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審決分類 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する B65D
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する B65D
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する B65D
管理番号 1244970
審判番号 訂正2011-390075  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2011-06-22 
確定日 2011-09-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4078780号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4078780号に係る明細書を、本件審判請求書に添付された明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る特許第4078780号は、平成12年2月18日に出願(特願2000-41774号)されたものであって、平成20年2月15日に、その特許権の設定登録がされ、その後、訂正に係る平成23年6月22日付け本件審判請求書が提出され、その後、該審判請求書についての同年8月1日付け手続補正書、及び同日付け上申書が提出されている。

2.請求の趣旨
請求人は、結論と同趣旨の審決を求めているものと認める。

3.平成23年8月1日付け手続補正書による補正

3-1.補正の内容
本補正は、審判請求書についてする補正であって、以下の補正事項a?cから成るものと認める。

補正事項a;「6.請求の理由」、「(3)訂正の要旨」の、願書に添付した明細書又は図面(以下、「訂正前明細書等」という。)の請求項4に係る「(3-5)訂正事項5」において、その訂正前の記載につき、
「熱可塑性ポリエステルより成り、表層(I)及び表層(I)の融点よりも10℃以上低い融点乃至軟化温度を有する下層(II)で構成されるポリエステルテープを、」とあるのを、
「、熱可塑性ポリエステルより成り、表層(I)及び表層(I)の融点よりも10℃以上低い融点乃至軟化温度を有する下層(II)で構成されるポリエステルテープを、」と補正する。
補正事項b;同、訂正前明細書等の段落【0011】に係る「(3-10)訂正事項10」において、その訂正前の記載につき、
「熱可塑性ポリエステルより成り、表層(I)及び表層(I)の融点よりも10℃以上低い融点乃至軟化温度を有する下層(II)で構成されるポリエステルテープを、」とあるのを、
「、熱可塑性ポリエステルより成り、表層(I)及び表層(I)の融点よりも10℃以上低い融点乃至軟化温度を有する下層(II)で構成されるポリエステルテープを、」と補正する。
補正事項c;同、「(3)訂正の要旨」に、以下の訂正事項を、(3-12)訂正事項12として、加入補正する。
『明細書の段落【0010】に、
「本発明の溶接缶胴において、溶接部及びその近傍を除き缶内面側のポリエステルフィルム層は、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく」
とあるのを、明瞭でない記載の釈明を目的として、次の通りに訂正する。
「本発明の溶接缶胴において、熱可塑性ポリエステルフィルムが、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく」』

3-2.補正の適否

3-2-1.補正事項a及びb

1)本補正前の「(3-5)訂正事項5」については、以下のとおりに記載されていたと認められる。

「請求項4に、
「熱可塑性ポリエステルより成り、表層(I)及び表層(I)の融点よりも10℃以上低い融点乃至軟化温度を有する下層(II)で構成されるポリエステルテープを、」
とあるのを、・・・(審決注;「・・・」は、記載の省略を示す。以下、同様。)、次の通り訂正する。
『熱可塑性ポリエステルテープが・・・から成り、』」

そして、この記載によれば、請求項4は、以下のとおりに訂正されることになる。

「・・・ポリエステルフィルムの一部にわたって、熱可塑性ポリエステルテープが・・・から成り、・・・。」

2)その一方で、平成23年6月22日付け審判請求書(以下、「当初請求書」という。)に添付した訂正明細書(以下、単に、「訂正明細書」という。)の請求項4は、以下のとおりに記載されている。

「・・・ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが・・・から成り、・・・。」

3)そこで、検討すると、「(3-5)訂正事項5」について記載されていた訂正内容と、訂正明細書の記載内容とに整合がとれていないことが分かる。
そして、補正事項aは、前記訂正内容を、前記記載内容と整合させるよう、補正するものであるが、前記訂正内容どおりに訂正されたものと前記記載内容との間に、いわゆる、発明特定事項としての違いはなく、補正事項aは、当初請求書の要旨を変更しているとまではいうことはできない。

4)補正事項bは、訂正前明細書等の段落【0011】に係る「(3-10)訂正事項10」を補正するものであるが、「(3-5)訂正事項5」を補正する補正事項aと同趣旨の補正と認められ、補正事項bも、補正事項aについて検討したものと同じ理由から、当初請求書の要旨を変更しているとまではいうことはできない。

3-2-2.補正事項c

1)訂正前明細書等の段落【0010】は、以下のとおりに記載されていたものと認められる。

「・・・。
本発明の溶接缶胴において、溶接部及びその近傍を除き缶内面側のポリエステルフィルム層は、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく、特に表層の分子配向結晶化しているポリエステル樹脂層と下層の接着性樹脂層の複合層より成ることが好ましい。
具体的に、缶内面側被覆ポリエステルフィルム層は、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることが好ましい。
・・・。」

これに対し、訂正明細書の段落【0010】は、以下のとおりに記載され、訂正されている。

「・・・。
本発明の溶接缶胴において、熱可塑性ポリエステルフィルムが、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく、特に表層の分子配向結晶化しているポリエステル樹脂層と下層の接着性樹脂層の複合層より成ることが好ましい。
具体的に、缶内面側被覆ポリエステルフィルム層は、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることが好ましい。
・・・。」

2)その一方で、当初請求書には、上述したような訂正内容を有する訂正事項の記載は見当たらない。
そして、補正事項cは、当初請求書に上記訂正事項を、訂正事項12として、盛り込む補正ということができる。そこで、補正事項cについて、検討する。

3)当初請求書には、訂正前明細書等の請求項1に係る訂正事項1及び2、並びに請求項2に係る訂正事項3が「6.請求の理由」の「(3)訂正の要旨」に記載され、訂正明細書を併せ見ると、本件訂正は、以下のとおりの訂正事項aを、訂正の内容として有しているものと認められる。

訂正事項a;訂正前明細書等の請求項1?3の記載につき、
「【請求項1】
溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、該溶接部及びその近傍が表層(I)及び下層(II)で構成される少なくとも2層の熱可塑性ポリエステルテープにて被覆されており、下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のエチレンテレフタレート単位と酸成分基準で5乃至40モル%のイソフタル酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
(iii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
の何れかから成ることを特徴とする溶接缶胴。
【請求項2】
溶接部及びその近傍を除く缶内面側が表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることを特徴とする請求項1記載の溶接缶胴。
【請求項3】
該ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度が缶内面側のポリエステルフィルムの表層の融点(Tm)-100℃以上であることを特徴とする請求項1記載の溶接缶胴。」とあるのを、
「【請求項1】溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、該溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが被覆されている溶接缶胴において、
前記熱可塑性ポリエステルテープは、表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成ることを特徴とする溶接缶胴。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリエステルフィルムが、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることを特徴とする請求項1記載の溶接缶胴。
【請求項3】
該ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度が缶内面側のポリエステルフィルムの表層の融点(Tm)-100℃以上であることを特徴とする請求項1記載の溶接缶胴。」と訂正する。

更に、当初請求書には、訂正前明細書等の段落【0010】に係る訂正事項7及び8が「6.請求の理由」の「(3)訂正の要旨」に記載され、これら訂正事項からは、本件訂正は、以下のとおりの訂正事項bを、訂正の内容として有しているものと認められる。

訂正事項b;「【課題を解決するための手段】
本発明によれば、溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、該溶接部及びその近傍が表層(I)及び下層(II)で構成される少なくとも2層の熱可塑性ポリエステルテープにて被覆されており、下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のエチレンテレフタレート単位と酸成分基準で5乃至40モル%のイソフタル酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
(iii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
の何れかから成ることを特徴とする溶接缶胴が提供される。
本発明の溶接缶胴において、溶接部及びその近傍を除き缶内面側のポリエステルフィルム層は、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく、特に表層の分子配向結晶化しているポリエステル樹脂層と下層の接着性樹脂層の複合層より成ることが好ましい。
具体的に、缶内面側被覆ポリエステルフィルム層は、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることが好ましい。
更に、ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度が缶内面側のポリエステルフィルムの表層の融点(Tm)-100℃以上、特に融点(Tm)-80℃以上であることが好ましい。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
本発明によれば、溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、該溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが被覆されている溶接缶胴において、
前記熱可塑性ポリエステルテープは、表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、該下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成ることを特徴とする溶接缶胴が提供される。
本発明の溶接缶胴において、溶接部及びその近傍を除き缶内面側のポリエステルフィルム層は、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく、特に表層の分子配向結晶化しているポリエステル樹脂層と下層の接着性樹脂層の複合層より成ることが好ましい。
具体的に、缶内面側被覆ポリエステルフィルム層は、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることが好ましい。
更に、ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度が缶内面側のポリエステルフィルムの表層の融点(Tm)-100℃以上、特に融点(Tm)-80℃以上であることが好ましい。」と訂正する。

4)そして、訂正前明細書等の請求項1?3の記載と段落【0010】の記載(審決注;訂正事項a及びbにおける、それぞれの訂正前の記載である。)とを対比すると、段落【0010】は、請求項1?3に記載の発明を、いわゆる、書き写している段落と認められる。
そこで、改めて訂正事項a及びbを見ると、訂正事項aでは、請求項2に記載の「溶接部及びその近傍を除く缶内面側が」を「前記熱可塑性ポリエステルフィルムが、」とすることを訂正内容としているが、訂正事項bでは、段落【0010】における、上記請求項2に対応する記載、すなわち、「本発明の溶接缶胴において、溶接部及びその近傍を除き缶内面側のポリエステルフィルム層は、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく、特に表層の分子配向結晶化しているポリエステル樹脂層と下層の接着性樹脂層の複合層より成ることが好ましい。 具体的に、缶内面側被覆ポリエステルフィルム層は、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることが好ましい。」については、訂正内容としてはいない。
その一方で、訂正明細書を見ると、請求項2に対応する段落【0010】における記載は、「本発明の溶接缶胴において、熱可塑性ポリエステルフィルムが、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく、特に表層の分子配向結晶化しているポリエステル樹脂層と下層の接着性樹脂層の複合層より成ることが好ましい。 具体的に、缶内面側被覆ポリエステルフィルム層は、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることが好ましい。」と記載され、段落【0010】の記載は、訂正事項aによって訂正された請求項2に記載の発明が書き写されているものとなっている。
以上の検討を踏まえると、当初請求書には、訂正明細書の段落【0010】の記載どおりに訂正することが、実質的に、記載されていたと認められるから、これを訂正事項12として盛り込む補正事項cは、欠落していた訂正事項を補完するもので、当初請求書の要旨を変更しているとはいえない。

