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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1248318
審判番号 不服2008-17882  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-11 
確定日 2011-07-21 
事件の表示 平成11年特許願第545574号「Webサーバ上の統合アプリケーションとhttpにより連動するエージェントアクセサリーツール」拒絶査定不服審判事件〔平成11年9月16日国際公開、WO99/46697〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1998年3月11日(日本国受理)を国際出願日とする出願であって、平成20年5月29日付けで拒絶査定され、これに対して同年7月11日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は,平成17年2月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。
「1.複数の各クライエントのパーソナル・コンピュータ(以下PCと呼ぶ)に組み込まれたhttpにより連動するエージェント・プログラムと、前記各クライエントPCと通信回線を介して接続されたhttpの通信ソフト及び外部アプリケーションを実行するためのCGIインターフェースを有するWebサーバとからなり、各クライエントにおいてWebブラウザーを立ち上げているかどうかにかかわらず、前記エージェントプログラムが各クライエントの入力条件又は指定した時間にWebサーバを介してCGIプログラムの各種データとのアクセスを行い、その結果前回のアクセスデータから更新されていた時又は所定の条件に合致していた時に、クライエントのPCのディスプレイ上にアバター(デジタル俳優)やアクセサリーを出現させ、かつある所定の動作・反応させ、情報が存在することやその所定の条件に合致した状態になったことや音楽・映像を各クライエントに伝達したり、又はWebブラウザー領域外で動く一般アプリケーションを一体化して動かせるように構成されていることを特徴とするWebサーバ上の統合アプリケーションとhttpにより連動するエージェントアクセサリーツール。」


3.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の国際出願日前の平成8年8月5日に頒布された、日経BP社「日経コミュニケーション」第227号,第136-137頁,「情報通信早わかり講座 マルチメディア通信-〔9〕(丸付き数字を括弧で代用) WWWサーバーとデータベース」(以下、「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。
ア 「WWWサーバーはHTML文書を蓄積管理し,クライアントであるWWWブラウザはHTML文書をネットワークを通じて取り出します。このデータのやり取りの手順をHTTPといいます。
WWWブラウザは,HTMLのタグを逐次解釈しテキストを整形して表示します。HTMLでは厳密な表示方法は規定しません。細かな表現はブラウザに委ねています。これは,サーバーとクライアントの間のやり取りを簡単にし,伝送データ量を減らすための工夫です。」(136頁本文右欄9?20行)
イ 「情報の所在と扱い方の表現を統一
ネットワーク上の様々な情報にアクセスするには,情報がどこにあり,どう扱えば正しく表示できるかを知る必要があります。そこで,WWWではHTML文書の中でURLを用います。URLでは,〔1〕(丸付き数字を括弧で代用)情報にアクセスする方法であるプロトコルと,〔2〕(丸付き数字を括弧で代用)情報が存在するコンピュータのマシン名とファイルのディレクトリ名との組を表記します。
また,WWWのサーバーとクライアントの間では,どんな種類のデータがやり取りされているのかを識別するために,MIMEタイプを用いています。
MIMEタイプは,データがどんな種類で,どんなフォーマットをしているかを分類したものです。WWWサーバーから「Content-Type:データ・タイプ/サブタイプ」という形でブラウザに通知されます。具体的には,「text/html」などです。
通常は,ブラウザ自身がこの通知を基に自動的にファイルを開きますが,処理できない種類のデータに出会うと,「ヘルパー・アプリケーション」と呼ばれる他のプログラムを起動して,代わりに処理させます。例えば,MIMEタイプが「video/mpeg」の動画データをブラウザが受け取ったら,Movie Playerというアプリケーション・ソフトを起動するよう事前に設定しておきます。」(136頁本文右欄下から4行?137頁本文左欄最下行)
