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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1242053
審判番号 不服2009-5402  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-12 
確定日 2011-08-18 
事件の表示 平成11年特許願第154711号「炭素繊維強化炭素複合材及び単結晶引き上げ装置用部材」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 4月 4日出願公開、特開2000- 95567〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年6月2日(国内優先権主張 平成10年6月4日)の出願であって、平成20年9月8日付けで拒絶理由が起案され(発送日は同年同月16日)、同年11月10日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成21年2月6日付けで拒絶査定がなされ(発送日は同年同月10日)、これに対して、同年3月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年4月13日付けで審判請求書の請求の理由に係る手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?4に記載される発明は、平成20年11月10日付け手続補正書により補正された本願明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「ピッチ及び/又は樹脂の含浸により緻密化した後、CVIにより熱分解炭素の含浸層を形成し、更に前記含浸層の上にCVDにより熱分解炭素の被覆層を形成してなり、
前記含浸層及び前記被覆層の密度差が0.2g/cm^(3)以下である炭素繊維強化炭素複合材。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶理由は、「この出願は、平成20年9月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」とするものであり、平成20年9月8日付け拒絶理由通知書に記載の理由1は、この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとするものであり、同理由2は、この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
そこで、上記理由1、2について、本願発明がなお特許を受けることができないものかどうかを以下で検討する。

4.刊行物の記載
4-1.原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の優先日前である平成1年8月25日に頒布された刊行物である特開平1-212277号公報(以下「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。
(刊1-ア)「(1)炭素繊維成形体10?70VOL%および炭素質マトリックス5?80VOL%から構成され、かつ空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料の空隙部に気相熱分解により炭素を沈積充填し、続いてこの充填物の表面に気相熱分解により炭素を沈積被覆することを特徴とする炭素/炭素複合材料の製造法。」(【特許請求の範囲】)
