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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800037 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効2010800100 審決 特許
無効200335239 審決 特許
無効200335136 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 発明同一  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1248396
審判番号 無効2005-80139  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-05-06 
確定日 2011-11-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3183520号「フルオロエーテル組成物及び、ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法」の特許無効審判事件についてされた平成22年 3月29日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成22年(行ケ)10249号、10250号 平成23年 4月 7日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3183520号の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、平成10年1月23日に特許出願され、平成13年4月27日に特許権の設定の登録がされたものである。
これに対して、請求人は、後記(第1の無効理由)?(第4の無効理由)により、本件請求項1?4に係る発明の特許を無効にすべき旨の審判を請求したが、平成18年6月21日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(第1次審決)がされた。
これに不服の請求人が審決取消訴訟を提起し、知的財産高等裁判所において平成18年(行ケ)10489号事件として審理され、(第4の無効理由(特許法第36条第4項に規定する実施可能要件))についての取消事由5のうち、本件数値(少なくとも150ppm(審決注:150ppmは0.015%と同義))の水によっても所期の作用効果を奏するものと当業者が理解し得ない旨をいう部分は理由がある、という判断により、第1次審決を取り消す旨の判決(第1次判決)が、平成21年4月23日に言い渡され、同判決は確定した。
そこで、被請求人は、特許法第134条の3第1項の規定に基づき、平成21年7月9日付けで訂正を請求するとともに、請求人が主張する(第1の無効理由)?(第4の無効理由)はいずれも成り立たない旨を主張した。これに対して、請求人は、上記訂正は新規事項を追加するものであり、また、実質上特許請求の範囲の変更に該当するもので、認められないものである旨、及び、仮に、上記訂正が認められるとしても、依然として、(第4の無効理由)をはじめとする(第1の無効理由)?(第4の無効理由)により、上記訂正後の本件請求項1?4に係る発明の特許を無効にすべきである旨、を主張した。
これを踏まえて、上記訂正を認めた上で、(第4の無効理由(上記実施可能要件))のうち、訂正後の本件数値範囲(206ppm以上、0.14%(重量/重量)未満)の水を含有させることにより所期の作用効果を奏することを裏付ける記載が発明の詳細な説明にあるものと認めることはできない、という判断により、平成22年3月29日付けで「訂正を認める。特許第3183520号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(第2次審決)がされた。
これに不服の被請求人が審決取消訴訟を提起し、知的財産高等裁判所において平成22年(行ケ)10249号、10250号事件として審理され、各訂正発明に付き実施可能要件に欠けるところはない、という判断により、平成23年4月7日に、第2次審決を取り消す旨の判決(第2次判決)が言い渡され、同判決は確定した。


2.訂正の適否
(1)訂正の内容
平成21年7月9日付けの訂正請求は、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次のとおりである。

訂正事項1
請求項1において、「少なくとも0.015%(重量/重量)の水を含むこと」を「206ppm以上、0.14%(重量/重量)未満の水を含むこと」に訂正する。

訂正事項2
請求項4において、「少なくとも0.015%(重量/重量)の水を含むこと」を「206ppm以上、0.14%(重量/重量)未満の水を含むこと」に訂正する。

(2)訂正の可否に対する判断
訂正事項1、2は、それぞれ、請求項1、4において、水の量を「少なくとも0.015%(重量/重量)」から「206ppm以上、0.14%(重量/重量)未満」に限定する訂正であり、いずれも、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1、2は、本件特許明細書の
a.「例えば、フルオロエーテル化合物がセボフルランで、且つルイス酸抑制剤が水の場合、本組成物を安定化するために使用される水の量は、約0.0150%W/Wから0.14%w/w(飽和レベル)であると考えられる。」(本件特許公報7欄29行?32行参照。)
b.「表3の結果は、40℃で200時間貯蔵した場合、206ppmより以上のレベルの水があればセボフルランの分解を抑制できることを示している。」(本件特許公報13欄39行?41行参照。)
c.上記表3における、総水分量が206ppmの場合、PHが5.0、HFIP量は7ppm、そして総分解産物量が59ppmであった旨のデータ(本件特許公報7ページの表3のサンプル8の欄参照。)
との記載に基づくものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、平成21年7月9日付けの訂正は、特許法134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

なお、請求人は、上記訂正について、水の量の上限を0.14%(重量/重量)以下とせず、0.14%(重量/重量)未満としたことは、新規事項の追加に該当する旨主張する。
しかしながら、「0.14%(重量/重量)未満」という発明特定事項は、上記 a.の「水の量は、約0.0150%W/Wから0.14%w/w(飽和レベル)であると考えられる。」という技術的事項との関係において、特に新たな技術的事項を導入するとすべきものともいえない。したがって、請求人の上記主張は採用できない。
また、請求人は、訂正前の特許請求の範囲は、被請求人らの主張によれば、二層に分離するセボフルラン組成物、例えば、18℃で二層に分離するような1300ppm(審決注:1300ppmは0.13%と同義)の水を含む組成物を包含しないことになるところ、訂正後の特許請求の範囲では、上限が0.14%(重量/重量)未満とされ、二層に分離する1300ppmの水を含む組成物を包含することになったから、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものである旨も主張する。
しかしながら、被請求人の上記主張によって、上記 a.の「水の量は、約0.0150%W/Wから0.14%w/w(飽和レベル)であると考えられる。」という技術的事項の解釈が左右される理由はない。したがって、請求人の上記主張も採用できない。


3.本件訂正発明
上記訂正の結果、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、順に、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明4」という。)は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
麻酔薬組成物であって、 一定量のセボフルラン;及び
206ppm以上、0.14%(重量/重量)未満の水を含むことを特徴とする、前記麻酔薬組成物。
【請求項2】
上記一定量のセボフルランに対して水を添加するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の麻酔薬組成物の調製法。
【請求項3】
水に対して上記一定量のセボフルランを添加するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の麻酔薬組成物の調製法。
【請求項4】
一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法であって、該方法は、該一定量のセボフルランに対して所定量の水を添加するステップを含むことを特徴とし、但し、該所定量の水が、得られる溶液中において206ppm以上、0.14%(重量/重量)未満である前記方法。」


4.請求人の主張
これに対して、請求人は、「特許第3183520号の請求項1?4に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の書証を提出し、以下の(第1の無効理由)?(第4の無効理由)の理由により、本件特許は無効とされるべきであると主張している。

(第1の無効理由)本件発明1ないし4は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証、甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とされるべきである。

(第2の無効理由)本件発明1ないし4は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された甲第1号証または甲第6号証、及び甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とされるべきである。

(第3の無効理由)本件発明1ないし4は、本件特許に係る出願の優先日前に出願され、優先日後に公開された特願平8-9515号の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第8号証)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とされるべきである。

(第4の無効理由)本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当するから、無効とされるべきである。

証拠方法

甲第1号証 特開平7-267889号公報

甲第2号証 米国特許第5684211号明細書

甲第3号証 ギラード博士の実験報告書(米国訴訟、合衆国地方裁判
所イリノイ州北地区東部、事件番号01C1867で提
出された被告証拠DX 367B)

甲第4号証 ギラード博士の履歴書(米国訴訟における被告証拠DX
367A)

甲第5号証 米国訴訟における口頭審理記録(2004年12月 1
日)の抜粋 1710-1711項、1760-176
1項、1784-1797項

甲第6号証 特開平7-258138号公報

甲第7号証 米国薬局方、1995年、第841-842頁

甲第8号証 特開平9-194416号公報

甲第9号証 米国訴訟における被告証拠DX 232

甲第10号証 米国訴訟における2005年 1月14日付原告口頭審
理後第1書面(Plaintiff's Initial Post-Trial
Submission)、表紙、目次及び第24-27頁

甲第11号証 化学大辞典2、第516-518頁(「ガラス」の項)
及び奥付

甲第12号証 米国訴訟における口頭審理記録(2004年11月19
日)の抜粋、第771-772項、第807項、第82
7-828項
<以上、審判請求書に添付>

甲第13号証 レッサー博士の宣誓供述書

甲第14号証 米国訴訟における口頭審理記録(2004年11月16
日)の抜粋、第305-307項、第315-332項
<以上、平成18年2月22日付け回答書に添付>

甲第15号証 米国訴訟における口頭審理記録(2004年11月22
日)の抜粋、第996-997項、第1008-103 9項
<以上、平成18年2月22日付け弁駁書に添付>

甲第16号証 理化学辞典 第4版 表紙、第1104頁及び奥付

甲第17号証 丸石製薬株式会社製セボフルラン分析証明書

甲第18号証 秋田大学医学部のホームページ
第7回東北動物実験研究会(1996年 9月 6日開
催)における岩手大学教授竹内博士の講演抄録「実験大
動物(イヌ・ブタ・ヒツジ・ヤギ)における麻酔の基本
と実際」1項?5項
(http://www.med.akita-u.ac.jp/ doubutu/
tohoku/anes. index.html)

甲第19号証 秋田大学医学部のホームページ
第7回東北動物実験研究会(1996年 9月 6日開
催)における岩手大学教授竹内博士の講演抄録「実験大
動物(イヌ・ブタ・ヒツジ・ヤギ)における麻酔の基本
と実際」6項?8項
(http://www.med.akita-u.ac.jp/ doubutu/tohoku/
anes3.html)

甲第20号証 秋田大学医学部のホームページ
第7回東北動物実験研究会(1996年 9月 6日開
催)における岩手大学教授竹内博士の講演抄録「実験小
動物(マウス・ラット・ウサギ)の麻酔について」
(http://www.med.akita-u.ac.jp/ doubutu/tohoku/
small-anes.html)
<以上、平成18年4月14日付け上申書に添付>

甲第21号証 SCIENTIFIC REPORT と称する被請求人アボット作成に
かかる書面(1997年2月14日付)(対応米国訴訟に おいて提出された証拠DX48)
(第3無効審判<無効2007-800138事件>の
甲77)

甲第22号証 第3無効審判の被請求人ら審判事件答弁書(第2回目)
平成21年3月27日付)

甲第23号証 第3無効審判の被請求人ら口頭審理陳述要領書
(平成21年1月27日)

甲第24号証 本審判の審決取消訴訟の被告第3準備書面(第3無効審 判の甲80)

甲第25号証 第15改正日本薬局方解説書 表紙および通則A-41 頁(第3無効審判の甲81)

甲第26号証 第3無効審判で提出された口頭陳述要領書添付資料5

甲第27号証 本願優先日以前に被請求人アボットが実際に販売してい た製品の水分量を示す表(本件特許の審査段階の意見書 添付の参考資料1)(第3無効審判の甲18)

甲第28号証 被請求人アボットのFDA申請書類(Original New Drug Application sevorane, Abbott社(1994年4月29 日))(第3無効審判の甲50)

