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審決分類 審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  A01B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A01B
審判 全部無効 2項進歩性  A01B
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A01B
管理番号 1243438
審判番号 無効2010-800187  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-10-14 
確定日 2011-07-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4542169号発明「畦塗り機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成13年 9月 6日:原出願(特願2001-270226号)出願
平成20年 4月 7日:特許法第41条に基づく本件出願
(特願2008-99623号)
平成22年 7月 2日:特許権の設定登録
平成22年10月14日:本件無効審判の請求
平成22年12月28日:被請求人より答弁書及び訂正請求書提出
平成23年 2月18日:請求人より弁駁書提出
平成23年 4月25日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成23年 4月25日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成23年 5月17日:口頭審理

第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、これを構成要件に分説すると、次のとおりである。
「【請求項1】
A 走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復する整畦体とを有する畦塗り機であって、
B 回転しながら畦を形成する上記整畦体は、その回転中心側から外周側へ向けて次第に幅が広くなる側縁を有する複数の整畦板が、外周が円形に近似した形状となるように周方向に等間隔に配設されて構成される整畦ドラムを有し、
C 周方向に隣接する上記整畦板は境界部分において重なり部分が設けられることなく、上下間隔をおき、上記整畦ドラムの回転方向後方側に位置する整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位がその側に隣接する整畦板の背面側に重なった状態で、連結されている
D ことを特徴とする畦塗り機。」

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、特許第4542169号の請求項1に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第19号証を提出し、検甲第1号証及び検甲第2号証の検証並びに人証を申請した。

[無効理由]
(1)無効理由1(特許法第17条の2第3項)
平成22年1月14日付け手続補正における請求項1、段落【0005】の補正中の「整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位」という事項は、新たな技術的事項を導入するものであるから本件の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
すなわち、当初明細書の【0026】には、連結片を回転方向前方側の側縁にどのようにして設けたのか具体的に記載されていない。補正により、当初明細書に記載のない「連続して」の記載がはいることで、連結片と回転方向前方側の側縁との連結の概念が広くなっている。

(2)無効理由2(特許法第36条第6項第2号)
ア 本件発明の実施例を示す図4や図5には、「重なり部分15b」が設けられたものが記載されているため、請求項1の記載と図4や図5の記載との間に整合性がなく、本件請求項1中の「重なり部分が設けられることなく」の技術的意味を理解することができず、本件請求項1に係る発明は明確ではないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
イ 被請求人は、平成22年12月28日付け訂正請求で図4及び図5の訂正を請求しているが、図4及び図5の訂正は、特許明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものではなく、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項に規定する訂正要件を満たしていない。

(3)無効理由3(特許法第29条第1項第3号又は第2項)
本件明細書の【0025】には、「なお、本発明において、連結片の数が二つに限定されるものでないことはいうまでもない。」と記載されている。
しかし、原出願(特願2001-270226号)の願書に最初に添付された明細書には、連結部位の数は2つのものしか記載されていないから、この記載事項は原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではなく、本件特許は改正前の特許法第44条第1項に規定する分割要件を満たしていないから、本件特許の出願日は現実の出願日である平成20年4月7日である。
そして、本件発明は、原出願の公開公報である甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当して特許を受けることができないものであり、また、仮に本件発明が甲第1号証に記載された発明と同一でないとしても、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(4)無効理由4(特許法第29条第2項)
本件発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(具体的理由)
ア 本件発明と甲第2号証に記載された発明を対比すると、本件発明では、「整畦ドラムの回転方向後方側に位置する整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位がその側に隣接する整畦板の背面側に重なった状態」となっているのに対し、甲第2号証に記載された発明では、「整畦ドラムの回転方向前方側に位置する整畦板の回転方向後方側に連続して形成されている連結部位がその側に隣接する整畦板の正面側に重なった状態」となっている点で相違するが、整畦板の整畦作用に差異はなく、相違点のように構成することは当業者が適宜なしうることである。
イ 甲第2号証の実施例では、略円錐形状の取付基板66を有しているが取付基板は、整畦ドラムを構成するものではないし、甲第2号証の請求項1に係る発明は、取付基板を設けたものに限定されていない。
また、本件発明は、取付基板を有しているものを排除するものではない。 そして、本件発明は、取付基板を有していないものであるとしても、取付基板を設けないものは、甲第14号証ないし甲第17号証に示すように周知であり、甲第2号証に記載された発明において、取付基板を設けないものとすることは当業者が適宜なし得ることである。
ウ また、本件発明の作用効果は、甲第2号証に記載された発明から当業者が予測できることである。

(5)無効理由5(特許法第29条第2項)
検甲第1号証は、松山株式会社からJA佐久浅間しらかば西部機械化センターに販売され、本件特許の出願前に同しらかば西部機械化センターから山浦建夫氏に公然と販売されたものである。
そして、本件発明は、検甲第1号証に示された発明及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特
許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(具体的理由)
ア 本件発明と、検甲第1号証に示された発明を対比すると、本件発明では「隣接する整畦板は、重なり部分が設けられることなく連結されている」のに対し、検甲第1号証に示された発明では、「隣接する整畦板は、重なり部分が設けられて連結されている」点、及び
本件発明では、「整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位がその側に隣接する整畦板の背面側に重なった状態」となっているのに対し、検甲第1号証に示された発明では、「整畦板の回転方向前方側にボルト止めにより取り付けられている連結部位がその側に隣接する整畦板の背面側に重なった状態」となっている点で相違する。
しかし、甲第2号証には、畦塗り機に関して、重なり部分を設けることなく隣接する整畦板(泥土塗付け板67)を連結部位(取付片73)を介して連結する構成が記載され、かつ、その連結部位(取付片73)を整畦板(泥土塗付け板67)に連続して形成する構成が記載されており、検甲第1号証に示された発明に甲第2号証記載の前記構成を適用して、本件特許発明の構成にするようなことは、当業者であれば容易になし得ることである。
イ 検甲第1号証に示される発明は、整畦板が取付基板に接する位置でボルトにより固定され、整畦板ごとに交換可能なものであるが、必要により全体を取り換えることもあるから、連結部位を後方側の整畦板に連続して設けることは適宜なしうることである。
ウ また、検甲第1号証に示される発明に甲第2号証記載の発明を組合せるにより、隣接する整畦板において重なり部分を設けないようにすることも容易になしうることである。

