立 平成10年12月25日(平成10年異議76176号) 異議決定 平成13年 3月29日(理由なし)

(2)無効審判請求 平成10年12月26日
(平成10年審判35672号)
訂正請求 平成11年 4月20日
審決 平成12年12月12日
(訂正を認める、請求不成立、確定)

3.そして、再び無効審判が請求され、その経緯は、概略、以下のとおりである。
審判請求 平成18年 9月 6日 (本件無効審判)
名義変更 同 年10月 6日(被請求人)
参加申請 同 年12月11日(被請求人側)
答弁書 同 日(被請求人及び参加申請人)
参加の許否の決定 平成19年1月26日(参加を認める)
口頭審理 平成19年 2月14日
名義変更 同 年 同月26日(被請求人)
上申書 同 年 3月 6日(請求人、参加人)
上申書 同 年 同月 7日(被請求人)
審決 同 年 4月17日(審判請求は成り立たない。)

4.これに対し、審決取消訴訟が提起され、その経緯は、概略、以下のとおりである。
訴訟番号 平成19年行(ケ)第10185号
口頭弁論終結 平成20年1月22日
判決言渡 同 年3月25日(審決を取り消す。)
(以下、当該訴訟事件の判決を単に「判決」という。)

5.その後、被請求人(権利者)から訂正請求がなされ、その経緯は、概略以下のとおりである。
訂正請求申立 平成20年 4月11日
訂正請求書 同 年 5月30日
弁駁書 同 年 7月 8日(参加人)
弁駁書 同 年 7月 9日(請求人)
審判請求書に対する手続補正書
同 年 7月 9日(請求人)


第2 平成20年5月30日付け訂正の適否についての判断

1.訂正の内容

(1)訂正事項a
訂正の内容は、特許請求の範囲の請求項1をを次のとおりに訂正するものである。
(下線部が訂正(挿入)箇所)
「【請求項1】地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作成した後、該ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに自動的に変換し、それらの二次元線データを座標上の線分に変換し、該線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成して、該面データの前記不連続となる始点及び終点を報知表示し、該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成し、上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記憶、表示又は印刷する地図データ作成方法。
(2)訂正事項b
訂正の内容は、特許請求の範囲の請求項2を次のとおりに訂正するものである。
(下線部が訂正(挿入)箇所)
【請求項2】地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作成するベクトルデータ作成手段と、
該ベクトルデータ作成手段により出力されるベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに自動的に変換する二次元線データ作成手段と、
該二次元線データ作成手段により出力される二次元線データを座標上の線分に変換する線分作成手段と、
該線分作成手段により出力される線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成する面データ作成手段と、
該面データ作成手段が作成した面データの不連続となる前記始点及び終点を報知表示する不連続点報知表示手段と、
該不連続点報知表示手段による報知表示に基づいて前記始点及び終点から任意の点又は線へ接続する線データを生成すべく該接続線データを入力する入力装置と、
該入力装置による入力に基づいて前記不連続となる始点及び終点を有する面データに対応する閉領域データを作成し、上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記憶、表示又は印刷する記憶表示印刷手段と、
を有することを特徴とする地図データ作成装置。」

(3)訂正事項c
訂正の内容は、段落【0013】を、
「 データ変換装置2は、その入力側に画像ベクトル線データ発生装置1が接続され、また出力側には閉領域属性データ作成装置3が接続されている。そして、画像ベクトル線データ発生装置1から線データ画像処理用Lファイル2aを読み出して、そのLファイル2aの要素数1?nに分割された線データを解析し、折線、交点等を認識して二次元の線データに自動的に変換し、詳しくは後述する閉面データ画像処理用Dファイル2bの線データおよび二次元の線データとして閉領域・属性データ作成装置3へ出力する。」
とするものである。
(下線部が訂正(挿入)箇所)

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
請求項1及び2に係る発明を特定する事項である「ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに変換」を「ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに自動的に変換」に変更すること、および、段落0013における「二次元の線データに変換」を「二次元の線データに自動的に変換」に変更することは、願書に添付された明細書の段落【0019】?【0022】に記載されている変換ステップに関する記載から「二次元の線データに自動的に変換」することは明らかであるから、当該訂正事項a?cは、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
また、当該訂正事項は、変換について「自動的に」行うものに限定するものであるから、
特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条第2項ただし書及び同法第134条第5項で準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第3. 審判請求書に対する平成20年7月9日付けの手続補正

1.補正の内容

(1)補正1
当該補正は、審判請求書の第12頁7ないし24行に記載された本件特許の請求項1の分節において、bを『該ベクトルデータを先端を示すデータを含む【2次元の線データ】に自動的に変換し、』とするものである。

(2)補正2
当該補正は、審判請求書の第25行第10行の後に次の文を追加するものである。

『なお、”ベクトルデータを2次元の線データに自動的に変換する”点について は、甲第39号証に開示されているように本件特許出願前に公知である。

この文献には次の記載がある。
「ARC SCANERは、スキャナーが作成したデータをARC/INFOカバレッジに変換するソフトウェアプログラムです。」(訳文の第1頁7行乃至8行)
「使用法:BEGIN<cover>
出力カバレッジは、このセッションにより自動的に作成されます。」(訳文第2頁8行乃至9行) 』

2.補正の適否

当該補正は、本件発明が平成20年5月30日付けで訂正されたことに対応したものである。
補正1は審判請求における対象である請求項1に関する記載を、訂正された本件発明の請求項1に合致させるものであり、補正2は該請求項1の訂正に合わせて、証拠方法である甲第39号証における指摘内容を補正するものであるから、審判請求の理由を変更するものではない。
よって、当該補正を認容する。


第4 本件特許発明

1.特許請求の範囲の記載

本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件特許発明1及び2」という。)は、平成20年5月30日付け訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 (再掲)

【請求項1】地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作成した後、該ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに自動的に変換し、それらの二次元線データを座標上の線分に自動的に変換し、該線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成して、該面データの前記不連続となる始点及び終点を報知表示し、該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成し、上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記憶、表示又は印刷する地図データ作成方法。
(以下、本件特許発明1とする。)

【請求項2】地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作成するベクトルデータ作成手段と、
該ベクトルデータ作成手段により出力されるベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに自動的に変換する二次元線データ作成手段と、
該二次元線データ作成手段により出力される二次元線データを座標上の線分に変換する線分作成手段と、
該線分作成手段により出力される線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成する面データ作成手段と、
該面データ作成手段が作成した面データの不連続となる前記始点及び終点を報知表示する不連続点報知表示手段と、
該不連続点報知表示手段による報知表示に基づいて前記始点及び終点から任意の点又は線へ接続する線データを生成すべく該接続線データを入力する入力装置と、
該入力装置による入力に基づいて前記不連続となる始点及び終点を有する面データに対応する閉領域データを作成し、上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記憶、表示又は印刷する記憶表示印刷手段と、
を有することを特徴とする地図データ作成装置。」
(以下、本件特許発明2とする。)

2.特許請求の範囲の記載に対する判示事項

判決では、平成20年5月30日付け訂正前の本件特許発明1について、「要旨が一義的に明確ではない」とした上で、その要旨について認定を行った。
したがって、本件特許発明1は、その認定により解釈されるべきものである。

認定の要旨は以下のとおりである。
(判決 第6 1(3)?(10)の項)
(注:ここでの「本件特許発明1」とは、平成20年5月30日付け
訂正前の本件特許発明1のことである。
平成20年5月30日付け訂正による「自動的に」についての認
定は当然されていない。)

(1)構成要件1A(「地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作成した後」)について

「本件特許発明1の技術分野において、「ラスターデータ」は1つ1つの画素の集合で表現されるデータ」などと説明され、「ベクトルデータ」は位置と形状がXY座標で表現されたデータ」などと説明される一般的な用語であると求められ、本件特許発明1においても、そのような普通の意味のものとして使用されていると認めることができる。」

(2)構成要件1B(「該ベクトルデータを先端を示す点データを含む二次元の線データに変換し」について)

「「二次元の線データ」は、構成要件1Aの「ベクトルデータ」から、その後の処理に仕様するために変換されたデータについて、これを「ベクトルデータ」とは区別する意味で、「二次元の線データ」といっているものと理解することができる。」

(3)構成要件1C(「それらの二次元線データを座標上の線分に変換し、」について

「構成要件1Cの「二次元線データを座標上の線分に変換」とは、「二次元の線データについて、途中に接点や交点を持たない線分ととする工程であると一応理解することができる。」
「特許請求の範囲に記載された「座標上の線分に変換」とは、(略)、線分に変換した後の、線分に変換するのとは別の工程として記載されている、線分の始点等の性質を「決定」、「記録」することなどが、構成要件1Cの「二次元線データを座標上の線分に変換」という工程に直ちに含まれるものであるとは認められない。」

(4)構成要件1Dの前半(「該線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、」)について

「構成要件1Dの前半は、「所定」との意味が、「定まっていること。定まってあること。」(広辞苑第6版)という普通の用語であり、(略)、構成要件1Cの「座標上の線分」について、あらかじめ定められた一定の接続方向に接続していって、その終点と始点が一致したときは、それらの線分の組み合わせについて、面データの閉領域として、これを自動的に作成することを規定していると認められる。
そして、ここでいう「線分からなる面データ」とは、「構成要件1Dの後半で、始点と終点が一致しないときにも、「線分からなるデータ」が作成されることからも、線分を所定方向に接続することによって構成される一本以上の線分の組み合わせをいうものと解することができる。」

(5)構成要件1Dの後半(「終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成し、」)について

「構成要件1Dの後半は、「座標上の線分」について、あらかじめ定められた一定の接続方向に接続していって、その始点と終点が一致しないとき、それらの線分の組合せについても、面データとして、これを自動的に作成するものであると理解することができる。
なお、ここででは、データの「作成」をすることが規定されているのであり、構成要件が規定するのはデータの「作成」であり、「記憶」等ではない。」
(6)構成要件1E(「該面データの前記不連続となる始点および終点を報知表示し、」について

「「本件特許発明1は、「座標上の線分」をあらかじめ定められた一定の接続方向に接続していって、その始点と終点が一致しないときでも、それらの線分の組合せを面データとして作成するのであるが、構成要件1Eは、そのような線分の組合せにおいて、不連続となる始点と終点について、知らせるための表示を行うものであると認められる。
(略)
構成要件1Eの「不連続となる始点および終点」について、(略)、どのような点を「不連続となる始点および終点」とするかが、必ずしも一義的かつ明確に決まるものではない。 しかし、(略)、「不連続となる始点および終点」は、点データから出る線データが一本のみである孤立点と一致するものと一応認められる。」

(7)構成要件1F(「該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成し、」)について

「構成要件1Fの「該不連続点」とは、構成要件1D、1Eなどに照らしても、所定方向に接続していった線分の組合せにおいて、始点と終点が一致しないときのそれら「始点」「終点」をいい、報知表示されている点であって、構成要件1Fは、それらの点について、任意の点、又は線に接続する線データを入力して、これを生成し、これについて、その線分の組合せである閉領域データを作成することを規定しているものと解釈できる。
ここで、構成要件1Eと同様、この工程は、線分の「所定方向の接続」を規定する構成要件1Dとは別個の工程であり、線データの入力について、線分の「所定方向の接続」と同様の工程を経ることが規定されているものではない。

(8)構成要件1G(「上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉データを記憶、表示又は印刷する。」)について

「これは、構成要件1D前半において自動的に作成された閉領域データおよび構成要件1Fにおいて作成された閉領域データについて、属性データを付与することが可能になるようにし、閉領域データについて、記憶、表示、印刷することを規定しているものと解される。
(略)
属性データを不要可能にする方法が、上記実施例のように、番号を自動的に一括して順次付与することなどによりされるものに限定されるものとは認められない。」


第5 当事者の主張及び証拠方法の概要

[請求人]
請求人は、本件特許発明1,2の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めているところ、請求の理由の要点及び証拠方法は以下のとおりである。

1.請求の理由の要点
(1)無効理由1
本件特許発明1,2の特許は、平成5年改正前特許法36条4項、5項に規定する要件を満たさない特許出願についてされたものである。

(2)無効理由2
本件特許発明1は、未完成発明で産業上利用できない発明であるから、特許法29条1項の柱書きにより特許を受けることができない。

(3)無効理由3
本件特許発明1,2は、甲2号証に記載された内容と同一であり、又甲1号証ないし13号証に記載された内容に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法29条1項又は2項の規定により特許を受けることができない。