<以上、平成21年9月24日付け弁駁書に添付>

甲第29号証 平成20年(行ケ)第10276号 審決取消請求事件
被告第2準備書面 平成21年7月14日付

甲第30号証 平成20年(行ケ)第10276号 審決取消請求事件
被告第1準備書面 平成21年3月31日付

甲第31号証 無効2006-80264 被請求人上申書
平成19年11月30日付

甲第32号証 平成17年(ワ)第10524号 特許権侵害差止請求事 件 第1準備書面 平成17年8月15日付

甲第33号証 本審判の審決取消訴訟の被告第1準備書面
平成19年2月28日付

甲第34号証 本審判の審決取消訴訟の被告技術説明会資料
平成20年7月16日付

<以上、平成21年10月8日付け上申書に添付>

甲第35号証 第十二改正日本薬局方解説書 通則A-38,
第3項 A-49解説の項

甲第36号証 審決取消訴訟事件平成22年1月19日付け
知的財産高等裁判所判決(平成20年(行ケ)
10276号事件)

甲第37号証 平成18年(行ケ)10489号事件,
原告第9準備書面

甲第38号証 1996年11月16日付けの熊谷氏のDelgado
-Herrera氏への書簡(本件訴訟の甲第68号証 )

甲第39号証 臨床製剤学,三嶋ら編集,南江堂,93?95頁,
2006年発行 GMPに関する一般的な説明

甲第40号証 医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に
関する省令(GMPの法令)

甲第41号証 平成18年2月23日付け回答書に添付の昭和61年
12月26日付医薬品製造承認申請書

<以上、平成22年3月5日付け上申書に添付>


5.被請求人の主張
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の書証を提出し、請求人が主張する(第1の無効理由)?(第4の無効理由)はいずれも成り立たない旨主張している。

証拠方法

乙第1号証 熊谷洋一氏の陳述書

乙第2号証 本件特許の対応欧州特許である欧州特許第096797
5号に対する本件無効審判請求人であるバクスター・イ
ンターナショナル・インコーポレイテッドからなされた
異議申立の手続において提出されたレティシア・デルガ
ド-ヘレラ氏の陳述書(写し)

乙第3号証 本件特許の対応欧州特許である欧州特許第096797
5号に対する本件無効審判請求人であるバクスター・イ
ンターナショナル・インコーポレイテッドからなされた
異議申立の手続において提出されたアルベルト・マリナ
イ氏の陳述書(写し)

乙第4号証 ANESTHESIA AND ANALGESIA,Current Researches、
Vol.54,No.6,p.758-766,(1975)

乙第5号証 米国侵害訴訟におけるマイケル・E・ユング博士の証言 記録、第207-210頁、第219-226頁(写し )

乙第6号証 2001年 6月18日付アボット・ラボラトリーズ社
発書状、第1、14頁(写し)

乙第7号証 米国侵害訴訟における米国バクスター社の提案にかかる
事実認定及び法律による結論、第1、7、8、63頁(
写し)

<以上、平成17年9月26日付け答弁書に添付>

乙第8号証 本件特許の対応米国特許出願である米国特許出願第08
/789679号の審査手続において提出された情報開
示陳述書(写し)

乙第9号証 クイーン・シャルロッテ・アンド・チエルシー病院の薬
剤師ゴーマン氏からのアボット・ラボラトリーズ社ドブ
ソン氏宛書状(写し)

乙第10号証 アボット・ラボラトリーズ社ドブソン氏からのクイーン
・シャルロッテ・アンド・チエルシー病院のゴーマン氏
宛書状(写し)

乙第11号証 チャンバーズ教授の陳述書

乙第12号証 本件特許の対応欧州特許である欧州特許第096797
5号に対する本審判請求人であるバクスター・インター
ナショナル・インコーポレイテッドからなされた異議申
立に対する決定書(写し)

<以上、平成18年4月14日付け上申書に添付>

乙第13号証 第一二改正 日本薬局方解説書 通則A-44(写し)

<以上、平成21年7月9日付け訂正請求書に添付>

乙第14号証 本件特許に係る第3無効審判において乙第22号証とし
て提出された平成21年3月1日付丸石製薬株式会社紺
田哲哉氏の陳述書(原本)

<以上、平成21年10月30日付け上申書に添付>


6.当審の判断

6.1 第4の無効理由(特許法第36条第4項)について

第4の無効理由につき判断した第2次判決が確定したことを踏まえた審理であることにかんがみ、まず、第4の無効理由について検討する。

本件特許明細書の発明の詳細な説明は当業者が本件発明1ないし4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとして請求人が主張する具体的理由は以下の2点である。
(1) 本件特許明細書は、0.015%の水がセボフルランの分解を抑制できることを支持する実験データを記載していない。米国訴訟において提出された実験データ(甲第9号証)のロット番号25334DK、Tycon番号H8-324のサンプルには、水分量が0.0187%存在していたのに、セボフルランが分解してpHが1.0に下がったことが示されており、0.015%の水が本件発明1ないし4の効果を奏すると当業者が理解し得ない。また、訂正後の記載でも、実施不能に変わりはない。
(2) 特定のガラス容器以外の容器にセボフルランを入れる場合の本件発明1ないし4の効果は、記載されておらず、当業者に容易に理解できない。

(1)について
(1)の点に関し、上記判決では、以下のとおりの判断が示された。(なお、以下の判決の抜粋中、「原告」とは、本審決にいう「請求人」のことである。)
「第5 当裁判所の判断
1 フルオロエーテルの1種であるセボフルランがルイス酸によって分解される機構は,訂正明細書(甲132)2頁上から2行ないし4頁下から11行,8頁上から7行ないし10行に記載されているところ,訂正明細書には,上記分解を抑制する方法に関して,次のとおりの記載がある。
・・・
2 前記1のとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明には,ルイス酸によるセボフルランの分解を抑制する薬剤(ルイス酸抑制剤)のうち好適なものとして水を使用することが記載されており(9頁5行?11頁10行),また,実施例1に係る記載(13頁上から8行?14頁下から3行)ではセボフルランに添加する水の量が増加するに従ってよりセボフルランの分解を抑制(防止)し得ることが記載されている。そして,実施例2ないし7,とりわけ実施例4に係る記載では(14頁下から2行?26頁上から2行),各実施例における反応温度,反応時間の条件に差異があるものの,セボフルランに添加する水の量が206ppm以上の場合にセボフルランの分解を抑制し得ることが記載されており,また訂正明細書の9頁末行ないし11頁4行では,フルオロエーテル化合物としてセボフルランを選択し,ルイス酸抑制剤として水を選択した場合には,添加される水の量は飽和レベルである0.14%w/w(重量/重量パーセント)を上限とする旨が記載されている。
ところで,セボフルランを有効成分とする麻酔薬を製造する丸石製薬株式会社が,昭和61年12月26日,医薬品の製造承認を申請する際に当時の厚生大臣に対して提出した「セボフルランの長期保存試験に関する資料」では,セボフルランをガラス瓶に充填して25℃で保存しても,2年間安定であった旨が記載されているし(甲102),平成2年に我が国において上記の麻酔薬の販売を開始してから,平成8年に米国FDAから原因の追及等を求められるまで,セボフルランがガラス瓶内で分解し得ることは知られていなかったものであった(甲14,30)。また,北海道大学大学院A教授の鑑定意見書(甲36)では,「-C-O-C-F-」の化学構造を有するα-フルオロエーテルの一つであるセボフルランは,比較的ルイス酸に対して安定であり,強いルイス酸でなければこれを分解する可能性は小さいところ,医薬品用の容器内で保管する場合を含めて,日常の環境ではかかる強いルイス酸は存在しないとされている。そうすると,セボフルランはこれを成分とする麻酔薬が通常保管,使用される態様においては,相当程度安定な薬剤であることが明らかである。
上記のとおり,もともとセボフルランは麻酔剤の成分として相当程度安定であるところ,水が一般にルイス酸(触媒)を失活させる化合物,すなわちルイス酸抑制剤として周知であること(甲36。訂正明細書9頁6行11頁10行もかかる技術常識に沿ったものであると理解できる。)をも考慮すれば,前記の206ppm以上0.14%w/w未満の含有率となるよう(この点が,無効2005-80139号事件の第一次取消判決後に限定された構成である。)セボフルランに水分を添加することで,麻酔薬の保管,運搬手段として通常用いられるガラス製アンプルにセボフルランを充填した後,アンプルの一部を炎で加熱して焼き切ってアンプルを密封し(フレームシール),できあがったアンプル入り麻酔薬を一定の時間保管した後に,アンプルを破って麻酔薬を使用するという通常想定される使用方法においても,あるいはその余のこの種の薬品に通常予想される保管・使用の方法においても,相当期間セボフルランの分解を防止(抑制)し得ることを当業者において容易に理解することができるというべきである。
なお,確かにルイス酸は極めて広範な概念であり,ルイス酸の作用機序も様々である上,各訂正発明の優先日当時に,原告や各訂正発明の発明者以外の当業者が,セボフルランがルイス酸によって分解されることを知らなかったとしても,訂正明細書の発明の詳細な説明にはルイス酸がセボフルランを攻撃・分解する機構や分解を防止(抑制)する機構が一応記載されているし,各訂正発明では,前記のとおり一般にルイス酸抑制剤として周知な水が分解防止のための成分として採用されているから,麻酔薬に使用される組成物の調製程度のことであれば,必要に応じて上記の範囲内で含有水分量を適宜増量することで,当業者の技術常識に照らして,ルイス酸によるセボフルランの分解防止という各訂正発明の作用効果を奏することができるというべきである。
したがって,訂正明細書の発明の詳細な説明には,当業者が,セボフルランに一定の含有率で水を含有させた麻酔薬組成物(本件訂正発明1)及びかかる含有を特徴とする麻酔薬組成物の調製方法(本件訂正発明2,3)を実施できることはもちろん,かかる含有によりルイス酸によるセボフルランの分解を防止する方法(本件訂正発明4)についても,これを実施できる程度に明確かつ十分な記載がされているということができ,各訂正発明につき特許法36条4項1号実施可能要件に欠けるところはない。審決は実施可能要件の充足の有無につきこれと異なる判断をするものであって,その判断には誤りがある。
・・・
4 結局,第一次取消判決後に訂正された各訂正発明についての実施可能要件(特許法36条4項1号)の充足の有無に係る審決の判断には誤りがあり,この旨を主張する原告の取消事由は理由がある。」

上記判決には、(1)の点で本件訂正明細書に記載上の不備があると認めた第2次審決の判断は誤りである旨の判断が示されている。
そして、この判断は、上記判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を構成するものであるから、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、当合議体を拘束する。そうすると、(1)の点で本件訂正明細書に記載上の不備があるとすることはできない。

(2)について
麻酔薬組成物を収容する容器は特定のガラス容器に限られず、プラスチック、スチール、又は他の材料でもよいことは本件訂正明細書の発明の詳細な説明(本件特許公報第4頁第8欄第11?15行参照。)に示されている。さらに、容器に存在するルイス酸の種類や量に応じて、含ませる水の量を決定すべきであることは、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、当業者には明らかなことである。したがって、ガラス容器以外の保存容器についても、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、ルイス酸抑制に必要な水の量を決めれば本件訂正発明の効果が奏されることは、当業者が容易に理解し得ることである。