[証拠方法]
(1) 書証として次のものを提出した。
甲第1号証:特開2003-70303号公報(原出願の公開公報)
甲第2号証:特開平10-313603号公報
甲第3号証:特開2003-70301号公報
甲第4号証:AZ-350-0S、-S、-Bの製造番号台帳(控)
甲第5号証:AZ-350-0Sの売上実績一覧表
甲第6号証:「JA佐久しらかば 立科」に対する売上伝票照会画面
甲第7号証:購買品納品書(再発行)JAしらかば西部農機-山浦氏
甲第8号証:UZ-300・AZ-350型あぜぬり機の取扱説明書
甲第9号証:(株)ビー・クスによる、UZ取扱説明書修正増刷分の請求書
甲第10号証:「機械化農業 四月号」株式会社新農林社、1998年4月1日発行
甲第11号証:「農機新聞」平成9年11月4日発行、13頁
甲第12号証:JA佐久浅間(佐久浅間農業協同組合)の証明書
甲第13号証:山浦建夫氏の証明書
甲第14号証:特開平10-276504号公報
甲第15号証:特開2001-161107号公報
甲第16号証:特開2000-188907号公報
甲第17号証:特開2000-83407号公報
甲第18号証:本件の願書に最初に添付した明細書
甲第19号証:本件についての平成22年1月14日付け手続補正書

(2) 検証及び人証
請求人は、以下の検証及び証人尋問を申請し、検甲第1号証説明書及び検甲第2号証説明書を提出した。
検甲第1号証:AZ-350型あぜぬり機(製造番号1837号)
検甲第2号証:AZ-350型あぜぬり機(製造番号1002号)
証 人1:〈氏名〉山浦 建夫
証 人2:〈氏名〉宮本 敏明
検甲第1号証説明書:検甲第1号証の写真1?8及び説明
検甲第2号証説明書:検甲第2号証の写真1?8及び説明

2 被請求人の主張
被請求人は、答弁書及び訂正請求書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

(1)無効理由1に対して
平成22年1月14日付け手続補正により補正された「整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位」との記載における「連続して形成」とは、溶接により一体になっているものも含む概念である。
そして、補正は、図6に記載されている事項を、単に文章化しただけのものであり、新たな技術的事項を導入するものではない。

(2)無効理由2に対して
ア 請求項1の「重なり部分が設けられることなく」との記載自体何ら不明確なものではなく、明細書の段落【0024】の記載とも一致している。さらに、図6には重なり部分がない実施形態が示されており、意味は明確である。
イ 図4,図5は、請求項1の記載と整合していないが、訂正により「重なり部分が設けられていない」ものとした。
訂正された図面は、特許明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものである。

(3)無効理由3に対して
原出願の明細書及び図面では、連結部位の数は限定されていない。原出願の図8,9には、連結箇所を1つとするものも示されている。
したがって、本件の特許明細書の【0025】の記載は、原出願の明細書及び図面に示された自明の範囲のことを記載したにすぎず、新規事項を追加するものではないから、本件は適法に分割されたものであり、原出願の公開公報である甲第1号証は、本件特許の出願前に頒布された刊行物には相当しない。

(4)無効理由4に対して
本件発明は、取付基板を必要とせず、連結部位が設けられた整畦板のみによって整畦ドラムの取付機構が構成されるのに対し、甲第2号証記載の取付基板は、整畦ドラムを構成している。
また、甲第2号証に記載された発明は、重なり部分を有しているものである。
そして、本件発明の整畦板の取付け方により、本件発明は、格別の効果を奏するものであり、本件発明の構成とすることは適宜なし得る設計事項ではない。

(5)無効理由5に対して
検甲第1、2号証、甲第4号証ないし甲第13号証の成立性については争わない。
検甲第1号証に示された発明は、取付基板を必須とするものであって、本件発明とは取り付けの仕方が異なる。また、甲第2号証に記載された発明は重なり部分を有しているものである。
したがって、本件発明は、検甲第1号証に示された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第3 訂正の適否
1 訂正の内容
本件無効審判の訂正請求は、本件特許の願書に添付した図面を次のとおりに訂正しようとするものであり、具体的な訂正事項は、図4及び図5を次のとおりに訂正しようとするものである。



2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項は、図面の図4及び図5を、願書に添付した明細書の段落【0024】の「図4乃至図6は、本発明畦塗り機の第1実施例に係る整畦ドラム15の構成説明図であり、図4は平面図、図5は側面図、図6は部分拡大断面図である。第1実施例の整畦ドラム15において、・・・平面視で回転中心から先端側に向けて内端側の幅が狭く、外端側の幅が次第に広くなる直線状の側縁を有する複数(本実施例では8枚)の整畦板15aが、・・・隣接する整畦板15a、15a間に重なり部分がないように、周方向に等間隔に配設される」の記載、及び願書に添付した図6の記載と整合させようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
また、上記訂正事項は、請求項1の「周方向に隣接する上記整畦板は境界部分において重なり部分が設けられることなく」との記載に対応するものであり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
したがって、本件訂正は、第134条の2第1項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

