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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1245938
審判番号 不服2008-15528  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-19 
確定日 2011-10-31 
事件の表示 特願2003-209196「ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物とその発泡体、および発泡体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年3月17日出願公開、特開2005-68203〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成15年8月28日の出願であって、平成20年1月21日付けで拒絶理由が通知され、同年3月24日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年5月9日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年6月19日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月17日に手続補正書が提出され、同年9月4日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年9月8日に手続補足書が提出され、平成21年1月8日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審で平成22年11月16日付けで審尋がなされ、それに対して平成23年1月22日に回答書が提出されたものである。



第2 平成20年7月17日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年7月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年7月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成20年3月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲について、
「【請求項1】
ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、パウダー粒子を含むポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であって、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物。
【請求項2】
ポリマー成分100重量部に対し、パウダー粒子を5?150重量部含有することを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を発泡成形させてなるポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項4】
相対密度が0.02?0.30の範囲にある請求項3記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項5】
ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、パウダー粒子を含むキャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を発泡成形することを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項6】
高圧ガスを用いて発泡させることを特徴とする請求項5記載のポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項7】
高圧ガスが二酸化炭素又は窒素である請求項6記載のポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項8】
高圧ガスとして超臨界状態の二酸化炭素を用いる請求項7記載のポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法。」を、
「【請求項1】
ポリエチレンまたはポリプロピレン100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、ポリマー成分100重量部に対し、粒径が0.1?10μmのパウダー粒子を5?150重量部含むポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であって、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物。
【請求項2】
請求項1記載のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を発泡成形させてなるポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項3】
相対密度が0.02?0.30の範囲にある請求項2記載のポリオレフィン系樹脂発泡体。
【請求項4】
ポリエチレンまたはポリプロピレン100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、ポリマー成分100重量部に対し、粒径が0.1?10μmのパウダー粒子を5?150重量部含むキャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を発泡成形することを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項5】
高圧ガスを用いて発泡させることを特徴とする請求項4記載のポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項6】
高圧ガスが二酸化炭素又は窒素である請求項5記載のポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法。
【請求項7】
高圧ガスとして超臨界状態の二酸化炭素を用いる請求項6記載のポリオレフィン系樹脂発泡体の製造方法。」とする補正事項を含むものである。

2.補正の目的について
上記補正事項は、次の補正事項Aを含むものである。

補正事項A:
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1について、
「パウダー粒子」を、
「粒径が0.1?10μmのパウダー粒子」と補正する。

補正事項Aは、本件補正前の請求項1に、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)であるパウダー粒子の粒径を0.1?10μmと規定するものであって、これは願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落0016の記載に基づくものであり、補正事項Aは、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
しかしながら、本件補正前の請求項において、パウダー粒子の「粒径」については、発明特定事項として何ら規定していないものであるから、パウダー粒子について、かかる点を新たに「粒径が0.1?10μm」と補正する補正事項Aは、本件補正前の請求項に記載した発明特定事項を限定するものであるということはできない。
したがって、補正事項Aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても、本件補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるということはできず、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる、いわゆる請求項の限定的減縮を目的とするものであるということはできない。
さらに、補正事項Aは、請求項の削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とするものではない。
よって、補正事項Aは、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではない。

3.独立特許要件について
仮に、補正事項Aを含む本件補正が、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるとした場合に、本件補正が、同条第5項において準用する同法第126条第5項に規定を満たすものか否かについて以下検討する。

(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、平成20年7月17日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「補正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリエチレンまたはポリプロピレン100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、ポリマー成分100重量部に対し、粒径が0.1?10μmのパウダー粒子を5?150重量部含むポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であって、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物。」

(2)補正明細書の記載事項
補正明細書には、以下の記載がある。
(1)「【発明の属する技術分野】本発明は柔らかさ、クッション性、断熱性等の点で優れたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物とその発泡体、およびその製造方法に関する。特に本発明は、厚みのある発泡体を製造するのに好適なポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物に関する。」(段落0001)

(2)「【従来の技術】電子機器等の内部絶縁体、緩衝材、遮音材、断熱材、食品包装材、衣用材、建材用等として用いられる発泡体には、部品として組み込まれる場合にそのシール性等を確保するという観点から、柔軟性、クッション性及び断熱性等の特性が要求される。またシール性を保持するために、一定の厚みを確保することも要求されている。このような発泡体として、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂発泡体が知られているが、これらの発泡体は、強度が弱く、柔らかさ、クッション性の点でも十分でないという問題があった。これらを改良する試みとして発泡の倍率を高くしたり、ポリオレフィン系樹脂にゴム成分などを配合して素材自体を柔らかくすることが行われている。しかし、通常のポリエチレンやポリプロピレンでは高温で伸長させた粘度、すなわち伸長粘度が低く、高発泡倍率を得ようとしても発泡時に気泡壁が破れてしまいガス抜けが生じたり、気泡の合一が生じたりして思うように発泡倍率の高い柔らかい発泡体を得ることは困難であった。
従来、ポリマー発泡体の製造法として化学的方法及び物理的方法等が知られている。一般的な物理的方法は、クロロフルオロカーボン類又は炭化水素類などの低沸点液体(発泡剤)をポリマーに分散させ、次に加熱し発泡剤を揮発させることにより気泡を形成させるものである。また、化学的方法は、ポリマーベースに添加された化合物(発泡剤)の熱分解により生じたガスにより気泡を形成することにより発泡体を得るものである。しかしながら物理的方法による発泡技術は、発泡剤として用いる物質の有害性やオゾン層の破壊など各種の環境への問題が存在し、また化学的方法による発泡技術は、ガスを発生させた発泡剤の残渣が発泡体中に残り、特に電子部品用途などにおいては汚染の問題になる。
また、近年、気泡径が小さく気泡密度の高い発泡体を得る方法として、窒素や二酸化炭素等の気体を高圧にてポリマー中に溶解させた後、圧力を解放し、ポリマーのガラス転移温度や軟化点付近まで加熱することにより気泡を形成させる方法が提案されている。この発泡方法では、熱力学的不安定な状態から核が形成され、この核が膨張成長することで気泡が形成され微孔性発泡体が得られる。この方法によれば、今までにない微孔質の発泡体を得ることができるという利点を有している。そして、この発泡法を熱可塑性ポリウレタンなどの熱可塑性エラストマーに適用しようとする試みが種々提案されている。しかしながら十分な発泡倍率が得られず、形成される発泡体の厚みも薄いものに限定されてしまっていた。
これらの問題に対し、例えば230℃での溶融張力が1cNを超えるポリオレフィン系樹脂とゴム又は熱可塑性エラストマー成分からなるポリオレフィン系樹脂発泡体、および超臨界状態の二酸化炭素を用いる発泡体の製造方法が提案されている(特許文献1)。また、特定の伸長粘度および重量平均分子量他で規定したポリスチレン組成物が、発泡性に優れることが記載されている(特許文献2)。
【特許文献1】
特開2001-348452号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開平09-208771号公報(特許請求の範囲)」(段落0002?0006)

(3)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、柔らかさやクッション性に優れ十分な厚みのあるポリオレフィン系樹脂発泡体とその製造方法を提供することにある。」(段落0007)

(4)「【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決すべく研究した結果、ポリエチレンまたはポリプロピレン100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、ポリマー成分100重量部に対し、粒径が0.1?10μmのパウダー粒子を5?150重量部含むポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であって、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を発泡成形すると、発泡後に大きな収縮や変形を起こすことなく気泡が成長し、気泡の形状を保持できるため発泡体の厚みも厚くすることができ、優れたクッション性を有する発泡体が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、ポリエチレンまたはポリプロピレン100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、ポリマー成分100重量部に対し、粒径が0.1?10μmのパウダー粒子を5?150重量部含むポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であって、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物、および該ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を発泡成形したポリオレフィン系樹脂発泡体を提供する。」(段落0008?0009)

(5)「【発明の実施の形態】本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物は、ポリエチレンまたはポリプロピレンと、熱可塑性オレフィン系エラストマーからなるポリマー成分と、パウダー粒子で構成されている。
本発明のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂などが挙げられる。このようなタイプのポリオレフィン系樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンとの共重合体、エチレン又はプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ビニルアルコール等との共重合体、これらの混合物などの何れでもよい。特に発泡成形時の熱加工性、発泡後の形状固定性などの点から、ポリエチレンまたはポリプロピレンが好適に用いられる。前記『他のα-オレフィン』としては、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1等が例示できる。また、共重合体はランダム共重合体及びブロック共重合体の何れであってもよい。
本発明のゴムあるいは熱可塑性エラストマー成分としては、発泡可能なものであれば特に制限はなく、例えば、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルブチルゴムなどの天然又は合成ゴム;エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー;スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、及びそれらの水素添加物などのスチレン系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;ポリウレタン系エラストマーなどの各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらのゴムあるいは熱可塑性エラストマー成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
本発明においては、上記ゴムあるいは熱可塑性エラストマー成分として、熱可塑性のオレフィン系エラストマーが好適に用いられる。オレフィン系エラストマーは、オレフィン成分とエチレン-プロピレンゴムがミクロ相分離した構造を有したエラストマーであり、前記ポリオレフィン系樹脂との相溶性が良好である。
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分には、ポリエチレンまたはポリプロピレンと、熱可塑性エラストマーを含む。熱可塑性エラストマー成分の量は、前記ポリエチレンまたはポリプロピレン100重量部に対して、10?150重量部、好ましくは30?100重量部とするのが望ましい。熱可塑性エラストマー成分の量が10重量部未満では発泡体としてのクッション性が低下しやすく、150重量部を超えると発泡時にガスが抜けやすくなるため高発泡体を得難い。
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物は、パウダー粒子を含む。パウダー粒子は、その主な目的として発泡成形時の核剤として機能するものであり、例えばタルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を用いる事ができる。これらパウダー粒子の粒径は、0.1?10μm程度のものが好ましく、パウダー粒子の粒径が0.1μm未満では核剤として十分機能しない場合があり、粒径が10μmを超えると発泡成形時にガス抜けの原因となる場合があり好ましくない。
本発明においてパウダー粒子は、ポリマー成分100重量部に対し5?150重量部、好ましくは10?130重量部含有することが望ましい。パウダー粒子が5重量部未満では均一な発泡体を得がたく、150重量部を超えるとポリオレフィン系樹脂発砲体用組成物としての粘度が著しく上昇するとともに、発砲成形時にガス抜けが生じ発砲特性を損なう恐れがある。」(段落0011?0017)