(刊1-イ)「ここでいう炭素繊維成形体とは、連続した炭素繊維の500?25000本の繊維束を一方向積層物、2次元織物あるいはその積層物、3次元織物、マット状成形物、フェルト状成形物など炭素繊維を2次元あるいは3次元の成形体としたものである。炭素繊維としては、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系あるいはレーヨン系などの炭素繊維が使用できるが、耐酸化性に優れることおよび熱膨張率が小さいことからピッチ系炭素繊維が好ましい。また炭素質マトリックスとは炭素質ピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂などの炭化により得られるものであり、なかでも炭素質ピッチの炭化により得られるものが好ましい。炭素質ピッチとしては、軟化点100?400℃、好ましくは150?350℃を有する石炭系あるいは石油系のピッチが用いられろ。炭素質ピッチは、光学的に等方性のピッチあるいは異方性のピッチいずれも使用できるが、光学的異方性相の含量が60?100%、好ましくは80?100%の光学的異方性ピッチが特に好ましく用いられる。
空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料は、炭素質ピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂などを前記したような炭素繊維の織物あるいは成形物などに含浸した後、常圧下、加圧下あるいはプレス下で炭化して得られる。」(2頁右上欄4行?同頁左下欄3行)
(刊1-ウ)「空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料とするために、含浸/炭化のサイクルを必要回数重ねて繊密化をすることができる。 本発明においては、空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料の空隙部に気相分解により炭素を沈積充填し、続いてこの充填物の表面に気相分解により炭素を沈積被覆する。空隙部に気相分解により炭素を沈積充填する操作はCVI(CHEMICAL VAPOR INFILTRATION)と呼ばれており、またこの充填物の表面に気相分解により炭素を沈積被覆する操作はCVD(CHEMICAL VAPOR DEPOSITION)と呼ばれている。CVIあるいはCVDにより、炭素を沈積する場合、炭素を得るための熱分解ガスとしては炭化水素、好ましくはC1?C6の炭化水素、具体的には、メタン、天然ガス、プロパン、ベンゼン等が用いられる。 CVIにより炭素/炭素複合材料の空隙部に炭素を沈積充填する場合、反応条件は、温度T_(1)が900-1500℃、圧力P_(1)が0.1?50Torrである。一方CVDにより、充填物の表面に気相熱分解により炭素を沈積被覆する場合、温度T_(2)は1200?2000℃、圧力P_(2)は5?760Torrである。」(2頁右下欄2?20行)
(刊1-エ)「(実施例1)
直径10μmのピッチ系炭素繊維2000本を用いた直交3次元織物に軟化点280℃、光学的異方性相の含有率が100%の光学的異方性ピッチを含浸した。含浸物を100kg/cm^(2)のプレス圧で、700℃においてホットプレスし、さらに常圧下、1200℃で1時間炭化処理して炭素/炭素複合材料を得た。得られた炭素/炭素複合材料は炭素繊維30VOL%および炭素質マトリックス47.5VOL%から構成され、かつ空隙率が22.5%であった。この炭素/炭素複合材料を加熱炉中におき、メタンを流しながら、温度T_(1)=1200℃、圧力P_(1)=2Torrで熱CVIを行い、空隙部に気相分解により炭素を沈積充填し、続いて条件を温度T_(2)=1200℃、圧力P_(2)=20Torrまで連続的に変化させたのち、表面に熱CVDにより炭素を沈積被覆した。・・・得られたものは、炭素/炭素複合材料の空隙部にCVIによる炭素が均一に沈着しており、表面にはCVDによる炭素の沈着があった。また表面の剥離も見られなかった。」(3頁右上欄3?20行)
(刊1-オ)「(比較例1)
炭素繊維30VOL%および炭素質マトリックス62VOL%から構成され、かつ空隙率が8%の炭素/炭素複合材料を加熱炉中におき、メタンを流しながら、1200℃、20Torrにおいて表面に熱CVDにより炭素を沈積被覆した。得られたものを走査電子顕微鏡で観察したところ、眉間剥離を起こしていた。」(3頁左下欄1?6行)
(刊1-カ)「(実施例2)
実施例1における空隙率が22.5%を有する炭素/炭素複合材料を、メタンを原料ガスとして、温度T_(1)=1270℃、圧力P_(1)=2TorrにおいてCVIを行い、ついで温度T_(2)=1270℃、圧力P_(2)=2TorrにおいてCVDを行った。・・・得られたものは、炭素/炭素複合材料の空隙部にCVIによる炭素が均一に沈着しており、表面にはCVDによる炭素の沈着があった。また表面の剥離も見られなかった。」(3頁左下欄7?15行)
