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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21B
管理番号 1247193
審判番号 不服2009-25364  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-22 
確定日 2011-11-14 
事件の表示 特願2003-522723「金属のスラブ、プレート又はストリップの処理用デバイス及びこのデバイスを使用して作られる製品」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月 6日国際公開、WO03/18221、平成17年 1月 6日国内公表、特表2005-500164〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2002年8月16日(外国庁受理、パリ条約による優先権主張2001年8月24日、オランダ)を国際出願日とする出願であって、平成16年2月24日付けで特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出されるとともに同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、及び要約の翻訳文が提出され、平成20年5月28日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年9月1日付けで拒絶査定がなされ、同年12月22日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成22年12月14日付けで審尋がなされ、それに対して平成23年3月16日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成21年12月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年12月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、本件出願の特許請求の範囲の請求項1についての補正を含むものであり、当該請求項1に係る補正は、本件補正により補正される前の(すなわち、平成20年11月26日付けで提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載に補正するものである(以下、この補正を「本件補正事項」という。)。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
2つの駆動可能なロール間にロールニップを備える圧延機スタンドを含んでなる、金属のスラブ、プレート又はストリップの処理用デバイスであり、該圧延機スタンドが該ロール間で金属のスラブ、プレート又はストリップを圧延するよう設計されている該デバイスにおいて、該デバイスが、該ロールの中心軸線を通る平面に対する垂直面に対し5゜と45゜の間の角度で該ロール間に該スラブ、プレート又はストリップを導くよう設計された供給手段を具備し、該圧延機スタンドが、使用中、該ロールが異なる周速度を有し、該周速度の差が少なくとも5%そして多くて100%になるような方法で設計されてなる、デバイス。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
2つの駆動可能なロール間にロールニップを備える圧延機スタンドを含んでなる、金属のスラブ、プレート又はストリップの処理用デバイスであり、該圧延機スタンドが該ロール間で金属のスラブ、プレート又はストリップを圧延するよう設計されている該デバイスにおいて、該デバイスが、該ロールの中心軸線を通る平面に対する垂直面に対し10゜と25゜の間の角度で該ロール間に該スラブ、プレート又はストリップを導くよう設計された供給手段を具備し、該圧延機スタンドが、使用中、該ロールが異なる周速度を有し、該周速度の差が少なくとも5%そして多くて20%になるような方法で設計されてなる、デバイス。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の目的
本件補正事項は、本件補正前の請求項1における「5゜と45゜の間の角度」を「10゜と25゜の間の角度」に補正し、同じく「該周速度の差が少なくとも5%そして多くて100%」を「該周速度の差が少なくとも5%そして多くて20%」に補正し、角度及び周速度の差に関する数値範囲を減縮するものであり、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項にさらに限定を加えたものである。よって、本件補正は、本件補正事項についていうならば、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 本件補正の適否
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献1
(1-1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭56-30011号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a.「1.発明の名称
金属ストリツプの圧延方法」(第1ページ左下欄第2及び3行)

b.「そこで本発明は、強圧下を行い高圧下率の場合でも圧下力が小さく、しかも形状の良好な圧延ができるように、前記圧延スタンドを形成するワークロールの径、進入出角度ないしその配列条件を追求したものであり、その構成は、大小圧延ロール間に挟まれるストリツプに張力を与えながらジクザグ状に走行させて、ストリツプを圧延する場合に、該大小圧延ロールの直径をストリツプの進行方向に従つて順次小さくなるようにタンデムに配列し、更に該複数の大小圧延ロール間を3度以上の進入出角度を与えながらストリツプを圧延することを特徴とする。
上記本発明では・・・(中略)・・・且つ各大小圧延ロール間には3度以上のストリツプ進入出角度が与えられているからこの相乗効果により圧下力を減少させると共に同時に形状矯正をも行うことができる。」(第1ページ右下欄第16行ないし第2ページ左上欄第15行)