第4 無効理由についての判断
1 無効理由1について
平成22年1月14日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)における請求項1、段落【0005】の補正中の「整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位」という事項は、本件の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであり、上記手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
すなわち、当初明細書等の請求項2には、「各整畦板の回転方向前方側に、・・・隣接する整畦板と連結されるための連結部位が前記隣接する整畦板側へ張り出して設けられ、この連結部位が前記連結部材となっている」と記載され、連結部位は、整畦板の回転方向前方側から張り出して、すなわち整畦板に連続して設けたものであることが示されている。
また、当初明細書等の段落【0026】には、「隣接する整畦板15a、15aは回転方向後ろ側の整畦板15aにおける回転方向前方側の側縁に設けた2つの連結片15c,15cからなる連結部材としての連結部位により、所定の上下間隔・・・を設けて固着して連結される。」と記載され、図6には、連結部位である「連結片」が、整畦板の回転方向前方側の側縁に連続して形成されていることが示されている。
さらに、当初明細書等の図6には、
そして、これらの請求項2の記載、段落【0026】の記載及び図6の記載を総合すれば、当初明細書等には、連結部位が、隣接する整畦板のうち、回転方向後方側の整畦板の前方側に連続して設けられるとの技術的事項が開示されているといえるから、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。

なお、請求人は、当初明細書に記載のない「連続して」との記載がはいることによって、整畦板の前方側と連結片(連結部位)との連結の概念が広くなっていると主張するが、上記のとおり「連続して」とは、当初明細書等に記載されている「連結部位が整畦板の前方側から張り出している状態」を言い換えたにすぎず、当初明細書等において、そのような状態とするための具体的な手段(製造方法)は何ら限定されていないから、「連続して」との記載が当初明細書等に記載されていなかったからといって、整畦板の前方側と連結部位(連結片)との連結の概念が広くなっているとはいえない。

したがって、無効理由1の理由があるとすることはできない。

2 無効理由2について
本件請求項1中の「周方向に隣接する上記整畦板は境界部分において重なり部分が設けられることなく、上下間隔をおき」との意味は、周方向に配設される整畦板は、境界部分において、周方向に重なり部分がないようにされていることを意味していることは明らかであり、特許請求の範囲に記載は、不明確であるとはいえない。
また、明細書の段落【0024】には、「図4乃至図6は、本発明畦塗り機の第1実施例に係る整畦ドラム15の構成説明図であり、・・・図6は部分拡大断面図である。第1実施例の整畦ドラム15において、偏心回転しながら畦を形成する整畦ドラム15の側面修復体部分は、平面視で回転中心から先端側に向けて内端側の幅が狭く、外端側の幅が次第に広くなる直線状の側縁を有する複数・・・の整畦板15aが、その回転方向に後退角を有し、隣接する整畦板15a、15a間に重なり部分がないように、周方向に等間隔に配設されることにより構成される。」と記載され、図6には、周方向に等間隔に配設される整畦板は境界部分において周方向に重なっていないことが図示されており、「境界部分において重なり部分が設けられることなく」が、周方向に隣接する整畦板は、平面視で重なり部分がないように、すなわち周方向に重なり部分がないように配設されていることは、明細書及び図面の記載からも明らかである。
なお、訂正により、図4、図5の記載は特許請求の範囲の記載と整合するものとなっている。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載が不明確であるとはいえず、無効理由2の理由があるとすることはできない。

3 無効理由3について
本件明細書の【0025】の、「なお、本発明において、連結片の数が二つに限定されるものでないことはいうまでもない。」との記載は、原出願(特願2001-270226号)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「原出願当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内のものであり、本件特許は平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成14年改正前特許法」という。)第44条第1項に規定により適法に分割されたものである。
すなわち、原出願当初明細書等(甲第1号証)には、特許請求の範囲に次のように記載されている(下線は当審付与)。
「【請求項1】 走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復するドラム状の整畦体とを有する畦塗り機であって、
前記整畦体は、回転しながら畦を形成する整畦ドラムを、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設し、各整畦板の境界部分に重なり部分を設けると共に、該重なり部分に所定の上下間隔を設けて連結部材により連結して形成したことを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】 上記整畦ドラムの回転方向前方側に、所定の上下間隔を形成するための連結部位を設けたことを特徴とする請求項1記載の畦塗り機。
【請求項3】 上記複数の整畦板を、1つの連結部材により連結して整畦ドラムを形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の畦塗り機。」
この記載によれば、特許請求の範囲には、整畦板の境界部分に重なり部分を設けたものではあるが、回転方向前方側に連結部位を設けたものが記載され、連結部位の数に限定はなく、1つの連結部材とするものも記載されている。
また、段落【0014】、図4及び図5に第1実施例として連結片が2つのものが記載され、さらに「重なり部分15bを無くしても形成することができる。」と記載されている。
そして、図4及び図5に示される第1実施例は、原出願当初明細書等の請求項1、2に係る発明の一つの実施例として記載されているものであることは明らかであり、段落【0014】の「重なり部分15bを無くしても形成することができる。」との記載は、第1実施例に限定した変形例を示すものではなく、請求項1及び2に係る発明を変形する例として、「重なり部分を無くして」形成することができることを述べたものと解される。
そうすると、原出願当初明細書等の上記記載を総合すれば、原出願当初明細書等には、「整畦板の境界部分に重なり部分が設けられることなく、所定の上下間隔を設けて連結部材により連結して形成」したものにおいて、「回転方向前方側に、所定の上下間隔を形成するための連結部位を設けたこと」が開示されていると認められ、連結部位の数は限定されていないから、本件の明細書の段落【0025】の上記記載は、原出願当初明細書等に開示されていた「連結部位の数は限定されていない」ことを具体的に明記したにすぎず、原出願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。