(刊1-キ)「(実施例3)
実施例1で用いたピッチ系炭素繊維の直交3次元織物に光学的異方性ピッチを含浸した含浸物を100kg/cm^(2)のプレス圧で、700℃においてホットプレスして炭素/炭素複合材料を得た。得られた炭素/炭素複合材料は炭素繊維30VOL%および炭素質マトリックス47.5VOL%から構成され、かつ空隙率が22.5%であった。これを、メタンを原料ガスとして、温度T_(1)=1300℃、圧力P_(1)=5TorrにおいてCVIを行い、ついで温度T_(2)=1300℃、圧力P_(2)=5TorrにおいCVDを行つた。・・・得られたものは、炭素/炭素複合材料の空隙部にCVIによる炭素が均一に沈着しており、表面にはCVDによる炭素の沈着があった。かき密度1.43g/cc、曲げ強度18kg/mm^(2)であった。また表面の剥離も見られなかった。」(3頁左下欄16行?同頁右上欄9行)

4-2.原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願の優先日日前である平成10年3月3日に頒布された刊行物である特開平10-59795号公報(以下「周知例1」という。)には次の事項が記載されている。
(周1-ア)「ここで、炭素繊維強化炭素複合材(C/C材)とは、炭素繊維にピッチ又は樹脂を含浸させてプリプレグにして成形し、炭素化処理、黒鉛化処理を施して得られたものであり、黒鉛の特性を有しつつ機械的強度を向上させたものである。」(【0008】)
(周1-イ)「このようにして形成された炭素繊維強化炭素複合材の表面におけるSiOガスによるSiC変成を阻止又は遅らせるために、この表面の微小な開気孔に熱分解炭素(PyC)の被膜を生成する。・・・
ここで熱分解炭素(PyC)とは、炭化水素類、例えば炭素数1?8特に炭素数3の炭化水素ガスもしくは炭化水素化合物を熱分解させて基材の深層部まで浸透析出せしめる高純度の被膜である。」(【0009】、【0010】)
(周1-ウ)「ここで言うCVD法とは、前述した熱分解炭素(PyC)を基材の開気孔のより内部にまで浸透析出させる所謂CVI法を包含する方法であって、炭化水素類あるいは炭化水素化合物に対して濃度調整用として通常窒素ガスまたは水素ガスを用い、炭化水素濃度3?30%好ましくは5?15%とし、全圧を100Torr以下の操作をする。このような操作を行った場合、炭化水素が基材表面および内部で脱水素、熱分解、重合などによって巨大炭素化合物を形成し、これが基材上に沈積、析出し、更に脱水素反応が進み緻密なPyC膜が形成され、あるいは浸透して含浸させる。析出の温度範囲は一般に800?2500℃までの広い範囲であるが、できるだけ深く内部まで含浸するためには1300℃以下の比較的低温領域でPyCを析出させることが望ましい。また、C/C材の内部に存在する多数の開気孔表面にまでPyCを析出浸透させるためには、析出速度を0.2μm/hr以下に遅くコントロールして行うことが適している。さらに、PyCの含浸の程度を高めるために、等温法、温度勾配法、圧力勾配法等が使用でき、時間の短縮および緻密化を可能にするパルス法を使用してもよい。」(【0012】)
(周1-エ)「この熱分解炭素の被膜の形成を、例えばCVD法の析出速度の速い条件により短時間に行うと、図2(b)に示すように開気孔4の開口部を覆うに止まり、その内部にまで十分に被覆することができない。この場合には強度的に不安定な上記の開口部に亀裂6を生じ、熱分解炭素膜で被覆されない内側部分をSiOガス存在下の外部に晒す恐れがある。あるいは開気孔4の開口部を塞ぐことがないとしても、図2(c)に示すように開気孔4の内部にまで十分に被覆することができず、上記の場合と同様に熱分解炭素で被覆されない部分をSiOガス存在下の外部に晒すことになる。
従って、その表面に多くの開気孔4が存在するルツボ本体2に十分な被膜を形成するためには、熱分解炭素の析出速度を十分遅くし、開気孔4の内部まで成膜させる必要がある。その熱分解炭素の析出速度は、0.2μm/hr以下とする必要がある。このように析出速度が遅い熱分解炭素の被膜を形成するためには、前記CVI法が適している。」(【0019】、【0020】)として、【図2】には、るつぼを構成するC/C材の表面に形成された「熱分解炭素の皮膜3」について、図2(a)にはCVI法によって作成されたものの表面状態(【0017】参照)が、図2(b)(c)には、CVD法によって作成されたものの表面状態を窺うことができる。

