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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1248384
審判番号 不服2009-20466  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-23 
確定日 2011-09-22 
事件の表示 特願2003-557041「基板処理方法,基板処理装置およびマイクロ波プラズマ水素シンタ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月10日国際公開,WO03/56622〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年12月25日(優先権主張 平成13年12月26日,日本国)を国際出願日とする特許出願であって,平成19年9月28日付けで拒絶の理由が通知され,同年11月30日に意見書と手続補正書が提出され,平成20年10月9日付けで最後の拒絶の理由が通知され,同年12月12日に意見書と手続補正書が提出されたが,平成21年7月24日付けの補正の却下の決定によって,前記平成20年12月12日に提出された手続補正書でした補正は却下され,同日付けで拒絶査定されたものである。その後,平成21年10月23日に前記拒絶査定に対する不服審判が請求されるとともに同日手続補正がなされ,平成23年1月28日付けで審尋がおこなわれ,同年3月28日に回答書が提出されたものである。

第2 平成21年10月23日付けの手続補正についての却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年10月23日に提出された手続補正書でした補正を却下する。

[理 由]
1 本件手続補正の内容
平成21年10月23日に提出された手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)は,特許請求の範囲についてする補正を含み,その特許請求の範囲についてする補正は,補正前に,
「【請求項1】電子デバイス用基板を,水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気に対して曝露する基板処理方法であって,
前記水素ラジカルおよび水素イオンは,前記電子デバイス用基板上に希ガスと水素を含む処理ガスを供給し,平面アンテナからマイクロ波を照射して前記希ガスと水素を含む処理ガスをプラズマ励起することにより形成されることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】前記水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気は,重水素ラジカルおよび重水素イオンを含むことを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】前記水素ラジカルおよび水素イオンの生成は,13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われることを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項4】前記電子デバイス用基板の前記雰囲気に対する曝露は,400℃以下の基板温度で実行されることを特徴とする請求項1?3のうち,いずれか一項記載の基板処理方法。
【請求項5】前記プラズマは,電子温度が1.5eV以下であることを特徴とする請求項1?4のうち,いずれか一項記載の基板処理方法。
【請求項6】前記平面アンテナは,ラジアルラインスロットアンテナであることを特徴とする請求項1?5のうち,いずれか一項記載の基板処理方法。
【請求項7】前記電子デバイス用基板は,Si基板,SiGe基板あるいはガラス基板のいずれかであることを特徴とする請求項1?6のうち,いずれか一項記載の基板処理方法。
【請求項8】電子デバイス用基板表面に酸化膜を形成する工程と,
前記酸化膜をマイクロ波プラズマ処理により窒化し,少なくとも部分的に酸窒化膜に変換する工程と,
前記酸窒化膜上にポリシリコン膜を形成する工程と,
前記電子デバイス用基板を,水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気に対して曝露する半導体装置の製造方法であって,
前記水素ラジカルおよび水素イオンは,前記電子デバイス用基板上に希ガスと水素を含む処理ガスを供給し,平面アンテナからマイクロ波を照射して前記希ガスと水素を含む処理ガスをプラズマ励起することにより形成されることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項9】前記半導体装置はMOSFETを含むことを特徴とする請求項7記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】前記電子デバイス用基板は,Si基板,SiGe基板あるいはガラス基板のいずれかであることを特徴とする請求項8または9記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】前記酸化膜は,熱酸化膜をゲート絶縁膜として含むことを特徴とする請求項8?10のうち,いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】前記平面アンテナは,ラジアルラインスロットアンテナであることを特徴とする請求項8?11のうち,いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】前記酸化膜は,プラズマ酸化法,触媒酸化法,CVD法,PVD法のいずれかの方法により形成されたゲート絶縁膜を含むことを特徴とする請求項8記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】前記半導体装置は,電極間絶縁膜に高誘電体絶縁膜を用いた記憶素子を含むことを特徴とする請求項8?13のうち,いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】前記電子デバイス用基板の前記雰囲気に対する曝露は,400℃以下の基板温度で実行されることを特徴とする請求項8?14のうち,いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】前記水素ラジカルおよび水素イオンの生成は,13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われることを特徴とする請求項8?15のうち,いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】前記プラズマは,電子温度が1.5eV以下であることを特徴とする請求項8?16のうち,いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】電子デバイス用基板を,水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気に対して曝露する基板処理装置であって,
前記電子デバイス用基板を保持する基板保持台が形成され,排気部より排気される処理容器と,
前記電子デバイス用基板上に希ガスと水素を含む処理ガスを供給するガス導入部と,
前記処理容器内にマイクロ波を照射し前記希ガスと水素を含む処理ガスをプラズマ励起し,前記水素ラジカルおよび水素イオンを形成する平面アンテナと,
を備えたことを特徴とする基板処理装置。
【請求項19】前記水素ラジカルおよび水素イオンの生成は,13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われることを特徴とする請求項18記載の基板処理装置。
【請求項20】前記電子デバイス用基板の前記雰囲気に対する曝露は,400℃以下の基板温度で実行されることを特徴とする請求項18または19記載の基板処理装置。
【請求項21】前記プラズマは,電子温度が1.5eV以下であることを特徴とする請求項18?20のうち,いずれか一項記載の基板処理装置。
【請求項22】前記平面アンテナは,ラジアルラインスロットアンテナであることを特徴とする請求項18?21のうち,いずれか一項記載の基板処理装置。
【請求項23】マイクロ波プラズマ水素シンタ装置であって,
前記電子デバイス用基板を保持する基板保持台が形成され,排気部より排気される処理容器と,
前記電子デバイス用基板上に希ガスと水素を含む処理ガスを供給するガス導入部と,
前記処理容器内にマイクロ波を照射し前記希ガスと水素を含む処理ガスをプラズマ励起し,前記水素ラジカルおよび水素イオンを形成する平面アンテナと,
を備えたことを特徴とするマイクロ波プラズマ水素シンタ装置。
【請求項24】前記水素ラジカルおよび水素イオンの生成は,13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われることを特徴とする請求項23記載のマイクロ波プラズマ水素シンタ装置。
【請求項25】前記電子デバイス用基板の前記雰囲気に対する曝露は,400℃以下の基板温度で実行されることを特徴とする請求項23または24記載のマイクロ波プラズマ水素シンタ装置。
【請求項26】前記プラズマは,電子温度が1.5eV以下であることを特徴とする請求項23?25のうち,いずれか一項記載のマイクロ波プラズマ水素シンタ装置。
【請求項27】前記平面アンテナは,ラジアルラインスロットアンテナであることを特徴とする請求項23?26のうち,いずれか一項記載のマイクロ波プラズマ水素シンタ装置。」
とあったものを,補正後に,
「【請求項1】半導体装置が形成された電子デバイス用基板を,水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気に対して曝露する基板処理方法であって,
前記水素ラジカルおよび水素イオンは,前記電子デバイス用基板上に希ガスと水素を含む処理ガスを供給し,平面アンテナからマイクロ波を照射して前記希ガスと水素を含む処理ガスをプラズマ励起することにより形成され,
前記水素ラジカルおよび水素イオンの生成は,13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われ,
前記電子デバイス用基板の前記雰囲気に対する曝露は,400℃以下の基板温度で実行され,
前記プラズマは,電子温度が1.5eV以下であり,
前記平面アンテナは,ラジアルラインスロットアンテナであることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】前記水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気は,重水素ラジカルおよび重水素イオンを含むことを特徴とする請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】前記電子デバイス用基板は,Si基板,SiGe基板あるいはガラス基板のいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の基板処理方法。
【請求項4】電子デバイス用基板表面に形成されたゲート絶縁膜と,
前記ゲート絶縁膜上に形成されゲート電極を構成するポリシリコン膜とよりなる半導体装置において,
前記半導体装置が形成された前記電子デバイス用基板を,水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気に対して曝露する半導体装置の製造方法であって,
前記水素ラジカルおよび水素イオンは,前記電子デバイス用基板上に希ガスと水素を含む処理ガスを供給し,平面アンテナからマイクロ波を照射して前記希ガスと水素を含む処理ガスをプラズマ励起することにより形成され,
前記平面アンテナは,ラジアルラインスロットアンテナであり,
前記電子デバイス用基板の前記雰囲気に対する曝露は,400℃以下の基板温度で実行され,
前記水素ラジカルおよび水素イオンの生成は,13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われ,
前記プラズマは,電子温度が1.5eV以下であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】前記半導体装置はMOSFETを含むことを特徴とする請求項4記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】前記電子デバイス用基板は,Si基板,SiGe基板あるいはガラス基板のいずれかであることを特徴とする請求項4または5記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】前記酸化膜は,熱酸化膜をゲート絶縁膜として含むことを特徴とする請求項4?6のうち,いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】前記酸化膜は,プラズマ酸化法,触媒酸化法,CVD法,PVD法のいずれかの方法により形成されたゲート絶縁膜を含むことを特徴とする請求項4記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】前記半導体装置は,電極間絶縁膜に高誘電体絶縁膜を用いた記憶素子を含むことを特徴とする請求項4?8のうち,いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】半導体装置が形成された電子デバイス用基板を,水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気に対して曝露する基板処理装置であって,
前記電子デバイス用基板を保持する基板保持台が形成され,排気部より排気される処理容器と,
前記電子デバイス用基板上に希ガスと水素を含む処理ガスを供給するガス導入部と,
前記処理容器内にマイクロ波を照射し前記希ガスと水素を含む処理ガスをプラズマ励起し,前記水素ラジカルおよび水素イオンを形成する平面アンテナと,
を備え,
前記水素ラジカルおよび水素イオンの生成は,13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われ,
前記電子デバイス用基板の前記雰囲気に対する曝露は,400℃以下の基板温度で実行され,
前記プラズマは,電子温度が1.5eV以下であり,
前記平面アンテナは,ラジアルラインスロットアンテナであることを特徴とする基板処理装置。
【請求項11】マイクロ波プラズマ水素シンタ装置であって,
半導体装置が形成された電子デバイス用基板を保持する基板保持台が形成され,排気部より排気される処理容器と,
前記電子デバイス用基板上に希ガスと水素を含む処理ガスを供給するガス導入部と,
前記処理容器内にマイクロ波を照射し前記希ガスと水素を含む処理ガスをプラズマ励起し,前記水素ラジカルおよび水素イオンを形成する平面アンテナと,
を備え,
前記水素ラジカルおよび水素イオンの生成は,13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われ,
前記電子デバイス用基板の前記雰囲気に対する曝露は,400℃以下の基板温度で実行され,
前記プラズマは,電子温度が1.5eV以下であり,
前記平面アンテナは,ラジアルラインスロットアンテナであることを特徴とするマイクロ波プラズマ水素シンタ装置。」
とするものである。

