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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F17C
管理番号 1248951
審判番号 不服2010-27981  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-10 
確定日 2011-12-14 
事件の表示 特願2007-105760「LNG貯蔵タンク」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月28日出願公開、特開2008-196682〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年4月13日(パリ条約による優先権主張2007年2月12日、韓国)の出願であって、平成22年8月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年12月10日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。その後、平成23年1月7日付けで前置報告がなされ、その前置報告の内容に基づいて平成23年2月4日付けで審尋を通知したが、指定した期間内に請求人からは何らの回答もなかったものである。

2.平成22年12月10日付け手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成22年12月10日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

【理由】
2-1.本件補正
本件補正は、補正前の請求項1に、
「断熱壁を備え、且つ内部で発生する蒸発ガスによる圧力上昇を許容するために、蒸発ガスによる圧力上昇分に耐えられる強度を有するよう設計されたLNGタンクであって、
LNG貯蔵タンクの下部における相対的に低温のLNGを、相対的に高温のLNG貯蔵タンクの上部に噴射し、LNG貯蔵タンクの上部における相対的に高温の蒸発ガスを、再液化せずに、相対的に低温のLNG貯蔵タンクの下部に噴射して、内部の温度分布を均一に維持させるように構成されたことを特徴とするLNG貯蔵タンク。」
とあるのを、
「断熱壁を備え、且つ内部で発生する蒸発ガスによる圧力上昇を許容するために、蒸発ガスによる圧力上昇分に耐えられる強度を有するよう設計されたLNG貯蔵タンクであって、
LNG貯蔵タンクの下部における相対的に低温のLNGを、相対的に高温のLNG貯蔵タンクの上部に噴射し、LNG貯蔵タンクの上部における相対的に高温の蒸発ガスを、再液化せずに、相対的に低温のLNG貯蔵タンクの下部に噴射して、内部の温度分布を均一に維持させるように構成され、
LNG貯蔵タンクは、メンブレイン型であり、0.3乃至2気圧(ゲージ圧)の圧力に耐えられるよう設計されたことを特徴とするLNG貯蔵タンク。」
とする補正を含むものである。

本件補正後の請求項1は、補正前の請求項1の記載において、LNG貯蔵タンクについて、「メンブレイン型であり、0.3乃至2気圧(ゲージ圧)の圧力に耐えられるよう設計されたこと」の限定を付加するものである。また、この補正により、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-2.記載要件
本件補正後の請求項1に、LNG貯蔵タンクについて「0.3乃至2気圧(ゲージ圧)の圧力に耐えられるよう設計されたこと」と記載されているが、本願明細書の発明の詳細な説明においては、段落【0025】に「・・・0.4乃至2気圧(ゲージ圧)の圧力に耐えられるよう設計された」と記載されているのみで、上記圧力の下限値を0.3気圧とする根拠は示されていない。

よって、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-3.進歩性
2-3-1.本願補正発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という)は、本件補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記「2-1.本件補正」の補正後の請求項1参照)により特定されたとおりのものと認める。

2-3-2.引用例
本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-247697号公報(以下、「引用例1」という。)及び「2002 鋼船規則 N編 液化ガスばら積船」,財団法人日本海事協会,2002年4月,p.13-14,39,41,60-61(以下、「引用例2」という。)には、以下の各事項が記載されている。

[引用例1について]
(1a)「【請求項1】 低温液化ガスを貯蔵するタンク内に、該タンク内の上部から低温液化ガス表層に向けて低温液化ガスを噴射するノズルと、該ノズルにタンク内の低温液化ガスを供給するポンプとを設けて該タンク内に貯蔵した低温液化ガス表層を壊すように構成した低温液化ガス攪拌装置。
【請求項2】 前記ポンプを、低温液化ガスタンクの下部から低温液化ガスを供給するように構成したことを特徴とする請求項1記載の低温液化ガス攪拌装置。」(特許請求に範囲参照)

(1b)「【発明の属する技術分野】本願発明は、低温液化ガスを貯蔵したタンク内においてガス圧が上昇するのを抑えることができる低温液化ガス攪拌装置と、それを装備した船舶に関するものである。」(段落【0001】参照)

(1c)「この液化ガスの温度上昇は、タンク上部における液表面の温度上昇を招き、液表面に高温の表層を形成することとなるので、タンク上部には本来の液全体の温度によりもたらされる内部圧力よりも高い蒸気圧力が作用する。
そのため、従来より、このように内部圧力が上昇した場合のタンク内圧力を想定してタンクの許容圧力を設計しており、本来の強度以上の板厚でタンクを設計することとなり、多くの設備費用と製作時間を要している。特に船舶の場合、海象状況あるいは事故等によって長期間の停泊(例えば、7日間、3週間等、航路に応じて決定される日数)を余儀無くされる場合があり、その場合の圧力上昇に耐えうるように設計することとなる。」(段落【0006】-【0007】参照)

