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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1241902
審判番号 不服2010-6370  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-24 
確定日 2011-08-08 
事件の表示 特願2006-509243「内燃機関の燃料噴射ノズル」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月16日国際公開、WO2004/109095、平成18年11月24日国内公表、特表2006-526737〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本件出願は、2004年3月10日(パリ条約による優先権主張2003年5月30日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年1月27日付けの特許法第184条の5第1項の規定による書面とともに明細書、特許請求の範囲、図面及び要約の日本語による翻訳文が提出され、平成19年3月12日付けで手続補正書が提出され、平成21年6月15日付けの拒絶理由通知に対して、同年9月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に同日付けで手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において、同年8月23日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、同年11月29日付けで回答書が提出されたものである。


【2】平成22年3月24日付けの特許請求の範囲を補正する手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成22年3月24日付けの手続補正を却下する。


[理 由]
1.本件補正の内容
平成22年3月24日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年9月24日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1ないし44及び90ないし128を削除し、残りの請求項を順次繰り上げ、さらに、特許請求の範囲の請求項1に関して、前記本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年9月24日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記の(b)に示す請求項45を、下記の(a)に示す請求項1へと補正するものを含むものである。

(a)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
直接燃料噴射の燃焼室組立品であって、
燃焼室と、
燃焼室の可動終端壁面を構成するピストンと、
燃焼室と直接連通するノズルチップを備えた燃料噴射器であって、そのノズルチップが、
外側のノズルチップ表面部分と、
内側のノズルチップ表面部分と、
内側のノズルチップ表面部分と外側のノズルチップ表面部分との間の流体連通、及び燃焼室内への直接的な流体連通を可能にする、第1群及び第2群を含む複数の流路であって、その各流路が、内側のノズルチップ表面部分における内側表面の開口と、外側のノズルチップ表面部分における外側表面の開口とを有する複数の流路と、
を含む燃料噴射器と
を備えており、さらに、
各流路が、上死点前約30°のピストン位置においてピストン内に向かって延びる縦軸を有し、
第1群の内側表面の開口が、それぞれ、燃焼室の縦軸に関して、第2群の内側の各表面開口から離れて配置され、
前記流路の第1群が、実質的に第1の共通平面内に配置される内側表面の開口を含み、
かつ、
前記流路の第2群が、実質的に、第1の共通平面に実質的に平行な少なくとも第2の共通平面内に配置される内側表面の開口を含み、
第1群の流路が、それぞれ、第1の共通平面から約55°以上の複数の鋭角アルファ(α)の方向に延びる縦軸を有しており、この鋭角アルファ(α)は第1の共通平面に垂直な平面内で測定され、
第2群の流路が、それぞれ、第2の共通平面から約27.5°以上の複数の鋭角シータ(θ)の方向に延びる縦軸を有しており、この鋭角シータ(θ)は第2の共通平面に垂直な平面内で測定され、
ノズルチップの縦軸が、燃焼室の縦軸と同心であり、かつ第1および第2の共通平面それぞれに対して垂直である、
燃焼室組立品。」(下線部は審判請求人が補正箇所を示したものである。)

(b)本件補正前の特許請求の範囲の請求項45
「【請求項45】
直接燃料噴射の燃焼室組立品であって、
燃焼室と、
燃焼室の可動終端壁面を構成するピストンと、
燃焼室と直接連通するノズルチップを備えた燃料噴射器であって、そのノズルチップが、
外側のノズルチップ表面部分と、
内側のノズルチップ表面部分と、
内側のノズルチップ表面部分と外側のノズルチップ表面部分との間の流体連通、及び燃焼室内への直接的な流体連通を可能にする、第1群及び第2群を含む複数の流路であって、その各流路が、内側のノズルチップ表面部分における内側表面の開口と、外側のノズルチップ表面部分における外側表面の開口とを有する複数の流路と、
を含む燃料噴射器と
を備えており、さらに、
各流路が、上死点前約30°のピストン位置においてピストン内に向かって延びる縦軸を有し、
第1群の内側表面の開口が、それぞれ、燃焼室の縦軸に関して、第2群の内側の各表面開口から離れて配置され、
前記流路の第1群が、実質的に第1の共通平面内に配置される内側表面の開口を含み、
かつ、
前記流路の第2群が、実質的に、第1の共通平面に実質的に平行な少なくとも第2の共通平面内に配置される内側表面の開口を含み、
第1群の流路が、それぞれ、第1の共通平面から約55°以上の複数の鋭角アルファ(α)の方向に延びる縦軸を有しており、この鋭角アルファ(α)は第1の共通平面に垂直な平面内で測定され、
第2群の流路が、それぞれ、第2の共通平面から約27.5°以上の複数の鋭角シータ(θ)の方向に延びる縦軸を有しており、この鋭角シータ(θ)は第2の共通平面に垂直な平面内で測定される、
燃焼室組立品。」


