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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1245798
審判番号 不服2009-2007  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-26 
確定日 2011-10-26 
事件の表示 特願2000-537612「ゴルフボールのための新規な2重コア」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 9月30日国際公開、WO99/48569、平成14年 3月12日国内公表、特表2002-507464〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1999年3月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年3月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年3月22日付け、平成20年3月10日付け及び同年6月25日付けで手続補正がなされ、同年10月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年1月26日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、当審において、平成21年1月26日付けの手続補正が平成22年10月13日付けで却下されるとともに、同日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由1」という。)の通知がなされ、平成23年1月14日付けで手続補正がなされ、同年2月2日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年5月2日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年5月2日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される、次のとおりのものと認める。

「ゴルフボールであって、:
中心構成要素、および該中心構成要素の周囲に配置されたコア層を有する中実2重コアと、前記中実2重コア上に設けられたカバー層を備え、
前記中心構成要素は、1.27cm(0.500インチ)から3.175cm(1.250インチ)の直径を有し、かつ熱可塑性材料を含み、そして前記コア層は、熱硬化性材料を含み、前記中実2重コアは3.81cm(1.50インチ)?4.06cm(1.600インチ)の直径を有し、;
前記2重コアが、0.689?0.756の反発係数と79?99のRiehle圧縮率を有し、
前記中心構成要素の熱可塑性材料は、(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミドから成る群から選択される材料を含み、
前記コア層の熱硬化性材料はジエン含有ポリマーを含み、
前記カバー層は、内側カバー層と前記内側カバー層上に配置された外側カバー層を含み、前記内側カバー層は低酸性アイオノマー樹脂から成り、0.254mm(0.010インチ)?2.54mm(0.100インチ)の範囲の厚さと、65以上のショアD硬度を有し、前記外側カバー層はポリウレタン系エラストマーから成る0.254mm(0.010インチ)?2.54mm(0.100インチ)の範囲の厚さと、55未満のショアD硬度を有する、
直径が4.26cm以上のゴルフボール。」

第3 記載不備についての当審拒絶理由1及び2の概要
1 平成14年改正前特許法第36条第4項違反
本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、技術的意義が不明で、平成14年改正前特許法第36条第4項でいう通商産業省令で定めるところによる記載がされておらず、また、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本願は、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

2 特許法第36条第6項違反
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された多数の具体的材料及び数値限定で規定する範囲は本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められず、本願の特許請求の範囲の請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に適合するものでない。

第4 本願の発明の詳細な説明の記載について
1 本願発明特定事項の技術的意義について
(1) 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0008】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来の多数の2ピース及び3ピースゴルフボールに対して、向上した距離および耐久性特性を有する特有の2重コア構造を備える改良型ゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
(2) しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記中心構成要素は、1.27cm(0.500インチ)から3.175cm(1.250インチ)の直径を有し、かつ熱可塑性材料を含み、そして前記コア層は、熱硬化性材料を含み、前記中実2重コアは3.81cm(1.50インチ)?4.06cm(1.600インチ)の直径を有し、;
前記2重コアが、0.689?0.756の反発係数と79?99のRiehle圧縮率を有し、
前記中心構成要素の熱可塑性材料は、(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミドから成る群から選択される材料を含み、
前記コア層の熱硬化性材料はジエン含有ポリマーを含み、
前記カバー層は、内側カバー層と前記内側カバー層上に配置された外側カバー層を含み、前記内側カバー層は低酸性アイオノマー樹脂から成り、0.254mm(0.010インチ)?2.54mm(0.100インチ)の範囲の厚さと、65以上のショアD硬度を有し、前記外側カバー層はポリウレタン系エラストマーから成る0.254mm(0.010インチ)?2.54mm(0.100インチ)の範囲の厚さと、55未満のショアD硬度を有する、
直径が4.26cm以上」(以下「本願発明特定事項」という。)との多数の具体的材料及び数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数の具体的材料及び数値限定の範囲に設定することの技術的意義は、当業者といえども把握できるものでない。

2 本願発明特定事項の「(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミド」について
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の(1)及び(2)の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【0086】
(2重コア)
上述のように、本発明のゴルフボールは、特有の2重コア構造を採用する。コアは、(i)熱硬化材料、熱可塑材料、またはそれらの組み合わせから形成された内部球状中心構成要素と、(ii)球状中心構成要素の周囲に配置されたコア層であって、コア層が熱硬化材料、熱可塑材料、またはそれらの組み合わせから形成されるものを備えるのが、好ましい。最も好ましくは、コア層は、中心構成要素にすぐ隣接して、それと密接に接触して配置される。コアは、(iii)コア層の周囲に配置された任意の外側コア層をさらに備え得る。最も好ましくは、外側コア層は、コア層にすぐ隣接して、それと密接に接触して配置される。外側コア層は、熱硬化性材料、熱可塑性材料、またはそれらの組み合わせから形成され得る。…(略)…
【0092】
本発明のゴルフボールにおいて、特にそれらの2重コアにおいて利用される熱可塑性材料は、おおよそいかなる熱可塑性材料であってもよい。本発明のゴルフボールへの組み入れのための典型的な熱可塑性材料の具体例としては、アイオノマー、ポリウレタン熱可塑性エラストマー、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ポリスルホン、フルオロポリマー、ポリアミド-イミド、ポリアリレート(polyarylate)、ポリアリールエーテルケトン、ポリアリールスルホン/ポリエーテルスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテル-イミド、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ならびに、フルオロポリマー、ポリベンズイミダゾール、および超高分子量ポリエチレンを含む、特に高性能の樹脂などの、他の熱可塑性材料の広い配列が利用され得ることも思量される。
【0093】
好適な熱可塑材料の追加の具体例としては、メタロセン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、アクリル、スチレン-アクリロニトリル、スチレンマレイン酸無水物、ポリアミド(ナイロン)、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル/ポリフェニレンオキサイド、補強ポリプロピレン、およびハイインパクトポリスチレンが挙げられる。
【0094】
好ましくは、熱可塑性材料は、少なくとも約300゜Fの融点のような、比較的高融点を有する。これら好ましい熱可塑性材料の、市場で入手可能な、いくつかの具体例としては、Capron(ナイロンとアイオノマーのブレンド)、Lexanポリカーボネート、Pebax、およびHytrelが挙げられるが、これらに限定されない。ポリマーまたは樹脂システムは、過酸化物剤、硫黄剤、放射線、または他の橋かけ結合技術によるような多様な手段により、橋かけ結合され得る。
【0095】
本発明のゴルフボールのコアにおける先に記載された構成要素のいずれかまたは全てが、かかる態様で形成され得るか、または、好適な充填剤が追加され得て、それらの結果として生じる密度が減少または増大される。たとえば、2重コアにおけるこれら構成要素のいずれもが、重量が軽くなるように形成、または別な態様で生成される。たとえば、構成要素は、別々にまたはインサイチュで発泡加工され得る。これに関連して、発泡加工された軽量充填剤が添加され得る。対比してみると、これら構成要素のいずれもが、それらの質量または重量を増大させるために、多様な高密度充填剤、もしくは、比較的高密度のファイバーまたは微粒子剤のような他の増量成分と混合され得るか、そうでなければそれらを受容し得る。
【0096】
以下の市場で入手可能な熱可塑性樹脂は、本発明のゴルフボールにおいて採用される、すでに注目した2重コアにおける用途に特に好適である。すなわち、Capron 8351(Allied Signal Plasticsから入手可能)、Lexan ML5776(General Electricから)、Pebax 3533(Elf Atochemからのポリエーテルブロックアミド)、およびHytrel G4074(DuPontから)。これら4種の好ましい熱可塑材料の特性は、以下に表10から表13で明示される。本発明に従ってゴルフボールを形成する場合は、2重コアの内部中心構成要素が熱可塑性材料を含む予定であるのならば、Pebax熱可塑性樹脂を利用するのが、最も好ましい。
【0097】
【表13】

【0098】
【表14】

【0099】
【表15】

【0100】
【表16】

本発明のゴルフボールのコアは、約0.750またはそれを超える、より好ましくは0.770またはそれを超える反発係数と、約90またはそれより低い、より好ましくは70またはそれより低いPGA圧縮率を有するのが典型的である。コアは、25グラムから40グラムの、好ましくは30グラムから40グラムの重量を有する。コアは、高シス含有量のポリブタジエンおよびα、β、エチレン型不飽和カルボン酸の金属塩で、たとえば、亜鉛モノアクリレートまたはジアクリレートまたはメタクリレートなどを含んだ、硬化処理していない、または軽く硬化処理されたエラストマー組成物のスラグから成形された圧縮物であり得る。より高い反発係数を達成すること、および/または、コアにおける硬度を増大させることを目的とし、製造業者は酸化亜鉛のような少量の金属酸化物を含み得る。これに加えて、コア重量を増大させて、仕上がったボールが1.620オンスのU.S.G.A.重量上限により間近に接近するようにするために、所望の弾性率を達成するのに必要とされるより大量の金属酸化物が含まれ得る。コア組成物において使用され得る他の材料の無制限の具体例としては、適合性ラバーまたはアイオノマー、およびステアリン酸のような低分子量脂肪酸が挙げられる。過酸化物のような遊離基重合開始剤触媒は、熱と圧力を付与した場合に、硬化または橋かけ結合反応が起こるように、コア組成物と混合される。
【0101】
巻きつけコアは一般に、固体または液体充填式バルーン中心周囲に非常に長い弾性糸を巻きつけることにより生成される。弾性糸は、一般に中心付近に巻きつけられて、直径がほぼ1.4インチから1.6インチの仕上がりコアを生成する。しかし、本発明の好ましい実施態様のゴルフボールは、中実コアを利用するのが好ましく、あるいはむしろ、巻きつけコアとは対照的に、中実の2重コア構造を採用するのが好ましい。」

