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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800243 審決 特許
無効2008800146 審決 特許
無効2012800042 審決 特許
無効2010800038 審決 特許
不服200814556 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C07D
審判 全部無効 2項進歩性  C07D
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C07D
管理番号 1243819
審判番号 無効2010-800239  
総通号数 143 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-12-27 
確定日 2011-09-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第4367829号発明「タキソテレ三水和物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯・本件特許発明

本件特許第4367829号に係る発明についての出願は、平成6年3月18日(優先権主張 平成5年3月22日、フランス)を国際出願日とする特願平6-520721号の一部を平成15年2月6日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本件特許発明」という。)

「【請求項1】
4-アセトキシ-2α-ベンゾイルオキシ-5β,20-エポキシ-1β,7β,10β-トリヒドロキシ-9-オキソ-11-タキセン-13α-イル(2R,3S)-3-t-ブトキシカルボニルアミノ-3-フェニル-2-ヒドロキシプロピオネート三水和物。」

第2 請求人の主張の概要

1.無効理由の主張

これに対して請求人は、「特許第4367829号発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の無効理由により、本件特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。

そして、平成23年7月15日の口頭審理(以下、単に「口頭審理」という。)において、平成22年12月27日付け審判請求書第2頁において主張された無効理由は以下の(1)?(3)のとおりであること、平成22年12月27日付け審判請求書及び平成23年7月1日付け口頭審理陳述要領書の「平成2年法」を、「平成6年法律第116号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例とされる同改正前の特許法」と訂正することが確認され、さらに、請求人は、「甲第5号証の第782頁のTable 1.の記載から、タキソテレ三水和物が生成する可能性を推認できる。」と主張した。(第1回口頭審理調書)

(1)本件発明は、元の出願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。(以下、「無効理由1」という。)

(2)本件発明の特許は、平成6年法律第116号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例とされる同改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。(以下、「無効理由2」という。)

(3)本件発明の特許は、平成6年法律第116号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例とされる同改正前の特許法第36条第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。(以下、「無効理由3」という。)

2.証拠方法

甲第1号証:特許第4367829号公報(本件特許の特許公報)

甲第2号証及び抄訳:
Cancer Research,1991, Vol, 51, No.18, pp4845-4852

甲第3号証:特開昭63-30479号公報

甲第4号証
甲第4号証-1:国際公開第93/01179号
甲第4号証-2:特表平6-509082号公報

甲第5号証及び抄訳:
Acta Crystallographica Section C, 1990, Vol.C46, PART5, pp781-784

甲第6号証
甲第6号証-1:拒絶理由通知
甲第6号証-2:意見書
甲第6号証-3:拒絶査定
甲第6号証-4:不服審判請求書
甲第6号証-5:手続補正書
甲第6号証-6:審決書

甲第7号証:
新製剤学、仲井由宣、花野学編、株式会社南山堂、1982年、102?103頁

甲第8号証:
固形製剤の製造技術、塩路雄作、株式会社シーエムシー出版、1985年、9?15頁
(以上、審判請求書に添付)

甲第9号証及び抄訳:
CRYSTALLIZATION Theory and Practice、1961、第192?194頁

甲第10号証:
最新 薬剤学 第4改稿版、廣川書店、1982年3月25日、第12?14頁

甲第11号証:
第十一改正 日本薬局方解説書、1986、A-106?A-124頁

甲第12号証:
医薬品の開発 第16巻 プレフォーミュレーションと薬物物性試験、廣川書店、1990、第267?271頁

甲第13号証:
医薬品の開発 第15巻 製剤の物理化学的性質、廣川書店、1989、第135頁、第165?168頁

甲第14号証及び抄訳:
Physics and chemistry of the organic solid state、1965、第726?728頁

(以上、口頭審理陳述要領書に添付)

第3 被請求人の主張の概要

1.無効理由の主張に対する反論

被請求人は、請求人が主張する無効理由(1)?(3)はいずれも成り立たないと主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。

そして、口頭審理において、答弁書第17頁の「平成2年改正特許法」を、「平成6年法律第116号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例とされる同改正前の特許法」と訂正することが確認され、さらに、被請求人は、「請求人が提出した甲第2?8号証、甲第9?14号証のいずれにも、本件発明のタキソテレ三水和物の存在や、その製法について記載も示唆もない。請求人は、本件発明に到達できることについて、具体的な論理付けをしていない。」と主張した(第1回口頭審理調書)。

2.証拠方法

乙第1号証:特表平8-508026号公報(特願平6-520721)

乙第2号証:ドセタキセル水和物注射剤 添付文書 2010年11月改訂

乙第3号証:ドセタキセル水和物注射剤 医薬品インタビューフォーム2010年11月(改訂第9版)表紙、目次、第1?12、70頁

乙第4号証:甲第2号証の抄訳

乙第5号証:甲第5号証の抄訳

乙第6号証:パクリタキセル注射液 添付文書 2010年1月改訂

乙第7号証:特許実用新案 審査基準 明細書の記載要件(平成6年12月)

乙第8号証:特許法概説[第8版]昭和63年5月20日発行第186?189頁

参考資料1:知財高裁平成21年(行ケ)10180号判決

参考資料2:知財高裁平成21年(行ケ)10033号判決

第4 無効理由1について

1.甲号証の記載事項

請求人が提出した甲第1号証?甲第14号証には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)甲第1号証:特許第4367829号(本件特許の特許公報)