2.本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項45の発明特定事項である「ノズルチップ」に関して、「ノズルチップの縦軸が、燃焼室の縦軸と同心であり、かつ第1および第2の共通平面それぞれに対して垂直である」という事項を追加するものであって、本件補正前の「ノズルチップ」の向きを上記下線部の事項を付加することで限定するものであるから、請求項1に関する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。


3.独立特許要件について
3-1.引用文献記載の発明
(1)本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-288131号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、直接噴射式内燃機関の燃焼装置に係り、特に、燃焼室を深皿燃焼室に構成し、噴口を上部噴口と下部噴口の2列に構成し、トータル的にNox(当審注:「NOx」の誤記。)と黒煙を減少させ、更に燃費の減少を図ったものである。」(段落【0001】)

(イ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上部噴口と下部噴口のそれぞれの列からの噴射により、深皿燃焼室の内部で、2種類の燃焼を2つの領域で同時に行わせる為の千鳥状のノズルの配置と深皿燃焼室を構成したものであり、これにより総合的にNox(当審注:「NOx」の誤記。)と黒煙を低減し、かつ燃費を低減させたものである。」(段落【0003】)

(ウ)「【0007】図1と図2により、本発明のディーゼル機関の噴射ノズルの構成を説明する。本発明の燃焼室は、ピストンの上面中央部に穿設されており、側面視で横長に、平面視で円形の、結果として円筒状の深皿燃焼室Aに構成している。従来の燃焼室は、図3に示す如く、燃焼室の中央に上方へ突出した凸部を構成していたのであるが、本発明においては、この中央の凸部を無くしている。該深皿燃焼室Aは、ピストンの外径をBとし、該ピストンに設けた深皿燃焼室Aの内径をDとし、深皿燃焼室Aの深さをHとする。
深さH/内径D<0.25
に構成している。また深皿燃焼室Aの底面4は平坦に構成しており、燃焼室開口比D/Bは、
0.6<D/B<0.7
に構成している。また、下部噴口2の噴口の延長中心cと、上部噴口1の噴口の延長中心cは一致すべく構成している。しかし、下部噴口2の噴口の延長中心cと、上部噴口1の噴口の延長中心cは一致することが限定要件ではなくて、同一軸心上の上下の位置であっても良いものである。」(段落【0007】)

(エ)「【0009】また、上部噴口1の列の各噴口間角度をα、下部噴口2の列の各噴口間角度をβとすると、
α=360°/n_(1), β=360°/n_(2)とし、等間隔に配置している。ピストンの軸心線に対する上部噴口1の角度をθ_(1)、同じく下部噴口2の角度をθ_(2)とすると、それぞれの噴口間での角度は一定でなくてもよく、±5°の範囲で変動させてもよい。また、ピストンの軸心線に対する上部噴口1の角度の平均値をθ_(1)mean 、下部噴口2がピストンの軸心線に対する角度の平均値をθ_(2)meanとすると、
15°< θ_(1)mean -θ_(2)mean <30°
に構成している。また、図2において図示する如く、平面視で上部噴口1は8口であるので、
α=45°,β=90°
となり、上部噴口1と下部噴口2とは上下に重なることがなく、千鳥状に配置されている。
【0010】該左右の上部噴口1,1の丁度真ん中に、下部噴口2が配置されている必要はなく、左右の上部噴口1,1の間であれば良い。本発明においては、上部噴口1からの噴霧燃料の燃焼と、下部噴口2からの噴霧燃料の燃焼とは、その燃焼のさせ方をわざと相違させるべく構成しているのである。この相違が、Noxと黒煙の低減と、燃費の低減に繋がっているのである。」(段落【0009】及び【0010】)

(オ)「【請求項1】 開口比の小なる深皿燃焼室Aに、上部噴口1と下部噴口2の2列の噴口から噴射すべく構成し、上部噴口1の列からの噴霧到達距離をL1とし、下部噴口2の列からの噴霧到達距離をL2とし、上部噴口1の単噴口径をd1、下部噴口2の単噴口径をd2とすると、
L1/d1=150?250, L2/d2=100?180
となるように噴射し、上部噴口1の噴射は深皿燃焼室Aの側壁3に、下部噴口2の噴射は深皿燃焼室Aの底面4に衝突すべく噴射し、
下部噴口総面積/噴口総面積=0.25?0.35
とし、上部噴口数n_(1) 、下部噴口数をn_(2) とすると、
n_(1) /n_(2) =2
としたことを特徴とするディーゼル機関の噴射ノズル。
【請求項2】 請求項1記載のディーゼル機関の噴射ノズルにおいて、上部噴口1の列の各噴口間角度をα、下部噴口2の列の各噴口間角度をβとすると、
α=360°/n_(1) β=360°/n_(2 )としたことを特徴とするディーゼル機関の噴射ノズル。」(第5ページ平成9年4月18日付け手続補正書【手続補正1】の【請求項1】及び【請求項2】)