したがって、上記(1)(2)を根拠に、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は当業者が本件訂正発明1ないし4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとすることはできない。

6.2 第1の無効理由(特許法第29条第1項第3号)について

請求人が主張する第1の無効理由の概要は、「甲第1号証は、実施例2において、約0.12%?0.14%(1200?1400ppm)の水を含むセボフルランを開示し、そして、そのセボフルランは、吸入麻酔薬として使用されることが甲第1号証に記載されており、また、甲第6号証も甲第1号証と同様のものを開示するから、本件発明1ないし4は新規性を有さない。」というものである。
そこで、甲第1号証、甲第6号証の各証拠につき検討する。

6.2.1 甲第1号証に基づく理由

(1)本件訂正発明1について
(1-1)甲第1号証には、請求人が指摘する実施例2について,以下の記載があることが認められる。
「【0017】実施例2
3mmφ×5mmのコイル状ガラスラシヒリングを充填した塔高1m、内径12mmの蒸留塔を用いてフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの蒸留を行った。フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルおよびこれに対して7wt%のNa_(2)HPO_(4)水溶液を仕込み、蒸留を行った。まず、全還流させ、1時間後、還流比20で初留を抜き出し、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの純度が99.0%以上となった時点で主留に切り替え、還流比10で主留の抜き出しを行った。蒸留の終了は、オイルバスの温度105℃でフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの留出がなくなった時点、または、留出液のフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの純度が99.0%未満となった時点とした。結果を表2に示す。なお、分析は、ガスクロマトグラフィーにより行った。
【0018】
【表2】

【0019】表2より、分解抑制剤を添加して蒸留を行うことによって仕込原料であるフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル中にもとから含有されていたフルオロメチル-1,1,3,3,3-ペンタフルオロイソプロペニルエーテルは初留でカットされ、また、主留中にフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの分解によってフルオロメチル-1,1,3,3,3-ペンタフルオロイソプロペニルエーテルが混入することは全くなく、しかも主留の純度は99.9%以上と高純度であり、収率も70%以上と良好に蒸留精製が行われていることがわかる。」
(「フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル」は、「セボフルラン」と同義であるので、以下、これを「セボフルラン」と表記する。)

そこで検討するに、まず、上記実施例2には、請求人のいう「約0.12%?0.14%(1200?1400ppm)の水を含むセボフルラン」なるものは記載されていない。ただ、この点について、請求人は、審判請求書において、以下のように主張する。
「7.4.1.2 甲第1号証は、実施例2(第0017段落)において、セボフルランとNa_(2)HPO_(4)水溶液との混合物を蒸留することにより、セボフルランを精製したことを記載する。
甲第1号証の実施例2の概要を以下の図1に示す。
(図1)
・・・
実施例2において、セボフルランに対して7wt%のNa_(2)HPO_(4)水溶液(水溶液中のNa_(2)HPO_(4)濃度2wt%)が混合されているので、蒸留開始前の混合物には、約94%のセボフルランおよび約6%の水が含まれている。
セボフルラン(沸点約58.1℃)は、水と共に加熱されると、約1?2%の水を含む共沸蒸気(沸点約54.3℃)を形成する。従って、実施例2の蒸留においても、セボフルランおよび水の共沸蒸気が形成される。そして、共沸混合物が冷却されて得られる留分も、セボフルランと水との混合物となる。室温において、セボフルランの飽和水分量は、約0.12?0.14%(1200?1400ppm)である(本件特許公報第7欄第32行は、0.14%が飽和レベルであると記載している)ので、得られる留分は、水が飽和したセボフルランとなり、セボフルランに溶解できない水は分離する。

7.4.1.3 甲第3号証は、本件特許に対応する米国特許(米国特許番号第5990176号)に基づく米国での侵害訴訟(・・・以下、単に「米国訴訟」という)において提出された実験報告書であり、甲第1号証の実施例2と同じ実験を行った結果を示している。・・・
甲第3号証において、ギラード博士は、甲第1号証の実施例2と同様の実験を行った結果、得られた画分2において水分量の測定結果が1265.5ppmおよび1268.4ppmであったこと(6頁)、画分3において水分量の測定結果が1298.8ppm、1292.4ppmおよび1298.4ppmであったこと(6頁)、ならびに、画分4において水分量の測定結果が1191.1ppm、1189.1ppmおよび1186.4ppmであったことを記載している(13頁)。
なお、ギラード博士は、2004年12月1日、米国訴訟の口頭審理に出頭して、セボフルランが水と共沸混合物を形成すること、そしてその結果得られる留分が約1300ppmの水で飽和されたセボフルランであることを説明している(甲第5号証)。

7.4.1.4 上述したとおり、甲第1号証は、実施例2において、約0.12?0.14%(1200?1400ppm)の水を含むセボフルランを開示する。」

しかしながら、以下に述べるとおり、甲第3号証は、甲第1号証の実施例2と同様の実験を行った結果を開示するものとはいえない。すなわち、甲第3号証には、実験の手順に関し、以下の記載事項があることが認められる。(甲第3号証は英語で記載されているので、訳文で示す。)
(a)「セボフルランの蒸留
ステンレススチールメッシュパッキング(goodloe)で充填された1”IDバキュームジャケット付カラムの2つの4’セグメントからなる蒸留カラム及びタイマーで制御された蒸留ヘッドに、3リットルの3つ首丸底フラスコを取り付けた。ウォークインフードの中のラックにこの蒸留カラムを取り付けた。この3リットルフラスコに、以下を添加した:
2402gのセボフルラン(バクスター ロットS003M217)
150mlの2wt%Na_(2)HPO_(4)水溶液*
テフロン沸石
*注:この溶液は、10.07gNa_(2)HPO_(4)(Mallinckrodt分析用試薬)を秤量して500mlの蒸留水に溶解することにより作成された。
加熱マントルをこの丸底フラスコの下に置き、そしてそれに取り付けられたVariacを65にまで上げた。・・・
およそ1時間の後、環流が起こり、・・・さらに15分間の環流の後、蒸留ヘッドの上のタイマーを20/1の環流比が得られるように設定した。
画分1 最初の60mlの留分・・・
留分を非常にゆっくり回収した。そして環流比は10/1に上昇した。
画分2 次の80mlの留分、・・・
画分3 次の80mlの留分、・・・
セボフルランサンプル中の水の量を、カールフィッシャー測定により測定した。・・・」(甲第3号証第1ページ5行?第2ページ17行)

(b)「画分2
・・・
含有率 1265.5ppm
・・・
含有率 1268.4ppm」(甲第3号証第6ページ左側部分)

(c)「画分3
・・・
含有率 1298.8ppm
・・・
含有率 1292.4ppm
・・・
含有率 1298.4ppm」(甲第3号証第6ページ右側部分)

(d)「受容器中で一晩回収した物質に画分4とのラベルを付した。」(甲第3号証第9ページ1?2行)

(e)「ポットから留出して、画分4として回収されたセボについて、また、水分含量を測定した。
画分4
・・・
含有率 1191.1ppm
・・・
含有率 1189.1ppm
・・・
含有率 1186.4ppm」(甲第3号証第12ページ下から3行?第13ページ左側部分)

(f)「セボフルランの蒸留
バクスターセボフルランをエルレンマイヤーフラスコ中で秤量した。
2つのボトル ロットS001L129
2つのボトル ロットS003M122
2つのボトル ロットS002M122
合計重量 2291g
このセボフルランに、100mlの脱イオン水を添加した。この混合物を4lの分液漏斗に入れ、1分間振とうした。溶液を静置した。2層が分離した。25mlのセボフルランのサンプルを透明なガラスのボトルに入れ、ギラードセボ1124-1とのラベルを付した。残りのセボフルランを、私が2003年10月7日に使用し、このノートの1ページに記載したものと同じ蒸留カラムに取り付けた3つ首の3リットル丸底フラスコに入れた。さらなる5mlの水をまたその3つ首3リットルフラスコに添加した。・・・およそ45分の後、混合物は激しく環流し、・・・20/1の環流比を与えるように蒸留ヘッドのタイマーを設定し、画分を回収し・・・た。」(甲第3号証第21ページ3行?第22ページ7行)

(g)「バクスター
・・・
化学分析グループ」
サンプル情報
・・・
ロット番号 ギラード-1124-1
・・・
結果
純度(%) 99.9974%
・・・」(甲第3号証第27ページ)
(h)「バクスター
・・・
化学分析グループ」
サンプル情報
・・・
ロット番号 S003M217
・・・
結果
純度(%) 99.9942%
・・・」(甲第3号証第67ページ)

記載事項(b)、(c)及び(e)によれば、請求人のいうとおりの水分含有量を有する画分2、3及び4なるものが得られたことがうかがえるが、これらの画分を得た実験条件は、記載事項(a)及び(h)によれば、純度99.9942%とされる、バクスター社のロットS003M217のセボフルラン2402gと150mlの2wt%Na_(2)HPO_(4)水溶液を蒸留した、というものである。
これに対し、甲第1号証の実施例2の実験条件は、実施例2の上記【表2】によれば、実験No.1では、純度92.129%のセボフルラン250gと17.5mlの2wt%Na_(2)HPO_(4)水溶液を蒸留した、というものであり、実験No.2では、純度89.299%のセボフルラン500gと35.05mlの1wt%Na_(2)HPO_(4)水溶液を蒸留した、というものである。
そうすると、少なくとも、蒸留の対象となったセボフルランの純度及び該セボフルランとNa_(2)HPO_(4)水溶液の量の点で、甲第3号証の画分2、3及び4を得た実験条件と甲第1号証の実施例2の実験条件は異なるものであるから、画分2、3及び4を得た甲第3号証の実験は、甲第1号証の実施例2を正しく追試するものとすることができない。また、記載事項(f)によれば、甲第3号証には、バクスター社の3つのロットのセボフルランをまぜて、脱イオン水で処理して、ギラードセボ1124-1と命名したものを、蒸留した実験も記載されているが、記載事項(g)によれば、ギラードセボ1124-1は純度99.9974%とされたものであることがうかがえ、また、この実験では、Na_(2)HPO_(4)水溶液を使用していないから、この実験も、甲第1号証の実施例2を正しく追試するものとすることができない。
そうすると、甲第3号証の実験結果によっては、甲第1号証の実施例2に記載の留分に水分が含まれているか否か、また、含まれている場合にいかなる量含まれているか、は、明らかでないとするほかはない。また、上記博士が上記米国訴訟の口頭審理に出頭して、セボフルランが水と共沸混合物を形成すること、そしてその結果得られる留分が約1300ppmの水で飽和されたセボフルランであることを説明しているとしても、このことのみによっては、甲第1号証の実施例2に記載の留分が、請求人のいう、約0.12%?0.14%(1200?1400ppm)の水を含むものであるという結論を導出できるとするに足りない。
そうすると、甲第1号証の実施例2に記載の留分が、請求人のいう、約0.12%?0.14%(1200?1400ppm)の水を含むものである、と認めることはできないから、請求人の上記主張を採用することはできない。
したがって、甲第1号証は、実施例2において、審判請求人のいう、約0.12%?0.14%(1200?1400ppm)の水を含むセボフルランを開示するものとはいえないし、本件訂正発明1にいう、206ppm以上、0.14%(重量/重量)未満の水を含むセボフルランを開示するものともいえない。