(2)「【0102】
(ゴルフボール作成方法)
本発明に従ってゴルフボールを調製するのに好ましい実施態様において、硬質の内側カバー層をコア(中実コアが好ましく、2重コアが最も好ましい)の周囲に(射出成形または圧縮成形により)成形する。比較的より軟質の外側層を、内側カバー層の上に成形する。
【0103】
本発明の2重コアは、圧縮成形技術により形成するのが、好ましい。しかしながら、液体射出成形技術またはトランスファー成形技術を利用し得ることが、十分に考えられる。
【0104】
具体例を挙げる目的で、図4に描かれるゴルフボール45を作成する好ましい方法は、以下のとおりである。特に、熱硬化材料、すなわち、コア層42を、以下のような熱可塑性材料を含む内側コア構成要素40の周囲に形成する。すなわち、図7を参照すると、熱硬化材料の、すなわち、コア層42を形成するために利用するプレフォーム75を、オーブン内で半時間、約170゜Fで予備加熱し、成形アセンブリ70の底部73に設置する。テフロン被覆されたプレート76は、2つの半球77および78の各々が約0.840インチの直径を有するが、プレフォームの頂部に設置される。追加のプレフォームは、上述のように予備過熱するが、頂部鋳型72の対応するキャビティに設置する。底部鋳型73を頂部鋳型72と係合させ、アセンブリをひっくり返し、もしくは反転させる。成形アセンブリ70の底部半分は、ここで成形アセンブリの頂部半分となる。次いで、成形アセンブリ70をプレスにかけ、蒸気プレスでおよそ10トンの圧力を用いて、室温で冷却成形処理する。成形アセンブリ70を約2分間閉鎖して、圧力抜きする。次に、成形アセンブリ70を開け、テフロンプレート76を除去することにより、熱硬化材料中に、1つまたはそれを超える、本質的に完璧に成形された半分殻またはキャビティーが残る。先に成形した熱可塑性コア中心を、ここで、底部キャビティに設置し、成形アセンブリ70の頂部72を底部73上に置き、それらの間に配置した材料を、硬化加工する。この方法により製造したゴルフボールは、直径0.840インチの内側コア直径を有した。外側コア直径は1.470インチの最終直径を有し、1.490インチの予備成形直径を有した。次いで、比較的硬質の内側カバー層を、結果として生じる2重コア構成要素の周囲に成形する。内側カバーの直径は、1.570インチであった。比較的より軟質の外側カバー層を、ここで、内側カバー層の周囲に成形する。外側カバー直径は、1.680インチであった。内側カバーおよび外側カバーの成形の詳細は、以下に明示される。
【0105】
本発明に従った4個のゴルフボールが形成され、その各々は、内側コア成分として、好ましい、市場で入手可能な高融点熱可塑性材料を利用する。以下に明示される表14は、これらボールについて略記する。
【0106】
【表17】

…(略)…」

(3) 上記(1)及び(2)の記載は以下のア及びイの点で不明である。
ア 上記(1)【0094】に記載の「Capron」に係る「ナイロン」及び「アイオノマー樹脂」並びに「Lexan」に係る「ポリカーボネート」の具体的化学構造については本願明細書に記載されておらず、上記(1)段落【0094】 に照らしても、上記(1)段落【0096】 に記載の「Capron 8351(Allied Signal Plasticsから入手可能)」及び上記(1)段落【0096】 に記載の「Lexan ML5776(General Electricから)」と上記(2)段落【0106】 に記載の「Capron 8351」及び「Lexan ML5776-7539」が、それぞれ、「ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド」及び「ポリカーボネート」であることは、明らかでない。
イ 上記(1)段落【0096】に記載の「Pebax 3533」に係る「ポリエーテルブロックアミド」の具体的化学構造については本願明細書に記載されておらず、上記(1)段落【0096】「Pebax 3533(Elf Atochemからのポリエーテルブロックアミド)」の記載から、上記(1)段落【0096】に記載の「Pebax 3533(Elf Atochemからのポリエーテルブロックアミド)」と上記(2)段落【0106】 に記載の「Pebax 3533」が、「ポリマーブロックアミド)」であることは明らかでない。

(4) 上記(3)から、本願の発明の詳細な説明は、本願発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

3 上記1及び2のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、技術的意義が不明で、平成14年改正前特許法第36条第4項でいう通商産業省令で定めるところによる記載がされておらず、また当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本願は、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第5 本願の特許請求の範囲の記載について
本願発明は、多数の具体的材料及び数値限定でゴルフボールを特定しようとするものである。
そこで、本願発明特定事項に係る多数の具体的材料及び数値限定に関する記載について、以下に検討する。
1 本願明細書に開示された発明の課題と、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の上記記載との技術的関係
(1) 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0008】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来の多数の2ピース及び3ピースゴルフボールに対して、向上した距離および耐久性特性を有する特有の2重コア構造を備える改良型ゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
(2) しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の上記課題に関する記載のある箇所には、特許請求の範囲の請求項1に示された多数の具体的材料及び数値限定と、発明の解決しようとする課題との間の技術的関係については、記載も示唆もされていない。
(3) 一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲の請求項1に示された上記多数の具体的材料及び数値限定に関連して、以下アないしエに示す記載がある。

ア 「【0009】
(好ましい実施態様の詳細な説明)
本発明は、2重コア構成要素を備えるゴルフボールに関する。好ましくは、本発明のゴルフボールは、多層カバーを利用する。しかし、その代わりに、このゴルフボールは、例えばバラタ、またはエラストマー材料またはプラスチック材料とバラタのブレンドのような従来のカバー材料を利用し得る。多層ゴルフボールカバーは、高酸性(16重量%の酸より高い)アイオノマーブレンドの、またはより好ましくは、低酸性(16重量%の酸またはそれより低い)アイオノマーブレンドの第1層または内側層(または皮殻)と、比較的柔軟な低弾性率アイオノマー、アイオノマーブレンド、または他の非アイオノマー熱可塑性エラストマーまたは熱硬化性エラストマーであって、ポリウレタンまたはポリエステルエラストマーなどから構成される第2層または外側層(または皮殻)とを含む。本発明の多層ゴルフボールは、標準寸法または拡大寸法のものであり得る。好ましくは、内側層または内側皮殻は、低酸性アイオノマーのブレンドを含み、かつ、ショアーD硬度が70またはそれを越え、外側カバー層はポリウレタンから成り、かつ、ショアーD硬度が約45(すなわち、約65のショアーC硬度)を有する。
【0010】
本発明のゴルフボールは、特有の2重コア構造を利用する。好ましくはコアは、(i)熱硬化性材料、熱可塑性材料、またはそれらの組み合わせから形成される内部球状中心構成要素と、(ii)球状中心構成要素の周囲に配置されたコア層であって、熱硬化性材料、熱可塑性材料、またはそれらの組み合わせから形成されるコア層とを備える。コアは、(iii)コア層の周囲に配置された任意の外側コア層を更に備え得る。外側コア層は、熱硬化性材料、熱可塑性材料、またはそれらの組み合わせから形成され得る。
【0011】
本発明は、本明細書中に記載されたような2重コア構成要素を、好ましくは多層カバーと組合せて備えるゴルフボールに主として関しているが、本発明はまた、2重コア構成要素と、バラタ、多様な熱可塑性材料、鋳造ポリウレタン、または他の公知のカバー材料を含む従来型カバーとを有するゴルフボールを含む。
【0012】
内側カバー層および外側カバー層を有する多層ゴルフボールは、より高いC.O.R.値を提示し、かつ、単一カバー層から作られたボールと比較して、より長い飛行距離を有することが、解っている。これに加えて、低酸性(すなわち、16重量%の酸またはそれより低い)アイオノマー樹脂のブレンドから構成される内側カバー層の使用は、高酸性アイオノマー樹脂から構成される内側カバー層よりも柔軟な圧縮と高いスピン率を生じることが、解っている。これは、柔軟なポリウレタン外側層がかなりの弾性を維持しながら、所望の「感触」と高スピン率を増すという事実により、折り合いをつけられる。柔軟な外側層は、衝撃期間中にカバーがより変形するのを許容し、かつ、クラブ面とカバーとの間の接触面積を増大させ、それにより、より一層のスピンをボールに付与する。結果的に、柔軟なポリウレタンカバーは、バラタに似た感触と、改良された距離および耐久性を備えたプレイ可能性特性とをボールに提供する。
【0013】
結果として、本明細書中により詳細に記載された、特有の2重コア構造と、例えば低酸性アイオノマー樹脂とポリウレタンとのブレンドなどから作られる内側カバー層および外側カバー層の多層カバー構造との全体的組み合わせの結果、ボールのプレイ可能性特性を維持し、かつ、大抵の場合はそれを強化しながら、向上した弾性(強化された飛行距離)特性および耐久性(すなわち、耐切断性など)特性を有する、標準サイズまたは特大サイズのゴルフボールを生じる。
【0014】
低酸性アイオノマーブレンドの内側カバー層と、柔軟な、比較的低弾性率のアイオノマーのポリウレタン系エラストマーの外側カバー層との組み合わせは、良好な全体的反発係数(すなわち、向上した弾性)を供与する一方で、同時に、改良した圧縮およびスピンを展開する。外側カバー層は一般に、特に、ハーフウエッジショットのような高傾斜を付けたクラブを用いた低いスイング速度の場合に、より望ましい感触およびスピンに寄与する。
【0015】
従って、本発明は、2重コア構造と改良型多層カバーとを備えるゴルフボールに関しており、多層カバーを構成するためにコアの周囲に各層を成形すると同時に、逆効果なく向上した距離(すなわち、弾性)を呈し、多くの場合、ボールのプレイ可能性(硬度/柔軟性)特性および/または耐久性(すなわち、耐切断性、耐疲労性など)特性を強化した、ゴルフボールを製造する。
【0016】
図1および図2は、本発明に従った好ましい実施態様のゴルフボール5を例示する。参照された図面のいずれもが同一縮尺率を適用していないと、理解されるだろう。よって、多様な層の厚さと割合、および多様なコア構成要素の直径は必ずしも描かれた通りである必要はない。ゴルフボール5は、コア10の周囲に配置された多層カバー12を備える。ゴルフボールのコア10は、中実の物質、液状の物質、または本明細書中に記載される新規な2重コアを形成するために利用され得る他のあらゆる物質から形成され得る。好ましくはこのコア10は、本明細書に記載のような2重コアである。多層型カバー12は2層を備え、すなわち、第1層または内側層(皮殻)14および第2層または外側層(皮殻)16である。内側層14はアイオノマー、アイオノマーブレンド、非アイオノマー、非アイオノマーブレンド、またはアイオノマーと非アイオノマーのブレンドであり得る。外側層16は、内側層よりも柔軟で、かつ、アイオノマー、アイオノマーブレンド、非アイオノマー、非アイオノマーブレンド、またはアイオノマーと非アイオノマーのブレンドであり得る。…(略)…
【0023】
硬い内側カバー層は、公知の多層被覆型ボール上の実質的な弾性の向上(すなわち、強化された距離)を付与することが、解っている。より柔軟な外側カバー層は、著しい弾性を維持しながら、望ましい「感触」と高スピン率を提供する。柔軟な外側層は、カバーが衝撃時により変形できるようにし、クラブ面とカバーとの間の接触面積を増大させることにより、ボールに一層のスピンを付与する。結果的に、柔軟なカバーはボールにバラタのような感触と、強化した距離および耐久性を備えたプレイ可能特性を供与する。その結果として、内側カバー層と外側カバー層および特有の2重コア構造の全体的組み合わせは、ボールのプレイ可能性特性を維持し、かつ、多くの場合はそれを改善しながら、ゴルフボールが向上した弾性(強化した飛行距離)特性と耐久性(すなわち、耐切断性など)特性を有する結果となる。
【0024】
2重コア構成要素および硬い内側カバー層と、柔軟な比較的低弾性率のアイオノマー、アイオノマーブレンド、または他の非アイオノマー熱可塑性エラストマー外側カバー層との組み合わせは、内側カバー層より生じる強化した弾性のために、優れた全体的反発係数(すなわち、優れた弾性)を供与する。さらに、2重コア構成要素の構造、および2重コア構成要素に使用する材料を選択できることによって、調合者は、得られるゴルフボールの最終の特質および特性を容易に合わせることが可能である。ある程度の弾性強化は外側カバー層によっても生じられるが、外側カバー層は一般に、特に、ハーフウエッジショットのような高度に傾斜を付けたクラブを用いたより低速のスイング速度における場合に、より望ましい感触と高スピンを供与する。」