ウ 「もともとWWWサーバーには,CGIスクリプトを用いたプログラムを実行する機能があります。HTML文書からプログラムを呼び出してサーバー側で実行し,結果をブラウザに返す仕組みです。この機能を利用してSQLを逐次的に生成しRDBMSとのやり取りを行うと,ブラウザから直接データベースを検索しているかのようにできます。
最近では,CGIスクリプトを使わずに,WWWと他の専用機能がより緊密に連携するサーバー・システムが登場しています。RDBMSの他に,ビデオ・サーバーやテキストの全文検索エンジンなどと連携するようになってきています(図1)。
仕組みの簡単さが強みだったWWWですが,既存の様々なサービスを複合的に結びつけ,統合化されたアプリケーション環境を生み出す方向へ向かっています。」(137頁本文右欄7?最下行)
エ 137頁上欄の図1には、「WWWと他のサーバーとの連携の一例 ブラウザから直接データベースを検索しているかのようになる。HTTPに対応したWWWサーバーが他の専用機能を持ったサーバーと緊密に連携し,クライアントに情報を送る。」との注釈、及び、WWWブラウザ及びアプリケーションを備えるWWWクライアントは、HTTPによるインターネットを介してWWWサーバーと接続され、該WWWサーバーから検索結果のデータを受け、また、ゲートウェイ・ソフトを介して連携して動作するHTTPサーバー及び専用機能サーバー群を備える当該WWWサーバーは、RDBMS及びビデオ・データなどと接続されるとともに、既存の情報システムのデータベースもそのまま利用できることを示した構成図が、それぞれ記載されている。
オ 以上のア?エで摘記した引用例1の記載事項及び記載内容によると,引用例1には,以下の発明(以下,「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「クライアントに組み込まれたWWWブラウザ及びアプリケーションと、HTTPに対応したWWWサーバーは該クライアントとインターネットを介して接続されるとともにHTTPサーバー及びゲートウェイ・ソフトを有し、クライアントのURLを含むHTML文書に基づいてWWWサーバー側でゲートウェイ・ソフトを介してRDBMS等の各種データとのアクセスを行い、その検索結果のデータをクライエントに送る(伝達する)ようにしたWWWサーバー上の複数のデータベース等と連携したシステム。」

(2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の国際出願日前の平成9年6月10日に頒布された特開平9-153145号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の技術的事項が図1及び図8に示される構成図と併せて記載されている。
ア 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】インターネットナビゲーションと呼ばれる検索対象が曖昧な場合の情報検索において、キーワード検索はキーワードの選択が難しかった。
【0009】インターネットのWWWサーバでユーザに提供されるおすすめのサーバ情報は、提供情報が固定的であり、各ユーザはその中から自分の目的や好みに合った情報を探さなければならないという問題点があった。また、コンピュータシステムから一般ユーザに対して出力されるヘルプメッセージやシステムメッセージが、初心者にとって分かりにくいという問題点がある。
【0010】本発明は、検索対象が曖昧な場合の情報検索におけるユーザの目的や好みや、ユーザのコンピュータの熟練レベルに合った処理をしてくれるユーザインタフェースを提供することを第一の目的とする。」
イ 「【0029】以下、本発明の実施の形態について、図1から図12を用いて説明する。
(実施の形態1)図1は、本発明の実施の形態1によるエージェント表示装置100の構成図を示す。本実施の形態では、情報検索手段111を通じて、ネットワーク114上の情報源をエージェントによって検索する際のエージェントの表示に関して説明する。まず、全体の処理の流れの概要を説明する。
【0030】最初に情報検索処理を起動すると、情報検索手段111がエージェント制御手段14を起動する。エージェントの指定がある場合は、エージェント制御手段14は、エージェント処理手段5を起動する。エージェントの指定がない場合は、エージェントリスト表示選択手段13を起動して、検索に適するエージェントをユーザに選択させる。単数でも複数でもエージェントを選択できる。