(4)無効理由4
甲2号証が頒布された刊行物でないならば、本件特許発明1,2は、冒認の発明である。

以上のように、本件特許発明1,2の特許は、平成5年改正前特許法第123条第1項1号、3号又は4号の規定により、無効とすべきである。

2.証拠方法

甲1号証:特開平5-73659号公報
甲2号証:ARC/INFO Users Guide,Ver.5 Vol.1、Vol.2
甲2号証の1:ARC/INFO Users Manua1 Ver.3
甲2号証の2:ARCEDIT Users Manua1 Ver.3
甲3号証:鎌田靖彦、地図情報システム入門、日刊工業新聞社、15-17頁、1989年8月30日
甲4号証:Jeffrey Star et al., Geographic Information Systems An Introduction, Prentice Hall, 1990, p77-85
甲4号証の1:甲4号証の翻訳:岡部篤行ほか、入門地理情報システム 共立出版株式会社、61-68頁、1992.8.10
甲5号証:社団法人日本コンピュータグラフィックス協会編、コンピュータ・マッピング入門、日本経済新聞社、189頁、1988.11.4
甲5号証の追補:日本コンピュータグラフィックス協会編、コンピュータ・マッピング入門、日本経済新聞社、189頁、1988.11.4
甲6号証の1:堀修ほか、統合化地理情報システム(3)図形認識機能をもった図形入力エディタ、情報処理学会第34回全国大会論文集、1987年3月、1791-1792頁、1987.3
甲7号証:鈴木智ほか、地図認識入力システムMARIS -ベクトル化処理-、情報処理学会第33回全国大会論文集、1986年10月、1483-1484頁
甲8号証:特開平3-171378号公報
甲9号証:特開平1-282685号公報
甲10号証:デジタルマッピング、国土地理院監修、鹿島出版、1989年4月25日、44、114-115、130頁
甲11号証:滝嶋康弘ほか、自動入力図面のヒューマンフレンドリーな会話形修正システム、情報処理学会第35回全国大会講演論文集、1987年9月、2187-2188頁
甲12号証:秋山実、地理情報の処理、山海堂、1996年9月15日、40-42頁
甲13号証:Donna J.Peuquet et al., Introductory readings in Geographic Information Systems, Taylor & Francis, 1990, p239-241
甲14号証:今井修、解析機能に優れた地理情報システム ARC/INFO、PIXEL、図形情報処理センター、54号、65-70頁、1987年3月1日
甲14号証の1:笠原裕ほか、土地管理から計画策定支援まで地図情報システムWING、PIXEL、図形情報処理センター、56号、69-72頁、1987年5月1日
甲14号証の2:NIGEMIS日本語版 Version1.2、日本コンピュータグラフィック(株)、1992.11.18
甲15号証:P.A.バーロー、地理情報システムの原理、(株)古今書院、1990.6.4、16頁下から3行?末行
甲16号証:平成17年(ワ)第16706号訴状、西石垣見治ほか、2005.8.12
甲17号証:発明者西石垣氏のプロフィール(http://www.enkikaku.com/):(有)エン企画ホームページ、2006.8.14
甲18号証:特許権者である(有)エン企画からの警告状、2001.8.13
甲18号証の1:丸石デジタル(株)及び西石垣氏が(株)パスコ宛に内容証明郵便で送付した通知書、2003.12.12
甲19号証:本件特許の登録原簿
甲20号証:子会社における固定資産(特許権)及び専用実施権の取得に関するお知らせ(プレス発表)、丸石自転車工業(株)、2003.12.26
甲21号証:子会社設立に関するお知らせ(プレス発表)、丸石自転車工業(株)、2003.12.4
甲22号証:子会社の取得に関するお知らせ(プレス発表)、(株)プライムシステム、2004.9.13
甲23号証:社名(商号)変更のご連絡(プレス発表)、滋賀丸石自転車工業(株)、2005.7
甲24号証:平成11年(ワ)第178号事件原告準備書面(1)、1999.11.9
甲25号証:平成14年(ネ)第31号控訴事件原告準備書面(1)、2002.5.27
甲26号証:平成10年1月29日付手続補正書
甲27号証:坂内政夫ほか、地図図面の自動読取り技術の現状と動向、写真測量とリモートセンシング、24巻4号、11-17頁、1985.11.11
甲28号証:地理情報システム学会編、地理情報科学事典、2004.4.30
甲29号証:侵害事件における技術説明会で使用した資料、(株)パスコ、2006.3.22
甲30号証:侵害事件における技術説明会で使用した資料、日本コンピュータグラフィック(株)、2006.7.6
甲31号証:平田昌信、CADデータ入力を効率化、図面の自動入力装置に脚光、日経コンピュータ、75-85頁、1986.3.3
甲32号証:Duane Marbel氏の陳述書、2006.9.13
甲33号証:Andy Buffard氏の陳述書、2006.9.13
甲34号証:Clint Brown氏の陳述書、2006.9.14
甲35号証:Dave Byers氏の陳述書、2006.9.12
甲36号証:島村秀樹氏の陳述書、2007.2.1
甲36号証の1:坂下裕明氏の陳述書、2007.2.7
甲37号証:中山信弘編、注解特許法第3版上巻、230頁、2000.8.25
甲38号証:特願平3-152055
甲39号証:User's Guide ARC SCANNER Rev. 3.2、ESRI社、1986.10
甲40号証:亀井克之ほか、ラスタ演算を用いた図面のベクトル化、電子通信学会論文誌D-II、Vol.J72-D-II、32-39頁、1989.1
甲41号証:伊理正夫氏の陳述書、2007.2.10
甲42号証:(株)パスコの従業員の陳述書
甲43号証:日本コンピュータグラフィック(株)の従業員の陳述書
甲44号証:デジタイズマニュアル、NIGMAS V5、初級
甲44号証の1:地図作製用ソフトウェアNIGEMISのデータフォーマットNIF2について説明書
甲45号証:地質図ベクトルデータ解説(インターネットから取得)、http://www.gsj.jp/Map/JP/docs/dgm_doc/dgm_g20-1e.htm

[被請求人]
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めているところ、答弁の理由の要点及び証拠方法は以下のとおりである。

1.答弁の理由の要点
本件特許発明1及び2の特許は、特許法36条の規定を満たしている特許出願についてされたものであり、本件特許発明1及び2は発明として完成しており、甲2号証記載の発明と同一でなく、甲1ないし13号証に基づいて容易に発明できたものでなく、冒認の発明でもない。

2.証拠方法
乙1号証:ARC/INFO Volume2 Version5.01 (January 1989)英語版
乙2号証:第一回口頭審理調書
乙3号証:平成10年審判第35672号審決書
乙4号証:Indirect Software License契約
乙5号証:平03-152055特許願書
乙6号証:公文書開示決定通知書
乙7号証:「画像・地理情報統合解析システム構築業務実施仕書」
乙8号証:誓約書

[参加人]
参加人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めているところ、答弁の趣旨及び証拠方法は以下のとおりである。

1.答弁の趣旨
本件特許発明1及び2の特許は、特許法36条の規定を満たしている特許出願についてされたものであり、本件特許発明1及び2は発明として完成しており、甲2号証記載の発明と同一でなく、甲1ないし13号証に基づいて容易に発明できたものでなく、冒認の発明でもない。

2.証拠方法
丙1号証:特許願(特願平3-152055号)
丙2号証:特許願(特願平4-48706号)
丙3号証:口頭審理陳述要領書(平成12年9月27日付)
丙4号証:無効審判審決(平成10年審判第35672号)
丙5号証:ARC/INFO Workstation 日本語マニュアル
丙6号証:ARCEDIT Users Guide
丙7号証:ARC/INFO Users Guide Volume 2(CLEANの項)
丙8号証:新訂 GIS・地理情報システム -入門&マスター-
丙9号証:図面の認識と理解
丙10号証:“Re:Nishiishigaki Patent Matter”と題するレター、2005.5.25
丙11号証:DISTRIBUTOR AGREEMENT
丙12号証:INDIRECT SOFTWARE LICENSE


第6 請求及び答弁の理由の要旨

[請求人]
審判請求書、平成19年2月14日付口頭審理陳述要領書(参加人に対する)、平成19年3月6日付口頭審理陳述要領書(被請求人に対する)及び平成19年3月6日付上申書の主旨からして、請求人の主張の要点は、概略、以下のとおりである。

1.無効理由1

本件明細書は記載不備であり、特許法36条5項、4項の無効理由がある。
(1)特許法36条5項1号の不備について
ア 本件特許発明1及び2の「ベクトルデータを二次元の線データに変換する」について、地図作成技術分野で用いるベクトルデータ、線データは二次元である。したがって、これらデータと「二次元の線データ」との差異が明らかでない。

イ 本件特許発明1の「座標上の線分に変換する」は、日本語として意味が理解できない上、発明の詳細な説明には、「座標上の線分」という用語が使われておらず、定義もされていない。したがって、意味が不明である。これに関連して、本件特許発明2の「線分作成手段」は明細書において何を指すか具体的態様が明らかでない。

(2)特許法36条5項2号の不備について
ア 本件明細書【0013】 の技術内容は明細書の【0020】? 【0025】と対応する。そうすると、本件特許発明1において、「二次元の線データに変換する」処理は合計2回行われることになる。
本件特許発明1において、2回の処理を行うことは如何なる技術的意義を有するのかは不明であり、発明の構成に欠くことができない事項のみ記載したとはいえない。本件特許発明2についても同様である。

イ 本件特許発明1及び2における「二次元の線データに変換する」処理の技術的意義は不明確であるが、本件特許に係る民事訴訟(東京地裁 平成17年(ワ)第16706号、以下「関連訴訟」という。)において被請求人は「二次元の線データに変換する」の技術的意味を、「ベクトルデータを、ARC/INFO が読み込めるようにデータ構造を変換する」ことであると説明している(甲16号証:訴状14頁2、15頁10行、23頁13行)。(明細書にはこの説明をサポートする記載はないことを付言する。)
しかしながら、本件特許発明1及び2においてソフトウェア ARC/INFO を使用することは前提となっていないから、特定のソフトウェアのフォーマットへの変換の技術的意義はない。
つまり、本発明において、「二次元の線データに変換する」点は、“発明の構成に欠くことが出来ない事項のみ”を記載したものではない。

(3)特許法36条4項の不備について
ア 始点、終点はどのような手順で決めるか不明である。

イ 複数のポリゴンをどのような手順で作成するのか不明である。

ウ 「折線、交点等を認識して」(【0013】)の意味が不明であり、具体的にどのようなソフトウェアで実現するのか不明である。

エ 本件特許発明1の「二次元線データを座標上の線分に変換」する構成につき、段落【0023】に「この線分への分解処理は、上記読み出した線データを、他の線データとの接点、交点で分割して、途中に接点や交点を持たない線分に細分し、それらの各線分に線分番号を付与する処理である。」と記載されているが、どのような手順で線分に分割するのか不明である。

オ ラスターデータから自動的に生成されたベクトルデータは、既に交点がないデータである。然るに、図5において、再度線分に分解するステップS51が存在する。これは矛盾である。

カ 段落【0029】に、「同図矢印A,B,・・・Fで示される線の不連続部を所定のマークを点滅させる等して告知し、」と記載されているが、不連続部とはどのようなものであるのか、どのように不連続部を検出するのかそのアルゴリズムが明らかではない。

キ 本件明細書のDファイルの領域データ部は「少なくとも1つの属性を示すデータを格納する」とし、いわば領域データ部は属性データを格納する部分と説明しているが、(【0018】)、【0027】で生成されたとする面データ自身はDファイルのどの部分に格納されるのか不明である。(なお、段落【0002】によれば、属性とは、畑、住宅地、工場地帯等を指すとしている)

2.無効理由2

本件特許発明1の「該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成する」点については、段落【0029】に、所定のマークを点滅させてマウス等により不連続部が閉じるように修正入力する旨が説明されている。
この技術分野においては、単に修正入力するだけでは面データを作成することはできない。修正入力した結果、始点と終点が一致しない場合が頻繁に起こるからである。このことは当業者の技術常識である。
その場合、再び、それらの線分からなる面データを自動的に作成して、該面データの前記不連続となる始点及び終点を報知表示する手順が不可欠である。この再度の報知表示機能のない本件特許発明1を実施することはできない。よって本件特許発明1は未完成発明であるから特許を受けることはできない。

3.無効理由3

(1)本件出願の平成10年1月29日付手続補正は要旨変更であり、出願日は同日に繰り下がり、本件特許発明1及び2は、本件出願の公開公報である甲1号証に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。平成10年1月29日付けの手続補正は、「折線、交点を認識して二次元の線データに変換する」点、及び「座標上の線分に変換する」点を加えるものであるが、これらの点は不明瞭な新規な事項であり、要旨変更であるから、平成5年改正前特許法40条の規定により、出願日は平成10年1月29日に繰り下がる。
そして、甲1号証には、「折線、交点を認識して二次元の線データに変換する」点、及び「座標上の線分に変換する」点以外の構成が全て記載されている。
「折線、交点を認識して二次元の線データに変換する」点については、関連訴訟において発明者が説明している内容からみて(甲16号証)、データフォーマットの変換を行うことと解釈される。地図作成用システムが異なる場合において、システム間でデータフォーマットを変更することは、甲4号証、甲5号証に記載されているように周知であり、技術常識である。この点は甲2号証の1にも記載されている。
さらに、「座標上の線分に変換する」点についても、関連訴訟における発明者の説明から(甲16号証)、交点の無い線分に分割することであると解釈され、これについては甲2号証に記載されており、ポリゴンデータの作成に当たり、交差している線分について交点の無い線分に分割することは、甲14号証、甲14号証の1及び甲14号証の2に記載されているように、当業者にとって技術常識である。
よって、本件特許発明1及び2は、甲1号証、甲2号証、甲2号証の1、甲4号証、甲5号証、甲14号証、甲14号証の1及び甲14号証の2に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明することができたものである。

(2)仮に、平成10年1月29日付手続補正が要旨変更でないとしても、本件出願は平成3年6月24日に出願された特願平3-152055号に基づいて国内優先権を主張しているものの、本件出願の図4、図5及びその説明は、新規な事項であり、要旨変更であるから、出願日は平成3年6月24日に遡及しない。そして、本件特許発明1及び2は、発明者本人が発明の基礎と自白する甲2号証(自白については甲16号証:関連訴訟の訴状、12頁?16頁)に開示されている、又は、甲2号証から容易に想到されたものである。
地図データ作成の分野において、既成地図をスキャナーで読み取り、その画像を表示装置に表示し、表示された画像の輪郭線上をマウスでトレースしながら、線上の各点座標を適当な間隔で手作業で入力し、線データを生成し、線データを交点のない最小線分に分割し、最小線分に基づいて面データを作成し、不連続点を表示させ、不連続点を接続させ、面データを作成し、面データに属性情報を入力するという手順で地図データ作成を行うことは常識である。(甲42、43号証)
甲2号証には、地図をスキャニングして、ラスターデータを得て、ラスターベクトル変換することにより、ベクトルデータを得ること、線分を所定方向に接続して閉図形を得ること、閉じていない図形が生成されたときにこの図形の始点と終点を報知表示すること、閉じていない図形が生成されたときに、この図形が閉じられるように入力を行い、閉図形を作成すること、閉図形に属性データを付与可能にして記憶、表示、印刷することが記載されている。ただし、始点と終点の報知表示については甲2号証の2に記載されているとしている。地図をスキャニングしてラスターデータを得て甲2号証のARC/INFOのシステムで読み込むことは甲39号証に記載されている。
そして、「折線、交点を認識して二次元の線データに変換する」点については、関連訴訟において発明者が説明している内容からみて(甲16号証)、データフォーマットの変換を行うことと解釈される。地図作成用システムが異なる場合において、システム間でデータフォーマットを変更することは、甲4号証、甲5号証に記載されているように周知であり、技術常識である。(甲44号証、甲44号証の1、甲45号証)この点は甲2号証の1にも記載されている。
さらに、「座標上の線分に変換する」点についても、関連訴訟における発明者の説明から(甲16号証)、交点の無い線分に分割することであると解釈され、これについては甲2号証に記載されており、ポリゴンデータの作成に当たり、交差している線分について交点の無い線分に分割することは、甲14号証、甲14号証の1及び甲14号証の2に記載されているように、当業者にとって技術常識である。
線分を所定方向に接続することについては、甲2号証によらずとも、甲7号証、甲8号証、甲9号証にも記載されているように、周知である。
以上より、本件特許発明1及び2は、甲2号証に全て開示されている、又は、甲2号証、甲2号証の1、甲2号証の2、甲4号証、甲5号証、甲7-9号証、甲14号証、甲14号証の1、甲14号証の2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
参加人は、甲2号証は、ライセンシーが守秘義務を負うことを前提に作成された文書であるので頒布された刊行物に該当しない旨主張しているが、甲2号証は公開されており、複写可能な状態に置かれていた(甲32-36号証)。そして、守秘義務に反して第三者に内容が開示された場合、公知となる(甲37号証)。したがって、甲2号証は頒布された刊行物である。