3-2-3.まとめ
補正事項a?cから成る本補正は、当初請求書の要旨を変更するものではなく、特許法第131条の2第1項に適合し、認められるものである。

4.訂正の内容
本件訂正は、平成23年8月1日付け手続補正書による補正が先に「3.」で述べたように認められることから、同補正により補正された審判請求書及び訂正明細書の記載から見て、先に「3-2-2.」の「3)」で述べた訂正事項a(以下、これを「訂正事項A」と言い換える。)並びに、以下の訂正事項B?Dからなるものと認める。

訂正事項B;訂正前明細書等の請求項4の記載につき、
「【請求項4】
溶接部及びその近傍を除く缶内面側に熱可塑性ポリエステルフィルムを被覆した溶接缶胴に、溶接部及びその近傍及び円周上にてそれに連なる該ポリエステルフィルムの一部にわたって、熱可塑性ポリエステルより成り、表層(I)及び表層(I)の融点よりも10℃以上低い融点乃至軟化温度を有する下層(II)で構成されるポリエステルテープを、少なくとも接着界面が該ポリエステルフィルムを構成する表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃以上の温度で且つ該テープの下層(II)の融点乃至軟化温度以上の温度で、しかもテープ表層(I)の最表面が溶融しない温度において熱接着することを特徴とする溶接缶胴の製法。」とあるのを、
「【請求項4】
溶接部及びその近傍を除く缶内面側に熱可塑性ポリエステルフィルムを被覆した溶接缶胴に、溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが熱接着により被覆されてなる溶接缶胴の製法において、
前記熱可塑性ポリエステルテープは、表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、該下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成り、少なくとも前記熱可塑性ポリエステルフィルムと前記下層(II)との接着界面を、前記熱可塑性ポリエステルフィルムを構成する表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃以上の温度で且つ前記熱可塑性ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度以上の温度とし、しかも前記熱可塑性ポリエステルテープの表層(I)の最表面が溶融しない温度において熱接着することを特徴とする溶接缶胴の製法。」と訂正する。
訂正事項C;訂正前明細書等の段落【0010】の記載につき、
「【課題を解決するための手段】
本発明によれば、溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、該溶接部及びその近傍が表層(I)及び下層(II)で構成される少なくとも2層の熱可塑性ポリエステルテープにて被覆されており、下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のエチレンテレフタレート単位と酸成分基準で5乃至40モル%のイソフタル酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
(iii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
の何れかから成ることを特徴とする溶接缶胴が提供される。
本発明の溶接缶胴において、溶接部及びその近傍を除き缶内面側のポリエステルフィルム層は、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく、特に表層の分子配向結晶化しているポリエステル樹脂層と下層の接着性樹脂層の複合層より成ることが好ましい。
具体的に、・・・好ましい。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
本発明によれば、溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、該溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが被覆されている溶接缶胴において、
前記熱可塑性ポリエステルテープは、表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、該下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成ることを特徴とする溶接缶胴が提供される。
本発明の溶接缶胴において、熱可塑性ポリエステルフィルムが、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく、特に表層の分子配向結晶化しているポリエステル樹脂層と下層の接着性樹脂層の複合層より成ることが好ましい。
具体的に、・・・好ましい。」と訂正する。
訂正事項D;明細書の段落【0011】の記載につき、
「また、本発明によれば、溶接部及びその近傍を除く缶内面側に熱可塑性ポリエステルフィルムを被覆した溶接缶胴に、溶接部及びその近傍及び円周上にてそれに連なる該ポリエステルフィルムの一部にわたって、熱可塑性ポリエステルより成り、表層(I)及び表層(I)の融点よりも10℃以上低い融点乃至軟化温度を有する下層(II)で構成されるポリエステルテープを、少なくとも接着界面が該ポリエステルフィルムを構成する表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃以上の温度で且つ該テープの下層(II)の融点乃至軟化温度以上の温度で、しかもテープ表層(I)の最表面が溶融しない温度において熱接着することを特徴とする溶接缶胴の製法が提供される。」とあるのを、
「また、本発明によれば、溶接部及びその近傍を除く缶内面側に熱可塑性ポリエステルフィルムを被覆した溶接缶胴に、該溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが熱接着により被覆されてなる溶接缶胴の製法において、
前記熱可塑性ポリエステルテープは、表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、該下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成り、少なくとも前記熱可塑性ポリエステルフィルムと前記下層(II)との接着界面を、前記熱可塑性ポリエステルフィルムを構成する表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃以上の温度で且つ前記熱可塑性ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度以上の温度とし、しかも前記熱可塑性ポリエステルテープの表層(I)の最表面が溶融しない温度において熱接着することを特徴とする溶接缶胴の製法が提供される。」と訂正する。

5.本件訂正の適否
ここ「5.」では、訂正前明細書等の請求項1については「旧請求項1」と、また、本訂正後については「新請求項1」といい、他の請求項についても同様とする。

5-1.本件訂正の目的と記載根拠

5-1-1.訂正事項Aについて
訂正事項Aは、以下の訂正事項A1?A4からなるものと認められる。

訂正事項A1;旧請求項1に記載の「溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、該溶接部及びその近傍が表層(I)及び下層(II)で構成される少なくとも2層の熱可塑性ポリエステルテープにて被覆されており、」を、
『溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、該溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが被覆されている溶接缶胴において、
前記熱可塑性ポリエステルテープは、表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、』と訂正する。
訂正事項A2;旧請求項1に記載の「下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のエチレンテレフタレート単位と酸成分基準で5乃至40モル%のイソフタル酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
(iii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
の何れかから成る」を、
『下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成る』と訂正する。
訂正事項A3;旧請求項2に記載の「溶接部及びその近傍を除く缶内面側が表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなる」を、
『前記熱可塑性ポリエステルフィルムが、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなる』と訂正する。
訂正事項A4;訂正事項A1及びA2に伴って、旧請求項1を引用して記載していた旧請求項3の記載を、実質的に、訂正する。

そして、これら訂正事項A1?A4は、以下に詳述するように、特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的にし、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

(一)訂正事項A1について

1)旧請求項1には、先に、「5-1-1.」の冒頭において「訂正事項A1」として認定したとおりの、訂正前の記載が認められ、ここに記載された事項が溶接缶胴についてのものであることは、明らかである。
そして、訂正事項A1は、この溶接缶胴についてのものであることを、訂正前の上記記載を、『・・・溶接缶胴において、・・・』に訂正により、明示するものであるが、この訂正は、実質的には、訂正事項A1の訂正内容を構成するものではないことは明らかである。

2)また、旧請求項1の上記記載には、被覆される部位として「溶接部及びその近傍」が記載され、該部位を被覆する材料として「表層(I)及び下層(II)で構成される少なくとも2層の熱可塑性ポリエステルテープ」が記載されていたと認められる。
そして、訂正事項A1は、上記部位については、「溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって」と訂正し、円周上で溶接部の近傍に連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部を上記部位に加えるとの、技術的に限定する訂正をしているものといえ、上記材料については、「表層(I)及び下層(II)から成る2層構成」とし、その層形態を2層構造と、技術的に限定しているということができる。
また、上記部位についての訂正は、「【発明の実施形態】本発明の溶接缶胴は、溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されていること、溶接部及びその近傍及び円周上にてそれに連なる該ポリエステルフィルムの一部に渡って、表層(I)及び下層(II)で構成される少なくとも2層の熱可塑性ポリエステルテープにて被覆されていること、及び下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低いことが特徴である。」と記載された訂正前明細書等の段落【0012】を根拠にしているといえ、また、上記材料についての訂正は、旧請求項1の上記記載における「表層(I)及び下層(II)で構成される少なくとも2層の熱可塑性ポリエステルテープ」を根拠にしていることは明らかである。

3)以上のことから、訂正事項A1は、特許請求の範囲の減縮を目的にし、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。

(二)訂正事項A2について

1)旧請求項1には、先に、「5-1-1.」の冒頭において「訂正事項A2」として認定したとおりの、訂正前の記載が認められ、ここには、下層(II)につき、これを構成する樹脂として、(i)、(ii)又は(iii)で示されるポリエステル樹脂が選択的事項として記載されていたと認められる。
そして、訂正事項A2は、上記選択的事項のうち、(i)で示されるポリエステル樹脂を削除して技術的に限定する訂正をしているものと認められ、また、この訂正が、訂正前の上記記載を根拠にしていることは明らかである。
以上のことから、訂正事項A2は、特許請求の範囲の減縮を目的にし、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。

(三)訂正事項A3について

1)旧請求項2は、旧請求項1を引用して記載していたもので、旧請求項2では、溶接部及びその近傍を除く缶内面側が「表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層」よりなるとされていた。
その一方で、旧請求項1には、「溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、」との記載が認められ、ここに記載の「熱可塑性ポリエステルフィルム」と上記複合樹脂層との技術的関係が、不明りょうとなっていた。