(1-2)また、仮に、甲第1号証の実施例2に記載の留分すなわち上記【表2】の初留又は主留(なお、上記【表2】では、留分に釜残も含まれているが、釜残は、純度が51.380%、37.226%と低いものであり、麻酔薬として使用に耐えるものでないことは明らかである。)が、約0.12%?0.14%(1200?1400ppm)の水を含むものである、と認めることができるとしても、これらの留分は、以下に説示するように、麻酔薬組成物として記載されているものであるということはできない。

すなわち、まず、甲第1号証には、実施例2に記載の留分を、そのまま麻酔薬組成物として使用する旨の記載は、見いだせない。また、該留分がそのまま麻酔薬組成物として使用することができるものであるという本願優先日当時の技術常識があったという根拠も見いだせないから、実施例2に記載の留分をそのまま使用する麻酔薬組成物が、甲第1号証に記載されているに等しいものである、とすることもできない。ただ、請求人は、甲第1号証の段落【0001】や【0020】の記載を引用して、甲第1号証には麻酔薬組成物が記載されている旨主張するので、甲第1号証の記載について子細に見ると、甲第1号証には、以下の記載があることが認められる。
(i)「【請求項1】フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルにアルカリ金属の水酸化物、リン酸水素塩、リン酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩もしくは亜硫酸塩、または、酢酸もしくはフタル酸のアルカリ金属塩、または、ホウ酸から選ばれる化合物を添加して蒸留することを特徴とするフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの精製方法。」(【特許請求の範囲】の欄)

(j)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、医薬品、特に吸入麻酔剤として広く利用されているフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの精製方法に関するものである。さらに詳しくは、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの蒸留時における分解を抑制し、高純度のフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを得る方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術およびその問題点】従来、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルは、安全な吸入麻酔剤として広く利用されている。
【0003】このフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルは、例えば、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルアルコールとホルムアルデヒドとフッ化水素とを反応させることにより得ることができる。このようにして製造された粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル中には、さまざまな副生成物が含まれているが、これらの副生成物は、反応生成物を通常の処理工程、すなわち、酸による洗浄、アルカリによる洗浄、水による洗浄、蒸留精製などの工程を通すことにより除去する手段が選ばれる。
【0004】しかしながら、このフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの蒸留工程において、粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルは分解や不均化し、蒸留できないこと、不純物が増加することが判明した。すなわち、蒸留中にフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの脱フッ化水素反応が起こり、フルオロメチル-1,1,3,3,3-ペンタフルオロイソプロペニルエーテルが新たな不純物として徐々に生成してくることが判明した。このフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの分解生成物であるフルオロメチル-1,1,3,3,3-ペンタフルオロイソプロペニルエーテルは、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの揮発性類縁化合物であり、沸点が近接しているため分離できず、吸入麻酔剤という用途においては、その製品中への混入は極めて好ましくないことはいうまでもないことであり、早急の解決が望まれていた。
【0005】
【問題点を解決するための手段】本発明者らは、かかる従来の問題点に鑑み、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの分解を抑制し、フルオロメチル-1,1,3,3,3-ペンタフルオロイソプロペニルエーテルを生成しないフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの蒸留精製方法につき、鋭意、検討を行った結果、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルにアルカリ金属の水酸化物、リン酸水素塩、リン酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩もしくは亜硫酸塩、または、酢酸もしくはフタル酸のアルカリ金属塩、または、ホウ酸から選ばれる化合物を固体のまま、あるいは、水溶液として添加して蒸留を行うことにより、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの分解を抑制することができ、フルオロメチル-1,1,3,3,3-ペンタフルオロイソプロペニルエーテルを実質的に含有しない高純度のフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを得ることができることを見出し、本発明に到達した。」(段落【0001】?【0005】)

(k)「【0020】
【発明の効果】本発明の方法により、医薬品、特に吸入麻酔剤として使用されるフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの蒸留精製時における分解を効果的に抑制し、高純度のフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを得ることができる。」(段落【0020】)

そこで、これらの記載事項について検討するに、段落番号【0003】の記載によれば、化学合成反応により得られる粗セボフルラン中には、さまざまな副生成物が含まれているが、これらの副生成物は、反応生成物を通常の処理工程、すなわち、酸による洗浄、アルカリによる洗浄、水による洗浄、蒸留精製などの工程を通すことにより除去するものであるとされており、【請求項1】、段落番号【0004】、【0005】の記載によれば、甲第1号証に記載の発明の蒸留による精製方法は、上記工程のうちの一つである蒸留精製の改良に関するものであって、蒸留時にセボフルランが分解して不純物であるフルオロメチル-1,1,3,3,3-ペンタフルオロイソプロペニルエーテルが生成するのを抑制し、これを実質的に含有しない高純度のセボフルランを得るための方法であるとされている。そして、その他の不純物に言及する記載や、甲第1号証に記載の発明の蒸留による精製方法により得られたものを、そのまま麻酔薬組成物として使用する旨の記載は、甲第1号証中に見いだせない。そうすると、これら甲第1号証の記載に接した当業者は、甲第1号証に記載の発明の蒸留による精製方法は、粗セボフルランの精製工程のうちの一つの工程の改良方法であって、特定の不純物に着目したものと解する、とするのが相当であり、この方法により得られた留分をそのまま麻酔薬組成物として使用するものと解する、とする理由は見いだせない。 また、甲第1号証の段落番号【0001】、【0002】及び【0020】には、セボフルランが吸入麻酔剤として広く利用されている旨の記載はあるが、これは化学物質としてのセボフルランの用途を記載したものであって、甲第1号証に記載の発明の蒸留による留分がそのまま麻酔薬組成物として利用できることを意味するものとはいえない。また、実施例2の留分のうち、初留や主留の純度は、実施例2の【表2】によれば、99.647%?99.995%と高純度であるものの、その値はセボフルラン自体や【表2】に記載の上記フルオロメチル-1,1,3,3,3-ペンタフルオロイソプロペニルエーテルといった有機化合物を検出するガスクロマトグラフィーで分析して得られた結果であるから、これにより無機不純物の存在の有無やその含有量を知ることはできない。してみると、上記主留及び初留についてのフルオロメチル-1,1,3,3,3-ペンタフルオロイソプロペニルエーテル以外の有機、無機不純物の種類やその含有量は不明であるというほかはない。そうすると、甲第1号証の記載に接した当業者が実施例2の留分をそのまま麻酔薬組成物として使用するものと解する、とする理由は見いだせない。

また、請求人は、「甲第3号証の追試で得られた蒸留物の分析結果(・・・)において記載されている各種不純物(化合物A等)の含有量は微量であるから、当該組成物の臨床使用を阻害しない。」とも主張する。しかしながら、甲第3号証の追試は、本願優先日後の2003年10月以降に行われたものとされているから、その結果は、本願優先日当時の技術常識に属する事項とはなり得ず、甲第1号証の実施例2に記載の留分が麻酔薬組成物として記載されているに等しいと解する根拠とすることはできない。しかも、甲第3号証の追試は、バクスター社の製品ロットに入っていたセボフルラン、すなわち、麻酔薬として利用可能な程度に不純物の除去がなされたであろうセボフルラン、にNa_(2)HPO_(4)水溶液や水を加え蒸留して得られる留出液を分析した結果であって、甲第1号証の実施例2に記載の留分を分析した結果ではないから、この点でも、甲第1号証の実施例2に記載の留分が麻酔薬組成物として記載されているに等しいと解する根拠となり得るものではない。
また、請求人は、「被請求人の専門家であるユング教授は、米国訴訟の口頭審理において、甲第1号証の留出物が医薬品グレードであることを認めている(甲第14号証)。」とも主張する。しかしながら、該口頭審理は、本願優先日後の2004年11月に行われたものとされているから、該口頭審理の内容は、本願優先日当時の技術常識を構成する事項とはなり得ず、甲第1号証の実施例2に記載の留分が麻酔薬組成物として記載されているに等しいと解する根拠とすることはできない。
また、請求人は、「本件発明の麻酔薬組成物は人間用に限定されず、動物にも利用可能なものであり、動物実験に用いられる麻酔薬組成物に多少の毒性化合物が含有されていても問題ない。そして、甲第1号証は、少なくとも動物実験用の麻酔薬組成物を開示しているので、本件発明に新規性はない。」旨主張する。しかしながら、上述のように、甲第1号証の実施例2に記載の留分は、フルオロメチル-1,1,3,3,3-ペンタフルオロイソプロペニルエーテル以外の有機、無機不純物の種類やその含有量は不明であるというほかはないものであるから、動物実験になら用いられるとは必ずしもいえないものであるし、動物実験に用いられる麻酔薬組成物なら多少の毒性化合物が含有されていても問題ないから上記実施例2に記載の留分はそのまま動物実験に用いられる麻酔薬組成物である、とする解釈自体、不自然なものといわざるを得ず、通常の当業者が採用するものとは認め難い。そうすると、甲第1号証が動物実験用の麻酔薬組成物を開示しているとするのは相当でない。
したがって、請求人のこれらの主張は何れも採用できない。

なお、さらに付言すると、仮に、請求人が主張するとおり、水とセボフルランが共沸するものであり、甲第1号証の実施例2の留分が、水が飽和したセボフルランであるとすると、このことを知った本件優先日当時の当業者ならば、かかるセボフルランは水が飽和しているのであるから、温度などの保存条件や使用されるときの態様によっては、水が分離してしまい、医薬品として適切なものではなくなるおそれがあることを、当然に予想するものといえる。そうすると、余計な水をできるだけ除去してから麻酔薬組成物としようと考えるのが、上記当業者において自然のことといえるし、このことは、セボフルランの承認申請書(甲第41号証)における製造方法において、製造工程の最後にモレキュラーシーブで乾燥して精製されたセボフルランを製する、とされていることや、後で検討する甲第8号証の実施例1、2で、最後に合成ゼオライトすなわちモレキュラーシーブで処理していることとも整合する。そうすると、甲第1号証の実施例2の留分が、水が飽和したセボフルランであるとすると、なおのこと、甲第1号証の実施例2の留分を、乾燥することなく、そのまま麻酔薬組成物とするものと認定することは、相当でない。

