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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1247666
審判番号 不服2010-23270  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-15 
確定日 2011-11-30 
事件の表示 特願2004-530488「マルチプリントヘッドプリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月 4日国際公開、WO2004/018215、平成17年12月 2日国内公表、特表2005-536377〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2003年8月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年8月20日、イスラエル)を国際出願日とする出願であって、平成22年2月4日付けで手続補正がなされ、同年6月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月15日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし38に係る発明は、平成22年2月4日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし38にそれぞれ記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1及び2」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項1】
それぞれが少なくとも2つのプリントヘッドを含み、独立して移動可能なプリントヘッドアセンブリを少なくとも2つ備え、
各プリントヘッドが、一つまたはそれより多い印刷装置を含み、それぞれのオーバーラップしないウィンドウ内にマークすることが可能であり、それぞれのプリントヘッドによるマーキング中に、少なくとも1つの軸に沿って各プリントヘッドアセンブリが移動する、ディジタルプリンタ。
【請求項2】
少なくとも2つのプリントヘッドが各列に含まれるように、少なくとも2列に配置された少なくとも4つのプリントヘッドを含む、少なくとも1つの移動可能な単一のプリントヘッドアセンブリを備え、
各プリントヘッドが、一つまたはそれより多い印刷装置を含み、それぞれのオーバーラップしないウィンドウ内に同時にマークすることが可能な、ディジタルプリンタ。」

第3 引用刊行物
1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-171093号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(1)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数のインクタンクとインクの吐出を行うノズルを有するインクジェットヘッド部を備え、壁面や看板・ガラス窓等の被記録部材に対してインクジェットヘッド部を相対的に移動させることにより、壁面や看板・ガラス窓等の被記録部材にカラー画像を描画するインクジェット記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】インクジェットプリンタ等のインクジェット記録装置では、装置が軽量であり騒音の発生が少なく、普通紙に対して特別な定着を要することなく高速記録が行えるという特徴を有していた。
【0003】また、近年、OA機器のディジタル化が急速に進展し、カラー画像出力の需要が増してきたことにより、ディジタルカラー複写機やカラーレーザープリンタとともに、低価格のカラーインクジェットプリンタが広く一般に普及し、種々のタイプのものが研究開発されている。」

(2)「【0030】
【発明の実施の形態】本発明のインクジェット記録装置の実施形態を図1とともに説明する。
【0031】本実施形態のインクジェット記録装置は、図1に示すように、その枠体1は水平方向の枠体aと枠体c、及び垂直方向の枠体bと枠体dとにより構成されている。
【0032】上記枠体bや枠体dの内部には、夫々螺旋状に溝が刻まれた軸部2やこの軸部の溝に嵌合して配置される支持台3を有している。各支持台3には、送りシャフト4,ヘッド部駆動手段5,キャリッジ保持部材6(図8に図示)が取り付けられている。
【0033】そして、ヘッド部7(印字ヘッドまたはインクジェットヘッド部)は、キャリッジ8に搭載されており、水平方向に延びる送りシャフト4及びキャリッジ保持部材6上を摺動自在に支持され(キャリッジ8は自重により送りシャフト4の回りに回転可能であるので、図8(a),(b)に示すように、キャリッジ8の突出部8aがキャリッジ保持部材6に接触し摺動自在に支持されており、ヘッド部7と壁面等の被記録部材との位置決めがなされている。)、前記送りシャフト4と並行に張架され、ヘッド部駆動手段5によって駆動されるタイミングベルト9により水平方向(矢印X1,X2方向)に変位駆動される。
【0034】前記枠体bの下部には、支持台駆動手段(モーター等が該当)10が配置されており、この支持台駆動手段10により軸部2が回転駆動され枠体b内の支持台3が垂直方向に移動する。前記枠体d内の支持台3は枠体b内の支持台3と連動して移動し、ヘッド部7の垂直方向に駆動が制御される。
【0035】このように、前記キャリッジ8に搭載されているヘッド部7は、ヘッド部駆動手段5によって駆動されるタイミングベルト9により水平方向に、また、キャリッジ8全体が枠体b,dに設けられた支持台3を介して支持台駆動手段10により垂直方向の駆動が制御され、ヘッド部7と対向する被記録部材に描画が行われる。」

