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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2012800042 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
不服200727004 審決 特許
無効2008800283 審決 特許
無効2009800029 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A61L
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A61L
審判 一部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  A61L
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A61L
管理番号 1243445
審判番号 無効2010-800038  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-03-05 
確定日 2011-08-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3527721号発明「眼科用組成物におけるホウ酸塩-ポリオール複合体の使用」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3527721号の請求項35?38、44?47、56?59、65?68に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3527721号は、アルコン ラボリトリーズ インコーポレイテッドを出願人として、平成5年5月4日(パリ条約による優先権主張1992年5月6日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願平5-519608号の一部を平成13年9月27日に新たな特許出願としたものであり、平成16年2月27日に設定登録がなされたものであって、以後の経緯は以下で示すとおりである。
平成22年3月5日 請求人:無効審判請求書
平成22年8月11日 被請求人:答弁書、訂正請求書
平成23年1月14日 請求人:口頭審理陳述要領書
平成23年1月14日 被請求人:口頭審理陳述要領書
平成23年1月28日 口頭審理

第2 訂正請求について
(2-1)訂正の内容
平成22年8月11日付け訂正請求書において被請求人の求める訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、当該訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正しようとするものであり、以下で示すとおりである。
<訂正事項a>
特許請求の範囲の請求項35の「抗菌活性」を「A.nigerに対する抗菌活性」と訂正する。

<訂正事項b>
特許請求の範囲の請求項56の「抗菌活性」を「A.nigerに対する抗菌活性」と訂正する。

<訂正事項c>
発明の詳細な説明の【0039】【表11】の「B.albicans」を「C.albicans」と訂正する。

(2-2)訂正の当否
<訂正事項a>について
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項35の「抗菌活性」を「A.nigerに対する抗菌活性」と訂正するものであって、
・「抗菌活性」に関して「A.nigerに対する」という限定を付加するものであるので、特許請求の範囲の減縮に相当し、
・本件特許明細書には、例えば「【0006】【課題を解決するための手段】発明の要旨 本発明はこのような眼科用組成物を提供する。本発明の眼科用組成物はホウ酸塩-ポリオール複合体を含み、驚くべきことに、特にA.nigerのような生物に関しては、ホウ酸またはその塩と比較して抗菌活性が増大することが判明した。さらに、これらの複合体は組合せて用いた場合に、他の抗菌剤の抗菌効果を思いがけなく増大する。」との記載があり、これには、「A.nigerに対する抗菌効果(活性)」が示されているので、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許請求の範囲を拡張し変更するものではない。
したがって、訂正事項aは、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書き第一号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法第134条の2第5項において準用する同第126条第2項および第3項の規定に適合するものである。

<訂正事項b>について
訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項56の「抗菌活性」を「A.nigerに対する抗菌活性」と訂正するものであって、訂正事項aと同じ理由で、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書き第一号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法第134条の2第5項において準用する同第126条第2項および第3項の規定に適合するものである。

<訂正事項c>について
訂正事項cは、発明の詳細な説明の【0039】【表11】の「B.albicans」を「C.albicans」と訂正するものであり、
・微生物に関連する技術分野の技術常識からして、「B.albicans」が誤記であって、正しくは「C.albicans」であると見ること自体、当然のことであるので、誤記の訂正に相当し、
・本件特許明細書において実質的に記載されている「C.albicans」を明記するものであるので、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許請求の範囲を拡張し変更するものではない。
したがって、訂正事項cは、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書き第二号に規定する誤記の訂正を目的とするものであり、同法第134条の2第5項において準用する同第126条第2項および第3項の規定に適合するものである。

以上のとおりであるから、「本件訂正」は、適法な訂正であると認める。

第3 本件出願の出願日
上記「第1 手続の経緯」で示したように、「本件特許第3527721号は・・・平成5年5月4日(パリ条約による優先権主張 1992年5月6日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願平5-519608号の一部を平成13年9月27日に新たな特許出願としたもの」である。
(3-1)パリ条約による優先権主張について
本件訂正明細書(例えば請求項35)には、「複合体がホウ酸塩及びポリオールを1:0.1?1:10のモル比で含有」することの記載がある。
一方、パリ条約による優先権主張の基礎となる米国特許出願07/879435の明細書及び請求の範囲(甲第2号証、乙第1号証)には、「ホウ酸塩及びポリオールのモル比」に関して、被請求人が答弁書の第9頁第1行?同下から第7行において「本件特許出願の優先権主張の基礎となる出願に係る当初明細書である、米国特許出願07/879435(乙第1号証、甲第2号証に同じ、以下『本件基礎出願』及び『本件基礎出願明細書』という場合がある)の第4頁の表1には下記の処方例が記載されている。・・・省略・・・
ホウ酸の分子量は61.83、ホウ酸ナトリウムの分子量は381.37、マンニトールの分子量は182.17であるから、すなわち、表1の処方Aにおいてホウ酸塩1モルに対してポリオールは0.46モル(1モル未満、0.35/61.83+0.11/381.37:0.5/182.17)であり、同じく表1の処方Bにおいてホウ酸塩1モルに対してポリオールは0.92モル(1モル未満、0.35/61.83+0.11/381.37:1.0/182.17)である。
また、本件基礎出願明細書の表2(乙第1号証、第5頁)にはホウ酸塩1モルに対してポリオールが0.46モルである処方7が記載されている。さらに、本件基礎出願明細書の表3(乙第1号証、第6頁)には、ホウ酸塩1モルに対してポリオールは0.34である処方10が記載されている。」と主張しているように、ホウ酸塩1モルに対してポリオールを0.46(処方A、処方7)、0.92(処方B)、0.34(処方10)にすること、つまり、1以下にすることの記載はあるものの、「0.1」に近い数値の例示がなく、下限を「0.1」とすることの技術的根拠が示されているということはできない。
したがって、パリ条約による優先権主張の基礎となる米国特許出願07/879435の明細書及び請求の範囲には、「0.1」を下限とすること、つまり、「複合体がホウ酸塩及びポリオールを1:0.1?1:10のモル比で含有」することの記載も示唆もないことから、本件訂正明細書は、優先権主張の基礎となる米国特許出願07/879435の明細書及び請求の範囲に示されていないものを含んでいるので、本件出願について、パリ条約に基づく優先権主張の効果を認めることはできない。

(3-2)分割要件について
本件出願の原出願(特願平5-519608号)の公報である特表平7-506377号公報(甲第5号証)には、特許請求の範囲の請求項3に「・・・前記水溶性ホウ酸塩-ポリオール複合体がホウ酸塩およびポリオールを約1:0.1と約1:10との間のモル比で含有する」との記載があることを含め、本件訂正明細書に記載の事項が記載されているということができるので、本件出願は、分割要件を満たしており、本件出願について、出願日の遡及を認めることができる。

(3-3)小括
上記(3-1)(3-2)より、本件出願の出願日は、本件出願の原出願(特願平5-519608号)の出願日の平成5年5月4日となる。

第4 本件特許発明
本件特許の請求項35?38、44?47、56?59、65?68に係る発明は、上記のとおり訂正が認められるから、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項35?38、44?47、56?59、65?68に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項35】 水性眼科用組成物を微生物汚染から保存する方法において、該組成物中に0.5?6.0重量%の水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、該複合体がホウ酸塩及びポリオールを1:0.1?1:10のモル比で含有し、これによって該組成物のA.nigerに対する抗菌活性が増大される方法。
【請求項36】 該組成物が、保存有効量の眼科的に受容可能な抗菌剤を含有する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】 該抗菌剤が、モノマー性およびポリマー性四級アンモニウム化合物ならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、モノマー性およびポリマー性ビグアニドならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】 該ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が、該組成物中に1.0?2.5重量%の濃度で含まれ、ホウ酸塩のポリオールに対するモル比が1:0.25?1:2.5である、請求項35に記載の方法。
【請求項44】 該ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールからなる群から選択される、請求項35?43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】 該ポリオールが、グリセリンを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項46】 該ポリオールが、プロピレングリコールを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項47】 該ポリオールが、ソルビトールを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項56】 水性眼科用組成物のA.nigerに対する抗菌活性を増大させるための添加剤であって、活性増大成分として、ホウ酸塩及びポリオールを1:0.1?1:10のモル比で含有する水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まない添加剤。
【請求項57】 該組成物が、保存有効量の眼科的に受容可能な抗菌剤を含有する、請求項56に記載の添加剤。
【請求項58】 該抗菌剤が、モノマー性およびポリマー性四級アンモニウム化合物ならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、モノマー性およびポリマー性ビグアニドならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される、請求項57に記載の添加剤。
【請求項59】 該ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が、該組成物中に0.5?6.0重量%の濃度で含まれる、請求項58に記載の添加剤。
【請求項65】 該ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールからなる群から選択される、請求項56?64のいずれか1項に記載の添加剤。
【請求項66】 該ポリオールが、グリセリンを含む、請求項56に記載の添加剤。
【請求項67】 該ポリオールが、プロピレングリコールを含む、請求項56に記載の添加剤。
【請求項68】 該ポリオールが、ソルビトールを含む、請求項56に記載の添加剤。」

第5 請求人の主張の概要
請求人は、本件特許の請求項35?38、44?47、56?59、65?68に係る発明を無効とするとの審決を求め、証拠方法として、審判請求書に以下の甲第1?13号証を添付し、口頭審理陳述要領書に以下の甲第2の2、甲第14?21号証を添付し、審判請求書および口頭審理陳述要領書において概ね以下のとおり主張している。
○甲第1号証
特開平5-17355号公報

○甲第2号証
米国特許出願07/879435の明細書及び請求の範囲

○甲第3号証
WO91/01718

○甲第4号証
特開昭59-59619号公報

○甲第5号証
特表平7-506377号公報

○甲第6号証
PCT/US93/04226の明細書及び特許請求の範囲の翻訳文

○甲第7号証
ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY, May 1986, p.803-806

○甲第8号証
化学大辞典8 共立出版株式会社 昭和37年2月28日発行 603頁左欄下から2行?右欄45行

○甲第9号証
第十二改正日本薬局方 株式会社廣川書店 平成3年4月17日発行 751-752頁

○甲第10号証
化学大辞典8 共立出版株式会社 昭和37年2月28日発行 123頁右欄3?28行、特に23?27行

○甲第11号証
医薬品添加物-使用法と留意点-株式会社南山堂 1972年1月10日発行 107頁下から12?1行、110頁

○甲第12号証
特開平5-58895号公報

○甲第13号証
最新薬剤学-第6改稿版-、株式会社廣川書店、第227-231頁、平成4年5月20日発行

○甲第2号証の2
甲第2号証の全文訳

○甲第14号証
麹学、(財)日本醸造協会、1986年、表紙、目次、第48?49頁 71?73頁、及び奥付

○甲第15号証
戸田新細菌学、南山堂、1985年、表紙、目次、第704?705頁、及び奥付

○甲第16号証
British Pharmacopoeia 1980, Volume II, London Her Majesty's Stationery Office 1980, 1980年, 表紙、A192-A194.