イ 「【0025】
(内側カバー層)
内側カバー層は外側カバー層よりも硬く、一般に、1.68インチのボールについては、0.01インチから0.10インチの範囲の、好ましくは、0.03インチから0.07インチの範囲の厚さを有し、1.72インチ(またはそれを超える)ボールについては、0.05インチから0.10インチの範囲の厚さを有する。コアと内側カバー層とが共に、0.780またはそれを超える、またより好ましくは、0.790またはそれを超える反発係数と、1.68インチのボールについては1.48インチから1.66インチの範囲の、1.72インチ(またはそれを超える)ボールについては1.50インチから1.70インチの範囲の直径とを有する内側ボールを形成する。内側カバー層は、60またはそれを超えるショアーD硬度を有する。本発明のゴルフボールが、65またはそれを超えるショアーD硬度を備える内側層を有する場合は、これは特に有利である。内側カバー層の上述の特性は、100またはそれより低いPGA圧縮を有する内側ボールを提供する。内側ボールが90またはそれより低いPGA圧縮を有する時は、優れたプレイ可能性を結果として生じることが、解る。
【0026】
内側層組成物は、E.I.DuPont de Nemours & Companyにより商標「Surlyn(登録商標)」の元で開発されたもの、また、Exxon Corporationにより商標「Escor(登録商標)」または商品名「Iotek」の元で開発されたもの、またはそれらのブレンドのような、高酸性アイオノマーを含む。本明細書中において内側層として使用され得る組成物の具体例は、1991年10月15日に出願された米国特許出願第07/776,803号の継続出願である、米国特許出願第08/174,765号の継続出願と、第07/981,751号の継続出願である出願第08/493,089号に詳細に明示されるが、第07/981,751号は今度は、1992年6月19日に出願された出願第07/901,660号の継続出願であり、これら全ては、本明細書中に参考として援用されている。もちろん、内側層の高酸性アイオノマー組成物は、上記各出願に明示された組成には、いかなる態様ででも限定されない。
【0027】
内側層組成物を構成する際に使用するのに好適となり得る高酸性アイオノマーはイオン性コポリマーであり、これらは、約2個から8個の炭素原子を有するオレフィンと、約3個から8個の炭素原子を有する不飽和モノカルボン酸との反応生成物の、ナトリウム、亜鉛、マグネシウムなどの、金属塩である。アイオノマー樹脂はエチレンおよびアクリル酸またはメタクリル酸いずれかのコポリマーであるのが、好ましい。ある状況においては、アクリレートエステルのような追加のコモノマー(すなわち、イソブチルアクリレートまたはn-ブチルアクリレートなど)はまた、より柔軟なターポリマーを生成するために含まれ得る。コポリマーのカルボン酸基は、金属イオンにより、部分的に中和される(すなわち、およそ10%から100%、好ましくは、30%から70%)。本発明の内側層カバー組成物に含まれ得る高酸性アイオノマー樹脂の各々は、約16重量%より多くのカルボン酸、好ましくは、約17重量%から約25重量%までのカルボン酸、より好ましくは、約18.5重量%から約21.5重量%までのカルボン酸を含有する。
【0028】
本発明のいくつかの実施態様の内側層カバー組成物は高酸性アイオノマー樹脂を含むのが好ましいが、本特許の範囲は、先に明示されたパラメータ内に入る、あらゆる公知の高酸性アイオノマー樹脂を包含する。比較的限定された数のこれらの高酸性アイオノマー樹脂のみが、現在、市場で利用可能となっている。
【0029】
Exxonから「Escor(登録商標)」および「Iotek」という名称で入手可能な高酸性アイオノマー樹脂は、「Surlyn(登録商標)」商標の元で入手可能な高酸性アイオノマー樹脂に幾分類似する。しかしながら、Escor(登録商標)/Iotekアイオノマー樹脂はポリ(エチレン-アクリル酸)のナトリウム塩または亜鉛塩であり、「Surlyn(登録商標)」樹脂はポリ(エチレン-メタクリル酸)の亜鉛塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩などであり、特性に著しい差異が存在する。
【0030】
本発明に従った用途に好適であると解っている、高酸性メタクリル酸系アイオノマーの具体例は、Surlyn(登録商標)8220および8240(その両方がSurlyn AD-8422の形態として従来公知である)、Surlyn(登録商標)9220(亜鉛カチオン)、Surlyn(登録商標)SEP-503-1(亜鉛カチオン)、およびSurlyn(登録商標)SEP-503-2(マグネシウムカチオン)を含む。DuPontによると、これらアイオノマーの全てが、約18.5重量%から約21.5重量%のメタクリル酸を含有する。
【0031】
より特定すると、Surlyn(登録商標)AD-8422は目下、DuPontからメルトインデックスの差に基づく多数の異なる等級で(すなわち、AD-8422-2、AD-8422-3、AD-8422-5など)、市場で入手可能である。DuPontによれば、Surlyn(登録商標)8422は、8220および8240として登録されていると最近信じられているが、低酸性等級にある全てのうちで最も剛性が高くて最も硬いSurlyn(登録商標)8920(米国特許第4,884,814号においては「硬い」アイオノマーと言及される)と比較した場合に、以下の一般的特性を提示する。すなわち、
【0032】
【表1】

Surlyn(登録商標)8920をSurlyn(登録商標)8422-2およびSurlyn(登録商標)8422-3と比較すると、高酸性Surlyn(登録商標)8422-2およびSurlyn(登録商標)8422-3アイオノマーはより高い張力降伏、低い伸び率、わずかに高いショアーD硬度、および遥かに高い曲げ係数を有することが、認識されている。Surlyn(登録商標)8920は15重量%のメタクリル酸を含有し、かつ、ナトリウムで59%中和される。…(略)…
【0052】
本発明の実施態様のうちのいくつかの内側層組成物を構成する際の用途に好適となり得る低酸性アイオノマーは、約2個から8個の炭素原子を有するオレフィンと約3個から8個の炭素原子を有する不飽和モノカルボン酸との反応生成物の、ナトリウム、亜鉛、マグネシウムなどの、金属塩であるイオン性コポリマーである。アイオノマー樹脂は、エチレンおよびアクリル酸またはメタクリル酸いずれかのコポリマーであるのが好ましい。ある状況では、アクリレートエステルのような追加のコモノマー(すなわち、イソブチルアクリレート、n-ブチルアクリレートなど)も、より柔軟なターポリマーを生成するために含まれ得る。コポリマーのカルボン酸基は、金属イオンにより部分的に中和される(すなわち、およそ10%から100%、好ましくは,30%から70%)。本発明の内側層カバー組成物に含まれ得る低酸性アイオノマー樹脂の各々は、16重量%またはそれより少ないカルボン酸を含有する。
【0053】
内側層組成物は、E.I.DuPont de Nemours & Companyにより商標「Surlyn(登録商標)」の元で、また、Exxon Corporationにより商標「Escor(登録商標)」または商品名「Iotek」の元で、開発および販売されるもの、またはそれらのブレンドのような、低酸性アイオノマーを含む。
【0054】
Exxonから名称「Escor(登録商標)」および/または「Iotek」の元で入手可能な、低酸性アイオノマー樹脂は、「Surlyn(登録商標)」商標の元で入手可能な低酸性アイオノマー樹脂に幾分類似する。しかし、Escor(登録商標)/Iotekアイオノマー樹脂はポリ(エチレン-アクリル酸)のナトリウムまたは亜鉛の塩であり、「Surlyn(登録商標)」樹脂は、ポリ(エチレン-メタクリル酸)の亜鉛、ナトリウム、マグネシウムなどの塩であるので、特性における著しい差異が存在する。
【0055】
多層ゴルフボールの内側層の構造で利用された場合、低酸性アイオノマーブレンドは圧縮率およびスピン率の範囲を、先行技術で獲得可能であった範囲より超越させることが、解っている。より好ましくは、2種またはそれを超える低酸性アイオノマーが、特に、ナトリウムおよび亜鉛のアイオノマーのブレンドが多層ゴルフボールのカバー(すなわち、本明細書中における内側カバー層)を製造するように処理された場合は、結果として生じるゴルフボールは、従来公知の多層ゴルフボールよりも遠くへ、向上したスピン率で飛行することが、解っている。かかる改良は、拡大型または特大ゴルフボールでは特に注目に値する。
【0056】
より低い酸性アイオノマーのブレンドから構成される内側層の使用は、向上した圧縮率とスピン率とを有する多層ゴルフボールを生む。これらは、より熟練したゴルファーによって望まれる特性である。
【0057】
内側カバー層のまた別の実施態様においては、高酸性および低酸性アイオノマー樹脂のブレンドが使用される。これらは、高酸性アイオノマー樹脂と低酸性アイオノマー樹脂の部分重量比が10:90から90:10の範囲内にあるのが好ましい重量比で組み合わされた、上述のアイオノマー樹脂であり得る。」

