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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F |
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管理番号 | 1242961 |
審判番号 | 不服2009-19807 |
総通号数 | 142 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-10-15 |
確定日 | 2011-09-07 |
事件の表示 | 特願2003-587491号「結合組織の超音波治療のための方法及び器具」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月6日国際公開、WO03/90868、平成17年8月4日国内公表、特表2005-523132号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成15年4月24日(パリ条約による優先権主張、平成14年4月24日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成20年8月5日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成21年1月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年3月2日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対し、平成21年6月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年6月11日付け手続補正書でなされた補正が平成21年7月9日付けで却下され、同日付けで拒絶査定がなされたところ、同査定を不服として、平成21年10月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けの手続補正書により特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。 II.平成21年10月15日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年10月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。 「関節の少なくとも一部を覆い前記関節又はその隣接した身体部分に対して一定の位置に固定されるように適合した被覆部材を備え、前記被覆部材は、1つ以上の超音波変換器アセンブリを収容して保持するように適合した1つ以上の収容領域を備え、 前記収容領域は、超音波変換器アセンブリを表面に固定するように適合した1つ以上の被覆部材アタッチメント領域を備え、 前記超音波変換器アセンブリは、ストラップを備え、 前記ストラップは、超音波変換器を収容するように適合した超音波変換器ポートと、前記被覆部材アタッチメント領域に確実に取り付くように適合した1つ以上のストラップアタッチメント領域と、を備え、それによって、前記超音波変換器ポートは、前記関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される、 関節に超音波治療を送達するために関節に対して1つ以上の超音波変換器を配置する器具。」(下線部は補正個所を示す。) 2.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無 本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「関節又はその隣接した身体部分の少なくとも一部を覆い」との選択的特定事項に関して、選択肢の一部を削除して「関節の少なくとも一部を覆い」とするとともに、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「超音波変換器アセンブリを固定するように適合した1つ以上の被覆部材アタッチメント領域」との事項中、固定の位置として、「表面」との限定を付加して、「超音波変換器アセンブリを表面に固定するように適合した1つ以上の被覆部材アタッチメント領域」とするものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。 3.独立特許要件 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)、以下に検討する。 3-1.引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、特開2000-300589号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ア:「【請求項1】 面状の肩掛け帯、該肩掛け帯に繋がれたベルト部を備え、該肩掛け帯に肩表面に治療装置ヘッド部が当たる為の貫通した溝部分を備え、かつ治療装置ヘッド部を可逆的に装脱着可能な取付け手段を有することを特徴とする装着補助具。 【請求項2】 該肩掛け帯が、肩掛け上部と肩掛け下部の2者から構成され、両者を紐状部材で繋ぐことにより該溝部分を構成することを特徴とする請求項1に記載の装着補助具。 【請求項3】 該取付け手段が、フック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなることを特徴とする請求項1、2に記載の装着補助具。 【請求項4】 該治療装置ヘッド部が超音波治療装置の超音波照射ヘッド部であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の装着補助具。」