(カ)「【0008】図1と図2に示す構成においては、上部噴口1を8口とし、下部噴口2をその半分の4口としている。そして、上部噴口1の列からの噴霧到達距離をL1とし、下部噴口2の列からの噴霧到達距離をL2とし、上部噴口1の単噴口径をd1、下部噴口2の単噴口径をd2とすると、
L1/d1=150?250, L2/d2=100?180
となるように噴射し、上部噴口1の噴射は深皿燃焼室Aの側壁3に、下部噴口2の噴射は深皿燃焼室Aの底面4に衝突すべく噴射し、
下部噴口総面積/噴口総面積=0.25?0.35
とし、上部噴口数をn_(1) 、下部噴口数をn_(2) とすると、
n_(1) /n_(2) =2
としている。」(第5ページ平成9年4月18日付け手続補正書【手続補正3】の【0008】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(カ)及び図面の記載からみて、次のことがわかる。

(キ)上記(1)の(ア)及び(ウ)並びに図1及び2の記載からみて、ピストンの上面中央部に穿設された円筒状の深皿燃焼室Aから燃焼室が構成されているが、図1からみて、ピストンは上下方向に摺動し、ディーゼル機関の噴射ノズルから直接噴射される燃料噴射の時期と燃料と空気の混合したものが圧縮して着火される着火時期とは異なることは明らかであり燃料噴射の期間もあることから、ピストンの外径B部分に対向するシリンダ部分とピストン上面に対向するシリンダヘッド部分とピストン上面とからなるピストン上面の上方空間も燃焼室の一部となることは明らかであり、図1の直接噴射式内燃機関の燃焼装置における燃焼室は、実際には、深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室であるといえる。この燃焼室のピストン上面及び深皿燃焼室Aの壁面からなる面は、燃焼室の可動終端壁面となっていることがわかる。

(ク)上記(1)の(ウ)ないし(カ)及び上記(キ)並びに図1及び2の記載からみて、ディーゼル機関の噴射ノズルのノズルの先端部分は、深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室と直接連通する部分であり、当該ノズルの先端部分は、外側のノズルの先端部分の表面部分と内側のノズルの先端部分の表面部分とを備え、内側のノズルの先端部分の表面部分と外側のノズルの先端部分の表面部分との間の流体連通、及び深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室内への直接的な流体連通を可能にする上部噴口1及び下部噴口2からなる複数の噴口を備えているといえる。
また、前記複数の噴口は、「下部噴口2の群」と「上部噴口1の群」とからなり、図1及び2からみて、各噴口が、内側のノズルの先端部分の表面部分における内側表面の開口と、外側のノズルの先端部分の表面部分における外側表面の開口とを有する複数の噴口とを備えているといえる。
さらに、図1及び2からみて、各噴口が、上死点付近のピストン位置においてピストンの上面凹部である深皿燃焼室A内に向かって延びる噴口の中心軸を有し、「下部噴口2の群」の内側表面の開口が、それぞれ、ピストンの軸心線と共通している深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室の軸心線に関して、「上部噴口1の群」の内側の各表面開口から離れて配置されているといえる。

(ケ)上記(1)の(ウ)ないし(カ)及び上記(ク)並びに図1及び2の記載からみて、下部噴口2の群の噴口の内側表面の開口に共通する仮想平面を「下部噴口2の群の共通する仮想平面」として想定し、同様に、上部噴口1の群の噴口の内側表面の開口に共通する仮想平面を「上部噴口1の群の共通する仮想平面」と想定すると、前記噴口の「上部噴口1の群」が、実質的に、「下部噴口2の群の共通する仮想平面」に実質的に平行な少なくとも「上部噴口1の群の共通する仮想平面」内に配置される内側表面の開口を含み、「下部噴口2の群」の噴口が、それぞれ、「下部噴口2の群の共通する仮想平面」から相対的に角度の大きい複数の鋭角の方向に延びる噴口の中心軸を有しており、この鋭角は「下部噴口2の群の共通する仮想平面」に垂直な平面(図1のピストンの軸心線を含む紙面に垂直な面)内で測定され、「上部噴口1の群」の噴口が、それぞれ、「上部噴口1の群の共通する仮想平面」から相対的に角度の小さい複数の鋭角の方向に延びる噴口の中心軸を有しており、この鋭角は「上部噴口1の群の共通する仮想平面」に垂直な平面(例えば、図1のピストンの軸心線を含む面)内で測定される、といえる。