2 補正目的の適否について
上記補正の内,補正後の請求項1についてした補正は,補正前の請求項1に係る発明における「電子デバイス用基板」を,「半導体装置が形成された電子デバイス用基板」と限定し,「水素ラジカルおよび水素イオンの形成」が,「13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われ」ることを限定し,「電子デバイス用基板の水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気に対する曝露」が,「400℃以下の基板温度で実行され」ることを限定し,「プラズマ」は,「電子温度が1.5eV以下であ」ることを限定し,及び,「平面アンテナ」が,「ラジアルラインスロットアンテナである」ことを限定したものであるから,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とした補正といえる。
同様の理由により,補正後の請求項10及び請求項11についてした補正も,特許請求の範囲の減縮を目的とした補正といえる。

また,補正後の請求項4についてした補正のうち,補正前の請求項8に係る発明における「電子デバイス用基板表面に酸化膜を形成する工程と,前記酸化膜をマイクロ波プラズマ処理により窒化し,少なくとも部分的に酸窒化膜に変換する工程と,前記酸窒化膜上にポリシリコン膜を形成する工程と」を,「電子デバイス用基板表面に形成されたゲート絶縁膜と,前記ゲート絶縁膜上に形成されゲート電極を構成するポリシリコン膜とよりなる半導体装置において」とした補正は,特許法第17条の2第4項第4号に掲げる,明りょうでない記載の釈明を目的とした補正であり,補正前の請求項8に係る発明における「電子デバイス用基板」を,「半導体装置が形成された前記電子デバイス用基板」と限定し,「平面アンテナ」が,「ラジアルラインスロットアンテナである」ことを限定し,「電子デバイス用基板の水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気に対する曝露」が,「400℃以下の基板温度で実行され」ることを限定し,「水素ラジカルおよび水素イオンの形成」が,「13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われ」ることを限定し,「プラズマ」は,「電子温度が1.5eV以下であ」ることを限定した補正は,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とした補正といえる。