2)そして、訂正事項A3は、上記「熱可塑性ポリエステルフィルム」が上記複合樹脂層より成ると訂正することにより、上述した不明りょうさを解消するものということができる。
また、この訂正が、「熱可塑性ポリエステルの積層フィルムを用いる場合、表層の熱可塑性ポリエステル樹脂は、・・・が挙げられる。積層フィルムの表層は、例えば二軸延伸により分子配向結晶化されていることが好ましい。・・・。一方、積層フィルムの下層は、熱接着性に優れた熱可塑性コポリエステル樹脂、特に50モル%以上、好適には60モル%以上のエチレンテレフタレート単位を有するコポリエステルまたはコポリエステルブレンドが使用される。」と記載された訂正前明細書等の段落【0034】を根拠にしているといえる。

3)以上のことから、訂正事項A3は、明りようでない記載の釈明を目的にし、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。

(四)訂正事項A4について
訂正事項A4は、訂正事項A1及びA2に伴い、旧請求項3の記載事項を、実質的に、訂正するもので、これら訂正事項A1及びA2と同じ、特許請求の範囲の減縮を目的にし、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

5-1-2.訂正事項Bについて
旧請求項4には、溶接缶胴の製法につき、以下の記載事項a?cが記載されていたと、解することができる。

記載事項a;「溶接部及びその近傍を除く缶内面側に熱可塑性ポリエステルフィルムを被覆した溶接缶胴に、溶接部及びその近傍及び円周上にてそれに連なる該ポリエステルフィルムの一部にわたって、熱可塑性ポリエステルより成るポリエステルテープを、熱接着する」
記載事項b;記載事項aの「ポリエステルテープ」につき、これは、「表層(I)及び表層(I)の融点よりも10℃以上低い融点乃至軟化温度を有する下層(II)で構成される」
記載事項c;記載事項aの「ポリエステルテープを、熱接着する」につき、これは、「ポリエステルテープを、少なくとも接着界面が該ポリエステルフィルムを構成する表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃以上の温度で且つ該テープの下層(II)の融点乃至軟化温度以上の温度で、しかもテープ表層(I)の最表面が溶融しない温度において熱接着する」

そして、訂正事項Bは、以下の訂正事項B1?B3からなるものということができる。

訂正事項B1;記載事項aを、「溶接部及びその近傍を除く缶内面側に熱可塑性ポリエステルフィルムを被覆した溶接缶胴に、溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが熱接着により被覆されてなる溶接缶胴の製法において、(熱可塑性ポリエステルテープを)熱接着する」と訂正する。
訂正事項B2;記載事項bを、「熱可塑性ポリエステルテープ」につき、これは、「表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、
又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成り、」と訂正する。
訂正事項B3;記載事項cを、「(熱可塑性ポリエステルテープを)熱接着する」につき、これを「少なくとも前記熱可塑性ポリエステルフィルムと前記下層(II)との接着界面を、前記熱可塑性ポリエステルフィルムを構成する表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃以上の温度で且つ前記熱可塑性ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度以上の温度とし、しかも前記熱可塑性ポリエステルテープの表層(I)の最表面が溶融しない温度において熱接着する」との記載事項に訂正する。

そして、これら訂正事項B1?B3は、以下に詳述するように、特許請求の範囲の減縮又は明りようでない記載の釈明を目的にし、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

(一)訂正事項B1?B3全体について

1)記載事項a?c、すなわち、旧請求項4の記載事項には、「該ポリエステルフィルム」があるが、これが、同じ記載事項aにある「熱可塑性ポリエステルフィルム」であることは、普通に理解できるものである。
そして、訂正事項B1?B3は、「ポリエステルフィルム」を「熱可塑性ポリエステルフィルム」と訂正して、単に、用語の統一を図るものであるが、明りょうでない記載の釈明を目的にしているといえない訳ではなく、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

2)また、同じく、記載事項a?cには、「該テープ」及び「テープ表層(I)」があり、ここにおける「テープ」が、記載事項aにある「ポリエステルテープ」であることは、普通に理解できるものである。また、記載事項aでは、「溶接缶胴に、熱可塑性ポリエステルより成るポリエステルテープを、熱接着する」とされており、「ポリエステルテープ」は、「熱可塑性ポリエステルより成る」のであるから、「ポリエステルテープ」が「熱可塑性ポリエステルテープ」であることも、普通に理解できるものである。
そして、訂正事項B1?B3におけるこれら訂正は、「ポリエステルテープ」、「該テープ」及び「テープ表層(I)」における「テープ」を「熱可塑性ポリエステルテープ」と訂正し、単に用語の統一を図るものであるが、明りょうでない記載の釈明を目的にしているといえない訳ではなく、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
なお、訂正事項B1?B3、それぞれについては、以下に検討する(審決注;上で述べたことについては、改めて触れない。)。

(二)訂正事項B1について

1)記載事項aの「溶接部及びその近傍及び円周上にてそれに連なる該ポリエステルフィルムの一部」との記載では、「溶接部」、「その近傍」及び「円周上にてそれに連なる該ポリエステルフィルムの一部」の、3つの構成が、2つの「及び」という接続詞で結ばれている。
そして、訂正事項B1は、前記2つの「及び」のうち、1つを、実質的に同義の「並びに」に訂正して記載事項の体裁を単に整えるものであるが、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的にしているといえない訳ではない。
また、この訂正が訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは、明らかである。

2)更に、訂正事項B1は、記載事項aにおける、溶接缶胴に対する熱可塑性ポリエステルテープの熱接着の態様を、該熱可塑性ポリエステルテープが溶接缶胴を被覆する態様であると、技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的にしているといえる。
また、この訂正は、訂正前明細書等の段落【0001】の「本発明は、・・・、溶接部及びその近傍が、熱可塑性ポリエステルフィルム層にまたがる形で複合熱可塑性ポリエステルテープで被覆補正された溶接缶胴及びその製法に関する。」との記載を根拠にしていると認められるから、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

(三)訂正事項B2について
訂正事項B2は、記載事項bでは、「ポリエステルテープ」は、「表層(I)及び・・・下層(II)で構成される」とあったものを、これを表層(I)及び下層(II)から成る2層構成のものと、その層構成を、技術的に限定し、更に、該下層(II)が(i)又は(ii)で示されるポリエステル樹脂から成るものと、技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的にしているといえる。
また、この訂正は、訂正前明細書等の【請求項1】の「表層(I)及び下層(II)で構成される少なくとも2層の熱可塑性ポリエステルテープにて被覆されており、下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、(i)・・・、(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、(iii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、の何れかから成る」との記載を根拠にしていると認められるから、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

(四)訂正事項B3について
訂正事項B3は、記載事項cの「接着界面」につき、「前記熱可塑性ポリエステルフィルムと前記下層(II)との接着界面」とすることにより、接着界面を構成する部材を「熱可塑性ポリエステルフィルム」と「ポリエステルテープ」を構成する下層(II)であると技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的にしているといえる。
また、この訂正は、訂正前明細書等の【0022】の「本発明の溶接缶胴では、缶胴内面側のベースフィルムの両端部とポリエステルテープの両端部とが重なり合う状態で接着されている。このベースフィルムとポリエステルテープとの接着の際には、ベースフィルムがテープ下層(II)に接着可能となるまで接着界面の温度を上げることが必要である。・・・。具体的には、ベースフィルムを接着せしめた溶接缶胴に、熱可塑性ポリエステル樹脂より成る表層(I)と表層(I)の融点より10℃以上低い融点乃至軟化温度を有する下層(II)で構成されるポリエステルテープを、少なくとも接着界面がテープ下層(II)が溶融流動する融点乃至軟化温度以上の温度で、且つベースフィルムの表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃以上の温度で熱接着することが好ましい。」との記載を根拠にしていると認められるから、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

5-1-3.訂正事項C及びDについて
これらの訂正は、訂正事項A及びBと整合を図るべく、段落【0010】や【0011】の記載を訂正するもので、訂正事項A及びBと同じ目的を有し、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは、先に「5-1-1.」や「5-1-2.」で述べたことから明らかである。

5-1-4.まとめ
本件訂正は、特許請求の範囲の減縮又は明りようでない記載の釈明を目的にし、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。

5-2.実質拡張・変更及び独立特許要件について
本訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらないし、また、訂正後における特許請求の範囲に記載されている記載事項により特定される発明、すなわち、新請求項1?4に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとの理由も見当たらない。

