ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J |
---|---|
管理番号 | 1244028 |
審判番号 | 不服2008-24107 |
総通号数 | 143 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-11-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-09-19 |
確定日 | 2011-09-07 |
事件の表示 | 平成9年特許願第290204号「固形ポリマー分散体並びにその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年7月7日出願公開、特開平10-182845〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成9年10月23日(優先権主張 平成8年11月1日、米国)の出願であって、平成19年4月23日付けで拒絶理由が通知され、同年11月7日に意見書が提出されたが、平成20年6月19日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、同年9月19日に審判請求書が提出され、同年10月7日に手続補正書が提出され、同年10月20日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成21年3月23日付けで前置報告がなされ、当審において平成22年7月20日付けで審尋がなされ、平成23年1月27日に回答書が提出されたものである。 第2.平成20年10月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定 1.補正の却下の決定の結論 平成20年10月7日付けの手続補正を却下する。 2.理由 (1)補正の内容 平成20年10月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本願の願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲を補正するものであって、特許請求の範囲について 「【請求項1】 ガラス転移温度Tg_(a)を有するポリマーAとガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)を有するポリマーB(ただし、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)である)とのブレンドの製造方法であって、これらのポリマーを、Tg_(a)からTg_(b)とTm_(b)のいずれか低い温度までの温度において、ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子へと変換させるのに十分な時間及び剪断条件下で均質混合して、自由流動性のブレンドを生じさせることを含んでなる方法。 【請求項2】 前記ポリマーAがポリオルガノシロキサン、エチレン-プロピレンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ネオプレン又はアクリルゴムである、請求項1記載の方法。 【請求項3】 前記ポリマーBがオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、線状ポリエステル、ビニル芳香族ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン又はポリアリーレンスルフィドである、請求項2記載の方法。 【請求項4】 ガラス転移温度Tg_(a)を有するポリマーAとガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)を有するポリマーB(ただし、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)である)とのブレンドを含んでなる組成物であって、当該ブレンドがTg_(a)からTg_(b)又はTm_(b)までの温度で自由流動性であり、しかもポリマーBで被覆されたポリマーAの粒子を含んでなるものである、組成物。 【請求項5】 前記ポリマーAがポリオルガノシロキサン、エチレン-プロピレンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ネオプレン又はアクリルゴムである、請求項4記載の組成物。」 を、 「【請求項1】 ガラス転移温度Tg_(a)を有するポリマーAとガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)を有するポリマーB(ただし、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)である)とのブレンドの製造方法であって、これらのポリマーを、Tg_(a)からTg_(b)とTm_(b)のいずれか低い温度までの温度において、前記ポリマーB中で前記ポリマーAの分散体が形成されるような条件が維持されるように前記ポリマーBに前記ポリマーAを漸増的に添加し、ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子へと変換させるのに十分な時間及び剪断条件下で均質混合して、自由流動性のブレンドを生じさせることを含んでなる方法。 