c.「第1図において、Sは圧延されるべきストリツプ、・・・(中略)・・・第1図中Aは本発明に係る引張-曲げ圧延を実施するための主要の一部を示し、9,10は大小圧延ロールを示し、以下11,12,13,14,15,16はタンデムに配列された一対の大小圧延ロールであつて、図示のとおりストリツプSの進行方向に順次小さくなるように配列してある。・・・(中略)・・・29,30,31,32,33,34,35,36はデフレクターロールでストリツプSに所定の進入出角度を与えながら、パスラインの保持を行うものであり、ストリツプの進入出角度は、このデフレクタロールを制御することによつて自由にできる。」(第2ページ左上欄第19行ないし左下欄第8行)

d.「本発明においては変形抵抗が増大する量に見合う分だけ圧延スタンドを形成する一対の大小圧延ロールの直径を順次小さくし、またストリツプの進入出角度をある所定の角度だけ与えることによつて変形抵抗が次第に増加するにもかかわらず比較的小さな圧下力を維持したまま強制圧下を充分に行えるようにする。」(第2ページ左下欄第15行ないし右下欄第1行)

e.「次に上記圧延スタンドにストリツプを通過させる場合、該ストリツプにある一定の進入出角度θを与える。ここでストリツプの進入出角度とは第5図(イ)?(ニ)に示すように曲げを加えた圧延ロール側の圧延ロールの中心位置とストリツプが圧延ロールと接触を開始する位置とを結ぶ線と同圧延ロールの中心位置と圧延の中心位置を結ぶ線の成す角すなわち進入角度θ_(1),θ_(3),θ_(5),θ_(7)と曲げを加えた側の圧延ロールの中心位置とストリツプが圧延ロールから離れる位置とを結ぶ線と同圧延ロールの中心位置と圧延の中心位置とを結ぶ線の成す角すなわち進出角度θ_(2),θ_(4),θ_(6),θ_(8)とのそれぞれの合計を云う。即ち第5図(イ)の場合θ=θ_(1)+θ_(2),(ロ)の場合、θ=θ_(3)+θ_(4),(ハ)の場合θ=θ_(5)+θ_(6),(ニ)の場合θ=θ_(7)+θ_(8)となる。」(第2ページ右下欄第18行ないし第3ページ左上欄第12行)

f.「第4図に示すように・・・(中略)・・・ストリツプに適当な角度つまり3度以上の曲げを与えた場合は圧下力が小さくなり、ストリツプの進入出角度が15度以上になると圧下力はそれほど変わらない。上記進出入角度の範囲はストリツプの平滑化及び装置のコンパクト化などを考慮すると特に限定するものではないが、5?30度の範囲が好ましいと言える。また第1図ないし第3図では小径ロール側に曲げを与えているが第4図から明らかなように必ずしも小径ロール側に曲げを限定しなくてもよい。更に、ストリツプの進入出角度θは各圧延ロール間で必ずしも一定でなくて良く、ストリツプの圧下率に応じ、一対の大小圧延ロールの直径を順次小さくすることと組合せて任意に選択できる。むしろ進入出角度θを適宜選択することにより、この両者の組合せ、即ち相乗効果により一層良好な高圧下率の圧延が可能となる。」(第3ページ右上欄第1行ないし末行)

g.「以上説明したように・・・(中略)・・・第7図に示すように各圧延スタンドにおいて圧下力をほぼ一定にすることができた。」(第3ページ左下欄第4行ないし右下欄第4行)

(1-2)引用文献1記載の発明
上記aの「金属ストリツプの圧延方法」及び上記bの「本発明は、強圧下を行い高圧下率の場合でも圧下力が小さく、しかも形状の良好な圧延ができるように、前記圧延スタンドを形成するワークロールの径、進入出角度ないしその配列条件を追求したものであり、その構成は、大小圧延ロール間に挟まれるストリツプに張力を与えながらジクザグ状に走行させて、ストリツプを圧延する場合に、該大小圧延ロールの直径をストリツプの進行方向に従つて順次小さくなるようにタンデムに配列し、更に該複数の大小圧延ロール間を3度以上の進入出角度を与えながらストリツプを圧延することを特徴とする。」という記載のように、引用文献1には、圧延スタンドが大小圧延ロール間で金属ストリツプを圧延するようにされている金属ストリツプの圧延装置が記載されており、上記aないしgの記載事項及び図面の記載からみて、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されていると認める。

