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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H02G
管理番号 1242743
審判番号 無効2011-800003  
総通号数 142 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-10-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-01-05 
確定日 2011-09-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第4575478号発明「配線ボックス」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第4575478号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 出願手続経緯
本件特許第4575478号に係る出願は,平成16年6月16日に特許出願した特願2004-178828号(優先日 平成15年7月11日,以下「原出願」という)の一部を平成20年6月30日に特願2008-170268号として新たな特許出願したものであり,本件出願の手続の経緯の概要は,以下のとおりである。

平成15年 7月11日 特願2003-273745号(先の出願)
平成16年 6月16日 特願2004-178828号(原出願)
平成20年 6月30日 本件出願(特願2008-170268号)
(先の出願に基づく優先権主張:平成15年 7月11日)
平成22年 8月27日 特許権の設定登録

2 審判手続経緯
これに対して,請求人より平成23年1月5日に本件無効審判の請求がなされたものであり,本件無効審判における手続の経緯の概要は,以下のとおりである。

平成23年 1月 5日 無効審判請求(甲第1?6号証)
3月25日 答弁書
6月30日 口頭陳述要領書(請求人)
6月30日 口頭陳述要領書(被請求人)
7月14日 上申書(被請求人)
7月14日 第1回口頭審理
7月14日 審理終結

第2 本件発明
本件特許発明1?3は,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。(以下「本件発明1」?「本件発明3」という)

「【請求項1】
底壁と、その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成されたボックス本体を備え、同ボックス本体の左右両側壁には、建物内の構造物にボックス本体を固定するための固定ビスを挿通可能な固定部がそれぞれ設けられているとともに、ボックス本体の上下両側壁の左側部及び右側部には、合成樹脂製の可撓性を有する電線管を接続するための接続孔がそれぞれ形成され、
同ボックス本体の左右両側壁の上端部及び下端部には、ボックス本体の側方に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されることにより、ボックス本体の左右両側壁に設けた固定部は、同ボックス本体の左右両側壁の上端部及び下端部に形成された挿入開口の間に配設され、 当該挿入開口に挿入された電線管を、前記固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向に沿って移動させることにより、当該電線管を接続孔に挿入可能に形成したことを特徴とする配線ボックス。
【請求項2】
前記固定部は左側壁及び右側壁の少なくとも一方に形成された固定孔の周縁部により構成され、前記固定孔はボックス本体の奥行き方向へ長孔状に延びるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の配線ボックス。
【請求項3】
前記電線管はその周方向に突出する凸条部が複数箇所に形成されているとともに、隣接する凸条部間に凹条部が形成されることにより凹凸状に形成され、前記接続孔の内周には前記電線管の凹条部に係合可能な係合部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配線ボックス。」

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
審判請求書および口頭陳述要領書によれば,請求人は,本件発明1?3は,本件特許出願前に頒布された刊行物の記載に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法29条2項の規定によって特許を受けることができないものであって,本件発明に付与された本件各特許は,同法123条1項2号の規定により,無効とすべきものであると主張し,甲第1?6号証を提出している。

甲第1号証 :特許第4575478号公報(本件特許掲載公報)
甲第2号証 :「2003-2004 電設資材総合カタログ」の抜
粋(表紙,P47?49,奥付)
甲第3号証 :「カタログの印刷の発注と納品の証明願」(株式会社
ケーエスアイ)
甲第4号証の1 :「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(東芝電材マーケティング株式会社)
甲第4号証の2 :「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(東芝電材マーケティング株式会社)
甲第4号証の3 :「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(三共電気株式会社)
甲第4号証の4 :「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(福西電機株式会社)
甲第4号証の5 :「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(因幡電機産業株式会社)
甲第4号証の6 :「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(株式会社たけでん)
甲第4号証の7 :「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(株式会社たけでん)
甲第4号証の8 :「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(株式会社たけでん)
甲第4号証の9 :「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(小川電機株式会社)
甲第4号証の10:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(トヨタ工業株式会社)
甲第4号証の11:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(因幡電機産業株式会社)
甲第4号証の12:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(宮地電機株式会社)
甲第4号証の13:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(因幡電機産業株式会社)
甲第4号証の14:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(三和電材株式会社)
甲第4号証の15:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(丸栄電機工業株式会社)
甲第4号証の16:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(広中電機株式会社)
甲第4号証の17:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願j(広中電機株式会社)
甲第4号証の18:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(広中電機株式会社)
甲第4号証の19:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(大栄金属株式会社)
甲第4号証の20:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(深田電機株式会社)
甲第4号証の21:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(株式会社電器堂)
甲第4号証の22:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(富山電気ビルディング株式会社)
甲第4号証の23:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(東京エレク総業株式会社)
甲第4号証の24:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(森田電機株式会社)
甲第4号証の25:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(ヤマト電機株式会社)
甲第4号証の26:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(トヨタ工業株式会社)
甲第4号証の27:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(外山電気株式会社)
甲第4号証の28:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(桜工業株式会社)
甲第4号証の29:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(株式会社扇港電機)
甲第4号証の30:「カタログの配布と配ボックスSM36Aの御発注・
納品の証明願」(ミツワ電機株式会社)
甲第5号証 :実用新案登録第2524247号公報
甲第6号証 :特開平9-289720号公報