(1a)「【請求項1】
4-アセトキシ-2α-ベンゾイルオキシ-5β,20-エポキシ-1β,7β,10β-トリヒドロキシ-9-オキソ-11-タキセン-13α-イル(2R,3S)-3-t-ブトキシカルボニルアミノ-3-フェニル-2-ヒドロキシプロピオネート三水和物。」

(1b)「今回、その原理が、例えば、A.Foucault and P.Rosset,Analusis,16(3),157-167(1988)に記載されている遠心分配クロマトグラフィー(CPC)又は高速向流クロマトグラフィーを行うことによりタキソイド類の精製、さらに特定的にはタキソテレ及び10-デアセチルバッカチンIIIの精製が達成されることが見いだされ、これが本発明の主題を形成する。」(【0008】)

(1c)「遠心分配クロマトグラフィーは、論理的に及び自動的に作られる連続的平衡を確立することにより、分離されるべき混合物の成分を2種の非混和性液相に分配することを可能にする。
この方法は非常に有効な分配機構、固定相の強い保持(retention)及び可動相の高速を特徴とし、数時間で優れた分離に導く。」(【0009】、【0010】)

(1d)「遠心分配クロマトグラフィーをSANKI LLI-07装置において行う。圧力を55バールに制限するポペットバルブを設けた2つのピストンポンプにより遠心機に供給する。1つのポンプはセレクターバルブを用いて2層の片方又は他方を運搬するように働き、他のポンプは注入用に確保されている。
装置に固定相を低い回転速度(200rpm)及び高い流量(110cm^(3)/分)で充填した後、直後に注入を行う。
水相から始めて2相を注入し、ヘキサン/酢酸エチル/メタノール/水(体積により2:4:3:2)系の水相を用いて60cm3/分の流量で溶離を行う。71%保持に等しい1.9リットルの固定相を集め、次いで15-cm3の画分を集める。画分72?110をプールし、140cm3の体積に濃縮する。形成される沈澱を濾過により分離する。内部標準法を用いて99.7%と分析される5.2gのタキソテレ三水和物がそれにより80.5%の収率で得られる。」(【0025】?【0027】)

(1e)「87.7%の収率で46.5gのタキソテレ三水和物の沈殿を与え、その純度は99.1%である。」(【0033】)

(2)甲第2号証(Cancer Research,1991,Vol. 51, No. 18, pp4845-4852)(英文のため訳文で記載する。)

(2a)表題
「タキソールの類縁物質であるタキソテレ(RP 56976、NSC 628503)の実験に基づく抗腫瘍活性」

(2b)要約(第4845頁左欄第1?22行)
「タキソテレ(RP 56976; NSC 628503; N-デベンゾイル-N-ターシャル-ブトキシカルボニル-10-デアセチル タキソール)は新規の微小管安定化剤である。この化合物はオオシュウイチイの針状葉から抽出される細胞無毒性の前駆体から半合成することで得られる。タキソテレはマウスの様々な移植可能な癌に対する抗癌活性が評価された。タキソテレには投与スケジュール依存性が無く、静脈注射と腹腔内投与での活性が確認された。静脈投与では、試験された11の腫瘍モデルのうち、9モデルがタキソテレに反応した。B16メラノーマはタキソテレに対し、腫瘍増殖阻害値が0%、最大耐用量において3.0log_(10)の腫瘍細胞死といった高い感受性を示した。同様の試験において、タキソールは最大耐用量において1.1log_(10)しか腫瘍細胞死を示さなかった。タキソテレにより初期膵管腺癌03モデル(6のうち6が治癒)と大腸癌38モデル(7のうち7が治癒)が治癒した。両方の腫瘍がより進行しても80%以上が完全に緩解された。タキソテレは大腸癌51モデルの初期(2.3log_(10)の細胞死)および進行期(1.7log_(10)の細胞死)に対して活性があった。他の4種の腫瘍(ルイス肺癌(5.5%の腫瘍増殖阻害)、グラスゴー骨原性肉腫(27.2%の腫瘍増殖阻害)、L1210白血病(70%の延命)そして、P388白血病(54%の延命))はより低い反応を示した。タキソテレは良好な前臨床活性や独特な作用機序を持つので、タキソテレの第一相臨床試験が開始された。」

(2c)第4846頁のFig.1


図1.タキソテレ(RP 56976; NSC 628503);N-デベンゾイル-N-ターシャル-ブトキシカルボニル-10-デアセチル タキソール

(3)甲第3号証(特開昭63-30479号公報)

(3a)特許請求の範囲第1項
「 式:

式中、
Rは水素またはアセチルを表わし、そしてR_(1)およびR_(2)の一方はヒドロキシを表わし、そして他方はtert-ブトキシカルボニルアミノを表わす、
のタキソ-ル誘導体、その立体異性体類およびそれらの混合物。」

(3b)「一般式(I)の生成物、ことにRが水素を表わし、R_(1)がヒドロキシを表わし、そしてR_(2)がtert-ブトキシカルボニルアミノを表わすものは、価値ある生物学的活性を有する。
それらの生物学的活性は、・・・の方法によって研究した。この研究において、式(I)の生成物はタキソールのほぼ2倍の活性を有することがわかった。
生体内において、式(I)の生成物は、白血病L1210または白血病2388を接種したマウスにおいて、腹腔内に投与したとき、1?10mg/kgの投与量において活性であることがわかった。
エクイトキシック(equitoxic)投与量において、式(I)の生成物はタキソールより大きい抗腫瘍効力を示した(すなわち、生存時間の増大、動物は長期間生存する)。」(第4頁左上欄18行?左下欄1行)