【請求項2】 前記ポリマーAがポリオルガノシロキサン、エチレン-プロピレンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ネオプレン又はアクリルゴムである、請求項1記載の方法。 【請求項3】 前記ポリマーBがオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、線状ポリエステル、ビニル芳香族ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン又はポリアリーレンスルフィドである、請求項2記載の方法。 【請求項4】 ガラス転移温度Tg_(a)を有するポリマーAとガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)を有するポリマーB(ただし、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)である)とのブレンドを含んでなり、前記ポリマーB中で前記ポリマーAの分散体が形成されるような条件が維持されるように前記ポリマーBに前記ポリマーAを漸増的に添加した組成物であって、当該ブレンドがTg_(a)からTg_(b)又はTm_(b)までの温度で自由流動性であり、しかもポリマーBで被覆されたポリマーAの粒子を含んでなるものである、組成物。 【請求項5】 前記ポリマーAがポリオルガノシロキサン、エチレン-プロピレンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ネオプレン又はアクリルゴムである、請求項4記載の組成物。」 と補正するものである。 (2)補正の目的 本件補正は、以下の補正事項からなるものである。 ○補正事項1: 請求項1において、「ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子へと変換させるのに十分な時間及び剪断条件下で均質混合して」を、「前記ポリマーB中で前記ポリマーAの分散体が形成されるような条件が維持されるように前記ポリマーBに前記ポリマーAを漸増的に添加し、ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子へと変換させるのに十分な時間及び剪断条件下で均質混合して」とする補正事項 ○補正事項2: 請求項4において、「ガラス転移温度Tg_(a)を有するポリマーAとガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)を有するポリマーB(ただし、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)である)とのブレンドを含んでなる組成物」を、「ガラス転移温度Tg_(a)を有するポリマーAとガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)を有するポリマーB(ただし、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)である)とのブレンドを含んでなり、前記ポリマーB中で前記ポリマーAの分散体が形成されるような条件が維持されるように前記ポリマーBに前記ポリマーAを漸増的に添加した組成物」とする補正事項 補正事項1及び2は、願書に最初に添付した明細書の段落【0013】の記載に基づいて、ポリマーAとポリマーBとを混合する際の添加方法を限定するものである。 したがって、補正事項1及び2は、いずれも、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、平成18年法律第55号附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (3)独立特許要件 そこで、本件補正が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。 (3-1)本件補正発明1 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される、次のとおりのものである。 「ガラス転移温度Tg_(a)を有するポリマーAとガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)を有するポリマーB(ただし、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)である)とのブレンドの製造方法であって、これらのポリマーを、Tg_(a)からTg_(b)とTm_(b)のいずれか低い温度までの温度において、前記ポリマーB中で前記ポリマーAの分散体が形成されるような条件が維持されるように前記ポリマーBに前記ポリマーAを漸増的に添加し、ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子へと変換させるのに十分な時間及び剪断条件下で均質混合して、自由流動性のブレンドを生じさせることを含んでなる方法。」 (3-2)本件補正発明4 本件補正後の特許請求の範囲の請求項4に係る発明(以下、「本件補正発明4」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項4に記載された事項によって特定される、次のとおりのものである。 