(【特許請求の範囲】) イ:「【発明の実施の形態】本発明は、面状の肩掛け帯を有し、かかる肩掛け帯に治療装置のヘッド部を取付けるヘッド取付手段を有し、更にかかる肩掛け帯に治療装置を広範囲に取付ける事ができるような広範囲の穴を空けたことを特徴とする装着補助具であり、かかる肩掛け帯に帯状のベルト部が繋がれており、肩掛け帯を所定位置に設置したとき、ベルト部が肩掛け帯と反対側の脇の下を通して固定して使用する装着補助具である。 特にかかる肩掛け帯に広範囲に治療装置を取付けられるように鎖骨や肩が出るような穴や溝構造を備えると共に、治療装置を取付けるための取付手段を有することを特徴とする装着具を提供するものである。 かかる肩掛け帯の形状は、特に限定するものではないが、取扱い操作性などから長方形状が好ましく、縦幅、即ちベルト部取付け方向に対して垂直方向の長さは、5cm?20cm、特に10cm?20cmの幅を備えたものが好ましい。また横幅、即ちベルト部取付け方向と同じ方向の長さは10?20cmの幅を有するものが好ましい。使用者の個体差にも依るが上記範囲の肩掛け帯によって肩の広範囲を覆うことができる。 かかる肩掛け帯の材質は、使用態様に応じてフィットする可撓性材質であるものが好ましく、布製、或いは可撓性樹脂、フィルム、ゴム性材料が好ましい。 かかる肩掛け帯表面には、各種医療機器の治療ヘッド部分を取付ける為の取付け手段を備える。かかる取付け手段は取り付け、取外しがワンタッチで行える手段であり、例えば、フック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材、所謂マジックテープTMが好ましい。また治療ヘッド部分と取り付け取外しが容易な取付け手段を別途設けることも可能である。」(【0012】?【0016】) ウ:「【実施例】以下、好適な実施例を図面を用いて詳しく説明する。装着具を図1?3に示す。かかる装着補助具は肩掛け帯1、正面ベルト部2、背面ベルト3の繋がれた3部分に分けられる。実施例では、3部分に分けたが、ベルトは正面ベルト又は背面ベルトの長さを長くすることによりどちらか一つの部材でも実現可能である。 かかる肩掛け帯1は、幅15cm×長さ20cmの大きさであり、肩掛け上部11と肩掛け下部12の2部材で構成させる。かかる肩掛け上部11と肩掛け下部12は両脇を締結用紐16で結ばれており、肩掛け上部11と肩掛け下部12のそれぞれに取付手段として取付手段13と取付手段14が取付けられている。かかる肩掛け上部と肩掛け下部の隙間領域をヘッド取付穴15として治療装置を取付ける部位として用いる。 好適な実施例では、取付手段11と12(当審注:「取付手段11と12」は誤記であって、正しくは「取付手段13と14」と解される)にマジックテープTMを用い、治療装置等をヘッド取付穴13をまたぐように取付けるが、固定方法はこれに限定されるものではない。また、ヘッド取付穴は均一素材に穴を空けたものでも実現でき、実施例に限定されるものではない。 かかる正面ベルト2は、扱い易いように細い幅5cm×長さ20cmとし、マジックテープTMに付く素材を用いた。 かかる背面ベルト3は幅5cm×長さ100cmであり、取付手段31がベルト裏面ある。この取付手段は、マジックテープTMを用いており、身体にとりつけるときは、取付手段31が正面ベルト2に取付けられる。 かかる正面ベルトと背面ベルトには伸縮性のある素材を用いることでさらに取付を容易にし、固定感を増すことができる。 治療装置4は、付属品にマジックテープTMを取付手段41を備えているもので、この既存の手段と本発明を組み合わせることで、肩周辺の広い範囲に治療装置を取付けを可能にしている。」(【0019】?【0025】) エ:上記アの「面状の肩掛け帯・・・該肩掛け帯に肩表面に治療装置ヘッド部が当たる為の貫通した溝部分を備え・・・装着補助具」との記載、上記イの「肩掛け帯によって肩の広範囲を覆うことができる。」との記載及び図3(装着補助具の使用図)に示された肩掛け帯を肩に装着した態様からして、引用例に記載された超音波治療装置の装着補助具は、肩関節の少なくとも一部分を覆い前記肩関節又はその隣接した身体部分に対して一定の位置に固定されるように適合した肩掛け帯を備えているといえる。 オ:上記ウの「肩掛け上部11と肩掛け下部12のそれぞれに取付手段として取付手段13と取付手段14が取付けられている。」との記載からして、図1の肩掛け下部12に取付けられた「取付手段13」は「取付手段14」の誤記といえる。 カ:上記イの「取付け手段は取り付け、取外しがワンタッチで行える手段であり、例えば、フック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材、所謂マジックテープTMが好ましい。」との記載からして、マジックテープはフック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材といえる。 キ:上記オ、上記カ及び上記ウの「取付手段13と14にマジックテープTMを用い」との記載からして、図1(装着補助具正面図)には、肩掛け帯の肩掛け上部11にフック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなる取付手段13が設けられ、肩掛け下部12にフック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなる取付手段14が設けられる態様が図示されているといえる。 ク:上記アの「【請求項1】 面状の肩掛け帯・・・治療装置ヘッド部を可逆的に装脱着可能な取付け手段を有することを特徴とする装着補助具。・・・ 【請求項3】 該取付け手段が、フック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなることを特徴とする請求項1、2に記載の装着補助具。 