(6)「本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物は、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであることを特徴とし、好ましくは30?90kPa・sである。ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の伸長粘度を20?100kPa・sとすることで、その発泡成形時に気泡壁が破壊しにくくなり、高発泡倍率を得ることができる。またダイでの圧力をギャップが広い条件においても保持できるため、発泡体の厚みを厚くすることができる。したがって、伸長粘度が20kPa・s未満ではダイ先端部での圧力を立てにくく、圧力を立てるためにはギャップを狭くする必要があり厚い発泡体を得られない。またギャップを狭くしシート厚みが薄くなると気泡内からのガス抜けが多くなり、さらに発泡倍率が低下する。一方、伸長粘度が100kPa・sを超えると、発泡体の成形性が低下する場合があり、発泡成形後の発泡体の表面が粗れる場合がある。
なお本発明においては、伸長粘度は以下の方法により測定される。
測定装置:ロザンドプレシジョン社製ツインキャピラリーレオメーター『RH7-2型』
ロングダイ:φ1mm、長さ16mm、入射角180°(L/D=16)
ショートダイ:φ1mm、長さ0.25mm、入射角180°(L/D=0.25)
キャピラリーレオメーターのキャピラリー中にペレット状の樹脂を投入し、所定の温度で10分程度加熱する。溶融した樹脂は、ピストンがある一定速度で押し下げられることによって、下側のキャピラリーを通して樹脂が押し出される。この時の樹脂の圧力をキャピラリーの入り口近くに設置された圧力センサーにより測定する。このようにして測定された圧力を、以下の式により粘度の値として算出する。
P_(0)=(P_(S)・L_(L)-P_(L)・L_(L))/(L_(L)-L_(S))
ここで、
P_(0):圧力損失[MPa]
P_(L):ロングダイで測定した圧力損失[MPa]
P_(S):ショートダイで測定した圧力損失[MPa]
L_(L):ロングダイの長さ[mm]
L_(S):ショートダイの長さ[mm]
これより、伸長粘度λ[kPa・s]は、以下の式により算出される。
λ=9(n+1)^(2)P_(0)/(32ηγ)
ここで、
η:せん断速度[1/s]
γ:せん断粘度[kpa・s] τ=k・γ^(n)より算出され、τはせん断応力[kpa]である。
n:パワーローインデックス
k:定数」(段落0021?0022)

(7)「実施例1
ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)120重量部、カーボン10重量部を、JSW製二軸混練機にて200℃の温度で混錬した後、ストランド状に押出し、水冷後ペレット状に切断して、200℃での伸長粘度が40.3kPa・sであるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製した。このペレットをJSW製単軸押出機に投入し、220℃の雰囲気中、22(注入後19)MPa/cm^(2 )の圧力でガスを注入した。ガスを十分飽和させた後、発泡に適した温度まで冷却後、ダイから押出し、発泡体を得た。発泡体の相対密度は0.150であり、50%圧縮強度は3.5N/cm^(2)であった。またダイのギャップは0.2mmで、そのときの発泡体の厚みは1.4mmであった。
実施例2
ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、ポリエチレン10重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)120重量部、カーボン10重量部を、JSW製二軸混練機にて200℃の温度で混錬した後、ストランド状に押出し、水冷後ペレット状に切断して、200℃での伸長粘度が52.5kPa・sであるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製した。このペレットをJSW製単軸押出機に投入し、220℃の雰囲気中、19(注入後16)MPa/cm^(2 )の圧力でガスを注入した。ガスを十分飽和させた後、発泡に適した温度まで冷却後、ダイから押出し、発泡体を得た。発泡体の相対密度は0.125であり、50%圧縮強度は2.5N/cm^(2)であった。またダイのギャップは0.2mmで、そのときの発泡体の厚みは1.7mmであった。
実施例3
ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、ポリエチレン10重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)120重量部、カーボン10重量部を、JSW製二軸混練機にて200℃の温度で混錬した後、ストランド状に押出し、水冷後ペレット状に切断して、200℃での伸長粘度が83.7kPa・sであるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製した。このペレットをJSW製単軸押出機に投入し、220℃の雰囲気中、18(注入後16)MPa/cm^(2) の圧力でガスを注入した。ガスを十分飽和させた後、発泡に適した温度まで冷却後、ダイから押出し、発泡体を得た。発泡体の相対密度は0.110であり、50%圧縮強度は2.1N/cm^(2)であった。またダイのギャップは0.2mmで、そのときの発泡体の厚みは2.1mmであった。
実施例4
ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、ポリエチレン10重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)10重量部、カーボン10重量部を、JSW製二軸混練機にて200℃の温度で混錬した後、ストランド状に押出し、水冷後ペレット状に切断して成形して、200℃での伸長粘度が43.0kPa・sであるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製した。このペレットをJSW製単軸押出機に投入し、220℃の雰囲気中、13(注入後12)MPa/cm^(2 )の圧力でガスを注入した。ガスを十分飽和させた後、発泡に適した温度まで冷却後、ダイから押出し、発泡体を得た。発泡体の相対密度は0.04であり、50%圧縮強度は1.2N/cm^(2)であった。またダイのギャップは0.3mmで、そのときの発泡体の厚みは1.9mmであった。
比較例1
ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー50重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)100重量部、カーボン10重量部を、JSW製二軸混練機にて200℃の温度で混錬した後、ストランド状に押出し、水冷後ペレット状に切断して、200℃での伸長粘度が10.6kPa・sであるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製した。このペレットをJSW製単軸押出機に投入し、220℃の雰囲気中、22(注入後19)MPa/cm^(2) の圧力でガスを注入した。ガスを十分飽和させた後、発泡に適した温度まで冷却後、ダイから押出し、発泡体を得ることを試みた。しかしダイのギャップを装置の限界まで閉めた(0.1mm)が、ダイ内部での圧力を保持することができなかったため、十分発泡せず、シート化することはできなかった。」(段落0040?0044)

(3)補正明細書の記載不備(特許法第36条第4項第1号)についての判断
特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」と定めている。
これは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。そこで、この点について以下に検討する。

補正発明におけるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物において、「キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])(以下、「特定伸長粘度」という。)が20?100kPa・sである」との要件(以下、「要件X」という。)を満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を得ることに関し、補正明細書の発明の詳細な説明をみるに、上記第2 3.(2)のとおりのことが記載されている。
以上の補正明細書の記載をふまえ、補正明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて判断する。

特許庁編「特許・実用新案 審査基準」には、「第I部 明細書 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件 3.発明の詳細な説明の記載要件 3.2.1 実施可能要件の具体的運用」において、「(2)物の発明についての『発明の実施の形態』
物の発明について実施をすることができるとは、・・・その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであるから、『発明の実施の形態』も、これらが可能となるように記載する必要がある。
・・・
○2『作ることができること』(『○2』は、丸囲み数字の2であるが表記できないので、このように表記した。)
物の発明については、当業者がその物を製造することができるように記載しなければならない。このためには、どのように作るかについての具体的な記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できる場合を除き、製造方法を具体的に記載しなければならない。
機能・特性等によって物を特定しようとする記載を含む請求項において、その機能・特性等が標準的なものでなく、しかも当業者に慣用されているものでもない場合は、当該請求項に係る発明について実施可能に発明の詳細な説明を記載するためには、その機能・特性等の定義又はその機能・特性等を定量的に決定するための試験・測定方法を示す必要がある。
なお、物の有する機能・特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野(例:化学物質)において、機能・特性等で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物(及びその具体的な物から技術常識を考慮すると製造できる物)以外の物について、当業者が技術常識を考慮してもどのように作るか理解できない場合(例えば、そのような物を作るために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)は、実施可能要件違反となる。」と記載されている。
ここで、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物は、特定伸張粘度が所定値であるという機能あるいは特性によって、組成物である物を特定しようとするものであることから、補正発明は、機能・特性等によって物を特定しようとする発明に該当し、補正発明にかかる技術分野は、物の有する機能・特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野に該当するものといえる。
そこで、かかる審査基準の記載に従い、補正発明の要件Xについて、
○その機能・特性等が標準的なものであるかどうか、あるいは当業者に慣用されているものであるかどうか
○それに該当しない場合に、その機能・特性等の定義又はその機能・特性等を定量的に決定するための試験・測定方法を示しているか否か
○その機能・特性等で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物(及びその具体的な物から技術常識を考慮すると製造できる物)以外の物について、当業者が技術常識を考慮してどのように作るか理解できるかどうか(そのような物を作るために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるかどうか)
という点について、以下順次検討する。