(3)「【0052】尚、前述の図1ではキャリッジ8を一つ設けた構成を示しているが、図4に示すように複数のキャリッジ8を設けても良い。この場合、各キャリッジ7の位置関係に基づいて、画像信号は複数のブロックに分割され、各々のインクジェットヘッド部7に入力される。」

(4)上記(1)ないし(3)から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「インクの吐出を行うノズルを有するインクジェットヘッド部を備え、被記録部材に対して該インクジェットヘッド部を相対的に移動させることにより、前記被記録部材に画像を描画するインクジェット記録装置であって、
該インクジェット記録装置は、枠体を備え、該枠体は水平方向の枠体aと枠体c、及び垂直方向の枠体bと枠体dとにより構成されており、
前記枠体bや枠体dの内部には、夫々螺旋状に溝が刻まれた軸部やこの軸部の溝に嵌合して配置される支持台を有しており、各支持台には、送りシャフト、ヘッド部駆動手段及びキャリッジ保持部材が取り付けられており、
前記インクジェットヘッド部は、キャリッジに搭載され、水平方向に延びる前記送りシャフト及び前記キャリッジ保持部材上を摺動自在に支持されており、前記送りシャフトと並行に張架され、前記ヘッド部駆動手段によって駆動されるタイミングベルトにより水平方向に変位駆動されるものであり、
前記枠体bの下部には、支持台駆動手段が配置されており、この支持台駆動手段により前記軸部が回転駆動され枠体b内の支持台が垂直方向に移動し、前記枠体d内の支持台は枠体b内の支持台と連動して移動し、前記インクジェットヘッド部の垂直方向の駆動が制御されるものであり、
前記キャリッジに搭載されている前記インクジェットヘッド部は、前記ヘッド部駆動手段によって駆動される前記タイミングベルトにより水平方向の駆動が、また、キャリッジ全体が枠体b,dに設けられた前記支持台を介して前記支持台駆動手段により垂直方向の駆動が制御され、前記インクジェットヘッド部と対向する前記被記録部材に描画が行われるものであり、
前記キャリッジは、複数設けられており、各キャリッジの位置関係に基づいて、画像信号は複数のブロックに分割され、各々のインクジェットヘッド部に入力されるインクジェット記録装置。」

2 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-326558号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。

(1)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子放出素子を有する電子源基板の作成方法に関する。また、該電子源基板を用いた電子装置の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、電子放出素子には大別して熱電子放出素子と冷陰極電子放出素子の2種類が知られている。冷陰極電子放出素子には電界放出型(以下、「FE型」という)、金属/絶縁層/金属型(以下、「MIM型」という)や、表面伝導型電子放出素子等がある。
…(略)…
【0010】本出願人により特開平2-56822号公報に開示されている電子放出素子の構成を図19に示す。同図において、1は基板、2および3は素子電極、4は導電性薄膜、5は電子放出部である。この電子放出素子の製造方法としては、様々な方法があるが、例えば基板1に一般的な半導体プロセスにおける真空薄膜技術やフォトリソグラフィー・エッチング技術により、素子電極2および3を形成する。次に導電性薄膜4はスピンコートのような分散塗布法等によって形成する。その後、素子電極2,3に電圧を印加し通電処理を施すことによって、電子放出部5を形成する。上記従来例による製造方法では、大面積に渡って素子を形成するには、大規模なフォトリソグラフィー・エッチング設備が必要不可欠で、工程数も多く、生産コストが高くなるといった欠点があった。また、こうした点に鑑み、表面伝導型電子放出素子の導電性薄膜を半導体プロセスを用いずパターニングする方法として、金属元素を含有する溶液を液滴の状態でインクジェット方式で直接付与する方法が提案されている(例えば特開平8-171850)。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開平8-171850等に記載の従来のインクジェット方式は、液滴を図18のような単一ヘッドで直接付与するものであり、基板がより大面積化していった際、一枚の基板を描画するのに非常に多くの時間を要し、スループットを上げるのには限界があった。また同時に、基板とヘッドとの相対移動の駆動ストロークを基板サイズに合わせて大きくする必要があり、装置コストが増大する欠点があった。
【0012】本発明における課題は、電子源基板の製造にかかる時間を短縮したり、電子源基板製造の歩留まりを向上したり、電子源基板の品質を向上することである。」