6.むすび
本訂正は、特許法第126条第1?5項の規定に適合するといえ、認められるものである。
よって、結論のとおり、審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
溶接缶胴及びその製法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、該溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが被覆されている溶接缶胴において、
前記熱可塑性ポリエステルテープは、表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成ることを特徴とする溶接缶胴。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリエステルフィルムが、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることを特徴とする請求項1記載の溶接缶胴。
【請求項3】
該ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度が缶内面側のポリエステルフィルムの表層の融点(Tm)-100℃以上であることを特徴とする請求項1記載の溶接缶胴。
【請求項4】
溶接部及びその近傍を除く缶内面側に熱可塑性ポリエステルフィルムを被覆した溶接缶胴に、溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが熱接着により被覆されてなる溶接缶胴の製法において、
前記熱可塑性ポリエステルテープは、表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、該下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成り、少なくとも前記熱可塑性ポリエステルフィルムと前記下層(II)との接着界面を、前記熱可塑性ポリエステルフィルムを構成する表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃以上の温度で且つ前記熱可塑性ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度以上の温度とし、しかも前記熱可塑性ポリエステルテープの表層(I)の最表面が溶融しない温度において熱接着することを特徴とする溶接缶胴の製法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接部が補正された溶接缶胴に関するもので、より詳細には溶接部及びその近傍を除く缶内面が熱可塑性ポリエステルフィルム層で被覆されていると共に、溶接部及びその近傍が、熱可塑性ポリエステルフィルム層にまたがる形で複合熱可塑性ポリエステルテープで被覆補正された溶接缶胴及びその製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
所謂スリーピース缶の継ぎ目の形成手段として、溶接が広く使用されているが、この溶接缶胴の内面側溶接部においては金属が露出しており、これを樹脂等で被覆保護することが必要となる。
【0003】
出願人の提案にかかる特公平5-58995号公報には、分子配向結晶を有する熱可塑性ポリエステル層(I)と、特定の熱可塑性コポリエステル層(II)とからなる積層フィルムを、缶内面側の溶接継ぎ目に層(I)が缶内面側に層(II)が継ぎ目側に位置するように施し、層(I)の軟化温度よりも高く、層(I)の樹脂の融点よりも低い温度で熱接着させることにより、継ぎ目被覆溶接缶を製造することが記載されている。
また、溶接による継ぎ目の形成に先立って、継ぎ目となるべき部分を除いて、金属素材にエポキシ-フェノール系などの内面保護樹脂塗料で被覆することも記載されている。
【0004】
特開平7-76058号公報には、溶接缶の缶胴に適したラミネート鋼板として、鋼板の幅(A)が製造しようとしている缶胴の周長に接合代を加えた長さに対応しており、被覆されるフィルムが共重合ポリエステル製で、鋼板より狭い幅(B)を有すると共に、鋼板の両側端部を除く部分に被覆されているラミネート鋼板が記載されている。
また、溶接部の被覆にはポリブチレンテレフタレート等のテープが使用されることも記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来、缶内面塗料として広く使用されているエポキシ-フェノール系塗料は、ビスフェノールA(BPA)等の環境ホルモン物質から誘導されるため、これに置き換わる内面被覆材が望まれており、ポリエステルフィルムはこの目的に適するものである。
【0006】
一方、溶接缶の溶接継ぎ目は、缶用素材(ブランク)を円筒状に成形すると共に、その両端部を重ね合わせ、この重ね合わせた部分を電気抵抗溶接することにより形成されるが、この溶接部には重ね合わせ段差に対応する凹部と、重ね合わせの内側端部に相当する肩部とが存在するが、この凹部及び肩部をテープ状樹脂で確実に被覆することが概して困難であるという問題がある。
【0007】
溶接部の段差凹部に被覆樹脂を隙間なしに埋め込むためには、段差部の周囲から樹脂を流動させることが必要となるが、このように樹脂の流動を十分に行わせると、溶接部の肩部の樹脂層が薄肉化し、カバレッジが不十分なものとなるという問題を生じやすい。
【0008】
また、溶接缶の溶接部以外の部分では、金属基体の表面処理層が存在しているのに対して、溶接部の肩部ではスチールなどの金属面が露出しており、金属面の耐食性が他の部分に比してどうしても劣っている。このため、溶接部の被覆に用いるテープ状樹脂は、腐食成分に対するバリアー性に優れていることが要求される。
【0009】
従って、本発明の目的は、溶接部における段差凹部への樹脂の埋め込みが有効に行われていると共に、溶接部における肩部での樹脂被覆層の薄肉化も防止され、耐腐食性、密着性、加工性及び衛生的特性の組合せに優れた継ぎ目被覆溶接缶胴及びその製法を提供するにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されており、該溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが被覆されている溶接缶胴において、
前記熱可塑性ポリエステルテープは、表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、該下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成ることを特徴とする溶接缶胴が提供される。
本発明の溶接缶胴において、熱可塑性ポリエステルフィルムが、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂よりなることが好ましく、特に表層の分子配向結晶化しているポリエステル樹脂層と下層の接着性樹脂層の複合層より成ることが好ましい。
具体的に、缶内面側被覆ポリエステルフィルム層は、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることが好ましい。
更に、ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度が缶内面側のポリエステルフィルムの表層の融点(Tm)-100℃以上、特に融点(Tm)-80℃以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、溶接部及びその近傍を除く缶内面側に熱可塑性ポリエステルフィルムを被覆した溶接缶胴に、該溶接部及びその近傍並びに円周上でそれに連なる該熱可塑性ポリエステルフィルムの一部にわたって熱可塑性ポリエステルテープが熱接着により被覆されてなる溶接缶胴の製法において、
前記熱可塑性ポリエステルテープは、表層(I)及び下層(II)から成る2層構成の熱可塑性ポリエステルテープであり、該下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低く、且つ下層(II)が、
(i)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサンジメタノール成分とを有しているポリエステル樹脂、又は
(ii)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているポリエステル樹脂、
から成り、少なくとも前記熱可塑性ポリエステルフィルムと前記下層(II)との接着界面を、前記熱可塑性ポリエステルフィルムを構成する表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃以上の温度で且つ前記熱可塑性ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度以上の温度とし、しかも前記熱可塑性ポリエステルテープの表層(I)の最表面が溶融しない温度において熱接着することを特徴とする溶接缶胴の製法が提供される。
【0012】
【発明の実施形態】
本発明の溶接缶胴は、溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆されていること、溶接部及びその近傍及び円周上にてそれに連なる該ポリエステルフィルムの一部に渡って、表層(I)及び下層(II)で構成される少なくとも2層の熱可塑性ポリエステルテープにて被覆されていること、及び下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上低いことが特徴である。
【0013】
本発明の溶接缶胴においては、溶接部及びその近傍を除く缶内面側が熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆され、しかも溶接部及びその近傍が複合熱可塑性ポリエステルテープで被覆されているため、缶内面が全てポリエステルによるBPAフリーの被覆構造となり、衛生的特性に特に優れたものとなる。
【0014】
また、溶接部における肩部での樹脂被覆層の薄肉化を防止しつつ、溶接部における段差凹部への樹脂の埋め込みを有効に行うためには、熱可塑性ポリエステルのテープを溶接部の段差凹部及び肩部に、できるだけ沿った形で施すことが重要である。
本発明に従い、缶胴内面の熱可塑性ポリエステルフィルム層の両端縁部と、熱可塑性ポリエステルのテープの両端縁部とが重なり合う状態で、このテープを溶接部に施すと、接着初期にテープを溶接部の段差凹部及び肩部に正確に沿った状態で接着を開始することができ、肩部での樹脂層の薄肉化を防止しつつ、段差凹部にも有効に樹脂を充填することが可能となる。
この理由としては、缶胴内面のポリエステルフィルム層がテープの段差凹部へ向けての引き出しを容易にしていること、及びポリエステルフィルム層がテープへの熱伝導を遅延させ、テープの溶接部への熱接着、次いでフィルム層への熱接着という時系列で接着が行われることが挙げられる。
【0015】
本発明に用いる溶接部の被覆テープは、種類の異なる少なくとも2層のポリエステル樹脂複合被覆層よりなる。即ち、下層(II)の融点または軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上、好ましくは20℃以上低い組み合わせが使用される。
【0016】
テープ表層(I)の熱可塑性ポリエステルは、缶内面に露出するものであるので、耐腐食性、バリアー性、耐熱性、加工性等に優れたポリエステル樹脂が選択使用される。ここでいう加工性とは、テープ補正時の加工性は勿論のこと、テープ補正後に缶体に行う種々の加工、例えばネツクイン/フランジ加工、巻締め加工などについての加工性が含まれる。
上記の特性は、用いるポリエステルの融点と関連しており、一般に融点の高いポリエステルは耐腐食性、バリアー性、耐熱性等の特性に優れている。表層(I)のポリエステルとして、相対的に高融点のものを用いるのはこの理由による。表層のポリエステルは、一般に分子配向結晶化されたものが好ましい。未配向の熱結晶化されたポリエステルは、耐熱性や剛性には優れているが、加工性や強靱性に劣る傾向があり、加工或いはレトルト殺菌に際して容易にクラックや破断が生じやすくなる。また、非晶質のポリエステルでは腐食成分に対するバリアー性が劣る傾向がある。
表層ポリエステルとして、配向結晶化させたポリエステルを用いることにより、優れた加工性や強靱性を保持しながら、優れたバリアー性を有することができ、耐腐食性を向上させ得る利点がある。更に、表層ポリエステルとして分子配向結晶化され、更に熱結晶化されたポリエステルを用いることにより、優れた加工性や強靱性及びバリアー性に加えて、優れた耐熱性を有することができる。
