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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04F
管理番号 1245176
審判番号 不服2010-2898  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-09 
確定日 2011-10-13 
事件の表示 特願2006-348251「床暖房装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 9日出願公開、特開2007-198122〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は,平成18年12月25日(国内優先権主張 平成17年12月28日)に出願したものであって,平成21年10月27日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年2月9日に審判請求がなされるとともに,同時に手続補正書が提出された。
その後,当審において,平成23年3月17日付けで,平成22年2月9日付けの手続補正に対して,補正の却下の決定をするとともに,同日付で拒絶理由を通知したところ,請求人より,平成23年5月23日付けで意見書及び手続補正書が提出された。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成23年5月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,以下のとおりのものである。

「以下の構成としたことを特徴とした床暖房装置。
(1)建造物の外周の土台位置に対応させてコンクリート製の基礎を形成し、該基礎の内方で床構築位置に、石材を敷き詰め該石材間に空隙を形成してなる石材層を形成する。
(2)前記石材層上に、樹脂フィルムからなる防湿層を介して、コンクリートを打設して該コンクリートの上面を均して下地コンクリート層を形成し、該下地コンクリート層の上に床仕上げ部材を敷設する。
(3)前記下地コンクリート層内に、温度50℃以下の温水を流す温水パイプを埋め込んでなる床暖房用の加熱手段が埋設され、該加熱手段の熱が前記石材層に蓄熱可能となるように構成した。
(4)前記加熱手段の埋設は、前記石材層の上方に配置した前記温水パイプを打設したコンクリートに埋設して形成した。」
(以下,「本願発明」という。)


第3 引用刊行物
1.刊行物1
本願出願前に頒布された刊行物である,特開2000-192566号公報(以下,「刊行物1」という。)には,以下の記載がある。(下線は,当審にて付与。)
(1a)「【請求項1】 建造物の外周の土台位置に対応させてコンクリート製の布基礎を形成し、床構築位置に、内方土台形成予定位置に沿って溝が形成されるように石材を敷き詰め、前記布基礎上に外周土台を構築し、次に前記外周土台間で前記内方土台形成予定位置に沿って、上縁を前記外周土台と同一となるように形成した内方土台を架設し、続いて、前記床構築位置内に、前記両土台の上縁に沿って、下地コンクリートを打設し、該下地コンクリートの固化後に、前記下地コンクリートの上面に、床仕上げ部材を敷設することを特徴とした地中等の蓄熱を利用した床の構築方法。
【請求項2】ないし【請求項4】 省略。
【請求項5】 建造物の外周に位置する外周土台の内側に内方土台を有してなる土台上の各土台内に石材層を介して、前記土台の上縁と略同一な下地コンクリート層を形成して、該下地コンクリート層の上面に、床仕上げ部材を敷設してなる木造建造物における床構造であって、前記外周土台は、コンクリート基礎上に構築し、前記内方土台は前記外周土台の側面にあるいは他の内方土台の側面に、その両端面を一体に固着連結され、前記内方土台は、下地コンクリートの下方突出部内に埋設されたことを特徴とする地中等の蓄熱を利用した床構造。」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、地中等の蓄熱を利用した床の構築方法及びこの方法に構築される床構造に関する。」

(1c)「【0003】・・・地中の蓄熱を直接利用して、地中の蓄熱を直接床フローリングに伝えることも提案されている。しかし、その為には、地中と床フローリングとを熱的に連続させることが必要であり、つか立て式の床など途中に、外気と循環する中空部を設けると効果が得られなかった。そこで、砂利床に、床下地としてコンクリートを打設し、この下地コンクリートの上面に直接に床板を貼る試みも提案されている。例えば、建築家・坂本鹿名夫氏の提唱する「砂利床冷暖房」(昭和55年1月30日付け『日本経済新聞』24面、昭和55年2月22日付け『毎日新聞』15面など)などである。」