そして,補正後の請求項2-3及び請求項5-9は,いずれも,特許請求の範囲の減縮を目的とした補正をおこなった請求項1及び請求項4を引用するから,請求項2-3及び請求項5-9もまた,特許請求の範囲の減縮を目的とした補正をおこなった請求項であるといえる。

なお,補正前の請求項3-6,12,15-17,19-22,24-27は,補正後に削除されており,これは,特許法第17条の2第4項第1号に掲げる,請求項の削除を目的とした補正といえる。

3 独立特許要件について
上記のとおり,請求項1-11についてした補正は,いずれも特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。そこで,この補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明1」という。)及び請求項7-8に係る発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて更に検討する。

(1)請求項7-8の記載要件について
請求項7-8は,いずれも請求項4を引用する請求項であるところ,請求項7-8の冒頭に記載された「前記酸化膜」に対応する「酸化膜」は,請求項4には存在しない。したがって,請求項7-8の記載は不明確であるから,特許を受けようとする発明が明確であることを要する特許法第36条第6項第2号の規定に適合しない。

(2)本願補正発明1の進歩性について
ア 引用例とその記載事項,及び,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である下記の引用例1,引用例2には,次の事項が記載されている。(なお,下線は,当合議体において付したものである。以下同じ。)

(ア) 引用例1:特開平11-330080号公報
(1a)「【請求項1】水素を構成要素として含む分子を含む気体をプラズマ化し,その下流に被加工物を設置して,被加工物内に水素を導入し,被加工物の物性を変化させることを特徴とする水素アニール方法。
【請求項2】被加工物の処理が非エッチング,非堆積膜生成処理であることを特徴とする請求項1に記載の水素アニール方法。
【請求項3】プラズマ化するためのガスに含まれる水素中の重水素の存在比が0.0184%以上であることを特徴とする請求項2に記載の水素アニール方法。
【請求項4】被加工物が半導体あるいは半導体の酸化物であることを特徴とする請求項2または3に記載の水素アニール方法。
【請求項5】被加工物の半導体あるいは半導体酸化物が半導体集積回路,液晶表示素子,あるいは太陽電池を構成する部材であることを特徴とする請求項4に記載の水素アニール方法。
【請求項6】処理中の被加工物が120℃以上に保持されていることを特徴とする請求項1から5に記載の水素アニール方法。
【請求項7】プラズマ化してその下流に被加工物を設置して処理するための,水素を構成要素として含む分子を含む気体が,ハロゲン,窒素,希ガス,酸素の少なくとも一つを構成要素とする分子を,該水素を構成要素として含む分子と同時に含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の水素アニール方法。」(【特許請求の範囲】)

(1b)「【発明の属する技術分野】本発明は水素により物性を改良するための水素アニールを低温で高速かつ安価に行う方法に関する。特に,被加工物表面に物理的損傷を与えることが少なく,かつ目的とする処理を達成するのに不都合な現象を生じる活性粒子を生じることの少ないプラズマダウンストリーム処理法の特性を生かし,従来水素分子を用い高温で行われていた水素アニールを低温で高速に行えるようにしたことを特徴とする水素アニール方法に関する。」(【0001】)

(1c)「【従来の技術】水素分子を含むガス中で被加工物を高温に維持することにより,被加工物表面にエッチングや堆積物生成等の表面加工を生じることなく,被加工物の物性を変化させる水素アニール処理は,例えばシリコン半導体デバイス製造工程において,様々な形で利用されてきた。シリコン大規模集積回路の製造では前工程の終了前に400?450℃程度の高温度で水素アニールを行い,シリコン半導体の特性を安定させる方法は良く知られている。前処理工程の途中でも堆積膜あるいは熱酸化膜などの品質改善を目的とした800?900℃の水素アニールが行われる場合もある。さらに最近では集積回路を製造する前のシリコン基板の特性改善,具体的には集積回路が形成させる程度の深さまでに存在する欠陥を消滅させる目的から1200℃程度の高温で水素アニールを行う方法が報告されている」(【0003】)

(1d)「【発明が解決しようとする課題】これら従来の水素アニールは大量のシリコン基板を同時に処理できる筒型の炉を用いているのが普通である。高温処理であるために,枚葉で処理を行っていたのでは昇温,降温のための時間がかかり,処理が効率的に行えないためである。しかし,大容量の炉に例え希釈してあったとしても水素を流し,かつ長時間処理するので,大量の水素を安全に供給し排気するための大規模な設備が必要であり,水素ガスの費用も無視できないものがある。」(【0005】)

(1e)「また,例えば400?450℃の水素アニールの場合,この時点では被加工物である集積回路上にはアルミニウムを用いた配線がすでに施されている。用いられる400?450℃と言う温度はアルミニウムの融点よりは低くはあるが,それでも結晶粒界(grain boundary)の変動などの構造変化が起こり,ヒルロックと呼ばれる突起した結晶粒が生じることなどが知られている。集積回路が微細化された現在,結晶粒界がアルミニウム配線を横切る構造になると,ストレスマイグレーションと呼ばれる,アルミニウムの上下にある物質間の熱膨張率の違いによってアルミニウム配線が断裂してしまう障害などが起こりやすくなることが知られている。従って,アルミニウムへの影響は極力排除されることが望ましいが,そのためにはおそらく200℃程度の低温で水素アニールが行える必要があり,その程度の低温になると,水素分子の拡散が十分に起こらず,本来水素アニールが目的とするシリコン酸化膜,あるいはシリコン酸化膜/シリコン界面の特性改善が十分に行われなくなってしまう問題がある。」(【0006】)