(1-3)以上、(1-1)及び(1-2)で説示したところにより、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることができない。

(2)本件訂正発明2及び3について
本件訂正発明2及び3は、それぞれ、「上記一定量のセボフルランに対して水を添加するステップ」、「水に対して上記一定量のセボフルランを添加するステップ」を発明特定事項とする、本件訂正発明1の「麻酔薬組成物」の調製法である。
しかし、甲第1号証には、(1)で説示したとおり、本件訂正発明1の麻酔薬組成物自体が記載されておらず、また、「上記一定量のセボフルランに対して水を添加するステップ」あるいは「水に対して上記一定量のセボフルランを添加するステップ」に相当する工程の記載も見いだせない。
したがって、本件訂正発明2及び3も、甲第1号証に記載された発明であるとすることができない。

(3)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、「一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法」及び「該一定量のセボフルランに対して所定量の水を添加するステップ」を発明特定事項としている。
甲第1号証には、(2)で述べたとおり、「上記一定量のセボフルランに対して水を添加するステップ」に相当する工程の記載は見いだせず、また、「一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法」を提供するという技術的思想の記載も見いだせない。
したがって、本件訂正発明4も、甲第1号証に記載された発明であるとすることができない。

請求人は、「セボフルランのルイス酸による分解の防止は、セボフルランに対して水を添加することにより達成される効果であるから、甲第1号証は、実質的にセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法をも開示する」と主張する。しかしながら、上述のとおり、甲第1号証には、「一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法」を提供するという技術的思想の記載がないのであるから、「一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法」を発明特定事項としている本件訂正発明4の新規性は、甲第1号証によっては否定されないものというべきであり、請求人の主張は独自の見解に基づくものであって採用できない。

6.2.2 甲第6号証に基づく理由

請求人は、審判請求書において、以下のように主張する。
「7.4.2.1 甲第6号証(・・・)の第0001段落および第0013段落は、甲第6号証の発明が、吸入麻酔薬として広く利用されているセボフルランを提供することを記載する。
7.4.2.2 甲第6号証は、実施例1?4のそれぞれ(第0008段落?第0012段落)において、セボフルランを水で洗浄した後に、水を除去する工程を行うことなく、蒸留することにより、セボフルランを精製したことを記載する。水で洗浄した後に、蒸留していることから、甲第1号証と同様に、甲第6号証は、実施例1?4においても、相当量の水が共沸していることは明らかであり、得られる留分が、水分がほぼ飽和したセボフルラン、すなわち、0.12?0.14%の水を含むセボフルランであることが明らかである。
・・・すなわち、甲第6号証は、甲第1号証と同様に、請求項1?4の構成要件を・・・開示している。従って、請求項1?4は甲第6号証に対して新規性がない。」

そこで、甲第6号証の記載を検討するに、甲第6号証には、以下の記載があることが認められる。
(l)「【請求項1】少なくとも副生フッ素化エーテルを含むフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルをブレンステッド酸、ルイス酸、または樹脂等に固定化された酸の一種もしくは二種以上で処理するようにしたことを特徴とする、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの精製方法」(【特許請求の範囲】の欄)

(m)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、医薬,特に吸入麻酔薬として広く利用されているフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの精製方法に関する。
【0002】
【従来の技術およびその問題点】従来、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルは使用上安全な吸入麻酔薬として広く利用されている。例えば、その製造方法はUSP4,250,334に詳しく述べられ、一方、医療用途に適するような純度を得るための精製方法についてはUSP4,328,376に記載されている。具体的にはUSP4,250,334に記載の製造方法に従って、濃硫酸、フッ化水素をパラホルムアルデヒドに添加し、この反応混合物を加熱したところへ1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルアルコールを滴下する方法で発生するガスを捕集すると、目的とする生成物の他に未反応のアルコール、副生したホルマールとアセタール等が有機副生成物として回収される。しかしながら,USP4,328,376の明細書に記載されるところによると、かかる方法で合成されたフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルには叙上の副生成物のみならず微量のオレフィン化合物が副生成物として含まれることが見出され、しかもこの化合物は蒸留において共沸様の挙動を示すため、蒸留手段に依っては精製できないことから、得られた粗フルオロメチルヘキサフルオロイソプロピルエーテルをアミン類で化学的に処理した上で、蒸留精製工程に付す事により純度の高いフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを得ることに成功している。しかるに、アミン類を使用する精製方法を適用して得られたフルオロメチルヘキサフルオロイソプロピルエーテルは、その純度を高める点においては満足しうるものの、却って微量のアミン類がフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルに残存する結果、アミン臭が認められるという、吸入麻酔薬として極めて好ましくない副次効果を伴う欠点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする問題点】本発明において目的とする吸入麻酔薬用途においては、望ましくない不純物を実質的に不含有にすることが求められるのは論を待たない。この目的を達成するために、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの純度を向上させる方法について鋭意検討を続けた結果、USP4,250,334に記載の製造方法に従って、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルアルコールとフッ化水素と濃硫酸とホルムアルデヒドからフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを製造する場合、当該特許明細書に記載されているホルマールおよびアセタール等の副生成物のみならず、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル以外のフッ素化エーテル(本明細書において、「副生フッ素化エーテル」という。)類および高沸点のポリエーテル類が不可避的に生成し、そのうち特に副生フッ素化エーエル類がフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの純度向上を妨げている事を見出した。これらの内の大部分の副生成物に関しては、このような反応生成物に対して通常適用される回収処理方法、すなわち水洗浄、アルカリ洗浄、乾燥、蒸留操作等を施すことにより化学的または物理的作用を受け、実質的には製品中に残存しないのが通常である。しかしながら、副生成物である副生フッ素化エーテル類のうちビスフルオロメチルエーテルは単独ではきわめて不安定な化合物でありながらフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルと共存する場合には比較的安定に存在し、通常の回収処理方法、すなわち水洗浄、アルカリ洗浄、乾燥等によっては分離除去されないという、意外且つ精製処理において不都合な性質が見出された。そこでビスフルオロメチルエーテルを含むフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの蒸留による分離精製を試みたところ、予想に反して、ビスフルオロメチルエーテルとフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルとは容易に分離せず共沸様の挙動を示す事が確認され、充分に純度の高い製品は回収できなかった。したがって、このビスフルオロメチルエーテルを効率的に除去する方法を確立することがフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの純度を向上させる上で必須の課題である事は明らかである。
【0004】
【問題点を解決するための具体的手段】本発明者らは、かかる従来技術の問題点に鑑み、有用なフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルに悪影響を及ぼす事無く、実質的にビスフルオロメチルエーテルを含まないフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを得る精製方法につき鋭意検討した結果、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル合成に当たって副生するフッ素化エーテルをブレンステッド酸および,またはルイス酸および,または樹脂等に固定化された酸と接触させることにより効率的に除去されることを見出し本発明に到達した。すなわち本発明は、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル合成に当たって副生するフッ素化エーテルをブレンステッド酸および,またはルイス酸および,または樹脂等に固定化された酸と接触させることにより除去した後、アルカリ水溶液で処理することを特徴とするフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの精製方法である。」(段落【0001】?【0004】)

(n)「【0008】
【実施例】以下、実施例を以て本発明を明示するが、それらは本発明を限定するものではない。分析は、ガスクロマトグラフィで行い、実施例における%は全て重量%である。
実施例1
500mlの反応器に98%硫酸50ml、フッ化水素100g(5モル)およびパラホムアルデヒド30g(1モル)を仕込んだ。この反応混合物を65℃に加熱した。その後1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルアルコール134g(0.8モル)を2時間に亘たって滴下した。反応によって発生する蒸気を水で捕集して、粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル140gを得た。この粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルはビスフルオロメチルエーテルを1.3%含有していた。またポリエーテル類は10.6%含有していた。この粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル25gを50mlの反応器に入れ、80%硫酸1.3g(3倍モル/ビスフルオロメチルエーテル)を加えて35℃で4時間攪拌したところ、ビスフルオロメチルエーテルは0.01%に減少した。
【0009】その後、10%NaOH水溶液5g、次いで水10gで洗浄した。さらに蒸留して純度99.99%のフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル18.9gを得た。
実施例2
実施例1で得たビスフルオロメチルエーテル1.3%とポリエーテル類を12.3%含有する粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル25gを50mlの反応器に入れ、四フッ化チタン1.4g(3倍モル/ビスフルオロメチルエーテル)を加えて35℃で4時間攪拌したところビスフルオロメチルエーテルは0.003%に減少した。
【0010】その後、10%NaOH水溶液5g、次いで水10gで洗浄した。さらに蒸留して純度99.99%のフルオロメチル─1,1,1,3,3,3─ヘキサフルオロイソプロピルエーテル19.0gを得た。
実施例3
実施例1で得たビスフルオロメチルエーテル1.3%とポリエーテル類を12.3%含有する粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル25gを50mlの反応器に入れ、三フッ化ホウ素0.3g(1.5倍モル/ビスフルオロメチルエーテル)を加えて25℃で2時間攪拌したところビスフルオロメチルエーテルは検出できなかった。
【0011】その後、10%NaOH水溶液5g、次いで水10gで洗浄した。さらに蒸留して純度99.99%のフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエ-テル18.3gを得た。
実施例4
実施例1で得たビスフルオロメチルエーテル1.3%とポリエーテル類を12.3%含有する粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル25gを50mlの反応器に入れ、Nafion H 2.5g(10%/フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル)を加えて35℃で4時間攪拌したところビスフルオロメチルエーテルは0.001%に減少した。
【0012】その後、Nafion Hを濾別し、濾液を10%NaOH水溶液5g、次いで水10gで洗浄した。さらに蒸留して純度99.99%のフルオロメチル─1,1,1,3,3,3─ヘキサフルオロイソプロピルエーテル18.8gを得た。
【0013】
【発明の効果】本発明の方法によれば、吸入麻酔薬として使用されるフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを極めて高純度で得る事が出来る。」(段落【0008】?【0013】)

そこで検討するに、まず、上記実施例1?4には、請求人のいう「約0.12%?0.14%の水を含むセボフルラン」なるものは記載されていない。また、甲第1号証の実施例2に記載の留分が、約0.12%?0.14%(1200?1400ppm)の水を含むものである、と認めることはできないことは、4.1.1の欄で説示したとおりであるところ、上記甲第6号証の実施例1?4の実験は、甲第3号証で行われた実験と同一のものとはいえないことは明らかであり、この点で、甲第1号証の実施例2と事情を同じくするものである。そうすると、「甲第1号証と同様に、甲第6号証は、実施例1?4においても、相当量の水が共沸していることは明らかであり、得られる留分が、水分がほぼ飽和したセボフルラン、すなわち、0.12?0.14%の水を含むセボフルランであることが明らかである。」という請求人の主張を採用することはできない。