(2)「【0033】次に、本発明による表面伝導型電子放出素子の導電性薄膜形成方法を述べる。図1は、本発明による複数のインクジェットヘッドを用いた電子源基板の製造方法を示す模式図である。図2は、図1の右上の1つのヘッド近傍の拡大図であり、インクジェットヘッド6と素子電極2,3と液滴8の位置関係を示した概略図である。ここでは、複数に等分割された素子領域を、分割した個々の領域に一対一に対応した複数のインクジェットヘッドにより導電性薄膜材料を含む液滴を付与する例を示す。
【0034】液滴吐出ヘッドユニットの機構としては、任意の液滴を所望量(定量でよい)吐出できるものであれば如何なる機構でもよいが、特に数十ng程度の液滴を形成できるインクジェット方式の機構が望ましい。インクジェット方式としては、圧電素子を用いたピエゾジェット方式、またはヒーターの熱エネルギーを利用して気泡を発生させるバブルジェット方式等いずれのものでも構わない。
…(略)…
【0038】液滴の付与方法については、図1のように被塗布基板1の液滴を付与する素子部の領域をm×nの複数領域に等分割し、その等分割された個々の領域に対応した複数個(m×n個またはその整数倍)のインクジェットヘッドを用い、前記へッドと被塗布基板とが相対移動し基板上の各素子部に溶液を液滴状に少なくとも1個付与する。
【0039】本実施形態では、m×nの複数のインクジェットヘッドを使用するため、単一のヘッドで液滴の付与を行なう場合と比較してm×n倍の液滴付与能力を有し、同一の被塗布基板の処理を同一の相対移動速度で行なった場合に、1/(m×n)の時間で行なうことが可能であり、スループットの向上を図ることができる。
【0040】さらに、m×nの複数のインクジェットヘッドと被塗布基板との相対移動の移動領域を、m×nの複数領域に等分割された一つの領域と一致させ、m×nの複数のインクジェットヘッドと被塗布基板との相対移動において、全ヘッドを同時かつ同方向に移動させることにより、相対移動のための駆動機構のストロークを単一のヘッドで処理する場合の1/(m×n)のストロークとすることが可能となり、大面積の電子源基板を作製する場合でも駆動機構および装置全体をコンパクトなものとすることができる。」

(3)上記(1)及び(2)から、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「表面伝導型電子放出素子を有する電子源基板の作成装置において、
前記表面伝導型電子放出素子の導電性薄膜を半導体プロセスを用いずパターニングする方法として、金属元素を含有する溶液を液滴の状態でインクジェット方式で直接付与する方法が提案されているが、この従来のインクジェット方式は、液滴を単一ヘッドで直接付与するものであり、基板がより大面積化していった際、一枚の基板を描画するのに非常に多くの時間を要し、スループットを上げるのには限界があり、また同時に、基板とヘッドとの相対移動の駆動ストロークを基板サイズに合わせて大きくする必要があり、装置コストが増大する欠点があったので、
被塗布基板の液滴を付与する素子部の領域をm×nの複数領域に等分割し、その等分割された個々の領域に対応した複数個(m×n個またはその整数倍)のインクジェットヘッドを用い、前記へッドと被塗布基板とが相対移動し基板上の各素子部に溶液を液滴状に少なくとも1個付与することとし、
m×nの複数のインクジェットヘッドを使用するため、単一のヘッドで液滴の付与を行う場合と比較してm×n倍の液滴付与能力を有し、同一の被塗布基板の処理を同一の相対移動速度で行った場合に、1/(m×n)の時間で行うことが可能であり、スループットの向上を図ることができ、
さらに、m×nの複数のインクジェットヘッドと被塗布基板との相対移動の移動領域を、m×nの複数領域に等分割された一つの領域と一致させ、m×nの複数のインクジェットヘッドと被塗布基板との相対移動において、全ヘッドを同時かつ同方向に移動させることにより、相対移動のための駆動機構のストロークを単一のヘッドで処理する場合の1/(m×n)のストロークとすることが可能となり、大面積の電子源基板を作製する場合でも駆動機構および装置全体をコンパクトなものとすることができるようにした、
電子源基板の作成装置。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「インクジェットヘッド部」、「キャリッジに搭載されているインクジェットヘッド部」及び「『軸部』と『送りシャフト』」は、それぞれ、本願発明1の「プリントヘッド」、「プリントヘッドアセンブリ」及び「少なくとも1つの軸」に相当する。