(1f)「【課題を解決するための手段】水素を構成要素として含む分子を含む気体をプラズマ化し,その下流に被加工物を設置して,被加工物内に水素を導入する。
水素アニールの効果は被加工物を構成部分の少なくとも一部として持つ機能素子の電気的特性を含む物性の変化として測定評価されているが,水素が被加工物に与える原子・分子レベルでの変化,すなわち構造化学的な観点での変化は必ずしも明らかになっていない。しかし,例えば前述の400?450℃アニールの場合,シリコン酸化膜中あるいはシリコン酸化膜/シリコン界面に存在するシリコンのダングリング・ボンドと水素が結合し,Si-H結合もしくはSi-D結合が形成され,それによりダングリング・ボンドがもたらす電気的な不安定が取り除かれると考えられている。このとき,水素分子は最終的には解離され水素原子としてシリコンと結合するのであり,熱は水素分子の拡散速度を高めかつシリコンとの反応効率を高めていると考察されるから,あらかじめ水素分子ではなく,水素原子として被加工物に供給すれば拡散速度の点でも,反応の点でも処理の低温下と高速化が実現できると期待される。」(【0008】-【0009】)

(1g)「[第二の実施例]図1の装置を用いて,99%重水素からなる重水素分子ガス90sccmと塩素分子10sccmの混合ガスを,500W,2.45GHzのマイクロ波を印加してプラズマ化し,その下流に100Åの酸化膜をO_(2)雰囲気中で成長させた6インチのシリコンウェハを設置し,200℃で10分間処理し,2次イオン質量分析法で重水素を測定した。表面から100Åの酸化膜/シリコン界面付近で重水素濃度は最大となり,その濃度は約3x10^(19)cm^(-3)であった。残念ながら設備の関係上実際のMOSトランジスターを用いてのゲート酸化膜の電子注入に対する寿命は調査できなかったが,この結果は重水素によるダングリング・ボンドの解消を従来より低温で高速,かつ少ない重水素量で行えることを示唆するものである。」(【0016】)

(イ) 引用発明1
上記引用例1の記載事項(1g)をまとめると,引用例1には,
「99%重水素からなる重水素分子ガス90sccmと塩素分子10sccmの混合ガスに,500W,2.45GHzのマイクロ波を印加してプラズマ化し,その下流に100Åの酸化膜をO_(2)雰囲気中で成長させた6インチのシリコンウェハを設置し,200℃で10分間処理して,表面から100Åの酸化膜/シリコン界面付近での重水素濃度を最大となし,その濃度を約3x10^(19)cm^(-3)とした,酸化膜を成長させたシリコンウェハの処理方法。」(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

(ウ) 引用例2:国際公開第98/33362号
(2a)「技術分野
本発明は,プラズマ装置に係る。
背景技術
近年,ULSI(Ultra Large Scale Integrated Circuit)のチップサイズの大型化に伴い,その基体として用いられるシリコン基板も大口径化される傾向にある。基体が大口径化されると一枚ずつ処理を行う枚葉処理が主流となるため,エッチングにしても成膜にしても高い生産性を維持するために毎分1mm以上の高速処理が要求される。高速処理を可能とする大口径基板対応用のプラズマ装置には,電子密度が10^(11)cm^(-3)を越える高密度プラズマが生成可能なこと,及び高速処理によって基板表面から放出される大量の反応生成物を効率的に除去するために大量のガスを流し得ることが不可欠である。」(第1頁第5-17行)

(2b)「本発明は,容器内部が狭い空間内部において,プラズマ電位の低い大面積において均一な高密度プラズマを励起し,且つシャワープレートに相当する機構を採用することで原料ガス供給の均一化および反応副生成物ガスの高速除去ができるため,大面積の基板上に高品質の薄膜を低温且つ高速で均一に成膜でき,エッチンクプラズマプロセスその他のプラズマ処理にも使用できるプラズマ処理装置を提供することを目的とする。」(第2頁第29行-第3頁第5行)

(2c)「(符号の説明)
・・・
201・・ ラジアル・ライン・スロット・アンテナ,・・・」(第10頁第10-22行)