さらに、上記実施例1?4において蒸留して得られたセボフルランすなわち請求人のいう留分が、麻酔薬組成物として記載されているものであるということもできない。
すなわち、まず、甲第6号証には、実施例1?4の上記留分を、そのまま麻酔薬組成物として使用する旨の記載は、見いだせない。また、該留分がそのまま麻酔薬組成物として使用することができるものであるという本願優先日当時の技術常識があったという根拠も見いだせないから、実施例1?4の上記留分をそのまま使用する麻酔薬組成物が、甲第6号証に記載されているに等しいものである、とすることもできない。また、甲第6号証の段落番号【0001】、【0002】及び【0013】には、セボフルランが吸入麻酔剤として広く利用されている旨の記載はあるが、これは化学物質としてのセボフルランの用途を記載したものであって、実施例1?4の上記留分がそのまま麻酔薬組成物として利用できることを意味するものとはいえない。また、実施例1?4の上記留分は、いずれも99.99%と高純度であるものの、その値はガスクロマトグラフィーで分析して得られた結果であるから、無機不純物の種類やその含有量は不明であるというほかはない。そうすると、甲第6号証の記載に接した当業者が実施例1?4の上記留分をそのまま麻酔薬組成物として使用するものと解する、とする理由は見いだせない。

したがって、本件訂正発明1は、甲第6号証に記載された発明であるとすることができない。

また、甲第6号証は、甲第1号証と同様の理由により、本件訂正発明2、3の麻酔薬組成物の調製法、及び、本件訂正発明4のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法を記載するものとはいえない。

したがって、本件訂正発明2ないし4も、甲第6号証に記載された発明であるとすることができない。

6.3 第2の無効理由(特許法第29条第2項)について

請求人が主張する第2の無効理由の概要は、「甲第1号証及び甲第6号証に記載されているとおり、セボフルランを含む麻酔薬組成物は周知であり、また、セボフルランと同様に麻酔剤として使用されるイソフルランが0.14%(1400ppm)までの水を含むことができることは当業者に周知である(甲第7号証)。そうすると、甲第7号証に基づいて、セボフルランに0.14%までの水を含めることは、当業者が容易に想到し、本件発明1ないし4は進歩性がない。」というものである。
そこで、以下検討する。

甲第1号証の段落番号【0001】、【0002】、【0020】、甲第6号証の段落番号【0001】、【0002】、【0013】の記載によれば、セボフルランが吸入麻酔薬として広く利用されている化学物質であること自体は明らかである。
一方、甲第7号証(合衆国薬局方)には「イソフルラン …(略)… 水、方法I<921>:0.14%以下」と記載されている。
この甲第7号証の記載は、麻酔薬として使用されるイソフルランには0.14%を超える水が含まれてはならないこと、即ち不純物として含まれる水の許容限度を示したものである。それゆえ、この記載は、不純物として含まれる水はむしろ少なければ少ないほどよいと当業者が理解するものであって、積極的にイソフルランに0.14%以下までの水を含ませ、それを麻酔薬に利用することを当業者に教示するものではない。
そうすると、イソフルランとセボフルランが共にフルオロエーテル系麻酔薬として利用される化学物質であり、両者の化学構造が類似しているといっても、本来それだけで麻酔薬として利用可能な一定量のセボフルランに対して、従来不純物と認識されていた水を、206ppm以上、0.14%(重量/重量)未満含ませ麻酔薬組成物とする本件訂正発明1ないし3を、上記証拠の記載から導くことはできない。
また、甲第1、6及び7号証には、セボフルランがルイス酸により分解されること、及び水がそれを防止することも何ら記載がないのであるから、本件訂正発明4にしてもこれらの証拠から当業者が容易に着想し得たということはできない。
そして、本件訂正明細書の記載によれば、本件訂正発明1ないし4は、セボフルランのルイス酸による分解が防止されるという上記甲号証の記載から当業者が予測し得ない効果を奏するものである。
したがって、本件訂正発明1ないし4は、甲第1号証又は甲第6号証、及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

請求人は、甲第13号証(証拠8)によれば、セボフルランと同様にフルオロエーテル系麻酔薬として利用されるエンフルラン及びメトキシフルランが0.1%までの水を含むことができ、同号証(証拠11)によれば、セボフルランは吸湿性であってその最終製品は0.1%までの水を含むことができ、そして、甲第17号証によれば、水分量が0.07%のセボフルラン麻酔薬製品が存在していたのであるから、セボフルランに0.015%以上の水を含ませることに阻害要因はない旨主張する。
しかし、従来不純物と認識されていた水を、一定量のセボフルランと共に麻酔薬組成物の一成分とすることは、当業者に知られていなかっただけでなく、当業者の常識に反することであり、これを積極的に動機付けるものがない以上、単に麻酔薬中に不純物として含まれうる水の許容限度が知られていたというだけで本件訂正発明1が容易に導かれるとはいえない。
また、請求人は、「水をセボフルランに添加することによる効果は、セボフルラン麻酔薬を開発しようとするメーカーが必然的に行う確認実験の結果として必然的に観察されるものでしかない」と主張する。しかしながら、一定量のセボフルランと水とを含む組成物を麻酔薬として使用すること自体が当業者に容易に着想し得ないのは上述のとおりであるから、請求人のこの主張も採用する余地はない。

6.4 第3の無効理由(特許法第29条の2)について

請求人が主張する第3の無効理由の概要は、「甲第8号証は、調製例において、水の入ったトラップを用いることにより0.13%(1300ppm)の水を含むセボフルランを開示し、そして、そのセボフルランは、吸入麻酔薬として使用されることが甲第8号証に記載されているから、本件発明1ないし4は甲第8号証に記載された発明と同一である。」というものである。

そこで、甲第8号証の記載を検討するに、甲第8号証には、以下の記載があることが認められる。
(o)「【請求項1】 ビスフルオロメチルエーテルを含むフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルをゼオライトと接触させることを特徴とする、フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの精製方法。」(【特許請求の範囲】の欄)

(p)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、医薬,特に吸入麻酔薬として広く利用されているフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの精製方法に関する。
」(段落【0001】)

(q)「【0014】
【実施例】以下、実施例を以て本発明を明示するが、それらは本発明を限定するものではない。分析は、ガスクロマトグラフィで行い、実施例における%は全て重量%である。
【0015】〔フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルの調製例〕5Lの反応器に98%硫酸500ml、フッ化水素1000g(50モル)およびパラホムアルデヒド300g(10モル)を仕込んだ。この反応混合物を65℃に加熱した。その後1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルアルコール1680g(10モル)を2時間に亘たって滴下した。反応によって発生する蒸気を水の入ったトラップに通じて捕集し、粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル1410gを得た。この粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルはビスフルオロメチルエーテルを0.62%、ポリエーテル類を10.6%含有していた。また、水の含有量は0.13%であった。
【0016】実施例1
調製例で得られた粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル50gを100mlの反応器に入れ、粒径約2mmの合成ゼオライト(和光純薬:モレキュラーシーブ13X)5gを加え3時間静置した後、ガスクロマトグラフで分析したところ、ビスフルオロメチルエーテルは検出限界(1ppm)以下となり検出できなかった。このとき、水分は0.002%に減少していた。また、新たな副生成物は認められなかった。
【0017】実施例2
調製例で得られたフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル600gを蒸留し、主留分としてビスフルオロメチルエーテル0.58%とポリエーテル類、0.01%と水0.09%を含有するフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを得た。
【0018】この粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを粒径約2mmの合成ゼオライト(東ソー製:ゼオラムA-4)100gを充填した内径2cmのガラスカラムに60g/Hrで通過させたところ、ビスフルオロメチルエーテルは検出限界以下となり、水分は0.001%であった。また、新たな副生成物は認められなかった。」(段落【0014】?【0018】)

そこで、検討するに、請求人が指摘する調製例には、ビスフルオロメチルエーテルを0.62%、ポリエーテル類を10.6%含有する粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル(以下、「粗セボフルラン」ともいう。)が記載され、このものが水を0.13%含有することも記載されている。
しかしながら、当該粗セボフルランは、ビスフルオロメチルエーテル等を副生成物として含み、その後の実施例1において、合成ゼオライトによる処理によって、ビスフルオロメチルエーテルを検出限界以下とし、水分を0.002%にまで低減させているものであるから、そのまま麻酔薬組成物として利用されるものであると認めることはできない。
加えて、実施例2には、上記調製例で得られたセボフルランを蒸留し、ビスフルオロメチルエーテルを0.58%、ポリエーテル類を0.01%、水を0.09%含有するフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルを得て、これを再度粗フルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテルと称し、その後、合成ゼオライトによる処理によって、ビスフルオロメチルエーテルを検出限界以下とし、水分を0.001%にまで低減させている旨記載されているから、この実施例2の記載からみても、上記調製例で得られた粗セボフルランは、そのまま麻酔薬組成物として利用されるものであると認めることはできない。
また、甲第8号証の段落番号【0001】には、セボフルランが吸入麻酔剤として広く利用されている旨の記載はあるが、これは化学物質としてのセボフルランの用途を記載したものであって、上記粗セボフルランがそのまま麻酔薬組成物として利用できることを意味するものではない。
してみれば、本件訂正発明1は、請求人が指摘する甲第8号証の調製例に記載されたセボフルランと同一であるということはできない。

また、甲第1号証において説示した理由と同様の理由により、本件訂正発明2、3の麻酔薬組成物の調製法の発明、及び、本件訂正発明4のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法の発明が、甲第8号証に記載された発明と同一であるともいえない。