【請求項4】 該治療装置ヘッド部が超音波治療装置の超音波照射ヘッド部であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の装着補助具。」との記載、上記カ及び上記ウの「治療装置4は、付属品にマジックテープTMを取付手段41を備えている」との記載からして、 図3(装着補助具の使用図)には、超音波治療装置の超音波照射ヘッド部が設けられフック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなる態様の取付け手段が図示されているといえる。 ケ:上記キ(図1の図示内容)、上記クからして、図3(装着補助具の使用図)には、超音波治療装置の超音波照射ヘッド部が設けられフック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなる取付け手段の両端部が、肩掛け帯の肩掛け上部11と肩掛け下部12のフック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなる2つの取付手段13,14の表面に確実に取り付けられることにより、超音波治療装置の超音波照射ヘッド部が肩掛け帯の表面に固定され、肩関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される態様が図示されているといえる。 コ:上記ケからして、超音波治療装置の超音波照射ヘッド部が設けられフック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなる取付け手段の両端部は、肩掛け帯の肩掛け上部11と肩掛け下部12の2つの取付手段13,14に確実に取り付くように適合した領域を備えているといえる。 サ:上記クの「超音波治療装置の超音波照射ヘッド部」と「超音波治療装置の超音波照射ヘッド部が設けられフック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなる取付け手段」は、「1つの超音波変換器アセンブリ」を構成するといえる。 シ:上記ケ(図3の図示内容)、上記コ及び上記サからして、 引用例に記載された超音波治療装置の装着補助具において、 ○肩掛け帯は、超音波治療装置の超音波照射ヘッド部を表面に固定するように適合した肩掛け帯の肩掛け上部11と肩掛け下部12の2つの取付手段13,14を備える領域を備えるとともに、該領域は1つの超音波変換器アセンブリを収容して保持するように適合した1つの収容領域といえ、 ○超音波治療装置の超音波照射ヘッド部が設けられフック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなる取付け手段は、肩掛け帯の肩掛け上部11と肩掛け下部12の2つの取付手段13,14に確実に取り付くように適合した両端部の領域を、備え、それによって、超音波治療装置の超音波照射ヘッド部は、肩関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される、 といえる。 これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「肩関節の少なくとも一部を覆い前記肩関節又はその隣接した身体部分に対して一定の位置に固定されるように適合した肩掛け帯を備え、前記肩掛け帯は、1つの超音波変換器アセンブリを収容して保持するように適合した1つの収容領域を備え、 前記収容領域は、超音波治療装置の超音波照射ヘッド部を表面に固定するように適合した肩掛け帯の肩掛け上部と肩掛け下部の2つの取付手段を備え、 前記超音波変換器アセンブリは、超音波治療装置の超音波照射ヘッド部が設けられフック状及び/又はパイル状部材を備えた布製テープ部材からなる取付け手段を備え、 前記取付け手段は、超音波治療装置の超音波照射ヘッド部が設けられ、肩掛け帯の肩掛け上部と肩掛け下部の2つの取付手段に確実に取り付くように適合した両端部の領域を、備え、それによって、前記超音波治療装置の超音波照射ヘッド部は、前記肩関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される、 肩関節に超音波治療を送達するために肩関節に対して1つの超音波ヘッド部を配置する超音波治療装置の装着補助具。」 3-2.対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「肩関節」は「関節」といえる。 引用発明の「肩掛け帯」は本願補正発明の「被覆部材」に相当し、以下同様に、「超音波治療装置の超音波照射ヘッド部」は「超音波変換器」に、「肩掛け帯の肩掛け上部と肩掛け下部の2つの取付手段」は「1つ以上の被覆部材アタッチメント領域」に、「超音波治療装置の装着補助具」は「器具」にそれぞれ相当する。 引用発明の「取付け手段」の「肩掛け帯の肩掛け下部と肩掛け上部の2つの取付手段に確実に取り付くように適合した両端部の領域」は、本願補正発明の「被覆部材アタッチメント領域に確実に取り付くように適合した1つ以上のストラップアタッチメント領域」に相当する。 本願補正発明の「ストラップ」は、「超音波変換器を収容するように適合した超音波変換器ポートと、前記被覆部材アタッチメント領域に確実に取り付くように適合した1つ以上のストラップアタッチメント領域と、を備え、それによって、前記超音波変換器ポートは、前記関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される」から、「超音波変換器」を設けることができるとともに、「前記超音波変換器は、前記関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される」といえる。 