「ガラス転移温度Tg_(a)を有するポリマーAとガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)を有するポリマーB(ただし、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)である)とのブレンドを含んでなり、前記ポリマーB中で前記ポリマーAの分散体が形成されるような条件が維持されるように前記ポリマーBに前記ポリマーAを漸増的に添加した組成物であって、当該ブレンドがTg_(a)からTg_(b)又はTm_(b)までの温度で自由流動性であり、しかもポリマーBで被覆されたポリマーAの粒子を含んでなるものである、組成物。」 (3-3)本件補正後の明細書の記載事項 本件補正後の明細書(以下、「本件補正明細書」という。)の発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。 ア.「一般に、両ポリマーを各々全量投入してから混合を始める。ただし、固体ポリマーB中でポリマーAの分散体が形成されるような条件が維持されるようにポリマーBにポリマーAを漸増的に添加することも本発明の範囲内である。最初に固体(ポリマーB)中でゴム(ポリマーA)の分散体が形成されることが今回明らかになった。高剪断混合プロセス中、ポリマーAの粒度の漸進的破壊が起こる。同時にポリマーBの粒子がポリマーAの粒子を被覆して、固形粒状ブレンドを形成する。この固形粒状ブレンドはポリマーB中のポリマーAの固形分散体であって、Tg_(b)及びTm_(b)未満の温度で自由流動性である。」(段落【0013】) イ.「【実施例】 実施例1 剪断速度10.14s^(-1)で約3.9×10^(6)センチポアズの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサンゴム25部と極限粘度数0.4dl/g(25℃のクロロホルム中)のポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)100部の混合物を、10分間ワーリングブレンダー内で高速で混合した。自由流動性粉末の望ましいブレンドが得られ、2.36部の未混合シリコーンが残った。このブレンドは、300℃での圧縮成形作業で明らかにされた通り、成形が可能であった。」(段落【0018】) (3-4)当審の判断 (3-4-1)本件補正発明1について 本件補正発明1はポリマーAとポリマーBとのブレンドの製造方法に関する発明であって、記載事項アの記載からみて、「ポリマーAをポリマーBで被覆した自由流動性のブレンドを製造すること」を課題(以下、「補正発明1の課題」という。)とするものであると認められる。 そして、本件補正発明1は、「前記ポリマーB中で前記ポリマーAの分散体が形成されるような条件が維持されるように前記ポリマーBに前記ポリマーAを漸増的に添加し」との事項(以下、「漸増添加事項1」という。)を、その発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)として備えるものである。 しかしながら、本件補正明細書の発明の詳細な説明には、「一般に、両ポリマーを各々全量投入してから混合を始める。ただし、固体ポリマーB中でポリマーAの分散体が形成されるような条件が維持されるようにポリマーBにポリマーAを漸増的に添加することも本発明の範囲内である。」(記載事項ア)と、漸増添加事項について一応記載されているが、これを具体的にどのようにして実施するのかについては何等記載されていない。 また、実施例1(記載事項イ)では、「ビニル末端ポリジメチルシロキサンゴムとポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)の混合物を混合した」旨記載されているように、漸増添加事項1に係る操作は実施されておらず、他の実施例である実施例2?5においても同様である。 以上のように、本件補正明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1?5には、これらの実施例における、ポリマーAとポリマーBとのブレンドの製造方法が、漸増添加事項1を備えていることは記載されていない。 そして、本願出願時において、漸増添加事項1を備えた、ポリマーAとポリマーBとのブレンドの製造方法が、「ポリマーAをポリマーBで被覆した自由流動性のブレンドを製造すること」ができるとの技術常識があったともいえない。 したがって、本願出願時の技術常識に照らしても、本件補正明細書の記載に基づき、漸増添加事項1を発明特定事項を備える本件補正発明1について、当業者が補正発明1の課題を解決できると認識できるとは認められない。 よって、本件補正発明1は、本件補正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないので、この出願は特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3-4-2)本件補正発明4について 本件補正発明4は、ポリマーAとポリマーBとのブレンドを含んでなる組成物に関する発明であって、記載事項アの記載からみて、「ポリマーAをポリマーBで被覆した自由流動性のブレンドを提供すること」を課題(以下、「補正発明4の課題」という。)とするものと認められる。 そして、本件補正発明4は、「前記ポリマーB中で前記ポリマーAの分散体が形成されるような条件が維持されるように前記ポリマーBに前記ポリマーAを漸増的に添加した組成物」との事項(以下、「漸増添加事項4」という。)