(2d)「実施例
以下,図面を参照して本発明のプラズマ装置を説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
(実施例1)
本例では,図1に示すプラズマ装置を用い,容器内にマイクロ波を導入してプラズマを生起させる際,容器内面を構成する部材の材質および部材の厚さを変えてプラズマの安定性を調べた。
図1において,100は内部が減圧可能な容器,101はチャンバ,102は第1の誘電体板,103は導波誘電体板,104は被処理体,105はプラズマ,106はアンテナスロット板,107は同軸管,108はアンテナガイト,109は電極,110はスロット,201はラジアル・ライン・スロット・アンテナ,202は第1のOリング,205は空間3,206は空間4,207は空間5である。
図1において,内部が減圧可能な容器100は,チャンバ101(材質:SUS)と,第1の誘電体板102(材質:石英)と,これらの間に設けた真空シール機能を有する第1のOリング202とから構成されており,容器100の内部は不図示の排気システムによって減圧することができ,容器100は電気的に接地してある。
容器100外には,アンテナガイド108(材質:A1),アンテナスロット板106(材質:Cu),導波誘電体板103(材質:石英)から構成されるラジアル・ライン・スロット・アンテナ201が設置され,同軸管107(材質:Cu)を通しマイクロ波がアンテナ201内に導入され,アンテナスロット板106に設けられた各スロット110から漏れながら径方向に伝搬し,容器100内に電波を放射し,不図示の原料ガス供給系から,容器100内部へガスを流し込み,プラズマ105を励起させる。容器100内には被処理体104を保持する機能を有する電極109があり,電極109はアンテナ201と平行に対向するように設置され,被処理体104を加熱する機構を有している。また,容器100外部から電極109を上下に可動させることが可能となっており,第1の誘電体板102との距離を約10mm?60mmまで変化させることができる。
図2は,図1に示したラジアル・ライン・スロット・アンテナ201を下方からみた模式的な平面図である。アンテナスロット板106には,スロット板を貫通する穴部(以下,スロット)110が配置されているが,スロット110の配置は図2の配置に限定されない。
スロット110は,2つのスロット111aと111bを1つの対としており,アンテナ201へ同軸管107を通して入射される管内波長λgの1/4の距離で直角に配置されている。前記スロット111aと111bからなる対,すなわちスロット110は各々が円偏波の電波を出すことができ,複数個のスロット110は同心円状に多数設けられている。スロット110の配置は同心円の他に螺旋状に設けてあっても構わない。これらの例に限定されることはないが,本例では同心円状に配置することにより,前記電波を大面積内で均一に放射できるように設けた。
また,円偏波の電波を放射することに限定されるわけではなく直線偏波を用いてもよいが前記円偏波の方が好ましい。
107はスロット板106にマイクロ波を供給するための同軸管であり,不図示の同軸管-導波管変換器を介して導波管から整合器を介してマイクロ波電源が接続されている。
また,被処理体104をチャンバ101内外に搬送するための手段などが必要であるか,図1では省略してある。
本例では,ラジアル・ライン・スロット・アンテナ201に同軸管107よりマイクロ波(周波数=8.3GHz)を導入し,アンテナ201より電波を放射し容器100の空間5(207)の中にプラズマ105を励起させた。しかし,SUSチャンバ101では,空間5(207)の中にプラズマ105か励起しなかった
そこで,前記SUSチャンバ101の内表面に,鉛,タンタル,タングステン,アルミニウム,金,銅,銀からなるめっき層(7種)をそれぞれ施し,上記プラズマの着火実験を行なった。その際,プロセスガスとしてはArガスを用い,ガス圧力は500mTorrとした。
図3は,プラズマの着火実験の結果である。この時,めっきの厚さはマイクロ波のd=(2/μ0σω)^(1/2)から決定する表皮深さよりも厚い必要があるため,約10μmとした。図3から,チャンバ101の内表面の材質の導電率が高くなればなるほどプラズマは励起しやすいことがわかった。この実験結果は,マイクロ波を容器100内に導入した瞬間には,容器100内は共振器状態となっており,プラズマを着火するには高電界が必要なため,共振器のQ値を高くしなければならないことを意味する。
図4は,SUSチャンバ101の内表面にアルミニウムめっき層を設け,その厚さとアンテナ201に導入するマイクロ波の波長とを変えて,プラズマの着火実験を行った結果である。図4から,マイクロ波の周波数が2.45GHzの場合には,マイクロ波のd=(2/μ0σω)^(1/2)から決定する表皮深さ1.67μmよりもアルミニウムめっき層が厚いとき,プラズマが安定していることが分かった。また,マイクロ波の周波数が8.3GHzの場合には,マイクロ波のd=(2/μ0σω)^(1/2)から決定する表皮深さ0.89μmよりもアルミニウムめっき層が厚いとき,プラズマが安定していることが確認できた。」(第23頁第11行-第25頁第25行)

(2e)「(実施例16)
本例では,図15に示すプラズマ装置において,容器101外に第1の誘電体板102を介してアンテナ201を設置し,マイクロ波(周波数8.3GHz)を同軸管107を通してアンテナ201に導入し,電波を容器101内に放射することにより,プラズマを励起させた。
図31は飽和イオン電流密度の分布を,図32は電子温度の分布を,図33は電子密度の分布を,それぞれ測定した結果を示すグラフである。
図31乃至図33から,本発明に係るプラズマ装置は,14mA/cm^(2)以上の飽和イオン電流,1.0eV(15000K)程度の電子温度,10^(12)以上の電子密度を有する高密度プラズマを,容器101内において直径300mm以上の大面積上にわたって,均一に励起できることが分かった。」(第38頁第5-15行)

(2f)「原料ガスとしてSiH_(4),H_(2)及びArを用いているが,これらの組み合わせに限定されるわけではなく,Arの代わりにXeを用いてもよいが,Xeのほうが好ましい。
Arの比率はArを全体の半分以上に保つ必要がある。本例では50%に設定したがこの値に限定されるわけではない。これはマイクロ波を用いたプラズマ励起方法では,プラズマの励起を維持するためには,該プラズマ中の電子密度がある程度高い必要があるためで,より高い電子密度を得ることのできるArの比率を多くする必要がある。」(第42頁第23行-第43頁第1行)

(2g)「キャリアガスとしてArの代わりにHeやXeを用いても構わない。」(第46頁第10-11行)

(2h)「(実施例38)
本例では,大流量のガスを均一に供給することが可能なラジアルラインスロットアンテナを用いたプラスマ装置において,本装置を前記基体上にダイヤモンドを成膜するプラズマCVD装置に応用した場合を示す。
本装置の構成は実施例3と同様であるので省略する。
ダイヤモンド薄膜はその優れた機械的,熱的科学的,電気的,光学的特性を有し,さらに適当な不純物を添加することによって半導体特性を制御できることから注目されている。
本実施例では,ダイヤモンド薄膜を,ULSIシリコンの次世代の加工技術として期待されているX線リソグラフィに用いられる,マスクへの応用を目指した成膜について述べる。
図69にX線リソグラフィ用マスクの構成の一例を示す。図の中央正方形部の吸収体には転写する回路パターンが形成される。基板側から平行光のX線が入射し,中央正方形部の,吸収体のない部分をX線が通過し,吸収体側に設置された,不図示の被パターン形成Siウエハに投影される。吸収体の支持層として使われるダイヤモンド薄膜には,透明であること,表面が平滑であること,面内で均一な特性であることが要求される。
本実施例では,Siウェハ上へのダイヤモンド薄膜の成膜を実施した。以下に実施方法を述べる。
表面の汚染物(パーティクル,有機物,金属)と自然酸化膜を除去したSi基板をチャンバに導入する。ローディング後,ダイヤモンド薄膜を前記装置にて,1?2μm程度成膜する。まずAr/H_(2)/CH_(4)もしくはAr/H_(2)/CO_(2)雰囲気中でSi基板表面を炭化処理した後,Si基板を負にバイアスして,Si基板上にダイヤモンド結晶の核を生成させる。この処理の後,Ar/H_(2)/CH_(4)/O_(2)もしくはAr/H_(2)/CO_(2)/O_(2)雰囲気中でダイヤモンド薄膜を1?2μm程度成膜する。上記のArの代わりにXeを用いても良い。プロセス時のチャンバー圧力は3?500mTorrであり,プロセスガス流量は,3SLMまで流せることが可能であり,Siウェハは300?700℃に温度制御されている。本装置では,大面積に高密度かつ均一なプラズマを生成でき,シャワープレートを設けることにより原料ガスの供給の均一化を図り,大口径基板に均一に成膜できる。また,プロセス空間を狭くし,大流量のプロセスガスを均一かつ高速に排気することで反応副生成物ガスの高速除去が可能となるため,均一に原子状水素でエッチングされた非ダイヤモンド成分などの反応副生成物が高速に排気され,高品質なダイヤモンドが生成できる。」(第57頁第20行-第58頁第24行)