(3)本件特許発明1及び2は、甲3-9号証に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。
甲3号証には、地図をスキャニングして、ラスターデータを得て、ラスターベクトル変換することにより、ベクトルデータを得ることが記載されている。
そして、「折線、交点を認識して二次元の線データに変換する」点については、関連訴訟において発明者が説明している内容からみて(甲16号証)、データフォーマットの変換を行うことと解釈される。地図作成用システムが異なる場合において、システム間でデータフォーマットを変更することは、甲4号証、甲5号証に記載されているように周知であり、技術常識である。
さらに、「座標上の線分に変換する」点についても、関連訴訟における発明者の説明から(甲16号証)、交点の無い線分に分割することであると解釈され、これについては甲2号証に記載されており、ポリゴンデータの作成に当たり、交差している線分について交点の無い線分に分割することは、甲14号証、甲14号証の1及び甲14号証の2に記載されているように、当業者にとって技術常識である。
線分を所定方向に接続することについては、甲7号証、甲8号証、甲9号証にも記載されているように、周知である。
閉領域データを作成することについては、甲6号証の1に記載されている。
地図データは、点データ、線データ、ポリゴンデータ、位相情報、属性データで構成されることは当事者の技術常識であり、線データ、ポリゴンデータのフォーマットについても甲10号証、甲12号証にあるように、当事者の技術常識である。そうすると、前記処理により生成された線データは周知のフォーマットで線データとして保存され、始点・終点が一致する場合にはポリゴンデータが生成され、保存されることは周知である。
閉ループとなるべき図形の一辺に欠損があるとき、欠損部分を強調表示することは甲11号証にあるように設計的事項である。
ポリゴンとなるべき図形が閉じていない時、不連続点から線データを入力して図形を閉じるように編集することは甲13号証にあるように、当業者の技術常識である。
地図データを利用するシステムにおいて、点データ、線データ、ポリゴンデータ等のデータを属性データと組合せることは甲10号証にあるように当業者の技術常識である。
以上より、本件特許発明1及び2は、甲3-5号証、甲6号証の1、甲7-13号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

4.無効理由4
本件特許発明1及び2は、ARC/INFO Users Guide(甲2号証)に記載された内容と同一であり、同Users Guide が公知でないとすれば、本件特許発明1及び2は冒認の発明である。
平成1年12月18日沖縄県はソフトウェア ARC/INFO (以下ARC/INFO という)のライセンス契約を結んだ。発明者西石垣氏が沖縄県代表として契約書にサインを行った。
このように、ARC/INFO 導入に際し発明者はそのUsers Guide等を閲覧できる立場にあり(甲17号証)、土地利用対策課の主査として ARC/INFO の内容・操作を熟知していた。
本件特許発明1及び2はUsers Guide ARC/INFO に全て記載されていることは前述の通りであり、冒認出願の発明であると主張する。

[被請求人]
平成18年12月11日付答弁書、平成19年2月14日付口頭審理陳述要領書、平成19年3月7日付上申書の内容から、被請求人の主張の要点は、概略、以下のとおりである。

1.発明の把握について

発明の把握をするために、関連訴訟における発明者の主張である甲16号証に基づいて技術常識を主張することは無意味であり、本件特許発明1及び2の把握は明細書の記載と出願時の技術常識に基づいてされねばならない。

2.無効理由1

(1)本件特許明細書の記載が特許法第36条第4項及び第5項を満たすか否かは、すでに平成10年12月26日に請求された無効審判(以下、「先の無効審判」という。)で審理され、本件明細書は特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしているとの審決が確定しているものである(乙8号証10頁)。したがって、特許法36条4項、5項を満たさないとする請求人の主張は、すでに審理され確定したことを繰り返し持ち出すものであり、本件審理を不当に遅延させるものであるから、許されるものではない。

(2)特許法36条5項1号について
ア ベクトルデータは、ラスターデータから線データ画像処理装置によって作成されたベクトルデータである(段落【0012】)。
そして、このベクトルデータは、レコードの区分を示すクラス部21-1、レコードが示す線の形状等を示すコード部21-2、及びデータ部22の長さを示すリスト部21-3からなるヘッダー部21と、線を表す座標データを格納するパラメータ部(i=1、2・・・n)からなるデータ部とから構成される線データ画像処理用Lファイル2aに格納される(段落【0012】、【0016】、図2(a)参照)。
そして、段落【0013】、【0018】並びに図2及び図4に記載されているように、線データ画像処理用Lファイル2aに格納された線データを解析し、折れ線、交点等を認識した線端を示す点データを含む二次元の線データに変換し、閉面データ画像処理用Dファイル2bに出力するものである。この二次元線データの作成手順は、段落【0021】?【0022】及び図4に詳述されている。要するに、単に座標の羅列にすぎない線データを、その構成座標XYの他に、始点と終点の点データ番号と、始点と終点に出入りする他の線データの有無や、その本数の情報を有するなど、二次元的関係の構造的な枠組みを有した線データに変換するものである。
したがって、本件特許明細書には、二次元の線データの技術的意味は明らかであり、当然ながら、他の用語と明確に区別できるものである。

イ この要件については、引き続き【0023】?【0024】に明確に記載されている。「先ずステップS51で、上記閉面データ画像処理用Dファイル2bに作成した線データを読み出して、線分に分解する」(段落【0023】前半)との記載、「続けてステップS52に進み、上記の線分の始点又は終点の点種を決定する。この処理は、上記線データを途中に接点や交点を持たない線分に細分する際、細分の基となった線分の始点又は終点が、孤立点(他の線データへの接続なし)、分岐点(接点)、又は中間点(折れ線の頂角)のいずれであったかを記録する処理である。」(段落【0024】)との記載から、「それらの二次元線データを座標上の線分に変換し」の線分が明らかに始点又は終点等の座標で特定された線分であることがわかる。従って、これを「座標上の線分」と表現しても、発明の構成を把握する上で、何ら支障はないというべきである。
たしかに、請求人が主張するように「座標上の線分」という用語は特許明細書の詳細な説明には記載がない。しかしながら、「そして、値が「1」?「7」であれば、それぞれステップS7?ステップS13に進み、要素レコードiの要素種データに続いて格納されている座標データ(すなわち要素数22-1?22-n)を読み出して、その読み出した座標データを閉面データ画像処理用Dファイル2bの線データ部2b-4に転送して所定位置に書き込む。」(段落【0021】後半)との記載、及び図4を参酌すれば、もともと閉面データ画像処理用Dファイル2bには座標データを有する「線端を示す点データを含む二次元の線データ」が書き込まれていることが明らかである。
そして、「先ずステップS51で、上記閉面データ画像処理用Dファイル2bに作成した線データを読み出して、線分に分解する。」(段落【0023】前半)との記載、「続いてステップS52に進み、上記の線分の始点又は終点の点種を決定する。この処理は、上記線データを途中に接点や交点を持たない線分に細分する際、細分の基となった線分の始点又は終点が、孤立点(他の線データへの接続なし)、分岐点(接点)、又は中間点(折れ線の頂角)のいずれであったかを記録する処理である。」(段落【0024】)との記載から、「それらの二次元線データを座標上の線分に変換し」の線分も、明らかに始点又は終点等の座標を有するものであるから、これを「座標上の線分」と表現しても、発明の構成を把握する上で、何ら支障はないというべきである。
したがって、「座標上の線分」という用語について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に明示的な記載はないとしても、通常の数学の知識を有するものであれば、発明の詳細な説明の記載から十分その意味が把握できるものである。

(3)特許法36条5項2号について
ア 本件特許発明1の「ベクトルデータを二次元の線データに変換する」の技術的な意義については、上記(2)アで、本件特許発明1の「座標上の線分に変換する」の技術的意義は(2)イで詳述したとおりで、両者は、それぞれ記載通りの異なる技術的特徴を有するもので、請求人が主張するように、二次元の線データに変換する処理を2回行うものではない。また、本件特許発明1の「面データ」を「自動的に作成する」処理は、「線分を所定方向に接続」するもので、二次元の線データに変換するものではない。
したがって、本件特許発明1の記載が、二次元の線データに変換する処理を2回行うことを根拠に、特許法36条5項2号に違反するという請求人の主張は理由がない。

イ 請求人は、関連訴訟における発明者の主張(甲16号証)を勘案しても、本件特許発明1の「該ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに変換」する構成は、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したとはいえないと主張する。
しかしながら、このような主張が特許制度の趣旨からして許されないことは、上記1.で述べたとおりである。

(4)特許法36条4項について
ア 始点及び終点の決め方は、段落【0023】?【0024】に詳述されている。

イ 請求人が主張するポリゴンを面データとすれば、その作成手順は段落【0023】?【0027】及び図5に詳述されており、何ら不明瞭な点はない。

ウ その具体的な手順は、段落【0016】、【0021】?【0022】、及び図4に記載のとおりで、何ら不明瞭な点はない。

エ 請求人は、どのような手順で線分に分割するのかが不明と主張するが、段落【0023】には線分の分解処理手順が記載されているので、請求人の主張は理由がない。

オ 請求人は、「ラスターデータから自動的に作成されたベクトルデータは、既に交点がないデータである。」と主張するが、本件特許発明1のどのステップに対応するのか意味不明である。いずれにしろ、段落【0023】?【0027】及び図5の記載の手順に何ら矛盾はない。

カ 請求人は、明細書の【0029】に記載された不連続部の検出のアルゴリズムが明らかでない旨を主張するが(口頭審理陳述要領書11頁)、面データの不連続部の検出については実施例として段落【0039】?【0043】に記載されており、請求人の主張は理由がない。

3.無効理由2

請求人は、本件特許発明1の「該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成する」構成について、「この技術分野では、単に修正入力するだけでは面データを作成することができない。修正入力した結果、始点と終点が一致しない場合が煩雑に起こるからである。このことは技術常識である。」と主張するが、修正入力しても始点と終点が一致しない場合が煩雑に起こることが技術常識であるとする根拠が不明である。仮に、技術常識であったとしても、本件特許発明1に係る発明の成立性を何ら否定するものではない。
すなわち、本件特許発明1は、各構成要件を備えることにより、従来数カ月を要していた地図情報の作成を数日間で完成させることができる(段落【0032】)ものであり、再度の報知表示機能を備えていなくとも、本件特許発明1に係る地図データ作成方法の発明は完成している。
しかも、本件明細書の段落【0033】に記載されているように、修正作業を複数の修正データ入力装置に分散して修正することも示されており、修正入力の確実性と効率化を図っているものである。
また、再度の報知表示機能が技術常識であれば、本件特許発明1にそのような機能を具備させることは単なる設計事項にすぎず、本件特許発明1の実施に際して、適宜、そのような機能を付加すればよいものである。

4.無効理由3

(1)甲1号証から容易
請求人は、本件特許出願の平成10年1月29日付けの手続補正は、要旨変更を含むものであり、本件特許の出願日が平成10年1月29日に繰り下がり、本件特許出願の公開公報(甲1号証)に基づいて進歩性が否定されると主張する。
請求人は、要旨変更の根拠として、平成10年1月29日付けの補正における「折線、交点を認識して二次元の線データに変換する」、及び「座標上の線分に変換する」が不明瞭な新規な事項を持ち込むもので要旨変更であると主張する。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0013】に記載の、「2aの要素数1?nに分割された線データを解析し、折れ線、交点等を認識した二次元の線データに変換」する手順は、段落【0021】?【0022】、図2及び図4に詳述され、裏付けされており、「不明瞭な新規な事項」ではない。
また、「座標上の線分に変換する」については、上記3.(2)イで詳述したように、何ら「不明瞭な新規な事項」ではない。
したがって、平成10年1月29日付けの補正は要旨変更ではなく、要旨変更を前提とする上記請求人の主張は理由がない。

(2)甲2号証について
本件明細書及び図面と優先権基礎出願(特願平3-152055号)の明細書(乙第5号証)に添付の図4と比較すると、S15[面データ作成]が付加されただけで、実質的に何の変更もない。図5については、本件特許に係る国内優先権主張出願の際に付加されたものであるが、その内容は優先権基礎出願の明細書(乙5号証)に実質的に記載された内容を図として表したものである。また、本件特許出願の明細書の発明の詳細な説明の記載(甲1号証)は、優先権基礎出願の明細書の記載を拡充したものとなっているが、同明細書に記載された発明の本質を何ら変更するものではない。また、仮に、平成4年3月5日を出願日としたところで、以下の本件特許の新規性進歩性の判断に何ら影響を及ぼすものではない。そもそも、優先権基礎出願と本件特許出願に係る国内優先権主張出願との間には、請求人が主張するような要旨変更という概念は存在しない。すなわち、国内優先権主張出願に追加された事項で、それが新規事項と判断される場合には、その新規事項を内容とする請求項の発明は国内優先権主張の効果を受けることができず、その請求項に係る発明についての新規性進歩性等の判断の基準日が国内優先権主張の出願日となるものである。
甲2号証、甲2号証の1、甲2号証の2は同一のものではなく、個別の証拠として扱われるべきである。
甲2号証は、先の無効審判において提出された甲14号証と同一の証拠であり、29条2項違反の理由に基づく証拠として提示されているから、特許法167条に抵触するものである。
甲2号証は乙4号証に示されるIndirect Software License契約の下で供給された文書であり、第三者に開示されるものではなく、頒布を目的として作成された刊行物に該当しない。