2 被請求人の主張
これに対して,被請求人は,答弁書,口頭陳述要領書および上申書において,上記無効理由は理由がないと主張している。

第4 各証拠およびその内容
1 甲第2号証について
甲第2号証(以下「甲2」という)は,「2003-2004 電設資材総合力タログ」と題する,請求人が製造販売する製品を記載したカタログの抜粋(表紙,47?49頁,奥付)であって,甲第3号証および甲第4号証の1?30からみて,該カタログが,本件特許に係る出願の優先日(平成15年7月11日),すなわち,原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物であると認められる。なお,このことについては,請求人と被請求人との間において争いがない。
そして,甲2には,図面とともに,「配(ハイ)ボックス」について,次の事項が記載されている。

(甲2-ア)
「配(ハイ)ボックスの特長
1.コネクタを使わずにそのままCD管・PFS管・通信用フレキの配管ができます。
2.36mm厚から27mm厚まで、1個用?4個用まで豊富な商品バリエ-ションを用意しています。
3.マグネッコ、マグネボーイでボックスの探知ができます。
※全商品にアルミ探知ができるアルミ箔付です。
4.本間仕切、計量間仕切に取り付けできる取付金物や4mmバー取り付けシステムも充実しています。」(47頁上段)

(甲2-イ)
「配(ハイ)ボックス(ケーブル配線スイッチBOX)
配ボックスはコネクタなしでそのまま配管ができます。
配管するときは
波付管を直接、配(ハイ)ボックスヘ差し込んでください。
(コネクタ・ジョイナーは必要ありません。)
コーナーノックをペンチなどで折りとり、波付管の“2山目”を図のように強めに押しながら差し込んでください。」(48頁左上段)

そして,甲2の上記記載事項(甲2-ア),(甲2-イ)および47頁?49頁の図を総合し,また,審判請求書,答弁書,両口頭陳述要領書および上申書の両当事者の主張ならびに技術常識を考慮すると,甲2には以下のとおりの発明(以下「甲2発明」という)が記載されていると認められる。なお,口頭陳述要領書7頁14行?8頁4行において,被請求人は実質的に該甲2発明の認定を認めている。

「底壁と,その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成されたボックス本体を備え,同ボックス本体の左右両側壁には,建物内の構造物にボックス本体を取り付けるためのラッパねじを挿通可能な固定部がそれぞれ設けられているとともに,ボックス本体の上下両側壁の左側部及び右側部には、合成樹脂製の可撓性を有する保護管を接続するための接続孔がそれぞれ形成され,
同ボックス本体の底壁の上端部及び下端部の各左右両側には,ボックス本体の底壁側に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されており、
該挿入開口に挿入された保護管を,開口側に向かって移動させることにより、該保護管を接続孔に挿入可能に形成した,配ボックスであって,
前記固定部は,ボックス本体の左右両側壁の上端部および下端部の間に形成された固定孔の周縁部により構成され,該固定孔はボックス本体の奥行き方向へ長孔状に延びるように形成されており,
前記保護管は,波付きであって,その周方向に突出する凸条部が複数箇所に形成されているとともに、隣接する凸条部間に凹条部が形成されることにより凹凸状に形成され,前記接続孔の内周には前記保護管の凹条部に係合可能な係合部が設けられている,配ボックス。」