ア 特定伸長粘度についての技術常識
前提として、伸張粘度とは、一定のひずみ速度で一定温度下での粘度のことであり、これを指標として溶融樹脂の成形加工性を評価することは周知慣用のものであることは理解できるものの、伸張粘度を測定する際のひずみ速度(「せん断速度」と同じ。)あるいは温度が変化すれば、測定される伸張粘度の値も変化すると解される(それゆえにこそ、補正発明において、温度とせん断速度とを規定しているといえる。)から、温度200℃、せん断速度5000[1/s]といった特定の条件下で、しかもキャピラリーレオメーターで測定される伸張粘度、すなわち特定伸長粘度を指標として溶融樹脂の成形加工性を評価することまで、本願出願時の技術常識とはいえない。
そして、補正発明におけるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の原料成分である「ポリエチレンまたはポリプロピレン」又は「熱可塑性オレフィン系エラストマー」の特定伸張粘度の値は、商品カタログにおけるデータなどにより当業者が知ることができるとはいえないし、特定伸張粘度の値が所定値(例えば、要件Xを満足する値)である「ポリエチレンまたはポリプロピレン」又は「熱可塑性オレフィン系エラストマー」、あるいはそれらの混合物が、当業者にとり自明のものであるということもできない。
仮に、長鎖分岐を持った樹脂や高分子量成分を含む樹脂の方が伸張粘度が大きい値を示す傾向があることが知られていたとしても、実際に、長鎖分岐を持つ、あるいは高分子量成分を含む、「ポリエチレンまたはポリプロピレン」又は「熱可塑性オレフィン系エラストマー」であっても、その長鎖分岐あるいは高分子量成分の具体的な程度としては様々のものが存在しており、それら各々の場合についての特定伸張粘度が具体的にどのような値を示すのかについては、当業者にとり自明のことであるということはできない。
ましてや、補正発明は、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物という「組成物」の特定伸張粘度を規定するものであって、原料ポリマー成分を構成する「ポリエチレンまたはポリプロピレン」と「熱可塑性オレフィン系エラストマー」との各成分の種類及び配合割合によって、「組成物」の特定伸張粘度の値は影響を受けるといえ、加えて、かかる組成物は、ポリマー成分100重量部に対し、「粒径が0.1?10μmのパウダー粒子を5?150重量部含む」ものであって、当該「粒径が0.1?10μmのパウダー粒子」の配合によっても、「組成物」の特定伸張粘度の値は影響を受けるといえるから、たとえ、当該「組成物」の原料ポリマー成分である「ポリエチレンまたはポリプロピレン」、「熱可塑性オレフィン系エラストマー」それぞれの特定伸張粘度の値が知られていたとしても、結局のところ、当該「組成物」の特定伸張粘度は、原料成分である「ポリエチレンまたはポリプロピレン」、「熱可塑性オレフィン系エラストマー」それぞれの特定伸張粘度の値から単純に計算により求められるものではないことは明らかである。
したがって、補正発明における「組成物」の特定伸張粘度は、本願出願時において、標準的なものであるということはできず、また当業者に慣用されているということもできない。

イ 特定伸張粘度の定義・測定方法
上記アで述べたとおり、特定伸張粘度が標準的なものでなく、しかも当業者に慣用されているものでもないことから、補正発明について実施可能に発明の詳細な説明を記載するためには、特定伸張粘度の定義又は特定伸張粘度を定量的に決定するための試験・測定方法を示す必要があるとされている。そこで、この点について以下に検討する。
特定伸張粘度の定義については、補正明細書中において特に規定されておらず、その具体的な測定方法及び算出方法としては、補正明細書の段落0022において、「測定装置:ロザンドプレシジョン社製ツインキャピラリーレオメーター『RH7-2型』
ロングダイ:φ1mm、長さ16mm、入射角180°(L/D=16)
ショートダイ:φ1mm、長さ0.25mm、入射角180°(L/D=0.25)
キャピラリーレオメーターのキャピラリー中にペレット状の樹脂を投入し、所定の温度で10分程度加熱する。溶融した樹脂は、ピストンがある一定速度で押し下げられることによって、下側のキャピラリーを通して樹脂が押し出される。この時の樹脂の圧力をキャピラリーの入り口近くに設置された圧力センサーにより測定する。このようにして測定された圧力を、以下の式により粘度の値として算出する。
P_(0)=(P_(S)・L_(L)-P_(L)・L_(L))/(L_(L)-L_(S))
ここで、
P_(0):圧力損失[MPa]
P_(L):ロングダイで測定した圧力損失[MPa]
P_(S):ショートダイで測定した圧力損失[MPa]
L_(L):ロングダイの長さ[mm]
L_(S):ショートダイの長さ[mm]
これより、伸長粘度λ[kPa・s]は、以下の式により算出される。
λ=9(n+1)^(2)P_(0)/(32ηγ)
ここで、
η:せん断速度[1/s]
γ:せん断粘度[kpa・s] τ=k・γ^(n)より算出され、τはせん断応力[kpa]である。
n:パワーローインデックス
k:定数」と記載されている(摘示(6))。
そして、補正発明において、特定伸長粘度を20?100kPa・sに限定した意味については、補正明細書の段落0021において、「発泡成形時に気泡壁が破壊しにくくなり、高発泡倍率を得ることができる。またダイでの圧力をギャップが広い条件においても保持できるため、発泡体の厚みを厚くすることができる。したがって、伸長粘度が20kPa・s未満ではダイ先端部での圧力を立てにくく、圧力を立てるためにはギャップを狭くする必要があり厚い発泡体を得られない。またギャップを狭くしシート厚みが薄くなると気泡内からのガス抜けが多くなり、さらに発泡倍率が低下する。一方、伸長粘度が100kPa・sを超えると、発泡体の成形性が低下する場合があり、発泡成形後の発泡体の表面が粗れる場合がある。」と記載されている(摘示(6))。
そうすると、補正明細書においては、特定伸張粘度の定義については、特に規定されていないものの、特定伸張粘度を定量的に決定するための具体的な測定方法を示しているということができる。

ウ 「発明の実施の形態」の記載について
次に、特定伸張粘度で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物(及びその具体的な物から技術常識を考慮すると製造できる物)以外の物について、当業者が技術常識を考慮してどのように作るか理解できるかどうか(そのような物を作るために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるかどうか)という点について以下検討する。
ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度を制御する方法については、補正明細書の「発明の実施の形態」において特に記載されておらず、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分の一方の成分であるポリエチレンまたはポリプロピレンとして、段落0012に、「例えば、分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂などが挙げられる。このようなタイプのポリオレフィン系樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン・・・などの何れでもよい。特に発泡成形時の熱加工性、発泡後の形状固定性などの点から、ポリエチレンまたはポリプロピレンが好適に用いられる。」と記載されており(摘示(5))、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分の他方の成分である熱可塑性オレフィン系エラストマー成分として、段落0013?0014に、「エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー・・・などの各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。・・・本発明においては、上記熱可塑性のオレフィン系エラストマーが好適に用いられる。オレフィン系エラストマーは、オレフィン成分とエチレン-プロピレンゴムがミクロ相分離した構造を有したエラストマーであり、前記ポリオレフィン系樹脂との相溶性が良好である。」(摘示(5))と記載されており、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の他の成分である粒径が0.1?10μmのパウダー粒子として、段落0016に、「主な目的として発泡成形時の核剤として機能するものであり、例えばタルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を用いる事ができる。これらパウダー粒子の粒径は、0.1?10μm程度のものが好ましく、パウダー粒子の粒径が0.1μm未満では核剤として十分機能しない場合があり、粒径が10μmを超えると発泡成形時にガス抜けの原因となる場合があり好ましくない。」(摘示(5))と記載されているのみである。
さらに、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を構成する各成分の含有量について、補正発明においては、「ポリエチレンまたはポリプロピレン100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、ポリマー成分100重量部に対し、粒径が0.1?10μmのパウダー粒子を5?150重量部含む」と規定されているところ、段落0015に、「本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分には、ポリエチレンまたはポリプロピレンと、熱可塑性エラストマーを含む。熱可塑性エラストマー成分の量は、前記ポリエチレンまたはポリプロピレン100重量部に対して、10?150重量部、好ましくは30?100重量部とするのが望ましい。熱可塑性エラストマー成分の量が10重量部未満では発泡体としてのクッション性が低下しやすく、150重量部を超えると発泡時にガスが抜けやすくなるため高発泡体を得難い。」(摘示(5))と記載されており、段落0017に、「本発明においてパウダー粒子は、ポリマー成分100重量部に対し5?150重量部、好ましくは10?130重量部含有することが望ましい。パウダー粒子が5重量部未満では均一な発泡体を得がたく、150重量部を超えるとポリオレフィン系樹脂発砲体用組成物としての粘度が著しく上昇するとともに、発砲成形時にガス抜けが生じ発砲特性を損なう恐れがある。」(摘示(5))と記載されているのみである。(なお、「発砲」は「発泡」の誤記と認める。)
そうすると、補正明細書には、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度を要件Xの数値範囲とするための具体的な手法が記載されているということができない。