4-3.本願の優先日前である平成9年11月18日に頒布された刊行物である特開平9-295889号公報(以下「周知例2」という。)には次の事項が記載されている。
(周2-ア)「ここで、炭素繊維強化炭素複合材とは、炭素繊維にピッチ又は樹脂を含侵させてマトリックスにして成形し、炭素化処理、黒鉛化処理を施して得られたものであり、黒鉛の特性を有しつつ機械的強度を向上させたものである。・・・このようにして形成された炭素繊維強化炭素複合材料は内部に炭素繊維を有する複合材であるがために、表面に開気孔等に起因する凹凸が多く微小な窪みが存在しており、単なる黒鉛材や炭素材に比較して表面積が大きい。この表面でのSiC変成を阻止又は遅らせるために、この表面の微小な窪みの内部も含めて熱分解炭素(PyC)を被覆する。」(【0011】)
(周2-イ)「ここで、CVI法とは前述した熱分解炭素(PyC)を浸透析出させる方法であって、前述した炭化水素類あるいは炭化水素化合物に対して濃度調整用として通常窒素ガスまたは水素ガスを用い、炭化水素濃度3?30%好ましくは5?15%とし、全圧を100Torr好ましくは50Torr以下の操作をする。このような操作を行った場合、炭化水素が基材表面付近で脱水素、熱分解、重合などによって巨大炭素化合物を形成し、これが基材上に沈積、析出し、更に脱水素反応が進み緻密なPyC膜が形成され、あるいは浸透して含浸させる。析出の温度範囲は一般に800?2500℃までの広い範囲であるが、できるだけ多く含浸するためには1300℃以下の比較的低温領域でPyCを析出させることが望ましい。また析出時間は100時間好ましくは50時間以上の長時間にすることが、20μm以下のように薄いPyCを形成させるのに適している。また含浸の程度を高めるために、等温法、温度勾配法、圧力勾配法等が使用でき、時間の短縮および緻密化を可能にするパルス法を使用してもよい。なお、CVD法(化学気相蒸着法)は分解生成する炭素を組織中に直接沈着させるものであって、CVI法のように基材の内部まで含浸成膜させることはできず、短時間に厚い熱分解炭素を沈着させるにとどまる。」(【0016】)
(周2-ウ)「CVD法のように短時間に被膜を形成した場合には、図3(b)に示すように開気孔21の開口部を覆うに止まり、その内部にまで十分に被覆することができない。この場合には強度的に不安定な上記の開口部に亀裂を生じ、熱分解炭素膜で被覆されない内側部分をSiOガス存在下の外部に晒す恐れがある。あるいは開気孔21の開口部を塞ぐことがないとしても、図3(c)に示すように開気孔21の内部にまで十分に被覆することができなくなり、上記の場合と同様に熱分解炭素膜で被覆されない部分をSiOガス存在下の外部に晒すことになる。
従って、その表面に多くの開気孔21(窪み)が存在するシードチャックを十分に被覆するためには、熱分解炭素膜の析出速度を十分遅くし、開気孔の内部まで成膜させる必要があり、膜の平均厚さは20μm以下である。またこのような析出速度が遅く薄い熱分解炭素膜を得るためには、前記CVI法が適している。本実施態様の例においては、上記のCVI法を用いることにより基材の内部まで十分に含浸され、平均厚さ10μmの熱分解炭素膜で被覆したシードチャックを得ることができた。」【0019】【0020】として、【図3】には、C/C材の表面に形成された「熱分解炭素皮膜5」について、図3(a)にはCVI法によって作成されたものの表面状態が、図3(b)(c)には、CVD法によって作成されたものの表面状態を窺うことができる。

5.当審の判断
5-1.引用発明の認定
刊行物1の記載事項について検討する。
a)上記(刊1-ア)から、刊行物1には「炭素繊維成形体10?70VOL%および炭素質マトリックス5?80VOL%から構成され、かつ空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料の空隙部に気相熱分解により炭素を沈積充填し、続いてこの充填物の表面に気相熱分解により炭素を沈積被覆することを特徴とする炭素/炭素複合材料の製造法」に関する発明が記載されている。