○甲第17号証
The United States Pharmacopeia 1980, twentieth revision, United States Pharmacopeial Convention, Inc., 1980年, 表紙、第873-874頁.

○甲第18号証
本件特許の対応EP第0639070号の異議決定において判断の対象とされた4th AUXILIARY REQUEST

○甲第19号証
東京高判平13.12.18(平成13(行ケ)107)

○甲第20号証
岩波生物学辞典 第4版、岩波書店、1996年、表紙、第435頁及び奥付

○甲第21号証
第十改正日本薬局方解説書、1981年、表紙、C-1398?C-1402.

<無効理由1>
本件特許の請求項35?38、44?47、56?59、65?68に係る発明は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

<無効理由2>
本件特許の請求項35?38、44?47、56?59、65?68に係る発明は、甲第1号証?甲第21号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

<無効理由3>
本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び請求項35?38、44?47、56?59、65?68の記載は特許法第36条第4項及び第5項第1号(平成6年改正前の特許法(平成2年法律30))に規定する要件を満たさないから特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

第6 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件特許の請求項35?38、44?47、56?59、65?68に係る発明を無効とすることはできないとの審決を求め、証拠方法として、答弁書に以下の乙第1?14号証を添付し、口頭審理陳述要領書に以下の乙第15号証を添付し、答弁書および口頭審理陳述要領書において概ね以下のとおり主張している。
○乙第1号証
米国特許出願07/879435(本件基礎出願)の明細書及び請求の範囲

○乙第2号証
本件特許の対応EP特許(EP特許第0639070号)の2009年12月14日付け異議の決定

○乙第3号証
本件特許の対応EP特許(EP特許第0639070号)の異議手続きにおける答弁書

○乙第4号証
平成18年(行ケ)第10227号判決

○乙第5号証
異議2000-70678号の異議の決定

○乙第6号証
本件出願において平成15年12月10日付けで提出の実験成績証明書

○乙第7号証
本件特許出願の原出願である国際出願(PCT/US93/04226)の国際公開第93/21903号パンフレット

○乙第8号証
国際公開第93/21903号パンフレットの翻訳文である特許法第184条の5第1項の規定による書面

○乙第9号証
原出願において平成13年9月27日付けで提出の手続補正書

○乙第10号証
原出願において平成13年9月27日付けで提出の意見書

○乙第11号証
ANTIMICROBIAL AGENTS AND CEHMOTHERAPY, May 1986,第803頁-第806頁

○乙第12号証
APPLIED AND ENVIROMENTAL MICROBIOLOGY, June 1999,第2396頁-第2401頁

○乙第13号証
製剤学 理論と応用 南山堂、1974年9月20日発行、第162頁-第164頁

○乙第14号証
医薬品添加物-使用法と留意点- 株式会社南山堂 1972年1月10日発行、第124頁-第125頁

○乙第15号証
化学便覧 基礎編 日本化学会編 昭和41年9月25日発行、第146頁-第147頁、第216頁、第270頁及び第342頁

<無効理由1>に対して
本件特許の請求項35?38、44?47、56?59、65?68に係る発明は、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証又は甲第5号証に記載された発明と同一ではなく、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず特許を受けることができるものであり、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきではない。

<無効理由2>に対して
本件特許の請求項35?38、44?47、56?59、65?68に係る発明は、甲第1号証?甲第21号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきではない。

<無効理由3>に対して
本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び請求項35?38、44?47、56?59、65?68の記載は特許法第36条第4項及び第5項第1号(平成6年改正前の特許法(平成2年法律30))に規定する要件を満たし特許を受けることができるものであり、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすべきではない。

第7 甲各号証記載の内容
◇甲第3号証(WO91/01718)
(a)明細書第2頁第3?12行
「光に対し不安定な薬物は数多くあるが、一般にヒドロキシ基、低級アルコキシ基、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をその化学構造内にもつ薬物は光に対し不安定とされている。それらの化合物の例としてはブナゾシン、プラゾシン、テラゾシン、エピネフリンやフェニレフリン等が挙げられる。本発明で用いられる薬物は勿論塩酸塩等の医薬として許容される塩の形となっていてもよい。
多価アルコールはヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、グルコースなどが挙げられる。」

(b)明細書第2頁下から第3行?第3頁第2行
「ホウ酸および/またはホウ砂と多価アルコールによる光安定化の詳細な機序については未解明だが、ホウ素と多価アルコールを介し、コンプレックスを水溶液中で形成して安定化すると推測され、この様なコンプレックス形成が可能な薬物に対して本発明が広く適用できるものであり、前述の薬物群に限定されるものではない。」

(c)明細書第3頁第13行?同第4頁第1行
「本発明におけるホウ酸またはホウ砂の配合量はその効果が発揮できるものであれば特に制限はなく、薬物の種類、濃度によって定めればよいが、0.5?2.5%が好ましい。又、多価アルコールの配合量もその効果が発揮できるものであれば特に制限はなく、薬物の種類、濃度によって定めればよいが、0.1?2.0%が好ましい。
本発明点眼液の製法は既知の方法を用いて調製すればよく、光に対し不安定な薬物の溶液にホウ酸および/またはホウ砂と多価アルコールを加えて溶解すればよく、必要に応じて塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの等張化剤、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤、水酸化ナトリウムや希塩酸などのpH調整剤などを加えればよい。」

(d)明細書第4頁第5?11行
「処方1(100ml中)
塩酸ブナゾシン 0.1g
ホウ酸 1.24g
濃グリセリン 0.3g
塩化ベンザルコニウム 0.005g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量 」

(e)明細書第4頁下から第5行?第5頁第3行
「処方2(100ml中) pH6.0
塩酸ブナゾシン 0.1g
ホウ酸 1.0g
濃グリセリン 0.5g
塩化ベンザルコニウム 0.005g
塩化ナトリウム 0.23g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量 」

(f)明細書第6頁第6?12行
「処方6(100ml中) pH6.0
塩酸プラゾシン 0.05g
ホウ酸 1.0g
濃グリセリン 0.5g
塩化ベンザルコニウム 0.005g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量 」

(g)明細書第7頁第1?6行
「処方8(100ml中) pH5.5
塩酸ブナゾシン 0.5g
ホウ酸 0.5g
濃グリセリン 2.0g
水酸化ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量 」

(h)明細書第7頁第7?15行
「処方9(100ml中) pH6.0
塩酸ブナゾシン 0.1g
ホウ酸 1.24g
ホウ砂 0.1g
濃グリセリン 0.3g
塩化ベンザルコニウム 0.005g
水酸化ナトリウム 適量
希塩酸 適量
滅菌精製水 適量 」

(i)上記(c)で示した「・・・ホウ酸またはホウ砂の配合量は・・・0.5?2.5%が好ましい。又、多価アルコールの配合量も・・・0.1?2.0%が好ましい。・・・」との記載からして、「ホウ酸またはホウ砂」と「多価アルコール」とを合わせた配合量が「0.6?4.5%」であり、また、上記(d)ないし(h)で示した記載の各処方における各成分の量が「g」になっていることから、配合量の%は「重量%」であると見るのが妥当であるので、甲第3号証には、「0.6?4.5重量%の『ホウ酸またはホウ砂』と多価アルコールを含む」ことが記載されているということができる。

(j)上記(d)ないし(h)で示した記載からして、処方1、2、6、8、9において、点眼液が複数の成分から形成された組成物であることは明らかであるので、甲第3号証には、「点眼液組成物」が記載されているということができる。

(k)上記(d)ないし(h)で示した記載からして、処方1、2、6、8、9において、マンニトールではない濃グリセリン(多価アルコール)が用いられているので、甲第3号証(処方1、2、6、8、9)には、「マンニトールを除く多価アルコール」が記載されているということができる。

(l)上記(d)ないし(h)で示した記載からして、処方1、2、6、8、9において、点眼液が蛋白質分解酵素を含んでいないことは明らかであるので、甲第3号証(処方1、2、6、8、9)には、「蛋白質分解酵素を含まない」ことが記載されているということができる。

(m)上記(d)ないし(h)で示した記載からして、処方1、2、6、8、9において、「『ホウ酸またはホウ砂』に対する多価アルコールのモル比」の概数は、ホウ酸の分子量が61.84g、ホウ砂の分子量が381.37gであり、濃グリセリン(以下で示すように、甲第9号証には、グリセリンを98.0%以上含む濃グリセリンが開示されており、ほとんどがグリセリンである場合)の分子量が92.1gであるとして計算すると、以下のとおりになるので、甲第3号証(処方1、2、6、8、9)には、「『ホウ酸またはホウ砂』及び多価アルコールを1:0.160、0.162、0.336、2.69のモル比で含有する」ことが記載されているということができる。
処方1 濃グリセリン0.3g(0.0033モル)/ホウ酸1.24g(0.02モル)≒0.162
処方2 濃グリセリン0.5g(0.0054モル)/ホウ酸1.0g(0.016モル)≒0.336
処方6 濃グリセリン0.5g(0.0054モル)/ホウ酸1.0g(0.016モル)≒0.336
処方8 濃グリセリン2.0g(0.0217モル)/ホウ酸0.5g(0.008モル)≒2.69
処方9 濃グリセリン0.3g(0.0033モル)/(ホウ酸1.24g(0.020モル)+ホウ砂 0.1g(0.00026モル))≒0.160

上記(a)ないし(m)の記載事項より、甲第3号証(処方1、2、6、8、9)には、
「点眼液組成物を使用する方法において、該組成物中に0.6?4.5重量%の『ホウ酸またはホウ砂』とマンニトールを除く多価アルコールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質とのコンプレックスを含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、『ホウ酸またはホウ砂』とマンニトールを除く多価アルコールとが『ホウ酸またはホウ砂』及び多価アルコールを1:0.160、0.162、0.336、2.69のモル比で含有する、点眼液組成物を使用する方法。」の発明(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)が開示されている。