ところで、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分の一方の成分であるポリエチレンまたはポリプロピレンには、その密度、MFR、分子量及び分子量分布並びに分岐鎖の長さ及び数(割合)を含めて数多くの種類があり、その種類の選択及びその配合割合によって、当該ポリエチレンまたはポリプロピレンを配合して得られるポリオレフィン系樹脂組成物の特定伸長粘度は大きく影響を受けるといえる。
そして、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分の他方の成分である熱可塑性オレフィン系エラストマーには、共重合成分の種類とその共重合割合、その密度、MFR、分子量及び分子量分布並びに分岐鎖の長さ及び数(割合)を含めて数多くの種類があり、その選択及びその配合割合によって、ポリエチレンまたはポリプロピレンに配合して得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度は大きく影響を受けるといえる。
さらに、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の他の成分である粒径が0.1?10μmのパウダー粒子には、上で述べたとおり様々なものが包含されており、それらの種類及び粒径の選択並びに配合割合によっても、ポリエチレンまたはポリプロピレンに配合して得られるポリオレフィン系樹脂組成物の特定伸長粘度は影響を受けるといえる。
そして、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度は、その成分である、ポリエチレンまたはポリプロピレンの種類、熱可塑性オレフィン系エラストマーの種類及びパウダー粒子の種類並びにそれらの配合割合によって相互に複合的に関連して大きく影響を受けるといえ、これらの要件(各成分の種類及び配合割合)が全て定まり、それにより組成物を作製した後に、測定して初めてポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度の値が判明するものであることから、なおさら、具体的にどのような種類のポリエチレンまたはポリプロピレンと、具体的にどのような種類の熱可塑性オレフィン系エラストマーと具体的にどのような種類のパウダー粒子とを、具体的にどのような配合割合で用いれば、結果において要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。
そうすると、補正明細書の「発明の実施の形態」における記載をもってしては、要件Xを満足してなるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物において、各成分の種類及び配合割合を具体的にどの様に設定すれば、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。

たとえ、使用し得るポリエチレンまたはポリプロピレンとして、段落0012において、「分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂などが挙げられる」(摘示(5))ことが記載されていたとしても、単に「分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂」を含有しさえすれば、そのいずれの組み合わせにおいても必然的に要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるものということはできないし、そもそも、「分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂」との記載自体も具体的にどのような樹脂がそれに該当するのかについて不明であるから、かかる記載をもってしては、具体的にどのような種類のポリエチレンまたはポリプロピレンをどのような配合割合で用いれば、結果において要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。
そして、使用し得る熱可塑性オレフィン系エラストマーとして、段落0013において、「エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー」(摘示(5))と記載されていたとしても、かかる記載は熱可塑性オレフィン系エラストマーとして一般的なものを例示したものにすぎず、単に熱可塑性オレフィン系エラストマーを含有しさえすれば、そのいずれの組み合わせにおいても必然的に要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるものということはできないから、かかる記載をもってしては、具体的にどのような種類の熱可塑性オレフィン系エラストマーをどのような配合割合で用いれば、結果において要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。
さらに、使用し得る粒径が0.1?10μmのパウダー粒子として、段落0016において、「例えばタルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等」(摘示(5))と記載されていたとしても、かかる記載はパウダー粒子として一般的なものを例示したものにすぎず、単にパウダー粒子を含有しさえすれば、そのいずれの組み合わせにおいても必然的に要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるものということはできないから、かかる記載をもってしては、具体的にどのような種類のパウダー粒子をどのような配合割合で用いれば、結果において要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。
そして、これらの記載を総合して、ポリエチレンまたはポリプロピレン、熱可塑性オレフィン系エラストマー及び粒径が0.1?10μmのパウダー粒子として、これらに記載されたものを全て採用して組み合わせたとしても、これらのポリエチレンまたはポリプロピレン、熱可塑性オレフィン系エラストマー及び粒径が0.1?10μmのパウダー粒子の種類及びそれらの配合割合が相違することによって、得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が有する特定伸長粘度は、大きく影響を受けるといえる。
してみると、単に、「ポリエチレンまたはポリプロピレン」として「分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂」を用い、「熱可塑性オレフィン系エラストマー」として「エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー」を用い、「粒径が0.1?10μmのパウダー粒子」として「タルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム」を用いさえすれば、必然的に、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるものとすることはできないから、かかる記載をもってしては、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製する際に、具体的にどの様にすれば、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。
以上のことから、補正明細書の「発明の実施の形態」の記載を参照するだけでは、要件Xを制御する要素が、具体的にどのようなものであるのか不明であるから、それらを具体的にどのような原料をもって、さらにはそれらを組み合わせて、どのような配合割合で用いて作製した場合に、得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度の値を、要件Xに規定する所定の数値範囲内に制御することができるのか、不明であるといわざるを得ない。

エ 実施例の記載について
そこで、さらに、補正明細書の実施例の記載を手がかりとして、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製することが、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるか否かについて検討する。
実施例については、段落0040に、実施例1として、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)120重量部、カーボン10重量部」を混錬して、特定伸長粘度が「40.3kPa・s」であるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製したことが記載されており、段落0041に、実施例2として、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、ポリエチレン10重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)120重量部、カーボン10重量部」を混錬して、特定伸長粘度が「52.5kPa・s」であるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製したことが記載されており、段落0042に、実施例3として、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、ポリエチレン10重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)120重量部、カーボン10重量部」を混錬して、特定伸長粘度が「83.7kPa・s」であるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製したことが記載されており、段落0043に、実施例4として、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、ポリエチレン10重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)10重量部、カーボン10重量部」を混錬して、特定伸長粘度が「43.0kPa・s」であるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製したことが記載されている(摘示(7))とおりであって、製造されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物は、何れも要件Xを満足するものである。
ここで、補正発明は、「ポリエチレンまたはポリプロピレン」と熱可塑性オレフィン系エラストマーからなるポリマー成分を含むものであることから、「ポリエチレン及びポリプロピレン」を含有する実施例2?4は、補正発明に係る実施例には該当せず、補正発明に係る実施例は実施例1ただ1つである。
そこで、実施例1について検討すると、用いられている「ポリプロピレン」、「ポリエチレン」及び「ポリオレフィン系エラストマー」が、具体的に何を用いたのか一切不明であり、それらの商品名などについても一切不明であるし、上記のとおり、ポリエチレンまたはポリプロピレンの種類及び含有量、さらには、熱可塑性オレフィン系エラストマーとパウダー粒子の種類及び含有量が変化すれば、得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が有する特定伸長粘度の値が大きく変化するといえる以上、かかる実施例の記載をもってしても、実施例に記載されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物はもとより、それ以外の、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物において、具体的にどの様にすれば、かかる要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。

そして、比較例については、段落0044に、比較例1として、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー50重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)100重量部、カーボン10重量部」を混錬して、特定伸長粘度が「10.6kPa・s」であるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製したことが記載されている(摘示(7))とおりであって、要件Xを満足しないものである。(比較例1においても、用いられている「ポリプロピレン」及び「ポリオレフィン系エラストマー」が、具体的に何を用いたのか一切不明であり、それらの商品名などについても一切不明である。)
ここで、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物として実施例において記載されているのは、補正発明に対応するものとしては、上記のとおり、唯一実施例1において得られたもののみであって、また要件Xを満足しないポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物として比較例において記載されているのは、唯一比較例1において得られたもののみである。
しかるに、実施例1の記載と比較例1の記載とを比較すると、「ポリオレフィン系エラストマー」及び「水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)」の配合量が、前者では各々「45重量部」と「120重量部」であるのに対して、後者では各々「50重量部」と「100重量部」であるという点のみで相違するものであるが、「ポリオレフィン系エラストマー」の配合量の違いはわずかに「5重量部」にすぎないし、上記のとおり、実施例4において「水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)」の配合量が比較例1の「100重量部」よりもはるかに少ない「10重量部」であるものが要件Xを満足していることからみても、両者を単純に比較しただけでは、実施例1において要件Xを満足している理由及び比較例1において要件Xを満足していない理由が不明である。
そうすると、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製するに際して、要件Xを満足することがどのような要素によるものであるのかという点についても明らかとはいえない。

なお、補正明細書の実施例1と全く同じ条件により作製されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であれば、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を得ることは容易に実施することが可能であるということができるとしても、上記のとおり、そもそも、実施例1において用いられている「ポリプロピレン」及び「ポリオレフィン系エラストマー」が、具体的に何を用いたのか一切不明であり、それらの商品名などについても一切不明である以上、たとえ当業者であっても、補正明細書の実施例1と全く同じ条件によりポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製することは不可能であるし、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の成分である「ポリエチレンまたはポリプロピレン」、「熱可塑性オレフィン系エラストマー」及び「粒径が0.1?10μmのパウダー粒子」やそれらの組み合わせ並びにそれらの配合割合によって、得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度は、相互に複合的に関連して大きく影響を受けるといえる以上、このようなただ1点の実施をもって、要件Xによって表されるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の伸長粘度の数値範囲全体の実施をしたとは、到底評価することができない。