(3c)「亜鉛粉末(150mg)を・・・に添加する。この反応混合物を・・・そして濃縮乾固する。残留物を水中に取り、そして酢酸エチルで抽出する。一緒にした有機相を濃縮乾固し、そして、残留物を厚い層のクロマトグラフィーにより精製し、塩化メチレン:メタノール(97:3容量)混合物で溶離する。これにより、Rが水素を表わし、R_(1)がヒドロキシ基を表わし、そしてR_(2)がtert-ブトキシカルボニルアミノ基を表わす一般式(1)の生成物(2’R,3’S)が得られ、その特性は次の通りである:
比旋光度: ・・・紫外線スペクトル:・・・赤外スペクトル:・・・プロトン核磁気共鳴スペクトル(CDCl_(3)、400MHz、シフト、ppm):・・・質量スペクトル(FAB)m/z:・・・および185。」(第6頁右上欄第5行?右下欄第10行)

(4)甲第4号証
甲第4号証-1(国際公開第93/01179号)は、本件特許の優先日前である1993年(平成5年)1月21日に国際公開された国際出願の明細書であり、甲第4号証-2(特表平6-509082号公報)は、その対応日本出願の公表特許公報である。甲第4号証-1は英文のため、甲第4号証-2の対応箇所の記載を示す。

(4a)「実施例2 実施例1で得られたエステル(11.9g)、次に200cm^(3)のメタノール-酢酸(1-1容量)混合物そして最後に6gの亜鉛粉末を、アルゴン雰囲気下で、スタラーが備えられた三首丸底フラスコ中に加えた。混合物を60℃に2時間加熱し、そして次に25℃に冷却した。濾過後に、沈澱を20cm^(3)のメタノール-酢酸エチル(1-1容量)混合物で4回洗浄した。濾液および洗浄液を一緒にし、そして次に濃縮乾固した。残渣を200cm^(3)のトルエンで抽出し、そして次に減圧下(35℃における25mmの水銀、3.3kPa、次に25℃における1mmの水銀、0.13kPa)で濃縮乾固した。得られた残渣を200cm^(3)の酢酸エチルで抽出した。溶液を50cm^(3)の飽和炭酸水素ナトリウム溶液でそして次に100cm^(3)の蒸留水で洗浄した。有機相を硫酸マグネシウム上で乾燥した。濾過および減圧下(35°Cにおける25mmの水銀、3.3kPa、次に25℃における1mmの水銀、0.13kPa)での濃縮乾固後に、10gの(2R,3S)-3-ターシャリー-ブトキシカルボニルアミノ-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロピオン酸4-アセトキシ-2α-ベンゾイルオキシ-5β、20-エポキシ-1,7β,10β-トリヒドロキシ-9-オキソ-11-タキセニ-13α-ルが白色粉末の形状で得られ、それをシリカ上でのクロマトグラフィーにより精製した。
このようにして得られた生成物は99.5%より高い純度を有していた。」(甲第4号証-2の第4頁左下欄第2?23行)

(5)甲第5号証(Acta Crystallographica Section C, 1990, Vol.C46, PART5, pp781-784)(英文のため訳文で記載する。)

(5a)表題
「合成されたタキソール前駆体であるN-ターシャル-ブトキシカルボニル-10-デアセテル-N-デベンゾイルタキソールの構造」

(5b)「要約 4-アセトキシ-2-ベンゾイルオキシ-1,7,10-トリヒドロキシ-9-オキソ-5,20-エポキシ-11-タキセン-13-イル β-ターシャル-ブトキシカルボニルアミノ-α-ヒドロキシベンゼンプロピオネート-メタノール-水(1/1/1)、C_(43)H_(53)NO_(14).CH_(3)OH.H_(2)O、分子量=857.9、単斜晶系、P2_(1)、a=20.816(10)、b=8.758(5),c=12.726(8)Å,β=101.06(5)゜、V=2277 Å^(3),Z=2,Dx=1.25gcm^(-3),λ(Cu Kα)=1.5418 Å,μ=7.07 cm^(-1),F(000)=916、室温、最終R因子=0.073、wR因子=0.084、観測反射数3438。
タキソールの半合成過程における中間体のX線解析が行われた;これは生物学的活性に必須であるオキセタン環とタキソール型の側鎖の両者を含むタキサンジテルペンのX線解析における最初の例である。」(第781頁左欄第1行?右欄第6行)

(5c)「タキソールの半合成についての化学的に研究する過程で、我々は両者の構造を持つと共に光学分割を行うことなく10-デアセチルタキソール(4)を合成可能な表題の化合物(5a)を調製した(Colin,Guenard,Gueritte-Voegelein & Potier,1986)。X線回折研究は、C2’とC3’の立体化学と生物学的活性の関係を見いだすために行われた。」(第782頁左欄第20?28行)

(5d)図1 以前に研究された表題の化合物[(5a)]に関連する化合物の詳細

(第782頁左欄下から1?2行)

(5e)「1つのメタノールと一つの無秩序な水(1/2、1/2)が位置している。」(第783頁右欄10?11行)

(6)甲第6号証
本証拠は、本件特許の出願経過記録である。甲第6号証-1は、甲第2号証を引用した拒絶理由通知であり、甲第6号証-2は、この拒絶理由通知に対して本件特許権者が提出した意見書である。
甲第6号証-3は拒絶査定、甲第6号証-4は、この拒絶査定に対する不服審判請求書、甲第6号証-5は、その請求の理由を補充した手続補正書、甲第6号証-6は審決書である。