2 甲第5号証について
同様に本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には,図とともに,「電設用ボックス」について,次の事項が記載されている。

(甲5-ア)
「【請求項1】 内部空間に電線が導入される合成樹脂製で中空のボックス本体における外壁の所定箇所に、端部近傍箇所に環状溝を有する合成樹脂製の電線保護管における上記環状溝の溝底直径と同一径または略同一径で厚さが上記環状溝に嵌合可能な寸法に定められた保護管保持用口部が設けられ、この保護管保持用口部における周方向の所定箇所に、上記外壁の端縁で開放されて上記保護管を径方向で上記保護管保持用口部に抜き差し可能とする切欠口部が切欠形成され、その切欠口部の開口幅を上記保護管における環状溝の溝底直径よりもやゝ小さい寸法になるように狭めかつ上記保護管の環状溝に嵌合可能な厚さ寸法を有する突片が上記切欠口部と保護管保持用口部との境界箇所に設けられていることを特徴とする電設用ボックス。
【請求項2】 上記保護管保持用口部と上記切欠口部とを塞ぎかつ押圧力を加えることによりそれらの口部から分断される蓋板が、上記ボックス本体と一体に設けられている請求項1に記載の電設用ボックス。」

(甲5-イ)
「【0012】ボックスAは、その外壁としての底壁11および4つの側壁12・・・によって一面開放の箱形に成形されたボックス本体1を有しており、その外壁である所定の側壁12に円形の保護管保持用口部2が開設されている。図1には1つの側壁12に大きさの異なる2つの保護管保持用口部2,2が開設されたものを示してあり、各保護管保持用口部2,2の直径はそれぞれに対応する保護管Bの谷部92の谷底直径(すなわち環状溝92aの溝底直径)に合わせてある。すなわち、保護管保持用口部2の直径は、保護管Bにおける環状溝92aの溝底直径と同一径または略同一径に定められている。また、保護管保持用口部2はその周縁部を面取りすることにより薄肉化されており、その薄肉部21の厚さが上記環状溝92aに嵌合可能な寸法に定められている。なお、図1には下側の保護管保持用口部2に対応する保護管Bだけを示してあり、上側の保護管保持用口部2に対応する保護管については図示省略してある。」

(甲5-ウ)
「【0017】図1?図3において、61はボックス本体1に一体に設けられた取付用座部、62はたとえばスイッチパネル(不図示)を固定するための取付ねじ(不図示)の締付部である。」

(甲5-エ)
「【0021】上記電設用ボックスAにおいて、保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所や数は図示実施例に限定されるものではない。したがって、底壁11に設けておいてもよく、そのようにすることによってボックス本体1の内部空間に導入する電線についての方向性の規制が緩和される。また、2つの蓋体4,5を一体物としてもよく、さらに突片3,3は1つだけであってもよい。」

3 甲第6号証について
同様に本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には,図とともに,「配線用ボックス」について次の事項が記載されている。

(甲6-ア)
「【請求項1】 ボックス本体の周壁面を横切るようにケーブルを挿入して前記ボックス本体内を貫通させるべく、前記周壁面に切欠部が形成されたことを特徴する配線用ボックス。
【請求項2】 前記切欠部は、前記ボックス本体の側壁に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の配線用ボックス。
【請求項3】 前記切欠部は、その開口縁部に抜脱防止部が設けられたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配線用ボックス。」

(甲6-イ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は建築壁面等に取付けられ、内部にケーブルが配線される配線用ボックスに関するものである。」

(甲6-ウ)
「【0009】更に、配線用ボックス1は取付部3の対向側の側壁7にボックス本体2内を上下方向に貫通する切欠部8が形成されており、その切欠開口8aから側壁7を横切るようにケーブル11を挿入できるようになっている。前記切欠部8はケーブル11を挟持する大きさとしてもよく、或いは、切欠開口8aを狭くすることによってケーブル11が外方に抜脱しなければ単に挿通されるだけの大きさとしてもよい。なお、切欠部8はボックス本体2の上下の側壁にノックアウト部が形成されている場合には、それと連通して形成してもよい。また、切欠開口8aの両縁部を丸く面取加工しておけば、ケーブル11の挿入が容易となり、ケーブル11の傷付きを防止することもできる。」