(1d)「【0006】また、この地中の蓄熱は、太陽光等により周辺地面が暖められ、床下方の地中にも蓄熱され、また、室内の熱エネルギーがコンクリートにも蓄熱される。その地中等の蓄熱により砂利床にも蓄熱されるものと考えられる。発明者の実験・考察によれば、この砂利床の蓄熱は、砂利自体での蓄熱よりむしろ、隣接する砂利間に存在する細い空気層と砂利及びコンクリート層とを合わせた総体での蓄熱と考えられる。」

(1e)「【0021】従来公知の方法により、「外周部分の布基礎1」「水廻り36の布基礎1及び土間」「出入り口(玄関等)35の布基礎1及び土間」等を構築する(図2)。・・・
【0022】続いて、布基礎1の内方の床構築位置34、34に布基礎1のほぼ上面2まで、40mm程度の外径の「焼却残渣を加工再生してなる」石材4、4を敷き詰め、厚さ300mm程度の石材層5を形成する。前記石材層5は、上面5が略水平に形成され、床構築位置34で、土台(内方土台)を形成する予定位置の下方に、深さLの溝7を形成し、該溝7は側壁8、8を斜めに形成した台形に形成してある(図5)。・・・
【0023】省略。
【0024】続いて、石材層5の上面6を厚さ0.1mm程度の樹脂(ポリエチレンなど)フィルム23で覆う。前記溝7部分では、溝7の上面形状に沿って樹脂フィルム23を付設する。
【0025】次に、前記布基礎1上に、上下フランジ11、12とウエブ13からなるH型鋼を使った外周土台10を載置し、・・・布基礎1に一体に固定する。
【0026】省略。
【0027】省略。
【0028】前記外周土台10、10間で、前記内方土台15の構築予定位置に即ち前記溝7に沿って、内方土台15を架設する。・・・この際、前記内方土台15の上フランジ16の上面は、外周土台10の上フランジ11の上面と略面一に形成される。
【0029】省略。
【0030】続いて、石材層5の上面(樹脂フィルム23の上面)6で外周土台10、10内(床構築位置内)に、厚さ100?150mm程度、に下地コンクリート25を打設する。この際、土台10、15の上縁間に、直線を有する棒(板でも可。図示していない)を架設当接し、該棒を土台10、15に沿ってずらしながら移動し、未だ固まらない下地コンクリート25の上面を削り、水平均一に均す。この際、内方土台15と外周土台10とで区画された部分毎に均し作業ができるので、操作する棒の長さを短くでき、作業が容易で、また同時に複数箇所を均すことができるので、作業効率を高めることができる。また、施工精度を高め、誤差±1mm前後の下地コンクリート25面を構築できる。
【0031】下地コンクリート25の固化後、外周土台10、内方土台15と一体に、溝7内に下方突出条27が形成された下地コンクリート25が形成される。また、布基礎1と近接する部分の石材層5も低く形成してあるので、該部の下地コンクリート25の下面は、布基礎にそって周縁突出条27が形成され、下地コンクリート25は石材層5上に安定して配置される。
【0032】続いて、下地コンクリート25が脱水されたことを確認して、下地コンクリート25の上面26に、床下地用の合板30を介して、床仕上げ板31を敷設する。以上で床32の構築が完了する(図1、図2)。」

(1f)「【0039】また、この実施例で構築した床32は、地下と熱的に連続しているので、冬は地中の熱エネルギーを石材層5、下地コンクリート25等を介して室内に伝え、また、夏は室内の熱エネルギーを下地コンクリート25、石材層5等に吸収できる。従って、地域差もあるが石材層5は、概ね最高24℃(夏)?最低12℃(冬)の温度を維持し、その温度が直接に床仕上げ板に伝わり、夏期で25℃以下、冬期で10℃以上に保たれる。更に、地中の湿気は石材層5の石材の表面で乾燥され、床の仕上げ板31面には及ばない。従って、地中等の蓄熱のエネルギーを利用するので、陽当たりや、立地条件によらず、快適な居住環境を保つことができる。」