【0031】エージェントを選択すると、エージェント制御手段14は、エージェント処理手段5に制御を渡し、それぞれのエージェントに対応した処理をさせる。それぞれのエージェントの処理は、エージェントオブジェクトと呼ばれるデータに記述されており、エージェントオブジェクトは、エージェントオブジェクト記憶領域1に格納されている。」
ウ 「【0075】(実施の形態2)図8は、本発明の実施の形態2におけるエージェント表示装置700の構成図を示す。以下、本発明の実施の形態1と異なる部分について、主に説明する。
【0076】エージェントオブジェクト編集手段15は、エージェントを新たに作成したり、既存のエージェントの設定を変更する編集機能を有する。本実施形態では、エージェントオブジェクト編集手段15によってエージェントを編集し、通信手段711によってエージェントの送受信を行なう実施の形態に関して説明を行なう。」
エ 「【0095】受信側は、図7と同じ構成の装置を有し、通信手段711で受信してエージェント制御手段14に制御が渡される。エージェント制御手段14は、受信したエージェントオブジェクトをエージェントオブジェクト記憶領域1とメッセージ記憶領域2とフレーム画像記憶領域3とに格納する。受信したエージェントオブジェクトのエージェントの起動は、エージェント制御手段14から行なう。エージェントが起動されると、行動規則項目に記述されたルールに従って動作する。
【0096】例えば、次のような動作を行なえる。電子メールが到着したことを注目させるために、くるくる回転するフレーム画像で登場する。マウスクリックされたら、要件であるパーティに招待するメッセージを出力し、出席または欠席の返事を待つ。マウスクリックなどの出席の反応をユーザが行なうと、エージェントが飛びあがる喜びの感情表現画像パターンを出力し、欠席ならば残念がる画像パターンを出力する。このことにより、文字列だけでは得られない楽しい効果を与えられる。」
オ 「【0109】
【発明の効果】以上のように本発明は、第一の課題に対して、画像上に表現された情報検索を行なう擬人化されたエージェントの表現パターンや言動をユーザが示し、種々のエージェントの中から検索目的に合ったエージェントを選択する方法によって検索方法の指定が行なえる。
【0110】ユーザにとって、検索情報の知識がない場合やインターネットのWWWサーバのように情報源が膨大である場合に、種々のエージェントの中から自分のその時の目的に最も合うエージェントを選択するという簡単な方法で、要求に近い情報を得られるという効果がある。
【0111】また、熟練度の属性を持つエージェントの場合は、システムの処理を自分の熟練度に合わせた処理に簡単に適応させることができるという効果がある。
【0112】第二の課題に対しては、エージェントオブジェクトの行動規則項目のルールの条件部や実行部のスクリプトを編集することによって、簡単にアニメーション作成を行なえるという効果がある。また、単純なスケルトンモデルに対して基本イメージをマッピングする処理を行なうため、スケルトンモデルの中からユーザの好みや目的に応じて動作パターンを選択するだけで簡単にアニメーションを作成できるという効果がある。
【0113】また、スケルトンモデルの構造が単純なので、変更が容易にできるという効果もある。
【0114】第三の課題に対しては、キャラクターアニメーションの服装、動作、言葉使いによって、システムの状況がどういった状況であるかが、ユーザに分かりやすくなるという効果がある。また、電子メールのような通信手段に用いた場合は、相手がどのような状況であるかが分かりやすく、いきいきした状況を伝えるという効果がある。」


4.対比
本願発明と引用例1発明を対比すると、以下の対応関係を導き出すことができる。なお、本願発明の「クライエント」については、引用例1では「クライアント」であるところ、両者は同意であるから、以下では、本願発明に合わせて「クライエント」で統一する。
ア 引用例1発明の「WWWブラウザ」、「インターネット」、「WWWサーバー」、「ゲートウェイ・ソフト」、「データ」、「複数のデータベース等」は、それぞれ、本願発明の「Webブラウザー」、「通信回線」、「Webサーバ」、「CGIインターフェース」、「情報」、「統合アプリケーション」に相当する。
イ 引用例1発明におけるクライエントが、複数であること、及び、パーソナル・コンピュータ(PC)を利用して所定のアクセスを行うことは、自明の技術的事項である。
ウ 引用例1発明の「WWWサーバー」は、上記3.の(1)の「ア」、「ウ」及び「エ」によると、HTTPに対応したものであり、またゲートウェイ・ソフトを介して外部のRDBMS等に接続されるものであるから、本願発明の「Webサーバ」と同様に、「各クライエントPCと通信回線を介して接続されたhttpの通信ソフト及び外部アプリケーションを実行するためのCGIインターフェースを有する」ものといえる。