b)上記(刊1-ウ)には「・・・本発明においては、空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料の空隙部に気相分解により炭素を沈積充填し、続いてこの充填物の表面に気相分解により炭素を沈積被覆する。空隙部に気相分解により炭素を沈積充填する操作はCVI(CHEMICAL VAPOR INFILTRATION)と呼ばれており、またこの充填物の表面に気相分解により炭素を沈積被覆する操作はCVD(CHEMICAL VAPOR DEPOSITION)と呼ばれている」と記載されており、「空隙部に気相熱分解により炭素を沈積充填」する操作は「CVI」によって行われ、「充填物の表面に気相熱分解により炭素を沈積被覆」する操作は「CVD」によって行われるものといえ、その際の「炭素」は「熱分解炭素」ということができる。
c)上記摘示事項(刊1-ア)、(刊1-ウ)を、上記の検討にしたがって、本願発明の記載ぶりに則して表現すると、刊行物1には、
「炭素繊維成形体10?70VOL%および炭素質マトリックス5?80VOL%から構成され、かつ空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料の空隙部にCVIにより熱分解炭素を沈積充填し、続いてこの充填物の表面にCVDにより熱分解炭素を沈積被覆することを特徴とする炭素/炭素複合材料の製造法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

5-2.本願発明と引用発明との対比
i)上記(刊1-イ)には、「ここでいう炭素繊維成形体とは、連続した炭素繊維の500?25000本の繊維束を一方向積層物、2次元織物あるいはその積層物、3次元織物、マット状成形物、フェルト状成形物など炭素繊維を2次元あるいは3次元の成形体としたものである。・・・炭素質マトリックスとは炭素質ピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂などの炭化により得られるものであり・・・空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料は、炭素質ピッチ、フェノール樹脂、フラン樹脂などを前記したような炭素繊維の織物あるいは成形物などに含浸した後、常圧下、加圧下あるいはプレス下で炭化して得られる」とあり、さらに上記(刊1-ウ)には「空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料とするために、含浸/炭化のサイクルを必要回数重ねて繊密化をすることができる」と記載されていることから、引用発明では、炭素繊維成形体に炭素質ピッチや樹脂を含浸し緻密化して、空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料を得るものであり、それが引用発明の「炭素繊維成形体10?70VOL%および炭素質マトリックス5?80VOL%から構成され、かつ空隙率が10?55%である炭素/炭素複合材料」であるから、これは本願発明の「炭素繊維強化炭素複合材」の「ピッチ及び/又は樹脂の含浸により緻密化」した段階のものに相当する。
ii)引用発明の「CVI」は「空隙部にCVIにより熱分解炭素を沈積充填」する操作であり、本願発明では「CVI法によって、熱分解炭素を含浸させる。これによって、表層部内部に残存する気孔を埋めることができる」(本願【0014】)ものであり、「空隙部」は「気孔」と同義だから、引用発明の「空隙部にCVIにより熱分解炭素を沈積充填」することは、本願発明の「CVIにより熱分解炭素の含浸層を形成」することに相当するということができる。
また、引用発明の「CVD」は「この充填物の表面にCVDにより熱分解炭素を沈積被覆」する操作であり、「CVI」操作によって「熱分解炭素」の「充填物」すなわち「含浸層」が生成されたその表面にさらに「熱分解炭素」の「被覆」を行うものであるから、引用発明の「続いてこの充填物の表面にCVDにより熱分解炭素を沈積被覆する」ことは、本願発明の「更に前記含浸層の上にCVDにより熱分解炭素の被覆層を形成」することに相当する。