(甲6-エ)
「【0013】ところで、上記実施例では、側壁7に切欠部8を形成しているが、図4に示すように、ボックス本体2の底壁9に形成しても構わない。なお、切欠部8は2個形成しているが、ケーブル11の本数に応じて適宜数とすればよい。但し、前記側壁7に切欠部8を形成した場合には、配線用ボックス1の側方からケーブル11を挿入できるため、壁厚の制限を受けずに挿入することができる。また、前記実施例では、ボックス本体2は箱状に形成されたものを示しているが、図5に示すように、周壁が円形状に形成された場合にも適用することができる。即ち、図において、周壁7aが円形状であるボックス本体2には、これを横切ってケーブル11が挿通されるべく周壁7aに切欠部8が形成されており、この場合にも前記箱状のボックス本体2と同様の作用、効果が期待できる。」

(甲6-オ)
「【0020】請求項2の発明の配線用ボックスは、請求項1に記載の切欠部がボックス本体の側壁に形成されたものである。したがって、特に、配線用ボックスの側方からケーブルを挿入できるため、壁厚の制限を受けずに挿入することができる。」

(甲6-カ)
「【0002】
【従来の技術】従来のこの種の配線用ボックスを図12に示す。図において、配線用ボックス1は取付部3において取付ネジを使用して木枠の縦桟21に取付けられている。この配線用ボックス1にケーブル11を配線するには、配線用ボックス1の側壁のノックアウト部1aを打抜いた、または、予め設けられた透孔にケーブル11を上方から挿入し、次いで、配線に必要となるケーブル11の余長部11aを巻き束ねて配線用ボックス1内に納め、その後、配線用ボックス1内に収容したケーブル11の余長部11aを壁表に引出してスイッチ等の配線器具に接続するようにしていた。」

(甲6-キ)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来の配線用ボックス1では、ケーブル11を内部に挿入するためにノックアウト部1aを打抜く必要があり、手間を要した。また、ノックアウト部1aの打抜き後の透孔或いは予め設けられた透孔にケーブル11をその先端部から挿入する作業が面倒であった。更に、余長部11aを丸く束ねて収容する作業も同様に面倒であった。そして、カッターを使用して穿設するときに、誤って束ねられた余長部11aのケーブル11を傷付けてしまうことがあった。」

(甲6-ク)
「【0004】そこで、本発明は、極めて簡単に、かつ、ケーブルを傷付けることなく、内部にケーブルを配線できる配線用ボックスの提供を課題とするものである。」

(甲6-ケ)
「【0019】
【発明の効果】以上のように、請求項1の発明の配線用ボックスは、ボックス本体の周壁面を横切るようにケーブルを挿入して前記ボックス本体内を貫通させるべく、前記周壁面に切欠部が形成されたものである。したがって、ケーブルを周壁面に側方から切欠開口に向かってずらすだけの極めて簡単な操作で切欠部内に挿入し、ボックス本体内に貫通した状態で収容することができる。また、余長部はケーブルを直線状態のままボックス本体内に貫通させて保持できるから、従来のように、丸く束ねて収容するといった面倒な作業が不要である。そして、余長部は束ねた状態で収容されていないので、カッターを使用して穿設するときに、誤って余長部のケーブルを傷付けてしまうこともない。」

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
甲2発明と本件発明1とを比較すると,甲2発明の「ラッパねじ」,「保護管」および「配ボックス」は,その機能・構成からみて,それぞれ,本件発明1の「固定ビス」,「電線管」および「配線ボックス」に相当することは明らかである。
そして,甲2発明の「同ボックス本体の底壁の上端部及び下端部の各左右両側には,ボックス本体の底壁側に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成されており、該挿入開口に挿入された保護管を,開口側に向かって移動させることにより、該保護管を接続孔に挿入可能に形成した」と,本件発明1の「同ボックス本体の左右両側壁の上端部及び下端部には、ボックス本体の側方に開口するとともに、前記接続孔に連通する挿入開口がそれぞれ形成され」「当該挿入開口に挿入された電線管を、前記固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向に沿って移動させることにより、当該電線管を接続孔に挿入可能に形成した」とは,「同ボックス本体には,前記接続孔に連通する挿入開口が形成されており,当該挿入開口に挿入された電線管を接続孔に挿入可能にした」の点において共通するといえる。