◇甲第4号証(特開昭59-59619号公報)
(n)公報第2頁左上欄第1?15行
「近年、非常に安定で、しかも、生体内においてビタミンC活性を充分に発揮できるビタミンC誘導体を得るべく種々研究が行われており、本出願人も、かかる誘導体として好適な、L-アスコルビン酸の3位ヒドロキシ基をグルコシル化した構造を有する3-O-グルコシル-L-アスコルビン酸について先に特許出願した(特願昭57-080972号)。その後、研究を重ねた結果、この誘導体が安定性をはじめ、無刺激、無痛性など、点眼剤に要求される諸性能を満足し、これを用いることにより、すぐれたビタミンC効果を発揮する点眼剤が得られることが判明した。
すなわち、本発明は、有効成分として、3-O-グルコシル-L-アスコルビン酸を配合してなる点眼剤を供給するものである。」

(o)公報第2頁右下欄第4?7行
「本発明の点眼剤は該粉末を常法に従って水に溶解し、pH、等張性を適宜調整してなる通常の液剤形を有するものである。」

(p)公報第2頁右下欄下から第3行?同第3頁左上欄第5行
「さらに、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩、パラベン類の保存料成分、多価アルコール非イオン系界面活性剤等の溶解助剤、・・・、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の等張化剤などを適宜配合することができる。」

(q)公報第3頁左下欄第8?19行
「実施例1
つぎの処方に従い、常法により点眼剤を調製した。
成分 重量%
プロピレングリコール 0.50
クロロブタノール 0.01
リン酸水素二ナトリウム 0.01
ホウ酸 1.30
塩化ナトリウム 涙液と等張となる量
3-O-グルコシル-L-アスコルビン酸 0.10
精製水 残 部 」

(r)上記(o)で示した「本発明の点眼剤は・・・通常の液剤形を有するものである。」との記載からして、甲第4号証には、「液剤形点眼剤」が記載されているということができる。

(s)上記(q)で示した記載からして、実施例1において、点眼剤が複数の成分から形成された組成物であることは明らかであるので、甲第4号証には、「点眼剤組成物」が記載されているということができる。

(t)上記(q)で示した記載からして、実施例1において、点眼剤が蛋白質分解酵素を含んでいないことは明らかであるので、甲第4号証(実施例1)には、「蛋白質分解酵素を含まない」ことが記載されているということができる。

(u)上記(q)で示した記載からして、実施例1において、点眼剤の「ホウ酸」と「プロピレングリコール」の合計量は、1.30+0.50=1.80重量%であることから、甲第4号証(実施例1)には、「1.80重量%のホウ酸とプロピレングリコール」が記載されているということができる。

(v)上記(q)で示した記載からして、実施例1において、「ホウ酸に対するプロピレングリコールのモル比」の概数は、ホウ酸が1.30重量%でプロピレングリコールが0.50重量%であり、ホウ酸の分子量が61.84でプロピレングリコールの分子量が76.1であり、これに基いて計算すると、「1:0.31」となるので、甲第4号証(実施例1)には、「ホウ酸およびプロピレングリコールを1:0.31のモル比で含有する」ことが記載されているということができる。

上記(n)ないし(v)の記載事項より、甲第4号証(実施例1)には、
「液剤形点眼剤組成物を使用する方法において、該組成物中に1.80重量%のホウ酸とプロピレングリコールを含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、ホウ酸とプロピレングリコールがホウ酸及びプロピレングリコールを1:0.31のモル比で含有し、液剤形点眼剤組成物を使用する方法。」の発明(以下、「甲第4号証記載の発明」という。)が開示されている。

◇甲第9号証
(w)第751頁
「濃グリセリン
・・・
本品はグリセリン(C_(3)H_(8)O_(3))98.0%以上を含む(比重による)。」
上記(w)の記載事項より、甲第9号証には、「グリセリンを98.0%以上含む濃グリセリン」が記載されている。

◇甲第14号証
(x)第71頁第13?18行
「(6)黒麹菌
分生子頭が黒色のかびは広く自然界に分布していて俗にくろかびA.nigerといわれ、外国ではクエン酸・蓚酸・タンニン酸を生産するものとして研究されて来たが、日本では古くから沖縄の泡盛や八丈島のいも焼酎の製造などに黒褐色やオリーブ色のかび(黒麹菌という)が使用されてその強い生酸力のためもろみが腐敗しないとして尊重されてきた。」
上記(x)の記載事項より、甲第14号証には、「A.nigerは、広く自然界に分布する俗にくろかびといわれる菌である」ことが記載されている。

◇甲第15号証
(y)第704頁左欄下から第15行?同右欄末行
「6.アスペルギルス Aspergillus 属
あらゆる有機物に寄生し、われわれの周囲に存在するもっともありふれた真菌の1つである。・・・
この属には70に及ぶ種類があるが、病原性が問題となるのは、主としてA.fumtgatusであり・・・A.nigerである。・・・
A.fumtgatusは・・・特に重要なのは肺真菌症で、・・・A.fumtgatusについでA.nigerが多く、合併症として致命的な心筋炎を起こすことがある。」
上記(y)の記載事項より、甲第15号証には、「A.nigerは、もっともありふれた真菌の1つであり、病原性を有する真菌である」ことが記載されている。

◇甲第20号証
(z)第435頁右欄
「g コウジカビ属[Aspergillus]
コウジカビ(Aspergillus oryzae 英koji mold)やクロカビ(A.niger 英black mold)を含む、子嚢菌の一群。・・・クエン酸(A.niger)・・・などを生成,利用・・・A.oryzae(麹病菌)などである。」
上記(z)の記載事項より、甲第20号証には、「A.nigerは、コウジカビ属に含まれる子嚢菌の一つである」ことが記載されている。

第8 当審の判断
<無効理由1>(新規性)について
◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項35に係る発明(以下、「本件訂正発明35」という。)について
・甲第3号証記載の発明との対比および新規性判断
上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第3号証記載の発明は「点眼液組成物を使用する方法において、該組成物中に0.6?4.5重量%の『ホウ酸またはホウ砂』とマンニトールを除く多価アルコールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質とのコンプレックスを含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、『ホウ酸またはホウ砂』とマンニトールを除く多価アルコールとが『ホウ酸またはホウ砂』及び多価アルコールを1:0.160、0.162、0.336、2.69のモル比で含有する、点眼液組成物を使用する方法。」である。
本件訂正発明35と甲第3号証記載の発明とを対比する。
○甲第3号証記載の発明の「点眼液組成物」、「多価アルコール」、「コンプレックス」は、本件訂正発明35の「水性眼科用組成物」、「ポリオール」、「複合体」にそれぞれ相当する。

○甲第3号証記載の発明の「『ホウ酸またはホウ砂』」は、点眼液の一成分である以上、点眼液に溶解しているということができるので、本件訂正発明35の「水溶性ホウ酸塩」に相当する。

○甲第3号証の発明の「点眼液組成物(水性眼科用組成物)を使用する方法」は、使用期間にわたって保存される必要があることから、本件訂正発明35の「水性眼科用組成物を保存する方法」に相当する。

○甲第3号証記載の発明の「0.6?4.5重量%」、「1:0.160、0.162、0.336、2.69」は、本件訂正発明35の「0.5?6.0重量%」、「1:0.1?1:10」の範囲内に包含されているので、両者は「0.6?4.5重量%」、「1:0.160、0.162、0.336、2.69」の数値を取る点で共通する。

○甲第3号証記載の発明の「点眼液組成物(水性眼科用組成物)を使用(保存)する方法」と、本件訂正発明35の「水性眼科用組成物のA.nigerに対する抗菌活性が増大される方法」とは、「水性眼科用組成物を保存する方法」という点で共通する。

上記より、本件訂正発明35と甲第3号証記載の発明とは、
「水性眼科用組成物を保存する方法において、該組成物中に0.6?4.5重量%の水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールを含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとがホウ酸塩及びポリオールを1:0.160、0.162、0.336、2.69のモル比で含有し、水性眼科用組成物を保存する方法。」という点で一致し、以下の点で一応相違している。

<相違点1>
本件訂正発明35では、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体」であるのに対して、
甲第3号証記載の発明では、「『ホウ酸またはホウ砂』とマンニトールを除く多価アルコールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質とのコンプレックス」である、言い換えると、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質との複合体」である点。

<相違点2>
本件訂正発明35では、水性眼科用組成物を「微生物汚染から」保存し、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が形成されている等「によって水性眼科用組成物のA.nigerに対する抗菌活性が増大される」のに対して、
甲第3号証記載の発明では、点眼液組成物(水性眼科用組成物)を保存するものの、「微生物汚染から」保存するかどうか、また、水溶性ホウ酸塩・・・複合体が形成されている等「によって水性眼科用組成物のA.nigerに対する抗菌活性が増大される」かどうか明らかでない点。

上記両相違点について検討する。
<相違点1>について
本件訂正明細書には、水溶性ホウ酸塩とポリオールを含む水性眼科用組成物が、クロルヘキシジン(例えば【0008】参照)またはスルファセタミドナトリウム(【0022】【表3】の処方13参照)を含む場合があることの記載があり、そして、クロルヘキシジンが二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質であり、スルファセタミドナトリウムが一級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質であることは、当業者において普通に知られた事項であり、これからして、水溶性ホウ酸塩とポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質とを含む場合が示されているということができ、
また、本件訂正明細書には、「【0013】ホウ酸塩-ポリオール複合体は・・・本発明の組成物に用いられる。しかし、潜在的な相互作用が組成物の他の成分で生じ得るため、至適量は生成物の複合性に依存する。」との記載があり、これからして、水溶性ホウ酸塩とポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質とを含む場合、これらの間に相互作用が生じていると推認することができる。
一方、甲第3号証記載の発明は、上記対比で示したように、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質との複合体」が形成されたものであり、これは、水溶性ホウ酸塩とポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質との間に相互作用が生じていることを示している。
上記より、本件訂正発明35の発明の水性眼科用組成物が少なくとも上記の場合のとき、本件訂正発明35の発明と甲第3号証記載の発明とは、水溶性ホウ酸塩とポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質との間に相互作用が生じているという点で一致している。
そうすると、本件訂正発明35の発明と甲第3号証記載の発明とは、上記の点で一致しているので、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの存在形態についても同等である、つまり、同様に「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体」が形成されているということができる。
したがって、相違点1は実質的な相違ではない。