iii)そして、上記i)、ii)の検討を踏まえれば、引用発明も本願発明も、製造方法が共通するから、引用発明の「炭素/炭素複合材料」は本願発明の「炭素繊維強化炭素複合材」に相当する。
iv)以上から本願発明と引用発明とは
「ピッチ及び/又は樹脂の含浸により緻密化した後、CVIにより熱分解炭素の含浸層を形成し、更に前記含浸層の上にCVDにより熱分解炭素の被覆層を形成してなる炭素繊維強化炭素複合材。」
である点(一致点)で一致し、次の点で両者は一応相違する。

(相違点)本願発明では、「含浸層及び被覆層の密度差が0.2g/cm^(3)以下である」であるのに対し、引用発明では、CVIにより沈積充填された熱分解炭素の含浸層と、その表面にCVDにより沈積被覆された熱分解炭素の被覆層との密度差が明らかでない点

5-3.相違点の検討
(1)CVDとCVIによる熱分解炭素の堆積について考察する。
第一に、周知例1の記載を見ると、(周1-ア)、(周1-イ)から「炭素繊維強化炭素複合材(C/C材)」には、「CVD」によって「表面の微小な開気孔に熱分解炭素(PyC)の被膜を生成する」ものであり、(周1-ウ)から、「ここで言うCVD法とは、前述した熱分解炭素(PyC)を基材の開気孔のより内部にまで浸透析出させる所謂CVI法を包含する方法」とあるので、「表面の微小な開気孔に熱分解炭素(PyC)の被膜を生成する」ためにCVDの一つであるCVIが用いられることが理解される。
そして、CVIとCVDの差異について、(周1-ウ)には、「析出の温度範囲は・・・できるだけ深く内部まで含浸するためには1300℃以下の比較的低温領域でPyCを析出させることが望ましい。また、C/C材の内部に存在する多数の開気孔表面にまでPyCを析出浸透させるためには、析出速度を0.2μm/hr以下に遅くコントロールして行うことが適している」と記載され、(周1-エ)には「CVD法の析出速度の速い条件により短時間に行う」と、生成した「熱分解炭素膜」が「開気孔4の開口部を覆う」などして「開気孔4の内部にまで十分に被覆することができ」ないので、「熱分解炭素の析出速度を十分遅くし、開気孔4の内部まで成膜させる必要があ」り、「このように析出速度が遅い熱分解炭素の被膜を形成するためには、前記CVI法が適している」ことが記載されている。
第二に、周知例2の記載を見ると、(周2-ア)、(周2-イ)から「炭素繊維強化炭素複合材(C/C材)」には、「表面に開気孔等に起因する凹凸が多く微小な窪みが存在」するので、「CVI法」により「熱分解炭素(PyC)を浸透析出させる」ものであることが理解される。
そして、CVIとCVDの差異について、(周2-イ)には、「CVD法(化学気相蒸着法)は分解生成する炭素を組織中に直接沈着させるものであって、CVI法のように基材の内部まで含浸成膜させることはできず、短時間に厚い熱分解炭素を沈着させるにとどまる」とあり、(周2-ウ)には「CVD法のように短時間に被膜を形成」すると、生成した「熱分解炭素膜」が「開口部を覆う」などして「開気孔21の内部にまで十分に被覆することができな」いので、「熱分解炭素膜の析出速度を十分遅くし、開気孔の内部まで成膜させる」には「CVI法を用いること」で「基材の内部まで十分に含浸され」ることが記載されている。
そうすると、CVIは、析出速度が遅いので、炭素繊維強化炭素複合材(C/C材)の内部に存在する多数の開気孔内にまで熱分解炭素(PyC)を浸透析出させることができるものであり、CVD法はCVI法を包含するものであり、CVD法は狭義には析出速度が速く短時間に熱分解炭素を厚く析出させるものであると云うことは周知技術であるということができる。
(2)引用発明の実施例について
(注.この「(2)」では、上記刊行物1の(刊1-カ)、(刊1-キ)に記載の実施例2,3でのCVI、CVDには「」を付し、それ以外でCVI、CVDを指示するときは「」を付与しないで記載する。)
i)刊行物1の記載をみると、(刊1-カ)には、
「CVI」、「CVD」による熱分解炭素が析出される前の「炭素/炭素複合材料」に、
メタンガスを原料とし、温度T_(1)=1270℃、圧力P_(1)=2Torrにおいて「CVI」を行い、ついで
メタンガスを原料とし、温度T_(1)=1270℃、圧力P_(1)=2Torrにおいて「CVD」を行い、