ウ 「【0059】
(外側カバー層)
以下に記載される2重コア構成要素とその上に形成される硬質内側カバー層とは、多層ゴルフボールにパワーと距離を与えるが、外側カバー層16は、内側カバー層よりも比較的柔軟である。この柔軟性は、バラタまたはバラタブレンドボールと関連するのが典型的である、感触特性とプレイ可能性特性とを供与する。外側カバー層または皮殻は、比較的柔軟な低弾性率(約1,000psiから約10,100psi)から成り、かつ、別の実施態様においては、低酸性(16重量%より低い酸)アイオノマー、アイオノマーブレンド、非アイオノマー熱可塑性材料または熱硬化性材料から成り、これらの具体例としては、Exxonから入手可能なものと厳密に一致する材料(EXACT material)のようなメタロセン触媒作用されたポリオレフィン、ポリウレタン、DuPontにより商標Hytrel(登録商標)の元で市場に出されているようなポリエステルエラストマー、またはElf Atochem S.A.により商標Pebax(登録商標)の元で市場に出されているもののようなポリエステルアミド、2種またはそれを超える非アイオノマー熱可塑性材料または熱硬化性材料のブレンド、または1種またはそれを超えるアイオノマーおよび1種またはそれを超える非アイオノマーの熱可塑性材料のブレンドが挙げられるが、これらに限定されない。外側層はかなり薄い(すなわち、約0.010インチから約0.10インチの厚さで、より望ましくは、1.680インチボールについては0.03インチから0.06インチの厚さであり、1.72インチまたはそれより大きいボールについては0.04インチから0.07インチの厚さ)が、経費を最小限にしながら所望のプレイ可能性特性を達成するには十分に厚い。厚さは、外側カバー層のへこみ加工されていない領域の平均厚さとして規定される。層16のような外側カバー層16は、55またはそれより小さいショアーD硬度を有し、より好ましくは、50またはそれより小さいショアーD硬度を有する。…(略)…
【0081】
外側カバーブレンドを処方する際に本発明において使用され得る、市場で入手可能な硬質アイオノマー樹脂の具体例は、商標Surlyn(登録商標)8940の元で販売される硬質ナトリウムイオン性コポリマー、および商標Surlyn(登録商標)9910の元で販売される硬質亜鉛イオン性コポリマーを含む。Surlyn(登録商標)8940は、エチレンの、メタクリル酸、およびナトリウムイオンで約29%中和された約15重量%の酸とのコポリマーである。この樹脂は、約2.8の平均メルトフローインデックスを有する。Surlyn(登録商標)9910は、エチレンと、亜鉛イオンで約58%中和された約15重量%の酸を含むメタクリル酸とのコポリマーである。Surlyn(登録商標)9910の平均メルトフローインデックスは、約0.7である。Surlyn(登録商標)9910および8940の典型的特性は、以下に表8で明示される。
【0082】
【表10】

Exxon Corporationにより「Iotek」商品名の元で販売されている本願の外側カバー組成物における用途に好適な、より適切なアクリル酸系硬質アイオノマー樹脂の具体例としては、Iotek8000、8010、8020、8030、7030、7010、7020、1002、1003、959、および960が挙げられる。Iotek959および960の物理的特性は、上に示されている。外側層カバー組成物を処方する際の用途に好適なこれらIotekおよび他のIotekの硬質アイオノマーの残余のものの典型的特性は、以下に表9に明示される。
【0083】
【表11】

硬質/軟質アイオノマーブレンドが外側カバー層に使用される場合、良好な結果は、相対的組み合わせが約3%から25%の硬質アイオノマーと約75%から97%の軟質アイオノマーの範囲にある場合に、達成されると、判定されている。
【0084】
更に、代替の実施態様においては、外側カバー層構成は、B.F.Goodrich CompanyのEstane(登録商標)ポリエステルポリウレタンX-4517のようなポリエステルポリウレタンを含む、100重量%までの軟質の低弾性率非アイオノマー熱可塑性材料を含んでいてもよい。この非アイオノマー熱可塑材料は、軟質アイオノマーとブレンドされ得る。たとえば、ポリアミドは軟質アイオノマーとよくブレンドされる。B.F.Goodrichによると、Estane(登録商標)X-4517は以下の特性を有する。
【0085】
【表12】

他の柔軟な、比較的低弾性率非アイオノマー熱可塑性エラストマーもまた、非アイオノマー熱可塑性エラストマーが、高酸性アイオノマー樹脂組成物により生じる向上した飛行距離特性に逆影響を及ぼすことなく、所望のプレイ可能性特性および耐久性特性を生じる限り、外側カバー層を生成するように利用され得る。これらの例としては、Mobay Chemical Co.からのTexin熱可塑性ポリウレタンおよびDow Chemical Co.からのPellethane熱可塑性ポリウレタンのような熱可塑性ポリウレタンが挙げられるが、これらに限定されず、非アイオノマー熱硬化性ポリウレタンとしては、米国特許第5,334,673号に開示されたもの、橋かけメタロセン触媒作用を受けたポリオレフィン、Spaldingの米国特許第4,986,545号、第5,098,105号、および第5,187,013号のもののようなアイオノマー/ラバーブレンド、ならびに、DuPontからのHytrelポリエステルエラストマーおよびElf Atochem S.A.からのPebaxポリエステルアミドが挙げられるが、これに限定されない。」

エ 上記第4の2(1)及び(2)参照。

(4) 上記(3)から、特許請求の範囲の請求項1に示された上記多数の具体的材料及び数値限定と本願明細書に開示された発明の課題との因果関係又はメカニズムを、当業者といえども把握できるものでない。
(5) したがって、本願発明特定事項に係る多数の具体的材料及び数値限定と、本願明細書に開示された発明の課題との間に、明確な技術的関係があるとは、当業者といえども理解できるものではない。

2 小括
上記のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明特定事項に係る多数の具体的材料及び数値限定と、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の課題との因果関係又はメカニズムについて記載も示唆もされていない。

3 本願明細書における具体例の開示からの検討
(1) 本願明細書の発明の詳細な説明には、ゴルフボールの具体例に関する次の記載がある。
ア 上記第4の2(2)参照。
イ 上記段落【0106】【表17】の表14記載のゴルフボールの具体例である、内側コアの熱可塑性材料が、「Capron 8351」、「Lexan ML5776-7539」、「Pebax 3533」及び[Hytrel G-4074」であるゴルフボール並びにコントロール(単一コア)のゴルフボール(以下、順に「具体例1」、「具体例2」、「具体例3」、「具体例4」及び「具体例5」という。)について、以下検討する。

ウ 平成23年5月2日付けの手続補正により、特許請求の範囲の請求項1について、「ゴルフボールであって、:
中心構成要素、および該中心構成要素の周囲に配置されたコア層を有する中実2重コアと、前記中実2重コア上に設けられたカバー層を備え、
前記中心構成要素は、1.27cm(0.500インチ)から3.175cm(1.250インチ)の直径を有し、かつ熱可塑性材料を含み、そして前記コア層は、熱硬化性材料を含み、前記中実2重コアは3.81cm(1.50インチ)?4.06cm(1.600インチ)の直径を有し、;
前記2重コアが、0.689?0.756の反発係数と79?99のRiehle圧縮率を有し、
前記中心構成要素の熱可塑性材料は、(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミドから成る群から選択される材料を含み、
前記コア層の熱硬化性材料はジエン含有ポリマーを含み、
前記カバー層は、内側カバー層と前記内側カバー層上に配置された外側カバー層を含み、前記内側カバー層は低酸性アイオノマー樹脂から成り、0.254mm(0.010インチ)?2.54mm(0.100インチ)の範囲の厚さと、65以上のショアD硬度を有し、前記外側カバー層はポリウレタン系エラストマーから成る0.254mm(0.010インチ)?2.54mm(0.100インチ)の範囲の厚さと、55未満のショアD硬度を有する、
直径が4.26cm以上のゴルフボール。」と変更されたものの、具体例1ないし5については変更されず、本願明細書において具体例1ないし5に関する記載がある。
そして、具体例1ないし5のうち具体例5は、特許請求の範囲の請求項1に記載の「中実2重コア」以外となり、本願発明に対応する実施例に相当するものでないことは明らかである。
エ そこで、具体例1ないし4について以下検討する。
(ア)本願発明の「前記中心構成要素の熱可塑性材料は、(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミドから成る群から選択される材料を含み」について
a 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0106】には、具体例1ないし4における中心構成要素の熱可塑性材料は、それぞれ、「Capron 8351」、「Lexan ML5776-7539」、「Pebax 3533」及び「Hytrel G-4074」である旨が記載されている。
b 本願明細書の発明の詳細な説明には、「【0094】好ましくは、熱可塑性材料は、少なくとも約300゜Fの融点のような、比較的高融点を有する。これら好ましい熱可塑性材料の、市場で入手可能な、いくつかの具体例としては、Capron(ナイロンとアイオノマーのブレンド)、Lexanポリカーボネート、Pebax、およびHytrelが挙げられるが、…(略)…」、「【0096】以下の市場で入手可能な熱可塑性樹脂は、本発明のゴルフボールにおいて採用される、すでに注目した2重コアにおける用途に特に好適である。すなわち、Capron 8351(Allied Signal Plasticsから入手可能)、Lexan ML5776(General Electricから)、Pebax 3533(Elf Atochemからのポリエーテルブロックアミド)、およびHytrel G4074(DuPontから)。」及び「【0100】【表16】…(略)…HYTREL G4074 熱可塑性エラストマー」と記載されている。
c 上記bから、具体例4における中心構成要素の熱可塑性材料である「Hytrel G-4074」が熱可塑性エラストマーであることは明らかであるが、(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミドから成る群から選択される材料であることは明らかでない。
d 上記aないしcから、具体例1ないし4のうち、具体例4は特許請求の範囲の請求項1記載の「前記中心構成要素の熱可塑性材料は、(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミドから成る群から選択される材料を含み」以外となり、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明に対応する実施例に相当するものでないことは明らかである。また本願具体例1ないし3における中心構成要素の熱可塑性材料である「Capron 8351」、「Lexan ML5776-7539」及び「Pebax 3533」それぞれの具体的化学構造については本願明細書に記載されておらず、前記「Capron 8351」、「Lexan ML5776-7539」及び「Pebax 3533」が、それぞれ、「ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド」、「ポリカーボネート」及び「ポリマーブロックアミド」であることは明らかでなく、前記「Capron 8351」、「Lexan ML5776-7539」及び「Pebax 3533」という商品名のみから、それぞれ、ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド」、「ポリカーボネート」及び「ポリマーブロックアミド」であることも明らかでないから、具体例1ないし3は、本願発明に対応する実施例であるのか明らかでない。
e 上記aないしdから、本願明細書の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲の請求項1に記載の「前記中心構成要素の熱可塑性材料は、(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミドから成る群から選択される材料を含み」に対応する具体例が一例も記載されていない。