(コ)上記(1)の(ウ)ないし(カ)及び上記(キ)及び(ク)並びに図1及び2の記載からみて、ディーゼル機関の噴射ノズルのノズルの先端部分の中心軸(図1及び2参照。)が、ピストンの軸心線と共通している深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室の軸心線と同心であり(図1及び2参照。)、かつ「下部噴口2の群の共通する仮想平面」及び「上部噴口1の群の共通する仮想平面」それぞれに対して垂直である、といえる。

(3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明A」という。)が記載されているものと認められる。

「直接噴射式内燃機関の燃焼装置であって、
深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室と、
深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室の可動終端壁面を構成するピストンと、
深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室と直接連通するノズルの先端部分を備えた噴射ノズルであって、そのノズルの先端部分が、
外側のノズルの先端部分の表面部分と、
内側のノズルの先端部分の表面部分と、
内側のノズルの先端部分の表面部分と外側のノズルの先端部分の表面部分との間の流体連通、及び深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室内への直接的な流体連通を可能にする、下部噴口2の群及び上部噴口1の群を含む複数の噴口であって、その各噴口が、内側のノズルの先端部分の表面部分における内側表面の開口と、外側のノズルの先端部分の表面部分における外側表面の開口とを有する複数の噴口と、
を含む噴射ノズルと
を備えており、さらに、
各噴口が、上死点付近のピストン位置においてピストンの上面凹部である深皿燃焼室A内に向かって延びる噴口の中心軸を有し、
下部噴口2の群の内側表面の開口が、それぞれ、深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室の軸心線に関して、上部噴口1の群の内側の各表面開口から離れて配置され、
前記噴口の下部噴口2の群が、実質的に下部噴口2の群の共通する仮想平面内に配置される内側表面の開口を含み、
かつ、
前記噴口の上部噴口1の群が、実質的に、下部噴口2の群の共通する仮想平面に実質的に平行な少なくとも上部噴口1の群の共通する仮想平面内に配置される内側表面の開口を含み、
下部噴口2の群の噴口が、それぞれ、下部噴口2の群の共通する仮想平面から相対的に角度の大きい複数の鋭角の方向に延びる噴口の中心軸を有しており、この鋭角は下部噴口2の群の共通する仮想平面に垂直な平面内で測定され、
上部噴口1の群の噴口が、それぞれ、上部噴口1の群の共通する仮想平面から相対的に角度の小さい複数の鋭角の方向に延びる噴口の中心軸を有しており、この鋭角は上部噴口1の群の共通する仮想平面に垂直な平面内で測定され、
ノズルの先端部分の中心軸が、深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室の軸心線と同心であり、かつ下部噴口2の群の共通する仮想平面及び上部噴口1の群の共通する仮想平面それぞれに対して垂直である、
直接噴射式内燃機関の燃焼装置。」


3-2.対比
本願補正発明と引用文献記載の発明Aとを対比すると、引用文献記載の発明Aにおける「直接噴射式内燃機関の燃焼装置」は、その機能及び形状や構造からみて、本願補正発明における「直接燃料噴射の燃焼室組立品」に相当し、以下同様に、「深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室」は「燃焼室」に、「ノズルの先端部分」は「ノズルチップ」に、「噴射ノズル」は「燃料噴射器」に、「外側のノズルの先端部分の表面部分」は「外側のノズルチップ表面部分」に、「内側のノズルの先端部分の表面部分」は「内側のノズルチップ表面部分」に、「下部噴口2の群」は「第1群」に、「上部噴口1の群」は「第2群」に、「噴口」は「流路」に、「噴口の中心軸」は流路の「縦軸」に、深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室の「軸心線」は燃焼室の「縦軸」に、「下部噴口2の群の共通する仮想平面」は「第1の共通平面」に、「上部噴口1の群の共通する仮想平面」は「第2の共通平面」に、ノズルの先端部分の「中心軸」はノズルチップの「縦軸」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明Aにおける「各噴口が、上死点付近のピストン位置においてピストンの上面凹部である深皿燃焼室A内に向かって延びる噴口の中心軸を有し」は、「各流路が、所定のピストン位置においてピストン内に向かって延びる縦軸を有し」という限りにおいて、本願補正発明における「各流路が、上死点前約30°のピストン位置においてピストン内に向かって延びる縦軸を有し」に相当する。
さらに、引用文献記載の発明Aにおける「相対的に角度の大きい複数の鋭角」は、「相対的に角度の大きい範囲を含む複数の鋭角」という限りにおいて、本願補正発明における「約55°以上の複数の鋭角アルファ(α)」に相当する。
さらにまた、引用文献記載の発明Aにおける「相対的に角度の小さい複数の鋭角」は、「相対的に角度の小さい範囲を含む複数の鋭角」という限りにおいて、本願補正発明における「約27.5°以上の複数の鋭角シータ(θ)」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用文献記載の発明Aとは、次の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「直接燃料噴射の燃焼室組立品であって、
燃焼室と、
燃焼室の可動終端壁面を構成するピストンと、
燃焼室と直接連通するノズルチップを備えた燃料噴射器であって、そのノズルチップが、
外側のノズルチップ表面部分と、
内側のノズルチップ表面部分と、
内側のノズルチップ表面部分と外側のノズルチップ表面部分との間の流体連通、及び燃焼室内への直接的な流体連通を可能にする、第1群及び第2群を含む複数の流路であって、その各流路が、内側のノズルチップ表面部分における内側表面の開口と、外側のノズルチップ表面部分における外側表面の開口とを有する複数の流路と、
を含む燃料噴射器と
を備えており、さらに、
各流路が、所定のピストン位置においてピストン内に向かって延びる縦軸を有し、
第1群の内側表面の開口が、それぞれ、燃焼室の縦軸に関して、第2群の内側の各表面開口から離れて配置され、
前記流路の第1群が、実質的に第1の共通平面内に配置される内側表面の開口を含み、
かつ、
前記流路の第2群が、実質的に、第1の共通平面に実質的に平行な少なくとも第2の共通平面内に配置される内側表面の開口を含み、
第1群の流路が、それぞれ、第1の共通平面から相対的に角度の大きい範囲を含む複数の鋭角の方向に延びる縦軸を有しており、この鋭角は第1の共通平面に垂直な平面内で測定され、
第2群の流路が、それぞれ、第2の共通平面から相対的に角度の小さい範囲を含む複数の鋭角の方向に延びる縦軸を有しており、この鋭角は第2の共通平面に垂直な平面内で測定され、
ノズルチップの縦軸が、燃焼室の縦軸と同心であり、かつ第1および第2の共通平面それぞれに対して垂直である、
燃焼室組立品。」