(7)甲第7号証(新製剤学、仲井由宣、花野学編、1982年、102?103頁)

(7a)「1.医薬品の結晶
固体医薬品の大部分は結晶であり、X線による回析を示す。結晶は構成要素である原子あるいは分子の空間における結合の形式によって、イオン結晶、金属結晶、共有結合結晶、分子性結晶に分類される。医薬品は有機化合物が多く分子性結晶としての性質をもつ。
結晶薬品を考えるとき2つの立場がある。その第1は結晶自身について考える立場であって結晶構造、結晶多形および結晶性などの問題があり、」
(第102頁第10?16行)

(7b)「 2.多形
多形とは同じ化学組成をもちながら結晶構造が異なり、別の結晶形を示す現象またはその現象を示すものをいう。すなわち結晶中の原子あるいは分子の空間的な配列の違いによって多形がおこるので、融解したり溶解した場合には区別はできない。多形を示す物質としては無機物では炭素(graphiteとdiamond)、炭酸カルシウム(calciteとaragonite)など多くのものが知られている。医薬品では酢酸コルチゾン、プロゲステロン、プレドニゾロン、バルビタール、フェノバルビタールなどがあり、とくに最近では多くの薬品に多形の存在が見出されている。」(第102頁下から7行?103頁3行)

(8)甲第8号証(固形製剤の製造技術、塩路雄作、1985年、9?15頁)
本証拠は、平成15年1月27日に発行された普及版であるが、その初版第1刷は昭和60年3月5日発行であり、「普及版の刊行にあたって」において記載された説明から、普及版の記載内容は初版第1刷に記載されていたものと判断される。

(8a)「1.薬物の物性評価
製剤設計を行うに当たって、もっとも重要なステップは、有効成分たる薬物の物性(ここでは物理的性質、化学的性質および生物学的性質をまとめて物性と呼ぶこととする)を評価することである。薬物自信の水に対する溶解度や、酸化されやすい化学構造かどうかなどの基礎的な物性を評価しないと、添加剤の選択や処方の確立は、ほとんど不可能に近いといってよい。もっとも簡単な例をあげれば、薬物の性状の1つである味が苦ければ、内服固形剤形としては、コーティング剤かカプセル剤を選択せざるを得なくなる。処方決定以前のこのステップのことを、通常、Preformulationと呼んでいる。」(第9頁下から1?8行)

(8b)「1.2.4 結晶多形
薬物には、2つ以上の結晶形を有するものが多く、無晶形をも含めて結晶形が異なると、溶解速度、融点、密度、硬さ、結晶形状、光学的および電気的性質、蒸気圧、安定性などの物性が異なってくることが知られている。結晶多形に関しては、幾多の文献に報告されており、とくに溶解速度が異なることによるバイオアベイラビリティに差のある例として、クロラムフェニコールパルミテートが有名である。
薬物に結晶多形が存在するかどうかを検知することは、Preformulationのこの段階における重要な課題である。」(第12頁下から4?11行)

(9)甲第9号証:CRYSTALLIZATION Theory and Practice,1961,p192-194
(英文のため訳文で記載する。)

(9a)「第5章 実験室や工場での結晶化
実験室での結晶化
結晶化は、通常実験室で行われる、とても一般的な手順であり、精製された形態で固形の物質を分離したり、研究や展示のための輪郭のはっきりした純粋な単結晶を調整したりする目的で行われている。結晶化のために何百という試験方法や器具が完成されている。バックリィ^(A-1)やマッツ^(A-11)の著書には、良い結晶試料の作製に関する方法や機器の優れた記述が掲載されており、ティプソンの著書^(127)は、結晶化合物を製造する際に使用される技術や器具に関するもので、彼のカタログとしては最も完成されたものである。パルマー^(95)やその他^(29)による著書には、通常の実験室での結晶化と結晶の基本的な特性について短いが教育的な章が記載されている。

結晶化の準備

結晶化の前処理として、化学実験室で実践される最も一般的な事項は、結晶化の段階に進む前に溶解物や溶液をでき得る限り精製することである。この精製は、結晶化を繰り返し行ったり、清澄剤で処理したりすることにより、達成できるものである。有機化合物の溶液の場合には活性炭や類似の物質がよく使用され、化学薬品による処理が一般的である。後者の実例としては、重金属を取り除くためのアルカリ塩の溶液があげられる。イオン交換と関連する処理方法もまた多くの場合とても有益である。

その後、懸濁した物質を取り除くために、精製した溶解物や溶液をろ過や遠心分離機にかけ、さらに、蒸発濃縮、好ましくない溶媒の添加による溶解度の減少、もしくは冷却によって結晶点へ到達させる。多くの場合、通常の実験器具が用いられているが、特有の状況によって多種多様な改善が即興で成されている。図5-1(略)にティプソンによる多様な装置のなかから単純な配置のーつを図示した。結晶化の前後のろ過はもちろん、濃縮および洗浄はこのような装置により実施され、必要であれば、この分離の段階は圧や遠心により速めることができる。」(第192頁第1行?第193頁第2行)

(9b)「通常の実験室で用いられる共通の溶媒は、水、メタノール、エタノール、酢酸、アセトン、エーテル、石油エーテル、クロロフォルム、四塩化炭素等々である。最初の5つは強力な加水分解性の溶媒として知られており、“似た性質のものに溶ける”といった錬金術師の法則に従って、極性物質を溶かす。いくつかの種類では可溶化度は沸点に比例して高くなる。例えば、エタノール(沸点:78.1℃)はメタノール(沸点:64.7℃)よりもナフタレンを2倍溶かす。このような溶媒に水を加えるとナフタレンに対する溶解度が劇的に減少する、このように予備的作業において使用される溶媒の組合せを例示する。いくつかの一般的に使用される組合せは以下の通りである。
メタノール-水 エーテル-メタノール
エタノール-水 エーテル-アセトン
酢酸-水 ベンゼン-石油エーテル
アセトン-水 等、等」(第193頁下から7行?第194頁第7行)