「大小圧延ローラ9、10を備える圧延スタンドを含んでなる、金属ストリツプSの圧延装置であり、該圧延スタンドが該大小圧延ローラ9、10間で金属ストリツプSを圧延するようにされている該圧延装置において、該圧延装置が、5?30度の進入出角度をストリツプに与えながら、大小圧延ローラ9、10間を走行させるようにされたデフレクタロール29、30を具備してなる、圧延装置。」

(2)対比
本件補正発明と引用文献1記載の発明を対比する。

引用文献1記載の発明における「大小圧延ローラ9、10」は、それによって、圧下を行うものであり、駆動可能なものであることは明らかであるから、本件補正発明における「2つの駆動可能なロール」に相当する。

本件補正発明における「金属のスラブ、プレート又はストリップ」が「ストリップ」を包含するものであることは明らかである。審判請求人は審判請求書で「なお、さらに付言しますと、引用文献1による方法はシート材料(ストリップ)の圧延に関するものです。シート材料の厚さは、ロールの形状およびサイズに直ちに適合して曲がるようなものであり、これらのロールは、両方のロールがロールの軸の平面内の位置でこれらの軸に平行に作用します。これに対して、本願発明によるデバイスは、より厚い材料に関するものであり・・・(後略)・・・」と主張するが、本件補正発明は、材料の厚さについて「ストリップ」より「厚い材料」に限定されるものではない。よって、引用文献1記載の発明における「金属ストリツプS」は、本件補正発明における「金属のスラブ、プレート又はストリップ」に相当する。

引用文献1記載の発明における「圧延スタンド」は本件補正発明における「圧延機スタンド」に相当し、同様に、「圧延装置」は「処理用デバイス」及び「デバイス」に相当する。

引用文献1記載の発明における「圧延するようにされている」が、「設計」によって、そのようにされていることは明らかである。

引用文献1の上記aの「大小圧延ロール間に挟まれるストリツプに張力を与えながらジクザグ状に走行させて」という記載及び第5図からみて、引用文献1記載の発明における「大小圧延ローラ9、10」間には、「ストリップ」を挟むための空間、即ち本件補正発明における「ロールニップ」に相当する部分があることは明らかである。

引用文献1記載の発明は、「大小圧延ローラ9、10間」に「所定の進入角度」でストリップを供給し、「大小圧延ローラ9、10間」から所定の進出角度でストリップを排出するものであり、当該進入角度及び進出角度については、引用文献1の上記eの記載事項のように、「圧延ロールの中心位置とストリップが圧延ロールと接触を開始する位置とを結ぶ線」と「圧延ロールの中心位置と圧延の中心位置を結ぶ線」とからなす角度及び「圧延ロールの中心位置とストリツプが圧延ロールから離れる位置とを結ぶ線」と「圧延ロールの中心位置と圧延の中心位置を結ぶ線」とからなす角度とされている。この角度に係る説明や引用文献1の第5図によれば、引用文献1記載の進入角度は、「2個の圧延ロールの中心軸線を通る平面に対する垂直面」と「圧延ロール間に導かれるストリップ」とがなす角度に等しいものであることは明らかであるから、引用文献1記載の発明における「所定の進入角度」は、本件補正発明における「該ロールの中心軸線を通る平面に対する垂直面に対」する「該ロール間に該スラブ、プレート又はストリップを導く」「角度」に相当する。
そうすると、引用文献1記載の発明における「大小圧延ローラ9、10間に5?30度の進入出角度をストリツプに与えながら、大小圧延ローラ9、10間を走行させるようにされたデフレクタロール29、30」と本件補正発明における「該ロールの中心軸線を通る平面に対する垂直面に対し10゜と25゜の間の角度で該ロール間に該スラブ、プレート又はストリップを導くよう設計された供給手段」とは、「該ロールの中心軸線を通る平面に対する垂直面に対し所定の進入角度で該ロール間に該スラブ、プレート又はストリップを導くよう設計された供給手段」である限りで一致する。