<相違点>
(1)相違点1a
各流路の縦軸の向きとピストン位置との関係に関し、
本願補正発明では、「上死点前約30°のピストン位置においてピストン内に向かって延びる」のに対し、引用文献記載の発明Aでは、上死点付近のピストン位置においてピストンの上面凹部である深皿燃焼室A内に向かって延びるが、「上死点前約30°のピストン位置においてピストン内に向かって延びる」かどうか不明である点(以下、「相違点1a」という。)。

(2)相違点2a
第1群の流路のそれぞれの縦軸の第1の共通平面からの角度及び第2群の流路のそれぞれの縦軸の第2の共通平面からの角度に関し、
本願補正発明では、第1群の流路のそれぞれの縦軸については「約55°以上の複数の鋭角アルファ(α)」であり、第2群の流路のそれぞれの縦軸については「約27.5°以上の複数の鋭角シータ(θ)」であるのに対し、引用文献記載の発明Aでは、第1群の流路のそれぞれの縦軸については「相対的に角度の大きい複数の鋭角」であり、第2群の流路のそれぞれの縦軸については「相対的に角度の小さい複数の鋭角」である点(以下、「相違点2a」という。)。


3-3.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1aについて
本願補正発明も引用文献記載の発明Aもいずれも「各流路が、所定のピストン位置においてピストン内に向かって延びる縦軸を有し」ていることで一致している。
また、内燃機関の燃焼室に直接燃料噴射する燃料噴射器において、当該燃料噴射器のノズルチップの各流路の縦軸を上死点前の途中のピストン位置においてピストンの上面凹部内に向かって延びるようにする事項は従来周知の事項(以下、「周知事項」という。必要があれば、例えば、特開平10-274086号公報の特に、請求項1及び4、段落【0023】及び【0024】、【0037】及び【0038】並びに図4及び6参照。当該文献では、燃料噴射器のノズルチップの各流路の縦軸をおおよそ上死点前30°前後のピストン位置においてピストンの上面凹部内に向かって延びている。)であるから、約30°のピストン位置とすることは単なる設計事項にすぎない。
そうすると、引用文献記載の発明Aにおいて、各流路の縦軸の向きとピストン位置との関係について上記周知事項を採用し、上記相違点1aに係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る事項にすぎない。