そうすると,以下の点で一致し,以下の点にて相違する。
「底壁と,その底壁から立設された側壁とより一面に開口を有する四角箱状に形成されたボックス本体を備え,同ボックス本体の左右両側壁には,建物内の構造物にボックス本体を固定するための固定ビスを挿通可能な固定部がそれぞれ設けられているとともに,ボックス本体の上下両側壁の左側部及び右側部には,合成樹脂製の可撓性を有する電線管を接続するための接続孔がそれぞれ形成され,
同ボックス本体には,前記接続孔に連通する挿入開口が形成されており,当該挿入開口に挿入された電線管を接続孔に挿入可能にした,配線ボックス。」

(相違点1)
「挿入開口」および「固定部」について,
本件発明1では「左右両側壁の上端部及び下端部には、ボックス本体の側方に開口するようにそれぞれ形成されることにより、ボックス本体の左右両側壁に設けた固定部が、同ボックス本体の左右両側壁の上端部及び下端部に形成された挿入開口の間に配設されている」のに対し,
甲2発明では「底壁の上端部及び下端部の各左右両側に,ボックス本体の底壁側に開口するようにそれぞれ形成され,ボックス本体の左右両側壁に設けた固定部が,挿入開口の間に配設されていない」点。

(相違点2)
「挿入開口に挿入された電線管」について,
本件発明1では,「固定ビスにより固定部が構造物に押し付けられた方向に沿って移動させる」のに対し,
甲2発明では,「開口側に向かって移動させ」ており,保護管をラッパねじにより固定部が構造物に押し付けられた方向とは直交する方向に移動させる点。

(2)相違点についての判断
まず,相違点1について検討する。
本件発明1が解決しようとする課題およびその効果について,本件明細書の段落【0004】には「・・・・・電設用ボックスの後面と、壁材の内面との間には、電線管を配設するための空間が形成されていないことがあった。その結果、電設用ボックスに電線管を接続することが不可能になってしまうという問題があった。」と記載され,同段落【0005】には「・・・・・その電設用ボックスの外壁を貫通した前記固定ビスにも、前記と同方向への力が作用してしまう。その結果、柱に固定された固定ビスが緩んだり、変形したりする不具合が発生する虞があるという問題があった。」と記載され,同段落【0012】には「・・・・・したがって、例えば、配線ボックスの後面に建物壁を構成する壁材が立設され、配線ボックスの後面と、壁材の内面との間に電線管を配設するための空間が形成されていなくても、電線管を接続孔に挿入し、接続することが可能となる。・・・・・そのため、電線管を挿入開口から接続孔に押し込むとき、その押し込む方向が、ボックス本体から構造物に向かう方向となり、電線管を押し込む力がボックス本体の前後方向へ作用することがない。・・・・・」と記載され,同段落【0013】には「本発明によれば、ボックス本体の側方から電線管を接続することができるとともに、電線管をボックス本体に接続する際に固定ビスに発生する不具合を無くすことができる。」と記載されている。
これらの記載からみて,相違点1による技術的意義は,「配線ボックスの後面と、壁材の内面との間に電線管を配設するための空間が形成されていなくても、電線管を接続孔に挿入し、接続することが可能となる」とともに「電線管をボックス本体に接続する際に固定ビスに発生する不具合を無くすことができる」ことにあるといえる。
一方,甲2発明においては,ケーブルを挿入させる場合と同様に,保護管を接続孔に挿入させる際には壁厚方向に後方から前方に移動させるものであるから,壁厚が小さい場合に保護管を扱うことは当然予想され,その際には固定する前に保護管を予め挿入しておく等の異なる対応が必要なことは,自明である。すなわち,保護管を挿入する場合とケーブルを挿入する場合とは,その施工において共通の技術課題が存在するといえる。
また,前記記載事項(甲2-イ)の「コーナーノックをペンチなどで折りとり、波付管の“2山目”を図のように強めに押しながら差し込んでください。」からみて,甲2発明においても,保護管を差し込む際には固定ビスに負荷がかかり,固定ビスによる固定が不完全である場合には,不具合が生ずることは当業者において自明のことであるといえる。
そして,上記記載事項(甲6-ア)?(甲6-オ)からみて,甲6には「配線用ボックス1において,壁厚の制限を受けずにケーブル11が挿入することができるように,その取付部3の対向側の側壁7にボックス本体2内を上下方向に貫通する切欠部8が形成され,その切欠開口8aから側壁7を横切るようにケーブル11を挿入する」という技術事項が記載されているといえる。そして,甲6の「配線用ボックス1」は,「ケーブル11」を挿入するものであって,「電線管」を接続するのではないものの,本件発明1および甲2発明も電線管の中にケーブルを挿通させるのであり,しかも,甲2の47頁の図から明らかなように,甲2発明はケーブルを直接挿通させることにも対応しているものであることからみて,甲6の「配線用ボックス1」は,両発明と同一の技術分野に属するものであるといえる。
そうすると,甲6記載の上記技術事項の解決課題は,「壁厚の制限を受けずに挿入できるようにする」,すなわち,配線用ボックスの後面と,壁材の内面との間にケーブルを配設するための空間が形成されていなくても,ケーブルを配線用ボックスに挿入できるようにすることであり,配線用ボックスにおける「ケーブル」と「電線管」の類似性からみて,この課題が,電線管を接続する配線用ボックスにも同様に存在することは,当業者において明らかであり,このような技術分野や解決課題の共通性からすると,電線管を接続する配線用ボックスの技術分野に属する当業者が,ケーブルを挿入する配線用ボックスの技術事項の適用を試みることは,通常の創作能力の発揮にすぎず,甲2発明に甲6記載の技術事項を適用する動機付けを一般的に否定することはできないというべきである。また,甲2発明の「電線管」に対して,該課題を解決するために,甲6記載の「ケーブル」についての上記技術事項を適用し,その挿入方向を変更することには,何ら阻害要因がないといえる。
また,上記記載事項(甲5-ア)?(甲5-オ),特に(甲5-エ)の「・・・・・保護管保持用口部2や切欠口部22を設ける箇所や数は図示実施例に限定されるものではない。・・・・・」からみて,甲5記載の「保護管保持用口部2」および「切欠口部22」は,それぞれ,本件発明1の「接続孔」および「挿入開口」に相当するものであり,該「切欠口部22」については,具体的に示されていないものの,必要に応じて図示されている箇所から変更可能であることが示唆されているといえる。
そして,甲2発明において,甲6記載の技術事項を適用して,保護管を側方から挿入できるようにするためには,必然的に,その「挿入開口」を「ボックス本体の底壁側に開口」から「ボックス本体の側方に開口」に変更することとなり,その結果,固定部が「ボックス本体の左右両側壁の上端部及び下端部に形成された挿入開口の間に配設され」ることなることは明らかである。