したがって、両者は、
「2つの駆動可能なロール間にロールニップを備える圧延機スタンドを含んでなる、金属のスラブ、プレート又はストリップの処理用デバイスであり、該圧延機スタンドが該ロール間で金属のスラブ、プレート又はストリップを圧延するよう設計されている該デバイスにおいて、該デバイスが、該ロールの中心軸線を通る平面に対する垂直面に対し所定の進入角度で該ロール間に該スラブ、プレート又はストリップを導くよう設計された供給手段を具備してなる、デバイス。」
である点で一致し、以下の2点で相違する。

<相違点1>
「所定の進入角度」が、本件補正発明では、「10゜と25゜の間の角度」であるのに対し、引用文献1記載の発明では、「大小圧延ローラ9、10間に5?30度の進入出角度をストリツプに与えながら」とされている、即ち、「進入角度」と「進出角度」の合計である「進入出角度」は「5?30度」とされているが、「所定の進入角度」が何度であるかは明らかでない点。

<相違点2>
本件補正発明では、「圧延機スタンド」が「使用中、該ロールが異なる周速度を有し、該周速度の差が少なくとも5%そして多くて20%になるような方法で設計されてなる」ものであるのに対し、引用文献1記載の発明では、「圧延機スタンド」が、使用中、どの程度の周速になるように設計されてなるものか、明らかでない点。

(3)判断
そこで、上記相違点1及び2について、以下に検討する。

<相違点1について>
引用文献1の上記fの記載事項には、進入出角度の範囲について、「ストリツプに適当な角度つまり3度以上の曲げを与えた場合は圧下力が小さくなり、ストリツプの進入出角度が15度以上になると圧下力はそれほど変わらない。上記進出入角度の範囲はストリツプの平滑化及び装置のコンパクト化などを考慮すると特に限定するものではないが、5?30度の範囲が好ましいと言える。」及び「進入出角度θを適宜選択することにより、この両者の組合せ、即ち相乗効果により一層良好な高圧下率の圧延が可能となる。」と記載され、引用文献1の第4図には、15度以上の進入出角度により圧延を行ったものが示され、引用文献1の第5図には、θ_(1)、θ_(3)、θ_(5)、θ_(7)のように一定の大きさでストリップをロールに供給する態様が示されている。これらの記載によれば、進入出角度のうち進入角度についてみた場合でも、一定以上の大きさでストリップをロールに供給することが引用文献1に開示され、それが好ましいことは明らかである。
そうすると、引用文献1の進入出角度に係る「5?30度の範囲」の記載を考慮すれば、引用文献1記載の発明における「所定の進入角度」として、相違点1のように「10°と25°の間の角度」という一定の角度範囲を特定することは、当業者が容易になし得た設計的事項であり、最適な数値条件を選択するための通常の創作能力の発揮にすぎない。

<相違点2について>
引用文献1記載の発明は、「強圧下を行い高圧下率の場合でも圧下力が小さく、しかも形状の良好な圧延ができる」(上記bの記載事項)、「変形抵抗が次第に増加するにもかかわらず比較的小さな圧下力を維持したまま強制圧下を充分に行えるようにする」(上記dの記載事項)ものである。
そして、強圧下を得る圧延手段としては、2個の圧延ロールを異なる周速度で圧延するという「異周速圧延」が周知の圧延方法である(以下、「周知技術」という。)。
たとえば、原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭62-137102号公報(以下、「引用文献2」という。)、特開2000-17414号公報(以下、「引用文献3」という。)、及び特開昭63-180306号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載がある。

引用文献2:「その圧延工程において粗圧延機、仕上圧延機のうちの1台以上のスタンドで、片側駆動圧延、異径ロール圧延あるいは異周速圧延のいずれかまたはそれらの組合せを行ない、表面に表層剪断力を発生させ・・・(中略)・・・
(3) 圧延ワークロールの上下で周速差(異周速)を5?30%つけた 圧延を行なう、
ことのいずれかあるいはその組合せである。」(第2ページ左下欄第5ないし18行)