エ 本願発明の「CGIプログラム」について、本願明細書の発明の詳細な説明には、「CGI(Common Gateway Interface)は、Webサーバで外部アプリケーションを実行するための共通インターフェースであって、外部アプリケーションはCGIプログラムと呼ばれ、Webサーバ側で起動する。」と記載され、また、特許請求の範囲請求項3に記載された「エージェント・プログラムがアクセス可能なWebサーバー上のWebアプリケーションが、通常クライエントにおいてWebブラウザー上において見られ操作されるワードプロセッサー、プレセンテーション、データベース、コミュニケーションフォーム、グループウェア、オーディオサーバ、一般アプリケーション、メールデータ、スケジュール管理データ、メッセージボード又はスプレッドシートであることを特徴とする請求項1又は2記載のエージェントアクセサリーツール。」が、国際出願当初の請求の範囲第3項の記載では「エージェント・プログラムがアクセス可能なCGIプログラムが、ワードプロセッサー、プレセンテーション、データベース、コミュニケーションフォーム、グループウェア、オーディオサーバ、一般アプリケーション、メールデータ、スケジュール管理データ、メッセージボード又はスプレッドシートであることを特徴とする請求項1又は2記載のエージェントアクセサリーツール。」であったことから勘案すると、引用例1発明における、WWWサーバー側でゲートウェイ・ソフトを介してアクセスされる「RDBMS等」は、明らかに本願発明のCGIプログラムの一つに相当するものである。
オ 引用例1発明における、「クライエントのURLを含むHTML文書に基づいてWWWサーバー側でゲートウェイ・ソフトを介してRDBMS等の各種データとのアクセスを行い」について、このアクセスを行うための「クライエントのURLを含むHTML文書に基づいて」は、換言すれば、該アクセスのための「クライエントの入力条件」といえるものである。
カ 引用例1発明における、「RDBMS等の各種データとのアクセスを行い、その検索結果のデータをクライエントに送る(伝達する)」について、本願発明に照らして検討する。まず、RDBMS等の各種データとのアクセスを行うことによって検索結果を得ることは、敷衍すれば、該アクセスを行い検索処理をした結果、該検索条件に合ったデータを該検索処理の結果として得ることであるから、本願発明の「CGIプログラムの各種データとのアクセスを行い、その結果所定の条件に合致していた時に、ある所定の動作・反応させ」ることに相当するといえる。そして、得られる検索結果がデータとして存在するわけであるから、データに着目すれば、本願発明の「情報として存在すること」に相当するといえるし、また、検索結果が得られたことを入力条件との関係でみると、本願発明の「その所定の条件に合致した状態になったこと」に相当するといえる。
キ 本願発明の「Webサーバ上の統合アプリケーションとhttpにより連動するエージェントアクセサリーツール」と、引用例1発明の「WWWサーバー上の複数のデータベース等と連携したシステム」とは、共に、「Webサーバ上の統合アプリケーションと連動する」システムといえる点で共通するから、引用例1発明も「Webサーバ上の統合アプリケーションと連動するアクセサリーツール」といえるものである。

したがって、以上のア?キから、本願発明と引用例1発明との一致点、及び、相違点を整理すると、以下のようになる。

(一致点)
複数の各クライエントのPCに組み込まれたプログラムと、前記各クライエントPCと通信回線を介して接続されたhttpの通信ソフト及び外部アプリケーションを実行するためのCGIインターフェースを有するWebサーバとからなり、前記プログラムが各クライエントの入力条件からWebサーバを介してCGIプログラムの各種データとのアクセスを行い、その結果所定の条件に合致していた時に、ある所定の動作・反応させ、情報が存在することやその所定の条件に合致した状態になったことを各クライエントに伝達するようにしたWebサーバ上の統合アプリケーションと連動するアクセサリーツール。

(相違点1)
複数の各クライエントのPCに組み込まれたプログラムは、本願発明では、httpにより連動するエージェント・プログラムであり、各クライエントにおいてWebブラウザーを立ち上げているかどうかにかかわらず、Webサーバ上の統合アプリケーションと(httpにより)連動するものであるのに対して、引用例1発明では、「WWWブラウザ及びアプリケーション」であり、それらがWebサーバ上の統合アプリケーションと連動するものである点。

(相違点2)