(10)甲第10号証:最新 薬剤学 第4改稿版、廣川書店、1982年3月25日、第12?14頁

(10a)「2.4.1 製剤化
医薬品として用いるためには、治療目的、疾病の状態に応じて最も適した剤形を選択すべきであり、このため同一薬物に対して様々の剤形を与える必要がある。しかし同一剤形においても製剤化の過程の差異により得られる製剤間に優劣が生じることも重要であり、次のような点を十分検討した上で製剤化されなければならない。・・・3.薬物の物理化学的性質・・・また3は形状や安定性に関係し、・・・は使わなければならない。」(第12頁下から5行?第14頁第10行)

(11)甲第11号証:第十一改正 日本薬局方解説書、1986、A-106?A-124頁

(11a)「注射剤は、皮膚内又は皮膚若しくは粘膜を通して体内に直接適用する医薬品の溶液、懸濁液、乳濁液又は用時溶剤に溶解若しくは懸濁して用いるもので、無菌の製剤である。」(A-107頁下から13?11行)

(11b)「注射剤の定義を示したものである。注射剤の形態には溶液、懸濁液、乳濁液及び用時溶剤に溶解若しくは懸濁して用いる固形(主として粉末)の4種があることが示されている」(A-111頁下から14?12行)

(12)甲第12号証:医薬品の開発 第16巻 プレフォーミュレーションと薬物物性試験、廣川書店、1990、第267?271頁

(12a)「医薬品開発における製剤研究は、・・・7.1.1 プレフォーミュレーション初期 このステージにおける研究は、まず複数の候補化合物から総合的に優れた原薬を選択するための探索研究に参画することから始まる。ここで原薬の物理的形態(フリー体,塩)の決定を行う。また結晶形の暫定的な決定もこのステージで行われる。・・・プレフォーメーションの後半になると疾病,原薬に関する情報も多くなる。これら諸情報から用法,用量が想定され、精度の高い製剤設計が策定される。同時に以後の研究計画も定める。」

(13)甲第13号証:医薬品の開発 第15巻 製剤の物理化学的性質、廣川書店、1989、第135頁、第165?168頁

(13a)「次に、薬物(原末,原液)の物理化学的性質と,薬物と他の薬物あるいは添加物との物理化学的な相互作用等に対する前処方研究(preformulation study)について述べる。製剤の処方研究(formulation study)に入る前に行う薬物の生物製剤学的研究(biopharmaceutical study)と物理薬剤学的研究(physicopharmaceutical study)をまとめて前処方研究と呼んでいるが、処方設計方針を確立するための重要なステップである。特に,配合上好ましくない添加物はこの段階でスクリーニングされるし,薬物の温度,湿度,光に対する安定性から製剤のおおまかな安定化対策が決められる。
次いで、処方設計の中で,固形剤,液剤,半固形剤に分けて,代表的剤形について安定化のために注意すべき項目を上げ,安定化の具体的実例について述べる。」(第135頁第4?12行)

(13b)「(3)溶媒和物
化合物を再結晶する時、一定の割合の溶媒を伴って結晶化する場合があり,この物を溶媒和物という。結晶溶媒が水の場合を水和物(hydrate)と呼ぶ。グリセオフルビン,クロラムフェニコール,スルファチアゾールは、クロロホルム,アセトンと1:1のモル比で溶媒和物となる。アンピシリンでは無水物,1水和物,3水和物が知られているが、加熱に伴い1水和物は黄変し易いが無水物と3水和物は安定である。しかし,3水和物は100℃,2mmHgの乾燥で容易に脱水し,非晶質へと変化するので製剤用薬物としては無水物の方が優れているといわれている^(56))。」(第168頁下から13?7行)

(14)甲第14号証:Physics and chemistry of the organic solid state, 1965, p726-728(英文のため翻訳文で記載する。)

(14a)「それ以降、有機物、無機物を問わず非常に多くの化合物には、化学的に同一であるが物理的性質が異なる2つかそれ以上の形態で結晶化することが示されてきている。」
(第726頁下から2行?第727頁第2行)

(14b)「これは少なくとも筆者の意見だが、すべての化合物は異なる結晶形を持ち、一般的にはある化合物の結晶形の数は時間とお金に比例する。」。(第727頁第12?15行)

2.対比

甲第2号証に記載の「タキソテレ(RP 56976; NSC 628503; N-デベンゾイル-N-ターシャル-ブトキシカルボニル-10-デアセチル タキソール)」(第4 1.の(2b))、甲第3号証に記載の「一般式(I)の生成物、ことにRが水素を表わし、R_(1)がヒドロキシを表わし、そしてR_(2)がtert-ブトキシカルボニルアミノを表わすもの」(第4 1.の(3b))、甲第4号証に記載の「(2R,3S)-3-ターシャリー-ブトキシカルボニルアミノ-2-ヒドロキシ-3-フェニルプロピオン酸4-アセトキシ-2α-ベンゾイルオキシ-5β、20-エポキシ-1,7β,10β-トリヒドロキシ-9-オキソ-11-タキセニ-13α-ル」(第4 1.の(4a))は、いずれも、本件特許発明に係る化合物である「4-アセトキシ-2α-ベンゾイルオキシ-5β,20-エポキシ-1β,7β,10β-トリヒドロキシ-9-オキソ-11-タキセン-13α-イル(2R,3S)-3-t-ブトキシカルボニルアミノ-3-フェニル-2-ヒドロキシプロピオネート」(以下、「タキソテレ」という。)と、同一の化合物である。
しかしながら、甲第2号証?甲第4号証のいずれにも、「タキソテレの三水和物」については記載されていない。