してみると、補正明細書の実施例の記載は、上記のとおり、用いられている「ポリプロピレン」及び「ポリオレフィン系エラストマー」が、具体的に何を用いたのか一切不明であり、それらの商品名などについても一切不明であるから、たとえ当業者であっても、補正明細書の実施例の記載から、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製することは不可能であるといわざるを得ないし、補正明細書の実施例の記載をもって要件Xを満たすための手がかりとすることはできない。
仮に、補正明細書の実施例の記載を手がかりとすることができたとしても、要件Xを満たすか否かを知るためには、候補ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製し、作製されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物につき、補正明細書の段落0022に記載されたとおり(摘示(6))、候補ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物に対し、逐一、測定装置としてロザンドプレシジョン社製ツインキャピラリーレオメーター「RH7-2型」を用い、キャピラリー中にペレット状の樹脂組成物を投入し、所定の温度で10分程度加熱し、溶融した樹脂組成物が押し出される時の樹脂組成物の圧力を圧力センサーにより測定し、その結果得られたデータに基いて算出することにより判断する外はないのであって、かかる候補ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物として、ポリエチレンまたはポリプロピレンの種類のみならず、熱可塑性オレフィン系エラストマーとパウダー粒子の種類を各種変化させ、さらに加えて、それらの配合量をも各種変化させて作製してなる各種候補ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物に対して上記した試験を逐一繰り返し、その結果において要件Xを満たしているか否かを確認する操作を、候補ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を種々変更しつつ繰り返さなければならないから、このような試験操作は当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。

(4)まとめ
上記ア?エの項で検討したとおり、補正明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、請求項1に規定されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物をどのようにして製造し得るのかが明らかではなく、補正明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。
したがって、補正明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものである。
よって、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、補正事項Aを含む本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反しており、あるいはそうでないとしても、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反しており、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明

上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年3月24日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、パウダー粒子を含むポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であって、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物。」



第4 本願明細書の記載事項

本願明細書には、上記第2 3.(2)で摘示したうち、摘示(4)及び(5)が各々下記摘示(4a)及び(5a)である以外は上記第2 3.(2)で摘示したとおりのことが記載されている。

(4a)「【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決すべく研究した結果、ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、パウダー粒子を含むポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であって、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を発泡成形すると、発泡後に大きな収縮や変形を起こすことなく気泡が成長し、気泡の形状を保持できるため発泡体の厚みも厚くすることができ、優れたクッション性を有する発泡体が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、パウダー粒子を含むポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であって、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物、および該ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を発泡成形したポリオレフィン系樹脂発泡体を提供する。」(段落0008?0009)

(5a)「【発明の実施の形態】本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物は、ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂と、熱可塑性オレフィン系エラストマーからなるポリマー成分と、パウダー粒子で構成されている。
本発明のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂などが挙げられる。このようなタイプのポリオレフィン系樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンとの共重合体、エチレン又はプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ビニルアルコール等との共重合体、これらの混合物などの何れでもよい。特に発泡成形時の熱加工性、発泡後の形状固定性などの点から、ポリエチレンまたはポリプロピレンが好適に用いられる。前記「他のα-オレフィン」としては、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1等が例示できる。また、共重合体はランダム共重合体及びブロック共重合体の何れであってもよい。
本発明のゴムあるいは熱可塑性エラストマー成分としては、発泡可能なものであれば特に制限はなく、例えば、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルブチルゴムなどの天然又は合成ゴム;エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー;スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、及びそれらの水素添加物などのスチレン系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;ポリウレタン系エラストマーなどの各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらのゴムあるいは熱可塑性エラストマー成分は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
本発明においては、上記ゴムあるいは熱可塑性エラストマー成分として、熱可塑性のオレフィン系エラストマーが好適に用いられる。オレフィン系エラストマーは、オレフィン成分とエチレン-プロピレンゴムがミクロ相分離した構造を有したエラストマーであり、前記ポリオレフィン系樹脂との相溶性が良好である。
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分には、ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂と、熱可塑性エラストマーを含む。熱可塑性エラストマー成分の量は、前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、10?150重量部、好ましくは30?100重量部とするのが望ましい。熱可塑性エラストマー成分の量が10重量部未満では発泡体としてのクッション性が低下しやすく、150重量部を超えると発泡時にガスが抜けやすくなるため高発泡体を得難い。
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物は、パウダー粒子を含む。パウダー粒子は、その主な目的として発泡成形時の核剤として機能するものであり、例えばタルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を用いる事ができる。これらパウダー粒子の粒径は、0.1?10μm程度のものが好ましく、パウダー粒子の粒径が0.1μm未満では核剤として十分機能しない場合があり、粒径が10μmを超えると発泡成形時にガス抜けの原因となる場合があり好ましくない。
本発明においてパウダー粒子は、ポリマー成分100重量部に対し5?150重量部、好ましくは10?130重量部含有することが望ましい。パウダー粒子が5重量部未満では均一な発泡体を得がたく、150重量部を超えるとポリオレフィン系樹脂発砲体用組成物としての粘度が著しく上昇するとともに、発砲成形時にガス抜けが生じ発砲特性を損なう恐れがある。」(段落0011?0017)



第5 原査定の理由の概要

原査定の理由とされた平成20年1月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由は以下のとおりである。
「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



発明の詳細な説明には、当該組成物の組成の決定とその伸長粘度の関係について十分具体的に記載されておらず、請求項に含まれるすべての態様を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」

そして、この点について、拒絶査定の備考欄において、以下のとおり指摘されている。
「・請求項1-8
出願人は意見書において『ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、熱可塑性オレフィン系エラストマーを10?150重量部配合するポリマー成分を用いることで、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を得ることができます。』と主張する。
以下、検討する。
本願明細書にはポリマー成分の上記特定の組成と上記伸長粘度との関係が記載されておらず、また、ポリプロピレンを用いた実施例1-4の記載をみても、上記特定の組成を有するポリマー成分を用いたすべての当該組成物において上記伸長粘度が20?100kPa・sであることが示されているとはいえない。
したがって、上記主張は明細書の記載に基づいておらず採用できない。」



第6 当審の判断

特許法第36条第4項第1号は、上記第2 3.(3)で述べたとおり、当業者が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。そこで、この点について以下に検討する。

本願明細書の記載についてみると、特許請求の範囲には、上記第3 に示したとおりの本願発明が記載されており、発明の詳細な説明には、上記第4 に示したとおりの記載が認められる。
本願発明は、補正発明と同様に、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物として、「キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])、すなわち特定伸張粘度が20?100kPa・sである」であるとの要件、すなわち要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であることを発明特定事項とするものである。
そこで、本願明細書の記載をふまえ、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて判断する。

特許庁編「特許・実用新案 審査基準」には、上記第2 3.(3)で述べたとおりのことが記載されている。
そして、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物は、特定伸張粘度が所定値であるという機能あるいは特性によって、組成物である物を特定しようとするものであることから、本願発明は、機能・特性等によって物を特定しようとする発明に該当し、本願発明にかかる技術分野は、物の有する機能・特性等からその物の構造等を予測することが困難な技術分野に該当するものといえる。
そこで、かかる審査基準の記載に従い、本願発明の要件Xについて、
○その機能・特性等が標準的なものであるかどうか、あるいは当業者に慣用されているものであるかどうか
○それに該当しない場合に、その機能・特性等の定義又はその機能・特性等を定量的に決定するための試験・測定方法を示しているか否か
○その機能・特性等で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物(及びその具体的な物から技術常識を考慮すると製造できる物)以外の物について、当業者が技術常識を考慮してどのように作るか理解できるかどうか(そのような物を作るために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるかどうか)
という点について、以下順次検討する。

1.特定伸長粘度についての技術常識
上記第2 3.(3)アで述べたとおり、伸張粘度を指標として溶融樹脂の成形加工性を評価することが周知慣用のものであることは理解できるものの、伸張粘度を測定する際のひずみ速度(「せん断速度」と同じ。)あるいは温度が変化すれば、測定される伸張粘度の値も変化すると解される(それゆえにこそ、本願発明において、温度とせん断速度とを規定しているといえる。)から、温度200℃、せん断速度5000[1/s]といった特定の条件下で、しかもキャピラリーレオメーターで測定される伸張粘度、すなわち特定伸長粘度を指標として溶融樹脂の成形加工性を評価することまで、本願出願時の技術常識とはいえない。
そして、本願発明におけるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の原料成分である「ポリエチレンまたはポリプロピレン」又は「熱可塑性オレフィン系エラストマー」の特定伸張粘度の値は、商品カタログにおけるデータなどにより当業者が知ることができるとはいえないし、特定伸張粘度の値が所定値(例えば、要件Xを満足する値)である「ポリエチレンまたはポリプロピレン」又は「熱可塑性オレフィン系エラストマー」、あるいはそれらの混合物が、当業者にとり自明のものであるということもできない。
仮に、長鎖分岐を持った樹脂や高分子量成分を含む樹脂の方が伸張粘度が大きい値を示す傾向があることが知られていたとしても、実際に、長鎖分岐を持つ、あるいは高分子量成分を含む、「ポリエチレンまたはポリプロピレン」又は「熱可塑性オレフィン系エラストマー」であっても、その長鎖分岐あるいは高分子量成分の具体的な程度としては様々のものが存在しており、それら各々の場合についての特定伸張粘度が具体的にどのような値を示すのかについては、当業者にとり自明のことであるということはできない。
ましてや、本願発明は、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物という「組成物」の特定伸張粘度を規定するものであって、原料ポリマー成分を構成する「ポリエチレンまたはポリプロピレン」と「熱可塑性オレフィン系エラストマー」との各成分の種類及び配合割合によって、「組成物」の特定伸張粘度の値は影響を受けるといえ、加えて、かかる組成物は、「パウダー粒子を含む」ものであって、当該「パウダー粒子」の配合によっても、「組成物」の特定伸張粘度の値は影響を受けるといえるから、たとえ、当該「組成物」の原料ポリマー成分である「ポリエチレンまたはポリプロピレン」、「熱可塑性オレフィン系エラストマー」それぞれの特定伸張粘度の値が知られていたとしても、結局のところ、当該「組成物」の特定伸張粘度は、原料成分である「ポリエチレンまたはポリプロピレン」、「熱可塑性オレフィン系エラストマー」それぞれの特定伸張粘度の値から単純に計算により求められるものではないことは明らかである。
したがって、本願発明における「組成物」の特定伸張粘度は、本願出願時において、標準的なものであるということはできず、また当業者に慣用されているということもできない。