【0017】
一方、テープ下層(II)の熱可塑性ポリエステルは、溶接缶の溶接部に密着されるべきものであり、被覆時に溶融軟化し、金属表面に流動して密着性に優れた被覆を形成することが要求される。
この見地から、テープ下層のポリエステルは、その融点または軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上、好ましくは20℃以上低いものでなければならない。
上記の融点乃至軟化温度を有するポリエステルをテープ下層として用いることにより、テープの接着時に下層ポリエステルが優先的に溶融軟化し、流動して、溶接部の段差凹部を埋め込んで隙間のない接着構造を形成する。
尚、本明細書において、融点乃至軟化温度とは、ポリエステルが溶融流動を開始する温度であり、融点が明確なポリエステルについては一義的に融点(示差走査熱量計測定における融解ピーク温度)を示し、融点の明確でないものについては、熱機械分析手段を用いて得られるペネトレーションカーブから作図して、後常法により求められる軟化温度を意味するものとする。
【0018】
テープ下層(II)のポリエステルの融点乃至軟化温度と、表層(I)の融点との差が10℃未満である場合、テープ接着時に溶接缶胴への好ましい接着強度を得ようとすると、表層(I)のポリエステルも溶融流動する傾向が顕著となり、溶接部の肩部のカバレッジが不足し、その部位からの金属溶出や腐食を発生する傾向がある。
【0019】
テープ下層のポリエステルは、上述した特性を有するものであるが、それと同時に耐腐食性、耐熱性、加工性にも優れていることが好ましい。
このような見地から、下層(II)のポリエステル樹脂は、エチレンテレフタレート単位を50モル%以上、特に60モル%以上含有するコポリエステルまたはコポリエステルブレンドであることが好ましい。このコポリエステルまたはコポリエステルブレンドにおいて、残りのエステル単位は、他の二塩基酸成分及び/またはジオール成分から誘導されるエステル単位であってよい。
このようなコポリエステルまたはコポリエステルブレンドの適当な例として、
(1)50乃至95モル%のエチレンテレフタレート単位と酸成分基準で5乃至40モル%のイソフタル酸成分とを有しているコポリエステル、
(2)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートとジオール成分基準で5乃至40モル%の1,4-シクロヘキサジメタノール成分とを有しているコポリエステルまたはコポリエステルブレンド、
(3)50乃至95モル%のポリエチレンテレフタレートと酸成分基準で5乃至50モル%のナフタレンジカルボン酸成分とを有しているコポリエステル、
が挙げられる。
【0020】
缶胴の内面被覆に用いる樹脂フィルム層としても、金属への密着性に優れ、耐腐食性、バリア性、耐熱性、及び加工性に優れているという見地から、ポリエステル樹脂フィルムが使用される。
ポリエステルフィルムは、単層のフィルムでも、積層フィルムであってもよく、更に接着剤層を施したフィルムであってもよい。
溶接部及びその近傍を除く缶内面側の被覆ポリエステルフィルム層は、耐腐食性の観点から、表層が分子配向結晶化したポリエステル樹脂層を有していることが好ましい。更に、表層の分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と下層の金属素材への接着性が良好なポリエステル樹脂或いは熱硬化性プライマーなどから成る接着性樹脂層との複合層から成ることが特に好ましい。
具体的に、缶内面側の被覆ポリエステルフィルムは、表層のポリエチレンテレフタレートを主体とする分子配向結晶化したポリエステル樹脂層と、下層のポリエチレンテレフタレートを50モル%以上含有するポリエステル樹脂層との複合樹脂層よりなることが特に好ましい。
ベースフィルムの下層にコポリエステルまたはコポリエステルブレンドより成る接着性の良好なポリエステル樹脂を用いることにより、熱硬化性プライマーを用いる場合に比して、フィルム被覆の際のプライマーの熱硬化のための熱処理工程が省略できる利点がある。このようなベースフィルムの下層コポリエステルの適当な例として、上述したポリエステルテープの下層(II)と同様のコポリエステルまたはコポリエステルブレンドを用いることが好ましい。
【0021】
ベースフィルムの分子配向結晶化された表層ポリエステルは、フィルム作製時に歪みの緩和及び耐熱性向上のために、熱固定処理により熱結晶化を施しておくことが好ましく、これにより、被覆の際のフィルムの熱収縮の程度を減じることができる。
また、ベースフィルムの被覆の際の加熱により、分子配向結晶化した表層ポリエステルの熱結晶化を進行させることが好ましい。
最終的に、缶胴内面側に被覆されたポリエステルの最表面層の分子配向結晶化及び熱結晶化の程度は、アッベの屈折計で測定される3次元方向の屈折率より求められる面配向係数で0.05?2の範囲、特に好ましくは0.07?1.8の範囲とすることが好ましく、これにより、ベースフィルムの好適なガスバリアー性のため、優れた耐腐食性能を得ることができる。
【0022】
本発明の溶接缶胴では、缶胴内面側のベースフィルムの両端部とポリエステルテープの両端部とが重なり合う状態で接着されている。このベースフィルムとポリエステルテープとの接着の際には、ベースフィルムがテープ下層(II)に接着可能となるまで接着界面の温度を上げることが必要である。特に、ベースフィルムの表層ポリエステルが分子配向結晶化を有している場合、接着されるべきベースフィルムの表層の配向歪みが十分に緩和される温度条件下にて熱接着することにより、ベースフィルムとポリエステルテープとの好ましい接着強度を得ることができる。
具体的には、ベースフィルムを接着せしめた溶接缶胴に、熱可塑性ポリエステル樹脂より成る表層(I)と表層(I)の融点より10℃以上低い融点乃至軟化温度を有する下層(II)で構成されるポリエステルテープを、少なくとも接着界面がテープ下層(II)が溶融流動する融点乃至軟化温度以上の温度で、且つベースフィルムの表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃以上の温度で熱接着することが好ましい。
更に、表面ポリエステルが分子配向結晶化しているベースフィルムとポリエステルテープとの接着においては、そのベースフィルムと補正テープとの接着界面をベースフィルムの表層ポリエステルの融点(Tm)-80℃から融点(Tm)までの範囲の温度で熱接着することが特に好ましく、これにより、ポリエステルテープとベースフィルムとの接着部の近傍のベースフィルムの表層の分子配向結晶性を殆ど壊すことなく、テープの接着が可能となるため、溶接缶胴の内面側全域にわたって好ましい耐腐食性能と付与することができる。
【0023】
ポリエステルテープをベースフィルムを被覆した溶接缶胴に接着する際に、ポリエステルテープの円周上の両端部よりテープの下層(II)が溶融流動してベースフィルム上に押し出され、はみ出すことになる。そのテープ下層(II)のはみ出し部は溶融流動に伴って非晶状態となっており、分子配向結晶化したテープ表層(I)及びベースフィルム表層に比べてバリアー性や缶内容物の吸着耐性等が劣る。従って、特に食用缶詰等に用いる場合にはテープ下層(II)のはみ出し量を小さくすることが望まれる。
上述したように、ポリエステルテープを接着する際の接着界面の好ましい温度範囲はベースフィルムの表層ポリエステルの性状に依存するが、その接着界面の温度とポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度との差を小さくすることにより、テープ接着の際のポリエステルテープ下層(II)の円周方向のはみ出し量を小さく抑制することができる。
具体的には、ポリエステルテープの下層(II)の融点乃至軟化温度を、ベースフィルムの分子配向結晶化した表層ポリエステル樹脂の融点(Tm)-100℃以上、特に融点(Tm)-80℃以上とすることが好ましい。それにより、ポリエステルテープの下層(II)の一方の端部からのはみ出し量を例えば1mm以下の幅に抑制することができる。
【0024】
[溶接缶胴]
本発明による溶接缶胴の全体の断面構造を示す図1、溶接部及びその近傍の断面構造を拡大して示す図2及び被覆テープを拡大して示す図3において、この缶胴1は側面継ぎ目となった溶接部2を備えている。この溶接缶胴1は、溶接による継ぎ目となる端縁部分を除いて、少なくとも缶内面となるべき部分がポリエステル樹脂フィルム3で被覆された缶用金属素材(ブランク)を円筒状に成形し、その端縁部同士を重ね合わせ、この重ね合わせ部を溶接することにより形成される。
この缶胴1は、内面側に且つ溶接部2及びその近傍を除いてポリエステルフィルムからなる有機被膜3を備えている。
内面側の溶接部2及びその近傍には、有機被膜3の側方端部にまたがるように、複合ポリエステルテープ4が被覆されている。
この複合ポリエステルテープ4は表層(I)5と下層(II)6との少なくとも2層から形成されており、下層(II)のコポリエステルの融点乃至軟化温度は表層(I)の融点よりも、少なくとも10℃低くなるように組み合わされている。溶接部2には、図3に示すとおり、段差凹部7及び肩部8が存在するが、段差凹部7には下層樹脂が隙間なしに埋め込まれていると共に、肩部8も十分な厚みのポリエステルで被覆保護されている。
図1は、重ね部全体を押潰しながら電気抵抗溶接する、いわゆる重ねマッシュシーム式抵抗溶接手段により得られた溶接部を示しているが、本発明では特に溶接法及び溶接形態について限定されることはない。例えば、重ね合わせレーザ溶接或いは突き合わせレーザ溶接等に得られた溶接部に対しても適用できる。
【0025】
(1)金属板
缶胴を構成する金属板としては各種表面処理鋼板が使用される。
表面処理鋼板としては、冷圧延鋼板を焼鈍後二次冷間圧延し、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、ニッケル錫メッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理等の表面処理の一種または二種以上行ったものを用いることができる。
重ねマッシュシーム式電気抵抗溶接法に好適な表面処理鋼板の一例は、ニッケル錫メッキ鋼板であり、鋼表面に通常600乃至1100mg/m^(2)の錫と、8乃至100mg/m^(2)のニッケルとの複合メッキ層と、8乃至25mg/m^(2)の金属クロム及び酸化クロムから成るクロムメッキ層とを備えたものである。このものは溶接缶胴を製造する際の溶接性に優れていると共に、塗膜密着性及び耐腐食性の組み合わせに優れている。
好適な表面処理鋼板の他の一例は、電解クロム酸処理鋼板であり、特に10乃至200mg/m^(2)の金属クロム層と1乃至50mg/m^(2)(金属クロム換算)のクロム酸化物層とを備えたものであり、このものは塗膜密着性と耐腐食性との組合せに優れている。
表面処理鋼板の更に他の例は、0.5乃至11.2g/m^(2)の錫メッキ量を有する硬質ブリキ板である。このブリキ板は、金属クロム換算で、クロム量が1乃至30mg/m^(2)となるようなクロム酸処理或いはクロム酸-リン酸処理が行われていることが望ましい。
更に他の例としては、アルミニウムメッキ、アルミニウム圧接等を施したアルミニウム被覆鋼板が用いられる。
【0026】
金属板の厚みは、金属の種類、容器の用途或いはサイズによっても相違するが、一般に0.05乃至0.5mmの厚みを有するのがよく、この内でも表面処理鋼板の場合には、0.08乃至0.4mm、特に0.1乃至0.35mmの厚みを有するのがよい。
【0027】
(2)内面ポリエステルフィルム
内面被覆となる熱可塑性ポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸を主体とするカルボン酸成分と脂肪族ジオールを主体とするアルコール成分とから誘導されたポリエステル、特に前記カルボン酸成分の50モル%以上がテレフタール酸成分からなり且つ前記アルコール成分の50モル%以上がエチレングリコール成分からなるポリエステルが挙げられる。
上記条件を満足する限り、このポリエステルは、ホモポリエステルでも、共重合ポリエステルでも、或いはこれらの2種類以上のブレンド物であってもよい。
【0028】
テレフタル酸成分以外のカルボン酸成分としては、イソフタール酸、ナフタレンジカルボン酸、P-β-オキシエトキシ安息香酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等を挙げることができる。
【0029】
一方、エチレングリコール以外のアルコール成分としては、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビタンなどのアルコール成分を挙げることができる。