(1d)「【発明の実施の形態】以下、本願発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本願発明の一実施形態を示す低温液化ガス攪拌装置の構成図であり、図2は図1に示すA-A断面の構成図である。なお、以下の説明では、2基の低温液化ガスタンクを装備した液化ガス運搬船のタンクを例に説明する。
図示するように、船体に設けられた2基の液化ガスタンク1には、貯蔵液搬出用のカーゴポンプ2とタンク冷却用のスプレーポンプ3とが設けられ、スプレーポンプ3の吐出配管4には、出渠後にタンク1の冷却に使用するスプレー配管5が設けられている。このスプレー配管5は、タンク1の長手方向に設けられており、その長手方向には所定間隔でスプレーノズル6が設けられている。」(段落【0019】-【0020】参照)

(1e)「この攪拌用配管9には、それぞれ長手方向に所定間隔でシャワーノズル10が設けられている。このシャワーノズル10は、タンク1内に液化ガスgが90%程度貯蔵された状態で、その貯蔵液の表層に向けて液化ガスgを噴射して貯蔵した液化ガスg表層を壊すことができるように配設されている。このようにシャワーノズル10を配設することにより、タンク1内に貯蔵した冷たい液化ガスgを、直接、高温の表層へシャワー状にして噴射して表層を壊すようにしている。つまり、タンク1に貯蔵した液化ガスgと同じ液化ガスgを噴射して表層を物理的に壊すようにしている。」(段落【0024】参照)

(1f)「また、タンク1の下部から貯蔵した液化ガスgを吐出するスプレーポンプ3又はカーゴポンプ2によって、タンク下部の液化ガスgをタンク上部の攪拌用配管9に供給して表層を壊すように構成しているので、冷たい下層の液化ガスgによって温度上昇している上層の液化ガスgを迅速に冷却して、タンク1内全体の液化ガスgを迅速に均温化することができる。
したがって、温度上昇によって生じる内部圧力の上昇を抑えた状態でのタンク設計が可能となり、設計圧を下げることによるタンク1の板厚を薄くすることで、製造コストの低減を図ることが可能となる。このことは、タンク設計圧が同じ場合でも、断熱性能を上げることなく同じ効果が得られるので、断熱のための製造コストの低減を図ることもできる。
その上、このような低温液化ガス攪拌装置11を船舶に搭載する液化ガスタンク1に適用した場合、タンク構造重量の減少や断熱材物量の減少を図ることが可能となるので、比較的小さな船体で同じ量の液化ガスg(貨物)を搬送が可能となり、船体の建造コストの低減を図ることができる。」(段落【0034】-【0036】参照)

(1g)「なお、上述した実施形態では船舶の低温液化ガスタンク1に適用した場合を説明したが、・・・また、ガスタンク1に貯蔵する液化ガスgもLNG以外の液化ガスであってもよい。」(段落【0037】参照)

以上の記載によると、引用例1には、
「低温液化ガスを貯蔵するタンク内に、該タンク内の上部から低温液化ガス表層に向けて低温液化ガスを噴射するノズルと、
低温液化ガスタンクの下部から低温液化ガスを供給するように、該ノズルにタンク内の低温液化ガスを供給するポンプとを設けて、
該タンク内に貯蔵した低温液化ガス表層を壊すように構成した低温液化ガス攪拌装置を備えた低温液化ガスタンクを装備した液化ガス運搬船のタンク。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用例2について]
(1)「4章貨物格納設備」と題し、
「4.2 定義
・・・
4.2.2メンブレンタンク
-1.メンブレンタンクとは、・・・
-2.設計蒸気圧P_(0)は、原則として0.025MPaを超えてはならない。ただし、船体構造寸法を必要に応じて増強し、かつ、支持防熱構造の強度が適当なものであれば、P_(0)はより大きい値とすることができるが、0.07MPa未満としなければならない。」(第13頁左欄17-27行参照)

