• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1242654
審判番号 不服2010-7526  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-09 
確定日 2011-08-31 
事件の表示 特願2006-117356「スピーカーシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月10日出願公開、特開2006-211724〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、特願2004-130168号(出願日:平成16年4月26日)の分割出願として平成18年4月21日に出願されたものであって、平成21年10月13日付け拒絶理由通知に対して平成21年12月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが平成22年1月8日に拒絶査定がされたものであり、これに対して平成22年4月9日に拒絶査定不服審判が請求されている。

2.本願発明の認定

本願の発明は、平成21年12月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された請求項1から請求項8までに記載した事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明は、下記のとおりである。

【請求項1】
それぞれのスピーカーユニットの軸が水平方向の一直線上に位置する、左スピーカーと右スピーカーと中央スピーカーとを有し、該左スピーカー、右スピーカーおよび中央スピーカーのエンクロージャーとして機能する、水平台部と;
該水平台部を水平に保持する脚部と
を備え、
該水平台部に仕切壁が設けられ、該左スピーカー、右スピーカーおよび中央スピーカーの容積空間が、それぞれ独立して規定されている、
スピーカーシステム。
(以下、これを「本願発明」という。)

3.引用刊行物記載の発明

原査定の拒絶の理由で引用された刊行物1(長岡鉄男,長岡鉄男最新スピーカークラフト3 バックロードの傑作,日本,音楽之友社,1993年12月20日,初版第3刷,P.195-202)には、図面とともに以下の内容が記載されている。

(ア)「テレビ用ラック一体型」(195頁表題)について、「構造上の最も大きな違いは三本のユニットの配置だ。」(196頁上欄14行)、「三本のユニットを同一平面上にマウントすることにした。」(196頁上欄18行)と記載されている。

(イ)テレビ用ラック一体型の断面図(197頁ユニット配線図)には、「三本のユニットを同一平面上にマウントする」構成が記載されている。

(ウ)198頁には、複数枚の板を組み立ててテレビ用ラック一体型を構成することが示されており、202頁の「なお、スタイルからして「凱旋門」と命名することにした。」との記載を参酌すれば、
フロント正面の板16に左、右及び中央の三本のスピーカーユニット用の穴を一平直線上に設けること、
板16の穴の位置に、左、右及び中央の三本のスピーカユニットを同一平面上にマウントすること、
その際に、板16、22、1、6、9、19からなる構成体は、スピーカーユニットを収容すること、
板6、9、12、13、17、18、20、21で構成される2つの支持部は、板16、22、1、6、9、19からなる構成体を水平に保持すること、
以上が見て取れる。

これらを総合すれば、刊行物1には、次の(エ)なる発明が記載されている。
以下、これを引用発明という。

[引用発明]
(エ)三本のスピーカユニットを有し該スピーカーユニットの軸が水平方向の一直線上に位置する、左チャンネルスピーカーと右チャンネルスピーカーと中央チャンネルスピーカーとを有し、該左チャンネルスピーカー、右チャンネルスピーカーおよび中央チャンネルスピーカーのエンクロージャーとして機能する、板16、22、1、6、9、19からなる構成体と;
該構成体を水平に保持する板6、9、12、13、17、18、20、21で構成される2つの支持部と
を備える、スピーカーシステム。

4.本願発明と引用発明の対比

本願発明と引用発明とを対比すると以下の対応が認められる。
スピーカとスピーカユニットとの違いをひとまず措くと、引用発明の「左、右及び中央の三本のスピーカーユニット」は、本願発明における「左スピーカー、右スピーカー及び中央スピーカー」に対応する。
引用発明における「板16、22、1、6、9、19からなる構成体」は三本のスピーカーユニットを収容することから、本願発明における「該左スピーカー、右スピーカーおよび中央スピーカーのエンクロージャーとして機能する、水平台部」に相当する。
引用発明における「該構成体を水平に保持する板6、9、12、13、17、18、20、21で構成される2つの支持部」は、上記構成体(すなわち、水平台部)を水平に保持することから、本願発明における「該水平台部を水平に保持する脚部」に相当する。

以上によれば、本願発明と引用発明とは、次の点で一致、あるいは相違する。

[一致点]
(オ)それぞれのスピーカーユニットの軸が水平方向の一直線上に位置する、左スピーカーと右スピーカーと中央スピーカーとを有し、該左スピーカー、右スピーカーおよび中央スピーカーのエンクロージャーとして機能する、水平台部と;
該水平台部を水平に保持する脚部と
を備える、スピーカーシステム。

[相違点]
(カ)本願発明では、「水平台部に仕切壁が設けられ、該左スピーカー、右スピーカーおよび中央スピーカーの容積空間が、それぞれ独立して規定されている」のに対し、 引用発明では、このような構成が存在しない点。

5.相違点の判断

上記相違点(カ)について検討する。

そもそも、複数のスピーカーを用いて音響信号を出力するものにおいて理想的な空間音響出力をするためには、個々のスピーカーが最適に設計された独立した容積空間のエンクロージャーを用いることが望ましいことは自明である。独立した容積空間であれば、個々のスピーカーに適したエンクロージャーを設計しやすく、また、他のスピーカーの振動の干渉も回避することができるからである。引用発明において個々のスピーカーが独立した容積空間を有していないのは、そこまでの綿密な設計されていないというだけのことにすぎない。

換言すれば、ステレオ信号を再生するための複数のスピーカーが同一エンクロージャーに取り付けられるものにおいて、エンクロージャー内部が仕切り板によって区画するかしないかは単なる選択の問題である。