イ 引用例1の「近年、OA機器のディジタル化が急速に進展し、カラー画像出力の需要が増してきたことにより、ディジタルカラー複写機やカラーレーザープリンタとともに、低価格のカラーインクジェットプリンタが広く一般に普及し、種々のタイプのものが研究開発されている。」(上記第3の1(1)【0003】参照。)との記載からも明らかなように、インクジェットプリンタは、ディジタル化されたOA機器といえるから、引用発明1の「インクジェット記録装置」は、本願発明1の「ディジタルプリンタ」に相当するといえる。

ウ 本願明細書の「インクジェット式プリントヘッドは、一つまたは複数のインクジェット装置を含み、各装置は、一つまたは複数のノズルまたは孔からドロップを出射する。」(【0004】参照。)との記載によれば、本願発明1の「印刷装置」には「ドロップを出射するノズル」が含まれると解されるから、引用発明1の「インクの吐出を行うノズル」は、本願発明1の「印刷装置」に相当するといえる。
また、引用発明1の「プリントヘッド(インクジェットヘッド部)」は、「印刷装置(インクの吐出を行うノズル)」を有するものであるから、引用発明1の「プリントヘッド」と本願発明1の「プリントヘッド」とは、「一つまたはそれより多い印刷装置を含」むものである点で一致する。

エ 本願明細書の「本発明の装置の基本的特徴は、いずれの構造においても、互いに十分な(substantial)距離をおいて配置され、媒体上のそれぞれのウィンドウ内で、同時に印刷が可能な複数のプリントヘッドを備えた点にある。なお、いくつかのウィンドウは別個(separate)である。「十分な距離」という用語は、その距離が、本質的には、単にヘッドアセンブリの観点から必要とされる距離よりも大きく、印刷される画像の間隔から決定される、という意味である。「別個」という用語は、ウィンドウが相互に排他的、すなわち、それぞれのウィンドウが1つの近接する領域からなり、どの2つのウィンドウもそれぞれの領域の実質的な部分においてオーバーラップすることがない、ということを意味する。」(【0026】参照。)との記載によれば、本願発明1の「ウィンドウ」とは、各プリントヘッドが印刷を行う印刷媒体上の領域であると解される。
一方、引用発明1において、キャリッジは複数設けられており、各キャリッジの位置関係に基づいて、画像信号は複数のブロックに分割され、各々のインクジェットヘッド部に入力されることと、引用例1の図4とから、引用発明1の「ブロック」は、各キャリッジの位置関係に基づいて分割された、各キャリッジに搭載されている各インクジェットヘッド部により画像が描画される被記録媒体上の各領域であると解される。
したがって、引用発明1の「ブロック」は、本願発明1の「オーバーラップしないウィンドウ」に相当する。