してみると、本願補正発明の「ストラップ」と引用発明の「超音波治療装置の超音波照射ヘッド部が設けられ、肩掛け帯の肩掛け上部と肩掛け下部の2つの取付手段に確実に取り付くように適合した両端部の領域を、備え、それによって、前記超音波治療装置の超音波照射ヘッド部は、前記肩関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される」「取付け手段」とは、「超音波変換器を設けることができ、前記被覆部材アタッチメント領域に確実に取り付くように適合した1つ以上のストラップアタッチメント領域を備え、それによって、前記超音波変換器は、前記関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される」点で一致する。 以上によれば、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。 「関節の少なくとも一部を覆い前記関節又はその隣接した身体部分に対して一定の位置に固定されるように適合した被覆部材を備え、前記被覆部材は、1つ以上の超音波変換器アセンブリを収容して保持するように適合した1つ以上の収容領域を備え、 前記収容領域は、超音波変換器アセンブリを表面に固定するように適合した1つ以上の被覆部材アタッチメント領域を備え、 前記超音波変換器アセンブリは、ストラップを備え、 前記ストラップは、超音波変換器を設けることができ、前記被覆部材アタッチメント領域に確実に取り付くように適合した1つ以上のストラップアタッチメント領域を備え、それによって、前記超音波変換器は、前記関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される、 関節に超音波治療を送達するために関節に対して1つ以上の超音波変換器を配置する器具。」 そして、両者は次の点で相違する。 (相違点) 本願補正発明の「ストラップ」は、「超音波変換器を収容するように適合した超音波変換器ポート」を備えているのに対して、 引用発明のフック状及び/又はパイル状部材を備えた布状テープ部材からなる取付け手段(ストラップ)は、超音波治療装置の超音波照射ヘッド部(超音波変換器)が設けられている点。 3-3.相違点の判断 上記相違点について検討する。 超音波治療装置の装着補助具において、超音波変換器を収容するように適合した超音波変換器ポートを用いて超音波変換器を設けることは、本件出願の優先権主張日前に周知(例えば、米国特許第6355006号明細書(transducer pocket 26、pocket 504等)、国際公開第00/67846号(pocket 24、pocket 210等)参照。)であり、引用発明に該周知技術を適用して、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明による効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3-4.請求人の主張について 請求人は、「引用文献1に記載された発明では、引用文献1の図1に示すように、装着補助具にはヘッド取付穴である貫通した溝部分が形成されている。このヘッド取付穴は、治療装置を関節に取り付けて治療装置からの超音波などを関節に効率よく照射するために必須な構成である。そして、肩掛け上部及び下部の間は、締結用紐によって連結されている。そのため、引用文献1に記載された発明では、装着補助具が関節を覆うように装着されるものの、装着補助具を身体に装着したときに装着補助具に掛かる張力が締結用紐に集中し、装着補助具による装着状態が安定しないという欠点がある。・・・ 一方、新請求項1にかかる発明では、被覆部材に引用文献1に記載されているような貫通した溝部分が形成されていない。そのため、被覆部材を身体に取り付けたときに被覆部材に張力が過度に集中することを避けることができる。 」(平成21年10月15日付けの審判請求書6頁3?18行)と主張し、 「請求項1にかかる発明では、・・・例えば図11Aから図11C及び図12Aから図12Cに示すように、「ストラップ」は、身体に1周巻き付けられるようにして被覆部材に取り付けられています。 そのため、請求項1にかかる発明では、被覆部材が被覆部材だけではなくストラップによっても身体に対して固定され、被覆部材が身体から離脱することをさらに確実に防ぐことができるので、超音波変換器が身体に対して離間するなどを防止して身体に対する取り付けがより安定します。」(平22年1月6日付け回答書2頁18?20行)と主張する。 そこで、請求人の上記主張について検討する。 まず、請求人が指摘する肩掛け上部及び下部の間を締結用紐で繋ぐことにより溝部分を構成する態様は、引用例に「ヘッド取付穴は均一素材に穴を空けたものでも実現でき、実施例に限定されるものではない。」(記載事項ウ)と記載されているようにあくまでも引用例に記載された発明の実施例にすぎず、引用例に記載された発明が肩掛け上部及び下部の間を締結用紐で繋ぐことにより溝部分を構成するものであることを前提とした請求人の主張は、採用することはできない。 また、引用例に記載された発明の装着補助具にヘッド取付穴である貫通した溝部分が形成されているとしても、平成21年10月15日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される本願補正発明について検討する限り、引用例に記載された発明の装着補助具に溝部分が形成されているか否かにより、上記3-2、上記3-3における本願補正発明と引用発明との一致点、相違点の認定と該相違点についての検討結果が左右される根拠は見出せない。 