2.特定伸張粘度の定義・測定方法
上記1.で述べたとおり、特定伸張粘度が標準的なものでなく、しかも当業者に慣用されているものでもないことから、本願発明について実施可能に発明の詳細な説明を記載するためには、特定伸張粘度の定義又は特定伸張粘度を定量的に決定するための試験・測定方法を示す必要があるとされている。そこで、この点について以下に検討する。
特定伸張粘度の定義については、本願明細書中において特に規定されておらず、その具体的な測定方法及び算出方法としては、本願明細書の段落0022において、「測定装置:ロザンドプレシジョン社製ツインキャピラリーレオメーター『RH7-2型』
ロングダイ:φ1mm、長さ16mm、入射角180°(L/D=16)
ショートダイ:φ1mm、長さ0.25mm、入射角180°(L/D=0.25)
キャピラリーレオメーターのキャピラリー中にペレット状の樹脂を投入し、所定の温度で10分程度加熱する。溶融した樹脂は、ピストンがある一定速度で押し下げられることによって、下側のキャピラリーを通して樹脂が押し出される。この時の樹脂の圧力をキャピラリーの入り口近くに設置された圧力センサーにより測定する。このようにして測定された圧力を、以下の式により粘度の値として算出する。
P_(0)=(P_(S)・L_(L)-P_(L)・L_(L))/(L_(L)-L_(S))
ここで、
P_(0):圧力損失[MPa]
P_(L):ロングダイで測定した圧力損失[MPa]
P_(S):ショートダイで測定した圧力損失[MPa]
L_(L):ロングダイの長さ[mm]
L_(S):ショートダイの長さ[mm]
これより、伸長粘度λ[kPa・s]は、以下の式により算出される。
λ=9(n+1)^(2)P_(0)/(32ηγ)
ここで、
η:せん断速度[1/s]
γ:せん断粘度[kpa・s] τ=k・γ^(n)より算出され、τはせん断応力[kpa]である。
n:パワーローインデックス
k:定数」と記載されている(摘示(6))。
そして、本願発明において、特定伸長粘度を20?100kPa・sに限定した意味については、本願明細書の段落0021において、「発泡成形時に気泡壁が破壊しにくくなり、高発泡倍率を得ることができる。またダイでの圧力をギャップが広い条件においても保持できるため、発泡体の厚みを厚くすることができる。したがって、伸長粘度が20kPa・s未満ではダイ先端部での圧力を立てにくく、圧力を立てるためにはギャップを狭くする必要があり厚い発泡体を得られない。またギャップを狭くしシート厚みが薄くなると気泡内からのガス抜けが多くなり、さらに発泡倍率が低下する。一方、伸長粘度が100kPa・sを超えると、発泡体の成形性が低下する場合があり、発泡成形後の発泡体の表面が粗れる場合がある。」と記載されている(摘示(6))。
そうすると、本願明細書においては、特定伸張粘度の定義については、特に規定されていないものの、特定伸張粘度を定量的に決定するための具体的な測定方法を示しているということができる。

3.「発明の実施の形態」の記載について
次に、特定伸張粘度で特定された物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物(及びその具体的な物から技術常識を考慮すると製造できる物)以外の物について、当業者が技術常識を考慮してどのように作るか理解できるかどうか(そのような物を作るために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるかどうか)という点について以下検討する。
ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度を制御する方法については、本願明細書の「発明の実施の形態」において特に記載されておらず、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分の一方の成分であるポリエチレンまたはポリプロピレンとして、段落0012に、「例えば、分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂などが挙げられる。このようなタイプのポリオレフィン系樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン・・・などの何れでもよい。特に発泡成形時の熱加工性、発泡後の形状固定性などの点から、ポリエチレンまたはポリプロピレンが好適に用いられる。」と記載されており(摘示(5a))、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分の他方の成分である熱可塑性オレフィン系エラストマー成分として、段落0013?0014に、「エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー・・・などの各種熱可塑性エラストマーが挙げられる。・・・本発明においては、上記熱可塑性のオレフィン系エラストマーが好適に用いられる。オレフィン系エラストマーは、オレフィン成分とエチレン-プロピレンゴムがミクロ相分離した構造を有したエラストマーであり、前記ポリオレフィン系樹脂との相溶性が良好である。」(摘示(5a))と記載されており、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の他の成分であるパウダー粒子として、段落0016に、「主な目的として発泡成形時の核剤として機能するものであり、例えばタルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を用いる事ができる。これらパウダー粒子の粒径は、0.1?10μm程度のものが好ましく、パウダー粒子の粒径が0.1μm未満では核剤として十分機能しない場合があり、粒径が10μmを超えると発泡成形時にガス抜けの原因となる場合があり好ましくない。」(摘示(5a))と記載されているのみである。
さらに、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を構成する各成分の含有量について、本願発明においては、「ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分と、パウダー粒子を含む」と規定されているところ、段落0015に、「本発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分には、ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂と、熱可塑性エラストマーを含む。熱可塑性エラストマー成分の量は、前記ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、10?150重量部、好ましくは30?100重量部とするのが望ましい。熱可塑性エラストマー成分の量が10重量部未満では発泡体としてのクッション性が低下しやすく、150重量部を超えると発泡時にガスが抜けやすくなるため高発泡体を得難い。」(摘示(5a))と記載されており、段落0017に、「本発明においてパウダー粒子は、ポリマー成分100重量部に対し5?150重量部、好ましくは10?130重量部含有することが望ましい。パウダー粒子が5重量部未満では均一な発泡体を得がたく、150重量部を超えるとポリオレフィン系樹脂発砲体用組成物としての粘度が著しく上昇するとともに、発砲成形時にガス抜けが生じ発砲特性を損なう恐れがある。」(摘示(5a))と記載されているのみである。(なお、「発砲」は「発泡」の誤記と認める。)
そうすると、本願明細書には、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度を要件Xの数値範囲とするための具体的な手法が記載されているということができない。

ところで、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分の一方の成分であるポリエチレンまたはポリプロピレンには、その密度、MFR、分子量及び分子量分布並びに分岐鎖の長さ及び数(割合)を含めて数多くの種類があり、その種類の選択及びその配合割合によって、当該ポリエチレンまたはポリプロピレンを配合して得られるポリオレフィン系樹脂組成物の特定伸長粘度は大きく影響を受けるといえる。
そして、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分の他方の成分である熱可塑性オレフィン系エラストマーには、共重合成分の種類とその共重合割合、その密度、MFR、分子量及び分子量分布並びに分岐鎖の長さ及び数(割合)を含めて数多くの種類があり、その選択及びその配合割合によって、ポリエチレンまたはポリプロピレンに配合して得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度は大きく影響を受けるといえる。
さらに、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の他の成分であるパウダー粒子には、上で述べたとおり様々なものが包含されており、それらの種類及び粒径の選択並びに配合割合によっても、ポリエチレンまたはポリプロピレンに配合して得られるポリオレフィン系樹脂組成物の特定伸長粘度は影響を受けるといえる。
そして、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度は、その成分である、ポリエチレンまたはポリプロピレンの種類、熱可塑性オレフィン系エラストマーの種類及びパウダー粒子の種類並びにそれらの配合割合によって相互に複合的に関連して大きく影響を受けるといえ、これらの要件(各成分の種類及び配合割合)が全て定まり、それにより組成物を作製した後に、測定して初めてポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度の値が判明するものであることから、なおさら、具体的にどのような種類のポリエチレンまたはポリプロピレンと、具体的にどのような種類の熱可塑性オレフィン系エラストマーと具体的にどのような種類のパウダー粒子とを、具体的にどのような配合割合で用いれば、結果において要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。
そうすると、本願明細書の「発明の実施の形態」における記載をもってしては、要件Xを満足してなるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物において、各成分の種類及び配合割合を具体的にどの様に設定すれば、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。