(イ)本願発明の「『前記中心構成要素は、1.27cm(0.500インチ)から3.175cm(1.250インチ)の直径を有し』、『前記中実2重コアは3.81cm(1.50インチ)?4.06cm(1.600インチ)の直径を有し、;
前記2重コアが、0.689?0.756の反発係数と79?99のRiehle圧縮率を有し、』」について
a 本願明細書の発明の詳細な説明には、具体例1ないし4における[中心構成要素の直径(インチ),2重コアの直径(インチ),2重コアの圧縮(riehle),2重コアのCOR(反発係数)]については、それぞれ、[0.835,1.561,79,0.689]、[0.854,1.560,80,0.603]、[0.840,1.562,99,0.756]、[0.831,1.563,93,0.729]と記載されているが、これら4例の記載を以てしては、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明特定事項の「『前記中心構成要素は、1.27cm(0.500インチ)から3.175cm(1.250インチ)の直径を有し』、『前記中実2重コアは3.81cm(1.50インチ)?4.06cm(1.600インチ)の直径を有し、;
前記2重コアが、0.689?0.756の反発係数と79?99のRiehle圧縮率を有し』」についての裏付けが十分でない。
b したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明特定事項に関する十分な裏付けがなされていない。

(ウ)本願発明の「前記内側カバー層は低酸性アイオノマー樹脂から成り、…(略)…65以上のショアD硬度を有し、前記外側カバー層はポリウレタン系エラストマーから成る…(略)…、55未満のショアD硬度を有する」について
a 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0106】には、具体例1ないし4において、Surlyn8940:22部、Surlyn9910:54.5部、Surlyn8320:10部、Surlyn8120:4部、T.B.MB*:9.5部(合計100部)であって、前記T.B.MB* がIotek7030:75.35部、Unitane0-110:23.9部、Ultra Marine Blue:0.46部、Eastonbrite OB-10.26部、Santonox R:0.038部であるカバーストックをすべてのボールで使用した旨が記載されている。。
b 本願明細書の発明の詳細な説明には、「【0052】…(略)…本発明の内側層カバー組成物に含まれ得る低酸性アイオノマー樹脂の各々は、16重量%またはそれより少ないカルボン酸を含有する。」及び「【0081】外側カバーブレンドを処方する際に本発明において使用され得る、市場で入手可能な硬質アイオノマー樹脂の具体例は、商標Surlyn(登録商標)8940の元で販売される硬質ナトリウムイオン性コポリマー、および商標Surlyn(登録商標)9910の元で販売される硬質亜鉛イオン性コポリマーを含む。Surlyn(登録商標)8940は、エチレンの、メタクリル酸、およびナトリウムイオンで約29%中和された約15重量%の酸とのコポリマーである。この樹脂は、約2.8の平均メルトフローインデックスを有する。Surlyn(登録商標)9910は、エチレンと、亜鉛イオンで約58%中和された約15重量%の酸を含むメタクリル酸とのコポリマーである。Surlyn(登録商標)9910の平均メルトフローインデックスは、約0.7である。Surlyn(登録商標)9910および8940の典型的特性は、以下に表8で明示される。」と記載されている。
c 上記a及びbから、上記カバーストックは、「Surlyn8940」及び「Surlyn9910」を含み、前記「Surlyn8940」及び「Surlyn9910」は15重量%のカルボン酸を含有することことは明らかであるから、「低酸性アイオノマー樹脂から成る」といえる。
d しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、具体例1ないし4のすべてのボールに上記カバーストックを使用する旨は記載されているが、特許請求の範囲の請求項1に記載の「『内側カバー層と前記内側カバー層上に配置された外側カバー層を含み』、『前記内側カバー層』は『65以上のショアD硬度を有し』、『外側カバー層はポリウレタン系エラストマーから成る』、『55未満のショアD硬度を有する』」に対応する具体例が一例も記載されていない。
e 上記aないしdから、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の「前記内側カバー層は低酸性アイオノマー樹脂から成り、…(略)…65以上のショアD硬度を有し、前記外側カバー層はポリウレタン系エラストマーから成る…(略)…、55未満のショアD硬度を有する」に対応する具体例が一例も記載されていない。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)から、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の「前記2重コアが、0.689?0.756の反発係数と79?99のRiehle圧縮率を有し、
前記中心構成要素の熱可塑性材料は、(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミドから成る群から選択される材料を含み、…(略)…
前記内側カバー層は低酸性アイオノマー樹脂から成り、…(略)…65以上のショアD硬度を有し、前記外側カバー層はポリウレタン系エラストマーから成る…(略)…、55未満のショアD硬度を有する」に対応する具体例が一例も記載されていない以上、本願発明特定事項に係る多数の具体的材料及び数値限定で規定される範囲の技術的意義が十分に裏付けられているとは、当業者といえども把握できるものではない。
したがって、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものであるとは認められない。

4 まとめ
上記1ないし3にて検討したとおりであるから、特許請求の範囲の請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものでない。
よって、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第6 進歩性について
1 刊行物の記載事項
(1)当審拒絶理由1に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-170012号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。