2-3-3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「低温液化ガスタンクを装備した液化ガス運搬船のタンク」は、上記記載事項(1g)よりLNGを貯蔵するものであることから、本願補正発明の「LNG貯蔵タンク」に相当し、
また、引用発明の「低温液化ガスを貯蔵するタンク内に、該タンク内の上部から低温液化ガス表層に向けて低温液化ガスを噴射するノズルと、低温液化ガスタンクの下部から低温液化ガスを供給するように、該ノズルにタンク内の低温液化ガスを供給するポンプとを設けて、該タンク内に貯蔵した低温液化ガス表層を壊すように構成」することは、本願補正発明の「LNG貯蔵タンクの下部における相対的に低温のLNGを、相対的に高温のLNG貯蔵タンクの上部に噴射し、内部の温度分布を均一に維持させるように構成」することに相当し、
引用例1には、「温度上昇によって生じる内部圧力の上昇を抑えた状態でのタンク設計が可能となり、設計圧を下げることによるタンク1の板厚を薄くすることで、製造コストの低減を図ることが可能となる。このことは、タンク設計圧が同じ場合でも、断熱性能を上げることなく同じ効果が得られるので、断熱のための製造コストの低減を図ることもできる。」(上記記載事項(1f)参照)と記載されていることから、引用発明は、本願補正発明でいう「断熱壁」を備え、「内部で発生する蒸発ガスによる圧力上昇を許容するために、蒸発ガスによる圧力上昇分に耐えられる強度を有するよう設計」することを前提としたものといえることから、両者は、
「断熱壁を備え、且つ内部で発生する蒸発ガスによる圧力上昇を許容するために、蒸発ガスによる圧力上昇分に耐えられる強度を有するよう設計されたLNG貯蔵タンクであって、
LNG貯蔵タンクの下部における相対的に低温のLNGを、相対的に高温のLNG貯蔵タンクの上部に噴射し、内部の温度分布を均一に維持させるように構成されたLNG貯蔵タンク。」である点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点1;本願補正発明では、内部の温度分布を均一に維持させるのに、LNG貯蔵タンクの上部における相対的に高温の蒸発ガスを、再液化せずに、相対的に低温のLNG貯蔵タンクの下部に噴射しているのに対し、引用発明では、そのような構成を備えていない点。

相違点2;本願補正発明では、LNG貯蔵タンクが、メンブレイン型であり、0.3乃至2気圧(ゲージ圧)の圧力に耐えられるよう設計されたことしているのに対し、引用発明では、タンクの型の特定はなく、耐圧についての具体的な数値が不明な点。

2-3-4.判断
そこで、上記各相違点を検討すると、
・相違点1について
LNG貯蔵タンクにおいて、LNG貯蔵タンクの上部における相対的に高温の蒸発ガスを、液化せずに、相対的に低温のLNG貯蔵タンクの下部に噴射することは、本願出願前周知の技術であり(例えば、特開昭58-72800号公報の第1図,第1頁右下欄第5-15行、特開平11-153296号公報の段落【0017】,図1、特開2000-46295号公報の段落【0004】,図6、実願昭57-38492号(実開昭58-140394号)のマイクロフィルムの第2図,第6頁第11-15行等参照)、
また、引用発明のタンク内に貯蔵した低温液化ガス表層を壊すように構成した低温液化ガス攪拌装置と上記周知の技術とを併用することを妨げる事由もないことより、
引用発明において、さらにタンク内全体の液化ガスを均温化するために、上記周知の技術を適用し、上記相違点1の本願補正発明のようになすことは、当業者が容易になし得たものである。

・相違点2について
本願明細書において、メンブレイン型のLNG貯蔵タンクについては、段落【0026】?【0028】に、従来の技術として紹介されているのみで、本願補正発明とLNG貯蔵タンクの型との関連は何ら記載されておらず、また、メンブレン(本願の「メンブレイン」に相当)タンクは、引用例2にも記載されているように本願出願前周知のタンクの型であることから、
本願補正発明において、LNG貯蔵タンクを、メンブレイン型としていることに、格別な技術的意義は認められない。
そして、引用例2には、メンブレンタンクにおいて「設計蒸気圧P0は、原則として0.025MPaを超えてはならない。ただし、船体構造寸法を必要に応じて増強し、かつ、支持防熱構造の強度が適当なものであれば、P0はより大きい値とすることができるが、0.07MPa未満としなければならない。」と記載され、船体構造等の強度を増強すれば、内部で発生する蒸発ガスによる圧力上昇を許容しうること、そしてその値の上限として0.07MPa(約0.7気圧)が示されていることより、
引用発明において、引用例2を参酌し、LNG貯蔵タンクをメンブレイン型と特定し、タンクの耐えられる圧力を、上記相違点2の範囲内とすることは、当業者が容易になし得たものと認められる。

したがって、本願補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するもので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成22年12月10日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年6月7日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項(上記「2-1.本件補正」の補正前の請求項1参照)により特定されるとおりのものと認める。

4.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、その記載事項及び引用発明は、前記「2-3-2.引用例」に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、前記「2-3-1.本願補正発明」で検討した本願補正発明から、LNG貯蔵タンクについて、「メンブレイン型であり、0.3乃至2気圧(ゲージ圧)の圧力に耐えられるよう設計されたこと」の限定を省いたものである。

そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、「2-3-3.対比」おける相違点1において相違し、他の点では一致している。そして、上記相違点1は、「2-3-4.判断」において検討したように、引用発明において、周知の技術を適用することにより、当業者が容易になし得たものである。
よって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-06 
結審通知日 2011-07-19 
審決日 2011-08-01 
出願番号 特願2007-105760(P2007-105760)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F17C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 熊倉 強
亀田 貴志
発明の名称 LNG貯蔵タンク  
代理人 特許業務法人青莪  

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