たとえ、使用し得るポリエチレンまたはポリプロピレンとして、段落0012において、「分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂などが挙げられる」(摘示(5a))ことが記載されていたとしても、単に「分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂」を含有しさえすれば、そのいずれの組み合わせにおいても必然的に要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるものということはできないし、そもそも、「分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂」との記載自体も具体的にどのような樹脂がそれに該当するのかについて不明であるから、かかる記載をもってしては、具体的にどのような種類のポリエチレンまたはポリプロピレンをどのような配合割合で用いれば、結果において要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。
そして、使用し得る熱可塑性オレフィン系エラストマーとして、段落0013において、「エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー」(摘示(5a))と記載されていたとしても、かかる記載は熱可塑性オレフィン系エラストマーとして一般的なものを例示したものにすぎず、単に熱可塑性オレフィン系エラストマーを含有しさえすれば、そのいずれの組み合わせにおいても必然的に要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるものということはできないから、かかる記載をもってしては、具体的にどのような種類の熱可塑性オレフィン系エラストマーをどのような配合割合で用いれば、結果において要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。
さらに、使用し得るパウダー粒子として、段落0016において、「例えばタルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等」(摘示(5a))と記載されていたとしても、かかる記載はパウダー粒子として一般的なものを例示したものにすぎず、単にパウダー粒子を含有しさえすれば、そのいずれの組み合わせにおいても必然的に要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるものということはできないから、かかる記載をもってしては、具体的にどのような種類のパウダー粒子をどのような配合割合で用いれば、結果において要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。
そして、これらの記載を総合して、ポリエチレンまたはポリプロピレン、熱可塑性オレフィン系エラストマー及びパウダー粒子として、これらに記載されたものを全て採用して組み合わせたとしても、これらのポリエチレンまたはポリプロピレン、熱可塑性オレフィン系エラストマー及びパウダー粒子の種類及びそれらの配合割合が相違することによって、得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が有する特定伸長粘度は、大きく影響を受けるといえる。
してみると、単に、「ポリエチレンまたはポリプロピレン」として「分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂」を用い、「熱可塑性オレフィン系エラストマー」として「エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー」を用い、「粒径が0.1?10μmのパウダー粒子」として「タルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム」を用いさえすれば、必然的に、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるものとすることはできないから、かかる記載をもってしては、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製する際に、具体的にどの様にすれば、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。
以上のことから、本願明細書の「発明の実施の形態」の記載を参照するだけでは、要件Xを制御する要素が、具体的にどのようなものであるのか不明であるから、それらを具体的にどのような原料をもって、さらにはそれらを組み合わせて、どのような配合割合で用いて作製した場合に、得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度の値を、要件Xに規定する所定の数値範囲内に制御することができるのか、不明であるといわざるを得ない。

4.実施例の記載について
そこで、さらに、本願明細書の実施例の記載を手がかりとして、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製することが、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるか否かについて検討する。
実施例については、段落0040に、実施例1として、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)120重量部、カーボン10重量部」を混錬して、特定伸長粘度が「40.3kPa・s」であるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製したことが記載されており、段落0041に、実施例2として、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、ポリエチレン10重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)120重量部、カーボン10重量部」を混錬して、特定伸長粘度が「52.5kPa・s」であるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製したことが記載されており、段落0042に、実施例3として、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、ポリエチレン10重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)120重量部、カーボン10重量部」を混錬して、特定伸長粘度が「83.7kPa・s」であるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製したことが記載されており、段落0043に、実施例4として、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー45重量部、ポリエチレン10重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)10重量部、カーボン10重量部」を混錬して、特定伸長粘度が「43.0kPa・s」であるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製したことが記載されている(摘示(7))とおりであって、製造されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物は、何れも要件Xを満足するものである。
しかしながら、本願明細書の実施例1?4において、用いられている「ポリプロピレン」、「ポリエチレン」及び「ポリオレフィン系エラストマー」が、具体的に何を用いたのか一切不明であり、それらの商品名などについても一切不明であるし、上記のとおり、ポリエチレンまたはポリプロピレンの種類及び含有量、さらには、熱可塑性オレフィン系エラストマーとパウダー粒子の種類及び含有量が変化すれば、得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が有する特定伸長粘度の値が大きく変化するといえる以上、かかる実施例の記載をもってしても、実施例に記載されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物はもとより、それ以外の、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物において、具体的にどの様にすれば、かかる要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるのかが明らかであるということはできない。

そして、比較例については、段落0044に、比較例1として、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー50重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)100重量部、カーボン10重量部」を混錬して、特定伸長粘度が「10.6kPa・s」であるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製したことが記載されている(摘示(7))とおりであって、要件Xを満足しないものである。(比較例1においても、用いられている「ポリプロピレン」及び「ポリオレフィン系エラストマー」が、具体的に何を用いたのか一切不明であり、それらの商品名などについても一切不明である。)
ここで、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物として実施例において記載されているのは、実施例1?4において得られたもののみであって、また要件Xを満足しないポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物として比較例において記載されているのは、唯一比較例1において得られたもののみである。
しかるに、実施例1の記載と比較例1の記載とを比較すると、「ポリオレフィン系エラストマー」及び「水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)」の配合量が、前者では各々「45重量部」と「120重量部」であるのに対して、後者では各々「50重量部」と「100重量部」であるという点のみで相違するものであるが、「ポリオレフィン系エラストマー」の配合量の違いはわずかに「5重量部」にすぎないし、上記のとおり、実施例4において「水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)」の配合量が比較例1の「100重量部」よりもはるかに少ない「10重量部」であるものが要件Xを満足していることからみても、両者を単純に比較しただけでは、実施例1?4において要件Xを満足している理由及び比較例1において要件Xを満足していない理由が不明である。
また、実施例2と実施例3とを比較すると、両者は用いる「ポリプロピレン」、「ポリオレフィン系エラストマー」、「ポリエチレン」及び「水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)」を同じ配合量で用いて作製されたものであるにもかかわらず、得られたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度が「52.5kPa・s」と「83.7kPa・s」というように全く異なったものとなっている理由も不明である。
そうすると、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製するに際して、要件Xを満足することがどのような要素によるものであるのかという点についても明らかとはいえない。

なお、本願明細書の実施例1?4と全く同じ条件により作製されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物であれば、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を得ることは容易に実施することが可能であるということができるとしても、上記のとおり、そもそも、実施例1?4において用いられている「ポリプロピレン」及び「ポリオレフィン系エラストマー」が、具体的に何を用いたのか一切不明であり、それらの商品名などについても一切不明である以上、たとえ当業者であっても、本願明細書の実施例1?4と全く同じ条件によりポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製することは不可能であるし、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の成分である「ポリエチレンまたはポリプロピレン」、「熱可塑性オレフィン系エラストマー」及び「パウダー粒子」やそれらの組み合わせ並びにそれらの配合割合によって、得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度は、相互に複合的に関連して大きく影響を受けるといえる以上、このようなただ4点の実施をもって、要件Xによって表されるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の伸長粘度の数値範囲全体の実施をしたとは、到底評価することができない。

してみると、本願明細書の実施例の記載は、上記のとおり、用いられている「ポリプロピレン」及び「ポリオレフィン系エラストマー」が、具体的に何を用いたのか一切不明であり、それらの商品名などについても一切不明であるから、たとえ当業者であっても、本願明細書の実施例の記載から、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製することは不可能であるといわざるを得ないし、本願明細書の実施例の記載をもって要件Xを満たすための手がかりとすることはできない。
仮に、本願明細書の実施例の記載を手がかりとすることができたとしても、要件Xを満たすか否かを知るためには、候補ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製し、作製されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物につき、本願明細書の段落0022に記載されたとおり(摘示(6))、候補ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物に対し、逐一、測定装置としてロザンドプレシジョン社製ツインキャピラリーレオメーター「RH7-2型」を用い、キャピラリー中にペレット状の樹脂組成物を投入し、所定の温度で10分程度加熱し、溶融した樹脂組成物が押し出される時の樹脂組成物の圧力を圧力センサーにより測定し、その結果得られたデータに基いて算出することにより判断する外はないのであって、かかる候補ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物として、ポリエチレンまたはポリプロピレンの種類のみならず、熱可塑性オレフィン系エラストマーとパウダー粒子の種類を各種変化させ、さらに加えて、それらの配合量をも各種変化させて作製してなる各種候補ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物に対して上記した試験を逐一繰り返し、その結果において要件Xを満たしているか否かを確認する操作を、候補ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を種々変更しつつ繰り返さなければならないから、このような試験操作は当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。

5.まとめ
上記1.?4.の項で検討したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、請求項1に規定されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物をどのようにして製造し得るのかが明らかではなく、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



第7 請求人の主張の検討

1.意見書における主張について
請求人は、「『ポリオレフィン系樹脂と、ゴムおよび/または熱可塑性オレフィン系エラストマーからなるポリマー成分』を『ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分』に限定する補正を行いました。
このように、ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、熱可塑性オレフィン系エラストマーを10?150重量部配合するポリマー成分を用いることで、キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kPa・sであるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を得ることができます。
これにより補正後の請求項1、請求項5およびそれらに従属する他の請求項に係る発明は、明細書の記載により裏付けられ、当業者であれば実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると思料致します。」と主張している。

しかしながら、「ポリオレフィン系樹脂と、ゴムおよび/または熱可塑性オレフィン系エラストマーからなるポリマー成分」を「ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部と、熱可塑性オレフィン系エラストマー10?150重量部からなるポリマー成分」に限定したところで、上記第6 で述べたとおり、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製するに際し、「ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂」、「熱可塑性オレフィン系エラストマー」及び「パウダー粒子」について、本願明細書の記載をもってしては、その結果として要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を作製するためには、具体的にどのようにして実施すれば良いのか、依然として不明であるといわざるを得ない。
そして、実際、本願明細書の比較例1は、「ポリプロピレン45重量部、ポリオレフィン系エラストマー50重量部、水酸化マグネシウム(平均粒径0.7μm)100重量部、カーボン10重量部」から作製されたポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物、すなわち、請求人のいう「ポリエチレンまたはポリプロピレンを含むポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、熱可塑性オレフィン系エラストマーを10?150重量部配合するポリマー成分を用いる」ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物に該当するにもかかわらず、結果において、特定伸長粘度が10.6kPa・sである、すなわち、要件Xを満たしていないから、かかる請求人の主張は受け入れられるものではない。