ア 「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、コアを内核と外核との2層構造にし、かつその内核の比重を0.2?1にし、その2層構造のコアをアイオノマー樹脂を主材とするカバーで被覆することによりゴルフボールを構成して、上記目的を達成したものである。
【0006】すなわち、本発明においては、内核の比重を0.2?1と小さくすることによって、ゴルフボールの中心部を軽くし、それによって、ゴルフボールの慣性モーメントを上げ、従来のツーピースソリッドゴルフボールより低スピン、高打出角にして、飛距離を向上させたのである。
【0007】以下、本発明の構成とその役割などについて詳しく説明する。
【0008】まず、本発明のゴルフボールの構造を図面によって説明する。図1は本発明のゴルフボールの一例を模式的に示す断面図であり、図中、1はコアで、このコア1は内核1aと外核1bとの2層からなり、上記内核1aの比重は0.2?1である。そして、2は上記2層構造のコア1を被覆するカバーであり、このカバーはアイオノマー樹脂を主材とするものである。
【0009】上記の内核は、軽量充填剤を配合したゴム加硫物の成形体、軽量充填剤を配合した樹脂成形体、ゴムの発泡成形体、樹脂の発泡成形体などで構成される。
【0010】たとえば、上記内核構成用のゴム加硫物を得るためのゴム組成物は、ブタジエンゴムをベースゴムとし、加硫剤としてはα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩を用いることが好ましい。具体的には、たとえばアクリル酸亜鉛やメタクリル酸亜鉛を用いることが好ましい。また、ゴム組成物調製時の混練中にα,β-エチレン性不飽和カルボン酸と酸化亜鉛などの金属酸化物とを反応させてα,β-エチレン性不飽和カルボン酸金属塩としたものを加硫剤として用いてもよい。
【0011】そして、上記ブタジエンゴムからなるベースゴムに天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴムなどを適宜配合してゴム成分としてもよい。
【0012】内核は比重を0.2?1にすることを要するので、充填剤としては軽量のものを用いることが必要であり、この軽量充填剤としては、たとえば樹脂やガラスの中空球を用いることが好ましい。
【0013】加硫開始剤としては有機過酸化物を用いるが、その好適な具体例としてはたとえばジクミルパーオキサイドが挙げられる。また、通常のイオウ加硫や不飽和エステルモノマーによる加硫であってもよい。
【0014】この内核作製用のゴム組成物に関して好ましい配合例を示すと、たとえば、ゴム成分100重量部に対してα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩2?15重量部またはα,β-エチレン性不飽和カルボン酸2?15重量部と金属酸化物2?15重量部、軽量充填剤3?200重量部および加硫開始剤0.5?5重量部を含むものである。
【0015】また、内核を樹脂の発泡成形体で構成する場合の樹脂としては、たとえばアイオノマー樹脂、ポリエチレン、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂などが用いられる。
【0016】本発明において、この内核の比重を0.2?1にすることを必要とするのは、内核の比重が0.2より小さい場合は内核の成形が困難であり、また内核の比重が1より大きくなると慣性モーメントを上げて飛距離を向上させる効果が少なくなるからである。
【0017】外核は、内核および外核をあわせたコア全体の重量が32.0?39.0gになるように、内核の重量にあわせて外核の重量を設定することが好ましい。
【0018】外核はゴム加硫物の成形体で構成するが、この外核作製用のゴム組成物には、内核の場合同様にベースゴムとしてはブタジエンゴムを用いることが好ましく、そして、このベースゴムを含むゴム成分、加硫剤、加硫開始剤などは内核の場合と同様のものを用いることができる。
【0019】ただし、コア全体としての重量を調整するために、外核には比重の大きい充填剤を用いることが好ましく、そのような充填剤としては、たとえばタングステン、タングステンカーバイド、硫酸バリウム、酸化亜鉛などが挙げられるが、これらに限られるものではない。また、加硫剤を内核の場合と異なるものを用いることも可能である。
【0020】この外核作製用のゴム組成物の好ましい配合例を挙げると、たとえば、ゴム成分100重量部に対してα,β-エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩10?50重量部またはα,β-エチレン性不飽和カルボン酸10?50重量部と金属酸化物10?50重量部、高比重充填剤3?200重量部および加硫開始剤0.5?1.5重量部を含むものである。
【0021】この外核はコア全体の重量を特定の範囲にするために内核の比重にあわせて比重調整をする必要があるので、充填剤の配合量は上記のように大きな変動幅がある。
【0022】内核の外径、外核の外径(コアの外径)などは、特に限定されるものではないが、内核の外径としては10?38mm程度にするのが好ましく、また外核の外径は内核の外径にもよるが、37?40mm程度にするのが好ましい。
【0023】内核をゴム加硫物の成形体で構成する場合、通常、内核作製用のゴム組成物を金型に入れてプレスで加硫成形することが行なわれるが、そのプレス成形時の加硫条件としては、温度145?180℃で、時間15?50分の範囲が好ましい。ただし、加硫成形時の温度は必ずしも一定でなくてもよく、2段階以上に温度を変える場合でもよい。
【0024】一方、内核を樹脂の発泡成形体で構成する場合、その成形はインジェクションまたはプレスにより行なわれる。インジェクション成形の場合は温度が240?250℃で、時間は金型内での加熱が2?10分で、冷却は1?5分が好ましい。また、プレス成形の場合は温度が240?250℃で、時間は金型内での加熱が5?30分で、冷却は1?10分が好ましい。
【0025】外核の成形は、通常、成形した内核に外核作製用のゴム組成物を所望の厚みのシート化したものを貼り付けてプレス成形することによって行なわれる。
【0026】ただし、それに限られることなく、たとえばハーフシェルを成形し、それを貼り合わせる方法や、インジェクション方式により成形する方法も採用することができる。
【0027】上記内核や外核の成形にあたって、加硫には必ずしもイオウによる架橋結合を必要としないので、架橋と表現する方が適切であるかもしれないが、本明細書では慣行にしたがって加硫と表現している。
【0028】カバーは、アイオノマー樹脂を主材とする樹脂成分に必要に応じて酸化チタン(TiO2 )などの無機酸化物などを適宜配合したカバー材料を前記2層構造のコアの周囲に被覆することによって形成される。
【0029】そして、その被覆にあたっては、通常、インジェクション成形法が採用されるが、それに限られるものではない。また、カバーの樹脂成分においてアイオノマー樹脂を主材とするとは、アイオノマー樹脂を単独で樹脂成分として用いるか、またはアイオノマー樹脂を主成分とし、これにポリエチレン、ポリアミドなどの樹脂またはゴムなどを適宜配合して樹脂成分として用いることをいう。
【0030】カバーの厚みは、特に限定されるものではないが、通常、1.4?2.7mmにされる。そして、カバーの成形時に必要に応じて所望のディンプルが形成され、また、カバー成形後またはカバー成形時に必要に応じてペイント、マーキングなどが施される。」

イ 「【0031】
【実施例】つぎに、実施例をあげて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】実施例1?2および比較例1
表1に示す組成の配合成分を混練して実施例1および比較例1の内核作製用のゴム組成物を調製し、シート化した後、金型に入れ、表1に示すように実施例1については150℃で30分間加硫成形し、比較例1については155℃で25分間加硫成形して、それぞれ外径31mmの内核を作製した。
【0033】そして、実施例2については、表1に示す組成のアイオノマー樹脂と発泡剤との混合物を240℃で10分間インジェクション成形して外径(審決注:「内径」は「外径」の明らかな誤記であるから訂正して摘記した。)31mmの内核を作製した。得られた実施例1?2および比較例1の内核の比重を表1に示す。なお、表1における各材料の配合量は重量部によるものである。
【0034】
【表1】


(注)※1:シス分が90%以上のブタジエンゴム
※2:グラスバブルズ S60/10000(商品名)、住友スリーエム社製
※3:ハイミラン♯1705(商品名)、三井デュポンポリケミカル社製
※4:ポリスレンI 0600HL(商品名)、永和化成社製
【0035】つぎに、表2に示す配合組成の外核作製用のゴム組成物を調製した。この表2における各材料の配合量も重量部によるものである。
【0036】
【表2】

【0037】得られた外核作製用のゴム組成物をそれぞれシート化した後、先に作製しておいた実施例1?2および比較例1の内核の周囲に貼り付け、表3に示す成形条件でプレス加硫によりコアを作製した。
【0038】得られたコアの外径(外核の外径と同じ)、コア重量および表面硬度を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】つぎに、アイオノマー樹脂〔ただし、三井デュポンポリケミカル社製のハイミラン1706(商品名)とハイミラン1605(商品名)との重量比50:50の混合物〕100重量部に酸化チタン(TiO2 )2重量部を添加し混合したカバー材料を調製し、このカバー材料をインジェクション成形法により各コアに被覆して、外径42.7mmのゴルフボールを作製した。
【0041】得られたゴルフボールについて、重量、USGA方式によるコンプレッションおよび飛距離を測定した結果を表4に示す。なお、飛距離はスイングロボットを用いてドライバーでヘッドスピード45m/sで打球したときの場合(表4には、「W♯1でHS45m/s」で示す)および同様にスイングロボットを用いて5番アイアンでヘッドスピード38m/sで打球した場合(表4には、「I♯5でHS38m/s時」で示す)の両者について示す。
【0042】また、表4には、標準的なツーピースソリッドゴルフボールおよび糸巻きゴルフボールの物性について調べた結果についても併せて示す。上記のツーピースソリッドゴルフボールは、ブタジエンゴム100重量部に対してアクリル酸亜鉛30重量部、酸化亜鉛20.5重量部およびジクミルパーオキサイド1.5重量部を配合したゴム組成物を加硫成形し、得られたソリッドコアに前記同様のアイオノマー樹脂系カバーを被覆して外径42.7mmに仕上げたものであり、上記ソリッドコアの外径は38.4mm、重量は34.7gである。
【0043】また糸巻きゴルフボールは、糸巻き構造のコアに前記同様のアイオノマー樹脂系カバーを被覆して外径42.7mmに仕上げたものであり、上記糸巻きコアの外径は38.8mm、重量は35.3mmである。
【0044】
【表4】

【0045】比較例1のゴルフボールは内核の比重を1より大きくしかつ外核の比重と同程度にした3層構造のゴルフボールであるが、表4に示すように、実施例1?2のゴルフボールは、この比較例1のゴルフボールより飛距離が大きく、またツーピースソリッドゴルフボールや糸巻きゴルフボールに比べても、飛距離が大きかった。特に実施例1はコンプレッションが87と低い(つまり、やわらかく、打撃時の衝撃が少ない)にもかかわらず、飛距離が大きかった。」

ウ 上記ア及びイから、引用例1、特にその実施例2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「コアを内核と外核との2層構造にし、その2層構造のコアをカバーで被覆することにより構成したゴルフボールであって、
熱可塑性樹脂であるアイオノマー樹脂100重量部と発泡剤55重量部との混合物をインジェクション成形して外径31mmの内核を作製し、
ブタジエンゴム100重量部、酸化亜鉛135重量部、アクリル酸亜鉛38重量部、ジクミルパーオキサイド1.2重量部からなる外核作製用のゴム組成物を調製し、前記内核の周囲に貼り付け、プレス加硫により外径38.4mmのコアを作製し、
カバー材料をインジェクション成形法により前記コアに被覆してなる、
外径42.7mmのゴルフボール。」

(2) 当審拒絶理由1に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平6-504308号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

「発明の概要
本発明は、ワンピース、ツーピースおよびスリーピースゴルフボールの製造に使用することができる熱可塑性組成物を提供する。更に特に本発明は、その各成分が、4oないし65ポリマー重量%のコポリエーテルエステルおよびコポリエーテルアミドから選ばれる熱可塑性ポリマー、1ないし10ポリマー重量%のエポキシ含有化合物、5ないし20合計重量%の、その密度が約4gm/cc以上の充填剤、そして合計して100重量%になる残りの部分が酸を含むエチレン共重合体アイオノマーからなるワンピースゴルフボール製造のための組成物からなる。
別の実施態様において、本発明はその芯球が50ないし65重量%のコポリエーテルアミドおよびコポリエーテルエステルがら選ばれる熱可塑性ポリマー、1ないし10重量%のエポキシ含有化合物、そして合計して100重量%になる残りの部分が酸を含むエチレン共重合体アイオノマーからなる組成物からなり、好ましくは該熱可塑性ポリマーが本組成物の体積の50容量%よりも大きいことを特徴とする組成物からなるツーピースゴルフボールを提供する。
別の実施態様において、本発明はその芯球が30ないし50ポリマー重量%のコポリエーテルアミドおよびコポリエーテルエステルから選ばれる熱可塑性ポリマー、1ないし10ポリマー重量%のエポキシ含有化合物、15ないし25合計重量%の、その密度が約5gm/ccより大きい充填剤、そして合計して100重量%になる残りの部分が酸を含むエチレン共重合体アイオノマーからなる組成物からなるツーピースゴルフポールを提供する。
更に別の実施態様において、本発明はその中心球が65ないし90重量%のコポリエーテルアミドおよびコポリエーテルエステルから選ばれるから選ばれる熱可塑性ポリマー、1ないし10重量%のエポキシ基を含む化合物、そして全量100重量%に対して残りの酸を含むエチレン共重合アイオノマーからなる組成物からなるスリーピースゴルフボールを提供する。
発明の詳細な説明
本発明を実施する際に使用する成分の種類および量の相対比が希望するゴルフボールの種類(即ち、ワンピース、ツーピースまたはスリーピース)によって少しずつ変化するので、はじめに成分自体を考察するのが有用である。
成分の説明
本発明の熱可塑性ポリマー成分は、コポリエーテルエステルおよびコポリエーテルアミドから選ばれ、…(略)…コポリエーテルアミドもまた当技術分野で良く知られており、例えば米国特許(U.S.Patent)第4,331,786号に記載されている。同コポリエーテルアミドは線状で、規則正しい、剛直なポリアミドセグメント鎖と柔軟なポリエーテルセグメントからなり、下記一般式で表される。