また、甲第5号証には、「4-アセトキシ-2-ベンゾイルオキシ-1,7,10-トリヒドロキシ-9-オキソ-5,20-エポキシ-11-タキセン-13-イル β-ターシャル-ブトキシカルボニルアミノ-α-ヒドロキシベンゼンプロピオネート-メタノール-水(1/1/1)」の結晶が記載されている(第4 1.の(5a)?(5e))。
そして、上記「4-アセトキシ-2-ベンゾイルオキシ-1,7,10-トリヒドロキシ-9-オキソ-5,20-エポキシ-11-タキセン-13-イル β-ターシャル-ブトキシカルボニルアミノ-α-ヒドロキシベンゼンプロピオネート」は、「タキソテレ」に相当する化合物であるから、甲第5号証には、「タキソテレ1分子のメタノール1分子及び水1分子の溶媒和物」(以下、「甲第5号証発明」という。)が、記載されている。

そこで、本件特許発明と甲第5号証発明とを対比すると、両者は「タキソテレの溶媒和物」である点で一致しているが、前者は「三水和物」であるのに対し、後者は「メタノール1分子及び水1分子の溶媒和物」である点で、相違している。

3.判断

そこで、上記相違点について検討する。
請求人は、「甲第2号証ないし甲第4号証に記載されているとおり、本件特許の優先日前に、タキソテレは既に公知であり、その抗腫瘍活性についても知られていた。また、甲第5号証に示すように、タキソテレのメタノール1分子および水1分子の溶媒和物の結晶が存在することも知られていた。
一方、甲第7号証および甲第8号証に記載されているように、本件優先日前、医薬化合物には結晶多形が存在することが知られていて、結晶多形では、結晶形が異なることにより溶解度、安定性、融点等の物性が異なってくるため、製剤設計段階において結晶多形が存在するかどうかを検知することが
、重要な課題として当業者に認識されていた。
したがって、タキソテレが医薬化合物として知られ、そのメタノール1分子および水1分子の溶媒和物の結晶も知られていたとき、当業者であれば、それ以外の結晶多形の存在を検討することは当然に行うことである。よって、本件発明は、甲第2?5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであり、進歩性を有するものではない。」と主張している。(審判請求書第5頁下から6行?第6頁第8行)
また、甲第12号証及び甲第13号証には、医薬化合物の前処方研究の段階において、安定性、溶解性、硬さ等に影響を及ぼす結晶形が検討されることが記載され、甲第14号証には、一般的に有機物、無機物を問わず非常に多くの化合物は、物理的性質が異なる2つかそれ以上の形態で結晶化することが知られ、すべての化合物は異なる結晶形を持ち、研究量に比例して見出される化合物の結晶形の数が増えることが記載されていると主張している。(口頭審理陳述要領書第5頁下から6行?第6頁第4行、第7頁第13?16行)
さらに、請求人は、「甲第5号証の第782頁のTable 1.の記載から、タキソテレ三水和物が生成する可能性を推認できる。」と主張している。(第1回口頭審理調書)

これらの主張について、まず、甲第5号証の記載事項から、当業者がタキソテレ三水和物の存在を推認し得たか否かについて、検討する。
甲第5号証の第782頁のTable 1.には、タキソテレのメタノール1分子及び水1分子の溶媒和物の結晶について、X線回折で得られた原子座標が示されており、Table 1.の下から3?4行に、メタノールの酸素原子がOME1、炭素原子がCME1として記載され、さらに、Table 1.の下から1?2行に、水の酸素分子がW1/2^(*)、W2/2^(*)として記載されている。
しかしながら、甲第5号証には、当該溶媒和物の結晶の製造方法については、何ら記載されていない。
この点について、請求人は、甲第9号証を提示し、甲第5号証に記載されているのは、タキソテレのメタノール1分子及び水1分子の溶媒和物であるから、結晶化にあたって使用される溶媒はメタノール及び水に限られ、タキソテレのような水に溶解しにくい化合物をメタノール中に溶解し、これに水を添加して溶解度を低下させることによって結晶化させることは、甲第9号証の記載からみて技術常識であるので、当業者であれば、タキソテレの無水物をメタノールに溶解し、これに水を添加することによって、タキソテレのメタノール1分子及び水1分子の溶媒和物の結晶を得ることは容易であると主張している。(口頭審理陳述要領書第1頁下から5行?第2頁第4行)
ここで、甲第3号証における「そして、残留物を厚い層のクロマトグラフィーにより精製し、塩化メチレン:メタノール(97:3容量)混合物で溶離する。」との記載((第4 1.の(3c))、及び甲第4号証における「得られた残渣を200cm^(3)の酢酸エチルで抽出した。溶液を50cm^(3)の飽和炭酸水素ナトリウム溶液でそして次に100cm^(3)の蒸留水で洗浄した。」との記載からみて((第4 1.の(4a))、タキソテレは水への溶解度が非常に低い化合物である。
してみると、当業者であれば、甲第5号証の記載事項から、タキソテレの無水物をメタノールに溶解し、これに水を添加することによって、タキソテレのメタノール1分子及び水1分子の溶媒和物の結晶を得られることを推認できるとしても、水への溶解度が非常に低い化合物であるタキソテレの「水和物」が得られるか否かは不明である。
しかも、タキソテレの「水和物」が生成することを示す証拠は何ら提示されていない。
よって、甲第9号証や、他の甲号証すなわち甲第2?4号証、甲第7号証、甲第8号証、及び甲第10?14号証の記載を参酌しても、甲第5号証の記載事項から、当業者がタキソテレや三水和物の存在を推認し得ると認めることはできない。