<相違点2>について
甲第3号証記載の発明の「水性眼科用組成物を保存する」ことについて、上記(c)で示した「・・・本発明点眼液の製法は既知の方法を用いて調製すればよく・・・塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤・・・などを加えればよい。」との記載、および、上記(d)ないし(f)(h)で示した記載(処方1、2、6、9)からして、甲第3号証には、防腐成分、つまり、保存(抗菌)成分として塩化ベンザルコニウムを用いることが示されており、
また、甲第14号証には「A.nigerは、広く自然界に分布する俗にくろかびといわれる菌である」ことが記載され、甲第15号証には「A.nigerは、もっともありふれた真菌の1つであり、病原性を有する真菌である」ことが記載され、甲第20号証には「A.nigerは、コウジカビ属に含まれる子嚢菌の一つである」ことが記載されていることから、A.nigerが、広く自然界に分布する俗に黒カビといわれると共に病原性を有する真菌であることは、よく知られた事項であり、そうである以上、一般に、保存(抗菌)を行う場合、大概、A.nigerに対する抗菌性が考慮されているということができるので、
甲第3号証記載の発明の「水性眼科用組成物を保存する」ことについて、抗菌成分の塩化ベンザルコニウムを用いること自体、A.nigerに対する抗菌性を考慮したものであると見ることができる。
一方、本件訂正発明35は、明らかに、A.nigerに対する抗菌性を考慮したものである。
上記より、本件訂正発明35と甲第3号証記載の発明とは、A.nigerに対する抗菌性を考慮したものである(と見ることができる)という点で一致している。
そして、本件訂正発明35と甲第3号証記載の発明とは、上記対比で検討したように、「水性眼科用組成物中に0.6?4.5重量%の水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールを含み、水溶性ホウ酸塩及びポリオールを1:0.160、0.162、0.336、2.69のモル比で含有」するという点で一致し、また、上記<相違点1>についてで検討したように、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体」が形成されているという点で一致している。
そうすると、本件訂正発明35と甲第3号証記載の発明とは、上記の点で一致しているので、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体の作用効果についても同等である、つまり、同様に、水性眼科用組成物を「微生物汚染から」保存し、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が形成されている等「によって水性眼科用組成物のA.nigerに対する抗菌活性が増大される」ようになっているということができる。
したがって、相違点2は実質的な相違ではない。

上記からして、本件訂正発明35は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

・甲第4号証記載の発明との対比および新規性判断
上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第4号証記載の発明は「液剤形点眼剤組成物を使用する方法において、該組成物中に1.80重量%のホウ酸とプロピレングリコールを含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、ホウ酸とプロピレングリコールがホウ酸及びプロピレングリコールを1:0.31のモル比で含有し、液剤形点眼剤組成物を使用する方法。」である。
本件訂正発明35と甲第4号証記載の発明とを対比する。
○甲第4号証記載の発明の「液剤形点眼剤組成物」、「プロピレングリコール」は、本件訂正発明35の「水性眼科用組成物」、「マンニトールを除くポリオール」にそれぞれ相当する。

○甲第4号証記載の発明の「ホウ酸」は、液剤形点眼剤の一成分である以上、液剤形点眼剤に溶解しているということができるので、本件訂正発明35の「水溶性ホウ酸塩」に相当する。

○甲第4号証の発明の「液剤形点眼剤組成物(水性眼科用組成物)を使用する方法」は、使用期間にわたって保存される必要があることから、本件訂正発明35の「水性眼科用組成物を保存する方法」に相当する。

○甲第4号証記載の発明の「1.80重量%」、「1:0.31」は、本件訂正発明35の「0.5?6.0重量%」、「1:0.1?1:10」の範囲内に包含されているので、両者は「1.80重量%」、「1:0.31」の数値を取る点で共通する。

○甲第4号証記載の発明の「液剤形点眼剤組成物(水性眼科用組成物)を使用(保存)する方法」と、本件訂正発明35の「水性眼科用組成物のA.nigerに対する抗菌活性が増大される方法」とは、「水性眼科用組成物を保存する方法」という点で共通する。

上記より、本件訂正発明35と甲第4号証記載の発明とは、
「水性眼科用組成物を保存する方法において、該組成物中に1.8重量%の水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールを含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとがホウ酸塩及びポリオールを1:0.31のモル比で含有し、水性眼科用組成物を保存する方法。」という点で一致し、以下の点で一応相違している。

<相違点A>
本件訂正発明35では、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体」であるのに対して、
甲第4号証記載の発明では、「ホウ酸とプロピレングリコール」である、言い換えると、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオール」である点。

<相違点B>
本件訂正発明35では、水性眼科用組成物を「微生物汚染から」保存し、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が形成されること等「によって水性眼科用組成物のA.nigerに対する抗菌活性が増大される」のに対して、
甲第4号証記載の発明では、液剤形点眼剤組成物(水性眼科用組成物)を保存するものの、「微生物汚染から」保存するかどうか、また、水溶性ホウ酸塩・・・複合体が形成されている等「によって水性眼科用組成物のA.nigerに対する抗菌活性が増大される」かどうか明らかでない点。

上記両相違点について検討する。
<相違点A>について
甲第4号証記載の発明において、上記(n)で示した「・・・L-アスコルビン酸の3位ヒドロキシ基をグルコシル化した構造を有する3-O-グルコシル-L-アスコルビン酸について・・・この誘導体が安定性をはじめ、無刺激、無痛性など、点眼剤に要求される諸性能を満足し、これを用いることにより、すぐれたビタミンC効果を発揮する点眼剤が得られる・・・」との記載からして、上記3-O-グルコシル-L-アスコルビン酸は、これ自体が安定な物質であるということができることから、ホウ酸(ホウ酸塩)とプロピレングリコール(マンニトールを除くポリオール)は、上記アスコルビン酸を安定化させるためのものであるとはいえず、一方、本件訂正発明35の「ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオール」は、水性眼科用組成物がアスコルビン酸を含んでいない以上、アスコルビン酸を安定化させるためのものであるとはいえないので、両者は、この点で一致している。
そして、甲第4号証記載の発明は、上記(q)で示した記載(実施例1)からして、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールと、これ以外の成分とを含む水性眼科用組成物であり、一方、本件訂正発明35は、本件訂正明細書の例えば「【0013】ホウ酸塩-ポリオール複合体は・・・本発明の組成物に用いられる。しかし、潜在的な相互作用が組成物の他の成分で生じ得るため、至適量は生成物の複合性に依存する。」との記載からして、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールと、これ以外の成分とを含む水性眼科用組成物であるので、両者は、この点で一致している。
さらに、本件訂正発明35と甲第4号証記載の発明とは、上記対比で検討したように、「1.80重量%の水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールを含み、水溶性ホウ酸塩及びポリオールを1:0.31のモル比で含有する」という点で一致している。
そうすると、本件訂正発明35と甲第4号証記載の発明とは、上記の点で一致しているので、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの存在形態についても同等である、つまり、同様に「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体」が形成されているということができる。 したがって、相違点Aは実質的な相違ではない。

<相違点B>について
甲第4号証記載の発明の「水性眼科用組成物を保存する」ことについて、上記(p)で示した「さらに、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩、パラベン類の保存料成分・・・などを適宜配合することができる。」との記載、および、一般に、「クロロブタノール」が殺菌・防腐成分として用いられること自体、本件出願前よく知られた事項(例えば、特開平4-305525号公報の【0007】参照)であることからして、甲第4号証には、保存・殺菌・防腐成分、つまり、抗菌成分としてクロロブタノールを用いることが示されており、
また、甲第14号証には「A.nigerは、広く自然界に分布する俗にくろかびといわれる菌である」ことが記載され、甲第15号証には「A.nigerは、もっともありふれた真菌の1つであり、病原性を有する真菌である」ことが記載され、甲第20号証には「A.nigerは、コウジカビ属に含まれる子嚢菌の一つである」ことが記載されていることから、A.nigerが、広く自然界に分布する俗に黒カビといわれると共に病原性を有する真菌であることは、よく知られた事項であり、そうである以上、一般に、保存(抗菌)を行う場合、大概、A.nigerに対する抗菌性が考慮されているということができるので、
甲第4号証記載の発明の「水性眼科用組成物を保存する」ことについて、抗菌成分のクロロブタノールを用いること自体、A.nigerに対する抗菌性を考慮したものであると見ることができる。
一方、本件訂正発明35は、明らかに、A.nigerに対する抗菌性を考慮したものである。
上記より、本件訂正発明35と甲第4号証記載の発明とは、A.nigerに対する抗菌性を考慮したものである(と見ることができる)という点で一致している。
そして、本件訂正発明35と甲第4号証記載の発明とは、上記対比で検討したように、「水性眼科用組成物中に1.80重量%の水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールを含み、水溶性ホウ酸塩及びポリオールを1:0.31のモル比で含有」するという点で一致し、また、上記<相違点A>についてで検討したように、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体」が形成されているという点で一致している。
そうすると、本件訂正発明35と甲第4号証記載の発明とは、上記の点で一致しているので、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体の作用効果についても同等である、つまり、同様に、水性眼科用組成物を「微生物汚染から」保存し、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が形成されている等「によって水性眼科用組成物のA.nigerに対する抗菌活性が増大される」ようになっているということができる。
したがって、相違点Bは実質的な相違ではない。

そして、被請求人は、口頭陳述要領書の第6頁下から第9行?同第4行において、「(2) 答弁書第6頁第29行-第7頁第6行において主張したとおり、本件発明35、訂正前発明35は、ホウ酸塩及びポリオールの複合体が抗菌活性、特にA.nigerに対する抗菌活性を増大するとの未知の属性を発見し、この属性により水性眼科用組成物を微生物汚染から保存する方法において、かかる複合体を、抗菌活性を増大するために使用するとの新たな用途を見出したことに基づく発明であり」との主張をしているが、上記検討で示したように、甲第3、4号証記載の発明は、ホウ酸塩及びポリオールの複合体が形成され、これがA.nigerに対する抗菌活性を増大するものであるということができ、そうである以上、これが新たな用途であるということはできない。
したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。