【0030】
適当な熱可塑性ポリエステルの例は、決してこれに限定されないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート/テレフタレート、ポリエチレン/ブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、或いはこれらの2種以上のブレンド物である。
【0031】
用いるポリエステルは、フィルム形成範囲の分子量を有するべきであり、溶媒として、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度〔η〕は0.5以上、特に0.6乃至1.5の範囲にあるのが腐食成分に対するバリアー性や機械的性質の点でよい。
【0032】
熱可塑性ポリエステルは、種々の形態で金属基体の有機被膜として用いることができる。例えば、前に示した熱可塑性ポリエステルフィルムを単独で金属基体の被覆に用いることができるし、また、複数の熱可塑性ポリエステルの積層フィルムを金属基体の被覆に用いることができる。更に、プライマーを施した熱可塑性ポリエステルフィルムを金属基体の被覆に用いることもできる。
これらの何れの場合においても、熱可塑性ポリエステルは、未延伸のフィルム層であってもよいし、また分子配向された、好適には二軸方向に分子配向されたフィルム層であってよく、内容品の熱殺菌の有無、条件などの使用用途により使い分けることができる。
フィルム層の厚みは特に限定されないが、一般的にいって、5?50μm、特に8?35μmの範囲にあるのがよい。フィルム層の厚みが上記範囲を下回ると耐腐食性が低下し、厚みが上記範囲を上回ると加工性が低下するのでいずれも好ましくない。
【0033】
熱可塑性ポリエステルフィルム単層を用いる場合には、エチレンテレフタレート系の共重合ポリエステル、特に50モル%以上、好適には60モル%以上のエチレンテレフタレート単位を有するコポリエステルが使用される。
テレフタル酸以外の二塩基酸成分及びエチレングリコール以外のジオール成分としては、前に例示したものが使用される。
適当な共重合ポリエステルの例は、これに限定されないが、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(PET/IA)、ポリエチレンテレフタレート/ナフタレンジカルボキシレート(PET/NDC)等であり、これらのコポリエステルは、金属基体への熱接着性に優れていると共に、腐食性成分等に対するバリアー性に優れており、また内容品中の芳香成分を収着する傾向も少ない。
【0034】
熱可塑性ポリエステルの積層フィルムを用いる場合、表層の熱可塑性ポリエステル樹脂は、耐腐食性、バリアー性、耐熱性、機械的特性に優れたものが使用され、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(PET/IA)、ポリエチレンテレフタレート/ナフタレンジカルボキシレート(PET/NDC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンナフタレート・ブレンド乃至ラミネート(PET+PEN)が挙げられる。
積層フィルムの表層は、例えば二軸延伸により分子配向結晶化されていることが好ましい。表層は、一般に3?40μm、好適には5?30μmの厚みを有することが望ましい。一方、積層フィルムの下層は、熱接着性に優れた熱可塑性コポリエステル樹脂、特に50モル%以上、好適には60モル%以上のエチレンテレフタレート単位を有するコポリエステルまたはコポリエステルブレンドが使用される。
下層用のコポリエステルまたはコポリエステルブレンドの適当な例は、
ポリエチレンナフタレート/イソフタレート[PET/IA(5?40モル%)]、更に好ましくは[PET/IA(8?25モル%)]
ポリエチレン/シクロヘキサンジメチレンテレフタレート[PET/CHDM(5?40モル%)]、更に好ましくはPET/CHDM(8?30モル%)]
ポリエチレンテレフタレート/ナフタレンジカルボキシレート[PET/NDC(5?50モル%)]、更に好ましくはPET/NDC(8?40モル%)]
などである。
下層の厚みは、0.5?20μm、好適には1?10μmの範囲にあるのがよい。
【0035】
内面有機被膜としては、熱硬化性プライマー付き熱可塑性ポリエステルフィルムを用いることができる。
表層の熱可塑性ポリエステル樹脂としては、積層フィルムの表層に使用される樹脂、例えばPET、PET/IA、PET/NDC、PET+PENが好適に使用される。この表層樹脂も二軸延伸により分子配向結晶化されていることが望ましく、その厚みは5?40μmの範囲にあるのが適当である。
下層の熱硬化性プライマーとしては、それ自体公知の任意のプライマー、特にエポキシ系、ポリエステル系、ウレタン系等の熱硬化性樹脂が使用される。その厚みは一般に0.1?5μmの範囲にあるのがよい。
【0036】
熱可塑性ポリエステルは、押出機を使用し、ダイを通して、製膜してフィルム化するか、或いは直接金属板上に押し出しコートする。多層の熱可塑性ポリエステルは熱可塑性ポリエステルの種類に対応する数の押出機を使用し、多層多重ダイを通して、製膜或いは押し出しコートする。
ダイより押し出しされ製膜された熱可塑性ポリエステルは二軸延伸加工を行うのが好ましく、それにより分子配向結晶化させることができる。更に二軸延伸加工を施したフィルムを加熱処理して熱固定することにより、配向歪みを緩和すると共に熱結晶化を進行させることができ、後の加熱接着時のフィルムの収縮を緩和させる効果を有する。
ポリエチレンテレフタレートを主成分とする熱可塑性ポリエステルの上記熱固定温度は130?220℃、特に140?210℃であるのが好適である。この場合、分子配向結晶化及び熱結晶化されたフィルムの結晶化度(密度法)は30乃至55%、特に40乃至55%とすることが好ましい。
また、多層の熱可塑性ポリエステルは、表層となる二軸延伸加工されたポリエステルフィルムの上に、下層のポリエステル樹脂を押し出しコートすることによっても製造することができる。
一方、熱硬化性プライマー付き熱可塑性ポリエステルは、表層となる二軸延伸加工されたポリエステルフィルムの上に塗料化した熱硬化性プライマーを塗布乾燥して製造することができる。
【0037】
(3)ラミネートの製造
溶接缶製造用のブランクは、金属基体の溶接すべき端縁部を被覆することなく残して、他の部分にポリエステルフィルムを貼り合わせる方法(マージンラミネートと呼ぶ)により製造される。熱可塑性ポリエステルフィルムと金属基体との貼り合わせは熱接着で行う。
例えば、加熱された金属基体の表面に予め形成された延伸或いは未延伸のポリエステルフィルムを供給し、ラミネートロールで圧着して積層体とする。また、加熱された金属基体の表面に単層或いは多層の熱可塑性ポリエステルを溶融押出し、ラミネートロールで圧着して積層体とする。
【0038】
(4)溶接による継ぎ目の形成
側面溶接部の形成は、マッシュシーム式電気抵抗溶接によって好適に行われ、この側面溶接部の電気抵抗溶接は、缶用素材を円筒状に形成し、形成される重ね合わせ部を1対の電極ローラー間に通過せしめるか、或は電極ワイヤーを介して上下1対の電極ローラー間に通過せしめて、重ね合わせ部全体を押し潰すことによって行われる。
この際溶接操作を不活性雰囲気中で行い、且つ溶接部の表面温度が550℃に低下するまでの雰囲気を不活性雰囲気とすることが、溶接部外表面にポーラスな金属酸化物層が形成させるのを防止し、補正用テープの密着性を向上させるために望ましい。
不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ネオン、水素、二酸化炭素等を使用することができる。上述した不活性気体の気流中に溶接接合部を保持して作業を行うのが好ましいが、上記気体を充填した密閉容器内で作業を行ってもよい。
【0039】
この溶接缶の側面溶接部の幅は缶の径によっても相違するが、0.2乃至1.2mmのような比較的小さい幅でよい。
また、溶接部の厚みは、素材厚みの2倍から1.2倍迄変形し得る。即ち、溶接時に重ね合せ部を高圧力で押圧することにより、溶接部の厚みを減小させ、これにより二重巻締に際して溶接部とそれ以外の部分との段差を小さくし得ることも、この溶接法の利点である。
【0040】
本発明は、重ね合わせレーザ溶接或いは突き合わせレーザ溶接等に得られた溶接部に対しても適用できる。特に、突き合わせレーザ溶接等に得られた溶接部の厚みは素材の厚みとほぼ同一であり、重ね合わせ溶接の溶接部にみられる溶接段差がないため、補正テープの接着が容易になると共に、ポリエステルテープの下層(II)の厚みを減少できる利点を有する。
【0041】
[補正用テープ]
本発明において、溶接部の被覆テープとしては、既に指摘したとおり、種類の異なる少なくとも2層のポリエステル樹脂複合被覆層、即ち、下層(II)の融点または軟化温度が表層(I)の融点よりも10℃以上、好ましくは20℃以上低い組み合わせが使用される。
また、缶内面側のベースフィルムの一部にポリエステルテープを接着する際のテープ下層(II)のはみ出し量を抑制するために、ポリエステルテープの下層(II)に融点乃至軟化温度がベースフィルムの表層ポリエステル樹脂の融点(Tm)-100℃以上、好ましくは融点(Tm)-80℃以上のポリエステル樹脂を用いることが望ましい。
【0042】
表層(I)の熱可塑性ポリエステル樹脂としては、前に例示したポリエステルの内、耐腐食性、ガスバリア性、耐熱性、加工性等に優れたポリエステル樹脂が選択使用される。表層(I)に適したポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のホモポリエステルや、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(PET/IA)、ポリエチレンテレフタレート/ナフタレンジカルボキシレート(PET/NDC)等のコポリエステルや、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとのラミネートまたはブレンド(PET+PEN)などが挙げられる。
表層(I)のポリエステルは二軸延伸されていることが好ましく、この延伸ポリエステルでは、延伸による分子配向結晶化により、腐食成分に対するバリアー性が向上する結果として、耐食性が向上し、更に接着時における表層の溶融流動が抑制されて、溶接部肩部のカバレツジ性が確保されるという利点がある。
更に、表層(I)のポリエステルは二軸延伸の上、熱固定することにより、配向歪みを緩和すると共に熱結晶化を進行させておくことが好ましい。それにより、テープ接着時の表層(I)の収縮を抑制し、溶接段差に沿って表層(I)が変形するのを容易にする効果がある。
表層(I)がポリエチレンテレフタレートを主成分とする熱可塑性ポリエステルよりなる場合、上記熱固定温度は130?240℃、特に170?230℃であるのが好適である。この場合、分子配向結晶化及び熱結晶化されたフィルムの結晶化度(密度法)は30乃至55%、特に40乃至55%とすることが好ましい。
最終的に、缶胴内面側に被覆されたポリエステルテープの表層(I)の最表面層の分子配向結晶化及び熱結晶化の程度は、アッベの屈折計で測定される3次元方向の屈折率より求められる面配向係数で0.05?2の範囲、特に好ましくは0.07?1.8の範囲とすることが好ましく、これにより、補正されたポリエステルテープの好適なガスバリアー性のため、優れた耐腐食性能を得ることができる。
【0043】
本発明に用いる補正テープにおける表層(I)厚みは、平均の元の厚みとして、3μm?50μm、好適には5μm?30μmの範囲にあることが、被覆の完全さ及び耐腐食性の点で好ましい。
表層(I)の厚みが3μmを下回ると、腐食成分に対するバリアー性が不十分で耐食性が低下し、また溶接肩部のカバレッジ性が低下するので好ましくない。一方、表層(I)の厚みが50μmを越えると、テープの変形抗力が過大となり、溶接段差部への下層樹脂の埋め込みが不安定となり、好ましくない。
【0044】
一方、下層(II)の熱可塑性ポリエステルは、コポリエステルまたはコポリエステルブレンドから成り、前述したポリエステルの内、金属及びポリエステル表層(I)との密着性に優れたものが使用され、表層(I)の融点よりも10℃以上、好ましくは20℃以上低い融点乃至軟化温度を有するものが使用される。
下層(II)のコポリエステルは、エチレンテレフタレート単位を50モル%以上、好ましくは60モル%以上含有しているものであり、このコポリエステルは、テレフタル酸以外の二塩基酸成分及び/またはエチレングリコール以外のジオール成分を含有している。