(2)相違点2aについて
本願補正発明も引用文献記載の発明Aもいずれも、第1群の流路のそれぞれの縦軸については「相対的に角度の大きい範囲を含む複数の鋭角」であり、第2群の流路のそれぞれの縦軸については「相対的に角度の小さい範囲を含む複数の鋭角」であることで一致している。
また、内燃機関の燃焼室に直接燃料噴射しノズルチップに複数群の流路を有する燃料噴射器において、NO_(X)や燃費等を考慮したような燃焼状態とするために、ノズルチップの下側の群の流路のそれぞれの縦軸についての角度及び前記下側の群よりも上の上側の群の流路のそれぞれの縦軸についての角度等の流路に関するパラメータの数値又は数値範囲を選択する事項は、周知慣用の事項(以下、「周知慣用事項A」という。必要があれば、国際公開第02/02928号の特に、明細書第6ページ第17ないし34行、第8ページ第15行ないし第9ページ第23行、第11ページ第15行ないし第12ページ第20行及び表1並びに第1、3Aないし3D及び6図参照。ここで、前記の国際公開第02/02928号の明細書第11及び12ページの表1及び第6図には、内位列の噴射穴(本願補正発明の「第1群の流路」に相当。)の弁中心軸線33(本願補正発明の「ノズルチップの縦軸」に相当。)からの傾斜角度γ_(i)が「13°<γ_(i)<27°」であることが記載されており、この数値範囲を本願補正発明の「第1の共通平面」に相当する仮想平面からの角度「90°-γ_(i)」に換算すると「77°>「90°-γ_(i)」>63°」となり本願補正発明の「約55°以上」の数値範囲とかなりの部分で重複しており、また、外位列の噴射穴(本願補正発明の「第2群の流路」に相当。)の弁中心軸線33(本願補正発明の「ノズルチップの縦軸」に相当。)からの傾斜角度γ_(a)が「22°<γ_(a)<48°」であることが記載されており、この数値範囲を本願補正発明の「第2の共通平面」に相当する仮想平面からの角度「90°-γ_(a)」に換算すると「68°>「90°-γ_(a)」>42°」となり本願補正発明の「約27.5°以上」の数値範囲とかなりの部分で重複している。また、実願昭62-51673号(実開昭63-160372号)のマイクロフィルムの特に、明細書第1及び2ページの実用新案登録請求の範囲、明細書第4ページ第20行ないし第5ページ第5行及び第5ページ第20行ないし第6ページ第9行並びに第1ないし3、5及び6図参照。)である。
そうすると、引用文献記載の発明Aにおいて、第1群の流路のそれぞれの縦軸の第1の共通平面からの角度及び第2群の流路のそれぞれの縦軸の第2の共通平面からの角度について上記周知慣用事項Aを採用し、上記相違点2aに係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の事項にすぎない。

また、本願補正発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明A、周知事項及び周知慣用事項Aから予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


3-4.まとめ
したがって、本願補正発明は、引用文献記載の発明A、周知事項及び周知慣用事項Aに基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。


【3】本願発明について
1.本願発明の内容
平成22年3月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし130に係る発明は、平成21年9月24日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲、平成19年3月12日付けの手続補正書により補正された明細書及び平成18年1月27日付けの特許法第184条の5第1項の規定による書面とともに提出された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし130に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、請求項1に記載されたとおりの次のものである。

「【請求項1】
直接噴射燃料噴射器のノズルチップであって、
外側のノズルチップ表面部分と、
内側のノズルチップ表面部分と、
内側のノズルチップ表面部分と外側のノズルチップ表面部分との間の流体連通、及び内燃機関の燃焼室内への直接的な流体連通を可能にする複数の流路であって、その各流路が、内側のノズルチップ表面部分における内側表面の開口と、外側のノズルチップ表面部分における外側表面の開口とを有する複数の流路と、
内側表面の開口が実質的に第1の共通平面内に配置され、少なくとも6個の流路を含む前記流路の第1群と、
内側表面の開口が、実質的に、第1の共通平面に実質的に平行な少なくとも第2の共通平面内に配置される前記流路の第2群と
を備えており、さらにこの第2群は第1群よりも多数の流路を有し、
第1群の内側表面の開口が第2群の内側表面の開口より末端側に配置され、
第1群の流路が、それぞれ、第1の共通平面から約55°以上の複数の鋭角アルファ(α)の方向に延びる縦軸を有しており、この角度アルファ(α)は第1の共通平面に垂直な平面内で測定され、
第2群の流路が、それぞれ、第2の共通平面から約27.5°以上の複数の鋭角シータ(θ)の方向に延びる縦軸を有しており、この鋭角シータ(θ)は第2の共通平面に垂直な平面内で測定される、
ノズルチップ。」


2.引用文献記載の発明
(1)原査定の拒絶理由で引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献(特開平10-288131号公報)の記載事項は、前記【2】の[理 由]の3.の3-1.の(1)及び(2)に記載したとおりである。

(2)前記【2】の[理 由]の3.の3-1.の(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明B」という。)が記載されているものと認められる。