上記からして、本件訂正発明35は、甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項36に係る発明(以下、「本件訂正発明36」という。)について
本件訂正発明36は、本件訂正発明35において、「組成物が、保存有効量の眼科的に受容可能な抗菌剤を含有する」ことを限定事項にするものである。
ここで、本件訂正発明35についての検討で示したように、甲第3号証には、水性眼科用組成物が、抗菌成分としての塩化ベンザルコニウムを含有することの開示があり、この塩化ベンザルコニウムの量が眼科的に受容可能な保存有効量であるべきことは当然の事項である。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明36は、本件訂正発明35と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項37に係る発明(以下、「本件訂正発明37」という。)について
本件訂正発明37は、本件訂正発明36において、「抗菌剤が、モノマー性およびポリマー性四級アンモニウム化合物ならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、モノマー性およびポリマー性ビグアニドならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される」ことを限定事項にするものである。
ここで、本件訂正発明36についての検討で示したように、甲第3号証には、水性眼科用組成物が、眼科的に受容可能な保存有効量の塩化ベンザルコニウム(抗菌剤)を含有することの開示があるということができ、この塩化ベンザルコニウムがモノマー性四級アンモニウム化合物であること自体、先行技術文献を示すまでもなく、本件出願前周知の事項である。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明37は、本件訂正発明36と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項38に係る発明(以下、「本件訂正発明38」という。)について
本件訂正発明38は、本件訂正発明35において、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が、組成物中に1.0?2.5重量%の濃度で含まれ、水溶性ホウ酸塩のポリオールに対するモル比が1:0.25?1:2.5である」ことを限定事項にするものである。
ここで、本件訂正発明35についての検討で示したように、甲第3号証には、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が、組成物中に0.6?4.5重量%の濃度で含まれ、水溶性ホウ酸塩のポリオールに対するモル比が1:0.160、0.162、0.336、2.69であることの開示があり、ここで示されている数値は、本件訂正発明38における上記数値範囲内に包含されている。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明38は、本件訂正発明35と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項44に係る発明(以下、「本件訂正発明44」という。)について
本件訂正発明44は、本件訂正発明35において、「ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールからなる群から選択される」ことを限定事項にするものである。
ここで、上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第3号証(上記(a)の「・・・多価アルコールはヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、グルコースなどが挙げられる。」との記載参照)には、ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコールなどであることの開示がある。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明44は、本件訂正発明35と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項45に係る発明(以下、「本件訂正発明45」という。)について
本件訂正発明45は、本件訂正発明35において、「ポリオールが、グリセリンを含む」ことを限定事項にするものである。
ここで、上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第3号証(上記(a)の「・・・多価アルコールはヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、グルコースなどが挙げられる。」との記載参照)には、ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコールなどであることの開示がある。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明45は、本件訂正発明35と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項46に係る発明(以下、「本件訂正発明46」という。)について
本件訂正発明46は、本件訂正発明35において、「ポリオールが、プロピレングリコールを含む」ことを限定事項にするものである。
ここで、上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第3号証(上記(a)の「・・・多価アルコールはヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、グルコースなどが挙げられる。」との記載参照)には、ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコールなどであることの開示がある。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明46は、本件訂正発明35と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項47に係る発明(以下、「本件訂正発明47」という。)について
本件訂正発明47は、本件訂正発明35において、「ポリオールが、ソルビトールを含む」ことを限定事項にするものである。
ここで、上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第3号証(上記(a)の「・・・多価アルコールはヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、グルコースなどが挙げられる。」との記載参照)には、ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコールなどであること、更にいうと、ポリオールについて、ヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、マンニトールの光学異性体がソルビトールであることを考慮すると、ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールなどであることの開示があるということができる。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明47は、本件訂正発明35と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項56に係る発明(以下、「本件訂正発明56」という。)について
上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第3号証記載の発明は、
「点眼液組成物を使用する方法において、該組成物中に0.6?4.5重量%の『ホウ酸またはホウ砂』とマンニトールを除く多価アルコールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質とのコンプレックスを含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、『ホウ酸またはホウ砂』とマンニトールを除く多価アルコールとが『ホウ酸またはホウ砂』及び多価アルコールを1:0.160、0.162、0.336、2.69のモル比で含有する、点眼液組成物を使用する方法。」である。
本件訂正発明56と甲第3号証記載の発明とを対比する。
○甲第3号証記載の発明の「点眼液組成物」、「多価アルコール」、「コンプレックス」は、本件訂正発明56の「水性眼科用組成物」、「ポリオール」、「複合体」にそれぞれ相当する。

○甲第3号証記載の発明の「『ホウ酸またはホウ砂』」は、点眼液の一成分である以上、点眼液に溶解しているということができるので、本件訂正発明56の「水溶性ホウ酸塩」に相当する。

○甲第3号証記載の発明の「『ホウ酸またはホウ砂』(水溶性ホウ酸塩)とマンニトールを除く多価アルコール(ポリオール)」は、本件訂正発明56の「ホウ酸塩及びポリオール」および「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオール」に相当する。

○甲第3号証記載の発明の「点眼液組成物(水性眼科用組成物)を使用する方法」は、水性眼科用組成物の成分を添加剤として捉えることができることから、「水性眼科用組成物の添加剤を使用する方法」に、更にいうと、本件訂正発明56の「水性眼科用組成物の添加剤」に相当する。

○甲第3号証記載の発明の「1:0.160、0.162、0.336、2.69」は、本件訂正発明56の「1:0.1?1:10」の範囲内に包含されているので、両者は「1:0.160、0.162、0.336、2.69」の数値を取る点で共通している。

上記より、甲第3号証記載の発明は、
「点眼液組成物の添加剤であって、該組成物中に0.6?4.5重量%の『ホウ酸またはホウ砂』とマンニトールを除く多価アルコールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質とのコンプレックスを含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、『ホウ酸またはホウ砂』とマンニトールを除く多価アルコールとが『ホウ酸またはホウ砂』及び多価アルコールを1:0.160、0.162、0.336、2.69のモル比で含有する、点眼液組成物の添加剤。」に相当し、
甲第3号証記載の発明と本件訂正発明56とは、
「水性眼科用組成物の添加剤であって、水溶性ホウ酸塩及びポリオールを1:0.160、0.162、0.336、2.69のモル比で含有する水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールを含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まない添加剤。」という点で一致し、以下の点で一応相違している。

<相違点i>
本件訂正発明56では、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体」であるのに対して、
甲第3号証記載の発明では、「『ホウ酸またはホウ砂』とマンニトールを除く多価アルコールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質とのコンプレックス」である、言い換えると、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質との複合体」である点。

<相違点ii>
本件訂正発明56では、水性眼科用組成物の「A.nigerに対する抗菌活性を増大させるための」添加剤であって、「活性増大成分として」水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含んでいるのに対して、
甲第3号証記載の発明では、点眼液組成物(水性眼科用組成物)の「A.nigerに対する抗菌活性を増大させるための」添加剤であるかどうか、また、「活性増大成分として」水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含んでいるかどうか明らかでない点。

上記両相違点について検討する。
<相違点i>について
本件訂正明細書には、ホウ酸塩とポリオールを含む水性眼科用組成物が、クロルヘキシジン(例えば【0008】参照)またはスルファセタミドナトリウム(【0022】【表3】の処方13参照)を含む場合のあることの記載があり、そして、クロルヘキシジンが二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質であり、スルファセタミドナトリウムが一級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質であることは、当業者において普通に知られた事項であり、これからして、水溶性ホウ酸塩とポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質とを含む場合が示されているということができ、
また、本件訂正明細書には、「【0013】ホウ酸塩-ポリオール複合体は・・・本発明の組成物に用いられる。しかし、潜在的な相互作用が組成物の他の成分で生じ得るため、至適量は生成物の複合性に依存する。」との記載があり、これからして、水溶性ホウ酸塩とポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質とを含む場合、これらの間に相互作用が生じていると推認することができる。
一方、甲第3号証記載の発明は、上記対比で示したように、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質との複合体」が形成されたものであり、これは、水溶性ホウ酸塩とポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質との間に相互作用が生じていることを示している。
上記より、本件訂正発明56の発明の水性眼科用組成物が少なくとも上記の場合のとき、本件訂正発明56の発明と甲第3号証記載の発明とは、水溶性ホウ酸塩とポリオールと、一級または二級アミンを置換基として有する芳香環をもつ物質との間に相互作用が生じているという点で一致している。
そうすると、本件訂正発明56の発明と甲第3号証記載の発明とは、上記の点で一致しているので、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの存在形態についても同等である、つまり、同様に「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体」が形成されているということができる。
したがって、相違点iは実質的な相違ではない。

<相違点ii>について
甲第3号証記載の発明の「水性眼科用組成物」について、上記(c)で示した「・・・本発明点眼液の製法は既知の方法を用いて調製すればよく・・・塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤・・・などを加えればよい。」との記載、および、上記(d)ないし(f)(h)で示した記載(処方1、2、6、9)からして、甲第3号証には、防腐成分、つまり、保存(抗菌)成分として塩化ベンザルコニウムを用いることが示されており、
また、甲第14号証には「A.nigerは、広く自然界に分布する俗にくろかびといわれる菌である」ことが記載され、甲第15号証には「A.nigerは、もっともありふれた真菌の1つであり、病原性を有する真菌である」ことが記載され、甲第20号証には「A.nigerは、コウジカビ属に含まれる子嚢菌の一つである」ことが記載されていることから、A.nigerが、広く自然界に分布する俗に黒カビといわれると共に病原性を有する真菌であることは、よく知られた事項であり、そうである以上、一般に、保存(抗菌)を行う場合、大概、A.nigerに対する抗菌性が考慮されているということができるので、
甲第3号証記載の発明の「水性眼科用組成物」について、抗菌成分の塩化ベンザルコニウムを用いること自体、A.nigerに対する抗菌性を考慮したものであると見ることができる。
一方、本件訂正発明56は、明らかに、A.nigerに対する抗菌性を考慮したものである。
上記より、本件訂正発明56と甲第3号証記載の発明とは、A.nigerに対する抗菌性を考慮したものである(と見ることができる)という点で一致している。
そして、本件訂正発明56と甲第3号証記載の発明とは、上記対比で検討したように、「水溶性ホウ酸塩及びポリオールを1:0.160、0.162、0.336、2.69のモル比で含有」するという点で一致し、また、上記<相違点i>についてで検討したように、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体」が形成されているという点で一致している。
そうすると、本件訂正発明56と甲第3号証記載の発明とは、上記の点で一致しているので、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が水性眼科用組成物に添加された結果奏する作用効果についても同等である、つまり、同様に、水性眼科用組成物の「A.nigerに対する抗菌活性を増大させるための」添加剤であって、「活性増大成分として」水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含んでいるということができる。
したがって、相違点iiは実質的な相違ではない。