イ 対比
(ア)引用発明1は,引用例1の請求項に記載された発明の実施例であるところ,引用例1の上記摘記(1a)に記載されているように,請求項3において「プラズマ化するためのガスに含まれる水素中の重水素の存在比が0.0184%以上であることを特徴とする請求項2に記載の水素アニール方法」と規定されていることから,引用発明1の「99%重水素からなる重水素分子ガス」は,水素中の重水素の存在比が99%であるガスであるといえる。そうすると,引用発明1の「99%重水素からなる重水素分子ガスと塩素分子の混合ガス」は,本願補正発明1の「水素を含む処理ガス」に相当する。

(イ)上記(ア)で検討したように,引用発明1の混合ガスは水素を含む処理ガスといえるところ,この引用発明1の水素を含む処理ガスである混合ガスにマイクロ波を印加してプラズマ化することで,前記水素が励起されて,水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気が形成されることは技術常識といえる。

(ウ)引用発明1の「100Åの酸化膜をO_(2)雰囲気中で成長させた6インチのシリコンウェハ」と,本願発明1の「半導体装置が形成された電子デバイス用基板」とは,「基板」である点で一致する。

(エ)引用発明1の「200℃」は,400℃以下の温度範囲に含まれるから,引用発明1と本願補正発明1は,いずれも,雰囲気に対する曝露を「400℃以下の基板温度」で実行する基板処理方法である点で一致する。

そうすると,本願補正発明1と,引用発明1との一致点と相違点は,次のとおりである。

<一致点>
「基板を,水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気に対して曝露する基板処理方法であって,
前記水素ラジカルおよび水素イオンは,供給された水素を含む処理ガスにマイクロ波を照射して前記水素を含む処理ガスをプラズマ励起することにより形成され,
前記基板の前記雰囲気に対する曝露は,400℃以下の基板温度で実行される基板処理方法。」

<相違点>
・相違点1:本願補正発明1が「半導体装置が形成された電子デバイス用基板」に対する基板処理方法であるのに対して,引用発明1は「100Åの酸化膜をO_(2)雰囲気中で成長させた6インチのシリコンウェハ」に対する基板処理方法である点。

・相違点2:本願補正発明1においては,水素ラジカルおよび水素イオンは,「希ガス」と水素を含む処理ガスから形成されているのに対して,引用発明1では,「塩素分子」と水素を含む処理ガスから形成されている点。

・相違点3:本願補正発明1では「基板上に処理ガスを供給し,ラジアルラインスロットアンテナである平面アンテナからマイクロ波を照射して処理ガスをプラズマ励起」し,「水素ラジカルおよび水素イオンの生成は,13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われ」,「プラズマは,電子温度が1.5eV以下」であるのに対して,引用発明1では「混合ガスを,500W,2.45GHzのマイクロ波を印加してプラズマ化し,その下流に基板を設置」していることが示されているだけであって,圧力と電子温度は特定されていない点。

ウ 相違点についての判断
・相違点1について
(ア)引用例1の上記摘記(1b)には,発明の属する技術分野として,従来水素分子を用い高温で行われていた水素アニールを低温で高速に行えるようにしたことを特徴とする水素アニール方法に関するものであることが示されている。
(イ)また,引用例1の上記摘記(1c)には,従来の技術として,シリコン大規模集積回路の製造での前工程の終了前に400?450℃程度の高温度で水素アニールを行い,シリコン半導体の特性を安定させる方法が良く知られていることが示されている。
(ウ)さらに,引用例1の上記摘記(1d)?(1e)には,発明が解決しようとする課題として,400?450℃の水素アニールの場合,この時点では被加工物である集積回路上にはアルミニウムを用いた配線がすでに施されており,アルミニウムへの影響は極力排除されることが望ましいが,そのためにはおそらく200℃程度の低温で水素アニールが行える必要があり,その程度の低温になると,水素分子の拡散が十分に起こらず,本来水素アニールが目的とするシリコン酸化膜,あるいはシリコン酸化膜/シリコン界面の特性改善が十分に行われなくなってしまう問題があることが示されている。
(エ)そして,前記(イ)の,シリコン大規模集積回路の製造での前工程の終了前の水素アニール,及び,前記(ウ)の被加工物である集積回路上にアルミニウムを用いた配線がすでに施されている時点での水素アニールが,いずれも,半導体装置が形成された電子デバイス用基板を,水素雰囲気に対して曝露する基板処理方法であることは,当業者にとって明らかといえる。
(オ)そうすると,引用例1に接した当業者であれば,従来水素分子を用い高温で行われていた,半導体装置が形成された電子デバイス用基板の水素アニールには,種々の不都合があったので,これら不都合を解決する為に,引用発明1が成されたということを理解することができるといえる。
(カ)してみれば,引用例1に「第二の実施例」として記載された引用発明1が,「100Åの酸化膜をO_(2)雰囲気中で成長させた6インチのシリコンウェハ」に対する基板処理であって,半導体装置が形成された電子デバイス用基板への処理でなかったとしても,当業者であれば,前記(オ)の理解に基づいて,前記引用例1の「第二の実施例」に記載された「100Åの酸化膜をO_(2)雰囲気中で成長させた6インチのシリコンウェハ」が,電子デバイス用基板に形成された半導体装置のシリコン酸化膜/シリコン界面を模したものであることに思い至り,引用発明1を,半導体装置が形成された電子デバイス用基板への処理に適用することは容易になし得たことといえる。
(キ)しかも,引用例1の上記摘記(1g)には「残念ながら設備の関係上実際のMOSトランジスターを用いてのゲート酸化膜の電子注入に対する寿命は調査できなかったが,この結果は重水素によるダングリング・ボンドの解消を従来より低温で高速,かつ少ない重水素量で行えることを示唆するものである。」とも記載されている。そうすると,ここに明記されている「この結果は重水素によるダングリング・ボンドの解消を従来より低温で高速,かつ少ない重水素量で行えることを示唆するものである」との示唆に基づいて,引用発明1を,残念ながら設備の関係上調査できなかった,実際のMOSトランジスターに用いることは当業者が容易に想到し得たことともいえる。
(ク)してみれば,引用発明1において,上記相違点1について,本願補正発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。また,このような構成としたことによる効果も,当業者が予測する範囲内のものといえる。