「ディーゼル機関の噴射ノズルのノズルの先端部分であって、
外側のノズルの先端部分の表面部分と、
内側のノズルの先端部分の表面部分と、
内側のノズルの先端部分の表面部分と外側のノズルの先端部分の表面部分との間の流体連通、及び内燃機関の深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室内への直接的な流体連通を可能にする複数の噴口であって、その各噴口が、内側のノズルの先端部分の表面部分における内側表面の開口と、外側のノズルの先端部分の表面部分における外側表面の開口とを有する複数の噴口と、
内側表面の開口が実質的に下部噴口2の群の共通する仮想平面内に配置され、上部噴口1の群の噴口の個数の半分の個数で複数個の噴口を含む前記噴口の下部噴口2の群と、
内側表面の開口が、実質的に、下部噴口2の群の共通する仮想平面に実質的に平行な少なくとも上部噴口1の群の共通する仮想平面内に配置される前記噴口の上部噴口1の群と
を備えており、さらにこの上部噴口1の群は下部噴口2の群よりも多数の噴口を有し、
下部噴口2の群の内側表面の開口が上部噴口1の群の内側表面の開口より末端側に配置され、
下部噴口2の群の噴口が、それぞれ、下部噴口2の群の共通する仮想平面から相対的に角度の大きい複数の鋭角の方向に延びる噴口の中心軸を有しており、この鋭角は下部噴口2の群の共通する仮想平面に垂直な平面内で測定され、
上部噴口1の群の噴口が、それぞれ、上部噴口1の群の共通する仮想平面から相対的に角度の小さい複数の鋭角の方向に延びる噴口の中心軸を有しており、この鋭角は上部噴口1の群の共通する仮想平面に垂直な平面内で測定される、
ノズルの先端部分。」


3.対比
本願発明と引用文献記載の発明Bとを対比すると、引用文献記載の発明Bにおける「ノズルの先端部分」は、その機能及び形状や構造からみて、本願発明における「ノズルチップ」に相当し、以下同様に、「外側のノズルの先端部分の表面部分」は「外側のノズルチップ表面部分」に、「内側のノズルの先端部分の表面部分」は「内側のノズルチップ表面部分」に、「深皿燃焼室A及びピストン上面の上方空間からなる燃焼室」は「燃焼室」に、「噴口」は「流路」に、「下部噴口2の群の共通する仮想平面」は「第1の共通平面」に、「下部噴口2の群」は「第1群」に、「上部噴口1の群の共通する仮想平面」は「第2の共通平面」に、「上部噴口1の群」は「第2群」に、「噴口の中心軸」は流路の「縦軸」に、それぞれ相当する。
また、引用文献記載の発明Bにおける「ディーゼル機関の噴射ノズル」は、その機能及び形状や構造からみて、本願発明における「直接噴射燃料噴射器」に包含される。
さらに、引用文献記載の発明Bにおける「上部噴口1の群の噴口の個数の半分の個数で複数個」は、「複数個」という限りにおいて、本願発明における「少なくとも6個」に相当する。
さらにまた、引用文献記載の発明Bにおける「相対的に角度の大きい複数の鋭角」は、「相対的に角度の大きい範囲を含む複数の鋭角」という限りにおいて、本願発明における「約55°以上の複数の鋭角アルファ(α)」に相当する。
さらにまた、引用文献記載の発明Bにおける「相対的に角度の小さい複数の鋭角」は、「相対的に角度の小さい範囲を含む複数の鋭角」という限りにおいて、本願発明における「約27.5°以上の複数の鋭角シータ(θ)」に相当する。

したがって、本願発明と引用文献記載の発明Bとは、次の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「直接噴射燃料噴射器のノズルチップであって、
外側のノズルチップ表面部分と、
内側のノズルチップ表面部分と、
内側のノズルチップ表面部分と外側のノズルチップ表面部分との間の流体連通、及び内燃機関の燃焼室内への直接的な流体連通を可能にする複数の流路であって、その各流路が、内側のノズルチップ表面部分における内側表面の開口と、外側のノズルチップ表面部分における外側表面の開口とを有する複数の流路と、
内側表面の開口が実質的に第1の共通平面内に配置され、複数個の流路を含む前記流路の第1群と、
内側表面の開口が、実質的に、第1の共通平面に実質的に平行な少なくとも第2の共通平面内に配置される前記流路の第2群と
を備えており、さらにこの第2群は第1群よりも多数の流路を有し、
第1群の内側表面の開口が第2群の内側表面の開口より末端側に配置され、
第1群の流路が、それぞれ、第1の共通平面から相対的に角度の大きい範囲を含む複数の鋭角の方向に延びる縦軸を有しており、この鋭角は第1の共通平面に垂直な平面内で測定され、
第2群の流路が、それぞれ、第2の共通平面から相対的に角度の小さい範囲を含む複数の鋭角の方向に延びる縦軸を有しており、この鋭角は第2の共通平面に垂直な平面内で測定される、
ノズルチップ。」

<相違点>
(1)相違点1b
第1群の流路の個数に関し、
本願発明では、「少なくとも6個」であるのに対し、引用文献記載の発明Bでは、「上部噴口1の群の噴口の個数の半分の個数で複数個」である点(以下、「相違点1b」という。)。