得られたものは、炭素/炭素複合材料の空隙部に「CVI」による炭素が均一に沈着しており、表面には「CVD」による炭素の沈着があり、表面の剥離がなかった、とする実施例2が記載されている。
ii)また、(刊1-キ)には、
「CVI」、「CVD」による熱分解炭素が析出される前の「炭素/炭素複合材料」に、
メタンガスを原料として、温度T_(1)=1300℃、圧力P_(1)=5Torrにおいて「CVI」を行い、ついで
メタンガスを原料として、温度T_(2)=1300℃、圧力P_(2)=5Torrにおいて「CVD」を行い、
得られたものは、炭素/炭素複合材料の空隙部に「CVI」による炭素が均一に沈着しており、表面には「CVD」による炭素の沈着があり、表面の剥離がなかった、とする実施例3が記載されている。
iii)そして、(刊1-オ)には、比較例として、CVIを行わず、CVDのみを実施した場合には、剥離が生じることが記載されている。
iv)すると、上記二つの実施例を見ると、「CVI」と「CVD」との両方が連続して行われているから剥離が生じないと云うことができる。
また、上記二つの実施例では、「CVI」と「CVD」とは同じ原料ガスで連続して行われており、上記周知技術を勘案すれば、炭素/炭素複合材料の空隙部に析出速度が遅い「CVI」により炭素が均一に沈着した後に、「CVI」の温度圧力条件を変化させずに「CVD」を行ったものであり、炭素が均一に沈着した部分の上に、「CVI」と同様の遅い析出速度での「CVD」によって炭素が析出されていくものと云える。
ここで、上記「CVD」は析出速度が遅いのだから、上記周知技術に照らせば、その実質はCVIであり、上記「CVD」はCVDとは云えないのではないかとも考えられる。
しかしながら、刊行物1の(刊1-ウ)には「CVIにより炭素/炭素複合材料の空隙部に炭素を沈積充填する場合、反応条件は、温度T_(1)が900-1500℃、圧力P_(1)が0.1?50Torrである。一方CVDにより、充填物の表面に気相熱分解により炭素を沈積被覆する場合、温度T_(2)は1200?2000℃、圧力P_(2)は5?760Torrである」と記載されるように、CVIとCVDとでは温度圧力条件が重複する場合があり、実施例2,3はこの場合に相当する。
そして、上記実施例では「CVI」と「CVD」とで温度、圧力、原料ガスが同じで、刊行物1に記載の範囲で他に相違する条件は見いだせない。
すると、「CVD」では、「CVI」で沈積充填により空隙部が埋められて略平坦状になった面の上に、「CVI」と同様の遅い析出速度で所望の膜厚となるまで当該面が沈積被覆されていくものと推測され、空隙部を埋める沈積と、その後の略平坦状になった面上への所望厚さまでする沈積とでは、必要な沈積に要する時間は相違するであろうから、「CVI」と「CVD」とでは、少なくともその時間の点で相違するものであり、「CVD」は、当該時間の点で「CVI」とは異なるという意味で、広義にはCVDであるということができる。
すると、上記実施例では「CVI」と「CVD」とで温度、圧力、原料ガスが同じで、所望の膜厚が達成されるまでCVDが実施されたのだから、「CVI」による熱分解炭素の含浸層と「CVD」による熱分解炭素の被覆層とは同じ密度のものであることが推測され、そうであるからこそ「剥離がない」ものということができる。
そうでないとしても、「剥離がない」程度に両者間の密度差が小さいものということができる。
v)以上から、引用発明では、「CVI」により沈積充填された熱分解炭素の含浸層と、その表面に「CVD」により沈積被覆された熱分解炭素の被覆層との密度差はないということができるので、上記相違点は実質的に相違点とはいえない。
vi)また、引用発明において、「CVI」により沈積充填された熱分解炭素の含浸層と、その表面に「CVD」により沈積被覆された熱分解炭素の被覆層との密度差があったとしても、それは「剥離がない」程度に両者間の密度差が小さいものということができるから、どの程度の密度差までなら剥離しないかを実験等で求めることに格別の困難性は見いだせない。

6.請求人の主張について