(3)甲2号証と同一または甲2号証から容易
甲2号証は本願出願前に頒布された刊行物とはいえないから、甲2号証を主引例とした請求人の主張は理由がない。
また、仮に甲2号証を本願出願前に頒布された刊行物と認めたとしても、上述したように、甲2号証には、本件特許発明1の各構成要件についての開示はなく、本件特許が甲2号証に記載された発明である、又は、同発明及び周知技術から当業者が容易に発明できたとする請求人の主張は理由がない。そして、各構成要件からなる本件特許発明1は、その一連の地図データ作成方法により、地域や地点毎に属性を付与可能なように保存した地図情報を大幅に効率良く自動的に作成することができるという顕著な作用効果を有するもので、甲2号証又はその他の周知技術からは到底予測され得ないものである。
また、請求人は、甲16号証を提示し、本件特許出願の発明者がいくつかの構成要件において本件特許発明1が甲2号証のものと同じであることを自認していると主張するが、それは請求人が本件特許明細の記載を離れて両者を比較した結果であるか、もしくは、両者を上位概念で捉えた場合に一部同じ概念に属するものがあるという程度のものである。上述のとおり、本件特許発明1に係る地図データ作成方法が甲2号証又はその他の周知技術に開示されたのものとは異なることは明らかであり、さらに、当然ながら、本件発明者自身も本件特許発明1の構成要件が甲2号証又はその他の周知技術に記載の構成と一致しているとは一切認めていない。この点は、関連訴訟において提出した書面(乙15号証)に詳細に記載されている。

(4)甲3-9号証から容易
甲3-9号証には、本件特許発明1の構成要件についての記載はなく、本件特許発明1が甲3-9号証に記載の発明及び周知技術から当業者が容易に発明できたとする請求人の主張は理由がない。
そして、本件特許発明1は、その一連の地図データ作成手順により、地域や地点毎に属性を付与可能なように保存した地図情報を大幅に効率良く自動的に作成することができるという顕著な作用効果を奏するもので、甲3-9号証記載の発明又はその他の周知の技術からは到底予測され得ないものである。

5.無効理由4

本件特許発明1及び2は、沖縄県において、発明者である西石垣によって発明されたものであることは明らかである。
請求人は、本件特許発明1が甲2号証に記載された内容と同一であるとの前提に冒認出願を主張するが、そもそも、本件特許発明1は、上記(8)で詳細に説明したように甲2号証に記載された発明と同一でないことは明らかである。したがって、請求人の主張はその前提において理由がないものである。

[参加人]
平成18年12月11日付答弁書、平成19年2月14日付口頭審理陳述要領書、平成19年3月6日付上申書の内容から、参加人の主張の要点は、概略、以下のとおりである。

1.無効理由1

(1)特許法36条5項1号違反について
ア 「二次元の線データ」とは、例えばDLGファイルのようなアーク・ノード構造化が可能な形式のファイル(明細書においては「閉面データ画像処理用Dファイル2b」と称されている)に書き込まれた線データをいうのであって、線データ画像処理用Lファイル2aに記録されているベクトルデータと異なり、面データの作成が可能なデータという意味で「二次元の線データ」という語を用いたものである。よって、何ら不明確でない。
イ 本構成要件にいう「二次元の線データを座標上の線分に変換」することが【0023】【0024】において用いられる「線分」への分解処理を指していることは明らかである。そして、その意味は、ここに開示されている通り、二次元の線データの内容を解析し、他の線データとの接点や交点があれば、当該線データを接点や交点で分割し、途中に交点を持たない線分にして線分番号を付与し、この線分に関する座標データ等を改めて線データ部に書き込むとともに、書き込まれた線分の線端点の他の線分との接続状況を点データ部に記録することをいうことは容易に理解できる(明細書【0023】、【0024】)。

(2)特許法36条5項2号違反について
ア 本件特許発明1からも明らかなとおり、本件特許発明1において「二次元の線データに変換する」処理は「該ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに変換」する構成においてただ1度だけ行われるのであり、請求人が主張するように、「二次元線データを座標上の線分に変換」する構成、「面データ」を「自動的に作成する」構成で行われることはない。
請求人が「二次元線データを座標上の線分に変換する」構成及び「面データ」を「自動的に作成する」構成において「二次元の線データに変換する」処理が行われていると主張する理由は、「二次元の線データに変換する」処理が線分分解、接続のプロセスを含むとの主張を前提として、構成要件Dにおいても線分接続が行われるという点にある。しかしながら、「二次元の線データに変換する」処理は線分分解、接続のプロセスを含むものではなく、請求人の認識は前提において誤っている。
すなわち、前述したとおり「二次元の線データに変換する」処理とは、ベクトルデータに記録された座標点列データを、アーク・ノード構造化が可能な形式のファイルに記録することなのであって、線分の分解を行うものでも、線分の接続を行うものでもない。

イ 特許付与手続外における発明者による関連訴訟における主張を引用して特許の有効性を論難すること自体失当であるが、その点を措くとしても、関連訴訟の訴状(甲16号証)14頁以下の記載は、西石垣が現実に実施した本件特許発明の実施例を説明したものに過ぎず、本件特許発明1の「二次元の線データに変換する」構成の技術的意義を説明したものでないことは明らかである。
請求人の主張の趣旨は不明であるが、少なくとも本件特許発明1の実施にあたってソフトウエアARC/INFOは必要ではない。
上述のとおり、本件特許発明1は「二次元線データに変換する」との構成、すなわちラスターデータから作成したベクトルデータをDLGファイルのようなアーク・ノード構造化が可能な形式のファイルに書き込むことにより面データ作成の前提となる処理を行うことにより、次のステップである座標上の線分への変換および面データの自動作成を可能とするのであるから、「二次元の線データに変換する」構成は本件特許発明1の作用効果を生じるための「発明の構成に欠くことが出来ない事項」に該当する。

(3)特許法36条4項違反について
ア 請求人の主張はどのデータの始点・終点を指しているのか不明である。

イ 請求人の主張は、作成すべきポリゴンが複数ある場合に、かかるポリゴン相互間の作成順序をどのようにして決するかが不明であることと思われる。
しかしながら、本件特許発明1はポリゴンの作成順序を指定するものではなく、いかなる順序であれ、作成されるべきポリゴンが作成されれば十分である。したがって、作成の順序は任意であるというほかないし、また明細書にその点の開示がなければ当業者が実施不可能であるということがあるはずがない。

ウ 請求人は、本件特許出願の明細書【0013】 の「折線、交点等を認識して」の意味が不明であると主張するが、明細書【0021】 に明確に記載されている。
すなわち、ベクトルデータを二次元の線データに変換する処理は明細書【0021】及び【0022】および図4に記載されているが、明細書【0021】では線データ画像処理用Lファイル2aに記録されている座標データ(折れ線の頂点や交点のデータに相当する)が読み出され、これが閉面データ画像処理用Dファイル2bの線データ部2b-4に転送されて書き込まれることが明確に記載されている。このデータ転送作業こそが「折線、交点等の認識」にほかならない。
また、請求人は「折線、交点等を認識」する構成を具体的にどのようなソフトウェアで実現するのか不明であると主張しているが、発明の構成さえ明細書に具体的に記載されていれば、具体的にいかなるソフトウェアにより実現するかが明細書上記載されていなかったとしても、当業者の実施にあたり何ら障害となるものではない。

エ 請求人は、明細書【0023】に記載されている線分分割処理につき、その手順が不明であると主張している。
しかし、その手順は線データを読み出し、他の線データのとの交点等を認識した上で、当該交点等で線データを分割し、分割後の線データを再度線データ部に記録するというものに過ぎないのであって、その手順には何ら理解困難な点は存在しない。

オ 請求人は、ラスターデータから生成されたベクトルデータは既に交点がないデータとなっていることを前提に、当該ベクトルデータを線分に分解するステップの存在は矛盾であるという(審判請求書19頁)。
しかし、請求人の主張はその前提において誤っている。すなわち、ラスターデータから自動的に生成されたベクトルデータについても、線データ同士の交点を生じることがあり得る。実際、本件特許出願の明細書にも図14(a)で十字型のデータを線分Aと線分Bのように認識した場合が記載されているように、明細書上もラスターデータから自動的に生成されたベクトルデータ同士の交点が生じる場合が予定されている。

2.無効理由2

請求人は、本件特許発明1の「該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成する」構成につき、単に修正入力するだけでは始点と終点が一致しない場合が頻繁に起こり面データを作成することはできないとして、本件特許発明1が未完成発明であるなどという。
しかし、仮にそのような技術常識があるとしても、そのことから再度の報知表示機能がない限り本件特許発明1を実施することはできないとするのは論理の飛躍があるというほかない。
すなわち、上記問題点を解決するためには、再度の報知表示機能以外の他の構成による解決もあり得るし、また再度の報知表示を行わずとも地道な修正作業を行うことによって本件特許発明1の実施は可能である。さらに、再度の報知表示を行うことも本件特許の明細書から当業者に容易に理解可能であるはずである。
したがって、再度の報知表示について明細書に記載がなかったとしても本件特許発明1は未完成発明であるとはいえない。

3.無効理由3

(1)甲1号証から容易
請求人はまず、本件特許発明1に関する平成10年1月29日付の手続補正は発明の要旨変更を含むものであるから、本件特許の出願日は同日に繰り下がり、本件特許出願の公開公報に基づき本件特許発明1の進歩性が否定されるとする。すなわち、同日付け手続補正で明細書に「二次元の線データ」及び「座標上の線分」という用語が追加されたが、これが「不明瞭な新規な事項」であるとして要旨変更に該当すると主張している(推察するに、前者は詳細説明【0013】 の補正を、後者は請求項1ならびに2における補正をそれぞれ指す意図と思われる)。
しかしながら、上記各補正は、前者については「二次元の線データへの変換」が、従前から明細書の詳細説明欄に記載されているデータ変換技術であることを明確にする目的、また後者については詳細説明【0023】【0024】に開示されている線分分割処理を特許請求の範囲に取り込んだものに過ぎず、いずれも明細書に記載された事項の範囲で行われた補正であり、何ら新規事項を追加するものではない。
したがって、平成10年1月29日付補正は、発明の要旨変更を含むものではなく、本件特許発明1の出願時が平成10年1月29日に繰り下がることはない。
よって、その余の点を判断するまでもなく、甲1号証を主引例とする進歩性の主張は理由がない。

(2)甲2号証記載の発明と同一または容易
原出願の明細書(特願平3-152055号、丙1号証)の図4と本件発明の明細書とを比較しても、S15【面データ作成】の表記が付加されただけで、実質的な変更はなされていないし、図5についても、同図は本件特許出願の際に付加されたものではあるが、その内容は原出願の明細書にも実質的に記載されていた内容を図示したものに過ぎないからである。よって、本件特許出願の国内優先権出願明細書は、原出願に新規事項を追加するものではなく、本件特許出願の出願日は平成3年6月24日の原出願の出願日まで遡及する。
甲2号証の Users Guide はその作成目的において頒布を目的とするものではないから、特許法29条1項3号の「刊行物」に該当するものではなく、新規性進歩性を否定する公知文献となりえないものである。また、甲2号証が公衆に頒布された日はおろか、頒布されたという事実すら明らかにされておらず、この意味でも特許法29条1項3号の「頒布された刊行物」に当たらない。
また、ARC/INFOのライセンス契約締結時にライセンサーが守秘義務を負っていなくとも、甲2号証に刊行物性が認められることはない。もしもある発明を記載した文献が秘密であるとされるためには、発明者を含めて守秘義務を負っている必要があると解釈したとすれば、発明者自身が誰に対しても守秘義務を負っていない場合は往々にしてあるのであるから、発明者が公開目的もなく発明内容を文献に記載した場合であっても当該発明は公知とされてしまうというおかしな結論になってしまう。ライセンサーは、ARC/INFO技術を開発したとされるESRI社なのであるから、同社が守秘義務を負っているか否かについて結論が変わる余地は無い。同社が当該文献を(守秘義務が無くても)自ら秘密として管理しており、他方でライセンシーに交付するときに当該ライセンシーに守秘義務を負わせているのであれば、当該マニュアルの内容は秘密に保たれる。マニュアルが公知文献であるか否かはマニュアルの交付を受けたライセンシーが守秘義務を負っているか否かによって判断すべきものである。
請求人が新規事項と主張する図4や図5は新規事項に該当しない。
本件特許発明1の発明は部分的にも甲2号証に開示されておらず、また、同号証によって容易に発明できたものでもない。
請求人は、甲39号証を示し、地図をスキャニングしてラスターベクトル変換する構成が本件特許出願以前から存在していたことを主張しているが、甲39号証の製品が販売された証拠は認められず、甲39号証を根拠とした主張は認められない。(丙14-18号証)
請求人は、甲5号証の追補を提示し、本件特許発明1のフローが記載されている旨主張しているが、甲5号証の追補にはベクトルデータを二次元の線データに変換することも、二次元の線データを座標上の線分に変換することも、座標上の線分を接続して面データを作成することも記載されていない。
また、甲5号証の追補及び甲39号証を証拠として追加することについて被請求人は同意していないから、甲39号証の提出は特許法131条の2第2項2号の要件を満たさず許されない。

(3)甲3-9号証から容易
甲3ないし甲9を組み合わせたとしても、本件特許発明1及び2は当業者に容易に想到しえたものとはいえず、本件特許発明1及び2の進歩性は何ら否定されるところはない。

4.無効理由4

請求人は、本件特許発明1及び2が甲2号証に記載された内容と同一であることを前提に、本件特許発明1及び2が冒認発明であるなどと主張しているが、請求人の主張はその前提において誤っている。
甲2号証の記載は、本件特許発明1及び2の技術を開示したものと評価するには不十分というほかないのであって、これを見たからといって本件特許発明1の地図データ作成方法や本件特許発明2の地図データ作成装置におけるデータ変換等のアルゴリズムを甲2号証の記載から想到することは困難である。

第7 当審の判断

1.無効理由1について

(1)特許法36条第5項1号、2号及び第4項違反について
判決は、平成20年5月30日付け訂正請求前の本件特許発明1について、その要旨が一義的に明確ではないとしたうえで、上記「第4 2.」に示すように、その要旨を認定した。
そして、平成20年5月30日付け訂正請求による訂正は、上記「第2」において判断したように適法な補正であり、当該訂正により記載が不明りょうになるものではない。
よって、本件特許発明1は、記載不備とはいえず、特許法36条第5項1号、2号及び第4項の要件を満たすものと認められるから、請求人の主張は認められない。