してみると,甲2発明において,甲5および6記載の技術事項を適用して,相違点1の本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る程度の事項であるというべきである。

次に,相違点2について検討すると,
甲2発明において,保護管を側方から挿入できるよう構成することは,ラッパねじにより固定部が構造物に押し付けられた方向に保護管を移動させることにより,保護管を接続孔に挿入可能に形成したこととなるのは自明であるといえる。そして,保護管の接続孔への挿入方向と「ラッパねじにより固定部が構造物に押し付けられた方向」が同一になることにより,「ラッパねじ」すなわち「固定ビス」に発生する不具合を無くすことができるということも,当業者ならば当然予測し得る範囲内の事項であるというべきである。

(3)効果について
相違点1および2により奏する本件特許明細書に記載された効果は,甲2甲5および甲6に記載された事項から容易に予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1は,甲2発明および甲5,6記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

2 本件発明2について
本件発明2は,本件発明1において,「前記固定部は左側壁及び右側壁の少なくとも一方に形成された固定孔の周縁部により構成され、前記固定孔はボックス本体の奥行き方向へ長孔状に延びるように形成されている」と限定したものである。
しかしながら,このような限定は,配線ボックスの分野において一般的に実施されている慣用手段の付加に過ぎず,本件発明2も,甲2発明および甲5,6記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

3 本件発明3について
本件発明3は,本件発明1あるいは本件発明2において,「前記電線管はその周方向に突出する凸条部が複数箇所に形成されているとともに、隣接する凸条部間に凹条部が形成されることにより凹凸状に形成され、前記接続孔の内周には前記電線管の凹条部に係合可能な係合部が設けられている」と限定したものである。
しかしながら,甲2発明も同様の構成を有していることは明らかであるから,本件発明3も,甲2発明および甲5,6記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