したがって、本件の出願日は原出願の出願日である平成13年9月6日であり、平成15年3月11日に頒布された甲第1号証(原出願の公開公報)は、特許法第29条第1項第3号で規定する、本件特許の出願前に頒布された刊行物には該当しないから、無効理由3の理由があるとすることはできない。

4 無効理由4について
(1)甲号各証の記載事項
1)本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平10-313603号公報)には、図面とともに次の事項が記載されていると認められる。
(2a)「【請求項1】 トラクタの懸架機構に連結される連結部を有する機枠と、この機枠に回転自在に設けられ畦塗り用の泥土を切削して跳ね上げる多数の切削刃を有するロータリーと、このロータリーの後方に位置して前記機枠に回転自在に設けられ前記ロータリーの各切削刃にて跳ね上げられた泥土を旧畦に塗り付けて旧畦を修復する畦塗り体と、を具備し、
前記畦塗り体は、前記機枠に回転自在に設けられた回転軸と、この回転軸に固着され前記旧畦の側面部を下方に向かって拡開した傾斜側面に修復する側面修復体と、この側面修復体に連設され前記旧畦の上面部を水平状面に修復する上面修復体と、を有し、
前記側面修復体は、前記旧畦の側面部に泥土を塗り付ける外周面を、この側面修復体の回転方向に所定の間隔をおいて前記回転軸を中心として回転半径を小さくした径小部及びこの径小部からこの側面修復体の回転方向と反対側に向かってそれぞれ前記回転軸を中心として次第に回転半径を大きくした円弧状の径大部を有する複数の泥土塗付け面にて形成する、ことを特徴とする畦塗り機。【請求項2】 複数の泥土塗付け面は、一端部を径小部とし他端部を径大部とする略扇形状の複数の泥土塗付け板にて形成し、この複数の泥土塗付け板は径大部の端縁部にこの端縁部から内側に向かって突設され隣接する泥土塗付け板の径小部の端縁部を取り付ける取付片をそれぞれ有し、この取付片にて隣接する泥土塗付け板の径小部の端縁部と径大部の端縁部との間に段差部を形成する、
ことを特徴とする請求項1記載の畦塗り機。
【請求項3】 複数の泥土塗付け板は、回転軸に固着された略円錐形状の取付基板の外周面に順次配設して取り付ける、
ことを特徴とする請求項1または2記載の畦塗り機。」
(2b)「【0010】請求項2記載の畦塗り機は、請求項1記載の畦塗り機において、複数の泥土塗付け面は、一端部を径小部とし他端部を径大部とする略扇形状の複数の泥土塗付け板にて形成し、この複数の泥土塗付け板は径大部の端縁部にこの端縁部から内側に向かって突設され隣接する泥土塗付け板の径小部の端縁部を取り付ける取付片をそれぞれ有し、この取付片にて隣接する泥土塗付け板の径小部の端縁部と径大部の端縁部との間に段差部を形成する、ものである。
【0011】そして、略扇形状の複数の泥土塗付け板は、その径大部の端縁部に突設された取付片に隣接する泥土塗付け板の径小部の端縁部を順次取り付けることにより、この複数の泥土塗付け板にて側面修復体の回転方向に所定の間隔をおいて回転半径を小さくした複数の径小部及びこの径小部からこの側面修復体の回転方向と反対側に向かってそれぞれ次第に回転半径を大きくした円弧状の複数の径大部を有する側面修復体の外周面が構成される。
【0012】また、この側面修復体が駆動回転されることにより、この複数の泥土塗付け板にて旧畦の側面部にこの旧畦の側面部の泥土を十分に生かしこの泥土を掻き出すことなく旧畦の側面部に除々に強く押し付けて順次固く塗り付けられ、したがって、旧畦の側面部が十分に固く締め固められて下方に向かって拡開した傾斜面に順次修復される。
【0013】請求項3記載の畦塗り機は、請求項1または2記載の畦塗り機において、複数の泥土塗付け板は、回転軸に固着された略円錐形状の取付基板の外周面に順次配設して取り付ける、ものである。
【0014】そして、この略円錐形状の取付基板の外周面に複数の泥土塗付け板がそれぞれ確実に取り付けられ、この取付基板にて複数の泥土塗付け板が土圧を受けても複数の泥土塗付け板が確実に保持される。」
(2c)「【0033】つぎに、前記伝動軸30の他端部は前記第2の伝動ケース29の他端部に設けた軸受体32にて回転自在に軸支され、この伝動軸30の他端部にこの伝動軸30の延長方向の外側方に向かって畦塗り用の泥土を切削して後述する畦塗り体に跳ね上げるロータリー33が回転自在に連結されている。」