次に、タキソテレの結晶多形を探索するという課題について、検討する。
甲第7号証、甲第8号証、甲第10号証?甲第14号証の記載事項からみて、本件特許の優先日当時、当業者がタキソテレの結晶多形を探索することについての動機付けがあったことは認められるものの、多くの医薬化合物に結晶多形が存在することを根拠として、当業者がタキソテレの「水和物」の存在を推認し、タキソテレの「水和物」を探索するという課題を認識し得たということはできない。

ところで、本件特許明細書の記載にあるように、本件特許発明のタキソテレ三水和物は、遠心分配クロマトグラフィーという新たな方法を利用してタキソテレを精製したところ、精製タキソテレが従来の無水物とは異なる「三水和物」という新規な形態で高純度、高収率で分離されて得られたものである。((第4 1.の(1b)?(1e))
そして、遠心分配クロマトグラフィーによる精製方法は、タキソテレ等のタキソイド類の精製方法として周知の手段であるとはいえないことから、本件特許発明のタキソテレ三水和物は、当業者が通常行う結晶多形の探索の中で容易に発見されたものであるということはできない。

したがって、本件特許の優先日当時の技術常識を参酌しても、甲第2号証?甲第5号証の記載から、当業者がタキソテレ三水和物の存在を容易に想到し得たとは、認められない。

4.小括

以上のとおり、本件特許発明は、本件特許の優先日当時の技術常識を参酌しても、本件優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められないので、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

第5 無効理由2について

請求人は、平成6年法律第116号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例とされる同改正前の特許法第36条第4項の規定は、「発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」というものであるところ、本件明細書には、タキソテレ三水和物の構成により達成される目的や得られる効果について何ら記載も示唆もされておらず、当業者が本件発明の技術上の意義を全く理解できないから、本件特許出願は、同法第36条第4項の規定を満たしていないと主張している。(審判請求書第7頁第7?39行)

そこで、本件特許明細書の記載について、検討する。
タキソテレは、本件特許の優先日前に知られていた化合物であり(第4 1.の(2b)、(3b)及び(4a))、抗腫瘍活性を有し(第4 1.の(2b)及び(3b))、いちい(イチイ、Taxus)の葉から抽出される10-デアセチルバッカチン(deacetylbaccatin)IIIから部分合成される化合物である。(甲第3号証の第3頁左上欄第4?9行、本件明細書の段落【0003】?【0005】)
本件特許明細書には、本件特許発明について、「10-デアセチルバッカチンIII及びタキソテレ自身は、一般に、カラム上の液体クロマトグラフィー法により、さらに特定的には、シリカカラム上の高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製することができる。しかし、これらの方法は数十グラムの精製には特に適しているが、それらを工業的に外挿すると、消費される溶媒の量及び毒性残留物により汚染された(シリカ)担体の取り扱い及び破壊などの圧迫に会い、それは最大となる。
毒性が非常に高い場合が多く、反応性が高い生成物を構成するタキソイド類の場合、優れた生産性を有し、購入、使用及び破壊が高価な固体担体を必要とせず、少量の溶媒の使用を必要とし、容易に自動化して連続的生産を可能にすることができる精製法の使用の可能性を有することが特に重要である。 」(段落【0006】及び【0007】)と記載され、さらに「本発明は、それが本発明の方法を行うことにより得られる場合、精製タキソテレ及び精製10-デアセチルバッカチンIIIにも関する。」(段落【0019】)と記載されている。
そして、タキソテレの精製方法について、実施例1には「遠心分配クロマトグラフィーをSANKI LLI-07装置において行う。圧力を55バールに制限するポペットバルブを設けた2つのピストンポンプにより遠心機に供給する。1つのポンプはセレクターバルブを用いて2層の片方又は他方を運搬するように働き、他のポンプは注入用に確保されている。
装置に固定相を低い回転速度(200rpm)及び高い流量(110cm^(3)/分)で充填した後、直後に注入を行う。
水相から始めて2相を注入し、ヘキサン/酢酸エチル/メタノール/水(体積により2:4:3:2)系の水相を用いて60cm^(3)/分の流量で溶離を行う。71%保持に等しい1.9リットルの固定相を集め、次いで15-cm^(3)の画分を集める。画分72?110をプールし、140cm^(3)の体積に濃縮する。形成される沈澱を濾過により分離する。」(段落【0025】?【0027】)と記載されている。
さらに、得られた精製タキソテレについて、実施例1には「内部標準法を用いて99.7%と分析される5.2gのタキソテレ三水和物がそれにより80.5%の収率で得られる。」(段落【0027】)と記載され、同じく実施例1に記載の方法を用いた実施例2には「87.7%の収率で46.5gのタキソテレ三水和物の沈殿を与え、その純度は99.1%である。」(段落【0033】)と記載されている。