請求人は、平成21年4月13日付けの審判請求書の請求の理由に係る手続補正書の2?3頁で「このようにCVIとCVDとを同程度の温度で行った場合、同じ密度の膜(同じ密度の充填層と被覆層)を得るためにはCVDによる膜形成を高いガス圧力により処理する必要があります。しかし、高いガス圧力下において膜形成を行う場合、被覆される炭素源が煤状化してしまい、結晶化された被膜が形成されない恐れがあります。このような理由から、CVIとCVDとが同程度の温度で行われると、たとえ2層が形成されたとしても本願のような密度が接近した充填層と被覆層とを形成することはできないと推測されます。また、CVIとCVDとを同温度及び同圧力で行うと、本願のような含浸層と被覆層とは形成されません。また、本願の段落0017及び図1から同温度では理論上は密度差が生じないことが予測できますが、低温域では核が成長しにくいため低温状態を維持しながら充填層と被覆層とを形成すると、前記の如く被覆される炭素源が煤状化することで本願のような密度差の小さい含浸層と被覆層とは形成されません。なお、引用文献1の実施例4では、充填層と被覆層との形成に際して温度を変化させていますが、本願の段落0017及び図1からこの温度変化では2層の密度差を小さくすることができません。
このため、引用文献1の発明では、本願の上述のBの特徴、即ち含浸層及び前記被覆層の密度差を0.2g/cm^(3)以下とすることは実現されず、単に、沈積充填(CVI法)と沈積被覆(CVD法)と連続して行ったとしても本願の密度差は実現されません。」と主張している。
しかしながら、以下のように判断する。
i)「CVIとCVDとを同程度の温度で行った場合、同じ密度の膜(同じ密度の充填層と被覆層)を得るためにはCVDによる膜形成を高いガス圧力により処理する必要があります。しかし、高いガス圧力下において膜形成を行う場合、被覆される炭素源が煤状化してしまい、結晶化された被膜が形成されない恐れがあります。このような理由から、CVIとCVDとが同程度の温度で行われると、たとえ2層が形成されたとしても本願のような密度が接近した充填層と被覆層とを形成することはできないと推測されます。」と主張するが、その根拠が文献や本願明細書中の記載として示されておらず、真偽が明らかでない。
例えば刊行物1の実施例5(4頁左上欄?右上欄)で、CVIとCVDとを同程度の温度(1150℃)で、CVIの圧力5torr、CVDの圧力100torrと「高いガス圧力下」で実施されているが、「表面に熱CVDにより炭素を沈積被覆した」、「表面の剥離も見られなかった」と記載されていることから、所望の炭素膜は形成されており、さらに剥離しないことから、密度が接近した充填層と被覆層とが形成されていると推測されるので、上記主張は採用できない。
ii)「本願の段落0017及び図1から同温度では理論上は密度差が生じないことが予測できますが、低温域では核が成長しにくいため低温状態を維持しながら充填層と被覆層とを形成すると、前記の如く被覆される炭素源が煤状化することで本願のような密度差の小さい含浸層と被覆層とは形成されません。」と主張するが、本願【0017】には「低温域では基材温度が核成長に充分な温度でないため、核が殆ど成長せず、気相中で析出した核が基材上に堆積し高密度となる。」と記載されており、「低温域」でも「堆積し高密度」となることが記載されており、CVDが低温で行われても「密度差の小さい含浸層と被覆層とは形成」され得ると推測されるので、上記主張は採用できない。

7.むすび
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
また、本願発明は、刊行物1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-17 
結審通知日 2011-06-21 
審決日 2011-07-04 
出願番号 特願平11-154711
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武重 竜男正 知晃  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
吉川 潤
発明の名称 炭素繊維強化炭素複合材及び単結晶引き上げ装置用部材  
代理人 須原 誠  
代理人 梶 良之  

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