オ 引用発明1の「ディジタルプリンタ(インクジェット記録装置)」において、枠体bや枠体dの内部には、夫々螺旋状に溝が刻まれた「軸(軸部)」やこの「軸」の溝に嵌合して配置される支持台を有しており、各支持台には、「軸(送りシャフト)」、ヘッド部駆動手段及びキャリッジ保持部材が取り付けられており、「プリントヘッド(インクジェットヘッド部)」は、キャリッジに搭載され、水平方向に延びる前記「軸」及び前記キャリッジ保持部材上を摺動自在に支持されており、前記「軸」と並行に張架され、前記ヘッド部駆動手段によって駆動されるタイミングベルトにより水平方向に変位駆動されるものであり、前記枠体bの下部には、支持台駆動手段が配置されており、この支持台駆動手段により前記「軸」が回転駆動され枠体b内の支持台が垂直方向に移動し、前記枠体d内の支持台は枠体b内の支持台と連動して移動し、前記「プリントヘッド」の垂直方向の駆動が制御されるものであり、「プリントヘッドアセンブリ(キャリッジに搭載されているインクジェットヘッド部)」は、ヘッド部駆動手段によって駆動されるタイミングベルトにより水平方向の駆動が、また、キャリッジ全体が枠体b,dに設けられた支持台を介して支持台駆動手段により垂直方向の駆動が制御され、前記「プリントヘッド」と対向する被記録部材に描画が行われるものであり、前記キャリッジは複数設けられており、各キャリッジの位置関係に基づいて、画像信号は複数の「ウィンドウ(ブロック)」に分割され、各々の「プリントヘッド」に入力されるから、引用発明1の「ディジタルプリンタ」と本願発明1の「『それぞれが少なくとも2つのプリントヘッドを含み、独立して移動可能なプリントヘッドアセンブリを少なくとも2つ備え』た『ディジタルプリンタ』」とは、「プリントヘッドを含み、独立して移動可能なプリントヘッドアセンブリを少なくとも2つ備え」たものである点で一致するとともに、引用発明1の「プリントヘッド」と本願発明1の「プリントヘッド」とは、「それぞれのオーバーラップしないウィンドウ内にマークすることが可能」なものである点でも一致し、引用発明1の「プリントヘッドアセンブリ」と本願発明1の「プリントヘッドアセンブリ」とは、「『それぞれのプリントヘッドによるマーキング中に、少なくとも1つの軸に沿』って『移動する』」ものである点で一致するといえる。

カ 上記アないしオから、本願発明1と引用発明1とは、
「プリントヘッドを含み、独立して移動可能なプリントヘッドアセンブリを少なくとも2つ備え、
各プリントヘッドが、一つまたはそれより多い印刷装置を含み、それぞれのオーバーラップしないウィンドウ内にマークすることが可能であり、それぞれのプリントヘッドによるマーキング中に、少なくとも1つの軸に沿って各プリントヘッドアセンブリが移動する、ディジタルプリンタ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記各プリントヘッドアセンブリに含まれる前記プリントヘッドの数が、本願発明1では、「少なくとも2つ」であるのに対して、引用発明1では、そうでない点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
ア 引用例2には、「表面伝導型電子放出素子を有する電子源基板の作成装置において、
前記表面伝導型電子放出素子の導電性薄膜を半導体プロセスを用いずパターニングする方法として、金属元素を含有する溶液を液滴の状態でインクジェット方式で直接付与する方法が提案されているが、この従来のインクジェット方式は、液滴を単一ヘッドで直接付与するものであり、基板がより大面積化していった際、一枚の基板を描画するのに非常に多くの時間を要し、スループットを上げるのには限界があり、また同時に、基板とヘッドとの相対移動の駆動ストロークを基板サイズに合わせて大きくする必要があり、装置コストが増大する欠点があったので、
被塗布基板の液滴を付与する素子部の領域をm×nの複数領域に等分割し、その等分割された個々の領域に対応した複数個(m×n個またはその整数倍)のインクジェットヘッドを用い、前記へッドと被塗布基板とが相対移動し基板上の各素子部に溶液を液滴状に少なくとも1個付与することとし、
m×nの複数のインクジェットヘッドを使用するため、単一のヘッドで液滴の付与を行う場合と比較してm×n倍の液滴付与能力を有し、同一の被塗布基板の処理を同一の相対移動速度で行った場合に、1/(m×n)の時間で行うことが可能であり、スループットの向上を図ることができ、
さらに、m×nの複数のインクジェットヘッドと被塗布基板との相対移動の移動領域を、m×nの複数領域に等分割された一つの領域と一致させ、m×nの複数のインクジェットヘッドと被塗布基板との相対移動において、全ヘッドを同時かつ同方向に移動させることにより、相対移動のための駆動機構のストロークを単一のヘッドで処理する場合の1/(m×n)のストロークとすることが可能となり、大面積の電子源基板を作製する場合でも駆動機構および装置全体をコンパクトなものとすることができるようにした、
電子源基板の作成装置。」である引用発明2が記載されている(上記第3の2(3)参照。)。