そして、被請求人は、口頭陳述要領書の第6頁下から第4行?同第7頁第2行において、「また、本件発明56、訂正前発明56は、上記発見に基づき、水性眼科用組成物の抗菌活性、特にA.nigerに対する抗菌活性を増大させるための添加剤の活性増大成分として、かかる複合体を使用するとの新たな用途を見出したことに基づく発明であり、いずれも抗菌活性を増大するという用途に限定した用途発明である。」との主張をしているが、上記検討で示したように、甲第3号証記載の発明は、ホウ酸塩及びポリオールの複合体が形成され、これがA.nigerに対する抗菌活性を増大するものであるということができ、そうである以上、これが新たな用途であるということはできない。
したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。

上記からして、本件訂正発明56は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項57に係る発明(以下、「本件訂正発明57」という。)について
本件訂正発明57は、本件訂正発明56において、「組成物が、保存有効量の眼科的に受容可能な抗菌剤を含有する」ことを限定事項にするものである。
ここで、本件訂正発明56についての検討で示したように、甲第3号証には、水性眼科用組成物が、抗菌成分としての塩化ベンザルコニウムを含有することの開示があり、この塩化ベンザルコニウムの量が眼科的に受容可能な保存有効量であるべきことは当然の事項である。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明57は、本件訂正発明56と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項58に係る発明(以下、「本件訂正発明58」という。)について
本件訂正発明58は、本件訂正発明57において、「抗菌剤が、モノマー性およびポリマー性四級アンモニウム化合物ならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、モノマー性およびポリマー性ビグアニドならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される」ことを限定事項にするものである。
ここで、本件訂正発明57についての検討で示したように、甲第3号証には、水性眼科用組成物が、眼科的に受容可能な保存有効量の塩化ベンザルコニウム(抗菌剤)を含有することの開示があるということができ、この塩化ベンザルコニウムがモノマー性四級アンモニウム化合物であること自体、先行技術文献を示すまでもなく、本件出願前周知の事項である。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明58は、本件訂正発明57と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項59に係る発明(以下、「本件訂正発明59」という。)について
本件訂正発明59は、本件訂正発明58において、「水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が、組成物中に0.5?6.0重量%の濃度で含まれる」ことを限定事項にするものである。
ここで、本件訂正発明56についての検討で示したように、甲第3号証には、水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が、組成物中に0.6?4.5重量%の濃度で含まれることの開示があり、ここで示されている数値は、本件訂正発明59における上記数値範囲内に包含されている。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明59は、本件訂正発明58と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項65に係る発明(以下、「本件訂正発明65」という。)について
本件訂正発明65は、本件訂正発明56において、「ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールからなる群から選択される」ことを限定事項にするものである。
ここで、上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第3号証(上記(a)の「・・・多価アルコールはヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、グルコースなどが挙げられる。」との記載参照)には、ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコールなどであることの開示がある。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明65は、本件訂正発明56と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項66に係る発明(以下、「本件訂正発明66」という。)について
本件訂正発明66は、本件訂正発明56において、「ポリオールが、グリセリンを含む」ことを限定事項にするものである。
ここで、上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第3号証(上記(a)の「・・・多価アルコールはヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、グルコースなどが挙げられる。」との記載参照)には、ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコールなどであることの開示がある。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明66は、本件訂正発明56と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項67に係る発明(以下、「本件訂正発明67」という。)について
本件訂正発明67は、本件訂正発明56において、「ポリオールが、プロピレングリコールを含む」ことを限定事項にするものである。
ここで、上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第3号証(上記(a)の「・・・多価アルコールはヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、グルコースなどが挙げられる。」との記載参照)には、ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコールなどであることの開示がある。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明67は、本件訂正発明56と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

◇本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項68に係る発明(以下、「本件訂正発明68」という。)について
本件訂正発明68は、本件訂正発明56において、「ポリオールが、ソルビトールを含む」ことを限定事項にするものである。
ここで、上記「第7 甲各号証記載の内容」で示したように、甲第3号証(上記(a)の「・・・多価アルコールはヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、例えばグリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、マンニトール、グルコースなどが挙げられる。」との記載参照)には、ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコールなどであること、更にいうと、ポリオールについて、ヒドロキシ基を複数個有する化合物であれば特に制限はなく、マンニトールの光学異性体がソルビトールであることを考慮すると、ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールなどであることの開示があるということができる。
したがって、上記限定事項は、甲第3号証に開示されているということができるので、本件訂正発明68は、本件訂正発明56と同じく、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。