(2)特許法167条違反について
被請求人は、先の無効審判において特許法36条4乃至6項違反について検討されており、審決が確定しているのであるから、本件無効審判において特許法36条4乃至6項違反の無効理由を主張することは、特許法167条の規定に違反し、不適法な審判請求である旨主張している。
しかしながら、先の無効審判の審決において検討されたのは、本件出願の明細書【0021】において、明りょうでない記載があるというもので、本件無効審判の特許法36条違反に係る理由と同一ではないから、本件無効審判が不適法であるとすることはできない。

2.無効理由2について

請求人は、本件特許発明1の、「該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成する」点について、明細書の【0029】においてマウス等により不連続部が閉じるように修正入力する旨説明されているが、修正入力後に再度不連続部を報知表示する機能が欠落しており、発明として完成していない旨主張している。

しかしながら、上記したように、判決は、平成20年5月30日付け訂正請求前の本件特許発明1(「自動的に」を除く部分)について、その要旨が一義的に明確ではないとした上で、その要旨を認定している。

本件特許発明1の構成要件の内、「該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成し、」については、「第6 1(9)」において次のように認定している。
「構成要件1Fの「該不連続点」とは、構成要件1D、1Eなどに照らしても、所定方向に接続していった線分の組合せにおいて、始点と終点が一致しないときのそれら「始点」「終点」をいい、報知表示されている点であって、構成要件1Fは、それらの点について、任意の点、又は線に接続する線データを入力して、これを生成し、これについて、その線分の組合せである閉領域データを作成することを規定しているものと解釈できる。
ここで、構成要件1Eと同様、この工程は、線分の「所定方向の接続」を規定する構成要件1Dとは別個の工程であり、線データの入力について、線分の「所定方向の接続」と同様の工程を経ることが規定されているものではない。」

また、判決は、「第6 1(11)ウ」において、「 本件特許発明1は、閉ループとして抽出されなかった図形と孤立点のチェックを関係付けることまで規定したものと限定することはできない。」と判示している。

してみれば、本件特許発明1の当該構成は、請求項1に記載のとおり、「不連続点から任意の点又は線へ接続する線データ」を「入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成する」もの、そのものであって、具体的にどのようにして対応する閉領域とするかは問題ではなく、入力に基づいて不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを作成可能とすること自体が所望の効果を奏することであるから、その後に、すなわち修正入力後に再度不連続部を報知表示する機能は不可欠なものであるということにはならない。

したがって、本件特許発明1は、修正入力後に再度不連続部を報知表示する機能を有していないから発明として完成していないという請求人の主張は採用することはできない。

3.無効理由3について

(1)甲2号証について

ア 特許法167条違反について
被請求人は、甲2号証は先の無効審判においても特許法29条2項違反の証拠として示されたものであり、既に検討され、審決が確定しているから、特許法167条の規定からみて不適法である旨主張している。
先の無効審判においては、甲2号証はNODEERRORSに関する記述のみが、本件特許発明1及び2の、面データの不連続となる始点及び終点を報知表示する構成に対する公知文献として引用されているのであり、その他の構成については本件とは異なる証拠が引用されていることから、本件無効審判は先の無効審判と同一の証拠に基づいて請求されているとはいえない。したがって、本請求は不適法な審判請求とはいえない。

イ 甲2号証が頒布された刊行物であるか否かについて
被請求人及び参加人は乙4号証、丙11,12号証を示し、甲2号証は秘密保持を前提とした契約に基づく出版物であり、頒布された刊行物に当たらない旨主張しているので、この点について検討する。
一般にソフトウエアのマニュアルは、ソフトウエアが市販のものであれば、頒布された刊行物として扱われる。そして、甲2号証はARC/INFOというソフトウエア又はシステムのマニュアルであるから、ARC/INFOが市販されたものであるか、ごく少数の限られた顧客に対してのみ秘密保持を前提として販売されたものであるかについて検討する。

丙11号証には、その2頁17行から20行に、
"ESRI hereby grants to the DISTRIBUTOR, and the DISTRIBUTOR hereby accepts a non-transferable license to demonstrate and sell the software package to third parties which will use the software on or in connection with hardware provided by the DISTRIBUTOR or acquired by DISTRIBUTOR'S Clients."
(日本語訳:ESRIは、これによって、ソフトウェアをディストリビュータが提供したハードウェア若しくはディストリビュータのクライアントによって入手されたハードウェア上で使用しようとする第三者に対し、ソフトウェアパッケージを実演し販売するための、譲渡不可能なライセンスを、ディストリビュータに付与し、ディストリビュータはこれを受諾する。)
と記載されており、ARC/INFOがディストリビュータを介して販売されるものであることが理解できる。

さらに、同頁21行から31行に
"DISTRIBUTOR agrees to obtain from each of its customers agreeing to become a Licensee, prior to delivery of the Licensed Program(s) to said Licensee, a signed License Agreement in the form then required by ESRI to be sighed by customers of its distributors (entitled the ESRI License Agreement for Indirect License) and to sign each Agreement itself. All such Agreements, duly signed by DISTRIBUTOR and Licensee, shall immediately be forwarded to ESRI (Licensor) for ESRI's approval and signature, which shall not be unreasonably withheld. DISTRIBUTOR agrees to deliver a copy (or, as appropriate, copies) of the Licensed Program(s) and all necessary or appropriate manuals and related materials for the Licensed Program(s) to Licensee only upon receipt of such an Agreement signed by ESRI."
(日本語訳:ディストリビューターはライセンシーとなることに同意した各顧客から、当該ライセンシーに許諾プログラムを頒布する前に、その時点でESRIによって要求される形式で顧客がサインした(間接的ライセンシーのためのESRIライセンス契約書と題された)ライセンス契約書を取得し、自身もその各契約書にサインすることに同意する。それらの契約書は全て、ディストリビューターとライセンシーによってしかるべくサインされ、ESRIの承認とサインを得るために速やかにESRIに送られる。ESRIの承認及びサインは不合理に留保してはならない。ディストリビューターは、ESRIによってサインされた契約書を受け取ったときに限り、ライセンス対象プログラム(複数の場合もあり)と、必要又は適当なマニュアル及び関連資料のコピーを一部(あるいは、適当であれば複数部)、ライセンシーに対して配布することに同意する。)
と記載されており、マニュアルをライセンシーに配布することが記載されている。
また、同頁32行から33行に契約が"non-exclusive license"(非排他的ライセンス)に係るものである旨言及されており、ライセンサーはライセンシーの意向にかかわらず、第三者にライセンスを供与できると認められる。

これらからみて、ライセンサーであるESRI社及びディストリビュータは、ライセンシーの意向にかかわらず、第三者に甲2号証の出版物を提供することができるといえる。

さらに、甲14号証には、その65頁左欄において「ARC/INFOはESRI社(米国、カリフォルニア州レッドランド)がハーバード大学コンピュータ・グラフィックス・ラボラトリにおいてODESSEYの開発に携わっていたスコットモア・ハウスを中心として作り上げたシステムである。このARC/INFOのユーザーは、米国、カナダ、ヨーロッパを中心に、アジアにおいても日本、中国、シンガポールなどで利用され、年間150?200システム以上販売しており、毎年ユーザー会議、講習会などを開催している。」旨の記載があり、甲14号証が出版された1987年3月において、ARC/INFOはごく少数の者にライセンスされるような特注品ではなく、市販のシステムであったことが理解できる。甲2号証はARC/INFOのバージョン5についての刊行物で、バージョン5は1989年1月にリリースされたものであり、1987年3月の時点において市販されたものは、以前のバージョンのものであるから、必ずしも甲2号証が頒布されたことが証明されるわけではないが、情報処理の分野においてはバージョンが上がることにより市販されなくなることは一般的ではなく、むしろ機能向上などにより新規な顧客の開拓を目指すことが自然であり、甲2号証のバージョン5についても市販がされたものと推認される。

以上のように、乙4号証及び丙11,12号証には、甲2号証の作成、出版の主体であるESRI社がライセンサーとして、ライセンシーに対して求める事項が記載されているものの、ライセンサーがライセンシー以外の第三者に対して出版物を提供しない義務について言及されていない。また、ライセンシーが極端に制限される(1国1社に限るなど)ような記載も見受けられず、当該地図データ作成の分野においてARC/INFOが広く普及することは何ら妨げられていないというべきであり、これらの証拠の存在により、甲2号証の頒布性が否定される合理的な理由が見出せない。

以上のように、甲2号証については秘密出版物であることについて十分な証拠は見いだせず、頒布された刊行物であることを伺わせる証拠が存在することから、頒布された刊行物であると認められる。

ウ 甲2号証の発行日について
甲2号証には、Copyrightの頁において、Revised Jan. 1989, Second Printing Apr. 1991と記載されている。ここで、Second Printingは第2刷を意味し、Revisedの時に同じ内容のものが第1刷として印刷されたと理解できるが、甲2号証として提出された証拠はSecond Printingに係るものであるから、甲2号証自体の発行日についてはSecond Printingの日付に基づいて判断する。そして、社会通念上、発行日はPrinting(印刷)の日と間をおかず、ほぼ同時期とするのが自然であり、これを覆す証拠もないから、甲2号証の発行日は、1991年4月、すなわち本件出願の優先権主張の基礎となる先の出願の出願日である平成3年6月24日以前に発行されたと認められる。

エ 甲2号証、甲2号証の1、甲2号証の2の関係について
請求人は、甲2号証、甲2号証の1、甲2号証の2について、別個の証拠としているのか1つの証拠としているのかを曖昧にしているので、その関係について検討する。甲2号証、甲2号証の1、甲2号証の2は、いずれもARC/INFOに関連した文献であることは認められるものの、甲2号証はARC/INFOのVer.5、甲2号証の1はARC/INFOのVer.3、甲2号証の2はARCEDITに関するものであるから、一体不可分なものではなく、請求人が引用して主張するような、単一の技術思想が記載されているとする根拠は認められない。ARC/INFOのVer.3とVer.5が密接に関連しているとしても、機能が追加されたり修正される等の相違があると考えるのが普通である。甲2号証の2については甲2号証とは異なるソフトウェア又はシステムに関する文献であり、単一の技術思想が記載されているとはいえない。
以上より、甲2号証、甲2号証の1、甲2号証の2は、それぞれ別個の刊行物として取り扱うべきものである。

(2)甲7号証について

参加人は、甲7号証は先の無効審判においても特許法29条2項違反の証拠として示されたものであり、既に検討され、審決が確定しているから、特許法167条の規定からみて不適法である旨主張している。
先の無効審判においては、甲7号証に記載されている地図認識入力システム全体としての構成について公知文献として引用されている一方、本件無効審判においては、その1484頁に記載されたベクトルデータを一定方向に接続する処理が周知技術であることを立証するための証拠として提示されているものであり、その他の構成については先の無効審判とは異なる証拠が引用されていることから、本件無効審判は、同一の証拠に基づいて請求されているとはいえず、特許法167条の規定に違反した不適法なものであるとはいえない。

(3)平成10年1月29日付手続補正について

平成10年1月29日付手続補正は、特許請求の範囲を
「【請求項1】地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作成した後、該ベクトルデータを二次元の線データに変換し、それらの線データを座標上の線分に変換し、該線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成して、該面データの前記不連続となる始点及び終点を報知表示し、該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成し、上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記憶、表示又は印刷する地図データ作成方法。
【請求項2】地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作成するベクトルデータ作成手段と、
該ベクトルデータ作成手段により出力されるベクトルデータを二次元の線データに変換する二次元線データ作成手段と、
該二次元線データ作成手段により出力される二次元線データを座標上の線分に変換する線分作成手段と、
該線分作成手段により出力される線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成する面データ作成手段と、
該面データ作成手段が作成した面データの不連続となる前記始点及び終点を報知表示する不連続点報知表示手段と、
該不連続点報知表示手段による報知表示に基づいて前記始点及び終点から任意の点又は線へ接続する線データを生成すべく該接続線データを入力する入力装置と、
該入力装置による入力に基づいて前記不連続となる始点及び終点を有する面データに対応する閉領域データを作成し、上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記憶、表示又は印刷する記憶表示印刷手段と、
を有することを特徴とする地図データ作成装置。」
と補正し、明細書の【0013】を
「データ変換装置2は、その入力側に画像ベクトル線データ発生装置1が接続され、また出力側には閉領域・属性データ作成装置3が接続されている。そして、画像ベクトル線データ発生装置1から線データ画像処理用Lファイル2aを読み出して、そのLファイル2aの要素数1?nに分割された線データを解析し、折線、交点等を認識して二次元の線データに変換し、詳しくは後述する閉面データ画像処理用Dファイル2bの点データ及び二次元の線データとして閉領域・属性データ作成装置3へ出力する。」
と補正するものである。

当該補正により新規に導入された事項であると請求人が主張する、「折線、交点を認識して二次元の線データに変換する」点、及び「座標上の線分に変換する」点について検討する。
「二次元の線データ」なる概念は、第4 1.(1)アで既に検討したように、明細書において用いられる「線データ」のうち、線データ画像処理用Lファイル2aから読み出したベクトルデータについて、所定の処理を施して閉面データ画像処理用Dファイル2bの線データ部2b-4に格納したものについて、他の線データと区別するために「二次元の線データ」という表現を導入したものであり、これについては出願当初の明細書に記載されていたものであるから、発明の要旨を変更するものではない。
「折線」を「認識」する点については、第4 1.(3)ウで既に検討したように、線データ画像処理用Lファイル2aから読み出したベクトルデータから要素種のデータを読み出し、折れ線のデータであるか否かを判定することを意味しているということができ、これについては出願当初の明細書に記載されていたものであるから、発明の要旨を変更するものではない。また、「交点」を「認識」する点については、第4 1.(3)ウで既に検討したように、本件特許発明1及び2と直接的な関係がない事項であり、発明の要旨を変更するものではない。
「座標上の線分」なる概念は、第4 1.(2)イで既に検討したように明細書の「線分」のうち、二次元の線データを分解して得られた線分について、他の線分と区別するために「座標上の線分」という表現を導入したものであり、これについては出願当初の明細書に記載されていたものであるから、発明の要旨を変更するものではない。
以上のように、平成10年1月29日付手続補正は適法にされたものであるので、請求人の主張する、「本件特許の出願日が平成10年1月29日に繰り下がる」ことは、採用することができない。