(1g)「【0047】また、前記実施例において、樹脂フィルム23は、固化前の下地コンクリートの水分が石材層5内にたれ、下地コンクリート25からの水分の引きを防止して、良質の下地コンクリート25を形成する為に敷設するものであり、厚さは0.1mm程度に限定するものではなく適宜の厚さで可能であり、材質もポリエチレンに限らず、他の材質とすることもできる。」

上記の記載事項(1a)?(1g)及び図面の記載からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「建造物の外周部分に布基礎1を形成し,布基礎1の内方の床構築位置に,石材4、4を敷き詰めて石材層5を形成し,
前記石材層5の上面6を樹脂(ポリエチレンなど)フィルム23で覆い, 前記布基礎1上に,外周土台10を載置し,布基礎1に一体に固定し,
前記外周土台10,10間で,内方土台15の構築予定位置に沿って,内方土台15の上面が外周土台10の上面と略面一となるように内方土台15を架設し,
前記石材層5の上面6に,樹脂フィルム23を介して下地コンクリート25を打設し,下地コンクリート25の上面を削り水平均一に均し,
該下地コンクリート25の固化後に,前記下地コンクリート25の上面26に,床仕上げ部材を敷設してなり,
地中等の蓄熱を石材層5や下地コンクリートに蓄熱させて利用することができる,
床装置。」
(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

2.刊行物2
本願出願前に頒布された刊行物である,特開2005-300014号公報(以下,「刊行物2」という。)には,以下の記載がある。(下線は,当審にて付与。)
(2a)「【請求項1】
建物における床の上面と基礎との間に温水が流通する温水管が設けられ室内を暖房する床暖房構造において、
前記温水管は前記床の上部に設けられモルタル又はコンクリートと比較して熱伝導率が高い温水管保持部材に保持され、該温水管保持部材と前記基礎との間にモルタル又はコンクリートが打設されていることを特徴とする床暖房構造。」

(2b)「【0003】
しかしながら、上述の従来技術では、コンクリート基礎上に断熱材と、金網と、同金網に固定した温水管と、モルタルとを順に敷設されているため、温水管の熱がモルタルを介して床の上面部である床板に伝熱されモルタルが温水管の熱を蓄熱して床暖房構造における蓄熱性を確保することができるが、未だ床板を介して室内を暖める暖房の立ち上がり時間が長く床暖房構造における満足した速暖性を得ることができていないという問題点がある。
【0004】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたもので、床板を介して室内を暖める床暖房構造において蓄熱性を確保することができると共に暖房の立ち上がり時間が短くして満足した速暖性を得ることができる床暖房構造を提供することを目的とする。」

(2c)「【0009】
本発明の請求項1記載の床暖房構造によれば、温水管は床の上部に設けられモルタル又はコンクリートと比較して熱伝導率が高い温水管保持部材に保持され、温水管保持部材と基礎との間にモルタル又はコンクリートが打設されているため、床板を介して室内を暖める床暖房構造において蓄熱性を確保することができると共に暖房の立ち上がり時間を短くして満足した速暖性を得ることができる。」

(2d)「【0018】
断熱部材18の上方には、蓄熱部材20が設けられている。蓄熱部材20は、モルタル又はコンクリートを打設したものである。モルタルは、セメント、細骨材及び水等を練り混ぜたものである。コンクリートは、セメント、細骨材、粗骨材及び水等を練り混ぜたものである。また、モルタル及びコンクリートの製造に際しては、モルタル及びコンクリートが所要の性質を有するように混和剤又は混和材を加えることができる。
【0019】
蓄熱部材20の上方には、温水管保持体22が設けられている。温水管保持体22は、温水管26及び温水管26を保持する温水管保持部材24から概略構成されている。
【0020】
温水管保持部材24は、蓄熱部材20であるモルタル又はコンクリートと比較して熱伝導率が高い材料から形成されている。温水管保持部材24の具体的材料としては、アルミニウム等の金属材料等が挙げられる。」