第8.むすび
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、請求人の主張する他の理由について検討するまでもなく、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、審判費用は、被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
眼科用組成物におけるホウ酸塩-ポリオール複合体の使用
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】消毒量の抗菌剤を含有する消毒剤水溶液にコンタクトレンズを浸漬することによる、コンタクトレンズの消毒方法において、該消毒剤溶液が0.5?6.0重量%の水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、該複合体がホウ酸塩及びポリオールを1:0.1?1:10のモル比で含有し、これによって該消毒剤水溶液の抗菌活性が増大される方法。
【請求項2】該抗菌剤が、モノマー性およびポリマー性四級アンモニウム化合物ならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、モノマー性およびポリマー性ビグアニドならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】該水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が、該消毒剤溶液中に1.0?2.5重量%の濃度で含まれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】該抗菌剤が、ポリマー性四級アンモニウム化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】該ポリマー性四級アンモニウム化合物が、ポリクアテルニウム-1である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】該消毒剤溶液中のポリクアテルニウム-1の濃度が0.001重量%である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】該抗菌剤が、ポリマー性ビグアニドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】該ポリマー性ビグアニドが、ポリヘキサメチレンビグアニドである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】該ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールからなる群から選択される、請求項1?6、7または8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】該ポリオールが、グリセリンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】該ポリオールが、プロピレングリコールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】該ポリオールが、ソルビトールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】該抗菌剤が、ポリマー性四級アンモニウム化合物を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】該ポリマー性四級アンモニウム化合物が、ポリクアテルニウム-1である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】該消毒剤溶液中のポリクアテルニウム-1の濃度が0.001重量%である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】該消毒剤溶液がさらにポリビニルアルコールを含む、請求項1?15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】ホウ酸塩のポリオールに対するモル比が1:0.25?1:2.5である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】コンタクトレンズの消毒用水溶液であって、
消毒量の眼科的に受容可能な抗菌剤と;
該溶液の抗菌力を増大させるのに充分な量のホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含み、かつ、該水溶液は蛋白質分解酵素を含まず、該複合体はホウ酸塩及びポリオールを1:0.1?1:10のモル比で含有し;
;さらに
水を含む水溶液。
【請求項19】該水溶液を等張性にするのに充分な量のモル浸透圧濃度構築化剤をさらに含む、請求項18に記載の溶液。
【請求項20】該抗菌剤が、モノマー性およびポリマー性四級アンモニウム化合物ならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、モノマー性およびポリマー性ビグアニドならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、請求項18または19に記載の溶液。
【請求項21】該抗菌剤が、ポリマー性四級アンモニウム化合物である、請求項20に記載の溶液。
【請求項22】該ポリマー性四級アンモニウム化合物が、ポリクアテルニウム-1である、請求項21に記載の溶液。
【請求項23】該溶液がポリクアテルニウム-1を0.001重量%の濃度で含有する、請求項22に記載の溶液。
【請求項24】該抗菌剤が、ポリマー性ビグアニドである、請求項20に記載の溶液。
【請求項25】該ポリマー性ビグアニドが、ポリヘキサメチレンビグアニドである、請求項24に記載の溶液。
【請求項26】該ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールからなる群から選択される、請求項18?23、24または25のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項27】該ポリオールが、グリセリンを含む、請求項18または19に記載の溶液。
【請求項28】該ポリオールが、プロピレングリコールを含む、請求項18または19に記載の溶液。
【請求項29】該ポリオールが、ソルビトールを含む、請求項18または19に記載の溶液。
【請求項30】該抗菌剤が、ポリマー性四級アンモニウム化合物を含む、請求項29に記載の溶液。
【請求項31】該ポリマー性四級アンモニウム化合物が、ポリクアテルニウム-1である、請求項30に記載の溶液。
【請求項32】該消毒剤溶液中のポリクアテルニウム-1の濃度が0.001重量%である、請求項30に記載の溶液。
【請求項33】該消毒剤溶液がさらにポリビニルアルコールを含む、請求項18?32のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項34】ホウ酸塩のポリオールに対するモル比が1:0.25?1:2.5である、請求項33に記載の溶液。
【請求項35】水性眼科用組成物を微生物汚染から保存する方法において、該組成物中に0.5?6.0重量%の水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、該複合体がホウ酸塩及びポリオールを1:0.1?1:10のモル比で含有し、これによって該組成物のA.nigerに対する抗菌活性が増大される方法。
【請求項36】該組成物が、保存有効量の眼科的に受容可能な抗菌剤を含有する、請求項35に記載の方法。
【請求項37】該抗菌剤が、モノマー性およびポリマー性四級アンモニウム化合物ならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、モノマー性およびポリマー性ビグアニドならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】該ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が、該組成物中に1.0?2.5重量%の濃度で含まれ、ホウ酸塩のポリオールに対するモル比が1:0.25?1:2.5である、請求項35に記載の方法。
【請求項39】該抗菌剤が、ポリマー性四級アンモニウム化合物を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項40】該ポリマー性四級アンモニウム化合物が、ポリクアテルニウム-1である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】該組成物中のポリクアテルニウム-1の濃度が0.001重量%である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】該抗菌剤が、ポリマー性ビグアニドを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項43】該ポリマー性ビグアニドが、ポリヘキサメチレンビグアニドである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】該ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールからなる群から選択される、請求項35?43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】該ポリオールが、グリセリンを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項46】該ポリオールが、プロピレングリコールを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項47】該ポリオールが、ソルビトールを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項48】該抗菌剤が、ポリマー性四級アンモニウム化合物を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項49】該ポリマー性四級アンモニウム化合物が、ポリクアテルニウム-1である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】該組成物中のポリクアテルニウム-1の濃度が0.001重量%である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】該組成物がさらにポリビニルアルコールを含む、請求項35?50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】ホウ酸塩のポリオールに対するモル比が1:0.25?1:2.5である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】コンタクトレンズの浸漬、すすぎ及び貯蔵用の生理食塩水溶液であって、該溶液を微生物汚染から保存するのに充分な量のホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まず、該複合体は、ホウ酸塩及びポリオールを1:0.1?1:10のモル比で含有し;
さらに該溶液を等張性にするのに充分な量のモル浸透圧濃度構築化剤;及び
水を含む生理食塩水溶液。
【請求項54】該溶液が、0.5?6.0重量%のホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含む、請求項53に記載の溶液。
【請求項55】ホウ酸塩のポリオールに対するモル比が1:0.25?1:2.5である、請求項53または54に記載の溶液。
【請求項56】水性眼科用組成物のA.nigerに対する抗菌活性を増大させるための添加剤であって、活性増大成分として、ホウ酸塩及びポリオールを1:0.1?1:10のモル比で含有する水溶性ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体を含み、かつ、蛋白質分解酵素を含まない添加剤。
【請求項57】該組成物が、保存有効量の眼科的に受容可能な抗菌剤を含有する、請求項56に記載の添加剤。
【請求項58】該抗菌剤が、モノマー性およびポリマー性四級アンモニウム化合物ならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、モノマー性およびポリマー性ビグアニドならびにそれらの眼科的に受容可能な塩、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される、請求項57に記載の添加剤。
【請求項59】該ホウ酸塩とマンニトールを除くポリオールとの複合体が、該組成物中に0.5?6.0重量%の濃度で含まれる、請求項58に記載の添加剤。
【請求項60】該抗菌剤が、ポリマー性四級アンモニウム化合物を含む、請求項57に記載の添加剤。
【請求項61】該ポリマー性四級アンモニウム化合物が、ポリクアテルニウム-1である、請求項60に記載の添加剤。
【請求項62】該組成物中のポリクアテルニウム-1の濃度が0.001重量%である、請求項61に記載の添加剤。
【請求項63】該抗菌剤が、ポリマー性ビグアニドを含む、請求項57に記載の添加剤。
【請求項64】該ポリマー性ビグアニドが、ポリヘキサメチレンビグアニドである、請求項63に記載の添加剤。
【請求項65】該ポリオールが、グリセリン、プロピレングリコール及びソルビトールからなる群から選択される、請求項56?64のいずれか1項に記載の添加剤。
【請求項66】該ポリオールが、グリセリンを含む、請求項56に記載の添加剤。
【請求項67】該ポリオールが、プロピレングリコールを含む、請求項56に記載の添加剤。
【請求項68】該ポリオールが、ソルビトールを含む、請求項56に記載の添加剤。
【請求項69】該抗菌剤が、ポリマー性四級アンモニウム化合物を含む、請求項68に記載の添加剤。
【請求項70】該ポリマー性四級アンモニウム化合物が、ポリクアテルニウム-1である、請求項69に記載の添加剤。
【請求項71】該組成物中のポリクアテルニウム-1の濃度が0.001重量%である、請求項70に記載の添加剤。
【請求項72】該組成物がさらにポリビニルアルコールを含む、請求項56?71のいずれか1項に記載の添加剤。
【請求項73】ホウ酸塩のポリオールに対するモル比が1:0.25?1:2.5である、請求項72に記載の添加剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
関連出願への相互参考文献
これは、1992年5月6日に出願された米国特許出願第07/879,435号の一部継続出願である。
発明の背景
本発明は眼科用組成物におけるホウ酸塩-ポリオール複合体の使用に関する。特に、これらの複合体は、ポリビニルアルコールを含有するそれらの眼科用組成物を含む水性眼科用組成物中で、緩衝液および/または抗菌剤として有用である。
【0002】
【従来の技術】
眼科用組成物は一般的に約4.0と8.0との間のpHを有するように処方される。この範囲のpHを達成するために、そして組成物の貯蔵期間中の最適な安定性のためのpHを維持するために、緩衝液がしばしば含まれる。ホウ酸塩は、もともと多少の抗菌活性を有し、しばしば抗菌活性を増強するため、眼科用組成物への使用に選ばれる緩衝液である;しかし、ポリビニルアルコール(PVA)もまた組成物の成分である場合、ホウ酸塩およびPVAは水に不溶性の複合体を形成して溶液から沈殿し、眼の中で刺激物として作用する。このコンタクトレンズ溶液中のホウ酸塩およびPVAの不適合は周知であり、例えば、P.L.Rakow、Contact Lens Forum、(1988年6月)、41-46ページの論文の中で議論されてきた。さらにホウ酸緩衝液は、低pHへの緩衝能が低いため、pH7.0より低いpHでは効果的に用いられ得ない。
【0003】
ホウ酸塩がPVAと適合しないので、PVAを含む眼科用組成物は一般的に、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、または他の緩衝液で緩衝化される。これらの他の緩衝液を用いることの欠点は:例えば、酢酸は弱い緩衝液(約4.5のpK_(a))のため比較的大量が必要である:他方、リン酸は良好な緩衝液であるが、眼科用処方で一般的にみられる濃度で使用する場合、保存剤の抗菌活性を減少させる。
【0004】
塩化ベンザルコニウム(BAC)、クロルヘキシジン、チメロサールのような低分子の有機化合物が、非常に高い抗菌活性を有することは周知である;しかし、これらの低分子有機抗菌剤はしばしば眼の感受性組織に対して毒性であり、コンタクトレンズ、特に親水性のソフトコンタクトレンズ中に蓄積し得ることが現在知られている。さらに最近では、Polyauad^(TM)(ポリクアテルニウム-1(polyquaternium-1))およびDymed^(TM)(ポリヘキサメチレンビグアニド)のようなポリマー性抗菌剤が、消毒剤および保存剤としてコンタクトレンズケア製品中に用いられている。これらのポリマー性抗菌剤は広いスペクトルの抗菌活性を示すが、それらは一般的に比較的弱い抗真菌活性、特にAspergillus nigerおよびAspergillus fumigatusに対して弱い抗真菌活性を有する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、安定性および有効性のための最適なpHを有するが、その抗菌有効性を損わない眼科用組成物が必要とされている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明の要旨
本発明はこのような眼科用組成物を提供する。本発明の眼科用組成物はホウ酸塩-ポリオール複合体を含み、驚くべきことに、特にA.nigerのような生物に関しては、ホウ酸またはその塩と比較して抗菌活性が増大することが判明した。さらに、これらの複合体は組合せて用いた場合に、他の抗菌剤の抗菌効果を思いがけなく増大する。
【0007】
ホウ酸塩-ポリオール複合体は、ホウ酸および/またはその塩とポリオール(例えば、マンニトール、グリセリン、またはプロピレングリコール)とを水溶液中で混合することにより形成される。次いで、得られた溶液を緩衝液および/または抗菌剤として水性眼科用組成物中に用い得、このような組成物はまたPVAを含みさえする。本発明のホウ酸塩-ポリオール複合体はまた保存化していない生理食塩水溶液中でも有用である。
【0008】
本発明のホウ酸塩-ポリオール複合体は、モノマー性四級アンモニウム化合物(例えば塩化ベンザルコニウム)、またはビグアニド(例えばクロルヘキシジン)、あるいはポリマー性抗菌剤、例えばポリマー性四級アンモニウム化合物(例えばPolyquad^(R),Alcon Laboratories,Inc.,Fort Worth,Texax)またはポリマー性ビグアニド(例えばDymed^(R),Bausch&Lomb,Rochester,New York)を含むコンタクトレンズ消毒液中の添加用消毒剤として特に有用である。
【0009】
本発明の組成物は必要に応じてPVAを含み得る;このような組成物は、しばしば不快さに不平をこぼす硬質の気体透過性コンタクトレンズ(RGP)の装着者を標的にしたコンタクトレンズケア製品に特に有用である。PVAは粘性増大物であり、RGPの快適さおよび装着時間を改良するために全タイプのRGP製品で広く用いられている。PVAはまた点眼剤、ゲル、または眼科用挿入物のような薬学的眼科用組成物用の粘性増大物として広く用いられる。
【0010】
【発明の実施の形態】
発明の詳細な説明
本明細書中では、用語「ホウ酸塩」とは、ホウ酸、ホウ酸の塩、および他の薬学的に受容可能なホウ酸塩、またはそれらの組合せをいう。最も適するのは:ホウ酸、ホウ酸塩ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸マンガン、および他のこのようなホウ酸塩である。
【0011】
本明細書中では、他に指示しない限り、用語「ポリオール」は互いに関してトランスの立体配座ではない、少なくとも2つの隣接した-OH基を有するあらゆる化合物をいう。ポリオールは、得られた複合体が水溶性および薬学的に受容可能である限り、直鎖状または環状、置換体または非置換体あるいはその混合物であり得る。このような化合物は、糖、糖アルコール、糖酸、およぴウロン酸を含む。好ましいポリオールは、糖、糖アルコールおよび糖酸であり、マンニトール、グリセリン、プロピレングリコール、およびソルビトールを含むがこれに限定されない。特に好ましいポリオールは、マンニトール、およびグリセリンであり;最も好ましいポリオールはマンニトールである。
【0012】
本発明の水溶性ホウ酸塩-ポリオール複合体は、水性溶液中でホウ酸塩と選択したポリオールとを混合することにより形成し得る。これらの複合体は、保存有効性および消毒の基準に合わせるために他の公知の保存剤および消毒剤と組合せて使用し得る。このような組成物において、ホウ酸塩のポリオールに対するモル比は一般的に約1:0.1と約1:10との間であり、好ましくは約1:0.25と約1:2.5との間である。ホウ酸塩-ポリオール複合体はまた、保存有効性基準に合わせるために保存化していない生理食塩液中に用いられ得る。これらの保存化していない生理食塩液において、ホウ酸塩のポリオールに対するモル比は、一般的に約1:0.1と約1:1との間であり、特に約1:0.25と約1:0.75との間である。いくつかのホウ酸塩-ポリオール複合体、例えば酒石酸ホウ酸カリウム、は市販されている。
【0013】
ホウ酸塩-ポリオール複合体は、約0.5重量%と約6.0重量%(wt%)との間、好ましくは約1.0wt%と約2.5wt%との間の量で本発明の組成物に用いられる。しかし、潜在的な相互作用が組成物の他の成分で生じ得るため、至適量は生成物の複合性に依存する。このような至適量は処方分野の当業者により容易に決定され得る。
【0014】
RGP、あるいは、点眼剤、ゲル、または眼科用挿入物のような組成物で有用な本発明の組成物は、好ましくは、PVA、または他の粘性増大ポリマー(例えばセルロース性ポリマーまたはカルボキシビニルポリマー)も含む。PVAは多くの等級(それぞれ重合度、加水分解率、および残留アセテート含量が異なる)が入手可能である。このような差異は異なる等級の物理的および化学的性質に影響する。PVAは2つの大きなカテゴリー、すなわち完全加水分解物および部分的加水分解物、に分類し得る。4%またはそれより少ない残留アセテート含量を含むPVAは完全加水分解物という。部分的加水分解物の等級は通常20%またはそれより多い残留アセテートを含む。PVAの分子量は、20,000から200,00にわたる。一般的に、眼科用製品に用いるPVAは、11%から15%の残留アセテートを有する30,000から100,000の範囲の平均分子量を有する。本発明の組成物は、一般的にこのようなタイプのPVAを約10.0wt%未満、好ましくは約0.1wt%と約1.4wt%との間、そして最も好ましくは約0.75wt%の濃度で含む。
【0015】
【実施例】
実施例1
本発明の水溶性ホウ酸塩-ポリオール複合体は以下に示すように調製し得る。
【0016】
【表1】