なお、請求人が提出したその他の証拠を検討しても、上記(第1の無効理由)?(第4の無効理由)についての判断を左右するものは見いだせない。


7.むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フルオロエーテル組成物及び、ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法
【発明の詳細な説明】
発明の技術分野
本発明は、一般に、ルイス酸の存在下においても分解しない、安定した麻酔用フルオロエーテル組成物に関する。また、本発明は、ルイス酸の存在下におけるフルオロエーテルの分解抑制法についても開示する。
発明の背景
フルオロエーテル化合物は麻酔薬として広く用いられている。麻酔薬として使用されているフルオロエーテル化合物の例は、セボフルラン(フルオロメチル-2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチルエーテル)、エンフルラン((±-)-2-クロロ-1,1,2-トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル)、イソフルラン(1-クロロ-2,2,2-トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル)、メトキシフルラン(2,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエチルメチルエーテル)、及びデスフルラン((±-)-2-ジフルオロメチル1,2,2,2-テトラフルオロエチルエーテル)を含む。
フルオロエーテルは優れた麻酔薬であるが、幾つかのフルオロエーテルでは安定性に問題があることが判明した。より詳細には、特定のフルオロエーテルは、1種類もしくはそれ以上のルイス酸が存在すると、フッ化水素酸等の潜在的に毒性を有する化学物質を含む幾つかの産物に分解することが明らかになった。フッ化水素酸は経口摂取及び吸入すると毒性を呈し、皮膚や粘膜を強度に腐食する。従って、医療分野では、フルオロエーテルのフッ化水素酸等の化学物質への分解に対する関心が高まっている。
フルオロエーテルの分解はガラス製の容器中で起こることが分かった。ガラス製容器中でのフルオロエーテルの分解は容器中に存在する微量のルイス酸によって活性化されるものと考えられる。ルイス酸のソースはガラスの天然成分である酸化アルミニウムであり得る。ガラス壁が何らかの原因で変質または腐食すると酸化アルミニウムが露出し、容器の内容物と接触するようになる。すると、ルイス酸がフルオロエーテルを攻撃し、フルオロエーテルを分解する。
例えば、フルオロエーテルであるセボフルランが無水条件下でガラス容器中の1種類もしくはそれ以上のルイス酸と接触すると、ルイス酸はセボフルランをフッ化水素酸と幾つかの分解産物に分解し始める。セボフルランの分解産物は、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、メチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル、ジメチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル、及びメチレングリコールフルオロメチルヘキサフルオロイソプロピルエーテルである。セボフルランの分解により生じたフッ化水素酸が更にガラス表面への攻撃を進行させ、ガラス表面に更に多くのルイス酸を露出させる。この結果、セボフルランの分解が一層促進される。
ルイス酸の存在下におけるセボフルランの分解メカニズムは次のように図解することができる:


従って、当分野においては、ルイス酸の存在下においても分解しないフルオロエーテル化合物を含有する安定した麻酔薬組成物が求められている。
発明の要約
本発明は、そこに有効な安定化量のルイス酸抑制剤が付加されたアルファフルオロエーテル部分を有するフルオロエーテル化合物を含有する安定な麻酔薬組成物に関する。好適なフルオロエーテル化合物はセボフルランであり、また、好適なルイス酸抑制剤は水である。本組成物は、ルイス酸抑制剤をフルオロエーテル化合物に加えることにより、またはフルオロエーテル化合物をルイス酸抑制剤に加えることにより、あるいは容器をルイス酸抑制剤で洗浄した後、フルオロエーテル化合物を加えることにより調製することができる。
また、本発明は、アルファフルオロエーテル部分を有するフルオロエーテル化合物の安定化法も含む。本方法は、有効な安定化量のルイス酸抑制剤をフルオロエーテル化合物に加えることにより、ルイス酸による該フルオロエーテル化合物の分解を防止することを含む。好適なフルオロエーテル化合物はセボフルランであり、また、好適なルイス酸抑制剤は水である。
図面の簡単な説明
図1は、同量の酸化アルミニウム(50mg)の存在下において、水の量を増やすとセボフルランの分解度が減少することを実証するクロマトグラムを示している。図1に示されているセボフルランの同定された分解産物は、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)、メチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル(P1)、ジメチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル(P2)、及びメチレングリコールフルオロメチルヘキサフルオロイソプロピルエーテル(S1)である。
図2は、オートクレーブ中において119℃で3時間加熱した後のセボフルランの分解度を表すクロマトグラムを示している。
図3は、水がオートクレーブ中において119℃で3時間加熱した後のセボフルランの分解を抑制する効果を表すクロマトグラムを示している。
図4は、実施例5及び6から得られる活性化されたタイプIIIの褐色ガラス製ボトルにおけるセボフルラン分解産物P2を比較した棒グラフである。このグラフは、400ppmの水を加えることにより、セボフルランの分解が抑制されることを示している。
図5は、実施例5及び6から得られる活性化されたタイプIIIの褐色ガラス製ボトルにおけるセボフルラン分解産物S1を比較した棒グラフである。このグラフは、400ppmの水を加えることにより、セボフルランの分解が抑制されることを示している。
発明の詳細な説明
本発明はルイス酸の存在下においても分解しない、安定な麻酔薬組成物を提供する。また、本発明は、該麻酔薬組成物の調製法についても開示する。
本発明の麻酔薬組成物は少なくとも1つの無水フルオロエーテル化合物を含んでいる。本明細書で用いる「無水」という用語は、そのフルオロエーテル化合物に含まれている水の量が約50ppm未満であることを意味している。本組成物に使用されるフルオロエーテル化合物は次の化学構造式Iに相当するものである。

上記の化学構造式Iにおいて、R_(1);R_(2);R_(3);R_(4);及びR_(5)は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、1個から4個の炭素原子を有するアルキル基(C_(1)-C_(4)アルキル)、1個から4個の炭素原子を有する置換されたアルキル(C_(1)-C_(4)置換アルキル)であり得る。化学構造式Iの好適な実施態様においては、R_(1)及びR_(3)はそれぞれ置換アルキルCF_(3)であり、R_(2)、R_(4)、及びR_(5)はそれぞれ水素である。
本明細書で用いる用語「アルキル」は、1つの水素原子を除去することにより飽和炭化水素から誘導される直鎖または分枝鎖のアルキル基を表している。アルキル基の例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソ-ブチル、tert-ブチル、及びその他同種類のものを含む。また、本明細書で用いる「置換アルキル」という用語は、ハロゲン、アミノ、メトキシ、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ジクロロメチル、クロロフルオロメチル等の1つもしくはそれ以上の基で置換されたアルキル基を表している。更に、本明細書で用いる用語「ハロゲン」は周期表VIIA族の電気的陰性元素の1つを表している。
化学構造式Iを有するフルオロエーテル化合物は、アルファフルオロエーテル部分-C-O-C-F-を含んでいる。ルイス酸はこの部分を攻撃し、それによりフルオロエーテルの分解が起こり、様々な分解産物や毒性化学物質がもたらされる。
本発明で使用できる化学構造式Iの無水フルオロエーテル化合物の例は、セボフルラン、エンフルラン、イソフルラン、メトキシフルラン、及びデスフルランである。本発明で使用するのに好適なフルオロエーテル化合物はセボフルランである。
化学構造式Iを有するフルオロエーテル化合物の製造方法は当業者に広く知られており、それらの方法を用いて本発明の組成物を調製することができる。例えば、セボフルランは、ここに参照として組み入れる米国特許3,689,571号や米国特許2,992,276号に開示されている方法を用いて調製することができる。
本発明の組成物は、合計で約98%w/wから約100%w/wの化学構造式Iを有するフルオロエーテル化合物を含んでいる。好適には、本組成物は少なくとも99.0%w/wの該フルオロエーテル化合物を含んでいる。
また、本発明の麻酔薬組成物は生理学的に許容可能なルイス酸抑制剤も含んでいる。本明細書で用いる「ルイス酸抑制剤」という用語は、ルイス酸の空軌道と相互作用し、それによりその酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物を表している。生理学的に許容可能なあらゆるルイス酸抑制剤を本発明の組成物に使用することができる。本発明で使用できるルイス酸抑制剤の例は、水、ブチル化ヒドロキシトルエン(1,6-ビス(1,1-ジメチル-エチル)-4-メチルフェノール)、メチルパラベン(4-ヒドロキシ安息香酸メチルエステル)、プロピルパラベン(4-ヒドロキシ安息香酸プロピルエステル)、プロポホール(2,6-ジイソプロピルフェノール)、及びチモール(5-メチル-2-(1-メチルエチル)フェノール)を含む。
本発明の組成物は有効な安定化量のルイス酸抑制剤を含んでいる。本組成物に使用できるルイス酸抑制剤の有効な安定化量は、約0.0150%w/w(水当量)からフルオロエーテル化合物中におけるルイス酸抑制剤の約飽和レベルまでであると考えられる。本明細書で用いる「飽和レベル」という用語は、フルオロエーテル化合物中におけるルイス酸抑制剤の最大溶解レベルを意味している。飽和レベルは温度依存性であり得ることが理解されよう。また、飽和レベルは、本組成物に使用する個々のフルオロエーテル化合物及び個々のルイス酸抑制剤にも依存するであろう。例えば、フルオロエーテル化合物がセボフルランで、且つルイス酸抑制剤が水の場合、本組成物を安定化するために使用される水の量は、約0.0150%w/wから0.14%w/w(飽和レベル)であると考えられる。しかし、一旦本組成物がルイス酸に晒されると、本組成物とルイス酸抑制剤の望ましくない分解反応を防止するため、ルイス酸抑制剤がルイス酸と反応するので、本組成物中のルイス酸抑制剤量は減少し得ることに留意すべきである。
本発明の組成物で使用するのに好適なルイス酸抑制剤は水である。精製水または蒸留水、あるいはそれらの組み合わせを使用することができる。先述の如く、本組成物に付加できる水の有効量は、約0.0150%w/wから約0.14%w/wであり、好適には約0.0400%w/wから約0.0800%w/wであると考えられる。他のルイス酸抑制剤の場合は、水のモル量に基づくモル当量を使用すべきである。
フルオロエーテル化合物がルイス酸に晒されると、本組成物中に存在する生理学的に許容可能なルイス酸抑制剤がルイス酸の空軌道に電子を供与し、該抑制剤と該酸との間に共有結合を形成する。これにより、ルイス酸はフルオロエーテルのアルファフルオロエーテル部分との反応が妨げられ、フルオロエーテルの分解が防止される。
本発明の組成物は様々な方法で調製することができる。ある局面では、先ずガラス製ボトル等の容器をルイス酸抑制剤で洗浄またはすすぎ洗いした後、その容器にフルオロエーテル化合物が充填される。任意に、洗浄またはすすぎ洗いした後、その容器を部分的に乾燥させてもよい。フルオロエーテルを容器に付加した後、その容器を密封する。本明細書で用いる「部分的に乾燥」という用語は、乾燥された容器または容器内に化合物の残留物が残るような不完全な乾燥プロセスを表している。また、本明細書で用いる「容器」という用語は、物品を保持するために使用することができるガラス、プラスチック、スチール、または他の材料でできた入れ物を意味している。容器の例は、ボトル、アンプル、試験管、ビーカー等を含む。
別の局面では、フルオロエーテル化合物を容器に充填する前に、乾燥した容器にルイス酸抑制剤を加える。ルイス酸抑制剤を加えた後、その容器にフルオロエーテル化合物が付加される。代替的に、既にフルオロエーテル化合物を含有している容器にルイス酸抑制剤を直接加えてもよい。
更に別な局面では、フルオロエーテル化合物が充填されている容器にルイス酸抑制剤を湿潤条件下で加えてもよい。例えば、水分が容器内に蓄積するだけの充分な時間の間、容器を湿潤チャンバー内に置くことにより、フルオロエーテル化合物が充填された容器に水を加えることができる。
ルイス酸抑制剤は製造プロセスのあらゆる適切なポイントで本組成物に加えることができ、例えば、500リットル入り出荷容器等の出荷容器に充填する前の最終製造ステップで加えることもできる。適当な量の本組成物をその容器から分注し、当産業分野で使用するのにより好適なサイズの容器、例えば250mL入りガラス製ボトル等の容器に入れて包装することができる。更に、適量のルイス酸抑制剤を含有する少量の本組成物を用いて容器を洗浄またはすすぎ洗いし、容器に残っている可能性のあるルイス酸を中和することができる。ルイス酸を中和したら容器を空にし、その容器に付加量のフルオロエーテル化合物を加え、容器を密封してもよい。
何ら制限的な意味を有することなく、例示のため、本発明の実施例を以下に挙げる。
実施例1:ルイス酸としての活性アルミナ
タイプIIIのガラスは主に二酸化珪素、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、及び酸化アルミニウムからなっている。酸化アルミニウムは既知のルイス酸である。ガラスマトリックスは常態ではセボフルランに不活性である。しかし、特定の条件(無水、酸性)下では、ガラス表面が攻撃され、または変質し、セボフルランを酸化アルミニウム等の活性ルイス酸部位に晒すことがある。
以下の3つのレベルの水分を含有する20mlのセボフルランに様々な量の活性アルミナを付加することにより、セボフルランの分解における水の効果を試験した:1)20ppmの水-測定した量の水であって、それ以外に水は何も加えていない;2)100ppmの水-添加(spiked);3)260ppmの水-添加。次の表1は実験のマトリックスを示している。