(4)本件特許出願の優先権主張の効果について
請求人は、本件出願は平成3年6月24日に出願された特願平3-152055号に基づいて国内優先権出願したものの、本件出願の図4、図5及びその説明は新規な事項であり、要旨変更である。従って、出願日は平成3年6月24日に遡及しない旨主張している。
平成5年改正前特許法42条の2第2項には、優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち、当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明についての29条等の規定の適用については、当該特許出願は、当該先の特許出願の時にされたものとみなす旨規定されている。
この規定は、先の出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されていない発明については、優先権の利益が受けられないということであって、本件出願が、仮に特願平3-152055号に記載された事項に、図4,5及びその説明を追加することで、新規事項を追加し、要旨を変更するものであったとしても、29条等の適用について、特許請求の範囲に記載された発明について、先の出願の日にされたものとしないということにはならない。
そして、本件出願について詳細に検討すると、本件出願の優先権の主張の基礎とされた先の出願である特願平3-152055号の明細書及び図面には、本件出願の図4のフローチャートにおけるS15「面データ作成」と、図5の面データ作成処理のフローチャートと、対応する説明である、【0023】から【0045】の内容が記載されていないから、当該箇所の記載に係る構成を有する発明については、優先権の利益を受けることができない。具体的には、【0023】の「閉面データ画像処理用Dファイル2bに作成した線データを読み出して、線分に分解する。」、【0025】の「線分を一定方向に接続していく。」、【0026】の「接続された線分の終点の点種を判別し、最初の線分の始点と同一の座標であるか、または次に接続する線分がない孤立点であった場合は、接続処理を終了して」等の点が、先の出願の願書に最初に添付された明細書又は図面には記載されていない。
本件特許発明1は、「二次元線データを座標上の線分に変換し、該線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成」する点を、本件特許発明2は、「二次元線データを座標上の線分に変換する線分作成手段」及び「線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成する面データ作成手段」を、欠くことのできない構成として有しているが、これらの構成は上述のように、先の出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載されていない事項であるから、本件特許発明1及び2についての特許法29条2項の規定の適用については、本件特許出願の出願日である平成4年3月5日に出願がされたものとする。

(5)甲1号証からの容易性について
請求人は、平成10年1月29日付手続補正が、「折線、交点を認識して二次元の線データに変換する」及び「座標上の線分」という不明瞭な新規事項を追加するものであるから、本件特許の出願日が同日に繰り下がり、本件出願の公開公報である特開平5-73659号公報(甲1号証)に基づいて進歩性が無い旨主張している。
進歩性の主張について詳しくみると、本件特許発明1と甲1号証記載の発明を比較すると、補正により追加された新規事項である、「折線、交点を認識して二次元の線データに変換する」点と「座標上の線分に変換する」点について、甲1号証には記載されていないが、その余の構成は全て記載されている。甲1号証に記載されていない構成は、甲2号証,甲2号証の1,甲4号証,甲5号証,甲14号証,甲14号証の1,甲14号証の2に記載されており、甲1号証記載の発明にこれらの構成を適用して本件特許発明1とすることは当業者が容易になし得たことであるという主張である。
しかしながら、上記ウにおいて論じたように、本件特許の出願日が平成10年1月29日に繰り下がるとする請求人の主張は認められず、請求人が進歩性の欠如を主張する主たる刊行物である甲1号証は、その公開日が平成5年3月26日であるから、甲1号証に記載された発明は、本件特許出願より前に頒布された刊行物に記載された発明といえないことは明らかであり、「甲1号証ほかの文献に基づいて特許法29条2項の規定により特許を受けることができない」とする請求人の主張は認められない。本件特許発明2についても同様である。

(6)甲2号証と同一、または甲2号証からの容易性について

ア 本件特許発明
本件特許発明1及び2は、上記第4で認定したとおりのものである。

イ 甲2号証記載の発明
甲2号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)「There are seven steps used for coverage automation in ARC/INFO.

1.Prepare the map sheet for digitizing.
2.Digitize the coverage.
3.Identify and correct digitizing errors.
4.Define features and build topology.
5.Identify and correct topology error.
6.Assign attributes to coverage features.
7.Identify and correct attribute coding errors.」(10-2頁18?24行)
(日本語訳:
ARC/INFOにおけるカバレッジの自動化は7つのステップからなります。

1.デジタイジングのためのマップシートを用意します。
2.カバレッジをデジタイザー入力します。
3.デジタイジングエラーを発見して訂正します。
4.フィーチャーを定義し、トポロジーを生成します。
5.トポロジーエラーを発見して訂正します。
6.カバレッジフィーチャーに属性を付与します。
7.属性コーディングミスを発見して訂正します。)

(イ)「Graphics terminals are used for map display and interactive coordinate entry using the screen's cursor. Cursor movement can be controlled by a joy disk, thumb wheels, or arrow keys on the terminal keyboard; or via a mouse or graphics tablet which is connected directly to the graphics terminal.」(1-17頁16行?20行)
(日本語訳:グラフィック端末は、地図を表示したり、画面のカーソルを使用して対話式で座標を入力するために使用します。カーソルの動きは、端末キーボード上のジョイディスク、サムホイール、矢印キーによって制御します。グラフィック端末に直接、接続しているグラフィックスタブレット又はマウスによって制御することもできます。)

(ウ)「Scanning. Performed by a device which scans a manual map and creates a series of raster values (ON/OFF) which are subsequently turned into a series of linear coordinates (reffered to as raster-to-vector conversion). ARC/INFO accepts such linear coordinates as input as though the coordinates came from a digitizer.」(4-6頁14行?18行)
(日本語訳:スキャニング(走査)地図をスキャニングして、ラスター値(ON/OFF)を一連の座標に変換する(ラスターベクトル変換)装置によって実行されます。ARC/INFOはそのような座標を、デジタイザーで入力された座標と同じように取り扱います。)

(エ)「A polygon is defined by the number of arcs and a list of those arcs which comprise its border. Polygon 2 in the example below has four arcs which define it, including the island inside of it. A '0' is included in the list of arcs to denote that arcs defining islands will be listed next. The direction of an arc determines the sign of the arc number in the list. A '-' sign means that the arc would have to be reversed to build a closed loop for the polygon.」(5-7頁14行?20行)
(日本語訳:ポリゴンは、その境界線を形成するアークの番号と、アークのリストによって定義されます。下の例のポリゴン2は、ポリゴン内の島を含めて、ポリゴンを定義する4本のアークをもちます。次に、島を適するあげられるということを示すために、アークのリストの中の“0”が含まれています。アークの向きが、リストの中のアーク番号につく記号を決められます。すなわち、“-”という記号は、閉じたポリゴンループを作るには、そのアークが逆向きにならなければならないことを意味しています。)

以上より、甲2号証には、
「地図を表示するグラフィック端末を有しており、地図をスキャニングして、ラスター値を一連の座標に変換(ラスターベクトル変換)し、フィーチャーを定義してトポロジーを生成し、トポロジーエラーを発見して訂正し、カバレッジフィーチャーに属性を付与することを特徴とするカバレッジの自動化。」の発明が記載されている。
(判決 「第6 2(4)」において認定。)

ウ 対比

甲2号証記載の発明の「地図」、「ラスター値」は、本件特許発明1の「地形図等の原図」、「ラスターデータ」に相当する。

甲2号証記載の発明の「一連の座標に変換」することは、括弧書きにラスターベクトル変換と記載されていることからみて、本件特許発明1の「ベクトルデータを作成」することに相当する。

甲2号証記載の発明の「地図をスキャニング」することは、本件特許発明1の「地形図等の原図を読み取」ることに相当する。

甲2号証記載の発明の「フィーチャーを定義してトポロジーを生成」することについて検討する。
フィーチャーとは、図形要素を要素種の名称とパラメータにより表現したものを指す。図形要素は図形を構成する要素であり、例えば、扇形は1つの円弧と円弧の端点と円弧の中心点とを結ぶ2つの線分からなる図形であり、円弧と線分が図形要素である。コンピュータを用いた図形処理では、図形をこのような要素の集合として表現することが一般的である。そして、個々の要素については円弧、線分といった図形要素の要素種の名称と、図形要素の定義に必要な座標や長さなどのパラメータを組合せて、円弧(中心座標、半径、開始角度、終了角度)、線分(始点、終点)のような形式で表現し、これをフィーチャーと称している。また、トポロジーは、図形情報処理の分野においては、図形構成要素の位相関係を意味する概念である。位相関係とは図形要素どうしの接続関係などを意味する概念であり、コンピュータを用いた図形処理においては、複数の図形を組み合わせて新たな図形を作成する際などにおいて、このトポロジーの情報を参照して処理を行う。
甲2号証記載の発明においてベクトルデータは、ラスター値をラスターベクトル変換して得られた一連の座標値を有するものであり、折れ線を表しているものである。
これらからみて、甲2号証記載の発明において「フィーチャーを定義してトポロジーを生成」するとは、ベクトルデータが表す折れ線のデータから、線分などの図形要素と、図形要素間の接続関係を表すデータを作成することを意味していると理解できる。
そして、本件特許発明1において、図形要素間の接続関係を表すデータは、線分を接続して得られた面データ、閉領域データが有している。ここで、面データ、閉領域データは一種のフィーチャーであるといえる。また、本件特許発明1において、線分を所定方向に接続し、終点と始点が一致しないケースは、閉領域データとして完成していないという意味で、「トポロジーエラー」であるといえる。

甲2号証記載の発明の「カバレッジ」は、ARC/INFOシステムのデータの一種で、所定の範囲の図形を意味するものであり、地形図等から得られるものであるから、本件特許発明1の「地図データ」に相当する。そして、甲2号証記載の発明の「カバレッジの自動化」は、その手順が説明されていることから、本件特許発明1の「地図データの作成方法」に相当するといえる。

したがって、本件特許発明1と甲2号証記載の発明とを比較すると、両者は次の点で一致し、また相違する。

(一致点)
地形図等の原図を読み取って得られたラスターデータからベクトルデータを作成した後、ベクトルデータから、フィーチャーを定義してトポロジーを生成し、トポロジーエラーを発見して訂正することを特徴とする地図データの作成方法。

(相違点1)
本件特許発明1が「ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに“自動的に”変換し、それらの二次元線データを座標上の線分に変換」して面データの作成処理に供するのに対し、甲2号証記載の発明は、ラスター値を一連の座標に変換する(ラスターベクトル変換)して得られたデータ、すなわちベクトルデータをフィーチャーを定義しトポロジーを生成する処理に供するものであるが、このベクトルデータを二次元の線データに変換して、二次元の線データを座標上の線分に変換し、この座標上の線分からフィーチャーを定義してトポロジーを生成する構成を有していない点。

(相違点2)
本件特許発明1が「各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記憶、表示又は印刷する」のに対し、甲2号証記載の発明が、地図を表示するグラフィック端末を有しており、「カバレッジフィーチャーに属性を付与する」点。

(相違点3)
本件特許発明1が「線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成して、該面データの前記不連続となる始点及び終点を報知表示し、該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成」する構成を有するのに対し、甲2号証記載の発明は、フィーチャーを定義してトポロジーを生成し、トポロジーエラーを発見して訂正するものであるが、その具体的な処理について甲2号証には記載されていない点。

なお、当該一致点及び相違点については、平成19年(行ケ)第10185号の判決においては、その後の訂正事項である相違点1の“自動的に”を除いたものについて、誤りがないと結論されている。

エ 判断

このように相違点が存在するから、まず、本件特許発明1は甲2号証に記載された発明と同一ではない。

次に、上記相違点についての容易性を検討する。

(相違点1について)
甲2号証記載の発明は、ラスター値を一連の座標に変換する(ラスターベクトル変換)して得られたデータ、すなわちベクトルデータを、フィーチャーを定義する処理に供するものである。
ここで、ベクトルデータが線分や一連の折れ線についてのデータを有することは周知であり、ベクトルデータからベクトルデータに含まれる各線分を得ることや、ベクトルデータに含まれる一連の折れ線を分割して線分を得ることも、図形処理の分野において普通に行われる程度のことである。
さらに、線分や一連の折れ線を定義する際に、線端を示す点データを用いることは、図形処理の分野において技術常識である。
また、地図作製分野において、図形データは全て二次元座標上で定義されるものであるから、折れ線データを「二次元の線データ」、線分を「座標上の線分」と表現することは、格別困難なことではない。
そして、線端を示す点データを含む二次元の線データへの変換に際し、「自動的に」変換するか否かは適宜決定すべきものである。一般に、データの変換は、個別に格別の必要がなければその過程でキー入力を必要とするものではなく、通常は自動的に行われるものである。甲2号証記載の発明も、明記はされていないが、「自動的」であると推察することが自然である。仮に甲第2号証に記載の発明が自動的に変換が行われるものでないとしても、例えば甲第39号証に示されているように、変換を自動的に行うことは周知であって、そのような変換を自動的に変換することは設計的事項にすぎない。
なお、フィーチャーの定義を、ベクトルデータから直接行うか、線分データから行うかは、当業者が適宜選択する事項にすぎない。

よって、甲2号証記載の発明において、ベクトルデータからフィーチャーを定義を行うために、ベクトルデータから一連の折れ線を抽出して、線端を示す点データを含む二次元の線データに自動的に変換し、この二次元の線データを座標上の線分に変換し、座標上の線分をフィーチャー、すなわち図形要素の定義に供するよう構成することは当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
地図データを構成する図形要素について、属性を付与すること、図形要素のデータを記憶すること、印刷することは普通に行われる程度のことであり、また、図形要素として閉領域データがあることは広く知られていることであるから、甲2号証記載の発明において、閉領域データに属性データを付与可能にし、記憶、表示、印刷するよう構成することは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点3について)

本件特許発明1において、「不連続となる始点及び終点」は、点データから出る線データが一本のみである孤立点と一致するものと一応認められる。不連続となる始点及び終点の表示に当たり、線分を所定方向に接続することによって、不連続点を求めることが規定されているものではない。(判決 第6 1(11)における判示。)

また、フィーチャーとは、図形要素を要素種の名称とパラメータにより表現したものであって、例えば円弧、線分といった図形要素の要素種の名称と、図形要素の定義に必要な座標や長さなどのパラメータを組合せて、円弧(中心座標、半径、開始角度、終了角度)、線分(始点、終点)のような形式で表現されるものであり、トポロジーは、図形構成要素の位相関係、すなわち図形要素どうしの接続関係を意味するものであるから、甲2号証に記載の発明は、地図をスキャンニングして、ラスター値をベクトル変換し、線分(フィーチャー)を定義して図形の接続関係(トポロジー)を生成するものにおいて、接続関係(フィーチャー)のエラーを発見して訂正するものである。