上記の記載事項(2a)?(2d)及び図面の記載からみて,刊行物2には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「建物における床と基礎との間に温水が流通する温水管が設けられ室内を暖房する床暖房装置において,
温水管を,比較的熱伝導率が高い材料から形成されている温水管保持部材に保持し,該温水管保持部材と基礎との間にモルタル等の蓄熱部材を設けることにより,
蓄熱性を確保することができると共に速暖性を得ることができる,
床暖房装置。」
(以下,「刊行物2記載の発明」という。)

3.刊行物3
本願出願前に頒布された刊行物である,特開平11-93390号公報(以下,「刊行物3」という。)には,以下の記載がある。(下線は,当審にて付与。)
(3a)「【請求項1】 ほぼ水平に構築された下層床構造と、
この下層床構造上に設けられた断熱層と、
この上に敷設された乾燥砂の層と、
この乾燥砂の中に埋設された温水管と、
前記乾燥砂の層の上側に構築され、居室の床を構成する上層床構造とを有することを特徴とする床暖房構造。」

(3b)「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、温水配管方式の床暖房構造に関する。」

(3c)「【0016】(作用)本願発明に係る床暖房構造は、上記のような構成を有しているので、次にように作用する。請求項1に記載の発明に係る床暖房構造では、乾燥砂に埋設された温水管に、給湯器等から温水が供給されると、周囲の乾燥砂に熱が伝導し、乾燥砂の層がほぼ一様に加熱される。そして、この乾燥砂の層からの放射熱によって上層床構造が加熱され、床面から室内の空気が暖められる。このように乾燥砂の層を加熱するには、相当量の熱量が必要となるが、乾燥砂の層は蓄熱量が多く、例えば夜間 電力等を利用して温水を温水管内に循環し、乾燥砂を加熱しておくことによって、常に快適な暖房効果を得ることが可能となる。」

(3d)【図2】には,上層床構造を構成する根太9aを避けるように,根太9aの下方に床暖房用の温水管を配置することが記載されている。

上記の記載事項(3a)?(3d)及び図面の記載からみて,刊行物3には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「下層床構造上に設けられた断熱層と,この上に敷設された乾燥砂の層と,この乾燥砂の中に埋設された温水管と,居室の床を構成する上層床構造とからなり,
乾燥砂の層の蓄熱性により,夜間電力等を利用して温水を温水管内に循環し,乾燥砂を加熱しておくことによって,常に快適な暖房効果を得ることが可能である,
床暖房装置。」
(以下,「刊行物3記載の発明」という。)

4.刊行物4
本願出願前に頒布された刊行物である,特開2002-115856号公報(以下,「刊行物4」という。)には,以下の記載がある。(下線は,当審にて付与。)
(4a)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、床に敷設した温水管により床を加熱することを目的とした温水床暖房装置及び継手に関するものである。」

(4b)「【0014】
【実施例】この発明の実施例を図面について説明する。断熱板1上へ温水管2用の凹入条3a、3bを平行に設け、該凹入条3a、3b、3c、3d上に温水管2a、2b、2c、2dを載置する。前記温水管2a、2b、2c、2d上へワイヤメッシュ4を被着し、その上からモルタル5(例えばセメント1に対し砂3の割合)を投入し、前記ワイヤメッシュ4と、温水管2a、2b、2c、2dとをモルタル5内へ埋設し、該モルタル5上へ外装材6(例えばリノリューム)を被覆すると、この発明の温水床暖房装置7ができる。」

(4c)「【0020】
【発明の効果】この発明によれば、温水管からの発生熱は全部上昇し(断熱板が上下するから)モルタルに蓄熱され、送温水遮断後もなお一定の温度を保つことができる効果
がある。」

上記の記載事項(4a)?(4c)及び図面の記載からみて,刊行物4には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「床に敷設した温水管により床を加熱する温水床暖房装置において,
断熱板上に温水管を載置し,温水管上へワイヤメッシュを被着するとともに,その上からモルタルを投入し,前記ワイヤメッシュと温水管とをモルタル内へ埋設し,該モルタル上へ外装材を被覆してなり,
温水管からの発生熱をモルタルに蓄熱し,送温水遮断後もなお一定の温度を保つことができる,
床暖房装置。」
(以下,「刊行物4記載の発明」という。)