式中
PAは4ないし14個の炭素原子を含む炭化水素鎖を有するラクタムまたはアミノ酸から、または脂肪族C_(6)-C_(9)ジアミンと、4-20個の炭素原子を有する、分子鎖制限脂肪族ジカルボン酸から形成される平均分子量300ないし15,000の線状飽和脂肪族ポリアミドであり、
PEはその分子量が6,000以下の直鎖状、または分枝鎖状脂肪族ポリオキシアルキレングリコール、その混合物、またはそれらから誘導されるコポリエーテルから形成されるポリオキシアルキレン配列であり、そして
nは該ポリエーテルアミド共重合体が約0.8ないし約2.05の極限粘度を有するのに充分な繰り返し単位の数を示す。
これらポリエーテルアミドの製造は、C0OH基が分子鎖末端に位置するジカルボン酸ポリアミドを、その分子鎖末端がヒドロキシル化されているポリオキシアルキレングリコールと、触媒、例えば一般式:Ti(OR)_(4)(式中Rは1ないし24個の炭素原子を有する直鎖状、または分枝鎖状脂肪族炭化水素基である、のテトラアルキルオルトチタン酸の存在下に反応させる段階からなる。もう一度、コポリエーテルアミドに入り込むポリエーテル単位が多ければ多いほど得られるポリマーは軟らかになる。エーテル:アミドの比は、エーテル:エステル比について上述したのと同じ価であり、ショアーD硬度も同じである。」(3頁右下欄10行?4頁右下欄5行)

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「内核」、「外核」、「2層構造のコア」及び「カバー」は、それぞれ、本願発明の「中心構成要素」、「コア層」、「中実2重コア」及び「カバー層」に相当する。

イ 引用発明のゴルフボールは、コアを「中心構成要素(内核)」と「コア層(外核)」との2層構造にし、その「中実2重コア(2層構造のコア)」を「カバー層(カバー)」で被覆することにより構成したものであるから、引用発明の「ゴルフボール」と本願発明の「ゴルフボール」とは、「中心構成要素、および該中心構成要素の周囲に配置されたコア層を有する中実2重コアと、前記中実2重コア上に設けられたカバー層を備え」たものである点で一致する。

ウ 引用発明において、「中心構成要素(内核)」は外径31mm(3.1cm)であり、「中実2重コア(2層構造のコア)」は外径38.4mm(3.84cm)であるから、引用発明は、本願発明の「中心構成要素は、1.27cm(0.500インチ)から3.175cm(1.250インチ)の直径を有し」及び「中実2重コアは3.81cm(1.50インチ)?4.06cm(1.600インチ)の直径を有し」との事項を備えている。

エ 引用発明の「中心構成要素(内核)」は熱可塑性樹脂であるアイオノマー樹脂を含むものであるから、引用発明の「中心構成要素」と本願発明の「中心構成要素」とは、「熱可塑性材料を含」むものである点で一致する。

オ 引用発明の「コア層(外核)」はブタジエンゴムを含むものであるところ、ブタジエンゴムがジエンを含む熱硬化性ポリマーであることは、当業者に自明であるから、引用発明の「コア層」と本願発明の「コア層」とは、「熱硬化性材料を含」むものである点で一致するとともに、引用発明の「コア層の熱硬化性材料」と本願発明の「コア層の熱硬化性材料」とは、「ジエン含有ポリマーを含」むものである点で一致する。

カ 引用発明のゴルフボールは、外径42.7mm(4.27cm)であるから、引用発明の「ゴルフボール」と本願発明の「ゴルフボール」とは、「直径が4.26cm以上の」ものである点で一致する。

キ 上記アないしカから、本願発明と引用発明とは、
「ゴルフボールであって、:
中心構成要素、および該中心構成要素の周囲に配置されたコア層を有する中実2重コアと、前記中実2重コア上に設けられたカバー層を備え、
前記中心構成要素は、1.27cm(0.500インチ)から3.175cm(1.250インチ)の直径を有し、かつ熱可塑性材料を含み、そして前記コア層は、熱硬化性材料を含み、前記中実2重コアは3.81cm(1.50インチ)?4.06cm(1.600インチ)の直径を有し、;
前記コア層の熱硬化性材料はジエン含有ポリマーを含む、
直径が4.26cm以上のゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記2重コアが、本願発明では、「0.689?0.756の反発係数」と「79?99のRiehle圧縮率」とを有するものであるのに対して、引用発明では、そのようなものであるのか明らかでない点。

相違点2:
前記中心構成要素の熱可塑性材料が、本願発明では、「(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミドから成る群から選択される材料を含」むものであるのに対して、引用発明では、アイオノマーである点。

相違点3:
前記カバー層が、本願発明では、「内側カバー層と前記内側カバー層上に配置された外側カバー層を含み、前記内側カバー層は低酸性アイオノマー樹脂から成り、0.254mm(0.010インチ)?2.54mm(0.100インチ)の範囲の厚さと、65以上のショアD硬度を有し、前記外側カバー層はポリウレタン系エラストマーから成る0.254mm(0.010インチ)?2.54mm(0.100インチ)の範囲の厚さと、55未満のショアD硬度を有する」ものであるのに対して、引用発明では、そのようなものでない点。

3 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
(1)相違点1について
ゴルフボールのコアの反発係数及びRiehle圧縮率の具体的数値は、いずれも当業者が適宜決定すべき設計事項というべきものであるから、引用発明のコアの反発係数及びRiehle圧縮率を、それぞれ、「0.689?0.756」及び「79?99」の値に設定し、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得た設計上のことである。

(2)相違点2について
ア ゴルフボールのコアの具体的材料は、当業者が適宜決定すべき設計事項というべきものである。
イ 引用例2には、ゴルフボールの芯材の熱可塑性材料として、線状で、規則正しい、剛直なポリアミドセグメント鎖と柔軟なポリエーテルセグメントからなる下記一般式で表されるコポリエーテルアミド

(式中
PAは4ないし14個の炭素原子を含む炭化水素鎖を有するラクタムまたはアミノ酸から、または脂肪族C_(6)-C_(9)ジアミンと、4-20個の炭素原子を有する、分子鎖制限脂肪族ジカルボン酸から形成される平均分子量300ないし15,000の線状飽和脂肪族ポリアミドであり、
PEはその分子量が6,000以下の直鎖状、または分枝鎖状脂肪族ポリオキシアルキレングリコール、その混合物、またはそれらから誘導されるコポリエーテルから形成されるポリオキシアルキレン配列である。)を含むものが記載されている(上記1(2)参照。)。

ウ 上記ア及びイから、引用発明の中心構成要素の熱可塑性材料として、コポリエーテルアミドを含むものを用いることは、当業者が引用例2に記載された事項に基づいて容易に想到し得た程度のことである。

エ 上記ウの「コポリエーテルアミド」は、「ポリマーブロックアミド」である(特表平9-509860号公報10頁8行?11頁16行「本発明の好適なバルーンは、ポリアミド/ポリエーテルブロックコポリマーよりなる。ポリアミド/ポリエーテルブロックコポリマーは一般的にアクロニムPEBA(ポリマーブロックアミド)の存在によりそれと同定される。これらのブロックコポリマーにおけるポリアミド及びポリエーテルセグメントは、アミド結合によって結合している場合もあるが、最も好適には、エーテルの結合によって生じたポリマーであり、たとえばポリアミド/ポリエーテルポリエステルである。このようなポリアミド/ポリエーテル/ポリエステルブロックコポリマーは、ジカルボキシルポリアミドとポリエーテルジオールの融解した状態における縮合反応によって生成する。この結果、ポリアミド及びポリエーテルのブロックからなる短い鎖状のポリエステルが生成される。ポリアミドとポリエーテルブロックは混和しない。このようにして、この材料物質は、二相構造によって特徴づけられる。すなわち、主にポリアミドからなる熱可塑性の部分と、ポリエーテルに富むエラストマー部分である。ポリアミドセグメントは、室温で半結晶性である。
これらのポリエステルポリマーの一般化学式は、次式で表される。

ここで、PAはポリアミドセグメント、PEはポリエーテルセグメントを示し、反復数nは、5から10である。
ポリアミドセグメントはナイロン12、11、9、6、6/12、6/11、6/9または6/6のような適当な脂肪族ポリアミドからなる。中でもナイロン12セグメントが最も好ましい。ポリアミドセグメントは、芳香族ポリアミドからも構成されうるが、その場合、有意に低い柔軟性特性をもつことが予想される。ポリアミドセグメントは比較的低い分子量をもち、一般的には500-8,000の範囲であるが、2,000-6,000が好ましく、3,000から5,000が最も好ましい。
ポリエーテルセグメントは脂肪族ポリエーテルであり、エーテル結合間に最少2から最大10の直鎖飽和脂肪族炭素を有する。エーテルセグメントがエーテル結合間に4個から6個の炭素をもつのがより好ましく、ポリ(テトラメチレンエーテル)セグメントが最も好ましい。この好適なテトラメチレンエーテルセグメントに代えて使用可能な他のポリエーテルには、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(ペンタメチレンエーテル)、及びポリ(ヘキサメチレンエーテル)が挙げられる。ポリエーテル中における炭化水素の部位は、分枝していてもよい。2-エチルヘキサンジオールのポリエーテルが一つの例である。一般的にこのような分枝は2個以上の炭素原子を含まないであろう。ポリエーテルセグメントの分子量は、約400から2,500の範囲が適しており、中でも650から1000が好ましい。」参照。)といえるから、本願発明の「(i)ナイロンとアイオノマー樹脂のブレンド、(ii)ポリカーボネート及び(iii)ポリマーブロックアミドから成る群から選択される材料」に相当する。