【0017】
調製:
処方A?Hを以下のように処方した。管状の、ラベルを貼り、そして校正済の150ミリリットル(mL)のビーカーを、それぞれ約90mLの精製水で満たした。次いで、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、およびマンニトールまたはグリセリンを加え、約25分間溶液を撹拌して溶解した。このとき、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)二ナトリウムを撹拌しながら加えた。精製水を加えて溶液をほとんど100%(100mL)にし、pHを約7.4に調整してモル浸透圧濃度(osmolality)を測定した。次いでPolyquad^(TM)を加え、容量を精製水を加えて100%にした。pHを再び測定して必要であれば調整し、モル浸透圧濃度を再び測定した。
等張液を有することは常に必要ではない;しかし等張液を有する必要がある場合、モル浸透圧濃度はトランス位にOH基を有するポリオール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムまたは一般的に眼科用処方に受容可能であり、当業者に公知の他のモル浸透圧濃度構築化剤を取り込むことにより調整し得る。
【0018】
実施例2
本発明の水性眼科用組成物は以下に示す処方を用いて調製し得る。
【0019】
【表2】

【0020】
調製:
処方1?9を以下のように調製した。第1の溶液(溶液A)を、500mLの温精製水を、マグネチックスターラーを装備した校正済の2リットルの吸引ビンに加えて調製した。次いで、PVAおよびヒドロキシエチルセルロースを溶液Aに加え、内容物を撹拌して分散した。ポリマーを分散した後、濾過装置(0.2μのフィルターを付けた142mm Milliporeフィルターホルダー)を吸引ビンに装着し、そしてこの全装置を121℃で30分間オートクレーブにかけた。次いで、濾過装置の付いた溶液Aを撹拌しながら室温まで冷却した。第2の溶液(溶液B)を、300mLの精製水を含む500mLのビーカー中に、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、およびマンニトールを加え、25分間撹拌して内容物を溶解して調製した。エデト酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、保存剤、および他のモル浸透圧濃度構築化剤を必要に応じて溶液Bに加え、撹拌して内容物を溶解した。次いで、溶液Bを溶液Aを含む吸引ビン中に滅菌濾過した。次いで、得られた溶液のpHを調整し、容量を滅菌濾過した精製水で10%にした。
【0021】
実施例3
本発明の次の眼科用組成物もまた実施例2に説明した方法を用いて調製し得る。
【0022】
【表3】

【0023】
実施例4
次の表は、RGPで用いる本発明の典型的な湿潤および浸漬組成物である。
【0024】
【表4】

【0025】
調製:
最終容量の約30%の精製水を含む適当な容器に、PVAおよびHECを加えて分散した。次いでこの溶液をオートクレーブにかけた。この溶液を撹拌しながら室温にまで冷却した。最終容量の約50%の精製水を含む別の容器に、ホウ酸およびホウ酸ナトリウムを加えて溶解し、次いでマンニトールを加えた。次に、この第2の溶液を約30分間撹拌し、次いで塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、ポリソルベート80、およびPolyquad^(R)を撹拌しながら加えた。次いで第2の溶液を第1の溶液に0.2μのフィルターを通して加えた。最後に、pHを7.4に調整して容量を精製水で100%にした。
【0026】
実施例5
次の表は、RGPで用いる本発明の典型的な毎日の洗浄用組成物であり、実施例4に説明したのと同様の方法で調製し得る。
【0027】
【表5】

【0028】
実施例6
次の表は、本発明の典型的な湿潤および浸漬組成物であり、実施例4に説明したのと同様の方法で調製し得る。
【0029】
【表6】

【0030】
実施例7
次の表は、本発明の典型的な快適な点眼用組成物であり、実施例4に説明したのと同様の方法で調製し得る。
【0031】
【表7】

【0032】
実施例8
次の表は、本発明の典型的なRGP洗浄用組成物であり、実施例4に説明したのと同様の方法で調製し得る。
【0033】
【表8】

【0034】
実施例9
次の表は、本発明の典型的なRGP湿潤および/浸漬組成物であり、実施例4に説明したのと同様の方法で調製し得る。
【0035】
【表9】

【0036】
実施例10
次の研究により、2つの湿潤液、浸漬液、および消毒液の抗菌保存有効性を比較した:一方はリン酸緩衝液を含む(溶液A);そして他方は本発明のホウ酸塩-ポリオール複合体を含む(処方B)。
処方AおよびBを次の表に示す。
【0037】
【表10】

【0038】
処方AおよびBをFDA感染微生物に対して試験した。1時間後の対数減少を以下の表に示す。
【0039】
【表11】

【0040】
上記の結果は、処方B(ホウ酸塩-ポリオール複合体)が処方A(リン酸緩衝液を含む)よりさらに広いスペクトルの活性を有し、A.nigerのようなある微生物に対してより大きい活性を有することを示す。
【0041】
実施例11
次の研究により、1つが本発明のホウ酸塩-ポリオール複合体を含み(処方C)、そして他方が従来のホウ酸緩衝液を含む(処方D)以外は同じである2つの保存化していない生理食塩水溶液の抗菌保存有効性を比較した。
イギリス薬局方(「BP」)1988の製剤中の保存剤の有効性試験(Test for Efficacy of Preservatives in Pharmaceutical Products)に基づく微生物感染アプローチを用いて、処方CおよびDの抗菌保存有効性を評価した。処方サンプルを既知のレベルのA.nigerで接種し、予め決まった間隔でサンプリングして、系が製品中に導入された微生物を殺菌し得るかまたは微生物の繁殖を阻害し得るかどうかを決定した。
処方CおよびDを次の表に示す。
【0042】
【表12】

【0043】
その結果は、7日後に、処方CではA.nigerの3.1の対数減少、そして処方Dでは1.2のみの対数減少であったことを示した。処方Cは、A.nigerに対する保存有効性のBP基準に適合したが、処方DはBP基準に適合しなかった。
【0044】
実施例12
次の研究により、一方が本発明のホウ酸塩-ポリオール複合体を含み(処方E)、および他方が従来のホウ酸緩衝液を含む(処方F)以外は同じである2つの消毒液の抗菌保存有効性を比較した。
BP 1988製剤中の保存剤の有効性試験に基づく微生物感染アプローチを用いて、処方Eおよび処方Fの抗菌保存有効性を評価した。処方サンプルに既知レベルのA.nigerを接種し、そして予め決定した間隔でサンプリングして、系が製品に導入した微生物を殺菌し得るかまたは微生物の増殖を阻害し得るかどうか決定した。
処方Eおよび処方Fを以下の表に示す。
【0045】
【表13】

【0046】
その結果は、7日後に、処方EではA.nigerの2.1の対数減少、そして処方Fでは1.1のみの対数減少であったことを示す。処方Eは、A.nigerに対する保存有効性のBP基準に適合したが、処方FはBP基準に適合しなかった。
【0047】
本発明は、特定の好ましい実施態様について参考として記載された;しかし、その趣旨または本質的な特徴から離れずに、その他の特定の型または特定の変更で実施し得ることが理解されるべきである。従って、上記の実施態様は、上記の記載によるよりも添付の請求の範囲により示される本発明の範囲をあらゆる面において例示しておりそして限定していないと考えられる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2011-04-11 
出願番号 特願2001-297487(P2001-297487)
審決分類 P 1 123・ 854- ZA (A61L)
P 1 123・ 113- ZA (A61L)
P 1 123・ 841- ZA (A61L)
P 1 123・ 832- ZA (A61L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 瀬下 浩一加藤 幹  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 小川 慶子
豊永 茂弘
登録日 2004-02-27 
登録番号 特許第3527721号(P3527721)
発明の名称 眼科用組成物におけるホウ酸塩-ポリオール複合体の使用  
復代理人 鹿野 直子  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 井上 洋一  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 長瀬 裕子  
代理人 安藤 克則  
復代理人 山崎 一夫  
代理人 辻居 幸一  
代理人 安藤 克則  
代理人 浅野 裕一郎  
復代理人 大日方 和幸  
代理人 浅野 裕一郎  
代理人 浅村 肇  
代理人 弓削 麻理  
代理人 上村 陽一郎  
代理人 長瀬 裕子  
代理人 梶原 斎子  
代理人 亀岡 幹生  
代理人 池田 幸弘  
復代理人 大日方 和幸  
代理人 浅村 肇  
代理人 弓削 麻理  
代理人 亀岡 幹生  
代理人 松田 七重  
代理人 小和田 敦子  
代理人 渡邉 義敬  
代理人 上村 陽一郎  
代理人 渡邉 義敬  
代理人 金森 久司  
代理人 梶原 斎子  
代理人 金森 久司  
代理人 新村 守男  
代理人 小川 信夫  
復代理人 鹿野 直子  
代理人 井上 洋一  
代理人 浅村 皓  
代理人 新村 守男  
代理人 池田 幸弘  
代理人 浅村 皓  

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