複数の各クライエントのPCに組み込まれたプログラムが、各クライエントの入力条件又は指定した時間にWebサーバを介してCGIプログラムの各種データとのアクセスを行い、その結果前回のアクセスデータから更新されていた時又は所定の条件に合致していた時に、本願発明は、各クライエントにおいてWebブラウザーを立ち上げているかどうかにかかわらず、クライエントのPCのディスプレイ上にアバター(デジタル俳優)やアクセサリーを出現させるものであるのに対して、引用例1発明は、そのような動作態様を行うことまで示されていない点。

なお、上記一致点及び相違点の認定について補足するが、上記2.のとおり、請求項1の記載により特定される本願発明の中で、請求項1の「かつ」の記載以降で特定される構成、すなわち、「ある所定の動作・反応させ、情報が存在することやその所定の条件に合致した状態になったことや音楽・映像を各クライエントに伝達したり、又はWebブラウザー領域外で動く一般アプリケーションを一体化して動かせるように構成されている」(下線は、区別のため新たに付与した。)においては、「や」及び「又は」により構成要件が列挙されている。してみると、「ある所定の動作・反応させ」ることによって、「各クライエントに」対して、「情報が存在すること」、「その所定の条件に合致した状態になったこと」、又は、「音楽・映像」の3つの態様の内いずれかを伝達するか、もしくは、該いずれかの伝達ではなく、「Webブラウザー領域外で動く一般アプリケーションを一体化して動かせる」態様、をも含めてそれら4つの内のいずれかの態様が、引用例1発明と一致していれば、そうでなければ相違点として判断すれば、本願発明の発明特定事項については不足なく対比・判断したことになることは明らかである。
これに関して、請求人は、審判請求書において掲げた『特徴点』の内、「特徴2」として、「そのエージェントがクライアント側の他のアプリケーションと連動して一体化して動くという点」又は「クライアント側の他のアプリケーションと一体化して動かせる」ことを主張しているが、当該「特徴2」は、上述のとおり、請求項1に係る本願発明においては、必須の発明特定事項ではなく、一つの選択肢として発明特定事項になり得るものであるから、引用例との対比・判断においては上記のように扱えば何ら不足はなく、この請求人の主張は請求項1の記載に基づく当を得たものとはいえない。


5.当審の判断
上記4.で抽出した相違点及び本願発明の効果について、以下に検討する。

(1)相違点1について
ア 確かに、引用例1発明の構成による動作(処理)態様は、上記3.の(1)で摘示した記載内容から、WWWブラウザによるものと捉えることが自然といえるところ、該(1)の「エ」で示したように、「WWWクライアント」は、「WWWブラウザ及びアプリケーション」を備えるもので、該アプリケーションの方についても、HTTPによるインターネットを介してWWWサーバーと接続されることが排除されるものではなく、また、該HTTPによるインターネットを介してWWWサーバーと接続されて動作(処理)するプログラムは、取りも直さず、httpにより連動するプログラムであることは、当業者であれば容易に首肯し得る技術的事項である。
イ 引用例2に記載のエージェント・プログラムが、WWWサーバにアクセスする点は、上記3.の(2)の「ア」及び「オ」の摘示事項から明らかであるところ、当該WWWサーバにアクセスするに当たって、WWWブラウザ(Webブラウザー)を必要とするか否かについては、引用例2には記載も示唆もない。しかしながら、WWWサーバ(Webサーバ)にアクセスするに当たり、httpにより連動するプログラムによりアクセスする技術自体は十分に周知技術である。この点については、本願の国際出願日前に、HTTPのプロトコル仕様書がその翻訳版も含めてよく知られていることからも明らかである。必要ならば、特開平9-204347号公報、第41,42頁の【0454】【表55】に示されるHTTPプロトコルを含めた参考文献リストの参考文献4(〔Ref.4〕及び〔Ref.4の日本語資料〕)が該当する(以下に、上記公報からそれを抜粋した部分を摘記する。)。
「・〔Ref.4〕HTTPの仕様に関するインターネット上の文献
http://www.w3.org/hypertext/WWW/Protocols/HTTP/HTTP2.html
・〔Ref.4の日本語資料〕日本語のHTTPプロトコル仕様書としては、木内
貴弘(kiuchi@epistat.m.u-tokyo.ac.jp)氏翻訳の
http://www.epistat.m.u-tokyo.ac.jp/internet/draft-fielding-http-
spec-01-jp.txt.オリジナル ファイル名:著者:T. Berners-Lee、R. T.