第6 被請求人の主張について
1 甲6について
被請求人は,口頭陳述要領書15頁20?24行において「『壁厚の制限を受けずに挿入できるようにする』ことは、配線用ボックスの内部にケーブルを横切らせるように挿入することを前提として存在する機能に過ぎず、『壁厚の制限を受けずに挿入できるようにする』ことが甲6記載の技術的事項の課題として、甲6本来の課題と離れて存在するものではない。」と主張している。
しかしながら,前記甲6記載事項(甲6-カ)?(甲6-ケ)の解決課題と「壁厚の制限を受けずに挿入できるようにする」という解決課題とは,全く技術的に異なるものであって,両解決課題は当業者ならば別個に独立して把握,認識できるものであるといえる。すなわち,甲6においては,前者の解決課題に対応する発明は,その請求項1に特定されているとおりのものであり,挿入方向は限定されておらず,全く任意であって,後者の「壁厚の制限を受けずに挿入できるようにする」という解決課題に対応する挿入方向の側方への限定は,付加的にその請求項2において特定される事項とされている。
そして,前者の解決課題に対応する発明とは独立して,当業者ならば,後者の解決課題に対応する「側方から挿入する」という解決手段を,まとまりある技術事項として,明確に認識し得るといえる。例えば,平成18年(行ケ)10081号審決取消請求事件(平成19年2月14日判決言渡)の判決においても,「・・・・・この技術事項は,甲7公報の特許請求の範囲の記載に係る発明の目的とは別個独立に把握し得る技術事項である。」と判断され,公報の課題・効果とは独立して技術事項を認定することが可能であることを判示している。
してみると,甲6についての上記請求人の主張は,採用できない。

2 本件発明1の効果について
被請求人は,口頭陳述要領書20頁4?7行において「本件発明1では、配線ボックスの幅方向内に収まる小径の電線管のみならず下記図のように接続時に配線ボックスの左右両側壁から一部が露出するような状態でも電線管を接続することができるため、比較的大径の電線管の接続も可能となる。」と主張している。
しかしながら,本件発明1には「電線管」の径について何ら特定されておらず,大径の電線管のみではなく,小径の電線管を対象にするものをも含んでいると解せられる。すなわち,本件発明1は,2本の「大径の電線管」を挿入するものだけでなく,「大径の電線管」と「小径の電線管」とを挿入するものをも含んでいるのであるから,被請求人が主張する上記効果は,本件発明1特有のものであるとは到底いえない。
確かに,本件明細書の段落【0058】には「第1接続部70a及び第2接続部70bを備えた接続孔70において、第2接続部70bには、第1実施形態と同様に電線管10を接続することができるようになっている。また、第1接続部70aにおいて、係合突条22により大径電線管60を接続することができるようになっている。そして、接続部材73を係合突条22から折り取り除去することによって、第1接続部70aに接続された大径電線管60を第2接続部70bに向かってスライド移動させ、該第2接続部70bに大径電線管60を接続することができるようになっている。また、接続孔70を備えた配線ボックス11において、第2接続部70bにおける接続部材73を除去して第2接続部70bに大径電線管60を接続した後、第1接続部70aにも大径電線管60を接続してもよい。」と記載されているものの,該記載は,図13,14に示された実施形態に対応するものであって,一方向(右側)から2本の「大径の電線管」が挿入できることを述べているのであって,ボックス本体の左右両側壁に「挿入開口」が形成され左右両側から「電線管」を挿入することを必須としている本件発明1の実施形態について述べたものであるとはいえない。しかも,上記記載は「ボックス本体」の幅の大きさについては全く触れておらず,他の段落においても「ボックス本体」の幅の大きさについての記載はない。
してみると,上記被請求人の主張は,本件明細書の記載ならびに特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,採用できない。

第6 むすび
以上のとおり,本件発明1?3は,甲第2,5および6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1?3に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法169条2項において準用する民事訴訟法61条の規定により,審判費用は被請求人の負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-07-22 
出願番号 特願2008-170268(P2008-170268)
審決分類 P 1 123・ 121- Z (H02G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大塚 良平北嶋 賢二  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 石川 太郎
後藤 時男
登録日 2010-08-27 
登録番号 特許第4575478号(P4575478)
発明の名称 配線ボックス  
代理人 恩田 博宣  
代理人 木村 俊之  
代理人 鈴江 正二  
代理人 恩田 誠  

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