さらに、本願補正発明においては、「ストラップ」に関し、「前記超音波変換器アセンブリは、ストラップを備え、前記ストラップは、超音波変換器を収容するように適合した超音波変換器ポートと、前記被覆部材アタッチメント領域に確実に取り付くように適合した1つ以上のストラップアタッチメント領域と、を備え、それによって、前記超音波変換器ポートは、前記関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される」ことが規定されているにすぎないから、「「ストラップ」は、身体に1周巻き付けられるようにして被覆部材に取り付けられています」という請求人の主張は、本願補正発明の発明特定事項に基くものとはいえず、採用することはできない。 3-5.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 III.本願発明 本件補正は上記のとおり却下され、平成21年6月11日付け手続補正は、却下されているので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、拒絶査定時の平成21年1月14日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「関節又はその隣接した身体部分の少なくとも一部を覆い前記関節又はその隣接した身体部分に対して一定の位置に固定されるように適合した被覆部材を備え、前記被覆部材は、1つ以上の超音波変換器アセンブリを収容して保持するように適合した1つ以上の収容領域を備え、 前記収容領域は、超音波変換器アセンブリを固定するように適合した1つ以上の被覆部材アタッチメント領域を備え、 前記超音波変換器アセンブリは、ストラップを備え、 前記ストラップは、超音波変換器を収容するように適合した超音波変換器ポートと、前記被覆部材アタッチメント領域に確実に取り付くように適合した1つ以上のストラップアタッチメント領域を備え、それによって、前記超音波変換器ポートは、前記関節又はその隣接した身体部分に対してしっかりと配置される、 関節に超音波治療を送達するために関節に対して1つ以上の超音波変換器を配置する器具。」 IV.引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記II.3-1に記載したとおりである。 V.対比・判断 本願発明は、前記II.1の本願補正発明の「関節の少なくとも一部を覆い」との特定事項に選択肢を加え、「関節又はその隣接した身体部分の少なくとも一部を覆い」とするとともに、本願補正発明の「超音波変換器アセンブリを表面に固定するように適合した1つ以上の被覆部材アタッチメント領域」との事項中の「表面」との特定事項を省くものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記II.3-2、前記II.3-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 VI.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 なお、請求人は、平成22年1月6日付け回答書において、平成21年10月15日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1における「前記超音波変換器アセンブリは、ストラップを備え、」との記載を「前記超音波変換器アセンブリは、身体部分に巻き付けられるように被覆部材アタッチメント領域に固定されるストラップを備え、」とする補正を行う旨回答している。 しかしながら、本願補正発明において、「超音波変換器アセンブリは、ストラップを備え」、「被覆部材」の「収容領域は、超音波変換器アセンブリを表面に固定する」と規定されるとともに、「ストラップ」は「被覆部材アタッチメント領域に確実に取り付く」と規定されていることからして、「ストラップ」は、すでに「被覆部材アタッチメント領域に固定される」旨実質的に規定されているといえる。 してみると、上記補正事項は、結局、「ストラップ」を被覆部材に固定する際に「身体部分に巻き付けられるように」する点を追加するものにすぎない(身体に1周巻き付けられるようにすることを特定するものでもない)。 他方、引用例の図3には、肩の頂点を挟んで肩の前後面を覆うように布状テープ部材が取り付けられている態様、つまり、肩に巻き付けられるように固定される態様が図示されているといえるから、回答書で示唆された上記補正事項を考慮したものも、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえる。 加えて、超音波治療装置の装着補助具において、身体部分に(1周)巻き付けられるように固定する(超音波変換器を備えた)ストラップは、本件出願の優先権主張日前に周知(例えば、米国特許第6355006号明細書(図7,8strip406)、国際公開第00/67846号(図11placement band 405)参照。)であることからしても、回答書で示唆された上記補正事項を考慮したものは、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえる。 |
審理終結日 | 2011-03-31 |
結審通知日 | 2011-04-05 |
審決日 | 2011-04-18 |
出願番号 | 特願2003-587491(P2003-587491) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A61F)
P 1 8・ 121- Z (A61F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 寺澤 忠司 |
特許庁審判長 |
横林 秀治郎 |
特許庁審判官 |
内山 隆史 蓮井 雅之 |
発明の名称 | 結合組織の超音波治療のための方法及び器具 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 志賀 正武 |