5.刊行物5
本願出願前に頒布された刊行物である,実願平4-59161号(実開平6-18807号)のCD-ROM(以下,「刊行物5」という。)には,以下の記載がある。(下線は,当審にて付与。)
(5a)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、コルクタイル等による床仕上面を暖房するための床暖房装置に関し、特に、床下の蓄熱モルタル層を温水により熱するようにした床暖房装置に関する。」

(5b)「【0006】
【作用】
本考案の作用について述べると、床暖房装置としては、温水管路が床下の蓄熱モルタル層に埋設されて温水の流通路となり、その温水管路へボイラから温水が供給されるものであり、温水管路を流通する温水によって蓄熱モルタル層が暖められ、蓄熱される。この場合、温水で蓄熱モルタル層を暖めることから、熱の交換効率がよく、しかもモルタルは蓄熱効果が高いので、熱の損失を最小限に抑えることができる。」

(5c)「【0015】
【考案の効果】
以上詳細に説明したように、本考案にかかる床暖房装置によれば、温水管路が床下の蓄熱モルタル層に埋設されて温水の流通路となり、その温水管路へボイラから温水が供給されるものであり、温水管路を流通する温水によって蓄熱モルタル層が暖められ、蓄熱される。その結果、床仕上面へ熱を放射でき、室内をまんべんなく暖房することができて、いわゆる頭寒足熱の室温分布が得られる。この場合、温水で蓄熱モルタル層を暖めることから、熱の交換効率がよく、しかもモルタルは蓄熱効果が高いので、熱の損失を最小限に抑えることができ、すなわち床面を高効率に暖めることができる。そして、ボイラによる温水を利用したものなので、そのボイラの運転を、サーモスタットおよびタイマ等を用いて自動化制御することは容易であり、室内温度を所定に保つようにしたり、予め設定してある時間に起動させるといったことが容易に行える。すなわち、運用管理が手間なく容易に行えるものであり、その自動化を図ることができる。」

上記の記載事項(5a)?(5c)及び図面の記載からみて,刊行物5には,以下の発明が記載されているものと認められる。
「床下の蓄熱モルタル層を温水により熱するようにした床暖房装置において,
温水管路が床下の蓄熱モルタル層に埋設されており,
モルタルの蓄熱効果により,熱の損失を最小限に抑え,床面を高効率に暖めることができる
床暖房装置。」
(以下,「刊行物5記載の発明」という。)


第4 当審の判断
1.本願発明と刊行物1記載の発明との対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,
刊行物1記載の発明の「布基礎1」が本願発明の「コンクリート製の基礎」に相当し,以下同様に,「建造物の外周部分」が「建造物の外周の土台位置」に,「下地コンクリート25を打設し」てできる部分が「下地コンクリート層」にそれぞれ相当しており,刊行物1記載の発明の「樹脂(ポリエチレンなど)フィルム23」が本願発明の「樹脂フィルム」に相当すると共に,刊行物1記載の発明の「樹脂(ポリエチレンなど)フィルム23」が本願発明の「樹脂フィルム」と同様に防湿層を構成していることは明らかである。
そして,刊行物1の記載事項(1d)から考えて,刊行物1記載の発明の「石材層5」は,本願発明の「石材間に空隙を形成してなる石材層」に相当しており,本願発明の「床暖房装置」と刊行物1記載の発明の「床装置」は,ともに「床装置」である点で共通している。

したがって,両者は,以下の点で一致している。
「以下の構成としたことを特徴とした床装置。
(1)建造物の外周の土台位置に対応させてコンクリート製の基礎を形成し,該基礎の内方で床構築位置に,石材を敷き詰め該石材間に空隙を形成してなる石材層を形成する。
(2)前記石材層上に、樹脂フィルムからなる防湿層を介して,下地コンクリート層を形成し,該下地コンクリート層の上に床仕上げ部材を敷設する。」