(2d)「【0037】つぎに、前記回転軸40の他端部に前記ロータリー33の後方に位置してこのロータリー33の各切削刃36にて跳ね上げられた泥土を旧畦Aに塗り付けて旧畦Aを修復する畦塗り体42が固着されている。この畦塗り体42は後述するように前記回転軸40の他端部に固着され旧畦Aの側面部Bを下方に向かって拡開した傾斜側面に修復する略円錐形状の側面修復体43と、この側面修復体43の縮径端部に一体に連設され旧畦Aの上面部Cを水平状面に修復する略円筒形状の上面修復体44と、を有している。」
(2e)「【0049】つぎに、前記畦塗り体42は、前記回転軸40の多角形軸部62に嵌合してボルト・ナットにて連結されこの回転軸40にて駆動回転される中空多角形状に形成された回転軸としての左右方向の軸受体63と、この軸受体63の外端部に固着すなわちこの軸受体63を中心部に固着した円盤状のフランジ64と、このフランジ64に連結され旧畦Aの側面部Bを下方に向かって拡開した傾斜側面に修復する前記略円錐形状の側面修復体43と、この側面修復体43の縮径端部に位置して前記フランジ64に連結され旧畦Aの上面部Cを水平状面に修復する前記略円筒形状の上面修復体44と、を有している。
【0050】前記側面修復体43は、前記フランジ64の外側部に環状の縮径端部65を接合し前記第3の伝動ケース38に向かって拡開した略円錐形状の取付基板66と、この取付基板66の外周面に沿って順次配設された略扇形状の複数の泥土塗付け板67と、を有して構成されている。【0051】また、前記複数の泥土塗付け板67は、前記軸受体63を中心として前記側面修復体43の回転方向の一端部を径小部68とし、この径小部68から前記側面修復体43の回転方向と反対側の他端部を径大部69とするようになっている。【0052】また、前記径小部68の端縁部70に複数の取付孔71が離間してそれぞれ形成され、前記径大部69の端縁部72にこの端縁部72から前記取付基板66に向かって略直角状に折り曲げられ隣接する泥土塗付け板67の径小部68の端縁部70を当接して取り付ける取付片73が形成され、この取付片73は隣接する泥土塗付け板67の径小部68の前記一方の取付孔71に連通する連通孔74を形成した突片75を有している。【0053】そして、前記複数の泥土塗付け板67は、その径小部68が前記取付基板66の外面に接合され、その径大部69が前記取付基板66の外面から次第に離間する円弧状に湾曲した形状にそれぞれ形成され、この各泥土塗付け板67の外周面が泥土塗付け面79として形成されている。【0054】また、前記複数の泥土塗付け板67は、前記取付片73の高さにより径大部69が径小部68から側面修復体43の回転方向と反対側に向かって次第に回転半径が大きくなるように形成されている。
【0055】つぎに、前記取付基板66の外周面に沿って前記複数の泥土塗付け板67が順次配設され、これらの各泥土塗付け板67において隣接する泥土塗付け板67の相互の取付は、その一方の泥土塗付け板67の径小部68の端縁部70を前記取付基板66の外面に接合し、この径小部68の端縁部70に他方の泥土塗付け板67の径大部69の端縁部70に突設した取付片73を当接し、この取付片73の突片75の連通孔74から径小部68の端縁部70の一方の取付孔71及びこれらに連通して形成された前記取付基板66の一方の挿通孔76にボルト77を挿通し、このボルト77にナット78を締着する。
【0056】また、一方の泥土塗付け板67の径小部68の他方の取付孔71から前記取付基板66の他方の挿通孔76にボルト77を挿通し、このボルト77にナット78を締着する。このようにして、前記取付基板66の外周面に沿って前記複数の泥土塗付け板67が順次取り付けられている。
【0057】そして、前記各泥土塗付け板67の泥土塗付け面79にて旧畦Aの側面部Bに泥土を塗付ける側面修復体43の外周面80が構成され、この外周面80に側面修復体43の回転方向に所定の間隔をおいて側面修復体43の縮径端部65から拡径端部に亘って前記軸受体63を中心として回転半径を小さくした複数の径小部68及びこの各径小部68から側面修復体43の回転方向と反対側に向かって前記軸受体63(回転軸)を中心として次第に回転半径を大きくした、すなわち、外方に向かって次第に突出した円弧状の複数の径大部69がそれぞれ形成され、かつ、前記径小部68の端縁部70と、この端縁部70に隣接する前記径大部69の端縁部72との間に複数の段差部81がそれそれ放射状に形成されている。」
(2f)図3には、側面修復体43の外周面は、外周が円形に近似した形状となるように回転方向に所定間隔に配設した、回転中心側から外周側へ向けて次第に幅が広くなる側縁を有する略扇形状の複数の泥土塗付け板67にて形成されること、泥土塗付け板67において、径大部69は、回転方向後方側に形成され、径小部68は、回転方向前方側に形成されることが記載されている。