引用発明のスピーカーシステムは、各スピーカーに設けられた板に穴が形成されており、水平台部は各スピーカーに共通のエンクロージャーとなるため、各スピーカーの相互作用によって優れた音の移動感が阻害されてしまうという悪影響が発生することは当業者に自明な事項である。また、その悪影響を排除し、望ましい空間音響出力を実現するためには、容積空間を仕切り板によって独立して規定することが好ましいことも当業者に自明なことである。

したがって、引用発明において、左スピーカー、右スピーカーおよび中央スピーカーの容積空間を、それぞれ独立して規定することに格別の想考困難性は存在せず、そのように構成することは、当業者が極めて容易に想考することである。

なお、エンクロージャー部に複数のスピーカーが取り付けられたものにおいて、個々のスピーカーの容積空間を、それぞれ独立して設けることは周知である。
ステレオ信号を再生するための複数のスピーカーが同一エンクロージャーに取り付けられるものにおいて、エンクロージャー内部が仕切り板によって区画されることにより個々のスピーカーの容積空間が独立して設けられることは、例えば、特開平9-37372号公報(特に0026段落、第3図の記載)、特開2002-6847号公報(特に段落0008?0010、図5の記載)にも記載されている。

ところで、審判請求人は、審判請求書において次の主張をしている。 「しかも、引用文献1のスピーカーシステムはマトリクス構成であるので、中央スピーカーにはL-Rの成分が出力されます。このことから、そもそも、引用文献1のスピーカーシステムは、積極的に左スピーカーと中央スピーカー、及び、中央スピーカーと右スピーカーとを相互作用させており、左スピーカー、中央スピーカーおよび右スピーカーの相互作用を無くすという本願発明とは全く逆の技術思想を開示します。従って、引用文献1には、左スピーカー、中央スピーカーおよび右スピーカーの相互作用をなくすという技術的思想は全く存在しません。」
「また、上記の通り、引用文献1のスピーカーシステムは、マトリクス構成であり、積極的に左スピーカーと中央スピーカー、及び、中央スピーカーと右スピーカーとを相互作用させるものであり、左スピーカー、中央スピーカーおよび右スピーカーの相互作用を無くすという本願発明とは全く逆の技術思想を開示しますので、引用文献2又は3を組合せて、左スピーカー、中央スピーカーおよび右スピーカーの相互作用を無くようにする動機付けが全く存在しません。」
当該主張を検討するに、刊行物1には、その実施例において仕切り板に穴が形成されているものの、板取り図(第200頁)において寸法が60φと例示されるにとどまる。
また、当該穴はユニット配線図(第197頁)において、マトリクス配線に利用されていることから、当該穴がマトリクス配線を目的として形成されたものと推察することはできる。
しかしながら、刊行物1には「途中の穴が第一ダクトになって、ダブルバスレフ的動作にもなっているようだ。」(第201頁)ということが記載されているのみで、「積極的に左スピーカーと中央スピーカー、及び、中央スピーカーと右スピーカーとを相互作用させるものであり、」ということは記載されていない。

仕切り板に穴を設けてマトリクス配線に利用すれば、マトリクス配線が外部に露出せずに外見の美観向上という意匠効果は存在するが、そのような美観を問題としないのであれば、エンクロージャー外部で結線すればよいだけのことである。これは普通に実行されている手法であって、穴はマトリクス配線に不可欠なものではない。
また、刊行物1に記載されている構成は、入力される楽音信号が2チャンネルの場合に、これを3チャンネル信号に変換して3つのスピーカ楽音を発生することを前提と示しているためにマトリクス構成としているにすぎない。

夫々のスピーカを左スピーカー、中央スピーカー及び右スピーカーとして用いていることについては本願発明とはそもそも相違するものではなく、本件出願時において多チャンネル楽音信号を用いて楽音発生することは普通に行われていることであって、入力楽音信号がそもそも3チャンネル信号であるならば、そのような変換は不要であり、入力される3チャンネル信号がそのまま各スピーカに供給されることは当然のことである。
そうすると、マトリクス構成が不要であれば積極的に穴を設ける必要はないのであって、引用発明において穴を設けないのであれば、仕切り板によって、個々のスピーカーの容積空間は自ずと独立して設けられることになる。

無論、マトリクス構成でなく、入力される3チャンネル信号がそのまま各スピーカに供給されるように用いる際に、穴を設けないようにすることは必然ではないが、上記したように、望ましい空間音響出力を実現するためには、容積空間を仕切り板によって独立して規定することが好ましいことが当業者に自明なことであるから、当業者は、引用発明を多チャンネル入力楽音信号(左右チャンネル+センターチャンネルからなる3チャンネル信号)に用いる場合に、穴を無くして、個々のスピーカーの容積空間が、それぞれ独立して設けるようにすることを指向するであろう。

したがって、引用発明が本願発明とは全く逆の技術思想を開示しているために阻害要件があるという審判請求人の当該主張は、これを採用することはできない。

結局、上記相違点に係る構成は、周知技術の範囲にとどまるものであって、本願発明は引用発明に基づいてに当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび

以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、残る請求項2から請求項8に係る各発明について特に検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-29 
結審通知日 2011-07-04 
審決日 2011-07-19 
出願番号 特願2006-117356(P2006-117356)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 吉村 博之
古川 哲也
発明の名称 スピーカーシステム  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