引用文献3:「【0008】上記圧延工程は、上下の回転ロールの回転周速度比が1.1?1.8の異周速圧延機により80?97%の圧延率で行われることが好ましい。すなわち、上下ロールの回転周速度比が1.1より小さい場合には、充分な剪断変形が得られ難く、このため焼鈍後の結晶粒が小さくなる傾向が弱く、高強度・高靱性・耐蝕性アルミニウム合金板が得られ難い。逆に、上下ロールの回転周速度比が1.8より大きくても、充分な剪断変形は得られるのであるが、その割りには結晶粒の微細化の効果が大きなものではなく、かつ、操業が一段と困難になる。従って、上下ロールの回転周速度比が1.1?1.8(より好ましくは、1.2以上。1.6以下。)の異周速圧延機により行うのが好ましい。」(【0008】)

引用文献4:「上側および下側ロール間の周速が5%以上異なる異周速圧延、または上側および下側ロールの間のロール軸の交差角が1°以上であるスキュー圧延を施して、熱延鋼帯を製造する方法が知られている。
・・・(中略)・・・強圧下を伴う異周速圧延やスキュー圧延では、板の中心部までよく加工されるようになる」(第2ページ左上欄第4ないし16行)

これらの記載によれば、異周速圧延は、強圧下を伴うものであり、板材に剪断力や剪断変形を与える作用を有するものである。また、引用文献2ないいし4に記載された周速度の差は、本件補正発明の「少なくとも5%そして多くて20%」と重なるものである。
したがって、引用文献1記載の発明において、強圧下を行うために、周知技術を適用し、「異周速圧延」と同様に2個の圧延ロールの周速度に差を設けることは当業者が容易に想到し得たことであり、その周速度の差を相違点2のように「少なくとも5%そして多くて20%」とすることは当業者が適宜なし得た設計的事項である。

そして、本件補正発明における周速度の差を設けたことによる作用効果については、金属材料を加工することにより、金属組織の結晶粒が変形して微細化したり空隙が塞がれることは、周知の事項であるから、本件出願の明細書の【0014】記載の「グレイン微細化と、細孔の改良されたふさぎ」という作用効果は、当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本件補正発明を全体としてみても、本件補正発明の効果は、引用文献1記載の発明及び周知技術からみて格別なものとはいえない。

(4)むすび
よって、本件補正発明は、引用文献1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件補正事項を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし32に係る発明は、平成20年11月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲、平成16年2月24日付けで提出された明細書の翻訳文、及び国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし32に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(1)」の【請求項1】のとおりである。

2 引用文献1及び2
原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭56-30011号公報には、上記「第2[理由]3(1-2)」のとおりの発明(以下、上記「第2[理由]3(1-2)」と同様に「引用文献1記載の発明」という。)が記載されていると認める。

また、原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭62-137102号公報、特開2000-17414号公報、及び特開昭63-180306号公報に記載されているように、強圧下を得る圧延手段としては、2個の圧延ロールを異なる周速度で圧延するという「異周速圧延」が周知の圧延方法である(以下、上記「第2[理由]3(3)と同様に「周知技術」という。)。

3 対比・判断
上記「第2[理由]2」で検討したように、本件補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本件補正発明が上記「第2[理由]3」のとおり、引用文献1記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用文献1記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件出願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-22 
結審通知日 2011-06-24 
審決日 2011-07-05 
出願番号 特願2003-522723(P2003-522723)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 要日比野 隆治  
特許庁審判長 北村 明弘
特許庁審判官 加藤 友也
田中 永一
発明の名称 金属のスラブ、プレート又はストリップの処理用デバイス及びこのデバイスを使用して作られる製品  
代理人 横田 修孝  
代理人 高村 雅晴  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 紺野 昭男  
代理人 吉武 賢次  
代理人 中村 行孝  

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