これらの記載によれば、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「(a1)トラクタの後部に懸架機構を介して着脱可能に連結される機枠1と、この機枠1に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して旧畦箇所に供給するロータリー33と、このロータリー33の後方に位置して、前記ロータリー33により供給された泥土を回転しながら旧畦に塗りつけて、旧畦を修復する畦塗り体42とを有する畦塗り機であって、
(b1)回転しながら畦を形成する前記畦塗り体42は、前記旧畦の傾斜側面を修復する側面修復体43を有し、
前記側面修復体43は、外周面を、外周が円形に近似した形状となるように回転方向に所定間隔に配設した、回転中心側から外周側へ向けて次第に幅が広くなる側縁を有する略扇形状の複数の泥土塗付け板67にて形成されており、
(c1)回転方向に隣接する前記泥土塗付け板67は、境界部分において上下方向の段差部を有し、
前記側面修復体43の回転方向前方側の泥土塗付け板67の回転方向後方側の径大部69の端縁部72から内側に向かって突設されている取付片73の突片75が、その側に隣接する泥土塗付け板67の回転方向前方側の径小部68の端縁部70の上面に重なった状態で、連結されている、
畦塗り機。」(以下、「甲2発明」という。)

2)本件出願前に頒布された刊行物である甲第14号証(特開平10-276504号公報)には、「畦形成機」に関して、図面とともに次の事項が記載されていると認められる。
(14a)「【0014】円錐回転体43はステンレス製からなり、図3に図示されるように回転駆動力供給側すなわちトラクタ側にいく程径大となる全体としてはほぼ円錐台状からなり、円筒回転体42の回転駆動力供給側すなわち円筒回転体42よりも機枠11寄りで、第2従動回転軸35の先端に円筒回転体42の中央に傾斜面を向けて取り付けられ、第2従動回転軸35の回転により土を盛り上げ状態とされた畦形成箇所Aの機枠11側側面を移動方向に強制的に順回転される。第1従動プーリ36は、第2従動プーリ37より小径であるため、第1従動回転軸34は第2従動回転軸35より増速設定され、各従動回転軸に取り付けられる円筒回転体42と円錐回転体43とは独立して回転されるとともに、その周速はほぼ同一に設定される。」
(14b)「【0017】図5、図6に図示される他の実施の形態では、円錐回転体43の分割片44はそれぞれほぼ扇型の独立片からなる。45は分割片取り付け盤であり、ステンレス製等の金属製からなる。分割片取り付け盤45は表面が円滑な円錐台状からなり、その表面に分割片44の端部を相互に重複させながらビス46で取り付ける。ビス46で分割片取り付け盤45に取り付けられた分割片44とビス46の上に重ねられた隣接する分割片44とで当接面a、逃げ面bを構成し、かつ相互の間で前進角A、逃げ角Bを構成する。この実施の形態では分割片44は別個に製造可能となるので生産性が向上する。」

3)本件出願前に頒布された刊行物である甲第15号証(特開2001-161107号公報)には、「畦塗り機」に関して、図面とともに次の事項が記載されていると認められる。
(15a)「【0011】ここで本発明においては、前記多角円錐状ドラム19からなる整畦体16を、図1ないし図3に示すように、稜線18により8つに区切られた整畦面(多角円錐状ドラム)の回転軸取付け側中心点19aを、回転軸20の中心Oより偏心量αだけ偏心させて取付け部21を介して回転軸20に取付けている。…」

4)本件出願前に頒布された刊行物である甲第16号証(特開2000-188907号公報)には、「畦塗り機」に関して、図面とともに次の事項が記載されていると認められる。
(16a)「【0011】前処理体5の後方に位置して、前処理体5により耕耘された土壌を畦に成形する多角円錐状ドラム11からなる整畦体10が設けられ、その回転軸9に伝動フレーム2から伝動ケース8を介して動力が伝達される。整畦体10の回転中心部の外側部には、水平筒状体12が一体的に設けられ、多角円錐状ドラム11と共に回転して、多角円錐状ドラム11により成形された畦の頂部を平らに成形するようにしている。
【0012】ここで本発明においては、前記多角円錐状ドラム11を、1枚の金属板により円錐面11aを12角の多角円錐に形成し、その角部分の段差部11bが円錐基部から先端まで均一になるように屈曲して形成している。…」

5)本件出願前に頒布された刊行物である甲第17号証(特開2000-83407号公報)には、「畦塗り機」に関して、図面とともに次の事項が記載されていると認められる。
(17a)「【0053】前記畦塗り体5は、図1に示すように、前記第3の連動軸63の一端部に固定部材67にて固定されている。この畦塗り体5は、旧畦Aの上面部Dに盛土された土をこの旧畦Aの上面部Dに塗り付けて旧畦Aの上面部Dを水平状に修復する円筒状の上面修復部68と、この上面修復部68の内端部に固定され旧畦Aの肩部Eを面取り状に修復する肩修復部69と、この肩修復部69の内端部に固定され旧畦Aの側面部Cを田面側Bの下方に向かって拡開傾斜した傾斜面に修復する円錐形状の側面修復部70と、を有している。
【0054】そして、前記側面修復部70は略扇形状に形成された複数の修復板71にてこれらの各修復板71を互いに隣接する側端縁部のそれぞれを重ね合わせて全体として円錐形状に形成されてる。」

(2)本件発明と甲2発明との対比
本件発明と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「トラクタE」は、本件発明の「走行機体」に相当し、以下同様に、
「懸架機構F」は、「連結装置」に、
「旧畦」は、「元畦」に、
「ロータリー33」は、「土盛体」に、
「畦塗り体42」は、「整畦体」に、
「泥土塗付け板67」は、「整畦板」に、
「取付片73」は、「連結部位」に相当する。
また、甲2発明において「回転方向に隣接する」は、本件発明の「周方向に隣接する」に相当する。
さらに、甲2発明において「側面修復体43」の外周面を形成する複数の泥土塗付け板67(整畦板)は、外周が円形に近似した形状となるように、周方向に等間隔に配設され相互に連結されているから、このように連結された複数の泥土塗付け板67は、本件発明の「整畦ドラム」に相当するといえる。

したがって、両者は、次の点で一致する。
[一致点]
「A 走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復する整畦体とを有する畦塗り機であって、
B 回転しながら畦を形成する上記整畦体は、その回転中心側から外周側へ向けて次第に幅が広くなる側縁を有する複数の整畦板が、外周が円形に近似した形状となるように周方向に等間隔に配設され構成される整畦ドラムを有し、
C’周方向に隣接する上記整畦板は境界部分において、上下間隔をおき、整畦板に連続して形成されている連結部位が隣接する整畦板に重なった状態で、連結されている
D 畦塗り機。」