そして,以下の点で相違している。
(相違点1)
本願発明は,床暖房装置であって,下地コンクリート層内に,温度50℃以下の温水を流す温水パイプを埋め込んでなる床暖房用の加熱手段が埋設され,該加熱手段の熱が石材層に蓄熱可能となるように構成されているのに対して,刊行物1記載の発明は,地中等の蓄熱のエネルギーを利用する床装置であって,温水パイプ等の床暖房用の積極的な加熱手段を備えてはない点。
(相違点2)
相違点1に関連して,本願発明は,加熱手段の埋設は,石材層の上方に配置した温水パイプを打設したコンクリートに埋設して形成したのに対して,刊行物1記載の発明は,そもそも加熱手段を備えていない点。

2.相違点についての判断
(相違点1について)
床装置に温水パイプ等の加熱手段を埋設してなる床暖房装置は,例示するまでもなく周知であり,さらに,床装置に蓄熱部材と加熱手段を設けて,加熱手段からの発生熱を蓄熱部材に蓄熱させて床を加熱する床暖房装置も,例えば上記刊行物2ないし5記載の発明として開示されているように,周知である。
そして,刊行物1記載の発明の床装置が,熱エネルギーによる快適な居住環境を保つことを目的とした蓄熱部材を備えた床装置であることから考えると,刊行物1記載の発明の床装置に対して,さらに,積極的な熱エネルギーを供給する加熱手段を設けようと考えることは,当業者が容易に思い付くことであって,その際に,刊行物2ないし5記載の発明として開示されている,「加熱手段からの発生熱を蓄熱部材に蓄熱させて床を加熱する床暖房装置」の加熱手段として採用されている温水パイプによる加熱手段を適用することは,当業者が容易になし得たことである。

ここで,加熱手段からの発生熱を蓄熱部材に蓄熱させて床を加熱する床暖房装置は,刊行物2ないし5記載の発明のようにさまざまな形式が開示されているが,刊行物2には,その1つの形式として,温水管を蓄熱部材の上方に設けることにより,温水管の熱を直接的に床面に伝えると同時に温水管の熱をその下方に設けた蓄熱部材に蓄熱することができる床暖房装置が開示されており,また,刊行物3ないし5には,他の形式として,温水管を蓄熱部材に直接埋設することにより,温水管の熱を蓄熱部材に蓄熱して蓄熱部材により床を温める床暖房装置が開示されている。
そして,刊行物1記載の発明の床装置に加熱手段としての温水パイプを設けるに際して,温水パイプを設ける場所は,蓄熱部材である石材層と該石材層の上方の下地コンクリート層とが考えられるが,刊行物2記載の発明の温水管を蓄熱部材の上方に設けるような形式を採用して,下地コンクリート内に加熱手段としての温水パイプを埋め込むことは当業者が適宜採用できる設計事項である。
さらに,温水の温度は,暖房装置により求められる室温や立ち上がり速度,温水管の状態等を考慮して当業者が適宜決定すべき設計事項であって,温水の温度を50℃以下とすることは,それによって,当業者が予測出来ない格別の効果を奏するものでもないから,当業者が適宜なし得たことに過ぎない。

(相違点2について)
刊行物1記載の発明の床装置の下地コンクリート内に加熱手段としての温水パイプを埋め込むことが当業者にとって容易であることは上記のとおりであるが,その際に,温水パイプを石材層の上方に配置し,打設したコンクリートに埋設してなすことは,当業者が普通に採用できる構成であって,むしろ,刊行物1記載の発明の下地コンクリート内に温水パイプを埋め込むための他の方法が思い付かない。

さらに,刊行物1記載の発明に積極的な加熱手段を適用した本願発明が,当業者が予測できない格別の効果を奏するとも認められない。

以上より,本願発明は,刊行物1記載の発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易になし得たものである。


3.審判請求人の主張に対して
審判請求人は,平成23年5月23日付けの意見書において,概ね以下の点を主張している。
(1)刊行物2ないし5記載の発明のパイプの下方には,断熱材が必須であり,刊行物1記載の発明のように地面からの地熱を室内まで受け入れる構造のものとは,相容れない構造であるから,刊行部1記載の発明に刊行物2ないし5のパイプを適用することは出来ない。