20ppmの水は水0.0022%w/wに相当することが理解されよう。サンプルを60℃に放置し、22時間後にガスクロマトグラフィーで分析した。図1は、同量の酸化アルミニウム(50mg)の存在下において、水の量が増えるほどセボフルランの分解度が減少することを示している(表1のA列)。酸化アルミニウムの量が20mg及び10mgの場合も同様な傾向が観察された(B列及びC列)。
実施例2:水を加えた場合と加えない場合の、加熱によるアンプル内でのセボフルランの分解
約20mLのセボフルランをタイプIの1つ目の50mL入り透明アンプルに入れ、2つ目のアンプルには約20mLのセボフルランと1300ppmの水を入れた。両アンプルともフレームシール(flame-sealed)した後、119℃で3時間オートクレーブした。次いで、2つのアンプルの内容物をガスクロマトグラフィーで分析した。図2は、1番目のアンプルに入れたセボフルランが分解したことを示している。図3は、ルイス酸抑制剤、即ち水を加えた結果、2番目のアンプルに入れたセボフルランは分解しなかったことを示している。
実施例3:水添加試験(109ppmから951ppm)によるアンプル内でのセボフルランの分解
タイプIの透明ガラス製アンプルを用いて、様々なレベルの水がセボフルランの分解を抑制する効果について試験した。約20mLのセボフルランと、約109ppmから約951ppmの範囲の異なるレベルの水を各アンプルに入れた。その後、それらのアンプルをシールした。合計10本のアンプルにセボフルランと様々な量の水を充填した。そのうち5本のアンプルをセットAとし、残りの5本をセットBとした。次いで、それらのアンプルを119℃で3時間オートクレーブした。セットAのサンプルは一晩振とう機に掛け、水分をガラス表面に被覆できるようにした。セットBのサンプルはガラス表面を水で平衡化することなく調製した。幾つかの対照サンプルも調製した。オートクレーブに掛けていない2本のアンプル(対照アンプル1及び対照アンプル2)と1本のボトル(対照ボトル)に、それぞれ、20mLのセボフルランを充填した。どの対照サンプルにも水を全く加えなかった。また、対照サンプルは一晩振とうもしなかった。ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)と総分解産物(メチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル、ジメチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル、メチレングリコールフルオロメチルヘキサフルオロイソプロピルエーテルを含む)のレベルをガスクロマトグラフィーで測定した。その結果が以下の表2に示されている。

上記表2の結果は、セットA及びセットBのアンプルの場合、少なくとも595ppmの水があれば充分にセボフルランの分解を抑制できることを示している。また、この結果は、一晩振とうしたアンプルと一晩振とうしなかったアンプルとの間に有意な差がないことを示している。
実施例4:60℃または40℃における水添加セボフルラン試験によるアンプル内でのセボフルランの分解
タイプIの透明ガラス製アンプルを用いて、様々なレベルの水及び温度がセボフルランの分解抑制に及ぼす影響について試験した。約20mLのセボフルランと、約109ppmから約951ppmの範囲の異なるレベルの水を各アンプルに入れた。その後、それらのアンプルをフレームシールした。分解プロセスを加速するため、各水分レベルのサンプルを2つの加熱条件下に置いた。サンプルは、60℃の恒温装置(stability station)に144時間置くか、あるいは40℃の恒温装置に200時間置いた。各サンプルにおいて得られたセボフルランをガスクロマトグラフィーで分析し、pHも調べた。ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)とセボフルランの総分解産物を測定した。その結果が以下の表3に示されている。

表3の結果は、40℃で200時間貯蔵した場合、206ppmより以上のレベルの水があればセボフルランの分解を抑制できることを示している。また、サンプルを60℃で144時間またはそれ以上貯蔵した場合には、303ppmより以上のレベルの水があればセボフルランの分解を抑制できる。このデータは、温度が上昇すると、セボフルランの分解抑制に必要な水の量が増大することを示唆している。
実施例5:活性化されたタイプIIIの褐色ガラス製ボトル内におけるセボフルランの分解
分解したセボフルランの貯蔵に使用したタイプIIIの褐色ガラス製ボトルを試験した。ボトルの内面にかなりの量の腐食があるボトルを選んだ。合計10本のタイプIII褐色ガラス製ボトルを選択した。これらの各ボトルに含まれている分解したセボフルランを排液し、分解していない新鮮なセボフルランでこれらのボトルを数回すすぎ洗いした。約20ppmの水を含有する約100mLの分解していないセボフルランを各ボトルに入れた。開始時(時間ゼロ時)と50℃で18時間加熱した後に、すべてのサンプルをガスクロマトグラフィーで分析した。ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)とジメチレングリコールエーテル(P2)について測定した。その結果が以下の表4及び表5に示されている。


表4及び表5の結果は、これらのボトルのガラス表面が分解したセボフルランにより「活性化」されていたことを示している。このように、「活性化」されたガラス表面は新鮮なセボフルランの分解に対する開始剤として作用した。
実施例6:活性化されたタイプIII褐色ガラス製ボトル内でのセボフルランの分解に関する追加試験
実施例5の各ボトル内でのセボフルランの分解の程度をガスクロマトグラフィーで定量化した。10本のボトルを、対照Sevoグループ(ボトル2、3、5、7、8を含む)と試験Sevoグループ(ボトル1、4、6、9、10を含む)の2つのグループに分けた。
10本のボトルすべてを、約20ppmの水を含有する分解していないセボフルランで再度数回すすぎ洗いした。5本の対照Sevoグループのボトルに対しては、約20ppmの水を含有する100mLのセボフルランを各ボトルに入れた。一方、5本の試験グループボトルに対しては、約400ppmの水(添加)を含有する100mLのセボフルランを各ボトルに入れた。
開始時(時間ゼロ時)と50℃で18時間加熱した後にすべてのサンプルをガスクロマトグラフィーで分析した。ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)、ジメチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル(P2)、及び総分解産物を測定した。その結果が以下の表6に示されている。

表6の結果は、時間ゼロ時では、表4のゼロ時の結果と比べると、セボフルランの有意な分解が観察されなかったことを示している。表6の結果は、試験Sevoグループ(400ppmの水)ではセボフルランの分解度がかなり低減されたことを示している。分解産物P2(ジメチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル)、及びS1(メチレングリコールフルオロメチルヘキサフルオロイソプロピルエーテル)の量は、対照グループ1(20ppmの水)の場合よりもずっと少なかった。しかし、試験SevoグループのHFIP濃度はかなり高く、ガラス表面が尚も幾分活性状態にあったことを示唆している。
図4は、表5及び表6のデータから得られる分解産物ジメチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル(P2)量をグラフで比較したものである。また、図5は、実施例5及び6で現れる分解産物メチレングリコールフルオロメチルヘキサフルオロイソプロピルエーテル(S1)量をグラフで比較したものである。図4及び図5は共に、400ppmの水を付加によりセボフルランの分解が抑制されることを示している。
実施例7:活性化されたタイプIII褐色ガラス製ボトル内でのセボフルランの分解に関する追加試験
実施例6の試験Sevoグループの5本のボトルからセボフルランをデカントした。各ボトルを新鮮なセボフルランで充分にすすぎ洗いした。次いで、各ボトルに約125mLの水飽和セボフルランを入れた。その後、その5本のボトルを回転機に約2時間掛け、活性化されたガラス表面に水を被覆できるようにした。次いで、各ボトルから水飽和セボフルランを排液し、400(添加)ppmの水を含有する100mLのセボフルランで置換した。50℃で18時間、36時間、及び178時間加熱した後、すべてのサンプルをガスクロマトグラフィーで分析した。ビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル(P2)と総分解産物について測定した。その結果が以下の表7に示されている。

表7の結果は、活性化されたガラス表面を加熱する前に水飽和セボフルランで処理することにより、セボフルランの分解が大いに抑制されたことを示している。
(57)【特許請求の範囲】
1.麻酔薬組成物であって、一定量のセボフルラン;及び206ppm以上、0.14%(重量/重量)未満の水を含むことを特徴とする、前記麻酔薬組成物。
2.上記一定量のセボフルランに対して水を添加するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の麻酔薬組成物の調製法。
3.水に対して上記一定量のセボフルランを添加するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の麻酔薬組成物の調製法。
4.一定量のセボフルランのルイス酸による分解を防止する方法であって、該方法は、該一定量のセボフルランに対して所定量の水を添加するステップを含むことを特徴とし、但し、該所定量の水が、得られる溶液中において206ppm以上、0.14%(重量/重量)未満である前記方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-05-30 
結審通知日 2011-07-07 
審決日 2006-06-21 
出願番号 特願平10-532168
審決分類 P 1 113・ 113- YA (A61K)
P 1 113・ 121- YA (A61K)
P 1 113・ 161- YA (A61K)
P 1 113・ 536- YA (A61K)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 横尾 俊一
特許庁審判官 内藤 伸一
荒木 英則
登録日 2001-04-27 
登録番号 特許第3183520号(P3183520)
発明の名称 フルオロエーテル組成物及び、ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法  
代理人 小野 誠  
代理人 川口 義雄  
代理人 金山 賢教  
代理人 大崎 勝真  
代理人 川口 義雄  
代理人 駒谷 剛志  
代理人 坪倉 道明  
代理人 小野 誠  
代理人 長谷部 真久  
代理人 安村 高明  
代理人 金山 賢教  
代理人 森下 夏樹  
代理人 大崎 勝真  
代理人 大崎 勝真  
代理人 金山 賢教  
代理人 山本 秀策  
代理人 川口 義雄  
代理人 小野 誠  
代理人 坪倉 道明  
代理人 坪倉 道明  
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