ここで、本件特許明細書には、「タキソテレ三水和物」の発明の目的及び効果について、直接言及している記載はない。
しかしながら、上記の記載事項からみて、本件特許明細書には、本件特許発明の目的は、高価な固体担体を必要とせず、少量の溶媒を使用し容易に自動化して連続的生産を可能とする、優れた生産性を有するタキソテレの工業的な精製方法の提供であることが、当業者が容易に理解することができる程度に記載されている。
そして、本件特許明細書には、実施例1に記載の精製方法により、精製タキソテレが、従来の無水物とは異なる「三水和物」という新規な形態で高純度、高収率で分離されたことが記載されているので、当業者は、前記精製方法により、精製タキソテレとして「タキソテレ三水和物」を製造し得るものであると推認できる。
また、本件特許発明の目的からみて、「タキソテレ三水和物」が製造されたことにより、優れた生産性を有するタキソテレの工業的な精製方法が提供され、その結果、工業生産品として優れている精製タキソテレが提供されたという効果を奏することは、当業者が容易に理解し得る事項である。
さらに、タキソテレが抗腫瘍活性を有することは、甲第2号証(第4 1.の(2b))及び甲第3号証(第4 1.の(3b))に記載のように、本件特許の優先日前に知られているので、「タキソテレ三水和物」の有用性として抗腫瘍活性があることは、当業者に周知の事項である。

また、請求人は、被請求人が審査経過において主張した「通常の保存条件下で安定なタキソテレの新規な形態を提供すること」が、「タキソテレ三水和物」という特許請求の範囲の記載に対応した目的と解せざるを得ない(口頭審理陳述要領書の第10頁第19?21行)と主張し、医薬品の製剤化にあたっては、安定性こそが本件特許発明の本質的な効果であることは明らかであり、本件特許明細書には、タキソテレの三水和物の安定性等についての効果が記載されていないことから、当業者は本件特許発明の技術的意義を正確に把握することができない(口頭審理陳述要領書の第11頁第16?22行)と主張している。
さらに、請求人は、本件特許明細書が、タキソテレの三水和物について何らの同定資料も開示していないことから、実施可能要件を満たしていない(口頭審理陳述要領書の第12頁第10?14行)と主張している。
しかしながら、本件特許明細書には、本件特許発明の目的が「通常の保存条件下で安定なタキソテレの新規な形態を提供すること」であるとは記載されていないのであるから、例えばタキソテレ三水和物が非常に不安定であって、工業生産や製剤化にあたり実用に供し得ない等の格別の事情がない限り、安定性等の効果に関する記載は不要である。
そして、上記のとおり、本件特許発明の目的及び効果は当業者が容易に理解し得るものであり、当業者はタキソテレ三水和物を製造し得るものであると推認でき、さらにタキソテレ三水和物の有用性は周知事項であるから、本件特許明細書にタキソテレ三水和物の安定性等の効果が記載されていないこと、あるいは、タキソテレ三水和物の同定資料が開示されていないことを根拠として、当業者が、本件特許発明である「タキソテレ三水和物」の発明を実施できないということはできない。

したがって、本件特許出願は、平成6年法律第116号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例とされる同改正前の特許法第36条第4項
規定する要件を満たしているものである。

第6 無効理由3について

請求人は、平成6年法律第116号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例とされる同改正前の特許法第36条第5項第1号の規定は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」であるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、タキソテレの「三水和物」が得られたことが記載されているのみであって、その安定性を裏付ける実験データ等はおろか、安定性等の物性について何らの記載もないのであるから、本件特許出願は、同法第36条第5項第1号及び第6項の規定を満たしていない(審判請求書第9頁第13?17行)と主張し、さらに、特許請求の範囲の記載は、タキソテレ三水和物の精製方法及び純度について何ら特定されていないので、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載に対し広すぎることは明らかである(口頭審理陳述要領書の第12頁第20?34行)と主張している。

そこで、本件特許明細書の記載について、検討する。
前記「第5 無効理由2について」の項目において検討したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、平成6年法律第116号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例とされる同改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている。
言い換えれば、当業者は、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された「タキソテレ三水和物」を、実施例1に記載の精製方法によって製造し得るものであると推認でき、タキソテレ三水和物が製造されたことにより、優れた生産性を有するタキソテレの工業的な精製方法を提供するという、本件特許発明の目的が達成されたことは当業者が容易に理解し得る事項であり、タキソテレ三水和物が抗腫瘍活性を有することは、周知事項である。
してみると、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された「タキソテレ三水和物」の発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、タキソテレ三水和物の安定性を裏付ける実験データ等や安定性等の物性についての記載がないこと、あるいは、タキソテレ三水和物の精製方法及び純度が特定されていないことを根拠として、特許請求の範囲に記載された「タキソテレ三水和物」の発明が、発明の詳細な説明の記載に対し広すぎるということはできない。
よって、本件における特許を受けようとする発明は、本件の発明の詳細な説明に記載されている。

したがって、本件特許出願は、平成6年法律第116号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例とされる同改正前の特許法第36条第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしているものである。

第7 むすび

以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る発明の特許を、特許法第123条第1項第2号の規定及び同法123条第1項第4号の規定により無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-08-08 
出願番号 特願2003-29438(P2003-29438)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (C07D)
P 1 113・ 531- Y (C07D)
P 1 113・ 534- Y (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安居 拓哉齋藤 恵  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 内藤 伸一
前田 佳与子
登録日 2009-09-04 
登録番号 特許第4367829号(P4367829)
発明の名称 タキソテレ三水和物  
代理人 竹林 則幸  
代理人 特許業務法人 小野国際特許事務所  
代理人 結田 純次  
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