Fielding、H. Frystyk Nielsenがある。」
そして、当該httpにより連動するプログラムが、WWWブラウザ(Webブラウザー)そのものに限定されるものではなく、また、WWWブラウザ(Webブラウザー)と連携することを必要とするものでもなく、独自にWWWサーバ(Webサーバ)にアクセスするものを包含することは、当業者が容易に首肯し得る技術的事項である。
ウ また、例えば、ソフトバンク株式会社「Oh!PC 5/1号」,第15巻,第22号(1997年5月1日発行),第104-105頁,「6 自動アクセスソフト」、及び、株式会社インプレス「DOS/V POWER REPORT ‘97 11月号」(1997年11月1日発行),第150?151頁、それぞれに記載されているように(他にも、株式会社アスキー「月刊アスキー」,第21巻,第9号,第198頁(1997年9月1日)、株式会社ピー・エヌ・エヌ「Windws NT POWERS」,第1巻,第2号,第199頁(1997年6月9日)、株式会社毎日コミュニケーションズ「PCfan」,第4巻,第6号,第57頁(1997年4月1日)、等の技術雑誌に同旨の記載が有る。)、「WWWC」と呼ばれるフリーソフトが、WWWブラウザ(Webブラウザー)を起動している(立ち上げている)かどうかにかかわらず、WWWページ(ホームページ)の更新があったことを検出して、それをメッセージにより通知する機能を奏するプログラムとして周知のものである。すなわち、当該フリーソフトは、WWWブラウザ(Webブラウザー)に関係なく、WWWサーバ(Webサーバ)を介してWWWページ(ホームページ)にアクセスしその更新を検出するプログラムであるから、本願の国際出願日前に、各クライエントにおいてWWWブラウザ(Webブラウザー)を立ち上げているかどうかにかかわらず、WWWサーバ(Webサーバ)上のアプリケーションと連動する技術は、周知技術といえるものである(以下、この周知技術を「周知技術B」という。)。
エ してみると、引用例2のエージェント・プログラムを、httpにより連動するプログラムとし、各クライエントにおいてWWWブラウザ(Webブラウザー)を立ち上げているかどうかにかかわらず、WWWサーバ(Webサーバ)上のアプリケーションに対して動作機能させることは、上記イ及びウから当業者が適宜に採用し得る設計的事項である。
オ したがって、上記ア?エによれば、引用例1発明に対して、上記の各周知技術を考慮した引用例2に記載の公知の技術的事項を適用して、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)相違点2について
ア 上記3.の(2)の「ウ」及び「エ」で摘示したとおり、引用例2に示されるエージェント・プログラムは、電子メールが到着したことを注目させるために、くるくる回転するフレーム画像を登場させ、ユーザのディスプレイ上に表示させる機能を奏するものであるから、当該くるくる回転するフレーム画像は、本願発明の「クライエントのPCのディスプレイ上に」「出現させる」「アクセサリー」に相当することは明らかである。ところが、引用例2では、上記電子メールが到着したことを、ユーザのシステムに組み込まれたエージェント・プログラムが検知するものであるから、本願発明のように、クライエントのPCに組み込まれたエージェント・プログラムからのアクセスを通して前回から更新されていたこと又は所定条件が合致していたことにより検知するものではない。
しかしながら、平成19年12月26日付け拒絶理由通知書で指摘したとおり、「メールの着信状況を定期的に確認することは周知技術に過ぎない」ところ、必要ならば、特開平7-154418号、特開平9-198327号、特開平9-321792号の各公報に示されているように、より具体的に、ユーザ側から電子メールサーバのようなシステムへのアクセスを通して電子メールの着信状況を確認し、新たな着信に対してはそれを表示や音声といった形態で出力(出現)させる技術は、本件国際出願日前において周知技術である(以下、この周知技術を「周知技術A」という。)。ここで、当該新たな着信とは、前回のアクセスデータから更新されていた状態に他ならない。