(2)本願発明は,温水パイプに流す温水の温度を50℃以下としており,それで十分な室温を確保できるものであるが,通常の温水床暖房では,温水の温度は60℃以上とするのが常識であり,刊行物1ないし5にも,温水温度を50℃以下とすることは,示されておらず,温水の温度を50℃以下と特定することは設計事項ではない。

(3)仮に,刊行物1記載の発明に刊行物2ないし5記載の発明を採用できたとしても,それにより想起できるのは,「刊行物1記載の発明の下地コンクリート層の上面に温水パイプを埋設したコンクリート層を載せてその上に床仕上げ板を張った構造」にすぎず,本願発明にはならない。

上記審判請求人の主張について検討する。
(1)確かに,審判請求人の主張のように,刊行物2ないし5記載の発明においては「断熱材」が必須であるかもしれず,刊行物1記載の発明とは構造が異なるかもしれないが,これらの発明は,床下に熱が逃げることを防止するために断熱材を設けたものであって,断熱材が無ければ床暖房ができないものではない。
そして,上記「2.相違点についての判断」において,刊行物1記載の発明に適用するとしているのは,刊行物2ないし5記載の発明である床暖房装置における温水パイプによる加熱技術であって,該技術においては上記「断熱材」は必須ではない。
したがって,刊行物1記載の発明の「床構造」が刊行物2ないし5記載の発明の「床構造」と異なっているとしても,そのことが,刊行物1記載の発明に刊行物2ないし5記載の発明の温水パイプによる加熱技術を適用することを妨げる要因とはならない。

(2)請求人は,通常の温水床暖房では,温水の温度は60℃以上とするのが常識であると主張するが,それは,温水床暖房の立ち上がりをよくするために必要となる温水の温度であって,通常運転時においては,必ずしも60℃以上が必要となるものではない。(例えば,特開平10-220783号公報(段落【0025】,【0027】の【表1】)には,通常運転時で床面温度を26℃と設定した場合には,外気温に関わらず,温水の温度は45℃以下に制御されることが記載されている。
そして,請求人は,【図5】,【図6】を根拠に,本願発明では温水が「50℃以下」で十分な室温を確保できるとしているが,【図6】には,温度43℃で温水を連続的に流したときに床仕上げ板の上面の温度が20℃前後で安定することが示されているのみであって,その立ち上がりが早いものでもないから,本願発明の床暖房装置が格別性能が優れているとは認められない。
そうすると,本願発明において,「温水パイプに流す温水の温度を50℃以下」とする構成は,本願発明の床構造によって,温度の低い温水であっても従来より優れた暖房性能を発揮できるために採用できたものではなく,設定する室温(約20℃)に応じて当業者が適宜決定した設計事項に過ぎないものである。

(3)刊行物1記載の発明に刊行物2ないし5記載の発明の加熱手段を採用するとしたら,加熱手段である温水パイプを設ける場所は,蓄熱部材である石材層と該石材層の上方の下地コンクリートとのいずれかと考えるのが普通であり,審判請求人が主張する「刊行物1記載の発明の下地コンクリート層の上面に温水パイプを埋設したコンクリート層をさらに設ける」とした構成は,コンクリート層の上にさらにコンクリート層を設けるなど,その構成は不自然であり,刊行物1記載の発明の下地コンクリート内に温水パイプを設けることを阻害する要因もみあたらないから,上記主張(3)には根拠がない。

以上のとおりであるから,審判請求人の主張(1)?(3)は,いずれも採用できない。

4.まとめ
よって,本願発明は,刊行物1記載の発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


第5 むすび
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないから,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2011-08-12 
結審通知日 2011-08-16 
審決日 2011-09-01 
出願番号 特願2006-348251(P2006-348251)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 仁科 雅弘
宮崎 恭
発明の名称 床暖房装置  
代理人 山本 典弘  
代理人 鈴木 一永  
代理人 涌井 謙一  
代理人 鈴木 正次  

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