このようなエチレンテレフタレート系のコポリエステルは、金属に対する優れた接着性及び溶融流動性を有すると共に、バリアー性及び耐熱性にも優れている。
【0045】
下層コポリエステルにおけるテレフタル酸以外の二塩基酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が適当であり、一方エチレングリコール以外のジオール成分としては、ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が適当である。
【0046】
特に好適な下層(II)用コポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート(PET/IA)であって、イソフタレート単位の含有量が5?40モル%、特に10?25モル%のものが挙げられる。
イソフタレート単位の含有量が上記の範囲内のものでは、優れた性能が発揮されるが、イソフタレートの含有量が5モル%を下回ると、金属への密着性が低下したり、下層(II)の融点が高くなりすぎて、接着時に溶接肩部近傍での表層(I)の温度上昇が大きく、表層(I)が破損して、その部位でのカバレッジ性が低下するおそれがある。一方、イソフタレートの含有量が40モル%を上回ると、融点乃至軟化温度が低下して、被覆の耐熱性が低下したり、バリア性が低下したりする傾向がある。
【0047】
他に、好適な下層(II)用コポリエステルとして、ポリエチレン/1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PET/CHDM)、特にCHDM成分の含有量が5?40モル%、好適には10?35モル%のものや、ポリエチレンテレフタレート/2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PET/NDC)、特にNDC成分の含有量が5?50モル%、好適には10?40モル%のものが挙げられる。
【0048】
補正用テープにおける下層(II)の元の平均厚みは、5μm以上、好ましくは10?50μmの範囲にあるのが溶接部への密着性の点でよい。
下層の厚みが5μmを下回ると、溶接段差部の埋め込み量の不足または溶接肩部のカバレッジ性の不足をもたらすので好ましくなく、一方、下層(II)の厚みが50μmを上回ると、テープ端部での下層樹脂のはみ出し量が多くなって、局部的に厚肉部が形成され、溶接缶端部のネックイン等の加工時のしわが増大するので好ましくない。
【0049】
溶接部補正用テープの全体の厚み、即ち表層(I)+下層(II)の厚みは、平均の厚みで、8?100μm、好ましくは15?60μmの範囲にあるのがよい。この範囲内の厚みであれば、溶接肩部での薄肉化を防止しつつ、テープを溶接段差部に沿わせて密着させることが可能となる。
【0050】
本発明で用いる補正用テープには、所望により、それ自体公知の樹脂用配合剤、例えば、充填剤、着色剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属セッケンやワックス等の滑剤、改質用樹脂乃至ゴム、等の公知の樹脂配合剤を、それ自体公知の処方に従って配合できる。
例えば、溶接部を隠蔽する目的で、チタンホワイト、酸化亜鉛等の着色剤乃至顔料、またテープのアンチブロッキングを防止する目的で、アルミナ粉、炭酸カルシウム、シリカ、タルク等の滑剤乃至アンチブロッキング剤を配合することができる。
このような樹脂配合剤の配合は、缶内面被覆用のポリエステルフィルムに対しても同様に行うことができる。
【0051】
本発明に用いる積層構造の溶接部補正テープは、それ自体公知の手段、例えば共押出法、押出コート法、サンドイッチラミネーション法等で製造することができる。
共押出法の場合、表層ポリエステルと下層コポリエステルとを共押出してキャストフィルムを製造し、このキャストフィルムを延伸温度にて二軸延伸して、少なくとも表層が分子配向された積層フィルムとする。この積層フィルムを所定の幅にスリットして、溶接部補正用のテープとする。
押出コート法では、予め形成された延伸ポリエステルフィルムの表層(I)に、下層(II)となるコポリエステルを押出コートして、同様に溶接部補正用のテープを形成させる。サンドイッチラミネーションでは、予め形成された延伸ポリエステルフィルムの表層(I)と、コポリエステルフィルムの下層(II)との間に、コポリエステルを溶融押出し、両フィルムをサンドイッチして、同様に溶接部補正用のテープを形成させる。
【0052】
[溶接部の被覆(補正)]
テープによる溶接部の被覆は、次のように行う。
即ち、溶接缶胴の内面に対して溶接部と補正テープの下層(II)とが対面する位置関係で補正テープを供給する。
補正テープの位置決めは、溶接部及びその近傍及び円周上にてそれに連なるポリエステル内面被覆フィルムの一部が幅方向(円周方向)に補正テープで覆われ、且つ溶接部の高さ方向の実質上全てが補正テープで覆われるようなものである。
補正テープと内面被覆フィルムとの重なりは、片側において、少なくとも0.5mm、好適には1mm以上確保することが、金属露出を確実に防止する上で好ましい。
【0053】
この位置決めが行われた後、補正テープをシリコーンゴム等の弾性体で溶接部に対して押圧し、ベースフィルムの一部を含む溶接部及びその近傍を加熱して補正テープを溶接部に熱接着させる。
補正テープの弾性体による押圧に際して、補正テープを、幅方向に見て溶接部の段差に沿った形で変形させることが段差部を樹脂で埋め込むために有利である。
また、補正テープを押圧するための弾性体としても、缶胴の曲率半径よりも小さい曲率半径のものを用いると、段差部に沿ったテープの変形が容易に行われるという利点がある。
【0054】
補正テープの加熱は、溶接缶胴の金属基体からの熱伝導により行うのが好ましく、一方金属基体の加熱は高周波誘導加熱により行うことができる。加熱温度及び加熱時間は、補正テープの下層(II)が溶融乃至軟化し、一方表層(I)の配向結晶が実質上維持されるように決定される。
補正テープによる被覆が完了した溶接缶は、加熱部分を冷却して被覆を固定し、ネックイン加工、フランジ加工、蓋との巻締加工などの残りの製缶工程に付する。
【0055】
本発明の溶接部の被覆方法は、上記の手段に限定されない。例えば、補正テープを溶接部に被覆する手段として、1個または複数個の男性ロールを用いて補正テープを缶胴の端部より順次に熱圧着させることができる。
また、補正テープの下層(II)と表層(I)は、一体化して熱接着することには限定されない。下層(I)と表層(II)のテープ状のフィルムを順に溶接部に接着する手段、下層(II)を溶接部に押し出しコートし、次にテープ状の表層フィルムを接着する手段、或いは溶接部と表層(I)のテープ状フィルムとを合わせた間に溶融流動した下層樹脂を押し出して接着する手段などが採用できる。
更に、複数の押出機を使用し、多層多重ダイから積層構造のテープ状の溶融樹脂を直接缶内面側溶接部近傍に押しだし、加圧接着することができる。この方法は、18リットル缶のような大口径の缶胴に適用できる。
【0056】
[用途]
本発明による溶接部補正溶接缶胴は、内容物をレトルト殺菌するバキューム缶、炭酸飲料等の自生圧力を有する内容物を充填するための内圧缶、エアゾール缶などの種々の用途に用いることができる。
また、缶径としては、202径の小径缶から18リットル缶のような大口径の缶にも適用できる。
【0057】
【実施例】
本発明を更に次の例で説明する。
以下の実施例に使用する溶接缶胴の製造方法は以下の通りであった。
市販のニッケル錫メッキ鋼板を用意し、鋼板の缶胴内面側に相当する溶接されるべき部分を残してポリエステル樹脂フィルムを熱接着する、いわゆるマージンラミネートを行ない、ラミネート鋼板を作成した。
用意したニッケル錫メッキ鋼板は板厚0.2mmで、ニッケル量が30mg/m^(2)、錫量が0.8g/m^(2)のニッケル錫メッキ層の上に、10mg/m^(2)の金属クロムメッキ層と金属クロム換算で10mg/m^(2)の酸化クロムメッキ層とを有していた。
製作したラミネート鋼板をブランク状に切断し、そのブランクを線電極を用いた市販の重ねマッシュシーム式抵抗溶接機にて溶接することにより、溶接缶胴(缶径52.3mm、缶胴高さ107.95mm)を作成した。溶接時の重ね合わせ幅は0.35mmであり、得られた溶接部の幅が約0.75mm、厚みが約0.28mm、缶内面側の溶接部段差量は約0.08mm程度であった。また、溶接後の溶接部を挟んでポリエステルフィルムが被覆されない金属露出部位の幅、いわゆるマージン幅は約5mmであった。
【0058】
作成した溶接缶胴の缶内面側溶接部分及びその近傍に幅10mmのポリエステルテープを熱接着により被覆した。被覆に当たっては、最初に缶胴内側に溶接部に対向して位置するゴム製弾性バー上に、ポリエステルテープを配置し、次に缶胴の溶接部及び近傍を缶胴外面側に配置した電磁誘導コイルからの誘導電流により缶胴の溶接部及びその近傍を加熱し、缶内面側の溶接部の温度がポリエステルテープの下層(II)が溶融流動を開始する融点乃至軟化温度以上に到達した時点にて、弾性バーを介してポリエステルテープを缶内面側溶接部に押圧し接着し、その前後に加熱を停止した後にポリエステルテープの下層(II)が少なくとも固化する温度まで冷却させて押圧を解除する方式を用いた。その際、ポリエステルテープと缶胴との間に熱電対を配することにより、特にベースフィルムと補正テープとの接着界面の温度を測定した。
得られた溶接缶胴の一方の端部を50mmの直径(200径)ネックイン加工し、さらに缶胴両端部にフランジ加工の端部加工を施した。
【0059】
(比較試験1)
マージンラミネートするポリエステルフィルムとして、表層がポリエチレンテレフタレート(PET)、下層がポリエチレンテレフタレート(PET)とイソフタル酸(IA)16モル%とを共重合したコポリエステルよりなる構成にて共押し出しし、二軸延伸加工及び熱固定処理したものを用いた。そのフィルムの表層は厚みが12μmで、融点が252℃、下層は厚みが3μmで、融点が222℃であった。また、貼り合わせる前のフィルムが結晶化度は45%であり、貼り合わせた後のフィルム最表面の面配向係数は0.11であった。作成されたマージンラミネート鋼板より、上記の手段により溶接缶胴を作成した。
補正テープとして、表層(I)がポリエチレンテレフタレート(PET)、下層(II)がポリエチレンテレフタレート(PET)とイソフタル酸(IA)16モル%とを共重合したコポリエステルよりなる構成にて共押し出しし、二軸延伸加工及び熱固定処理したものを用いた。そのテープの表層(I)は厚みが12μmで、融点が252℃、下層(II)は厚みが30μmで、融点が219℃であった。貼り合わせる前のフィルム状のテープの結晶化度は40%であった。
前記の溶接缶胴に補正テープを被覆する手段により、溶接部の加熱温度を変えることにより、溶接部乃至ベースフィルム表層と補正テープの下層(II)とより成る接着界面の温度を表1に示す例1,2,3及び4のように変えた条件にて、補正テープを溶接缶胴に熱接着した。なお、表1の接着界面はベースフィルムと補正テープとの間であり、接着界面温度とはその界面での押圧時のピーク温度を示している。
また、表層(I)がポリエチレンテレフタレート(厚み20μm、融点250℃)、下層(II)がポリエチレンテレフタレート(PET)とナフタレンジカルボン酸(NDC)20モル%とを共重合したコポリエステル(厚み20μm、融点205℃)よりなる二軸延伸加工及び熱固定処理した補正テープを用意し、上と同様に補正テープを表1の例5の条件にて溶接缶胴に熱接着した。
さらに、表層(I)がポリエチレンテレフタレート(PET)とイソフタル酸(IA)5モル%とを共重合したコポリエステル(厚み12μm、融点235℃)で、下層(II)がポリエチレンテレフタレート((PET)とイソフタル酸(IA)15モル%とを共重合したコポリエステル(厚み26μm、融点215℃)よりなる無延伸の補正テープを用意し、上と同様に補正テープを表1の例6の条件にて溶接缶胴に熱接着した。
比較として、ポリエチレンテレフタレート(PET)とイソフタル酸(IA)16モル%とを共重合したコポリエステルよりなる、厚みが30μmの二軸延伸加工及び熱固定処理した単層テープ(融点217℃)を上と同様に作成し、その単層テープを溶接缶胴に表1に示す例7及び8の条件にて熱接着を行った。
【0060】
補正された溶接缶胴は上記の端部加工を施した、その端部を加工された溶接缶胴の補正部に対し、加工端部でのテープの剥離の有無による加工性の評価、目視による溶接部段差凹部での気泡の残存の有無及び補正部位の局部的なエナメルレータ値(ERV)の測定による金属露出部の有無の評価を○(良好)、×(不良)により行った。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