また、上記(1)で周知技術Bとして示したとおり、WWWブラウザ(Webブラウザー)を起動している(立ち上げている)かどうかにかかわらず、WWWサーバ(Webサーバ)上のWWWページ(ホームページ)に更新があったことを検出して、それをメッセージにより通知する(出現させる)ことは、周知技術である。
してみると、上記周知技術A及びBを勘案すれば、上位概念として、概ねサーバにより管理される各種データとのアクセスに関して、各クライエントにおいてWebブラウザーを立ち上げているかどうかにかかわらず、そのアクセスデータが前回のものから更新されていることをクライエント側から検知してそれを出力(出現)させる技術もまた、本願の国際出願日前において周知技術といえることである(以下、この周知技術を「周知技術C」という。)。
イ 本願発明は、当該相違点2に係る構成による動作(処理)態様(以下、「前者の動作(処理)態様」という。)を、請求項1において「かつ」の記載以降で特定される構成(「ある所定の動作・反応させ、情報が存在することやその所定の条件に合致した状態になったことや音楽・映像を各クライエントに伝達したり、又はWebブラウザー領域外で動く一般アプリケーションを一体化して動かせるように構成されていること」)による動作(処理)態様(以下、「後者の動作(処理)態様」という。)と、併せて行っているものであるところ(両者が「かつ」で結ばれていることから明らか)、前者の動作(処理)態様は、後者の動作(処理)態様に対して予報的なものといえ、両者の動作(処理)態様が相互に関連して互いの動作(処理)内容に影響を及ぼし合うものとはいえず、それぞれ独立して動作(処理)するものであることは、当業者であれば容易に認識し得る技術的事項である。
ウ そしてまた、引用例1発明に対して、引用例2に記載の公知の技術的事項及び上記周知技術Cを採用することについても、当該採用をすることが、引用例1発明の構成による動作(処理)態様(すなわち、上記「(一致点)」で認定したとおり、請求項1において「かつ」の記載以降で特定される構成による動作(処理)態様に相当)に影響を及ぼすものではなく、単に別の動作機能として追加することに当たることは明らかであるから、当該採用を排除する理由は見当たらない。
エ したがって、上記ア?ウによれば、引用例1発明に対して、引用例2に記載の公知の技術的事項及び上記周知技術Cを適用することにより、相違点2に係る本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)本願発明の効果について
本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用例1発明並びに引用例2に記載の公知の技術的事項及び上記各周知技術から、当業者が容易に予測することができる程度のものであり、格別のものとまではいえない。


6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1発明、引用例2に記載の公知の技術的事項及び上記各周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-05-23 
結審通知日 2011-05-24 
審決日 2011-06-06 
出願番号 特願平11-545574
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 淳  
特許庁審判長 岩崎 伸二
特許庁審判官 長島 孝志
久保 正典
発明の名称 Webサーバ上の統合アプリケーションとhttpにより連動するエージェントアクセサリーツール  
代理人 押本 泰彦  

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