を、発明特定事項として備えるものである。 しかしながら、上記(3-4-1)に記載したように、本件補正明細書の発明の詳細な説明には、漸増添加事項4について一応記載されている(記載事項ア)が、これを具体的にどのようにして実施するのかについては何等記載されておらず、また、実施例1?5でも漸増添加事項4は実施されていない。 このように、本件補正明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1?5には、これらの実施例における、ポリマーAとポリマーBとのブレンドの製造方法が、漸増添加事項4を備えていることは記載されていない。 そして、本願出願時において、漸増添加事項4を備えた、ポリマーAとポリマーBとのブレンドを含んでなる組成物が、「ポリマーAをポリマーBで被覆した自由流動性のブレンドを提供すること」かできるとの技術常識があったともいえない。 したがって、本願出願時の技術常識に照らしても、本件補正明細書の記載に基づき、漸増添加事項4を発明特定事項を備える本件補正発明4について、当業者が補正発明4の課題を解決できると認識できるとは認められない。 よって、本件補正発明4は、本件補正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないので、この出願は特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3-4-3)小 括 上記検討のとおり、この出願は特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (4)まとめ 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.拒絶査定に対する判断 1.本願発明 上記第2のとおり、平成20年10月7日付けの手続補正は、決定をもって却下された。 したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「ガラス転移温度Tg_(a)を有するポリマーAとガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)を有するポリマーB(ただし、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)である)とのブレンドの製造方法であって、これらのポリマーを、Tg_(a)からTg_(b)とTm_(b)のいずれか低い温度までの温度において、ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子へと変換させるのに十分な時間及び剪断条件下で均質混合して、自由流動性のブレンドを生じさせることを含んでなる方法。」 2.原査定の拒絶の理由の概要 原審において拒絶査定の理由とされた、平成19年4月23日付け拒絶理由通知書に記載した「理由1」の概要は、以下のとおりである。 「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (中略) 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・理由1 (1)請求項1において「ポリマーAをポリマーBで被覆された」分散粒子へと変換させることが規定されているが、発明の詳細な説明の実施例においては、「ポリマーAをポリマーBで被覆された」ことが具体的に確認されていない。 よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 (中略) (3)請求項1における「ポリマーA」、「ポリマーB」について、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)であることが規定されるのみで、ポリマーの種類等は規定されていない。 しかしながら、発明の詳細な説明において、その作用効果が具体的に確認され、実質的な開示があるのは、実施例に記載された特定のポリマーの組み合わせのみである。 よって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」 また、上記「理由1」について、平成20年6月19日付け拒絶査定には、以下のとおり記載されている。 「・理由1(1) 本願出願人は、本願明細書中には、ポリマーAをポリマーBで被覆するためにポリマーAとポリマーBのTg、Tmや重量比を適宜調整することが記載されており(例えば、明細書段落[0010]、[0015]等)、当業者が実施する際当然にポリマーAとポリマーBのTg等を明細書中の記載されている内容を確認して実施するものであり、発明の詳細な説明に記載されている旨主張している。 しかしながら、発明の詳細な説明において、「ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子」が得られたことが具体的に確認されておらず、技術常識を参酌しても、本願発明で特定されるようにポリマーAとポリマーBのTg等、均質混合時の温度等を調整すれば、上記被覆された分散粒子が得られるとは必ずしもいえないから(例えば、ポリマーBがポリマーAで被覆された分散粒子、分散粒子が存在しないブレンドが得られることも考えられる。)、本願発明は発明の詳細な説明に実質的に開示されていないといえる。 (中略) ・理由1(3) 本願出願人は、本願発明は、ポリマーAとポリマーBとが、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)の関係を満たせば、それ以外の関係は特に限定されないから、請求項に係る発明は発明の詳細な説明においてサポートされているものと主張している。 しかしながら、上記で述べたように、本願実施例とTg、Tm、均質混合時の温度等の対応が不明で、Tg、Tmの技術的意味が全く不明であるから、ポリマーAとポリマーBとがTg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)の関係を満たせばそれ以外の関係は特に限定されないという、出願人の上記主張は採用できない。」 3.本願明細書の記載事項 本願明細書の発明の詳細な説明には、次のとおり、記載されている。 A.「一般に、両ポリマーを各々全量投入してから混合を始める。・・・最初に固体(ポリマーB)中でゴム(ポリマーA)の分散体が形成されることが今回明らかになった。高剪断混合プロセス中、ポリマーAの粒度の漸進的破壊が起こる。同時にポリマーBの粒子がポリマーAの粒子を被覆して、固形粒状ブレンドを形成する。この固形粒状ブレンドはポリマーB中のポリマーAの固形分散体であって、Tg_(b)及びTm_(b)未満の温度で自由流動性である。」(段落【0013】) B.「実施例1 剪断速度10.14s^(-1)で約3.9×10^(6)センチポアズの粘度を有するビニル末端ポリジメチルシロキサンゴム25部と極限粘度数0.4dl/g(25℃のクロロホルム中)のポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)100部の混合物を、10分間ワーリングブレンダー内で高速で混合した。自由流動性粉末の望ましいブレンドが得られ、2.36部の未混合シリコーンが残った。このブレンドは、300℃での圧縮成形作業で明らかにされた通り、成形が可能であった。」(段落【0018】) C.「実施例2 混合をヘンシェルミキサー内で実施したこと以外は、実施例1の手順を繰り返した。生成物は、押出及び成形の可能な自由流動性の粉末であった。 実施例3 実施例2の手順を用いて、ポリエチレン粉末4部と10.14s^(-1)で約3900000センチポアズの粘度を有するメチル停止ポリジメチルシロキサンゴム1部の自由流動性ブレンドを製造した。このブレンドは押出及び成形が可能であった。」(段落【0019】) D.「実施例4 ポリエチレン粉末の代わりにポリスチレン4部を用いて実施例3の手順を繰り返した。同様の生成物が得られた。 実施例5 ポリエチレン粉末の代わりにビスフェノールAポリカーボネート4部を用いて実施例3の手順を繰り返した。同様の生成物が得られた。 実施例6 ポリフェニレンエーテルとエチレン-プロピレンゴム各1部ずつのブレンドを用いて、実施例1の手順を繰り返した。少なくとも1ヶ月の保存寿命を有する、十分に分散した自由流動性の粉末が得られた。」(段落【0020】?【0021】) 4.当審の判断 (1)本願発明は、ポリマーAとポリマーBとのブレンドの製造方法に関する発明であって、記載事項アの記載からみて、「ポリマーAをポリマーBで被覆した自由流動性のブレンドを製造すること」を課題(以下、「発明の課題」という。)とするものであると認められる。 そして、本願発明は、「ガラス転移温度Tg_(a)を有するポリマーAとガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)を有するポリマーB(ただし、Tg_(a)<Tg_(b)及びTg_(a)<Tm_(b)である)」を用いるとの事項(以下、「ポリマー事項」という。)及び「Tg_(a)からTg_(b)とTm_(b)のいずれか低い温度までの温度において、ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子へと変換させるのに十分な時間及び剪断条件下で均質混合して、自由流動性のブレンドを生じさせる」との事項(以下、「混合事項」という。)を、発明特定事項として備えるものである。 そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を整理すると、次のとおりである。 ○実施例以外の箇所(記載事項A) *最初に固体(ポリマーB)中でゴム(ポリマーA)の分散体が形成され る。 *高剪断混合プロセス中、ポリマーAの粒度の漸進的破壊が起こる。 *同時にポリマーBの粒子がポリマーAの粒子を被覆して、固形粒状ブレ ンドを形成する。 ○実施例(記載事項B?D) *実施例1: ポリマーA:ビニル末端ポリジメチルシロキサンゴム (粘度:剪断速度10.14s^(-1)で約3.9×10^(6)センチ ポアズ) 25部 ポリマーB:ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル) (極限粘度数0.4dl/g(25℃のクロロホルム中)) 100部 混合条件 :10分間ワーリングブレンダー内で高速で混合。 結 果 :自由流動性粉末の望ましいブレンドが得られた。このブレン ドは、300℃で圧縮可能。 *実施例2: ポリマーA:ビニル末端ポリジメチルシロキサンゴム (粘度:剪断速度10.14s^(-1)で約3.9×10^(6)センチ ポアズ) 25部 ポリマーB:ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル) (極限粘度数0.4dl/g(25℃のクロロホルム中) 100部 混合条件 :10分間ヘンシェルミキサー内で高速で混合。 