表1に示す評価より、本発明の積層構造の補正テープの優位性が明らかである。
【0062】
さらに、例2、例5、例6及び例8の条件にて作成した溶接缶胴のネックイン端部にアルミ製イージーオープンエンド(EOE)を巻締めし、空缶を得た。その空缶に、1.5%の食塩水、及び4%酢酸水溶液を充填し、市販のバキュームシーマーにて、端部にTFS蓋を巻締めて缶詰とした。この缶詰を125℃、30分のレトルト殺菌処理を行った後、37℃で1週間保存し、その後開缶して、缶内面側、特に詳細に補正部の状態を調べた。いずれの場合も補正部を除く缶胴内面に異常は認められなかった。補正部の結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

表2に示す結果より、本発明の溶接缶胴が耐腐食性に優れていることが明らかであり、特に、補正テープの表層が分子配向結晶化していることが、本発明の溶接缶胴により優れた耐腐食性能を付与していることが明らかである。
【0064】
(比較試験2)
ベースフィルムとして、二軸延伸したポリエチレンテレフタレート(厚み12μm)に1μmの厚みの熱硬化性エポキシ・フェノール系プライマーを塗布し、乾燥固化させたものを用意し、上記のニッケル錫メッキ鋼板にマージンラミネートした。フィルムを貼り合わせの際の、鋼板の加熱温度は200℃であり、ラミネートした鋼板は210℃で30秒加熱して熱硬化性プライマーを完全に熱硬化させた。作成したマージンラミネート鋼板より、上記の手段にて溶接缶胴を作成した。
また、比較のために、上記のニッケル錫メッキ鋼板に市販のエポキシ・フェノール系塗料を焼き付け後の膜厚が約7μmとなるようにマージン塗装し、所定の焼き付け処理を施した後、上記の手段と同様にして溶接缶胴を作成した。
補正テープとして、表層(I)がポリエチレンテレフタレート(厚み12μm、融点252℃)、下層(II)がポリエチレンテレフタレート(PET)とイソフタル酸(IA)16モル%とを共重合したコポリエステル(厚み30μm、融点219℃)よりなる二軸延伸加工及び熱固定処理したものを用いた。
前記の手段により、溶接缶胴に補正テープを熱接着した。その際、溶接部の加熱温度を変えることにより、ベースフィルムの表層またはベース塗膜と補正テープの下層(II)とより成る接着界面の接着温度条件を変えて得た溶接缶胴の補正部の接着強度、気泡の有無、金属露出等を評価し、テープ接着時の好適な接着温度範囲を求めた。
その結果、プライマー付ポリエチレンテレフタレートを被覆した溶接缶胴では、ベースフィルムと補正テープ間の好適な接着温度範囲は225℃?250℃であった。一方、エポキシ・フェノール系塗料を被覆した溶接缶胴ではベース塗膜と補正テープ下層(II)との接着強度が弱く、好適な接着温度範囲は全くなかった。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、溶接部及びその近傍を除く缶内面側を熱可塑性ポリエステルフィルムにて被覆し、溶接部及びその近傍及び円周上にてそれに連なる該ポリエステルフィルムの一部に渡って、表層(I)及び下層(II)で構成される少なくとも2層の熱可塑性ポリエステルテープで被覆し、下層(II)の材料の融点乃至軟化温度を表層(II)の融点よりも10℃以上低いものとしたことにより、溶接部における段差凹部への樹脂の埋め込みが有効に行われていると共に、溶接部における肩部での樹脂被覆層の薄肉化も防止され、耐腐食性、密着性、加工性及び衛生的特性の組合せに優れた継ぎ目被覆溶接缶胴が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による溶接缶胴の全体の断面構造を示す断面図である。
【図2】図1の溶接部及びその近傍の断面構造を拡大して示す断面図である。
【図3】図1の被覆テープを拡大して示す断面図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2011-09-02 
出願番号 特願2000-41774(P2000-41774)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (B65D)
P 1 41・ 851- Y (B65D)
P 1 41・ 841- Y (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石田 宏之  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 紀本 孝
亀田 貴志
登録日 2008-02-15 
登録番号 特許第4078780号(P4078780)
発明の名称 溶接缶胴及びその製法  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 小野 尚純  
代理人 小野 尚純  

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