2.審判請求書における主張について
請求人は、請求の理由(2)?(3)において、「伸長粘度とは、溶融紡糸、フィルム成形、ブロー成形、熱成形などのダイを出た以降の自由表面下での変形のしやすさを評価する方法として知られており、一定のひずみ速度で一定温度下での粘度を表します。この物性値はポリオレフィン系樹脂を扱う当業者にとっては周知のものであり、ポリマーの分子量、分子量分布、構造が伸長粘度に影響を与えることはよく知られています。すなわち、伸長粘度を高めるためには、広い分子量分布をもつこと、微量超高分子量成分を含むこと、長鎖分岐構造を持つことなどが有効な方法として知られています。この点に関し記載のある参考資料1(プラスチック加工技術ハンドブック)および参考資料2(成形加工)を手続補足書により提出致します。
本願明細書においても、段落0012において『本発明のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂などが挙げられる。』というように、伸長粘度に影響を与えるポリマーの要因を記載しています。従って当業者であれば、伸長粘度を所定の範囲に調整するために、用いるポリマーを選定することは通常の知識の範囲内のことにすぎません。
さらに、本願発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物においては、パウダー粒子を含むことを特徴とします。パウダー粒子は、その配合量が多くなりすぎるとポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の粘度が著しく上昇するため(段落0017)、本願発明のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物において用いるパウダー粒子の配合量を限定するよう補正を行ないました。パウダー粒子の配合量については、実施例でポリマー成分100重量部に対しパウダー粒子を120重量部(実施例1?3)、10重量部(実施例4)配合した結果を示しております。
(3)以上の通り、伸長粘度は当業者にとって周知な物性値であり、その技術常識および本願明細書の記載から、所定の伸長粘度のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を得ることはなんら困難なことではありません。さらに補正後の特許請求の範囲は、実施例により裏付けられ、当業者であれば実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると思料致します。」と主張している。

しかしながら、伸張粘度を指標として溶融樹脂の成形加工性を評価することが周知慣用のものであることは理解できるものの、上記第2 3.(3)ア及び第6 1.で述べたとおり、伸張粘度を測定する際のせん断速度あるいは温度が変化すれば、測定される伸張粘度の値も変化すると解されるし、請求人の提示する参考資料1?2を検討しても、それらの記載から、温度200℃、せん断速度5000[1/s]といった特定の条件下で、しかもキャピラリーレオメーターで測定される伸張粘度、すなわち特定伸長粘度を指標として溶融樹脂の成形加工性を評価することまで、本願出願時の技術常識であったとすることはできない。
そして、上記第2 3.(3)ウ及び第6 3.で述べたとおり、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分の一方の成分であるポリエチレンまたはポリプロピレンには、その密度、MFR、分子量及び分子量分布並びに分岐鎖の長さ及び数(割合)を含めて数多くの種類があり、その種類の選択及びその配合割合によって、当該ポリエチレンまたはポリプロピレンを配合して得られるポリオレフィン系樹脂組成物の特定伸長粘度は大きく影響を受けるといえ、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の主体となるポリマー成分の他方の成分である熱可塑性オレフィン系エラストマーには、共重合成分の種類とその共重合割合、その密度、MFR、分子量及び分子量分布並びに分岐鎖の長さ及び数(割合)を含めて数多くの種類があり、その選択及びその配合割合によって、ポリエチレンまたはポリプロピレンに配合して得られるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度は大きく影響を受けるといえるのであるから、本願(補正)明細書の記載に基づいて、「ポリエチレンまたはポリプロピレン」として「分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂」を用い、「熱可塑性オレフィン系エラストマー」として「エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系エラストマー」を用い、「粒径が0.1?10μmのパウダー粒子」として「タルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム」を用いさえすれば、必然的に、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物が得られるものとすることはできないし、そもそも、「分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂」との記載自体も具体的にどのような樹脂がそれに該当するのかについて一切不明である。
仮に、請求人が認めるとおり、伸張粘度に影響を与えるポリマーの要因として、ポリマーの分子量、分子量分布、構造が伸長粘度に影響を与え、伸長粘度を高めるためには、広い分子量分布をもつこと、微量超高分子量成分を含むこと、長鎖分岐構造を持つことなどが有効な方法として知られているとしても、広い分子量分布をもつ、微量超高分子量成分を含む、あるいは長鎖分岐構造を持つといっても、それらの各々の具体的な程度は様々のものが存在しており、具体的に、それあるいはそれらがどの程度のポリマーであれば、そのポリマーの特定伸張粘度がどのような値となるのかが一切不明であるし、そもそも、それらの要因のみが定まっても、そのポリマーの特定伸張粘度が定まるものではなく、他の要因によってもそのポリマーの特定伸張粘度が影響を受けるといえるから、当業者が、かかる記載及び本願出願時の技術常識を参酌したとしても、特定伸長粘度を所定の範囲に調整するために、用いるポリマーを選定することが、当業者の通常の知識の範囲内のことにすぎないということはできない。
そして、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度は、ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の成分である、ポリエチレンまたはポリプロピレンの種類のみによって定まるものではなく、さらに加えて、その配合割合、熱可塑性オレフィン系エラストマーの種類及びパウダー粒子の種類並びにそれらの配合割合によって相互に複合的に関連して大きく影響を受けるといえ、これらの要件(各成分の種類及び配合割合)が全て定まり、それにより組成物を作製した後に、測定して初めてポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物の特定伸長粘度の値が判明するものであることから、なおさら、当業者が、本願(補正)明細書のかかる記載及び本願出願時の技術常識を参酌したとしても、結果において要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物をどのようにして製造し得るのかが明らかではなく、本願(補正)明細書の発明の詳細な説明は、本願(補正)発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないといわざるを得ず、請求人の主張は採用することができない。

3.回答書における主張について
請求人は、「(b)独立特許要件に対して
審査官殿は、補正後の請求項1及び請求項4に係る発明は独立して特許を受けることができない、と指摘されています。具体的には補正後の請求項1及び請求項4に規定する『キャピラリーレオメーターで測定される伸長粘度(温度200℃、せん断速度5000[1/s])が20?100kP・sであることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物』を、当業者が本願明細書及び技術常識に基づいて製造できるとは言えない、という点であると思料致します。
樹脂の伸長粘度については、平成20年9月4日提出の手続補正書において説明したとおり、当業者にとって一般的に技術常識であり(この点は審査官殿も了解頂いているものと思われますが)、また本願発明で用いるポリエチレンやポリプロピレン、熱可塑性オレフィン系エラストマーについても、そのもの自体は格別特殊な材料ではありません。従って、当業者であれば、前記技術常識に加え、本願明細書の記載(例えば段落0012『本発明のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、分子量分布が広く且つ高分子量側にショルダーを持つタイプの樹脂、微架橋タイプの樹脂、長鎖分岐タイプの樹脂などが挙げられる。』等)を参照することで、本願発明で規定する特定の溶融張力のポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を得ることは可能であります。
このように補正後の請求項1及び請求項4に係る発明は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしており、独立して特許を受けることができると思料致します。」と繰り返し主張している。

しかしながら、上記第7 2.で述べたとおり、伸張粘度自体が良く知られたものであることを考慮し、当業者が、さらに本願(補正)明細書の段落0012の記載及び本願出願時の技術常識を参酌したとしても、結果において要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物をどのようにして製造し得るのかが明らかではなく、本願(補正)明細書の発明の詳細な説明は、本願(補正)発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないといわざるを得ず、請求人の主張は採用することができない。

また、請求人は、「なお、万が一、請求項1及び請求項4に係る発明が独立特許要件を満たさないという場合は、例えば前置報告書において拒絶理由が示されていないと思われる請求項2または請求項3の内容を請求項1に加入する、および請求項5?請求項7のいずれかの内容を請求項4に加入する用意がございますので、なにとぞ補正の機会を与えて下さいますようお願い致します。」とも主張している。

しかしながら、上記第2 3.で述べたとおり、補正発明が独立特許要件を満たさない理由は、補正明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、補正発明に係るポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物をどのようにして製造し得るのかが明らかではなく、補正明細書の発明の詳細な説明は、補正発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、補正発明におけるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物において、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を得ることに関し、補正明細書の記載をふまえ、要件Xを満足することが、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるというものである。
そして、本件補正時の請求項1及び4には、要件Xが発明特定事項として規定されており、本件補正時の請求項2?3は本件補正時の請求項1を、本件補正時の請求項5?7は本件補正時の請求項4を、各々直接的又は間接的に引用するものである。
そうすると、本件補正時の請求項1に係る発明である補正発明におけるポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物において、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を得ることに関し、補正明細書の記載をふまえ、要件Xを満足することが、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるのであるから、同様に要件Xを発明特定事項として備える本件補正時の請求項2?3及び5?7についても、同様の理由により、要件Xを満足するポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物を得ることに関し、補正明細書の記載をふまえ、要件Xを満足することが、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであることは明らかであり、その結果、補正明細書の発明の詳細な説明が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないことは明らかである。
したがって、この請求人の主張は受け入れられるものではない。



第8 むすび

以上のとおり、本願は明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとする原査定の理由は妥当なものであるから、本願は、この理由により拒絶すべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-01 
結審通知日 2011-08-09 
審決日 2011-09-05 
出願番号 特願2003-209196(P2003-209196)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
小野寺 務
発明の名称 ポリオレフィン系樹脂発泡体用組成物とその発泡体、および発泡体の製造方法  

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