イ インクジェット法が、プリンターのみならず、電子線装置の製造等にも用いられる汎用技術であることは、当業者に周知である(以下「周知事項」という。例.特開平11-354012号公報(【要約】、【0083】?【0091】参照。)、特開平11-73897号公報(【要約】、【0131】?【0140】参照。))。

ウ 上記ア及びイから、引用発明1において、インクジェット記録装置のスループットを向上するとともに、インクジェットヘッド部の駆動機構及び装置全体をコンパクトなものとするために、被記録部材上の各ブロックをさらにm×nの複数領域に等分割し、その等分割された個々の領域に対応した複数個(m×n個またはその整数倍)のインクジェットヘッド部を各キャリッジに搭載し、該インクジェットヘッド部の移動領域をm×nの複数領域に等分割された一つの領域と一致させ、m×nの複数のインクジェットヘッド部と被記録媒体との相対移動において、各キャリッジに搭載されている全インクジェットヘッド部を同時かつ同方向に移動させるようになすこと、すなわち、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明1の構成となすことは、当業者が、引用発明2及び周知事項に基づいて容易になし得た程度のことである。

エ 効果について
本願発明1の奏する効果は、当業者が、引用発明1の奏する効果、引用発明2の奏する効果及び周知事項から予測できた程度のものである。

オ まとめ
したがって、本願発明1は、当業者が、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

2 本願発明2について
(1)対比
本願発明2と引用発明2とを対比する。
ア 本願の特許請求の範囲の「【請求項17】前記印刷装置の少なくとも1つがインクジェット装置である、請求項1ないし16のいずれか一項に記載のディジタルプリンタ。」との記載によれば、本願発明2の「ディジタルプリンタ」には、「インクジェットプリンタ」が含まれると解される。一方、引用発明2の「電子源基板の作成装置」は、基板上の各素子部に溶液を液滴状に少なくとも1個付与するものである。
したがって、引用発明2の「電子源基板の作成装置」と本願発明2の「ディジタルプリンタ」とは、「液滴付与装置」である点で一致するといえる。

イ 引用発明2の「液滴付与装置(電子源基板の作成装置)」は、被塗布基板の液滴を付与する素子部の領域をm×nの複数領域に等分割し、その等分割された個々の領域に対応した複数個(m×n個またはその整数倍)のインクジェットヘッドを用い、m×nの複数のインクジェットヘッドと被塗布基板との相対移動の移動領域を、m×nの複数領域に等分割された一つの領域と一致させ、m×nの複数のインクジェットヘッドと被塗布基板との相対移動において、全ヘッドを同時かつ同方向に移動させるものであるから、引用発明2の「液滴付与装置」と本願発明2の「『少なくとも2つのプリントヘッドが各列に含まれるように、少なくとも2列に配置された少なくとも4つのプリントヘッドを含む、少なくとも1つの移動可能な単一のプリントヘッドアセンブリを備え』た『液滴付与装置(ディジタルプリンタ)』」とは、「少なくとも2つのヘッドが各列に含まれるように、少なくとも2列に配置された少なくとも4つのヘッドを備え」たものである点で一致するとともに、引用発明2の「領域」は、本願発明2の「ウィンドウ」に相当し(上記1(1)エ参照。)、引用発明2の「インクジェットヘッド」と本願発明2の「『それぞれのオーバーラップしないウィンドウ内に同時にマークすることが可能』な『プリントヘッド』」とは、「それぞれのオーバーラップしないウィンドウ内に同時に液滴を付与することが可能なヘッド」である点で一致する。