また、両者は、次の点で相違する。
[相違点1]
整畦板の連結が、本件発明では、「整畦ドラムの回転方向後方側に位置する整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位がその側に隣接する整畦板の背面側に重なった状態」であるのに対し、
甲2発明では、「整畦ドラムの回転方向前方側に位置する整畦板の回転方向後方側に連続して形成されている連結部位が、その側に隣接する整畦板の回転方向前方側上面側に重なった状態」である点。
[相違点2]
本件発明1では、「整畦板は境界部分において重なり部分が設けられることなく、上下間隔をおいている」のに対し、
甲2発明では、整畦板は、境界部分において上下間隔をおいているものの、重なり部分が設けられているか否か不明な点。

(3)判断
相違点1について検討する。
ア 甲2発明は、連結部位は、整畦板の径大部すなわち回転方向後方側の端縁部に設けることが記載されているものであって、隣接する連結部位を回転方向前方側すなわち径小部の端縁部に設けること、連結部位を回転方向前方側の整畦板の背面側に連接することは何ら示されていない。

イ なお、請求人は、連結部位を整畦板の回転方向前方側、後方側のどちらに設けるかにより整畦作用に差異はなく、どちらに設けるかは適宜選択しうると主張する。
確かに、相違点1は、連結部位を回転方向前方側整畦板の後方側に連続させるか、回転方向後方側整畦板の前方側に連続させるかの違いである。
しかしながら、本件発明は、整畦板の回転方向前方側に連結部位を連続して形成することによって、連結部位が回転方向前方側の整畦板の背面側に重なった状態で連結されることになり、畦に押しつけられる整畦ドラムの表面にボルト等の連結部材が突出することがないため、綺麗な畦を形成することができ、又、連結箇所に泥が付着を防止することができるものと認められる。
さらには、連結部位を回転方向前方側の整畦板の背面側に連結することにより、連結位置の自由度を増すことができる効果を有し、回転方向前方側の整畦板の後方側に張り出し部を設けることも可能となるものである。
したがって、連結部位を整畦板の回転方向前方側に設けることが、当業者において適宜選択しうる程度のこととすることはできない。

ウ また、甲2発明において、複数の整畦板から構成される整畦ドラムを整畦体に取り付る手段は何ら限定されていないが、甲第2号証に具体的に記載されている実施例は、複数の整畦板(泥土塗付け板67)を略円錐形状の取付基板66の外周面に配設するものであり、この実施例では、整畦板の回転方向前方側の径小部68の端縁部70を取付基板66の外面に接合し、この径小部68の端縁部70に、隣接する整畦板の径大部69の端縁部70に突設した連結部位(取付片73)を当接し、取付基板66の外面に接する部位でボルト77とナット78で締着するものであり、回転方向後方側の整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位を、隣接する整畦板の背面側に重ねて連結すると、連結部が取付基板の外面から離間することになるから、本件発明の相違点に係る構成とすることが当業者が容易になしうるとすることはできない。

エ なお、請求人は、略円錐形状の取付基板を用いることなく、整畦ドラムを整畦体に取付けるものは周知であるとして、甲第14号証ないし甲第17号証を提示しているが、甲第14号証ないし甲第17号証のいずれにも、複数の整畦板を配設して整畦ドラムを構成するものにおいて、回転方向後方側の整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位を、隣接する整畦板の背面側に重ねて連結することは示されていない。
すなわち、甲第14号証ないし甲第16号証には、取付基板を用いることなく、整畦ドラムを整畦体に取付けるものが記載されているが、整畦ドラムは、いずれも円錐台形、又は多角円錐状であり、複数の整畦板を連結したものではない。また、甲第17号証には、複数の整畦板を重ね合わせて連結し整畦ドラムを形成することが示されているが、どのようにして連結しているか具体的に記載されていない。
したがって、甲第14号証ないし甲第17号証を参酌しても、相違点1に係る本件発明の構成とすることが、当業者が容易になしうるとすることはできない。

そして、本件発明は、相違点Aに係る構成により、取付基板を必要とせず、連結部位が設けられた整畦板のみを連結して整畦ドラムを構成することができるものであり、構造が簡単で製造が容易であり、複数の整畦板で形成されるものでありながら整畦ドラムの表面にボルトが突出することがない等の効果を奏するものと認められる。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明は、甲2発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)無効理由4についてのむすび
以上のとおりであるから、無効理由4の理由があるとすることはできない。

5 無効理由5について
(1)検甲第1号証の発明
検甲第1号証として提示された、「ニプロあぜ塗り機AZ-350 製造番号1837」は、甲第5号証ないし甲第7号証によれば、本件特許の出願前である平成10年4月28日に、松山株式会社長野営業所から、JA佐久浅間しらかば西部機械化センター(立科)に販売され、さらに、平成10年(1998年)5月21日に、同しらかば西部機械化センターから山浦建夫氏に納品されたものであって、本件出願前に公然と販売することにより実施されたものであると認められ、この点について、当事者間に争いはない。
そして、検甲第1号証に、次の発明が示されていると認められ、この点についても当事者間に争いがない。
「(a2)走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復する整畦体とを有する畦塗り機であって、
(b2)回転しながら畦を形成する整畦体は、略円錐形状の取付基板と、この取付基板に取り付けられた複数の整畦板を有し、
前記整畦板は、回転中心側から外周側へ向けて次第に幅が広くなる側縁を有し、外周が円形に近似した形状となるように、取付基板の外周面に沿って周方向に等間隔に配設され、
(c2)周方向に隣接する前記整畦板は、境界部分において重なり部分が設けられて、上下間隔をおき、
上記整畦ドラムの回転方向前方側に位置する整畦板の背面側に連結されている連結部材が、回転方向後方側に位置する整畦板の前方側に当接され、取付基板にボルト止めにより取り付けられて、連結されている
d2 畦塗り機。」(以下、「検甲1発明」という。)