結 果 :生成物は、押出及び成形の可能な自由流動性の粉末。 *実施例3: ポリマーA:メチル停止ポリジメチルシロキサンゴム (粘度:10.14s^(-1)で約3900000センチポアズ) 1部 ポリマーB:ポリエチレン粉末 4部 混合条件 :10分間ヘンシェルミキサー内で高速で混合。 結 果 :自由流動性ブレンドを製造した。このブレンドは押出及び成 形が可能。 *実施例4 ポリマーA:メチル停止ポリジメチルシロキサンゴム (粘度:10.14s^(-1)で約3900000センチポアズ) 1部 ポリマーB:ポリスチレン 4部 混合条件 :10分間ヘンシェルミキサー内で高速で混合。 結 果 :実施例3と同様の生成物が得られた。 *実施例5 ポリマーA:メチル停止ポリジメチルシロキサンゴム (粘度:10.14s^(-1)で約3900000センチポアズ) 1部 ポリマーB:ビスフェノールAポリカーボネート 4部 混合条件 :10分間ヘンシェルミキサー内で高速で混合。 結 果 :実施例3と同様の生成物が得られた。 *実施例6 ポリマーA:エチレン-プロピレンゴム 1部 ポリマーB:ポリフェニレンエーテル 1部 混合条件 :10分間ワーリングブレンダー内で高速で混合。 結 果 :少なくとも1ヶ月の保存寿命を有する、十分に分散した自由 流動性の粉末が得られた。 このように、本願明細書の実施例(記載事項B?D)には、次の条件でポリマーブレンドを行ったところ、自由流動性粉末のブレンドが得られ、押出及び成形が可能であった旨記載されている。 ○特定のポリマーAとポリマーBとの組み合わせ、すなわち、 実施例1及び2では、「ビニル末端ポリジメチルシロキサンゴム(粘度:剪断速度10.14s^(-1)で約3.9×10^(6)センチポアズ)」と「ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)(極限粘度数0.4dl/g(25℃のクロロホルム中))」、 実施例3では、「メチル停止ポリジメチルシロキサンゴム(粘度:10.14s^(-1)で約3900000センチポアズ)」と「ポリエチレン粉末」、 実施例4では、「メチル停止ポリジメチルシロキサンゴム(粘度:10.14s^(-1)で約3900000センチポアズ)」と「ポリスチレン」、 実施例5では、「メチル停止ポリジメチルシロキサンゴム(粘度:10.14s^(-1)で約3900000センチポアズ)」と「ビスフェノールAポリカーボネート」、 実施例6では、「エチレン-プロピレンゴム」と「ポリフェニレンエーテル」 ○特定のポリマーAとポリマーBとの重量混合比、すなわち、 実施例1?5では、1:4、 実施例6では、1:1 ○特定の混合条件、すなわち、 実施例1及び6では、「10分間ワーリングブレンダー内で高速で混合」 実施例2?5では、「10分間ヘンシェルミキサー内で高速で混合」 しかしながら、実施例1?6では、ポリマーAのガラス転移温度及びポリマーBのガラス転移温度又は融解温度が明らかにされておらず、さらに、ポリマーAとポリマーBとを混合する際の温度も明らかにされていない(高速混合で発生する摩擦熱により、室温よりもかなり温度が上昇していると解されるが、具体的な温度は不明である。)ので、実施例1?6で示された方法が、ポリマー事項及び混合事項を満たしているか否かが不明である。また、実施例1?6で得られた粉末は、自由流動性粉末で、押出及び成形が可能であった旨記載されている(物性等が測定されていないので、客観的に確認はできない。)が、その層構造については記載されていないので、発明の課題が解決されているか否かも不明である。 また、仮に、実施例1?6において用いられているポリマーAに該当する各ポリマーのガラス転移温度(Tg_(a))は0℃よりもかなり低く、一方、ポリマーBに該当する各ポリマーのガラス転移温度(Tg_(b))又は融解温度(Tm_(b))は100℃程度よりも高いため、ワーリングブレンダーまたはヘンシェルミキサー内での高速混合は、特に測定されていなくても、Tg_(a)からTg_(b)とTm_(b)のいずれか低い温度までの温度で行われていることが自明であるとしても、実施例1?6で具体的に確認できるのは、特定のポリマーAとポリマーBとを、特定の重量混合比で配合し、特定の混合条件で混合した場合に、押出及び成形が可能な自由流動性粉末のブレンドが得られたことであって、これを、ポリマー事項及び混合事項さえ満たせば、あらゆる種類、粒子形状、粒子径、重量混合比のポリマーA及びポリマーBを用いても、発明の課題が解決できるとまで拡張ないし一般化できるとは到底考えられない。 さらに、本願明細書の実施例以外の箇所(記載事項A)の記載を参酌して検討する。確かに、記載事項Aに記載されているように、ポリマーの分子運動性がガラス転移温度(Tg)付近において変化するとしても、高剪断混合プロセスにおけるポリマーA及びBの分散体形成、破壊及び被覆が、ポリマーの種類、粒子形状、粒子径、重量混合比の要素に依存せず、ポリマー事項に係るポリマーAのガラス転移温度Tg_(a)及びポリマーBのガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)と、混合事項に係るTg_(a)からTg_(b)とTm_(b)のいずれか低い温度までの均質混合温度との相互の関係で決定されるとは認められない。 