ウ 引用発明2の「ヘッド(インクジェットヘッド)」が、液滴を吐出するノズルを有することは当業者に自明である。一方、本願発明2の「印刷装置」には「ドロップを出射するノズル」が含まれると解される(上記1(1)ウ参照。)。
したがって、引用発明2の「ヘッド」と本願発明2の「『一つまたはそれより多い印刷装置を含』む『ヘッド(プリントヘッド)』」とは、「一つまたはそれより多いドロップを出射するノズルを含むヘッド」である点でも一致するといえる。

エ 上記アないしウから、本願発明2と引用発明2とは、
「少なくとも2つのヘッドが各列に含まれるように、少なくとも2列に配置された少なくとも4つのヘッドを備え、
各ヘッドが、一つまたはそれより多いドロップを出射するノズルを含み、それぞれのオーバーラップしないウィンドウ内に同時に液滴を付与することが可能な、液滴付与装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点2:
前記少なくとも4つのヘッドが、本願発明2では、「少なくとも1つの移動可能な単一のヘッドアセンブリ」に含まれているものであるのに対して、引用発明2では、そのようなものであるのか明らかでない点。

相違点3:
本願発明2では、前記ドロップを出射するノズルが「印刷装置」であり、前記ヘッドが「プリントヘッド」であり、前記液滴の付与が「マーク」であり、前記液滴付与装置が、「ディジタルプリンタ」であるのに対して、
引用発明2では、いずれもそのようなものでない点。

(2)判断
上記相違点2及び3について検討する。
ア 相違点2について
引用発明2において、全ヘッドを同時かつ同方向に移動させるための手段として何を用いるかは、当業者が適宜決定すべき設計事項というべきところ、その手段として、全ヘッドを搭載して移動する単一の部材を用い、上記相違点2に係る本願発明2の構成となすことは、当業者が適宜なし得た設計上のことである。

イ 相違点3について
インクジェット法が、プリンターのみならず、電子線装置の製造等にも用いられる汎用技術であることは、当業者に周知である(上記1(2)イ参照。)から、引用発明2のインクジェットヘッドを用いる電子源基板の作成装置を、インクジェットプリンターとして転用し、インクジェットプリンターのスループットを向上するとともに、インクジェットヘッドの駆動機構及びプリンター全体をコンパクトなものとなすこと、すなわち、引用発明2において、上記相違点3に係る本願発明2の構成となすことは、当業者が周知事項に基づいて容易になし得た程度のことである。

ウ 効果について
本願発明2の奏する効果は、当業者が、引用発明2の奏する効果及び周知事項から予測できた程度のものである。

エ まとめ
したがって、本願発明2は、当業者が、引用例2に記載された発明及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

3 補正案について
請求人は、平成22年10月20日付け手続補正書(方式)において、「本願発明に進歩性がないと判断される場合には、上記請求項3、9、10、21、25および36?38を独立形式へ書き換える、請求項1、2を削除すると共に、請求項4、5を介して請求項1、2にそれぞれ従属している請求項6を2つの独立請求項に書き換える等、本願発明をさらに限定する補正を行う用意があります」と、補正案を提示している。
そこで、念のため、上記補正案のうちの請求項3に係る発明について以下検討する。

(1)請求項3の記載は、以下のとおりである。
「【請求項3】
前記プリントヘッドが、互いに十分な距離をおいて配置された、請求項1または2に記載のディジタルプリンタ。」

(2)しかしながら、引用発明1に引用発明2を適用する際、あるいは、引用発明2において、ヘッド同士の配置間隔をどの程度とするかは、当業者が、被記録媒体の大きさ、ヘッドの個数等に応じて適宜決定すべき設計事項というべきであるから、引用発明1に引用発明2を適用する際、あるいは、引用発明2において、ヘッド同士の配置間隔を「十分な距離」とすることは、当業者が適宜なし得た設計上のことである。

(3)したがって、本願の請求項3に係る発明は、本願発明1及び2と同様の理由により、当業者が、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)したがって、上記補正案は、採用することができないものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、当業者が、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-06-29 
結審通知日 2011-07-05 
審決日 2011-07-19 
出願番号 特願2004-530488(P2004-530488)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小宮山 文男  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 マルチプリントヘッドプリンタ  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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