そして、図形編集において、閉じているべき図形が閉じていなかった際に、閉じた図形となるよう編集する課題は、一般的にあるといえる。
また、複数の線分からなる図形について、閉じているべき図形が閉じていないとは、閉じていない箇所は、その点データから出る線データが一本のみである孤立点に他ならない。
してみれば、線分を定義して図形の接続関係を生成するものにおいて、接続関係が生成された図形を構成する線分群に「不連続となる始点及び終点」が存在する場合に、これをエラーとして、その対処(例えば修正)を促すための表示をすることは、甲2号証に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。

なお、そもそも線分の集合から閉じている領域(閉領域)を抽出する場合に、線分を所定の方向に順次追っていくことは極めて普通の手法である。
例えば、甲7-9号証に記載されているように、複数の線分からなる図形について、線分を隣接関係に基づいて右回り等の所定の向きで追跡し、閉ループを構成する線分群を求めることは、図形処理の分野において周知のことである。
したがって、線分の集合から閉領域を抽出する場合に、線分を所定の方向に順次追っていくことは、設計的事項にすぎないことである。

そして、これらを相違点を総合的に考慮しても、相違点は個々に独立した違いであって、複数の相違点1?3によって格別顕著な効果を生ずるものではないから、本件特許発明1は、甲2号証に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、本件特許発明2について検討するに、本件特許発明2は、本件特許発明1とカテゴリーを異とするものであるが、その構成要件については本件特許発明1と異なるものではない。
したがって、本件特許発明2の甲2号証に記載の発明との対比、判断は、上記本件特許発明1と同様の対比、判断となる。

オ まとめ

以上のとおりであるから、他の証拠方法によって本件特許発明が容易に発明をすることができたとする請求人の主張については検討するまでもなく、請求人の主張の無効理由3の内、(3)について、その理由が認められる。

4.無効理由4について

無効理由4についての請求人の主張は、根拠となる条文について言及が見受けられないが、その内容から特許法123条1項4号の規定に違反しているとする主張であると判断される。
しかし、前記「第7 3.無効理由について」の(6)で検討したように、本件特許発明1及び2は甲2号証に記載された発明と同一であるとはいえないから、本件特許発明1及び2は、甲2号証に記載された発明について、発明者でない者であって特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対して特許がされたものであるとはいえない。
さらに、同「第7 3.無効理由3について」の(1)で検討したように、甲2号証は頒布された刊行物であり、甲2号証が秘密刊行物であることを前提とした請求人の主張には根拠がない。
よって、本件特許発明1及び2は、発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対して特許がされたものであるから、特許法123条1項4号違反であるとする、請求人の主張は理由がない。

第8 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張の内、無効理由1、2および4についての主張は認められないが、本件請求項1及び2に係る発明について、無効理由3の主張及び証拠方法によって、その特許を無効にすべきものと認める。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、参加補助について生じた費用は参加補助人の負担とし、その余の費用は被請求人の負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