したがって、本願出願時の技術常識に照らしても、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、本願発明のポリマー事項及び混合事項のすべての範囲において、その発明の課題を解決できると認識できるものとは認められない。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められない。 第4.審判請求人の主張について 請求人は、平成20年10月20日提出の審判請求書の手続補正書(方式)において、次のとおり、主張している。 (1)審査官は、ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子が得られたことが具体的に確認されていないと指摘しているので、以下に被覆の機構について説明する。 明細書段落[0014]に記載されているが、高せん断混合プロセスの間、ポリマーAの粒径は、進行的に破壊される。ブレンディング温度(反応温度)は、明細書段落[0016]に記載されているようにTg_(a)とTg_(b)またはTm_(b)との間を維持させる。明細書に記載されているように、Tg_(a)以上の温度でせん断を行うことから、ポリマーAは、より小さい粒径へと進行的破壊が引き起こされる。・・・ガラス転移点付近では、ポリマー鎖のある部分の結合が弱くなることが知られている・・・。ある力が加わったとき、ガラス転移点付近で分子鎖はスライドする。例えば、その力は、本発明ではせん断である。したがって、Tg_(a)以上の温度でポリマーAはより小さい粒径へと漸増的に破壊される。補正後の本願発明では、反応温度はポリマーAのガラス転移点Tg_(a)よりも高いので、ポリマーAのポリマー鎖の結合が弱まり、ポリマーAのポリマー鎖が進行的に破壊されることがわかる。 同様に、本願発明でのせん断は、反応温度がTg_(b)またはTm_(b)以下なので、ポリマーBについては破壊が起こらない。また、ポリマーBが大量に存在する状態で漸増的にポリマーAを添加するので、分散粒子の自由な混合を引き起こさない。すなわち、ポリマーBがポリマーAで被覆されることとなる。 上述したが、せん断の間、ポリマーAの粒径は、反応温度がTg_(a)よりも高く、Tg_(b)よりも低いので、ポリマーBの粒径よりも小さくなる。ポリマーBはポリマーAに比べて大量に存在していることから、ポリマーAはポリマーBで被覆されることとなる。 (2)審査官は、ポリエチレンのTgは110℃ではなく0℃未満であると指摘しているが、低密度ポリエチレンのTgは0℃未満であり、審査官の指摘とおりである。 しかし、実施例に記載されているポリエチレンは、低密度ポリエチレンではなく高密度ポリエチレンである。参考資料3・・・には、高密度ポリエチレンのTgはなく、融解温度が135℃であることが示されている。このように、実施例3及び4は0℃未満で混合していないことが明確となり、請求項の技術的範囲は明確なものであると思料する。 上記主張について検討する。 主張(1)について 上記第3.の4.の項で説示したように、実施例1?6で得られた粉末は、自由流動性粉末で、押出及び成形が可能であった旨記載されている(物性等が測定されていないので、客観的に確認はできない。)が、その層構造については記載されておらず、ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子が得られたことが具体的に確認できないことは事実である。 さらに、本願明細書の実施例以外の箇所(記載事項A)の記載を参酌しても、ポリマーの分子運動性がガラス転移温度(Tg)付近において変化するとしても、高剪断混合プロセスにおけるポリマーA及びBの分散体形成、破壊及び被覆が、ポリマーの種類、粒子形状、粒子径、重量混合比の要素に依存せず、ポリマー事項に係るポリマーAのガラス転移温度Tg_(a)及びポリマーBのガラス転移温度Tg_(b)又は融解温度Tm_(b)と、混合事項に係るTg_(a)からTg_(b)とTm_(b)のいずれか低い温度までの均質混合温度との相互の関係のみで決定されるとは認められない。 なお、実施例1?6で得られた粉末が、「ポリマーAをポリマーBで被覆された分散粒子」であることを具体的に確認できるようにするには、実施例を再現し、分析データ、写真などの客観的な資料を示せば足りることである。 主張(2)について 「実施例3」(記載事項C)には、単に「ポリエチレン粉末」と記載されているだけであり、請求人のいうように、「これは、低密度ポリエチレンではなく高密度ポリエチレンである」とする根拠は全くない。また、仮にこれが高密度ポリエチレンであるとしても、そのTgは-120℃程度であると推定するのが妥当である。 よって、上記審判請求人の主張は採用できない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-04-08 |
結審通知日 | 2011-04-12 |
審決日 | 2011-04-25 |
出願番号 | 特願平9-290204 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C08J)
P 1 8・ 575- Z (C08J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 芦原 ゆりか |
特許庁審判長 |
小林 均 |
特許庁審判官 |
▲吉▼澤 英一 大島 祥吾 |
発明の名称 | 固形ポリマー分散体並びにその製造方法 |
代理人 | 藤田 和子 |