(2)対比
本件発明と検甲1発明を対比する。
検甲1発明において、周方向に等間隔に配設された複数の整畦体は、相互に連結されて「整畦ドラム」を構成しているといえる。
また、検甲1発明において「回転方向前方側に位置する整畦板の背面側に連結されている連結部材が、回転方向後方側に位置する整畦板の前方側に当接され、取付基板にボルト止めにより取り付けられて、連結されている」ことと、本件発明において、「整畦ドラムの回転方向後方側に位置する整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位がその側に隣接する整畦板の背面側に、連結されている」こととは、「整畦ドラムの回転方向後方側に位置する整畦板の回転方向前方側が、隣接する回転方向前方側の整畦板の背面側と、連結されている」点で共通する。

したがって、両者は、次の点で一致する。
「A 走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復する整畦体とを有する畦塗り機であって、
B 回転しながら畦を形成する上記整畦体は、その回転中心側から外周側へ向けて次第に幅が広くなる側縁を有する複数の整畦板が、外周が円形に近似した形状となるように周方向に等間隔に配設され構成される整畦ドラムを有し、
C”周方向に隣接する上記整畦板は境界部分において、上下間隔をおき、上記整畦ドラムの回転方向後方側に位置する整畦板の回転方向前方側が、その側に隣接する回転方向前方側の整畦板の背面側と、連結されている
D 畦塗り機。」

また、両者は、次の点で相違する。
[相違点A]
回転方向後方側に位置する整畦板とその側に隣接する回転方向前方側の整畦板の背面側との連結に関して、本件発明は、「回転方向後方側に位置する整畦板の回転方向前方側に連続して形成されている連結部位」により連設されているのに対し、
検甲1発明は、「回転方向前方側の整畦板の背面側に連結されている連結部材が、回転方向後方側に位置する整畦板の前方側に当接され、取付基板にボルト止めにより取り付けられ」ている点。
[相違点B]
隣接する整畦板が、本件発明では、「重なり部分が設けられることなく」連結されているのに対し、
検甲1発明では、「重なり部分が設けられて」連結されている点。

(3)判断
相違点Aについて検討する。
検甲1発明は、複数の整畦板の連結と、整畦板と略円錐形状の取付基板との連結を同時にボルト止めにより行うために、回転方向前方側の整畦板の背面側に連結されている連結部材を、取付基板表面に接する、回転方向後方側の整畦板の前方側に重ねてボルト止めしていることは明らかであり、回転方向後方側の整畦板の回転方向前方側に連結部位を連続して形成することは、何ら示されていない。
そして、検甲1発明の複数の整畦板は、取付基板に対してボルト止めにより取付けられていることにより、各整畦板を取り外し可能なものと認められ、回転方向後方側の整畦板の回転方向前方側に連結部位を連続して形成すると、複数の整畦板が一体に連結され、各整畦板を取り外すことができなくなるから、検甲1発明において、回転方向後方側の整畦板の回転方向前方側に連結部位を連続して形成することは、容易に想到しうることではない。
なお、請求人は、整畦板全体を取り換えることもあるから、連結部位を後方側の整畦板に連続して設けることは適宜なしうると主張するが、整畦板全体を取り換えることがあるとしても、検甲1発明において、回転方向前方側の整畦板に連結されている連結部材を回転方向後方側の整畦板の回転方向前方側に連結部位に連続して形成されたものとし、複数の整畦板を一体に連結されたものとすると、一部を取りかえることが不可能となるものであり、このような不都合を生じさせてまで連結位置を変更する動機もなく、相違点Aに係る本件発明の構成とすることが当業者が容易に想到しうるとすることはできない。

そして、本件発明は、相違点Aに係る構成により、取付基板を必要とせず、連結部位が設けられた整畦板のみを連結して整畦ドラムを構成することができるものであり、構造が簡単で製造が容易であり、複数の整畦板で形成されるものでありながら整畦ドラムの表面にボルトが突出することがない等の効果を奏するものと認められる。

したがって、相違点Bについて検討するまでもなく、本件発明は、検甲1発明及び甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)無効理由5についてのむすび
以上のとおりであるから、無効理由5の理由があるとすることはできない。

なお、上記(1)に記載したとおり、検甲第1号証が本件出願前に公然と知られていたこと、検甲第1号証に検甲1発明が示されていることについては当事者間に争いがないので、検甲第1号証及び検甲第2号証の検証、並びに証人尋問は行わない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を、無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
畦塗り機
【図面】






 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2011-06-17 
出願番号 特願2008-99623(P2008-99623)
審決分類 P 1 113・ 841- YA (A01B)
P 1 113・ 561- YA (A01B)
P 1 113・ 537- YA (A01B)
P 1 113・ 121- YA (A01B)
P 1 113・ 113- YA (A01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 圭伸  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 土屋 真理子
宮崎 恭
登録日 2010-07-02 
登録番号 特許第4542169号(P4542169)
発明の名称 畦塗り機  
代理人 樺澤 襄  
代理人 特許業務法人 エビス国際特許事務所  
代理人 樺澤 聡  
代理人 特許業務法人エビス国際特許事務所  
代理人 山田 哲也  

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