第9 付記

平成20年6月2日付けで、参加人からの上申書、また平成20年7月9日付けで、平成20年5月30日付け訂正請求書に対する請求人からの弁駁書が提出されており、その何れにおいても、本件審理に関して技術説明、口頭審理が求められている。
しかしながら、本件は判決(平成19年行(ケ)第10185号)において、本件特許発明の認定がなされ、証拠方法の認定がなされ、一致点および相違点の認定もなされている。
よって、その技術内容については更に説明を聴くまでもなく明らかであるので、技術説明、口頭審理については、その必要性を認めない。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
地図データ作成方法及びその装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作成した後、該ベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに自動的に変換し、それらの二次元線データを座標上の線分に変換し、該線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成して、該面データの前記不連続となる始点及び終点を報知表示し、該不連続点から任意の点又は線へ接続する線データを入力に基づいて生成することにより該面データに対応する閉領域データを作成し、上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記憶、表示又は印刷する地図データ作成方法。
【請求項2】地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータからベクトルデータを作成するベクトルデータ作成手段と、
該ベクトルデータ作成手段により出力されるベクトルデータを線端を示す点データを含む二次元の線データに自動的に変換する二次元線データ作成手段と、
該二次元線データ作成手段により出力される二次元線データを座標上の線分に変換する線分作成手段と、
該線分作成手段により出力される線分を所定方向に接続し、終点が始点と一致したときはそれらの線分からなる面データの閉領域データを自動的に作成し、終点が始点と一致しないときはそれらの線分からなる面データを自動的に作成する面データ作成手段と、
該面データ作成手段が作成した面データの不連続となる前記始点及び終点を報知表示する不連続点報知表示手段と、
該不連続点報知表示手段による報知表示に基づいて前記始点及び終点から任意の点又は線へ接続する線データを生成すべく該接続線データを入力する入力装置と、
該入力装置による入力に基づいて前記不連続となる始点及び終点を有する面データに対応する閉領域データを作成し、上記各閉領域データに属性データを付与可能にして該閉領域データを記憶、表示又は印刷する記憶表示印刷手段と、
を有することを特徴とする地図データ作成装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、地域や地点毎に属性を付与された地図情報を自動的に作成する地図データ作成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、地図は情報を示す図形として様々な使いかたがなされている。例えば、地域や地点を属性毎に色分けした属性区分により表示する地図が知られている。これは、畑、住宅地、工場地帯等の属性に分けて示す土地利用状況図、調査単位地区毎に分けて示す国勢調査区域図、地質別に分けて示す土壌図、または都道府県、市町村別に分けて示す行政界図、電力、上下水道等の施設管理図などがあり、自治体における管理資料、学校における教育資料等として広く使用されており、その用途は広汎にわたる。
【0003】
また、上記の地図情報をコンピュータに記憶させると、情報の更新を比較的容易にできるようになると共に、例えば道路建設予定区域図に土壌図を重複表示させて予め地質状況をチェックするなどの、異なる属性の情報からなる地図同士を重ね合わせて利用することも容易となる。また、同じ属性の情報からなる地図同士であっても、測定時期の異なる地図同士を用いて例えば環境汚染等の進行度合、または改善度合を数値化して捉えることが容易となる。
【0004】
上記地域や地点毎に属性を付与した地図情報をコンピュータに記憶させるには、先ず、デジタイザ等を用い、手作業で地図上の区域や地点の縁に沿って入力端末を移動させ、この入力端末の移動データを区域や地点の輪郭線を表す面データとしてコンピュータに入力したのち、その面データに属性を付与していた。
【0005】
また、等高線による地形のみを描いた地図等も、土木・測量用として広く使用されている。このような地図は、ときに応じて修正・更新を行う必要がある。このような地図もコンピュータに読み取らせ、図形の歪みを自動的に直す等の補正を行っている。このような場合のコンピュータ処理では、上記のような面データの概念がなく、単に線を表すベクトルデータとして取り扱われ、説明文等を付加して表示することはできても、図形データに属性を付与するということはできない。又、線データの「切れ」などの自動検出が出来ず、又、家形のような直角部を有するベクトル認識対象にあっては、例えば当該家形が6画形であれば6本の線データに分解されて、一本の折れ線データに一括して自動的にベクトル化する事は出来ない為、地形図のような大量かつ重畳的な原図データから直接ベクトル処理した後で家形や道路等を種別分けする作業は著しく困難であり、予め各々のトレース図の作成を必要とする状況にある。
【0006】
【従来技術の問題点】
上述のデジタイザによる面データの入力は、例えば、沖縄県、鳥取県等の縮尺1/25000の土地利用状況図を作成するとしても、それぞれおよそ10万個もの面データが必要とされる。これらの面データの入力は上述したように全て手作業によって入力されるものであるが、コンピュータ処理において、上述のようにして入力された一つ一つの面データに、後の処理で属性を割り当てるためには、それぞれの面データが閉面を構成していなければならない。面データの表す輪郭線が画面表示上では視覚的に閉じている場合であっても、コンピュータ内部のデータとしては開いており、不連続となっていれば、この面データに与えた属性がこの不連続点から周囲に漏洩して不都合を生ずる。このため、上述のデジタイザによる面データの入力作業は熟練を要し、極めて手数のかかる作業である。従って、人件費が地図情報作成コストの50%以上、ときには90%を占めるとさえいわれ、その総体的費用は極めて高価である。また、手数がかかるため面データ完成までの期間も数か月という長期にわたる。このため実務に供される管理資料としては、対応が遅れるという問題があった。
【0007】
また、単なる線データをコンピュータに記憶させても、面データを作成することができないと、上述した地域や地点毎の属性を付与することができない。従って、属性によって管理する地図情報として用いることができない。
【0008】
このように、従来は、地図の輪郭線データを手作業で入力しなければならず、また、線データを自動的に読み取ることができるものは、その後の属性付与の処理ができないという状態であり、又、線の「切れ」の自動検出や、直角部を有するベクトル化対象物の一本の折れ線への自動一括長ベクトル化も出来ないという状況であり、一貫して自動的に地図情報を作成する方法も装置も存在しなかった。
【0009】
【発明の目的】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、地域や地点毎に属性を付与可能なように保存した地図情報を大幅に効率良く自動的に作成することが容易にできる地図データ作成方法及び装置を提供することである。
【0010】
【発明の要点】
本発明は上記目的を達成するために、地形図等の原図を読み取って得られるラスターデータから二次元のベクトル線データを作成し、このベクトル線データから少なくとも点データ、線データからなる面データを作成し、この面データを構成する線データの不連続点を入力により点データ又は線データに接続して閉領域面データを作成し、この閉領域面データを入力により付与される属性データ別に記憶、表示または印刷するようにし、上記不連続点の接続に際しては、例えば複数の接続修正装置で行うようにし、不連続点には不連続点であることを報知する記号を付して表示するようにしたことを要点とする。
【0011】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係わる一実施例の構成図である。
【0012】
同図において、画像ベクトル線データ発生装置1は、地形図等の原図、あるいは、例えば図6(a)に示すような回路配線画像等を自動的に読み込んで画像に対応する電気信号を発生するイメージスキャナ1-1、そのイメージスキャナ1-1から入力される電気信号からディジタル・イメージ信号を生成するパターン認識モジュール1-2、パターン認識モジュール1-2により生成されたディジタル・イメージ信号から細線データを抽出しベクトルデータを作成して、例えば図6(b)に示す線データ画像作成処理を行う線データ画像処理装置1-3、及びその線データ画像処理装置1-3により作成されたベクトルデータを後述する線データ画像処理用Lファイル2aとして記憶するRAM(I)1-4からなっている。
【0013】
データ変換装置2は、その入力側に画像ベクトル線データ発生装置1が接続され、また出力側には閉領域・属性データ作成装置3が接続されている。そして、画像ベクトル線データ発生装置1から線データ画像処理用Lファイル2aを読み出して、そのLファイル2aの要素数1?nに分割された線データを解析し、折線、交点等を認識して二次元の線データに自動的に変換し、詳しくは後述する閉面データ画像処理用Dファイル2bの点データ及び二次元の線データとして閉領域・属性データ作成装置3へ出力する。
【0014】
閉領域・属性データ作成装置3は、閉面データ画像処理装置3-1、その閉面データ画像処理装置3-1に接続され上記データ変換装置2から転送される閉面データ画像処理用Dファイル2bが格納されるRAM(II)3-2、その閉面データ画像処理用Dファイル2bの線データの補完、属性付与、印刷出力等の処理を指示するためのキーボード3-3、閉面データ画像処理装置3-1からの印刷出力により地図情報を印刷するプロッタ3-4、面データ不連続点を表示する表示装置3-5からなっている。
【0015】
図2(a)は、上記画像ベクトル線データ発生装置1のRAM(I)1-4に格納される線データ画像処理用Lファイル2aの構成図、同図(b)は、上記閉領域属性データ作成装置3のRAM(II)3-2に格納される閉面データ画像処理用Dファイル2bの構成図である。
【0016】
同図(a)の線データ画像処理用Lファイル2aは、それぞれ独立して画像の輪郭を示す線を表す1レコードのデータからなり、1レコードがヘッダー部21及びデータ部22からなっている。ヘッダー部21は、レコードの区分を示すクラス部21-1、レコードが示す線の形状等を示すコード部21-2、及びデータ部22の長さを示すリスト部21-3からなっている。そして、データ部22は、線を表す座標データを格納するパラメータ部(i)22-i(i=1、2・・・n)から構成される。これらの線データは、例えば図14(a)に示す十字の画像を、点(xa-0,ya-0)と点(xa-1,ya-1)とを結ぶ線A(1レコード)、及び点(xb-0,yb-0)と点(xb-1,yb-1)とを結ぶ線B(1レコード)の2本の線データとして表してもよく、また同図(b)に示すように、上記十字の交点で線を分割し、A、B、C及びDの4本の線データ(4レコード)として表してもよい。さらに、1点折れ線AB及び1点折れ線DCと表すこともできる。
【0017】
図1の線データ画像処理装置1-3は、必要に応じてこの線データ画像処理用Lファイル2aをRAM(I)1-4から順次読み出して、図6(b)に示すような図形をデータとして出力することができる。
【0018】
また、図2(b)の閉面データ画像処理用Dファイル2bは、同図(a)の線データ画像処理用Lファイル2aとは全く異なるファイル構成であり、閉領域データを取り扱うための、例えばDLGファイルと同様な構成になっている。すなわち、ファイル構成を示すデータを格納するヘッダー部2b-1、折れ線の頂点や線端を示す点データを格納する点データ部2b-2、閉領域の少なくとも1つの属性を示すデータを格納する領域データ部2b-3、及び、線データを格納する線データ部2b-4からなっている。
【0019】
続いて、図3に、データ変換装置2の内部構成を示す。同図に示すように、データ変換装置2は、マイクロプロセッサからなるCPU31と、プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)32からなる。CPU31は、ROM32に格納されたプログラムに基づいて線データ画像処理用Lファイル2aのデータを閉面データ画像処理用Dファイル2bに変換する。
【0020】
次に、上記線データ画像処理用Lファイル2aのデータを閉面データ画像処理用Dファイル2bに変換するCPU31の処理動作を図4及び図5のフローチャートを用いて説明する。なお、この処理は特には図示しないレジスタi及びjを用いて行われる。
【0021】
図4は、データ変換装置2の1例を示すものであり、先ずステップS1で線データ画像処理用Lファイル2aを読み込む。次にステップS2で、ファイルヘッダー部21のリスト部21-3から要素数を読み出しレジスタiに格納する。続いてレジスタiの値を判別し、「0」でなければ読むべき要素があるのでステップS5に進む。ステップS5では、要素レコードiを読み出し、その要素iの先頭部の要素種データ(すなわちクラス21-1及びコード21-2)を読み出しレジスタjに格納する。続いて、ステップS6でレジスタjの値を判別する。そして、値が「1」?「7」であれば、それぞれステップS7?ステップS13に進み、要素レコードiの要素種データに続いて格納されている座標データ(すなわち要素数22-1?22-n)を読み出して、その読み出した座標データを閉面データ画像処理用Dファイル2bの線データ部2b-4に転送して所定位置に書き込む。
【0022】
上記レジスタjの値は「1」?「7」まで、それぞれ直線、1点折れ線、2点折れ線・・・7点折れ線、及び8点以上折れ線を示している。また、上記ステップS6で、レジスタjの値が「7」より大であれば、要素の種類は線以外のデータを表しており、この場合はただちにステップS14に進む。次に、上記ステップS3で、レジスタiの値が「0」ならば、要素レコードはすべて読み出して1図形分の処理が終了しているのでステップS15に進み、面データの作成を行って処理を終了する。
【0023】
次に、上記面データの作成処理について、図5に示すフローチャートを用いて説明する。先ずステップS51で、上記閉面データ画像処理用Dファイル2bに作成した線データを読み出して、線分に分解する。この線分への分解処理は、上記読み出した線データを、他の線データとの接点、交点で分割して、途中に接点や交点を持たない線分に細分し、それらの各線分に線分番号を付与する処理である。
【0024】
続いてステップS52に進み、上記の線分の始点又は終点の点種を決定する。この処理は、上記線データを途中に接点や交点を持たない線分に細分する際、細分の基となった線分の始点又は終点が、孤立点(他の線データへの接続なし)、分岐点(接点)、又は中間点(折れ線の頂角)のいずれであったかを記録する処理である。
【0025】
次に、ステップS53で、それらの線分を始点及び終点に基づいてソートし、続いてステップS54で、それらソートした線分を一定方向に接続していく。この接続方向は、時計回り、逆時計回りいずれでもよい。線分の終点が分岐点であった場合、接続される同一始点を有する線分が複数存在する。上記接続方向が予めいずれか一定方向へ定められていることにより、それらの複数の線分の中から、共に面データを構成する線分を自動的に選択して接続することができる。
【0026】
そして、ステップS55では、接続された線分の終点の点種を判別し、最初の線分の始点と同一の座標であるか、または次に接続する線分がない孤立点であった場合は、接続処理を終了してステップS56に進む。
【0027】
ステップS56では、接続された一連の線分によって構成された面データに面データ番号を付与して閉面データ画像処理用Dファイル2bに再格納する。
上記ステップS55で、接続された線分の終点の点種が最初の線分の始点と同一の座標ではなく、また、孤立点でもないときはステップS54に戻って次の線分を接続する。
【0028】
図1の閉面データ画像処理装置3-1は、上記のように線データから変換されてデータ変換装置2から転送された閉面データ画像処理用Dファイル2bの線データ部2b-4に格納された面データを読み出して、図7に示すような地図図形を、CRT等からなる表示装置3-5に出力することができる。
【0029】
そして、同図矢印A,B,・・・Fで示される線の不連続部を所定のマークを点滅させる等して告知し、その線の不連続部が正しく閉じるように、キーボード3-3の特には図示しないカーソルキー若しくはキーボード3-3等に接続された不図示のマウス端末等により修正入力が可能なようになっている。このように修正、補完されて正しい閉領域面データとなった線データは再び閉面データ画像処理用Dファイル2bの線データ部2b-4に格納されると共に、同ファイルの点データ部2b-2の対応する点データも自動的に修正されて再格納される。
【0030】
上記のようにして作成された閉領域のみからなる地図図形データには、キーボード3-3を用いて閉領域で示される各地域や地点を特定するために、それら地図上の閉領域に、例えば図8に示すような番号(丸で囲んで示す)が自動的に一括して順次付与される。そして、この番号が同ファイルの領域データ部2b-3の対応する位置に格納される。さらに、この番号に対して属性を示すデータを入力することにより番号により特定された地域や地点に属性が付与される。この属性データも同様に同ファイルの領域データ部2b-3の対応する位置に格納され、これにより所定の地図情報は完成する。
【0031】
そして、上述のようにして作成されたRAM(II)の閉面データ画像処理用Dファイル2bが、図1の閉面データ画像処理装置3-1によって読み出され、地図情報としてプロッタ3-4を介して出力される。この出力による画像は、例えば図9に示す土地利用状況図のようになる。
【0032】
このように、従来数カ月を要していた地図情報の作成を数日間で完成させることができる。上記本実施例においては、不完全な地図図形の不連続部が正しく閉じるように補完する修正作業を、閉領域属性データ作成装置3を用いて行っている。ところが、例えば、沖縄県、鳥取県等の比較的小規模の県の土地利用状況図を作成するとしても、およそ10万個の面データがあり、修正入力のための表示画面は数十画面の構成となる。この数十画面の修正作業を1つの装置で行っていたのでは少なからず時間を要し、折角の面データ作成作業の自動化による作業時間の大幅短縮の効果を十分に発揮することができない。
【0033】
この修正作業を複数の修正データ入力装置に分散して修正し、修正した正しい地図図形データを上記閉領域属性データ作成装置3にふたたび入力するようにし、閉領域属性データ作成装置3にその後の属性付与の処理を行わせるようにすれば、修正のための作業時間が大幅に短縮されて時間短縮の効果がさらに増大する。
【0034】
これを他の実施例として以下に説明する。図10は、第2の実施例の構成図である。図1に示した第1の実施例の構成と同一の部分については同一番号を付与して示す。
【0035】
同図において、データ変換装置2には、複数のパーソナルコンピュータ4-1(PC1)、4-2(PC2)・・・4-n(PCn)が接続されている。勿論パーソナルコンピュータの代りに通常の端末装置を用いることもできる。データ変換装置2は、画像ベクトル線データ発生装置1から出力される線データ画像処理用Lファイル2aに基づいて作成される閉面データ画像処理用Dファイル2bから後述する閉面データ修正用Mファイル2cを作成し、1表示画面分毎に分割して各パーソナルコンピュータPCi(i=1、2・・・n)に出力し、各パーソナルコンピュータPCiから出力される修正済みデータを閉面データ画像処理用Dファイル2bのデータとして閉領域属性データ作成装置3へ出力する。
【0036】
図11は、上記PCiの構成図である。同図において、CPU4-i-1はマイクロプロセッサからなり、ROM4-i-2に格納されたプログラムに基づいて装置全体を制御する。RAM4-i-3は、上記閉面データ修正用Mファイル2cやワーク用の記憶エリアを有する。CRT(ブラウン管型表示装置)4-i-4は、CPU4-i-1の制御に基づいて、RAM4-i-3の閉面データ修正用Mファイル2cのデータ(例えば図7に示すような地図図形)を表示する。マウス4-i-5は、CRT4-i-4の画面上の任意の位置に、カーソルを表示し、その位置の座標値を入力できる。
【0037】
図12(a)に、図2(b)で示した閉面データ画像処理用Dファイル2bを再掲し、図12(b)に、上記閉面データ画像処理用Dファイル2bに基づいて作成される閉面データ修正用Mファイル2cのデータ構成を示す。
【0038】
同図(a),(b)において、閉面データ修正用Mファイル2cは、いずれのDファイル2bから読み出したデータであるかを識別するためのファイル番号を記憶するファイル番号部2b-1、Dファイル2bの点データ及び線データから検出された孤立点(不連続点)座標を中心とする所定の記号データ(例えば小さな黄色の丸印)を記憶する孤立点データ部2c-2、Dファイル2bの線データから読み出された線データを記憶する線データ部2c-4からなる。
【0039】
次に、上記構成の第2実施例について、データ変換装置2により行われる閉面データ修正用Mファイル2cの作成処理の動作を、図13に示すフローチャートを用いて説明する。
【0040】
同図において、先ずステップS1201で閉面データ画像処理用Dファイル2bを読み込み、ヘッダー部2b-1のデータに基づいて、読み込んだDファイル2bに対応するファイル番号を作成し、閉面データ修正用Mファイル2cのファイル番号部2c-1に格納する。
【0041】
次にステップS1202に進み、ファイルが「終り」となっているか否かを判別し、「終り」でなければステップS1203へ進んで、Dファイル2bのデータを順次読み込み、その読み込んだデータが点データ(Dファイル2bの点データ部2b-2から読み込んだデータ)であるか、又は線データ(Dファイル2bの線データ部2b-4から読み込んだデータ)であるかを判別する。
【0042】
この判別で、点データであれば、ステップS1204に進んで、その点データが孤立点を示しているか否かを判別する。この判別は、点データから他の点データへ接続する線データが2本以上存在するか否かを検出し、2本であれば折れ線の頂点を示し、3本以上であれば接点(集中点または分散基点)を示しており、したがっていずれも孤立点ではないと判別する。そして、点データから出る線データが一本のみであるとき、その点データは孤立点であると判別する。
【0043】
この判別で孤立点であるときは、ステップS1205に進んで、その孤立点の座標を読み出し、続いてステップS1206で、その孤立点を中心とする所定半径の円データを作成して、その円データを閉面データ修正用Mファイル2cの孤立点データ部2c-2に格納し、前述のステップS1202に戻る。
【0044】
上記ステップS1204の判別で、孤立点でないと判別したときは、ただちに上記ステップS1202に戻る。上記ステップS1203の判別で、線データであるときは、ステップS1207に進み、線データの種別を判別する。そして、直線(座標が2点)、1点折れ線(座標が3点)、・・・6点折れ線(座標が7点)、又は7点以上折れ線(座標が8点以上)の種別を判別し、その判別に基づいて、それぞれ、ステップS1208、S1209・・・S1213、又はステップS1214に進む。そして、それらの線データを構成する点座標を読み込んで、それぞれ、ステップS1208′、S1209′・・・S1213′、又はステップS1214′に進み、上記読み込んだ点座標データからなる線データを閉面データ修正用Mファイル2cの線データ部2c-3に格納し、ステップS1201に戻る。
【0045】
上記ステップS1202で、ファイルが「終り」であれば直ちに処理を終わる。このようにして、作成される閉面データ修正用Mファイル2cは、図10のパーソナルコンピュータPC1、PC2・・・PCnに出力され、それらPCi(i=1、2・・・n)において画面表示される。オペレータは、孤立点を示す円記号により地図図形の不連続点を識別し、不連続部が狭くて視認が困難な場合は表示を拡大する等して、マウスにより不連続部の補完作業を行なう。補完されたデータは、新たな線データとして閉面データ修正用Mファイル2cの線データ部2c-3に格納され、作業完了後、データ変換装置2によって読み出され、閉領域属性データ作成装置3に出力される。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、地形図等の原図を読みとって自動的に作成されたベクトル線データを面データに変換し、その不連続部を修正して閉領域データを作成することが迅速かつ容易にできるので、地図の各部を特定して属性を与える地図情報の制作が容易となるため、地図情報制作の費用を大幅に削減することが可能となる。さらに、地図情報を短期間に作成することができるため、地図情報を変化に即応できる管理資料として十分に活用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】(a)は画像ベクトル線データ発生装置1の線データ画像処理用Lファイル2aのデータ構成図、(b)は閉領域属性データ作成装置3の閉面データ画像処理用Dファイル2bのデータ構成図である。
【図3】データ変換装置の内部構成を示すブロック図である。
【図4】CPUの閉面データ画像処理用Dファイル2b作成処理の動作フローチャート(その1)である。
【図5】CPUの閉面データ画像処理用Dファイル2b作成処理の動作フローチャート(その2)である。
【図6】(a)は画像ベクトル線データ発生装置1が読み込んだ画像情報、(b)はその画像情報に基づいて発生された線データで描かれた図形の例を示す図である。
【図7】閉領域属性データ作成装置3に入力された面データから作成された不完全な地図図形の例を示す図である。
【図8】不連続部が補完され、番号によって特定される多数の区域からなる完成した地図図形の例を示す図である。
【図9】特定された区域に属性を付与して完成した地図情報の一例を示す図である。
【図10】第2実施例の構成を示すブロック図である。
【図11】PCi(i=1、2・・・n)の構成を示すブロック図である。
【図12】(a)は閉領域属性データ作成装置3の閉面データ画像処理用Dファイル2bを示す図、(b)は閉面データ修正用Mファイル2cのデータ構成を示す図である。
【図13】CPUの閉面データ修正用Mファイル2cの作成処理の動作フローチャートである。
【図14】(a),(b)は線データを説明する図である。
【符号の説明】
1 画像ベクトル線データ発生装置
1-1 イメージスキャナ
1-2 パターン認識モジュール
1-3 線データ画像処理装置
1-4 RAM(I)
2 データ変換装置
3 閉領域・属性データ作成装置
3-1 閉面データ画像処理装置
3-2 RAM(II)
3-3 キーボード
3-4 プロッタ
2a 線データ画像処理用Lファイル
2b 閉面データ画像処理用Dファイル
31 CPU
32 ROM
4-1、4-2・・・4-n パーソナルコンピュータ
PCi(i=1、2・・・n)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-03-29 
結審通知日 2008-08-08 
審決日 2007-04-17 
出願番号 特願平4-48706
審決分類 P 1 113・ 152- ZA (G06T)
P 1 113・ 531- ZA (G06T)
P 1 113・ 113- ZA (G06T)
P 1 113・ 121- ZA (G06T)
P 1 113・ 14- ZA (G06T)
P 1 113・ 534- ZA (G06T)
最終処分 成立  
前審関与審査官 江口 能弘平井 誠  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 廣川 浩
加藤 恵一
伊藤 隆夫
原 光明
登録日 1998-04-17 
登録番号 特許第2770097号(P2770097)
発明の名称 地図データ作成方法及びその装置  
代理人 鹿股 俊雄  
代理人 鶴田 準一  
代理人 野口 明男  
代理人 伊坪 公一  
代理人 鶴田 準一  
代理人 長谷川 純  
代理人 伊坪 公一  
代理人 藤井 陽子  
代理人 藤井 陽子  
代理人 島田 哲郎  
代理人 青木 篤  
代理人 青木 篤  
代理人 三好 豊  
代理人 飯塚 卓也  
代理人 水谷 好男  
代理人 鹿股 俊雄  
代理人 水谷 好男  
代理人 島田 哲郎  
代理人 長谷川 純  

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