・相違点2について
引用例1の上記摘記(1a)に「【請求項7】プラズマ化してその下流に被加工物を設置して処理するための,水素を構成要素として含む分子を含む気体が,ハロゲン,窒素,希ガス,酸素の少なくとも一つを構成要素とする分子を,該水素を構成要素として含む分子と同時に含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の水素アニール方法。」として,ハロゲンと希ガスとが互いに置き替え可能な分子であるように示されているから,引用発明1の塩素分子を含むガスに替えて希ガスを含むガスとすることは当業者が適宜なし得たことである。
また,引用例2の上記摘記(2f)に「原料ガスとしてSiH_(4),H_(2)及びArを用いているが,これらの組み合わせに限定されるわけではなく,Arの代わりにXeを用いてもよいが,Xeのほうが好ましい。 Arの比率はArを全体の半分以上に保つ必要がある。本例では50%に設定したがこの値に限定されるわけではない。これはマイクロ波を用いたプラズマ励起方法では,プラズマの励起を維持するためには,該プラズマ中の電子密度がある程度高い必要があるためで,より高い電子密度を得ることのできるArの比率を多くする必要がある」と記載されているように,水素を含むガスにマイクロ波を照射してプラズマを励起するにあたり,該ガスとしてAr等の希ガスを含むものとすることは周知の手段であるから,引用発明1の混合ガスとして,希ガスを含むものを用いることは当業者が容易になし得たことともいえる。
してみれば,引用発明1において,上記相違点2について,本願補正発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。また,このような構成としたことによる効果も,当業者が予測する範囲内のものといえる。

・相違点3について
引用例1の上記摘記(1b),(1f)の「従来水素分子を用い高温で行われていた水素アニールを低温で高速に行えるようにしたことを特徴とする水素アニール方法に関する」,「水素を構成要素として含む分子を含む気体をプラズマ化し,その下流に被加工物を設置して,被加工物内に水素を導入する。水素アニールの効果は被加工物を構成部分の少なくとも一部として持つ機能素子の電気的特性を含む物性の変化として測定評価されているが,水素が被加工物に与える原子・分子レベルでの変化,すなわち構造化学的な観点での変化は必ずしも明らかになっていない。しかし,例えば前述の400?450℃アニールの場合,シリコン酸化膜中あるいはシリコン酸化膜/シリコン界面に存在するシリコンのダングリング・ボンドと水素が結合し,Si-H結合もしくはSi-D結合が形成され,それによりダングリング・ボンドがもたらす電気的な不安定が取り除かれると考えられている。このとき,水素分子は最終的には解離され水素原子としてシリコンと結合するのであり,熱は水素分子の拡散速度を高めかつシリコンとの反応効率を高めていると考察されるから,あらかじめ水素分子ではなく,水素原子として被加工物に供給すれば拡散速度の点でも,反応の点でも処理の低温下と高速化が実現できると期待される。」との記載に照らして,引用発明1は,シリコン酸化膜中あるいはシリコン酸化膜/シリコン界面に存在するシリコンのダングリング・ボンドと水素を結合し,Si-H結合もしくはSi-D結合を形成し,それによりダングリング・ボンドがもたらす電気的な不安定を取り除くための技術的手段として,従来行われていた「熱」による水素分子とシリコンとの反応効率の向上等に替えて,あらかじめ水素分子を「プラズマ化」して水素原子とすることで拡散速度と反応性を高めることを目的とした発明であることを当業者であれば理解することができる。
更に,引用例1の上記摘記(1b)の「特に,被加工物表面に物理的損傷を与えることが少なく,かつ目的とする処理を達成するのに不都合な現象を生じる活性粒子を生じることの少ないプラズマダウンストリーム処理法の特性を生かし,従来水素分子を用い高温で行われていた水素アニールを低温で高速に行えるようにしたことを特徴とする水素アニール方法に関する」との記載に照らして,引用発明1のプラズマ化は,被加工物表面に物理的損傷を与えることが少なく,かつ目的とする処理を達成するのに不都合な現象を生じる活性粒子を生じることの少ないプラズマ化であることが望ましいといえる。

