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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1242165
審判番号 不服2007-31406  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-21 
確定日 2011-08-19 
事件の表示 特願2005- 39819「腎マクラデンサ細胞の単離・識別方法、不死化腎マクラデンサ細胞の樹立方法及びその細胞株並びに形質転換動物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月31日出願公開、特開2006-223162〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は,平成17年2月16日の出願であって,平成19年10月9日付で拒絶査定がなされたところ,平成19年11月21日に審判請求がなされ,その後平成23年2月28日付けで拒絶理由が通知され,これに対し平成23年5月9日に意見書が提出され,さらに平成23年5月27日に上申書が提出されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項6及び13に係る発明(以下,「本願発明6」及び「本願発明13」という。)は,平成19年8月31日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項6及び13に記載された次のとおりのものである。

「【請求項6】
nNOS(神経型NO合成酵素)プロモーターとレポーター遺伝子を含むマーカー遺伝子を被検動物(ヒトを除く。)に導入することを特徴とする、腎マクラデンサ細胞特異的にレポーター遺伝子を発現する形質転換動物の作製方法。」及び
「【請求項13】
請求項1?5のいずれかの方法により得られた腎マクラデンサ細胞を使用することを特徴とする高血圧症用医薬のスクリーニング方法。」

なお,引用される請求項1は,「nNOS(神経型NO合成酵素)プロモーターとレポーター遺伝子を含むベクターを腎遠位尿細管細胞中に導入し、レポーター遺伝子が発現した細胞を採取することを特徴とする腎マクラデンサ(緻密斑)細胞の単離方法。」というものである。

第3 当審の拒絶理由
平成23年2月28日付けで通知した拒絶理由の概要は,本願発明6は、その出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明,及びその出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,また,本願発明13について,本願は、明細書及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていないということを含むものである。

第4 当審の判断
1.特許法第29条第2項について
(1)日本国内又は外国において公然知られた発明
平成16年10月7日に,岡崎コンファレンスセンター2階小会議室において行われた「平成16年度生理学研究所研究会 細胞内シグナル伝達機構の多角的・包括的理解」において,本願の発明者等は,「nNOS-GFP transgenicマウスの作製による腎マクラデンサ細胞機能の研究」なる表題での発表(以下,単に「発表」という。)を行った。
発表の内容の詳細を回答するようにと,合議体が審尋したところ,平成23年1月29日に発表に使用したスライド内容が上申書に添付して提出された。そこには,つぎのものが含まれている。

これらには,腎遠位尿細管由来細胞株に,nNOS遺伝子のエクソン1cの開始点から上流278塩基?下流49塩基部分のnNOSプロモーター領域(KnNOSプロモーター)と,EGFP遺伝子を含むベクターを導入したところ,マクラデンサ細胞でGFPが発現したこと,また,トランスジェニックマウスを作成したところ,KnNOSプロモーターは,小脳プルキンエ細胞,及び骨格筋の一部での発現を除けば,内在性nNOSの発現パターン(exon1c-mRNA)とほぼ同じであったこと,KnNOSプロモーターはマクラデンサ細胞でも機能し,GFPによる標識に成功したことが示され,発表により,これらのことが公然と知られるに至ったものと推定できる。

(2)引用例
当審における拒絶の理由にて引用された,本願出願日前に頒布された刊行物である「The Journal of Biological Chemistry, Vol. 277, No. 28, (2002) pp. 25798-25814」(以下,「引用例」という。)には,
図1Bに,nNOSのエクソン1cの5’及び3’隣接領域が図示されるとともに,その脚注に,この研究で報告された塩基配列は,EMBL/GenBankデータベースに,アクセッション番号AJ308545で寄託されていることが記載され,
図1Cに,nNOSエクソン1cの基礎的プロモーターの配列が記載されている。

(3)対比
発表により公然と知られるに至った発明における,KnNOSプロモーター,EGFP遺伝子,及びマウスは,本願発明6のnNOS(神経型NO合成酵素)プロモーター,レポーター遺伝子,及び被検動物(ヒトを除く。)に相当するものである。
そうすると,本願発明6と発表により公然と知られるに至った発明の間に差異はないことになるが,その一方,発表により公然と知られるに至った発明においては,トランスジェニックマウスを作成した具体的手順が明らかにされていない。

(4)判断
KnNOSプロモーターは,引用例の記載から容易に得ることができるものであり,また,EGFP遺伝子も当業者によく知られ,周知のものであるから,当業者はこれらの材料を用い,周知のトランスジェニックマウスの作成方法によって,発表により公然と知られるに至った発明を容易に実施し,本願発明6のごとくすることができる。
したがって,本願発明6は,発表により公然と知られるに至った発明及び引用例に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお,請求人は,平成23年5月9日の意見書において,発表において,「本発明に至る方法・技法の中核部分を話したものでない」と主張し,また,平成23年5月27日の上申書においても,「発明の根幹ではなく『このようにすれば遺伝的に均一なMD細胞を単離できるという研究デザイン』(研究者としてごく普通の発表)をしただけです。スライドはすべて使用していますが、先ほども述べたように、発明の根幹を開示していません。」と主張しているが,発表に用いられたスライドからは,マクラデンサ細胞に特異的に発現しているnNOSのプロモーター領域により、マクラデンサ細胞を蛍光で識別するという,本願発明6の根幹となるアイデアが明確に読み取れるのであるから,研究デザインであったとしても,発明の根幹を開示したものであることは明白である。

2.特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号について
平成23年2月28日付けの拒絶理由通知において,「請求項13は,腎マクラデンサ細胞を使用する高血圧症用医薬のスクリーニング方法の発明であるが,実施例4には,NOS阻害剤をスクリーニングできる方法の記載はあるが,高血圧症用医薬をスクリーニングできる方法についての説明はなく,該発明について,当業者が実施できる程度に明確かつ十分な記載がないし,そのような発明が発明の詳細な説明に記載されたことにならない」ことが指摘されている。
そして本願明細書の記載をみても,高血圧症用医薬の候補となる物質が,マクラデンサ細胞に与える影響がどのようなものかさえも,全く説明されていないので,マクラデンサ細胞を使用して,高血圧症用医薬をスクリーニングしようするときに,どのようなアッセイ系を構築すればよいのか,全く明らかになっていない。
したがって,本願発明13に関して,本願の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したことにならないし,そのような発明が発明の詳細な説明に記載されたことにならない。

請求人は,平成23年5月27日の上申書において,本件発明の技術的困難性はその根幹となる技術思想に存するのであり、個別の技術要素は、明細書の開示をもってすれば、当業者には実施可能であることを主張しているが,マクラデンサ細胞を取得するための技術と,マクラデンサ細胞を用いて高血圧症用医薬をスクリーニングする技術とは,技術的特徴が異なっているのであるから,当業者がマクラデンサ細胞を得ることができたからといって,マクラデンサ細胞を用いた高血圧症用医薬をスクリーニングが実施できることにはならないことは当然のことである。

第5 むすび
以上のとおりであるから,本願発明6は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであり,また,本願発明13について,本願の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

したがって,本願に係るその他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-06 
結審通知日 2011-06-14 
審決日 2011-06-27 
出願番号 特願2005-39819(P2005-39819)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C12N)
P 1 8・ 121- WZ (C12N)
P 1 8・ 537- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 内田 俊生
加々美 一恵
発明の名称 腎マクラデンサ細胞の単離・識別方法、不死化腎マクラデンサ細胞の樹立方法及びその細胞株並びに形質転換動物  
代理人 小澤 信彦  

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