オ 上記ウ及びエから、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例2に記載された事項に基づいて容易になし得た程度のことである。

(3)相違点3について
ア 厚さ0.254?2.54mm、ショアD硬度65以上のアイオノマー樹脂からなる内側カバー層と、厚さ0.254?2.54mm、ショアD硬度55未満のポリウレタン系エラストマーからなる外側カバー層との2層構造のカバーを有するゴルフボールは、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術1」という。例.特開平9-220299号公報特に「【0015】本発明において、カバーを構成する外層は内層より薄く形成することがボールの反発性を向上させる点などから好ましく、この場合、内層の厚さは0.5?1.5mm、特に0.8?1.2mmであることが好ましく、外層の厚さは0.3?1.5mm、特に0.5?1.0mmであることが好ましい。
【0016】カバーを構成する外層の樹脂のショアーD硬度は40?55、特に45?52であることが好ましく、内層の樹脂のショアーD硬度は55?68、特に60?65であることが好ましい。更に、外層は内層より軟らかく形成することがコントロール性を向上させる点から好ましく、内層樹脂と外層樹脂との硬度差はショアーD硬度で5以上、特に8以上であることが好ましい。
【0017】なお、本発明において、カバーの外層上に塗膜を形成することは差支えない。
【0018】上記内層及び外層を構成するカバー組成物としては、ゴルフボールのカバー材として好適な性能を有する公知の材料で形成することができ、例えばアイオノマー樹脂、ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー等を単独で、或いはこれらの樹脂にポリアミド系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体等を混合した樹脂混合物を用いることができるが、本発明においては特にアイオノマー樹脂を主材とし、2種以上のアイオノマー樹脂を組合わせて用いることが好適である。また、上記カバー組成物には酸化チタン、硫酸バリウム、分散剤、顔料等を適宜配合することができ、これらの配合量を調整することによりカバーのLab表色を最適なものに調整することができる。この場合、分散剤としてはステアリン酸マグネシウムなどを用いることができ、顔料としては群青などのブルーイング剤などが挙げられる。なお、上記カバー組成物は公知の混練方法により十分に混練され、加熱加圧成型のために半殻球状の2枚のハーフカップに形成される。」、特開平9-248351号公報特に「【0010】ここで、本発明の多層構造のカバーからなるゴルフボールにおいて、コアを被覆する最内層カバーは好ましくはショア-D硬度が55度未満、特に40?51度、次の最内中間層カバーは好ましくはショア-D硬度が55度以上、特に61?66度、更に最外層カバーは好ましくはショアーD硬度が55度未満、特に34?52度に形成する。この場合、上記3条件を満たすこと、即ち、最内層カバーと最外層カバーとを最内中間層カバーより軟らかく形成することが本発明の優れた作用効果を発揮させるために必要であり、上記カバーのショアーD硬度が上記最適範囲をはずれるとフィーリングが硬くなり、ボール初速が出なくなり、スピン特性も低下する場合がある。
【0011】なお、本発明では、中間層カバーは1層以上、より好ましくは1?2層に形成することができ、中間層カバーが2層以上の場合、最内層カバーのすぐ上を覆うカバーを最内中間層カバー(例えば、4層構造のカバーからなる場合には、最外層側から3層目、5層構造のカバーからなる場合には、最外層側から4層目を指す。)とし、これ以外の中間カバー層の硬さは、飛び性能を追求したければ硬いカバーを用い、一方、フィーリング性をより重視したければ軟らかいカバーを用いることが好ましい。
【0012】また、最内層カバーの厚さは1.0?2.0mm、特に1.4?1.8mmであることが好ましく、その材質は特に制限されないが、アイオノマー樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー等が好適に使用できる。このアイオノマー樹脂としては、従来から公知のものを用いることができ、例えば、三井・デュポンポリケミカル社製の「ハイミラン」、米国デュポン社製の「サーリン」、エクソン化学社製の「アイオテック」などが例示され、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、アイオノマー樹脂等に二酸化チタン、硫酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム等を添加して、比重、硬度を調整することができる。更に、必要に応じてUV吸収剤、酸化防止剤、金属石鹸等の分散助剤などを添加することもできる。なお、上記最内層カバーをコアに被覆する方法は特に制限されず、通常は予め半球殻状に成形した2枚のカバーでコアを包み、加熱加圧成形するか、カバー用組成物を射出成形してコアを包み込む方法等が好適に採用される。
【0013】中間層カバーの厚さは、3層構造のカバーからなるゴルフボールの場合には、1.7?2.5mm、特に1.9?2.3mmであることが好ましく、その材質は主に上記同様のアイオノマー樹脂で形成することができ、その被覆方法は制限されず、射出成形法又は加熱加圧成形法が採用できる。
【0014】なお、中間層カバーが2層以上の複数層からなる場合には、これらカバーを合わせた全体を中間層カバーと考えて上記厚さの範囲であることが好ましい。またこの場合において、最内層カバーのすぐ上を覆う最内中間層カバーの厚さが複数の中間層カバーのうちで最も厚いことが好ましく、特に1.7mm以上であることが好ましい。また、この最内中間層カバーは複数の中間層カバーのうちで最も硬いことが好ましく、上述したようにショアーD硬度が55度以上、特に61?66度であることが好ましい。この場合、その他の中間層の硬さは最外層カバーや最内層カバーの硬度と同程度もしくはそれよりわずかに小さいことが好ましく、具体的にはショアーD硬度が30?54度、特に30?52度であることが好ましい。なお、その他の中間層はアイオノマー樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー等にて形成することができる。
【0015】最外層カバーの厚さは、0.02?1.1mm、特に0.1?0.5mmであることが好ましく、その材質はアイオノマー樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリウレタン、ポリエチレン等を単独で、またはその1種又は2種以上を混合して用いることができる。」、特開平9-271536号公報特に「【0022】次に、本発明の糸巻きゴルフボールのカバー3は、上記したように外層6及び内層7からなる2層構造に形成されてなるものである。これら各層6、7は、アイオノマー樹脂、ポリウレタンエラストマー、バラタゴム等の公知のカバー用樹脂に必要によりチタン白等の顔料、ステアリン酸マグネシウム等の分散剤等を常用量添加した組成物から形成することができるが、この場合、外層は低硬度に、内層は外層よりも高硬度に形成するものである。
【0023】ここで、上記外層6は、ショアD硬度で30?58、好ましくは35?55の比較的軟らかい層として形成するものであり、これにより、特にアプローチショットのスピン量を増大させてコントロール性を向上させるものである。このカバー外層6を形成する材料としては、上記硬度を達成し得るものであればよく、例えばハイミラン8120,8220,8320(商品名:三井・デュポンポリケミカル社製)やこれらの少なくとも2種の混合物等のアイオノマー樹脂やパンデックス(商品名:大日本インキ化学工業社製)等のポリウレタンエラストマーやバラタゴムを用いることができる。」、特開平9-271536号公報特に「【0024】このカバー外層の厚さは、特に制限されるものではないが、0.5?2mm、特に0.7?1.5mmとすることが好ましく、0.5mm未満であると十分なコントロール性向上効果が得られない場合があり、一方2mmを超えるとカバー3全体として軟らかくなりすぎ、反発性の低下を招く場合がある。
【0025】また、上記カバー内層7はショアD硬度で55?68、好ましくは60?66の比較的硬い層として形成するものであり、これにより、良好な反発性を確保することができるものである。このカバー内層7を形成する材料としては、上記硬度を達成し得るものであれば良く、例えば、ハイミラン1554,1555,1601,1702,1705,1706(商品名:三井・デュポンポリケミカル社製)やこれらの少なくとも2種の混合物等のアイオノマー樹脂、パンデックス(商品名:大日本インキ化学工業社製)等のポリウレタンエラストマー等を用いることができる。
【0026】このカバー内層の厚さは、特に制限されるものではないが、0.5?2mm、特に0.7?1.5mmとすることが好ましく、0.5mm未満であると十分な反発性が得られず飛距離の低下を招く場合があり、一方2mmを超えるとカバー3全体として硬くなりすぎ、コントロール性や打感の低下を招く場合がある。」及び特開平9-271535号公報((上記特開平9-271536号公報と同様の記載。)参照。)。

イ 本願明細書には、「【0052】…(略)…本発明の内側層カバー組成物に含まれ得る低酸性アイオノマー樹脂の各々は、16重量%またはそれより少ないカルボン酸を含有する。」と記載されている。

ウ 上記イに照らせば、低酸性アイオノマー樹脂から成り、65以上のショアD硬度を有するアイオノマー樹脂は、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術2」という。例.特開平6-114124号公報特に【0030】及び【0031】に記載の「Surlyn(TM)8920」及び特開平6-343718号公報(前記特開平6-114124号公報と同様の記載)参照。)。

エ 上記アないしウから、引用発明のカバー層を、厚さ0.254?2.54mm、ショアD硬度65以上のアイオノマー樹脂からなる内側カバー層と、厚さ0.254?2.54mm、ショアD硬度55未満のポリウレタン系エラストマーからなる外側カバー層との2層構造とするとともに、前記アイオノマー樹脂を低酸性のものとし、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術1及び2に基づいて容易になし得た程度のことである。

(4)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、引用例2に記載された事項並びに周知技術1及び2の奏する効果から、当業者が予測することができた程度のものである。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
上記第4及び第5のとおり、本願は、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件及び特許法第36条第6項に規定する要件のいずれも満たしていない。
また、上記第6のとおり、本願発明は、当業者が、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-24 
結審通知日 2011-05-31 
審決日 2011-06-13 
出願番号 特願2000-537612(P2000-537612)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63B)
P 1 8・ 537- WZ (A63B)
P 1 8・ 536- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大澤 元成  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 ゴルフボールのための新規な2重コア  
代理人 伊東 忠彦  

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