一方,引用例2には,上記摘記(2a)?(2h)に照らして,基板上に処理ガスを供給し,ラジアルラインスロットアンテナである平面アンテナからマイクロ波を照射して処理ガスをプラズマ励起するプラスマ装置が開示されていることが認められる。
ところで,引用例2の上記摘記(2a),(2b)の「近年,ULSI(Ultra Large Scale Integrated Circuit)のチップサイズの大型化に伴い,その基体として用いられるシリコン基板も大口径化される傾向にある。」,「大面積の基板上に高品質の薄膜を低温且つ高速で均一に成膜でき,エッチンクプラズマプロセスその他のプラズマ処理にも使用できるプラズマ処理装置を提供することを目的とする」等の記載の記載に照らして,引用例2のラジアルラインスロットアンテナを用いたプラスマ装置は,ULSI(Ultra Large Scale Integrated Circuit)の製造における,成膜,エッチング,その他のプラズマ処理に汎用的に使用することができるプラズマ装置であるといえる。
他方,引用発明1は,引用例1の上記摘記(1c),(1g)の「シリコン大規模集積回路の製造では前工程の終了前に400?450℃程度の高温度で水素アニールを行い,シリコン半導体の特性を安定させる方法は良く知られている。」,「残念ながら設備の関係上実際のMOSトランジスターを用いてのゲート酸化膜の電子注入に対する寿命は調査できなかったが,この結果は重水素によるダングリング・ボンドの解消を従来より低温で高速,かつ少ない重水素量で行えることを示唆するものである。」等の記載に照らして,シリコン大規模集積回路の製造に関係した発明であるといえる。
そうすると,引用例2に記載された前記プラズマ装置は,引用発明1が属する技術分野と密接に関連する技術分野において用いられているプラズマ処理の為の技術手段であるということができる。
また,引用例2の上記摘記(2d)の「ラジアル・ライン・スロット・アンテナ201が設置され,同軸管107(材質:Cu)を通しマイクロ波がアンテナ201内に導入され・・・マイクロ波の周波数が2.45GHzの場合には,マイクロ波のd=(2/μ0σω)^(1/2)から決定する表皮深さ1.67μmよりもアルミニウムめっき層が厚いとき,プラズマが安定していることが分かった。」との記載から,引用例2のプラズマ装置が,引用発明1と同様の原料ガスにマイクロ波を印加してプラズマ化するプラズマ装置であり,更に,引用例2には,前記プラズマ装置が,引用発明1と同じ周波数である2.45GHzのマイクロ波で使用可能なことが示唆されていると認められる。
そして,引用例2の上記摘記(2f),(2h)等の記載に照らして,引用例2に記載されたプラズマ装置は,水素を含む原料ガスをプラズマ化しているから,水素を含む原料ガスをプラズマ化するプラズマ装置である点で引用発明1の装置と一致し,さらに,上記摘記(2e)に「本発明に係るプラズマ装置は,14mA/cm^(2)以上の飽和イオン電流,1.0eV(15000K)程度の電子温度,10^(12)以上の電子密度を有する高密度プラズマを,容器101内において直径300mm以上の大面積上にわたって,均一に励起できることが分かった。」と記載されていることから,当業者であれば,引用例2に記載されたプラズマ装置は,電子温度が1.0eV程度と低いので,被加工物表面に物理的損傷を与えることが少なく,かつ目的とする処理を達成するのに不都合な現象を生じる活性粒子を生じることの少ないプラズマ装置であると理解できるといえる。しかも,容器101内において直径300mm以上の大面積上にわたって,均一に励起できるのであるから,大面積の基板の処理に適したという利点を有するプラズマ装置であるともいえる。

そうすると,引用例2に記載された,基板上に処理ガスを供給し,ラジアルラインスロットアンテナである平面アンテナからマイクロ波を照射して処理ガスをプラズマ励起する装置は,引用発明1が属する技術分野と密接に関連する技術分野において用いられている引用発明1と同様のマイクロ波を用いたプラズマ処理のための装置であり,かつ,当該装置において使用可能なマイクロ波の周波数が一致し,プラズマ化の対象であるガスの種類も水素を含むガスである点で共通するとともに,電子温度が低いことから,被加工物表面に物理的損傷を与えることが少なく,かつ目的とする処理を達成するのに不都合な現象を生じる活性粒子を生じることの少ない装置でもあり,更に,直径300mm以上の大面積上にわたって,均一に励起できる,大面積の基板の処理に適した装置であるという利点をも有する装置であるといえるから,引用発明1の,99%重水素からなる重水素分子ガス90sccmと塩素分子10sccmの混合ガスをプラズマ化する為の技術手段として,引用発明2に記載された前記装置を使用することは当業者が容易に想到し得たことといえる。

そして,引用例2の上記摘記(2e)の「本発明に係るプラズマ装置は,14mA/cm^(2)以上の飽和イオン電流,1.0eV(15000K)程度の電子温度,10^(12)以上の電子密度を有する高密度プラズマを,容器101内において直径300mm以上の大面積上にわたって,均一に励起できることが分かった」との記載,及び,上記摘記(2h)の「プロセス時のチャンバー圧力は3?500mTorr」等の記載に照らして,上記ラジアルラインスロットアンテナを用いたプラスマ装置において,プラズマの電子温度が1.0eV程度であること,及び,プロセス時のチャンバー圧力を3?500mTorrとすることは通常用いられている程度の設定値であると認められるから,「水素ラジカルおよび水素イオンの生成は,13.3Pa?267Paの圧力範囲で行われ」,「プラズマは,電子温度が1.5eV以下」とすることは,当業者が適宜なし得た程度の数値限定といえる。
なお,水素ラジカルおよび水素イオンの生成が行われる圧力範囲の「13.3Pa」という下限値,「267Pa」という上限値,及び,電子温度の「1.5eV」という上限値の値自体に臨界的な意義は認められない。

してみれば,引用発明1において,上記相違点3について,本願補正発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。また,このような構成としたことによる効果も,当業者が予測する範囲内のものといえる。

(3)まとめ
以上のとおり,本願の請求項7-8の記載は不明確であるから,特許を受けようとする発明が明確であることを要する規定に適合せず,また,本願補正発明1は,上記引用例1及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件補正による補正後の請求項7-8に記載されている事項により特定される発明,及び,本件補正による補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明は,各々,特許法第36条第6項第2号の規定,及び,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年10月23日に提出された手続補正書でした補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1-27に係る発明は,平成19年11月30日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1-27に記載されている事項により特定されるとおりのものであるところ,その内,請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】電子デバイス用基板を,水素ラジカルおよび水素イオンを含む雰囲気に対して曝露する基板処理方法であって,
前記水素ラジカルおよび水素イオンは,前記電子デバイス用基板上に希ガスと水素を含む処理ガスを供給し,平面アンテナからマイクロ波を照射して前記希ガスと水素を含む処理ガスをプラズマ励起することにより形成されることを特徴とする基板処理方法。」

2 進歩性について
(1)引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例1-2に記載されている事項は,上記「第2 3 (2) ア 引用例とその記載事項,及び,引用発明」の項で指摘したとおりである。

(2)当審の判断
本願発明1を特定するに必要な事項を全て含み,さらに具体的に限定したものに相当する本願補正発明1が,前記「第2 3 (2)本願補正発明1の進歩性について」に記載したとおり,引用例1及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明1も同様の理由で,引用例1及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって,本願の他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-25 
結審通知日 2011-07-26 
審決日 2011-08-09 
出願番号 特願2003-557041(P2003-557041)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 綿引 隆  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 加藤 浩一
小川 将之
発明の名称 基板処理方法、基板処理装置およびマイクロ波プラズマ水素シンタ装置  
代理人 伊東 忠彦  
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