(2)相違点2b
第1群のそれぞれの流路の第1の共通平面からの角度及び第2群のそれぞれの流路の第2の共通平面からの角度に関し、
本願発明では、第1群のそれぞれの流路については「約55°以上の複数の鋭角アルファ(α)」であり、第2群のそれぞれの流路については「約27.5°以上の複数の鋭角シータ(θ)」であるのに対し、引用文献記載の発明Bでは、第1群のそれぞれの流路については「相対的に角度の大きい複数の鋭角」であり、第2群のそれぞれの流路については「相対的に角度の小さい複数の鋭角」である点(以下、「相違点2b」という。)。


4.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1bについて
本願発明も引用文献記載の発明Bもいずれも第1群の流路の個数が「複数個」であることで一致している。
また、内燃機関の燃焼室に直接燃料噴射し複数群の流路を有する燃料噴射器のノズルチップにおいて、ノズルチップの下側の群の流路の個数又は個数の範囲等を選択する事項は、周知慣用の事項(以下、「周知慣用事項B1」という。必要があれば、原査定の拒絶理由において引用された国際公開第02/02928号の特に、明細書第6ページ第17ないし34行、第8ページ第15行ないし第9ページ第23行、第11ページ第15行ないし第12ページ第20行及び表1並びに第1、3Aないし3D及び6図参照。ここで、前記の国際公開第02/02928号の第3Aないし3C図には、内位列27の外周噴射穴27(本願発明の「第1群の流路」に相当。)の個数が6個であることが記載されている。また、実願昭62-51673号(実開昭63-160372号)のマイクロフィルムの特に、明細書第1及び2ページの実用新案登録請求の範囲及び明細書第4ページ第20行ないし第5ページ第5行並びに第1ないし3図参照。)である。
そうすると、引用文献記載の発明Bにおいて、第1群の流路の個数について上記周知慣用事項B1を採用し、上記相違点1bに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の事項にすぎない。

(1)相違点2bについて
本願発明も引用文献記載の発明Bもいずれも、第1群のそれぞれの流路については「相対的に角度の大きい範囲を含む複数の鋭角」であり、第2群のそれぞれの流路については「相対的に角度の小さい範囲を含む複数の鋭角」であることで一致している。
また、内燃機関の燃焼室に直接燃料噴射する燃料噴射器のノズルチップに複数群の流路を有するノズルチップにおいて、NO_(X)や燃費等を考慮したような燃焼状態とするために、ノズルチップの下側の群のそれぞれの流路についての角度及び前記下側の群よりも上の上側の群のそれぞれの流路についての角度等の流路に関するパラメータの数値又は数値範囲を選択する事項は、周知慣用の事項(以下、「周知慣用事項B2」という。必要があれば、原査定の拒絶理由において引用された国際公開第02/02928号の特に、明細書第6ページ第17ないし34行、第8ページ第15行ないし第9ページ第23行、第11ページ第15行ないし第12ページ第20行及び表1並びに第1、3Aないし3D及び6図参照。ここで、前記の国際公開第02/02928号の明細書第11及び12ページの表1及び第6図には、内位列の噴射穴(本願発明の「第1群の流路」に相当。)の弁中心軸線33からの傾斜角度γ_(i)が「13°<γ_(i)<27°」であることが記載されており、この数値範囲を本願発明の「第1の共通平面」に相当する仮想平面からの角度「90°-γ_(i)」に換算すると「77°>「90°-γ_(i)」>63°」となり本願発明の「約55°以上」の数値範囲とかなりの部分で重複しており、また、外位列の噴射穴(本願発明の「第2群の流路」に相当。)の弁中心軸線33からの傾斜角度γ_(a)が「22°<γ_(a)<48°」であることが記載されており、この数値範囲を本願発明の「第2の共通平面」に相当する仮想平面からの角度「90°-γ_(a)」に換算すると「68°>「90°-γ_(a)」>42°」となり本願発明の「約27.5°以上」の数値範囲とかなりの部分で重複している。また、実願昭62-51673号(実開昭63-160372号)のマイクロフィルムの特に、明細書第1及び2ページの実用新案登録請求の範囲、明細書第4ページ第20行ないし第5ページ第5行及び第5ページ第20行ないし第6ページ第9行並びに第1ないし3、5及び6図参照。)である。
そうすると、引用文献記載の発明Bにおいて、第1群のそれぞれの流路の第1の共通平面からの角度及び第2群のそれぞれの流路の第2の共通平面からの角度について上記周知慣用事項B2を採用し、上記相違点2bに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の事項にすぎない。

また、本願発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明B、周知慣用事項B1及び周知慣用事項B2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献記載の発明B、周知慣用事項B1及び周知慣用事項B2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-08 
結審通知日 2011-03-11 
審決日 2011-03-23 
出願番号 特願2006-509243(P2006-509243)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
P 1 8・ 575- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 芳枝  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 柳田 利夫
金澤 俊郎
発明の名称 内燃機関の燃料噴射ノズル  
代理人 谷 義一  
代理人 阿部 和夫  
復代理人 伊藤 勝久  

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